説明

潤滑油組成物

【課題】摩耗防止性の維持と、低リン低硫黄化を両立させた潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】潤滑油基油に、(A)1種以上のアルカリ金属またはアルカリ土類金属サリチレート、1種以上のアルカリ金属またはアルカリ土類金属スルホネートまたはこれらの混合物から選ばれる、塩基価100〜500mgKOH/gを有する過塩基性金属系清浄剤を、組成物全量基準において、金属分換算で0.03〜0.35質量%、(B)重量平均分子量5,000〜1,000,000の分散型粘度指数向上剤を、組成物全量に対して、窒素元素換算で0.002〜0.1質量%、含有してなる潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油組成物に関する。詳細には、低リン低硫黄化と摩耗防止性の維持とを両立させた潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関や自動変速機、グリースなどには、その作用を円滑にするために潤滑油が用いられる。これらの用途における潤滑油には、機器の高性能化、高出力化、運転条件の苛酷化、省燃費性、排気ガス後処理装置への影響低減など、高度な性能が要求されるようになってきている。
従来の潤滑油においては、上述の要求性能を満たすため、摩耗防止剤、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤などの種々の添加剤が配合されている。中でもジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)は、摩耗防止剤または酸化防止剤としての機能を有するため、各種潤滑油には不可欠の添加剤として使用されている(例えば、特許文献1を参照。)。またZnDTPは分散剤として使用されるコハク酸イミドと相互作用を起こして、摩耗防止性が低下することが知られている(例えば、非特許文献1を参照。)。
最近では、特に内燃機関用潤滑油で、排気ガス後処理装置への悪影響を低減するために、ZnDTPに起因するリンや硫黄の含有量を低減させることが強く求められている。しかし、ただ単にZnDTPの含有量を低減させると、摩耗防止性が低下するため、ZnDTPの量を低減させた場合に、従来レベルの摩耗防止性を維持するための数々の方策が提案されているが、いまだ決定的な回答は見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−302378号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】“The Effects of Engine Oil Additive on Valve Train Wear”, Lubrication Science, 1-4, (1), 366 (1987).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、摩耗防止性を維持しながら、ZnDTP含有量の低減、すなわち低リン低硫黄化を両立した潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の過塩基性金属系清浄剤と分散型粘度指数向上剤を組み合わせた潤滑油組成物が、低リン低硫黄であっても十分な摩耗防止性を発揮しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、潤滑油基油に、(A)1種以上のアルカリ金属またはアルカリ土類金属サリチレート、1種以上のアルカリ金属またはアルカリ土類金属スルホネートまたはこれらの混合物から選ばれる、塩基価100〜500mgKOH/gを有する過塩基性金属系清浄剤を、組成物全量基準において、金属元素換算で0.03〜0.35質量%、(B)重量平均分子量5,000〜1,000,000の分散型粘度指数向上剤を、組成物全量基準において、窒素元素換算で0.002〜0.1質量%、含有してなる潤滑油組成物である。
【0008】
また、本発明は、前記(B)分散型粘度指数向上剤がポリメタクリレートであることを特徴とする前記記載の潤滑油組成物である。
【0009】
また、本発明は、潤滑油基油に、(A)1種以上のアルカリ金属またはアルカリ土類金属サリチレート、1種以上のアルカリ金属またはアルカリ土類金属スルホネートまたはこれらの混合物から選ばれる、塩基価100〜500mgKOH/gを有する過塩基性金属系清浄剤を、組成物全量基準において、金属元素換算で0.03〜0.35質量%、(B)重量平均分子量5,000〜1,000,000の分散型粘度指数向上剤を、組成物全量基準において、窒素元素換算で0.002〜0.1質量%、含有してなる潤滑油組成物を摺動面に用いることを特徴とする摺動面摩耗低減方法である。
【0010】
また、本発明は、前記(B)分散型粘度指数向上剤がポリメタクリレートであることを特徴とする前記記載の摺動面摩耗低減方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、摩耗防止性を維持しながら、低リン低硫黄化された潤滑油組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について説明する。
【0013】
本発明の潤滑油組成物に含まれる潤滑油基油としては特に制限されず、通常の潤滑油に使用されるものが使用できる。具体的には、鉱油系潤滑油基油、合成油系潤滑油基油またはこれらの中から選ばれる2種以上の潤滑油基油を任意の割合で混合した混合物等が使用できる。
【0014】
鉱油系潤滑油基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、GTLワックス(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される基油等が例示できる。
【0015】
