説明

潤滑油組成物、グリース組成物、およびグリース封入軸受

【課題】高温高速耐久性に優れ、長時間使用可能であり、水素脆性による転がり軸受などの転走面での剥離も防止し得る潤滑油組成物およびグリース組成物を提供する。
【解決手段】グリース封入軸受1は、内輪2および外輪3と、複数の転動体4とを備え、この転動体の周囲にグリース組成物7を封止するためのシール部材6を内輪2および外輪3の軸方向両端開口部8a、8bに設けてなり、該グリース組成物7は、基油と増ちょう剤と添加剤とを含み、上記添加剤は、カロテノイド類(アスタキサンチン、リコペン、β−カロテン、カプサイシン、カプサンチンなど)、天然物由来の有機硫黄化合物(アリシン、アリイン、アホエン、イソチオシアネートなど)、サポニン、イソフラボン、グルタチオン、クマリンなどの物質を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑に用いるグリース組成物および潤滑油組成物に関し、特に、添加剤として、所定の天然系物質などを含有するグリース組成物、および潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、軸受用潤滑剤としては、潤滑油組成物またはグリース組成物が多用されている。これらの潤滑油組成物またはグリース組成物の主成分となる基油としては、鉱油、ポリ−α−オレフィン(以下、PAOと記す)油、エステル油、シリコーン油、エーテル油などの合成油が一般的に使用されている。また、増ちょう剤としては、金属石けんやウレア化合物が一般的に使用されている。
【0003】
自動車における電装部品や補機、産業機械におけるモータは、年々小型化や高性能、高出力が求められており、使用条件が厳しくなってきている。これらには、転がり軸受が使用されており、その潤滑には主としてグリース組成物が用いられている。ところが、高温下での高速回転等使用条件が過酷になることで、転がり軸受の転走面に白色組織変化を伴った特異的な剥離が早期に生じるおそれがある。この特異的な剥離は、通常の金属疲労により生じる転走面内部からの剥離と異なり、転走面表面の比較的浅いところから生じる破壊現象である。これは、グリース組成物の分解などによって発生する水素が原因の水素脆性による剥離と考えられている。このような早期に発生する白色組織変化を伴った特異な剥離現象を防ぐ方法として、例えば、グリース組成物に不動態化剤を添加する方法が知られている(特許文献1参照)。また、グリース組成物にビスマスジチオカーバメートを添加する方法が知られている(特許文献2参照)。
【0004】
また、近年において、家電や産業機器などに使用されるモータ軸受は、高温高速回転で使用され、静音性、高温高速耐久性に優れていることが要求されている。従来、高温耐久性に優れ、冷時異音を抑え、高温高荷重下での剥離性に優れたグリース組成物として、合成炭化水素油とエステル油とからなる基油にウレア系増ちょう剤などを配合した組成物が知られている(特許文献3および特許文献4参照)。また、高温高速回転条件における焼き付き寿命が長い潤滑組成物として、基油にエステル油を含み、脂肪族ジウレア化合物を必須とした増ちょう剤を3〜30重量%含む組成物が知られている(特許文献5参照)。
【0005】
一方、電子写真装置を用いた複写機や印刷機(プリンター)には、感光ドラム、各種ローラなどの回転部品を回転自在に支持するため軸受が多用されている。感光ドラムは、表面に静電荷潜像を形成し、これにトナーを帯電付着させて転写するものである。電子写真装置の分野では、求められる回転精度が高いことから、転がり軸受が使用されてきた。しかし、転がり軸受は部品点数が多く、経済的な理由から安価なすべり軸受の適用も試みられてきた。このようなすべり軸受として、焼結含油軸受が挙げられる。
【0006】
焼結含油軸受は、焼結した軸受成形品の気孔中に潤滑油組成物を含浸保持させ、その使用時に潤滑油組成物を摺動面に滲出させることによって、長期間安定した摩擦特性を得るようにしたものである。このような焼結軸受の成形品は、通常、鉄、銅、亜鉛、錫、黒鉛、ニッケルなど、もしくはこれらを組み合わせた合金製の微粉粒を、混合、圧縮成形、焼成、サイジングなどの処理を施して得られ、均一な多孔質組織を有する。また、焼結した軸受成形品に含浸する潤滑油組成物としては、鉱油、ジエステル油、PAO油、エーテル油などの合成油(特許文献6参照)が知られている。このような材料で構成される焼結含油軸受は、一般に、その製造コストが転がり軸受に比べて安価である。このため、複写機や印刷機の用途においても最近の小型化、高速印刷などの高性能化に伴う機器内部の高温雰囲下での使用に対応できる軸受として利用範囲が拡がりつつある。
【0007】
