説明

濁水の処理方法

【課題】 トンネル工事現場等で発生する濁水を処理して、河川等に放流できる程度にまで浄化することができる濁水の処理方法の提供。
【解決手段】 粘土を含む懸濁質を含有している濁水の処理方法であり、前記濁水を凝集剤で凝集処理した後、処理後の濁水中に浸漬した濾過膜で濾過処理する、濁水の処理方法。作業現場で発生した濁水をタンク内に貯留し、前記タンク内にて凝集処理した後、前記タンク内に浸漬した濾過膜により濾過する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル、ダム工事又は道路工事のように、粘土混じりの濁水が生じるような施工現場において好適な濁水の処理方法に関する
【背景技術】
【0002】
工事現場等で発生する濁水は大量の泥や砂を含んでおり、そのままでは河川等に放流することはできず、従来は凝集処理後に放流されていた。しかし、工事現場で生じる濁水の組成は変動が大きいため、凝集処理法を適用する場合、凝集剤の投入量の制御が困難であること、攪拌条件等によっても大きな影響を受けることから安定した濁水処理が困難であった。
【0003】
トンネル工事で生じる濁水(トンネル濁水)の処理は、一般的には凝集沈殿による方法が用いられている。しかし、トンネル濁水は、組成の変動が大きいため、凝集沈殿法では凝集剤の添加量の制御が難しいことや、アルミニウムを含む凝集剤や高分子凝集剤を含む処理水を河川に放流するため、環境に対して悪影響を与えるという問題がある。
【0004】
土木工事、特に高速道路工事は山間部で行われることが多く、そのような場所は、河川の上流部となり、水源に近いため水質も良好であり、川魚の種類も多い。そのため、河川の生態系を維持する観点から、放流水質に対しても高度な要求があり、一般的な放流基準(濁度50mg/L)に対し、濁度10mg/Lや1mg/Lという水道水並の高度処理の要求がなされることが増えている。しかし、従来の単なる凝集沈殿処理では、前記したような要求に応えることができない。
【0005】
本発明者らは、凝集沈殿法に替わる方法として、膜分離法によるダイナミック濾過法を提案している(特許文献1参照)。この発明は、不織布膜を用いて濁水を濾過処理するもので、膜上に濁水中の粒子成分を堆積させてダイナミック層を形成し、このダイナミック層を濾過体として濁水を濾過処理するものである。この発明によれば、粘土分の少ない濁水は良好に処理できるが、粘土分の多い濁水は、粘土分が膜を通過して濾過できないか、又は膜に粘土分が付着して目詰まりし、逆圧洗浄でも目詰まりした粘土分が膜から剥がれず、目詰まりが解消できないため、それ以降の濾過処理ができないという問題がある。このような問題が生じる原因は、以下のとおりであると推定される。
【0006】
粘土分を多く含む濁水をダイナミック濾過する場合、濾過を開始した初期の段階では、粘土分は膜の網目を通過し、濾過水は清浄な処理水とはならない。これは、粘土粒子の大きさは5〜10μm程度であり、不織布膜の網目よりはるかに小さく、粘土粒子が膜を容易に通過するためである。そして、濾過処理を長時間継続すると、不織布膜を構成する繊維の周囲に粘土粒子が付着しはじめ、それが粘土特有の粘着性により剥がれることなく、時間の経過と共に徐々に太くなっていき、ついには不織布膜の網目を塞ぐ程度にまで成長してしまうものと考えられる。
【0007】
このように不織布膜の網目が閉塞された状態になれば、それ以降の濾過処理はできなくなるため、通常は、この時点又はこのような状態になる以前の時点で、逆圧洗浄により、膜面に付着した粘土を剥がし落とす処理を行う。しかし、粘土分を多く含む濁水の場合、粘土の粘着力が強いためか、この洗浄によっても膜に付着した粘土分を剥がし落とすことができず、濾過能力を回復させることができない。このようなことから、粘土分を多く含む濁水を不織布膜でダイナミック濾過処理する方法を適用した場合、初期の段階では、濾過水は濁った状態であり、ある程度時間が経過して清浄な濾過水が得られるようになった段階から、短時間で目詰まりが生じるため、結果的にはほとんど濾過処理できない状態となるものと考えられる。
