説明

湯水混合栓

【課題】湯水混合栓において、精度の高い温度制御を実現し、またハンチング現象の発生を防止する。
【解決手段】ケーシング1内部に、湯流入口aからの湯および水流入口bからの水を混合する混合室13が設けられ、この混合室内に大径に巻いたコイル状の大径コイルばね5aの感温ばね5と、小径に巻いたコイル状の小径コイルばね5bの感温ばね5とを設け、更に小径コイルばねの外周面を囲う円筒状のカバー7を設け、このカバー7で小径コイルばね5bの外周面を囲うことによって、前記大径コイルばね5aの温度変化に応じた伸縮動作の応答性と、前記小径コイルばね5bの温度変化に応じた伸縮動作の応答性が異なるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湯水混合栓の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、温度によりばね係数が変化する形状記憶合金製ばねにより、湯と水との混合比を変化させる可動弁体を付勢することで湯水混合物の温度を制御する湯水混合栓が利用されている。このような湯水混合栓は、例えば、特許文献1に開示されている。
特許文献1には、形状記憶合金製ばねを感温アクチュエータとして利用する湯水混合栓において、形状記憶合金製ばねの外側に混合水を通過させる構成が開示されている。また、特許文献1には、形状記憶合金製ばねの一端に発生荷重を受ける座面部を形成し、座面部の動きに応じて可動弁体を移動させる構成も開示されている。
【0003】
ここで、上述した従来から知られている湯水混合栓の構成を図1を用いて説明する。図示する湯水混合装置Wは、軸筒状に形成したケーシング1と、ケーシング1の一端部に螺合せる調節ネジ3と、ケーシング1の他端側に螺合せる栓蓋12と備える。
ケーシング1の周壁には、湯流入口aと水流入口bとを軸方向に並列させて開設し、これに湯を導く湯流入管10と水を導く水流入管11とを接続する。また、ケーシング1内には制御弁体2を、円筒状またはスプール状に形成し、軸方向に可動に装入する。制御弁体2の軸方向の一端には、ケーシング1の一端部に螺合せる調節ネジ3に支承させた、温度に関しばね定数が一定の通常の付勢体4を当接させる。また、制御弁体2の軸方向の他端には、ケーシング1の他端側に螺合せる栓蓋12に支承させた、温度に応じばね定数が変化する材質の金属・合成樹脂材よりなる感温ばね5を当接させる。制御弁体2は、感温ばね5と前記付勢体4とで均り合う状態に保持せしめておく。
ケーシング1内には、湯流入口aから流入してくる湯と水流入口bから流入してくる水とを混合させる混合室13と、混合室13で混合した混合水を、ケーシング1に設けた混合水出口cに導く吐出室14とを設ける。また、制御弁体2には、湯流入口aと水流入口bの口縁部に形設しておく湯弁座10aおよび水弁座10bに対向する湯弁2aおよび水弁2bを形設しておく。
【0004】
これにより、調節ネジ3により所望の設定温度に設定した状態において、水圧の低下などで流入してくる水の流量が減少し、それにより混合室13内における混合水の温度が上昇してくると、それを感知する感温ばね5が発生荷重を大きくするよう作動する。そして、感温ばね5が発生荷重を大きくするよう作動すると、付勢体4を押し縮めて制御弁体2を左方に動かし、湯弁2aと湯弁座10aとの間隔を狭めて湯流入口aの開度を絞り湯の流入量を少なくして、混合水の温度を低下させ、同時に制御弁体2を、混合水の湯と水との混合比率と混合水温度とがバランスした位置に安定させる。
また、水圧の上昇などで流入してくる水の流量が増大し、混合室13内の混合水の温度が低下してきた場合には、感温ばね5がそれの感知作動により発生荷重を小さくするように作動する。そして、感温ばね5が発生荷重を小さくするよう作動すると、減少した荷重分だけ付勢体4が伸び出して制御弁体2を右方に動かし、水弁2bと水弁座10bとの間隔を狭めて水流入口bの開度を絞って流入してくる水の流量を少なくする。それにより低下してきた混合水の温度を上昇させ、制御弁体2が、湯と水との混合比率と混合水温度とがバランスした位置に安定するようになって、吐出する混合水の温度を、設定した温度に保持するようにしてある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−307971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した従来の湯水混合栓では、湯水混合栓に流入する湯圧や水圧の大きさによって、湯と水とが十分に混合されていないままの混合水が感温ばねの周りを到達してしまうことがある。そして、従来の湯水混合栓で用いられている感温ばねは、温度変化に対する応答性が良好であるため、十分に混合されていない状態の混合水が感温ばねの周りを通過すると、感温ばねの温度変化に応じた伸縮動作が頻発してしまう。その結果、ハンチング現象が発生して、安定した温度制御ができなくなる。
なお、湯水混合栓の内部に、湯と水とを混合するスペースを十分に確保することも考えられる。しかし、湯水混合栓は、設置環境等から装置自体の大きさが制限される。そのため、湯水混合栓内部に、湯と水とを混合するスペースを十分に確保することは困難である。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、湯水混合栓において、精度の高い温度制御を実現し、またハンチング現象の発生を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明に係る湯水混合栓は、温度調節の操作を受け付ける温調ダイヤルと、前記温調ダイヤルの操作により湯水の温度を調整する制御弁機構と、湯流入口および水流入口が形成され、前記制御弁機構が収蔵されるケーシングとを備えた本体部とを備える。
