説明

湿式不織布用繊維

【課題】目付や繊維分散の均一性を維持し且つ、従来にはない嵩高さを有する抄造紙の原料となる湿式不織布用繊維を提供する。
【解決手段】繊維径3〜40μmの顕在捲縮性繊維を30〜100質量%、繊維径3〜40μmの潜在捲縮性繊維を0〜70質量%の範囲で含む湿式不織布用繊維。また、潜在捲縮性繊維を含まず、顕在捲縮性繊維の繊維長が3〜7mmである湿式不織布用繊維。好ましくは、融点Tm(℃)が110≦Tm≦147で、プロピレンを主体としてプロピレン以外のα−オレフィンを一元または多元的に共重合したプロピレン共重合体を第1成分とする複合繊維であって、第1成分と第2成分の複合の形態が繊維横断面における第1成分と第2成分の面積比において65/35〜35/65の範囲である、潜在捲縮性繊維。また、複合繊維である潜在捲縮性繊維の第2成分として、158℃以上の融点を有するポリプロピレンが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嵩高な抄造紙を得るのに好適な繊維に関する。ここで抄造紙を湿式不織布とも呼称する。すなわち本発明は、嵩高な湿式不織布を得るのに適した繊維に関する。本発明はより詳しくは、熱処理工程による繊維間融着による嵩高さの維持が可能な湿式不織布用繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に嵩高の不織布を得るには、カード法やエアレイド法といった乾式加工法が用いられている。乾式法では繊維に種々の形状の捲縮を付与させることで嵩高な不織布が得易いものの、目付や繊維の分散ムラが大きいため、高い均一性を要求する用途では使用が困難である。例えば、電池のセパレータの用途では、使用する不織布の目付や繊維の分散ムラが大きいことが、短絡や電解液の漏れの原因となり、また、高性能フィルター用途では薄肉な箇所への流量ムラとなり、ハップ材用途では薬液の漏れ等の原因となる。
また、ウェブの状態で嵩高であっても、複合繊維などの合成繊維では熱処理による不織布化によって、高い不織布強度を有することが可能な反面、繊維成分の熱溶融によるヘタリや、他の繊維との接着により自由度が制御され嵩が減少することが知られている。
【0003】
一方、湿式抄紙法は古来の紙梳き技術から発展したものであり、現在ではパルプ等の天然繊維の他に、安価に且つ安定供給されることから合成繊維や合成パルプが比較的に多く用いられている。湿式抄紙法はこれら繊維状物を水中に均一分散し、梳き上げることで様々な特性を有し、目付や厚みに高い均一性を有している抄造紙(湿式抄紙法で得られる不織布)が得られる。用途としては汎用に障子紙や、ウェットティッシュ等、また高機能用途では均一な膜厚を要求される高性能フィルター、更に膜の厚さに起因する高い保液力が要求される電池セパレーター等、幅広い分野に用いられている。
これらの抄造紙の繊維状物には、抄造紙の強度や付加価値のある特性を持たせる為に機能性の合成繊維を含むものが多い。これらの合成繊維としては水中での分散性を向上させる為に、繊維同士が絡み難く分散し易いようにストレート状の短繊維が多く用いられる。その結果、得られる抄造紙は、ストレート繊維の乏しい嵩高さを反映した薄い紙状のものとなる。このため、湿式抄紙法は嵩高の不織布を得る製法としては不向きであると考えられてきた。
【0004】
このような問題を解決する為に、電池セパレータ用途において抄造紙の保液力を向上させるために、高い剛性を有する無機繊維、特にガラス繊維を混抄することが提案されている(特許文献1参照)。これは微細なガラス繊維が緻密なマトリックスを形成しながらも、一定の嵩を保持する剛性を有する為、保液する空隙を確保している。また、合成繊維の熱収縮により立体的な捲縮を繊維に発現させ嵩高化を行う、潜在捲縮繊維のみを使用して不織布を製造する方法が提案されている(特許文献2参照)。しかし、ガラス繊維を用いる方法においては嵩高化が行える一方、価格が非常に高価であることや、環境負荷の面から廃棄、焼却が困難な素材であることから好適な方法とは言い難い。また、潜在捲縮繊維のみを用いる方法においては、嵩高化は繊維の収縮によって発現するため、製品寸法の安定性が悪いことや、目付のムラが発生し易いこと等の操作性の面から好適な方法とは言い難い。さらには、収縮時に繊維が適度に自由度を有して移動できるような加工装置の導入が必要となり、設備投資としてもコスト的な不利は免れない。
このように、目付や繊維分散の均一性を維持しながら、嵩高さを有する不織布を得ることは非常に困難であった。
【0005】
【特許文献1】特開昭62−268900号公報
【特許文献2】特開2001−32139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題を解決し、目付や繊維分散の均一性を維持し且つ、従来にはない嵩高さを有する抄造紙の原料となる湿式不織布用繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、湿式抄紙法において嵩高い抄造紙を作ることができる、以下の湿式不織布用繊維を完成するに至った。
従って本発明は、繊維径3〜40μmの顕在捲縮性繊維を30〜100質量%、繊維径3〜40μmの潜在捲縮性繊維を0〜70質量%の範囲で含む湿式不織布用繊維である。
本発明の実施態様として、潜在捲縮性繊維を含まず、顕在捲縮性繊維の繊維長が3〜7mmである上記の湿式不織布用繊維がある。
本発明で使用する顕在捲縮性繊維の例として、捲縮数5〜25山/インチの熱可塑性樹脂から構成される合成繊維であって、ジグザグ型、スパイラル型、オーム型の少なくとも1種類の捲縮形状が長さ方向に連続して付与されている顕在捲縮性繊維がある。
本発明で使用する潜在捲縮性繊維の例として、融点Tm(℃)が110≦Tm≦147で、プロピレンを主体としてプロピレン以外のα−オレフィンを一元または多元的に共重合したプロピレン共重合体を第1成分とする複合繊維であって、第1成分と第2成分の複合の形態が繊維横断面における第1成分と第2成分の面積比において65/35〜35/65の範囲である、潜在捲縮性繊維が挙げられる。本発明で使用する複合繊維である潜在捲縮性繊維の第2成分として、158℃以上の融点を有するポリプロピレンが挙げられる。本発明で使用する複合繊維である潜在捲縮性繊維の別の実施態様として、第2成分がポリエチレンである潜在捲縮性繊維がある。
【発明の効果】
【0008】
本発明の湿式不織布用繊維は、従来にない嵩高さと高い不織布強度と、更には均一な目付を有した湿式不織布を得るのに好適である。
本発明の湿式不織布用繊維による作用効果は具体的には以下のようである。
(1)顕在捲縮性繊維の嵩高さと潜在捲縮発現による嵩高さの効果が組合わさり、これまでにない嵩高な抄造紙が得ることが可能になった。
