炎症性状態の治療
少なくとも1種のケモカイン(特にビオチン化ケモカイン)が直接的又は間接的に固定化された固相担体(特にストレプトアビジンを担持した担体)が充填されたアフェレーシスカラム。カラム及び担体の使用、並びに炎症性状態(例えば炎症性腸疾患(IBD))の罹患者の末梢血から細胞(特に白血球)を除去する方法も開示される。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、炎症性状態(例えば炎症性腸疾患、特に潰瘍性大腸炎(UC)及びクローン病(CD)、中でも劇症型の潰瘍性大腸炎及びクローン病)を治療するための製品及び方法に関する。
【発明の背景】
【0002】
劇症型潰瘍性大腸炎は、白血球数増多及び激しい腹痛を特徴とする、潰瘍性大腸炎が悪化した状態である。現在、劇症型潰瘍性大腸炎の患者は高用量のステロイドを用いて治療される。第III相試験において、抗TNFαを用いた治療が研究されている。両薬剤とも一般的な炎症阻害剤である。これらは症例の約50%に有効であるが、深刻な有害作用を伴う。治療が成功しても、劇症型潰瘍性大腸炎は再発する傾向がある。
【0003】
医学的処置が奏功しない劇症型潰瘍性大腸炎の患者では、迅速な外科的介入が必須である。潰瘍性大腸炎は、常に大腸(結腸)に限定される。最後の手段として、結腸を切除し、外付けのイレオストーマ(ileostoma)が造設される。少なくとも6カ月の回復期、時には直腸断端の炎症の更なる医学的処置の後、腸の連続性を回復するために、回腸直腸吻合術又は回腸嚢を用いた再建手術のいずれかが大半の患者で行われる。これらの手術は、1日に約6回の軟便及び水分・ミネラルバランスの崩れを伴う。クローン病でも劇症型(劇症型クローン結腸炎)の発現があり得る。これも、緊急の医学的及び/又は外科的介入を必要とする重篤な状態である。
【0004】
炎症はクローン病患者の消化管のいかなる部分にも起こり得るが、一般に、小腸の最遠位部及び大腸の最初の部分(回盲部)に限定される。抗炎症薬(例えばステロイド、アザチオプリン)は症状を緩和するが、医学的処置ではこの疾患を治すことはできない。狭窄及びフィステルが生じた腸管部の切除を伴う外科手術の適応は患者の約50%にあるが、その半分が再発し、更なる外科手術を必要とする。したがって、IBDの炎症を抑え、個々の患者での再発を予防することができる方法は強く求められている。
【0005】
国際公開第2008/038785号には、細胞(特に活性化白血球、ガン細胞)及びサイトカインを血液から除去するための細胞吸着カラムが記載されている。
【発明の概要】
【0006】
炎症性腸疾患は、罹患した腸における炎症及び白血球浸潤を特徴とする。
【0007】
ケモカインは、炎症における細胞の動員及び活性化に関わるサイトカイン分子の一群である。ケモカインは、免疫系の種々の細胞亜集団の走化及び活性化を引き起こす。ケモカインの活性は、主として白血球表面のケモカイン受容体との強固な結合を介して現れる。本発明は、炎症部位へのケモカイン受容体発現細胞の動員の増加を特徴とする炎症性状態(特に慢性炎症性状態)の治療に、ケモカインとその受容体を発現する細胞との相互作用を利用できるという知見に基づく。すなわち、本発明は、炎症性ケモカインの高レベル発現の誘導により引き起こされる炎症部位への炎症性白血球の動員を減少させることに役立つ。これは、そのような炎症性ケモカインを使用して患者の炎症性白血球を捕獲することによって達成される。より具体的には、白血球(特に(活性化)Tリンパ球、(活性化)単球、(活性化)好中性顆粒球、(活性化)好酸性顆粒球の少なくとも1種)がIBDの炎症の開始及び維持に関与している。したがって、循環血液からのその除去は、そのような炎症を緩和し更には除去する可能性がある。本発明者らは、活動性IBD患者の腸の生検試料のフローサイトメトリーにより、(活性化)Tリンパ球、単球、好中性及び好酸性顆粒球は、炎症性部位に豊富に存在し循環末梢血にも存在する細胞であることを明らかにした。
【0008】
すなわち、第1の態様において、本発明は、少なくとも1種のケモカインが直接的又は間接的に固定化された固相担体であって、該ケモカインの受容体を発現する細胞(特に本明細書に記載の(活性化)白血球(単球、リンパ球等))を患者の末梢血から除去することが可能な担体を提供する。ケモカインは炎症性ケモカイン、すなわち傷害又は感染に応答して細胞又は組織により高レベルで誘導される(炎症性白血球を動員する働きがある)ケモカインである。
【0009】
本発明において、「ケモカイン」という語は、ビオチン化その他の方法で標識されたケモカインを含む。「ケモカイン」という語は、ケモカイン受容体との結合能を保持する(すなわち本発明との関係で機能的である)限り、ケモカインの修飾型及び切断型を含む。タンパク質合成(例えば産物の均一性及び収率)を改善するために修飾を施してもよい。修飾は、ケモカイン中の少なくとも1種のアミノ酸についてのアミノ酸の付加、置換、欠失その他の修飾を含んでもよい。修飾は、野生型アミノ酸から、非天然アミノ酸(例えばノルロイシン(NLeu))や誘導体化アミノ酸(例えばピログルタミン酸(pyroGlu))への置換を含んでもよい。本発明のカラムの貯蔵及び使用中の副産物形成を最小化するために、そのような修飾を施してもよい。標識を改善するために修飾を施してもよく、例えば、ビオチン化を容易にするためにポリエチレングリコール(PEG)スペーサーを挿入してもよい。ケモカインのビオチン化及び/又は蛍光色素その他の標識基とのコンジュゲーションは、受容体の結合能に実質的に影響を与えないように行われる。ケモカインの非選択的標識は受容体結合活性を損なう可能性があるので、部位特異的なビオチン化その他の標識が好ましい。ビオチン化その他の標識は一般に、タンパク質のC末端又はC末端側で行うのが好ましい。これは、これらの領域での修飾は(受容体結合能に対する影響が小さい点で)一般に許容性が高いとの知見に基づく。切断は、N又はC末端アミノ酸のいずれか又は両方の欠失を含んでもよい。切断型は一般に、ケモカインが正しく折り畳まれる(例えばケモカインの折り畳み構造を保持する)のに必要な残基を保持するが、これは、(白血球(の表面)で発現した)受容体との結合能を保持しなければならないという条件と合致する。ある実施形態では、切断型は、含まれるアミノ酸が野生型アミノ酸配列よりも1〜100個(例えば1、2、3、4、5個)少なくてもよい。もちろん、切断型は、本明細書で説明される更なる修飾を含んでもよい。ある実施形態では、修飾型又は切断型は、全長野生型ケモカインと40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%以上のアミノ酸配列相同性を有してもよい(ここで、欠失はアミノ酸配列の相違として計算される)。ある実施形態では、分子間の共通配列(すなわち欠失されていないアミノ酸)について、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%のアミノ酸配列相同性があってもよい。修飾及び切断の両方を含み本発明での使用に特に適した本発明のケモカインの例は、本明細書で詳細に説明される。切断されたTECKは、全長成熟タンパク質の1〜74番目の残基に対応し(すなわち75〜127番目のアミノ酸及び(アミノ酸23個の)N末端シグナルペプチドを欠き)、ケモカインの折り畳みを保持する。更に、鎖の構築中の残基の酸化を防ぐため、メチオニンからノルロイシンへの置換が導入されている。合成中に産物が均一になるように、N末端グルタミン残基はピログルタミンで置換されている。72位のリジン残基のε−官能基におけるPEGスペーサーを介してビオチン化が行われている。直鎖分子(すなわち、72番目のアミノ酸の位置にPEGスペーサー及びビオチン分子がない分子)のアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか、それからなる配列である。本発明のケモカインは、任意の適当な手段により合成できる。ケモカインは、修飾、標識等が容易になることから、好ましくは化学的に合成される。組換えDNAベースの手法を、標識・修飾技術と適宜組み合わせて使用してもよい。すなわち、本発明は、(成熟型)CCL25(すなわちシグナルペプチド(最初の23個のアミノ酸を含む。)を欠く型)の1〜74番目のアミノ酸を含むか、それから本質的になるか、それからなる切断型CCL25タンパク質をコードする核酸分子も提供する。このタンパク質は、成熟CCL25アミノ酸配列の75〜127番目のアミノ酸を欠く。本発明は、そのような核酸分子を含むベクター及びそのようなベクターを含む宿主細胞にも関する。ベクターは、核酸分子に作動可能に連結されて、対応するmRNA分子の転写を促進する適当なプロモーターを更に含んでもよい。宿主細胞は、CCL25の1〜74番目のアミノ酸を含む(すなわち75〜127番目のアミノ酸及び(アミノ酸23個の)N末端シグナルペプチドを欠く)切断型CCL25タンパク質をコードする核酸分子の転写及び翻訳によって該タンパク質を発現することが可能なものであってもよい。
【0010】
ケモカイン受容体は、種々の遊走細胞(例えばリンパ球、顆粒球、抗原提示細胞)だけでなく、特定の非遊走細胞(例えば上皮細胞、線維芽細胞)でも発現する。前述のように、本発明のケモカインは、少なくとも1種のケモカインの受容体を発現する細胞を患者の末梢血から除去することが可能となるように固相担体に固定化される。本発明の好適なケモカインの各々に対する受容体は表1の通りである。場合により、ケモカインが結合可能な受容体は2個以上あり得る。ケモカインのそのような特性は、好都合なことに、炎症性状態の一因となる種々の受容体発現細胞を捕捉することによる更に効率的な治療を可能にする。ある実施形態では、担体は、種々の炎症促進性細胞の捕捉を増加させるために複数のケモカインを担持する。
【0011】
IBD患者に見られる炎症は、循環血液から腸粘膜への抗原提示細胞(APC)及びT細胞の連続的供給により維持される。細胞のこの連続的蓄積は、ケモカイン及びその受容体により調節される。すなわち、ケモカインは、炎症中の種々の免疫細胞亜集団の動員及び活性化に関わる分子である。炎症を起こした腸粘膜で産生される局所性ケモカインの1つはTECK(胸腺発現ケモカイン。CCL25とも呼ばれる。)である。循環血液中の単球及びリンパ球は、TECK受容体(ケモカイン受容体9(CCR9))を介してこのケモカインを認識する。これらの細胞はCCR9受容体を介してTECKと結合し、腸の炎症部位に遊走し始める(1)。炎症粘膜に到達すると、単球はAPCに変わる。循環CCR9発現T細胞も腸の炎症部位に移動し、そこで活性型になる。マウスモデルにおいて、遺伝子欠失によるCCR9又はそのリガンドTECKの除去又は抗体阻害は、T細胞の腸への遊走を減少させる(2)。CCR9−TECK相互作用は、単球及びT細胞の腸管全体(小腸及び結腸)への遊走において中心的な役割を担うものと思われる。最近の研究により、健康なヒト及びIBDを患うヒトの大腸内におけるCCR9及びTECKの両方の存在が確認されている。CD又はUCのいずれかの患者から採取した結腸組織の研究では、免疫組織染色によりCCR9発現T細胞の存在が明らかにされている。更に、結腸における受容体アゴニストTECKの存在も確認されている(3)。IBD患者において、CCR9を発現する(循環血液中の)単球及びT細胞を腸の炎症への到達前に除去し、それにより炎症を減少させるのは合理的である。固相担体に固定化したビオチン化TECK(bTECK)を担持したカラム(これは、CCR9を発現する単球及びT細胞を循環血液から捕獲する。)を使用することによって、炎症の持続が抑制され、粘膜の修復が可能となる。同様の理屈は、炎症を起こした腸の領域への白血球の動員に関わる種々のケモカインにも適用できる。例えば、IL−8は腸粘膜により分泌され、IL−8受容体との相互作用を介して好中球を誘引する。CCR6は、腸へのTh17細胞の遊走及び炎症組織におけるエフェクターT細胞のバランス/分布を調節する(14)。すなわち、固相担体に固定化したCCL20も、炎症性状態(例えばIBD)を治療するのに有用である。
【0012】
本発明のケモカインは、炎症性疾患において発現量の増加が見られるとの事実に基づいて選択された。更に、適当なタイプの細胞に存在するケモカイン受容体は、炎症部位への該受容体発現細胞の動員を介して、そのような炎症性疾患の発症に関与することが示された。本発明のケモカインには、MIP−1a、MIP−1b、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、TARC、MDC、MIP−3、MIP−3a、MIP3b、MIP−4、I−309、HCC−1、HCC−2、SLC、IL−8、GROa、GROb、GROg、RANTES、NAP−2、ENA78、GCP−2、IP−10、MIG、I−TAC、SDF、フラクタルカイン、リンホタクチン、エオタキシン、エオタキシン−2、I−309、BLC、CCL25のいずれか少なくとも1種が含まれる。本発明の特に好適なケモカインには、MIP−1a、MIP−1b、MIP−3a、MIP−3b、MIP−4、SLC、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、TARC、MDC、IL−8、IP−10、MIG、I−TAC、フラクタルカイン、CCL−25、RANTESが含まれる。本発明の最も好適なケモカインには、活性化Tリンパ球への結合を好むケモカイン、特にMIP−1a、MCP、IP−10、MIG、ITAC、CCL25が含まれる。「結合を好む」とは、ケモカインが、非活性化Tリンパ球及び/又は他の血球よりも活性化Tリンパ球に結合する傾向が強いことを意味する。特定の実施形態において、ケモカインはCCL25である。CCL25は、CCR9を発現する細胞(特に(活性化)リンパ球(CD4、CD8リンパ球)、単球(例えばCD−14陽性単球))への結合を好む。
【0013】
表1は、本発明で有用なケモカインの詳細(承認された遺伝子記号(HUGO遺伝子命名法委員会)、遺伝子名、配列情報等)を提供する。各ケモカインの受容体も記載されている。
【0014】
【表1−1】
【0015】
【表1−2】
【0016】
【表1−3】
【0017】
【表1−4】
【0018】
【表1−5】
【0019】
本発明のケモカインは、当分野で既知の方法(例えば国際公開第00/50088(A2)号(参照されることにより本明細書に組み込まれる。)に記載の方法)によってビオチン化することができる。ケモカインの受容体結合能に重大な影響を与えない任意の標識法を使用することができるが、上述の通り、ケモカインの部位特異的標識が好ましい。種々の部位特異的ビオチン化ケモカイン及び天然ケモカインが、例えばAlmac,Craigavon,UKから市販されている。特定の実施形態において、少なくとも1種のケモカインはスペーサー基を介してビオチン化される。スペーサーは、ビオチン基がケモカインの活性(特にケモカインのその受容体との結合)に影響を与えるのを防ぐために使用してもよい。ケモカインの受容体結合特性の保持を促進する任意の適当なスペーサーを使用してもよい。特定の実施形態において、スペーサーはポリエチレングリコール(PEG)スペーサーである。PEGは、受容体結合能を損なうことなくビオチンのケモカインへの結合を可能にする(そして、ケモカインはストレプトアビジンとの相互作用を介して固相担体に固定化される。)有効なスペーサーであることは本明細書に示されている。
【0020】
本発明のケモカインを固定化する固相担体材料は、当分野で知られている。有用な担体材料は、血球が凝固し又は担体に付着するように血球(特にリンパ球)を活性化することのない材料である。抗凝固特性を付与する薬剤で処理された担体(特にヘパリン化担体)を使用するのは有利である。あるいは、患者の血液を、担体にアプライする前に抗凝固剤(例えばヘパリン)で処理してもよい。有用な担体材料は、高分子量炭水化物、特に100kDa以上の分子量を有する炭水化物(例えばアガロース(微粒子型。架橋されていてもよい)、セルロース)を含む。他の好適な担体物質は、ポリマー(例えばカルボキシル化ポリスチレン)及びガラスである。本発明の担体は、好ましくは粒子状又は繊維状である。担体粒子は、規則的な形態(例えば球、ビーズ)であっても不規則な形態であってもよい。担体粒子は多孔質であっても非多孔質であってもよい。担体の好ましい平均粒径は50μm〜2mmである。固相担体にケモカインを固定化する方法は当分野において知られている。ケモカインは、担体に直接的又は間接的に固定化することができる。直接的な固定化は適当なリンカーにより行うことができる。ケモカインの間接的な固定化は、好ましくはビオチン分子とアビジン分子の相互作用を利用して行う。ケモカインのビオチン化及び固相担体に固定化されたストレプトアビジンの使用は、固相担体へのケモカインの確実な接着を可能にする。具体的には、この方法は、例えば、ビオチン化された形のケモカインを提供すること、表面にストレプトアビジンが固定化された固相担体を提供すること、担体をビオチン化ケモカインの水溶液と接触させること、及び担体を水性溶媒ですすぐことを含む。また、担体へのケモカインの間接的な固定化のために、抗体−抗原相互作用を利用してもよい。そのような実施形態では、担体を、特定のペプチド配列又は小分子ハプテンに対する既知の親和性を有する抗体又はその断片若しくは派生体を用いて誘導体化してもよい。ペプチド配列又はハプテンのケモカインの表面又は内部への導入は、対応する抗体又はその断片若しくは派生体で被覆された固相担体への固定化を促進する。したがって、直鎖分子の中にペプチド配列又はハプテンが含まれるようにケモカインを修飾してもよいし、それを側鎖又は標識として付加してもよい。任意の適当な抗体−抗原対を使用してもよい。抗体の断片又は派生体は、適当な抗原に対する特異的結合親和性を保持する任意の断片又は派生体であってもよい。例としては、Fab、scFV、VHドメイン、ナノボディ、重鎖抗体、ヒト化非ヒト抗体が挙げられる。結合活性(すなわちケモカインのその受容体への結合)が損なわれることなく、ケモカインを相互作用パートナーの一方で、固相担体を他方の相互作用パートナーで誘導体化することができる限り、他の高親和性相互作用をケモカインの固定化のために利用できる。
【0021】
