説明

滑り軸受、滑り軸受を備えた動力伝達装置、及び滑り軸受の形成方法

【課題】 回転部材の支持精度を向上する。
【解決手段】 ロータ63の軸受孔79内周に設けられてクラッチ・ハブ7を支持するための摺動ブッシュ1であって、ロータ63の軸受孔79内周に肉盛り状に一体形成された軸受基部83と、該軸受基部83内周に形成されてクラッチ・ハブ7を支持する軸受支持面85とを備えたことを特徴とする。この摺動ブッシュ1の形成では、軸受孔79内周に軸受基部83を溶盛りし、軸受基部83内周にクラッチ・ハブ7に応じて軸受支持面85を切削形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り軸受、滑り軸受を備えた動力伝達装置、及び滑り軸受の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の滑り軸受としては、例えば特許文献1に示すように、四輪駆動車の動力伝達装置に適用されたものがある。
【0003】
動力伝達装置は、相対回転自在に支持されたクラッチ・ハウジング及びクラッチ・ハブ(回転部材)間でトルク伝達を行うようになっている。クラッチ・ハウジングは、静止側に回転自在に支持され、クラッチ・ハブは、クラッチ・ハウジングの内周側に回転自在に支持されている。
【0004】
クラッチ・ハブの支持は、クラッチ・ハウジング側に取り付けられた滑り軸受としての摺動ブッシュを介して行われている。この摺動ブッシュは、クラッチ・ハウジング側とは別部品として形成された後、クラッチ・ハウジング内周側の軸受孔内に圧入されている。
【0005】
かかる従来の構造では、摺動ブッシュの公差及び軸受孔の公差が合算されてクラッチ・ハブの支持に影響するため、その支持精度が低下していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−278778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、回転部材の支持精度が低下する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、回転部材の支持精度を向上するために、支持部材の軸受孔内周に設けられて回転部材を支持するための滑り軸受であって、前記支持部材の軸受孔内周に肉盛り状に一体形成された軸受基部と、該軸受基部内周に形成されて前記回転部材を支持する軸受支持面と備えたことを最も主な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の滑り軸受では、軸受支持面の形成精度を直接回転部材の支持精度とすることができ、回転部材の支持精度を向上させることができる。
【0010】
本発明の滑り軸受を備えた動力伝達装置は、回転部材の支持精度を向上することができる結果として、動作を安定させて性能向上を図ることができる。
【0011】
本発明の滑り軸受の形成方法では、軸受孔内周に軸受基部を溶盛りし、軸受基部内周に回転部材に応じて軸受支持面を切削形成するため、容易且つ確実に滑り軸受の軸受支持面の形成精度を直接回転部材の支持精度として、回転部材の支持精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】摺動ブッシュを備えた動力伝達装置を示す断面図である(実施例1)。
【図2】図1の摺動ブッシュを軸方向から見た要部拡大図である(実施例1)。
【図3】摺動ブッシュの形成行程を示し、(a)は軸受基部を肉盛り形成した状態であり、(b)は軸受支持面を切削形成した状態である(実施例1)。
【図4】摺動ブッシュを示す断面図である(実施例2)。
【図5】摺動ブッシュを示す断面図である(実施例3)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
回転部材の支持精度を向上するという目的を、滑り軸受を溶盛り及び切削を通じて形成することで実現した。
