説明

炭化水素油の水素化処理触媒及びその製造方法、並びに炭化水素油の水素化処理方法

【課題】簡便な手段で、かつ苛酷な運転条件を必要とせずに、炭化水素油中の硫黄分を超深度脱硫することができる水素化処理触媒、その製造方法、およびこの触媒を使用して炭化水素留分を高効率で水素化処理する方法を提供する。
【解決手段】無機酸化物担体上に触媒基準、酸化物換算で、第6族金属を10〜30質量%、第8族金属を1〜15質量%、リンを1.5〜6質量%、炭素を2〜14質量%含み、比表面積が80〜145m2/g、細孔容積が0.35〜0.6m1/g、平均細孔直径が14nmを超え、18nm以下である炭化水素油水素化処理触媒、特定物性の無機酸化物担体上に、第8族金属化合物、第6族金属化合物、有機酸及びリン酸を含有する溶液により各成分を担持し、200℃以下で乾燥させるこの触媒の製造方法、およびこの触媒を用いた炭化水素油の水素化処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素油の水素化処理触媒及びその製造方法、更にはこの触媒を用いた炭化水素油の水素化処理方法に関し、詳しくは減圧軽油などの軽油留分を水素化処理する際に、該炭化水素油中の硫黄分及び窒素分を従来のこの種の触媒を使用する場合よりも低減することができ、かつ優れた活性を有する触媒及びその製造方法と、この触媒を用いる水素化処理方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
原油を常圧蒸留装置により処理して得られた常圧蒸留残油(AR)や、ARをさらに減圧蒸留装置で処理することにより得られる減圧蒸留軽油(VGO)、減圧蒸留残油(VR)等の重質油には多量の硫黄化合物が含有されている。これらの重質油を脱硫処理することなく燃料として用いた場合には、硫黄酸化物(SOx)が大気中に排出される。
【0003】
近年、地球環境問題に対する意識が高まり、各種燃料油品質に対する規制も厳しくなっている。主要なガソリン器材の原料油である減圧軽油についても、その硫黄分を大幅に除去する深度脱硫技術の開発が待望されている。減圧軽油中の硫黄分の低減化技術として、通常、水素化脱硫の運転条件、例えば、反応温度、液空間速度等を苛酷にすることが考えられる。
【0004】
しかし、反応温度を上げると、触媒上に炭素質が析出して触媒の活性が急速に低下し、また液空間速度を下げると、脱硫能は向上するものの、精製処理能力が低下するため設備の規模を拡張する必要が生じる。
【0005】
従って、運転条件を苛酷にしないで、炭化水素油の超深度脱硫を達成し得る最も良い方法は、優れた脱硫活性を有する触媒を開発することである。
【0006】
近年、活性金属の種類、活性金属の含浸方法、触媒担体の改良、触媒の細孔構造制御、活性化法等について多くの検討が多方面において進められており、新規深度脱硫触媒の開発成果が報告されている。
【0007】
例えば、特許文献1(特開昭61−114737号公報)には、アルミナやシリカ担体に、錯化剤として含窒素配位子を有する有機化合物と、活性金属とからなる溶液を含浸し、200℃以下で乾燥する方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献2(特許第2900771号公報)には、γ−アルミナ担体に、周期律表第8族金属(以下、単に「8族金属」と記す)化合物と周期律表第6族金属(以下、単に「6族金属」と記す)化合物と、リン酸を含む含浸溶液に、さらにジオールまたはエーテルを添加して得られた含浸溶液を含浸し、これを200℃以下で乾燥させることを特徴とすることが開示されている。
【0009】
また、特許文献3(特許第2832033号公報)には、本発明と同様に担体に6族金属化合物、リン成分、8族金属化合物、クエン酸からなる溶液を含浸し、焼成を行う発明が開示されている。
【0010】
更に、特許文献4(特開平4−244238号公報)には、酸化物担体に、6族金属化合物、8族金属化合物、リン酸からなる溶液を担持し、200℃以下で乾燥させた触媒を得、それに特定の化学式で示される有機酸の溶液を担持し、200℃以下で乾燥する方法が開示されている。
【0011】
一方、有機酸を二度用いて含浸させる触媒の製造方法についても提案されている。
例えば、特許文献5(特開平6−339635号公報)には、酸化物担体に、6族金属化合物、8族金属化合物、有機酸、リン酸からなる溶液を含浸し、200℃以下で乾燥させた触媒を得、さらに有機酸の溶液を含浸し、200℃以下で乾燥する方法が開示されている。
【0012】
加えて、特許文献6(特開平6−31176号公報)では、8族金属化合物と、6族金属のヘテロポリ酸を無機酸化物支持体に含浸させ、乾燥させて触媒を製造する技術を開示している。
【0013】
また、特許文献7(特開平1−228552号公報)には、酸化物担体に、モリブデン、タングステン、8族金属化合物、メルカプトカルボン酸、リン酸からなる溶液を含浸させる触媒の製造方法が開示されている。
この方法は、メルカプトカルボン酸と、モリブデン、タングステン、8族金属化合物との配位化合物を形成させて、触媒担体上に高分散させることを主目的としている。
しかし、この方法では、モリブデン、タングステンが担体上で高分散化されてしまい、後述する本発明のような二硫化モリブデンの積層化が困難となり、脱硫活性点として特に有効なCoMoS相やNiMoS相のタイプII(ここで、タイプIIは二硫化モリブデンの2層目以上のエッジ部に存在するCo,Ni活性点を指し、タイプIは二硫化モリブデンの1層目のエッジ部に存在するCo,Ni活性点を指し、タイプIIよりも活性が低い)の形成はないと推測される。
