説明

溶接部材、及びその製造方法

【課題】生産性が高く、導電率、軟化温度、表面品質に優れた溶接部材及びその製造方法を提供でき、また、銅合金中にOFCよりも多い量の酸素を含有していても、溶融接合時に水蒸気によるブローホールが発生しない、TIG溶接性に優れた溶接部材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る溶接部材は、金属材料同士を溶接して形成される溶接部材であって、前記金属材料の少なくとも一方が、不可避的不純物を含む純銅に、2mass ppmを超える酸素と、Mg、Zr、Nb、Fe、Si、Al、Ca、V、Ni、Mn、Ti、及びCrからなる群から選択される添加元素とを含む金属材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接部材、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器及び自動車等の工業製品では、過酷な条件下で銅線が用いられることがある。過酷な条件下においても耐え得る銅線を提供すべく、連続鋳造圧延法等で製造することができ、かつ、導電性と伸び特性とを純銅レベルに保持しつつ、強度を純銅より向上させた希薄銅合金材料について開発が進められている。
【0003】
希薄銅合金材料は汎用の軟質銅線として、また、軟らかさが要求される軟質銅材として、導電率98%以上、好ましくは102%以上の軟質導体が求められている。このような軟質導体の用途としては、民生用の太陽電池向け配線材、モーター用のエナメル線導体、200℃〜700℃で用いられる高温用の軟質銅材料、焼鈍しが不要な溶融半田めっき材、熱伝導に優れた銅材料、高純度銅代替材料としての用途が挙げられる。
【0004】
希薄銅合金材料としての素材は、銅中の酸素を10mass ppm以下に制御する技術をベースに用いて製造されている。このベース素材にTi等の金属を微量添加し、固溶させることで、生産性が高く、導電率、軟化温度、表面品質に優れた希薄銅合金材料を得ることが期待されている。
【0005】
従来、軟質化については、電解銅(99.996mass%以上)に、Tiを4〜28mol ppm添加した試料が、添加しない試料に比べて軟化が早く起こる結果が得られている(例えば、非特許文献1参照。)。非特許文献1においては、軟化が早く起こる原因については、Tiの硫化物形成により固溶する硫黄が減少することに起因するとされている。
【0006】
また、連続鋳造装置において、無酸素銅に微量のTiを添加した希薄合金を用いて連続鋳造することが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。更に、連続鋳造圧延法で酸素濃度を低減する方法も提案されている(例えば、特許文献4及び特許文献5参照。)。また、連続鋳造圧延法において、銅の溶湯から直接、銅材を製造する際に、酸素量0.005質量%の銅以下の銅の溶湯に、Ti、Zr、V等の金属を微量(0.0007〜0.005質量%)添加することで軟化温度を低下させることが提案されている(例えば、特許文献6参照。)。ただし、特許文献6では、導電率に関して検討されておらず、導電率と軟化温度とを両立する製造条件は不明である。
【0007】
一方、軟化温度が低く、かつ、導電率の高い無酸素銅材の製造方法が提案されている。すなわち、上方引き上げ連続鋳造装置において、酸素量が0.0001質量%以下の無酸素銅に、Ti、Zr、V等の金属を微量(0.0007〜0.005質量%)添加した銅の溶湯から銅材を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献7参照。)。
【0008】
また、銅材料を溶融接合する技術としてTIG(Tungsten Inert Gas)溶接がある。この溶接方法を用いることができる材料としては、高純度銅及び2mass ppm未満の酸素濃度が低い無酸素銅だけである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3050554号公報
【特許文献2】特許第2737954号公報
【特許文献3】特許第2737965号公報
【特許文献4】特許第3552043号公報
【特許文献5】特許第2651386号公報
【特許文献6】特開2006−274384号公報
【特許文献7】特開2008−255417号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】鈴木寿、菅野幹宏、鉄と鋼(1984)、15号、1977−1983
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、希薄銅合金材料のベース素材のように、酸素が微量含まれる材料、すなわち、酸素濃度がppmオーダーで含まれる材料に関しては上記いずれの文献においても検討されていない。なお、一般的に、銅中には、CuOの形態で酸素が存在しており、TIG溶接のアーク雰囲気で水素(H)と反応してHOを生成し、発生したHOがブローホールとして銅中に閉じ込められる。
【0012】
また、TIG溶接に用いられる銅材料として、高純度銅や酸素濃度が低い無酸素銅が選択される理由として、タングステン電極から被溶接物へのアーク放電の熱により溶融した場合に、材料中に含まれる亜酸化銅(CuO)からの酸素によって、ブローホールが発生する。これにより、材料自体の溶接強度の低下、及び水素脆化等が発生する場合がある。また、高純度銅や無酸素銅はコストが高く、低コストの銅材料が望まれている。