あるいは、ケモカインは、当分野で確立されたバイオコンジュゲーション技術を用いて固相担体に直接的に固定化することができる。例えば、タンパク質の一次配列内のアミノ官能基を介した、臭化シアン活性化固相担体へのタンパク質の直接的な固定化がある。あるいは、タンパク質内のスルフヒドリル官能基を用いて、ハロゲン化アルキル誘導体化担体又は遊離チオール官能基を含む担体にタンパク質を直接的に固定化することができる。更なる実施形態において、α−チオエステル官能基を含むタンパク質を、天然の化学的連結反応を用いて、1,2−アミノチオール部分(例えばN末端システイン)を含む担体に直接的に固定化することができる。あるいは、ケトン及びアルデヒドで修飾したタンパク質を、ヒドラゾン/オキシム結合形成連結反応を用いて、ヒドラジニル、ヒドラジド及びアミノキシ官能基で誘導体化した固相担体に固定化することができる(逆もまた同様)。あるいは、「クリック」ケミストリーを用いて固相担体にタンパク質を固定化することにより、タンパク質及び担体を、相互に反応性のある適当な化学官能基(アジド及びアルキン)で誘導体化することができる。他の実施形態では、シュタウディンガー連結化学を用いて、適切に誘導体化したタンパク質を適切に誘導体化した固相担体に固定化することができる。
【0022】
本発明は、少なくとも1種のケモカインが固定化された前述の固相担体が充填されたアフェレーシスカラムを提供する。このカラムには、少なくとも1種のケモカインが直接的又は間接的に固定化された固相担体であって、ケモカインの受容体を発現する細胞(特に本明細書に記載の(活性化)白血球(単球、リンパ球等))を患者の末梢血から除去することを可能にする担体が充填される。本発明の好適な実施形態において、アフェレーシスカラムには、ストレプトアビジンが固定化された担体であって、少なくとも1種のビオチン化ケモカインが担体上のストレプトアビジンに結合した担体が充填される。担体は、(架橋されていてもよい)高分子量炭水化物(例えばアガロース)であることが好ましい。「充填」とは、(末梢)血液が固相担体と接触してカラムを流れるようにカラムが固相担体を支持又は収容することを意味する。ある実施形態において、固相担体は、連続的に血液が流れるカラム内のマトリックスとなる。
【0023】
本発明のカラムは、ケモカイン受容体を発現する細胞を血液試料から除去することを可能にする担体を支持するために使用される。より具体的には、カラムを使用して、(IBD)患者の末梢血から(活性化)白血球(特に(活性化)Tリンパ球、(活性化)単球、(活性化)好中性顆粒球、(活性化)好酸性顆粒球の少なくとも1種)を除去することができる。個々の患者の細胞プロファイルに応じて特定のケモカインが選択され、そのようなTリンパ球、単球、好中性若しくは好酸性顆粒球又は腸の炎症に関わる他の活性化細胞を特異的に除去する担体が調製される。
【0024】
すなわち、本発明はまた、対応するケモカイン受容体を発現する細胞(特に白血球(例えば(活性化)Tリンパ球、(活性化)単球、(活性化)好中性顆粒球、(活性化)好酸性顆粒球の少なくとも1種))を患者(特に炎症性疾患、中でも炎症性腸疾患(IBD)の患者)の末梢血から除去する方法であって、細胞を固相担体に接着させるのに十分な時間、収集した末梢血を、担体に固定化された少なくとも1種のケモカインと接触させるステップと、細胞を除去した血液を担体から分離するステップと、を含む方法を提供する。この方法はエクスビボ又はインビトロの方法であってもよい。ある実施形態において、本方法は、患者から末梢血を収集するステップを接触ステップの前に更に含む。更なる実施形態において、本方法は、除去した血液を患者に注入するステップを分離ステップの後に更に含む。これは完全な白血球アフェレーシス療法である。すなわち、白血球アフェレーシス療法は、患者から末梢血を収集するステップと、対応するケモカイン受容体を発現する細胞(特に白血球(例えば(活性化)Tリンパ球、(活性化)単球、(活性化)好中性顆粒球、(活性化)好酸性顆粒球の少なくとも1種))を固相担体に接着させるのに十分な時間、収集した末梢血を、担体に固定化した少なくとも1種のケモカインと接触させるステップと、対応するケモカイン受容体を発現する細胞(特に白血球(例えば(活性化)Tリンパ球、(活性化)単球、(活性化)好中性顆粒球、(活性化)好酸性顆粒球の少なくとも1種))を除去した血液を担体から分離するステップと、除去した血液を患者に注入するステップと、を含む。末梢血は患者から連続的に収集してもよい。同様に、除去した血液は、本明細書に記載の適切な回路を使用して患者に連続的に注入してもよい。担体は、血液が流れるカラム内に配置してもよい。これは、例えば適当なポンプを用いて達成してもよい。血液をカラムに流すことにより、固相担体に固定化されたケモカインが、受容体を発現する白血球を捕捉し、その結果血液から白血球を除去し、炎症性状態への白血球の関与を防ぐことが可能となる。
【0025】
すなわち、本発明は、炎症性疾患(例えばIBD)の治療、又は対応するケモカイン受容体を発現する細胞(特に白血球(例えば(活性化)Tリンパ球、(活性化)単球、(活性化)好中性顆粒球、(活性化)好酸性顆粒球の少なくとも1種))が患者の末梢血中に存在することを特徴とする疾患の治療における、本発明のカラム又は担体の使用を提供する。本発明はまた、治療に使用されるケモカイン(特に炎症性疾患(例えばIBD)の治療のためのケモカイン)であって、固相担体に固定化されたケモカインを提供する。本発明は更に、炎症性疾患(例えばIBD)の治療用の医薬品の製造におけるケモカインの使用であって、ケモカインが固相担体に固定化されている使用に関する。
【0026】
本発明の担体及びカラムについて記載した全ての実施形態は、適宜変更してこれらの態様に適用される(簡潔化のために繰り返さない)。
【0027】
本発明はまた、ビオチン化ケモカインと複合体を形成したストレプトアビジンコート磁気マイクロビーズを製造する方法を提供する。この方法は、水性溶媒中に懸濁したストレプトアビジンコート磁気マイクロビーズを提供するステップと、ビオチン化ケモカインの水溶液を提供するステップと、これらの懸濁液及び水溶液を混合するステップと、この混合物をインキュベートするステップと、ビオチン化ケモカインと複合体を形成したストレプトアビジンコート磁気マイクロビーズを(場合により磁気的手段で)分離するステップと、ビオチン化ケモカインと複合体を形成したストレプトアビジンコート磁気マイクロビーズを水性溶媒で洗浄するステップと、を含む。
【0028】
本発明のビオチン化ケモカインと複合体を形成したストレプトアビジンコート磁気マイクロビーズは、対応するケモカイン受容体を有する(発現する)血球とそのような受容体を欠く血球とを分離するのに使用することができる。この分離は、末梢血に対して磁気分離器を用いて行うことが好ましい。本発明の好適な態様では、分離後、末梢血を、その末梢血を取得したヒトに再び注入する。
【0029】
本発明の方法及び医学的使用は、個々の患者又は患者群のニーズに合わせて改変することができる。腸粘膜細胞に対して活性化した細胞を循環血液から除去することによって、IBDの炎症過程における重要因子を制御することができる。本発明の方法は、潰瘍性大腸炎又はクローン病(特に劇症型(潰瘍性)大腸炎又は劇症型クローン病)を治療し又は回復させるのに特に有効である。
【0030】
本発明の方法及び医学的使用はまた、対応するケモカイン受容体を発現する細胞(特に白血球(例えば(活性化)T細胞、(活性化)単球、(活性化)好中球、(活性化)好酸球)又は腸壁の深い部分に位置する抗原に対して活性化する他のタイプの細胞)を除去することによってクローン病患者を治療するために使用することができる。
【0031】
本発明のより一般的な態様において、本発明のカラム又は担体は、対応するケモカイン受容体を発現する細胞(特に白血球(例えば(活性化)Tリンパ球、(活性化)単球、(活性化)好中性顆粒球、(活性化)好酸性顆粒球の少なくとも1種))が患者の末梢血中に存在することを特徴とする疾患の治療に使用される。
【0032】
以下、非限定的な実施形態及び実施例を参照して本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1a】健康なドナーの末梢血から取得したCD4+T細胞によるビオチン化MIP−1αへの結合を示す。
【図1b】健康なドナーの末梢血から取得したCD8+T細胞によるビオチン化MIP−1αへの結合を示す。
【図1c】健康なドナーの末梢血から取得したCD14+単球によるビオチン化MIP−1αへの結合を示す。
【図1d】健康なドナーの末梢血から取得したCD4+T細胞によるビオチン化MCP−1への結合を示す。
【図1e】健康なドナーの末梢血から取得したCD8+T細胞によるビオチン化MCP−1への結合を示す。
【図1f】健康なドナーの末梢血から取得したCD14+単球によるビオチン化MCP−1への結合を示す。
【図2a】健康なドナーの末梢血から取得したCD4+T細胞によるビオチン化CCL25への結合を示す。
【図2b】健康なドナーの末梢血から取得したCD8+T細胞によるビオチン化CCL25への結合を示す。
【図2c】健康なドナーの末梢血から取得したCD14+単球によるビオチン化CCL25への結合を示す。
【図2d】CD患者の末梢血から取得したCD4+T細胞によるビオチン化CCL25への結合を示す。
【図2e】CD患者の末梢血から取得したCD8+T細胞によるビオチン化CCL25への結合を示す。
【図2f】CD患者の末梢血から取得したCD14+単球によるビオチン化CCL25への結合を示す。
【図3a】健康なドナーの末梢血から取得したCD4+T細胞によるIL−8への結合を示す。
【図3b】健康なドナーの末梢血から取得したCD8+T細胞によるIL−8への結合を示す。
【図3c】健康なドナーの末梢血から取得したCD16+単球によるIL−8への結合を示す。
【図4】プラスチック筺体及び上部を示す。分配プレート(2)及び安全フィルターユニット(3及び4)が見えるようにしている。
【図5】白血球アフェレーシスシステムの全体を示す。
【図6】空気検出器及び光学検出器(4)を備えるポンプを示す。
【図7】一人の供血者におけるCCR9発現細胞集団の減少を示す。全細胞集団はカラム通過の影響を受けていない。
【図8】一人のIBD患者におけるCCR9発現細胞集団の減少を示す。全細胞集団はカラム通過の影響を受けていない。
【図9】一人の供血者からの血球の活性化マーカー(カラム通過前後)を示す。
【図10】小型器具通過前後の細胞のIFN−γ分泌を示す。
【図11】カラム通過前後のPHA抗原刺激細胞についての結果を示す。
【図12】細胞を高濃度のbTECKとインキュベートした後の細胞死についての結果を示す。
【図13】折り畳まれた精製ビオチン−TECK(Nleu)のHPLCの結果を示す。
【図14】折り畳まれた精製ビオチン−TECK(Nleu)のエレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(ES/MS)のデータを示す。
【好適な実施形態の説明】
【0034】
材料及び方法:
末梢血白血球の単離:
健康な供血者又はIBD患者のヘパリン化末梢血を4%パラホルムアルデヒドで4分間固定し、0.83%塩化アンモニウム溶液で15分間溶血させ、FACS緩衝液で2回洗浄して、血液白血球の懸濁液を得た。
【0035】
ケモカイン:
白血球を、次のビオチン化及びアレクサ(Alexa)647フルオル(Fluor)(登録商標)標識ケモカインと共に4℃の暗所で30分間インキュベートした。ケモカイン:CCL25(0.1ng/μL、0.5ng/μL及び5ng/μL)、MIP−1α又はMCP−1(10ng/μL及び50ng/μL)。その後、細胞をFACS緩衝液で洗浄し、フローサイトメトリーで解析した。実施例で使用したケモカインは全て、Almac Sciences Scotland Ltd,Edinburgh,Scotlandにより提供された。
【0036】
フローサイトメトリーアッセイ:
フローサイトメトリーアッセイを、2レーザーFACS Caliburサイトメーター(BD Immunocytometry systems,San Jose,Ca,USA)を用いて行った。各試料について、1万個の細胞を数えてこれを解析した。データ解析には、Becton DickinsonのCell Quest Proソフトウェアを使用した。
【0037】
実施例1(単球のMIP−1αへの結合):
ビオチン化MIP−1αを用いた実験において、健康なドナーの末梢血から得られた単球の約90%が、30分のインキュベーション後、サイトカインと結合した(図1c)が、CD4+及びCD8+リンパ球は結合しなかった(図1a及び1b)。
【0038】
実施例2(単球のMCP−1への結合):
ビオチン化MCP−1を用いた実験において、健康なドナーの末梢血から得られた単球の約90%が、30分のインキュベーション後、サイトカインと結合した(図1f)が、CD4+及びCD8+リンパ球は結合しなかった(図1d及び1e)。
【0039】
実施例3(血球のCCL25への親和性):
ビオチン化CCL25を用いた実験において、健康なドナーの末梢血由来のT細胞(CD4+リンパ球、CD8+リンパ球)又は単球(CD14+単球)のいずれもビオチン化ケモカインと結合しなかった(図2a、2b及び2c)。他方、クローン病の患者由来のCD8+リンパ球の約80%、CD4+リンパ球及び単球の約90%がCCL25と結合した(図2d、2e及び2f)。
【0040】
実施例4(血球のビオチン化IL−8への親和性):
図3に、健康なドナーから得られたCD4+リンパ球(図3a)、CD8+リンパ球(図3b)及びCD16+好中球(図3c)のビオチン化IL−8(CXCL8)への結合を示す。30分のインキュベーション後、CD16+好中球は全てIL−8と結合した。他方、CD4+リンパ球及びCD8+リンパ球との結合は観察されなかった。
【0041】
実施例5(血球アフェレーシスのためのケモカインカラムの調製):
25mM リン酸ナトリウム(pH7.0)及び150mM NaClの水溶液に懸濁した(200ml、約50%、v/v)75μm〜300μのストレプトアビジン架橋アガロース(ProZyme,San Leandro,CA,USA)ビーズに、同じ緩衝液中のビオチン化MIP−1α(Almac Sciences)75μgの溶液を22℃で加え、3分間、手でゆっくり攪拌した。更に20分間放置した後、担体を濾別し、中性のリン酸ナトリウム/塩化ナトリウム水溶液で3回洗浄し、ガラスカラム(内径25mm、長さ12cm)に充填した。
【0042】
実施例6(実施例6のケモカインカラムを用いた、健康なドナーの末梢血からの単球の分離):
健康な男性ドナー由来のヘパリン化末梢血を、CD4+リンパ球、CD8+リンパ球及びCD14単球についてフローサイトメトリーによって解析した。血液100mlを1分あたり約8mlの速度でカラムに通し、FACS緩衝液で洗浄した。カラム通過後の血液を同じ細胞について解析した。単球の約95%がカラムに保持され、CD4+及びCD8+リンパ球はいずれもその90%超が回収された。
【0043】
実施例7(ビオチン化MIP−1αと複合体を形成したストレプトアビジンコンジュゲート磁気ビーズの調製):
ストレプトアビジンコンジュゲート磁気ビーズ(MagCellect Streptavidin Ferrofluid,1ml,R&D Systems,Minneapolis,MN,USA)の水性懸濁液を、25mM リン酸ナトリウム(pH7.0)及び150mM NaClの50ml中のMIP−1α(Almac Sciences)30μgと混合し、1時間、ゆっくり攪拌した。粒子を同じ溶媒20mlで3回洗浄し、4℃の懸濁液中で保存した。
【0044】
実施例8(実施例8のストレプトアビジン磁気ビーズを用いた、健康なドナーの末梢血からのCD14+単球の分離):
実施例7の健康なドナー由来のヘパリン化血液100mlを、ビオチン化MIP−1αと複合体を形成したストレプトアビジンコンジュゲート磁気ビーズと混合し、40分間、ゆっくり攪拌した。粒子を磁気分離器で血液から分離し、この血液をCD14+単球、CD4+リンパ球及びCD8+リンパ球について解析した。CD14+単球を検出することはほとんどできなかったが、CD4+及びCD8+リンパ球は概ね元の量で存在した。
【0045】
実施例9(目的に合わせて改変した白血球アフェレーシス):
カラムの設計及び特性:
はじめに:
アフェレーシスは、血液成分(例えば抗体、低密度リポタンパク質(LDL)、血球)の除去のために使用される確立された療法である。白血球アフェレーシスは、白血球(white blood cell,leukocyte)の除去に使用されるアフェレーシスである。患者を体外の血液循環システムに接続し、血液を患者の一方の腕の静脈から取り出し、カラムデバイスを通過させ、患者のもう一方の腕に戻す。白血球アフェレーシス治療の副作用には、頭痛、目まい、低血圧、動悸、紅潮のような軽度の事象(患者の0.1〜5%に観察される。)を含む様々のものがある。
【0046】
カラム:
カラムは、IBDのための白血球アフェレーシス治療に使用することが意図されている。カラムは、bTECK含有レジンの使用により、CCR9−TECK相互作用を通じて腸ホーミングCCR9発現白血球を特異的に除去する。カラムは、3つの結合した構成要素、すなわちプラスチック筺体と、ストレプトアビジン(SA)セファロース(Sepharose)(商標)ビッグビーズ(BigBeads)マトリックスと、マトリックスに結合したbTECKと、からなる。治療は、標準的なアフェレーシスと同じ技術を用いて行われる。
【0047】
プラスチック筺体(図4):
プラスチック筺体は、マトリックス中の連続的な血流が維持されるように設計されており、透明な本体と赤色の上部からなる。上部は、血液がマトリックス領域全体に均一に広がるように、流入部(1)に分配プレート(2)を備える。このプレートは、より大きな粒子がカラムを流れて患者に流入するのを防ぐ第1の安全バリアである。プラスチック筺体の流入部(1)及び流出部(5)には、安全フィルターユニット(3及び4)が設置されている。安全フィルターユニットは、血球より大きい粒子がカラムを通過するのを防ぐ強固なバリアとなるように設計した3つのフィルターを含む。プラスチック筺体の設計を図4に示す。カラムデバイスの両端に安全フィルター(3及び4)を備える設計は、(例えば、デバイスが逆さまに置かれ、意図した方向と逆に血液が流れる場合の)患者への粒子の漏出リスクを最小限にする。
【0048】
ストレプトアビジンセファロース(商標)ビッグビーズ:
このデバイスの第2の構成要素は、ストレプトアビジンセファロース(商標)ビッグビーズ(セファロース(商標)GE Healthcare,Sweden)という親和性マトリックスである。セファロース(商標)は、架橋アガロースのビーズ型であり、海藻から抽出した多糖である。セファロース(商標)及びアガロースは、生物医学的アフィニティー技術におけるカラムマトリックスとして一般に使用されている。その最適な分配能力の故に選択されるものであり、親和性結合の利用可能領域が大きい。