しかも、メルカプトカルボン酸は、硫黄を含んでおり、8族金属(Co,Ni)の近傍に存在したり、配位化を形成したりすると、脱硫活性点(CoMoS相,NiMoS相)とならずに、不活性なCo98種やNi32種となる可能性がある。
【0014】
また、特許文献8(特開2003−299960号公報)では、有機酸を添加し、二硫化モリブデンを積層化し、脱硫性能を高めていることが提案されているが、この触媒では、平均細孔直径が小さく、脱硫活性向上に関して更なる改良が求められる。
【0015】
そして、以上の触媒の製造方法は工程が複雑であり、また得られる触媒が炭化水素油の超深度脱硫を行うのに適さないもの、あるいは超深度脱硫域での効率の低いものや触媒寿命の短いもの等もある。このようなことから、現在、より簡便な方法で、しかも運転条件を苛酷にせずに炭化水素油の超深度脱硫を実現することができる従来よりも脱硫活性の高い、かつ触媒寿命の長い触媒を得る技術の開発が要求されている。
【特許文献1】特開昭61−114737号公報
【特許文献2】特許第2900771号公報
【特許文献3】特許第2832033号公報
【特許文献4】特開平4−244238号公報
【特許文献5】特開平6−339635号公報
【特許文献6】特開平6−31176号公報
【特許文献7】特開平1−228552号公報
【特許文献8】特開2003−299960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、簡便な手段で、かつ苛酷な運転条件を必要とせずに、炭化水素油中の硫黄分を超深度脱硫することができる水素化処理触媒及びその製造方法を提供することであり、また、この触媒を使用して炭化水素留分を高効率で水素化処理する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記目的を達成するために検討を行ったところ、無機酸化物担体に、6族金属化合物と8族金属化合物と有機酸とリン酸を含む溶液を含浸させて、これらの成分の所定量を担持し、200℃以下の温度で乾燥することによって、不活性なコバルト、ニッケル種を形成せずに高活性な脱硫活性点(CoMoS相、NiMoS相等)を精密に制御でき、これらの結果として、脱硫反応及び脱窒素反応が効率的に進行するため、反応条件を苛酷にせずに超深度脱硫反応を容易に達成することができる高性能脱硫触媒を得ることができるとの知見を得た。
【0018】
すなわち、本発明によれば、下記構成の水素化処理触媒、その製造方法、および該触媒を用いた炭化水素類の水素化処理方法が提供される。
1.無機酸化物担体上に触媒基準、酸化物換算で、周期律表第6族金属から選ばれた少なくとも1種を10〜30質量%、周期律表第8族金属から選ばれた少なくとも1種を1〜15質量%、リンを1.5〜6質量%、炭素を2〜14質量%含み、比表面積が80〜145m2/g、細孔容積が0.35〜0.6m1/g、平均細孔直径が14nmを超え、18nm以下であることを特徴とする炭化水素油の水素化処理触媒。
2.予備硫化処理後の触媒が、透過型電子顕微鏡により観察される二硫化モリブデン層の積層数の平均値が2.5〜5であることを特徴とする上記1記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
3.比表面積130〜500m2/g、細孔容積0.55〜0.9m1/g、平均細孔直径10〜14.5nmである無機酸化物担体上に、周期律表第8族金属から選ばれた少なくとも1種を含む化合物、周期律表第6族金属から選ばれた少なくとも1種を含む化合物、有機酸及びリン酸を含有する溶液を用い、触媒基準、酸化物換算で周期律第6族金属を10〜30質量%、周期律表第8族金属を1〜15質量%、リンを1.5〜6質量%、炭素を2〜14質量%となるように担持させ、200℃以下で乾燥させることを特徴とする上記1または2記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
4.上記1または2記載の触媒の存在下、水素分圧3〜8MPa、温度300〜420℃、液空間速度0.3〜5hr-1の条件で、軽油留分の接触反応を行うことを特徴とする炭化水素油の水素化処理方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の水素化処理触媒は、簡便な手段で、かつ苛酷な運転条件を必要とせずに、炭化水素油中の硫黄分を超深度脱硫することができ、本発明の触媒を使用して炭化水素留分を高効率で水素化処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で水素化処理する対象油は、例えば、直留軽油、接触分解軽油、熱分解軽油、水素化処理軽油、脱硫処理軽油、減圧蒸留軽油(VGO)等の軽油留分が適している。
これら原料油の代表的な性状例として、沸点範囲が150〜600℃、好ましくは300〜570℃、硫黄分が5質量%以下、好ましくは3質量%以下のものが挙げられる。
【0021】
本発明の触媒に用いる無機酸化物担体は、アルミナを単独で用いることもできるが、脱硫活性をより向上させるためにはアルミナを主成分とする複合酸化物を用いることが好ましい。