【実施例1】
【0014】
[動力伝達装置]
まず、本実施例の滑り軸受としての摺動ブッシュを備えた動力伝達装置について図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施例1に係る摺動ブッシュを備えた動力伝達装置を示す断面図である。
(動力伝達装置の構成)
本実施例の摺動ブッシュ1は、図1のように、四輪駆動車の動力伝達装置3に適用されている。動力伝達装置3は、例えばフントエンジン、フロントドライブベース(FFベース)の四輪駆動車のトランスファとリヤ・デファレンシャルとの間に設けられ、両者間のトルク伝達を行うものである。
【0015】
動力伝達装置3は、外回転部材としてのクラッチ・ハウジング5と内回転部材としてのクラッチ・ハブ7とを備え、内部に潤滑オイルが封入されている。
【0016】
クラッチ・ハウジング5は、円筒状に形成され、静止側に回転自在に支持されている。クラッチ・ハウジング5の軸方向一端には、一体の端壁部9が設けられている。端壁部9の外面には、トランスファ側のプロペラ・シャフトに結合される回転軸11が一体に突設されている。回転軸11は、ボール・ベアリング13を介して静止側に回転自在に支持されている。クラッチ・ハウジング5の内周面には、一端側から雌スプライン15,17が設けられ、他端側に雌ねじ部19が形成されている。
【0017】
前記クラッチ・ハブ7は、中空円筒状に形成され、クラッチ・ハウジング5の内周側軸心部に配置されている。クラッチ・ハブ7の一端側は、ボール・ベアリング21を介して環状支持部23に回転自在に支持されている。環状支持部23は、クラッチ・ハウジング5の端壁部9の内面25に一体に形成され、油路27を備えている。環状支持部23の外周側には、周回状の凹部29が区画形成されている。環状支持部23の軸方向の端面31は、凹部29を挟んだ外周側の端壁部9の内面25と略面一に形成されている。
【0018】
前記ボール・ベアリング21の軸方向一端面33は、クラッチ・ハブ7外周に取り付けられたスナップ・リング35及び環状支持部23内周の突当面37に突き当てられている。ボール・ベアリング21の他端面39は、環状支持部23の端面31と略面一となっている。
【0019】
前記クラッチ・ハブ7の他端側は、後述する摺動ブッシュ1を介して電磁アクチュエータ53のロータ63に回転自在に支持されている。
【0020】
クラッチ・ハブ7の内周側には、中間部に隔壁41が設けられている。クラッチ・ハブ7は、隔壁41を挟んだ一端側外周に雄スプライン43が設けられている。このクラッチ・ハブ7の一端側には、内外周を貫通する油路45を備えている。前記隔壁41を挟んだ他端側内周には、雌スプライン47が形成されてリヤ・デファレンシャル側のドライブ・ピニオン・シャフトがスプライン係合するようになっている。
【0021】
前記クラッチ・ハウジング5とクラッチ・ハブ7との間には、両者間のトルク伝達を断続制御する電磁クラッチ機構49が設けられている。電磁クラッチ機構49は、断続部としてのメイン・クラッチ51及び電磁アクチュエータ53を備えている。
【0022】
メイン・クラッチ51は、摩擦多板クラッチからなり、交互に配置された複数枚のインナー・プレート55とアウター・プレート57とを備えている。インナー・プレート55は、クラッチ・ハブ7の雄スプライン43にスプライン係合し、アウター・プレート57は、クラッチ・ハウジング5の雌スプライン15にスプライン係合している。
【0023】
軸方向一端に配置されたアウター・プレートは、支持プレート59を構成している。支持プレート59は、内径側に延設されて内端部がボール・ベアリング21に対して軸方向でオーバーラップしている。支持プレート59は、端壁部9の内面25、環状支持部23の端面31及びボール・ベアリング21の他端面39に軸方向で突き当てられている。これにより、支持プレート59は、ボール・ベアリング21の抜け止めを行っている。
【0024】
