説明

潤滑油組成物

【課題】排出制御システムを備えるエンジンにおける使用のための適正な磨耗保護および洗浄力を有する潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】0.12重量%までのリン含有量、1.2重量%までの硫酸灰分含有量を有する潤滑油組成物であって、(a)多量の潤滑粘度の油と、(b)潤滑油組成物1キログラム当たり7〜15mmolのサリチレート石鹸を提供する、アルカリ金属またはアルカリ土類金属アルキルサリチレート潤滑油洗浄剤と、(c)潤滑油組成物の質量を基準として少なくとも0.12重量%〜0.20重量%の原子窒素を有する潤滑油組成物を提供する、1種または複数の無灰窒素分散剤と、(d)分散剤−粘度調整剤とを含む潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関する。より具体的には、本発明は、排出制御システムを備えるエンジンにおける使用のための潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
環境への懸念により、圧縮点火(ディーゼル燃料型)および火花点火(ガソリン燃料型)軽量内燃エンジンのCO、炭化水素および酸化窒素(NOx)排出を削減するための継続的な取り組みがなされるようになった。さらに、圧縮点火軽量内燃エンジンの微粒子排出を削減するための継続的な取り組みがなされている。相手先商標製品の製造会社(OEM)は、自動車に対する現在および将来の排出基準に適合するために、排ガス後処理デバイスの使用に依存している。そのような排ガス後処理デバイスは、排ガス再循環構成および冷却排ガス再循環構成、1種または複数の酸化触媒、NOx貯蔵触媒および/もしくはNH3還元触媒を含有し得る触媒コンバータ、ならびに/または微粒子トラップを含み得る。OEMはまた、NOx排出をさらに削減するために選択的触媒還元(SCR)システムの使用に着目している。
酸化触媒は、エンジン排ガス中に存在するある特定の元素/化合物への暴露によって、特にリン含有潤滑油添加剤の分解により排ガス中に導入されるリンおよびリン化合物への暴露によって被毒され、効果が低減され得る。還元触媒は、潤滑剤をブレンドするために使用される基油、および硫黄含有潤滑油添加剤の両方の分解により導入される、エンジン排ガス中の硫黄および硫黄化合物に敏感である。微粒子トラップは、分解した金属含有潤滑油添加剤の生成物である金属灰分により閉塞され得る。したがって、様々な排出制御システムを含むようにエンジンを設計することに加えて、OEMはまた、潤滑油組成物が排ガスストリーム中の有害物質の存在を削減するよう調製されることを必要とする。同時に、選択された潤滑油組成物が、適正な磨耗保護および洗浄力を含む適正な潤滑性能を提供しなければならない。
【0003】
欧州特許出願公開第1167497号は、ある特定の窒素含有量を有する無灰分散剤と、ある特定の硫酸灰分含有量を提供するマンニッヒ塩基構造を有するアルキルサリチル酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩およびアルキルフェノール誘導体のアルカリまたはアルカリ土類金属塩を含む群から選択される有機酸金属塩を含有する金属含有洗浄剤と、特定のリン量を提供するジアルキルジチオリン酸亜鉛と、酸化阻害剤とを含む、制限された硫黄、リンおよび硫酸灰分含有量を有する潤滑油組成物を開示している。この特許出願に従い配合された潤滑油は、組成物の硫黄、リンおよび硫酸灰分レベルがより低いにもかかわらず、良好な高温洗浄力を示すことが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1167497号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様によれば、0.12重量%までのリン含有量、1.2重量%までの硫酸灰分含有量を有する潤滑油組成物であって、(a)多量の潤滑粘度の油と、(b)潤滑油組成物1キログラム当たり7〜15mmolのサリチレート石鹸を提供する、アルカリ金属またはアルカリ土類金属アルキルサリチレート潤滑油洗浄剤と、(c)潤滑油組成物の質量を基準として少なくとも0.12重量%〜0.20重量%の原子窒素を有する潤滑油組成物を提供する、1種または複数の分散剤と、(d)分散剤−粘度調整剤とを含む潤滑油組成物が提供される。
本発明の第2の態様によれば、排ガス再循環(EGR)システムを備える自動車エンジンを潤滑する方法であって、本発明の第1の態様による潤滑油組成物のそのエンジンにおける使用を含む方法が提供される。
本発明の第3の態様によれば、エンジンが選択的触媒還元(SCR)システムをさらに備える、第2の態様による方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0006】
別段の指定がない限り、添加剤の総量は、活性成分(「a.i.」)を基準とした重量%で、すなわち希釈剤またはキャリア油とは独立して報告される。
【0007】
潤滑粘度の油
潤滑粘度の油は、グループI、II、III、IVまたはVベースストック、合成エステルベースストックまたはそれらの混合物から選択され得る。ベースストックのグループは、American Petroleum Institute (API)出版物「Engine Oil Licensing and Certification System」、Industry Services Department、第14版、1996年12月、付録1、1998年12月に規定されている。ベースストックは、好ましくは100℃で3〜12mm2/s(cSt.)、より好ましくは4〜10mm2/s(cSt.)、最も好ましくは4.5〜8mm2/s(cSt.)の粘度を有する。
【0008】
(a)グループI鉱物油ベースストックは、90%未満の飽和物および/または0.03%を超える硫黄を含有し、以下の表Aに記載の試験方法を使用して80以上120未満の粘度指数を有する。
(b)グループII鉱物油ベースストックは、90%以上の飽和物および0.03%以下の硫黄を含有し、以下の表Aに記載の試験方法を使用して80以上120未満の粘度指数を有する。
(c)グループIII鉱物油ベースストックは、90%以上の飽和物および0.03%以下の硫黄を含有し、以下の表Aに記載の試験方法を使用して120以上の粘度指数を有する。
(d)グループIVベースストックは、ポリアルファオレフィン(PAO)である。