アルミナは、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、δ−アルミナ、アルミナ水和物等の種々のアルミナを使用することができるが、多孔質で高比表面積であるアルミナが好ましく、中でもγ−アルミナが適している。アルミナの純度は、98質量%以上、好ましくは99質量%以上のものが適している。
【0022】
アルミナ中の不純物としては、SO42-、Cl-、Fe23、Na2O等が挙げられるが、これらの不純物はできるだけ少ないことが望ましく、不純物全量で2質量%以下、好ましくは1質量%以下で、成分毎ではSO42-<1.5質量%、Cl-、Fe23、Na2O<0.1質量%であることが好ましい。
【0023】
アルミナに複合化させる酸化物成分としては、ゼオライト、ボリア、シリカ、及びジルコニアから選ばれる一種以上が好ましい。
このうちゼオライトは、コールカウンター法(1質量%NaCl水溶液、アパーチャー30μ、超音波処理3分)での測定による平均粒子径が2.5〜6μm、好ましくは3〜5μm、より好ましくは3〜4μmのものである。また、このゼオライトは、粒子径6μm以下のものがゼオライト全粒子に対して占める割合が、70〜98質量%、好ましくは75〜98質量%、より好ましくは80〜98質量%のものである。
【0024】
ゼオライトのこのような特性は、難脱硫性物質の細孔内拡散を容易にするために細孔直径を精密に制御する上で好ましく、例えば、平均粒子径が大きすぎたり、大きな粒子径の含有量が多かったりすると、複合酸化物担体を調製する過程で、アルミナ水和物(アルミナ前駆体)とゼオライトの吸着水量や結晶性の違いから、加熱焼成時のアルミナ水和物(アルミナ前駆体)とゼオライトの収縮率が異なり、複合酸化物担体の細孔として比較的大きなメゾあるいはマクロポアーが生じる傾向がある。また、これらの大きな細孔は、表面積を低下させるばかりでなく、残油を処理するような場合には触媒毒となるメタル成分の内部拡散を容易ならしめ、ひいては脱硫、脱窒素及び分解活性を低下させる傾向を生じさせる。
【0025】
本発明で、アルミナに複合化させる好ましいゼオライトとしては、フォージャサイトX型ゼオライト、フォージャサイトY型ゼオライト、βゼオライト、モルデナイト型ゼオライト、ZSM系ゼオライト(ZSM−4,5,8,11,12,20,21,23,34,35,38,46等がある)、MCM−41,MCM−22,MCM−48,SSZ−33,UTD−1,CIT−5,VPI−5,TS−1,TS−2等が使用でき、特にY型ゼオライト、安定化Yゼオライト、βゼオライトが好ましい。また、ゼオライトは、プロトン型が好ましい。
上記のボリア、シリカ、ジルコニアは、一般に、この種の触媒の担体成分として使用されるものを使用することができる。
【0026】
上記のゼオライト、ボリア、シリカ、及びジルコニアは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組合せて使用することができる。
これらの成分の配合量は、特に制限されないが、複合酸化物担体中、アルミナが80質量%より多く99.5質量%以下に対し、0.5質量%以上20質量%未満であり、好ましくはアルミナが85〜99.5質量%に対し、0.5〜15質量%であり、より好ましくはアルミナが90〜99.5質量%に対し、0.5〜10質量%である。
これらの成分の割合が上記範囲であることにより、細孔直径の制御がしやすく、またブレンステッド酸点やルイス酸点の付与が十分となり、さらには6族金属、特にMoも高分散化しやすい。
【0027】
本発明における無機酸化物担体は、580〜700℃で、1.5〜3時間焼成して調製される。
本発明の触媒は、後述するように、無機酸化物担体に活性成分を担持させた後は、200℃以下で乾燥するだけで調製するため、後述する触媒の機械的特性(側面破壊強度や最密充填かさ密度等)は無機酸化物担体の焼成で得ることとなり、580℃未満で1.5時間未満の焼成では、十分な機械的強度を得ることができず、700℃を超える高温度下で3時間を超える長時間の焼成を行っても、この効果が飽和するばかりでなく、焼き締めにより、無機酸化物担体の比表面積、細孔容積、平均細孔径と言った特性がかえって低下してしまう。
【0028】
無機酸化物担体の比表面積、細孔容積、平均細孔直径は、炭化水素油に対する水素化脱硫活性の高い触媒を調製するために、比表面積が130〜500m2/g、細孔容積が0.55〜0.9ml/g、および平均細孔径が100〜145Åであることが必須である。
【0029】
この理由は次の通りである。
含浸溶液中で6族金属と8族金属は錯体(6族金属はリン酸と配位してヘテロポリ酸、8族金属は有機酸と配位して有機金属錯体)を形成していると考えられるため、担体の比表面積が130m2/g未満では、含浸の際、錯体の嵩高さのために金属の高分散化が困難となり、その結果、得られる触媒を硫化処理しても、上記の活性点(CoMoS相、NiMoS相等)形成の精密な制御が困難になると推測される。
比表面積が500m2/gより大きいと、細孔直径が極端に小さくなるため、触媒の細孔直径も小さくなる。触媒の細孔直径が小さいと、硫黄化合物の触媒細孔内への拡散が不十分となり、脱硫活性が低下する。
【0030】
細孔容積が0.55ml/g未満では、通常の含浸法で触媒を調製する場合、細孔容積内に入り込む溶媒が少量となる。溶媒が少量であると、活性金属化合物の溶解性が悪くなり、金属の分散性が低下し、低活性の触媒となる。活性金属化合物の溶解性を上げるためには、硝酸等の酸を多量に加える方法があるが、余り加えすぎると担体の低表面積化が起こり、脱硫性能低下の主原因となる。