【0013】
また、製造方法について検討すると、連続鋳造による無酸素銅にTiを添加して軟銅化する方法は存在するものの、この方法は、ケークやビレットとして鋳造材を製造した後、熱間押出や熱間圧延によりワイヤロッドを作製している。したがって、製造コストが高く工業的に用いるには経済性に問題があった。
【0014】
また、上方引き上げ連続鋳造装置において、無酸素銅にTiを添加する方法が存在するが、この方法は生産速度が遅く経済性に問題があった。
【0015】
そこで、SCR連続鋳造圧延システム(South Continuous Rod System)を用いて検討した。
【0016】
SCR連続鋳造圧延システムは、SCR連続鋳造圧延装置の溶解炉内で、ベース素材を溶解して溶湯にし、その溶湯に所望の金属を添加して溶解し、この溶湯を用いて鋳造バー(例えば、φ8mm)を作製し、その鋳造バーを、熱間圧延により、例えば、φ2.6mmに伸線加工するシステムである。また、φ2.6mm以下のサイズ又は板材、異形材についても同様に加工することができる。また、丸型線材を角上に、あるいは異形条に圧延しても有効である。更に、鋳造材をコンフォーム押出成形し、異形材を作製することもできる。
【0017】
本発明者等が検討した結果、SCR連続鋳造圧延を用いる場合、ベース素材としてのタフピッチ銅では表面の傷が発生しやすく、添加条件により軟化温度の変動、チタン酸化物の形成状況が不安定であることが分かった。
【0018】
また、0.0001質量%以下の無酸素銅を用いて検討すると、軟化温度、導電率、及び表面品質を満足する条件は極めて狭い範囲であった。また、軟化温度の低下に限界があり、より低い、高純度銅並みの軟化温度の低下が望まれた。
【0019】
したがって、本発明の目的は、生産性が高く、導電率、軟化温度、表面品質に優れた溶接部材及びその製造方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、銅合金中にOFCよりも多い量の酸素を含有していても、溶融接合時に水蒸気によるブローホールが発生しない溶接部材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、金属材料同士を溶接して形成される溶接部材であって、前記金属材料の少なくとも一方が、不可避的不純物を含む純銅に、2mass ppmを超える酸素と、Mg、Zr、Nb、Fe、Si、Al、Ca、V、Ni、Mn、Ti、及びCrからなる群から選択される添加元素とを含む金属材料である溶接部材が提供される。
【0021】
また、上記溶接部材において、前記添加元素がTiであり、前記Tiの添加量が4mass ppm以上55mass ppm以下であってもよい。
【0022】
また、上記溶接部材において、前記Tiが、TiO、TiO、TiS、Ti−O−Sのいずれかの形態で前記純銅の結晶粒内又は結晶粒界に含まれてもよい。
【0023】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、不可避的不純物を含む純銅に、2mass ppmを超える量の酸素と、Mg、Zr、Nb、Fe、Si、Al、Ca、V、Ni、Mn、Ti、及びCrからなる群から選択される添加元素とを含む希薄銅合金材料をSCR連続鋳造圧延により、1100℃以上1320℃以下の溶銅温度で溶湯にし、前記溶湯から鋳造バーを作製する工程と、前記鋳造バーに熱間圧延加工を施し、希薄銅合金材を作製する工程と、前記希薄銅合金材を金属材料と溶接する工程とを備える溶接部材の製造方法が提供される。
【0024】
また、上記溶接部材の製造方法において、前記熱間圧延加工が、最初の圧延ロールでの温度を880℃以下、最終圧延ロールでの温度を550℃以上に制御して実施されてもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る溶接部材及びその製造方法は、生産性が高く、導電率、軟化温度、表面品質に優れた溶接部材及びその製造方法を提供でき、また、銅合金中にOFCよりも多い量の酸素を含有していても、溶融接合時に水蒸気によるブローホールが発生しない、TIG溶接性に優れた溶接部材及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】TiS粒子のSEM像である。
【図2】図1の分析結果を示す図である。
【図3】TiO粒子のSEM像である。
【図4】図3の分析結果を示す図である。
【図5】Ti−O−S粒子のSEM像である。
【図6】図5の分析結果を示す図である。
【図7】実施例のTIG溶接部分の断面を示す図である。
【図8】無酸素銅(OFC)のTIG溶接部分の断面を示す図である。
【図9】高純度銅(6N銅:Cu99.9999%)のTIG溶接部分の断面を示す図である。
【図10】タフピッチ銅(TPC)のTIG溶接部分の断面を示す図である。
【図11】実施例のTIG溶接部分の縦断面を示す図である。
【図12】無酸素銅(OFC)のTIG溶接部分の縦断面を示す図である。
【図13】タフピッチ銅(TPC)のTIG溶接部分の縦断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[実施の形態]
