説明

炭化水素の部分酸化触媒、それを用いた水素含有ガスの製造方法及び装置

【課題】炭化水素の部分酸化反応による水素含有ガス製造に関して安価かつ炭素析出を招来しない触媒を提供する。
【解決手段】担体に触媒活性成分が担持されたものであり、触媒活性成分は酸化第二鉄(Fe23)を含み、酸化第二鉄自身を構成する格子酸素が部分酸化反応に供されるとともに、触媒自身を酸化することにより再生されるものであり、担体は少なくとも一部がイットリアである酸化物担体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素の部分酸化反応に係る触媒、例えばメタン、エタン、プロパンもしくはそれらのガスを主成分とする混合ガス、又は天然ガスから部分酸化反応により水素を含有する混合ガスを製造する触媒と、それを用いて水素を含有する混合ガスを製造する方法と装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メタンガスや天然ガスを水素と一酸化炭素に転換する反応は、化学製品原料の合成ガスを得る方法として有用であるだけでなく、クリーンエネルギー源である水素の製造方法としても重要である。
【0003】
一方、燃料電池は発電の際に水しか排出せず、振動や騒音がないことから、エネルギー問題、環境問題の改善に大きく貢献すると期待されているが、燃料である水素の供給に問題があった。特に、小規模ビルや家庭用、船舶用等の比較的小型で分散配置された燃料電池については、その場で燃料を供給できる小型の燃料供給装置が求められている。
【0004】
天然ガス等の化石燃料からの水素製造は、従来から、主として水蒸気改質法によって大規模に行なわれているが、通常800℃付近の高温で運転され、また水蒸気改質自体が吸熱反応であるため大量のエネルギー投入を必要とし、さらに副生物である二酸化炭素を大量に大気に放出するなどの問題点があった。このような大規模な水素製造装置を分散配置された小型燃料電池に接続することは不可能であり、また大規模に製造された水素をボンベで供給するにしても、運搬費用が高価となり、小型燃料電池の普及を妨げている。
【0005】
水蒸気改質法以外に炭化水素から合成ガスや水素を製造する方法として、部分酸化法がある。飽和炭化水素の部分酸化から水素を製造する反応は次式のようになる。
x2(x+1)+(x/2)O2→xCO+(x+1)H2
部分酸化反応は発熱反応であるため外部からの大量のエネルギー投入は必要ないが、反応温度が高温になりやすく、高温に耐えうる反応容器材料に制約があり装置寿命も短くなる。そのため、比較的低い温度で反応を進める触媒が求められている。
【0006】
メタンと酸素から合成ガスや水素を製造するための部分酸化触媒としては、Ru又はRhをジルコニア又は安定化ジルコニアに担持させたもの(特許文献1参照。)や、Irを酸化チタンに担持させたもの(非特許文献1参照。)等が報告されているが、これらの触媒活性金属であるRu、Rh及びIrはいずれも高価な希少貴金属であり、実用的にはより安価な部分酸化触媒が求められていた。
【0007】
また、触媒による炭化水素の部分酸化反応では、炭素析出が起こりやすい。これらの提案の部分酸化触媒はメタンと酸素を原料ガスとして連続的に供給しながら触媒の活性の続く限り反応を継続させるのが原則であるので、触媒表面に炭素が析出すれば触媒が不活性化され短寿命となる問題点があった。
【0008】
触媒活性金属として貴金属より安価なCoをアルミナに担持したCo/Al23部分酸化触媒も提案されている(非特許文献2参照。)。しかし、アルミナを担体とするCo担持触媒では、燃料ガスの転化率や生成物の水素選択率について、実用に堪えうるものは未だ得られていない。
【0009】
本発明の対象とする部分酸化反応ではないが、メタンのCO2改質反応に対してCeO2−Al23担体にNiを担持した触媒を使用した報告がある(非特許文献3参照。)。そこでは、Ni担持量を5重量%に固定した上でCeO2が1〜5重量%のときが最適であると結論しており、しかも、その触媒が部分酸化反応に対しても有効であるかどうかは不明であった。
【0010】