合成油系潤滑油としては、具体的には、ポリブテンまたはその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィンまたはその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン等の芳香族系合成油またはこれらの混合物等が例示できる。
【0016】
潤滑油基油の動粘度は特に制限されないが、潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは50mm/s以下、より好ましくは40mm/s以下、更に好ましくは20mm/s以下、特に好ましくは10mm/s以下である。潤滑油基油の100℃における動粘度が50mm/sを超えると、低温粘度特性が不十分となる傾向にある。また、潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは1mm/s以上、より好ましくは2mm/s以上である。潤滑油基油の100℃における動粘度が1mm/s未満の場合には、潤滑部位における油膜形成が不十分となって潤滑性が低下する傾向にあり、また、潤滑油基油の蒸発損失量が増加する傾向にある。ここでいう100℃における動粘度とは、JIS K 2283に規定される100℃での動粘度を示す。
【0017】
また、潤滑油基油の粘度指数は特に制限されないが、低温粘度特性の観点から、80以上であることが好ましい。また、低温から高温までの幅広い温度領域において優れた粘度特性が得られる観点から、潤滑油基油の粘度指数は100以上であることがより好ましく、110以上であることが更に好ましく、120以上であることが特に好ましい。
【0018】
また、潤滑油基油の硫黄含有量は特に制限されないが、0.1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましく、0.005質量%以下であることがさらに好ましく、実質的に含有しない(0.001質量%以下)ものが特に好ましい。なお、本発明でいう硫黄含有量とは、JIS K 2541−4「放射線式励起法」(通常、0.01〜5質量%の範囲)またはJIS K 2541−5「ボンベ式質量法、附属書(規定)、誘導結合プラズマ発光法」(通常、0.05質量%以上)に準拠して測定された値を意味する。
【0019】
また、潤滑油基油の全芳香族含有量は特に制限されないが、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。潤滑油基油の全芳香族含有量が30質量%を超えると、酸化安定性が不十分となる傾向にある。なお、本発明でいう全芳香族含有量とは、ASTMD2549に準拠して測定した芳香族留分(aromatic fraction)含有量を意味する。通常この芳香族留分には、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン、及びこれらのアルキル化物、ベンゼン環が四環以上縮合した化合物、またはピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ芳香族を有する化合物等が含まれる。
【0020】
本発明の潤滑油組成物においては、(A)1種以上のアルカリ金属またはアルカリ土類金属サリチレート、アルカリ金属またはアルカリ土類金属スルホネートまたはこれらの混合物から選ばれる、塩基価100〜500mgKOH/gを有する過塩基性金属系清浄剤(以後、金属系清浄剤という。)を必須成分として含有する。これらの中では、摺動面摩耗防止性に優れる点から、サリチレート系金属清浄剤が好ましい。なおフェネート系金属清浄剤については摺動面摩耗防止効果が認められない。
【0021】
サリチレート系清浄剤としては、炭素数1〜40の炭化水素基を1つ又はそれ以上有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリチレートの過塩基性塩(これら炭化水素基は同一でも異なっていても良い)等が挙げられる。これらの中では、低温流動性に優れる点で、炭素数8〜19の炭化水素基を1つ有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリチレートの過塩基性塩を用いることが望ましい。また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、バリウム、カルシウム等が挙げられ、マグネシウム及び/又はカルシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましく用いられる。
【0022】
スルホネート系清浄剤としては、分子量300以上、好ましくは400〜700のアルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ金属又はアルカリ土類金属過塩基性塩を用いることができる。また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、バリウム、カルシウム等が挙げられ、マグネシウム及び/又はカルシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましく用いられる。
【0023】
上記アルキル芳香族スルホン酸としては、具体的にはいわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸等が挙げられる。ここでいう石油スルホン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものやホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が用いられる。また合成スルホン酸としては、例えば洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状や分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したもの、あるいはジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したもの等が用いられる。またこれらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては特に制限はないが、通常、発煙硫酸や無水硫酸が用いられる。
