説明

潤滑油組成物

【課題】高温清浄性、すす分散性及び低温流動性に優れ、かつ長期間の使用においてもストレージタンク内での貯蔵安定性に優れる潤滑油組成物、特に船舶、発電もしくは鉄道に使用される内燃機関用、内燃機関減速機用、又は内燃機関油圧作動機器用の潤滑油として好適に使用される潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】潤滑基油に、組成物全量基準で、炭素数8〜19の炭化水素基を1つ有するサリチル酸金属塩(a)と、炭素数20〜32の炭化水素基を1つ有するサリチル酸金属塩(b)とを含む、金属元素の価数×金属元素含有量(モル%)/せっけん基含有量(モル%)で表わされる金属比が4.5未満であるサリシレート系清浄剤(A)0.1〜30質量%と、塩基価が240mgKOH/g以上及び/又は金属比が4.5以上である、前記サリシレート系清浄剤(A)以外のサリシレート系清浄剤及び/又はカルシウムフェネート系清浄剤0.1〜10質量%と、を含有することを特徴とする潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関し、詳しくは高温清浄性、すす分散性及び低温流動性に優れ、かつ長期間の使用においてもストレージタンク内での貯蔵安定性に優れる潤滑油組成物に関し、特に船舶、発電、鉄道等に使用される内燃機関用、内燃機関減速機用、又は内燃機関油圧作動機器用の潤滑油として好適な潤滑油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶、発電、鉄道等に使用される内燃機関は、経済性の観点からアスファルテン成分を含む重質燃料(A重油、C重油等)を使用することが多い。このような内燃機関には、重質燃料からのアスファルテン成分で機関が汚損されるため、潤滑油にサリシレート系清浄剤等を多量に配合して清浄性の向上が図られてきた。
しかしながら、一般的に使用されている炭素数20未満のアルキル基を有する過塩基性のモノアルキルサリシレート系清浄剤を多量に使用すると、高粘度基油あるいは無灰分散剤や他の金属系清浄剤等の潤滑油成分との相互作用や重質燃料の燃焼残渣として混入するすすにより不溶解分を析出し易い問題があった。
一方、炭素数20以上のアルキル基を有する過塩基性のモノアルキルサリシレート系清浄剤を使用すると低温流動性が極めて悪化し、さらに低温流動性を悪化させる高粘度基油や無灰系分散剤の併用は困難であった。
さらに、4ストロークトランクピストン機関においては、近年、アンチポリッシングリングの装着によりオイル消費量の低減が進みつつあるが、これにより燃焼残渣分であるすすの潤滑油への混入量が増加し、上記サリシレート系清浄剤に起因する不溶分析出、低温流動性の悪化に加え、粘度増加やすすに起因する不溶分による機関軸受けの損傷などの不具合の発生が懸念され始めた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−140575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような実状に鑑みなされたものであり、その目的は長期間の使用においてもストレージタンクにおける貯蔵安定性を改善し、かつ、高温清浄性及び低温流動性に優れ、すす混入下においても粘度増加が少ない新規な潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のサリシレート系清浄剤を含有する潤滑油組成物が、貯蔵安定性、高温清浄性に優れ、相乗効果により流動点を低下させることができるとともに、すす混入下においても粘度増加が少ないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、潤滑基油に、組成物全量基準で、炭素数8〜19の炭化水素基を1つ有するサリチル酸金属塩(a)と、炭素数20〜32の炭化水素基を1つ有するサリチル酸金属塩(b)とを含む、金属元素の価数×金属元素含有量(モル%)/せっけん基含有量(モル%)で表わされる金属比が4.5未満であるサリシレート系清浄剤(A)0.1〜30質量%と、塩基価が240mgKOH/g以上及び/又は金属比が4.5以上である、前記サリシレート系清浄剤(A)以外のサリシレート系清浄剤及び/又はカルシウムフェネート系清浄剤0.1〜10質量%と、を含有することを特徴とする潤滑油組成物にある。
【0007】
前記サリシレート系清浄剤(A)において、前記(a)成分と(b)成分の合計量に対する(a)成分の含有比率が、20〜95モル%であることが好ましい。
また、前記サリシレート系清浄剤(A)が、前記(a)成分を主成分とするサリチル酸金属塩と前記(b)成分を主成分とするサリチル酸金属塩とをそれぞれ別々に製造し、混合してなることが好ましい。
【0008】
また、前記サリシレート系清浄剤(A)が、炭素数8〜19の炭化水素基を1つ有するサリチル酸及び炭素数20〜32の炭化水素基を1つ有するサリチル酸を主成分とする混合物(X)に金属塩又は金属塩基を反応させて得られたサリチル酸金属塩からなることが好ましい。
また、前記潤滑油基油が、100℃における動粘度が4〜17mm/s未満の潤滑油基油及び/又は100℃における動粘度が17〜50mm/sの潤滑油基油を含有することが好ましい。
【0009】
また、本発明の潤滑油組成物には、さらに無灰分散剤(B)、及び摩耗防止剤(C)から選ばれる1種又は2種以上の添加剤を含有することが好ましい。
また、前記サリシレート系清浄剤(A)以外の金属系清浄剤(D)が、塩基価が240mgKOH/g以上及び/又は金属比が4.5以上である金属系清浄剤から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
また、前記サリシレート系清浄剤(A)以外の金属系清浄剤(D)が、330℃,16hのホットチューブ試験(JPI−5S−5599に準拠)において、評点が7以上であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の潤滑油組成物は、船舶、発電もしくは鉄道に使用される内燃機関用、内燃機関減速機用、又は内燃機関油圧作動器機用の潤滑油であることが好ましい。
また、本発明の潤滑油組成物は、アスファルテン成分や残留炭素分を含む重質燃料を使用する内燃機関等に用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、貯蔵安定性、高温清浄性及び低温流動性に優れ、すす混入下においても粘度増加が少ない潤滑油組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳述する。