また従来の部分酸化法においては、メタンとともに純酸素を供給する必要があった。このためには部分酸化反応装置に大規模な酸素製造装置からガスラインを接続するか、酸素ボンベを運搬して接続する必要があり、システムが大型化かつ高コスト化してしまうという問題点があった。
【0011】
メタンの部分酸化反応に必要な酸素を、純酸素からではなく、触媒自身から供給する考え方もある。酸化物を触媒とし、その格子酸素を利用するものである。水素の貯蔵材料として大塚らによって研究された四酸化三鉄(Fe34)も、メタン分解による水素生成も行っていることから、このような触媒の例として考えることができる(非特許文献4、5参照。)。しかし、酸素を触媒自身から供給した場合、反応後の触媒が消費された分の酸素の再供給を受け、再生されることが可能でなくてはならない。前述の大塚らの報告では、触媒再生のための酸素供給を水蒸気から行っているため、再生反応に高温を要し、高コストとなるという問題点があった。
【0012】
また、触媒としてペロブスカイト酸化物を用い、触媒自身の酸素を使ってメタンを部分酸化し合成ガスを得るという研究結果が最近報告された(非特許文献6参照。)が、反応に900℃という高温を要するなど、実用的なシステムを設計するにはコスト面で問題となる課題が多い。
【0013】
【特許文献1】特開平5−221602号公報
【非特許文献1】K. Nakagawa, T. Suzuki, T. Kobayashi and M. Haruta, Chem. Lett., (1996) 1029
【非特許文献2】S. Teng, J. Lin and K.L. Tan, Catalysis Letter 59 (1999) 129-135
【非特許文献3】S. Wang and G. Q. Lu, Applied Catalysis B, 19, (1998) 267-277
【非特許文献4】竹中 壮、三津 愛子、山中 一郎、大塚 潔、触媒, 42 (2000) 351
【非特許文献5】竹中 壮、Van Tho Dinh Son、花泉 紀子、山中 一郎、大塚 潔、触媒, 46 (2004) 146
【非特許文献6】SHEN Shikong, LI Ranjia, ZHOU Jiping and YU Changchun, Chinese J. Chem. Eng., 11 (2003) 649-655
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
メタンガスなどの炭化水素を原料として触媒自身の酸素により部分酸化を行なうことができ、かつ再生することのできる触媒を見つけることができれば、従来の水蒸気改質法に替わる省エネルギーかつコンパクトで迅速起動可能な水素や合成ガスの製造につながる。このような水素製造は、クリーンな分散型電源である小型燃料電池への水素供給に最適であり、社会へのエネルギーの安定供給ならびに環境の改善に資する。
【0015】
本発明の第1の目的は、炭化水素の部分酸化反応による水素含有ガス製造に関して、部分酸化反応工程では酸素供給を必要とせず、安価で、炭素析出を抑えることができ、かつ再生可能な触媒を提供することである。
本発明の第2の目的は、その触媒を使用して水素含有ガスを製造する方法を提供することである。
本発明の第3の目的は、その触媒を使用して水素含有ガスを製造する装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、酸化第二鉄(Fe23)を活性成分とする触媒を使用すれば、触媒自身の酸素を用いてメタンなど炭化水素の部分酸化反応が進行し、生成物中の水素選択率が高くなること、またこの触媒は再生が容易であること、さらに担体として少なくとも一部がイットリアである酸化物担体を用いると炭素析出を抑えることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