本実施の形態に係る希薄銅合金材料は、導電率98%IACS(万国標準軟銅(International Anneld Copper Standard)以上、抵抗率1.7241×10−8Ωmを100%とした場合の導電率)、好ましくは100%IACS以上、より好ましくは102%IACS以上を満足する軟質型銅材としての軟質希薄銅合金材料を用いて構成される。
【0028】
また、本実施の形態に係る希薄銅合金材料は、SCR連続鋳造設備を用い、表面の傷が少なく、製造範囲が広く、安定生産が可能である。また、ワイヤロッドに対する加工度90%(例えば、φ8mmからφ2.6mmのワイヤへの加工)での軟化温度が148℃以下の材料を用いて構成される。
【0029】
具体的に、本実施の形態に係る金属材料同士を溶接して形成される溶接部材は、溶接性に優れる溶接部材であって、不可避的不純物を含む純銅に、2mass ppmを超える酸素と、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Fe、Si、Al、Ni、Mn、Ti、及びCrからなる群から選択される添加元素とを含んで構成される。添加元素は1種類以上含まれていればよい。添加元素としてTi、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Al、Fe、Si、及びCrからなる群から選択される元素を選択した理由は、Cuよりも酸化物を形成しやすく、また、それらの酸化物は、ブローホールの原因となる水蒸気よりも熱力学的に安定であるため、水素の存在下でも分解せず(水蒸気を生成せず)、ブローホールは発生しないからである。また、合金の性質に悪影響を及ぼすことのないその他の元素及び不純物を合金に含有させることもできる。また、以下に説明する好適な実施の形態においては、酸素含有量が2を超え30mass ppm以下が良好であることを説明しているが、添加元素の添加量及びSの含有量によっては、合金の性質を備える範囲において、2を超え400mass ppmを含むことができる。
【0030】
また、Tiは、TiO、TiO、TiS、Ti−O−Sのいずれかの形態で純銅の結晶粒内又は結晶粒界に析出して含まれている。また、Mgは、MgO、MgO、MgS、Mg−O−Sのいずれかの形態で、Zrは、ZrO、ZrS、Zr−O−Sのいずれかの形態で、Nbは、NbO、NbO、NbS、Nb−O−Sのいずれかの形態で、Caは、CaO、CaO、CaS、Ca−O−Sのいずれかの形態で、Vは、V、V、SV、V−O−Sのいずれかの形態で、Niは、NiO、Ni、NiS、Ni−O−Sのいずれかの形態で、Mnは、MnO、Mn、MnS、Mn−O−Sのいずれかの形態で、Crは、Cr、Cr、CrO、CrS、Cr−O−Sのいずれかの形態で、純銅の結晶粒内又は結晶粒界に析出して含まれている。
【0031】
また、本実施の形態に係る溶接部材は、以下のようにして製造できる。すなわち、まず、不可避的不純物を含む純銅に、2mass ppmを超える量の酸素と、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Fe、Si、Al、Ni、Mn、Ti、及びCrからなる群から選択される添加元素とを含む希薄銅合金材料を準備する。次に、この希薄銅合金材料をSCR連続鋳造圧延により、1100℃以上1320℃以下の溶銅温度で溶湯にする。そして、この溶湯から鋳造バーを作製する。続いて、この鋳造バーに熱間圧延加工を施し、希薄銅合金材を作製する。そして、希薄銅合金材を金属材料と溶接する。これにより、本実施の形態に係る溶接部材が製造される。
【0032】
なお、熱間圧延加工は、最初の圧延ロールでの温度を880℃以下、最終圧延ロールでの温度を550℃以上に制御して実施される。
【0033】
また、本実施の他の形態に係る溶接部材は、金属材料同士を溶接して形成される溶接部材である。そして、金属材料の少なくとも一方が、不可避的不純物を含む純銅に、2mass ppmを超える量の酸素と、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti、Fe、Si、Al、及びCrからなる群から選択される添加元素とを含む金属材料である。ここで、Tiは、TiO、TiO、TiS、Ti−O−Sのいずれかの形態で純銅の結晶粒内又は結晶粒界に析出して含まれる。
【0034】
以下、本実施の形態に係る希薄銅合金材料の実現において、本発明者が検討した内容を説明する。
【0035】
まず、純度が6N(つまり、99.9999%)の高純度銅(Cu)は、加工度90%における軟化温度は130℃である。したがって、本発明者は、安定生産することができる130℃以上148℃以下の軟化温度で軟質材の導電率が98%IACS以上、好ましくは100%IACS以上、より好ましくは102%IACS以上である軟質銅を安定して製造することができる軟質希薄銅合金材料と、この軟質希薄銅合金材料の製造方法について検討した。
【0036】
ここで、酸素濃度が1〜2mass ppmである高純度銅(4N)を準備して、実験室に設置した小型連続鋳造機(小型連鋳機)を用い、このCuをCuの溶湯にした。そして、この溶湯にチタンを数mass ppm添加した。続いて、チタンを添加した溶湯から鋳造バー(例えば、φ8mmのワイヤロッド)を製造した。次に、φ8mmのワイヤロッドをφ2.6mmに加工した(つまり、加工度が90%である)。このφ2.6mmのワイヤロッドの軟化温度は160℃〜168℃であり、この温度より低い軟化温度にはならなかった。また、このφ2.6mmのワイヤロッドの導電率は、101.7%IACS程度であった。つまり、ワイヤロッドに含まれる酸素濃度を低下させ、チタンを溶湯に添加してもワイヤロッドの軟化温度を低下させることができないと共に、高純度銅(6N)の導電率102.8%IACSよりも導電率が低いという知見を本発明者は得た。