本発明の潤滑油組成物における潤滑油基油は、特に制限はなく、通常の潤滑油に使用される鉱油系基油及び/又は合成系基油が使用できる。
鉱油系基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、フィッシャートロプシュプロセス等により製造されるGTL WAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される潤滑油基油等が例示できる。
【0013】
鉱油系基油の全芳香族分は、特に制限はないが、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下である。全芳香族分は0質量%でも良いが、添加剤の溶解性の点で1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。基油の全芳香族分が40質量%を越える場合は、酸化安定性が劣るため好ましくない。
なお、上記全芳香族分とは、ASTM D2549に準拠して測定した芳香族留分(aromatic fraction)含有量を意味する。通常この芳香族留分には、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン、これらのアルキル化物、ベンゼン環が四環以上縮合した化合物、及びピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ芳香族を有する化合物等が含まれる。
【0014】
また、鉱油系基油中の硫黄分は、特に制限はないが、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、硫黄分は0質量%でも良いが、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上である。鉱油系基油の硫黄分をある程度含むことにより、添加剤の溶解性を十分に高めることができる。
【0015】
合成系基油としては、具体的には、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリα−オレフィン又はその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;マレイン酸ジブチル等のジカルボン酸類と炭素数2〜30のα−オレフィンとの共重合体、アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、芳香族エステル等の芳香族系合成油又はこれらの混合物等が例示できる。
【0016】
本発明では、潤滑油基油として、鉱油系基油、合成系基油又はこれらの中から選ばれる2種以上の潤滑油の任意混合物等が使用できる。例えば、1種以上の鉱油系基油、1種以上の合成系基油、1種以上の鉱油系基油と1種以上の合成系基油との混合油等を挙げることができる。
【0017】
潤滑油基油の動粘度は特に制限はないが、その100℃での動粘度は、4〜50mm/sであることが好ましく、より好ましくは、6〜40mm/s、特に好ましくは8〜35mm/sである。潤滑油基油の100℃での動粘度が50mm/sを越える場合は、低温粘度特性が悪化し、一方、その動粘度が4mm/s未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油基油の蒸発損失が大きくなるため、それぞれ好ましくない。
【0018】
本発明の潤滑油組成物において、潤滑油基油としては、100℃での動粘度が4〜17mm/s未満及び/又は100℃での動粘度が17〜50mm/sの潤滑油基油を含有することが好ましい。100℃における動粘度が4〜17mm/s未満の潤滑油基油としては、例えば、SAE10〜40等の鉱油系基油や合成系基油が挙げられ、その動粘度は、5.6mm/s以上、より好ましくは9.3mm/s以上であり、好ましくは14mm/s以下、より好ましくは12.5mm/s以下である。また、100℃における動粘度が17〜50mm/sの潤滑油基油としては、例えば、SAE50、ブライトストック等の鉱油系基油や合成系基油が挙げられ、その動粘度は、好ましくは20mm/s以上、より好ましくは25mm/sであり、好ましくは40mm/s以下、より好ましくは35mm/s以下である。
本発明においては、100℃での動粘度が4〜17mm/s未満の潤滑油基油を主成分、例えば、基油全量基準で50質量%以上、より好ましくは70質量%以上含有させ、必要に応じて100℃での動粘度が17〜50mm/sの潤滑油基油を配合することができる。なお、100℃での動粘度が17〜50mm/sの潤滑油基油、特に30mm/s以上のブライトストック等の基油を10質量%以上、例えば20質量%程度以上配合する場合、従来の炭素数20未満の炭化水素基を1つ有するサリシレート系清浄剤を単独で多量に使用した場合には不溶分を析出させやすかったため、本願発明におけるサリシレート系清浄剤(A)は極めて有用である。
【0019】
潤滑油基油の蒸発損失量としては、NOACK蒸発量で、20質量%以下であることが好ましく、16質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。潤滑油基油のNOACK蒸発量が20質量%を超える場合、潤滑油の蒸発損失が大きく、粘度増加等の原因となるため好ましくない。なお、ここでいうNOACK蒸発量とは、ASTM D 5800に準拠して測定される潤滑油の蒸発量を測定したものである。
【0020】
潤滑油基油の粘度指数は特に制限はないが、低温から高温まで優れた粘度特性が得られるようにその値は好ましくは80以上であり、より好ましくは90以上であり、更に好ましくは100以上であり、粘度指数の上限については特に制限はなく、ノルマルパラフィン、スラックワックスやGTLワックス等、あるいはこれらを異性化したイソパラフィン系鉱油のような135〜180程度のものや、コンプレックスエステル系基油やHVI−PAO系基油のような150〜250程度のものも使用することができるが、添加剤の溶解性や貯蔵安定性の点で、120以下であることが好ましく、110以下であることが望ましい。
【0021】
本発明の潤滑油組成物におけるサリシレート系清浄剤(A)は、炭素数8〜19の炭化水素基を1つ有するサリチル酸金属塩(a)と炭素数20〜32の炭化水素基を1つ有するサリチル酸金属塩(b)とを含み、これら(a)成分及び(b)成分を含む限りにおいてその製造方法は特に制限はなく、任意の方法により得ることができる。本発明においては、例えば次の(A−1)又は(A−2)に挙げるサリシレート系清浄剤が挙げられる。
【0022】