そして、前記本体部は、ばね定数が一定の材質の素材よりなる付勢体と、温度変化に応じて伸縮作動する感温ばねと、一方の端部に前記付勢体を支持する第1ばね受座が当接され、他方の端部に前記感温ばねを支持する第2ばね受座が当接され、前記付勢体および前記感温ばねから受ける荷重のバランスにより、前記湯流入口および前記水流入口の開閉割合を変化させ、前記湯流入口から流入する湯と、前記水流入口から流入する水との混合比を調節する制御弁体とを備え、前記ケーシング内部には、前記湯流入口からの湯および前記水流入口からの水を混合する混合室が設けられ、前記混合室内には、前記感温ばねを支持するための第3ばね受座が形成され、前記感温ばねは、大径に巻いたコイル状の大径コイルばねと、小径に巻いたコイル状の小径コイルばねとにより形成され、前記大径コイルばねと前記小径コイルばねとは、軸芯線が同軸または平行するよう並列に組み合わせて前記第2ばね受座と第3ばね受座との間で支持され、前記第2ばね受座または第3ばね受座に、前記小径コイルばねの外周面を囲う円筒状のカバーを一体または一体的に設け、そのカバーにより該小径コイルばねの外周面を前記大径コイルばねの内周側において囲い、前記大径コイルばねの温度変化に応じた伸縮動作の応答性と、前記小径コイルばねの温度変化に応じた伸縮動作の応答性とを異なるようにしたことを特徴とする。
【0008】
この構成により、カバーを施していない大径コイルばねが先に動作して制御弁体を所定の位置に近付け、その後、カバーを施した小径コイルばねの動作で、制御弁体を所定位置に正確に位置させ、位置決めさせることができる。すなわち、小径コイルばねにより制御弁体の位置の微調整が行われる。従って、この構成によれば、ハンチング等がなく正確な制御が可能となる。
さらに、上記の構成により、感温ばねの荷重を内側と外側とに分散できるため、感温ばねを支承させるばね受座の強度が向上される。
【0009】
また、前記湯水混合栓において、前記第2ばね受座および前記カバーは、樹脂材により成形されていることが望ましい。
このように構成することにより、内側の感温ばねと、外側の感温ばねへの熱伝導性に差異を設けることができる。また、樹脂材は、材料により物性値(熱伝導性等)を可変できるため、樹脂材を用いることで、物性値が固定される金属と比べて設計の自由度が高くなる。
【0010】
ここで、前記ケーシングの一方の端部に弁座保持部が形成され、前記弁座保持部は、筒状部と、該筒状部の先端部側であって前記ケーシングの軸心部に配置された円盤状の第3のばね受座と、該第3のばね受座の直径方向に延び該筒状部と連結されるリブと、該第3のばね受座の外周側に形成された複数の孔とを備え、前記ケーシングの一方の端部の内側には、前記湯流入口および前記水流入口に通じる混合室が形成され、該混合室で混合された混合水は、前記孔から吐出され、前記第3のばね受座には前記感温ばねが支持され、前記筒状部の先端部と前記第3のばね受座の底面との隙間寸法は、該第3のばね受け座の感温ばね支持面の高さ寸法と、略同じ長さ寸法に形成されていることが望ましい。
【0011】
このように、弁座保持部の筒状部の先端部と前記ばね受座の底面との隙間寸法が、当該ばね受け座の感温ばね支持面の高さ寸法と、略同じ長さ寸法に形成されるようにしている。
この構成により、混合水は、感温ばねの端部を通過してから、吐出されるようになる。すなわち、この構成によれば、混合水が感温ばねに感温されることなく、湯水混合栓から吐出されることを防ぐことができるようになる。これより、感温ばねが感温する時間を充分に確保することが可能となり、温度制御の精度を上げることができる。また、先端部の長さを変更することにより感温時間等の調整が可能になる。
【0012】
また、前記制御弁体は、前記ケーシング内部に、該ケーシングの軸方方向に移動可能に組み込まれ、一端縁に湯弁が形成され、他端縁に水弁が形成されている筒状の弁体部、および該弁体部の軸心部に形成された軸筒部を有し、前記制御弁体の軸筒部の一端が第1ばね受座に当接し、前記制御弁体の軸筒部の他端が第2ばね受座に当接し、前記制御弁体の軸筒部の前記第1ばね受座との当接面、及び/又は、該制御弁体の軸筒部の前記第2ばね受座との当接面に接触面積を小さくする加工が施されていることが望ましい。
【0013】
このように、制御弁体の軸筒部の前記第1ばね受座との当接面、及び/又は、該制御弁体の軸筒部の前記第2ばね受座との当接面に接触面積を小さくする加工を施している。この構成を採用したのは以下の課題を解消するためである。
湯水混合栓は、制御弁体の開閉動作の際、支持部材が傾くことがある。支持部材が傾くと、それに伴い、支持部材に支持されている制御弁体、第1ばね受座、および第2ばね受座も傾く。また、制御弁体は、第1ばね受座を介して付勢体からの荷重を受け、第2ばね受座を介して感温ばねからの荷重を受けているため、第1ばね受座や第2ばね受座が傾くと、傾いた方向から荷重を受けてしまう。すなわち、制御弁体2は、支持部材が傾くと、その傾きに伴い自身が傾くだけでなく、第1ばね受座および第2ばね受座からの荷重の影響も受けてしまう。
そして、湯水混合栓には、湯弁座(又は水弁座)を閉じる場合に、制御弁体が第1ばね受座および第2ばね受座から傾いた方向の荷重を受けると、湯弁(又は水弁)と、湯弁座(又は水弁座)とが均一に当接できなくなり、湯漏れ(または水漏れ)が発生するという課題があった。
【0014】
