説明

溶融金属による金属加工方法及び局所改質方法及びろう接合方法

【課題】金属部材を加工するための溶融金属の溶け流れを確実に防止する。
【解決手段】金属部材10上に配した改質用金属又は接合ろう材金属等の部材加工用金属20を溶融させる。この溶融させる金属を金属部材上に配すると共に、溶融金属の溶け流れを止める位置に、溶融金属の構成元素の少なくとも1つの元素と選択的に反応して溶融反応を停止させる溶融停止材料層30を設ける。溶融停止材料層は、例えばTiO2等のセラミックス系材料を含み、溶融金属の構成元素の少なくとも1つの元素と選択的に反応し、反応領域において溶融金属の融点を上昇させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
鋼板などの金属部材の改質又はろう接合に関する。
【背景技術】
【0002】
部品のろう付けにおいて、ろう材が目的とする領域外に流れ出ることは、ろう材の無駄や、部品機能等に悪影響を及ぼす可能性もあるため、不要部分への溶け流れ防止の処置が求められる。ろう付け時の溶け流れ防止方法として、特許文献1ではCrめっきを施し、加熱時にクロム酸化物を生成させて液相を止める方法を述べている。
【0003】
また、特許文献2ではセラミックス粉末と水溶性塩類でペーストを作製し、塗布後に加熱乾燥して、ろう付け時に液相を止め、加工後には水洗除去することを提案している。
【0004】
一方、金属部材の改質に関連する技術として、特許文献3には、回転ロータの製造に関し、電磁鋼板の所望領域に非磁性塗料を塗布して非磁性化領域を形成することが述べられている。この技術では、非磁性塗料を電磁鋼板上に塗布した後、電磁鋼板を不活性雰囲気中で加熱することで上記非磁性塗料を鋼板中に拡散浸透させて部分的な改質、ここでは非磁性化を行っている。
【0005】
【特許文献1】特開昭55−30368号公報
【特許文献2】特開昭58−65570号公報
【特許文献3】特開2003−304670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献3では、加熱条件として、加熱温度が500℃から1300℃であり、加熱時間は1分から200時間であると記載している。この特許文献3には、非磁性化塗料について具体的な組成等の記載はないが、電磁鋼板に、Cr、Al、Cu等の非磁性物質の粉末を含有するペーストを塗布し、この非磁性物質を電磁鋼板に拡散浸透させており、非磁性化塗料が溶融点に達しない温度では板厚方向の所望の深さまで改質するためには多くの時間を要し、製造コストの観点から好ましくない。
【0007】
一方、短時間で改質するためには非磁性化塗料が溶融する温度まで加熱する必要があるが、溶融すると液止め対策が必要となる。
【0008】
特許文献3には、液相生成域での液止め対策については特に配慮がないが、本願の発明者が、金属部材の迅速改質を前提として、独自の改質合金(Mn−Ni−B系合金)を開発し、溶融反応による改質を試みた結果、液止めについての対策が必要であることが判明した。
【0009】
具体的には、改質合金が溶融すると、鋼板との濡れが良いために所定の改質部分よりも拡がって、改質深さが確保できず本来の特性が得られない。また、この溶け流れの現象は鋼板に溝をつけるなどの形状的な対策では解決できなかった。したがって、改質材料を採用する場合には、この改質材料の溶け流れを止め、必要部位を均一に改質する方法が必要となる。
【0010】
一方、上記特許文献2に開示されたろう付け時の溶け流れ防止技術に関しては、溶け流れ防止材料としてのセラミックス系の粉末を、対象部品に強固に塗布・接着するために結合剤を添加している。この方法を流用すれば、ろう材の溶け流れ防止は可能である。しかし、ろう材の溶融・ろう付け工程とは別に、溶け流れ防止材であるセラミックス系粉末を含む充填剤を加熱乾燥させる工程を必要としており、コストアップにつながる。さらに、特許文献2に開示されている方法では、ろう材である溶融金属と、セラミックス系材料との濡れ性が低いことを利用しているため、溶け流れ防止領域に塗布される充填剤の厚さや、ろう材が対象部品と充填剤との界面に流れ込まないよう対象部品と充填剤との間の密着強度が高いことが要求される。
【0011】
特許文献1に開示されているCrめっきによる溶け流れ防止方法では、ろう材の接合時における加熱処理によって、溶け流れ防止のためのCrめっきの表面を酸化させ、酸化物と、ろう着金属とのぬれ性の悪さを利用している。つまり、Crめっきの表面が酸化する程度の雰囲気で加熱処理をしなければならず、めっき以外の金属部材に対しても悪影響を及ぼしてしまう可能性がある。