(A−1)炭素数8〜19の炭化水素基を1つ有するサリチル酸金属塩(a)を主成分とするサリチル酸金属塩と炭素数20〜32の炭化水素基を1つ有するサリチル酸金属塩(b)を主成分とするサリチル酸金属塩とをそれぞれ別々に製造し、混合してなるサリシレート系清浄剤。
【0023】
ここで、前記(A−1)における(a)成分である、炭素数8〜19の炭化水素基を1つ有するサリチル酸金属塩としては、サリチル酸に等モルの炭化水素基(例えば炭素数8〜19のオレフィン)を付加させたサリチル酸、又は、フェノールに等モル炭化水素基(例えば炭素数8〜19のオレフィン)を付加させ、次いで炭酸ガス等によりカルボキシル化させた、炭素数8〜19の炭化水素基を1つ有するサリチル酸に、当量の金属塩や金属塩基等を作用させて得られる中性サリチル酸金属塩だけでなく、当該中性サリチル酸金属塩に過剰の金属塩や金属塩基(金属の水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性塩や、前記中性のサリチル酸金属塩の存在下において炭酸ガス又はホウ酸若しくはホウ酸塩と金属の水酸化物等の塩基とを反応させることにより得られる過塩基性塩(超塩基性塩)が挙げられる。なお、これらの(過)塩基化の反応は、通常、溶媒(ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤、軽質潤滑油基油等)中で行われる。
また、前記(A−1)成分における(b)成分である、炭素数8〜19の炭化水素基を1つ有するサリチル酸金属塩としては、前記(a)成分における炭素数8〜19の炭化水素基が炭素数20〜32である以外は同様の方法によって得られる。
すなわち、(A−1)は上記の方法等により別々に製造された(a)成分と(b)成分を混合してなるものである。
【0024】
(A−2)炭素数8〜19の炭化水素基を1つ有するサリチル酸及び炭素数20〜32の炭化水素基を1つ有するサリチル酸を主成分とする混合物(X)に金属塩又は金属塩基を反応させて得られたサリチル酸金属塩からなるサリシレート系清浄剤。
【0025】
ここで、前記(A−2)におけるサリチル酸混合物(X)としては、任意の方法により得ることができるが、例えば、以下のサリチル酸混合物(X1)、(X2)、(X3)又は(X4)が挙げられる。
(X1):炭素数8〜19の炭化水素及び炭素数20〜32の炭化水素との混合物(Y)を等モルのサリチル酸に付加させた、炭素数8〜19の炭化水素基を1つ有するサリチル酸及び炭素数20〜32の炭化水素基を1つ有するサリチル酸混合物。
(X2):前記混合物(Y)をフェノールに付加後炭酸ガス等によりカルボキシル化させた、炭素数8〜19の炭化水素基を1つ有するサリチル酸及び炭素数20〜32の炭化水素基を1つ有するサリチル酸混合物。
(X3):炭素数8〜19の炭化水素を等モルのサリチル酸に付加させた炭素数8〜19の炭化水素基を1つ有するサリチル酸と、炭素数20〜32の炭化水素を等モルのサリチル酸に付加させた炭素数20〜32の炭化水素を1つ有するサリチル酸との混合物。
(X4):炭素数8〜19の炭化水素を等モルのフェノールに付加させ、次いで炭酸ガス等によりカルボキシル化させた、炭素数8〜19の炭化水素基を1つ有するサリチル酸と、炭素数20〜32の炭化水素を等モルのフェノールに付加させ、次いで炭酸ガス等によりカルボキシル化させた、炭素数20〜32の炭化水素を1つ有するサリチル酸との混合物。
【0026】
また、前記(A−2)におけるサリチル酸金属塩としては、上記(X1)、(X2)、(X3)又は(X4)に、当量の金属塩や金属塩基等を作用させて得られる中性サリチル酸金属塩だけでなく、中性サリチル酸金属塩に過剰の金属塩や金属塩基(金属の水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性塩や、前記中性のサリチル酸金属塩の存在下において炭酸ガス又はホウ酸若しくはホウ酸塩と金属の水酸化物等の塩基とを反応させることにより得られる過塩基性塩(超塩基性塩)が挙げられる。
すなわち、本発明におけるサリシレート系清浄剤(A)には、(A−2)のような、(a)成分と(b)成分が複合されたサリチル酸金属塩混合物をも含まれる。
【0027】
なお、前記(A−1)及び(A−2)における金属塩又は金属塩基における金属としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属等が挙げられ、アルカリ土類金属であることが好ましく、特にカルシウムであることが望ましい。
【0028】
ここで、上記炭素数8〜19の炭化水素基としては、炭素数8〜19のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基等が挙げられ、アルキル基、アルケニル基であることが好ましく、アルキル基であることがより好ましい。
【0029】
炭素数8〜19の炭化水素基としては、具体的には、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル等のアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい);オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基等のアルケニル基(これらアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である)等を挙げることができる。
本発明においては、炭素数14〜18のアルキル基又はアルケニル基がより好ましく、またエチレン、プロピレン、ブチレン等の重合体又は共重合体等から誘導されるアルキル基、特にエチレン重合体等の直鎖αオレフィンから誘導されるアルキル基であることが好ましい。
【0030】
また、上記炭素数20〜32の炭化水素基としては、炭素数20〜32のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基等が挙げられ、アルキル基、アルケニル基であることが好ましく、アルキル基であることがより好ましい。
【0031】
炭素数20〜32の炭化水素基としては、具体的には、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、及びトリアコンチル基等の炭素数20〜32のアルキル基(これらは直鎖状であっても分枝状であっても良い)、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基、ペンタコセニル基、ヘキサコセニル基、ヘプタコセニル基、オクタコセニル基、ノナコセニル基、及びトリアコンテニル基等の炭素数20〜32のアルケニル基(これらアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である)等を挙げることができる。