そこで、上記の構成を採用することにより、制御弁体が第1ばね受座と当接する面積、および制御弁体が第2ばね受座と当接する面積を小さくすることにより、制御弁体の支持部材の傾きにより受ける影響を軽減させるようにした。なお、制御弁体は、ケーシングの内周面により移動規制されるため、支持部材が傾きばね受座(第1ばね受座、第2ばね受座)が傾いても影響を受けない。
また、制御弁体の軸筒部の前記第1ばね受座との当接面、及び/又は、該制御弁体の軸筒部の前記第2ばね受座との当接面に接触面積を小さくする加工は、例えば、当接面の外周部を面取りすることにより行う。この面取りは、平面で当接面の外周部(角部)を面取する場合、及び曲面で当接面の外周部(角部)を面取する場合の両者を含む。また、制御弁体の軸筒部の前記第1ばね受座との当接面、及び/又は、該制御弁体の軸筒部の前記第2ばね受座との当接面は、予め成形段階で接触面積を小さくするような形状に成形されていてもよい。
これにより、本発明によれば、湯弁座(又は水弁座)を閉じる場合、湯漏れ(または水漏れ)が発生する可能性を軽減させることができる。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明の湯水混合栓によれば、ハンチングが防止できるとともに温度制御の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従前の感温ばねに形状記憶合金を用いた湯水混合栓の一部破断した斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態の湯水混合栓の制御弁体の縦断正面図である。
【図3】本発明の第2実施形態の湯水混合栓の要部の縦断正面図である。
【図4】本発明の第2実施形態の湯水混合栓の主要な構成部品の概略図である。
【図5】本発明の第2実施形態のばねホルダと感温ばねとの関係を説明するための図である。
【図6】本発明の第2実施形態のケーシングを構成する弁座部材を下面から見た斜視図である。
【図7】本発明の第2実施形態の湯水混合栓の制御弁体の変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0018】
先ず、本発明の第1実施形態について、図2を用いて説明する。
図2は、本発明の第1実施形態の湯水混合栓を示している。第1実施形態の湯水混合栓は、図示しないが、外箱となる外筺と、その外筐内に装脱自在に嵌挿されるカートリッジ状の本体部とを備える。本体部は、筒状のケーシング1に、制御弁機構Aを収蔵せしめるように組み立てられている。
【0019】
ケーシング1は、筒状の本体1aと、本体1aの一端側に螺合する有底のキャップ状の蓋体1bと、筒状の弁座部材1cとを備える。本体1aの他端側には、筒状の中間ケース部品1dが取り付けられている。
そして、ケーシング1は、筒状の本体1aに蓋体1bを螺合させるとともに、本体1aに取り付けられた中間ケース部品1dに弁座部材1cを螺合わせることにより、中空の筒状に形成される。
具体的には、本体1aは、樹脂材・金属材等を加工して成形した上半側の筒体と下半側の筒体とを接合部において螺合して組み立てた筒状に形成されている。本体1aの一端側(図2において上端側)の外周面には、雄ネジ15が形成されている。また、本体1aの他端側(図2において下端側)に取り付けられた中間ケース部品1dの内周面には、雌ネジ16が形成されている。
蓋体1bの開放されている側(図2において下端側)の内周面には、本体1aに形成された雄ネジ15に螺合する雌ネジが形成されている。弁座部材1cの一端側(図2において上端側)の外周面には、本体1aに取り付けられた中間ケース部品1dに形成された雌ネジ16に螺合する雄ネジが形成されている。
さらに、ケーシング1の筒壁には、湯流入口aと水流入口bとが軸方向に並列して形設してあり、その湯流入口aの内側位置には湯弁座10aが形設してある。水流入口bの内側に形成する水弁座10bは、本体1aに取り付けられた中間ケース部品1dに螺合する弁座部材1cの内端縁に形設してある。
【0020】
弁座部材1cは、外端側が、軸芯部位に円盤状の保護盤17を具備する篭状に形成してあって、それの四周に開放する目穴が混合水の混合水出口cを形成している。また、弁座部材1cは、筒状部の内腔が、湯流入口a及び水流入口bから流入する湯と水とを混合する混合室13を形成している。
また、弁座部材1cに設けられた円盤状の保護盤17の軸芯部位には、軸線方向に沿うガイド穴18が形成されている。また、保護盤17の内面側にばね受座71が設けられている。
【0021】
制御弁機構Aは、制御弁体2と、ばね受座72、73と、2つのばね受座72、73の間に介装される付勢体4と、ばね受座70と、ばね受座70に当接して制御弁体2を付勢する感温ばね5と、軸杆状の支持部材6とを備える。
【0022】
制御弁体2は、筒状弁体に形成され、それの筒壁の一端縁(図6において上端縁)に湯弁2aを形成され他端縁に水弁2bを形成されている。また、制御弁体2の軸芯部位には軸筒部20が形成されている。
【0023】
付勢体4は、ばね定数が一定の材質の素材により形成されている。付勢体4は、ばね受座72を介し、制御弁体2を水弁座10b側に付勢する。なお、付勢体4は、感温ばね5とバランスする付勢体であれば、どんな形状でもよいが、本実施形態では、線状のばね材をコイル状に成形したバイアスばねを用いる。
【0024】
感温ばね5は、温度に応じてばね定数が変化する材質の素材より形成されている。そして、感温ばね5は、ばね受座70を介し、制御弁体2を湯弁座10a側に付勢する。なお、感温ばね5の材質について特に限定しないが、例えば、感温ばね5に、形状記憶合金により成形されたものを用いることができる。
