説明

潤滑油組成物

【課題】150℃におけるHTHS粘度を維持しながら、40℃における動粘度、100℃における動粘度および100℃におけるHTHS粘度を十分に低くすることができ、また、境界潤滑領域の摩擦係数の上昇を十分に抑制することができ、省燃費性に優れた潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の潤滑油組成物は、100℃における動粘度が1〜20mm/sである潤滑油基油と、(A)摩擦調整剤と、(B)油溶性金属塩をアルカリ土類金属ホウ酸塩で過塩基化した第1の過塩基性金属塩と、(C)油溶性金属塩をアルカリ土類金属炭酸塩で過塩基化した第2の油溶性金属塩と、を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関や変速機、その他機械装置には、その作用を円滑にするために潤滑油が用いられる。特に内燃機関用潤滑油(エンジン油)は内燃機関の高性能化、高出力化、運転条件の苛酷化などに伴い、高度な性能が要求される。したがって、従来のエンジン油にはこうした要求性能を満たすため、摩耗防止剤、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤などの種々の添加剤が配合されている(例えば、下記特許文献1〜3を参照。)。また近時、潤滑油に求められる省燃費性能は益々高くなっており、高粘度指数基油の適用や各種摩擦調整剤の適用などが検討されている(例えば、下記特許文献4を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−279287号公報
【特許文献2】特開2002−129182号公報
【特許文献3】特開平08−302378号公報
【特許文献4】特開平06−306384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の潤滑油は省燃費性の点で必ずしも十分とは言えない。
【0005】
例えば、一般的な省燃費化の手法として、潤滑油の動粘度の低減および粘度指数の向上(低粘度基油と粘度指数向上剤の組合せによるマルチグレード化)や摩擦低減剤の配合が知られている。低粘度化の場合、潤滑油またはそれを構成する基油の粘度の低減に起因して、厳しい潤滑条件下(高温高せん断条件下)での潤滑性能が低下し、摩耗や焼付き、疲労破壊等の不具合の発生が懸念される。また、摩擦低減剤の配合については、無灰系やモリブデン系の摩擦調整剤が知られているが、一般的なこれら摩擦低減剤配合油をさらに上回る省燃費油が求められている。
【0006】
低粘度化の不具合を防止して耐久性を維持しつつ、省燃費性を付与するためには、150℃におけるHTHS粘度(「HTHS粘度」は「高温高せん断粘度」とも呼ばれる。)を高く、その一方で40℃における動粘度、100℃における動粘度および100℃におけるHTHS粘度を低くすることが有効であるが、従来の潤滑油ではこれらの要件全てを満たすことが非常に困難である。また、粘度を低減するだけでは、金属同士が接触する境界潤滑領域の摩擦係数を上昇させることが知られている。省燃費性を向上するためには境界潤滑領域の摩擦係数も併せて低減する必要がある。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、150℃におけるHTHS粘度を維持しながら、40℃における動粘度、100℃における動粘度および100℃におけるHTHS粘度を十分に低くすることができ、また、境界潤滑領域の摩擦係数の上昇を十分に抑制することができ、省燃費性に優れた潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、100℃における動粘度が1〜20mm/sである潤滑油基油と、(A)摩擦調整剤と、(B)油溶性金属塩をアルカリ土類金属ホウ酸塩で過塩基化した第1の過塩基性金属塩と、(C)油溶性金属塩をアルカリ土類金属炭酸塩で過塩基化した第2の過塩基性金属塩と、を含有することを特徴とする潤滑油組成物を提供する。
【0009】
上記(A)摩擦調整剤は、有機モリブデン系摩擦調整剤であることが好ましい。
【0010】
上記(B)第1の過塩基性金属塩は、アルカリ土類金属サリシレートをアルカリ土類金属ホウ酸塩で過塩基化した過塩基性アルカリ土類金属サリシレートであることが好ましい。
【0011】
また、本発明の潤滑油組成物は、(D)PSSIが40以下、分子量とPSSIの比(Mw/PSSI)が1×10以上である粘度指数向上剤をさらに含有することが好ましい。
【0012】
ここで、本発明でいう「PSSI」とは、ASTM D 6022−01(Standard Practice for Calculation of Permanent Shear Stability Index)に準拠し、ASTM D 6278−02(Test Metohd for Shear Stability of Polymer Containing Fluids Using a European Diesel Injector Apparatus)により測定されたデータに基づき計算された、ポリマーの永久せん断安定性指数(Permanent Shear Stability Index)を意味する。
【発明の効果】
【0013】
以上の通り、本発明によれば、150℃におけるHTHS粘度を維持しながら、40℃における動粘度、100℃における動粘度および100℃におけるHTHS粘度を十分に低くすることができ、また、境界潤滑領域の摩擦係数の上昇を十分に抑制することができ、省燃費性に優れた潤滑油組成物を提供することができる。
【0014】
また、本発明の潤滑油組成物は、二輪車用、四輪車用、発電用、コジェネレーション用等のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン等にも好適に使用でき、さらには、硫黄分が50質量ppm以下の燃料を使用するこれらの各種エンジンに対しても好適に使用することができるだけでなく、船舶用、船外機用の各種エンジンに対しても有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本実施形態に係る潤滑油組成物は、100℃における動粘度が1〜20mm/sである潤滑油基油と、(A)摩擦調整剤と、(B)油溶性金属塩をアルカリ土類金属ホウ酸塩で過塩基化した第1の過塩基性金属塩と、(C)油溶性金属塩をアルカリ土類金属炭酸塩で過塩基化した第2の過塩基性金属塩と、を含有する
【0017】
本実施形態に係る潤滑油組成物においては、100℃における動粘度が1〜20mm/sである潤滑油基油(以下、「本実施形態に係る潤滑油基油」という。)が用いられる。
【0018】
本実施形態に係る潤滑油基油としては、例えば、原油を常圧蒸留および/または減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理のうちの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて精製したパラフィン系鉱油、あるいはノルマルパラフィン系基油、イソパラフィン系基油などのうち、100℃における動粘度が1〜20mm/sのものが挙げられる。
【0019】
本実施形態に係る潤滑油基油の好ましい例としては、以下に示す基油(1)〜(8)を原料とし、この原料油および/またはこの原料油から回収された潤滑油留分を、所定の精製方法によって精製し、潤滑油留分を回収することによって得られる基油を挙げることができる。
(1)パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留による留出油
(2)パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留による留出油(WVGO)
(3)潤滑油脱ろう工程により得られるワックス(スラックワックス等)および/またはガストゥリキッド(GTL)プロセス等により得られる合成ワックス(フィッシャートロプシュワックス、GTLワックス等)
(4)基油(1)〜(3)から選ばれる1種または2種以上の混合油および/または当該混合油のマイルドハイドロクラッキング処理油
(5)基油(1)〜(4)から選ばれる2種以上の混合油
(6)基油(1)、(2)、(3)、(4)または(5)の脱れき油(DAO)
(7)基油(6)のマイルドハイドロクラッキング処理油(MHC)
(8)基油(1)〜(7)から選ばれる2種以上の混合油。
【0020】
なお、上記所定の精製方法としては、水素化分解、水素化仕上げなどの水素化精製;フルフラール溶剤抽出などの溶剤精製;溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう;酸性白土や活性白土などによる白土精製;硫酸洗浄、苛性ソーダ洗浄などの薬品(酸またはアルカリ)洗浄などが好ましい。本発明では、これらの精製方法のうちの1種を単独で行ってもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。また、2種以上の精製方法を組み合わせる場合、その順序は特に制限されず、適宜選定することができる。
