説明

潜在捲縮性繊維

【課題】熱収縮工程において緩やかなコイル状捲縮が発現しやすい潜在捲縮性繊維を提供すること。
【解決手段】潜在捲縮性繊維は、偏芯の芯鞘構造を有し、芯を構成する樹脂として、鞘を構成する樹脂よりも熱収縮率の大きいものが用いられている。また潜在捲縮性繊維は、偏芯の芯鞘構造を有し、芯を構成する樹脂として、鞘を構成する樹脂よりも融点の低いものが用いられている。芯を構成する樹脂及び鞘を構成する樹脂として、両者の相溶性が低いものが用いられると効果が顕著になる。潜在捲縮性繊維は、熱が付与されることで三次元的なコイル状捲縮をして収縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜在捲縮性繊維に関する。また本発明は、該潜在捲縮性繊維を原料として用いた不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は先に、第1層とこれに隣接する第2層とを有し、第1層と第2層とが所定パターンの接合部によって部分的に接合されており、該接合部間で第1層が三次元的立体形状をなし、第2層がエラストマー的挙動を示す材料で構成されており、シート全体がエラストマー的挙動を示すと共に通気性を有する立体シート材料を提案した(特許文献1参照)。この立体シート材料は、その表面に多数の凹凸部を有している。そしてこの立体シート材料は、これを平面方向へ伸長させた場合の回復性及び厚み方向へ圧縮させたときの圧縮変形性が十分となる。この立体シート材料の伸長に対する回復性や、圧縮に対する変形性を高める目的で、該シート材料の第2層には、捲縮した状態の潜在捲縮性繊維が含まれている。
【0003】
潜在捲縮性繊維としては例えば、ポリプロピレンを第一成分とし、エチレン−プロピレンランダム共重合体及びエチレン−ブテン−プロピレン三元共重合体を第二成分とし、両成分がサイドバイサイド型または芯鞘型の複合繊維を構成しているものが知られている(特許文献2参照)。この潜在捲縮性繊維は、加熱処理を施して捲縮を発現させると、嵩高で弾性回復に優れた性能を示すと記載されている。
【0004】
しかし、この潜在捲縮性繊維を例えば前記の立体シート材料の第2層の構成繊維として用いた場合、下層の厚みが十分とは言えず、より嵩高に風合いを良くしたいという要求があった。下層の厚みが十分とならない原因の一つは、繊維中の熱収縮性の大きい樹脂が繊維の表面にあることによる。具体的には、熱収縮処理工程において、外側の収縮性の大きい樹脂が内側に位置する様に捲縮することに起因して捩れの力が大きく作用し、比較的半径の小さい微細なコイル状捲縮を発現しやすいからである。また、融点が低い樹脂が外側になるため、隣接する繊維同士が熱融着し、半径の小さい微細なコイル状捲縮が発現し、繊維層の厚みが小さくなるからである。
【0005】
また、前記の潜在捲縮性繊維中の第一成分と第二成分との間の相溶性が低い場合には、繊維の収縮中に図5に示すように両成分間で剥離が生じ、その剥離度合いが温度により大きく変化するため、温度の変化と共に伸長性が大きく変化してしまう。その結果、生産スピードの増減や季節による処理実温度の振れに起因して伸長物性が大きく振れるので、安定生産上好ましくない。
【0006】
【特許文献1】特開2002−187228号公報
【特許文献2】特開平2−191720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る潜在捲縮性繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、偏芯の芯鞘構造を有し、芯を構成する樹脂として、鞘を構成する樹脂よりも熱収縮率の大きいものを用いた潜在捲縮性繊維を提供することにより前記目的を達成したものである。
【0009】
また本発明は、偏芯の芯鞘構造を有し、芯を構成する樹脂として、鞘を構成する樹脂よりも融点の低いものを用いた潜在捲縮性繊維を提供することにより前記目的を達成したものである。