(e)使用され得る好適なエステルベースストックは、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸等)の、様々なアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール等)とのエステルを含む。これらのエステルの具体例には、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(e−エチルヘキシル)、フマル酸ジ−n−ヘキシル(din−n−hexyl fumarate)、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸二量体の2−エチルヘキシルジエステル、1モルのセバシン酸を2モルのテトラエチレングリコールおよび2モルの2−エチルヘキサン酸と反応させることにより形成される複合エステル等が含まれる。
【0009】
合成ベースストック油として有用なエステルはまた、C5−C12モノカルボン酸ならびにポリオールおよびポリオールエーテル、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等から作製されるものを含む。
【0010】
本発明の一実施形態において、潤滑粘度の油は、50重量%未満、好適には30重量%未満、好ましくは10重量%未満のフィッシャートロプシュ基油を含み、最も好ましくはフィッシャートロプシュ基油を実質的に含まないが、フィッシャートロプシュ基油を実質的に含まないとは、不純物量以下であることを意味する。
【0011】
表A−ベースストックを試験するための分析方法
特性 試験方法
飽和物 ASTM D2007
粘度指数 ASTM D2270
硫黄 ASTM D2622、D4294、D4927またはD3120
【0012】
金属サリチレート洗浄剤
本発明は、少なくとも1種のアルカリ金属またはアルカリ土類潤滑油サリチレート洗浄剤の存在を必要とする。
金属サリチレート洗浄剤は、C8−C30アルキルサリチレートまたはこれらの混合物であってもよいが、C10−C20アルキルサリチレートが特に好ましい。好ましくは、サリチレート洗浄剤は、サリチル酸カルシウムおよび/またはサリチル酸マグネシウムであり、10から1000の間、より好ましくは20から850の間の100%活性質量での全塩基価(TBN)を有する。本発明における使用に最も好ましい洗浄剤は、300から600の間のTBNを有する過塩基性アルキルサリチル酸カルシウム洗浄剤の1種または混合物である。一実施形態において、金属サリチレート洗浄剤は、アルキルサリチル酸マグネシウム洗浄剤を実質的に含まない。
本発明において、使用される金属サリチレート洗浄剤の量は広範に変動し得るが、典型的には、最終的な油組成物1キログラム当たり7〜15mmolの金属サリチレート洗浄剤を提供するように、組成物の総質量を基準として約0.1〜約5重量%、好ましくは0.5〜1.5重量%である。好適には、本発明において使用される金属サリチレート洗浄剤の量は、最終的な油組成物1キログラム当たり少なくとも8mmolの石鹸を有する組成物を提供する。好適には、本発明において使用される金属サリチレート洗浄剤の量は、最終的な油組成物1キログラム当たり11mmol以下の石鹸を有する組成物を提供する。
好適には、金属サリチレート洗浄剤は、潤滑油組成物に硫酸灰分として0.3質量%を超える、好ましくは少なくとも0.4質量%の金属を提供する。
金属サリチレートは、本発明の潤滑油組成物中に存在する唯一の金属潤滑油洗浄剤であってもよい。あるいは、金属スルホネートまたはフェネート等の他の金属含有洗浄剤が、潤滑組成物中に存在してもよい。有利には、潤滑油組成物が数種類の洗浄剤の混合物を含む場合、潤滑油組成物は、好適には金属サリチレートおよび金属スルホネート洗浄剤の混合物を含む。追加的な洗浄剤は、カルシウムまたはマグネシウム金属塩であってもよい。本発明の一実施形態において、追加的な洗浄剤はカルシウム金属塩であり、潤滑油組成物は、マグネシウム金属塩を実質的に含まない。好ましくは、サリチレート洗浄剤は、潤滑油組成物中の洗浄剤添加剤の大部分を提供する。
マグネシウム金属塩洗浄剤を実質的に含まない、およびアルキルサリチル酸マグネシウム洗浄剤を実質的に含まないとは、不純物量以下であること、例えば、50ppm未満のマグネシウム、好ましくは30ppm未満のマグネシウム、最も好ましくは10ppm未満のマグネシウムを提供する量を意味する。
【0013】
潤滑油洗浄剤として典型的に使用される有機酸の金属塩は、油中の塩の安定なコロイド分散物として存在する。成分は、一般に、加工助剤の存在下で有機酸を強金属塩基で中和することにより作製される。成分が過塩基性である場合、有機酸は、酸性ガス(多くの場合二酸化炭素)の存在下で強金属塩基で中和される。その結果、有機酸および酸性ガスの両方が金属塩に変換され、成分は、有機酸を中和するために必要な量を超える量の金属を含有する。
【0014】
これらの成分の製造は極めて複雑であり、コロイド分散物の最終組成は、正確には知られていない。例えば、硫化金属フェネートは、一般に、様々な長さの硫黄結合を有するビス−チオフェネートとして説明される。現実には、実際に互いに結合したフェノール基の数は、確実には知られていない。同様に、金属塩に変換されると推定されるフェノールの量は、多くの場合100%であると推定される。現実には、中和度は、フェノールの酸性度および中和塩基の酸性度に依存する。さらに、成分が作製される際に確立される平衡は、成分が強塩基を含有する他の材料とブレンドされる時はいつでもシフトする。これらの理由で、潤滑剤中に存在するカーボネート、スルホネート、およびフェノール性水酸化物の量は、最終的な潤滑剤を作製するためにブレンドされる個々の成分中に存在する量から推測される。そしてそれらの量は、一方で、洗浄剤を作製するために使用される原材料の投入比から、または、残留する部分の推測を可能にする検出可能な部分を決定し得る分析方法を用いることにより推測される。
【0015】