(2)顕在捲縮性繊維の捲縮強度や繊維長を調節すること、また繊維を構成する樹脂を適宜選定することで、捲縮繊維においても湿式用途で良好な繊維分散性の発現が可能となり、均一な地合いを維持することが可能となった。
(3)公知の熱処理法による不織布化を行ってもこれまでにない嵩高性を維持し、且つ熱接着による高い抄造紙強度を有する抄造紙が得られることが可能になった。
本発明の湿式不織布用繊維から得られた嵩高不織布は、ワイパー等の民生品やフィルター材料や電池用材料等の工業品に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の繊維は、少なくとも抄造紙の嵩高に寄与する短繊維として、繊維径3〜40μmの顕在捲縮性繊維(以下、繊維(A)ともいう。)を30〜100質量%、繊維径3〜40μmの潜在捲縮性繊維(以下、繊維(B)ともいう。)を0〜70質量%の範囲で含む湿式不織布用繊維であり、湿式抄紙法によって混合抄紙してウェブを形成し、熱処理接着または機械交絡等の公知の加工法によって不織布化するのに好適に用いられる。
【0010】
本発明の湿式不織布用繊維は顕在捲縮性繊維(A)を必須成分とする。得られる湿式不織布の嵩高性をさらに改善するために潜在捲縮性繊維(B)を含んでいてもよい。また、本発明の効果を妨げない範囲であれば、さらに他の繊維(以降、繊維(C)ともいう。)と共に不織布を構成してもよい。但し、嵩高化の面から、本発明の湿式不織布用繊維が、70質量%以上を占めるのが好ましく、特に、80質量%以上を占めるのが好ましい。
【0011】
本発明の湿式不織布用繊維は、顕在捲縮性繊維(A)の構成が30質量%未満では目的とする嵩高さが得られず、十分な強度が保持され難い。また、潜在捲縮性繊維(B)が70質量%を超えると、熱処理加工によってウェブから不織布化される過程で、繊維の熱収縮が大きすぎでウェブが破断して抄造紙が得られない。
【0012】
本発明における顕在捲縮性繊維(A)とは、ジグザク型捲縮やスパイラル型やオーム型の立体捲縮等の顕在捲縮を有する熱可塑性樹脂からなる合成繊維である。顕在捲縮性繊維(A)は好ましくは、熱融着性繊維として、熱処理で該顕在捲縮繊維同士の交点及びまたは該顕在捲縮繊維と他の抄造紙を構成する繊維との交点が融着するような各種の熱可塑性樹脂を繊維化した、単一繊維(単一繊維とは複合繊維に対するものであり、1種類の均一成分からなる繊維であり、その成分が1種類の樹脂もしくは2種類以上の樹脂の混合物であることを問わない。以下同様)や複合繊維等である。
該熱可塑性樹脂は、紡糸可能な熱可塑性樹脂であれば特別な制限はない。例えば、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、プロピレンと他のαオレフィンとの二元もしくは多元共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、イソフタル酸を共重合体の一成分として含む低融点ポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、低融点ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリトリフロロクロロエチレン、ポリテトラフロロエチレン及びこれらの混合物が何れも使用できる。
【0013】
本発明における顕在捲縮性繊維(A)が熱融着性の複合繊維の場合、繊維を構成する複数の熱可塑性樹脂が10℃以上の融点差を有しており、低融点熱可塑性樹脂が少なくとも繊維表面の一部を形成する複合繊維が使用できる。該複合繊維の例として、繊維断面の形状が鞘芯型、並列型、海島型、中空型、多分割型等の複合繊維が例示できる。但し嵩高化の面から繊維に剛性を持たせるために中実型の鞘芯型、並列型、海島型が好ましく使用できる。さらには、スパイラル型の立体捲縮が発現し易い並列型や鞘芯型の高融点熱可塑性樹脂の重心が繊維断面の重心の位置と異なる箇所に配された偏芯鞘芯型がより好ましく使用できる。
複合繊維の熱可塑性樹脂の組み合せとして、高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、低密度ポリエチレン/ポリプロピレン、プロピレンと他のα−オレフィンとの二元もしくは多元共重合体/ポリプロピレン、高密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、低密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、線状低密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート等が例示できる。
【0014】
本発明における顕在捲縮性繊維(A)が熱融着性のポリオレフィン系複合繊維の場合、高融点側に使用する成分は繊維の剛直性を向上させる面から融点158℃以上の結晶性ポリプロピレンが好ましい。抄造紙の嵩高さは、顕在捲縮性繊維(A)においては捲縮を有している繊維の剛直性に依存していると考えられる。すなわち、繊維の剛直性は、熱融着性複合繊維では低融点側が溶融接着の機能を果たすため、繊維の高融点側の成分に依存していると考えられる。ゆえに高融点側の樹脂に関しては結晶性が高い樹脂が好ましいと考えられる。しかし、繊維の曳糸性や延伸性、さらには得られた繊維の湿式抄紙法の分散性を考慮して、他のポリオレフィンが選択される場合もある。
【0015】
また、顕在捲縮性繊維(A)が複合繊維の場合、構成する樹脂成分の面積比(鞘芯型複合繊維の場合、繊維を軸方向と直行する方向に切った切断面における鞘成分となる低融点熱可塑性樹脂と芯成分となる高融点熱可塑性樹脂の面積比)が、低融点熱可塑性樹脂/高融点熱可塑性樹脂が70/30〜30/70の範囲であることが好ましく、60/40〜40/60の範囲であることがさらに好ましい。さらに、繊維に剛直性を持たせるためには、高融点成分の比率を上げて、低融点熱可塑性樹脂/高融点熱可塑性樹脂が50/50〜40/60の範囲とするのが好ましい。
【0016】
本発明の顕在捲縮性繊維(A)が複合繊維の場合、該繊維の表面の一部に長さ方向に沿って連続して露出する低融点成分に、反応性官能基を有したビニルモノマーからなる重合体を含む樹脂(変性剤)を含有させることができる。