【0010】
また本発明は、前記の潜在捲縮性繊維を原料として用いた不織布を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の潜在捲縮性繊維は、熱収縮工程において緩やかなコイル状捲縮が発現しやすいので、これを用いた不織布は繊維層の厚みが大きくなる。また本発明の潜在捲縮性繊維は、融点が高い樹脂が外側になるので、熱収縮温度を幅広く設定することが可能となる。従って、これを用いた不織布の製造においては、製造条件の幅が広がり、温度の振れに対して安定生産が出来るという利点がもたらされる。更に本発明の潜在捲縮性繊維を用いた不織布は、より嵩高で風合いが良く、外観が良好となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1(a)には本発明の潜在捲縮性繊維の断面構造が示されている。本発明の潜在捲縮性繊維は、それぞれ熱可塑性樹脂からなる芯成分及び鞘成分から構成される芯鞘型の複合繊維である。図1(a)に示すように、芯成分は繊維の芯部Cを構成している。一方、鞘成分は繊維の鞘部Sを構成している。芯部Cと鞘部Sとはその重心の位置がずれている。つまり図1(a)に示す複合繊維は偏芯の芯鞘型の繊維である。
【0013】
図1(a)に示すように、芯部Cは鞘部Sによって実質的に内包されている。従って繊維の表面には、芯部Cを構成する芯成分は露出していない。尤も、芯部Cを構成する芯成分が繊維の表面に露出していないことは本発明において必須のことではなく、芯部Cと鞘部Sとで実質的に芯鞘構造が形成されていれば、例えば図1(b)に示すように芯成分が繊維の表面に一部露出していてもよい。
【0014】
本発明の潜在捲縮性繊維は、芯成分及び鞘成分の熱収縮率によって特徴付けられる。詳細には、芯成分の熱収縮率と鞘成分の熱収縮率とを比較すると、芯成分の熱収縮率の方が鞘成分の熱収縮率よりも大きくなっている。これに対して、従来の偏芯タイプの芯鞘型の潜在捲縮性繊維では、鞘成分の熱収縮率の方が芯成分の熱収縮率よりも大きくなっていた。つまり、本発明の潜在捲縮性繊維は、芯成分と鞘成分の熱収縮率の大小関係が、従来の潜在捲縮性繊維と正反対になっている。このようにした理由は次の通りである。
【0015】
偏芯タイプの芯鞘型複合繊維は、芯成分と鞘成分との熱収縮性の差を利用して、繊維に三次元的なコイル状の捲縮を発現させている。従来は、潜在捲縮性繊維の鞘部に熱収縮性の大きい樹脂を用いることで、発現する捲縮を細かい形状とし、繊維の見掛け収縮率を大きくし、三次元的なコイル状の捲縮を発現させることで、潜在捲縮性繊維を用いた不織布の伸長性は大きくなると考えられてきた。ところが、芯成分と鞘成分との相溶性が低い場合には、熱収縮性の大きい樹脂を鞘部に用いると、捲縮時に両成分間で剥離が生じ、熱収縮性の大きい樹脂のみ直線状に収縮し、繊維長全体が三次元的なコイル状捲縮を発現しにくくなることが本発明者らの検討の結果判明した。特に、繊維がその長さ方向全体にわたって三次元的なコイル状捲縮を発現しない場合には、そのコイル状捲縮に由来する伸長性が発現しない。そこで本発明においては、熱収縮性の大きい樹脂を芯部に用いることで、実質的にほとんど熱収縮しない鞘成分の中で芯成分を収縮させることにより、三次元的なコイル状捲縮の発現時に、芯成分と鞘成分との剥離を防止し、繊維長全体にわたり十分な三次元的なコイル状捲縮が発現するようにしている。更に、この繊維の長さ方向全体に発現する捲縮のコイル形状が緩くなるようにしている。
【0016】
以上の説明から明らかなように、本発明の潜在捲縮性繊維は、それを構成する芯成分と鞘成分との相溶性が低い場合に特にその効果が顕著になる。この観点から本発明においては、繊維中の芯成分と鞘成分との熱収縮性に十分な差があることを条件として、芯成分及び鞘成分としては相溶性の低い樹脂の組み合わせを用いることが好ましい。相溶性が低いとは、例えば溶解度パラメータSPの差が1.3(cal/cm31/2以下の樹脂の組み合わせをいい、そのような組み合わせの場合に本発明を用いると、捲縮時に芯成分と鞘成分とが剥離することが防止され、十分なコイル状捲縮が発現するという効果が一層顕著なものになる。