【0024】
過塩基性金属系清浄剤は、アルキルサリチル酸、アルキル芳香族スルホン酸等を、直接、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等の金属塩基と反応させたり、または一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる中性塩(正塩)に、更に、炭酸ガスまたはホウ酸若しくはホウ酸塩の存在下でアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物等の塩基と反応させることにより得られる。
【0025】
本発明において用いる(A)成分の金属系清浄剤の塩基価は、100〜500mgKOH/gの範囲であることが必要であり、100〜450mgKOH/gの範囲であることがより好ましく、150〜350mgKOH/gの範囲であることが更に好ましい。金属系清浄剤の塩基価が100mgKOH/g未満の場合には、摺動面摩耗防止性が不十分となるおそれがあり、500mgKOH/gを超える場合には溶解性に問題を生ずるおそれがある。
なお、ここでいう塩基価とは、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味する。
【0026】
(A)金属系清浄剤の金属比に特に制限はないが、下限は1.2以上、好ましくは2以上、特に好ましくは2.5以上、上限は好ましくは20以下、より好ましくは15以下、特に好ましくは10以下のものを使用することが望ましい。
なお、ここでいう金属比とは、(A)金属系清浄剤における金属元素の価数×金属元素含有量(モル%)/せっけん基含有量(モル%)で表され、金属元素とは、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、せっけん基とはサリチル酸基、スルホン酸基、フェノール基等を意味する。
【0027】
本発明の潤滑油組成物における(A)金属系清浄剤の含有量は、組成物全量を基準として、金属元素換算量で、0.35質量%以下であることが必要であり、好ましくは0.25質量%以下、より好ましくは0.15質量%以下である。また、金属系清浄剤の含有量は、0.03質量%以上であることが必要であり、好ましくは0.04質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上である。金属系清浄剤の含有量が0.03質量%未満の場合、十分な摺動面摩耗防止効果が得られないおそれがあり、金属系清浄剤の含有量が0.3質量%を超える場合には、灰分増加により排気ガス後処理装置に悪影響を及ぼすおそれがある。
また、本発明で用いる潤滑油組成物における(A)金属系清浄剤の含有量は、添加剤としての金属系清浄剤の塩基価と添加剤中の固形分濃度によって異なるが、通常は組成物全量基準で、0.5〜15質量%、好ましくは1〜12質量%、特に好ましくは1.5〜10質量%である。
【0028】
本発明で用いる潤滑油組成物においては、(B)分散型粘度指数向上剤を必須成分として含有する。
【0029】
本発明の潤滑油組成物において用いることのできる(B)分散型粘度指数向上剤は、分散型ポリ(メタ)アクリレート、分散型エチレン−α−オレフィン共重合体またはその水素化物、分散型スチレン−ジエン水素化共重合体等が挙げられるが、摺動面摩耗防止性に優れる点から、分散型ポリ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
なお、エンジン油等の潤滑油に使用される、窒素系極性基による分散機能を持つアルケニルコハク酸イミド等の無灰分散剤では、本発明の分散型粘度指数向上剤と同じ機能を発揮することはできない。
【0030】
本発明で用いることのできる分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤(ここで言うポリ(メタ)アクリレート系とは、ポリアクリレート系化合物及びポリメタクリレート系化合物を総称する意味である。)は、下記一般式(1)で表される(メタ)アクリレートモノマー(以下、モノマーM−1という。)1種以上と、一般式(2)および(3)から選ばれる塩基性窒素原子を有するモノマー(以下、それぞれモノマーM−2およびモノマーM−3という。)1種以上を共重合させたポリマーである。
【0031】
【化1】

[上記一般式(1)中、Rは水素又はメチル基を示し、Rは炭素数1〜200、好ましくは1〜30の直鎖状又は分枝状の炭化水素基を示す。]
【0032】
【化2】

[一般式(2)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは炭素数1〜18のアルキレン基を示し、Eは窒素原子を1〜2個、酸素原子を0〜2個含有するアミン残基又は複素環残基を示し、aは0又は1を示す。]
【0033】
【化3】

[一般式(3)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Eは窒素原子を1〜2個、酸素原子を0〜2個含有するアミン残基又は複素環残基を示す。]
【0034】
およびEで表される基としては、具体的には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、モルホリノ基、ピロリル基、ピロリノ基、ピリジル基、メチルピリジル基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、キノニル基、ピロリドニル基、ピロリドノ基、イミダゾリノ基、およびピラジノ基等が例示できる。
