説明

潜像形成フィルム、潜像識別キット及び潜像識別方法

【課題】意匠性に富み、偽造が困難であり、且つ真正性識別を目視でも機械でも容易に行うことが可能な潜像形成フィルムを提供すること。
【解決手段】反射層と、前記反射層の表面に配置され、入射偏光の楕円率を変化させると同時に入射偏光の方位を回転させる偏光変換回転層とを備えることを特徴とする潜像形成フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜像形成フィルム、潜像識別キット及び潜像識別方法に関し、より詳しくは、カード、商品券、金券、切符、紙幣、パスポート、身分証明書、証券、公共競技投票券等の対象物の偽造を防止するための真正性識別媒体として有用な潜像形成フィルム、潜像識別キット並びに潜像識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、クレジットカードや証書、金券類の偽造を防止する方法として、偽造防止対象物に偽造の困難な真正性識別媒体を貼付し、これを目視又は機械的に真正性を判定する方法が知られている。このような真正性識別媒体としては、ホログラムや液晶性フィルムが開発されている。
【0003】
ホログラムに関する技術としては、文字や絵柄をホログラム像として、目視判定するもの、数値コードや特定のパターンをホログラム像として、機械認識するもの及び両者の組み合わせたもの等がある。このようなホログラム像は、通常のカラーコピー装置等では複製できず偽造防止に有効であること、意匠性が高いこと、製造が困難なこと等から、広く普及してきている。しかしながら、このようなホログラムは、近年のホログラム製造技術の普及に伴って、偽造品製造が可能となってきており、偽造防止効果が低下している。
【0004】
また、液晶性フィルムに関する技術としては、例えば、特開昭63−51193号公報(特許文献1)には、コレステリック液晶性高分子よりなり、且つコレステリック液晶構造が固定化されたフィルムを表面の少なくとも一部に有するカードが開示されている。このようなコレステリック液晶フィルムを用いる方法は、コレステリック液晶の持つ選択反射性と円偏光選択性という2つの特性を1つの媒体に真正性識別のための情報として組み込むことができる上に、コレステリック液晶を量産性に富んだ形で固定化することが困難であるので、偽造防止に優れた方法である。また、特開平8−43804号公報(特許文献2)には、基体上に配向層と、それと接触した架橋した液晶単量体の異方性層とから構成された層状構造体を有する光学的構成部品であって、その基体が鏡面又は散乱反射体を含む光学的構成部品が開示されており、明細書中において、光学的異方性を有するネマチック液晶等を用いる方法が開示されている。しかしながら、これらの液晶性フィルムは、偽造が困難であるが、実施者自身が量産することも困難であるため、真正性識別媒体として普及していなかった。
【特許文献1】特開昭63−51193号公報
【特許文献2】特開平8−43804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、意匠性に富み、偽造が困難であり、且つ真正性識別を目視でも機械でも容易に行うことが可能な潜像形成フィルム及び潜像識別キット、並びにこれらを用いた潜像識別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、反射層と、前記反射層の表面に配置され、入射偏光の楕円率を変化させると同時に入射偏光の方位を回転させる偏光変換回転層とを備える潜像形成フィルムは、入射偏光の楕円率を変化させる特性と、入射偏光の方位を回転させる特性という二つの特性を1つの媒体に真正性識別のための情報として組み込むことができるため、意匠性に富み、偽造が困難であること、並びに、このような潜像形成フィルムは、直線偏光板を用いることで真正性識別を目視でも機械でも容易に行うことが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の潜像形成フィルムは、反射層と、前記反射層の表面に配置され、入射偏光の楕円率を変化させると同時に入射偏光の方位を回転させる偏光変換回転層とを備えることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の潜像形成フィルムにおいては、前記偏光変換回転層が、ねじれネマチック配向構造となるように固定化された液晶分子を含有する層であることが好ましい。
【0009】