本発明の部分酸化触媒は、外部から酸素を供給する必要なしに、メタンなどの炭化水素の部分酸化反応に対して良好な活性を示すことを主眼として開発されたものであり、炭化水素を部分酸化して水素と一酸化炭素を含有する混合ガスを生成させるものであって、酸化第二鉄を触媒活性主成分として含み、これを少なくとも一部がイットリアである酸化物担体に担持してなることを特徴とするものである。触媒活性成分である酸化第二鉄自身を構成する格子酸素が部分酸化反応に供されるとともに、部分酸化反応で消費された格子酸素は触媒自身を酸化することにより再生される。
【0018】
また、副成分として少量の貴金属元素や遷移金属元素を含有させることにより、さらに高性能な触媒を得ることができる。副成分の貴金属元素としてはRhが好適であり、貴金属元素とともに用いる副成分の遷移金属元素としてはCrが好適である。Rhの含有量はFeに対して1/20程度で充分であり、Crの含有量はFeに対して1/20から1/3程度が好ましい。また、副成分として遷移金属元素のみを用いる場合は、Niが適する。
【0019】
担体は少なくとも一部がイットリア(Y23)である酸化物担体であり、イットリアのみからなる担体が炭素析出を抑える上で最も好ましい。アルミナ(Al23)などの酸化物担体を用いた触媒では部分酸化反応時の炭素析出量が多いが、イットリアを添加することにより炭素析出を抑えることができるようになる。本発明は触媒を再生するための酸化工程を含んでおり、析出した炭素がその再生工程で二酸化炭素として除去されることも期待できるが、触媒を不活性にする炭素析出は少ないほど好ましい。
【0020】
触媒活性主成分としての酸化第二鉄(Fe23)は担体1gに対しFeとして2 m mol程度の少量の担持であっても反応活性があるが、自身の格子酸素を使って部分酸化反応を行うことから、触媒の連続使用時間を考慮して最適な担持量を決定することが望ましく、Feとして担体1gに対し20 m mol前後となるような担持量が好ましい。
【0021】
本発明の水素含有ガス製造方法は、炭化水素を含む原料ガスを加熱下で本発明の部分酸化触媒に接触させ、部分酸化触媒中の酸化第二鉄を構成する格子酸素により炭化水素を部分酸化して水素と一酸化炭素を含有する混合ガスを生成させる部分酸化工程と、部分酸化工程を経た部分酸化触媒を加熱下で酸素含有ガスと接触させて部分酸化触媒を再生する再生工程とを含んでいる。
【0022】
再生工程で使用する酸素含有ガスは、純酸素ガスでもよいが、実施例に示されているように、酸素と不活性なガスとの混合ガスでもよく、空気でもよい。コストの面からは空気を使用するのが最も好ましい。
【0023】
本発明の水素含有ガス製造装置は、本発明の部分酸化触媒が保持された反応管と、その触媒を加熱する加熱炉と、メタンなどの炭化水素を含む原料ガスを反応管に送り触媒と接触させる原料ガス供給流路と、触媒再生に用いる酸素含有ガスを反応管に送り触媒と接触させる再生ガス供給流路とを備え、反応管中で触媒中の酸化第二鉄を構成する格子酸素により原料ガスの炭化水素を部分酸化して水素と一酸化炭素を含有する混合ガスを生成させる。
【0024】
触媒反応管を2系列持てば、一方の部分酸化反応中に他方の触媒を再生することも可能であり、これにより連続的な水素含有ガス製造装置を実現できる。すなわち、その場合は、反応管と加熱炉の組が2組備えられ、原料ガス供給流路と再生ガス供給流路は切替え弁を介して両反応管に接続されており、加熱炉と切替え弁の制御により、一方の反応管での部分酸化反応中に他方の反応管での触媒を再生するようにするとともに、その操作を交互に切り替えることができるようになっている。
【0025】
原料となる炭化水素としては、実施例ではメタンのみを取りあげているが、メタンに限るものではない。エタンやプロパンなどの飽和炭化水素であってもよい。しかし、炭化水素の炭素数が多くなると炭素の析出量が増す傾向があるので、メタンが最も好ましい。また、不飽和炭化水素でもよいが、やはり炭素の析出量が増す傾向があるので好ましくない。
【発明の効果】
【0026】
