説明

炭化水素油中の微量成分を除去する吸着剤の製造方法及び吸着剤

【課題】比表面積が高く、硬くかつかさ密度の高い活性炭からなり、炭化水素油中の微量成分を効率的に吸着除去する吸着剤、その製造方法、並びに該吸着剤を用いる炭化水素油中の微量成分の除去方法及び燃料電池システムを提供する。
【解決手段】本発明は、植物系バイオマス又は植物系バイオマスの予備炭化処理物に糖類からなるバインダーを加え、混練、成形後、炭化処理して成形炭化処理物を得る成形炭化処理工程、及び得られた成形炭化処理物にバインダーを含浸後、賦活処理して成形賦活処理物を得る賦活処理工程を含む吸着剤の製造方法、斯かる製造方法で得られた、比表面積が600m/g以上、平均細孔幅が1.0nm以上である賦活処理物を含む炭化水素油中の微量成分を除去する吸着剤、該吸着剤を用いる炭化水素油中の微量成分の除去方法、又は前記吸着剤を装備した燃料電池システムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素油中の微量成分、例えば硫黄化合物や多環芳香族化合物を吸着除去する吸着剤の製造方法、及び該製造方法で得られた吸着剤、並びに該吸着剤を用いる炭化水素油中の微量成分の除去方法及び該吸着剤を装備した燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化ガスであるCOガスや、NO等の自動車排出ガスの排出量を削減する観点から、燃料内に含まれる硫黄分の一層の低減が、社会から強く望まれている。我が国では、近い将来には、ガソリン及び軽油に含まれる硫黄分は10質量ppm以下に規制されると言われている。一方、昨今の燃料電池の技術革新には目を見張るものがある。水素源を石油系燃料に求めた場合、燃料油中に含まれる硫黄分をppbレベルまで低減しなければ、燃料電池の改質器及び電極部の触媒が硫黄分により被毒され、燃料電池システムの機能が低下し、所望する寿命が得られない。このような背景から、超低硫黄分の石油系燃料油を得る脱硫技術が盛んに研究されている。
【0003】
従来の水素化脱硫方法で除去が難しい難脱硫化合物の大部分は、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類である。灯油の場合、特にベンゾチオフェン類の割合が大きく、全硫黄化合物に対するベンゾチオフェン類の割合は、硫黄分として70%以上であることが多い。しかしながら、含有量の少ないジベンゾチオフェン類の方が除去は困難であり、特にアルキル基を多く有するアルキルジベンゾチオフェン類の除去が非常に困難である。一方で、簡単な操作で、容易に効率的に脱硫できる方法が求められており、例えば、還元処理や水素を必要とせず、また、加圧を必要としないで、かつ室温から150℃程度までの比較的低い温度下で、ジベンゾチオフェン類を効率的に除去できる脱硫剤が熱望されている。脱硫剤は、製油所等で大量に使用するには、除去性能だけでなく、安価で経済性も優れていなければならない。
【0004】
特定の細孔構造を有する活性炭、特に繊維状活性炭は、軽油や灯油に含まれるジベンゾチオフェン類に対して高い除去性能を有することが報告されている(特許文献1)。しかし、繊維状活性炭は綿状であるために充填密度を高くできないため、単位容積当たりの吸着性能が高くないこと、製造工程が複雑で製造コストが極めて高く経済的ではないという課題が存在する。
【0005】
本発明者等は、植物系バイオマスを減圧下にて300〜900℃で炭化処理することにより、又は減圧下及び/又は不活性雰囲気下に200〜900℃で炭化した後に、さらに賦活処理することにより得られた、比表面積200m/g以上、平均細孔幅2.0nm以上である炭化処理物又は賦活処理物は、炭化水素油中の微量成分の除去に好適に使用できること、特に籾殻を原料として上記にようにして得られる活性炭に燃料油中の難脱硫化合物であるジベンゾチオフェン類の吸着能力に優れていることを見出している(特許文献2)。しかし、炭化・賦活処理を経由した籾殻活性炭は非常に脆く、流通式の硫黄分吸着除去装置で使用した場合、流動圧により容易に粉砕されてしまうことから、後続の設備に悪影響を及ぼさないように粉砕された活性炭をフィルター等の設備で取り除くなど、余計な設備の設置を余儀なくされる。これを防ぐためには、少なくとも脱硫中に粉砕されない程度に活性炭の強度を上げるか、硬い粒状などに成形する等の改善が望まれている。
【特許文献1】国際公開第WO2003/097771号パンフレット