細孔容積が0.9ml/gより大きいと、比表面積が極端に小さくなって、活性金属の分散性が悪くなり、脱硫活性の低い触媒となる。
【0031】
細孔直径が10nm未満では、活性金属を担持した触媒の細孔直径も小さくなる。触媒の細孔直径が小さいと、硫黄化合物の触媒細孔内への拡散が不十分となり、脱硫活性が低下する。
細孔直径が14.5nmより大きいと、触媒の比表面積が小さくなる。触媒の比表面積が小さいと、活性金属の分散性が悪くなり、脱硫活性の低い触媒となる。
【0032】
本発明の触媒に含有させる6族金属は、モリブデン、タングステンが好ましく、モリブデンが特に好ましい。
6族金属の含有量は、触媒基準、酸化物換算で、10〜30質量%、好ましくは16〜28質量%である。
10質量%未満では、6族金属に起因する効果を発現させるには不十分であり、30質量%を超えると、6族金属の含浸(担持)工程で6族金属化合物の凝集が生じ、6族金属の分散性が悪くなるばかりか、効率的に分散する6族金属含有量の限度を超え、触媒表面積が大幅に低下する等により、触媒活性の向上がみられない。
【0033】
8族金属は、コバルト、ニッケルが好ましい。
8族金属の含有量は、触媒基準、酸化物換算で、1〜15質量%、好ましくは3〜8質量%である。
1質量%未満では、8族金属に帰属する活性点が十分に得られず、15質量%を超えると、8族金属の含浸(担持)工程で8族金属化合物の凝集が生じ、8族金属の分散性が悪くなることに加え、不活性なコバルト、ニッケル種であるCo98種、Ni32種の前駆体であるCoO種、NiO種等や、担体の格子内に取り込まれたCoスピネル種、Niスピネル種等が生成すると考えられ、触媒能の向上がみられないばかりか、却って触媒能が低下する。
【0034】
8族金属、6族金属の上記した含有量において、8族金属と6族金属の最適質量比は、好ましくは、酸化物換算で、〔8族金属〕/〔8族金属+6族金属〕の値で、0.1〜0.25である。
この値が上記範囲であると、脱硫の活性点と考えられるCoMoS相、NiMoS相等が生成して脱硫活性が向上すると共に、上記の不活性なコバルト、ニッケル種(Co98種、Ni32種)の生成が抑制され触媒活性の向上に寄与する。
【0035】
リンの含有量は、触媒基準で、1.5〜6質量%、好ましくは2〜5質量%である。
1.5質量%未満では、触媒表面上で6族金属がヘテロポリ酸を形成できないため、予備硫化工程で高分散なMoS2が形成せず、上記の脱硫活性点を十分に配置できないと推測される。特に、前述した予備硫化後の触媒に二硫化モリブデンの層を、平均積層数で2.5〜5となるように形成するためには、1.5質量%以上とすることが好ましい。
一方、6質量%より多いと、触媒表面上で6族金属が十分にヘテロポリ酸を形成するため、予備硫化工程で高品質な上記の脱硫活性点が形成されるものの、過剰なリンが被毒物質として脱硫活性点を被覆するため、活性低下の主な原因になると推測される。
リン成分の含有量において、活性金属のモリブデンとリンとの好適な割合は、〔P25〕/〔MoO3〕の値で、好ましくは0.07〜0.3、より好ましくは0.09〜0.25である。モリブデンとリンの質量比が上記の値で0.07〜0.3の範囲ではCoとMoの渾然一体化が図れること、また硫化後、二硫化モリブデンの積層化が図れることの2点から、最終的に脱硫活性点のCoMoS相、NiMoS相、特に脱硫活性点の中で高い脱硫活性を示すCoMoS相、NiMoS相のタイプIIが得られ易く、高活性の触媒となり好ましい。
【0036】
炭素の含有量は、触媒基準で、2〜14質量%、好ましくは3〜10質量%である。
この炭素は、有機酸、好ましくはクエン酸由来の炭素であって、2質量%未満では、触媒表面上で8族金属が有機酸と錯体化合物を十分に形成せず、この場合、予備硫化工程において錯体化されていない8族金属が6族金属の硫化に先立って硫化されることにより、脱硫活性点(CoMoS相、NiMoS相等)が十分に形成されず、不活性なコバルト、ニッケル種であるCo98種、Ni32相等が形成されると推測される。
14質量%より多いと、触媒表面上で8族金属が有機酸と十分に錯体化合物を形成するため、予備硫化工程において多くの上記脱硫活性点を得ることができるが、過剰な炭素が被毒物質として脱硫活性点を被覆するため、活性低下の原因になると推測される。
【0037】
本発明の触媒は、軽油に対する水素化脱硫及び脱硫活性を高めるために、上記の組成を有すると共に、その比表面積、細孔容積及び平均細孔径が、以下の値であることが必要である。
比表面積(窒素吸着法(BET法)で測定した比表面積は、80〜145m2/g、とする。
80m2/g未満では、触媒表面上で、錯体を形成していると考えられる6族金属(リン酸と配位してヘテロポリ酸)と8族金属(有機酸と配位して有機金属錯体)が、錯体の嵩高さのために、十分に高分散化しておらず、その結果、硫化処理しても、上記の活性点形成の精密制御が困難となって低脱硫活性の触媒となり、145m2/gより大きいと、触媒の細孔直径も小さくなって、水素化処理の際、硫黄化合物の触媒細孔内への拡散が不十分となり、脱硫活性が低下する。
【0038】
水銀圧入法で測定した細孔容積は、0.35〜0.6m1/g、好ましくは0.38〜0.55m1/gとする。0.35m1/g未満では、水素化処理の際、硫黄化合物の触媒細孔内での拡散が不十分となって脱硫活性が不十分となり、0.6m1/gより大きいと、触媒の比表面積が極端に小さくなって、活性金属の分散性が低下し、低脱硫活性の触媒となる。
【0039】