【0035】
モノマーM−1としては、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルアクリレート、オクチルメタクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルアクリレート、ドデシルメタクリレート、テトラデシルアクリレート、テトラデシルメタクリレート、ヘキサデシルアクリレート、ヘキサデシルメタクリレート、オクタデシルアクリレート、オクタデシルメタクリレート、アイコシルアクリレート、アイコシルメタクリレート、ドコシルアクリレート、ドコシルメタクリレート、テトラコシルアクリレート、テトラコシルメタクリレート、などが例示できる。
モノマーM−2、モノマーM−3の好ましい例としては、具体的には、ジメチルアミノメチルメタクリレート、ジエチルアミノメチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、2−メチル−5−ビニルピリジン、モルホリノメチルメタクリレート、モルホリノエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン及びこれらの混合物等が例示できる。
【0036】
モノマーM−1とモノマーM−2〜M−3との共重合体の共重合モル比については特に制限はないが、M−1:M−2/M−3=99:1〜80:20程度が好ましく、より好ましくは98:2〜85:15、さらに好ましくは95:5〜90:10である。
【0037】
上記ポリ(メタ)アクリレートの製造法は任意であるが、例えば、ベンゾイルパーオキシド等の重合開始剤の存在下で、モノマーM−1と、モノマーM−2および/またはモノマーM−3の混合物をラジカル溶液重合させることにより容易に得ることができる。
【0038】
本発明の潤滑油組成物においては、(B)分散型粘度指数向上剤として、前記した分散型ポリ(メタ)アクリレートのほか、分散型エチレン−α−オレフィン共重合体またはその水素化物、分散型スチレン−ジエン水素化共重合体等を用いることができる。
【0039】
上記分散型粘度指数向上剤のPSSI(パーマネントシアスタビリティインデックス)は40以下であることが好ましく、より好ましくは35以下であり、さらに好ましくは30以下であり、特に好ましくは25以下である。また、0.1以上であることが好ましく、より好ましくは0.5以上であり、さらに好ましくは2以上であり、特に好ましくは5以上である。PSSIが0.1未満の場合には粘度指数向上効果が小さくコストが上昇するおそれがあり、PSSIが40を超える場合にはせん断安定性や貯蔵安定性が悪くなるおそれがある。
【0040】
上記分散型粘度指数向上剤の重量平均分子量(M)は5,000以上であることが必要であり、好ましくは10,000以上であり、より好ましくは20,000以上であり、特に好ましくは30,000以上である。また、Mは1,000,000以下であることが必要であり、好ましくは800,000以下であり、より好ましくは600,000以下であり、特に好ましくは500,000以下である。重量平均分子量が5,000未満の場合には分散性付与基の量が少ないため十分な摺動面摩耗防止効果が得られないおそれがあり、重量平均分子量が1,000,000を超える場合にはせん断安定性や基油への溶解性、貯蔵安定性が悪くなるおそれがある。
【0041】
本発明の潤滑油組成物における上記の分散型粘度指数向上剤の含有量は、組成物全量基準において、窒素含有量換算で0.002質量%以上0.1質量%以下であることが必要であり、好ましくは0.003質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.007質量%以上、特に好ましくは0.01質量%以上であり、好ましくは0.07質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下、さらに好ましくは0.03質量%以下、特に好ましくは0.02質量%以下である。上記分散型粘度指数向上剤の含有量が窒素含有量換算で0.002質量%より少なくなると、粘度指数向上効果が小さくなり、また、十分な摺動面摩耗防止効果が得られないおそれがある。また、含有量が窒素含有量換算で0.1質量%より多くなると、製品コストが大幅に上昇するとともに、不必要に粘度が上昇し、特に低温時オイルの供給不足による潤滑不良発生の可能性がある。分子量を低下させ粘度上昇を抑えることも可能であるが、さらに製品コストが上昇することになる。
【0042】
また、本発明の潤滑油組成物には、必要に応じて各種添加剤を含有することができる。かかる添加剤としては、特に制限されず、潤滑油の分野で従来使用される任意の添加剤を配合することができる。かかる潤滑油添加剤としては、具体的には、前記した金属系清浄剤以外の金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、極圧剤、摩耗防止剤、摩擦調整剤、前記した粘度指数向上剤以外の粘度指数向上剤、流動点降下剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤などが挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
前記した金属系清浄剤以外の金属系清浄剤としては、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物から得られるアルカリ金属またはアルカリ土類金属フェネートまたはその過塩基性塩、アルカリ金属又はアルカリ土類金属カルボキシレートまたはその過塩基性塩、およびアルカリ金属又はアルカリ土類金属ホスホネートまたはその過塩基性塩等を挙げることができる。
【0044】