【0049】
bTECK:
マトリックスには、このデバイスの第3の構成要素であるbTECKが結合している。このbTECKペプチドはヒトケモカインTECKの合成改変型であり、切断及びビオチン化されているが、TECK受容体CCR9への結合親和性は保持している。改変TECKをビオチン化することによって、セファロース(商標)マトリックス中でストレプトアビジン分子と結合できる。ビオチン−ストレプトアビジン結合は、最も強い生物学的相互作用の1つであることが知られており、4×10−14MのオーダーのKdを有する。カラム中のストレプトアビジン・ビオチン両結合部位の計算比率は10:1である。したがって、マトリックスとbTECKの間の結合は即時型であり、マトリックスからのbTECK脱結合のリスクは最小化される。
【0050】
アフェレーシスシステム:
白血球アフェレーシスを行うために、次の構成要素が必要である。カラム、管システム、4008ADSポンプ(Fresenius Medical Care)。
【0051】
回路:
システムを図5に示す。右腕及び左腕の静脈に刺された無菌Venflon針を通じて患者(1)は体外回路に接続される。生理食塩水バッグ(3)も接続され、生理食塩水はACDポンプ(2)で注入される。血液は、血液ポンプ(4)によって無菌管システムを通じて患者の一方の腕から取り出され、カラム(6)を通過し、患者に戻される。管システムは、標準の透析ルアーロックによりカラムに接続される。カラムの接続部は、正しい組み立てのために色分けされている。流入用の赤色の管は赤色のカラム上部へ、流出用の青色の管は患者側へ接続される。空気検出器(8)がある。注入口圧センサー(5)及びPvenセンサー(7)は、回路の圧力のモニタリングのために使用される。
【0052】
4008ADSポンプ:
アフェレーシスポンプ(Fresenius Medical Care)は、体外循環における流入、流出、圧力をモニターし、泡捕獲器及び空気検出器により空気を識別する。泡捕獲器内には血塊捕獲フィルターが設置されている。ポンプはまた、明(例えば、管システム内に存在する生理食塩水又は空気)と暗(例えば、管システム内に存在する血液)とを識別する光学検出器を備える。
【0053】
空気検出器及び光学フィルターが見えるようになっているポンプの模式図を図6に示す。ポンプシステムが空気の泡及び光学的な変動を検出した場合又は体外の圧力値が規定範囲外になった場合、ポンプはすぐに止まり、見て分かる/聞き取れる警報を発する。
【0054】
図6の凡例:
1.モニタ
2.廃棄物袋用ホルダ
3.モジュール(左から右−血液ポンプ、ACDポンプ、空気検出器)
4.更なるモジュールのための予備のスペース
5.吸収体ホルダ
6.点滴検出器
7.IVポール
【0055】
患者の準備:
各治療期間の前に抗凝固剤を患者に投与する。5000IEヘパリンを有する無菌生理食塩水を体外システムへの呼び水として使用し、その後、各治療期間の開始時に、4000IEヘパリンを用いるボーラス注入を回路に加える。
【0056】
白血球アフェレーシスの時間と流速:
アフェレーシスシステムは30〜60mL/minの流速で行う。血液1800mLを循環させた後、治療を終了させる。
【0057】
保存条件:
カラムデバイスは1〜25℃で保存して、凍結及び温度上昇は避ける。3カ月を超える安定性データは、機能性に関して時間経過又は温度(室温及び冷蔵温度)による違いを示していない。カラムは、使用するまで冷蔵状態で保持する。激しい振動及び衝撃に起因するような物理的損傷は避ける。これらの推奨からはずれて保存されたカラムは使用しない。
【0058】
輸送条件:
カラムデバイスは冷蔵状態で輸送して、凍結や温度上昇は避ける。激しい振動及び衝撃に起因するような物理的損傷は避ける。
【0059】
実施例10(非臨床試験):
はじめに:
早くも1970年代には、ドナーのヒツジの腸管膜リンパ節から採取したリンパ球が、レシピエントへの移動後、腸の中で蓄積することが観察された(4、5)。これらの最初の動物試験は、体内の異なる区画を標的とした循環リンパ球の特異的ホーミング能力を示唆した。ネズミモデルにおける更なる試験は、異なるT細胞小集団の器官特異性を司るいくつかのシグナル伝達経路を明らかにした。L−セレクチン(CD62Lとしても知られる。)は、腸管膜リンパ節へのリンパ球の遊走を司る細胞表面タンパク質であることが示された(6)。腸血管の内膜において、MadCAM1及びTECKが、粘膜に結合したリンパ球及び単球の接着性や遊出に関与することが見出された。これらの研究は、免疫細胞の対応受容体、すなわちα4β7及びCCR9に注目させた(2)。この状況において、クローン病のマウスモデルの1つであるTNFδAREは、α4β7経路がTECKCCR9依存的移行から独立して働き、腸ホーミングの原因となる主要メカニズムであることを示唆した(7、8)。他方、他のマウスモデルでは、炎症粘膜への腸ホーミングに関してTECK−CCR9相互作用が同様に重要であることが明らかになった。粘膜炎症の減弱は、TECK−/−及びCCR9−/−ネズミモデルで見られ、また、TECK−CCR9結合を抗体で阻害した場合に観察される(9〜12)。すなわち、異なるホーミングメカニズムの影響は、選択する動物モデルによって決まるようである。ネズミモデルにおけるいくつかの試験では、CCR9発現T細胞が小腸を選好することが示唆されている。他方、潰瘍性大腸炎マウスモデルMDR1a−/−で見られる結腸限定の粘膜炎症はCCR9発現リンパ球への依存性を示す。CCR9遮断タンパク質CCX282−Bの投与後、結腸における炎症傷害が明らかに消失することは、結腸粘膜においてもTECK−CCR9相互作用が重要な役割を担うことを示唆する(3)。TECK−CCR9ホーミングメカニズムの治療への示唆がいくつかのヒト試験をもたらし、マウスで観察されたように、CCR9発現T細胞がヒト小腸に蓄積することが分かった(2、3、13)。CD患者において、CCR9発現リンパ球は、健康対照と比較して腸管膜リンパ節中で顕著に増加する(13)。追加的試験では、CD又はUC患者の結腸の炎症粘膜におけるTECK及びCCR9発現T細胞の存在が明らかになっている。健康対照も結腸粘膜にCCR9発現免疫細胞を有することが分かり、その受容体が腸関連免疫システムの正常機能において重要な役割を担うことが明らかになった(3)。炎症性腸疾患に関して、利用可能な動物モデルは必ずしもヒト腸炎に対応しない。そこで、非臨床的証明のために、IBD患者の血液試料をインビトロの実験に使用することに焦点が当てられた。更に、白血球アフェレーシスカラムに使用されるbTECKタンパク質はヒトCCR9表面タンパク質に特異的であり、このことはインビボの動物有効性試験の実行可能性を制限する。
【0060】
標的細胞集団のインビトロ除去:
CCR9発現細胞を除去する能力を調べるために、bTECK結合マトリックスを用いてインビトロ試験を行った。血液を供血者及びIBD患者から収集し、bTECK結合マトリックスを含むカラムデバイスを通過させた。血液試料をカラム通過前後に取得し、CCR9発現細胞の除去についてフローサイトメトリー(FACS)によって解析した。
これらの結果は、マトリックス灌流後に、標的集団であるCD14陽性CCR9発現細胞が顕著に減少したことを示すが、全CD14陽性細胞は変化していない。健康なドナー及びIBD患者の血液を用いて除去試験を行い、同様の効果を確認した。これらの結果をそれぞれ図7及び図8に示す。
【0061】
結論として、これらのインビトロの結果は、カラムによりCCR9発現細胞の50〜75%が特異的に減少することを示す。CCR9を発現しない細胞は変化しなかった。
【0062】
実施例11(毒物学的評価及び安全性試験):
曝露:
カラムデバイスによる患者の曝露は、2つの異なる方法で行われ得る。第一に、デバイスの中のbTECKを含む化学物質への血液及び血球の局所的曝露、第二に、デバイスから放出され、戻る血液によって患者へ投与されるbTECKを含む化学物質への全身的曝露。両方の場合において、全曝露を評価する可能性は制限されるが、マトリックス安定性試験により、セファロース、ストレプトアビジン及びbTECKへの全身曝露が明らかになる。以下を参照されたい。しかし、プラスチック及びフィルター材料は、FDA/ISO10993の標準的要件並びにUSPクラスVI生物学的評価要件を満たすので、照射殺菌後に実際、デバイスのこれらの部分由来の毒性化合物の曝露はごくわずかであると結論づけることができる。更に、カラムの異なる構成要素間の任意の相互作用を示唆するデータはない。
【0063】
マトリックスの安定性:
マトリックスの安定特性について、カラムの活性試験中に物質のいかなる漏出が起こるかどうかを判断するために試験をした。マトリックスを充填したカラムを、30〜100ml/minで、2LのPBS(リン酸−緩衝食塩水)を用いてポンプシステム内ですすぎ、製造ステップの残留粒子を洗い流した。カラム通過前後の液体試料を採取し、生成物の漏出について顕微鏡及びELISAで解析した。
2LのPBSでカラムをすすいだ後、マトリックス材料の目に見える漏出は観察されなかった。
【0064】
結合安定性について、ELISAを用いて試験をした。脱離したbTECKを検出するために、ストレプトアビジン抗体とウェルを4℃で1時間インキュベートした。脱離したストレプトアビジンを検出するために、ビオチン化ペルオキシダーゼとウェルを室温で1時間インキュベートした。これらの試験結果は、マトリックスからのセファロース粒子、ストレプトアビジン又はbTECKの漏出を示さなかった。
【0065】
生物学(毒物学)的データ:
強力な受容体−リガンド親和性により、bTECKが細胞のその特異的受容体CCR9を誘引し、結合することによって、所望の生物学的効果、消化管(腸ホーミング細胞)を標的とした活性化白血球の特異的除去をもたらす。受容体を発現しない血球は、カラムを通過し、患者に戻る。カラムの使用目的において曝露も多様な逆の生物学的(毒性)効果をもたらす可能性があり、医療デバイスのISO 10993−1のカテゴリーに従って、これを評価しなければならない。仮の局所曝露に基づいて、血液をカラム領域にわたって均一に分配する場合、血液、特に血球は悪影響を受ける可能性がある。デバイス内のケモカインbTECK又は任意の化学物質は、細胞毒性及び血液不適合性などの局所効果をもたらす可能性がある。更に、免疫細胞のいかなる活性化を調べることは最も重要である。患者は、灌流中、カラムデバイス又はプラスチック管から放出されたbTECK又は任意の化学物質にも全身的に曝露し、これは生物学(毒物学)的効果をもたらす可能性がある。これらの化学物質は種々の全身的効果をもたらす可能性があり、細胞毒性、感作、刺激及び皮内の反応性、全身毒性(急性)、亜急性及び亜慢性毒性並びに血液不適合性をISO 10993−1に従って評価する必要がある。9kDaの切断型として合成されビオチン化したbTECKの生物学的効果を証明するために様々な試験を行った。
【0066】
細胞特異的除去及びインビトロのFACS(蛍光活性化細胞選別)による解析:
IBD患者の血液に対するマトリックス及びbTECKを用いた細胞除去試験に関して、フルサイズカラムデバイスの工程を模擬実験する小型器具を使用した。プラスチック管の上部に設置したナイロンフィルターを用いて模擬実験を行った。血液をマトリックスと穏やかに混合し、フィルターを通過させて収集管に入れる。濾過されていない血液及び濾過した血液の試料を溶解した後、抗体染色し、更にFACSを用いて解析した。
供血者の血液試料を収集し、bTECK結合マトリックスを含むカラムの原型を用いて細胞除去試験を行った。カラム通過前後に試料を取得し、溶解し、抗体で染色し、更にFACSを用いて解析した。
bTECK受容体発現細胞の特異的除去は、小型器具及びカラムデバイスの原型の両方において成功した。この除去はCCR9発現細胞集団において特異的であることも示すことができた。例えば、図8及び7において、CCR9陽性細胞CD14及びリンパ球(CD4及びCD8)は極めて減少し、1/5未満がカラムを通過したが、CD14及びリンパ球集団の総数はカラム通過後変わらなかった。
【0067】
活性化、増殖及び細胞死:
目的は、カラムデバイスを通過した細胞の活性化及び機能特性を研究することであった。
【0068】
活性化マーカー:
溶解した細胞を10%HUS(ヒト抗体血清)と共に室温で15分間インキュベートし、細胞表面にあるFc受容体と細胞との非特異的結合を防いだ。細胞を、活性化マーカー;CD69(リンパ球)、CD66b(顆粒球)及びHLA−DR(単球)について染色した。細胞をFACSAriaで採取し、FACSDivaソフトウェアにより解析した。活性化マーカーを有する試験細胞の数は、カラム通過前後において同じであった(図9参照)。
【0069】
サイトカイン放出:
炎症性サイトカイン放出試験であるインターフェロンγ(IFNγ)分泌アッセイキットを使用して、マトリックスとの接触前後の細胞の活性化を調べた。分泌試験は、刺激後にIFNγを産生する細胞の数及びどの表現型かを示す。4人の供血者の末梢単核血液細胞(PBMC)を、Ficoll分離をした。細胞を、細胞培地(1%Pest+1%L−Glut+5%HUSを有するRPMI)に1×106細胞/mlの濃度で再懸濁した。マトリックスをPBSで洗浄し、0.1μg/mlのbTECKと混合した。細胞懸濁液の半分を、マトリックスを有する小型器具に通過させた。濾過していない及び濾過した細胞を、48ウェルプレートに500000/ウェルの割合で加え、37℃で16時間インキュベートした。PMA(50ng/ml)+イオノマイシン(1μg/ml)を陽性対照として細胞に加えた。16時間後、表面に結合及び分泌したIFNγの量について細胞を解析した。FACS解析のための他のMabは、CD3、CD14及びDAPIであった。IFNγ分泌に顕著な変化はなかった(図10参照)。
【0070】
[3H]の取り込みを伴う増殖アッセイ:
一人の供血者のヘパリン化全血のPBMCを、Ficoll分離により単離し、調製した。細胞の数を数え、細胞培地(RPMI+10%BGS+1%pest及び1%L−glut)で2×106細胞/mlに希釈した。細胞懸濁液の半分を、bTECKの200nM(0.2μg/ml)と結合したマトリックス(SA濃度4mg/ml)を有する小型器具に通過させた。プロトコルに従い、2×106細胞/mlの細胞懸濁液を50μl/ウェル(100000細胞)の割合で、96ウェルプレートの3ウェルずつに加えた。50μl/ウェルの細胞培地を陰性対照として、50μl/ウェルのPHA(植物性血球凝集素)抗原(5μg/ml)を陽性対照として使用した。2、3及び4日間まで37℃で細胞をインキュベートした。細胞の回収の前に、チミジン[3H]25μlをウェルに加え、37℃で18時間更にインキュベートした。18時間後、細胞を回収し、取り込まれた[3H]をシンチレーターで計測する。増殖の証拠としての[3H]の取り込みは、カラム通過前後の細胞において同じであった(図11参照)。
【0071】
アネキシンVを用いた細胞死−アポトーシスアッセイ:
Ficoll分離により、3人の供血者からPBMCを単離した。細胞をPBSで2回洗浄し、培地(1%L−glut、1%pest及び10%BGSを有するRPMI)に1×106/mlの濃度で再懸濁した。細胞を5μg/ml又は10μg/mlのbTECKで刺激した。細胞を16時間、24ウェルプレートの中でインキュベートした。陽性対照として、デキサメタゾン(1μM)を使用した。細胞をPBSで2回洗浄し、BDアネキシンVキットのプロトコルに従って、アネキシンVを用いて染色した。FACS解析前に、100μlのDAPIを細胞に加えた。FACSDivaソフトウェアを用いてFACS Ariaで試料を解析した。アポトーシス細胞をアネキシンV陽性及びDAPI陰性として定義した。アネキシンV陽性細胞の数は、5又は10μg/mlのbTECKへの曝露後に、顕著に上昇しなかった(図12参照)。
【0072】
まとめ:
カラムデバイス通過前後又はbTECK結合ストレプトアビジンセファロースマトリックスとの直接的な接触後の細胞を用いて試験を行った。マトリックス及びbTECKと接触した細胞に対する効果はなかった又は低かったことを結果は示した。活性化マーカーを有する細胞CD69(リンパ球)、CD66b(顆粒球)及びHLA−DR(単球)の数は、カラム通過前後で同じであった。PBMCの増殖能力に影響はなく、サイトカイン放出細胞の量は低かった。最初の臨床試験のカラムデバイスにおいて使用する量の5〜10倍高いbTECK量は、細胞死に対してほとんど効果を示さなかった。
【0073】
毒物学的試験:
インビトロ細胞毒性アッセイ:
カラムマトリックスを用いて、培養哺乳類細胞(L929マウス線維芽細胞)のインビトロ細胞毒性について試験した。ISO10993−5溶出試験指針に従って、試験を行った。20%エタノール中の被覆アガロースビーズの懸濁液として、試験物を供給した。カラムマトリックスを使用目的前に洗浄するように、アガロースビーズを洗浄し、その後、同じ量の無菌等張食塩水(0.9%NaCl)に再懸濁し、試験前にエタノールを除去した。完全細胞培地(10%ウシ胎児血清及び50μg/mlゲンタマイシンを有するHAM F12培地)の中の洗浄した試験物を穏やかな混合により37℃で24時間インキュベートすることによって、カラム抽出を準備した。0.2ml試験物/ml培地の抽出率(約0.2g/ml)を使用した。抽出物を希釈しないで及び新鮮な細胞培地で1:3に希釈して試験をした。陰性対照(ポリプロピレン抽出、6cm2/ml)、陽性対照(スズで安定化したポリ塩化ビニル抽出物、0.3cm2/ml)及び完全細胞培地で処理した未処理の対照培養物を含んだ。3つの同じ細胞培養物を48時間中の各試験時点において処理した。対照処理は適切な反応を生み出し、試験システムの正確な機能及び感度を示した。カラムの希釈していない抽出物及び希釈した抽出物の両方は毒性を示さなかった(細胞毒性の悪性度0)。
【0074】
溶血性試験:
インビトロ溶血活性(赤血球の溶解)について、カラムマトリックスを試験した。ISO 10993−4指針に求められるように、溶血試験を行った。物質科学研究所(MSI),Tennessee,USA(1979)の提案に従って試験を計画し、無菌食塩水によるウサギの血液の希釈混合物と試験物を直接的に接触させた。20%エタノール中の被覆アガロースビーズの懸濁液として、試験物を供給した。カラムマトリックスを使用目的前に洗浄するように、アガロースビーズを洗浄し、その後、同じ量の無菌等張食塩水(0.9%NaCl)に再懸濁し、試験前にエタノールを除去した。0.2ml試験物/ml生理食塩水(約0.2g/ml)の割合を使用して、試験物を無菌等張食塩水の中に設置した。37℃で39分間のインキュベーション後、ウサギの血液(20μl血液/ml生理食塩水)を加え、更に60分間インキュベーションを続けた。陰性対照(等張食塩水)及び陽性対照(蒸留水)を含んだ。全処理を3通り行った。インキュベーションの最後に、混合物を500×gで5分間遠心分離した。その後、545nmにおける上清液の吸光度を測定した。溶血のパーセンテージを計算した。この試験で使用された条件下、カラムマトリックスで処理した血液試料中の観察される平均溶血量は−0.3%であった。カラムマトリックスはMSI溶血試験の基準(溶血<5%)を満たすものと結論づけられる。
【0075】
ヒト血液における凝固試験:
インビトロのヒト血液試料の凝固速度に影響を与える能力について、カラムマトリックスを試験した。20%エタノール中の被覆アガロースビーズの懸濁液として、試験物を供給した。カラムマトリックスを使用目的前に洗浄するように、アガロースビーズを洗浄し、その後、同じ量の無菌等張食塩水(0.9%NaCl)に再懸濁して、試験前にエタノールを除去した。洗浄した試験物試料(0.2ml)を試験管に入れた。陰性対照(未処理)及び陽性対照(フラー土)試験管も準備した。新鮮なヒト血液(1ml)を各試験管に加えた。試験物の割合は、血液1mlあたり試験物約0.2mlであった(約0.2g/ml)。これらの試験管を約37℃の水浴に入れ、一定間隔で振盪した。血液の全凝固にかかる時間を記録した。4人の各々の血液で一度、試験物及び各対照を試験した。対照処理の結果は、試験システムの有効性及び感度を示した。
マトリックスで処理した血液の平均凝固時間は、平均陰性対照値の91%というわずかな減少を示した。しかし、試験における4人のドナーの個体間変動が大きいため、この減少が有意であるとはみなされない。カラムマトリックスは、この試験におけるヒト血液の凝固時間に影響を与えなかったと結論づけられる。
【0076】
まとめ:
試験の結果及びカラムの評価に基づいて、毒性は非常に低いと結論づけることができる。特定のタイプの毒性や標的臓器は同定されなかった。
【0077】
実施例12(TECK−PEG−ビオチン合成の概要):
標的分子:
PEG−ビオチン(TFA塩)を有するLys72のε−アミノ側鎖官能基において誘導体化されたTECK(MetからNleuへの置換)
【0078】
修飾:
成熟タンパク質の1〜74残基に対応するヒトTECKの切断型は、ケモカインの折り畳みに対応する配列を含む。全長成熟タンパク質は127個のアミノ酸である(シグナルペプチドは、150個のアミノ酸の未熟タンパク質中の23個のアミノ酸である)。この配列内のシグナルメチオニンをノルロイシンに変更し、天然配列誘導体の合成中に観察される鎖の構築中のこの残基の酸化を軽減した。生理学的条件下、タンパク質のN末端のGlnはpyroGluを形成しやすい。したがって、この配列のGln1をピログルタミンで置換して、N末端Gln及びpyroGluの混合種が生成するのを防いだ。これは合成収率を向上させ、カラムの製造及び使用を経て、均一なケモカイン製剤を保証する。天然に存在する72位のリジンを、樹脂のビオチン化によって修飾した。ε−アミノ官能基及びビオチンの間に、PEGスペーサーを組み込んだ。
【0079】
72番目のアミノ酸(K)の位置でのPEGスペーサー及びビオチン分子の結合前の直鎖状アミノ酸配列(配列番号1)を示す。
H−PyrGVFEDCCLAYHYPIGWAVLRRAWTYRIQEVSGSCNLPAAIFYLPKRHRKVCGNPKSREVQRANleKLLDARNKVF−OH
固相ペプチド合成のFmocプロトコルを使用して、改変TECK配列を固相担体に集合させた。
H−PyrGVFEDCCLAYHYPIGWAVLRRAWTYRIQEVSGSCNLPAAIFYLPKRHRKVCGNPKSREVQRANleKLLDARNK(Dde)VF−樹脂
FmocLys(Dde)−OHを72番目の残基として取り込ませ、タンパク質のこの位置の部位特異的標識を促進させた。
MetからNleへの置換。
N末端のGlnからピログルタミン酸への置換。
【0080】
Dde保護の除去:
DMF(100ml)中に2%ヒドラジンを含む溶液を用いた全樹脂(2.5g)の1時間にわたる処理によってDde保護基を除去し、2.0gの樹脂を得た。
【0081】
標識ステップ:
1.Fmoc−8−アミノ−3,6−ジオクタン酸の結合:
樹脂(1.5g)をDMF(2ml)で膨潤し、その後、Fmoc−8−アミノ−3,6−ジオクタン酸溶液(0.38g、1mmol)、DIC溶液(2ml、DMF中0.2M)及びHOCt溶液(2ml、DMF中0.2M)を加えた。混合物を2時間、超音波処理し、その後、DMFで洗浄した。
2.キャップ:
5分間、樹脂を0.5M無水酢酸/DMF溶液(20ml)でキャップし、その後、DMFで洗浄した。
3.Fmoc脱保護:
各15分間、DMFの20%ピペリジン溶液(50mlで2回)を用いた処理によりFmoc脱保護を行った。樹脂をDMFで洗浄した。
4.ビオチン−OSuの結合:
DMF(10ml)中にビオチン−NHSエステル(341mg、1mmol)及びDIPEA(348ul)を含む溶液を樹脂に加え、3時間、混合物を超音波処理した。樹脂をDMFで完全に洗浄し、その後、DCMを真空で乾燥した。乾燥樹脂を1.5g得た。
【0082】
切断:
TIS、チオアニソール、水、EDT及びフェノールからなるスカベンジャー混合物を含むTFA(30ml)を用いて、乾燥ペプチド樹脂(1.5g)及びこの混合物を切断し、この混合物を室温で6時間攪拌した。この溶液を冷たいエーテルに濾過して入れ、TFAを用いてこの樹脂をすすいだ。このペプチドを遠心分離にかけ、エーテルで洗浄し、遠心分離にかけ、凍結乾燥し、1.0gの粗ペプチドを得た。
【0083】
折り畳みプロトコル:
粗ペプチド(100mg)を6M GnHCl(233ml)に溶解し、その後、0.5mM GSSG及び5mM GSHを含む50mM TRIS pH8(467ml)の添加により、2M GnHCl濃度に急速に希釈した。この混合物を室温で2.5日間攪拌し、その後、HPLC(Jupiter C18, 250×4.6mmカラム,10〜60%Bにより30分にわたって解析した。所望の産物及び誤って折り畳まれた副産物の形成を、HPLC解析により確認した。
【0084】
精製:
50分にわたるJupiter C18, 250×21mmカラム,9ml/min,10〜60%Bの条件を使用する逆相HPLCにより、折り畳まれたタンパク質を精製した。精製折り畳みNle−TECK−Biotinを11.1mg得た。
図13は、折り畳まれた精製Biotin−TECK(Nleu)のHPLCを示す。このタンパク質は、21.6分の位置の単一ピークで溶出した。
図14は、折り畳まれた精製Biotin−TECK(Nleu)のエレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(ES/MS)のデータを示す。予想される質量は8959.4Daであった。
【0085】
機能アッセイのデータ:
hCCR9に対するエクオリンアッセイ(Euroscreen)におけるアゴニスト活性について、TECK−Biotin−Nleを試験し、天然TECKのEC50が67.87nMであることと比較して、EC50値が63.6nMを記録した。
【0086】
参考文献:
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2. Johansson−Lindbom B,Agace WW. Generation of gut−homing T cells and their localization to the small intestinal mucosa. Immunol Rev 2007;215:226−42.
3. Walters MJ,Berahovich,R.,Wang,Y.,Wei,Z.,Ungashe,S.,Lai,N.,Ertl,L,Baumgart,T.,Howard,M.,Schall,T. J. Presence of CCR9 and its ligand CCL25/TECK in the colon:scientific rationale for the use of CCR9 small molecule antagonist CCX282−B in colonic disorders. In:UEGW 2008;2008;2008.
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5. Hall JG,Hopkins J,Orlans E. Studies on the lymphocytes of sheep. III. Destination of lymph−borne immunoblasts in relation to their tissue of origin. Eur J Immunol 977;7(1):30−7.
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11. Johansson−Lindbom B,Svensson M,Wurbel MA,Malissen B,Marquez G,Agace W. Selective generation of gut tropic T cells in gut−associated lymphoid tissue(GALT):requirement for GALT dendritic cells and adjuvant. J Exp Med 2003;198(6):963−9.
12. Rivera−Nieves J,Ho J,Bamias G,et al. Antibody blockade of CCL25/CCR9 ameliorates early but not late chronic murine ileitis. Gastroenterology 2006;131(5):1518−29.
13. Saruta M,Yu QT,Avanesyan A,Fleshner PR,Targan SR,Papadakis KA. Phenotype and effector function of CC chemokine receptor 9−expressing lymphocytes in small intestinal Crohn’s disease. J Immunol 2007;178(5):3293−300.
14. Wang C. et al.,Mucosal Immunol. 2009 March;2(2):173−183.
【0087】
本発明の範囲は、本明細書に記載の特定な実施形態により限定されるものではない。実際、以上の説明及び添付の図面から、本明細書に記載の実施形態以外に多くの改変形態が存在することは当業者に明らかであろう。そのような改変形態は添付の特許請求の範囲に包含される。更に、本明細書に記載の全ての実施形態は、整合性がある限り、適宜、他の実施形態に適用又は組み合わせ可能なものとする。
【0088】
様々な刊行物が本明細書で引用されたが、その開示内容は、ここで参照されることによりその全体が本明細書に組み込まれる。
【発明の分野】
【0001】
本発明は、炎症性状態(例えば炎症性腸疾患、特に潰瘍性大腸炎(UC)及びクローン病(CD)、中でも劇症型の潰瘍性大腸炎及びクローン病)を治療するための製品及び方法に関する。
【発明の背景】
【0002】
劇症型潰瘍性大腸炎は、白血球数増多及び激しい腹痛を特徴とする、潰瘍性大腸炎が悪化した状態である。現在、劇症型潰瘍性大腸炎の患者は高用量のステロイドを用いて治療される。第III相試験において、抗TNFαを用いた治療が研究されている。両薬剤とも一般的な炎症阻害剤である。これらは症例の約50%に有効であるが、深刻な有害作用を伴う。治療が成功しても、劇症型潰瘍性大腸炎は再発する傾向がある。
【0003】
医学的処置が奏功しない劇症型潰瘍性大腸炎の患者では、迅速な外科的介入が必須である。潰瘍性大腸炎は、常に大腸(結腸)に限定される。最後の手段として、結腸を切除し、外付けのイレオストーマ(ileostoma)が造設される。少なくとも6カ月の回復期、時には直腸断端の炎症の更なる医学的処置の後、腸の連続性を回復するために、回腸直腸吻合術又は回腸嚢を用いた再建手術のいずれかが大半の患者で行われる。これらの手術は、1日に約6回の軟便及び水分・ミネラルバランスの崩れを伴う。クローン病でも劇症型(劇症型クローン結腸炎)の発現があり得る。これも、緊急の医学的及び/又は外科的介入を必要とする重篤な状態である。
【0004】
炎症はクローン病患者の消化管のいかなる部分にも起こり得るが、一般に、小腸の最遠位部及び大腸の最初の部分(回盲部)に限定される。抗炎症薬(例えばステロイド、アザチオプリン)は症状を緩和するが、医学的処置ではこの疾患を治すことはできない。狭窄及びフィステルが生じた腸管部の切除を伴う外科手術の適応は患者の約50%にあるが、その半分が再発し、更なる外科手術を必要とする。したがって、IBDの炎症を抑え、個々の患者での再発を予防することができる方法は強く求められている。
【0005】
国際公開第2008/038785号には、細胞(特に活性化白血球、ガン細胞)及びサイトカインを血液から除去するための細胞吸着カラムが記載されている。
【発明の概要】
【0006】
炎症性腸疾患は、罹患した腸における炎症及び白血球浸潤を特徴とする。
【0007】
ケモカインは、炎症における細胞の動員及び活性化に関わるサイトカイン分子の一群である。ケモカインは、免疫系の種々の細胞亜集団の走化及び活性化を引き起こす。ケモカインの活性は、主として白血球表面のケモカイン受容体との強固な結合を介して現れる。本発明は、炎症部位へのケモカイン受容体発現細胞の動員の増加を特徴とする炎症性状態(特に慢性炎症性状態)の治療に、ケモカインとその受容体を発現する細胞との相互作用を利用できるという知見に基づく。すなわち、本発明は、炎症性ケモカインの高レベル発現の誘導により引き起こされる炎症部位への炎症性白血球の動員を減少させることに役立つ。これは、そのような炎症性ケモカインを使用して患者の炎症性白血球を捕獲することによって達成される。より具体的には、白血球(特に(活性化)Tリンパ球、(活性化)単球、(活性化)好中性顆粒球、(活性化)好酸性顆粒球の少なくとも1種)がIBDの炎症の開始及び維持に関与している。したがって、循環血液からのその除去は、そのような炎症を緩和し更には除去する可能性がある。本発明者らは、活動性IBD患者の腸の生検試料のフローサイトメトリーにより、(活性化)Tリンパ球、単球、好中性及び好酸性顆粒球は、炎症性部位に豊富に存在し循環末梢血にも存在する細胞であることを明らかにした。
【0008】
すなわち、第1の態様において、本発明は、少なくとも1種のケモカインが直接的又は間接的に固定化された固相担体であって、該ケモカインの受容体を発現する細胞(特に本明細書に記載の(活性化)白血球(単球、リンパ球等))を患者の末梢血から除去することが可能な担体を提供する。ケモカインは炎症性ケモカイン、すなわち傷害又は感染に応答して細胞又は組織により高レベルで誘導される(炎症性白血球を動員する働きがある)ケモカインである。
【0009】
本発明において、「ケモカイン」という語は、ビオチン化その他の方法で標識されたケモカインを含む。「ケモカイン」という語は、ケモカイン受容体との結合能を保持する(すなわち本発明との関係で機能的である)限り、ケモカインの修飾型及び切断型を含む。タンパク質合成(例えば産物の均一性及び収率)を改善するために修飾を施してもよい。修飾は、ケモカイン中の少なくとも1種のアミノ酸についてのアミノ酸の付加、置換、欠失その他の修飾を含んでもよい。修飾は、野生型アミノ酸から、非天然アミノ酸(例えばノルロイシン(NLeu))や誘導体化アミノ酸(例えばピログルタミン酸(pyroGlu))への置換を含んでもよい。本発明のカラムの貯蔵及び使用中の副産物形成を最小化するために、そのような修飾を施してもよい。標識を改善するために修飾を施してもよく、例えば、ビオチン化を容易にするためにポリエチレングリコール(PEG)スペーサーを挿入してもよい。ケモカインのビオチン化及び/又は蛍光色素その他の標識基とのコンジュゲーションは、受容体の結合能に実質的に影響を与えないように行われる。ケモカインの非選択的標識は受容体結合活性を損なう可能性があるので、部位特異的なビオチン化その他の標識が好ましい。ビオチン化その他の標識は一般に、タンパク質のC末端又はC末端側で行うのが好ましい。これは、これらの領域での修飾は(受容体結合能に対する影響が小さい点で)一般に許容性が高いとの知見に基づく。切断は、N又はC末端アミノ酸のいずれか又は両方の欠失を含んでもよい。切断型は一般に、ケモカインが正しく折り畳まれる(例えばケモカインの折り畳み構造を保持する)のに必要な残基を保持するが、これは、(白血球(の表面)で発現した)受容体との結合能を保持しなければならないという条件と合致する。ある実施形態では、切断型は、含まれるアミノ酸が野生型アミノ酸配列よりも1〜100個(例えば1、2、3、4、5個)少なくてもよい。もちろん、切断型は、本明細書で説明される更なる修飾を含んでもよい。ある実施形態では、修飾型又は切断型は、全長野生型ケモカインと40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%以上のアミノ酸配列相同性を有してもよい(ここで、欠失はアミノ酸配列の相違として計算される)。ある実施形態では、分子間の共通配列(すなわち欠失されていないアミノ酸)について、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%のアミノ酸配列相同性があってもよい。修飾及び切断の両方を含み本発明での使用に特に適した本発明のケモカインの例は、本明細書で詳細に説明される。切断されたTECKは、全長成熟タンパク質の1〜74番目の残基に対応し(すなわち75〜127番目のアミノ酸及び(アミノ酸23個の)N末端シグナルペプチドを欠き)、ケモカインの折り畳みを保持する。更に、鎖の構築中の残基の酸化を防ぐため、メチオニンからノルロイシンへの置換が導入されている。合成中に産物が均一になるように、N末端グルタミン残基はピログルタミンで置換されている。72位のリジン残基のε−官能基におけるPEGスペーサーを介してビオチン化が行われている。直鎖分子(すなわち、72番目のアミノ酸の位置にPEGスペーサー及びビオチン分子がない分子)のアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか、それからなる配列である。本発明のケモカインは、任意の適当な手段により合成できる。ケモカインは、修飾、標識等が容易になることから、好ましくは化学的に合成される。組換えDNAベースの手法を、標識・修飾技術と適宜組み合わせて使用してもよい。すなわち、本発明は、(成熟型)CCL25(すなわちシグナルペプチド(最初の23個のアミノ酸を含む。)を欠く型)の1〜74番目のアミノ酸を含むか、それから本質的になるか、それからなる切断型CCL25タンパク質をコードする核酸分子も提供する。このタンパク質は、成熟CCL25アミノ酸配列の75〜127番目のアミノ酸を欠く。本発明は、そのような核酸分子を含むベクター及びそのようなベクターを含む宿主細胞にも関する。ベクターは、核酸分子に作動可能に連結されて、対応するmRNA分子の転写を促進する適当なプロモーターを更に含んでもよい。宿主細胞は、CCL25の1〜74番目のアミノ酸を含む(すなわち75〜127番目のアミノ酸及び(アミノ酸23個の)N末端シグナルペプチドを欠く)切断型CCL25タンパク質をコードする核酸分子の転写及び翻訳によって該タンパク質を発現することが可能なものであってもよい。