さらに、本発明の潜像形成フィルムにおいては、前記偏光変換回転層が、70℃以上のガラス転移点を有する高分子液晶を液晶状態においてねじれネマチック配向させた後に固定化させて得られた層であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の潜像形成フィルムにおいては、前記ねじれネマチック配向構造における螺旋構造の螺旋ピッチが2μm以上であり、且つ前記螺旋構造のピッチ数が2未満であることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明の潜像形成フィルムにおいては、前記偏光変換回転層の光学的ねじれ角が85〜275°の範囲であり、且つ光学的リターデーションが450〜700nmの範囲であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の潜像形成フィルムにおいては、前記偏光変換回転層の光学的ねじれ角が265〜365°の範囲であり、且つ光学的リターデーションが750〜1100nmの範囲であることが好ましい。
【0013】
本発明の潜像識別キットは、前記潜像形成フィルムと、吸収軸方位が異なる複数の直線偏光板からなる識別器具とを備えることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の潜像識別方法は、前記潜像形成フィルム上に吸収軸方位が異なる複数の直線偏光板からなる識別器具を配置した際に、前記複数の直線偏光板を通して観察される複数の潜像の光の波長をそれぞれ観察し、前記潜像の光の波長の組み合わせにより潜像を識別することを特徴とする方法である。
【0015】
なお、本明細書において、ねじれネマチック配向構造とは、液晶分子の対称軸の方向が自発的にある方向にそろっており巨視的に異方性を示し、且つ液晶分子が層法線方向を螺旋軸とする螺旋構造をとる配向構造であって、しかもモーガン条件(Mauguin Condition)をほぼ満たし、可視光のブラッグ反射を生じない配向構造のことをいう。そして、液晶事典(日本学術振興会情報科学有機材料第142委員会液晶部会編、培風館、ISBN4-563-03453-3)においても、ねじれネマチック液晶相とコレステリック液晶相とが、発現する光学特性が異なることから明確に区別されているように、本明細書におけるねじれネマチック配向構造は、コレステリック配向構造と明確に区別される構造である。すなわち、コレステリック配向構造は、螺旋構造の螺旋ピッチが可視光の波長程度(400〜800nm)であって、可視光のブラッグ反射を生じる構造である。これに対し、ねじれネマチック配向構造は、例えば、螺旋構造の螺旋ピッチが2μm以上であり、且つ螺旋構造のピッチ数が2未満である構造のように、モーガン条件をほぼ満たし、可視光のブラッグ反射を生じない構造である。
【0016】
また、本明細書において、螺旋ピッチとは、偏光変換回転層において液晶分子が層法線方向を螺旋軸として一回転(360°回転)するのに要する層法線方向における長さをいう。そして、ピッチ数とは、偏光変換回転層の層法線方向に含まれる螺旋ピッチの総数をいう。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、意匠性に富み、偽造が困難であり、且つ真正性識別を目視でも機械でも容易に行うことが可能な潜像形成フィルム及び潜像識別キット、並びにこれらを用いた潜像識別方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0019】
先ず、本発明の潜像形成フィルムについて説明する。すなわち、本発明の潜像形成フィルムは、反射層と、前記反射層の表面に配置され、入射偏光の楕円率を変化させると同時に入射偏光の方位を回転させる偏光変換回転層とを備えることを特徴とするものである。
【0020】
本発明にかかる反射層は、後述する偏光変換回転層から入射した光を反射する層である。このような反射層の材質としては、光を反射することができる材質であればよく特に限定されないが、例えば、アルミニウム、銀、金、クロム、ニッケル、スズ等の金属;ITO(インジウム添加酸化スズ)、ZnO(酸化亜鉛)、Al(アルミナ)、SiOもしくはSiO(シリカ)、ZnS(硫化亜鉛)、TiO(チタニア)等の誘電体を挙げることができる。また、このような反射層としては、層表面又は層内部に模様等が施されているものを用いてもよく、例えば、ホログラムフィルム、回折格子、誘電体多層膜、誘電体−金属多層膜を用いてもよい。
【0021】