以上のような各種軸受に用いられる潤滑油組成物やグリース組成物には、高温耐久性向上のために、酸化防止剤として、アルキルジチオりん酸亜鉛などの有機亜鉛化合物や、アルキル化ジフェニルアミンなどのアミン系化合物などを単独で、または、複数種類を組み合わせて用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3−210394号公報
【特許文献2】特開2005−42102号公報
【特許文献3】特開平9−208982号公報
【特許文献4】特開平11−270566号公報
【特許文献5】特開2001−107073号公報
【特許文献6】特開平5−209623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3〜特許文献5のような潤滑(グリース)組成物を使用する場合や、これらに従来の酸化防止剤を組み合わせて添加する場合でも、近年の自動車の電装部品や補機、家電や産業機器などにおいて高温高速回転で使用される軸受に封入した際に、高温高速耐久性について性能を満足させることができない場合がある。
【0010】
また、近年、自動車における電装部品や補機、産業機械におけるモータ等では、高温下で、高速運転−急減速運転−急加速運転−急停止が頻繁に行なわれる等ますます転がり軸受の使用条件が過酷化され、特許文献1の不動態化剤や特許文献2のビスマスジチオカーバメートを添加する方法では剥離現象を防ぐ対策として不十分になってきている。
【0011】
また、特許文献6に記載された従来の焼結含油軸受を、120〜130℃またはこれ以上の高温雰囲気下で使用すると、潤滑油組成物の酸化劣化などの経時的変化が早く起こるおそれがある。このため、使用開始後の早期に回転軸のトルクが上昇したり、焼き付きが生じるおそれがある。
【0012】
本発明は以上のような問題に対処するためになされたものであり、高温高速耐久性に優れ、長時間使用可能であり、水素脆性による転がり軸受などの転走面での剥離も防止し得る潤滑油組成物およびグリース組成物の提供を目的とする。また、該グリース組成物を封入してなるグリース封入軸受の提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の潤滑油組成物は、基油と添加剤とを含み、上記添加剤は、カロテノイド類、天然物由来の有機硫黄化合物、サポニン、イソフラボン、グルタチオン、およびクマリンから選ばれた少なくとも一つの物質を含有することを特徴とする。また、上記物質が、天然物由来のものであることを特徴とする。
【0014】
上記潤滑油組成物において、上記カロテノイド類が、アスタキサンチン、リコペン、β−カロテン、カプサイシン、およびカプサンチンから選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする。また、上記天然物由来の有機硫黄化合物が、アリシン、アリイン、アホエン、およびイソチオシアネートから選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする。
【0015】
上記潤滑油組成物において、上記物質の含有量が、上記基油100重量部に対して0.05〜10重量部であることを特徴とする。また、上記基油が、エステル油およびPAO油から選ばれた少なくとも一つの油であることを特徴とする。
【0016】
本発明のグリース組成物は、基油と増ちょう剤と添加剤とを含むグリース組成物であって、上記添加剤は、カロテノイド類、天然物由来の有機硫黄化合物、サポニン、イソフラボン、グルタチオン、およびクマリンから選ばれた少なくとも一つの物質を含有することを特徴とする。また、上記物質が、天然物由来のものであることを特徴とする。
【0017】
上記グリース組成物において、上記カロテノイド類が、アスタキサンチン、リコペン、β−カロテン、カプサイシン、およびカプサンチンから選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする。また、上記天然物由来の有機硫黄化合物が、アリシン、アリイン、アホエン、およびイソチオシアネートから選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする。
【0018】
上記グリース組成物において、上記物質の含有量が、上記基油100重量部に対して0.05〜10重量部であることを特徴とする。また、上記基油が、エステル油およびPAO油から選ばれた少なくとも一つの油であることを特徴とする。また、上記増ちょう剤が、ウレア系化合物であることを特徴とする。
【0019】