【0010】
ケモカイン受容体は、種々の遊走細胞(例えばリンパ球、顆粒球、抗原提示細胞)だけでなく、特定の非遊走細胞(例えば上皮細胞、線維芽細胞)でも発現する。前述のように、本発明のケモカインは、少なくとも1種のケモカインの受容体を発現する細胞を患者の末梢血から除去することが可能となるように固相担体に固定化される。本発明の好適なケモカインの各々に対する受容体は表1の通りである。場合により、ケモカインが結合可能な受容体は2個以上あり得る。ケモカインのそのような特性は、好都合なことに、炎症性状態の一因となる種々の受容体発現細胞を捕捉することによる更に効率的な治療を可能にする。ある実施形態では、担体は、種々の炎症促進性細胞の捕捉を増加させるために複数のケモカインを担持する。
【0011】
IBD患者に見られる炎症は、循環血液から腸粘膜への抗原提示細胞(APC)及びT細胞の連続的供給により維持される。細胞のこの連続的蓄積は、ケモカイン及びその受容体により調節される。すなわち、ケモカインは、炎症中の種々の免疫細胞亜集団の動員及び活性化に関わる分子である。炎症を起こした腸粘膜で産生される局所性ケモカインの1つはTECK(胸腺発現ケモカイン。CCL25とも呼ばれる。)である。循環血液中の単球及びリンパ球は、TECK受容体(ケモカイン受容体9(CCR9))を介してこのケモカインを認識する。これらの細胞はCCR9受容体を介してTECKと結合し、腸の炎症部位に遊走し始める(1)。炎症粘膜に到達すると、単球はAPCに変わる。循環CCR9発現T細胞も腸の炎症部位に移動し、そこで活性型になる。マウスモデルにおいて、遺伝子欠失によるCCR9又はそのリガンドTECKの除去又は抗体阻害は、T細胞の腸への遊走を減少させる(2)。CCR9−TECK相互作用は、単球及びT細胞の腸管全体(小腸及び結腸)への遊走において中心的な役割を担うものと思われる。最近の研究により、健康なヒト及びIBDを患うヒトの大腸内におけるCCR9及びTECKの両方の存在が確認されている。CD又はUCのいずれかの患者から採取した結腸組織の研究では、免疫組織染色によりCCR9発現T細胞の存在が明らかにされている。更に、結腸における受容体アゴニストTECKの存在も確認されている(3)。IBD患者において、CCR9を発現する(循環血液中の)単球及びT細胞を腸の炎症への到達前に除去し、それにより炎症を減少させるのは合理的である。固相担体に固定化したビオチン化TECK(bTECK)を担持したカラム(これは、CCR9を発現する単球及びT細胞を循環血液から捕獲する。)を使用することによって、炎症の持続が抑制され、粘膜の修復が可能となる。同様の理屈は、炎症を起こした腸の領域への白血球の動員に関わる種々のケモカインにも適用できる。例えば、IL−8は腸粘膜により分泌され、IL−8受容体との相互作用を介して好中球を誘引する。CCR6は、腸へのTh17細胞の遊走及び炎症組織におけるエフェクターT細胞のバランス/分布を調節する(14)。すなわち、固相担体に固定化したCCL20も、炎症性状態(例えばIBD)を治療するのに有用である。
【0012】
本発明のケモカインは、炎症性疾患において発現量の増加が見られるとの事実に基づいて選択された。更に、適当なタイプの細胞に存在するケモカイン受容体は、炎症部位への該受容体発現細胞の動員を介して、そのような炎症性疾患の発症に関与することが示された。本発明のケモカインには、MIP−1a、MIP−1b、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、TARC、MDC、MIP−3、MIP−3a、MIP3b、MIP−4、I−309、HCC−1、HCC−2、SLC、IL−8、GROa、GROb、GROg、RANTES、NAP−2、ENA78、GCP−2、IP−10、MIG、I−TAC、SDF、フラクタルカイン、リンホタクチン、エオタキシン、エオタキシン−2、I−309、BLC、CCL25のいずれか少なくとも1種が含まれる。本発明の特に好適なケモカインには、MIP−1a、MIP−1b、MIP−3a、MIP−3b、MIP−4、SLC、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、TARC、MDC、IL−8、IP−10、MIG、I−TAC、フラクタルカイン、CCL−25、RANTESが含まれる。本発明の最も好適なケモカインには、活性化Tリンパ球への結合を好むケモカイン、特にMIP−1a、MCP、IP−10、MIG、ITAC、CCL25が含まれる。「結合を好む」とは、ケモカインが、非活性化Tリンパ球及び/又は他の血球よりも活性化Tリンパ球に結合する傾向が強いことを意味する。特定の実施形態において、ケモカインはCCL25である。CCL25は、CCR9を発現する細胞(特に(活性化)リンパ球(CD4、CD8リンパ球)、単球(例えばCD−14陽性単球))への結合を好む。
【0013】
表1は、本発明で有用なケモカインの詳細(承認された遺伝子記号(HUGO遺伝子命名法委員会)、遺伝子名、配列情報等)を提供する。各ケモカインの受容体も記載されている。
【0014】
【表1−1】
【0015】
【表1−2】
【0016】
【表1−3】
【0017】
【表1−4】
【0018】
【表1−5】
【0019】
本発明のケモカインは、当分野で既知の方法(例えば国際公開第00/50088(A2)号(参照されることにより本明細書に組み込まれる。)に記載の方法)によってビオチン化することができる。ケモカインの受容体結合能に重大な影響を与えない任意の標識法を使用することができるが、上述の通り、ケモカインの部位特異的標識が好ましい。種々の部位特異的ビオチン化ケモカイン及び天然ケモカインが、例えばAlmac,Craigavon,UKから市販されている。特定の実施形態において、少なくとも1種のケモカインはスペーサー基を介してビオチン化される。スペーサーは、ビオチン基がケモカインの活性(特にケモカインのその受容体との結合)に影響を与えるのを防ぐために使用してもよい。ケモカインの受容体結合特性の保持を促進する任意の適当なスペーサーを使用してもよい。特定の実施形態において、スペーサーはポリエチレングリコール(PEG)スペーサーである。PEGは、受容体結合能を損なうことなくビオチンのケモカインへの結合を可能にする(そして、ケモカインはストレプトアビジンとの相互作用を介して固相担体に固定化される。)有効なスペーサーであることは本明細書に示されている。
【0020】
本発明のケモカインを固定化する固相担体材料は、当分野で知られている。有用な担体材料は、血球が凝固し又は担体に付着するように血球(特にリンパ球)を活性化することのない材料である。抗凝固特性を付与する薬剤で処理された担体(特にヘパリン化担体)を使用するのは有利である。あるいは、患者の血液を、担体にアプライする前に抗凝固剤(例えばヘパリン)で処理してもよい。有用な担体材料は、高分子量炭水化物、特に100kDa以上の分子量を有する炭水化物(例えばアガロース(微粒子型。架橋されていてもよい)、セルロース)を含む。他の好適な担体物質は、ポリマー(例えばカルボキシル化ポリスチレン)及びガラスである。本発明の担体は、好ましくは粒子状又は繊維状である。担体粒子は、規則的な形態(例えば球、ビーズ)であっても不規則な形態であってもよい。担体粒子は多孔質であっても非多孔質であってもよい。担体の好ましい平均粒径は50μm〜2mmである。固相担体にケモカインを固定化する方法は当分野において知られている。ケモカインは、担体に直接的又は間接的に固定化することができる。直接的な固定化は適当なリンカーにより行うことができる。ケモカインの間接的な固定化は、好ましくはビオチン分子とアビジン分子の相互作用を利用して行う。ケモカインのビオチン化及び固相担体に固定化されたストレプトアビジンの使用は、固相担体へのケモカインの確実な接着を可能にする。具体的には、この方法は、例えば、ビオチン化された形のケモカインを提供すること、表面にストレプトアビジンが固定化された固相担体を提供すること、担体をビオチン化ケモカインの水溶液と接触させること、及び担体を水性溶媒ですすぐことを含む。また、担体へのケモカインの間接的な固定化のために、抗体−抗原相互作用を利用してもよい。そのような実施形態では、担体を、特定のペプチド配列又は小分子ハプテンに対する既知の親和性を有する抗体又はその断片若しくは派生体を用いて誘導体化してもよい。ペプチド配列又はハプテンのケモカインの表面又は内部への導入は、対応する抗体又はその断片若しくは派生体で被覆された固相担体への固定化を促進する。したがって、直鎖分子の中にペプチド配列又はハプテンが含まれるようにケモカインを修飾してもよいし、それを側鎖又は標識として付加してもよい。任意の適当な抗体−抗原対を使用してもよい。抗体の断片又は派生体は、適当な抗原に対する特異的結合親和性を保持する任意の断片又は派生体であってもよい。例としては、Fab、scFV、VHドメイン、ナノボディ、重鎖抗体、ヒト化非ヒト抗体が挙げられる。結合活性(すなわちケモカインのその受容体への結合)が損なわれることなく、ケモカインを相互作用パートナーの一方で、固相担体を他方の相互作用パートナーで誘導体化することができる限り、他の高親和性相互作用をケモカインの固定化のために利用できる。
【0021】
あるいは、ケモカインは、当分野で確立されたバイオコンジュゲーション技術を用いて固相担体に直接的に固定化することができる。例えば、タンパク質の一次配列内のアミノ官能基を介した、臭化シアン活性化固相担体へのタンパク質の直接的な固定化がある。あるいは、タンパク質内のスルフヒドリル官能基を用いて、ハロゲン化アルキル誘導体化担体又は遊離チオール官能基を含む担体にタンパク質を直接的に固定化することができる。更なる実施形態において、α−チオエステル官能基を含むタンパク質を、天然の化学的連結反応を用いて、1,2−アミノチオール部分(例えばN末端システイン)を含む担体に直接的に固定化することができる。あるいは、ケトン及びアルデヒドで修飾したタンパク質を、ヒドラゾン/オキシム結合形成連結反応を用いて、ヒドラジニル、ヒドラジド及びアミノキシ官能基で誘導体化した固相担体に固定化することができる(逆もまた同様)。あるいは、「クリック」ケミストリーを用いて固相担体にタンパク質を固定化することにより、タンパク質及び担体を、相互に反応性のある適当な化学官能基(アジド及びアルキン)で誘導体化することができる。他の実施形態では、シュタウディンガー連結化学を用いて、適切に誘導体化したタンパク質を適切に誘導体化した固相担体に固定化することができる。
【0022】
本発明は、少なくとも1種のケモカインが固定化された前述の固相担体が充填されたアフェレーシスカラムを提供する。このカラムには、少なくとも1種のケモカインが直接的又は間接的に固定化された固相担体であって、ケモカインの受容体を発現する細胞(特に本明細書に記載の(活性化)白血球(単球、リンパ球等))を患者の末梢血から除去することを可能にする担体が充填される。本発明の好適な実施形態において、アフェレーシスカラムには、ストレプトアビジンが固定化された担体であって、少なくとも1種のビオチン化ケモカインが担体上のストレプトアビジンに結合した担体が充填される。担体は、(架橋されていてもよい)高分子量炭水化物(例えばアガロース)であることが好ましい。「充填」とは、(末梢)血液が固相担体と接触してカラムを流れるようにカラムが固相担体を支持又は収容することを意味する。ある実施形態において、固相担体は、連続的に血液が流れるカラム内のマトリックスとなる。
【0023】
本発明のカラムは、ケモカイン受容体を発現する細胞を血液試料から除去することを可能にする担体を支持するために使用される。より具体的には、カラムを使用して、(IBD)患者の末梢血から(活性化)白血球(特に(活性化)Tリンパ球、(活性化)単球、(活性化)好中性顆粒球、(活性化)好酸性顆粒球の少なくとも1種)を除去することができる。個々の患者の細胞プロファイルに応じて特定のケモカインが選択され、そのようなTリンパ球、単球、好中性若しくは好酸性顆粒球又は腸の炎症に関わる他の活性化細胞を特異的に除去する担体が調製される。
【0024】
すなわち、本発明はまた、対応するケモカイン受容体を発現する細胞(特に白血球(例えば(活性化)Tリンパ球、(活性化)単球、(活性化)好中性顆粒球、(活性化)好酸性顆粒球の少なくとも1種))を患者(特に炎症性疾患、中でも炎症性腸疾患(IBD)の患者)の末梢血から除去する方法であって、細胞を固相担体に接着させるのに十分な時間、収集した末梢血を、担体に固定化された少なくとも1種のケモカインと接触させるステップと、細胞を除去した血液を担体から分離するステップと、を含む方法を提供する。この方法はエクスビボ又はインビトロの方法であってもよい。ある実施形態において、本方法は、患者から末梢血を収集するステップを接触ステップの前に更に含む。更なる実施形態において、本方法は、除去した血液を患者に注入するステップを分離ステップの後に更に含む。これは完全な白血球アフェレーシス療法である。すなわち、白血球アフェレーシス療法は、患者から末梢血を収集するステップと、対応するケモカイン受容体を発現する細胞(特に白血球(例えば(活性化)Tリンパ球、(活性化)単球、(活性化)好中性顆粒球、(活性化)好酸性顆粒球の少なくとも1種))を固相担体に接着させるのに十分な時間、収集した末梢血を、担体に固定化した少なくとも1種のケモカインと接触させるステップと、対応するケモカイン受容体を発現する細胞(特に白血球(例えば(活性化)Tリンパ球、(活性化)単球、(活性化)好中性顆粒球、(活性化)好酸性顆粒球の少なくとも1種))を除去した血液を担体から分離するステップと、除去した血液を患者に注入するステップと、を含む。末梢血は患者から連続的に収集してもよい。同様に、除去した血液は、本明細書に記載の適切な回路を使用して患者に連続的に注入してもよい。担体は、血液が流れるカラム内に配置してもよい。これは、例えば適当なポンプを用いて達成してもよい。血液をカラムに流すことにより、固相担体に固定化されたケモカインが、受容体を発現する白血球を捕捉し、その結果血液から白血球を除去し、炎症性状態への白血球の関与を防ぐことが可能となる。
【0025】
すなわち、本発明は、炎症性疾患(例えばIBD)の治療、又は対応するケモカイン受容体を発現する細胞(特に白血球(例えば(活性化)Tリンパ球、(活性化)単球、(活性化)好中性顆粒球、(活性化)好酸性顆粒球の少なくとも1種))が患者の末梢血中に存在することを特徴とする疾患の治療における、本発明のカラム又は担体の使用を提供する。本発明はまた、治療に使用されるケモカイン(特に炎症性疾患(例えばIBD)の治療のためのケモカイン)であって、固相担体に固定化されたケモカインを提供する。本発明は更に、炎症性疾患(例えばIBD)の治療用の医薬品の製造におけるケモカインの使用であって、ケモカインが固相担体に固定化されている使用に関する。
【0026】
本発明の担体及びカラムについて記載した全ての実施形態は、適宜変更してこれらの態様に適用される(簡潔化のために繰り返さない)。
【0027】
本発明はまた、ビオチン化ケモカインと複合体を形成したストレプトアビジンコート磁気マイクロビーズを製造する方法を提供する。この方法は、水性溶媒中に懸濁したストレプトアビジンコート磁気マイクロビーズを提供するステップと、ビオチン化ケモカインの水溶液を提供するステップと、これらの懸濁液及び水溶液を混合するステップと、この混合物をインキュベートするステップと、ビオチン化ケモカインと複合体を形成したストレプトアビジンコート磁気マイクロビーズを(場合により磁気的手段で)分離するステップと、ビオチン化ケモカインと複合体を形成したストレプトアビジンコート磁気マイクロビーズを水性溶媒で洗浄するステップと、を含む。
【0028】
本発明のビオチン化ケモカインと複合体を形成したストレプトアビジンコート磁気マイクロビーズは、対応するケモカイン受容体を有する(発現する)血球とそのような受容体を欠く血球とを分離するのに使用することができる。この分離は、末梢血に対して磁気分離器を用いて行うことが好ましい。本発明の好適な態様では、分離後、末梢血を、その末梢血を取得したヒトに再び注入する。
【0029】
本発明の方法及び医学的使用は、個々の患者又は患者群のニーズに合わせて改変することができる。腸粘膜細胞に対して活性化した細胞を循環血液から除去することによって、IBDの炎症過程における重要因子を制御することができる。本発明の方法は、潰瘍性大腸炎又はクローン病(特に劇症型(潰瘍性)大腸炎又は劇症型クローン病)を治療し又は回復させるのに特に有効である。
【0030】
本発明の方法及び医学的使用はまた、対応するケモカイン受容体を発現する細胞(特に白血球(例えば(活性化)T細胞、(活性化)単球、(活性化)好中球、(活性化)好酸球)又は腸壁の深い部分に位置する抗原に対して活性化する他のタイプの細胞)を除去することによってクローン病患者を治療するために使用することができる。
【0031】
本発明のより一般的な態様において、本発明のカラム又は担体は、対応するケモカイン受容体を発現する細胞(特に白血球(例えば(活性化)Tリンパ球、(活性化)単球、(活性化)好中性顆粒球、(活性化)好酸性顆粒球の少なくとも1種))が患者の末梢血中に存在することを特徴とする疾患の治療に使用される。
【0032】