更に、前記した金属系清浄剤以外の金属系清浄剤としては、アルキル芳香族スルホン酸、アルキルサリチル酸等を、直接、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等の金属塩基と反応させたり、または一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる中性塩(正塩)、およびこれら中性塩(正塩)と過剰のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩やアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩基(アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性塩を挙げることができる。
【0045】
無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤が使用でき、例えば、炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するモノまたはビスコハク酸イミド、炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいは炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはこれらのホウ素化合物、カルボン酸、リン酸等による変成品等が挙げられる。使用に際してはこれらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
無灰分散剤を含有させる場合、その含有量は、通常潤滑油組成物全量基準で、0.01〜20質量%である。
【0046】
酸化防止剤としては、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)等のフェノール系、ジアルキルジフェニルアミン等のアミン系無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤を含有させる場合、その含有量は、通常潤滑油組成物全量基準で5.0質量%以下である。
【0047】
摩擦調整剤としては、二硫化モリブデン、モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオホスフェート等のモリブデン系摩擦調整剤、炭素数6〜30のアルキル基またはアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基または直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、ヒドラジド(オレイルヒドラジド等)、セミカルバジド、ウレア、ウレイド、ビウレット等の無灰摩擦調整剤等が挙げられる。摩擦調整剤を含有させる場合、その含有量は、通常0.1〜5質量%である。
【0048】
極圧剤・摩耗防止剤としては、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の化合物、具体的には、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。極圧剤・摩耗防止剤を含有させる場合、その含有量は、通常0.005〜5質量%である。
【0049】
前記した粘度指数向上剤以外の粘度指数向上剤としては、非分散型の粘度指数向上剤、具体的には、一般式(1)で表される(メタ)アクリレートモノマー1種以上の共重合体、非分散型エチレン−プロピレン共重合体またはその水素化物、非分散型スチレン−ジエン共重合体またはその水素化物、ポリイソブチレン若しくはその水素化物、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体及びポリアルキルスチレン等を挙げることができる。
【0050】
流動点降下剤としては、例えば、使用する潤滑油基油に適合するポリメタクリレート系のポリマー等を挙げることができる。
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、又はイミダゾール系化合物等が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、又は多価アルコールエステル等が挙げられる。
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、又はポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、又はβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が0.1〜100mm/s未満のシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。
【0051】
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合には、その含有量は潤滑油組成物全量基準で、流動点降下剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤ではそれぞれ0.005〜5質量%、金属不活性化剤では0.005〜1質量%、消泡剤では0.0005〜1質量%の範囲で通常選ばれる。
【0052】
本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、2.0〜25.0mm/sであることが好ましく、より好ましくは3.0〜11.0mm/s、更に好ましくは4.0〜10.0mm/sである。100℃における動粘度が2.0mm/sを下回る場合には潤滑不良のおそれがあり、25.0mm/sを超える場合には低温時の流動性に問題が発生するおそれがある。
【0053】