本発明の部分酸化触媒を用いることにより、部分酸化のために酸素供給ガスラインや酸素ボンベを接続する必要なしに、部分酸化法により水素と一酸化炭素を含む混合ガスを製造することができる。得られた混合ガスから水素を分離したり、水素と一酸化炭素の混合ガスを合成ガスとして有機化合物合成の原料に供したりすることができる。特に、小型燃料電池に好適な水素製造装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明に記載の触媒組成は、他に一般的に触媒に求められる特性、たとえば機械的強度の向上などを得るための成分を、本発明の触媒組成に混合して触媒調製することを排除するものではない。また、本発明に記載の触媒組成は、触媒の製造工程で不可避的に混入する微量不純物成分を排除するものでもない。
【0028】
(1)Y23担体の調製
しゅう酸イットリウム(Wako, Y2(C24)3・4H2O)を空気流通下、室温から5℃/分の昇温速度で600℃まで昇温し、600℃で5時間保持しY23を調製した。
【0029】
(2)その他の担体の調製
CeO2もY23担体と同様の調製法で硝酸セリウム(III)六水和物(Wako, Ce(NO3)3・6H2O)から調製した。
他の担体(Al23(Merck)、MgO(Ube Materials)、La23(ナカライテスク)、SiO2(FUJI SILYSIA))はそのまま使用した。
【0030】
(3)Fe(20)/Y23触媒の調製
所定量の硝酸鉄(III)九水和物(Wako, Fe(NO3)3・9H2O)を水に溶かしたものを、担体(Y23)1gに対してFeとして20 m molとなるように加え、一夜放置後、蒸発乾固により乾燥させた。その後、空気流通下、室温から5℃/分の昇温速度で600℃まで昇温し、600℃で5時間保持し触媒を調製した。
なお、触媒表示中のFe(20)のような括弧内の数字は、担体1gあたりの触媒の担持量をm mol単位の触媒金属量として表わしたものである。
【0031】
(4)Rh(0.5)-Fe(20)/Y23触媒の調製
所定量の塩化ロジウム(三津和化学, RhCl3・3H2O)及び硝酸鉄(III)九水和物(Wako, Fe(NO33・9H2O)を水に溶かしたものを、担体(Y23)1gに対してRhとして0.5m mol、Feとして20 m molとなるように加え、一夜放置後、蒸発乾固により乾燥させた。その後、空気流通下、室温から5℃/分の昇温速度で600℃まで昇温し、600℃で5時間保持し触媒を調製した。
なお、比較例等、他の組成の触媒もそれぞれの成分の水溶性塩を用いて同様の含浸担持法で調製した。
【0032】
(5)評価のための実験装置
評価のための実験装置として、図1に示される反応装置を使用した。ただし、この反応装置はあくまで評価のための実験装置であり、実際にこの触媒を使用して水素含有ガスを製造する装置はこの反応装置に限定されるものではなく、各部の配置や規模は目的に応じて適宜変更することができる。
【0033】
図1の反応装置において、反応管2は石英ガラス管であり、例えばその内径が10mm、長さが250mmであり、内部には部分酸化触媒層4が充填されている。触媒層4は両側から石英製グラスウールで挟み込まれて反応管2内に固定されている。反応管2を加熱するために電気炉6が設けられており、反応管2が電気炉6中に収納されるように電気炉6に対して反応管2が位置決めされている。触媒層4に対して石英ガラス製熱電対保護管(図示略)が設置され、その中に熱電対(図示略)が通されて触媒層4と接触している。触媒層4の温度はその熱電対により検出され、その検出された温度が設定温度になるように、温度コントローラ(図示略)により電気炉6への通電が制御される。
【0034】
反応管2の一端には部分酸化反応のための原料ガスとしてメタンを供給する原料ガス供給流路8と、触媒再生時に酸素含有ガスとして酸素とアルゴンの混合ガス又は空気を供給する再生ガス供給流路10が、三方切替弁12により切り替えてガスを供給することができるように接続されている。いずれの流路8,10もそれぞれのガスを一定流量で供給するための質量流量制御器14,18を備えている。それぞれの質量流量制御器14,18の上流には開閉弁16,20が配置されている。
【0035】