以下、非限定的な実施形態及び実施例を参照して本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1a】健康なドナーの末梢血から取得したCD4+T細胞によるビオチン化MIP−1αへの結合を示す。
【図1b】健康なドナーの末梢血から取得したCD8+T細胞によるビオチン化MIP−1αへの結合を示す。
【図1c】健康なドナーの末梢血から取得したCD14+単球によるビオチン化MIP−1αへの結合を示す。
【図1d】健康なドナーの末梢血から取得したCD4+T細胞によるビオチン化MCP−1への結合を示す。
【図1e】健康なドナーの末梢血から取得したCD8+T細胞によるビオチン化MCP−1への結合を示す。
【図1f】健康なドナーの末梢血から取得したCD14+単球によるビオチン化MCP−1への結合を示す。
【図2a】健康なドナーの末梢血から取得したCD4+T細胞によるビオチン化CCL25への結合を示す。
【図2b】健康なドナーの末梢血から取得したCD8+T細胞によるビオチン化CCL25への結合を示す。
【図2c】健康なドナーの末梢血から取得したCD14+単球によるビオチン化CCL25への結合を示す。
【図2d】CD患者の末梢血から取得したCD4+T細胞によるビオチン化CCL25への結合を示す。
【図2e】CD患者の末梢血から取得したCD8+T細胞によるビオチン化CCL25への結合を示す。
【図2f】CD患者の末梢血から取得したCD14+単球によるビオチン化CCL25への結合を示す。
【図3a】健康なドナーの末梢血から取得したCD4+T細胞によるIL−8への結合を示す。
【図3b】健康なドナーの末梢血から取得したCD8+T細胞によるIL−8への結合を示す。
【図3c】健康なドナーの末梢血から取得したCD16+単球によるIL−8への結合を示す。
【図4】プラスチック筺体及び上部を示す。分配プレート(2)及び安全フィルターユニット(3及び4)が見えるようにしている。
【図5】白血球アフェレーシスシステムの全体を示す。
【図6】空気検出器及び光学検出器(4)を備えるポンプを示す。
【図7】一人の供血者におけるCCR9発現細胞集団の減少を示す。全細胞集団はカラム通過の影響を受けていない。
【図8】一人のIBD患者におけるCCR9発現細胞集団の減少を示す。全細胞集団はカラム通過の影響を受けていない。
【図9】一人の供血者からの血球の活性化マーカー(カラム通過前後)を示す。
【図10】小型器具通過前後の細胞のIFN−γ分泌を示す。
【図11】カラム通過前後のPHA抗原刺激細胞についての結果を示す。
【図12】細胞を高濃度のbTECKとインキュベートした後の細胞死についての結果を示す。
【図13】折り畳まれた精製ビオチン−TECK(Nleu)のHPLCの結果を示す。
【図14】折り畳まれた精製ビオチン−TECK(Nleu)のエレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(ES/MS)のデータを示す。
【好適な実施形態の説明】
【0034】
材料及び方法:
末梢血白血球の単離:
健康な供血者又はIBD患者のヘパリン化末梢血を4%パラホルムアルデヒドで4分間固定し、0.83%塩化アンモニウム溶液で15分間溶血させ、FACS緩衝液で2回洗浄して、血液白血球の懸濁液を得た。
【0035】
ケモカイン:
白血球を、次のビオチン化及びアレクサ(Alexa)647フルオル(Fluor)(登録商標)標識ケモカインと共に4℃の暗所で30分間インキュベートした。ケモカイン:CCL25(0.1ng/μL、0.5ng/μL及び5ng/μL)、MIP−1α又はMCP−1(10ng/μL及び50ng/μL)。その後、細胞をFACS緩衝液で洗浄し、フローサイトメトリーで解析した。実施例で使用したケモカインは全て、Almac Sciences Scotland Ltd,Edinburgh,Scotlandにより提供された。
【0036】
フローサイトメトリーアッセイ:
フローサイトメトリーアッセイを、2レーザーFACS Caliburサイトメーター(BD Immunocytometry systems,San Jose,Ca,USA)を用いて行った。各試料について、1万個の細胞を数えてこれを解析した。データ解析には、Becton DickinsonのCell Quest Proソフトウェアを使用した。
【0037】
実施例1(単球のMIP−1αへの結合):
ビオチン化MIP−1αを用いた実験において、健康なドナーの末梢血から得られた単球の約90%が、30分のインキュベーション後、サイトカインと結合した(図1c)が、CD4+及びCD8+リンパ球は結合しなかった(図1a及び1b)。
【0038】
実施例2(単球のMCP−1への結合):
ビオチン化MCP−1を用いた実験において、健康なドナーの末梢血から得られた単球の約90%が、30分のインキュベーション後、サイトカインと結合した(図1f)が、CD4+及びCD8+リンパ球は結合しなかった(図1d及び1e)。
【0039】
実施例3(血球のCCL25への親和性):
ビオチン化CCL25を用いた実験において、健康なドナーの末梢血由来のT細胞(CD4+リンパ球、CD8+リンパ球)又は単球(CD14+単球)のいずれもビオチン化ケモカインと結合しなかった(図2a、2b及び2c)。他方、クローン病の患者由来のCD8+リンパ球の約80%、CD4+リンパ球及び単球の約90%がCCL25と結合した(図2d、2e及び2f)。
【0040】
実施例4(血球のビオチン化IL−8への親和性):
図3に、健康なドナーから得られたCD4+リンパ球(図3a)、CD8+リンパ球(図3b)及びCD16+好中球(図3c)のビオチン化IL−8(CXCL8)への結合を示す。30分のインキュベーション後、CD16+好中球は全てIL−8と結合した。他方、CD4+リンパ球及びCD8+リンパ球との結合は観察されなかった。
【0041】
実施例5(血球アフェレーシスのためのケモカインカラムの調製):
25mM リン酸ナトリウム(pH7.0)及び150mM NaClの水溶液に懸濁した(200ml、約50%、v/v)75μm〜300μのストレプトアビジン架橋アガロース(ProZyme,San Leandro,CA,USA)ビーズに、同じ緩衝液中のビオチン化MIP−1α(Almac Sciences)75μgの溶液を22℃で加え、3分間、手でゆっくり攪拌した。更に20分間放置した後、担体を濾別し、中性のリン酸ナトリウム/塩化ナトリウム水溶液で3回洗浄し、ガラスカラム(内径25mm、長さ12cm)に充填した。
【0042】
実施例6(実施例6のケモカインカラムを用いた、健康なドナーの末梢血からの単球の分離):
健康な男性ドナー由来のヘパリン化末梢血を、CD4+リンパ球、CD8+リンパ球及びCD14単球についてフローサイトメトリーによって解析した。血液100mlを1分あたり約8mlの速度でカラムに通し、FACS緩衝液で洗浄した。カラム通過後の血液を同じ細胞について解析した。単球の約95%がカラムに保持され、CD4+及びCD8+リンパ球はいずれもその90%超が回収された。
【0043】
実施例7(ビオチン化MIP−1αと複合体を形成したストレプトアビジンコンジュゲート磁気ビーズの調製):
ストレプトアビジンコンジュゲート磁気ビーズ(MagCellect Streptavidin Ferrofluid,1ml,R&D Systems,Minneapolis,MN,USA)の水性懸濁液を、25mM リン酸ナトリウム(pH7.0)及び150mM NaClの50ml中のMIP−1α(Almac Sciences)30μgと混合し、1時間、ゆっくり攪拌した。粒子を同じ溶媒20mlで3回洗浄し、4℃の懸濁液中で保存した。
【0044】
実施例8(実施例8のストレプトアビジン磁気ビーズを用いた、健康なドナーの末梢血からのCD14+単球の分離):
実施例7の健康なドナー由来のヘパリン化血液100mlを、ビオチン化MIP−1αと複合体を形成したストレプトアビジンコンジュゲート磁気ビーズと混合し、40分間、ゆっくり攪拌した。粒子を磁気分離器で血液から分離し、この血液をCD14+単球、CD4+リンパ球及びCD8+リンパ球について解析した。CD14+単球を検出することはほとんどできなかったが、CD4+及びCD8+リンパ球は概ね元の量で存在した。
【0045】
実施例9(目的に合わせて改変した白血球アフェレーシス):
カラムの設計及び特性:
はじめに:
アフェレーシスは、血液成分(例えば抗体、低密度リポタンパク質(LDL)、血球)の除去のために使用される確立された療法である。白血球アフェレーシスは、白血球(white blood cell,leukocyte)の除去に使用されるアフェレーシスである。患者を体外の血液循環システムに接続し、血液を患者の一方の腕の静脈から取り出し、カラムデバイスを通過させ、患者のもう一方の腕に戻す。白血球アフェレーシス治療の副作用には、頭痛、目まい、低血圧、動悸、紅潮のような軽度の事象(患者の0.1〜5%に観察される。)を含む様々のものがある。
【0046】
カラム:
カラムは、IBDのための白血球アフェレーシス治療に使用することが意図されている。カラムは、bTECK含有レジンの使用により、CCR9−TECK相互作用を通じて腸ホーミングCCR9発現白血球を特異的に除去する。カラムは、3つの結合した構成要素、すなわちプラスチック筺体と、ストレプトアビジン(SA)セファロース(Sepharose)(商標)ビッグビーズ(BigBeads)マトリックスと、マトリックスに結合したbTECKと、からなる。治療は、標準的なアフェレーシスと同じ技術を用いて行われる。
【0047】
プラスチック筺体(図4):
プラスチック筺体は、マトリックス中の連続的な血流が維持されるように設計されており、透明な本体と赤色の上部からなる。上部は、血液がマトリックス領域全体に均一に広がるように、流入部(1)に分配プレート(2)を備える。このプレートは、より大きな粒子がカラムを流れて患者に流入するのを防ぐ第1の安全バリアである。プラスチック筺体の流入部(1)及び流出部(5)には、安全フィルターユニット(3及び4)が設置されている。安全フィルターユニットは、血球より大きい粒子がカラムを通過するのを防ぐ強固なバリアとなるように設計した3つのフィルターを含む。プラスチック筺体の設計を図4に示す。カラムデバイスの両端に安全フィルター(3及び4)を備える設計は、(例えば、デバイスが逆さまに置かれ、意図した方向と逆に血液が流れる場合の)患者への粒子の漏出リスクを最小限にする。
【0048】
ストレプトアビジンセファロース(商標)ビッグビーズ:
このデバイスの第2の構成要素は、ストレプトアビジンセファロース(商標)ビッグビーズ(セファロース(商標)GE Healthcare,Sweden)という親和性マトリックスである。セファロース(商標)は、架橋アガロースのビーズ型であり、海藻から抽出した多糖である。セファロース(商標)及びアガロースは、生物医学的アフィニティー技術におけるカラムマトリックスとして一般に使用されている。その最適な分配能力の故に選択されるものであり、親和性結合の利用可能領域が大きい。
【0049】
bTECK:
マトリックスには、このデバイスの第3の構成要素であるbTECKが結合している。このbTECKペプチドはヒトケモカインTECKの合成改変型であり、切断及びビオチン化されているが、TECK受容体CCR9への結合親和性は保持している。改変TECKをビオチン化することによって、セファロース(商標)マトリックス中でストレプトアビジン分子と結合できる。ビオチン−ストレプトアビジン結合は、最も強い生物学的相互作用の1つであることが知られており、4×10−14MのオーダーのKdを有する。カラム中のストレプトアビジン・ビオチン両結合部位の計算比率は10:1である。したがって、マトリックスとbTECKの間の結合は即時型であり、マトリックスからのbTECK脱結合のリスクは最小化される。
【0050】
アフェレーシスシステム:
白血球アフェレーシスを行うために、次の構成要素が必要である。カラム、管システム、4008ADSポンプ(Fresenius Medical Care)。
【0051】
回路:
システムを図5に示す。右腕及び左腕の静脈に刺された無菌Venflon針を通じて患者(1)は体外回路に接続される。生理食塩水バッグ(3)も接続され、生理食塩水はACDポンプ(2)で注入される。血液は、血液ポンプ(4)によって無菌管システムを通じて患者の一方の腕から取り出され、カラム(6)を通過し、患者に戻される。管システムは、標準の透析ルアーロックによりカラムに接続される。カラムの接続部は、正しい組み立てのために色分けされている。流入用の赤色の管は赤色のカラム上部へ、流出用の青色の管は患者側へ接続される。空気検出器(8)がある。注入口圧センサー(5)及びPvenセンサー(7)は、回路の圧力のモニタリングのために使用される。
【0052】
4008ADSポンプ:
アフェレーシスポンプ(Fresenius Medical Care)は、体外循環における流入、流出、圧力をモニターし、泡捕獲器及び空気検出器により空気を識別する。泡捕獲器内には血塊捕獲フィルターが設置されている。ポンプはまた、明(例えば、管システム内に存在する生理食塩水又は空気)と暗(例えば、管システム内に存在する血液)とを識別する光学検出器を備える。
【0053】
空気検出器及び光学フィルターが見えるようになっているポンプの模式図を図6に示す。ポンプシステムが空気の泡及び光学的な変動を検出した場合又は体外の圧力値が規定範囲外になった場合、ポンプはすぐに止まり、見て分かる/聞き取れる警報を発する。
【0054】
図6の凡例:
1.モニタ
2.廃棄物袋用ホルダ
3.モジュール(左から右−血液ポンプ、ACDポンプ、空気検出器)
4.更なるモジュールのための予備のスペース
5.吸収体ホルダ
6.点滴検出器
7.IVポール
【0055】
患者の準備:
各治療期間の前に抗凝固剤を患者に投与する。5000IEヘパリンを有する無菌生理食塩水を体外システムへの呼び水として使用し、その後、各治療期間の開始時に、4000IEヘパリンを用いるボーラス注入を回路に加える。
【0056】
白血球アフェレーシスの時間と流速:
アフェレーシスシステムは30〜60mL/minの流速で行う。血液1800mLを循環させた後、治療を終了させる。
【0057】
保存条件:
カラムデバイスは1〜25℃で保存して、凍結及び温度上昇は避ける。3カ月を超える安定性データは、機能性に関して時間経過又は温度(室温及び冷蔵温度)による違いを示していない。カラムは、使用するまで冷蔵状態で保持する。激しい振動及び衝撃に起因するような物理的損傷は避ける。これらの推奨からはずれて保存されたカラムは使用しない。
【0058】
輸送条件:
カラムデバイスは冷蔵状態で輸送して、凍結や温度上昇は避ける。激しい振動及び衝撃に起因するような物理的損傷は避ける。
【0059】
実施例10(非臨床試験):
はじめに:
早くも1970年代には、ドナーのヒツジの腸管膜リンパ節から採取したリンパ球が、レシピエントへの移動後、腸の中で蓄積することが観察された(4、5)。これらの最初の動物試験は、体内の異なる区画を標的とした循環リンパ球の特異的ホーミング能力を示唆した。ネズミモデルにおける更なる試験は、異なるT細胞小集団の器官特異性を司るいくつかのシグナル伝達経路を明らかにした。L−セレクチン(CD62Lとしても知られる。)は、腸管膜リンパ節へのリンパ球の遊走を司る細胞表面タンパク質であることが示された(6)。腸血管の内膜において、MadCAM1及びTECKが、粘膜に結合したリンパ球及び単球の接着性や遊出に関与することが見出された。これらの研究は、免疫細胞の対応受容体、すなわちα4β7及びCCR9に注目させた(2)。この状況において、クローン病のマウスモデルの1つであるTNFδAREは、α4β7経路がTECKCCR9依存的移行から独立して働き、腸ホーミングの原因となる主要メカニズムであることを示唆した(7、8)。他方、他のマウスモデルでは、炎症粘膜への腸ホーミングに関してTECK−CCR9相互作用が同様に重要であることが明らかになった。粘膜炎症の減弱は、TECK−/−及びCCR9−/−ネズミモデルで見られ、また、TECK−CCR9結合を抗体で阻害した場合に観察される(9〜12)。すなわち、異なるホーミングメカニズムの影響は、選択する動物モデルによって決まるようである。ネズミモデルにおけるいくつかの試験では、CCR9発現T細胞が小腸を選好することが示唆されている。他方、潰瘍性大腸炎マウスモデルMDR1a−/−で見られる結腸限定の粘膜炎症はCCR9発現リンパ球への依存性を示す。CCR9遮断タンパク質CCX282−Bの投与後、結腸における炎症傷害が明らかに消失することは、結腸粘膜においてもTECK−CCR9相互作用が重要な役割を担うことを示唆する(3)。TECK−CCR9ホーミングメカニズムの治療への示唆がいくつかのヒト試験をもたらし、マウスで観察されたように、CCR9発現T細胞がヒト小腸に蓄積することが分かった(2、3、13)。CD患者において、CCR9発現リンパ球は、健康対照と比較して腸管膜リンパ節中で顕著に増加する(13)。追加的試験では、CD又はUC患者の結腸の炎症粘膜におけるTECK及びCCR9発現T細胞の存在が明らかになっている。健康対照も結腸粘膜にCCR9発現免疫細胞を有することが分かり、その受容体が腸関連免疫システムの正常機能において重要な役割を担うことが明らかになった(3)。炎症性腸疾患に関して、利用可能な動物モデルは必ずしもヒト腸炎に対応しない。そこで、非臨床的証明のために、IBD患者の血液試料をインビトロの実験に使用することに焦点が当てられた。更に、白血球アフェレーシスカラムに使用されるbTECKタンパク質はヒトCCR9表面タンパク質に特異的であり、このことはインビボの動物有効性試験の実行可能性を制限する。
【0060】
標的細胞集団のインビトロ除去:
CCR9発現細胞を除去する能力を調べるために、bTECK結合マトリックスを用いてインビトロ試験を行った。血液を供血者及びIBD患者から収集し、bTECK結合マトリックスを含むカラムデバイスを通過させた。血液試料をカラム通過前後に取得し、CCR9発現細胞の除去についてフローサイトメトリー(FACS)によって解析した。
これらの結果は、マトリックス灌流後に、標的集団であるCD14陽性CCR9発現細胞が顕著に減少したことを示すが、全CD14陽性細胞は変化していない。健康なドナー及びIBD患者の血液を用いて除去試験を行い、同様の効果を確認した。これらの結果をそれぞれ図7及び図8に示す。
【0061】
結論として、これらのインビトロの結果は、カラムによりCCR9発現細胞の50〜75%が特異的に減少することを示す。CCR9を発現しない細胞は変化しなかった。
【0062】