本発明のグリース封入軸受は、上記グリース組成物が封入されてなることを特徴とする。また、上記グリース封入軸受は、内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する複数の転動体とを備え、この転動体の周囲に上記グリース組成物を封止するためのシール部材を上記内輪および外輪の軸方向両端開口部に設けてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の潤滑油組成物およびグリース組成物は、添加剤として、カロテノイド類(アスタキサンチン、リコペン、β−カロテン、カプサイシン、カプサンチンなど)、天然物由来の有機硫黄化合物(アリシン、アリイン、アホエン、イソチオシアネートなど)、サポニン、イソフラボン、グルタチオン、およびクマリンから選ばれた少なくとも一つの物質を含有するので、従来の酸化防止剤と同等以上に、潤滑組成物の耐酸化劣化性を向上させることができ、高温高速下での軸受の長寿命化が図れる。
【0021】
本発明のグリース封入軸受は、上記グリース組成物を封入しているので、グリース組成物が耐酸化劣化性に優れ、高温高速下での軸受寿命が長寿命となる。また、水素脆性による特異な剥離の発生を抑制できる。このため、自動車電装・補機、家電や産業機器のモータに用いる高温高速回転で使用される軸受として好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のグリース組成物を封入したグリース封入軸受の一例である深溝玉軸受の断面図である。
【図2】モータ用のグリース封入軸受の一例を示す断面図である。
【図3】本発明の潤滑油組成物を含浸させた焼結含油軸受を用いた軸受装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
軸受用潤滑組成物として用いる潤滑油組成物やグリース組成物において、添加剤として、カロテノイド類(アスタキサンチン、リコペン、β−カロテン、カプサイシン、カプサンチンなど)、天然物由来の有機硫黄化合物(アリシン、アリイン、アホエン、イソチオシアネートなど)、サポニン、イソフラボン、グルタチオン、およびクマリンから選ばれた少なくとも一つの物質を配合することで、軸受用潤滑組成物の酸化防止剤として従来使用されているものを配合する場合と同等以上に、潤滑油組成物の高温耐久性に優れることや、該グリース組成物を封入した転がり軸受における高温耐久性試験での軸受寿命を延長できることがわかった(実施例参照)。これは、上記物質が天然物由来のものであっても同様である。この効果は、(A)上記物質が潤滑組成物の酸化防止剤として働き酸化劣化が抑制できること、(B)上記物質が軸受転走面の金属表面に付着し、摩擦摩耗面または摩耗により露出した金属新生面において該物質が反応し、酸化被膜を軸受転走面に形成することで、潤滑組成物の分解による水素の発生が抑制され、軸受転走面における水素脆性に起因する特異な剥離を防止できること、によるためであると考えられる。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0024】
本発明に用いる天然物由来の有機硫黄化合物としては、例えば、アリシン、アリイン、アホエン、イソチオシアネートなどが挙げられる。イソチオシアネートとしては、アリルイソチオシアネート、フェニルイソチオシアネート、スルフォラファンなどが挙げられる。また、上記の中でアリシンおよびアリインは、ニンニク、ニラ、ラッキョウ、ギョウジャニンニクなどから得られる。アリシンは、下記の化1に示す構造を有し、上記植物に含まれるアリインが、酵素アリナーゼまたはアリイン・リアーゼの作用により変換されたものであり、上記植物から公知の方法で抽出・精製して得られる。また、これらの天然物由来の有機硫黄化合物は、試薬として市販されているものも使用できる。
【0025】
【化1】

【0026】
本発明に用いるカロテノイド類としては、例えば、アスタキサンチン、リコペン、β−カロテン、カプサイシン、カプサンチンなどが挙げられる。これらのカロテノイド類は、天然に存在する黄色や赤などの色素であり、化学式C4056の基本構造を持つ化合物の誘導体である。
【0027】
本発明に用いるアスタキサンチンは、カロテノイド類の一種であり、例えば、エビ、オキアミ、カニなどの甲殻類の甲殻、卵または臓器、魚介類の体表、筋肉または卵、ヘマトコッカスなどの藻類、酵母類、福寿草などの種子植物といった天然物から抽出・精製して得られる。また、化学合成品もある。本発明では、天然物由来、化学合成品のいずれも使用できる。アスタキサンチンは、下記の化2に示す構造を有する物質(3,3'−ジヒドロキシ−β,β−カロテン−4,4'−ジオン)である。この構造により、(3R,3'R)−アスタキサンチン、(3R,3'S)−アスタキサンチン、(3S,3'S)−アスタキサンチンの3種の立体異性体が存在するが、本発明ではいずれも使用できる。また、アスタキサンチンは、その分子内に2つの水酸基を有するため、下記の化2で示す遊離体以外に、この部分で脂肪酸とエステル結合しているモノエステル体やジエステル体があり、本発明ではいずれも使用できる。