【0037】
軟化温度を低下させることができず、導電率が6Nの高純度銅より低くなった原因は、溶湯の製造中に不可避的不純物としての数mass ppm以上の硫黄(S)が含まれることに起因すると推測された。すなわち、溶湯に含まれている硫黄とチタンとの間でTiS等の硫化物が十分に形成されないことに起因して、ワイヤロッドの軟化温度が低下しないものと推測された。
【0038】
そこで、本発明者は、希薄銅合金材料の軟化温度の低下と、希薄銅合金材料の導電率の向上とを実現すべく、以下の二つの方策を検討した。そして、以下の二つの方策を銅ワイヤロッドの製造に併せ用いることで、本実施の形態に係る希薄銅合金材料を得た。
【0039】
図1は、TiS粒子のSEM像であり、図2は、図1の分析結果を示す。また、図3は、TiO粒子のSEM像であり、図4は、図3の分析結果を示す。更に、図5は、Ti−O−S粒子のSEM像であり、図6は、図5の分析結果を示す。なお、SEM像において、中央付近に各粒子が撮像されている。
【0040】
まず、第1の方策は、酸素濃度が2mass ppmを超える量のCuに、チタン(Ti)を添加した状態で、Cuの溶湯を作製することである。この溶湯中においては、TiSとチタンの酸化物(例えば、TiO)とTi−O−S粒子とが形成されると考えられる。これは、図1のSEM像と図2の分析結果、図3のSEM像と図4の分析結果からの考察である。なお、図2、図4、及び図6において、Pt及びPdはSEM観察する際に観察対象物に蒸着する金属元素である。図1〜6は、表1の実施例1の上から三段目に示す酸素濃度、硫黄濃度、Ti濃度をもつφ8mmの銅線(ワイヤロッド)の横断面をSEM観察及びEDX分析にて評価したものである。観察条件は、加速電圧15keV、エミッション電流10μAとした。
【0041】
次に、第2の方策は、銅中に転位を導入することにより硫黄(S)の析出を容易にすることを目的として、熱間圧延工程における温度を通常の銅の製造条件における温度(つまり、950℃〜600℃)より低い温度(880℃〜550℃)に設定することである。このような温度設定により、転位上へのSの析出、又はチタンの酸化物(例えば、TiO)を核としてSを析出させることができる。一例として、図5及び図6のように、溶銅と共にTi−O−S粒子等が形成される。
【0042】
以上の第1の方策及び第2の方策により、銅に含まれる硫黄が晶出すると共に析出するので、冷間伸線加工後に所望の軟化温度と所望の導電率とを有する銅ワイヤロッドを得ることができる。
【0043】
また、本実施の形態に係る希薄銅合金材料は、SCR連続鋳造圧延設備を用いて製造する。ここで、SCR連続鋳造圧延設備を用いる場合における製造条件の制限として、以下の3つの条件を設けた。
【0044】
(1)組成について
導電率が98%IACS以上の軟質銅材を得る場合、不可避的不純物を含む純銅(ベース素材)として、3〜12mass ppmの硫黄と、2を超え30mass ppm以下の酸素と、4〜55mass ppmのチタンとを含む軟質希薄銅合金材料を用い、この軟質希薄銅合金材料からワイヤロッド(荒引き線)を製造する。2mass ppmを超え30mass ppm以下の酸素を含有していることから、この実施の形態では、いわゆる低酸素銅(LOC)を対象としている。
【0045】
ここで、導電率が100%IACS以上の軟質銅材を得る場合には、不可避的不純物を含む純銅(ベース素材)として、2〜12mass ppmの硫黄と、2を超え30mass ppm以下の酸素と、4〜37mass ppmのチタンとを含む軟質希薄銅合金材料を用いる。また、導電率が102%IACS以上の軟質銅材を得る場合には、不可避的不純物を含む純銅(ベース素材)として、3〜12mass ppmの硫黄と、2を超え30mass ppm以下の酸素と、4〜25mass ppmのチタンとを含む軟質希薄銅合金材料を用いる。
【0046】
通常、純銅の工業的製造において、電気銅を製造する際に硫黄が銅の中に取り込まれるので、硫黄を3mass ppm以下にすることは困難である。汎用電気銅の硫黄濃度の上限は、12mass ppmである。
【0047】
酸素濃度が低い場合、希薄銅合金材料の軟化温度が低下しにくいので、酸素濃度は2mass ppmを超える量に制御する。また、酸素濃度が高い場合、熱間圧延工程で希薄銅合金材料の表面に傷が生じやすくなるので、30mass ppm以下に制御する。また、金属材料中のTiの含有量をX(重量%)、酸素の含有量をY(重量%)とした時に、X/Yの値が0.5以上7未満であることが望ましい。X/Yの値が0.5未満であると、Tiと化合物を形成しなかった余剰の酸素がCuと結合して酸化銅あるいは亜酸化銅を形成し、ブローホールを引き起こす要因となり、逆にX/Yが7を超えると、酸素と化合物を形成しなかったTiが、銅中に固溶し、導電率が低下するためである。
【0048】
(2)分散している物質について
希薄銅合金材料内に分散している分散粒子のサイズは小さいことが好ましく、また、希薄銅合金材料内に分散粒子が多く分散していることが好ましい。その理由は、分散粒子は、硫黄の析出サイトとしての機能を有するからであり、析出サイトとしてはサイズが小さく、数が多いことが要求されるからである。
