説明

溶射装置

【課題】未溶着の溶射粒子を高濃度に回収でき、容易に選別・再利用でき、溶射粒子の利用率を向上させ得る溶射装置を提供する。
【解決手段】溶射ガン3から発射される溶射粒子を通過させるように被溶射体5の周囲を囲う第一内部空間11を形成する第一包囲体9と、第一内部空間11の雰囲気を吸引排気する第一排気系13と、第一排気系13に介装され、溶射粒子を選別するサイクロン27と、第一包囲体9の周囲を囲う第二内部空間45を形成する第二包囲体43と、第二内部空間45の雰囲気を吸引排気する第二排気系47と、を備え、第二内部空間45の雰囲気は、第一内部空間11の雰囲気よりも低圧とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶射は、金属、セラミックス、プラスチック、サーメット等の材料で形成された粉末(溶射粒子)を加熱・溶解し、被溶射体に吹き付け表面に皮膜を形成し、被溶射体の耐熱性、耐食性、耐摩耗性等を向上させる表面処理法の一種である。
溶射は、たとえば、特許文献1に示されるようにガスタービンの動翼、静翼等の耐熱性を向上させる遮熱コーティングの施工に用いられている。
【0003】
溶射装置で溶射すると、ヒュームや未溶着の溶射粒子が雰囲気中に飛散することになる。また、溶射装置の周囲には、床面等に存在するあるいは外部から飛来するゴミ等の微小粒子が浮遊している。たとえば、ヒュームあるいは微小粒子が溶射皮膜に混入すると、溶射皮膜の密着度が低下し剥離し易くなる、あるいは、所定の性能を維持できなくなる等の不具合がある。
【0004】
これを抑制するために、たとえば、特許文献2に示されるように、溶射装置を溶射ブースで覆い、溶射ブース内の雰囲気を吸引し、ゴミ等の微小粒子、ヒュームおよび未溶着な溶射粒子等を回収することが行われている。
特許文献2に示されるものは、集塵装置でゴミ等の微小粒子、ヒュームおよび未溶着の溶射粒子等を空気と分別し、空気を再度溶射ブース内に供給するようにされている。このとき、空気の状態を判断して別途外部から供給して溶射ブース内の環境を良好な状態に維持している。
【0005】
近年、たとえば、ガスタービンでは、高効率を求めてタービンの入口温度が高くなる傾向にあり、これに伴い動翼、静翼等の材料自体ととともに遮熱コーティングの性能を向上させることが求められている。
このため、遮熱コーティングの溶射粒子として、たとえば、レニウム等の高価な材料を含有させたものを用い、耐熱性および耐食性を向上させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−44556号公報
【特許文献2】特開2006−257459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来の溶射装置では、回収されたゴミ等の微小粒子、ヒュームおよび未溶着粒子等の回収物から未溶着の溶射粒子を選別して再利用しようとすると、未溶着の溶射粒子の含有率が小さいので、選別が難しく、時間とコストとがかかるという課題がある。このため、回収物は産業廃棄物として廃棄処理されるのが一般的であり、溶射粒子の利用率は高くない。
特に、高価な溶射粒子を用いるものでは、溶射粒子の利用率の向上が強く求められている。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑み、未溶着の溶射粒子を高濃度に回収でき、容易に選別・再利用でき、溶射粒子の利用率を向上させ得る溶射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の一態様は、溶射ガンから発射される溶射粒子を通過させるように被溶射体の周囲を囲う第一の包囲空間を形成する第一の包囲体と、該第一の包囲空間の雰囲気を吸引排気する第一の排気系と、該第一の排気系に介装され、前記溶射粒子を選別する粉体選別部材と、前記第一の包囲体の周囲を囲う第二の包囲空間を形成する第二の包囲体と、該第二の包囲空間の雰囲気を吸引排気する第二の排気系と、を備え、前記第二の包囲空間の雰囲気は、前記第一の包囲空間の雰囲気よりも低圧とされている溶射装置である。
【0010】