【0017】
熱収縮性に十分な差があり、且つ相溶性の低い樹脂の組み合わせとしては、例えば線状低密度ポリエチレン(LLDPE)とポリプロピレン(PP)との組み合わせ、LLDPEとポリエチレンテレフタレート(PET)等が挙げられる。LLDPEとPPとの組み合わせの場合、前述の溶解度パラメータSPの差は、1.3(cal/cm31/2となる。
【0018】
本発明において、芯成分及び鞘成分の熱収縮性の程度は、熱応力測定装置(カネボウエンジニアリング(株)社製)を用いて測定される。具体的には、110dtexの繊維束を用いて昇温速度1℃/secで加熱し、樹脂の収縮率を測定する。
【0019】
本発明の潜在捲縮性繊維は、芯成分及び鞘成分の融点によっても特徴付けられる。詳細には、芯成分の融点と鞘成分の融点とを比較すると、芯成分の融点の方が鞘成分の融点よりも低くなっている。これに対して、従来の偏芯タイプの芯鞘型の潜在捲縮性繊維、例えば前記の特許文献1に記載の繊維では、鞘成分の融点の方が芯成分の融点よりも低くなっていた。つまり、本発明の潜在捲縮性繊維は、芯成分と鞘成分の融点の高低関係が、従来の潜在捲縮性繊維と正反対になっている。このようにした理由は次の通りである。
【0020】
従来の偏芯タイプの芯鞘型複合繊維である潜在捲縮繊維は、これに所定温度の熱を付与することでその構成樹脂の熱収縮率の差によって三次元的なコイル状捲縮を発現させるとともに、見掛けの繊維長(即ち、自由長の両末端間距離)を短くさせている。その温度(以下、熱収縮温度という)は一般に、鞘成分の樹脂の融点近傍の温度である。従って、従来の潜在捲縮繊維を用いた不織布などの繊維集合体は、熱収縮処理を施すと、繊維集合体中の繊維の鞘部が軟化ないし溶融することによって、隣接する繊維同士が熱融着し、十分な三次元的なコイル状捲縮が発現していたとしても、そのコイル状捲縮に由来する伸長性が発現しない。また、捲縮の際に、繊維集合体中の繊維の鞘部が軟化ないし溶融することに起因して、両成分間で剥離が著しく起こり、繊維長全体が三次元的なコイル形状を発現せず、そのコイル状捲縮に由来する伸長性が発現しない。とりわけ、芯成分と鞘成分との相溶性が低い場合には、繊維集合体中の繊維の鞘成分の融点近傍で熱収縮を起こさせると、両成分間で剥離が一層生じやすくなる。そこで本発明においては、融点の低い樹脂を芯部に用い、その周囲を融点の高い樹脂で取り囲むことで、熱収縮時に低融点樹脂が軟化ないし溶融して剥離が起こりやすい状態が生じても、低融点樹脂の周囲を取り囲む高融点樹脂によってその剥離を防止し、十分なコイル状捲縮が発現するようにしている。
【0021】
本発明においては、融点の低い樹脂を芯部に用い、その周囲を融点の高い樹脂で取り囲むことで、潜在捲縮性繊維の熱収縮温度を幅広く設定できるという利点もある。このことは、本発明の潜在捲縮性繊維を原料として用いた不織布の製造において、製造条件の自由度が増すという利点をもたらす。融点の低い樹脂を鞘部に用い、融点の高い樹脂を芯部に用いていた従来の潜在捲縮性繊維では、熱収縮温度を鞘部の融点以上にすると鞘部の樹脂の軟化ないし溶融が甚だしくなり、首尾良くコイル状捲縮を発現させることが容易ではなかった。
【0022】
芯成分の樹脂の融点と、鞘成分の樹脂の融点の差に特に制限はないが、捲縮の発現の高さや、繊維の紡糸のしやすさの点から、30〜135℃、特に45〜120℃であることが好ましい。
【0023】
芯成分及び鞘成分それぞれの融点は、示差走査熱量計DSC6200(セイコーインスツルメンツ株式会社製)を用いて測定される。具体的には、細かく裁断した繊維試料(サンプル質量1mg)の熱分析を昇温速度10℃/minで行い、樹脂の融解ピーク温度を測定する。その融解ピーク温度を融点と定義する。