水銀圧入法で測定した細孔分布での平均細孔直径は、14を超え、18nm以下とする。14nm以下では、反応物質が細孔内に拡散し難くなるため、脱硫反応が効率的に進行せず、18nmより大きいと、細孔内の拡散性は良いものの、細孔内表面積が減少するため、触媒の有効比表面積が減少し、活性が低くなる。
【0040】
また、本発明の触媒は、硫化処理した後に、透過型電子顕微鏡で観察した場合における二硫化モリブデン層の積層数の平均値が2.5〜5であるものが好ましい。
すなわち、この二硫化モリブデンの層は、無機酸化物担体上に形成されて、触媒の接触面積を大きくする役割をなすと共に、該層内にCoMoS相、NiMoS相等の活性点が形成される。積層数の平均値が2.5〜5の範囲の触媒では、低活性なCoMoS相やNiMoS相のタイプIの割合が少なく、高活性なCoMoS相やNiMoS相のタイプIIが多く形成され活性点の絶対数が多く高活性である。
【0041】
以上の特性を有する本発明の触媒を得るには、以下に説明する本発明の方法によることが好ましい。
すなわち、前記した成分からなり、前記した物性を有する無機酸化物担体に、前記した6族金属の少なくとも1種を含む化合物、前記した8族金属の少なくとも1種を含む化合物、有機酸、リン酸を含有する溶液を用い、6族金属、8族金属、リン、炭素を上記した含有量となるように担持し、乾燥する方法により、本発明の触媒が調製される。具体的には、例えば、無機酸化物担体を、これらの化合物等を含有する溶液に含浸し、乾燥する方法により触媒が調製される。
【0042】
上記の含浸溶液中に使用する6族金属を含む化合物としては、三酸化モリブデン、モリブドリン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸等が挙げられ、好ましくは三酸化モリブデン、モリブドリン酸である。
これらの化合物の上記含浸溶液中への添加量は、得られる触媒中に上記した範囲内で6族金属が含有される量とする。
【0043】
8族金属を含む化合物としては、炭酸コバルト、炭酸ニッケル、クエン酸コバルト化合物、クエン酸ニッケル化合物、硝酸コバルト6水和物、硝酸ニッケル6水和物等が挙げられ、好ましくは炭酸コバルト、炭酸ニッケル、クエン酸コバルト化合物、クエン酸ニッケル化合物である。特に好ましくは、炭酸コバルト、炭酸ニッケルに比べて分解速度が遅いクエン酸コバルト化合物、クエン酸ニッケル化合物である。
すなわち、分解速度が速いと、二硫化モリブデンの層とは別に、コバルトやニッケルが独自の層を形成してしまい、高活性なCoMoS相やNiMoS相の形成が不十分となるのに対し、分解速度が遅いと、二硫化モリブデンのリム−エッジ部分に、高活性なこれらの相を十分に形成することができる。
【0044】
上記のクエン酸コバルトとしては、クエン酸第一コバルト(Co3(C6572)、クエン酸水素コバルト(CoHC657)、クエン酸コバルトオキシ塩(Co3(C6572・CoO)等が挙げられ、クエン酸ニッケルとしては、クエン酸第一ニッケル(Ni3(C6572)、クエン酸水素ニッケル(NiHC657)、クエン酸ニッケルオキシ塩(Ni3(C6572・NiO)等が挙げられる。
これらコバルトとニッケルのクエン酸化合物の製法は、例えば、コバルトの場合、クエン酸の水溶液に炭酸コバルトを溶かすことにより得られる。このような製法で得られたクエン酸化合物の水分を、除去しないで、そのまま、触媒調製に用いてもかまわない。
これらの化合物の上記含浸溶液中への添加量は、得られる触媒中に上記した範囲内で8族金属が含有される量とする。
【0045】
有機酸としては、クエン酸1水和物、無水クエン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、サリチル酸、マロン酸等が挙げられ、好ましくはクエン酸1水和物である。これらの有機酸は、硫黄を実質的に含まない化合物を使用することが重要である。
有機酸としてクエン酸を使用する場合は、クエン酸単独でもよいし、上記したコバルトやニッケル(8族金属)とのクエン酸化合物であってもよい。
有機酸の添加量は、特に制限はないが、得られる触媒中に前記の炭素含有量で炭素が残る量とすることが重要であり、また8族金属に対し、モル比で、有機酸/8族金属=0.2〜1.2とすることが好ましい。このモル比が0.2〜1.2であると、8族金属に帰属する活性点が十分に得られ、しかも含浸液の粘度が適度に維持されて、担持工程に時間を要しない。
なお、8族金属のクエン酸化合物を用いる場合、有機酸量が不足する時は、有機酸をさらに添加する。
【0046】
リン酸は、種々のリン酸、具体的には、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、ポリリン酸等が挙げられ、特にオルトリン酸が好ましい。
リン酸は、6族金属との化合物であるモリブドリン酸を用いることもできる。この場合、得られる触媒中に前記含有量でリンが含有されない場合には、リン酸をさらに添加する。
【0047】
なお、上記の6族金属の化合物や、8族金属の化合物が含浸溶液に十分に溶解しない場合には、これらの化合物と共に、酸(硝酸、有機酸《クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等》)を使用してもよく、好ましくは有機酸の使用であり、有機酸を用いる場合は、得られる触媒中に、この有機酸による炭素が残存することもあるため、触媒中の炭素含有量が上記範囲内となるように注意を払うことが重要である。
【0048】
上記の含浸溶液において、上記の各成分を溶解させるために用いる溶媒は、水である。