【0021】
更に、本実施形態に係る潤滑油基油としては、上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分について所定の処理を行うことにより得られる下記基油(9)または(10)が特に好ましい。
(9)上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分を水素化分解し、その生成物またはその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または当該脱ろう処理をした後に蒸留することによって得られる水素化分解鉱油
(10)上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分を水素化異性化し、その生成物またはその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または、当該脱ろう処理をしたあとに蒸留することによって得られる水素化異性化鉱油。
【0022】
また、上記(9)または(10)の潤滑油基油を得るに際して、好都合なステップで、必要に応じて溶剤精製処理および/または水素化仕上げ処理工程を更に設けてもよい。
【0023】
また、上記水素化分解・水素化異性化に使用される触媒は特に制限されないが、分解活性を有する複合酸化物(例えば、シリカアルミナ、アルミナボリア、シリカジルコニアなど)または当該複合酸化物の1種類以上を組み合わせてバインダーで結着させたものを担体とし、水素化能を有する金属(例えば周期律表第VIa族の金属や第VIII族の金属などの1種類以上)を担持させた水素化分解触媒、あるいはゼオライト(例えばZSM−5、ゼオライトベータ、SAPO−11など)を含む担体に第VIII族の金属のうち少なくとも1種類以上を含む水素化能を有する金属を担持させた水素化異性化触媒が好ましく使用される。水素化分解触媒および水素化異性化触媒は、積層または混合などにより組み合わせて用いてもよい。
【0024】
水素化分解・水素化異性化の際の反応条件は特に制限されないが、水素分圧0.1〜20MPa、平均反応温度150〜450℃、LHSV0.1〜3.0hr−1、水素/油比50〜20000scf/bとすることが好ましい。
【0025】
本実施形態に係る潤滑油基油の100℃における動粘度は、20mm/s以下であることが必要であり、好ましくは10mm/s以下、より好ましくは7mm/s以下、さらに好ましくは5.0mm/s以下、特に好ましくは4.5mm/s以下、最も好ましくは4.0mm/s以下である。一方、当該100℃における動粘度は、1mm/s以上であることが必要であり、1.5mm/s以上であることが好ましく、より好ましくは2mm/s以上、さらに好ましくは2.5mm/s以上、特に好ましくは3mm/s以上である。ここでいう100℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を示す。潤滑油基油の100℃における動粘度が20mm/sを超える場合には、低温粘度特性が悪化し、また十分な省燃費性が得られないおそれがあり、1mm/s以下の場合は潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油組成物の蒸発損失が大きくなるおそれがある。
【0026】
本実施形態においては、100℃における動粘度が下記の範囲にある潤滑油基油を蒸留等により分取し、使用することが好ましい。
(I)100℃における動粘度が1.5mm/s以上3.5mm/s未満、より好ましくは2.0〜3.0mm/sの潤滑油基油
(II)100℃における動粘度が3.5mm/s以上4.5mm/s未満、より好ましくは3.7〜4.3mm/sの潤滑油基油
(III)100℃における動粘度が4.5〜10mm/s、より好ましくは4.8〜9mm/s、特に好ましくは5.5〜8.0mm/sの潤滑油基油。
【0027】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは80mm/s以下、より好ましくは50mm/s以下、さらに好ましくは20mm/s以下、特に好ましくは18mm/s以下、最も好ましくは16mm/s以下である。一方、当該40℃における動粘度は、好ましくは6.0mm/s以上、より好ましくは8.0mm/s以上、さらに好ましくは12mm/s以上、特に好ましくは14mm/s以上、最も好ましくは15mm/s以上である。潤滑油基油の40℃における動粘度が80mm/sを超える場合には、低温粘度特性が悪化し、また十分な省燃費性が得られないおそれがあり、6.0mm/s以下の場合は潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油組成物の蒸発損失が大きくなるおそれがある。また、本実施形態においては、40℃における動粘度が下記の範囲にある潤滑油留分を蒸留等により分取し、使用することが好ましい。
(IV)40℃における動粘度が6.0mm/s以上12mm/s未満、より好ましくは8.0〜12mm/sの潤滑油基油
(V)40℃における動粘度が12mm/s以上28mm/s未満、より好ましくは13〜19mm/sの潤滑油基油
(VI)40℃における動粘度が28〜50mm/s、より好ましくは29〜45mm/s、特に好ましくは30〜40mm/sの潤滑油基油。
【0028】
本実施形態に係る潤滑油基油の粘度指数は、120以上であることが好ましい。また、上記潤滑油基油(I)および(IV)の粘度指数は、好ましくは120〜135、より好ましくは120〜130である。また、上記潤滑油基油(II)および(V)の粘度指数は、好ましくは120〜160、より好ましくは125〜150、更に好ましくは130〜145である。また、上記潤滑油基油(III)および(VI)の粘度指数は、好ましくは120〜180、より好ましくは125〜160である。粘度指数が前記下限値未満であると、粘度−温度特性および熱・酸化安定性、揮発防止性が悪化するだけでなく、摩擦係数が上昇する傾向にあり、また、摩耗防止性が低下する傾向にある。また、粘度指数が前記上限値を超えると、低温粘度特性が低下する傾向にある。
【0029】
なお、本発明でいう粘度指数とは、JIS K 2283−1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0030】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の15℃における密度(ρ15)は、潤滑油基油の粘度グレードによるが、下記式(A)で表されるρの値以下であること、すなわちρ15≦ρであることが好ましい。
ρ=0.0025×kv100+0.816 (A)
[式中、kv100は潤滑油基油の100℃における動粘度(mm/s)を示す。]
【0031】
なお、ρ15>ρとなる場合、粘度−温度特性および熱・酸化安定性、更には揮発防止性および低温粘度特性が低下する傾向にあり、省燃費性を悪化させるおそれがある。また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下するおそれがある。
【0032】
具体的には、本発明に係る潤滑油基油の15℃における密度(ρ15)は、好ましくは0.860以下、より好ましくは0.850以下、さらに好ましくは0.840以下、特に好ましくは0.822以下である。
【0033】
なお、本発明でいう15℃における密度とは、JIS K 2249−1995に準拠して15℃において測定された密度を意味する。
【0034】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の流動点は、潤滑油基油の粘度グレードにもよるが、例えば、上記潤滑油基油(I)および(IV)の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−12.5℃以下、更に好ましくは−15℃以下である。また、上記潤滑油基油(II)および(V)の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−15℃以下、更に好ましくは−17.5℃以下である。また、上記潤滑油基油(III)および(VI)の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−12.5℃以下、更に好ましくは−15℃以下である。流動点が前記上限値を超えると、その潤滑油基油を用いた潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう流動点とは、JIS K 2269−1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0035】
また、本実施形態に係る潤滑油基油のアニリン点(AP(℃))は、潤滑油基油の粘度グレードによるが、下記式(B)で表されるAの値以上であること、すなわちAP≧Aであることが好ましい。
A=4.3×kv100+100 (B)