【0024】
なお、融点が低い樹脂の方が熱収縮性が高い場合もある。従って本発明は、偏芯タイプの芯鞘型複合繊維からなる潜在捲縮性繊維において、芯成分の熱収縮率が鞘成分の熱収縮率よりも高く、且つ芯成分の融点が鞘成分の融点よりも低いという実施形態を包含する。
【0025】
本発明の潜在捲縮性繊維は、その収縮前は三次元的なコイル状捲縮が発現していない状態になっており、発現していても捲縮数(25.4mm当たりの山の数)が10〜20前後の二次元的な機械捲縮をごく僅かに有してているだけである。従って、通常の繊維と同様に取り扱うことが可能で、ウェブを形成させることが出来る。そして、熱収縮温度以上の熱が付与されることで収縮し三次元的なコイル状捲縮が発現する。捲縮の態様は、芯部Cと鞘部Sとの面積比や配置関係によって様々であるが、典型的な捲縮の態様はコイル状に三次元的に捲縮する態様である。本発明の潜在捲縮性繊維は、その収縮後は捲縮数が40〜100前後の三次元的なコイル状捲縮を発現する。
【0026】
本発明の潜在捲縮性繊維における芯部Cと鞘部Sとの比率(繊維断面の面積比、前者:後者)は3:7〜7:3、特に4:6〜6:4であることが好ましい。この範囲内であれば繊維の力学特性が十分となり、実用に耐え得る繊維となる。また芯部Cと鞘部Sの剥離を生じることなく、コイル状捲縮を発現させることが可能になる。
【0027】
本発明の潜在捲縮性繊維は、二系統の押出装置を備えた紡糸装置を用い製造される。潜在捲縮性繊維の太さは、その具体的用途に応じて適切な値が選択される。一般的な範囲として、捲縮が発現する前の太さが1.0〜10dtex、特に1.7〜8.0dtexであることが、繊維の紡糸性やコスト、カード機通過性、生産性、コスト等の点から好ましい。
【0028】
本発明の潜在捲縮性繊維は、公知の溶融紡糸法によって製造することができる。紡糸装置は二系統の押出装置及び紡糸口金を備えている。押出機及びギアポンプによって溶融された各樹脂成分は、吐出量(体積)を制御され、紡糸口金内で合流しノズルから吐出される。紡糸口金の形状は、目的とする複合繊維の形態に応じて適切なものが選択される。紡糸口金の直下には巻取装置が設置されており、ノズルから吐出された溶融樹脂が所定速度で引き取られる。
【0029】
本発明の潜在捲縮繊維は、その熱収縮前は通常の繊維と同様に取り扱うことができ、またその熱収縮後は所定形状の捲縮が発生することから、この性質を利用して、例えば熱収縮前の潜在捲縮性繊維を原料として不織布を製造し、不織布の製造中又は製造後に熱を付与して潜在捲縮性繊維を捲縮を発現させ収縮させることで、該不織布に種々の特性を付与することができる。
【0030】
例えば図2(a)及び(b)には、本発明の潜在捲縮性繊維を原料として用いた不織布の一例の断面が模式的に示されている。不織布10は、一方の面を含む第1層11と、他方の面を含む第2層12とを有する2層構造のものである。第1層11及び第2層12は、それぞれ繊維集合体からなる。そして、第2層12の原料として本発明の潜在捲縮性繊維が用いられている。第2層12において、潜在捲縮性繊維はその捲縮が発現した状態になっている(以下の説明では、捲縮が発現した本発明の潜在捲縮繊維を、捲縮繊維と呼ぶ)。第1層11及び第2層12は、互いに積層されて部分的に接合されている。第1層11と第2層12との接合部13は、熱及び/又は圧力の作用によって図示のように圧密化されて不織布10の他の部位よりも厚みが小さくなっている。これによって第1層11側には、所定のパターンで分散配置された多数の凸部15と、接合部13の位置に形成された多数の凹部14とが存在しており、これらの凸部15及び凹部14により不織布10の第1層11の表面に凹凸形状が形成されている。
【0031】