本発明においては、炭素数20〜30のアルキル基又はアルケニル基がより好ましく、またエチレン、プロピレン、ブチレン等の重合体又は共重合体等から誘導されるアルキル基、特にエチレン重合体等の直鎖αオレフィンから誘導されるアルキル基であることが好ましい。
【0032】
また、本発明においては、上記のうち、炭素数8〜19の炭化水素基を1つ有するサリチル酸金属塩(a)と炭素数20〜32の炭化水素基を1つ有するサリチル酸金属塩(b)の性能をバランスよく優れたものにできる点及びその入手性の点で、前記のサリシレート系清浄剤(A−1)を使用することが好ましい。また、(A−1)に比べ、さらに貯蔵安定性、低温流動性を相乗的に改善できる点でサリシレート系清浄剤(A−2)を使用することが特に好ましい。
【0033】
本発明の潤滑油組成物における、前記炭素数8〜19の炭化水素を1つ有するサリチル酸金属塩(a)と、炭素数20〜32の炭化水素を1つ有するサリチル酸金属塩(b)の含有割合は、特に制限はないが、(a)成分及び(b)成分の合計量に対する(a)成分の含有比率が、好ましくは20モル%以上、より好ましくは40モル%以上、特に好ましくは70モル%以上であり、好ましくは95モル%以下、より好ましくは90モル%以下である。(a)成分の含有比率が多い方が低温流動性の改善効果がより顕著となり、(a)成分が多すぎても低温流動性改善効果は小さい。
【0034】
なお、(A−2)成分、特に(過)塩基性塩の場合は、サリチル酸又はフェノールに付加させる炭素数8〜19及び炭素数20〜32のオレフィンの混合比率(モル比)、炭素数8〜19の炭化水素基を1つ有するサリチル酸及び炭素数20〜32の炭化水素基を1つ有するサリチル酸の混合比率(モル比)、あるいは、サリチル酸金属塩におけるサリチル酸の構造分析等により上記(a)成分及び(b)成分の合計量に対する(a)成分の含有比率を算出することができる。
なお、(A−2)成分は、(a)成分及び(b)成分が複合したミセル構造を形成すると考えられ、その結果、(a)成分及び(b)成分を単純に混合した(A−1)よりもより優れた特性を示すものと考えられる。
【0035】
また、上記のようにして得られたサリシレート系清浄剤を構成するサリチル酸金属塩は、炭化水素基が1つ付加したモノ置換サリシレート(例えばモノアルキルサリシレート)が主成分であり、不純物として炭化水素基を2つ以上有するサリシレート(例えばジアルキルサリシレート)を含んでいてもよいが、通常、モノ置換サリシレートの構成比は、85モル%以上、好ましくは90モル%以上である。また、前記モノ置換サリシレートにおける炭化水素基の置換位置に何ら制限はないが、潤滑油基油への溶解性、摩耗防止剤の効果を阻害しにくい点で、炭化水素基を3位に置換基として有するサリシレートの構成比が40モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがより好ましく、60モル%以上であることが特に好ましい。
【0036】
本発明において、上記のサリシレート系清浄剤(A)は、通常、溶剤や潤滑油基油等の希釈剤中で反応させて得られるが、そのようにして得られたサリシレート系清浄剤の金属含有量は、通常1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。
本発明のサリシレート系清浄剤(A)の塩基価は、通常0〜500mgKOH/g、好ましくは20〜450mgKOH/gであり、これらの中から選ばれる1種又は2種以上併用することができ、本発明においては、塩基価が100〜240mgKOH/g未満、好ましくは150〜200mgKOH/gに調整されてなる過塩基性サリシレート系清浄剤を主成分として用いることが望ましい。なお、ここでいう塩基価とは、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味する。
【0037】
また、本発明のサリシレート系清浄剤(A)としては、その金属比に特に制限はないが、通常20以下のものを1種又は2種以上混合して使用できるが、好ましくは金属比が4.5未満、より好ましくは3以下に調整してなるサリシレート系清浄剤を主成分として使用することが望ましい。なお、ここでいう金属比とは、サリシレート系清浄剤における金属元素の価数×金属元素含有量(モル%)/せっけん基含有量(モル%)で表され、金属元素とは、カルシウム、マグネシウム等、せっけん基とはサリチル酸基を意味する。
【0038】
本発明の潤滑油組成物におけるサリシレート系清浄剤(A)の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、通常潤滑油基油等の希釈剤を含む形で、0.1〜30質量%であり、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上であり、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%であり、より詳細には、金属量として、好ましくは0.01〜5質量%であり、より好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0039】
本発明の潤滑油組成物は、潤滑油基油に、上記サリシレート系清浄剤(A)に加え、無灰分散剤(B)、摩耗防止剤(C)、および前記サリシレート系清浄剤(A)以外の金属系清浄剤(D)から選ばれる1種又は2種以上の添加剤を含有させることができる。
【0040】
本発明の組成物に用いる無灰分散剤(B)としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤が使用でき、例えば、炭素数40〜400、好ましくは60〜350の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体、マンニッヒ系分散剤、あるいはアルケニルコハク酸イミドの変性品等が挙げられる。使用に際してはこれらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