本発明にかかる偏光変換回転層は、前記反射層の表面に配置され、入射偏光の楕円率を変化させると同時に入射偏光の方位を回転させる層である。本発明の潜像形成フィルムは、このような偏光変換回転層を備えるために、意匠性に富み、偽造が困難であり、且つ真正性識別を目視でも機械でも容易に行うことが可能なものとなる。すなわち、本発明の潜像形成フィルムの表面に直線偏光板を配置した場合には、自然光(非偏光)が直線偏光板を通って偏光となり偏光変換回転層に入射する。そして、偏光変換回転層から入射した偏光が反射層により反射されて偏光変換回転層から出射される。また、偏光変換回転層を偏光が通る際には、偏光の楕円率が変化すると共に偏光の方位が回転するため、偏光変換回転層から出射した光は直線偏光板を通して特定の波長の光、すなわち潜像の光として観察される。さらに、潜像形成フィルムの表面に配置された直線偏光板を回転させた場合には、直線偏光板の吸収軸方位に応じて様々な波長の潜像の光が観察される。
【0022】
本発明の潜像形成フィルムにおいては、このように直線偏光板の吸収軸方位に応じて様々な波長の潜像の光が観察されることを利用して、真正性識別を行うことができる。また、このような潜像の光は特定の波長の光であり、目視でも色として観察することができるため、真正性識別を目視でも機械でも容易に行うことが可能となる。
【0023】
さらに、このような潜像の光は、入射偏光の楕円率を変化させる度合いと、入射偏光の方位を回転させる度合いとを適宜選択することにより様々な設計ができるため、意匠性に富んでいる。また、本発明の潜像形成フィルムを自然光(非偏光)の下で観察した場合には、非偏光を構成するそれぞれの偏光の楕円率は変化し、偏光の方位は回転するものの、非偏光はすべての方位に向いた振動面を持つ一連の波によって特性付けられるような光であるために、通常では潜像の存在を確認することはできない。そのため、本発明の潜像形成フィルムは、意匠性に富み、偽造が困難なものとなる。
【0024】
本発明においては、このような偏光変換回転層が、ねじれネマチック配向構造となるように固定化された液晶分子を含有する層であることが好ましい。また、このような偏光変換回転層においては、前記ねじれネマチック配向構造における螺旋構造の螺旋ピッチが2μm以上(好ましくは、2〜30μmの範囲)であり、且つ前記螺旋構造のピッチ数が2未満(好ましくは、0.15〜1の範囲)であることが好ましい。螺旋ピッチが2μm未満では、モーガン条件を満たさなくなり、本発明で必要とする偏光方位の回転(旋光効果)が得られなくなり、また可視光においてブラッグ反射による回折光が生じてしまう傾向がある。また、ピッチ数が2を超えると、ピッチ数の測定及び工業的な制御が困難となり、また本発明の目的とする潜像の鮮やかな発色が得られにくくなる傾向がある。
【0025】
また、本発明においては、このような偏光変換回転層の光学的ねじれ角や光学的リターデーションを適宜選択することにより、入射偏光の楕円率を変化させる度合いと、入射偏光の方位を回転させる度合いとを調整することができる。なお、このような光学的ねじれ角は、偏光変換回転層の層法線方向を螺旋軸として液晶分子がねじれている角度のことをいう。また、このような光学的リターデーション(Δnd)は、前記偏光変換回転層の厚み(d)と複屈折率(Δn)との積で表されるパラメータをいう。なお、ここでいう複屈折率(Δn)は、異常光に対する屈折率(n)から常光に対する屈折率(n)を引いた値(Δn=n−n)を表す。
【0026】
また、このような偏光変換回転層においては、光学的ねじれ角が85〜275°の範囲である場合には、前記偏光変換回転層の光学的リターデーションが450〜700nmの範囲であることが好ましい。光学的リターデーションが前記範囲内である場合には、潜像の光が鮮やかな発色を示す傾向にあるため、特に目視による潜像識別が容易となる傾向にある。
【0027】
また、光学的ねじれ角が265〜365°の範囲である場合には、光学的リターデーションが750〜1100nmの範囲であることが好ましい。光学的リターデーションが前記範囲内である場合には、潜像の光が鮮やかな発色を示す傾向にあるため、特に目視による潜像識別が容易となる傾向にある。
【0028】