実施例11(毒物学的評価及び安全性試験):
曝露:
カラムデバイスによる患者の曝露は、2つの異なる方法で行われ得る。第一に、デバイスの中のbTECKを含む化学物質への血液及び血球の局所的曝露、第二に、デバイスから放出され、戻る血液によって患者へ投与されるbTECKを含む化学物質への全身的曝露。両方の場合において、全曝露を評価する可能性は制限されるが、マトリックス安定性試験により、セファロース、ストレプトアビジン及びbTECKへの全身曝露が明らかになる。以下を参照されたい。しかし、プラスチック及びフィルター材料は、FDA/ISO10993の標準的要件並びにUSPクラスVI生物学的評価要件を満たすので、照射殺菌後に実際、デバイスのこれらの部分由来の毒性化合物の曝露はごくわずかであると結論づけることができる。更に、カラムの異なる構成要素間の任意の相互作用を示唆するデータはない。
【0063】
マトリックスの安定性:
マトリックスの安定特性について、カラムの活性試験中に物質のいかなる漏出が起こるかどうかを判断するために試験をした。マトリックスを充填したカラムを、30〜100ml/minで、2LのPBS(リン酸−緩衝食塩水)を用いてポンプシステム内ですすぎ、製造ステップの残留粒子を洗い流した。カラム通過前後の液体試料を採取し、生成物の漏出について顕微鏡及びELISAで解析した。
2LのPBSでカラムをすすいだ後、マトリックス材料の目に見える漏出は観察されなかった。
【0064】
結合安定性について、ELISAを用いて試験をした。脱離したbTECKを検出するために、ストレプトアビジン抗体とウェルを4℃で1時間インキュベートした。脱離したストレプトアビジンを検出するために、ビオチン化ペルオキシダーゼとウェルを室温で1時間インキュベートした。これらの試験結果は、マトリックスからのセファロース粒子、ストレプトアビジン又はbTECKの漏出を示さなかった。
【0065】
生物学(毒物学)的データ:
強力な受容体−リガンド親和性により、bTECKが細胞のその特異的受容体CCR9を誘引し、結合することによって、所望の生物学的効果、消化管(腸ホーミング細胞)を標的とした活性化白血球の特異的除去をもたらす。受容体を発現しない血球は、カラムを通過し、患者に戻る。カラムの使用目的において曝露も多様な逆の生物学的(毒性)効果をもたらす可能性があり、医療デバイスのISO 10993−1のカテゴリーに従って、これを評価しなければならない。仮の局所曝露に基づいて、血液をカラム領域にわたって均一に分配する場合、血液、特に血球は悪影響を受ける可能性がある。デバイス内のケモカインbTECK又は任意の化学物質は、細胞毒性及び血液不適合性などの局所効果をもたらす可能性がある。更に、免疫細胞のいかなる活性化を調べることは最も重要である。患者は、灌流中、カラムデバイス又はプラスチック管から放出されたbTECK又は任意の化学物質にも全身的に曝露し、これは生物学(毒物学)的効果をもたらす可能性がある。これらの化学物質は種々の全身的効果をもたらす可能性があり、細胞毒性、感作、刺激及び皮内の反応性、全身毒性(急性)、亜急性及び亜慢性毒性並びに血液不適合性をISO 10993−1に従って評価する必要がある。9kDaの切断型として合成されビオチン化したbTECKの生物学的効果を証明するために様々な試験を行った。
【0066】
細胞特異的除去及びインビトロのFACS(蛍光活性化細胞選別)による解析:
IBD患者の血液に対するマトリックス及びbTECKを用いた細胞除去試験に関して、フルサイズカラムデバイスの工程を模擬実験する小型器具を使用した。プラスチック管の上部に設置したナイロンフィルターを用いて模擬実験を行った。血液をマトリックスと穏やかに混合し、フィルターを通過させて収集管に入れる。濾過されていない血液及び濾過した血液の試料を溶解した後、抗体染色し、更にFACSを用いて解析した。
供血者の血液試料を収集し、bTECK結合マトリックスを含むカラムの原型を用いて細胞除去試験を行った。カラム通過前後に試料を取得し、溶解し、抗体で染色し、更にFACSを用いて解析した。
bTECK受容体発現細胞の特異的除去は、小型器具及びカラムデバイスの原型の両方において成功した。この除去はCCR9発現細胞集団において特異的であることも示すことができた。例えば、図8及び7において、CCR9陽性細胞CD14及びリンパ球(CD4及びCD8)は極めて減少し、1/5未満がカラムを通過したが、CD14及びリンパ球集団の総数はカラム通過後変わらなかった。
【0067】
活性化、増殖及び細胞死:
目的は、カラムデバイスを通過した細胞の活性化及び機能特性を研究することであった。
【0068】
活性化マーカー:
溶解した細胞を10%HUS(ヒト抗体血清)と共に室温で15分間インキュベートし、細胞表面にあるFc受容体と細胞との非特異的結合を防いだ。細胞を、活性化マーカー;CD69(リンパ球)、CD66b(顆粒球)及びHLA−DR(単球)について染色した。細胞をFACSAriaで採取し、FACSDivaソフトウェアにより解析した。活性化マーカーを有する試験細胞の数は、カラム通過前後において同じであった(図9参照)。
【0069】
サイトカイン放出:
炎症性サイトカイン放出試験であるインターフェロンγ(IFNγ)分泌アッセイキットを使用して、マトリックスとの接触前後の細胞の活性化を調べた。分泌試験は、刺激後にIFNγを産生する細胞の数及びどの表現型かを示す。4人の供血者の末梢単核血液細胞(PBMC)を、Ficoll分離をした。細胞を、細胞培地(1%Pest+1%L−Glut+5%HUSを有するRPMI)に1×106細胞/mlの濃度で再懸濁した。マトリックスをPBSで洗浄し、0.1μg/mlのbTECKと混合した。細胞懸濁液の半分を、マトリックスを有する小型器具に通過させた。濾過していない及び濾過した細胞を、48ウェルプレートに500000/ウェルの割合で加え、37℃で16時間インキュベートした。PMA(50ng/ml)+イオノマイシン(1μg/ml)を陽性対照として細胞に加えた。16時間後、表面に結合及び分泌したIFNγの量について細胞を解析した。FACS解析のための他のMabは、CD3、CD14及びDAPIであった。IFNγ分泌に顕著な変化はなかった(図10参照)。
【0070】
[3H]の取り込みを伴う増殖アッセイ:
一人の供血者のヘパリン化全血のPBMCを、Ficoll分離により単離し、調製した。細胞の数を数え、細胞培地(RPMI+10%BGS+1%pest及び1%L−glut)で2×106細胞/mlに希釈した。細胞懸濁液の半分を、bTECKの200nM(0.2μg/ml)と結合したマトリックス(SA濃度4mg/ml)を有する小型器具に通過させた。プロトコルに従い、2×106細胞/mlの細胞懸濁液を50μl/ウェル(100000細胞)の割合で、96ウェルプレートの3ウェルずつに加えた。50μl/ウェルの細胞培地を陰性対照として、50μl/ウェルのPHA(植物性血球凝集素)抗原(5μg/ml)を陽性対照として使用した。2、3及び4日間まで37℃で細胞をインキュベートした。細胞の回収の前に、チミジン[3H]25μlをウェルに加え、37℃で18時間更にインキュベートした。18時間後、細胞を回収し、取り込まれた[3H]をシンチレーターで計測する。増殖の証拠としての[3H]の取り込みは、カラム通過前後の細胞において同じであった(図11参照)。
【0071】
アネキシンVを用いた細胞死−アポトーシスアッセイ:
Ficoll分離により、3人の供血者からPBMCを単離した。細胞をPBSで2回洗浄し、培地(1%L−glut、1%pest及び10%BGSを有するRPMI)に1×106/mlの濃度で再懸濁した。細胞を5μg/ml又は10μg/mlのbTECKで刺激した。細胞を16時間、24ウェルプレートの中でインキュベートした。陽性対照として、デキサメタゾン(1μM)を使用した。細胞をPBSで2回洗浄し、BDアネキシンVキットのプロトコルに従って、アネキシンVを用いて染色した。FACS解析前に、100μlのDAPIを細胞に加えた。FACSDivaソフトウェアを用いてFACS Ariaで試料を解析した。アポトーシス細胞をアネキシンV陽性及びDAPI陰性として定義した。アネキシンV陽性細胞の数は、5又は10μg/mlのbTECKへの曝露後に、顕著に上昇しなかった(図12参照)。
【0072】
まとめ:
カラムデバイス通過前後又はbTECK結合ストレプトアビジンセファロースマトリックスとの直接的な接触後の細胞を用いて試験を行った。マトリックス及びbTECKと接触した細胞に対する効果はなかった又は低かったことを結果は示した。活性化マーカーを有する細胞CD69(リンパ球)、CD66b(顆粒球)及びHLA−DR(単球)の数は、カラム通過前後で同じであった。PBMCの増殖能力に影響はなく、サイトカイン放出細胞の量は低かった。最初の臨床試験のカラムデバイスにおいて使用する量の5〜10倍高いbTECK量は、細胞死に対してほとんど効果を示さなかった。
【0073】
毒物学的試験:
インビトロ細胞毒性アッセイ:
カラムマトリックスを用いて、培養哺乳類細胞(L929マウス線維芽細胞)のインビトロ細胞毒性について試験した。ISO10993−5溶出試験指針に従って、試験を行った。20%エタノール中の被覆アガロースビーズの懸濁液として、試験物を供給した。カラムマトリックスを使用目的前に洗浄するように、アガロースビーズを洗浄し、その後、同じ量の無菌等張食塩水(0.9%NaCl)に再懸濁し、試験前にエタノールを除去した。完全細胞培地(10%ウシ胎児血清及び50μg/mlゲンタマイシンを有するHAM F12培地)の中の洗浄した試験物を穏やかな混合により37℃で24時間インキュベートすることによって、カラム抽出を準備した。0.2ml試験物/ml培地の抽出率(約0.2g/ml)を使用した。抽出物を希釈しないで及び新鮮な細胞培地で1:3に希釈して試験をした。陰性対照(ポリプロピレン抽出、6cm2/ml)、陽性対照(スズで安定化したポリ塩化ビニル抽出物、0.3cm2/ml)及び完全細胞培地で処理した未処理の対照培養物を含んだ。3つの同じ細胞培養物を48時間中の各試験時点において処理した。対照処理は適切な反応を生み出し、試験システムの正確な機能及び感度を示した。カラムの希釈していない抽出物及び希釈した抽出物の両方は毒性を示さなかった(細胞毒性の悪性度0)。
【0074】
溶血性試験:
インビトロ溶血活性(赤血球の溶解)について、カラムマトリックスを試験した。ISO 10993−4指針に求められるように、溶血試験を行った。物質科学研究所(MSI),Tennessee,USA(1979)の提案に従って試験を計画し、無菌食塩水によるウサギの血液の希釈混合物と試験物を直接的に接触させた。20%エタノール中の被覆アガロースビーズの懸濁液として、試験物を供給した。カラムマトリックスを使用目的前に洗浄するように、アガロースビーズを洗浄し、その後、同じ量の無菌等張食塩水(0.9%NaCl)に再懸濁し、試験前にエタノールを除去した。0.2ml試験物/ml生理食塩水(約0.2g/ml)の割合を使用して、試験物を無菌等張食塩水の中に設置した。37℃で39分間のインキュベーション後、ウサギの血液(20μl血液/ml生理食塩水)を加え、更に60分間インキュベーションを続けた。陰性対照(等張食塩水)及び陽性対照(蒸留水)を含んだ。全処理を3通り行った。インキュベーションの最後に、混合物を500×gで5分間遠心分離した。その後、545nmにおける上清液の吸光度を測定した。溶血のパーセンテージを計算した。この試験で使用された条件下、カラムマトリックスで処理した血液試料中の観察される平均溶血量は−0.3%であった。カラムマトリックスはMSI溶血試験の基準(溶血<5%)を満たすものと結論づけられる。
【0075】
ヒト血液における凝固試験:
インビトロのヒト血液試料の凝固速度に影響を与える能力について、カラムマトリックスを試験した。20%エタノール中の被覆アガロースビーズの懸濁液として、試験物を供給した。カラムマトリックスを使用目的前に洗浄するように、アガロースビーズを洗浄し、その後、同じ量の無菌等張食塩水(0.9%NaCl)に再懸濁して、試験前にエタノールを除去した。洗浄した試験物試料(0.2ml)を試験管に入れた。陰性対照(未処理)及び陽性対照(フラー土)試験管も準備した。新鮮なヒト血液(1ml)を各試験管に加えた。試験物の割合は、血液1mlあたり試験物約0.2mlであった(約0.2g/ml)。これらの試験管を約37℃の水浴に入れ、一定間隔で振盪した。血液の全凝固にかかる時間を記録した。4人の各々の血液で一度、試験物及び各対照を試験した。対照処理の結果は、試験システムの有効性及び感度を示した。
マトリックスで処理した血液の平均凝固時間は、平均陰性対照値の91%というわずかな減少を示した。しかし、試験における4人のドナーの個体間変動が大きいため、この減少が有意であるとはみなされない。カラムマトリックスは、この試験におけるヒト血液の凝固時間に影響を与えなかったと結論づけられる。
【0076】
まとめ:
試験の結果及びカラムの評価に基づいて、毒性は非常に低いと結論づけることができる。特定のタイプの毒性や標的臓器は同定されなかった。
【0077】
実施例12(TECK−PEG−ビオチン合成の概要):
標的分子:
PEG−ビオチン(TFA塩)を有するLys72のε−アミノ側鎖官能基において誘導体化されたTECK(MetからNleuへの置換)
【0078】
修飾:
成熟タンパク質の1〜74残基に対応するヒトTECKの切断型は、ケモカインの折り畳みに対応する配列を含む。全長成熟タンパク質は127個のアミノ酸である(シグナルペプチドは、150個のアミノ酸の未熟タンパク質中の23個のアミノ酸である)。この配列内のシグナルメチオニンをノルロイシンに変更し、天然配列誘導体の合成中に観察される鎖の構築中のこの残基の酸化を軽減した。生理学的条件下、タンパク質のN末端のGlnはpyroGluを形成しやすい。したがって、この配列のGln1をピログルタミンで置換して、N末端Gln及びpyroGluの混合種が生成するのを防いだ。これは合成収率を向上させ、カラムの製造及び使用を経て、均一なケモカイン製剤を保証する。天然に存在する72位のリジンを、樹脂のビオチン化によって修飾した。ε−アミノ官能基及びビオチンの間に、PEGスペーサーを組み込んだ。
【0079】
72番目のアミノ酸(K)の位置でのPEGスペーサー及びビオチン分子の結合前の直鎖状アミノ酸配列(配列番号1)を示す。
H−PyrGVFEDCCLAYHYPIGWAVLRRAWTYRIQEVSGSCNLPAAIFYLPKRHRKVCGNPKSREVQRANleKLLDARNKVF−OH
固相ペプチド合成のFmocプロトコルを使用して、改変TECK配列を固相担体に集合させた。
H−PyrGVFEDCCLAYHYPIGWAVLRRAWTYRIQEVSGSCNLPAAIFYLPKRHRKVCGNPKSREVQRANleKLLDARNK(Dde)VF−樹脂
FmocLys(Dde)−OHを72番目の残基として取り込ませ、タンパク質のこの位置の部位特異的標識を促進させた。
MetからNleへの置換。
N末端のGlnからピログルタミン酸への置換。
【0080】
Dde保護の除去:
DMF(100ml)中に2%ヒドラジンを含む溶液を用いた全樹脂(2.5g)の1時間にわたる処理によってDde保護基を除去し、2.0gの樹脂を得た。
【0081】
標識ステップ:
1.Fmoc−8−アミノ−3,6−ジオクタン酸の結合:
樹脂(1.5g)をDMF(2ml)で膨潤し、その後、Fmoc−8−アミノ−3,6−ジオクタン酸溶液(0.38g、1mmol)、DIC溶液(2ml、DMF中0.2M)及びHOCt溶液(2ml、DMF中0.2M)を加えた。混合物を2時間、超音波処理し、その後、DMFで洗浄した。
2.キャップ:
5分間、樹脂を0.5M無水酢酸/DMF溶液(20ml)でキャップし、その後、DMFで洗浄した。
3.Fmoc脱保護:
各15分間、DMFの20%ピペリジン溶液(50mlで2回)を用いた処理によりFmoc脱保護を行った。樹脂をDMFで洗浄した。
4.ビオチン−OSuの結合:
DMF(10ml)中にビオチン−NHSエステル(341mg、1mmol)及びDIPEA(348ul)を含む溶液を樹脂に加え、3時間、混合物を超音波処理した。樹脂をDMFで完全に洗浄し、その後、DCMを真空で乾燥した。乾燥樹脂を1.5g得た。
【0082】
切断:
TIS、チオアニソール、水、EDT及びフェノールからなるスカベンジャー混合物を含むTFA(30ml)を用いて、乾燥ペプチド樹脂(1.5g)及びこの混合物を切断し、この混合物を室温で6時間攪拌した。この溶液を冷たいエーテルに濾過して入れ、TFAを用いてこの樹脂をすすいだ。このペプチドを遠心分離にかけ、エーテルで洗浄し、遠心分離にかけ、凍結乾燥し、1.0gの粗ペプチドを得た。
【0083】
折り畳みプロトコル:
粗ペプチド(100mg)を6M GnHCl(233ml)に溶解し、その後、0.5mM GSSG及び5mM GSHを含む50mM TRIS pH8(467ml)の添加により、2M GnHCl濃度に急速に希釈した。この混合物を室温で2.5日間攪拌し、その後、HPLC(Jupiter C18, 250×4.6mmカラム,10〜60%Bにより30分にわたって解析した。所望の産物及び誤って折り畳まれた副産物の形成を、HPLC解析により確認した。
【0084】
精製:
50分にわたるJupiter C18, 250×21mmカラム,9ml/min,10〜60%Bの条件を使用する逆相HPLCにより、折り畳まれたタンパク質を精製した。精製折り畳みNle−TECK−Biotinを11.1mg得た。
図13は、折り畳まれた精製Biotin−TECK(Nleu)のHPLCを示す。このタンパク質は、21.6分の位置の単一ピークで溶出した。
図14は、折り畳まれた精製Biotin−TECK(Nleu)のエレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(ES/MS)のデータを示す。予想される質量は8959.4Daであった。
【0085】
機能アッセイのデータ:
hCCR9に対するエクオリンアッセイ(Euroscreen)におけるアゴニスト活性について、TECK−Biotin−Nleを試験し、天然TECKのEC50が67.87nMであることと比較して、EC50値が63.6nMを記録した。
【0086】
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14. Wang C. et al.,Mucosal Immunol. 2009 March;2(2):173−183.
【0087】