【特許文献2】特願2007−66492号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は係る状況下においてなされたものであり、比表面積を高くでき、硬くかつかさ密度の高い活性炭からなり、炭化水素油中の微量成分を効率的に吸着除去する吸着剤を製造する方法を提供することを課題とする。また、本発明は、斯かる製造方法で得られた吸着剤、並びに該吸着剤を用いる炭化水素油中の微量成分の除去方法及び燃料電池システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記の目的を達成するため、炭化水素油中の微量成分を除去する吸着剤の主要材料である活性炭の炭素源と適切なバインダーの選択、及び、その添加量、炭化・賦活温度などの製造条件を鋭意検討した結果、高い成形性を実現して、形状維持性に優れつつ、単位体積当たりの吸着能力、特にジベンゾチオフェン類に対する吸着能力に秀でた成形籾殻活性炭に代表される成形賦活処理物からなる吸着剤を製造する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1) 活性炭を含む吸着剤の製造方法において、植物系バイオマスに糖類からなる成形用バインダーを加えて混練して成形した後、炭化処理して成形炭化処理物を得る成形炭化処理工程、及び得られた成形炭化処理物に糖類からなる含浸用バインダーを加えて含浸させた後、賦活処理して活性炭である比表面積600m/g以上の成形賦活処理物を得る賦活処理工程を含む炭化水素油中の微量成分を除去する吸着剤の製造方法。
【0009】
(2) さらに、成形賦活処理物に、再び糖類からなる含浸用バインダーを含浸させ第2の賦活処理を行い比表面積600m/g以上の第2の成形賦活処理物を得る第2の賦活処理工程を含む上記(1)に記載の吸着剤の製造方法。
(3) さらに、成形炭化処理工程の前に、植物系バイオマスに糖類からなる含浸用バインダーを含浸させ炭化処理を行う含浸炭化処理工程を含む上記(1)又は(2)に記載の吸着剤の製造方法。
(4) さらに、植物系バイオマスを予備炭化して予備炭化処理物を得る予備炭化処理工程を含む(1)〜(3)の何れかに記載の吸着剤の製造方法。
(5) 予備炭化処理が、不活性雰囲気下、200〜600℃で、0.01〜2時間実施され、含浸炭化処理及び成形炭化処理が、それぞれ不活性雰囲気下、200〜900℃で、0.01〜2時間実施され、かつ、賦活処理及び第2の賦活処理が、それぞれ二酸化炭素雰囲気下、800〜900℃で、0.1〜4時間実施される上記(1)〜(4)の何れかに記載の吸着剤の製造方法。
(6) 植物系バイオマスが、イネの籾殻である上記(1)〜(5)の何れかに記載の吸着剤の製造方法。
(7) 糖類が、甜菜糖、黒糖及び甘しゃ糖から選択される少なくとも1種である上記(1)〜(6)の何れかに記載の吸着剤の製造方法。
【0010】
(8) 上記(1)〜(7)の何れかに記載の吸着剤の製造方法で得られた、比表面積が600m/g以上、平均細孔幅が1.0nm以上である賦活処理物及び/又は第2の成形賦活処理物を含む炭化水素油中の微量成分を除去する吸着剤。
【0011】
(9) 上記(8)に記載の吸着剤を用い、炭化水素油中に含まれる硫黄化合物及び/又は多環芳香族化合物を吸着除去することを特徴とする炭化水素油中の微量成分の除去方法。
(10) 炭化水素油が灯油又は軽油である上記(9)に記載の除去方法。
(11) 150℃以下の温度において硫黄化合物を吸着除去する上記(9)又は(10)に記載の除去方法。
【0012】
(12) 上記(8)に記載の吸着剤を装備したことを特徴とする燃料電池システム。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、植物系バイオマス、特にイネから得られる籾殻の炭化物と、糖類からなるバインダーとを混練して成形した後、炭化処理して成形炭化処理物を得、該成形炭化処理物に糖類からなるバインダーを含浸し、賦活処理して得られた活性炭からなる吸着剤であるから、比表面積を高くでき、形状維持性に優れ、かさ密度も比較的高い吸着剤を提供することができる。このため、本発明の吸着剤は、単位体積(容量)当たりの吸着性能が高く、炭化水素油、特には硫黄化合物としてジベンゾチオフェン類を含む、あるいは多環芳香族化合物を含む灯油や軽油などの炭化水素油と、還元処理や水素添加を行わず、室温から150℃程度までの温度で、液相状態で接触させることにより、効率的に吸着除去することができる。また、微量成分の硫黄化合物及び/又は多環芳香族化合物を吸着除去する際に、形状維持性に優れているため、吸着剤が粉砕されることによる目詰まりや装置の閉塞が発生する虞が低減される。このため、フィルター等の余計な設備を省くこともでき、従来のものよりコンパクトで、かつ、より低廉なコストの設備で除去することが可能となる。さらに、燃料電池の原燃料である灯油などの脱硫に適用した場合には、起動やメンテナンスが比較的容易であり、また燃料電池のシステムを簡略化することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