[式中、kv100は潤滑油基油の100℃における動粘度(mm/s)を示す。]
【0036】
なお、AP<Aとなる場合、粘度−温度特性および熱・酸化安定性、更には揮発防止性および低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0037】
例えば、上記潤滑油基油(I)および(IV)のAPは、好ましくは108℃以上、より好ましくは110℃以上である。また、上記潤滑油基油(II)および(V)のAPは、好ましくは113℃以上、より好ましくは119℃以上である。また、上記潤滑油基油(III)および(VI)のAPは、好ましくは125℃以上、より好ましくは128℃以上である。なお、本発明でいうアニリン点とは、JIS K 2256−1985に準拠して測定されたアニリン点を意味する。
【0038】
本実施形態に係る潤滑油基油のヨウ素価は、好ましくは3以下であり、より好ましくは2以下であり、さらに好ましくは1以下、特に好ましくは0.9以下であり、最も好ましくは0.8以下である。また、0.01未満であってもよいが、それに見合うだけの効果が小さい点および経済性との関係から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.01以上、さらに好ましくは0.03以上、特に好ましくは0.05以上である。潤滑油基油成分のヨウ素価を3以下とすることで、熱・酸化安定性を飛躍的に向上させることができる。なお、本発明でいうヨウ素価とは、JIS K 0070「化学製品の酸価、ケン化価、ヨウ素価、水酸基価および不ケン化価」の指示薬滴定法により測定したヨウ素価を意味する。
【0039】
また、本実施形態に係る潤滑油基油における硫黄分の含有量は、その原料の硫黄分の含有量に依存する。例えば、フィッシャートロプシュ反応等により得られる合成ワックス成分のように実質的に硫黄を含まない原料を用いる場合には、実質的に硫黄を含まない潤滑油基油を得ることができる。また、潤滑油基油の精製過程で得られるスラックワックスや精ろう過程で得られるマイクロワックス等の硫黄を含む原料を用いる場合には、得られる潤滑油基油中の硫黄分は通常100質量ppm以上となる。本実施形態に係る潤滑油基油においては、熱・酸化安定性の更なる向上および低硫黄化の点から、硫黄分の含有量が100質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm以下であることがより好ましく、10質量ppm以下であることが更に好ましく、5質量ppm以下であることが特に好ましい。
【0040】
また、本実施形態に係る潤滑油基油における窒素分の含有量は、好ましくは7質量ppm以下、より好ましくは5質量ppm以下、更に好ましくは3質量ppm以下である。窒素分の含有量が5質量ppmを超えると、熱・酸化安定性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう窒素分とは、JIS K 2609−1990に準拠して測定される窒素分を意味する。
【0041】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の%Cは、70以上であることが好ましく、好ましくは80〜99、より好ましくは85〜95、さらに好ましくは87〜94、特に好ましくは90〜94である。潤滑油基油の%Cが上記下限値未満の場合、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、潤滑油基油の%Cが上記上限値を超えると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
【0042】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の%Cは、2以下であることが好ましく、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.5以下である。潤滑油基油の%Cが上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および省燃費性が低下する傾向にある。
【0043】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の%Cは、好ましくは30以下、より好ましくは4〜25、更に好ましくは5〜13、特に好ましくは5〜8である。潤滑油基油の%Cが上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性が低下する傾向にある。また、%Cが上記下限値未満であると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
【0044】
なお、本発明でいう%C、%Cおよび%Cとは、それぞれASTM D 3238−85に準拠した方法(n−d−M環分析)により求められる、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率、ナフテン炭素数の全炭素数に対する百分率、および芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。つまり、上述した%C、%Cおよび%Cの好ましい範囲は上記方法により求められる値に基づくものであり、例えばナフテン分を含まない潤滑油基油であっても、上記方法により求められる%Cが0を超える値を示すことがある。
【0045】
また、本実施形態に係る潤滑油基油における飽和分の含有量は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは90質量%以上であり、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上であり、また、当該飽和分に占める環状飽和分の割合は、好ましくは40質量%以下であり、好ましくは35質量%以下であり、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、更に好ましくは21質量%以下である。また、当該飽和分に占める環状飽和分の割合は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上である。飽和分の含有量および当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度−温度特性および熱・酸化安定性を向上することができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を潤滑油基油中に十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能をより高水準で発現させることができる。更に、本発明によれば、潤滑油基油自体の摩擦特性を改善することができ、その結果、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上を達成することができる。
【0046】
なお、本発明でいう飽和分とは、前記ASTM D 2007−93に記載された方法により測定される。
【0047】
また、飽和分の分離方法、あるいは環状飽和分、非環状飽和分等の組成分析の際には、同様の結果が得られる類似の方法を使用することができる。例えば、上記の他、ASTM
D 2425−93に記載の方法、ASTM D 2549−91に記載の方法、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)による方法、あるいはこれらの方法を改良した方法等を挙げることができる。
【0048】
また、本実施形態に係る潤滑油基油における芳香族分は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2質量%以下であり、また、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、特に好ましくは1.5質量%以上である。芳香族分の含有量が上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性、更には揮発防止性および低温粘度特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、本発明に係る潤滑油基油は芳香族分を含有しないものであってもよいが、芳香族分の含有量を上記下限値以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0049】
なお、本発明でいう芳香族分とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定された値を意味する。芳香族分には、通常、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレンおよびこれらのアルキル化物、更にはベンゼン環が四環以上縮合した化合物、ピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ原子を有する芳香族化合物などが含まれる。