本態様にかかる溶射装置では、被溶射体を囲む第一の包囲体は溶射ガンから発射される溶射粒子を通過させるので、溶射ガンから発射される溶射粒子が被溶射体に溶着されることによって被溶射体の表面に皮膜が形成される。
このとき、第二の包囲空間の雰囲気は、第一の包囲空間の雰囲気よりも低圧とされているので、第二の包囲空間内あるいは外部から第二の包囲空間に入ってくる塵、埃等の微小粒子はより圧力の高い第一の包囲空間に進入することを抑制される。これらの微小粒子は第二の排気系によって吸引排気される。一方、溶射ガンから発射される溶射粒子は速度が速いので、第一の包囲空間に進入することができる。したがって、第一の包囲空間には、進入する塵、埃等の微小粒子は少なくなるので、その雰囲気に含まれる粒子には未溶着の溶射粒子が高い割合で存在していることになる。
この雰囲気は、第一の排気系で吸引排気されるので、粒子中の溶射粒子の割合が高い、言い換えると溶射粒子の濃度が高い(高濃度)粒子を回収することができる。
この高濃度の溶射粒子を含む雰囲気が粉体選別部材に入って溶射粒子が選別されるので、溶射粒子が容易に選別され得る。したがって、選別された溶射粒子を再度溶射ガンに供給して再利用することができるので、溶射粒子の利用率を向上させることができる。
【0011】
前記態様では、前記第二の包囲体の周囲を囲う第三の包囲空間を形成する第三の包囲体と、該第三の包囲空間の雰囲気を吸引排気する第三の排気系と、を備え、前記第三の包囲空間の雰囲気は、前記第二の包囲空間の雰囲気よりも低圧とされている構成としてもよい。
【0012】
このようにすると、外部からの塵、埃等の微小粒子は第一の包囲空間に進入することをより抑制することができる。これにより、第一の排気系で微小粒子を含まないより高純度の溶射粒子を回収することができるので、溶射粒子が容易に選別され、再利用することができる。これにより、溶射粒子の利用率を向上させることができる。
【0013】
前記構成では、前記第三の包囲体の周囲を順次大きく囲う少なくとも1個の外部包囲空間を形成する少なくとも1個の外部包囲体と、該各外部包囲空間のそれぞれの雰囲気を吸引排気する少なくとも1個の外部排気系と、を備え、前記各外部包囲空間の雰囲気は、前記第三の包囲空間の雰囲気よりも低圧とされ、かつ、外側に位置する外部包囲空間ほど低圧とされていてもよい。
【0014】
このようにすると、外部からの塵、埃等の微小粒子は第一の包囲空間に進入することをさらに抑制することができる。これにより、第一の排気系で微小粒子を含まないさらに高純度の溶射粒子を回収することができるので、溶射粒子が容易に選別され、再利用することができる。これにより、溶射粒子の利用率を一層向上させることができる。
【0015】
前記態様では、前記第一の排気系は、前記第一の包囲空間における前記被溶射体を挟んで前記溶射ガンと対向する位置で前記第一の包囲空間と連通しているようにするのが好適である。
このようにすると、第一の排気系の連通部分が溶射粒子の進行方向に位置することになるので、溶射粒子の回収が容易となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、第二の包囲空間の雰囲気は、第一の包囲空間の雰囲気よりも低圧とされているので、第一の排気系で吸引排気される粒子中の溶射粒子の割合が高い、言い換えると溶射粒子の濃度が高い(高濃度)粒子を回収することができる。
この高濃度の溶射粒子を含む雰囲気が粉体選別部材に入って溶射粒子が選別されるので、溶射粒子が容易に選別され得る。したがって、選別された溶射粒子を再度溶射ガンに供給して再利用することができるので、溶射粒子の利用率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第一実施形態にかかる溶射装置の概略構成を示す平面図である。
【図2】本発明の第一実施形態にかかる溶射装置の概略構成を示す側面図である。
【図3】本発明の第一実施形態の変形例にかかる溶射装置の概略構成を示す平面図である。
【図4】本発明の第二実施形態にかかる溶射装置の構成を示す平面図である。
【図5】本発明の第三実施形態にかかる溶射装置の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図を参照して説明する。