反応管2の他端は三方バルブ22を介してガスクロマトグラフ24及び質量分析計26に接続されている。質量分析計26として四重極質量分析計を用いているが他の形式の質量分析計でもよい。三方バルブ22の切替えにより、反応管2からの反応ガスをガスクロマトグラフ24又は質量分析計26に導いて適宜分析する。しかしながら、このような分析装置の配置は実験データ収集のための配置であり、実用化システムに不可欠なものではない。
【0036】
なお、分析装置の使用条件の制約から、実験に用いるガスを希釈するときは、希釈ガスとしてアルゴンを用いた。これは、質量分析計で一酸化炭素を分析しようとすると、それと同じ質量数をもつ窒素は希釈ガスとしては使用できないからである。そして、アルゴンは不活性ガスであるため、触媒反応にはなんら影響しないことを確認済みである。
【0037】
(6)本発明の部分酸化触媒を用いたメタンからの水素製造反応
製造した触媒は、メタンの部分酸化反応によって評価した。なお、分析装置の感度・分解能の制約から、メタンは不活性ガスであるアルゴンで希釈して導入したが、アルゴンは触媒活性の評価にはなんら影響するものではない。
【0038】
(7)本発明の触媒の再生反応
メタンの部分酸化による水素製造反応をある時間実施した後の触媒は、アルゴンで希釈した酸素ガス、又は空気により酸化し、再びメタンの部分酸化反応に供し、その性能によって完全に再生されたことを評価した。また、後で説明する図3に示すように、触媒のX線回折の結果によっても本発明の触媒は酸化によって再生することが確認された。
【0039】
実際の部分酸化実験は、調製した触媒の0.5gを反応管に充填し、アルゴン:メタン=4:1の混合ガスを流量50ml/分、流速SV=6,000ml/g−cat・h(SVは空間速度)で流す環境下で、触媒温度を毎分10度の速度で800℃まで昇温した後、800℃に所定時間保持して行なった。部分酸化と触媒再生を交互に繰り返して実験を行う場合には、上記の部分酸化反応を所定時間実施した後、800℃においてガスをアルゴン:酸素=4:1の混合ガスに切り替えて、50ml/分、空間速度SV=6,000ml/g−cat・hで部分酸化と同じ時間だけ反応させ、触媒を再生した。
以上の反応条件はあくまで評価のための実験条件であり、実際に工業的に製造する際には目的に合せて適宜変更する。
以下、本発明を実施例によりさらに詳述する。
【実施例1】
【0040】
イットリア(Y23)担体に担体1gあたり20m molの酸化第二鉄(Fe23)を担持した触媒を用い、メタンの部分酸化反応−触媒再生の繰り返し実験を実施した。反応及び再生時間は1回目が5分間ずつ、次いで10分間ずつ、15分間ずつ、20分間ずつと漸増させた。結果を表1に示す。部分酸化反応と再生を交互に繰り返すと水素とCOの選択率が向上し、また格子酸素の転化率も上昇する一方、炭素析出は殆ど見られなくなるという優れた特性を示した。しかしながら、原料であるメタンの転化率は反応繰り返しにより低下する傾向が見られることから、未だ改善の余地がある。
【実施例2】
【0041】
イットリア(Y23)担体に担体1gあたり7.2m molのニッケルと12.8m molの酸化第二鉄(Fe23)を担持した触媒を用い、メタンの部分酸化反応と触媒再生の交互繰り返し実験を実施した。結果を表1に示す。実施例1に比べ、メタン転化率が大幅に向上した優れた触媒であるが、反応の繰り返しにより炭素析出が増大する傾向にあるため、短期の使用に適する触媒であるといえる。
【実施例3】
【0042】
イットリア(Y23)担体に担体1gあたり0.5m molのロジウムと20m molの酸化第二鉄(Fe23)を担持した触媒を用い、メタンの部分酸化反応と触媒再生の交互繰り返し実験を実施した。なお、本実験では、1回目の反応−再生時間を各15分、2回目を10分、3回目を20分として測定した。結果を表1に示す。メタン転化率、水素選択性とも反応を繰り返す毎に向上し、かつ炭素析出は低レベルのままであったので、たいへん優れた触媒である。
【実施例4】
【0043】
イットリア(Y23)担体に担体1gあたり0.5m molの白金と20m molの酸化第二鉄(Fe23)を担持した触媒を用い、メタンの部分酸化反応−触媒再生の繰り返し実験を実施した。結果を表1に示す。炭素析出が少ないという特徴のある触媒であり、炭素析出を避けたいシステムに使用するのに好適であるが、メタン転化率がやや低い。