変性剤は、反応性官能基を有した樹脂であり、該反応性官能基としては、水酸基、アミノ、ニトリル、ニトリロ、アミド、カルボニル、カルボキシル、グリシジル等の基が挙げられる。変性ポリオレフィンは、前記反応性官能基を有するビニルモノマーを用いて重合することができ、ブロック、ランダム、ラダー等の共重合体、グラフト共重合体のいずれも使用することができる。反応性官能基を有するビニルモノマーとしては、無水マレイン酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、イタコン酸等から選択された不飽和カルボン酸、その誘導体、またはその無水物を少なくとも1種含むビニルモノマー、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル類、または同様なアクリル酸エステル等を少なくとも1種含むビニルモノマー、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ブテンカルボン酸エステル類、アリルグリシジルエーテル、3.4−エポキシブテン、5.6−エポキシ−1−ヘキセン、ビニルシクロヘキセンモノオキシド等を少なくとも1種含むビニルモノマーを挙げることができる。
【0017】
上記の変性剤としては、一般的に変性剤の全質量に対して前記反応性官能基を有するビニルモノマーを、0.05〜2.0mol/kgの変性率で有することが好ましく、0.05〜0.2mol/kgの変性率の変性剤を利用することがより好ましい。
【0018】
上記の変性剤が混合される熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂やポリエステル系樹脂の場合、混合して得られた繊維が不織布を構成する際に他のセルロース系繊維や、無機物との接着性が高いことや、繊維表面に官能基を有することで親水性が向上することから、本発明では変性剤として、不飽和カルボン酸又はその誘導体からなるビニルモノマーとポリオレフィンとからなる変性ポリオレフィンを好ましく用いることができる。
【0019】
上記の変性ポリオレフィンのうち、グラフト共重合体である変性ポリオレフィンが、ポリマー強度が高く、繊維加工性が良好であることから、より好ましく利用でき、変性率に関しては、繊維加工性及び本発明の効果を妨げない範囲で可能な限り、高変性率であることが好ましい。
【0020】
変性ポリオレフィンの幹ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1等が用いられる。ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレ、線状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンが用いられる。これらは、密度が0.90〜0.97g/cm3、融点は、100〜135℃程度のポリマーである。ポリプロピレンとしては、プロピレン単独重合体、プロピレンを主成分とする、プロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体が用いられる。これらは、融点130〜170℃程度のポリマーである。ポリブテン−1は、融点が110〜130℃程度のポリマーである。
これらのポリマーの中では、融点、共重合、グラフト共重合の容易性を考慮するとポリエチレンが好ましく、不織布強度を向上させるためには、ポリマー強度が高い、高密度ポリエチレンがより好ましい。
【0021】
上記変性ポリオレフィンを含む低融点成分には、変性ポリオレフィンの単独、少なくとも2種の変性ポリオレフィンの混合物、少なくとも1種の変性ポリオレフィンと他の熱可塑性樹脂との混合物等を利用することができる。
変性ポリオレフィンは、未変性のポリオレフィンと比較した場合、一般的にポリマー強度が低下する傾向であるため、繊維強度をより高く維持するためには、低融点成分として、高変性率の変性ポリオレフィンと未変性のポリオレフィンとの混合物を用いることが好ましい。
【0022】
変性剤と他の熱可塑性樹脂とを混合する場合には、0.1mol/kg程度以上の高変性率の変性剤を用いることが好ましい。変性剤を用いることにより、本発明の湿式不織布用繊維による抄造紙の帯電性を向上させるという効果を付加することができる。また、変性剤を構成する幹ポリマーと同じ熱可塑性樹脂と混合することが好ましい。混合する他の熱可塑性樹脂としては相溶性の面から変性ポリオレフィンの幹ポリマーと同じポリマーを用いることが特に好ましい。
【0023】
本発明における顕在捲縮性繊維(A)の繊維径は、3〜40μmである。湿式抄紙法における水中での繊維の分散性や、後記の潜在捲縮性繊維(B)や他の繊維(C)との混合性、得られる抄造紙の風合い等の点から繊維径は10〜30μmがより好ましい。捲縮繊維の繊維径は、太い繊維の方が繊維の剛直性が高まり繊維の嵩が向上する。そのため太い繊維の方が得られる抄造紙の嵩高化も容易ではあるが、繊維間孔径が粗くなり空隙数の少ない抄造紙となるため、フィルター用途やワイパー用途では対象物を捕集できなくなり、電池セパレータ用途では分離膜の機能を有さなくなる等本来の機能を損なう虞がある。
本発明の湿式不織布用繊維を構成する繊維の繊維径3〜40μmは、抄造紙に所望される嵩高さと且つ剛直性と膜機能の両立を図るのに好適な繊維径であると考えられる。
【0024】
本発明における顕在捲縮性繊維(A)はジグザグ型、スパイラル型、オーム型の少なくとも1種類の捲縮形状が長さ方向に連続して5〜25山/インチの捲縮数が付与されていることが好ましい。さらに抄造紙の嵩高性の面からは捲縮形状としてはスパイラル型、オーム型の立体捲縮が、湿式抄紙法における繊維の分散性の面からは5から10山/インチの捲縮数が好ましい。また、抄造紙の嵩高性の面から、捲縮を付与する工程において蒸気を用いて捲縮の形状を固定した繊維を使用することができる。
【0025】
本発明における顕在捲縮性繊維(A)の繊維長は、得られた抄造紙の嵩高性や抄造紙強力を考慮すると3〜30mmの物を使用することができる。さらに、湿式抄紙法における水中での繊維の分散性や、後記の潜在捲縮性繊維(B)や他の繊維との混合性を考慮すると3〜15mmが好ましい。また、顕在捲縮性繊維(A)の捲縮数が15〜25山/インチと高い物や、蒸気を用いて形状を固定した物については3〜7mmのカット長が好ましく用いられる。
【0026】
本発明の湿式不織布用繊維が、潜在捲縮性繊維(B)を含まないで構成される場合、本発明における嵩高効果は顕在捲縮性繊維(A)に依存されるため、顕在捲縮性繊維(A)の捲縮については蒸気を用いて形状を固定した物や捲縮数が15〜25山/インチと高い物が好ましく用いられる。このとき、繊維長については、湿式抄紙法における水中での繊維の分散性や他の繊維との混合性を考慮して3〜7mmのカット長が好ましく用いられる。
【0027】