〔植物系バイオマス〕
本発明に使用し、炭化処理工程、賦活処理工程を経て、成形賦活処理物となる植物系バイオマスとしては、木材、ヤシ殻、イナワラ、籾殻、パルプ廃液などが挙げられるが、特にイネから得られる籾殻が好ましく用いられる。籾殻から得られた成形賦活処理物はいわゆる活性炭の1種であり、これからなる吸着剤は炭化水素油中に含まれる硫黄化合物及び/又は多環芳香族化合物の除去性能に優れた性能を発揮する。植物系バイオマス、特に籾殻の場合には、含有するシリカなどの無機成分が、メソ孔やマクロ孔を発達させているものと推察される。さらに、籾殻は毎年安定量産出され、安定的に供給可能であるという利点を有し、また、殆どが焼却処分されていることから資源の有効活用にも資する。
【0015】
〔糖類からなるバインダー〕
本発明に使用するバインダーには、糖類からなるバインダーを使用する。
糖類としては、甜菜絞り汁、甘しゃ(さとうきび)絞り汁、甜菜糖、甘しゃ糖、糖蜜、廃糖蜜、含蜜糖、分蜜糖、黒糖、砂糖、ショ糖、デンプン、オリゴ糖などが挙げられる。これらは、主にセルロース、糖類、でんぷんなどの炭水化物系の成分で構成され、活性炭の原料である植物系バイオマスと主成分が同じ炭水化物であるせいか、馴染み(親和性、構造類似性)がよく、両者の混合性が良好であり、得られる活性炭の強度は高くなり、また、比表面積も向上する。これらのなかでも、比較的容易に入手できる甜菜絞り汁、甘しゃ絞り汁、甜菜糖、甘しゃ糖、黒糖、デンプンが好ましく、甜菜絞り汁、甜菜糖が特に好ましい。
【0016】
上記の糖類は、乾燥状態では粘着性を持たないので、バインダーとして使用するには、例えば絞り汁などのように液状となっている場合はそのまま用いることもできるが、煮詰めて濃縮し粘性を高めて用いることが好ましい。また、上記の糖類は、水分含有量を減じた固形状ないし粉末状で取り扱われることが多い。糖類がこのような固体状態、乾燥状態の場合は、水に溶かして用いるか、絞り汁などと同様に必要によっては、煮詰めて濃縮して用いても良い。
【0017】
バインダーは、ここで、成形加工しにくい植物系バイオマス又は炭化処理物と混ぜ合わせバインダーの粘着力を利用して固めて成形炭化処理物などを得るために用いる成形用バインダーと、炭化処理物や成形炭化処理物の比表面積や強度を改善するために、炭化処理をする前に又は賦活処理をする前に植物系バイオマス又は炭化処理物に含浸させて用いる含浸用バインダーがある。
【0018】
成形用バインダーは、粉末状又は固形状の糖類にほぼ同じ質量の水を加えて撹拌して均一な糖の水溶液を調製する。このとき、熱すると溶解性が高くなり、速く溶解することができる。さらに、沸騰させると、強力な撹拌効果も加わり、効率よく均一な糖の水溶液を得ることができる。穏やかな沸騰を続けて水分を蒸発すると、成形用バインダーに好適に用いることができる、粘性のあるシロップ状態の液体(糖水溶液)を得ることができる。成形用バインダーは、吸着剤として用いるのに好適な形状に、炭素材料などの成分同士を強力に結合するために、また、その成形加工をしやすくするために用いる。水分の割合が多過ぎると成形できなくなったりして加工の効率が損なわれる。少な過ぎる場合には混合ないし混練中に水を追加して調整することができるので、適度に粘性のある、例えばゆるい蜂蜜程度の粘度を有するシロップ状の糖水溶液を用いることが好ましい。粘度は水分量によって調整することができる。粘度を高くする場合、一旦多めの量の水を添加して十分均一な組成の糖水溶液を調製した後、加熱して水分を蒸発させて、所望の粘度のシロップ状の糖水溶液に調製することが好ましい。
【0019】
成形用バインダーの使用量は、植物系バイオマス又は炭化処理物が所望の形状に成形することができる量を配合すればよく、特に限定しないが、成形加工する乾燥させた植物系バイオマス又は炭化処理物100質量部に対して、5〜200質量部程度使用することが好ましい。なお、上記のバインダーの使用量は、水分を除いた残量を基準(乾燥基準)とする。
【0020】