【0050】
本実施形態に係る潤滑油基油として合成系基油を用いてもよい。合成系基油としては、100℃における動粘度が1〜20mm/sである、ポリα−オレフィンまたはその水素化物、イソブテンオリゴマーまたはその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられ、中でも、ポリα−オレフィンが好ましい。ポリα−オレフィンとしては、典型的には、炭素数2〜32、好ましくは6〜16のα−オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー(1−オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンコオリゴマー等)およびそれらの水素化物が挙げられる。
【0051】
ポリ−α−オレフィンの製法は特に制限されないが、例えば、三塩化アルミニウムまたは三フッ化ホウ素と、水、アルコール(エタノール、プロパノール、ブタノール等)、カルボン酸またはエステルとの錯体を含むフリーデル・クラフツ触媒のような重合触媒の存在下、α−オレフィンを重合する方法が挙げられる。
【0052】
本実施形態に係る潤滑油組成物においては、上記本実施形態に係る潤滑油基油を単独で用いてもよく、また、本実施形態に係る潤滑油基油を他の基油の1種または2種以上と併用してもよい。なお、本実施形態に係る潤滑油基油と他の基油とを併用する場合、それらの混合基油中に占める本発明に係る潤滑油基油の割合は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。
【0053】
本実施形態に係る潤滑油基油と併用される他の基油としては、特に制限されないが、鉱油系基油としては、例えば100℃における動粘度が20mm/sを超え100mm/s以下の、溶剤精製鉱油、水素化分解鉱油、水素化精製鉱油、溶剤脱ろう基油などが挙げられる。
【0054】
また、本実施形態に係る潤滑油基油と併用される他の合成系基油としては、100℃における動粘度が1〜20mm/sの範囲外である、前記した合成系基油が挙げられる。
【0055】
本実施形態に係る潤滑油組成物は、(A)摩擦調整剤を含有する。これにより、本構成を有していない場合と比較して、省燃費性能を高めることができる。(A)摩擦調整剤としては、有機モリブデン化合物および無灰摩擦調整剤から選ばれる1種以上の摩擦調整剤が挙げられる。
【0056】
本実施形態で用いる有機モリブデン化合物としては、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)等の硫黄を含有する有機モリブデン化合物、モリブデン化合物(例えば、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸、(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデン、ポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩またはアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン等)と、硫黄含有有機化合物(例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイド、硫化エステル等)あるいはその他の有機化合物との錯体等、あるいは、上記硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体等を挙げることができる。
【0057】
また、有機モリブデン化合物としては、構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物を用いることができる。構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物としては、具体的には、モリブデン−アミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩などが挙げられ、中でも、モリブデン−アミン錯体、有機酸のモリブデン塩およびアルコールのモリブデン塩が好ましい。
【0058】
本実施形態に係る潤滑油組成物において、有機モリブデン化合物を用いる場合、その含有量は特に制限されないが、潤滑油組成物全量を基準として、モリブデン元素換算で、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、更に好ましくは0.01質量%以上、特に好ましくは0.03質量%以上であり、また、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.08質量%以下、特に好ましくは0.06質量%以下である。その含有量が0.001質量%未満の場合、その添加による摩擦低減効果が不十分となる傾向にあり、潤滑油組成物の省燃費性および熱・酸化安定性が不十分となる傾向にある。一方、含有量が0.2質量%を超える場合、含有量に見合う効果が得られず、また、潤滑油組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。
【0059】
また、無灰摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、分子中に酸素原子、窒素原子、硫黄原子から選ばれる1種もしくは2種以上のヘテロ元素を含有する、炭素数6〜50の化合物が挙げられる。さらに具体的には、炭素数6〜30のアルキル基またはアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基、直鎖アルケニル基、分岐アルキル基、分岐アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、ウレア系化合物、ヒドラジド系化合物等の無灰摩擦調整剤等が挙げられる。
【0060】
本実施形態に係る潤滑油組成物における無灰摩擦調整剤の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、また、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。無灰摩擦調整剤の含有量が0.01質量%未満であると、その添加による摩擦低減効果が不十分となる傾向にあり、また3質量%を超えると、耐摩耗性添加剤などの効果が阻害されやすく、あるいは添加剤の溶解性が悪化する傾向にある。
【0061】
本実施形態において、(A)摩擦調整剤としては、有機モリブデン系摩擦調整剤であることが好ましく、硫黄を含有する有機モリブデン化合物であることがより好ましく、モリブデンジチオカーバメートであることがさらに好ましい。
【0062】
本実施形態に係る潤滑油組成物は、(B)油溶性金属塩をアルカリ土類金属ホウ酸塩で過塩基化した過塩基性金属塩(以下、「(B)第1の過塩基性金属塩」という。)を含有する。これにより、本構成を有さない場合と比較して、省燃費性能を高めることができる。
【0063】
本実施形態で用いる(B)第1の過塩基性金属塩は、油溶性のアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属サリシレート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属ホスホネートなどの油溶性金属塩、アルカリ土類金属水酸化物または酸化物、ならびにホウ酸または無水ホウ酸を反応させることによって得ることができる。アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、バリウムなどがあげられるが、カルシウムが好ましい。また、油溶性金属塩としては、アルカリ土類金属サリシレートを用いることが好ましい。
【0064】
(B)第1の過塩基性金属塩の塩基価は、50mgKOH/g以上であることが好ましく、100mgKOH/g以上であることがより好ましく、150mgKOH/g以上であることがさらに好ましく、200以上であることが特に好ましい。また、500mgKOH/g以下であることが好ましく、400mgKOH/g以下であることがさらに好ましく、300mgKOH/g以下であることが特に好ましい。塩基価が50未満の場合は、その添加による摩擦低減効果が不十分となる傾向にあり、塩基価が500を超える場合は、耐摩耗性添加剤などの効果が阻害されやすく、また、添加剤の溶解性が悪化する傾向にある。本発明でいう塩基価はJIS K 2501 5.2.3により測定された値である。
【0065】
また、(B)第1の過塩基性金属塩の粒径は、0.1μm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.05μm以下である。
【0066】