本発明における潜在捲縮性繊維(B)とは、潜在倦縮性複合繊維が適当である。該潜在倦縮性複合繊維を構成する第1成分としては、加工性の点から、比較的低温で熱収縮を起こし、なおかつ繊維形成性を有する、融点Tm(℃)が110≦Tm≦147の範囲にあるプロピレン共重合体が挙げられる。この様なプロピレン共重合体はプロピレンを主として、これと他のα−オレフィンとを共重合することにより得ることができる。このようなα−オレフィンとしては、例えばエチレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、4−メチル−ペンテン−1などを例示でき、またこれらのα−オレフィンのうち2種以上を併用することもできる。プロピレン共重合体の具体例としてはエチレン−プロピレン二元共重合体、プロピレン−ブテン−1二元共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1三元共重合体、プロピレン−ヘキセン−1二元共重合体、プロピレン−オクテン−1二元共重合体等、およびこれらの混合物を例示することができる。これらの共重合体は通常、ランダム共重合体であるがブロック共重合体であってもよい。
【0028】
本発明の潜在倦縮性複合繊維である繊維(B)の第1成分として使用できる、融点Tm(℃)が前述した範囲内に含まれるプロピレン共重合体の中でも、90〜98質量%のプロピレン、1〜7質量%のエチレン、1〜5質量%のブテン−1からなるエチレン−プロピレン−ブテン−1三元共重合体や、90〜98質量%のプロピレン、2〜10質量%のエチレンからなるエチレン−プロピレン二元共重合体がコスト面から好ましく、熱によって収縮処理する際の低温加工性、収縮力の観点からは、第1成分として、90〜96質量%のプロピレン、4〜10質量%のエチレンからなるエチレン−プロピレン二元共重合体や、90〜96質量%のプロピレン、3〜7質量%のエチレン、1〜5質量%のブテン−1からなるエチレン−プロピレン−ブテン−1三元共重合体を用いることがより好ましい。
なお、これら樹脂において融点Tm(℃)が110℃未満であるものは、ゴム弾性を強く示すために、得られた繊維の水中での分散性に悪影響を与える傾向がある。また、融点Tm(℃)が147℃を超えるプロピレン共重合体を第1成分として使用した場合には、得られた繊維の収縮性は通常のポリプロピレン単成分繊維、ポリエチレン/ポリプロピレン複合繊維程度まで低下してしまう傾向がある。したがって、組成が前述した範囲内にあるプロピレン共重合体を第1成分として使用することで、繊維の分散性、熱収縮性を両立した潜在捲縮性繊維(B)を好適に得ることができる。
なお、本発明の繊維の熱収縮性を極端に低下させない程度、または熱収縮性を軽度に抑制する程度であれば、必要に応じて第1成分に二酸化チタン,炭酸カルシウムおよび水酸化マグネシウム等の無機物や、難燃剤、顔料及びその他のポリマーを添加しても差し支えない。
【0029】
本発明で使用する潜在倦縮性複合繊維である繊維(B)の第2成分として、融点158℃以上のポリプロピレンが好適に用いられる。融点158℃以上のポリプロピレンとは、表面平滑性に優れる結晶性ポリプロピレンであり、ホモポリプロピレン若しくはプロピレンと少量の、通常は2質量%以下のα−オレフィンとの共重合体である。
このようなポリプロピレンとしては、汎用のチーグラー・ナッタ触媒、メタロセン触媒から得られる結晶性ポリプロピレンを例示できる。その中でも曳糸性、潜在捲縮性の点から、後述する方法によって測定するQ値(重量平均分子量/数平均分子量)が小さい、すなわち好ましくは4以下、より好ましくは3以下である分子量分布が狭い結晶性ポリプロピレンが本発明においては好適に使用できる。
【0030】
本発明の効果を著しく損なわなければ、第2成分として、これらの結晶性ポリプロピレン同士を混合したものや、異なる分子量分布、MFR等を有する結晶性ポリプロピレンや他の熱可塑性樹脂を添加したものを用いたり、また必要に応じて、二酸化チタン、炭酸カルシウムおよび水酸化マグネシウム等の無機物や、難燃剤、顔料及びその他のポリマーを添加してもよい。
【0031】
本発明における潜在倦縮性繊維(B)においては、第2成分が融点158℃以上のポリプロピレンの場合、通常第1成分の融点Tm(℃)よりも融点が高いために、第1成分のプロピレン共重合体を繊維の熱融着成分として利用することもできる。つまり、高圧水流によって繊維同士を交絡させたウェブにエンボス加工、ヒートピン加工等の手法により繊維同士を熱接着し、不織布の風合い、嵩高性を損なわない範囲で不織布の強度を向上させたり、伸縮性を調整することもできる。特に第2成分のポリプロピレンの融点である158℃以下で、第1成分のプロピレン共重合体の融点以上の温度範囲で熱処理した場合には不織布化と収縮処理を同時に施すことができるため、不織布製造工程を簡略化することができる。なお第1、第2成分について、互いの融点Tm(℃)が13℃以上、より好ましくは23℃以上離れていることが望ましい。
【0032】
本発明における潜在倦縮性複合繊維である繊維(B)の第2成分としては、ポリエチレンも好適に用いられる。使用できるポリエチレンとは、以下に述べるような融点、密度の区分で大きく分類される高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンを挙げることができる。
【0033】
本発明でいう高密度ポリエチレンとは、公知のチーグラーナッタ触媒を用いて低圧法で重合された、エチレン単独の重合体もしくは少量の、通常は最大2重量%までの割合のC3〜C12の高級アルケンをコモノマーとして含有するエチレン系共重合体であり、一般に0.941〜0.965g/cm3の密度、および127℃以上の融点を有するポリエチレンである。
【0034】
本発明でいう直鎖状低密度ポリエチレンとは、公知のチーグラーナッタ触媒を用いて重合された、実質的な長分岐鎖を持たない、通常15wt%以下の割合のC3〜C12の高級アルケンをコモノマーとして含有するエチレン系共重合体を指しており、一般に0.925〜0.940g/cm3の密度、および127℃未満の融点を有するポリエチレンである。
【0035】
本発明でいう低密度ポリエチレンとは、高圧法で重合された、一般に密度0.910〜0.940g/cm3、および融点120℃以下の、分岐鎖が多く結晶性の低いポリエチレンである。
【0036】
さらに、メタロセン触媒を用いて重合されたポリエチレン系樹脂は、上記の樹脂よりもさらに低い融点を有することから繊維同士を熱接着する場合の低温加工性の面から有利であると同時に、狭い分子量分布を有することから紡糸安定性に大きく寄与するため、本発明の第2成分として好適に使用できる。
【0037】
本発明における潜在倦縮性複合繊維である繊維(B)の第2成分においては、低温加工性や工程安定性を付与するために、これらのポリエチレンから選ばれる数種の樹脂を混合することや、または本発明の目的を妨げない程度であれば、必要に応じて、二酸化チタン,炭酸カルシウムおよび水酸化マグネシウム等の無機物や、難燃剤、顔料及びその他のポリマーを添加してもよい。