【0028】
【化2】

【0029】
本発明に用いるリコペンは、カロテノイド類の一種であり、例えば、トマト、スイカ、ニンジン、赤ピーマン、レッドグレープフルーツ、パパイヤなどの天然物から抽出・精製して得られる。また、化学合成品や、カロテノイド生産微生物を培養して培養物から採取して得られるものなどもある。本発明では、天然物由来、化学合成品のいずれも使用できる。リコペンは、下記の化3に示す構造を有する物質である。分子構造中に含まれる多数の二重結合により、赤色を呈し、抗酸化作用を有する。
【0030】
【化3】

【0031】
本発明で用いるβ−カロテンは、カロテノイド類の一種であり、例えば、ニンジン、カボチャ、コマツナ、シソ、ホウレンソウなどの天然物から抽出・精製して得られる。また、化学合成品や、カロテノイド生産微生物を培養して培養物から採取して得られるものなどもある。本発明では、天然物由来、化学合成品のいずれも使用できる。β−カロテンは、下記の化4に示すように、リコペンの両末端が環化した構造を有する物質である。分子構造中に含まれる多数の二重結合により、赤橙色を呈し、抗酸化作用を有する。
【0032】
【化4】

【0033】
本発明で用いるカプサイシンは、カロテノイド類の一種で、トウガラシやハバネロに含有されている辛味成分であり、これら天然物から抽出・精製して得られる。また、化学合成品もある。本発明では、天然物由来、化学合成品のいずれも使用できる。カプサイシンは、下記の化5に示す構造を有する物質である。本発明では、カプサイシンの脂肪族残基に対する同族体である、ジヒドロカプサイシン、ノルジヒドロカプサイシン、ホモジヒドロカプサイシン、ホモカプサイシンなどのカプサイシノイドも使用できる。
【0034】
【化5】

【0035】
本発明で用いるカプサンチンは、カロテノイド類の一種であり、例えば、赤ピーマンやトウガラシなどの天然物から抽出・精製して得られる。また、化学合成品もある。本発明では、天然物由来、化学合成品のいずれも使用できる。カプサンチンは、下記の化6に示す構造を有する物質である。カプサンチンは、アスタキサンチン同様に分子内に2つの水酸基を有するため、下記の化6で示す遊離体以外に、この部分で脂肪酸とエステル結合しているモノエステル体やジエステル体があり、本発明ではいずれも使用できる。
【0036】
【化6】

【0037】
本発明で用いるサポニンは、例えば、大豆、朝鮮人参、サイコ、キキョウ、セネガなどの天然物から抽出・精製して得られる。サポニンは、トリペルテンやステロイドにオリゴ糖が結合した配糖体であり、界面活性作用に加えて、抗酸化作用を有する。
【0038】
本発明で用いるイソフラボンは、下記の化7に示す3−フェニルクロモンの骨格を有する化合物群であり、例えば、配糖体であるダイジン、ゲニスチン、グリシチン、およびそれらのマロニル配糖体、アセチル配糖体、ならびに、アグリコン(配糖体の非糖部)であるダイゼイン、ゲニステイン、グリシテインなどが挙げられる。イソフラボンは、大豆(子葉、胚軸)、アカツメクサ、レッドクローバー、カッコンなどの天然物から抽出・精製して得られる。また、化学合成品もある。本発明では、天然物由来、化学合成品のいずれも使用できる。
【0039】
【化7】

【0040】
本発明で用いるグルタチオンは、下記の化8に示すように、グルタミン酸、システイン、グリシンがこの順にペプチド結合したトリペプチドである。グルタチオンは、例えば、牛レバー、カキ、酵母などの天然物に含まれる。一般的には、グルタチオン高含有酵母を培養し、この酵母から抽出・精製することで得られる。また、化学合成品もある。本発明では、天然物由来、化学合成品のいずれも使用できる。
【0041】
【化8】

【0042】
本発明で用いるクマリンは、下記の化9に示す物質であり、トンカ豆の種子から抽出・精製して得られる。また、サリチルアルデヒドと無水酢酸との反応により得られる化学合成品もある。本発明では、天然物由来、化学合成品のいずれも使用できる。
【0043】
【化9】

【0044】
本発明の潤滑油組成物またはグリース組成物においては、上記各物質は、それぞれ単独でも、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、各物質として天然物由来のものを用いることで、環境負荷の低減が図れる。
【0045】