溶媒の使用量は、少なすぎれば、担体を充分に含浸することができず、多すぎれば、溶解した活性金属が担体上に含浸せず、含浸溶液容器のへりなどに付着してしまい、所望の担持量が得られないため、担体100gに対して、50〜90gであり、好ましくは60〜85gである。
【0049】
上記溶媒に上記各成分を溶解させて含浸溶液を調製するが、このときの温度は、0℃を超え100℃以下でよく、この範囲内の温度であれば、上記溶媒に上記各成分を良好に溶解させることができる。
【0050】
上記含浸溶液のpHは5未満が好ましい。pHが5未満の水素イオン濃度であると、有機酸と8族金属との間の配位能力が強く、8族金属との錯体が形成され、その結果、脱硫活性点(CoMoS相、NiMoS相)の数を大幅に増加させることができる。
【0051】
このようにして調製した含浸溶液に、上記の無機酸化物担体を含浸させて、これら溶液中の上記の各成分を上記の無機酸化物担体に担持させる。
含浸条件は、種々の条件を採ることができるが、通常、含浸温度は、好ましくは0℃を超え100℃未満、より好ましくは10〜50℃、さらに好ましくは15〜30℃であり、含浸時間は、好ましくは15分〜3時間、より好ましくは20分〜2時間、さらに好ましくは30分〜1時間である。
なお、温度が高すぎると、含浸中に乾燥が起こり、分散度が偏ってしまう。
また、含浸中は、攪拌することが好ましい。
【0052】
溶液含浸担持後、常温〜80℃、窒素気流中、空気気流中、あるいは真空中で、水分をある程度(LOI《Loss on ignition》50%以下となるように)除去し、この後、空気気流中、窒素気流中、あるいは真空中で、200℃以下、好ましくは80〜200℃で10分〜24時間、より好ましくは100〜150℃で5〜20時間の乾燥を行う。
乾燥を、200℃より高い温度で行うと、金属と錯体化していると思われる有機酸が触媒表面から離脱し、その結果、得られる触媒を硫化処理しても上記の活性点(CoMoS相、NiMoS相等)形成の精密制御が困難となり、不活性なコバルト、ニッケル種であるCo98種、Ni32種等が形成され、また二硫化モリブデンの平均積層数が2.5よりも少なくなると考えられ、低脱硫活性の触媒となる。
【0053】
なお、本発明において、触媒の形状は、特に限定されず、通常、この種の触媒に用いられている種々の形状、例えば、円柱状、三葉型、四葉型等を採用することができる。触媒の大きさは、通常、直径が1〜2mm、長さ2〜5mmが好ましい。
触媒の機械的強度は、側面破壊強度(SCS《Side crush strength》)で2lbs/mm以上が好ましい。SCSが、これより小さいと、反応装置に充填した触媒が破壊され、反応装置内で差圧が発生し、水素化処理運転の続行が不可能となる。
触媒の最密充填かさ密度(CBD:Compacted Bulk Density)は、0.6〜1.2(g/ml)が好ましい。
また、触媒中の活性金属の分布状態は、触媒中で活性金属が均一に分布しているユニフォーム型が好ましい。
【0054】
本発明の水素化処理方法は、水素分圧3〜8MPa、300〜420℃、及び液空間速度0.3〜5hr-1の条件で、本発明の触媒と硫黄化合物を含む軽油留分とを接触させて脱硫を行い、軽油留分中の難脱硫性硫黄化合物を含む硫黄化合物を減少する方法である。
本発明の方法で得られる生成油は、従来技術によるよりもより硫黄分及び窒素分を少なくすることができる。
【0055】
本発明の水素化処理方法を商業規模で行うには、本発明の触媒の固定床、移動床、あるいは流動床式の触媒層を反応装置内に形成し、この反応装置内に原料油を導入し、上記の条件下で水素化反応を行えばよい。
最も一般的には、固定床式触媒層を反応装置内に形成し、原料油を反応装置の上部に導入し、固定床を下から上に通過させ、反応装置の上部から生成物を流出させるものである。
また、本発明の触媒を、単独の反応装置に充填して行う一段の水素化処理方法であってもよいし、幾つかの反応装置に充填して行う多段連続水素化処理方法であってもよい。
【0056】
なお、本発明の触媒は、使用前に(すなわち、本発明の水素化処理方法を行うのに先立って)、反応装置中で硫化処理(予備硫化処理)して活性化する。この硫化処理は、200〜400℃、好ましくは250〜350℃、常圧あるいはそれ以上の水素分圧の水素雰囲気下で、硫黄化合物を含む石油蒸留物、それにジメチルジスルファイドや二硫化炭素等の硫化剤を加えたもの、あるいは硫化水素を用いて行う。
この硫化処理により、本発明の触媒は、前述したように、平均積層数で2.5〜5の二硫化モリブデンの層を形成し、この二硫化モリブデンのリム−エッジ部分に、高活性なCoMoS相やNiMoS相の活性点を形成することとなる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0058】
実施例1(触媒Aの調製)
イオン交換水33.3gにモリブドリン酸19.02g、炭酸コバルト5.51g、オルトリン酸2.5gおよびクエン酸1水和物7.10gを溶解させた。この水溶液の全てをナス型フラスコ中で、平均細孔直径12nmのアルミナペレット50gに滴下した後、室温で3時間浸漬した。この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で16時間乾燥させ、触媒Aを得た。
【0059】
実施例2(触媒Bの調製)