【0044】
〔比較例1〕
セリア(CeO2)担体に担体1gあたり4 m molのクロムと16m molのニッケルを担持した触媒を用い、メタンの部分酸化反応と触媒再生の交互繰り返し実験を実施した。反応温度は、実施例より低い600℃であったにもかかわらず、表1の結果に見るように、炭素析出量が多く実用には適さないことが明らかになった。
【表1】

【実施例5】
【0045】
前述のように実施例3で優れた触媒特性が得られたので、さらに高効率の触媒を得るべく、第3成分として遷移金属元素であるクロム(Cr)の添加を検討した。イットリア(Y23)担体に担体1gあたり0.5m molのロジウムと0.5m molのクロムと19m molの酸化第二鉄(Fe23)を担持した触媒を用い、メタンの部分酸化反応と触媒再生の交互繰り返し実験を実施した。結果を表2に示す。メタン転化率および水素選択率ともに実施例3より向上した。ただし、炭素析出量の若干の増加が見られる。したがって、本実施例の触媒は、水素ないし合成ガスの高効率製造を要するシステムに適する。
【実施例6】
【0046】
実施例5と同様、クロム添加による高効率化の試みとして、イットリア(Y23)担体に担体1gあたり0.5m molのロジウムと4m molのクロムと16m molの酸化第二鉄(Fe23)を担持して触媒を調製した。メタンの部分酸化反応と触媒再生の交互繰り返し実験の結果を表2に示す。メタン転化率及び水素選択率について実施例5以上の向上が見られたが、炭素析出傾向もわずかに上昇した。本実施例の触媒も、水素ないし合成ガスの高効率製造システムに適用するのが好適である。
【表2】

【0047】
〔比較例2〕
担体の効果を調べるために、実施例3と同じ触媒活性成分をアルミナ(Al23)担体に担持した触媒を調製した。その担体1gあたり0.5m molのロジウムと20m molの酸化第二鉄(Fe23)を担持した触媒を用い、メタンの部分酸化反応と触媒再生の交互繰り返し実験を実施した。なお、本実験では、部分酸化反応時間、再生時間をともに10分として部分酸化反応と再生を繰り返した。表3に実施例3と比較して示す。この触媒はメタン転化率、水素選択性とも優れているが、炭素析出量が多く、好ましいものではない。
【実施例7】
【0048】
比較例2の触媒に対して、アルミナとともに担体となるイットリアをアルミナ1gあたり1.6m mol導入したものを調製し、比較例2と同じように部分酸化反応と再生を繰り返した。表3に実施例7として示す。比較例2の触媒とは触媒活性成分の組成が異なってはいるが、炭素析出量が抑えられている。
【表3】

【0049】
(再生温度の低温化)
実施例3の触媒が優れた性能を示したので、部分酸化反応後の再酸化による触媒再生の温度を800℃から600℃に変えて部分酸化と触媒再生の交互繰り返し実験を10回に渡り行った。その結果を図2に示す。(a)は800℃での結果、(b)は600℃での結果である。図2に明らかなように、再生温度を600℃に低下させても、メタン転化率も、水素及びCO選択率もいずれも良好であり、再生温度800℃の場合に比べて全く遜色ない結果が得られた。触媒再生のための加熱温度を低下させられれば、それだけシステムに投入するエネルギーを減少させることができるので、エネルギー効率に優れたシステムを構築できる。すなわち実施例3の触媒を用いれば、高効率の水素ないし合成ガス製造システムを実現することができる。
【0050】
(空気による触媒再生)
これまでに提示した実験は、部分酸化反応に供した後の触媒の再生にアルゴンガスで希釈した酸素を用いていた。しかし、再酸化による触媒再生を空気により行うことができれば、装置に酸素供給設備を設置する必要がな無くなり、システムの小型化及び低コスト化が実現され、実用化に当たって大きな利点があることは明らかである。そこで、実施例3の触媒を用いて、空気による触媒再生を行った。結果を表4に示す。再生ガスに空気を用いた場合、分析を質量分析装置で行った実験装置の制約から炭素析出量、メタン転化率、CO選択率及びCO2選択率の測定はできなかったが、水素選択率、格子酸素転化率及び他の生成物量を見る限り、アルゴンガスで希釈した酸素による触媒再生と同等の結果が得られており、空気による触媒再生になんら問題のないことが明らかである。