また、本実施形態では、感温ばね5には、線材を大径に巻いたコイルばね5aと、線材を小径に巻いたコイルばね5bとにより構成されるものを用いる。そして、感温ばね5は、2つのコイルばねを同軸状に並列する2重のコイル状に組み合わせた状態で利用される。具体的には、感温ばね5は、2重のコイル状に組み合わせた状態で、ばね受座70と、弁座部材1cに形成されたばね受座71とに挟持される。
【0025】
制御弁体2の軸筒部20に、軸状に形成した支持部材6を摺動自在に嵌挿する。そして、支持部材6の下端側を、弁座部材1cの外端側に設けた円盤状の保護盤17の軸芯部位に形設せる軸線方向に沿うガイド穴18に摺動自在に嵌装せしめる。これにより、制御弁体2は、ケーシング1に対し軸方向にだけ動くよう規制される。
【0026】
また、この支持部材6と前述の制御弁体2の軸筒部20とを、E型止め輪等の係止部材60により、制御弁体2が上昇作動したときは支持部材6と共に上方に動き、下降作動したときは、支持部材6にガイドされて下方に動くよう係止する。この支持部材6の、軸筒部20から下方に突出する下端側に、円盤状に形成したばね受座70を、軸方向に摺動自在に、かつ、上方への動きで、その上面が制御弁体2の軸芯部の軸筒部20の下端面に衝合するように嵌装する。
また、弁座部材1cの外端側に設けた円盤状の保護盤17の内面側には、ばね受座71が形成されている。そして、このばね受座71と前述のばね受座70との間に、前述の2重コイル状に組み合わせた大径のコイルばね5aと小径のコイルばね5bとを装填する。このように装填されたコイルばね5aおよびコイルばね5bは、そのばね圧によりばね受座70を介して、制御弁体2を付勢する。
【0027】
なお、本実施形態では、大径のコイルばね5aの応答性と、小径のコイルばね5bの応答性とに差異を持たせるようにしている。
具体的には、図示するように、外側に位置する大径のコイルばね5aと内側に位置する小径のコイルばね5bとの間に、円筒状に形成したカバー7を配設する。この円筒状のカバー7により、小径のコイルばね5bを、混合室13内を経て混合水出口cから流出していく混合水の流れから遮蔽し、小径のコイルばね5bの応答性が外側の大径のコイルばね5aのそれよりも遅れるように差異をもたせている。
【0028】
小径のコイルばね5bの外周を断熱的に囲う円筒状のカバー7は、ばね受座70と別体に形成して、それの基端側をばね受座70に設けた嵌合部に嵌着することで、ばね受座70に一体的に結合した状態としてケーシング1に対し取付け保持せしめているが特にこれに限定しない。
例えば、ばね受座70を樹脂材の成形により形成し、その成形の際、この円筒状のカバー7を、樹脂材によりばね受座70と一緒に成形するなどで、ばね受座70と一体に連続させて形成するようにしてもよい。このように一体に成形することで、この円筒状のカバー7は、ケーシング1に対し揺動がないよう固定状態に保持されるようになる。これにより、小径のコイルばね5bの応答性を混合水の流れに露出する大径のコイルばね5aの応答性より遅らせるだけでなく、2重コイル状に組み合わせた大径のコイルばね5aと小径のコイルばね5bとが、温度変化により伸縮して制御作動を行うときに、そのばねの伸縮作動を軸方向に正しく案内するガイドの役割を果たすようになって、制御弁体2の制御作動を正確にするようになる。
なお、上記説明では、筒状のカバー7を、ばね受座70と一体に連続させて形成する場合を示したが特にこれに限定されるものではない。例えば、筒状のカバー7を、ばね受座71と一体に連続させて形成するようにしてもよい。
【0029】
また、制御弁体2の一端側(図2において上端側)を付勢するバイアスばね4は、支持部材6に取り付けられた2つのばね受座72・73の間に介装される。
具体的には、制御弁体2の軸筒部20から上方に突出する支持部材6の上半側には、下位のばね受座72が嵌装され、そのばね受座72の下側(制御弁体2側)に係止部材61が取り付けられている。下位のばね受座72は、バイアスばね4の支持部材6に対する下方への動きを規制する。
また、制御弁体2の軸筒部20から上方に突出する支持部材6の上半側には、上位のばね受座73が嵌装され、そのばね受座73の上側(調整ネジ8側)に係止部材62が取り付けられている。上位のばね受座73は、バイアスばね4の支持部材6に対する上方への動きを規制する。そして、これら上位及び下位のばね受座73・72の間にバイアスばね4を張架するよう介装する。なお、係止部材61、62には、E型止め輪等を用いるとよい。
【0030】
また、ばね受座73の上面側(バイアスばね4の支持面と反対側の面)に、調整ネジ8および調整ネジ軸9を配置する。調整ネジ軸9は、調整ネジ8の回転内周面に設けた雌ネジと螺合するとともに、本体1aの内周面に設けたスプライン溝19により回転方向の動きが規制される。なお、調整ネジ8は、筒状の本体1a内の上端部に温調ダイヤル(図示しない)の操作により自在に回転するよう配置されている。また、調整ネジ軸9は、上端側に衝合部90が形成され、下端側に衝合部91が形成されている。
調整ネジ軸9が調整ネジ8の回転により本体1a内を昇降作動したとき、その調整ネジ軸9の上端側の衝合部90が上位のばね受座73を押さえ込んだ状態になる。この状態において、そのばね受座73に支承された状態のバイアスばね4が、下位のばね受座72と、それに衝合する係止部材61と、それにより連結する支持部材6と、その支持部材6に設けられて制御弁体2の軸筒部20の上端面に衝合する係止部材60とを介して制御弁体2を付勢する。
【0031】
そして、これらにより構成される制御弁機構Aは、温調ダイヤル(図示しない)の操作により調整ネジ軸9が引き上げられている状態のときには、制御弁体2が湯流入口aを閉め切り、冷水が吐出される設定となる。また、調整ネジ軸9が押し下げられている状態のときには、制御弁体2が水流入口bを閉め切り、高温の湯を吐出する設定となるようにしてある。