含浸用バインダーとしては、粉末状の糖類を1〜20倍の質量の水に約60℃で均一に溶解した、成形用バインダーよりもはるかに低粘度な糖水溶液を用いることができる。
炭化処理物及び賦活処理物あるいは乾燥させた植物系バイオマス又は予備炭化処理物に対するこれらバインダーの使用量は、特に限定するものではないが、これらの処理物100質量部に対して、5〜200質量部程度(乾燥基準)使用することが好ましく、より好ましくは20〜100質量部である。5質量部よりも少ないと、得られる活性炭の強度が低くなる。また、200質量部よりも多いと、籾殻などの活性炭の特長である細孔構造が十分に得られなくなる。
【0021】
〔予備炭化処理工程〕
植物系バイオマスは、まず、不活性雰囲気下において、加熱し炭化処理を行うことが好ましい。炭化処理温度は、200〜600℃といった比較的低い温度で行うことが好ましい。そこで、ここでは、この比較的低い温度でおこなう炭化を予備炭化と呼ぶ。この予備炭化処理を行うことによって、水分や上記の温度で揮発する揮発成分が取り除かれ、以後の炭化処理工程や賦活処理工程において、これらの揮発成分による処理物の割れなどの不具合や、炭化炉並びに賦活炉の不要な汚れを防止することができ、また、取扱性も格段に向上する。
【0022】
不活性雰囲気としては、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気や真空雰囲気などが挙げられるが、経済性等の観点から、窒素雰囲気下に予備炭化処理を行うことが好ましい。なお、予備炭化処理の炭化時間は0.01〜2時間程度行うことが好ましい。
予備炭化処理を行うにあたって植物系バイオマスは、取り扱いやすい大きさに整えておくことが好ましい。例えば、籾殻はそのままでかまわないが、木材、ヤシ殻、イナワラなどは5cm程度のいわゆる木材チップや爪楊枝程度のなかたちに整えておくことが好ましい。
予備炭化処理は、不活性雰囲気下に炭化処理を行えるものであれば特に限定されないが、雰囲気炉、ロータリーキルンなどの炉を用いて行うことができる。
【0023】
〔成形炭化処理工程(成形炭化処理物を得る工程)〕
植物系バイオマスをそのまま成形炭化処理工程に用いる場合は、予め乾燥して使用する。例えば、50〜150℃、好ましくは80〜130℃で1〜24時間程度乾燥する。
上記の乾燥させた植物系バイオマス(乾燥植物系バイオマスと言うことがある)又は予備炭化処理物を1〜500μm程度、好ましくは5〜50μm、に粉砕して、これに、糖類からなる上記の成形用バインダーを加えて、十分に混合する。成形用バインダーの配合量は特に限定するものではないが、乾燥植物系バイオマス又は予備炭化処理物100質量部に対して成形用バインダーを5〜200質量部(乾燥基準の糖分量として)均一に混合させることが好ましい。成形用バインダーは、乾燥植物系バイオマス又は予備炭化処理物の粉砕物と攪拌機、混合機、混練機、捏和機など市販の各種の混合用機械を用いて十分均一に混合することができる。混合物は、適宜の成形機を用いて成形物に成形する。混合物の状態が、パサパサであったり、ゆるゆるのペースト状の場合、加圧成形できないことがある。パサパサの場合は、水を加えて、含浸炭化処理物と成形用バインダー中の糖類との混合比率変えることなく、調整することができる。ゆるいペースト状の場合、含浸炭化処理物の配合量を増やすと前記の混合比率が変化する。したがって、成形用バインダーはこのようなことが生じない程度に糖類の含有量が高いシロップ状の糖水溶液を調製しておくことが好ましい。
【0024】
成形物の形状は、特に限定するものでないが、球状、粒状、柱状(断面は円、角又は四つ葉などの異形など)、筒状、ペレット状、ハニカム状などが挙げられる。脱硫剤として用いるとき、硫黄化合物の濃度勾配を大きくするため、流通式の場合には脱硫吸着剤を充填した容器前後の差圧が大きくならない範囲で小さい形状、特には球状が好ましい。球状の場合の大きさは、直径は0.5〜5mmが好ましく、1〜3mmが特に好ましい。円柱状の場合、直径は0.1〜4mmが好ましく、特に好ましくは0.2〜2mmであり、長さは直径の0.5〜5倍が好ましく、1〜4倍が特に好ましい。このような形状の成形物の成形方法は特に限定するものではなく、市販の各種の押出し成形機、プレス成形機、打錠機、錠剤機などを用いて行うことができる。さらに、ニーダーと押出機を組み合わせてペレット状や柱状の成形物を得ることもできる。
【0025】
このようにして得られた乾燥植物系バイオマス又は予備炭化処理物と成形用バインダーとの成形された混合物は、炭化処理に先立って、例えば、100〜150℃、好ましくは105〜130℃で1〜2時間程度乾燥する。