前記含窒素化合物又はその誘導体のアルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合は、潤滑油基油に対する溶解性が低下し、一方、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が400を越える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が悪化するためそれぞれ好ましくない。このアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でもよいが、好ましいものとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンとのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基等が挙げられる。
【0041】
(B)成分としては、例えば、以下の(B−1)成分〜(B−3)成分から選択される1種又は2種以上の化合物を用いることができる。
(B−1)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド、あるいはその誘導体、
(B−2)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいはその誘導体、
(B−3)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはその誘導体。
【0042】
(B−1)成分としては、式(1)又は(2)で示される化合物等が例示できる。
【化1】

【0043】
式(1)中、R20は炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、hは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。一方、式(2)中、R21及びR22は、それぞれ個別に炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、特に好ましくはポリブテニル基である。またiは0〜4、好ましくは1〜3の整数を示す。
【0044】
(B−1)成分には、ポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した式(1)で表される、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した式(2)で表される、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとが含まれるが、本発明の組成物には、それらのいずれも、あるいはこれらの混合物が含まれていても良い。
これら(B−1)成分であるコハク酸イミドの製法は特に制限はなく、例えば、炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物を、無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得たアルキルコハク酸又はアルケニルコハク酸をポリアミンと反応させることにより得られる。
ポリアミンとしては、具体的には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等が例示できる。
【0045】
(B−2)成分としては、具体的には式(3)で表される化合物等が例示できる。
【化2】

【0046】
式(3)中、R23は炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、jは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
この(B−2)成分であるベンジルアミンの製法は特に制限はなく、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、又はエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを、フェノールと反応させてアルキルフェノールとした後、これにホルムアルデヒドと、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、又はペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンとをマンニッヒ反応により反応させることにより得られる。
【0047】
(B−3)成分としては、具体的には、式(4)で表される化合物等が例示できる。
24‐NH−(CHCHNH)−H (4)
式(4)中、R24は炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、kは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
この(B−3)成分であるポリアミンの製法は特に制限はなく、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、及びエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを塩素化した後、これにアンモニアやエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、又はペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンを反応させることにより得られる。
【0048】
前記(B)成分の1例として挙げた含窒素化合物の誘導体としては、例えば、前述の含窒素化合物に炭素数1〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)やシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸若しくはこれらの無水物、又はエステル化合物;炭素数2〜6のアルキレンオキサイド;ヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネート等を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆる含酸素有機化合物による変性化合物;前述の含窒素化合物にホウ酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるホウ素変性化合物;前述の含窒素化合物にリン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるリン酸変性化合物;前述の含窒素化合物に硫黄化合物を作用させた硫黄変性化合物;及び前述の含窒素化合物に含酸素有機化合物による変性、ホウ素変性、リン酸変性、硫黄変性から選ばれた2種以上の変性を組み合わせた変性化合物等が挙げられる。これらの誘導体の中でもアルケニルコハク酸イミドのホウ酸変性化合物は耐熱性、酸化防止性に優れ、本発明の潤滑油組成物においても高温清浄性をより高めるために有効である。