【0038】
本発明における潜在倦縮性複合繊維である繊維(B)の第2成分に、第1成分の融点Tm(℃)よりも融点が低いポリエチレンを用いることで、繊維に熱接着性を付与することもできる。つまり必要に応じて第1成分と第2成分に融点差を持たせるように樹脂を適宜選択すれば、高圧水流によって繊維同士を交絡させたウェブにエンボス加工、ヒートピン加工等の手法により繊維同士を熱接着し、不織布の風合い、嵩高性を損なわない範囲で不織布の強度を向上させたり、伸縮性を調整することもできる。特に第1成分の融点以下、第2成分の融点以上の温度範囲で熱処理した場合には不織布化と収縮処理を同時に施すことができるため、不織布製造工程を簡略化することができる。なおこの時、第2成分の融点は第1成分の融点Tm(℃)よりも5℃以上、より好ましくは10℃以上低いことが望ましい。
【0039】
本発明における潜在倦縮性繊維(B)の第1成分と第2成分の面積比(すなわち繊維を繊維軸方向と直交する方向に切った切断面における鞘成分と芯成分の面積比)が、35/65〜65/35の範囲であることが好ましく、さらに45/55〜55/45の範囲であることがより好ましい。この面積比が35/65以上(好ましくは45/55以上)であれば、熱処理時(収縮加工時)に潜在捲縮性によって生じる収縮力から繊維に十分な捲縮を付与させることができるので嵩高い不織布を得ることができる。また65/35以下(好ましくは55/45以下)であれば、繊維は過剰な収縮を起こさず不織布を均一に収縮させることができ、繊維塊の発生などは起こらない。
【0040】
本発明における潜在倦縮性繊維(B)の断面図を、添付の図1〜4に例示する。本発明における潜在倦縮性繊維(B)において第1成分と第2成分の複合形態は、第2成分が融点158℃以上のポリプロピレンの場合、第1成分を鞘側に配置した偏心鞘芯型とするのが好ましい。これは複合繊維が偏心鞘芯型構造をとった場合には、熱処理時に嵩高性を十分に発現できるだけの捲縮が発現しやすいからである。偏心鞘芯型の配置は、図1のような断面形状が一般的であるが、図2のように偏心の程度を大きくし、第2成分が一部繊維の表面に露出した形状でも、潜在捲縮性を高めることができるため、本発明の効果が繊維表面に一部露出した第2成分の摩擦により妨げられない程度であるならば採用することができる。さらに、図3に示すように露出した第2成分が繊維表面上の50%を占める形状では最も潜在捲縮性を高めることができるため、本発明の繊維の加工性、熱接着性を妨げられない程度であるならば採用することができる。また、図4に示すように、芯成分の断面形状が異形(非円形)である場合も熱収縮の差による潜在捲縮性を高めることができる。
【0041】
本発明における潜在倦縮性繊維(B)の第2成分がポリエチレンの場合、第2成分を鞘側に配置した偏心鞘芯型とするのが好ましい。これは複合繊維が偏心鞘芯型構造をとった場合には、熱処理時に嵩高性を十分に発現できるだけの捲縮が発現しやすいためである。偏心鞘芯型の配置は、図1のような断面形状が一般的であるが、図2のように偏心の程度を大きくし、第1成分が一部繊維の表面に露出した形状でも、潜在捲縮性を高めることができるため、本発明の効果が繊維表面に一部露出した第1成分の摩擦により妨げられない程度であるならば採用することができる。さらに、図3に示すように露出した第1成分が繊維表面上の50%を占める形状では最も潜在捲縮性を高めることができるため、本発明の繊維の加工性、熱接着性を妨げられない程度であるならば採用することができる。また、図4に示すように、芯成分の断面形状が異形(非円形)である場合も熱収縮の差による潜在捲縮性を高めることができる。
【0042】
本発明における潜在倦縮性繊維(B)は、単独で湿式抄紙法によってウェブに加工した状態で、後述する方法によって測定する熱収縮率が捲縮を伴って少なくとも30%以上の熱収縮率を示すことが好ましい。熱収縮率が30%を大幅に下回る場合、捲縮の発現が十分でないため、顕在捲縮性繊維(A)とともに得られる不織布の嵩は低くなる傾向がある。
【0043】
本発明における潜在倦縮性繊維(B)の繊維径は、3〜40μmの範囲である。潜在倦縮性繊維(B)では40μmを超える太い繊維では繊維の剛直性が高まるため、熱収縮時の潜在倦縮の発現が弱くなる。また、湿式抄紙法における水中での繊維の分散性や、前記の顕在捲縮性繊維(A)や他の繊維との混合性、得られる抄造紙の風合い等の点を考慮すると、繊維径は10〜25μmが好ましい。
【0044】
本発明における潜在倦縮性繊維(B)は、熱収縮によって発現する倦縮以外にも、本発明の効果を妨げない程度にジグザグ型やオーム型の少なくとも1種類の捲縮形状が長さ方向に連続して5〜25山/インチの捲縮数が付与されている繊維が使用できる。但し倦縮付与により発現する潜在倦縮が減少することや繊維の分散性の面からは、ジグザグ型やオーム型の少なくとも1種類の捲縮が5〜10山/インチの捲縮数であることが好ましい。
【0045】
本発明における潜在倦縮性繊維(B)の繊維長は、得られた抄造紙の嵩高性や抄造紙強力を考慮すると3〜30mmが適当である。さらに、湿式抄紙法における前記の顕在捲縮性繊維(A)や他の繊維との混合性や、熱収縮による潜在倦縮の発現性を考慮すると3〜15mmが好ましい。
【0046】
以下に本発明において顕在捲縮性繊維(A)及び潜在倦縮性繊維(B)として用いられる、熱接着性複合繊維を製造する工程を示す。
低融点熱可塑性樹脂が繊維表面の少なくとも一部を形成するように並列型口金、または低融点熱可塑性樹脂を鞘成分とし高融点熱可塑性樹脂を芯成分とする鞘芯型口金、若しくは偏心鞘芯型口金を用い、通常用いられる溶融紡糸機により熱可塑性樹脂を紡出する。このとき、口金直下をクエンチにより送風し、半溶融状態の熱可塑性樹脂を冷却することによって、未延伸状態の熱接着性複合繊維を製造する。このとき、溶融した熱可塑性樹脂の吐出量及び未延伸糸の引取速度を任意に設定し、目標繊度に対して1〜5倍程度の繊維径の未延伸糸とする。
なお、繊維表面を形成する低融点熱可塑性樹脂の割合は、繊維断面円周率で50%以上の場合に熱接着力が充分となり、特に50〜100%の場合には強力となり好ましいが、同時にエレクトレット特性を向上させる為には必ずしもこの限りではない。得られた未延伸糸は、通常用いられる延伸機により延伸することによって、延伸糸(捲縮加工前の熱接着性複合繊維)とすることができる。なお、通常の場合、40〜120℃に加熱したロールとロールの間を、ロール間の速度比が1:1〜1:5の範囲となるように延伸処理を施す。得られた延伸糸は必要に応じて、ボックス型の捲縮加工機により捲縮が付与されトウとする。