【0026】
次いで、不活性雰囲気下にて好ましくは200〜900℃で、0.01〜2時間炭化処理を行い、成形炭化処理物を得る。不活性雰囲気は、予備炭化処理の場合と同様に、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気や真空雰囲気などが挙げられるが、経済性等の観点から、窒素気流下に行うことが好ましい。適宜の量の窒素ガスを流すことによって、成形物から発生する水分や揮発成分を除去するとともに、炭化炉内の雰囲気を均一にすることができる。炭化処理温度は、400〜900℃がより好ましく、さらに好ましくは500〜900℃であり、特に好ましくは700〜900℃である。後述の含浸後の炭化処理(含浸炭化処理)の温度と同じか又はより高い温度で行うことが好ましく、後述の賦活処理の温度と同じ温度で行うことが特に好ましい。また、炭化時間は、0.03〜1時間がより好ましく、さらに好ましくは0.05〜0.2時間である。
【0027】
なお、成形炭化処理を行う前に、乾燥植物系バイオマス又は予備炭化処理物に、糖類からなる含浸用バインダーを含浸して炭化処理(含浸炭化処理)をしておくことが、細孔構造の局所的なムラを少なく、且つ、比表面積を大きくできることから好ましい。このときの成形炭化処理は、その原料として、乾燥植物系バイオマス又は予備炭化処理物でなく、乾燥植物系バイオマス又は予備炭化処理物に含浸用バインダーを含浸して炭化処理(含浸炭化処理)して得た含浸炭化処理物を使用する以外は、上記の乾燥植物系バイオマス又は予備炭化処理物を用いる場合と全く同じ方法で行うことができる。
【0028】
含浸法としては、公知の方法、例えばスプレー法、浸漬法、蒸発乾固法などを使用できる。操作の容易さの観点から、スプレー法、浸漬法が好ましい。例えば、スプレー法の場合、乾燥植物系バイオマス又は予備炭化処理物に含浸用バインダーを満遍なく吹き付けてできるだけ均一に含浸させる。バインダーの含浸量は、乾燥植物系バイオマス又は予備炭化処理物100質量部に対して、5〜200質量部程度(乾燥基準)使用することが好ましい。一度のスプレーで所望量含浸できない場合には、一旦乾燥して再度含浸用バインダーを吹き付けることによって、さらに必要によりこの操作を繰り返すことによって、所望量のバインダーを含浸することができる。浸漬して含浸させる場合も、浸漬と乾燥の操作を繰り返すことによって、所望量含浸することができる。バインダーの含浸量は、乾燥しても糖類の乾燥基準の質量は変化しないので、含浸後の質量とバインダーの糖類濃度から含浸するたびに求めたそれぞれの含浸量を積算して把握することができる。
【0029】
バインダーの含浸後、100〜150℃、好ましくは105〜130℃で1〜2時間程度乾燥し、不活性雰囲気下にて炭化処理(含浸炭化処理)を行い、含浸炭化処理物を得る。この乾燥植物系バイオマス又は予備炭化処理物の含浸、乾燥後の炭化処理(含浸炭化処理)は、200〜900℃で、0.01〜2時間行う。炭化処理温度は、400〜900℃がより好ましく、さらに好ましくは500〜900℃であり、特に好ましくは700〜900℃である。また、炭化時間は、0.03〜1時間がより好ましく、さらに好ましくは0.05〜0.2時間である。
【0030】
以上より、植物系バイオマスの処理は、後述の賦活処理工程で賦活処理する前に、予備炭化処理工程、含浸炭化処理工程及び成形炭化処理工程の組み合わせにおいて、次のような形態で処理することができる。
(1)植物系バイオマスに成形用バインダーを加えて炭化処理して成形炭化処理物を得る(成形炭化処理工程のみ)
(2)植物系バイオマスに含浸用バインダーを含浸させ炭化処理した後、得られた含浸炭化処理物に成形用バインダーを加えて成形炭化処理して成形炭化処理物を得る(含浸炭化処理工程+成形炭化処理工程)
(3)植物系バイオマスを予備炭化して得た予備炭化処理物に成形用バインダーを加えて炭化処理して成形炭化処理物を得る(予備炭化処理工程+成形炭化処理工程)
(4)植物系バイオマスを予備炭化して得た予備炭化処理物に含浸用バインダーを含浸させ炭化処理した後、得られた含浸炭化処理物に成形用バインダーを加えて成形炭化処理して成形炭化処理物を得る(予備炭化処理工程+含浸炭化処理工程+成形炭化処理工程)
【0031】
〔賦活処理工程(成形賦活処理物を得る工程)〕
上記のようにして得られた成形炭化処理物に、糖類からなるバインダー(含浸用バインダー)を含浸させ、乾燥した後、賦活処理を行い、吸着剤に用いる活性炭としての成形賦活処理物を得る。