第1層11及び第2層12の構成繊維は、その交点において接合されているか、又は接合されていない状態になっている。交点において繊維どうしが接合されている場合、その接合様式としては、例えばエアスルー法による熱融着や、接着剤による接着などが挙げられる。第2層12に含まれている捲縮繊維はそれらどうしが接合しておらず、絡み合いによってシート化されていることが好ましい。これによって捲縮繊維間の自由度が高くなり、厚さ方向の圧縮回復性及び平面方向の伸長性が向上する。
【0032】
不織布10においては、第2層12よりも第1層11の方が、密度(繊維密度)が低くなっていることが好ましい。つまり、第2層12よりも第1層11の方が疎な構造になっていることが好ましい。これによって、第1層11の側に形成されている凸部15が嵩高なものとなり、不織布10全体としてのクッション性が良好になり、風合いが向上する。また例えば、不織布10を吸収性物品の表面シートとして用い、且つ第1層11を肌当接面側に配置した場合、表面シート上に排出された液が、第1層11内に素早く吸収され、しかも第1層11内に吸収された液が疎密勾配によりスムーズに第2層12に移行するので、液が表面シートの表面に残ることに起因するむれの発生、痒みやかぶれ、不快感等を効果的に防止することができる。
【0033】
不織布10の風合い及びクッション性の観点から、第1層11の見掛け厚みは、0.5mm〜2.0mm、特に1.0mm〜2.0mmであることが好ましい。第2層12の見掛け厚みは、0.5〜2.0mm、特に0.7〜1.0mmであることが好ましい。見掛け厚みの測定方法は、不織布10において、繊維配向方向(不織布の製造時の流れ方向)に平行で且つ接合部13を通る線で不織布10の切断面を作る。デジタルHFマイクロスコープ(株式会社キーエンス社製、VH−8000)を用いて、不織布10の切断面の拡大写真を得る。この切断面の拡大写真にスケールを合わせ、第1層部及び第2層部の厚みを測定し、これをそれぞれ第1層及び第2層の見掛け厚みとする。
【0034】
具体的な用途にもよるが、不織布10は、その坪量が40〜110g/m2、特に50〜90g/m2であることが好ましい。不織布10を構成する各層に関しては、第1層11の坪量は20〜55g/m2、特に25〜45g/m2であることが好ましい。第2層12の坪量は20〜55g/m2、特に25〜45g/m2であることが好ましい。
【0035】
先に述べた通り、第2層12は捲縮繊維を含んでいる。第2層12は捲縮繊維のみから構成されていてもよく、或いは他の繊維を含んでいてもよい。他の繊維としては、例えば通常の熱可塑性繊維や、レーヨン等の再生繊維、コットン等の天然繊維が挙げられる。捲縮繊維に加えて他の繊維が含まれている場合、他の繊維の配合量は、第2層12全体に対して1〜50重量%、特に5〜30重量%であることが好ましい。
【0036】
一方、第1層11の構成繊維としては、例えば通常の熱可塑性繊維や、レーヨン等の再生繊維、コットン等の天然繊維が挙げられる。特に好ましい繊維は、同心の芯鞘型の熱融着性繊維である。また、第1層11は、第2層に含まれる捲縮繊維と同種又は異種の捲縮繊維を含んでいてもよい。
【0037】
図2に示す不織布10は以下に述べる方法で好適に製造される。先ず、第1層11及び第2層12を構成する繊維集合体をそれぞれ製造する。かかる繊維集合体としては、例えばウエブや不織布を用いることができる。不織布は、例えばエアスルー法、ヒートロール法(熱エンボス法)、エアレイド法、メルトブローン法などによって製造される。ウエブは例えばカード機によって製造される。特に、第1層11を構成する繊維集合体として不織布を用い、第2層12を構成する繊維集合体としてウエブを用いることが好ましい。第2層12を構成するウエブには、本発明の潜在捲縮繊維が含まれている。
【0038】
