説明

溶接方法

【課題】簡便な方法で、SCCの発生や進展を抑制するとともに、溶接割れを抑制することができる溶接方法を提供する。
【解決手段】ニッケル基合金からなる溶接棒2及び溶接トーチ5を用いて鋼材1をアーク溶接する際に、溶接棒2を高速で回転させながらアーク6により溶融した溶融池3へ送り込む。これより、形成される溶着金属4は、凝固する直前まで溶接棒2の回転により攪拌されるため、結晶組織の方向が一方向に偏らず、ランダム性を持った凝固組織となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking:以下、「SCC」と記す)や溶接割れを抑制し得る溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軽水冷却型原子炉(以下、「軽水炉」と記す)において、ニッケル基合金を溶接部に用いた場合、SCCによるき裂が発生することが考えられる。
【0003】
これは、ニッケル基合金は結晶組織の異方性が強く、一旦発生したき裂が進展の抵抗となる結晶粒界へ鈍角的に当たることがないため、き裂が進展し易いと考えられるからである。
【0004】
SCCの発生により、軽水炉の構造健全性を損なう懸念があるため、現在、SCCの発生あるいは進展を抑制する方法の開発が急務となっている。
【0005】
また、ニッケル基合金は、鋳造組織が粗いため溶接割れが入り易い。
【0006】
このため、ニッケル基合金の溶接部近傍に生じる溶接割れを抑制すべく、磁気攪拌等を用いて溶融池を攪拌し、溶融金属を微細化して継手開先面または母材の肉盛溶接すべき面に細粒緩衝層を形成することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭64−83378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の方法では、電極の周囲にコイルを設けて励磁電源に接続することにより交番磁場を発生させる必要があり、装置が大掛かりになってしまう。
【0009】
一方、ニッケル基合金溶着金属におけるSCCの進展を抑制する方法としては、結晶組織の異方性を低減し、結晶粒の方向をランダムにすることが有効であると考えられる。
【0010】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、簡便な方法で、SCCの発生や進展を抑制するとともに、溶接割れを抑制することができる溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するため、本発明の溶接方法は、溶接源からの熱により被溶接材を溶融させて溶融池を形成して溶接層の少なくとも一部を形成する際に、溶接棒を回転させながら前記溶融池へ前記被溶接材を送り込むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の溶接方法は、溶接層をその表面部分まで形成した後に、その溶接層の上部において、溶接源からの熱により形成された溶融池へ溶接棒を回転させながら送り込むことにより、表面処理層を形成することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の溶接方法は、溶接層をその表面部分まで形成した後に、前記溶接層の周囲に形成された溶接による熱影響部の表面において、溶接源からの熱により形成された溶融池へ溶接棒を回転させながら送り込むことにより、表面処理層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、SCCの発生や進展を抑制するとともに、溶接割れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る溶接方法の第1の実施の形態を示す斜視図。
【図2】本発明に係る溶接方法の第2の実施の形態を示す斜視図。
【図3】本発明に係る溶接方法の第3の実施の形態を示す斜視図。
【図4】本発明に係る溶接方法の第4の実施の形態を示す斜視図。
【図5】本発明に係る溶接方法の第5の実施の形態を示す断面図。
【図6】本発明に係る溶接方法の第6の実施の形態を示す断面図。
【図7】本発明に係る溶接方法の第7の実施の形態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る溶接方法の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明に係る溶接方法の第1の実施の形態を示すものである。
【0018】
本溶接方法では、ニッケル基合金からなる溶接棒2及び溶接トーチ5を用いて鋼材1をアーク溶接する際に、溶接棒2を高速で回転させながらアーク6により溶融した溶融池3へ送り込む。