【0049】
希薄銅合金材料に含まれる硫黄及びチタンは、TiO、TiO、TiS、若しくはTi−O−S結合を有する化合物又はTiO、TiO、TiS、若しくはTi−O−S結合を有する化合物の凝集物として含まれ、残部のTi及びSが固溶体として含まれる。希薄銅合金材料の原料である軟質希薄銅合金材料としては、TiOが200nm以下のサイズを有し、TiOが1000nm以下のサイズを有し、TiSが200nm以下のサイズを有し、Ti−O−Sの形の化合物が300nm以下のサイズを有しており、これらが結晶粒内に分布している軟質希薄銅合金材料を用いる。また、「結晶粒」とは、銅の結晶組織のことを意味する。
【0050】
なお、鋳造時の溶銅の保持時間及び冷却条件に応じて結晶粒内に形成される粒子サイズが変動するので、鋳造条件も適切に設定する。
【0051】
(3)鋳造条件について
SCR連続鋳造圧延により、鋳塊ロッドの加工度が90%(30mm)〜99.8%(5mm)で鋳造バー(例えば、ワイヤロッド)を作製する。一例として、加工度99.3%でφ8mmのワイヤロッドを製造する条件を採用する。以下、鋳造条件(a)〜(b)について説明する。
【0052】
[鋳造条件(a)]
溶解炉内での溶銅温度は1100℃以上1320℃以下に制御する。溶銅の温度が高いとブローホールが多くなり、傷が発生すると共に粒子サイズが大きくなる傾向にあるので1320℃以下に制御する。また、1100℃以上に制御する理由は、銅が固まりやすく、製造が安定しないことが理由であるものの、溶銅温度は可能な限り低い温度が望ましい。
【0053】
[鋳造条件(b)]
熱間圧延加工の温度は、最初の圧延ロールにおける温度を880℃以下に制御すると共に、最終圧延ロールでの温度を550℃以上に制御する。
【0054】
通常の純銅の製造条件と異なり、溶銅中での硫黄の晶出及び熱間圧延中における硫黄の析出の駆動力である固溶限をより小さくすることを目的として、溶銅温度及び熱間圧延加工の温度を「鋳造条件(a)」及び「鋳造条件(b)」において説明した条件に設定することが好ましい。
【0055】
また、通常の熱間圧延加工における温度は、最初の圧延ロールにおいて950℃以下、最終圧延ロールにおいて600℃以上であるが、固溶限をより小さくすることを目的として、本実施の形態では、最初の圧延ロールにおいて880℃以下、最終圧延ロールにおいて550℃以上に設定する。
【0056】
なお、最終圧延ロールにおける温度を550℃以上に設定する理由は、550℃未満の温度では得られるワイヤロッドの傷が多くなり、製造される希薄銅合金材料を製品として扱うことができないからである。熱間圧延加工における温度は、最初の圧延ロールにおいて880℃以下の温度、最終圧延ロールにおいて550℃以上の温度に制御すると共に、可能な限り低い温度であることが好ましい。このような温度設定にすることで、希薄銅合金材料の軟化温度(φ8〜φ2.6mmに加工した後の軟化温度)を、6Nの高純度銅の軟化温度(つまり、130℃)に近づけることができる。
【0057】
無酸素銅の導電率は101.7%IACS程度であり、6Nの高純度銅の導電率は102.8%IACSである。本実施の形態においては、直径φ8mmサイズのワイヤロッドの導電率が98%IACS以上、好ましくは100%IACS以上、より好ましくは102%IACS以上である。また、本実施の形態においては、冷間伸線加工後の線材(例えば、φ2.6mm)のワイヤロッドの軟化温度が130℃以上148℃である軟質希薄銅合金を製造し、この軟質希薄銅合金を希薄銅合金材料の製造に用いる。
【0058】
工業的に用いるためには、電解銅から製造した工業的に利用される純度の軟質銅線の導電率として、98%IACS以上の導電率が要求される。また、軟化温度は工業的価値から判断して148℃以下である。6NのCuの軟化温度は127℃〜130℃であるので、得られたデータから軟化温度の上限値を130℃に設定する。このわずかな違いは、6NのCuには含まれていない不可避的不純物の存在に起因する。
【0059】
ベース材の銅は、シャフト炉で溶解された後、還元状態で樋に流すことが好ましい。すなわち、還元ガス(例えば、CO)雰囲気シールド等の還元システム下において、希薄合金の硫黄濃度、チタン濃度、及び酸素濃度を制御しつつ鋳造すると共に、材料に圧延加工を施すことにより、ワイヤロッドを安定的に製造することが好ましい。なお、銅酸化物が混入すること、及び/又は粒子サイズが所定サイズより大きいことは、製造される希薄銅合金材料の品質を低下させる。
【0060】
ここで、希薄銅合金材料にチタンを添加物として添加した理由は次のとおりである。すなわち、(a)チタンは溶融銅の中で硫黄と結合することにより化合物になりやすく、(b)Zr等の他の添加金属に比べて加工が容易で扱いやすく、(c)Nb等に比べて安価であり、(d)酸化物を核として析出しやすいからである。
【0061】
以上より、溶融半田めっき材(線、板、箔)、エナメル線、軟質純銅、高導電率銅、やわらかい銅線として用いることができ、焼鈍時のエネルギーを低減でき、生産性が高く、導電率、軟化温度、表面品質に優れた実用的な軟質希薄銅合金材料を、本実施の形態に係る希薄銅合金材料の原料として得ることができる。なお、軟質希薄銅合金材料の表面にめっき層を形成することもできる。めっき層は、例えば、錫、ニッケル、銀を主成分とする材料、又はPbフリーめっきを用いることができる。
【0062】