【0012】
本発明は、金属部材に悪影響を及ぼすことなく、かつ、溶融金属の溶け流れを防止しながら、金属部材の改質や接合を可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
金属部材上に配した該金属部材加工用の金属材料を溶融させ、この溶融金属によって、前記金属部材を加工する方法であって、前記溶融させる金属を前記金属部材上に配し、かつ、前記溶融金属の溶け流れを止める位置に、前記溶融金属の構成元素の少なくとも1つの元素と選択的に反応して溶融反応を停止させる溶融停止材料層を設ける。
【0014】
本発明の他の態様では、上記金属加工方法において、前記溶融停止材料層は、セラミックス系材料を含む。
【0015】
本発明の他の態様では、上記金属加工方法において、前記溶融停止材料層は、前記溶融金属の構成元素の少なくとも1つの元素と選択的に反応し、反応領域において前記溶融金属の融点を上昇させる。
【0016】
本発明の他の態様では、鋼材上に、加工用の金属材料として改質用金属又は接合ろう材金属を配して溶融させ、この溶融金属によって、前記鋼材を改質し又は相手材と接合する加工方法であって、前記溶融させる金属を前記鋼材上に配し、かつ、前記溶融金属の溶け流れを止める位置に、前記溶融金属の構成元素の少なくとも1つの元素と選択的に反応して溶融反応を停止させるセラミック系材料を含む溶融停止材料層を塗布により設ける。
【0017】
本発明の他の態様では、上記加工方法において、前記溶融金属は、少なくともMn又はBを一部に含み、前記溶融停止材料層は、TiO2を含む。
【0018】
本発明の他の態様では、上記加工方法において、前記溶融金属は、少なくとも、Mn及びNi、Mn及びNi並びにSi、又はMn及びNi並びにB、又はMn及びNi及びB並びにSiを含む。
【0019】
本発明の他の態様では、鋼材と接合相手の鋼材との間に、接合ろう材金属として、少なくともMn又はBを含む合金を配して溶融させ、この溶融金属によって前記鋼材を接合する方法であり、前記鋼材間に前記接合ろう材金属を配し、かつ、前記溶融金属の溶け流れを止める位置に、前記溶融金属の構成元素の少なくとも1つの元素と選択的に反応して溶融反応を停止させる溶融停止材料層としてTiO2を含むペーストを塗布し、前記接合用ろう材金属を溶融させて前記鋼材を相手部材と接合させると共に、前記溶融停止材料層の形成位置において該溶融金属の溶融反応を停止させる。
【0020】
本発明の他の態様では、鋼材上に、接合ろう材金属としてNi及びBを含む合金を配して溶融させ、この溶融金属によって前記鋼板を開いて部材と接合する方法であり、前記鋼板上に前記接合ろう材金属を配し、かつ、前記溶融金属の溶け流れを止める位置に、前記溶融金属の構成元素の少なくとも1つの元素と選択的に反応して溶融反応を停止させる溶融停止材料層としてTiO2を含むペーストを塗布し、前記接合用ろう材金属を溶融させて前記鋼材を相手部材と接合させると共に、前記溶融停止材料層の形成位置において該溶融金属の溶融反応を停止させる。
【発明の効果】
【0021】
金属部材を加工するために溶融させる金属を、該金属部材上に配し、かつ、溶融金属の溶け流れを止める位置に、溶融金属の構成元素の少なくとも1つの元素と選択的に反応して溶融反応を停止させる溶融停止材料層を設けることで、金属部材の性能を損ねることなく、金属部材に対する改質やろう付けなどの加工を行うことが出来る。また、溶融停止材料層に溶融反応の停止機能を発揮させるための熱処理は、加工用金属材料を溶融させるための加熱処理と一緒に実行することができ、迅速な処理が可能となる。
【0022】
溶融停止材料としてはセラミックスを採用することができ、例えばセラミックスの一種であるTiO2は、常温での塗布時の金属部材、例えば鋼への密着性が結合剤なしでも比較的良好なため、施工が簡便である。また、溶融金属に含まれるMnやB等と、溶融停止材料である上記TiO2が選択的な反応をすることにより、反応部位との界面で合金組成が変化し等温凝固が促進されると推測できる。その結果、液相の溶け流れを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態(以後、実施形態という)について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る金属加工での溶け流れ防止の構成例を示している。図1(a)、(b)に示す例では、それぞれ金属部材10の上に、加工用の金属材料20を配し、加熱してこの金属材料を溶融させ、金属部材の特定領域を改質している。図1(c)は、加工用の金属材料20として接合ろう材金属を用い、このろう材の溶融金属によって2つの金属部材50同士を接合させた例を示している。なお、図1(d)は、図1(a)の加工を施した金属部材の外観を示す写真データであり、図1(a)は、この図1(d)中の白線に沿った断面構造に相当する。