〔第一実施形態〕
本発明の第一実施形態かかる溶射装置1について図1および図2を用いて詳細に説明する。本実施形態では、粉末式フレーム溶射を行う溶射装置1に適用したとして説明するが、溶射の種類はこれに限らない。
図1は、本実施形態の溶射装置1の概略構成を示す平面図である。図2は、本実施形態の溶射装置1の概略構成を示す側面図である。
【0019】
溶射装置1には、溶射ガン3と、被溶射体5を支持して回転可能とされている回転台7と、回転台7、すなわち、被溶射体5の周囲を囲う第一包囲体9と、第一包囲体9の内部空間である第一内部空間(第一の包囲空間)11の雰囲気を吸引・排気する第一排気系13と、溶射ガン3、第一包囲体9および第一排気系13を包囲する溶射ブース15と、溶射ブース15の内部空間であるブース内空間17の雰囲気を吸引・排気するブース排気系19と、が備えられている。
本実施形態では、溶射ブース15は、本発明の第二の包囲体を構成し、ブース内空間17は、本発明の第二の包囲空間を構成し、ブース排気系19は、本発明の第二の排気系を構成している。
【0020】
溶射ガン3は、図示しない支持部材で床21に、上下方向に移動可能に支持されている。溶射ガン3は溶射の熱源に利用する酸素・アセチレン混合ガスの燃焼炎などのようなフレーム23と、溶射材料となる溶射粒子とを被溶射体5に向けて発射するように構成されている。溶射ガン3から発射される溶射粒子は、溶射ブース15の外部に設置されたタンク25から溶射ガン3へ供給される。
回転台7は回転軸線が上下方向に沿うようにされ、図示しない支持部材で床23に支持されている。
溶射ブース15には、図1および図2に矢印で示されるように外部空気を選択的に取り入れる開口部が備えられている。
【0021】
第一包囲体9は、略直方体形状をした中空の箱体であり、溶射ガン3に対向する面には溶射ガン3のフレーム23、言い換えると、溶射粒子が通過できるように開口部が形成されている。
第一排気系13には、サイクロン(粉体選別部材)27と、第一内部空間11の雰囲気をサイクロン27に接線方向に流入させる流入配管29と、サイクロン27の軸線中心周りの空気をブース内空間17に排出する流出配管31と、が備えられている。
【0022】
流入配管29の第一内部空間11との連通部分は、被溶射体5を挟んで溶射ガン3に対向する位置に設けられている。
サイクロン27では、流入配管29からの雰囲気の流入に伴って内部に生ずる旋回気流によって遠心力が発生する。この遠心力によって粒径および比重の大きい粒子が外周側に向かって移動し、内壁に沿って下降し、下端の排出口から排出される。排出された粒子(溶射粒子)は回収ポット33に収納される。
回収ポット33に納められた溶射粒子は、タンク25へ供給される。このとき、必要に応じてケロシン蒸発処理を行う加熱処理部35を設けてもよい。
【0023】
ブース排気系19には、溶射ブース15の内部で流入配管31の出口部と対向するように配置された開口部37を有し、溶射ブース15の外部まで延在されたブース排気配管39と、図示しない吸引部材と、が備えられている。この吸引部材は、第一排気系13のそれよりも大容量のものが用いられており、ブース内空間17の雰囲気は、第一内部空間11の雰囲気よりも低圧にすることができるように構成されている。
ブース排気配管39の出口部には、排気中に含まれる固形分を捕獲して貯留する回収タンク41が設置されている。
回収タンク41に貯留された塵・埃等の微小粒子を主として含む固形分は、産業廃棄物として廃棄される。
【0024】
以上のように構成された本実施形態にかかる溶射装置1の動作について説明する。
溶射される被溶射体5を溶射ブース15に入れ、回転台7の所定位置に固定して設置する。
次いで、溶射ガン3の高さを溶射開始位置に合わせて調節する。これと併せてブース排気系19を作動し、ブース内空間17の雰囲気を開口部37から吸引し、ブース排気配管39を通って溶射ブース15の外部に排気する。
【0025】
これにより溶射ブース15内の圧力は、外部の圧力よりも小さくなるので、溶射ブース15の開口部から外部空気が流入し、開口部37に向かう空気流れが形成される。この外部空気の流入量は調節され、溶射ブース15内の圧力が低い状態を維持するようにされている。