したがって、存在する有機酸の金属塩のモル数は、直接決定することができる場合もあれば、導出しなければならない場合もある。塩がスルホン酸カルシウムである場合、ASTM3712に記載の液体クロマトグラフィー法を用いて直接分析が可能である。その他の有機酸の場合は、塩のモル数は導出しなければならない。これが必要である場合、二相滴定法を含む滴定法、ASTM D664を用いて決定される全酸価(TAN)、透析法およびその他の周知の分析技術により、有機塩含有量の決定が可能である。したがって、フェネートおよびカルボキシレート(サリチレートを含む)に対しては、金属の総量は、金属比を用いて決定し、有機酸と無機酸との間で割り当てなければならない。存在する金属の総量は、誘導結合プラズマ原子発光分析(ASTM D4951)により都合良く決定される。金属比は、存在する金属の総量を、存在する任意の有機酸を中和するために必要な量を超える金属の量、すなわち無機酸を中和する金属の量で除したものとして定義される。金属比は、市販の洗浄剤の製造者により見積もられ、存在する塩の総量および有機酸の平均分子量を知っている製造者により決定され得る。洗浄剤中に存在する金属塩の量は、洗浄剤を透析し、残渣の量を定量化することにより決定され得る。有機塩の平均分子量が知られていない場合は、透析後の洗浄剤からの残渣を強酸で処理して塩をその酸形態に変換し、クロマトグラフィー法、プロトンNMR、および質量分析により分析し、既知の特性の酸に相関させることができる。より具体的には、洗浄剤を透析し、次いで残渣を強酸で処理して、任意の塩をそのそれぞれの酸形態に変換する。次いで、ASTM D1957に記載の方法により、混合物の水酸化物数を測定することができる。洗浄剤がフェノール化合物上の非フェノール性ヒドロキシル基を含有する場合(例えば、市販のフェネートの製造に使用されるエチレングリコールのアルコール誘導体またはサリチル酸上のカルボン酸基)、ASTM D1957により決定された水酸化物数を補正することができるように、別個の分析を行ってそれらのヒドロキシル基の量を定量化しなければならない。非フェノール性ヒドロキシル基の量を決定するための好適な技術は、質量分析、液体クロマトグラフィー、およびプロトンNMRによる分析、ならびに既知の特性を有する化合物への相関を含む。
【0016】
存在する有機酸の金属塩のモル数を導出するための第2の方法は、成分を作製するために投入される有機酸の全てが実際に塩に変換されることを仮定する。現実には、この2つの方法は若干異なる結果をもたらし得るが、両方とも、本発明を実施するのに必要な正確性まで、存在する塩の量の決定を可能にするのに十分正確であると考えられる。
最終的な油組成物中に存在する石鹸の量により制約されることに加えて、存在する洗浄剤の総量は、最終的な油組成物の最大1.2重量%の硫酸灰分含有量により制限される。
潤滑油の全石鹸含有量は、好適には、1.5重量%以下、好ましくは1.2重量%以下、より好ましくは1.0重量%以下である。潤滑油組成物の全石鹸含有量は、好適には少なくとも0.7重量%、好ましくは少なくとも0.75重量%である。
【0017】
無灰分散剤
無灰分散剤は、一般に、分散される粒子と結び付くことができる官能基を有する油溶性ポリマー炭化水素骨格を有する。典型的には、分散剤は、多くの場合架橋基を介してポリマー骨格に結合するアミン、アルコール、アミドまたはエステル極性部分を備える。本発明の無灰分散剤は、例えば、長鎖炭化水素置換モノおよびジカルボン酸またはその無水物の油溶性塩、エステル、アミノ−エステル、アミド、イミド、およびオキサゾリン;長鎖炭化水素のチオカルボキシレート誘導体、直接結合したポリアミンを有する長鎖脂肪族炭化水素;ならびに、長鎖置換フェノールをホルムアルデヒドおよびポリアルキレンポリアミンと縮合させることにより形成されるマンニッヒ縮合生成物から選択されてもよい。使用されている最も一般的な分散剤は、ヒドロカルビル置換コハク酸無水物およびポリ(アルキレンアミン)の縮合生成物である、周知のスクシンイミド分散剤である。モノ−スクシンイミドおよびビス−スクシンイミド分散剤の両方(ならびにこれらの混合物)が周知である。
【0018】
分散剤の好ましい群は、ポリアミン誘導体化ポリα−オレフィン分散剤、特にエチレン/ブテンα−オレフィンおよびポリイソブチレン系分散剤を含む。特に好ましいのは、無水コハク酸基で置換され、ポリエチレンアミン、例えばポリエチレンジアミン、テトラエチレンペンタミン等;またはポリオキシアルキレンポリアミン、例えばポリオキシプロピレンジアミン、トリメチロールアミノメタン等;ヒドロキシ化合物、例えばペンタエリスリトール等;およびこれらの組合せと反応させた、ポリイソブチレンから誘導される無灰分散剤である。1つの特に好ましい分散剤の組合せは、無水コハク酸基で置換され、(B)ヒドロキシ化合物、例えばペンタエリスリトール等;(C)ポリオキシアルキレンポリアミン、例えばポリオキシプロピレンジアミン等、または(D)ポリアルキレンジアミン、例えばポリエチレンジアミンおよびテトラエチレンペンタミン等と反応させた(A)ポリイソブチレンの組合せであって、(A)の1モル当たり約0.3〜約2モルの(B)、(C)および/または(D)を使用した組合せである。別の好ましい分散剤の組合せは、米国特許第3,632,511号に記載のような、(A)ポリイソブテニル無水コハク酸と、(B)ポリアルキレンポリアミン、例えばテトラエチレンペンタミン等、および(C)多価アルコールまたはポリヒドロキシ置換脂肪族第1アミン、例えばペンタエリスリトールまたはトリスメチロールアミノメタン等との組合せを含む。
【0019】
別のクラスの無灰分散剤は、マンニッヒ塩基縮合生成物を含む。一般に、これらの生成物は、例えば米国特許第3,442,808号に開示されるように、約1モルのアルキル置換モノ−またはポリヒドロキシベンゼンを、約1〜2.5モルのカルボニル化合物(複数可)(例えば、ホルムアルデヒドおよびパラホルムアルデヒド)ならびに約0.5〜2モルのポリアルキレンポリアミンと縮合させることにより調製される。そのようなマンニッヒ塩基縮合生成物は、ベンゼン基上の置換基としてメタロセン触媒重合のポリマー生成物を含むことができるか、または、米国特許第3,442,808号に記載の様式と同様の様式で、無水コハク酸上に置換されたそのようなポリマーを含有する化合物と反応させることができる。メタロセン触媒系を使用して合成された官能化および/または誘導体化オレフィンポリマーの例は、上記で特定された出版物に記載されている。
【0020】