【0049】
本発明の組成物において、(B)成分の含有量は、組成物全量基準で、0.1〜20質量%、好ましくは0.1〜5質量%、さらに好ましくは0.1〜2質量%、特に好ましくは0.5〜1.5質量%である。(B)成分の含有量が0.1質量%未満の場合は、すす分散性に対する効果が少なく、一方、20質量%を越える場合は、組成物の低温流動性が大幅に悪化する。本発明においては、1質量%程度の配合で十分な効果を確認している。
【0050】
本発明の組成物に用いる摩耗防止剤(C)としては、潤滑油に用いられる任意の摩耗防止剤が使用でき、例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の摩耗防止剤等が使用でき、具体的には、例えば、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、及びこれらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオカーバメート、ジスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。
本発明においては、ジチオリン酸亜鉛を使用することが好ましい。
本発明の組成物において、(C)成分の含有量は、特に制限はないが、組成物全量基準で、0.1〜5質量%、好ましくは0.1〜2質量%、特に好ましくは0.1〜1質量%である。(C)成分の含有量が0.1質量%未満の場合は、摩耗防止性に対する効果が少なく、一方、5質量%を越える場合は、組成物の高温清浄性が大幅に悪化するためそれぞれ好ましくない。
【0051】
本発明における金属系清浄剤(D)としては、潤滑油に用いられる、前記(A)成分以外の金属系清浄剤(D)が挙げられ、具体的には、前記(A)成分以外のサリシレート系清浄剤(D−1)、スルホネート系清浄剤(D−2)及びフェネート系清浄剤(D−3)から選ばれる少なくとも1種の金属系清浄剤を使用することが好ましく、貯蔵安定性の点で、前記(A)成分以外のサリシレート系清浄剤(D−1)及び/又はフェネート系清浄剤(D−3)を使用することが特に好ましい。
(A)成分以外のサリシレート系清浄剤(D−1)としては、炭素数1〜19の炭化水素基を1つ有するアルカリ金属サリシレート又はアルカリ土類金属サリシレート及び/又はその(過)塩基性塩、炭素数20〜40の炭化水素基を1つ有するアルカリ金属サリシレート又はアルカリ土類金属サリシレート及び/又はその(過)塩基性塩、炭素数1〜40の炭化水素基を2つ又はそれ以上有するアルカリ金属サリシレート又はアルカリ土類金属サリシレート及び/又はその(過)塩基性塩(これら炭化水素基は同一でも異なっていても良い)等が挙げられる。これらの中では、低温流動性に優れる点で、炭素数8〜19の炭化水素基を1つ有するアルカリ金属サリシレート又はアルカリ土類金属サリシレート及び/又はその(過)塩基性塩を用いることが望ましい。また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、バリウム、カルシウム等が挙げられ、マグネシウム及び/又はカルシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましく用いられる。
【0052】
また、スルホネート系清浄剤(D−2)としては、分子量1300〜1500、好ましくは400〜700のアルキル芳香族化合物をスルフォン化することによって得られるアルキル芳香族スルフォン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、及び/又はその(過)塩基性塩を用いることができる。また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、バリウム、カルシウム等が挙げられ、マグネシウム及び/又はカルシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましく用いられる。
【0053】
上記アルキル芳香族スルフォン酸としては、具体的にはいわゆる石油スルフォン酸や合成スルフォン酸等が挙げられる。
ここでいう石油スルフォン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルフォン化したものやホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が用いられる。また合成スルフォン酸としては、例えば洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状や分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルフォン化したもの、あるいはジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルフォン化したもの等が用いられる。またこれらアルキル芳香族化合物をスルフォン化する際のスルフォン化剤としては特に制限はないが、通常、発煙硫酸や無水硫酸が用いられる。
【0054】
フェネート系清浄剤(D−3)としては、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、及び/又はその(過)塩基性塩を用いることができる。また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、バリウム、カルシウム等が挙げられ、マグネシウム及び/又はカルシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましく用いられる。
【0055】
本発明においては、これら(A)成分以外の金属系清浄剤(D)としては、その塩基価や金属比に特に制限はないが、塩基価が好ましくは240〜500mgKOH/g、より好ましくは250〜450mgKOH/g、及び/又は金属比が4.5以上、好ましくは5以上、特に好ましくは8以上、好ましくは40以下、より好ましくは20以下、特に好ましくは15以下のものを使用することが望ましい。なお、ここでいう金属比とは、金属系清浄剤における金属元素の価数×金属元素含有量(モル%)/せっけん基含有量(モル%)で表され、金属元素とは、カルシウム、マグネシウム等、せっけん基とはサリチル酸基、スルホン酸基、フェノール基等を意味する。