ブース内空間17内の雰囲気がブース排気配管39を通って外部に排出される際、それに含まれる塵、埃の微小粒子等の固形分は捕獲されて回収タンク41に貯留される。
【0026】
次に、第一排気系13が作動し、第一内部空間11の雰囲気を吸引し、流入配管29を通ってサイクロン27を介して流出配管31から溶射ブース15内に排気する。
このとき、ブース排気系の吸引力と第一排気系13の吸引力とを調節し、ブース内空間17の雰囲気が第一内部空間11の雰囲気よりも低圧になるようする。
このようにブース内空間17の雰囲気は、第一内部空間11の雰囲気よりも低圧とされているので、ブース空間17内あるいは外部からブース空間17に入ってくる塵、埃等の微小粒子はより圧力の高い第一内部空間11に進入することを抑制される。
【0027】
この状態で、溶射ガン3から被溶射体5に向けてフレーム23を出射させるとともに、このフレーム23にタンク25からの溶射粒子を供給する。溶射ガン3から発射される溶射粒子およびフレーム23は速度が速いので、第一内部空間11に進入し、被溶射体5に当たることができる。供給された溶射粒子はフレーム23によって溶融され、被溶射体5の表面に溶着され皮膜を形成する。
【0028】
第一内部空間11内の雰囲気には、上述したように外部から進入する塵、埃等の微小粒子が少ないので、未溶着の溶射粒子が高い割合で存在していることになる。第一排気系13は、この雰囲気を吸引するので、粒子中の溶射粒子の割合が高い、言い換えると溶射粒子の濃度が高い(高濃度)粒子を選別することができる。
流入配管29の第一内部空間11との連通部分は、被溶射体5を挟んで溶射ガン3に対向する位置に設けられているので、溶射ガン3からの溶射粒子の進行方向に位置することになり、溶射粒子の回収が容易となる。
【0029】
このような第一内部空間11内の雰囲気が流入配管29を通って流入されるサイクロン27では、流入する雰囲気によって内部に旋回気流が生じ、その遠心力によって雰囲気中に含まれる粒径および比重の大きい粒子が外周側に向かって移動する。この粒子は、サイクロン27の内壁に沿って下降し、下端の排出口から排出される。サイクロン27に流入する雰囲気に含まれる粒子中の溶射粒子の割合が高いので、サイクロン27で、単に、粒径選別するだけで溶射粒子を容易に選別することができる。
たとえば、粒径20μm以上のものを回収するようにする等、サイクロン27の操業条件を設定することによって、未溶着の溶射粒子を選別して回収することができる。
【0030】
サイクロン27から排出された溶射粒子は回収ポット33に収納される。
回収ポット33に納められた溶射粒子は、タンク25へ供給され、再利用される。このとき、必要に応じて加熱処理部35にて、たとえば、ケロシン蒸発処理を行い、溶射粒子を洗浄するようにしてもよい。
このように、未溶着の溶射粒子を回収して再利用するので、溶射粒子の利用率を向上させることができる。
【0031】
サイクロン27で、たとえば、径が20μm以上の粒子分を選別除去された空気は、流出配管31を通ってブース内空間17に排出される。
排出された空気は、開口部37からブース排気配管39を通って外部に排出される。その際、それに含まれる塵、埃の微小粒子等の固形分は捕獲されて回収タンク41に貯留される。
【0032】
なお、本実施形態では、溶射ブース15が本発明の第二の包囲体を、ブース内空間17が本発明の第二の包囲空間を、ブース排気系19が本発明の第二の排気系を構成しているが、これに限定されるものではない。
たとえば、図3に示される変形例のように、ブース排気系13をなくし、本発明の第二の包囲体として溶射ブース15の内部に第一包囲体9および第一排気系13を包囲する第二包囲体43を設け、本発明の第二の排気系として第二包囲体43の内部空間である第二内部空間(第二の包囲空間)45の雰囲気を吸引・排気する第二排気系47を設けるようにしてもよい。
【0033】
第二包囲体43は、略直方体形状をした中空の箱体であり、溶射ガン3に対向する面には溶射ガン3のフレーム23、言い換えると、溶射粒子が通過できるように開口部が形成されている。