次いで、第2層12を構成する繊維集合体上に、第1層11を構成する繊維集合体を重ね、これらを所定のパターンで部分的に接合する。両者を接合する方法は、少なくとも第1層11の厚みが他の部位よりも減少した接合部13を形成できる限り各種の方法を用いることができる。例えば、熱エンボス又は超音波エンボスが好ましい。接合部13は、図2に示すように、互いに独立した散点状のものであっても良いし、直線状や曲線状(連続波形等を含む)、格子状、ジグザグ形状等であっても良い。接合部13を散点状に配置する場合の各接合部の形状は、円形状、三角形状、四角形状等、任意の形状とすることができる。
【0039】
接合された第1層11と第2層12に対して、熱を付与し、第2層12に含まれる潜在捲縮繊維に捲縮を発現させて収縮させる。捲縮の発現によって、接合部13間に位置する第2層12の構成繊維が収縮し、第2層12の繊維密度が高くなる。この収縮に伴い、接合部13間に位置する第1層11の構成繊維は、平面方向への行き場を失い厚み方向へ移動する。これによって、接合部13間が隆起して、繊維密度の低い嵩高な凸部15が形成される。また凸部15間、即ち接合部13の位置に、繊維密度の高い凹部が形成される。このようにして、第1層側の表面が凹凸形状となっており、且つ第1層11側から第2層12側に向けて繊維密度が高くなって構造の不織布10が得られる。このような不織布の製造方法の詳細は、例えば本出願人の先の出願に係る特開2002−187228号公報や特開2004−202890号公報に記載されている。
【0040】
潜在捲縮性繊維の収縮の際には、芯成分及び鞘成分として、前述の熱収縮率及び/又は融点を有する樹脂の組み合わせが用いられているので、これらの成分が剥離することが防止される。その結果、第2層12の収縮が十分に行われ、繊維密度の低い嵩高な凸部15が容易に形成される。また、潜在捲縮性繊維の捲縮に起因して、第2層に十分な伸長性が付与される。
【0041】
このようにして得られた不織布10は、例えば生理用ナプキンやパンティライナ、使い捨ておむつなどの各種吸収性物品の表面シート、外科用衣類、清掃シート等の各種の用途に用いることができる。不織布10を、特に吸収性物品の表面シートとして用いると、肌触りが良好で装着感に優れた吸収性物品を得ることができる。不織布10を表面シートとして用いる場合には、第1層側が、使用者の肌に接するように配されることが、肌触りを一層良好にする観点から好ましい。
【0042】
以上の説明は、本発明の潜在捲縮性繊維を用いた2層構造の不織布に係るものであったが、本発明の潜在捲縮性繊維を用いた不織布は2層構造に限られない。例えば不織布を単層構造とすることもでき、或いは3層以上の多層構造とすることもできる。単層構造とする場合には、捲縮繊維が50重量%以上、特に70重量%以上含まれていることが好ましい。捲縮繊維100%から構成されていてもよい。3層以上の多層構造とする場合には、少なくとも最外層に捲縮繊維が含まれていることが、滑らかさの一層の向上の点から好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
【0044】
〔実施例1−1〜1−3及び比較例2−1〜2−3、3−1〜3−3、4−1〜4−3〕
二系統の押出装置を備えた紡糸装置を用いて製造された複合繊維からなる潜在捲縮性繊維は、芯部と鞘部の面積比は5:5であった。繊維径は2.3dtexであった。この繊維を51mmの短繊維に切断した。繊維の詳細は表1及び表2に示す通りである。この繊維を用い、以下の(1)−(3)の方法で、図2に示す2層構造の不織布を製造した。
【0045】
(1)第1層の繊維集合体の製造
表1及び表2に示す繊維(2.3dtex×51mm)を原料としてカード法によって坪量20g/m2のウエブを製造した。熱エンボスロール(145℃±10℃)を用いてウエブを熱エンボス加工し、第1層の繊維集合体を製造した。エンボス面積率は28%であった。
【0046】
(2)第2層の繊維集合体の製造
表1及び表2に示す潜在捲縮性繊維を原料としてカード法によって坪量20g/m2の第2層の繊維集合体を製造した。
【0047】
(3)不織布の製造