分散剤は、米国特許第3,087,936号および米国特許第3,254,025号に一般的に教示されるように、ホウ素化等の様々な従来の後処理によりさらに後処理され得る。分散剤のホウ素化は、アシル化窒素化合物1モル当たり約0.1〜約20の原子割合のホウ素を提供するのに十分な量で、アシル窒素含有分散剤を酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ素酸、およびホウ酸のエステル等のホウ素化合物で処理することにより、容易に達成される。有用な分散剤は、約0.05〜約2.0質量%、例えば約0.05〜約0.7質量%のホウ素を含有する。脱水ホウ酸ポリマー(主として(HBO23)として生成物中に存在するホウ素は、アミン塩、例えばジイミドのメタホウ酸塩として、分散剤イミドおよびジイミドに結合していると考えられる。ホウ素化は、約0.5〜4質量%、例えば約1〜約3質量%(アシル窒素化合物の質量を基準として)のホウ素化合物、好ましくはホウ酸を、通常はスラリーとして、アシル窒素化合物に添加し、撹拌しながら約135℃〜約190℃、例えば140℃〜170℃で約1〜約5時間加熱し、続いて窒素ストリッピングを行うことにより実行することができる。あるいは、ホウ素処理は、水を除去しながらジカルボン酸材料およびアミンの高温反応混合物にホウ酸を添加することにより、実行することができる。当技術分野において一般に知られたその他の反応後プロセスもまた適用することができる。
【0021】
分散剤はまた、いわゆる「キャッピング剤」との反応によりさらに後処理されてもよい。従来、窒素含有分散剤は、そのような分散剤がフルオロエラストマーエンジンシールに対し有する悪影響を低減するために「キャッピング」されている。数々のキャッピング剤およびキャッピング方法が知られている。知られている「キャッピング剤」のうち、塩基性分散剤アミノ基を非塩基性部分(例えばアミドまたはイミド基)に変換するものが最も好適である。窒素含有分散剤およびアルキルアセトアセテート(例えばエチルアセトアセテート(EAA))の反応は、例えば米国特許第4,839,071号;米国特許第4,839,072号および米国特許第4,579,675号に記載されている。窒素含有分散剤およびギ酸の反応は、例えば、米国特許第3,185,704号に記載されている。窒素含有分散剤および他の好適なキャッピング剤の反応生成物は、米国特許第4,663,064号(グリコール酸);米国特許第4,612,132号;米国特許第5,334,321号;米国特許第5,356,552号;米国特許第5,716,912号;米国特許第5,849,676号;米国特許第5,861,363号(アルキルおよびアルキレンカーボネート、例えばエチレンカーボネート);米国特許第5,328,622号(モノ−エポキシド);米国特許第5,026,495号;米国特許第5,085,788号;米国特許第5,259,906号;米国特許第5,407,591号(ポリ(例えばビス)−エポキシド)ならびに米国特許第4,686,054号(無水マレイン酸または無水コハク酸)に記載されている。上記リストは網羅的ではなく、窒素含有分散剤の他のキャッピング方法が当業者に知られている。
【0022】
好ましくは、分散剤は、ポリアルケニル置換モノ−またはジカルボン酸無水物またはエステル;およびポリアルケニル部分1つ当たり約1.3を超え約1.7未満のモノ−またはジ−カルボン酸生成部分を有するポリアミンを反応させることにより形成される、熱マレイン化分散剤であり、前記ポリアルケニル部分は、1.5〜2.0の分子量分布(Mw/Mn)および約1800〜約3000の数平均分子量(Mn)を有する。そのような好ましい分散剤は、例えば、米国特許第6,734,148号および米国特許第6,743,757号に記載されている。
【0023】
無灰分散剤は、好適には、100%活性物質基準で4〜10重量%、好ましくは約5〜8重量%の量で存在する。分散剤は、少なくとも0.12重量%の原子窒素を有する潤滑油組成物を提供すべきである。分散剤は、好適には、0.2重量%以下の原子窒素を有する潤滑油組成物を提供する。好ましくは、分散剤は、0.12〜0.17重量%の原子窒素を有する潤滑油組成物を提供する。
分散剤により潤滑油組成物に提供される窒素含有量は、ASTM D5762の手順に従い決定することができる。
好ましい分散剤は、ポリイソブテニルが約400〜3,000、好ましくは約900〜2,500の数平均分子量(Mn)を有する、ホウ素化または非ホウ素化ポリイソブテニルスクシンイミド分散剤である。
【0024】
本発明の実施形態は、純粋イソブチレンストリームまたはラフィネートIストリームから調製されたポリイソブチレンを使用して調製されたポリイソブテニルスクシンイミド分散剤を利用して、末端ビニリデンオレフィンを有する反応性イソブチレンポリマーを調製する。好ましくは、高反応性ポリイソブチレン(HR−PIB)と呼ばれるこれらのポリマーは、少なくとも65%、例えば70%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも85%の末端ビニリデン含有量を有する。そのようなポリマーの調製は、例えば、米国特許第4,152,499号に記載されている。HR−PIBは既知であり、HR−PIBは、Glissopal(商標)(BASF社製)およびUltravis(商標)(BP−Amoco社製)の商品名で市販されている。
【0025】
分散剤は、1種の分散剤または分散剤の組合せを含み得る。分散剤が分散剤の組合せを含む場合、混合物は、好適には、低分子量分散剤および高分子量分散剤を含む。低分子量分散剤は、約500〜1750の数平均分子量(Mn)を有するポリマー炭化水素骨格を有する分散剤である。高分子量分散剤は、約1800〜3000の数平均分子量(Mn)を有するポリマー炭化水素骨格を有する分散剤である。一実施形態において、潤滑油組成物中に存在する全分散剤は、40質量%未満、35質量%未満、または30質量%未満の低分子量分散剤を含む。
ポリマー分子量、具体的には

は、様々な既知の技術により決定することができる。
1つの好都合な方法は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)であり、これは追加的に分子量分布情報を提供する(W.W.Yau、J.J.KirklandおよびD.D.Bly、「Modern Size Exclusion Liquid Chromatography」、John Wiley and Sons、New York、1979を参照)。特により低分子量のポリマーの分子量を決定するための別の有用な方法は、蒸気圧浸透圧法である(例えばASTM D3592を参照)。
【0026】
粘度調整剤