SiO2/Al23モル比6のHYゼオライト粉末(平均粒子径3.5μm、粒子径6μm以下のものがゼオライト全粒子の87質量%)と、アルミナ水和物を混練し、押出成形後、600℃で2時間焼成して直径1/16インチの柱状成形物のゼオライト−アルミナ複合担体(ゼオライト/アルミナ質量比:7/93)を得た。
さらにイオン交換水33.3gに、モリブドリン酸19.02g、炭酸コバルト5.51g、オルトリン酸2.5gおよびクエン酸1水和物7.10gを溶解させた。この水溶液の全てをナス型フラスコ中で先ほどのゼオライト−アルミナ複合担体50.0gを投入し、そこへ上記の含浸溶液の全量をピペットで添加し、室温で3時間浸漬した。
この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で16時間乾燥させ、触媒Bを得た。
【0060】
実施例3(触媒Cの調製)
平均細孔直径が14.2nmのアルミナペレットを使用する以外は実施例1と同様に行い、触媒Cを調製した。
【0061】
実施例4(触媒Dの調製)
イオン交換水33.3gにモリブドリン酸19.02g、クエン酸コバルト12.5g、オルトリン酸2.5gを溶解させた。この水溶液の全てをナス型フラスコ中で、平均細孔直径12nmのアルミナペレット50gに滴下した後、室温で3時間浸漬した。この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で16時間乾燥させ、触媒Dを得た。
【0062】
比較例1(触媒aの調製)
イオン交換水33.3gにモリブドリン酸19.02g、炭酸コバルト5.51g、オルトリン酸2.5gおよびクエン酸1水和物7.10gを溶解させた。この水溶液の全てをナス型フラスコ中で、平均細孔直径6.5nmのアルミナペレット50gに滴下した後、室温で3時間浸漬した。この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で16時間乾燥させ、触媒aを得た。
【0063】
比較例2(触媒bの調製)
イオン交換水33.3gにモリブドリン酸19.02g、炭酸コバルト5.51g、オルトリン酸2.5gを溶解させた。この水溶液の全てをナス型フラスコ中で、平均細孔直径12nmのアルミナペレット50gに滴下した後、室温で3時間浸漬した。この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中500℃で4時間焼成を行い、触媒bを得た。
【0064】
比較例3(触媒cの調製)
イオン交換水33.3gにモリブドリン酸19.02g、炭酸コバルト5.51g、オルトリン酸2.5gおよびクエン酸1水和物7.10gを溶解させた。この水溶液の全てをナス型フラスコ中で、平均細孔直径18nmのアルミナペレット50gに滴下した後、室温で3時間浸漬した。この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で16時間乾燥させ、触媒cを得た。
【0065】
比較例4(触媒dの調製)
イオン交換水33.3gにモリブドリン酸19.02g、炭酸コバルト5.51g、オルトリン酸2.5gおよびクエン酸1水和物7.10gを溶解させた。この水溶液の全てをナス型フラスコ中で、平均細孔直径12nmのアルミナペレット50gに滴下した後、室温で3時間浸漬した。この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中500℃で4時間焼成を行い、触媒dを得た。
【0066】
以上の実施例及び比較例で得た触媒の元素分析値と物性値を表1に示す。
なお、触媒の分析に用いた方法及び分析機器を以下に示す。
〔1〕物理性状の分析
・比表面積は、窒素吸着によるBET法により測定した。
窒素吸着装置は、日本ベル(株)製の表面積測定装置(ベルソープ28)を使用した。
・細孔容積、平均細孔直径、及び細孔分布は、水銀圧入法により測定した。
水銀圧入装置は、ポロシメーター(MICROMERITICSAUTO−PORE 9200:島津製作所製) を使用した。
測定は、試料を真空雰囲気下、400℃にて1時間、揮発分を除去して行った。
・二硫化モリブデンの層の積層数は、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子社製商品名“JEM−2010”)を用いて、次の要領で測定した。
1)触媒を流通式反応管に詰め、室温で窒素気流中に5分間保持し、雰囲気ガスをH2S(5容量%)/H2に切替え、速度5℃/minで昇温し、400℃に達した後、1時間保持した。その後、同雰囲気下で200℃まで降温し、雰囲気ガスを窒素に切替え、常温まで降温し、硫化処理を終了した。
2)この硫化処理後の触媒をメノウ乳鉢で粉砕した。
3)粉砕した触媒の少量をアセトン中に分散させた。
4)得られた懸濁液をマイクログリッド上に滴下し、室温で乾燥して試料とした。
5)試料をTEMの測定部にセットし、加速電圧200kVで測定した。
直接倍率は20万倍で、5視野を測定した。
6)写真を200万倍になるように引き延ばし(サイズ16.8cm×16.8cm)、写真上で目視できる二硫化モリブデンの積層数を測り取った。
〔2〕触媒中の炭素の分析
炭素の測定は、ヤナコCHNコーダーMT−5(柳本製作所製)を用いて実施した。
測定方法以下の通りとした。
(1)触媒をメノウ乳鉢で粉体化する。
(2)粉体化した触媒7mgを白金ボードに乗せて焼成炉に入れる。
(3)950℃にて燃焼する。
(4)燃焼生成ガスを差動熱伝導度計に導き、触媒中の炭素量を定量する。
【0067】
【表1】

【0068】