このような偏光変換回転層を作製する方法としては、例えば、液晶材料を含有する溶液を配向基板上に塗布して、液晶状態においてねじれネマチック配向させた後に、液晶分子の配向構造を固定化する方法を採用することができる。また、このような液晶材料としては、液晶分子がねじれネマチック配向構造となるものであればよく、高分子液晶と低分子液晶のいずれも使用できる。さらに、このように液晶分子の配向構造を固定化する方法としては、液晶材料として70℃以上のガラス転移点を有する高分子液晶を用いる場合には、液晶状態においてねじれネマチック配向させた後に冷却する方法が挙げられる。また、液晶材料として低分子液晶を用いる場合には、液晶状態においてねじれネマチック配向させた後に、例えばエネルギー線照射により架橋させる方法が挙げられる。
【0029】
このような高分子液晶としては、例えば、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリカーボネート系、ポリイミド系等の主鎖型高分子液晶;ポリアクリレート系、ポリメタクリレート系、ポリマロネート系、ポリシロキサン系の側鎖型高分子液晶が挙げられる。また、高分子の構成単位としては、例えば芳香族又は脂肪族ジオール単位、芳香族又は脂肪族ジカルボン酸単位、芳香族又は脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位を好適な例として挙げられる。
【0030】
また、このような低分子液晶としては、飽和ベンゼンカルボン酸誘導体類、不飽和ベンゼンカルボン酸誘導体類、ビフェニルカルボン酸誘導体類、芳香族オキシカルボン酸誘導体類、シッフ塩基誘導体類、ビスアゾメチン化合物誘導体類、アゾ化合物誘導体類、アゾキシ化合物誘導体類、シクロヘキサンエステル化合物誘導体類、ステロール化合物誘導体類等の末端に反応性官能基を導入した液晶性を示す化合物や、前記化合物誘導体類のなかで液晶性を示す化合物に架橋性化合物を添加した組成物等が挙げられる。
【0031】
さらに、液晶状態において形成させた配向構造を熱架橋や光架橋で固定化する場合においては、熱又は光によって架橋反応し得る官能基又は部位を有している液晶材料を含有させることが好ましい。このような官能基としては、例えば、アクリル基、メタクリル基、ビニル基、ビニルエーテル基、アリル基、アリロキシ基、グリシジル基等のエポキシ基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、アゾ基、ジアゾ基、アジド基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、低級エステル基が挙げられ、特にアクリル基、メタクリル基が好ましい。また、前記架橋反応し得る部位としては、マレイミド、マレイン酸無水物、ケイ皮酸及びケイ皮酸エステル、アルケン、ジエン、アレン、アルキン、アゾ、アゾキシ、ジスルフィド、ポリスルフィド等の分子構造を含む部位等が挙げられる。また、これら架橋基及び架橋反応部位は、液晶材料を構成する液晶物質自身に含まれていてもよいが、架橋性基又は部位をもつ非液晶性物質を別途液晶材料に添加してもよい。
【0032】
また、このような液晶材料を含有する溶液は、液晶状態において液晶分子をねじれネマチック配向させるための光学活性化合物を更に含むことが好ましい。このような光学活性化合物としては、光学活性な低分子化合物又は高分子化合物を挙げることができる。光学活性を有する化合物であればいずれも本発明に使用することができるが、高分子液晶との相溶性の観点から光学活性な液晶性化合物であることが望ましい。
【0033】
また、前記液晶材料を含有する溶液には、塗布を容易にするために適宜公知の界面活性剤を加えてもよい。さらに、前記液晶材料を含有する溶液には、得られる液晶フィルムの耐熱性等を向上させるために、液晶相の発現を妨げない程度のビスアジド化合物やグリシジルメタクリレート等の架橋剤等を添加し、後の工程で架橋することもできる。
【0034】
また、このような液晶材料を含有する溶液の調製に用いる溶媒としては、特に制限されず、例えば、クロロホルム、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、オルソジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、これらとフェノール類との混合溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、スルホラン、シクロヘキサン等の極性溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、用いる液晶材料の種類等に応じて適宜好適なものを選択して使用することができ、必要により適宜混合して使用してもよい。また、このような溶液の濃度は、液晶材料の分子量や溶解性等に応じて適時選択することができる。