ベースストックの粘度指数は、粘度調整剤(VM)または粘度指数向上剤(VII)として作用するある特定のポリマー材料を組み込むことにより、増加または改善される。一般に、粘度調整剤として有用なポリマー材料は、約5,000〜約250,000、好ましくは約15,000〜約200,000、より好ましくは約20,000〜約150,000の数平均分子量(Mn)を有するポリマー材料である。好適な粘度調整剤は、ポリイソブチレン、オレフィンコポリマー、例えばエチレンおよびプロピレンのコポリマー、ならびに高級α−オレフィン、ポリメタクリレート、ポリアルキルメタクリレート、メタクリレートコポリマー、不飽和ジカルボン酸およびビニル化合物のコポリマー、スチレンおよびアクリルエステルのインターポリマー、ならびにスチレン/イソプレン、スチレン/ブタジエンおよびイソプレン/ブタジエンの部分水素化コポリマー、ならびにブタジエンおよびイソプレンおよびイソプレン/ジビニルベンゼンの部分水素化ホモポリマーである。
【0027】
分散剤−粘度調整剤
分散剤−粘度調整剤は、例えば上述のような粘度調整剤を、例えば無水マレイン酸等のグラフト材料でグラフトし、次いでグラフトされた材料を、例えばアミン、アミド、窒素含有ヘテロ環式化合物またはアルコールと反応させることにより生成される。
分散剤−粘度調整剤の例には、アミン、誘導体化ヒドロカルビル置換モノ−またはジ−カルボン酸が含まれ、ヒドロカルビル置換基は、粘度指数向上特性を化合物に付与するのに十分な長さの鎖を有する。一般に、分散剤−粘度調整剤は、例えば、ビニルアルコールのC4−C24不飽和エステル、または4〜20個の炭素原子を有する不飽和窒素含有モノマーで誘導体化されたC3−C10不飽和モノ−カルボン酸もしくはC4−C10ジ−カルボン酸のポリマー;C2−C20オレフィンの、アミン、ヒドロキシルアミンまたはアルコールで誘導体化された不飽和C3−C10モノ−またはジ−カルボン酸とのポリマー;あるいは、エチレンの、C4−C20不飽和窒素含有モノマーをその上にグラフトするか、または不飽和酸をポリマー骨格上にグラフトし、次いでグラフトされた酸のカルボン酸基をアミン、ヒドロキシアミンもしくはアルコールと反応させることによりさらに反応されたC3−C20オレフィンとのポリマーから作製され得る。
好ましい分散剤−粘度調整剤は、芳香族アミン誘導体化無水マレイン酸グラフトポリマーを含む。好ましい芳香族アミンは、N−フェニル−1,4−フェニレンジアミンである。好適には、ポリマーは、エチレン−プロピレンコポリマーである。好ましくは、ポリマーは、少なくとも5,000、好ましくは少なくとも8,000、好適には少なくとも10,000の数平均分子量Mnを有する。ポリマーは、100,000もの高いMnを有し得るが、好適には60,000以下、好ましくは約40,000である。
好適な市販の分散剤−粘度調整剤は、Afton Chemicals社から入手可能なHiTec5777、または多官能性ポリメタクリレート粘度調整剤、例えばRohmax GmbHから入手可能なViscoplex(商標)もしくはAcryloid(商標)の製品系列を含むが、これらに限定されない。
【0028】
本発明は、分散剤−粘度調整剤を含む。分散剤−粘度調整剤は、活性物質を基準として0.05〜5重量%、好ましくは約0.5〜3重量%の量で存在し得る。
本発明による潤滑油組成物は、1種または複数の標準的クランクケース潤滑油添加剤を追加的に含んでもよく、その例を以下に記載する。
【0029】
酸化防止剤
酸化防止剤は、使用中に劣化するベースストックの傾向を低減し、その劣化は、金属表面上のスラッジおよびニス様堆積物等の酸化生成物により、ならびに粘度の増加により明らかとなり得る。本発明において、酸化防止剤は、好適には0.1〜5.0重量%の量で存在する。好適な酸化阻害剤は、ヒンダードフェノール、好ましくはC5−C12アルキル側鎖を有するアルキルフェノールチオエステルのアルカリ土類金属塩、カルシウムノニルフェノールスルフィド、無灰油溶性フェネートおよび硫化フェネート、ホスホ硫化または硫化炭化水素、アルキル置換ジフェニルアミン、アルキル置換フェニルおよびナフチルアミン、リンエステル、金属チオカルバメート、無灰チオカルバメートならびに米国特許第4,867,890号に記載のような、油溶性銅化合物を含む。最も好ましいのは、ジノニルジフェニルアミン等のアルキルがC4−C20であるジアルキル置換ジフェニルアミン、およびイソオクチル−3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシシンナメート等のヒンダードフェノール、ならびにその混合物である。
【0030】
ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛
ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛は、ジヒドロカルビルジチオリン酸の油溶性塩であり、下記式:
【0031】
【化1】

で表すことができ、式中、RおよびR’は、1〜18個、好ましくは2〜12個の炭素原子を含有し、アルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、アルカリルおよび脂環式基等の基を含む、同じまたは異なるヒドロカルビル基であってもよい。RおよびR’基として特に好ましいのは、2〜8個の炭素原子のアルキル基である。したがって、基は、例えば、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、アミル、n−ヘキシル、i−ヘキシル、n−オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、2−エチルヘキシル、フェニル、ブチルフェニル、シクロヘキシル、メチルシクロペンチル、プロペニル、ブテニルであってもよい。油溶性を得るために、ジチオリン酸中の炭素原子の総数(すなわちRおよびR’)は、一般に約5以上である。したがって、ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含み得る。ZDDPは、内燃エンジン用の、および現在の欧州ACEA規格に適合するように配合された従来の乗用車ディーゼルエンジンの潤滑油組成物において、最も一般的に使用される酸化防止剤/耐磨耗剤である。本発明の潤滑油組成物は、好適には、潤滑油組成物中に約0.02〜0.12重量%、好ましくは0.02〜0.1重量%、より好ましくは0.05〜0.08重量%のリンを導入する量のZDDP(または他のジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩)を含有する。潤滑油組成物のリン含有量は、ASTM D5185の手順に従い決定される。
【0032】
モリブデン化合物