(B)第1の過塩基性金属塩の製造法は任意であるが、例えば、上記油溶性金属塩、アルカリ土類金属水酸化物または酸化物,ならびにホウ酸または無水ホウ酸を水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール及びベンゼン、トルエン、キシレンなどの希釈溶剤の存在下で20〜200℃で2〜8時間反応させ、つぎに100〜200℃に加熱して水および必要に応じてアルコールおよび希釈溶剤を除去することにより得られる。これらの詳細な反応条件は、原料、反応物の量などに応じて適宜選択される。なお、製造法の詳細については、例えば特開昭60−116688号公報、特開昭61−204298号公報などに記載されている。上記方法で製造されたアルカリ土類金属ホウ酸塩で過塩基化させた油溶性金属塩の粒径は通常0.1μm以下、全塩基価は通常100mgKOH/g以上であるため、本発明の潤滑油組成物において好ましく用いることができる。
【0067】
本実施形態に係る潤滑油組成物における(B)第1の過塩基性金属塩の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは0.01〜30質量%、より好ましくは0.05〜5質量%である。含有量が0.01質量%に満たない場合には、省燃費効果が短期間しか持続しないおそれがあり、また30質量%を越える場合には、含有量に見合った効果が得られないおそれがあり好ましくない。
【0068】
本実施形態に係る潤滑油組成物における(B)第1の過塩基性金属塩の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、金属元素換算で、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.03質量%以上、特に好ましくは0.05質量%以上であり、また、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.4質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以下、特に好ましくは0.2質量%以下である。その含有量が0.001質量%未満の場合、その添加による摩擦低減効果が不十分となる傾向にあり、潤滑油組成物の省燃費性、熱・酸化安定性および清浄性が不十分となる傾向にある。一方、含有量が0.5質量%を超える場合、その添加による摩擦低減効果が不十分となる傾向にあり、潤滑油組成物の省燃費性が不十分となる傾向にある。
【0069】
本実施形態に係る潤滑油組成物における(B)第1の過塩基性金属塩の含有量、あるいは、本実施形態に係る潤滑油組成物における(B)成分に由来するホウ素の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、ホウ素元素換算で、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、更に好ましくは0.01質量%以上、特に好ましくは0.015質量%以上であり、また、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.15質量%以下、さらに好ましくは0.10質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以下である。当該含有量が0.001質量%未満の場合、その添加による摩擦低減効果が不十分となる傾向にあり、潤滑油組成物の省燃費性、熱・酸化安定性および清浄性が不十分となる傾向にある。一方、当該含有量が0.2質量%を超える場合、その添加による摩擦低減効果が不十分となる傾向にあり、潤滑油組成物の省燃費性が不十分となる傾向にある。
【0070】
本実施形態に係る潤滑油組成物は、(C)油溶性金属塩をアルカリ土類金属炭酸塩で過塩基化した過塩基性金属塩(以下、「(C)第2の過塩基性金属塩」という。)を含有する。これにより、本構成を有さない場合と比較して、省燃費性能を高めることができる。
【0071】
(C)第2の過塩基性金属塩としては、アルカリ土類金属スルホネートをアルカリ土類金属炭酸塩で過塩基化した過塩基性アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネートをアルカリ土類金属炭酸塩で過塩基化した過塩基性アルカリ土類金属フェネートまたはアルカリ土類金属サリシレートをアルカリ土類金属炭酸塩で過塩基化した過塩基性アルカリ土類金属サリシレート等が例示できる。アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、バリウムなどがあげられるが、カルシウムが好ましい。これらの中では、アルカリ土類金属サリシレートをアルカリ土類金属炭酸塩で過塩基化した過塩基性カルシウムサリシレートを用いることが特に好ましい。
【0072】
本実施形態に係る潤滑油組成物における(C)第2の過塩基性金属塩の塩基価は、50mgKOH/g以上であることが好ましく、100mgKOH/g以上であることがより好ましく、150mgKOH/g以上であることがさらに好ましく、200mgKOH/g以上であることが特に好ましい。また、500mgKOH/g以下であることが好ましく、400mgKOH/g以下であることがさらに好ましく、300mgKOH/g以下であることが特に好ましい。塩基価が50未満の場合は、その添加による摩擦低減効果が不十分となる傾向にあり、塩基価が500を超える場合は、耐摩耗性添加剤などの効果が阻害されやすく、また、添加剤の溶解性が悪化する傾向にある。
【0073】
また、(C)第2の過塩基性金属塩の粒径は、0.1μm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.05μm以下である。
【0074】
(C)第2の過塩基性金属塩の製造法は任意である。通常の方法で製造されたアルカリ土類金属炭酸塩で過塩基化させた油溶性金属塩の粒径は通常0.1μm以下、全塩基価は通常100mgKOH/g以上であるため、本発明の潤滑油組成物において好ましく用いることができる。
【0075】
本実施形態に係る潤滑油組成物における(C)第2の過塩基性金属塩の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは0.01〜30質量%、より好ましくは0.05〜5質量%である。含有量が0.01質量%に満たない場合には、省燃費効果が短期間しか持続しないおそれがあり、30質量%を越える場合には、含有量に見合った効果が得られないおそれがあり好ましくない。
【0076】
本実施形態に係る潤滑油組成物における(C)第2の過塩基性金属塩の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、金属元素換算で、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.03質量%以上、特に好ましくは0.05質量%以上であり、また、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.4質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以下、特に好ましくは0.2質量%以下である。その含有量が0.001質量%未満の場合、その添加による摩擦低減効果が不十分となる傾向にあり、潤滑油組成物の省燃費性、熱・酸化安定性および清浄性が不十分となる傾向にある。一方、含有量が0.5質量%を超える場合、その添加による摩擦低減効果が不十分となる傾向にあり、潤滑油組成物の省燃費性が不十分となる傾向にある。
【0077】
また、本実施形態に係る潤滑油組成物における(B)成分に由来する金属分の含有量および(C)成分に由来する金属分の含有量の合計(M)は、潤滑油組成物全量を基準として、金属元素換算で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.15質量%以上であり、また、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.4質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以下、特に好ましくは0.2質量%以下である。その含有量が0.01質量%未満の場合、その添加による摩擦低減効果が不十分となる傾向にあり、潤滑油組成物の省燃費性、熱・酸化安定性および清浄性が不十分となる傾向にある。一方、含有量が0.5質量%を超える場合、その添加による摩擦低減効果が不十分となる傾向にあり、潤滑油組成物の省燃費性が不十分となる傾向にある。
【0078】
さらに、本実施形態に係る潤滑油組成物においては、省燃費性に優れる点で、(B)成分に由来する金属分の含有量および(C)成分に由来する金属分の含有量の合計(M)と(B)成分に由来するホウ素含有量(MB)との質量比(M/MB)を0.1以上とすることが好ましく、1以上とすることがより好ましく、2以上とすることがさらに好ましく、3以上とすることが特に好ましい。また、M/MBは50以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、10以下であることがさらに好ましく、8以下とすることが特に好ましい。
【0079】