【0035】
また、このような配向基板としては、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、トリアセチルセルロース、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のフィルム、又はこれらのフィルムの一軸延伸フィルム等を用いることができる。これらのフィルムはその製造方法によっては改めて配向能を発現させるための処理を行わなくとも液晶材料に対して十分な配向能を示すものもあるが、配向能が不十分、又は配向能を示さない等の場合には、適度な加熱下に延伸する処理、フィルム面をレーヨン布等で一方向に擦るいわゆるラビング処理、フィルム上にポリイミド、ポリビニルアルコール、シランカップリング剤等の公知の配向剤からなる配向膜を設けるラビング処理、酸化珪素等の斜方蒸着処理、及び、これらを適宜組み合わせた処理等を必要により適宜施したフィルムを用いてもよい。
【0036】
塗布方法については、塗膜の均一性が確保される方法であればよく、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。このような塗布方法としては、例えば、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、カーテンコート法、スピンコート法等を挙げることができる。また、塗布の後に、ヒーターや温風吹きつけ等の方法による溶媒除去(乾燥)工程を入れてもよい。
【0037】
また、配向基板上に液晶分子を固定化した後においては、配向基板と偏光変換回転層との界面においてロール等を用いて機械的に剥離する方法、構造材料すべてに対する貧溶媒に浸漬した後機械的に剥離する方法、貧溶媒中で超音波をあてて剥離する方法、配向基板と偏光変換回転層との熱膨張係数の差を利用して温度変化を与えて剥離する方法、配向基板そのもの、又は配向基板上の配向膜を溶解除去する方法等によって、偏光変換回転層の単体(以下、場合により「ねじれネマチック液晶フィルム」という)を得ることができる。
【0038】
そして、本発明の潜像形成フィルムは、前記反射層の表面に以上説明したような偏光変換回転層を積層することにより得られる。
【0039】
次に、本発明の潜像識別キットについて説明する。すなわち、本発明の潜像識別キットは、前記潜像形成フィルムと、吸収軸方位が異なる複数の直線偏光板からなる識別器具とを備えることを特徴とするものである。
【0040】
本発明にかかる識別器具は、吸収軸方位が異なる複数の直線偏光板からなるものである。一方、以上説明したように本発明の潜像形成フィルムは、直線偏光板の吸収軸方位に応じて様々な波長の潜像の光が観察されることを利用して真正性識別を行うものである。そのため、このような識別器具を前記潜像形成フィルム上に配置した場合には、複数の直線偏光板の吸収軸方位に応じて、複数の潜像の光を同時に観察することができる。そして、このようにして同時に観察される潜像の光の波長の組み合わせは、識別される潜像形成フィルム特有のものであるため、潜像の光の波長の組み合わせにより真正性識別をより簡便に行うことが可能となる。
【0041】
また、このような識別器具にかかる直線偏光板の数は2以上であればよく特に制限されない。さらに、このような識別器具にかかる直線偏光板の吸収軸方位は、特に限定されないが、特に目視による潜像識別を容易とするという観点から、次のようにして決定することが好ましい。すなわち、直線偏光板の吸収軸方位に応じて観察される潜像の光の波長をあらかじめ観察しておき、潜像の光の波長が赤、オレンジ、黄、黄緑、緑、青緑、青、紫等のように比較的に目視にて識別しやすい色となるような吸収軸方位に決定するとよい。
【0042】
次に、本発明の潜像識別方法について説明する。すなわち、本発明の潜像識別方法は、前記潜像形成フィルム上に吸収軸方位が異なる複数の直線偏光板からなる識別器具を配置した際に、前記複数の直線偏光板を通して観察される複数の潜像の光の波長をそれぞれ観察し、前記潜像の光の波長の組み合わせにより潜像を識別することを特徴とする方法である。
【0043】
このような潜像識別方法においては、先ず、図1に示すような潜像形成フィルムを準備する。図1に示すように潜像形成フィルムを自然光(非偏光)の下で観察した場合には、潜像の存在を確認することはできない。
【0044】