【特許文献1】特開2001−104953号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、トンネルやダム工事現場等で生じる粘土を含む濁水を処理し、処理水を高度処理できる濁水の処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、粘土を含む懸濁質を含有している濁水の処理方法であり、前記濁水を凝集剤で凝集処理した後、処理後の濁水中に浸漬した濾過膜で濾過処理する、濁水の処理方法を提供する。
請求項2の発明は、作業現場で発生した濁水をタンク内に貯留し、前記タンク内にて凝集処理した後、前記タンク内に浸漬した濾過膜により濾過する、請求項1記載の濁水の処理方法を提供する。
【0010】
本発明でいう粘土は、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、セリサイト、モンモリロナイト、クロライト、イライト、バーミキュライト、その他の公知の粘土鉱物を含むものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の濁水の処理方法を適用することにより、トンネル工事現場等で発生する濁水を処理して、河川等に放流できる程度にまで浄化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1により、本発明の濁水の処理方法を説明する。図1は、処理フローを示す概念図である。
【0013】
トンネルやダム工事等で生じた粘土を含有する濁水(原水)は、大きめの石、砂、泥等を除いた後、ライン21から原水槽1に集められる。原水槽1には、送液ポンプが浸漬されている。
【0014】
次に、原水槽1中の送液ポンプを作動させ、原水をライン22により凝集及び膜分離槽2に送る。原水槽1を省略して、直接、濁水(原水)を凝集及び膜分離槽2に供給するようにしてもよい。
【0015】
凝集及び膜分離槽2は、内部が仕切壁13により、凝集槽3と膜分離槽4とに分けられている。凝集槽3と膜分離槽4の容積は、同程度であるか、膜分離槽4の方が大きいことが好ましい。凝集及び膜分離槽2の底面と凝集槽3側の側面の境界は、図示するように傾斜面2aにすることができる。
【0016】
仕切壁13は、凝集及び膜分離槽2の対向する壁面に両側面が固定されており、下面13aは凝集及び膜分離槽2の底面から離れており、上面13bは満水状態のときに水面よりも下に位置するように設定されている。このため、凝集槽3と膜分離槽4は、仕切壁13の上面(上端)13b側と下面(下端)13a側にて液の流通が可能なように連通されている。
【0017】
凝集槽3は、所定量の凝集剤を添加するための凝集剤添加装置11、槽内を攪拌するための攪拌機12が備えられており、必要に応じて図示していないpH調整装置も設けることができる。また、攪拌機の代わりに水中ポンプ又は散気装置を用いて、旋回流を生じさせることもできる。水中ポンプを用いる場合は、膜直下に設置することが好ましい。
【0018】
膜分離槽4には、膜分離モジュール15が吊り下げられた又は固定された状態で浸漬されている。膜分離モジュール15としては、例えば、公知の中空糸膜モジュール(外圧型又は内圧型であるが、好ましくは外圧型)を用いることができる。膜分離モジュール15の直下の槽底面には、必要に応じて、膜面を外側から洗浄するための散気装置を設置することができる。凝集及び膜分離槽2は、ポンプを備えた透過水ライン23で透過水槽5に接続されている。
【0019】
凝集槽3では、攪拌機12により槽内を攪拌しながら、凝集剤添加装置11により、所要量の凝集剤を添加する。このとき、必要に応じてpH調整装置により、pH調整剤を添加してpHを9〜10に調整することができる。凝集剤添加装置11とpH調整装置は省略して、人為的に添加するようにしてもよい。
【0020】
凝集剤は、例えば、吸着剤、凝結剤、高分子凝集剤等を用いることができる。吸着剤としては、珪藻土、モンモリロナイト、活性白土等の油吸着剤、凝結剤としては、硫酸アルミニウム等の無機化合物、高分子凝集剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系の高分子凝集剤を挙げることができる。高分子凝集剤は、アニオン系とカチオン系の組み合わせ、アニオン系とノニオン系の組み合わせ又はアニオン系、カチオン系、ノニオン系の組み合わせにすることができる。