【0032】
また、制御弁機構Aは、温調ダイヤル(図示しない)の操作により、利用者が望む温度の混合水が吐出されるように、湯流入口aおよび水流入口bの開閉割合を変化させ、湯流入口aから流入する湯と、水流入口bから流入する水との混合比を調節する。
そして、制御弁機構Aが、利用者が望む設定温度の混合水を吐出させるように制御弁体2の位置を設定している状態において(なお、湯流入口aおよび水流入口bの開閉割合は設定温度による)、水圧の低下などで流入してくる水の流量が減少し、それにより混合室13内における混合水の温度が上昇したとすると、制御弁機構Aは、以下のように制御弁体2を制御する。
具体的には、上述のような状態において、混合室13内における混合水の温度が上昇してくると、それを感知する感温ばね5が発生荷重を大きくするよう作動する。感温ばね5が発生荷重を大きくするよう作動すると、付勢体4が押し縮められ制御弁体2が湯弁座10a側に付勢される。これにより、湯弁2aと湯弁座10aとの間隔が狭くなり湯の流入量を減少させる。また、これにより、湯弁2bと水弁座10bとの間隔が広くなり水の流入量を増加させる。この結果、制御弁機構Aは、混合水の温度を低下させる。
【0033】
また、制御弁機構Aが、所望の設定温度の混合水を吐出させるように制御弁体2の位置を設定している状態において、水圧の上昇などで流入してくる水の流量が増大し、混合室13内の混合水の温度が低下したとすると、制御弁機構Aは、以下のように制御弁体2を制御する。
具体的には、水圧の上昇などで流入してくる水の流量が増大し、混合室13内の混合水の温度が低下してきた場合、感温ばね5がそれの感知作動により発生荷重を小さくするように作動する。そして、感温ばね5が発生荷重を小さくするよう作動すると、減少した荷重分だけ付勢体4が伸び出して制御弁体2を湯弁座10b側に付勢する。これにより、湯弁2aと湯弁座10aとの間隔が広くなり湯の流入量を増加させる。また、これにより、湯弁2bと水弁座10bとの間隔が狭まくなり水の流入量を減少させる。これにより低下してきた混合水の温度を上昇させる。
【0034】
なお、制御弁体2の制御作動は、大径のコイルばね5aと小径のコイルばね5bとに分けて2重のコイル状に組み合わせた感温ばね5により行われる。本実施形態では、小径のコイルばね5bの応答性を大径のコイルばね5aのそれより遅らせてあることで、弁の閉め切りの行程の終期が段階的になって脈流の抑止が効果的に行われる。また、小径のコイルばね5bが微調整を行うようになって正確な制御が可能となる。即ち、カバー7に覆われていない感温ばね5aが先に動作することで、制御弁体2を所定の位置に近付け、その後、カバー7に覆われた感温ばね5bの動作で、制御弁体2を所定位置に正確に位置させ、位置決めさせる。従って、ハンチング等がなく正確な制御が可能となる。
【0035】
なお、上記の実施形態の説明では、大径のコイルばね5aの応答性と、小径のコイルばね5bの応答性とに差異を持たせるため、小径のコイルばね5bを遮蔽するカバー7を設けた例を示しているが特にこれに限定するものではない。
大径のコイルばね5aと小径のコイルばね5bとは、それらの表面に樹脂材・メッキ等によるコーティングにより、応答性を変化させる処理を、差異をもたせて施し、応答性に差が生ずるようにしてもよい。
例えば、外側に位置する大径のコイルばね5aには樹脂材等によるコーティングを施さず、内側に位置する小径のコイルばね5bの表面にだけコーティングを施すようにしてもよい。これにより、小径のコイルばね5bを、混合室13内を経て混合水出口cから流出していく混合水の流れから断熱的に遮蔽して、その小径のコイルばね5bの応答性が外側の大径のコイルばね5aのそれよりも遅れるように差異を持たせることができる。
【0036】
また、例えば、感温ばね5を以下のように構成にすることで、大径のコイルばね5aおよび小径のコイルばね5bのそれぞれの応答性に差異を持たせるようにしてもよい。すなわち、2個のばねのうちの一方のばねの素材に変態温度範囲が0〜70℃となる合金を用い、他方のばねの素材に変態温度範囲が50℃〜80℃となる合金を用いることで、2個のばねの応答性に差異をもたせる。この構成を採用した場合も、一方のばねが動作した後に他方のばねが遅れて動作するようになる。
【0037】
続いて、本発明の第2実施形態について、図3〜図6を用いて説明する。第2実施形態は、第1施形態の一部の構成を変形したものである。なお、第2実施形態の説明では、上述した第1実施形態と同じ構成には同じ符号を付ける。また、第2実施形態では、上述した第1実施形態と異なる構成を中心に説明する。
【0038】
図3は、本発明の第2実施形態の湯水混合栓の縦断面図である。図4は、本発明の第2実施形態の湯水混合栓の主要部品の概略図である。図5は、本発明の第2実施形態のばねホルダと感温ばねとの関係を説明するための図である。図6は、本発明の第2実施形態のケーシングを構成する弁座部材を下方から見た概略斜視図である。
【0039】
第2実施形態は、調整ネジ軸900の制御弁体2側の端部に、下端が径方向に広がるテーパ状のスカート部94を備えるようにした点に特徴がある(図3、図4参照)。なお、調整ネジ軸900の軸方向の寸法は、ケーシング1に調整ネジ軸900に組み込んだ際、スカート部94が、少なくとも、湯流入口aから混合室13に至る湯側通路に配置する長さになされている。