第1層の繊維集合体と第2層の繊維集合体とを重ね合わせ、超音波エンボス法によって両繊維集合体を部分的に接合し積層体を得た。エンボスによる各接合部の形状は直径2mmの円形であり、エンボスパターンは図2(a)に示す通りであった。長手方向及び幅方向に隣接する各接合部の中心間距離は7mmであった。熱風炉において積層体に表1及び表2に示す温度の熱風を5〜10秒間エアスルー方式で吹き付けて熱収縮処理を行った。これによって第2層の繊維集合体に含まれる潜在捲縮性繊維を捲縮させて各繊維集合体をその面内方向に収縮させた。その結果、第1層の繊維集合体から形成される第1層においては接合点間において凸部が多数形成された。熱収縮処理中、積層体の長手方向及び幅方向を把持してその収縮を長手方向及び幅方向ともに70%に規制し、収縮後の面積が収縮前の面積の49%になるようにした。このようにして得られた不織布はその坪量が表1及び表2に示す通りであった。
【0048】
〔評価〕
このようにして得られた不織布について、第2層に含まれる繊維の捲縮状態を顕微鏡観察した。コイル状捲縮が発現している場合を「○」とし、発現していない場合を「×」とする。また、芯成分と鞘成分との剥離の有無を確認し、剥離が起きている場合を「○」とし、剥離が起きていない場合を「×」とする。また、不織布の長手方向(MD)及び幅方向(CD)について100gf引張伸度を以下の方法で測定し、更に不織布の断面を顕微鏡観察し、第1層及び第2層の見掛け厚みを先に述べた方法で測定した。これらの結果を表1及び表2に示す。更に、実施例1−1〜1−3及び比較例1−1〜1−3で得られた不織布における第2層の顕微鏡写真を図3及び図4に示す。
【0049】
〔100gf引張伸度の測定方法〕
引張・圧縮試験機(株式会社エー・アンド・デイ、RTA-100)を用い引張モードで測定した。先ず、不織布10を80mm×25mmの大きさに裁断し試験片を採取する。試験片を引張・圧縮試験機に装着されたエアーチャック間に初期試料長(チャック間距離)を30mmでセットし、引張・圧縮試験機のロードセル(定格出力5kg)に取り付けられたチャックを300mm/分の速度で上昇させ、試験片を伸長させる。この一連の操作によって、長手方向(MD)及び幅方向(CD)における100gf引張伸度を求める。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
表1及び表2に示す結果から明らかなように、各実施例の不織布は比較例の不織布に比べて、第2層の厚みが大きいことが判る。また、表1及び表2並びに図3及び図4に示す結果から明らかなように、比較例2−1〜2−3、3−1〜3−3では、熱収縮温度の違いによって芯成分と鞘成分の剥離状態が変化することに起因して、コイル状捲縮の発現の程度が相違することが判る。それによって、表1及び表2に示す結果から明らかなように、不織布の伸長性が大きく変化している。これに対し実施例1−1〜1−3では、熱収縮温度が違っても剥離は起こらず、その結果、不織布の伸長性が安定している。つまり、剥離の有無に起因して、各実施例の不織布は、比較例の不織布に比べて、広い範囲の熱収縮温度で引張伸度が安定化しており、また第2層の厚みが大きいことが判る。
【0053】
〔実施例5−1〜5−3及び比較例6−1〜6−3、7−1〜7−3、8−1〜8−3〕
二系統の押出装置を備えた紡糸装置によって製造された複合繊維からなる潜在捲縮性繊維は、芯部と鞘部の面積比は5:5であった。繊維径は2.3dtexであった。この繊維を51mmの短繊維に切断した。繊維の詳細は表3及び表4に示す通りである。この繊維を原料として用い、カード法によって坪量20g/m2のウエブを製造した。超音波エンボス法によってこのウエブにエンボス加工を施した。エンボスによる各接合部の形状は直径2mmの円形であり、エンボスパターンは図2(a)に示す通りであった。長手方向および幅方向に隣接する各接合部の中心間距離は7mmであった。エンボス加工が施されたウエブを熱風炉に入れ、表3及び表4に示す温度の熱風を5〜10秒間エアスルー方式で吹き付けて熱収縮処理を行った。これによってウエブに含まれる潜在捲縮性繊維を捲縮させてウエブをその面内方向に収縮させた。熱収縮処理中、ウエブの長手方向及び幅方向を把持してその収縮を長手方向及び幅方向ともに70%に規制し、収縮後の面積が収縮前の面積の49%になるようにした。このようにして得られた不織布は単層構造のものであり、その坪量が表3及び表4に示す通りであった。