本発明の潤滑油組成物に対して、任意の好適な油溶性有機モリブデン化合物を使用することができる。モリブデン化合物は、耐磨耗性添加剤および酸化防止添加剤の両方として作用すると考えられている。好ましくは、二量体および三量体モリブデン化合物が使用される。そのような油溶性有機モリブデン化合物の例は、ジアルキルジチオカルバメート、ジアルキルジチオホスフェート、ジアルキルジチオホスフィネート、キサンテート、チオキサンテート、カルボキシレート等、およびこれらの混合物である。特に好ましいのは、ジアルキルチオカルバミン酸モリブデンである。
【0033】
好適なジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンは、二量体ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、例えば下記式:
【0034】
【化2】

を有するものを含み、R1からR4は、独立して、直鎖、分岐鎖または芳香族ヒドロカルビル基を示し、X1からX4は、独立して、酸素原子または硫黄原子を示す。4つのヒドロカルビル基R1からR4は、同一または互いに異なっていてもよい。
【0035】
本発明の潤滑組成物において有用な有機モリブデン化合物の別の群は、三核(三量体)モリブデン化合物、特に、式Mo3knzのもの、およびそれらの混合物であり、式中、Lは、化合物を油溶性とするのに十分な数の炭素原子を有する有機基を有する、独立して選択される配位子であり、nは、1から4であり、kは、4から7までを変動し、Qは、水、アミン、アルコール、ホスフィンおよびエーテル等の中性電子供与化合物の群から選択され、zは、0から5の範囲であり、非化学量論的な値を含む。全ての配位子の有機基には、少なくとも全21個の炭素原子、例えば少なくとも25個、少なくとも30個、または少なくとも35個の炭素原子が存在すべきである。
【0036】
配位子は、
【0037】
【化3】

および
【0038】
【化4】

ならびにこれらの混合物からなる群から選択され、式中、X、X1、X2、およびYは、酸素および硫黄の群から独立して選択され、式中、R1、R2、およびRは、水素および有機基から独立して選択され、同じまたは異なっていてもよい。好ましくは、有機基は、アルキル(例えば、配位子の残りに結合した炭素原子が第1級または第2級である場合)、アリール、置換アリールおよびエーテル基等のヒドロカルビル基である。より好ましくは、各配位子は、同じヒドロカルビル基を有する。
「ヒドロカルビル」という用語は、配位子の残りに直接結合した炭素原子を有する置換基を指し、本発明の文脈においては特性が主にヒドロカルビルである。そのような置換基は、以下を含む:
【0039】
1.炭化水素置換基、すなわち脂肪族(例えばアルキルまたはアルケニル)、脂環式(例えばシクロアルキルまたはシクロアルケニル)置換基、芳香族、脂肪族および脂環式置換芳香族の核等、ならびに、配位子の別の部分を介して環が完成されている環式置換基(すなわち、任意の2個の指定された置換基が一緒になって脂環式基を形成し得る)。
2.置換炭化水素置換基、すなわち、本発明の文脈において、置換基の主にヒドロカルビルの特性を改変しない非炭化水素基を含有する置換基。当業者には、好適な基(例えば、ハロ、特にクロロおよびフルオロ、アミノ、アルコキシル、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、スルホキシ等)が認識される。
【0040】
重要なのは、配位子の有機基が、化合物を油溶性とするのに十分な数の炭素原子を有するべきであるということである。例えば、各基における炭素原子の数は、一般に、約1〜約100個、好ましくは約1〜約30個、より好ましくは約4〜約20個の範囲である。好ましい配位子は、ジアルキルジチオホスフェート、アルキルキサンテート、カルボキシレート、ジアルキルジチオカルバメート、およびこれらの混合物を含む。最も好ましいのは、ジアルキルジチオカルバメートである。化合物の形成には、コアの電荷のバランスをとるために適切な電荷を有する配位子の選択が必要であることが、当業者には理解される(以下で考察される)。
【0041】
式Mo3knzを有する化合物は、アニオン性配位子で囲まれたカチオン性コアを有し、カチオン性コアは、+4の正味電荷を有する
【0042】
【化5】

等の構造で表される。結果として、これらのコアを可溶化するために、全配位子の総電荷は−4でなければならない。4つのモノアニオン性配位子が好ましい。いかなる理論にも束縛されることを望まないが、2つ以上の三核コアが1つまたは複数の配位子により結合または相互接続され得、配位子は多座配位子、すなわち1つまたは複数のコアに対し複数の接続を有する配位子であり得ると考えられる。酸素および/またはセレンが、コア(複数可)中の硫黄と置換され得ると考えられる。
【0043】
油溶性三核モリブデン化合物が好ましく、適切な液体(複数可)/溶媒(複数可)中で、(NH42Mo313・n(H2O)(式中、nは0から2の間で変動し、非化学量論的な値を含む)等のモリブデン源を、テトラアルキルチウラムジスルフィド等の好適な配位子源と反応させることにより調製され得る。他の油溶性三核モリブデン化合物は、適切な溶媒(複数可)中での、(NH42Mo313・n(H2O)等のモリブデン源、テトラアルキルチウラムジスルフィド、ジアルキルジチオカルバメートまたはジアルキルジチオホスフェート等の配位子源、およびシアン化物イオン、亜硫酸イオンまたは置換ホスフィン等の硫黄抽出剤の反応中に形成され得る。あるいは、[M’]2[Mo376](式中、M’は、対イオンであり、Aは、Cl、BrまたはI等のハロゲンである)等の三核モリブデン−硫黄ハライド塩を、ジアルキルジチオカルバメートまたはジアルキルジチオホスフェート等の配位子源と、適切な液体(複数可)/溶媒(複数可)中で反応させ、油溶性三核モリブデン化合物を形成することができる。適切な液体/溶媒は、例えば、水性または有機性であってもよい。
【0044】
選択される配位子は、化合物を潤滑組成物に可溶とするのに十分な数の炭素原子を有さなければならない。「油溶性」という用語は、本明細書において使用される場合、必ずしも、化合物または添加剤がすべての割合で油に可溶であることを示すわけではない。この用語は、化合物または添加剤が使用、輸送および貯蔵中に可溶であることを意味する。
【0045】