本発明の組成物において、(D)成分の含有量は、組成物全量基準で、潤滑油基油等の希釈剤を含む形で、0.1〜10質量%、好ましくは1〜8質量%、特に好ましくは2〜5質量%であり、より詳細には、金属量として、0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上、特に好ましくは0.3質量%以上であり、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下である。(D)成分の含有量が0.1質量%未満の場合は、高温清浄性をさらに高めることができず、一方、10質量%を越える場合は、添加量に見合う効果が得られないので好ましくない。
【0056】
本発明の潤滑油組成物は、上記構成に加え、その性能を更に向上させるため又は他に要求される性能を付加するために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤、及び着色剤等の添加剤を挙げることができる。
【0057】
酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。これらの含有量は、組成物全量基準で、通常、0.1〜5質量%である。
摩擦調整剤としては、脂肪酸エステル系、脂肪族アミン系、脂肪酸アミド系等の無灰摩擦調整剤、モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオホスフェート等の金属系摩擦調整剤等が挙げられる。これらの含有量は、組成物全量基準で、通常0.1〜5質量%である。
【0058】
粘度指数向上剤としては、ポリメタクリレート系粘度指数向上剤、オレフィン共重合体系粘度指数向上剤、スチレン−ジエン共重合体系粘度指数向上剤、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体系粘度指数向上剤又はポリアルキルスチレン系粘度指数向上剤等が挙げられる。これら粘度指数向上剤の重量平均分子量は、通常800〜1,000,000、好ましくは100,000〜900,000である。また、粘度指数向上剤の含有量は、組成物全量基準で通常0.1〜20質量%である。
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、又はイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0059】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、又は多価アルコールエステル等が挙げられる。
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、又はポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0060】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、又はβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
消泡剤としては、例えば、シリコーン、フルオロシリコール、又はフルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
【0061】
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合には、その含有量は組成物全量基準で、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤ではそれぞれ通常0.005〜5質量%、金属不活性化剤では通常0.005〜1質量%、消泡剤では通常0.0005〜1質量%の範囲から選ばれる。
【0062】
なお、本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、特に制限はないが、好ましくは6〜50mm/s、より好ましくは9.3〜30mm/s、特に好ましくは12.5〜21.9mm/sである。ここでいう100℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を示す。
【0063】
また、本発明の潤滑油組成物の塩基価は、特に制限はないが、アスファルテンを含有する高硫黄燃料を使用する場合に対しても優れた高温清浄性と酸中和性能を付加するためには、好ましくは5〜100mgKOH/g、より好ましくは10mgKOH/g以上、さらに好ましくは20mgKOH/g以上、より好ましくは80mgKOH/g以下、さらに好ましくは50mgKOH/g以下である。ここで塩基価とは、ASTM D−2896により測定される塩基価を示す。
【0064】
また、本発明の潤滑油組成物の硫酸灰分量は、特に制限はないが、好ましくは1.2質量%以上、より好ましくは2質量%以上、特に好ましくは3質量%以上、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。なお、ここでいう硫酸灰分とは、JIS K2272の5.「硫酸灰分の試験方法」に規定される方法により測定される値を示し、主として金属含有添加剤に起因するものである。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0066】
(実施例1〜5、比較例1〜4、参考例1〜2)
表1に示す組成の本発明の潤滑油組成物(実施例1〜5)、比較用の潤滑油組成物(比較例1〜4)、参考用の潤滑油組成物をそれぞれ調製した。得られた組成物について、以下の(1)〜(4)の評価を行い、その結果を表1に併記した。
なお、表中、金属系清浄剤3)及び4)は、炭素数14〜18の直鎖α−オレフィンと炭素数20〜30の直鎖α−オレフィンとの混合物(モル比で50:50及び85:15)を使用し、上記のような方法により得られた炭素数14〜18のアルキル基を1つ有するサリチル酸及び炭素数20〜30のアルキル基を1つ有するサリチル酸を主成分とする混合物を、アルカリ土類金属の塩基で中和し、さらに炭酸ガス存在下でアルカリ土類金属塩基とを反応させて得られた過塩基性カルシウムサリシレート系清浄剤であり、その金属比はそれぞれ2.6及び2.7で、潤滑油基油希釈ベースで塩基価は170mgKOH/g、カルシウム含有量は6質量%に調整してある。なお、その他の添加剤についても潤滑油基油希釈ベースの配合量を示す。
【0067】
(1)貯蔵安定性
ASTM D−893に規定されている沈殿管に、供試油を100ccを採取し、60℃に調整した空気恒温槽内に1ヶ月間静置させて、沈殿管底部に沈降した不溶分の容積を測定した。表1中、TRは沈殿量が痕跡量又は沈殿を生じないことを示す。