【0054】
〔評価〕
このようにして得られた単層構造の不織布について、実施例1−1等と同様にして繊維の捲縮状態及び剥離の有無を観察し、また引張伸度(MDのみ)を測定した。これらの結果を表3及び表4に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
表3及び表4に示す結果から明らかなように、比較例6−1〜6−3、7−1〜7−3では、熱収縮温度の違いによって芯成分と鞘成分の剥離状態が変化することに起因して、コイル状捲縮の発現の程度が相違し、それによって不織布の伸長性が大きく変化している。これに対し実施例5−1〜5−3では、熱収縮温度が違っても剥離は起こらず、その結果、不織布の伸長性が安定している。つまり、この剥離の有無に起因して、各実施例の不織布は、比較例の不織布に比べて、広い範囲の熱収縮温度で引張伸度が安定化している。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1(a)及び(b)はそれぞれ、本発明の潜在捲縮性繊維の断面構造を示す模式図である。
【図2】図2(a)は、本発明の潜在捲縮性繊維を原料とする2層構造の不織布を示す斜視図であり、図2(b)は図2(a)における厚さ方向の断面図である。
【図3】図3(a)ないし(c)は、実施例1−1〜1−3で得られた不織布における第2層の顕微鏡写真である。
【図4】図4(a)ないし(c)は、比較例1−1〜1−3で得られた不織布における第2層の顕微鏡写真である。
【図5】図5は、従来の偏芯タイプの芯鞘型複合繊維からなる潜在捲縮性繊維が捲縮時に剥離した状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0059】
C 芯部
S 鞘部
10 不織布
11 第1層
12 第2層
13 接合部
14 凹部
15 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏芯の芯鞘構造を有し、芯を構成する樹脂として、鞘を構成する樹脂よりも熱収縮率の大きいものを用いた潜在捲縮性繊維。
【請求項2】
偏芯の芯鞘構造を有し、芯を構成する樹脂として、鞘を構成する樹脂よりも融点の低いものを用いた潜在捲縮性繊維。
【請求項3】
芯を構成する樹脂及び鞘を構成する樹脂として、両者の相溶性が低いものを用いた請求項1又は2記載の潜在捲縮性繊維。
【請求項4】
熱が付与されることで三次元的なコイル状捲縮が起こり収縮する請求項1ないし3の何れかに記載の潜在捲縮性繊維。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れかに記載の潜在捲縮性繊維を原料として用いた不織布。
【請求項6】
一方の面を含む第1層と、他方の面を含む第2層とを有し、両層が部分的に接合されて第1層側に多数の凸部及び凹部が形成されており、第2層に捲縮した状態の前記潜在捲縮性繊維が含まれている請求項5記載の不織布。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−177335(P2007−177335A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−373831(P2005−373831)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】