本発明の潤滑油組成物においては、上記物質の含有量が、基油100重量部に対して0.05〜10重量部であることが好ましい。また、本発明のグリース組成物においては、上記物質の含有量が、基油と増ちょう剤の合計量100重量部に対して0.05〜10重量部であることが好ましい。いずれの場合も、より好ましくは、0.5〜5重量部である。
【0046】
上記物質の含有量が0.05重量部未満であると、基油の酸化劣化を効果的に防止できないおそれがある。また、水素脆性による転がり軸受等の転走面での剥離を効果的に防止できないおそれがある。一方、上記物質の含有量が10重量部をこえても、基油の酸化劣化を防止する効果などがそれ以上に向上しにくい。
【0047】
本発明の潤滑油組成物およびグリース組成物に使用できる基油としては、スピンドル油、冷凍機油、タービン油、マシン油、ダイナモ油等の鉱油、高度精製鉱油、流動パラフィン油、ポリブテン油、フィッシャー・トロプシュ法により合成されたGTL油、PAO油、アルキルナフタレン油、脂環式化合物等の炭化水素系合成油、または、天然油脂、ポリオールエステル油、りん酸エステル油、ポリマーエステル油、芳香族エステル油、炭酸エステル油、ジエステル油、ポリグリコール油等のエステル油、シリコーン油、ポリフェニルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、アルキルベンゼン油、フッ素化油等の非炭化水素系合成油等が挙げられる。これらを単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
PAO油は、通常、α-オレフィンまたは異性化されたα-オレフィンのオリゴマーまたはポリマーの混合物である。α-オレフィンの具体例としては、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、1-ドコセン、1-テトラドコセン等を挙げることができ、通常はこれらの混合物が使用される。
【0049】
本発明の潤滑油組成物およびグリース組成物の基油としては、上記基油の中でも、鉱油、アルキルジフェニルエーテル油、エステル油およびPAO油から選ばれた少なくとも一つの油を用いることが好ましく、耐熱性や潤滑性に優れることから、エステル油およびPAO油から選ばれた少なくとも一つの油を用いることが特に好ましい。
【0050】
また、上記基油の 40℃における動粘度が 10〜100 mm2/sec であることが好ましい。より好ましくは、10〜70 mm2/secである。基油として混合油を用いる場合は、該混合油の動粘度を上記範囲とすることが好ましい。動粘度が、10 mm2/sec 未満である場合には、短時間で基油が劣化し、生成した劣化物が基油全体の劣化を促進するため、軸受等の耐久性を低下させ短寿命となるおそれがある。また、100 mm2/sec をこえると回転トルクの増加による軸受等の温度上昇が大きくなり、特に高速回転下では温度上昇が大きく、上記物質を配合しても基油の酸化劣化を十分に防止できなくなるおそれがある。
【0051】
本発明のグリース組成物に使用できる増ちょう剤としては、リチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、力ルシウム石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウム石けん、アルミニウムコンプレックス石けん等の金属石けん、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物、PTFE樹脂、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(以下、PFAという)樹脂、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以下、FEPという)樹脂などのフッ素樹脂などが挙げられる。これらの中で、耐熱性およびコストを考慮するとウレア系化合物が望ましい。
【0052】
ウレア系化合物は、イソシアネート化合物とアミン化合物とを反応させることにより得られる。反応性のある遊離基を残さないため、イソシアネート化合物のイソシアネート基とアミン化合物のアミノ基とは略当量となるように配合することが好ましい。
【0053】
ジウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミンとの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネー卜等が挙げられ、モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、アニリン、p−トルイジン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。ポリウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミン、ジアミンとの反応で得られる。ジイソシアネート、モノアミンとしては、ジウレア化合物の生成に用いられるものと同様のものが挙げられ、ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等が挙げられる。
【0054】
基油に増ちょう剤を配合して、上記所定の物質などを配合するためのベースグリースが得られる。ウレア系化合物を増ちょう剤とするベースグリースは、基油中でイソシアネート化合物とアミン化合物とを反応させて作製する。
【0055】
ベースグリース100重量部中に占める増ちょう剤の含有量は、1〜40重量部、好ましくは3〜25重量部である。増ちょう剤の含有量が1重量部未満では、増ちょう効果が少なくなり、グリース化が困難となる。一方、40重量部をこえると得られたベースグリースが硬くなりすぎ、所期の効果が得られ難くなる。
【0056】
本発明の潤滑油組成物およびグリース組成物は、上記所定の物質とともに、必要に応じて公知の添加剤を含有させることができる。この添加剤として、例えば、有機亜鉛化合物、アミン系化合物等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾールなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレン等の粘度指数向上剤、二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤、金属スルホネート、ポリアルコールエステルなどの防錆剤、有機モリブデンなどの摩擦低減剤、エステル、アルコールなどの油性剤、りん系化合物などの摩耗防止剤等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合せて添加できる。
【0057】
本発明のグリース組成物は、高温高速下におけるグリースの耐酸化劣化性の向上などにより、グリース封入軸受の寿命を向上させることができる。このため、玉軸受、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受、針状ころ軸受、スラスト円筒ころ軸受、スラスト円すいころ軸受、スラスト針状ころ軸受、スラスト自動調心ころ軸受などの封入グリースとして使用できる。
【0058】
本発明のグリース組成物が封入されている軸受について図1により説明する。図1は本発明のグリース封入軸受の一例である深溝玉軸受の断面図である。グリース封入軸受1は、外周面に内輪転走面2aを有する内輪2と内周面に外輪転走面3aを有する外輪3とが同心に配置され、内輪転走面2aと外輪転走面3aとの間に複数個の転動体4が配置される。この複数個の転動体4を保持する保持器5が設けられている。また、外輪3等に固定されるシール部材6が内輪2および外輪3の軸方向両端開口部8a、8bにそれぞれ設けられている。少なくとも転動体4の周囲に本発明のグリース組成物7が封入される。
【0059】
本発明のグリース封入軸受の他の実施例としてモータに用いられるグリース封入軸受を図2により説明する。図2は本発明のモータ用のグリース封入軸受を示すモータの断面図である。モータは、ジャケット9の内周壁に配置されたモータ用マグネットからなる固定子10と、回転軸11に固着された巻線12を巻回した回転子13と、回転軸11に固定された整流子14と、ジャケット9に支持されたエンドフレーム17に配置されたブラシホルダ15と、このブラシホルダ15内に収容されたブラシ16と、を備えている。上記回転軸11は、グリース封入軸受1と、該軸受1のための支持構造とにより、ジャケット9に回転自在に支持されている。グリース封入軸受1が本発明のグリース封入軸受である。
【0060】
本発明の潤滑油組成物を含浸した焼結含油軸受を図面により説明する。図3は本発明の焼結含油軸受を用いた軸受装置を示す断面図である。図3において軸受装置23は軸22と、軸22の外周面22aに円筒形状の内周面21aを嵌合させた焼結含油軸受21と、焼結含油軸受21のスラスト方向の動きを規制するスラスト受け(図示省略)とで構成される。焼結含油軸受21は、焼結した円筒形状の軸受成形品に、本発明の潤滑油組成物を含浸してなる。なお、焼結した軸受成形品は、特にその材料を限定するものでなく、従来の場合と同様に、所要の金属材料を圧縮成形工程、焼結工程および圧縮整形工程を順次経て成形したものであってよい。
【実施例】
【0061】
本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0062】