この調整ネジ軸900のスカート部94により、湯流入口aから混合室13に至る湯側通路の湯流入面積が徐々に絞られ、湯路通路の流水抵抗(圧力損失)が上がり流量が小さくなる。これにより、流入された湯による制御弁体の動作への影響が小さくなるため、湯水混合栓の温度制御の精度が向上する。
【0040】
また、第2実施形態では、弁座部材1cに形成された筒状部1000の先端を、感温ばね5の端部(感温ばね5のばね受座71と対向する側の端部)まで延長する構成を採用した点に特徴がある(図3参照)。
この構成により、混合水は、感温ばね5の端部を通過してから混合水出口cに流れていくため、混合水が感温ばね5に感温されないで吐出されることを防ぐことができる。これにより、感温ばね5の温度検知の精度を向上させられる。また、本実施形態の湯水混合栓は、円周方向への吐出も可能な為、上記の構成により、装置全体の長手方向(軸方向)を小さくでき、十分な流量も確保できる。
【0041】
以下、第2実施形態について詳細に説明する。
先ず、第2実施形態の全体の構成を説明する。図3に示すように、湯水混合栓は、上述した第1実施形態と同様、カートリッジ状の本体部と、その本体部の外箱となる外筺50とを備える。本体部は、筒状のケーシング1(本体1a、蓋体1b、弁座部材1c)に、制御弁機構を収蔵せしめるように組み立てられている。また、本体部は、外筺50に嵌挿されて利用される。
【0042】
図3に示すように、外筐50は、上蓋部材510、および底面部530を備える筒状部材520により構成されている。本体部は、弁座部材1cが底面部530に対向するように、筒状部材520に嵌挿され、蓋体1bが上蓋部材510に覆われてネジ留めされる。そして、上蓋部材510の上に温調ダイヤルDが取り付けられる。
また、筒状部材520の底面部530側には、湯水混合栓の混合室出口cから吐出された混合水を流すための流路が形成されている。具体的には、流路は、弁座部材1cと対向する底面部530と、その底面部530の上側(弁座部材1cと対向する側)の側面部に、略円周状に形成されている溝540とにより構成されている。外筺50をこのような構成にすることにより、湯水混合栓の軸方向と直交する方向(湯水混合栓の円周方向)に、弁座部材1cの混合室出口cから吐出された混合水が吐出される。また、この構成により、湯水混合栓の長手方向の長さ寸法を小さくすることができる。
【0043】
つぎに、第2実施形態のケーシング1の構成のうち、第1実施形態から変更した弁座部材1cの構成について説明する。
【0044】
図3、6に示すように、弁座部材1cは、筒状部1000と、弁座部材1cの一方の端部に形成された弁座保持部170とを有する。また、弁座保持部170は、弁座部材1cの軸芯部位に配置された、円盤状のばね受座71と、ばね受座71の直径方向に延びるリブ1001と、ばね受座71の外周側に形成された複数の混合水出口cとにより構成されている。リブ1001は、弁座部材1cの筒状部1000に連結されている。
そして、弁座部材1cは、筒状部1000の先端部が、ばね受部71aのコイルばね5aの支持面と略平行する位置にくるように形成されている。すなわち、筒状部1000の先端部とばね受座71の底面との隙間寸法(ケーシング1の軸方向における隙間寸法)は、ばね受け座71の感温ばね5aの支持面の高さ寸法(ばね受座71の底面から感温ばね5aの支持面までの高さ寸法)と、略同じ長さ寸法に形成されている。
この構成により、混合室13に流入した湯および水は、混合室13で混合され、ばね受座71に配置された感温ばね5の端部を通過してから、混合水出口cから吐出されるようになる。すなわち、この構成により、混合水が感温ばね5に感温されることなく、混合水出口cから吐出されることを防ぐことができる。また、上記構成によれば、筒状部1000の長さを可変することにより、感温ばね5への混合水の接触量(時間)を変化させられるため、感温ばね5の感温性を可変することも可能になる。
【0045】
次に、第2実施形態の湯水混合栓の主要部品を説明する。
図4に示すように、湯水混合栓は、ケーシング1(本体1a、蓋体1b、弁座部材1c)を備える。そして、ケーシング1には、蓋体1bおよび調整ネジ8の間に挟持されるワッシャー100と、調整ネジ8と、調整ネジ8に螺合する調整ネジ軸900と、筒状弁体に形成してそれの筒壁の一端縁(図4において上端縁)に湯弁2aを形成し他端縁に水弁2bを形成した制御弁体2と、付勢体4と、付勢体4を支持する2つのばね受座72、73と、感温ばね5と、感温ばね5の一端(図4において上側)を保持するばねホルダ700と、支持部材6とが組み込まれる。
なお、第2実施形態の説明では、第1実施形態と同じ構成である、調整ネジ8、制御弁体2、付勢体4、感温ばね5、支持部材6の説明は省略する。
【0046】
次に、本実施形態の特徴的な構成である調整ネジ軸900を説明する。
調整ネジ軸900は、円筒状に形成されている。調整ネジ軸900は、一端が開放され、他端には、付勢体4を支持するばね受座73に当接する支持部90が形成されている。支持部90の中心部には、孔93が開口されている。
また、調整ネジ軸900は、他端の外周面に調整ネジ8の円筒状の内周に形成された雌ネジ85(図3)と螺合する雄ネジ92が形成されている。また、調整ネジ軸900は、軸方向の略中心の外周面に、本体1aの内周面に形成されたスプライン溝19と嵌合する溝部91が形成されている。また、調整ネジ軸900の一端には、下端が径方向に広がるテーパ状のスカート部94が形成されている。
そして、調整ネジ軸900の軸方向の寸法は、図3に示すように、ケーシング1に組み込まれた際、スカート部94が、湯流入口aから混合室13に至る湯側通路に配置する長さになされている。
【0047】