【0021】
また、凝集剤として、カルシウム系凝集剤を用いることもできる。カルシウム系凝集剤は、その全量中、カルシウムの含有割合が5質量%以上であるものが好ましく、10質量%以上であるものがより好ましく、硫酸カルシウム、塩化カルシウム等を挙げることができる。
【0022】
膜分離槽4では、膜分離モジュール15で濾過する。膜分離モジュール15による濾過時には、膜面を外側から洗浄するため、散気装置で散気することができる。また、適当間隔をおいて、逆圧洗浄ライン24により、薬液を含む洗浄液で逆圧洗浄することができる。なお、逆圧洗浄ライン24は省略して、膜分離槽4内の膜を取り出して別の膜に交換して、取り出した膜は別途洗浄してもよい。
【0023】
膜分離槽4内の濾過時において、凝集槽3内が攪拌機12で攪拌されているため、凝集槽3と膜分離槽4内の被処理水は、仕切壁13の下面13aの下を通り、上面13bを越えて互いに流通する。このため、膜分離槽4内の被処理水は、フロックが偏在することなく均一状態になり、分離膜モジュール15の膜面が閉塞され難くなり、分離膜モジュール15による濾過性能が安定する。
【0024】
膜分離槽4で濾過した透過水は、透過水ライン23により、透過水タンク5に送られ、貯水される。透過水タンク5内の透過水は、必要に応じて活性炭処理した後、適宜河川等に放流するほか、膜分離モジュール15の逆圧洗浄水としても用いられる。なお、透過水タンク5は省略し、透過水ライン23から河川等に放流するようにしてもよい。
【0025】
凝集及び膜分離槽2の底面付近に溜まったフロック(汚泥)は、汚泥引抜ライン25から引き抜き、汚泥貯留槽6に送る。汚泥貯留槽6では、汚泥を脱水して、水は原水槽1に返送し、汚泥は廃棄する。
【実施例】
【0026】
実施例1
トンネル工事現場にて生じた粘土を含む濁水30kgに水400リットルを加え、10分間攪拌混合して得た原水(日本水道協会上水試験方法に記載の散乱光測定法による濁度300)を、凝集及び膜分離槽に入れた。その後、凝集剤(商品名メムフロックP001,ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社製)を100ppm(質量基準)になるように加えた。
【0027】
その後、凝集槽に備え付けの攪拌機で攪拌しながら凝集処理した。攪拌開始10分経過後、膜分離槽内に浸漬した分離膜モジュールにより吸引濾過を開始した。分離膜モジュールは、ポリエーテルスルホン中空糸膜を充填したケーシングフリーの浸漬型膜エレメント2.2mを8ユニット浸漬配置させたものを用いた。膜間差圧は、濾過開始時には0.01MPaであり、濾過を5時間経過後も同様の値であった。膜分離後の濁度は1以下であった。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の排水処理方法の処理フローの概念図。
【符号の説明】
【0029】
1 原水槽(排水タンク)
2 凝集及び膜分離槽
3 凝集槽
4 膜分離槽
5 透過水槽
6 汚泥貯留槽
11 凝集剤添加装置
12 攪拌機
13 仕切壁
15 膜分離モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土を含む懸濁質を含有している濁水の処理方法であり、前記濁水を凝集剤で凝集処理した後、処理後の濁水中に浸漬した濾過膜で濾過処理する、濁水の処理方法。
【請求項2】
作業現場で発生した濁水をタンク内に貯留し、前記タンク内にて凝集処理した後、前記タンク内に浸漬した濾過膜により濾過する、請求項1記載の濁水の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−119427(P2009−119427A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298908(P2007−298908)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(594152620)ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社 (104)
【Fターム(参考)】