第二排気系47には、第二内部空間45と連通し、溶射ブース15の外部まで延在された第二排気配管49と、図示しない吸引部材と、が備えられている。この吸引部材は、第一排気系13のそれよりも大容量のものが用いられており、第二内部空間47の雰囲気は、第一内部空間11の雰囲気よりも低圧にすることができるように構成されている。
第二排気配管49の出口部には、排気中に含まれる固形分を捕獲して貯留する回収タンク51が設置されている。
回収タンク51に貯留された塵・埃等の微小粒子を主として含む固形分は、産業廃棄物として廃棄される。
【0034】
本変形例の溶射装置1の動作について説明すると、本変形例では、第二排気系47が、本実施形態のブース排気系19の機能を果たし、第二内部空間45およびブース内空間17の雰囲気を吸引・排気している。第二排気系47の吸引力と第一排気系13の吸引力とを調節し、第二内部空間45の雰囲気が第一内部空間11の雰囲気よりも低圧になるにされている。
これ以外は、本実施形態と同様な動作を行うので、ここでは重複した説明を省略する。
【0035】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態にかかる溶射装置1について、図4を用いて説明する。本実施形態にかかる溶射装置1は、第一実施形態に図3に示される変形例の第二包囲体43および第二排気系47を組み合わせたものと類似しているので、ここではこの組み合わせと異なる部分について主として説明し、前述した第一実施形態あるいは変形例のものと同じ部分については重複した説明を省略する。
なお、第一実施形態および変形例と同じ部材には同じ符号を付している。
【0036】
図4は、本実施形態にかかる溶射装置の構成を示す平面図である。
本実施形態では、第二包囲体43は図4に示されるように第一包囲体9の周囲を包囲し、第一排気系13までは包囲しないように構成されている。
本実施形態では、溶射ブース15は、本発明の第三の包囲体を構成し、ブース内空間17は、本発明の第三の包囲空間を構成し、ブース排気系19は、本発明の第三の排気系を構成していることになる。
【0037】
以上のように構成された本実施形態にかかる溶射装置1の動作について第一実施形態と異なる溶射ブース15内の空気流れについて主として説明する。
すなわち、溶射ガン3による溶射を行う前に、ブース排気系19、第二排気系47および第一排気系13を作動し、溶射ブース15内に空気流れが形成される。
【0038】
ブース排気系19の作動によってブース内空間17の雰囲気は開口部37から吸引され、ブース排気配管39を通って溶射ブース15の外部に排気される。
これにより溶射ブース15内の圧力は、外部の圧力よりも小さくなるので、溶射ブース15の開口部から外部空気が流入し、開口部37に向かう空気流れが形成される。この外部空気の流入量は調節され、溶射ブース15内の圧力が低い状態を維持するようにされている。
【0039】
第二排気系47の作動によって第二内部空間45の雰囲気は吸引され、第二排気配管49を通って溶射ブース15の外部に排気される。
第一排気系13の作動によって第一内部空間11の雰囲気は吸引され、流入配管29を通ってサイクロン27を介して流出配管31から溶射ブース15内に排気される。
このとき、ブース排気系19、第一排気系13および第二排気系47の吸引力を調節し、第一内部空間11の雰囲気からブース内空間17の雰囲気に向けて徐徐に低圧になるようにされている。
【0040】
このようにブース内空間17の雰囲気、第二内部空間45の雰囲気および第一内部空間11の雰囲気の順に圧力が高くなっているので、ブース空間17内あるいは外部からブース空間17に入ってくる塵、埃等の微小粒子はより圧力の高い第二内部空間45に進入することを抑制され、さらに第二空間45から第一空間11内に進入するのを抑制される。
これにより、第一内部空間11内の雰囲気には、上述したように外部から進入する塵、埃等の微小粒子が少ないので、未溶着の溶射粒子が一層高い割合で存在していることになる。
【0041】
第一排気系13は、この雰囲気を吸引するので、粒子中の溶射粒子の割合が高い、言い換えると溶射粒子の濃度が高い(高濃度)粒子を選別することができる。