(i)酸性モリブデン化合物と、スクシンイミド、カルボン酸アミド、ヒドロカルビルモノアミン、ホスホルアミド、チオホスホルアミド、マンニッヒ塩基、分散剤−粘度指数向上剤、またはこれらの混合物からなる群から選択される塩基性窒素化合物とを、極性促進剤の存在下で反応させ、モリブデン錯体を形成し、(ii)モリブデン錯体を硫黄含有化合物と反応させ、それにより硫黄およびモリブデン含有組成物を形成することにより調製される硫化モリブデン含有組成物は、本発明の文脈において有用である。硫化モリブデン含有組成物は、一般に、塩基性窒素化合物のモリブデン/硫黄錯体として特徴付けることができる。これらのモリブデン組成物の正確な分子式は、確実には知られていない。しかしながら、モリブデン組成物は、原子価が酸素または硫黄の原子で満たされているモリブデンが、これらの組成物の調製に使用される塩基性窒素含有化合物の1個または複数の窒素原子により錯化されているか、またはそれらの塩である化合物であると考えられる。
【0046】
本発明の潤滑組成物は、少量の油溶性モリブデン化合物を含有し得る。存在する場合には、モリブデン化合物からの少なくとも10ppmから約600ppmまでの量のモリブデンが、潤滑油組成物中に存在し得る。好ましくは、モリブデン化合物からの約10ppm〜300ppmのモリブデンが使用される。より好ましくは、モリブデン化合物からの100ppm以下のモリブデンが使用される。これらの値は、潤滑組成物の質量を基準としている。
【0047】
摩擦調整剤
潤滑油組成物は、有機油溶性摩擦調整剤を含有し得る。典型的には、摩擦調整剤は、潤滑油組成物の約0.02〜2.0重量%を構成し得る。
摩擦調整剤は、脂肪族アミンまたはエトキシル化脂肪族アミン、脂肪族脂肪酸アミド、脂肪族カルボン酸、ポリオールの脂肪族カルボン酸エステル、例えば好ましくはグリセロールオレエートで例示されるような脂肪酸のグリセロールエステル、脂肪族カルボン酸エステル−アミド、脂肪族ホスホネート、脂肪族チオホスフェート等の化合物を含み、脂肪族基は通常、化合物を好適に油溶性とするように、約8個を超える炭素原子を含有する。また、1種または複数の脂肪族コハク酸または無水物をアンモニアと反応させることにより形成される、脂肪族置換スクシンイミドも好適である。
潤滑油流動性向上剤としても知られる流動点降下剤は、流体が流動するかまたは注がれ得る最低温度を低下させる。そのような添加剤は周知である。流体の低温流動性を改善するそれらの添加剤の典型的なものは、C8−C18ジアルキルフマレート/酢酸ビニルコポリマー、ポリアルキルメタクリレート等である。これらの添加剤は、0.01〜5.0重量%、好ましくは約0.1〜3.0重量%の量で使用され得る。好ましくは、これらの添加剤は、鉱物油ベースストックが用いられる場合に使用されるが、ベースストックがPAOまたは合成エステルである場合、一般的には必要とされない。
泡の制御は、ポリシロキサン型の消泡剤、例えばシリコーン油またはポリジメチルシロキサン等を含む多くの化合物により提供され得る。
上述の添加剤のいくつかは、多様な効果を提供することができ、したがって、例えば単一の添加剤が分散剤−酸化阻害剤として作用し得る。この手法は周知であり、さらなる説明は必要ない。
個々の添加剤は、任意の好都合な様式でベースストック中に組み込むことができる。したがって、成分のそれぞれは、所望のレベルの濃度でベースストックまたは基油ブレンドに分散または溶解させることにより、ベースストックまたは基油ブレンドに直接添加することができる。そのようなブレンドは、周囲温度または高温で行うことができる。生成物を含む本発明は、添加剤成分を混合して潤滑油組成物を形成することから得られる。
【0048】
好ましくは、添加剤は、互いにブレンドされて濃縮物または添加剤パッケージを形成し、これが後にベースストック中にブレンドされて最終的な潤滑剤が作製される。濃縮物もしくは添加剤パッケージは、粘度調整剤を含有し得るか、または粘度調整剤が濃縮物もしくは添加剤パッケージとは別個に添加されて潤滑油組成物を形成し得る。濃縮物は、典型的には、濃縮物が所定量のベース潤滑剤と合わせられた時に最終配合物中の所望の濃度を提供するように、適量の添加剤(複数可)を含有するように配合される。
最終的なクランクケース潤滑油配合物は、10〜50質量%、好ましくは15〜40質量%の濃縮物または添加剤パッケージを使用し、残りはベースストックであってもよい。
【実施例】
【0049】
ここで、以下の例示的な例を参照しながら本発明をさらに説明するが、例において、すべての量は100%活性物質基準で示されている(すなわち、任意の希釈油を除く)。
(例1)
【0050】
数平均分子量(Mn)が2225のポリイソブテニルから作製したポリイソブテニルスクシンイミド分散剤4.8質量%、数平均分子量(Mn)が950のポリイソブテニルから作製したポリイソブテニルスクシンイミド分散剤1.08質量%、321TBN過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤0.74質量%および565TBN過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤0.34質量%、709TBN過塩基性スルホン酸マグネシウム洗浄剤0.43質量%、HiTec5777分散剤−粘度調整剤0.84質量%、ならびに追加的なジアルキルジチオリン酸亜鉛、有機ジチオカルバミン酸モリブデンおよび酸化防止剤を含む添加剤パッケージを、グループIおよびグループIII基油の混合物を含むベースストックに混合することにより、潤滑油組成物である油Aを調製した。油Aは、硫酸灰分0.96重量%、リン0.08重量%、硫黄0.21重量%、原子ホウ素130ppm、モリブデン50ppm、カルシウム0.153質量%およびマグネシウム0.069質量%を含んでいた。油Aのサリチレート石鹸含有量は8.8mmolであり、この油の全石鹸含有量は0.85質量%の石鹸であった。サリチル酸カルシウム洗浄剤は、硫酸灰分としてカルシウム0.5質量%を有する潤滑油組成物を提供する。分散剤は、窒素0.135質量%を有する潤滑油組成物を提供し、0.096質量%のNは高分子量分散剤により提供され、0.039質量%は低分子量分散剤により提供される。
【0051】
次いで油Aを、より一般的にはMack T−12として知られるASTM D7422エンジン試験に供した。Mack T−12試験は、EGRシステムを装備したエンジンにおける磨耗を最小限化する油の能力を評価するために設計されている。Mack T−12エンジン試験は、API CJ−4およびACEA E6性能分類の一部である。