【0019】
これより、形成される溶着金属4は、凝固する直前まで溶接棒2の回転により攪拌されるため、結晶組織の方向が一方向に偏らず、ランダム性を持った凝固組織となる。
【0020】
従って、本溶接方法によれば、ニッケル基合金の溶着金属における結晶組織の異方性を低減し、結晶粒の方向をランダムにすることにより、簡便な方法で、SCCの発生や進展を抑制するとともに、溶接割れを抑制することができる。
【0021】
[第2の実施の形態]
図2は、本発明に係る溶接方法の第2の実施の形態を示すものである。
【0022】
本溶接方法では、ニッケル基合金からなる2本の溶接棒7,8及び溶接トーチ5を用いて鋼材1をアーク溶接する。
【0023】
2本の溶接棒のうち、先行する第1溶接棒7は溶接トーチ5の直後に位置し、溶融池3を形成する。一方、後方の第2溶接棒8は、溶接トーチ5の進行方向に対して第1溶接棒7の後方に配置され、回転しながら溶融池3へ送り込まれる。
【0024】
アーク6により直接溶融する第1溶接棒7は回転しないため、溶融した金属が周囲へ散乱することなく、また、第2溶接棒8はアーク6の熱により直接溶融するものではなく、剛性を持ったまま溶融池3へ送り込まれるため、溶融池3を強く攪拌することが可能となる。
【0025】
これより、溶着金属4の結晶組織の方向は一方向に偏らず、よりランダム性の高い凝固組織とすることが可能となる。
【0026】
従って、本溶接方法によれば、ニッケル基合金の溶着金属における結晶組織の異方性を低減し、結晶粒の方向をランダムにすることにより、簡便な方法で、SCCの発生や進展を抑制するとともに、溶接割れを抑制することができる。
【0027】
[第3の実施の形態]
図3は、本発明に係る溶接方法の第3の実施の形態を示すものである。
【0028】
本溶接方法は、図1に示す溶接トーチ5に代えてレーザー発振器9を用い、アーク6ではなくレーザー光10により溶接する以外は第1の実施の形態と同様の方法で行う。
【0029】
本溶接方法では、図1に示す第1の実施の形態の溶接方法と同様に、溶融池3へ送り込まれる溶接棒2が高速で回転することにより、溶着金属4の結晶組織の方向が一方向に偏らず、ランダム性を持った凝固組織となる。
【0030】
従って、本溶接方法によれば、ニッケル基合金の溶着金属における結晶組織の異方性を低減し、結晶粒の方向をランダムにすることにより、簡便な方法で、SCCの発生や進展を抑制するとともに、溶接割れを抑制することができる。
【0031】
[第4の実施の形態]
図4は、本発明に係る溶接方法の第4の実施の形態を示すものである。
【0032】
本溶接方法は、図2に示す溶接トーチ5に代えてレーザー発振器9を用い、アーク6ではなくレーザー光10により溶接する以外は第2の実施の形態と同様の方法で行う。
【0033】
本溶接方法では、図2に示す第2の実施の形態の溶接方法と同様に、溶融池3へ送り込まれる第2溶接棒8が高速で回転することにより、溶着金属4の結晶組織の方向が一方向に偏らず、ランダム性を持った凝固組織となる。
【0034】
従って、本溶接方法によれば、ニッケル基合金の溶着金属における結晶組織の異方性を低減し、結晶粒の方向をランダムにすることにより、簡便な方法で、SCCの発生や進展を抑制するとともに、溶接割れを抑制することができる。
【0035】
[第5の実施の形態]
図5は、本発明に係る溶接方法の第5の実施の形態を示すものである。
【0036】
本溶接方法では、ニッケル基合金からなる溶接棒を用いて鋼材11を溶接する際に、鋼材11の表面手前まで、従来の既存の溶接方法で溶接を行って従来溶接層12を形成した後、最後に、表面層のみを第1乃至第4の実施の形態で説明した溶接方法を用いて溶接層13を形成するものである。
【0037】
図1乃至図4について説明した第1乃至第4の実施の形態の溶接方法は、溶着金属内におけるき裂の進展を抑制すべく溶着金属の結晶組織の方位をランダムにするが、SCCの発生を抑制するためには部材表面において結晶方位がランダムであることが有効である。
【0038】
このため、本実施の形態の溶接方法では、表面層の溶接層13のみを溶接棒を回転させながら送り込んで形成することにより、内部の層も溶接棒を回転させる第1乃至第4の実施の形態の溶接方法と比較してより効率的である。
【0039】
[第6の実施の形態]
図6は、本発明に係る溶接方法の第6の実施の形態を示すものである。
【0040】
本溶接方法では、ニッケル基合金からなる溶接棒を用いて鋼材11を溶接する際に、鋼材11の表面まで、従来の既存の溶接方法で溶接を行って従来溶接層14を形成し、この従来溶接層14を凝固させた後、その上に第1乃至第4の実施の形態で説明した溶接方法を用いて表面処理層15を形成するものである。