(2)高温清浄性
JPI−5S−5599に準拠し、ホットチューブ試験(330℃,16h)を行い、評点による高温清浄性を比較した。330℃において評点が7以上であれば、アスファルテンを含む高硫黄燃料を使用した場合でも優れた高温清浄性を示す潤滑油組成物であると判断した。
(3)すす分散性
供試油(新油)を50g採取し、乾燥させたカーボンブラック(三菱化学MA-100)を3質量%配合して、ホモジナイザーで3分間撹拌させた。得られたカーボンブラック混合油について動粘度を測定し、粘度増加率を粘度比((カーボンブラック混合油の動粘度−新油の動粘度)/新油の動粘度)で表した。粘度比が小さいほどすす分散性が良好であるとした。
(4)流動点
JIS K2269により測定した。
【0068】
表1より、本発明のサリシレート系清浄剤(A)(170mgKOH/g)を含む潤滑油組成物(実施例1〜5)は、貯蔵安定性、高温清浄製、すす分散性及び低温流動性のいずれにも優れることがわかる。特に炭素数14〜18の直鎖α−オレフィンから誘導されるアルキル基を1つ有するサリチル酸金属塩(a)と炭素数20〜30の直鎖α−オレフィンから誘導されるアルキル基を1つ有するサリチル酸金属塩(b)との合計量に対する(a)成分の含有比率(原料オレフィンのモル比から算出)が40〜95の範囲のモノアルキルCaサリシレートを使用した場合、流動点が相乗的に低下していることがわかる。それに対し、炭素数20〜30のモノアルキルサリシレート(170mgKOH/g)を使用した場合(参考例1、2)には、流動点が高く、実用上、冬季における寒冷地での使用は好ましくない。また、炭素数14〜18のモノアルキルサリシレート(170mgKOH/g)を使用した組成物はいずれも沈殿量が多く、高温清浄性に劣ることがわかる。なお、この場合、無灰分散剤や高粘度基油の使用は、沈殿量を増加させることがわかる。
【0069】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の潤滑油組成物は、貯蔵安定性、高温清浄性、低温流動性及びすす分散性に優れるものであり、内燃機関用潤滑油、特にディーゼル燃料を使用する内燃機関用潤滑油としても好適であるが、長期にわたりストレージタンクに貯蔵される潤滑油、アスファルテン成分や残留炭素分を含む重質燃料(例えばA重油、C重油等)を使用する内燃機関等、特に、船舶、発電、鉄道等に使用される内燃機関用、内燃機関減速機用、又は内燃機関油圧作動器機用の潤滑油として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑基油に、組成物全量基準で、炭素数8〜19の炭化水素基を1つ有するサリチル酸金属塩(a)と、炭素数20〜32の炭化水素基を1つ有するサリチル酸金属塩(b)とを含む、金属元素の価数×金属元素含有量(モル%)/せっけん基含有量(モル%)で表わされる金属比が4.5未満であるサリシレート系清浄剤(A)0.1〜30質量%と、塩基価が240mgKOH/g以上及び/又は金属比が4.5以上である、前記サリシレート系清浄剤(A)以外のサリシレート系清浄剤及び/又はカルシウムフェネート系清浄剤0.1〜10質量%と、を含有することを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
前記サリシレート系清浄剤(A)において、前記(a)成分と(b)成分の合計量に対する(a)成分の含有比率が、20〜95モル%であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記サリシレート系清浄剤(A)が、前記(a)成分を主成分とするサリチル酸金属塩と前記(b)成分を主成分とするサリチル酸金属塩とをそれぞれ別々に製造し、混合してなることを特徴とする請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記サリシレート系清浄剤(A)が、炭素数8〜19の炭化水素基を1つ有するサリチル酸及び炭素数20〜32の炭化水素基を1つ有するサリチル酸を主成分とする混合物(X)に金属塩又は金属塩基を反応させて得られたサリチル酸金属塩からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記潤滑油基油が、100℃における動粘度が4〜17mm/s未満の潤滑油基油及び/又は100℃における動粘度が17〜50mm/sの潤滑油基油を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
さらに無灰分散剤(B)、及び摩耗防止剤(C)から選ばれる1種又は2種以上の添加剤を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかの項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記サリシレート系清浄剤(A)以外の金属系清浄剤(D)が、330℃,16hのホットチューブ試験(JPI−5S−5599に準拠)において、評点が7以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかの項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
船舶、発電もしくは鉄道に使用される内燃機関用、内燃機関減速機用、又は内燃機関油圧作動器機用の潤滑油であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかの項に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
アスファルテン成分や残留炭素分を含む重質燃料を使用する内燃機関等に用いられることを特徴とする請求項1〜8のいずれかの項に記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2010−180420(P2010−180420A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122359(P2010−122359)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【分割の表示】特願2004−74882(P2004−74882)の分割
【原出願日】平成16年3月16日(2004.3.16)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(505343789)オスカ化学株式会社 (1)
【Fターム(参考)】