実施例1および実施例2、比較例1および比較例2
エステル油を潤滑油として、この潤滑油に表1に示す種類の添加剤を所定量添加して潤滑油組成物を得た。得られた潤滑油組成物の高温耐久性を高温放置時の重量減少率の測定により評価した。供試潤滑油組成物を 150 ℃の恒温槽中に空気雰囲気で放置して、加熱時間が 300、500、1000、1500、2000 時間となった時点で恒温槽より取り出し、それぞれの重量減少率を測定した。結果を表1に示した。

重量減少率=100×(恒温槽放置前の潤滑油組成物の重量(g)−恒温槽放置後の潤滑油組成物の重量(g))/恒温槽放置前の潤滑油組成物の重量(g)

【0063】
【表1】

【0064】
表1に示すように、各実施例は、高温放置時の重量減少を抑制でき、優れた高温耐久性を示した。一方、添加剤を含めない比較例1は、各実施例に対して高温耐久性が大幅に劣り、従来使用されている酸化防止剤を添加した比較例2についても、各実施例と比較して高温耐久性に劣る結果となった。
【0065】
実施例3〜実施例14
表2に示した基油の半量に、4,4−ジフェニルメタンジイソシアナート(日本ポリウレタン工業社製の商品名ミリオネートMT、以下、MDIと記す)を表2に示す割合で溶解し、残りの半量の基油にMDIの2倍当量となるモノアミン(オクチルアミン)を溶解した。それぞれの配合割合は表2のとおりである。MDIを溶解した溶液を撹拌しながらモノアミンを溶解した溶液を加えた後、100℃〜120℃で 30 分間撹拌を続けて反応させて、ジウレア化合物を基油中に生成させた。これに、カロテノイド類や天然由来の有機硫黄化合物等の添加剤を表2に示す配合割合で加えて、さらに 100℃〜120℃で 10 分間撹拌した。その後冷却し、三本ロールで均質化し、グリース組成物を得た。得られたグリース組成物について高温耐久性試験を行なった。試験方法および試験条件は下記に示す。また、結果を表2に併記する。
【0066】
比較例3および比較例4
実施例3に準じる方法で、表2に示す配合割合で、増ちょう剤、基油を選択してベースグリースを調整し、さらに添加剤を配合してグリース組成物を得た。得られたグリース組成物を実施例3と同様の試験を行なって評価した。結果を表2に併記する。
【0067】
実施例15〜実施例20
表3に示した基油に、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムを表3に示す割合で溶解した。12−ヒドロキシステアリン酸リチウムを溶解した溶液を撹拌しながら200℃〜220℃に達した時点で加熱容器から取り出し水冷による冷却を行なった。これに、カロテノイド類や天然由来の有機硫黄化合物等の添加剤を表3に示す配合割合で加えた。その後、三本ロールで均質化し、グリース組成物を得た。得られたグリース組成物について高温耐久性試験を行なった。試験方法および試験条件は下記に示す。また、結果を表3に併記する。
【0068】
比較例5および比較例6
実施例15に準じる方法で、表3に示す配合割合で、増ちょう剤、基油を選択してベースグリースを調整し、さらに添加剤(比較例5はなし)を配合してグリース組成物を得た。得られたグリース組成物を実施例15と同様の試験を行なって評価した。結果を表3に併記する。
【0069】
<高温耐久性試験>
転がり軸受(軸受寸法:内径 20 mm、外径 47 mm、幅 14 mm)に上記グリース組成物を 0.7 g 封入し、軸受外輪外径部温度 150℃、ラジアル荷重 67 N 、アキシアル荷重 67 N の下で 10000 rpm の回転数で回転させ、焼き付きに至るまでの時間(高温高速寿命、h(時間))を測定した。
【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
表2および表3に示すように、各実施例は、基油と増ちょう剤を同じとする各比較例に対して、高温耐久性試験での寿命が大幅に長く、優れた高温耐久性を示した。これは、グリース組成物の添加剤としてカロテノイド類や天然由来の有機硫黄化合物等が配合され、グリース組成物の酸化劣化を抑制できたことによると考えられる。一方、比較例3、比較例4、および比較例6では、各実施例と同じ基油を用い、従来使用されている酸化防止剤を添加したが、各実施例と比較すると、寿命が大幅に短い結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のグリース組成物を封入したグリース封入軸受は、自動車電装・補機、家電や産業機器のモータなどの転がり軸受として好適に使用できる。また、このグリース組成物を封入する自在継手は自動車のプロペラシャフトに用いられるプロペラシャフト用自在継手として好適に使用できる。また、本発明の潤滑油組成物を含浸した焼結含油軸受は、複写機や印刷機などの回転部品の回転軸を支持する軸受として好適に使用できる。