【0024】
図1(a)〜(c)は、いずれも、金属材料20で生ずる溶融金属の溶け流れを止める位置に、溶融金属の構成元素の少なくとも1つの元素と選択的に反応して溶融反応を停止させる溶融停止材料層30を設けている。
【0025】
このうち、図1(a)では、金属部材10の上面で溶融金属の広がりを停止させる位置に溶融停止材料層30を形成している。また、図1(c)では、金属部材10の接合外周に溶融停止材料層30を形成している。図1(a)、図1(c)のような溶融停止材料層30により、金属部材10の平面外周方向に溶融金属が流れ広がることを防止している。
【0026】
なお、図1(c)では、金属部材10とろう付け相手材50との接合部面積がほぼ等しい場合であり、金属部材10及び相手材50の外周面に溶融停止材料層30を設けている。これに対し、相手材50の接合部面積が金属部材10よりも小さい場合には、金属部材10の上面の一部に相手材50がろう付けされることとなる。よって、図1(a)のように金属部材10の上面において、相手部材の周囲を取り囲むように溶融停止材料層30を配置することができる。
【0027】
一方、図1(b)は、金属部材10の上面、側面及び裏面側にも溶融停止材料層30を設けている。例えば、加工用金属によって金属部材10を改質する場合、金属材料が溶融し該部材の表面方向だけでなく深さ方向に進行する。そこで、溶融停止材料層30を金属部材の表面(上面)に設けて平面方向における溶け流れを抑制するだけでなく、図1(b)のように例えば金属部材10の裏側表面や、加工用金属を配する領域以外の金属部材10の外表面を覆うようにこの溶融停止材料層30を設けることで、金属部材の厚さ方向に深く改質できる。例えば、改質処理が金属部材10の深さ方向に進みすぎる場合の液相保持、つまり、金属部材10が厚さ方向に全て改質されて液相となった場合にも、裏面側に溶融停止材料層30が形成しておくことで、改質された液相が流れ落ちてしまうことを防止できる。
【0028】
金属部材10としては、一例として鋼材が採用でき、機械構造用鋼材、高張力鋼材、ステンレス鋼材または電磁鋼板等の鋼板が採用できる。電磁鋼板には、方向性電磁鋼板や無方向性電磁鋼板等を用いることが出来る。なお、金属部材10の形状は用途に応じて様々であり、板状、棒状等の様々な形状を持つことができ、この部材10には、例えば改質処理を施す場合にはその領域に下記金属材料20を配置するための図1(a)、(d)に示されるように凹部または薄肉部を備えると改質領域制御の点からより好適である。但し、本実施形態では溶融停止材料層30を備えるため、この凹部がなくても溶融金属が溶け流れ出てしまうことは防止することができ、溶け流れ防止のために凹部を設けることは必須ではない。もちろん凹部を設けても良い。
【0029】
金属部材加工用の金属材料20は、金属部材10を改質するための改質用金属や、ろう付けなどに用いられるろう材金属である。改質用金属材料としては、例えば電磁鋼板を非磁性化する材料として、オーステナイト相を生成する元素を含み、鋼材に含まれるFeの融点よりも低い温度でFeと溶融合金化する材料等が採用可能である。このように鋼材などの金属部材10よりも低い温度で溶融合金化することで、金属材料20の溶融のための加熱処理時に必要以上に金属部材10が溶融することを防止できる。金属部材加工用の金属材料は、一例として、B及びMnの少なくとも一方を含み、例えば、Mn−Ni系合金系であって、MnとNiとを含む粉末、Mn、Ni、Bを含む粉末、Mn、Ni、Siを含む粉末、Mn、Ni、Si、Bを含む粉末などが採用可能である。なお、粉末状で金属部材10の上に配置することもできるが、ペースト状、スラリー状、インク状などの態様で配置することも可能であり、このような粉末固体形状に調整することで、溶融処理前の飛散などを防止できる。
【0030】