このようにスカート部94を湯路通路に配置するようにしたのは、湯路通路に障害物を設け、制御弁体2に直接当たる湯量を少なくするためである。これにより、流入された湯による制御弁体の動作への影響を少なくでき、温度制御の精度を向上させることができる。
また、スカート部94を湯路通路に配置することにより、湯水が混合する前に乱流を起こさせることができる。そのため、その後の湯水の混合が促進され、その結果、感温ばね5の感知温度の適正化を図ることができる。
また、湯路通路に、流水抵抗(圧力損失)となるスカート部94を設けることにより、混合室13に向かう湯の勢い(圧力)を低下させることができる。そのため、本実施形態によれば、湯流入口aからの流入する湯の圧力が急激に上昇しても、スカート部94により、混合室13に流入する湯量の増加が抑制されるため、制御弁体2が水弁側を広げるために移動する距離(水弁2bと水弁座10bとの間隔を広げるために移動する距離)を短くすることができる(温度調節を短時間で行えるようになる)。すなわち、本実施形態によれば、流水抵抗(圧力損失)となるスカート部94を設けることにより、湯圧変動による影響を軽減でき、その結果、温調性能が向上する。
また、湯路通路に、流水抵抗(圧力損失)となるスカート部94を設けることにより、混合室13へ流入する湯量を制限することができる(スカート部94の先端部と、ケーシング1の内壁間の面積が一定であるため)。したがって、湯圧が急激に上昇した場合であっても所定流量以上の湯が混合室13に流れ込まないため、急激な湯量の増大による感温ばね5の急作動を防止することができる。これにより、本実施形態によれば、オーバーシュート及びアンダーシュートを繰り返すようなハンチングを起こし難くなり、温度制御の精度が向上する。
【0048】
次に、図3、および図4を参照しながら、ばねホルダ700の構成について説明する。
ばねホルダ700は、感温ばね5を支持するばね受座70を備え、ばね受座70の一方の面(感温ばね5を支持する面)には、円筒状のカバー7が形成されている。この円筒状のカバー7は、樹脂材によりばね受座70と一緒に成形するなどして、ばね受座70と一体に連続させて形成されている。
ばねホルダ700は、制御弁体2の軸筒部20に嵌挿する軸杆状の支持部材6に、摺動自在、且つばね受座70の上面(感温ばね5の支持面と反対側の面)が制御弁体2の軸芯部の軸筒部20の下端面に衝合するように嵌装される(図3参照)。そして、ばね受座70の上面が制御弁体2の軸芯部の軸筒部20の下端面に衝合する状態で、制御弁体2およびばねホルダ700と、支持部材6とがE型止め輪等の係止部材60により係止される。
【0049】
ここで、ばねホルダ700と感温ばね5との関係を図5に示して説明する。図示するように、ばねホルダ700のカバー7の外周側に大径のコイルばね5aを挿入され、カバー7の内周側に小径のコイルばね5bが挿入される。そして、ばね受座70と、弁座部材1cの受座71との間に、コイルばね5aと小径のコイルばね5bとを装填することで、コイルばね5aとコイルばね5bは、ばね圧によりばね受座70を介して制御弁体2を付勢する。
【0050】
なお、本発明の第2実施形態の制御弁体2の軸筒部20を図7に示す形状に変更してもよい。
図7は、本発明の第2実施形態の制御弁体2の形状の変形例を示す図である。
図示するように、制御弁体2の軸筒部20の一端側のばね受座72との当接面20aの外周部を平面で面取りし、いわゆるC面を形成した。また、軸筒部20の他端側のばね受座70との当接面20bの外周部を平面で面取りし、いわゆるC面を形成した。このような構成を採用したのは以下の理由による。
【0051】
具体的には、湯水混合栓では、制御弁体2の開閉動作の際、支持部材6が傾くことがある。この支持部材6が傾くと、それに伴い、支持部材6に支持されている、制御弁体2、ばね受座72、およびばね受座70も傾く。また、制御弁体2は、ばね受座72を介して付勢体4からの荷重を受け、ばね受座70を介して感温ばね5からの荷重を受けているため、ばね受座72やばね受座70が傾くと、傾いた方向からの荷重を受けてしまう。すなわち、制御弁体2は、支持部材が傾くと、それに伴い傾くだけでなく、第1ばね受座および第2ばね受座からの荷重の影響も受けてしまう。
そして、湯水混合栓には、湯弁座10a(又は水弁座10b)を閉じる場合に、制御弁体2が、ばね受座72およびばね受座70から傾いた方向の荷重を受けてしまうと、湯弁2a(又は水弁2b)と、湯弁座10a(又は水弁10b)とが均一に当接できなくなり、湯漏れ(または水漏れ)が発生するという課題があった。
【0052】
そこで、本発明では、上記の構成により、制御弁体2がばね受座72と当接する面積、および制御弁体2がばね受座70と当接する面積を小さくし、制御弁体2の支持部材6の傾きにより受ける影響を軽減させるようにした。これにより、本発明によれば、湯弁座10a(又は水弁座10b)を閉じる場合、湯漏れ(または水漏れ)が発生する可能性を軽減させることができる。
なお、制御弁体2は、ケーシング1の内周面により移動規制されるため、支持部材6が傾き、ばね受座(70、72)が傾いても影響を受けない。
【0053】
なお、上記説明においては、当接面20a、20bの外周部を平面で面取りした場合について説明したが、当接面20a、20bの外周部を曲面で面取りし、いわゆるR面に形成してもよい。
また、上記説明では、当接面20a、20bの外周部を面取りした場合について説明したが特にこれに限定されるものではない。前記当接面(20a、20b)に、ばね受座(72、70)との接触面積を小さくする加工が施されていればよい。また、例えば、制御弁体2の当接面20a、20bは、予め成形段階で、ばね受座(72、70)との接触面積を小さくするような形状に成形されていてもよい。