また、本実施形態に係る潤滑油組成物においては、省燃費性に優れる点で、(A)成分に由来するモリブデンの含有量(Mo)と(B)成分に由来するホウ素含有量(MB)との質量比(Mo/MB)を0.1以上とすることが好ましく、0.5以上とすることがより好ましく、1以上とすることがさらに好ましく、1.5以上とすることが特に好ましい。また、M/MBは20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、5以下であることがさらに好ましく、3以下とすることが特に好ましい。
【0080】
本実施形態に係る潤滑油組成物は、(D)PSSIが40以下、分子量とPSSIの比(Mw/PSSI)が1×10以上である粘度指数向上剤(以下、「(D)粘度指数向上剤」という。)をさらに含有することが好ましい。
【0081】
(D)粘度指数向上剤としては、非分散型または分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤、非分散型または分散型オレフィン−(メタ)アクリレート共重合体系粘度指数向上剤、非分散型または分散型エチレン−α−オレフィン共重合体系粘度指数向上剤またはその水素化物、ポリイソブチレン系粘度指数向上剤またはその水素化物、スチレン−ジエン水素化共重合体系粘度指数向上剤、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体系粘度指数向上剤およびポリアルキルスチレン系粘度指数向上剤等が挙げられるが、非分散型または分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤であることが好ましい。
【0082】
本実施形態において用いることのできるポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤(本発明でいうポリ(メタ)アクリレート系とは、ポリアクリレート系化合物及びポリメタクリレート系化合物の総称)は、好ましくは、下記一般式(1)で表される(メタ)アクリレートモノマー(以下、「モノマーM−1」という。)を含む重合性モノマーの重合体である。
【化1】


[上記一般式(1)中、Rは水素又はメチル基を示し、Rは炭素数1〜200の直鎖状又は分枝状の炭化水素基を示す。]
【0083】
一般式(1)で表されるモノマーの1種の単独重合体又は2種以上の共重合により得られるポリ(メタ)アクリレート系化合物はいわゆる非分散型ポリ(メタ)アクリレートであるが、本発明に係るポリ(メタ)アクリレート系化合物は、一般式(1)で表されるモノマーと、一般式(2)および(3)から選ばれる1種以上のモノマー(以下、それぞれ「モノマーM−2」および「モノマーM−3」という。)を共重合させたいわゆる分散型ポリ(メタ)アクリレートであってもよい。
【化2】


[一般式(2)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは炭素数1〜18のアルキレン基を示し、Eは窒素原子を1〜2個、酸素原子を0〜2個含有するアミン残基又は複素環残基を示し、aは0又は1を示す。]
【化3】


[一般式(3)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Eは窒素原子を1〜2個、酸素原子を0〜2個含有するアミン残基又は複素環残基を示す。]
【0084】
およびEで表される基としては、具体的には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、モルホリノ基、ピロリル基、ピロリノ基、ピリジル基、メチルピリジル基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、キノニル基、ピロリドニル基、ピロリドノ基、イミダゾリノ基、およびピラジノ基等が例示できる。
【0085】
モノマーM−2、モノマーM−3の好ましい例としては、具体的には、ジメチルアミノメチルメタクリレート、ジエチルアミノメチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、2−メチル−5−ビニルピリジン、モルホリノメチルメタクリレート、モルホリノエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン及びこれらの混合物等が例示できる。
【0086】
モノマーM−1とモノマーM−2〜M−3との共重合体の共重合モル比については特に制限はないが、M−1:M−2〜M−3=99:1〜80:20程度が好ましく、より好ましくは98:2〜85:15、さらに好ましくは95:5〜90:10である。
【0087】
上記ポリ(メタ)アクリレートの製造法は任意であるが、例えば、ベンゾイルパーオキシド等の重合開始剤の存在下で、モノマー(M−1)とモノマー(M−2)〜(M−3)の混合物をラジカル溶液重合させることにより容易に得ることができる。
【0088】
本実施形態に係る潤滑油組成物においては、(D)粘度指数向上剤として、前記した非分散型または分散型ポリ(メタ)アクリレートのほか、非分散型または分散型エチレン−α−オレフィン共重合体またはその水素化物、ポリイソブチレンまたはその水素化物、スチレン−ジエン水素化共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体、ポリアルキルスチレンおよび構造式(1)で表される(メタ)アクリレートモノマーとエチレン/プロピレン/スチレン/無水マレイン酸のような不飽和モノマーとの共重合体等の粘度指数向上剤を用いることができる。
【0089】
(D)粘度指数向上剤のPSSI(パーマネントシアスタビリティインデックス)は40以下であることが好ましく、より好ましくは35以下であり、さらに好ましくは30以下であり、特に好ましくは25以下である。また、0.1以上であることが好ましく、より好ましくは0.5以上であり、さらに好ましくは2以上であり、特に好ましくは5以上である。PSSIが0.1未満の場合には粘度指数向上効果が小さくコストが上昇するおそれがあり、PSSIが40を超える場合にはせん断安定性や貯蔵安定性が悪くなるおそれがある。
【0090】
(D)粘度指数向上剤の重量平均分子量(M)は100,000以上であることが好ましく、より好ましくは200,000以上であり、さらに好ましくは250,000以上であり、特に好ましくは300,000以上である。また、好ましくは1,000,000以下であり、より好ましくは700,000以下であり、さらに好ましくは600,000以下であり、特に好ましくは500,000以下である。重量平均分子量が100,000未満の場合には粘度温度特性の向上効果や粘度指数向上効果が小さくコストが上昇するおそれがあり、重量平均分子量が1,000,000を超える場合にはせん断安定性や基油への溶解性、貯蔵安定性が悪くなるおそれがある。
【0091】
(D)粘度指数向上剤の数平均分子量(M)は50,000以上であることが好ましく、より好ましくは800,000以上であり、さらに好ましくは100,000以上であり、特に好ましくは120,000以上である。また、好ましくは500,000以下であり、より好ましくは300,000以下であり、さらに好ましくは250,000以下であり、特に好ましくは200,000以下である。数平均分子量が50,000未満の場合には粘度温度特性の向上効果や粘度指数向上効果が小さくコストが上昇するおそれがあり、重量平均分子量が500,000を超える場合にはせん断安定性や基油への溶解性、貯蔵安定性が悪くなるおそれがある。
【0092】
(D)粘度指数向上剤の重量平均分子量とPSSIの比(M/PSSI)は、1.0×10以上であることが好ましく、好ましくは1.5×10以上、より好ましくは2.0×10以上、さらに好ましくは2.5×10以上、特に好ましくは3.0×10以上である。M/PSSIが1.0×10未満の場合には、粘度温度特性が悪化すなわち省燃費性が悪化するおそれがある。
【0093】
(D)粘度指数向上剤の重量平均分子量と数平均分子量の比(M/M)は、0.5以上であることが好ましく、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2.0以上、特に好ましくは2.1以上である。また、M/Mは6.0以下であることが好ましく、より好ましくは4.0以下、さらに好ましくは3.5以下、特に好ましくは3.0以下である。M/Mが0.5未満や6.0を超える場合には、粘度温度特性が悪化すなわち省燃費性が悪化するおそれがある。
【0094】
(D)粘度指数向上剤の40℃と100℃における動粘度の増粘比ΔKV40/ΔKV100は、4.0以下であることが好ましく、より好ましくは3.5以下、さらに好ましくは3.0以下、特に好ましくは2.5以下、もっとも好ましくは2.3以下である。また、ΔKV40/ΔKV100は、0.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.0以上であり、さらに好ましくは1.5以上である。ΔKV40/ΔKV100が0.5未満の場合には、粘度の増加効果や溶解性が小さくコストが上昇するおそれがあり、4.0を超える場合には、粘度温度特性の向上効果や低温粘度特性に劣るおそれがある。なお、ΔKV40はSK社製YUBASE4に粘度指数向上剤を3.0%添加したときの、40℃における動粘度の増加分を意味し、ΔKV100はSK社製YUBASE4に粘度指数向上剤を3.0%添加したときの、100℃における動粘度の増加分を意味する。