【0032】
含浸法としては、公知の方法、例えばスプレー法、浸漬法、蒸発乾固法など、上記の乾燥植物系バイオマス又は予備炭化処理物を含浸した方法を使用することができる。これらのなかで、操作の容易さの観点から、スプレー法、浸漬法が好ましい。1回の含浸操作で所望量の含浸用バインダーを含浸させることができない場合、一旦乾燥させた後、再度含浸操作を行い、バインダーの含浸量を増量することができる。これを繰り返すことよって所望の量の成形用バインダーを含浸させることができる。
【0033】
バインダーを含浸した成形炭化処理物は、100〜150℃、好ましくは105〜130℃で1〜2時間程度乾燥し、賦活処理を行う。賦活処理としては、ガス賦活、水蒸気賦活、薬剤賦活などが挙げられる。薬剤賦活の場合、賦活処理後に、賦活処理に用いた薬剤(KOH、NaOH、ZnCl、HSOなど)を賦活処理物から取り除く後処理を要するので面倒であり、手間がかかる。一方、ガス賦活又は水蒸気賦活は、ガス雰囲気下又は水蒸気雰囲気に熱処理を行えばよく、薬剤を取り除く余計な煩雑な操作を必要としない。したがって、水蒸気賦活又はガス賦活が好ましい。
【0034】
水蒸気賦活及びガス賦活に用いるガスとしては、水蒸気、炭酸ガス、空気、燃焼ガスなどが挙げられるが、二酸化炭素を用いるガス賦活を行うことが、賦活条件の制御が容易であり、ガスの取扱い並びに賦活後の後処理が容易であるので好ましい。具体的には、バインダーを含浸させ、乾燥した成形炭化処理物を、二酸化炭素雰囲気下に、好ましくは800〜900℃の賦活温度で、0.1〜4時間、より好ましくは0.5〜3時間、さらに好ましくは0.7〜2.3時間熱処理する。なお、二酸化炭素雰囲気とは、成形炭化処理物を収納する炉内の賦活ガスが二酸化炭素であることをいい、100%の二酸化炭素を用いても良いが、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスや、燃焼ガス、水蒸気などに二酸化炭素を混合したガスを用いることが好ましい。
【0035】
上記のように含浸用バインダーを含浸させた後、賦活処理して得られた賦活処理物に、再度、含浸用バインダーを含浸させて賦活処理(2段階賦活処理)することもできる。2段階賦活処理によると、得られた2段階賦活処理物は比表面積並びに全細孔容積が比較的大きく、さらに、かさ密度も比較的大きなものが得られるので好ましい。2段階賦活処理における含浸、乾燥、熱処理は上記賦活処理の場合と全く同じ条件下で行うことができる。
【0036】
〔吸着剤〕
本発明の吸着剤は、賦活処理物及び/又は2段階賦活処理物(以後、単に活性炭ともいう)をそのまま吸着剤として用いることができるし、あるいは後述するように、ゼオライトなどと混練、成形して用いることも、また活性金属を活性炭に担持し性能を向上させて用いることもできる。灯油や軽油などの炭化水素油に含まれる硫黄化合物及び/又は多環芳香族化合物を吸着除去するとき、粉末状、粒子状、又は球状、ディスク状、円柱状等の成形品など、上述の成形炭化処理工程のおける成形物の形状と同様にいずれの形ででも使用することが可能である。炭化水素油の処理量、設備の状況にあわせて好適な形状の吸着剤を選択、使用すればよい。
【0037】
粉末状や粒子状で用いる場合には、活性炭を公知の適当な粉砕機で粉砕後、公知の適当な分級機で分級し、平均粒径0.5μm〜0.1mm程度の粉末状、平均粒径0.1〜5mm程度の粒子状の活性炭に篩い分けて、それぞれの活性炭を使用条件に応じて、適宜使用することができる。
【0038】
吸着剤に炭化水素油を連続的に供給、通油して使用する場合、さらに劣化した吸着剤を再生して繰り返し使用する場合には、活性炭を成形品として使用することが好ましい。本発明の活性炭は、成形炭化処理物を賦活処理するので、そのままでも好適に使用できる。したがって、成形炭化処理物を得る成形炭化処理工程の成形過程で、処理対象の炭化水素油やその処理条件等の用途条件に適した形状に予め成形しておき、賦活処理後さらには金属担持後もその形状を保持することが好ましい。なお、賦活処理後、活性炭を粉砕しゼオライトなどの無機物や担持金属を混合した後、適宜の形状に成形してもよい。
【0039】
成形品の形状としては、硫黄化合物など、除去する微量成分の濃度勾配を大きくするため、流通式の場合には吸着剤を充填した容器前後の差圧が大きくならない範囲で小さい形状、特には球状が好ましい。球状の場合、大きさは、直径が0.1〜5mm、特には0.3〜3mmが好ましい。円柱状の場合には、直径が0.1〜4mm、特には0.12〜2mmで、長さは直径の0.5〜5倍、特には1〜4倍が好ましい。成形品は、吸着剤として使用中に割れを生じないように、0.5kg/ペレット以上、特には1.0kg/ペレット以上の破壊強度を有することが好ましい。なお、破壊強度は、例えば、木屋式錠剤破壊強度測定器(富山産業株式会社製、TH−203MP)等の圧縮強度測定器により測定される。