使用したエンジンは、定格が460bhpおよび1,800rpmである、EGRシステムを有する改造型Mack E7 E−Tech460である。試験は300時間にわたり行い、試験の最後に、ピストンリングの磨耗、シリンダライナの磨耗、鉛ベアリングの腐食、油消費量および酸化を評価する。
油Aに対する合格/不合格限界および結果を、以下の表1に記載する。
【0052】
表1

【0053】
油Aは、明らかに、必要とされるAPI CJ−4およびACEA E6性能レベルでのMack T−12試験に合格した。
(例2)
【0054】
数平均分子量(Mn)が2225のポリイソブテニルから作製したポリイソブテニルスクシンイミド分散剤4.8質量%、数平均分子量(Mn)が950のポリイソブテニルから作製したポリイソブテニルスクシンイミド分散剤1.08質量%、321TBN過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤0.84質量%および565TBN過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤0.34質量%、709TBN過塩基性スルホン酸マグネシウム洗浄剤0.43質量%、HiTec5777分散剤−粘度調整剤0.84質量%、ならびにジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸モリブデンおよび酸化防止剤を含む添加剤パッケージを、グループIおよびグループIII基油の混合物を含むベースストックに混合することにより、潤滑油組成物である油Bを調製した。油Bは、硫酸灰分1.0重量%、リン0.08重量%、硫黄0.21重量%、原子ホウ素130ppm、モリブデン50ppm、カルシウム0.165質量%およびマグネシウム0.069質量%を含んでいた。油Bのサリチレート石鹸含有量は9.8mmolであり、この油の全石鹸含有量は0.92質量%の石鹸であった。サリチル酸カルシウム洗浄剤は、硫酸灰分として0.54質量%のカルシウムを有する潤滑油組成物を提供する。分散剤は、窒素0.135質量%を有する潤滑油組成物を提供し、0.096質量%の窒素は高分子量分散剤により提供され、0.039質量%は低分子量分散剤により提供される。
【0055】
次いで油Bを、ACEAおよびDaimler規格の一部であるMercedes−Benz OM646 LA(CEC L−99−08)エンジン試験に供した。この300時間試験は、2.2LのコモンレールディーゼルOM646DE22LAエンジンを使用して、エンジン磨耗および全体的な清浄度、ならびにピストン清浄度およびリング固着に関してエンジン潤滑剤性能を評価する。
油Bに対する合格/不合格限界および結果を、以下の表2に記載する。
【0056】
表2

表2の結果から、油Bが、ACEA E6の必要とされる性能レベルでのOM646LAエンジン試験に合格することが分かる。試験はまた、より厳しいMB228.51規格レベルに必要なパラメータの全てを達成する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.12重量%までのリン含有量、1.2重量%までの硫酸灰分含有量を有する潤滑油組成物であって、
(a)多量の潤滑粘度の油と、
(b)潤滑油組成物1キログラム当たり7〜15mmolのサリチレート石鹸を提供する、アルカリ金属またはアルカリ土類金属アルキルサリチレート潤滑油洗浄剤と、
(c)潤滑油組成物の質量を基準として少なくとも0.12重量%〜0.20重量%の原子窒素を有する潤滑油組成物を提供する、1種または複数の無灰窒素含有分散剤と、
(d)分散剤−粘度調整剤と
を含む潤滑油組成物。
【請求項2】
リン含有量が、0.08重量%以下である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
硫酸灰分含有量が、1.0重量%以下である、請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属アルキルサリチレート潤滑油洗浄剤が、潤滑油組成物1キログラム当たり8〜11mmolのサリチレート石鹸を提供する、請求項1、2または3に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
1種または複数の分散剤が、潤滑油組成物の質量を基準として少なくとも0.12重量%〜0.17重量%の原子窒素を有する潤滑油組成物を提供する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属アルキルサリチレートが、サリチル酸カルシウムもしくはサリチル酸マグネシウム、またはこれらの組合せである、請求項1から5までのいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
アルカリ土類金属アルキルスルホネート潤滑油洗浄剤をさらに含む、請求項1から6までのいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
分散剤が、ポリイソブテニルスクシンイミド分散剤である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
API−CJ4規格およびACEA E6規格の両方の要件を満たす、請求項1から8までのいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
排ガス再循環(EGR)システムを備える自動車エンジンを潤滑する方法であって、請求項1から9までのいずれか1項に記載の潤滑油組成物の前記エンジンにおける使用を含む方法。
【請求項11】
エンジンが、圧縮点火エンジンである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
エンジンが、重量車用ディーゼルエンジンである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
エンジンが、選択的触媒還元デバイスをさらに備える、請求項10から12までのいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2011−214004(P2011−214004A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−92460(P2011−92460)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(500010875)インフィニューム インターナショナル リミテッド (132)
【Fターム(参考)】