【表4】

【0051】
(X線回折による触媒再生の確認)
本発明の触媒の格子酸素が部分酸化反応に関与し、再生可能であることを触媒のX線回折測定により確かめた。そのX線回折測定の結果を図3に示す。触媒としては実施例3の触媒を用いた。
(A)は触媒を調製し、アルゴンで希釈した酸素(Ar:O2=4:1)中で800℃で5分間酸化した状態の触媒のX線回折パターンである。Fe23(□の記号で示されている。)が認められ、担体表面に触媒活性成分としてのFe23のあることが確かめられる。
(B)はその触媒を用い、アルゴンで希釈したメタンを原料ガスとして流し800℃で20分間部分酸化反応を行った後のX線回折パターンである。測定されるのは殆どが担体のY23ピーク(×の記号で示されている。)と金属鉄のピーク(△の記号で示されている。)であり、触媒活性成分であるFe23は見られない。このことから、触媒活性成分のFe23の格子酸素が部分酸化反応で消費されていることがわかる。
(C)は部分酸化反応で格子酸素が消費された後の触媒をアルゴンで希釈した酸素中で800℃で5分間酸化して再生させた後のX線回折パターンである。Fe23(□の記号で示されている。)が認められ、触媒の格子酸素が復活し、触媒活性成分としてのFe23が再生されていることが確かめられる。
【0052】
(水素含有ガス製造装置の実施例)
図4に水素含有ガス製造装置の一実施例を概略的に示す。
第1の反応管2aに加熱炉6aが配置され、第2の反応管2bに加熱炉6bが配置されている。反応管2a,2bや加熱炉6a,6bは基本的には図1の評価用の装置のものと同じである。反応管2a,2b内には本発明の部分酸化触媒層が充填されている。
【0053】
一方の反応管2aの一端には原料ガスとしてメタンその他の炭化水素を供給する原料ガス供給流路8と、触媒再生時に酸素含有ガスとして空気を供給する再生ガス供給流路10が、三方切替弁12aにより切り替えてガスを供給することができるように接続されている。他方の反応管2bの一端にはその原料ガス供給流路8と再生ガス供給流路10が三方切替弁12bにより切り替えてガスを供給することができるように接続されている。原料ガス供給流路8と再生ガス供給流路10にはそれぞれ図1に示されているように開閉弁と質量流量制御器が設けられている。
【0054】
三方切替弁12aと12bはコントローラ30により同時に切り換えられ、反応管2aに原料ガスが供給されるときは反応管2bには再生ガスが供給され、逆に反応管2bに原料ガスが供給されるときは反応管2aには再生ガスが供給されるように制御される。
【0055】
加熱炉6a,6bの温度もコントローラ30により制御され、それぞれの反応管2a,2bでの部分酸化反応又は触媒再生用の設定温度になるように調節される。部分酸化反応と触媒再生で反応管2a,2bの設定温度を変えないときは、コントローラ30により反応管2a,2bの温度が一定になるように制御される。
【0056】
このようにして、加熱炉6a,6bと切替え弁12a,12bの制御により、一方の反応管での部分酸化反応中に他方の反応管での触媒を再生するようにするとともに、その操作を交互に切り替えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の部分酸化触媒並びにそれを用いた製造方法及び装置は、水素や合成ガスを製造するための原料となる水素含有混合ガスを製造するのに利用することができる。特に、本発明の触媒では、部分酸化反応においては触媒自身を構成する酸化物の格子酸素を利用し、反応後の触媒再生には空気中の酸素を利用できることから、極めてコンパクトかつ安価な水素含有混合ガス製造装置を構築することができる。かかる水素含有混合ガス製造装置は、例えば分散型電源としての燃料電池への燃料供給装置として好適である。触媒反応管を2系列組み込めば、一方を反応に供している間に他方を再生することにより、連続運転が可能となる。また、例えば日中に水素含有混合ガスを使用し、夜間は休止するような利用法が望まれるシステムでは、触媒を1系列のみ持ち、運転中に部分酸化反応を行い、夜間休止中に触媒再生を行うというコンパクトな装置構成が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】触媒を評価するための反応装置を示す概略構成図である。