【符号の説明】
【0074】
1 グリース封入軸受(深溝玉軸受)
2 内輪
3 外輪
4 転動体
5 保持器
6 シール部材
7 グリース組成物
8a 両端開口部
8b 両端開口部
9 ジャケット
10 固定子
11 回転軸
12 巻線
13 回転子
14 整流子
15 ブラシホルダ
16 ブラシ
17 エンドフレーム
21 焼結含油軸受
22 軸
23 軸受装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と添加剤とを含む潤滑油組成物であって、前記添加剤は、カロテノイド類、天然物由来の有機硫黄化合物、サポニン、イソフラボン、グルタチオン、およびクマリンから選ばれた少なくとも一つの物質を含有することを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
前記カロテノイド類が、アスタキサンチン、リコペン、β−カロテン、カプサイシン、およびカプサンチンから選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記天然物由来の有機硫黄化合物が、アリシン、アリイン、アホエン、およびイソチオシアネートから選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記物質の含有量が、前記基油100重量部に対して0.05〜10重量部であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記物質が、天然物由来のものであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記基油が、エステル油およびポリ−α−オレフィン油から選ばれた少なくとも一つの油であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
基油と増ちょう剤と添加剤とを含むグリース組成物であって、前記添加剤は、カロテノイド類、天然物由来の有機硫黄化合物、サポニン、イソフラボン、グルタチオン、およびクマリンから選ばれた少なくとも一つの物質を含有することを特徴とするグリース組成物。
【請求項8】
前記カロテノイド類が、アスタキサンチン、リコペン、β−カロテン、カプサイシン、およびカプサンチンから選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする請求項7記載のグリース組成物。
【請求項9】
前記天然物由来の有機硫黄化合物が、アリシン、アリイン、アホエン、およびイソチオシアネートから選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする請求項7または請求項8記載のグリース組成物。
【請求項10】
前記物質の含有量が、前記基油および前記増ちょう剤の合計量100重量部に対して0.05〜10重量部であることを特徴とする請求項7、請求項8または請求項9記載のグリース組成物。
【請求項11】
前記物質が、天然物由来のものであることを特徴とする請求項7ないし請求項10のいずれか一項記載のグリース組成物。
【請求項12】
前記基油が、エステル油およびポリ−α−オレフィン油から選ばれた少なくとも一つの油であることを特徴とする請求項7ないし請求項11のいずれか一項記載のグリース組成物。
【請求項13】
前記増ちょう剤が、ウレア系化合物または金属石けんであることを特徴とする請求項7ないし請求項12のいずれか一項記載のグリース組成物。
【請求項14】
グリース組成物が封入されてなるグリース封入軸受であって、前記グリース組成物が請求項7ないし請求項13のいずれか一項記載のグリース組成物であることを特徴とするグリース封入軸受。
【請求項15】
前記グリース封入軸受は、内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する複数の転動体とを備え、この転動体の周囲に前記グリース組成物を封止するためのシール部材を前記内輪および外輪の軸方向両端開口部に設けてなることを特徴とする請求項14記載のグリース封入軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−17460(P2012−17460A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126739(P2011−126739)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】