本発明においては、上記潤滑油組成物を摺動面に用いることにより、低リン低硫黄であるにもかかわらず、摺動面の摩耗を効果的に低減することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0055】
[実施例]
(実施例1〜16、比較例1〜17)
実施例1〜16及び比較例1〜17においては、鉱油系基油を用い、表1および表2に示すように、各種過塩基性金属系清浄剤および分散型粘度指数向上剤を添加した組成物を調製した。これらの組成物につき、下記TE77摩擦・摩耗試験により、摩耗防止性を評価した。結果を同じく表1および表2に示した。
【0056】
(往復動摩擦・摩耗試験機TE77を用いた摩耗試験)
下記に示す試験条件下で、摩擦面での接触電気抵抗を測定することにより、摩擦面の不導体皮膜の形成速度を評価した。この不導体皮膜の形成速度が、必要な添加剤がすべて添加された、完成されたエンジン油の耐摩耗性と相関することが知られている(“Additive Interactions in Engine Oils”, Proceedings of World Tribology Congress 2009 Kyoto, Japan, September 6 - 11, 2009)。
【0057】
<評価条件>
試験機:Plint社製TE77往復動摩擦試験機
試験片:TE77標準試験片
プレート:14752B(HRC硬度60−63)
シリンダー:直径6mm、長さ16mm(HRC硬度59-65)
試験加重:100N
ストローク:15mm
周期:20Hz
油温:100℃
試験時間:2000s
【0058】
なお耐摩耗性、すなわち皮膜形成速度は表面の導電性が40%以下となるまでの時間で評価した。導電性が0%、すなわち完全に不導体膜となる時間は、導電性が40%以下となる時間が短いほど短く、長いほど長くなる。ただし、長くなるほど導電性の変動が大きく、中には完全に不導体膜を形成しないものがあるため、皮膜形成速度を導電性が40%以下となる時間で定義した。
ちなみにこの試験条件で、エンジン油で一般に使用される摩耗防止剤ジアルキルジチオリン酸亜鉛(例えば、sec−ブチルZnDTP)のみを0.06質量%(リン換算)添加した組成物の皮膜形成時間は140sである。
【0059】
表1および表2から、過塩基性金属清浄剤および分散型粘度指数向上剤を併用した場合(実施例1〜5、7〜16)には優れた摩耗防止効果を示すが、過塩基性金属清浄剤単独で用いた場合(比較例1、4、5)および分散型粘度指数向上剤を単独で用いた場合(比較例2、8〜11)には良好な結果は得られない。同じ分散型粘度指数向上剤の中では、分散型ポリメタクリレートのほうが、分散型エチレン−プロピレン共重合体より良好な結果を与える(実施例1と実施例6の比較)。また、過塩基性金属系清浄剤の含有量が0.03%(金属換算)を下回った場合(比較例3、17)あるいは分散型粘度指数向上剤含有量(窒素含有量換算)が0.002%を下回った場合(比較例16)も良好な結果が得られない。過塩基性金属系清浄剤でもフェネートを使用した場合(比較例6、7)、粘度指数向上剤でも非分散型粘度指数向上剤を用いた場合(比較例12、14)には、やはり良好な結果が得られない。また、窒素含有化合物であっても、分散型粘度指数向上剤の代わりにアルケニルコハク酸イミドを用いた場合(参考例2)にはやはり良好な結果が得られない。
【0060】
【表1】

【表2】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の潤滑油組成物を用いて摺動面を潤滑した場合には、摩耗防止性を維持しながら、低リン低硫黄化が可能となるため、二輪車、四輪車、発電用、舶用等のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン等の内燃機関用潤滑油として好ましく使用することができる。またその他摩耗防止性能及びロングドレイン性能が要求される潤滑油、例えば自動または手動変速機等の駆動系用潤滑油、湿式ブレーキ、油圧作動油、タービン油、圧縮機油、軸受け油、冷凍機油等の潤滑油としても好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油に、(A)1種以上のアルカリ金属またはアルカリ土類金属サリチレート、1種以上のアルカリ金属またはアルカリ土類金属スルホネートまたはこれらの混合物から選ばれる、塩基価100〜500mgKOH/gを有する過塩基性金属系清浄剤を、組成物全量基準において、金属分換算で0.03〜0.35質量%、(B)重量平均分子量5,000〜1,000,000の分散型粘度指数向上剤を、組成物全量基準において、窒素元素換算で0.002〜0.1質量%、含有してなる潤滑油組成物。
【請求項2】
前記(B)分散型粘度指数向上剤がポリメタクリレートであることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
潤滑油基油に、(A)1種以上のアルカリ金属またはアルカリ土類金属サリチレート、1種以上のアルカリ金属またはアルカリ土類金属スルホネートまたはこれらの混合物から選ばれる、塩基価100〜500mgKOH/gを有する過塩基性金属系清浄剤を、組成物全量基準において、金属分換算で0.03〜0.35質量%、(B)重量平均分子量5,000〜1,000,000の分散型粘度指数向上剤を、組成物全量基準において、窒素元素換算で0.002〜0.1質量%、含有してなる潤滑油組成物を摺動面に用いることを特徴とする摺動面摩耗低減方法。
【請求項4】
前記(B)分散型粘度指数向上剤がポリメタクリレートであることを特徴とする請求項3に記載の摺動面摩耗低減方法。

【公開番号】特開2011−256299(P2011−256299A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132721(P2010−132721)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】