このようにアウター・プレートを利用した支持プレート59によってボール・ベアリング21の抜け止めを行うことができるため、部品点数並びに加工及び組付作業工数の低減を図ることができコストを低減も図ることができる。
【0025】
前記メイン・クラッチ51は、押圧プレート61の押圧によって締結され、クラッチ・ハウジング5とクラッチ・ハブ7との間のトルク伝達を行う。押圧プレート61は、クラッチ・ハブ7の雄スプライン43にスプライン係合している。押圧プレート61によるメイン・クラッチ51の締結動作は、電磁アクチュエータ53によって制御される。
【0026】
電磁アクチュエータ53は、支持部材としてのロータ63と、電磁石65と、アーマチャ67と、パイロット・クラッチ69とを備えている。
【0027】
ロータ63は、残留磁気を抑制可能な材料である低炭素鋼等からなっている。ロータ63は、略円筒形状に形成され、クラッチ・ハウジング5の軸方向他端を閉止するように配置されている。ロータ63の外周面には、クラッチ・ハウジング5の雌ねじ部19に対応した雄ねじ部71が設けられている。この雄ねじ部71がクラッチ・ハウジング5の雌ねじ部19に螺合されて、クラッチ・ハウジング5に対するロータ63の固定が行われている。
【0028】
ロータ63の雄ねじ部71には、クラッチ・ハウジング5の他端面に当接する緩み規制用のナット73が螺合されている。雄ねじ部71の軸方向内側には、クラッチ・ハウジング5との間を密閉するOリング75が保持されている。
【0029】
前記ロータ63の内周側には、クラッチ・ハブ7の他端側を挿通する挿通孔77が軸方向に貫通形成されている。挿通孔77の軸方向一端側には、拡径された軸受孔79が設けられている。軸受孔79は、後述する摺動ブッシュ1を介してクラッチ・ハブ7の他端側を摺動回転自在に支持する。摺動ブッシュ1の軸方向外側には、ロータ63とクラッチ・ハブ7との間に配置される密閉用のシール89が保持されている。
【0030】
前記ロータ63の内外周間の中間部には、例えばステンレス、アルミ、銅などからなる非磁性リング91が周回状に設けられている。ロータ63の中間部背面側には、周回状の空間部93が設けられている。空間部93内には、電磁石65が収容配置されている。
【0031】
電磁石65は、通電制御に応じて電磁力を発生するもので、磁力線を透過可能なコアとしての支持体95に固定されている。支持体95は、ボール・ベアリング97を介してロータ63側に相対回転自在に支持されていると共に静止側に回転不能に係合している。なお、支持体95は、ロータ63側ではなく、静止側に直接支持しても良い。
【0032】
電磁石65は、ロータ63に対して支持体95の内外周に必要な磁路断面積が確保されたエアギャップを持って配置されている。この電磁石65は、車体側の電源及びコントローラに対して電気的に接続され、通電制御が行われるようになっている。かかる通電制御によって、ロータ63を通る磁路としての磁力線ループが形成される。
【0033】
前記アーマチャ67は、外周側がクラッチ・ハウジング5の雌スプライン17にスプライン係合している。アーマチャ67は、ロータ63を介して電磁石65との間で周回状の磁力線ループを形成する。この磁力線ループの形成により、アーマチャ67は、パイロット・クラッチ69を締結するようにロータ63側へ移動する。
【0034】
パイロット・クラッチ69は、アーマチャ67とロータ63との間に軸方向で対向するように介在されている。パイロット・クラッチ69は、交互に配置された複数枚のインナー・プレートとアウター・プレートを備えている。
【0035】
インナー・プレートは、カム・プレート97の雄スプライン99にスプライン係合し、アウター・プレートは、クラッチ・ハウジング5の雌スプライン99にスプライン係合している。カム・プレート97の背面側は、スラスト・ベアリング101を介して、ロータ63側に当接する構成となっている。カム・プレート97と押圧プレート61との間には、ボール103を備えたカム機構105が設けられている。