また、本実施の形態では、軟質希薄銅合金線を複数本、撚り合わせた軟質希薄銅合金撚線を用いることもできる。更に、軟質希薄銅合金線又は軟質希薄銅合金撚線の周りに、絶縁層を設けたケーブルとして使用することもできる。そして、軟質希薄銅合金線を複数本、撚り合わせた中心導体を形成し、中心導体の外周に絶縁体被覆層を形成し、絶縁体被覆層の外周に銅又は銅合金からなる外部導体を配置し、外部導体の外周にジャケット層を設けた同軸ケーブルを構成することもできる。また、複数本の当該同軸ケーブルをシールド層内に配置し、シールド層の外周にシースを設けた複合ケーブルを構成することもできる。
【0063】
また、本実施の形態では、SCR連続鋳造圧延法によりワイヤロッドを作製すると共に、熱間圧延にて軟質材を作製したが、双ロール式連続鋳造圧延法又はプロペルチ式連続鋳造圧延法を採用することもできる。
【0064】
(実施の形態の効果)
本実施の形態に係る希薄銅合金材料は、TIG溶接した際に、高純度銅や無酸素銅を用いてTIG溶接した時と同様に、ブローホールのない溶接ができ、適切な溶接をすることができる。また、従来のTPCを用いた場合に発生する水素脆化の発生を抑制できる。
【実施例】
【0065】
表1は実験条件と結果とを示す。
【0066】
【表1】

【0067】
まず、実験材として、表1に示した酸素濃度、硫黄濃度、チタン濃度を有するφ8mmの銅線(ワイヤロッド、加工度99.3%)を作製した。φ8mmの銅線は、SCR連続鍛造圧延により、熱間圧延加工を施したものである。Tiは、シャフト炉で溶解された銅溶湯を還元ガス雰囲気で樋に流し、樋に流した銅溶湯を同じ還元ガス雰囲気の鋳造ポットに導き、この鋳造ポットにて、Tiを添加した後、これをノズルを通して鋳造輪と無端ベルトとの間に形成される鋳型にて鋳塊ロッドを作成した。この鋳塊ロッドを熱間圧延加工してφ8mmの銅線を作成したものである。次に、各実験材に冷間伸線加工を施した。これにより、φ2.6mmサイズの銅線を作製した。そして、φ2.6mmサイズの銅線の半軟化温度と導電率とを測定すると共に、φ8mmの銅線における分散粒子サイズを評価した。
【0068】
酸素濃度は、酸素分析器(レコ(Leco(登録商標)酸素分析器)で測定した。硫黄、チタンの各濃度はICP発光分光分析で分析した。
【0069】
φ2.6mmサイズにおける半軟化温度の測定は、400℃以下で各温度1時間の保持後、水中急冷し、引張試験を実施し、その結果から求めた。室温での引張試験の結果と400℃で1時間のオイルバス熱処理した軟質銅線の引張試験の結果を用いて求め、この2つの引張試験の引張強さを足して2で割った値を示す強度に対応する温度を半軟化温度と定義して求めた。
【0070】
実施の形態で述べたとおり、希薄銅合金材料内に分散している分散粒子のサイズは小さいことが好ましく、また、希薄銅合金材料内に分散粒子が多く分散していることが好ましい。したがって、直径500nm以下の分散粒子が90%以上である場合を合格とした。ここに「サイズ」とは化合物のサイズであり、化合物の形状の長径と短径のうちの長径のサイズを意味する。また、「粒子」とは、前記TiO、TiO、TiS、Ti−O−Sのことを示す。また、「90%」とは、全体の粒子数に対しての該当粒子数の割合を示すものである。
【0071】
表1において比較例1は、実験室でAr雰囲気において直径φ8mmの銅線を試作した結果であり、銅溶湯にTiを0〜18mass ppm添加した。Tiを添加していない銅線の半軟化温度が215℃であったのに対し、13mass ppmのTiを添加した銅線の軟化温度は160℃まで低下した(実験した中では最小温度である。)。表1に示すとおり、Ti濃度が15mass ppm、18mass ppmに増加するにつれ、半軟化温度も上昇しており、要求されている軟化温度である148℃以下を実現することはできなかった。また、工業的に要求されている導電率は98%IACS以上であったものの、総合評価は不合格(以下、不合格を「×」と表す)であった。
【0072】
そこで、比較例2として、SCR連続鋳造圧延法を用い、酸素濃度を7〜8mass ppmに調整したφ8mm銅線(ワイヤロッド)を試作した。
【0073】
比較例2においては、SCR連続鋳造圧延法で試作した中でTi濃度が最小(つまり、0mass ppm、2mass ppm)の銅線であり、導電率は102%IACS以上であったものの、半軟化温度が164℃、157℃であり、要求されている148℃以下ではなかったことから、総合評価は「×」であった。
【0074】
実施例1においては、酸素濃度と硫黄濃度とが略一致(つまり、酸素濃度:7〜8mass ppm、硫黄濃度:5mass ppm)すると共に、Ti濃度が4〜55mass ppmの範囲内で異なる銅線を試作した。
【0075】
Ti濃度が4〜55mass ppmの範囲では、軟化温度が148℃以下であり、導電率も98%IACS以上102%IACS以上であり、分散粒子サイズは500nm以下の粒子が90%以上であり良好であった。また、ワイヤロッドの表面もきれいであり、いずれも製品性能を満たしていたので、総合評価は合格(以下、合格を「○」と表す)であった。
【0076】
ここで、導電率100%IACS以上を満たす銅線は、Ti濃度が4〜37mass ppmの場合であり、102%IACS以上を満たす銅線は、Ti濃度が4〜25mass ppmの場合であった。Ti濃度が13mass ppmの場合に導電率は最大値である102.4%IACSを示し、この濃度の周辺では、導電率はわずかに低い値であった。これは、Ti濃度が13mass ppmの場合に、銅の中の硫黄分を化合物として捕捉することで、高純度銅(6N)に近い導電率を示すためである。