【0040】
本発明の吸着剤に使用する活性炭は、活性炭が吸着しにくい硫黄化合物などの吸着性能を向上するために、及び/又はメソ孔及びマクロ孔の存在量を増やして硫黄化合物などの拡散速度を向上するために、炭化処理、成形、賦活処理の途中又は後で、シリカ、アルミナ、ゼオライトなどの無機物を混合しても良い。
【0041】
また、銀、水銀、銅、カドミウム、鉛、モリブデン、亜鉛、コバルト、マンガン、ニッケル、白金、パラジウム、鉄などの金属及び/又は金属酸化物との複合化、すなわちこれらの金属を担持することにより吸着性能を向上させることもできる。安全性や経済性などから、好ましいのは銅、銀、マンガン、亜鉛、ニッケルの酸化物である。中でも銅は、安価な上に、常温付近から300℃程度の広い温度範囲で、また還元処理を行わない酸化銅の状態のまま、且つ、水素非存在下でも硫黄化合物の吸着に優れた性能を示すので特に好ましい。
【0042】
金属の好ましい担持量は、特に限定するものでなく、金属の種類によっても異なるが、仕上がりの吸着剤に対する金属基準で、貴金属の場合0.1〜20質量%、特には0.5〜5質量%担持することが好ましい。0.1質量%よりも少ないと担持効果が少なく、20質量%よりも多いと経済的でない。銅及びその他の金属の場合0.1〜60質量%、特には3〜20質量%担持することが好ましい。0.1質量%よりも少ないと担持効果が少なく、60質量%より多いと担体である活性炭との結合が弱い金属が多くなることから、金属成分が脱離する可能性がある。金属担持量が多いと活性炭が吸着しにくいチオフェン類やベンゾチオフェン類などの硫黄化合物の吸着性能をより向上することができる。
【0043】
これらの金属の担持方法は、特に限定するものでなく、所望量の金属が担持され、所望の性能を発揮するどのような方法で行ってもよい。例えば、成形賦活処理物(活性炭)に金属の水酸化物や硝酸化物の水溶液をスプレー法、浸漬法で含浸し、あるいは、活性炭を粉砕し、金属の水酸化物や硝酸化物の水溶液を練り込んで成形し、乾燥後、炭素成分を失わないようにさらに熱して水分、あるいは硝酸分を除去して本発明の吸着剤を得ることができる。
【0044】
本発明の吸着剤の比表面積、平均細孔幅、細孔容積などの細孔特性は、脱硫などの吸着性能に大きく影響する。本発明の吸着剤の比表面積は、600〜4,000m/gが好ましく、さらには700〜3,000m/g、特には800〜2,000m/gが好ましい。また、平均細孔幅は細孔容量に比例し、比表面積に反比例する。平均細孔幅が大きすぎると、細孔容量が大きすぎて十分な密度が得られなくなり、単位体積当たりの吸着容量が低くなる。また、平均細孔幅が大きすぎると、比表面積が小さすぎて十分な吸着サイトが得られなくなり、やはり吸着容量が低くなる。本発明の吸着剤の平均細孔幅は、1.0〜4.0nmが好ましく、さらには1.0〜2.0nmが好ましく、特には1.0〜1.5nmが好ましい。細孔容量は、比表面積とも関係があるが、0.30cm/g以上が好ましく、さらには0.40cm/g以上、特には0.50cm/g以上が好ましい。また、本発明の吸着剤は、成形賦活処理物又は第2の成形賦活処理物がそのまま使用されることがあるので、成形賦活処理物及び第2の成形賦活処理物の比表面積、平均細孔幅、細孔容積などの細孔特性は、吸着剤に関する上記の範囲と同じ細孔特性を適用することができる。
【0045】
細孔特性はガス吸着分析器(Autosorb−3B、カンタクロム社、米国フロリダ州)を用いて分析できる。例えば、まず−196℃において、窒素ガスの相対圧力を関数とした窒素ガスの吸着量(これを窒素吸着等温線という)を得る。この窒素吸着等温線から、全細孔容積、BET比表面積、平均細孔幅を算出する。相対圧力が0.995での窒素吸着容積で全細孔容積を決定できる。BET比表面積は0.05−0.10の相対圧力での窒素吸着容積で求める。平均細孔幅は細孔がスリット状と仮定して2×全細孔容積/BET比表面積で求めることができる。多孔体の吸着能力は、比表面積や細孔容積ですべて説明できるものではないが、一般的には高い比表面積、又は大きい全細孔容積が望ましい。細孔は幅が2.0nm以下のマイクロ孔、2.0〜50nmのメソ孔、それ以上のマクロ孔に分類され、マイクロ孔は、さらに0.7nm未満のウルトラマイクロ孔と0.7〜2.0nmのスーパーマイクロ孔に分類される。