繊維処理剤の付着工程については、未延伸糸の引き取り時にキスロールにて付着する方法や、延伸時/後にタッチロール法、浸漬法、噴霧法等で付着する方法があり、これらの方法の少なくとも一種の工程にて付着される。該トウを、押し切りカッターを用いて用途に合わせた任意の繊維長に切断し、使用される。
【0047】
湿式不織布を製造するに当たり、本発明の湿式不織布用繊維の他に加えることのできる他の繊維(C)としては特に限定されず、例えばポリプロピレンやポリエチレン及びポリエチレン/ポリプロピレン複合繊維等のポリオレフィン系繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド繊維、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート等の生分解性繊維、レーヨン繊維、人工パルプ等の合成繊維や、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、パルプ、木綿、麻等の天然繊維等が目的に応じて利用できる。
【0048】
嵩高な湿式不織布は、本発明の湿式不織布用繊維を湿式抄紙法によって単独または他の繊維と混合抄紙して得られたウェブを、熱処理接着またはスパンレース法をはじめとした機械交絡等の公知の加工法によって不織布化されることで得られる。機械交絡等による不織布化法では抄紙用ウェブでは繊維長が短く交絡させるには十分ではないことや、交絡の強度が熱融着による一体化の方が強いことから、嵩高で強度を有する抄造紙を得るには、熱処理接着による不織布化法が好ましい。
【0049】
嵩高な湿式不織布を製造するためには、本発明の湿式不織布用繊維を水を媒体とする抄紙機を用い単独または混合抄紙してウェブを得る。抄紙機は、例えば、円網型抄紙機、長網型抄紙機、等がいずれも使用できる。また水槽、攪拌機、網等を備えた簡易型抄紙機も使用できる。得られたウェブは脱水処理、圧密化処理し、或いはその処理なしで、各種熱処理またはスパンレース法をはじめとした機械交絡等の公知の加工法によって不織布化され抄造紙が得られる。機械交絡等による不織布化法では構成している繊維が十分に固定されていない為嵩が易い反面、抄紙用ウェブでは繊維長が短く交絡させるには十分ではないことや、熱融着による一体化の方が交絡の強度が強いことから十分な不織布強力が得られないことがある。嵩高で強度を有する抄造紙を得るには、熱処理接着による不織布化法が好ましい。
【0050】
嵩高な湿式不織布を製造するためには、主として湿式抄紙法にて混合抄紙したウェブに熱処理を施す工程で、本発明の顕在倦縮性繊維(A)の嵩高効果を維持しながら、潜在捲縮性複合繊維(B)の潜在捲縮を発現させると同時に、ウェブを均一に熱収縮および/または融着させて一体化する必要がある。
加熱処理には、汎用の熱風循環装置や、フローティングドライヤー等の加熱処理装置が使用できるが、ウェブをより均一に伝熱させることができるフローティングドライヤーの使用がより好ましい。この装置の特徴はウェブの搬送空間の上面及び下面に設置されたノズルから熱風を噴出し、この熱風によりウェブを浮遊させ、空気搬送と同時に熱収縮を生じさせるためにより均一な不織布が得られることである。しかしながらいずれの装置を使用する場合においてもウェブが切れたり、繊維が飛散することを防ぐために、ニードルパンチ法、エンボスロール法、超音波融着法および/または高圧水流交絡法等の公知の不織布加工法を用いることで、ウェブを仮止めしておくことが重要である。また、本発明の顕在倦縮性繊維(A)や潜在捲縮性繊維(B)が熱融着および/または収縮を起こさない低温度で熱接着する成分を含ませておき、ウェブを仮接着しておく方法も好ましく用いられる。
【0051】
本発明の湿式不織布用繊維を用いて得られる不織布の目付は、使用目的によって適宜選ばれる。例えば、ウェットティッシュや障子紙、電池材料などに使用される場合には、5〜100g/m2の範囲、フィルター材や土木資材に用いられる場合には、50〜2000g/m2の範囲がそれぞれ好ましく用いられるが、この限りではない。また、不織布は目的に応じてカード不織布やエアレイド不織布等の短繊維不織布または、スパンボンド不織布やメルトブロー不織布等長繊維不織布と積層することができる。
【0052】
本発明の湿式不織布用繊維を使用すれば、従来得るのが困難であった比容積が10cm2/g以上の、特には、13cm2/g以上の、目付けや繊維の分散性が均一で且つ、強度を有した抄造紙を簡便に得ることができる。
【実施例】
【0053】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例、比較例において用いられている用語の定義及び測定方法は以下の通りである。
(1)融点:(単位:℃)
ティー・エイ・インスツルメント製示差走査熱量計DSC−Q10により、熱可塑性重合体を10℃/分で昇温した時に得られた融解吸収曲線上のピークに対応する温度をその熱可塑性重合体の融点とした。
(2)MFR:(単位:g/10分)
JIS−K−7210 条件14(230℃、21.18N)に準じて測定した。MFRは熱可塑性重合体を試料とし測定した値である。
(3)Q値:(重量平均分子量/数平均分子量)
Q値はゲルパーミエイションクロマトグラフ法により求めた、熱可塑性重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)である。なお、ここでは紡糸前の熱可塑性重合体の値を示した。
【0054】
(4)繊度:(単位:dtex)
JIS−L−1015に準じて測定した。
(5)繊維径:(単位:μm)
繊度と繊維を構成する比重から下記式にて算出した。
繊維径(μm)=繊度(dtex)/〔(第1成分樹脂比重×繊維構成比+第2成分樹脂比重×繊維構成比)/106/3.14〕×104×2
(6)捲縮数:(単位:山数/2.54cm)
短繊維試料については、10本の繊維について、2.54cm当たりの捲縮数を数え、平均した値をここでは捲縮数とした。
(7)単糸強度:(単位:cN/dtex)
JIS−L−1015に準じて測定した。
【0055】
(8)熱収縮率:(単位:%)
簡易抄紙機(TAPPI)にて25×25cm、目付約80g/m2のウェブを作成し、脱水処理した後、クラフト紙にのせて145℃に維持した対流型熱風乾燥機に入れ、5分間加熱処理した。熱処理前後のウェブからそれぞれの辺の長さを測定し、熱収縮率を次式により算出した。
熱収縮率(%)=(1−a/25)×100
なお、式中のaは熱処理したウェブ辺の長さである。
(9)繊維分散性
湿式繊維の水中での分散性(繊維同士の開繊性、繊維の分散性)を測定し、以下の3段階で評価した。
良好(○):繊維同士の開繊、繊維の分散状況が最も好ましいもの。