溶融停止材料層30は、溶融する金属材料の構成要素の一部と選択的に反応する材料を含み、溶融停止材料層30の形成領域にて、溶融金属の一部と反応してより融点の高い反応生成物を生じ、溶融金属の固化(凝固)を図る。これにより、溶融停止材料層30の形成領域よりも外側に溶融金属20が流れ出ることを効率的に防止する。
【0031】
溶融停止材料としては、セラミックスを採用することができ、一例としてチタン酸化物(TiO2)が採用できる。このチタン酸化物は、金属部材加工用の金属材料に含まれるNiと、Mn又はBとの内、Niとは反応せず、Mn又はBのいずれか又は両方と選択的に反応し、溶融金属の組成がこのチタン酸化物の形成領域との界面で変化し、変化した金属組成は、その融点が金属材料層20における融点よりも高くなる。
【0032】
溶融停止材料層30は、所望の領域に、所望のパターンで形成できればその形成状態は特に限定されない。例えば、ペースト状にして塗布、印刷することで、任意のパターンを容易に形成することができる。ペースト状で形成した場合、乾燥させてから金属溶融のための加熱処理に移行することが好適である。また、金属材料を粉末状態などで金属部材10の上に配する場合において、その配置領域、つまり流れ抑制領域をより精度良くかつ明確に確定する要求が強い場合、溶融停止材料層30を先に積層して乾燥・固化させた後に、金属材料20を所定領域に配しても良い。
【0033】
金属材料20の溶融時における加熱処理は、金属材料に応じ、この金属材料を溶融させるために必要な温度、時間とすれば良く、800℃〜1400℃程度の範囲で、時間は5分程度以上から30分程度でよい。また、加熱雰囲気は非酸化雰囲気とすることにより金属部材10等における無用な酸化物の形成を防止できる。非酸化雰囲気は、例えば真空雰囲気(一例として10-2Pa程度)や、Arガス、N2ガス雰囲気等を採用することができる。この加熱処理は、上記金属材料20を配した領域のみ局部加熱しても良いし、金属部材10全体を加熱しても良い。加熱処理は、一般的な加熱炉を採用することが出来るが、そのほか、レーザ加熱処理、高周波誘導加熱処理などを採用しても良い。なお、金属材料の溶融処理(溶融合金化)後の冷却処理は、金属部材の特性などに応じて適切な速度で実行すればよい。
【0034】
溶融停止材料のTiO2と金属材料との反応物、及び溶融停止材料層30は、金属材料を溶融させ、金属部材10の改質や、所望の相手材とのろう付けを行った後、除去する。
【0035】
以上のような本実施形態では、金属部材の一例として、モータ部品を構成するロータ内任意の部位に精度良く均質非磁性部分を形成させることにより、有効磁束を増大させることができる。その結果、モータのトルク向上、小型化が安価に可能となる。
【0036】
また、本実施形態において、鋼材のろう付け接合においても、ろう材の流れ出しを防止できる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0038】
(実施例1)
まず、金属部材10として厚さ0.2mm電磁鋼板を用い、その中心φ8の範囲に、金属材料20としてMn−Ni−B粉末を0.07g載せる。また、この金属材料20の周りには、溶融停止材料層30として、TiO2(高純度化学製:純度99.9%アナターゼ型、−10μm)をエタノールでペースト状にして塗布し、室温で自然乾燥し、0.12mmの厚さの溶融停止材料層30を得た。この試料を赤外線式加熱装置により、Ar雰囲気中で1120℃まで加熱して、20分間保持した。
【0039】
(実施例2)
実施例1と同様に、金属部材10として厚さ0.2mmの鋼板を用い、その中心φ8の範囲に、金属材料20としてMn−Ni粉末を0.07g載せる。その周りには、溶融停止材料層30としてTiO2(純度99.9%アナターゼ型、−10μm)をエタノールでペースト状にして塗布し、室温で自然乾燥し、厚さ0.12mmの溶融停止材料層30を得た。この試料を赤外線式加熱装置により、Ar雰囲気中で1300℃まで加熱して、20分間保持した。
【0040】
(実施例3)
実施例1及び2と同様、金属部材10として厚さ0.2mmの鋼板を用い、その中心φ8の範囲に、金属材料20としてMn−Ni−B粉末を0.07g載せた。その周りには、溶融停止材料層30としてTiO2(純度99.9%アナターゼ型、−10μm)をエタノールでペースト状にして塗布して、室温で自然乾燥し、厚さ0.12mmの溶融停止材料層30を得た。この試料を赤外線式加熱装置により、真空雰囲気中(10−2Pa)で1120℃まで加熱して、20分間保持した。