〔減圧軽油の水素化処理反応〕
上記の実施例及び比較例で調製した触媒A〜D、a〜dを用い、原料油に減圧軽油を用い、下記に示す方法で評価した。
先ず、触媒を高圧流通式反応装置に充填して固定床式触媒層を形成し、下記の条件で前処理した。
【0069】
次に、反応温度に加熱した原料油と水素含有ガスとの混合流体を、反応装置の上部より導入して、下記の条件で脱硫反応を進行させ、生成油とガスの混合流体を、反応装置の下部より流出させ、気液分離器で生成油を分離した。
【0070】
触媒の前処理条件:
圧力(水素分圧);4.9MPa
硫化剤;ライトガスオイルもしくは上記の〔減圧軽油の水素化処理反応〕における原料油(アラビアンライト減圧軽油)
温度;290℃で15hr維持、次いで320℃で15hr維持のステップ昇温(昇温速度は25℃/hr)
【0071】
脱硫反応条件:
反応温度 ;360℃
圧力(水素分圧);4.9MPa
液空間速度 ;0.66hr-1
水素/オイル比 ;500m3(normal)/Kl
【0072】
原料油の性状:
油種 ;アラビアンライト減圧軽油
比重(15/4℃);0.9185
蒸留性状 ;初留点が349.0℃、50%点が449.0℃、
90%点が529.0℃、終点が566.0℃
硫黄成分 ;2.45質量%
窒素成分 ;0.065質量%
流動点 ;35℃アスファルテン;<100ppm
アニリン点 ;82℃
【0073】
脱硫活性については、以下の方法で解析した。
360℃で反応装置を運転し、20日経過した時点で生成油を採取し、生成油中の硫黄分と原料油の硫黄分および液空間速度から、脱硫反応速度定数(Ks)を求めた。このKs値の求め方を以下に示す。
生成油の硫黄分(Sp)の減少量に対して、1.5次の反応次数を得る反応速度式の定数を脱硫反応速度定数(Ks)とする。
なお、反応速度定数が高い程、触媒活性が優れていることを示している。
脱硫反応速度定数=2×〔1/(Sp)1.5-1−1/(Sf)1.5-1〕×(LHSV)
式中、Sf:原料油中の硫黄分(質量%)
Sp:反応生成油中の硫黄分(質量%)
LHSV:液空間速度(hr-1
比活性(%)=各脱硫反応速度定数/比較触媒aの脱硫反応速度定数×100
【0074】
原料油並びに生成油の硫黄濃度の分析はニューリー(株)社製、X線硫黄分析計(RX−610SA)で求めた。なお、反応速度定数が高い程、触媒の水素化脱硫活性が優れていることを示す。
触媒A、B、C、D、a、b、c、dの評価結果を、触媒aにおける反応速度定数を100とした場合の相対値で表2に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
表2に示される結果から、本発明の触媒は、水素化脱硫活性が高いことが判る。一方、活性金属のみ担持した触媒aでは、二硫化モリブデンの平均積層数も低く脱硫活性も悪い。また触媒cは、平均細孔直径が大きすぎるため、脱硫活性が悪いものと考えられる。また触媒b、dのようにクエン酸を添加しても(触媒d)あるいは添加せずとも(触媒b)、焼成を行うと分解して炭素原子が含有されず、二硫化モリブデン平均積層数が低く、脱硫活性が悪くなったものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸化物担体上に触媒基準、酸化物換算で、周期律表第6族金属から選ばれた少なくとも1種を10〜30質量%、周期律表第8族金属から選ばれた少なくとも1種を1〜15質量%、リンを1.5〜6質量%、炭素を2〜14質量%含み、比表面積が80〜145m2/g、細孔容積が0.35〜0.6m1/g、平均細孔直径が14nmを超え、18nm以下であることを特徴とする炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項2】
予備硫化処理後の触媒が、透過型電子顕微鏡により観察される二硫化モリブデン層の積層数の平均値が2.5〜5であることを特徴とする請求項1記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項3】
比表面積130〜500m2/g、細孔容積0.55〜0.9m1/g、平均細孔直径10〜14.5nmである無機酸化物担体上に、周期律表第8族金属から選ばれた少なくとも1種を含む化合物、周期律表第6族金属から選ばれた少なくとも1種を含む化合物、有機酸及びリン酸を含有する溶液を用い、触媒基準、酸化物換算で周期律第6族金属を10〜30質量%、周期律表第8族金属を1〜15質量%、リンを1.5〜6質量%、炭素を2〜14質量%となるように担持させ、200℃以下で乾燥させることを特徴とする請求項1または2記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2記載の触媒の存在下、水素分圧3〜8MPa、温度300〜420℃、液空間速度0.3〜5hr-1の条件で、軽油留分の接触反応を行うことを特徴とする炭化水素油の水素化処理方法。

【公開番号】特開2006−726(P2006−726A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178319(P2004−178319)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(590000455)財団法人石油産業活性化センター (249)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【Fターム(参考)】