このような潜像識別方法においては、次に、図2に示すように潜像形成フィルム上に吸収軸方位が異なる複数の直線偏光板からなる識別器具を配置する。このようにして、複数の直線偏光板を通して観察される複数の潜像の光の波長(色)をそれぞれ観察することができる。そして、図2に示すように、潜像の光の波長の組み合わせにより真正性識別を行うことができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
(試験例1)
シンテック社製液晶表示器設計シミュレータ「LCD Master」を用い、ねじれネマチック配向構造となるように固定化された液晶分子を含有する層(以下、場合により「ねじれネマチック液晶フィルム」という)の光学的リターデーションと光学的ねじれ角とを変化させた場合における潜像の光の波長の変化(色の変化)を検討した。具体的には、反射面(鏡面)の上にねじれネマチック液晶フィルム、吸収型偏光板を順次設置し、偏光板上方より非偏光光源(D65光源を仮定)を照射した際に得られる反射スペクトルを計算し、CIE x−y座標上にプロットした。液晶材料にはメルク社製ZLI−2293の物性データを元に、複屈折波長分散値(波長450nmと波長590nmにおける複屈折率Δnの比(Δn(450)/Δn(590))が1.13となるように調整したデータを用いた。また、偏光板としては住友化学社製EG1425DUを用いた。
【0047】
そして、ねじれネマチック液晶フィルムの光学的ねじれ角としては0度から360度の範囲、光学的リターデーションの範囲としては0nmから1000nmの範囲について反射スペクトルを計算した。また、各ねじれ角とリターデーションの組み合わせにおいて、偏光板吸収軸を0度から90度まで回転し、この場合に得られる反射スペクトルの色軌跡をx−y座標上にプロットした。
【0048】
なお、潜像の光を鮮やかな色とし、目視による潜像識別を容易とするという観点から、x−y座標上では白色原点(0.3101,0.3163)からの距離が大きな位置にプロットされることが好ましい。また、白色原点を中心に円状の軌跡となることで、赤、オレンジ、黄、黄緑、緑、青緑、青、紫といった様々な色相が得られることから、白色原点を取り囲む円状の色軌跡となるようにリターデーション及びねじれ角を決定することがより好ましい。このような観点で上記試験結果を整理した結果を図3に示す。図3に示した結果からも明らかなように、光学的ねじれ角が85〜275°の範囲である場合には、光学的リターデーションが450〜700nmの範囲であることが好ましく、また、光学的ねじれ角が265〜365°の範囲である場合には、光学的リターデーションが750〜1100nmの範囲であることが好ましいことが確認された。
【0049】
(実施例1)
反射層としては、アルミホイル(住軽アルミ箔株式会社製、製品名「マイホイル」)を用い、偏光変換回転層としては、ねじれネマチック液晶フィルム(新日本石油株式会社製、「日石LCフィルム」シリーズ、波長590nmでの光学的リターデーション:500nm、光学的ねじれ角:240°)を用いて、アルミホイル上にねじれネマチック液晶フィルムが積層された本発明の潜像形成フィルムを作製した。
【0050】
すなわち、ねじれネマチック液晶フィルムの液晶層が形成されている面に、透明粘着剤をラミネータにより0.7cm/分の速度で気泡が入らないように貼付した。次いで、透明粘着剤の保護フィルムを剥がし、およそ20cm×30cm程度の長方形に切り出したアルミホイルに、ラミネータにより0.7cm/分の速度で皺にならないように貼付して、本発明の潜像形成フィルムを作製した。
【0051】
次に、直線偏光板(サンリッツ株式会社製、製品名「HLC2−5618」)を準備し、直線偏光板の吸収軸が、緑色観察用では+160°、青色観察用では+150°、赤色観察用では+25°になるように、2cm×3cmの長方形に合計3枚切り出した。そして、2cm×6cmの窓を開けたボール紙の上に、これらの直線偏光板の長辺同士が接するようにならべ、同サイズの窓が開いたボール紙でサンドイッチして、ボール紙の余白部分を糊付けすることで固定して識別器具を作製した。
【0052】
得られた潜像形成フィルムを肉眼で観察したところ、アルミホイルの銀色の反射以外には一切の色は見えず、潜像の光は確認されなかった。次に、判別器具を潜像形成フィルム上に密着するように配置し、識別器具を通して観察される複数の潜像の光を観察したところ、鮮やかな緑、青、赤の色の組合せが確認された。したがって、本発明の潜像識別キットによれば、真正性識別を目視でも機械でも容易に行うことが可能であることが確認された。
【0053】
(実施例2)