【0054】
以上説明したように、本発明の第1〜2実施形態によれば、温度によりばね係数が変化する感温ばねにより、湯と水との混合比を変化させる可動弁体を付勢することで湯水混合物の温度を制御する混合栓装置において、ハンチングを防止し、且つ温度制御の精度を向上させることができるようになる。
【0055】
なお、本発明は以上で説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、感温アクチュエータとして感温ばね5を利用した例を示したが特にこれに限定するものではない。温度変化に応じて伸縮作動するものであればよい。
【符号の説明】
【0056】
W…湯水混合栓
a…湯流入口
b…水流入口
c…混合水出口
1…ケーシング
1a…筒状の本体
1b…蓋体
1c…弁座部材
1d…中間ケース部品
10…湯流入管
10a…湯弁座
10b…水弁座
11…水流入管
12…栓蓋
13…混合室
14…吐出室
15…雄ネジ
16…雌ネジ
17…保護盤
18…ガイド穴
19…スプライン溝
2…制御弁体
2a…湯弁
2b…水弁
20…軸筒部
3…調節ネジ
4…付勢体(バイアスばね)
5…感温ばね
5a…大径のコイルばね
5b…小径のコイルばね
6…支持部材
50…外筐
60・61・62…係止部材
7…カバー
70・71…ばね受座
72・73…ばね受座
8…調整ネジ
9…調整ネジ軸
90・91…衝合部
92…雄ネジ
93…孔
94…スカート部
170…弁座保持部
300…リング部材
700…ばねホルダ
900…調整ネジ軸
1000…筒状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度調節の操作を受け付ける温調ダイヤルと、
前記温調ダイヤルの操作により湯水の温度を調整する制御弁機構と、湯流入口および水流入口が形成され、前記制御弁機構が収蔵されるケーシングとを備えた本体部と、
を備えた湯水混合栓において、
前記本体部は、
ばね定数が一定の材質の素材よりなる付勢体と、
温度変化に応じて伸縮作動する感温ばねと、
一方の端部に前記付勢体を支持する第1ばね受座が当接され、他方の端部に前記感温ばねを支持する第2ばね受座が当接され、前記付勢体および前記感温ばねから受ける荷重のバランスにより、前記湯流入口および前記水流入口の開閉割合を変化させ、前記湯流入口から流入する湯と、前記水流入口から流入する水との混合比を調節する制御弁体とを備え、
前記ケーシング内部には、前記湯流入口からの湯および前記水流入口からの水を混合する混合室が設けられ、前記混合室内には、前記感温ばねを支持するための第3ばね受座が形成され、
前記感温ばねは、大径に巻いたコイル状の大径コイルばねと、小径に巻いたコイル状の小径コイルばねとにより形成され、前記大径コイルばねと前記小径コイルばねとは、軸芯線が同軸または平行するよう並列に組み合わせて前記第2ばね受座と第3ばね受座との間で支持され、
前記第2ばね受座または第3ばね受座に、前記小径コイルばねの外周面を囲う円筒状のカバーを一体または一体的に設け、そのカバーにより該小径コイルばねの外周面を前記大径コイルばねの内周側において囲い、前記大径コイルばねの温度変化に応じた伸縮動作の応答性と、前記小径コイルばねの温度変化に応じた伸縮動作の応答性とを異なるようにしたことを特徴とする湯水混合栓。
【請求項2】
前記第2ばね受座および前記カバーは、樹脂材により成形されていることを特徴とする請求項1に記載の湯水混合栓。
【請求項3】
前記ケーシングの一方の端部に弁座保持部が形成され、
前記弁座保持部は、筒状部と、該筒状部の先端部側であって前記ケーシングの軸心部に配置された円盤状の第3のばね受座と、該第3のばね受座の直径方向に延び該筒状部と連結されるリブと、該第3のばね受座の外周側に形成された複数の孔とを備え、
前記ケーシングの一方の端部の内側には、前記湯流入口および前記水流入口に通じる混合室が形成され、該混合室で混合された混合水は、前記孔から吐出され、
前記第3のばね受座には前記感温ばねが支持され、
前記筒状部の先端部と前記第3のばね受座の底面との隙間寸法は、該第3のばね受け座の感温ばね支持面の高さ寸法と、略同じ長さ寸法に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の湯水混合栓。
【請求項4】
前記制御弁体は、前記ケーシング内部に、該ケーシングの軸方方向に移動可能に組み込まれ、一端縁に湯弁が形成され、他端縁に水弁が形成されている筒状の弁体部、および該弁体部の軸心部に形成された軸筒部を有し、
前記制御弁体の軸筒部の一端第1ばね受座に当接し、前記制御弁体の軸筒部の他端第2ばね受座に当接し
前記制御弁体の軸筒部の前記第1ばね受座との当接面、及び/又は、該制御弁体の軸筒部の前記第2ばね受座との当接面に接触面積を小さくする加工が施されていることを特徴とする請求項1に記載の湯水混合栓。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−32005(P2012−32005A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241821(P2011−241821)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【分割の表示】特願2008−548308(P2008−548308)の分割
【原出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【出願人】(000228741)日本サーモスタット株式会社 (52)
【Fターム(参考)】