(動力伝達)
前記動力伝達装置3は、電磁アクチュエータ53の電磁石65を通電制御することでメイン・クラッチ51を断続する。
【0036】
電磁アクチュエータ53の電磁石65が通電制御されていないときは、パイロット・クラッチ69が非締結状態にある。かかる状態では、メイン・クラッチ51も締結されず、動力伝達装置3がトルク伝達状態にはない。
【0037】
従って、プロペラ・シャフトからクラッチ・ハウジング5に伝達されたトルクは、メイン・クラッチ51で遮断されてドライブ・ピニオン・シャフトへ伝達されることはない。
【0038】
一方、電磁石65が通電制御されると、電磁石65のコアとなる支持体95、ロータ63、アーマチャ67間に磁力線ループが回設され、アーマチャ67とロータ63との間でパイロット・クラッチ69が締結される。
【0039】
パイロット・クラッチ69が締結されると、カム機構105のカム・プレート97が、クラッチ・ハウジング5と一体的に回転してクラッチ・ハブ7と一体的に回転する押圧プレート61との間で相対回転する。このため、カム機構105は、カム・プレート97及び押圧プレート61のカム面にボール103が乗り上げて推力を発生させる。
【0040】
推力は、カム・プレート97がスラスト・ベアリング101を介してロータ63側で受けられ、その反力として押圧プレート61に作用する。このため、押圧プレート61は、メイン・クラッチ51側に移動してメイン・クラッチ51を締結する。かかる締結により、動力伝達装置3は、トルク伝達状態となる。
【0041】
従って、プロペラ・シャフトからクラッチ・ハウジング5へと伝達された駆動力は、メイン・クラッチ51、クラッチ・ハブ7を介してドライブ・ピニオン・シャフトへ伝達される。
[摺動ブッシュ]
次に、本実施例の摺動ブッシュ1について図2及び図3をも参照して説明する。図2は、図1の摺動ブッシュを軸方向から見た要部拡大図、図3は、本発明の実施例1に係る摺動ブッシュの形成工程を示し、(a)は軸受基部を溶盛りした状態であり、(b)は軸受支持面を切削形成した状態である。
(摺動ブッシュの構成)
摺動ブッシュ1は、ロータ63とは異なる材料の銅系材料又はアルミ系材料等からなっている。この摺動ブッシュ1は、図1及び図2のように、ロータ63の軸受孔79内周に周方向に間欠的な周回状に形成されている。すなわち、摺動ブッシュ1は、周方向に分割形成された複数の分割部81からなり、各分割部81は、軸受基部83と軸受支持面85とを備えている。なお、摺動ブッシュは、周方向に連続する周回状に形成して、後述する凹部を省略してもよい。
【0042】
軸受基部83は、軸受孔79内周に肉盛り状に一体形成されている。軸受基部83の内周側は、軸受孔79内周に対して内径側に向けて延設されている。
【0043】
軸受支持面85は、軸受基部83の内周に切削形成されている。軸受支持面85は、クラッチ・ハブ7の外周面に応じた曲率を有し、クラッチ・ハブ7の他端側外周面との間に隙間を有している。かかる隙間によって、軸受支持面85は、クラッチ・ハブ7の外周面との間に油膜を形成するようになっている。従って、軸受支持面85は、クラッチ・ハブ7の外周面を油膜を介して摺接支持する。なお、前記隙間の寸法は、動力伝達装置3の用途に応じて適宜設定することができる。
【0044】
前記分割部81の周方向隣接間には、凹部87が区画形成されている。すなわち、摺動ブッシュ1Aは、周方向所定間隔毎に設けられた凹部87を備えている。なお、凹部は、周方向や軸方向に不規則に設けることも可能である。
【0045】
各凹部87の径方向は、摺動ブッシュ1の軸受支持面85からロータ63の軸受孔79内周にまで至るように形成されている。従って、凹部87は、軸受支持面85に設けられて、摺動ブッシュ1の軸受支持面85及びクラッチ・ハブ7の外周面間の隙間を部分的に径方向に拡げている。なお、凹部は、軸受支持面85からロータ63の軸受孔79内周側に向けて設けられていればよく、軸受孔79内周まで至らなくてもよい。前記凹部87の周方向は、軸受支持面85側から軸受孔79内周側に向けて漸次寸法が小さくなるように形成されている。