【0041】
(実施例4)
実施例1、2及び3と同様、金属部材10として厚さ0.2mmの電磁鋼板を用い、その中心φ8の範囲に、金属材料20としてMn−Ni−Si粉末を0.07g載せた。その周りには、溶融停止材料層30としてTiO2(純度99.9%アナターゼ型、−10μm)をエタノールでペースト状にして塗布して、室温乾燥し、厚さ0.12mmの溶融停止材料層30を得た。この試料を赤外線式加熱装置により、Ar雰囲気中で1120℃まで過熱して、20分間保持した。
【0042】
(実施例5)
実施例1,2,3及び4と同様、金属部材10として厚さ0.2mmの電磁鋼板を用い、その中心φ8の範囲に、金属材料20としてMn−Ni−Si−B粉末を0.07g載せた。その周りには、溶融停止材料層30としてTiO2(純度99.9%アナターゼ型、−10μm)をエタノールでペースト状にして塗布して、室温乾燥し、厚さ0.12mmの溶融停止材料層30を得た。この試料を赤外線式加熱装置により、Ar雰囲気中で1200℃まで加熱して、20分間保持した。
【0043】
(実施例6)
2つの鋼材間に、ろう材として、エタノールでペースト状にしたMn−Ni−B粉末を0.1g塗布した。さらに、その外周部に溶融停止材料層30として、TiO2をエタノールでペースト状にして塗布し、自然乾燥した。得られた溶融停止材料層30の層厚は0.12mmである。この試料を高周波加熱装置内に配し、Ar雰囲気中で、鋼材同士を1MPaで押さえ、1170℃で加熱して3分間保持し、鋼材同士を接合した。
【0044】
(実施例7)
実施例7では、上記実施例6においてろう材として用いたMn−Ni−粉末に代え、BNi−2粉末を採用した。他の条件は実施例4と同一である。
【0045】
(比較例)
上記以外の比較例として、溶融停止材料層30無しの比較例、溶融停止材料層30として、エタノールで希釈したAl23、BN、Y23、MgO2ペーストをそれぞれ用い、これらを塗布して用いた場合の比較例、加熱試験も同様に実施した。
【0046】
(結果)
上記各実施例、比較例の加熱試験の結果について、下記表1と、図2〜図4を参照して説明する。
【表1】

【0047】
溶融停止材料層30に用いる塗布剤の密着性は、実施例に係るTiO2が最も優れており、扱いやすかった。他の塗布剤を用いた比較例では、塗布剤の剥がれが生じやすかった。また、Al23、BN、Y23、MgO2の場合は、図2(b)に示すように、加熱時に改質液相が塗布剤の下に潜り込み、塗布剤によってこの潜り込んだ液相を止めることができなかった。また、溶融停止材料層を設けない比較例では、図3(a)、(b)の上面及び下面写真図に示すように鋼板10の金属材料を配する領域に予め凹部(溝)を設け、この凹部に改質金属材料を配して加熱溶融させた。その結果は、凹部が存在するにも拘わらず、溶融金属の液相は鋼板10の表面に沿って均一に濡れ拡がった。図3(b)、図3(c)に示すように、この液相は、鋼板の裏面側まで広がる結果となった。このような現象は、B、Siを含む改質金属材料においてより顕著に発生する。
【0048】
一方、実施例1〜3に係るTiO2が溶融停止材料層30として設けられている場合は、図2(c)に示すように、液相(溶融金属)との界面で黒色の層を生成して、溶け流れが止まった。
【0049】
図4は、実施例6とその比較例に係るろう付けされた金属部材の状態についての写真データであり、図4(a)は、溶融停止材料層30を用いない比較例、図4(b)は、溶融停止材料層30としてTiO2を金属部材10の外周に形成した実施例6を示す。図4(a)において、円筒状の金属部材の接合部から金属部材の外周面において広範な領域にろう材が溶け広がっている。一方、図4(b)のように、金属部材のろう付け部の外周面を覆って溶融停止材料層30を形成した場合には、外周面への溶け流れはないことが分かる。なお、図4(b)において、黒色部は、溶融停止材料層30として用いたTiO2層である。
【0050】
なお、実施例7のように、金属材料として接合ろう材に用いられるBNi−2を採用した場合、溶融停止材料層30としてのTiO2層の下に薄く溶け流れが発生していた。しかし、塗布剤を採用しない比較例では、鋼材の裏面側まで溶融金属が溶け広がるが、実施例5では、その溶け広がりの程度が低く抑えられていた。
【0051】
(溶融停止材料の濃度、厚さ、加熱雰囲気の影響)