【図2】実施例3の触媒を用いて行ったメタンの部分酸化反応と触媒再生の交互繰り返し実験における触媒再生温度800℃の場合と600℃の場合の結果を示したグラフである。
【図3】実施例3の触媒のX線回折パターンを示す図であり、(A)は部分酸化反応前、(B)は部分酸化反応後、(C)は再生後である。
【図4】水素含有ガス製造装置の一実施例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0059】
2,2a,2b 反応管
4 部分酸化触媒層
6,6a,6b 電気炉
8 原料ガス供給流路
10 再生ガス供給流路
12,12a,12b 三方切替弁
30 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素を部分酸化して水素と一酸化炭素を含有する混合ガスを生成させる部分酸化触媒において、
該触媒は担体に触媒活性成分が担持されたものであり、
前記触媒活性成分は酸化第二鉄(Fe23)を含み、該酸化第二鉄自身を構成する格子酸素が前記部分酸化反応に供されるとともに、触媒自身を酸化することにより再生されるものであり、
前記担体は少なくとも一部がイットリアである酸化物担体であることを特徴とする部分酸化触媒。
【請求項2】
前記触媒活性成分は添加物として貴金属成分又は遷移金属成分を含む請求項1に記載の部分酸化触媒。
【請求項3】
前記添加物として貴金属成分であるロジウムを含む請求項2に記載の部分酸化触媒。
【請求項4】
前記添加物としてさらに遷移金属成分であるクロムを含む請求項3に記載の部分酸化触媒。
【請求項5】
前記添加物として遷移金属成分であるニッケルを含む請求項2に記載の部分酸化触媒。
【請求項6】
前記担体はイットリアのみからなる請求項1から5のいずれか一項に記載の部分酸化触媒。
【請求項7】
炭化水素を含む原料ガスを加熱下で請求項1から7のいずれか一項に記載の部分酸化触媒に接触させ、前記部分酸化触媒中の酸化第二鉄を構成する格子酸素により前記炭化水素を部分酸化して水素と一酸化炭素を含有する混合ガスを生成させる部分酸化工程と、
前記部分酸化工程を経た前記部分酸化触媒を加熱下で酸素含有ガスと接触させて前記部分酸化触媒を再生する再生工程と、
を含む水素含有ガス製造方法。
【請求項8】
前記酸素含有ガスとして空気を使用する請求項7に記載の水素含有ガス製造方法。
【請求項9】
内部に請求項1から6のいずれか一項に記載の部分酸化触媒が保持された反応管と、
前記触媒を加熱する加熱炉と、
炭化水素を含む原料ガスを前記反応管に送り前記触媒と接触させる原料ガス供給流路と、
触媒再生に用いる酸素含有ガスを前記反応管に送り前記部分酸化触媒と接触させる再生ガス供給流路とを備え、
前記反応管中で前記部分酸化触媒中の酸化第二鉄を構成する格子酸素により前記炭化水素を部分酸化して水素と一酸化炭素を含有する混合ガスを生成させる水素含有ガス製造装置。
【請求項10】
前記反応管と加熱炉の組が2組備えられ、
前記原料ガス供給流路と再生ガス供給流路は切替え弁を介して両反応管に接続されており、
前記加熱炉と切替え弁の制御により、一方の反応管での部分酸化反応中に他方の反応管での触媒を再生するようにするとともに、その操作を交互に切り替えることができるようになっている請求項9に記載の水素含有ガス製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−200640(P2008−200640A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−41656(P2007−41656)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】