(摺動ブッシュの形成方法)
前記摺動ブッシュ1を形成する摺動ブッシュ1の形成方法では、図3(a)のように、軸受孔79内周に軸受基部83を溶盛りする。例えばアーク溶接機を用いたMIGブレージング、TIGブレージング等により、銅系材料又はアルミ系材料からなる基材をロータ63の軸受孔79内周に沿って間欠的に肉盛り溶接する。これにより、各分割部81の肉盛り状の軸受基部83及び分割部81間の凹部87を形成することができる。
【0046】
なお、溶盛りは、基材を溶融して肉盛りすることができればよく、肉盛り溶接以外の方法で行ってもよい。また、基材にアルミ系材料を用いる場合は、軸受孔79内周に予め亜鉛メッキ等を行っておく。銅系材料を用いる場合は、亜鉛メッキ等を省略することができ、作業工数を削減することができる。
【0047】
次いで、図3(b)のように、溶盛りした各分割部81の軸受基部83内周に軸受支持面85を切削形成する。例えば旋盤や内径研削盤により、軸受基部83内周をクラッチ・ハブ7に応じて切削する。これにより、クラッチ・ハブ7外周面に摺接するように精度出しされた軸受支持面85を形成することができる。なお、軸受支持面85は、ロータ63の各内径面と共に同一工程のうちに形成されることで製造過程における加工工数が削減される。
【0048】
形成された摺動ブッシュ1は、軸受支持面85の切削形成精度を直接クラッチ・ハブ7の支持精度とすることができ、軸受孔79の公差の影響を無くしてクラッチ・ハブ7の支持精度を向上することができる。
[実施例1の効果]
本実施例の摺動ブッシュ1では、ロータ63の軸受孔79内周に肉盛り状に一体形成された軸受基部83と、該軸受基部83内周に形成されてクラッチ・ハブ7に支持する軸受支持面85とを備えたため、軸受孔79の公差に拘わらず、軸受支持面85の形成精度を直接クラッチ・ハブ7の支持精度とすることができる。
【0049】
従って、本実施例の摺動ブッシュ1では、軸受孔79の公差の影響を無くしてクラッチ・ハブ7の支持精度を向上させることができ、クラッチ・ハブ7を安定して支持することができる。
【0050】
また、摺動ブッシュ1は、軸受支持面85とクラッチ・ハブ7の外周面との隙間を凹部87によって部分的に拡げることができる。この結果、前記隙間に油膜を形成する潤滑オイルの撹拌抵抗との関係で、クラッチ・ハブ7の回転に対する摩擦を低減することができる。
【0051】
本実施例の摺動ブッシュ1の形成方法では、軸受孔79内周に軸受基部83を溶盛りし、軸受基部83内周にクラッチ・ハブ7に応じて軸受支持面85を切削形成するため、容易且つ確実しかも安価に摺動ブッシュ1の軸受支持面85の形成精度を直接クラッチ・ハブ7の支持精度として、クラッチ・ハブ7の支持精度を向上させることができる。
【0052】
また、軸受支持面85の切削形成と同時にクラッチ・ハブ7に対する精度出しを行うことができ、より安価且つ容易にクラッチ・ハブ7の支持精度を向上することができる。
【0053】
さらに、本実施例では、摺動ブッシュ1に対する軸受孔79の公差の影響を無くすことができるため、軸受孔79内周の加工精度を低減させることができ、ロータ63の製造性をも向上させることができる。
【0054】
本実施例では、軸受孔79内周に複数の分割部81の軸受基部83を間欠的に溶盛りするため、容易且つ確実に摺動ブッシュ1に凹部87を形成することができながら材料使用量の減少によるコスト低減をも図ることができる。
【0055】
また、一般にロータ63を構成する低炭素鋼は摺動において不利な材料であり、また透過磁束の漏洩を抑制する必要もあることから、摺動ブッシュ1はロータ63とは別材料で形成する必要がある。かかる場合であっても、本実施例では、ロータ63側に摺動ブッシュ1を一体に形成することで、部品点数や圧入等の組付作業工数を削減することができ、組付作業性やコスト低減も図ることができると共に摺動ブッシュ1に銅系又はアルミ系の材料を用いた場合には磁束の漏洩を抑制することができる。