【0041】
SCCの発生を抑制するためには部材表面において結晶方位がランダムであることが有効であることから、本実施の形態の溶接方法により、従来の既存の溶接方法で溶接後に、さらに溶接棒を回転させながら溶着金属に押し付けて表面処理層15を形成することにより、溶接継手表面の結晶方位をランダムにすることが可能となる。
【0042】
このため、溶接中に溶接棒を回転させる第1乃至第4の実施の形態の溶接方法と比較してより効率的である。
【0043】
[第7の実施の形態]
図7は、本発明に係る溶接方法の第7の実施の形態を示すものである。
【0044】
本溶接方法では、溶接棒を用いてステンレス鋼などの金属材21を溶接する際に、最終層まで従来通り既存の溶接方法により溶接して従来溶接層22を形成し、この従来溶接層22の最終層を凝固させた後に、従来溶接層22の周囲に形成された溶接熱影響部23の表面に、第1乃至第4の実施の形態で説明した溶接方法を用いて溶接棒を回転させながら押し付けて表面処理層24を形成するものである。
【0045】
第6の実施の形態の溶接方法のように、溶接後に第1乃至第4の実施の形態の方法を用いて溶接棒を回転させながら溶着金属に押し付けることにより、溶接継手表面の結晶方位をランダムにする方法は、溶着金属にSCCを発生しやすいニッケル基合金の溶接継手に対しては有効である。しかし、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼を用いた場合のSCCは溶接熱影響部23に生じやすいことから、溶接継手表面の溶接熱影響部23に溶接棒を回転させながら押し付けて表面処理層24を形成することにより、溶接熱影響部23上部の結晶方位をランダムにしてSCC発生を抑制することが可能となる。
【0046】
従って、本実施の形態の溶接方法は、ニッケル基合金の溶接金属中のSCC進展抑制に限らず、ステンレス鋼等の他の金属の熱影響部を含む溶接部における疲労き裂進展抑制へも適用可能である。
【符号の説明】
【0047】
1…鋼材
2…溶接棒
3…溶融池
4…溶着金属
5…溶接トーチ
6…アーク
7…第1溶接棒
8…第2溶接棒
9…レーザー発振器
10…レーザー光
11…鋼材
12…従来溶接層
13…溶接層
14…従来溶接層
15…表面処理層
21…金属材
22…従来溶接層
23…溶接熱影響部
24…表面処理層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接源からの熱により被溶接材を溶融させて溶融池を形成して溶接層の少なくとも一部を形成する際に、溶接棒を回転させながら前記溶融池へ前記被溶接材を送り込むことを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
前記溶接棒は、前記溶融池を形成するために用いられる第1溶接棒と、前記溶接源の進行方向に対して前記第1溶接棒より後方に位置する第2溶接棒とを有し、前記第2溶接棒を回転させながら前記被溶接材を送り込むことを特徴とする請求項1記載の溶接方法。
【請求項3】
前記溶接棒は、ニッケル基合金からなることを特徴とする請求項1又は2記載の溶接方法。
【請求項4】
前記溶接源は、アーク溶接トーチであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の溶接方法。
【請求項5】
前記溶接源は、レーザー発振器であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の溶接方法。
【請求項6】
前記溶接層の少なくとも一部は、前記溶接層の表面部分であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の溶接方法。
【請求項7】
溶接層をその表面部分まで形成した後に、その溶接層の上部において、溶接源からの熱により形成された溶融池へ溶接棒を回転させながら送り込むことにより、表面処理層を形成することを特徴とする溶接方法。
【請求項8】
溶接層をその表面部分まで形成した後に、前記溶接層の周囲に形成された溶接による熱影響部の表面において、溶接源からの熱により形成された溶融池へ溶接棒を回転させながら送り込むことにより、表面処理層を形成することを特徴とする溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−618(P2012−618A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135090(P2010−135090)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】