図5は、溶融停止材料の濃度、加熱雰囲気の比較結果を示している。図5(a)では、溶融停止材料層30として用いるTiO2の濃度として、通常(基準濃度)を採用し、この層の厚さを0.12mmとした。一方、図5(b)に示す例では、TiO2の濃度としては、基準濃度の3倍希釈をしており、層の厚さは0.04mmとした。濃度の薄い図5(b)の例では、通常濃度の図5(a)の例よりも、円盤状の鋼材の中央に設けた凹部の縁からの金属材料の溶け流れ量が多く、溶融停止材料層30の溶融停止材料の濃度が、溶け流れ停止機能に影響していることが分かる。また同様に、溶融停止材料であるTiO2の粒度は、小さい方が表面積が大きく、溶融停止機能が高い。
【0052】
加熱の雰囲気については、非酸化雰囲気であれば特に問題はない。なお、図5の例では、Ar雰囲気中、1120℃で20分間の加熱を行っている。TiO2は、0.12mmの厚さとした。図5(c)と図5(d)との比較から、Arガス雰囲気(1Pa雰囲気から置換)よりも、清浄度の高い真空雰囲気(1Pa)の方が、さらに溶け流れの防止効果が高かった。
【0053】
(液止め界面の状態とメカニズム)
次に、液止め界面の表面状態を面分析(SEM像)により、観察した結果について、図6を参照して説明する。試料には、図6の左上に示すように金属部材10として電磁鋼板を採用し、改質部に金属材料20として60%Mn−40%Ni合金を配し、その周囲にリング状に溶融停止材料層30としてTiO2を形成し、図には、改質部と電磁鋼板との液止め界面付近のSEM像を示している。図6のSEM像は、図示の都合上、カラー表示でないが、同じ位置のFe、Ti、Mn、O及びNiの存在をそれぞれ濃淡で表しており、白に近いほど高濃度に存在し、黒に近いほど低濃度となっている。
【0054】
図6を参照すると、溶融停止材料層30が形成され、液止めされているベルト状の黒色部(液止め部)には、Ti、Mnが存在していることが分かる。このうちTiは、改質部及び電磁鋼板領域には存在せず、選択的に液止め部に存在している。一方のMnは、改質用金属材料に含まれており改質部に存在すると共に、Tiと共に液止め部に存在している。Niは、Mnと同様に改質用金属材料に含まれており改質部には多く存在しているが、液止め部での存在量は少なく、この液止め部よりも外側の領域には存在していない。次に、Feは、電磁鋼板に含まれており、液止め部の外側の領域において存在していると共に、改質用金属と共に合金を構成することから改質部にも存在しているが、液止め部では存在していない。
【0055】
また、図7は、改質材料としてMn−39%Ni−2.6%B材料を採用し、Ar雰囲気中、1120℃で3分間加熱した後、冷却した試料断面の同一断面における各元素の面分析結果を示す。なお、図7の断面図は、図1(d)中、白線に相当する位置での試料の断面の一部を示している。図7の表現では、概ね白に近い方が、その元素が高濃度に存在していることを示している。
【0056】
図7の左上の組成像において円で囲った領域に液止め部(反応生成物:濃いグレーで表現されている)が位置し、その上に改質材料の主成分のMn−Niが多く存在している。さらに、反応生成物と電磁鋼板の間から数十μmのNi量の多い流れ出しが観察される。
【0057】
一方、図2(b)や、上記表1に示したような比較用の塗布剤を用いた場合には、図7に示すような流れ出し程度では収まらず、鋼板全面に流れ出しが観察される。このような流れ止め機能の違いは、TiO2の鋼板との密着性も一要因と考えられるが、図7において各元素の存在位置に注目すると、TiとOの存在する所にはMnが存在し、Niの流れ出し部分にはMnがほとんど存在していないことがわかる。また、TiO2からのTiの溶け出しはなかった。
【0058】
ここで、図8を参照して、白線円内に示す矢印の方向で線分析を行い界面の組成分布を確認した結果について説明する。図8(b)、図8(c)は、それぞれ、図8(a)の矢印位置におけるO及びTiのX線強度比、Mn、Fe及びNiのX線強度比を示している。図8(b)から停止層の位置に、TiとOが多く存在していることがわかる。鋼板領域では、Feが多く、他のMn、Niはほとんど存在していない。停止層の形成領域ではMnが非常に多いが、Fe及びNiは、非常に少ないことがわかる。また、停止層を乗り越えるように停止層の上に存在する改質金属領域では、Mnだけでなく、Ni及びFeも存在していることが観察される。
【0059】