良(△):繊維同士の開繊、または繊維の分散のいずれかが良好なもの。
不良(×):繊維同士の開繊不良や、繊維の分散不良(繊維結束、絡み)が見られるもの。
【0056】
(10)地合い
目付約70g/m2の抄造紙の地合いについて以下のような3段階の基準で目視判定した。
良好(○):均一に熱収縮を起こし、地合いが良好な不織布が得られたもの
良(△):ほぼ均一に熱収縮を起こし、地合いの乱れが僅かに見られるものの、実用上問題ないと考えられるもの
不良(×):熱収縮が均一に起こらず地合いの乱れがあるもの、または収縮率が小さいもの
(11)比容積:(単位:cm3/g)
目付約70g/m2の抄造紙を2g/m2の圧力で測定した厚みから下記計算式で比容積を算出し嵩高さを比較。
比容積(cm3/g)=厚み(mm)/目付(g/m2)×1000
(12)不織布強力:(単位:N/5cm)
目付約70g/m2の抄造紙を15×5cmの短冊状に3点取り、島津精機製引張試験機にて長短部の上下各5cmをチャックの挟み代にして、チャック間10cm、速度200m2/secで上下に引張り試験を実施。測定結果から破断したときの最大応力と伸度を測定。
【0057】
[実施例1〜6、比較例1〜4]
(1) 本発明における顕在捲縮性繊維(A)として各種顕在捲縮性繊維(A−1)、(A−2)及び(A−3)の製造
表1に示すように、値の異なる結晶性ポリプロピレンのいずれかを第1成分として用い、MFRの異なる高密度ポリエチレンを第2成分とし、押出機、孔径0.8mmの並列型紡糸口金と、巻取り装置等を備えた紡糸装置と、多段加熱ロールとスタッファーボックス型クリンパー(蒸気による捲縮形状の固定が可能)を備えた延伸装置を用い、各種複合繊維を製造した。なお、(A−1)にはクリンパー設備で0.002Mpaの蒸気圧を与え、捲縮形状の固定化処理を行った。
【0058】
(2) 本発明における潜在捲縮性繊維(B)として各種潜在捲縮性繊維(B−1)、(B−2)及び(B−3)の製造
表1に示すように、エチレン−プロピレン二元共重合体を第1成分として用い、Q値の小さい結晶性ポリプロピレンを第2成分とし、押出機、孔径0.8mmの並列型紡糸口金と、巻取り装置等を備えた紡糸装置と、多段加熱ロールと必要に応じてスタッファーボックス型クリンパーを備えた延伸装置を用い、各種複合繊維を製造した。
【0059】
(3) 比較として顕在捲縮の付与が無く、潜在捲縮性も殆ど持たない繊維(C)である各種繊維(C−1)、(C−2)及び(C−3)の製造
表1に示すように、Q値の小さい結晶性ポリプロピレンを第1成分として用い、MFRの異なる高密度ポリエチレンを第2成分とし、押出機、孔径0.8mmの並列型紡糸口金と同心鞘芯型紡糸口金のいずれか一種と、巻取り装置等を備えた紡糸装置と、多段加熱ロールを備えた延伸装置を用い、各種複合繊維を製造した。
【0060】
それぞれの複合繊維の詳細について、表1に繊維を構成する樹脂、製造条件、及び繊維の形状を、表2に繊維の糸質や捲縮形状と、各繊維の水中分散性や熱収縮等のデータを示した。なお表2中、顕在捲縮性繊維(A−2′)は(A−2)の繊維長を変化させたものである。
表1に記載した繊維の具体的断面形状は、図2、3及び5に示した。表中、Homo-PPは結晶性ポリプロピレンを表し、HDPEは高密度ポリエチレンを表し、co-PPは密度0.922g/cm3のエチレン-プロピレン共重合体(エチレン成分3.5質量%)を表す。























【0061】
【表1】



【0062】
【表2】

【0063】
上記のように得られた繊維(A)、繊維(B)とおよび/または一般に得られる繊維(C)とを、表3〜4に示す実施例1〜6、比較例1〜4の比率で湿式抄紙法によって混合抄紙し、ウェブを得て、それぞれの熱処理条件で不織布化し抄造紙を得た。得られた抄造紙はその嵩高性を評価する為に、東洋精機製のデジ・シックネス・テスターにて圧力2g/cm2でJIS−K−6767に準じて抄造紙の厚みを測定し、下記式より比容積を算出した。
比容積(cm3/g)=厚み(mm)×1000/目付(g/m2
得られた各抄造紙の結果について表3〜4に合わせて示す。
【0064】
【表3】







【0065】
【表4】

【0066】
各例における操作と結果を以下に説明する。
[実施例1]
繊維(A−1)と繊維(B−1)を水中に均一に分散させ丸網型抄紙機にてウェブを作成し、これを脱水、乾燥工程を経て、サクション型スルーエアー機にて130℃で熱接着を行い目的とする抄造紙を得た。ウェブの繊維の分散性も良好で、熱収縮も均一に発現していた。また、得られた抄造紙は比容積が16.8cm3/gと嵩高で且つ、抄造紙強力が54.1N/5cmと高強力であった。
【0067】
[実施例2]
繊維(A−2)と繊維(B−1)を水中に均一に分散させ丸網型抄紙機にてウェブを作成し、これを脱水、乾燥工程を経て、サクション型スルーエアー機にて130℃で熱接着を行い目的とする抄造紙を得た。ウェブの繊維の分散性も良好で、熱収縮も均一に発現していた。また、得られた抄造紙は比容積が18.4cm3/gと非常に嵩高で且つ、抄造紙強力が50.5N/5cmと高強力であった。
【0068】
[実施例3]
繊維(A−3)と繊維(B−1)を水中に均一に分散させ丸網型抄紙機にてウェブを作成し、これを脱水、乾燥工程を経て、サクション型スルーエアー機にて130℃で熱接着を行い目的とする抄造紙を得た。ウェブの繊維の分散性も良好で、熱収縮も均一に発現していた。また、得られた抄造紙は比容積が16.4cm3/gと嵩高で且つ、抄造紙強力が67.7N/5cmと高強力であった。
【0069】
[実施例4]
繊維(A−3)と繊維(B−1)を水中に均一に分散させ丸網型抄紙機にてウェブを作成し、これを脱水、乾燥工程を経て、サクション型スルーエアー機にて130℃で実施例3の熱風の風速条件より速い風速条件下で熱接着を行い目的とする抄造紙を得た。ウェブの繊維の分散性も良好で、熱収縮も均一に発現していた。得られた抄造紙では比容積が13.7cm3/gと嵩高さも維持しながら、抄造紙強力が95.4N/5cmと非常に高い強力を示した。実施例3よりも繊維同士の熱接着が進んだ分だけ嵩が若干低下したものと考えられる。
【0070】
[実施例5]
繊維(A−1)と繊維(B−2)を水中に均一に分散させ丸網型抄紙機にてウェブを作成し、これを脱水、乾燥工程を経て、サクション型スルーエアー機にて130℃で熱接着を行い目的とする抄造紙を得た。ウェブから繊維の分散性は良好で収縮も均一に発現していたが、抄造紙表面に毛羽立ちがみられた。また、得られた抄造紙は比容積が16.0cm3/gと嵩高で且つ、抄造紙強力が61.5N/5cmと高強力であった。潜在性捲縮を有する繊維(B−2)にも顕在捲縮を付与したため、嵩の面では潜在性捲縮の強度が低下した分、顕在捲縮の付与によってカバーされた形になった。表面の毛羽立ちは構成する繊維が何れもスパイラル形状の立体捲縮を有し、各繊維の融着成分(低融点成分)が接触する確立が低下したため繊維交点が減少し表面で毛羽立ちが見られたと考えられる。