【0095】
(D)粘度指数向上剤の100℃と150℃におけるHTHS粘度の増粘比ΔHTHS100/ΔHTHS150は、2.0以下であることが好ましく、より好ましくは1.7以下、さらに好ましくは1.6以下、特に好ましくは1.55以下である。また、ΔHTHS100/ΔHTHS150は、0.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.0 以上であり、さらに好ましくは1.2以上であり、特に好ましくは1.4以上である。
0.5未満の場合には、粘度の増加効果や溶解性が小さくコストが上昇するおそれがあり、2.0を超える場合には、粘度温度特性の向上効果や低温粘度特性に劣るおそれがある。
なお、ΔHTHS100はSK社製YUBASE4に粘度指数向上剤を3.0%添加したときの、100℃におけるHTHS粘度の増加分を意味し、ΔHTHS150はSK社製YUBASE4に粘度指数向上剤を3.0%添加したときの、150℃におけるHTHS粘度の増加分を意味する。また、ΔHTHS100/ΔHTHS150は100℃におけるHTHS粘度の増加分と150℃におけるHTHS粘度の増加分の比を意味する。ここでいう100℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D4683に規定される100℃での高温高せん断粘度を示す。また、150℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D4683に規定される150℃での高温高せん断粘度を示す。
【0096】
本実施形態に係る潤滑油組成物における(D)粘度指数向上剤の含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.01〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜40質量%、さらに好ましくは1〜30質量%、特に好ましくは3〜20質量%、最も好ましくは5〜10質量%である。上記粘度指数向上剤の含有量が0.1質量%より少なくなると、粘度指数向上効果や製品粘度の低減効果が小さくなることから、省燃費性の向上が図れなくなるおそれがある。また、50質量%よりも多くなると、製品コストが大幅に上昇するとともに、基油粘度を低下させる必要が出てくることから、厳しい潤滑条件(高温高せん断条件)における潤滑性能を低下させ、摩耗や焼き付き、疲労破壊等の不具合の発生原因となることが懸念される。
【0097】
本実施形態に係る潤滑油組成物には、さらにその性能を向上させるために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、例えば、上記第1および第2の過塩基性金属塩以外の金属系清浄剤、無灰分散剤、摩耗防止剤(または極圧剤)、酸化防止剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等の添加剤等を挙げることができる。
【0098】
上記第1および第2の過塩基性金属塩以外の金属系清浄剤としては、アルカリ金属/アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属/アルカリ土類金属フェネート、およびアルカリ金属/アルカリ土類金属サリシレート等の正塩または塩基性塩を挙げることができる。アルカリ金属としてはナトリウム、カリウム等、アルカリ土類金属としてはマグネシウム、カルシウム、バリウム等が挙げられるが、マグネシウムまたはカルシウムが好ましく、特にカルシウムがより好ましい。
【0099】
無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤が使用でき、例えば、炭素数40〜400の直鎖もしくは分枝状のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するモノまたはビスコハク酸イミド、炭素数40〜400のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいは炭素数40〜400のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはこれらのホウ素化合物、カルボン酸、リン酸等による変成品等が挙げられる。使用に際してはこれらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
【0100】
酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。具体的には、例えば、フェノール系無灰酸化防止剤としては、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)等が、アミン系無灰酸化防止剤としては、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン等が挙げられる。
【0101】
摩耗防止剤(または極圧剤)としては、潤滑油に用いられる任意の摩耗防止剤・極圧剤が使用できる。例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤等が使用でき、具体的には、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。これらの中では硫黄系極圧剤の添加が好ましく、特に硫化油脂が好ましい。
【0102】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、またはイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0103】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、または多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0104】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、またはポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0105】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾールまたはその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、またはβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0106】
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1000〜10万mm/sのシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。
【0107】
これらの添加剤を本実施形態に係る潤滑油組成物に含有させる場合には、それぞれその含有量は潤滑油組成物全量基準で、0.01〜10質量%であることが好ましい。
【0108】
本実施形態に係る潤滑油組成物の100℃における動粘度は、4〜12mm/sであることが好ましく、好ましくは9mm/s以下、より好ましくは8mm/s以下、さらに好ましくは7.8mm/s以下、特に好ましくは7.6mm/s以下である。また、本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、好ましくは5mm/s以上、より好ましくは6mm/s以上、さらに好ましくは6.5mm/s以上、特に好ましくは7mm/s以上である。ここでいう100℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を示す。100℃における動粘度が4mm/s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、12mm/sを超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0109】