さらに、停止層と鋼板領域との間にもMnとNiの存在が認められ、この領域において改質合金の溶け流れが生じたことが理解できる。しかし、図8(c)に示すように、この鋼板と停止層との間のMn及びNiは、Mnの存在量がNiに比較して少ない。図8(a)の図示されていない上方領域には図7の白線円内の左端に示されるように、改質領域が配されており、改質領域の端部から極めて短距離の位置でMnの量が著しく減少していることがわかる。なお、Feの改質合金領域への溶け出しは、加熱保持時間が短いことから僅かとなっている。
【0060】
図9はMn−Ni合金状態図を示しており、この状態図から、合金において、Mnに対するNiの重量濃度(重量%)が40%の時が、合金融点が最小の1020℃であるのに対し、Mn−Niの組成が変化するとNi濃度が減っても増えても融点が上昇することがわかる。
【0061】
さらに、図10は、EPMAによる面分析結果を示しており、軽元素のボロンの分布を捉えることができる。図10から、Bは選択的にTiO2と反応して停止層領域に多く存在する一方で、反応停止層と改質領域との界面では、B量が減少している(Bの不足により生ずると考えられる)。
【0062】
図11は、Mn−40%Ni−B合金の切断状態図を示しており、図11から、Bが2.1w%程度の状態で合金融点が最も低くなるが、2.1w%よりも減少すると融点が上昇することがわかる。なお、図11の状態図では、Ni:Mnの比は、4:6で固定され、Bの増減にNi+Mnのトータル量を連動させている。
【0063】
以上のことから、本実施形態に係る溶融停止材料層30による液止めの原理は以下のようになると考えられる。つまり、溶融停止材料として用いるTiO2と、加工用金属材料として用い、溶融したMn−Ni−Bとの界面で、Mn、Bが選択的にTiO2と反応する。これにより、接触界面においてMn、B濃度が低下し、融点の高い合金層が生成され、融点の高い合金層では、等温凝固が促進する。その結果、溶融停止材料層30の形成領域の下面において融点の高い合金層が選択的に凝固し、液止め機能が発揮される。実際、図7に示すように溶融金属は、反応生成物の形成領域(溶融停止材料層30の形成領域)と鋼板との間の合金層の上で流れが止まっており、この融点の高い合金層による凝固が発生していると考えることが出来る。
【0064】
(改質性能と磁性の変化)
次に、溶融停止材料層30を設け加工用金属として改質金属を用い、鋼板を改質した結果について、図12、図13を参照して説明する。図12(a)、(b)、(c)は、それぞれ未改質の鋼板、改質率86%、改質率100%の鋼板における磁気ヒステリシス曲線(B−H曲線)を示しており、縦軸が磁束密度(B)、横軸が磁界強度(H)である。未改質の鋼板では、磁界強度に応じて磁束密度が変化しており磁性を備えることが分かる。この鋼板に対して、上記Mn、Niを含む改質金属を溶融させて改質処理を実行することで、改質率(改質金属との合金化率)が86%の鋼板では、変化は非常に小さくなり、改質率が100%となると、磁界に対する磁束の変化も、磁束密度もなくなり、磁性がなくなることを示している。なお、測定は、改質した部位から測定試料を切り出し、磁束密度を測定することによって実行した。
【0065】
図13(a)は、改質材料との合金化率86%(加熱時間:0sec)の時の改質金属によって改質が施された鋼板試料の断面写真であり、鋼板の下部約50μmに溶け残りが存在している。さらに、図13(b)は、1200secの熱処理により全改質(合金化率100%)された鋼板試料の断面であり、断面の全域に渡り均一な状況となっていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施形態に係る金属加工の様子を示す概念図及び加工後の金属部材を外観写真データで示す図である。
【図2】本発明の実施例及び比較例に係る金属加工の様子を示す概念図及び加工後の金属部材を外観写真データで示す図である。
【図3】従来の金属加工における不具合を説明する写真データである。
【図4】実施例4とその比較例における接合後の状態を外観写真データで示す図である。
【図5】本発明の実施例に係る溶融停止材料層の塗布厚さ、加熱雰囲気の影響を説明する外観写真データで示す図である。
【図6】本発明の実施例に係る改質部と電磁鋼板との液止め界面付近のSEM像をモノクロで表した図である。
【図7】本発明の実施例に係る改質部と電磁鋼板との液止め界面付近の面分析結果を示す図である。
【図8】図7の白線円内の矢印方向におけるX線強度比による組成分布の分析結果を示す図である。