反射層として、アルミホイルに代えて市販の装飾用ホログラムフィルムを用いた以外は実施例1と同様にして本発明の潜像形成フィルムを作製した。
【0054】
そして、得られた潜像形成フィルムを肉眼で観察したところ、ホログラムの地色の銀色の他にホログラムの干渉による色が図柄に応じて観察されたが、潜像の光は確認されなかった。次に、実施例1と同様にして得られた判別器具を潜像形成フィルム上に密着するように配置し、識別器具を通して観察される複数の潜像の光を観察したところ、ホログラムの図柄の他に、鮮やかな緑、青、赤の色の組合せが確認された。したがって、本発明の潜像識別キットによれば、反射層としてホログラムを用いた場合においても、真正性識別を目視でも機械でも容易に行うことが可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上説明したように、本発明によれば、意匠性に富み、偽造が困難であり、且つ真正性識別を目視でも機械でも容易に行うことが可能な潜像形成フィルム及び潜像識別キット、並びにこれらを用いた潜像識別方法を提供することが可能となる。
【0056】
したがって、本発明の潜像形成フィルムは、カード、商品券、金券、切符、紙幣、パスポート、身分証明書、証券、公共競技投票券等の対象物の偽造を防止するための真正性識別媒体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の潜像形成フィルムにより非偏光が反射されている状態を示す写真である。
【図2】本発明の潜像形成フィルム上に吸収軸方位が異なる複数の直線偏光板からなる識別器具を配置することによって、潜像の光が形成されている状態を示す写真である。
【図3】ねじれネマチック液晶フィルムのリターデーション及びねじれ角と潜像の光が鮮やかな発色となる範囲との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射層と、前記反射層の表面に配置され、入射偏光の楕円率を変化させると同時に入射偏光の方位を回転させる偏光変換回転層とを備えることを特徴とする潜像形成フィルム。
【請求項2】
前記偏光変換回転層が、ねじれネマチック配向構造となるように固定化された液晶分子を含有する層であることを特徴とする請求項1に記載の潜像形成フィルム。
【請求項3】
前記偏光変換回転層が、70℃以上のガラス転移点を有する高分子液晶を液晶状態においてねじれネマチック配向させた後に固定化させて得られた層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の潜像形成フィルム。
【請求項4】
前記ねじれネマチック配向構造における螺旋構造の螺旋ピッチが2μm以上であり、且つ前記螺旋構造のピッチ数が2未満であることを特徴とする請求項2又は3に記載の潜像形成フィルム。
【請求項5】
前記偏光変換回転層の光学的ねじれ角が85〜275°の範囲であり、且つ光学的リターデーションが450〜700nmの範囲であることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の潜像形成フィルム。
【請求項6】
前記偏光変換回転層の光学的ねじれ角が265〜365°の範囲であり、且つ光学的リターデーションが750〜1100nmの範囲であることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の潜像形成フィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の潜像形成フィルムと、吸収軸方位が異なる複数の直線偏光板からなる識別器具とを備えることを特徴とする潜像識別キット。
【請求項8】
請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の潜像形成フィルム上に吸収軸方位が異なる複数の直線偏光板からなる識別器具を配置した際に、前記複数の直線偏光板を通して観察される複数の潜像の光の波長をそれぞれ観察し、前記潜像の光の波長の組み合わせにより潜像を識別することを特徴とする潜像識別方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−116839(P2008−116839A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−301886(P2006−301886)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】