本実施形態に係る潤滑油組成物の40℃における動粘度は、4〜50mm/sであることが好ましく、好ましくは40mm/s以下、より好ましくは35mm/s以下、特に好ましくは32mm/s以下、最も好ましくは30mm/s以下である。また、本発明の潤滑油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは10mm/s以上、より好ましくは20mm/s以上、さらに好ましくは25mm/s以上、特に好ましくは27mm/s以上である。ここでいう40℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される40℃での動粘度を示す。40℃における動粘度が4mm/s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、50mm/sを超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0110】
本実施形態に係る潤滑油組成物の粘度指数は、140〜400の範囲であることが好ましく、好ましくは190以上、より好ましくは200以上、さらに好ましくは210以上、特に好ましくは220以上である。本発明の潤滑油組成物の粘度指数が140未満の場合には、150℃のHTHS粘度を維持しながら、省燃費性を向上させることが困難となるおそれがあり、さらに−35℃における低温粘度を低減させることが困難となるおそれがある。また、本実施形態に係る潤滑油組成物の粘度指数が400以上の場合には、蒸発性が悪化するおそれがあり、更に添加剤の溶解性やシール材料との適合性が不足することによる不具合が発生するおそれがある。
【0111】
本実施形態に係る潤滑油組成物の100℃におけるHTHS粘度は、5.5mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは5.0mPa・s以下、さらに好ましくは4.8mPa・s以下、特に好ましくは4.7mPa・s以下である。また、好ましくは3.0mPa・s以上、更に好ましくは3.5mPa・s以上、特に好ましくは4.0mPa・s以上、最も好ましくは4.2mPa・s以上である。本発明でいう100℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D4683に規定される100℃での高温高せん断粘度を示す。100℃におけるHTHS粘度が3.0mPa・s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、5.5mPa・sを超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0112】
本実施形態に係る潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度は、3.5mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは3.0mPa・s以下、さらに好ましくは2.8mPa・s以下、特に好ましくは2.7mPa・s以下である。また、好ましくは2.0mPa・s以上、より好ましくは2.3mPa・s以上、さらに好ましくは2.4mPa・s以上、特に好ましくは2.5mPa・s以上、最も好ましくは2.6mPa・s以上である。ここでいう150℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D4683に規定される150℃での高温高せん断粘度を示す。150℃におけるHTHS粘度が2.0mPa・s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、3.5mPa・sを超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0113】
また、本実施形態に係る潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度と100℃におけるHTHS粘度との比(150℃におけるHTHS粘度/100℃におけるHTHS粘度)は、0.50以上であることが好ましく、より好ましくは0.52以上、さらに好ましくは0.54、特に好ましくは0.55以上、最も好ましくは0.56以上である。当該比が0.50未満であると、必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0114】
本実施形態に係る潤滑油組成物は、省燃費性と潤滑性に優れ、ポリ−α−オレフィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基油を用いずとも、150℃のHTHS粘度を一定レベルに維持しながら、燃費向上にとって効果的である、潤滑油の40℃および100℃における動粘度および100℃のHTHS粘度を著しく低減させたものである。このような優れた特性を有する本発明の潤滑油組成物は、省燃費ガソリンエンジン油、省燃費ディーゼルエンジン油等の省燃費エンジン油として好適に使用することができる。
【実施例】
【0115】
以下、実施例および比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0116】
(実施例1〜3、比較例1〜4)
実施例1〜3および比較例1〜4においては、それぞれ以下に示す基油および添加剤を用いて表2に示す組成を有する潤滑油組成物を調製した。基油O−1、O−2の性状を表1に示す。
(基油)
O−1(基油1):n−パラフィン含有油を水素化分解/水素化異性化した鉱油
O−2(基油2):水素化分解鉱油
(添加剤)
A−1:MoDTC(Mo含有量10mass%)
B−1:過塩基性ホウ酸カルシウムサリシレート(塩基価190mgKOH/g,Ca含有量6.8%、B含有量2.7%)
C−1:過塩基性カルシウムサリシレート(塩基価170mgKOH/g,Ca含有量6.3%)
D−1:ポリメタクリレート(ΔKV40/ΔKV100=1.6、ΔHTHS100/ΔHTHS150=1.48、MW=400,000、PSSI=4、Mw/Mn=3.1、Mw/PSSI=100,000)
d−2:分散型ポリメタクリレート(ΔKV40/ΔKV100=3.3、ΔHTHS100/ΔHTHS150=1.79、MW=300,000、PSSI=40、Mw/Mn=4.0、Mw/PSSI=7500)
e−1:コハク酸イミド系分散剤(Mw13000)
f−1:その他添加剤(酸化防止剤、摩耗防止剤、流動点降下剤、消泡剤等)。
【0117】
【表1】

【0118】
[潤滑油組成物の評価]
実施例1〜3および比較例1〜4の各潤滑油組成物について、40℃または100℃における動粘度、粘度指数、100℃または150℃におけるHTHS粘度を測定した。また、省燃費性の測定はエンジンフリクションを測定した。各物性値、省燃費性の測定は以下の評価方法により行った。得られた結果を表2に示す。
(1)動粘度:ASTM D−445
(2)粘度指数:JIS K 2283−1993
(3)HTHS粘度:ASTM D−4683
(4)エンジンフリクション試験:2Lエンジンを用い、油温100℃、回転数500〜1500rpmの各測定点でのフリクションの平均値を算出し、比較例2を基準油としたときのフリクション改善率を算出した。
【0119】
【表2】

【0120】
表2に示すように、(A)〜(C)成分のすべてを含有する実施例1〜3の潤滑油組成物は、150℃におけるHTHS粘度が同程度である(B)成分または(C)成分を含有しない比較例1〜2の潤滑油組成物に比べて、エンジンフリクション試験におけるフリクション改善率が高く省燃費性に優れることを示す。また、PSSIが40以上で、分子量とPSSIの比が1×10以上の粘度指数向上剤を用い、かつ(C)成分を含有しない比較例3の潤滑油組成物のエンジンフリクション特性は著しく劣る。また、(A)成分を含有しない比較例4の潤滑油組成物のエンジンフリクション特性は著しく劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100℃における動粘度が1〜20mm/sである潤滑油基油と、
摩擦調整剤と、
油溶性金属塩をアルカリ土類金属ホウ酸塩で過塩基化した第1の過塩基性金属塩と、
油溶性金属塩をアルカリ土類金属炭酸塩で過塩基化した第2の過塩基性金属塩と、
を含有することを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
前記摩擦調整剤が有機モリブデン系摩擦調整剤であることを特徴とする、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記第1の過塩基性金属塩が、アルカリ土類金属サリシレートをアルカリ土類金属ホウ酸塩で過塩基化させた過塩基性アルカリ土類金属サリシレートであることを特徴とする、請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
PSSIが40以下、分子量とPSSIの比(Mw/PSSI)が1×10以上の粘度指数向上剤をさらに含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2011−140572(P2011−140572A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2269(P2010−2269)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】