【0077】
よって、酸素濃度を高くし、Tiを添加することで、半軟化温度と導電率との双方を満足させることができる。
【0078】
比較例3においては、Ti濃度を60mass ppmにした銅線を試作した。比較例3に係る銅線は、導電率は要求を満たすものの、半軟化温度は148℃以上であり、製品性能を満たしていなかった。更に、ワイヤロッドの表面の傷も多く、製品として採用することは困難であった。よって、Tiの添加量は60mass ppm未満が好ましいことが示された。
【0079】
実施例2に係る銅線おいては、硫黄濃度を5mass ppmに設定すると共に、Ti濃度を13〜10mass ppmの範囲で制御して、酸素濃度を変更することにより酸素濃度の影響を検討した。
【0080】
酸素濃度に関しては、2mass ppmを超え30mass ppm以下まで、大きく濃度が異なる銅線をそれぞれ作製した。ただし、酸素濃度が2mass ppm未満の銅線は生産が困難で安定的に製造できないので、総合評価は「△」とした(なお、「△」は「○」と「×」との中間の評価である。)。また、酸素濃度を30mass ppmにしても半軟化温度及び導電率の双方とも、要求を満たした。
【0081】
比較例4においては、酸素濃度が40mass ppmの場合に、ワイヤロッドの表面の傷が多く、製品として採用することができない状態であった。
【0082】
よって、酸素濃度を2を超え30mass ppm以下の範囲にすることで、半軟化温度、導電率102%IACS以上、分散粒子サイズのいずれの特性も満足させることができ、また、ワイヤロッドの表面もきれいであり、製品性能を満足させることができることが示された。
【0083】
実施例3は、酸素濃度とTi濃度とを互いに近づけた濃度に設定すると共に、硫黄濃度を4〜20mass ppmの範囲内で変更した銅線である。実施例3においては、硫黄濃度が2mass ppmより小さい銅線については、原料の制約上、実現できなかった。しかしながら、Ti濃度と硫黄濃度とをそれぞれ制御することで、半軟化温度及び導電率の双方とも、要求を満たすことができた。
【0084】
比較例5においては、硫黄濃度が18mass ppmであり、Ti濃度が13mass ppmである場合には、半軟化温度が162℃と高く、要求される特性を満足しなかった。また、特に、ワイヤロッドの表面品質が悪く、製品化は困難であった。
【0085】
以上より、硫黄濃度が2〜12mass ppmの範囲の場合には、半軟化温度、導電率102%IACS以上、分散粒子サイズのいずれの特性も満足させることができ、また、ワイヤロッドの表面もきれいであり、製品性能を満足させることができることが示された。
【0086】
比較例6は、6NのCuを用いた銅線である。比較例6に係る銅線においては、半軟化温度が127℃〜130℃であり、導電率が102.8%IACSであり、分散粒子サイズも500nm以下の粒子は全く認められなかった。
【0087】
表2には、製造条件としての溶融銅の温度と圧延温度とを示す。
【0088】
【表2】

【0089】
比較例7においては、溶銅温度が1330℃〜1350℃で、かつ、圧延温度が950〜600℃でφ8mmのワイヤロッドを作製した。比較例7に係るワイヤロッドは、半軟化温度及び導電率は要求を満たすものの、分散粒子サイズに関しては1000nm程度の粒子が存在しており、500nm以上の粒子も10%を超えて存在していた。よって、実施例7に係るワイヤロッドは不適と判定した。
【0090】
実施例4においては、溶銅温度を1200℃〜1320℃の温度範囲で制御すると共に、圧延温度を880℃〜550℃の温度範囲に制御してφ8mmのワイヤロッドを作製した。実施例4に係るワイヤロッドは、ワイヤロッド表面の品質、分散粒子サイズが良好であり、総合評価は「○」であった。
【0091】
比較例8においては、溶銅温度を1100℃に制御すると共に、圧延温度を880℃〜550℃の温度範囲に制御してφ8mmのワイヤロッドを作製した。比較例8に係るワイヤロッドは、溶銅温度が低いことからワイヤロッドの表面の傷が多く製品としては適さなかった。これは、溶銅温度が低いことから、圧延時に傷が発生しやすいことに起因するからである。
【0092】
比較例9においては、溶銅温度を1300℃に制御すると共に、圧延温度を950℃〜600℃の温度範囲に制御してφ8mmのワイヤロッドを作製した。比較例9に係るワイヤロッドは、熱間圧延工程における温度が高いことからワイヤロッドの表面の品質は良好であるものの、分散粒子サイズには大きいサイズが含まれ、総合評価は「×」になった。
【0093】
比較例10においては、溶銅温度を1350℃に制御すると共に、圧延温度を880℃〜550℃の温度範囲に制御してφ8mmのワイヤロッドを作製した。比較例10に係るワイヤロッドは、溶銅温度が高いことに起因して分散粒子サイズに大きなサイズが含まれ、総合評価は「×」になった。
【0094】
ここで、表1に示す実施例1の上から3番目の素材を取り上げる。この素材を、上記と同様の要領で、φ2.6mmの素線にし、この素線をφ2.6mmから伸線ダイスを通し、高さ1.4mm×幅2.2mmの平角線にした。そして、この平角線にエナメルを塗布、焼付してエナメル線を作製した。
【0095】