このような第一内部空間11内の雰囲気が流入配管29を通って流入されるサイクロン27では、サイクロン27に流入する雰囲気に含まれる粒子中の溶射粒子の割合が高いので、サイクロン27で、単に、粒径選別するだけで溶射粒子をより容易に選別することができる。
【0042】
なお、第二排気系47はブース内空間17に排気するようにしてもよい。また、第二排気系47にサイクロンを介装して、たとえ少しでも含まれる可能性がある溶射粒子を選別回収するようにしてもよい。この場合回収される溶射粒子の純度が低い可能性があるので、直接タンク35へ供給することは避けるのが好ましい。
【0043】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態にかかる溶射装置1について、図5を用いて説明する。本実施形態にかかる溶射装置1は、排気系の構成が第二実施形態のものと異なるので、ここではこの異なる部分について主として説明し、前述した第二実施形態のものと同じ部分については重複した説明を省略する。
なお、第二実施形態と同じ部材には同じ符号を付している。
【0044】
図5は、本実施形態にかかる溶射装置1の構成を示す平面図である。
本実施形態では、本発明の第三の包囲体として溶射ブース15の内部に第二包囲体43を包囲する第三包囲体53を設け、本発明の第三の排気系として第三包囲体53の内部空間である第三内部空間(第三の包囲空間)55の雰囲気を吸引・排気する第三排気系57を設けている。
本実施形態では、溶射ブース15は、本発明の外部包囲体を構成し、ブース内空間17は、本発明の外部包囲空間を構成し、ブース排気系19は、本発明の外部排気系を構成していることになる。
【0045】
第三包囲体53は、略直方体形状をした中空の箱体である。第三包囲体53は溶射ガン3の発射口が第三内部空間55に入り、サイクロン29は第三内部空間55に入らないように形成されている。
第三排気系57には、第三内部空間55と連通し、溶射ブース15の外部まで延在された第三排気配管59と、図示しない吸引部材と、が備えられている。この吸引部材は、第一排気系13のそれよりも大容量のものが用いられており、第三内部空間57の雰囲気は、第一内部空間11の雰囲気よりも低圧にすることができるように構成されている。
第三排気配管59の出口部には、排気中に含まれる固形分を捕獲して貯留する回収タンク61が設置されている。回収タンク61に貯留された塵・埃等の微小粒子を主として含む固形分は、産業廃棄物として廃棄される。
【0046】
以上のように構成された本実施形態にかかる溶射装置1の動作について第二実施形態と異なる溶射ブース15内の空気流れについて主として説明する。
すなわち、溶射ガン3による溶射を行う前に、ブース排気系19、第三排気系57、第二排気系47および第一排気系13を作動し、溶射ブース15内に空気流れが形成される。
【0047】
ブース排気系19の作動によってブース内空間17の雰囲気は開口部37から吸引され、ブース排気配管39を通って溶射ブース15の外部に排気される。
これにより溶射ブース15内の圧力は、外部の圧力よりも小さくなるので、溶射ブース15の開口部から外部空気が流入し、開口部37に向かう空気流れが形成される。この外部空気の流入量は調節され、溶射ブース15内の圧力が低い状態を維持するようにされている。
【0048】
第三排気系57の作動によって第三内部空間55の雰囲気は吸引され、第三排気配管59を通って溶射ブース15の外部に排気される。
第二排気系47の作動によって第二内部空間45の雰囲気は吸引され、第二排気配管49を通って溶射ブース15の外部に排気される。
第一排気系13の作動によって第一内部空間11の雰囲気は吸引され、流入配管29を通ってサイクロン27を介して流出配管31から溶射ブース15内に排気される。
このとき、ブース排気系19、第一排気系13、第二排気系47および第三排気系57の吸引力を調節し、第一内部空間11の雰囲気からブース内空間17の雰囲気に向けて徐徐に低圧になるようにされている。
【0049】
このようにブース内空間17の雰囲気、第三内部空間55の雰囲気、第二内部空間45の雰囲気および第一内部空間11の雰囲気の順に圧力が高くなっているので、ブース空間17内あるいは外部からブース空間17に入ってくる塵、埃等の微小粒子は順次圧力が高くなる第三内部空間、第二内部空間45および第一空間11にそれぞれ進入することを抑制される。