【0056】
本実施例では、摺動ブッシュ1が銅系材料又はアルミ系材料からなるため、クラッチ・ハブ7の支持を確実に行わせることができる。摺動ブッシュ1がアルミ系材料である場合には、耐油性を向上させることができ汎用性を向上することができる。
【0057】
本実施例の摺動ブッシュ1を備えた動力伝達装置3は、クラッチ・ハブ7の安定支持及びクラッチ・ハブ7の回転に対する摩擦低減の結果として、動作を安定させて性能向上を図ることができる。
【実施例2】
【0058】
図4は、本発明の実施例2に係る摺動ブッシュを示す断面図である。なお、本実施例は上記実施例1と基本構成が共通しており、対応する構成部分には同符号或いは同符号にAを付して詳細な説明を省略する。
【0059】
本実施例では、摺動ブッシュ1Aを螺旋状に形成したものである。すなわち、摺動ブッシュ1Aは、軸受基部83Aが、ロータ63の軸受孔79内周に対して軸心周りに螺旋状に形成されている。軸受基部83Aは、その螺旋形状によって軸方向で隣接する部分間に凹部87Aが形成している。すなわち、摺動ブッシュ1Aは、軸心周りに螺旋状に形成された凹部87Aを備えている。
【0060】
本実施例の摺動ブッシュ1Aの形成方法では、まず軸受孔79内周に軸受基部83Aを螺旋状に溶盛りして、螺旋状の軸受基部83A及び螺旋状の凹部87Aを同時に形成する。次いで、溶盛りした軸受基部83A内周に軸受支持面85Aを切削形成する。
【0061】
従って、本実施例では、上記実施例と同様の作用効果を奏することができると共に、軸受基部83Aを螺旋状に溶盛りすることで、容易且つ確実に凹部87Aを形成することができる。
【実施例3】
【0062】
図5は、本発明の実施例3に係る摺動ブッシュを示す断面図である。なお、本実施例は上記実施例2と基本構成が共通しており、対応する構成部分には同符号或いは同符号にBを付して詳細な説明を省略する。
【0063】
本実施例は、上記実施例2の螺旋状の摺動ブッシュ1Aに代えて、周回状の摺動ブッシュ1Bに螺旋状の凹部87Bを形成したものである。
【0064】
すなわち、摺動ブッシュ1Bは、肉盛り状の軸受基部83が、ロータ63の軸受孔79内周に対して周方向に連続して形成されている。軸受基部83Bの内周には、軸受支持面85Bが切削形成されている。この軸受支持面85Bには、軸心周りに螺旋状に形成された凹部87Bが形成されている。
【0065】
本実施例の摺動ブッシュ1Bの形成方法では、まず軸受孔79内周に軸受基部83Bを周回状に連続して溶盛りし、軸受基部83B内周に軸受支持面85Bを切削形成する。次いで、軸受支持面85Bに、油溝となる螺旋状の凹部87Bを切削形成する。なお、切削形成される油溝は、螺旋状に限られるものではない。
【0066】
従って、本実施例においても、上記実施例と同様の作用効果を奏することができる。
[その他]
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各種の変更が可能である。
【0067】
例えば、上記実施例では電磁クラッチ機構を備えた動力伝達装置に摺動ブッシュ1、1A、1Bを適用していたが、これに代えてビスカス・カップリング等の動力伝達装置にも適用することができる。
【0068】
その他、摺動ブッシュ1、1A、1Bは、例えば左右輪に対してトルク伝達するLSD等のデファレンシャル装置にも適用することができる。この場合は、摺動ブッシュ1、1A、1Bをアルミ系材料によって形成することで、潤滑油としてのLSD油やハイポイド・ギヤ油に対する耐油性を確保することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 摺動ブッシュ(滑り軸受)
3 動力伝達装置
5 クラッチ・ハウジング(回転部材の他方、外回転部材)
7 クラッチ・ハブ(回転部材の一方、内回転部材)