【0071】
[実施例6]
繊維(A−1)を水中に均一に分散させ丸網型抄紙機にてウェブを作成し、これを脱水、乾燥工程を経て、サクション型スルーエアー機にて130℃で熱接着を行い目的とする抄造紙を得た。ウェブの繊維の分散性は良好であったが、一部に繊維の開繊不良が見られた。また、得られた抄造紙は潜在捲縮性繊維(B)による熱収縮繊維による効果が無いにも関わらず比容積が16.5cm3/gと嵩高で且つ、抄造紙強力が193.5N/5cmと高強力であった。
【0072】
[比較例1]
繊維(C−1)と繊維(C−2)を水中に均一に分散させ丸網型抄紙機にてウェブを作成し、これを脱水、乾燥工程を経て、サクション型スルーエアー機にて135℃で熱接着を行い目的とする抄造紙を得た。ウェブの繊維の分散性も良好で、熱収縮も均一に発現していた。しかし、得られた抄造紙は強力が103.9N/5cmと高強力であったものの、比容積が11.2cm3/gと低く目的とする嵩高性は得られなかった。
【0073】
[比較例2]
繊維(C−1)と繊維(C−2)を水中に均一に分散させ丸網型抄紙機にてウェブを作成した。これを脱水、乾燥工程を経た後、熱接着による嵩の低減を緩和させる為、サクション型スルーエアー機の温度を125℃と低温にして熱接着を行った。得られたウェブは繊維の分散性は問題は見られなかった。また、抄造紙は比容積が13.8cm3/gと目的とする嵩高性は得られたが、強力が34.1N/5cmと著しく低くウェブが仮接着された状態であった。
【0074】
[比較例3]
繊維(C−1)と繊維(C−3)を水中に均一に分散させ丸網型抄紙機にてウェブを作成した。これを脱水、乾燥工程を経た後、サクション型スルーエアー機の温度を130℃にして熱接着を行った。得られたウェブは繊維の分散性は問題は見られなかった。しかし、抄造紙は比容積が10.0cm3/gと低く、繊維の太繊度化もよる嵩高性効果は得られず嵩が減少する結果となった。繊維の太繊度化による効果は顕在捲縮を有する繊維では捲縮の剛性を上がる為厚み方向の剛性が高まり嵩高効果が発現していると考えられるが、太繊度の捲縮が無い繊維では繊維の構成本数が減少し、厚み方向の繊維の充填密度も低くなるため厚み方向の圧力に弱く、加工工程で嵩が低下しているのではないかと考えられる。
【0075】
[比較例4]
繊維(B−1)と繊維(C−2)を水中に均一に分散させ丸網型抄紙機にてウェブを作成し、これを脱水、乾燥工程を経て、サクション型スルーエアー機にて140℃で熱接着を行い目的とする抄造紙を得た。ウェブの繊維の分散性も良好で、熱収縮も均一に発現していた。しかし、得られた抄造紙の比容積は10.3cm3/gと目的とする十分な嵩高性は得られなかった。一般の繊維(C−2)がスパイラル捲縮等の立体捲縮を有さないため、繊維(B)を混合しても抄造紙の強力は十分であったが、嵩高効果が得られないことが確認できた。
【0076】
[比較例5]
繊維(B−1)と繊維(C−1)を水中に均一に分散させ丸網型抄紙機にてウェブを作成し、これを脱水、乾燥工程を経て、サクション型スルーエアー機にて130℃で熱接着を行い目的とする抄造紙を得た。ウェブの繊維の分散性も良好で、熱収縮も均一に発現していた。しかし、得られた抄造紙の比容積は12.2cm3/gと目的とする十分な嵩高性は得られなかった。スパイラル捲縮を有する一般の繊維(C−1)に繊維(B)を混合することで、ある程度の効果は見られたが十分な嵩高効果が得られない結果であった。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】偏心鞘芯型複合繊維の断面図を表す。
【図2】並列型、特に三日月型複合繊維の断面図を表す。
【図3】並列型、特に半月型複合繊維の断面図(極力繊維断面積の占有比率を合わせた型)を表す。
【図4】異形の芯を有する偏心鞘芯型複合繊維の断面図の一例を表す。
【図5】同心鞘芯型複合繊維の断面図を表す。
【符号の説明】
【0078】
1 偏心鞘芯形複合繊維を構成する第1成分
2 偏心鞘芯形複合繊維を構成する第2成分
3 並列型複合繊維を構成する第1成分
4 並列型複合繊維を構成する第2成分
5 複合繊維を構成する第1成分
6 複合繊維を構成する第2成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径3〜40μmの顕在捲縮性繊維を30〜100質量%、繊維径3〜40μmの潜在捲縮性繊維を0〜70質量%の範囲で含む湿式不織布用繊維。
【請求項2】
潜在捲縮性繊維を含まず、顕在捲縮性繊維の繊維長が3〜7mmである、請求項1に記載の湿式不織布用繊維。
【請求項3】
顕在捲縮性繊維が、捲縮数5〜25山/インチの熱可塑性樹脂から構成される合成繊維であって、ジグザグ型、スパイラル型、オーム型の少なくとも1種類の捲縮形状が長さ方向に連続して付与されている、請求項1又は2記載の湿式不織布用繊維。
【請求項4】
潜在捲縮性繊維が、融点Tm(℃)が110≦Tm≦147で、プロピレンを主体としてプロピレン以外のα−オレフィンを一元又は多元的に共重合したプロピレン共重合体を第1成分とする複合繊維であって、第1成分と第2成分の複合の形態が繊維横断面における第1成分と第2成分の面積比において65/35〜35/65の範囲である、請求項1又は3記載の湿式不織布用繊維。
【請求項5】
潜在捲縮性繊維の第2成分が、158℃以上の融点を有するポリプロピレンである、請求項4記載の湿式不織布用繊維。
【請求項6】
潜在捲縮性繊維の第2成分が、ポリエチレンである請求項4記載の湿式不織布用繊維。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−196077(P2008−196077A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−32313(P2007−32313)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(506276907)ESファイバービジョンズ株式会社 (16)
【出願人】(506276712)イーエス ファイバービジョンズ ホンコン リミテッド (16)
【出願人】(506275575)イーエス ファイバービジョンズ リミテッド パートナーシップ (16)
【出願人】(506276332)イーエス ファイバービジョンズ アーペーエス (16)
【Fターム(参考)】