これにより、第一内部空間11内の雰囲気には、上述したように外部から進入する塵、埃等の微小粒子が少ないので、未溶着の溶射粒子が一層高い割合で存在していることになる。
【0050】
第一排気系13は、この雰囲気を吸引するので、粒子中の溶射粒子の割合が高い、言い換えると溶射粒子の濃度が高い(高濃度)粒子を選別することができる。
このような第一内部空間11内の雰囲気が流入配管29を通って流入されるサイクロン27では、サイクロン27に流入する雰囲気に含まれる粒子中の溶射粒子の割合が高いので、サイクロン27で、単に、粒径選別するだけで溶射粒子をより容易に選別することができる。
【0051】
なお、第三排気系57はブース内空間17に排気するようにしてもよい。また、第三排気系57にサイクロンを介装して、たとえ少しでも含まれる可能性がある溶射粒子を選別回収するようにしてもよい。この場合回収される溶射粒子の純度が低い可能性があるので、直接タンク35へ供給することは避けるのが好ましい。
さらに、ブース排気系19を省略してもよい。この場合、第三包囲体53が第一排気系13を囲うようにしてもよい。
【0052】
なお、本発明は以上説明した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形を行ってもよい。
たとえば、溶射装置1は粉末式フレーム溶射を行うものについて説明しているが、フレーム溶射に限るものではなく、溶射粒子を用いる溶射であれば、公知の方式、たとえば、高速フレーム溶射法、プラズマ溶射法に適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 溶射装置
3 溶射ガン
5 被溶射体
9 第一包囲体
11 第一内部空間
13 第一排気系
15 溶射ブース
17 ブース内空間
19 ブース排気系
43 第二包囲体
45 第二内部空間
47 第二排気系
53 第三包囲体
55 第三内部空間
57 第三排気系


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶射ガンから発射される溶射粒子を通過させるように被溶射体の周囲を囲う第一の包囲空間を形成する第一の包囲体と、
該第一の包囲空間の雰囲気を吸引排気する第一の排気系と、
該第一の排気系に介装され、前記溶射粒子を選別する粉体選別部材と、
前記第一の包囲体の周囲を囲う第二の包囲空間を形成する第二の包囲体と、
該第二の包囲空間の雰囲気を吸引排気する第二の排気系と、を備え、
前記第二の包囲空間の雰囲気は、前記第一の包囲空間の雰囲気よりも低圧とされていることを特徴とする溶射装置。
【請求項2】
前記第二の包囲体の周囲を囲う第三の包囲空間を形成する第三の包囲体と、
該第三の包囲空間の雰囲気を吸引排気する第三の排気系と、を備え、
前記第三の包囲空間の雰囲気は、前記第二の包囲空間の雰囲気よりも低圧とされていることを特徴とする請求項1に記載の溶射装置。
【請求項3】
前記第三の包囲体の周囲を順次大きく囲う少なくとも1個の外部包囲空間を形成する少なくとも1個の外部包囲体と、
該各外部包囲空間のそれぞれの雰囲気を吸引排気する少なくとも1個の外部排気系と、を備え、
前記各外部包囲空間の雰囲気は、前記第三の包囲空間の雰囲気よりも低圧とされ、かつ、外側に位置する外部包囲空間ほど低圧とされていることを特徴とする請求項2に記載の溶射装置。
【請求項4】
前記第一の排気系は、前記第一の包囲空間における前記被溶射体を挟んで前記溶射ガンと対向する位置で前記第一の包囲空間と連通していることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の溶射装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−168840(P2011−168840A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33895(P2010−33895)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】