このエナメル線は、自動車用のモーターの巻線、オルタネータの巻線等に用いることができる。巻線として用いられる場合に、巻線に電流を供給すべく、巻線と給電端子とをTIG溶接することを要する。ここでは、TIG溶接性を実証するに当たり、試料としてエナメル線を選択したものの、本実施例はその用途をエナメル線に限定されない。本実施例に係る素材は、TIG溶接性が要求される他の用途に適用することもできる。また、「溶接」とは、高温で溶解して接合する手法であればよく、TIG溶接に限定されない。例えば、アーク溶接、レーザー溶接等も適用できる。
【0096】
表3は、実施例5に係る素材等について、ブローホール及び溶接強度の評価、及び総合評価(なお、表3では「評価」にしている)について示す。
【0097】
【表3】

【0098】
ここで、ブローホール試験は、φ2.6mmの単線の先端にアーク(溶接条件:100A、100ms、アルゴンガス流量10L/min)を飛ばして溶解させ、単線を縦方向に切断し、その先端の切断面を確認して、ブローホールの有無を評価した。表3において、ブローホールがある試料について「×」、ブローホールがない試料について「○」を示した。
【0099】
溶接強度試験は、2つの試料を並列にならべて先端をアーク溶接(溶接条件:200A、250ms、アルゴンガス流量10L/min)した後、これらを引き剥がした時の強度を測定した。母材強度は、引張試験により特定した。表3において、母材強度の90%以上の強度を示した試料について「○」、母材強度の90%未満の強度を示した試料について「×」を示した。
【0100】
実施例5に係る素材は15mass ppmの酸素を含有している。この酸素は、Tiと化合物を形成して素材中に存在しており、TIG溶接のアーク雰囲気中においても酸素を放出しないので、水素が酸素と反応することなく、水蒸気を発生させない。したがって、実施例5においてはブローホールが形成されない。これにより、実施例5においては溶接強度も低下しない。
【0101】
また、比較例11及び比較例12においては、素材に含まれる酸素の濃度がもともと低いので、ブローホールをほとんど形成しない。したがって、比較例11及び比較例12においても溶接強度は低下しない。
【0102】
一方、比較例13に係る素材は350mass ppm程度の酸素を含有している。この酸素は素材中にCuOの形態で含まれている。そして、TIG溶接のアーク雰囲気で酸素「O」を放出し、水素「H」と反応してHOを生成する。このHOは溶銅中に閉じ込められ、ブローホールとして残存する。したがって、比較例13においては、溶接強度の低下、水素脆化による強度低下が発生する。
【0103】
図11は、実施例のTIG溶接部分の縦断面を示す図であり、図12は、無酸素銅(OFC)のTIG溶接部分の縦断面を示す図である。また、図13は、タフピッチ銅(TPC)のTIG溶接部分の縦断面を示す図である。
【0104】
図13のTPCの断面写真を観察すると、酸化銅が分散分布していることが観察される。一方、図11及び図12の断面写真においては、酸化銅がほとんど観察されない。特に、図11の実施例について検証したところ、銅中の酸化物はTi酸化物からなり、酸化銅を発見することができなかった。
【0105】
実施例においては、ある程度の酸素濃度を含みつつ、TIG溶接性に優れていた。これは、銅中の酸化物として、酸化銅が実質的に含まれていなかったことに起因すると考えられる。
【0106】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料同士を溶接して形成される溶接部材であって、
前記金属材料の少なくとも一方が、不可避的不純物を含む純銅に、2mass ppmを超える酸素と、Mg、Zr、Nb、Fe、Si、Al、Ca、V、Ni、Mn、Ti、及びCrからなる群から選択される添加元素とを含む金属材料である溶接部材。
【請求項2】
前記添加元素がTiであり、前記Tiの添加量が4mass ppm以上55mass ppm以下である請求項1に記載の溶接部材。
【請求項3】
前記Tiが、TiO、TiO、TiS、Ti−O−Sのいずれかの形態で前記純銅の結晶粒内又は結晶粒界に含まれる請求項2に記載の溶接部材。
【請求項4】
不可避的不純物を含む純銅に、2mass ppmを超える量の酸素と、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Fe、Si、Al、Ni、Mn、Ti、及びCrからなる群から選択される添加元素とを含む希薄銅合金材料をSCR連続鋳造圧延により、1100℃以上1320℃以下の溶銅温度で溶湯にし、前記溶湯から鋳造バーを作製する工程と、
前記鋳造バーに熱間圧延加工を施し、希薄銅合金材を作製する工程と、
前記希薄銅合金材を金属材料と溶接する工程と
を備える溶接部材の製造方法。
【請求項5】
前記熱間圧延加工が、最初の圧延ロールでの温度を880℃以下、最終圧延ロールでの温度を550℃以上に制御して実施される請求項4に記載の溶接部材の製造方法。

【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−87364(P2012−87364A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235267(P2010−235267)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(592178381)日立製線株式会社 (20)
【Fターム(参考)】