【図9】Mn−Ni合金状態図であって組成変化による融点の変化を説明する図である。
【図10】本発明の実施例に係る改質部と溶融停止材料層との界面付近における面分析結果を示す図である。
【図11】Mn−Ni−Bの合金状態図であってBの組成変化による融点の変化を説明する図である。
【図12】改質率に応じたB−H曲線の変化を示す図である。
【図13】所定合金化率の鋼材の断面状態を写真データで示す図である。
【符号の説明】
【0067】
10 金属部材(鋼材等)、20 加工用の金属材料(改質用金属、接合用ろう材、改質部)、30 溶融停止材料層(液止め部)、50 ろう付け相手材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材上に配した該金属部材加工用の金属材料を溶融させ、この溶融金属によって、前記金属部材を加工する方法であって、
前記溶融させる金属を前記金属部材上に配し、かつ、前記溶融金属の溶け流れを止める位置に、前記溶融金属の構成元素の少なくとも1つの元素と選択的に反応して溶融反応を停止させる溶融停止材料層を設けることを特徴とする金属加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属加工方法において、
前記溶融停止材料層は、セラミックス系材料を含むことを特徴とする金属加工方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の金属加工方法において、
前記溶融停止材料層は、前記溶融金属の構成元素の少なくとも1つの元素と選択的に反応し、反応領域において前記溶融金属の融点を上昇させることを特徴とする金属加工方法。
【請求項4】
鋼材上に、加工用の金属材料として改質用金属又は接合ろう材金属を配して溶融させ、この溶融金属によって、前記鋼材を改質し又は相手材と接合する加工方法であって、
前記溶融させる金属を前記鋼材上に配し、かつ、前記溶融金属の溶け流れを止める位置に、前記溶融金属の構成元素の少なくとも1つの元素と選択的に反応して溶融反応を停止させるセラミック系材料を含む溶融停止材料層を塗布により設けることを特徴とする金属加工方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の加工方法において、
前記溶融金属は、少なくともMn又はBを一部に含み、
前記溶融停止材料層は、TiO2を含むことを特徴とする金属加工方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の加工方法において、
前記溶融金属は、少なくとも、Mn及びNi、Mn及びNi並びにSi、又はMn及びNi並びにB、又はMn及びNi及びB並びにSiを含むことを特徴とする金属加工方法。
【請求項7】
鋼板上に、改質用金属としてMn−Ni合金、Mn−Ni−Si合金、Mn−Ni−B合金又はMn−Ni−Si−B合金を配して溶融させ、この溶融金属によって前記鋼板を局所改質する方法であり、
前記鋼板上に前記改質用金属を配し、かつ、前記溶融金属の溶け流れを止める位置に、前記溶融金属の構成元素の少なくとも1つの元素と選択的に反応して溶融反応を停止させる溶融停止材料層としてTiO2を含むペーストを塗布し、前記改質用金属を溶融させて前記鋼材を改質すると共に、前記溶融停止材料層の形成位置において該溶融金属の溶融反応を停止させることを特徴とする鋼板の局所改質方法。
【請求項8】
鋼材と接合相手の鋼材との間に、接合ろう材金属として、少なくともMn又はBを含む合金を配して溶融させ、この溶融金属によって前記鋼材を接合する方法であり、
前記鋼材間に前記接合ろう材金属を配し、かつ、前記溶融金属の溶け流れを止める位置に、前記溶融金属の構成元素の少なくとも1つの元素と選択的に反応して溶融反応を停止させる溶融停止材料層としてTiO2を含むペーストを塗布し、前記接合用ろう材金属を溶融させて前記鋼材を相手部材と接合させると共に、前記溶融停止材料層の形成位置において該溶融金属の溶融反応を停止させることを特徴とする鋼材のろう接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−144187(P2009−144187A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320855(P2007−320855)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】