49 電磁クラッチ機構
63 ロータ(支持部材)
79 軸受孔
83 軸受基部
85 軸受支持面
87 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部材の軸受孔内周に設けられて回転部材を支持するための滑り軸受であって、
前記支持部材の軸受孔内周に肉盛り状に一体形成された軸受基部と、
該軸受基部内周に形成されて前記回転部材を支持する軸受支持面と、
を備えたことを特徴とする滑り軸受。
【請求項2】
請求項1記載の滑り軸受であって、
前記軸受支持面は、前記回転部材との間を拡げる凹部を備えた、
ことを特徴とする滑り軸受。
【請求項3】
請求項2記載の滑り軸受であって、
前記凹部は、周方向所定間隔毎に設けられた、
ことを特徴とする滑り軸受。
【請求項4】
請求項2記載の滑り軸受であって、
前記凹部は、軸心周りに螺旋状に形成された、
ことを特徴とする滑り軸受。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の滑り軸受であって、
前記軸受基部は、銅系材料からなる、
ことを特徴とする滑り軸受。
【請求項6】
請求項1〜4の何れかに記載の滑り軸受であって、
前記軸受基部は、アルミ系材料からなる、
ことを特徴とする滑り軸受。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の滑り軸受であって、
前記支持部材は、一対の回転部材間のトルク伝達を断続制御する電磁クラッチ機構に用いられて制御用の磁路を形成するためのロータであり、前記一対の回転部材の一方を前記軸受支持面で支持する、
ことを特徴とする滑り軸受。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の滑り軸受を備えた動力伝達装置であって、
相対回転自在に支持された内外回転部材と、
該内外回転部材間のトルク伝達を断続制御する電磁クラッチ機構と、
該電磁クラッチ機構に設けられて制御用の磁路を形成するためのロータとを備え、
前記支持部材は、前記ロータであり、前記外回転部材に取り付けられて前記内回転部材を前記軸受支持面で支持する、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項9】
請求項1記載の滑り軸受を形成する滑り軸受の形成方法であって、
前記軸受孔内周に前記軸受基部を溶盛りし、
前記軸受基部内周に前記回転部材に応じて前記軸受支持面を切削形成する、
ことを特徴とする滑り軸受の形成方法。
【請求項10】
請求項2又は3記載の滑り軸受を形成する滑り軸受の形成方法であって、
前記軸受孔内周に前記軸受基部を間欠的に溶盛りし、
前記軸受基部内周に前記回転部材に応じて前記軸受支持面を切削形成する、
ことを特徴とする滑り軸受の形成方法。
【請求項11】
請求項2又は4記載の滑り軸受を形成する滑り軸受の形成方法であって、
前記軸受孔内周に軸受基部を螺旋状に溶盛りし、
前記軸受基部内周に前記回転部材に応じて前記軸受支持面を切削形成する、
ことを特徴とする滑り軸受の形成方法。
【請求項12】
請求項2又は4記載の滑り軸受を形成する滑り軸受の形成方法であって、
前記軸受孔内周に前記軸受基部を溶盛りし、
前記軸受基部内周に前記回転部材に応じて前記軸受支持面を切削形成し、
前記軸受支持面に螺旋状の凹部を切削形成する、
ことを特徴とする滑り軸受の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−276178(P2010−276178A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131805(P2009−131805)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(000225050)GKNドライブラインジャパン株式会社 (409)
【Fターム(参考)】