本発明の範囲は、本明細書に記載の特定な実施形態により限定されるものではない。実際、以上の説明及び添付の図面から、本明細書に記載の実施形態以外に多くの改変形態が存在することは当業者に明らかであろう。そのような改変形態は添付の特許請求の範囲に包含される。更に、本明細書に記載の全ての実施形態は、整合性がある限り、適宜、他の実施形態に適用又は組み合わせ可能なものとする。
【0088】
様々な刊行物が本明細書で引用されたが、その開示内容は、ここで参照されることによりその全体が本明細書に組み込まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のケモカインが直接的又は間接的に固定化された固相担体が充填されたアフェレーシスカラムであって、該担体は、該少なくとも1種のケモカインの受容体を発現する細胞を患者の末梢血から除去することが可能なものであるカラム。
【請求項2】
前記少なくとも1種のケモカインがビオチン化されており、前記担体にストレプトアビジンが固定化されており、前記少なくとも1種のビオチン化ケモカインが担体上のストレプトアビジンに結合している、請求項1に記載のカラム。
【請求項3】
前記少なくとも1種のケモカインがスペーサー基を介してビオチン化されている、請求項1又は2に記載のカラム。
【請求項4】
前記スペーサーがポリエチレングリコールスペーサーである、請求項3に記載のカラム。
【請求項5】
前記担体は、100kDaより大きい分子量を有する炭水化物(該炭水化物は架橋されていてもよい。)を含むかそれからなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載のカラム。
【請求項6】
前記炭水化物が架橋アガロースである、請求項5に記載のカラム。
【請求項7】
前記少なくとも1種のケモカインは、CCL25、MIP−1a、MIP−1b、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、TARC、MDC、MIP−3、MIP−3a、MIP−3b、MIP−4、I−309、HCC−1、HCC−2、SLC、IL−8、GROa、GROb、GROg、RANTES、NAP−2、ENA78、GCP−2、IP−10、MIG、I−TAC、SDF、フラクタルカイン、リンホタクチン、エオタキシン、エオタキシン−2、I−309及びBLCから選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載のカラム。
【請求項8】
前記少なくとも1種のケモカインがCCL25である、請求項7に記載のカラム。
【請求項9】
前記担体は球状、ビーズ状又は不規則粒状であり、50μm〜2mmの平均サイズを有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載のカラム。
【請求項10】
前記担体は、抗凝固特性を付与する物質で処理された担体(例えばヘパリン化担体)である、請求項1〜9のいずれか一項に記載のカラム。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のカラムの固相担体。
【請求項12】
少なくとも1種のケモカインの受容体を発現する細胞を患者の末梢血から除去する方法であって、
a.前記細胞を固相担体に接着させるのに十分な時間、収集した末梢血を、該担体に固定化された少なくとも1種のケモカインと接触させるステップと、
b.前記細胞が除去された血液を担体から分離するステップと、
を含む方法。
【請求項13】
患者から末梢血を収集するステップをステップaの前に更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
除去血液を患者に注入するステップをステップbの後に更に含む、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞が白血球である、請求項12〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記白血球は、Tリンパ球、単球、好中性顆粒球及び好酸性顆粒球から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
炎症性状態を治療するために使用される、請求項12〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記炎症性状態が炎症性腸疾患(IBD)である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記IBDが潰瘍性大腸炎又はクローン病である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1種のケモカインがビオチン化されており、前記担体にストレプトアビジンが固定化されており、前記少なくとも1種のビオチン化ケモカインが担体上のストレプトアビジンに結合している、請求項12〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記少なくとも1種のケモカインがスペーサー基を介してビオチン化されている、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記スペーサーがポリエチレングリコールスペーサーである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記少なくとも1種のケモカインは、CCL25、MIP−1a、MIP−1b、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、TARC、MDC、MIP−3、MIP−3a、MIP−3b、MIP−4、I−309、HCC−1、HCC−2、SLC、IL−8、GROa、GROb、GROg、RANTES、NAP−2、ENA78、GCP−2、IP−10、MIG、I−TAC、SDF、フラクタルカイン、リンホタクチン、エオタキシン、エオタキシン−2、I−309及びBLCから選択される、請求項12〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記少なくとも1種のケモカインがCCL25である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
末梢血は患者から連続的に収集され、除去血液は患者へ連続的に注入される、請求項12〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記担体は、血液を通過させるカラム内に配置される、請求項12〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記担体は球状、ビーズ状又は不規則粒状であり、50μm〜2mmの平均サイズを有する、請求項12〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記担体は、抗凝固特性を付与する物質で処理された担体(例えばヘパリン化担体)であり、及び/又は前記末梢血は抗凝固剤で処理されたものである、請求項12〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
炎症性状態の治療における、請求項1〜10のいずれか一項に記載のカラムの使用又は請求項11に記載の担体の使用。
【請求項30】
前記炎症性状態がIBDである、請求項29に記載の使用。
【請求項31】
前記少なくとも1種のケモカインの受容体を発現する細胞量の増加を特徴とする疾患の治療における、請求項1〜10のいずれか一項に記載のカラム又は請求項11に記載の担体の使用。
【請求項32】
前記細胞は、患者の末梢血中の白血球、特にTリンパ球、単球、好中性顆粒球及び好酸性顆粒球の少なくとも1種である、請求項31に記載の使用。
【請求項33】
炎症性状態の治療における使用のためのケモカインであって、固相担体に固定化されたケモカイン。
【請求項34】
炎症性状態の治療のための薬剤の製造におけるケモカインの使用であって、前記ケモカインは固相担体に固定化されたものである使用。
【請求項35】
前記炎症性状態がIBDである、請求項33に記載のケモカイン又は請求項34に記載の使用。
【請求項36】
配列番号1のアミノ酸配列を含む切断型CCL25ケモカインであって、72位(リジン)でビオチン化されていて、固相担体へのケモカインの固定化が可能であるケモカイン。
【請求項37】
ビオチンとリジン残基との間にPEGスペーサーを更に含む、請求項36に記載のケモカイン。
【請求項1】
少なくとも1種のケモカインが直接的又は間接的に固定化された固相担体が充填されたアフェレーシスカラムであって、該担体は、該少なくとも1種のケモカインの受容体を発現する細胞を患者の末梢血から除去することが可能なものであるカラム。
【請求項2】
前記少なくとも1種のケモカインがビオチン化されており、前記担体にストレプトアビジンが固定化されており、前記少なくとも1種のビオチン化ケモカインが担体上のストレプトアビジンに結合している、請求項1に記載のカラム。
【請求項3】
前記少なくとも1種のケモカインがスペーサー基を介してビオチン化されている、請求項1又は2に記載のカラム。
【請求項4】
前記スペーサーがポリエチレングリコールスペーサーである、請求項3に記載のカラム。
【請求項5】
前記担体は、100kDaより大きい分子量を有する炭水化物(該炭水化物は架橋されていてもよい。)を含むかそれからなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載のカラム。
【請求項6】
前記炭水化物が架橋アガロースである、請求項5に記載のカラム。
【請求項7】
前記少なくとも1種のケモカインは、CCL25、MIP−1a、MIP−1b、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、TARC、MDC、MIP−3、MIP−3a、MIP−3b、MIP−4、I−309、HCC−1、HCC−2、SLC、IL−8、GROa、GROb、GROg、RANTES、NAP−2、ENA78、GCP−2、IP−10、MIG、I−TAC、SDF、フラクタルカイン、リンホタクチン、エオタキシン、エオタキシン−2、I−309及びBLCから選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載のカラム。
【請求項8】
前記少なくとも1種のケモカインがCCL25である、請求項7に記載のカラム。
【請求項9】
前記担体は球状、ビーズ状又は不規則粒状であり、50μm〜2mmの平均サイズを有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載のカラム。
【請求項10】
前記担体は、抗凝固特性を付与する物質で処理された担体(例えばヘパリン化担体)である、請求項1〜9のいずれか一項に記載のカラム。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のカラムの固相担体。
【請求項12】
少なくとも1種のケモカインの受容体を発現する細胞を患者の末梢血から除去する方法であって、
a.前記細胞を固相担体に接着させるのに十分な時間、収集した末梢血を、該担体に固定化された少なくとも1種のケモカインと接触させるステップと、
b.前記細胞が除去された血液を担体から分離するステップと、
を含む方法。
【請求項13】
患者から末梢血を収集するステップをステップaの前に更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
除去血液を患者に注入するステップをステップbの後に更に含む、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞が白血球である、請求項12〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記白血球は、Tリンパ球、単球、好中性顆粒球及び好酸性顆粒球から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
炎症性状態を治療するために使用される、請求項12〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記炎症性状態が炎症性腸疾患(IBD)である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記IBDが潰瘍性大腸炎又はクローン病である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1種のケモカインがビオチン化されており、前記担体にストレプトアビジンが固定化されており、前記少なくとも1種のビオチン化ケモカインが担体上のストレプトアビジンに結合している、請求項12〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記少なくとも1種のケモカインがスペーサー基を介してビオチン化されている、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記スペーサーがポリエチレングリコールスペーサーである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記少なくとも1種のケモカインは、CCL25、MIP−1a、MIP−1b、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、TARC、MDC、MIP−3、MIP−3a、MIP−3b、MIP−4、I−309、HCC−1、HCC−2、SLC、IL−8、GROa、GROb、GROg、RANTES、NAP−2、ENA78、GCP−2、IP−10、MIG、I−TAC、SDF、フラクタルカイン、リンホタクチン、エオタキシン、エオタキシン−2、I−309及びBLCから選択される、請求項12〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記少なくとも1種のケモカインがCCL25である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
末梢血は患者から連続的に収集され、除去血液は患者へ連続的に注入される、請求項12〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記担体は、血液を通過させるカラム内に配置される、請求項12〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記担体は球状、ビーズ状又は不規則粒状であり、50μm〜2mmの平均サイズを有する、請求項12〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記担体は、抗凝固特性を付与する物質で処理された担体(例えばヘパリン化担体)であり、及び/又は前記末梢血は抗凝固剤で処理されたものである、請求項12〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
炎症性状態の治療における、請求項1〜10のいずれか一項に記載のカラムの使用又は請求項11に記載の担体の使用。
【請求項30】
前記炎症性状態がIBDである、請求項29に記載の使用。
【請求項31】
前記少なくとも1種のケモカインの受容体を発現する細胞量の増加を特徴とする疾患の治療における、請求項1〜10のいずれか一項に記載のカラム又は請求項11に記載の担体の使用。
【請求項32】
前記細胞は、患者の末梢血中の白血球、特にTリンパ球、単球、好中性顆粒球及び好酸性顆粒球の少なくとも1種である、請求項31に記載の使用。
【請求項33】
炎症性状態の治療における使用のためのケモカインであって、固相担体に固定化されたケモカイン。
【請求項34】
炎症性状態の治療のための薬剤の製造におけるケモカインの使用であって、前記ケモカインは固相担体に固定化されたものである使用。
【請求項35】
前記炎症性状態がIBDである、請求項33に記載のケモカイン又は請求項34に記載の使用。
【請求項36】
配列番号1のアミノ酸配列を含む切断型CCL25ケモカインであって、72位(リジン)でビオチン化されていて、固相担体へのケモカインの固定化が可能であるケモカイン。
【請求項37】
ビオチンとリジン残基との間にPEGスペーサーを更に含む、請求項36に記載のケモカイン。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図1d】
【図1e】
【図1f】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図2e】
【図2f】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図1b】
【図1c】
【図1d】
【図1e】
【図1f】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図2e】
【図2f】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2012−501708(P2012−501708A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525615(P2011−525615)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際出願番号】PCT/GB2009/002196
【国際公開番号】WO2010/029317
【国際公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(510319731)アイティーエイチ イミューン セラピー ホールディングス アーベー (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際出願番号】PCT/GB2009/002196
【国際公開番号】WO2010/029317
【国際公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(510319731)アイティーエイチ イミューン セラピー ホールディングス アーベー (1)
【Fターム(参考)】
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