【0046】
細孔幅を関数とした細孔容積の細孔分布はDensity Functional Theory (DFT)法を用いて解析できる。DFT法は得られた窒素吸着等温線より数値解析を経て細孔分布を得る方法であり、DFTソフトウェア(カンタクロム社、Version 1.62)を用いて解析できる。ウルトラマイクロ孔容積が大きいと、比表面積が大きくなることから、吸着サイトが多くなり好ましい。また、メソ孔容積が大きいと、細孔幅が大きくなり、硫黄化合物が吸着サイトまで移動することが容易となる。従って、ウルトラマイクロ孔容積及びメソ孔容積が大きい活性炭が好ましい。籾殻活性炭は、シリカを含むことからメソ孔容積は元来多いので、メソ孔容積を低下させずにウルトラマイクロ孔容積を増大させる製造方法が有効である。本発明の含浸用バインダーを含浸させ、炭化処理及び賦活処理する方法は、メソ孔容積の低下を最小限に抑制し、尚且つ、ウルトラマイクロ孔容積を増大させる効果が顕著である。
【0047】
〔微量成分の吸着除去〕
本発明の吸着剤が適用対象とする炭化水素油としては、硫黄化合物としてジベンゾチオフェン類を含む、或いは多環芳香族化合物を含む炭素数5〜20の炭化水素油を挙げることができる。具体的には、灯油、軽油などが挙げられ、特には高度に(深度に)脱硫する必要のある燃料電池用の灯油が挙げられる。
【0048】
これらの炭化水素油は、チオフェン類、メルカプタン類(チオール類)、スルフィド類、ジスルフィド類、二硫化炭素など、どんな種類の硫黄化合物を含有していても構わないが、本発明の吸着剤は、特に脱硫することが極めて困難なジベンゾチオフェン類などの硫黄化合物を含有した炭化水素油に対して顕著な効果を発揮する。例えば、全硫黄化合物に対するジベンゾチオフェン類の割合は、灯油では30%前後、軽油ではほぼ100%であり、灯油や軽油などの炭化水素油は本発明の吸着剤の適用対象として好ましい炭化水素油である。もちろん、本発明の吸着剤の適用対象は灯油や軽油に限定されるものではない。
【0049】
これらの硫黄化合物の定性及び定量分析には、ガスクロマトグラフ(Gas Chromatograph:GC)−炎光光度検出器(Flame Photometric Detector:FPD)、GC−原子発光検出器(Atomic Emission Detector:AED)、GC−硫黄化学発光検出器(Sulfur Chemiluminescence Detector:SCD)、GC−誘導結合プラズマ質量分析装置(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometer:ICP−MS)などを用いることができるが、質量ppbレベルの分析にはGC−ICP−MSが最も好ましい(特開2006−145219号公報参照)。
【0050】
また、多環芳香族化合物は、ベンゼン環を2個以上有する化合物であり、炭素と水素以外のヘテロ原子を含有していても構わないが、2個のベンゼン環を形成する炭素がすべて同一平面上に位置する方が、本発明の吸着剤とのπ電子相互作用が強く、本発明の効果を顕著に得ることができる。
【0051】
炭化水素油から硫黄分や多環芳香族化合物などの不純物を本発明の吸着剤で除去する場合、それら不純物の含有量が多すぎると大量の吸着剤を必要とすることになり、不経済である。このような場合、水素化精製法など他の精製法の方が効率的であることから、本発明で取り扱い対象とする炭化水素油中の硫黄分は20質量ppm以下、好ましくは10質量ppm以下、さらに好ましくは1質量ppm以下であり、多環芳香族化合物の含有量は5質量%以下、好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
【0052】
吸着剤は、使用する前に前処理として吸着剤に吸着した微量の水分を除去しておくことが好ましい。水分除去は、空気などの酸化雰囲気下ならば100〜200℃程度で乾燥すればよい。しかし、200℃を超えると空気中の酸素と吸着剤の炭素成分が反応して吸着剤の質量が減少するので好ましくない。一方、窒素などの非酸化雰囲気下では吸着剤を100〜800℃程度で乾燥することができる。特に非酸化雰囲気下で吸着剤を400〜800℃で熱処理を行うと、有機物や酸素含有官能基などが除去され、吸着性能が向上するので一層好ましい。
【0053】
本発明の吸着剤と炭化水素油とを接触させる方法は、回分式(バッチ式)でも連続式でも良いが、成形品の吸着剤を充填した容器に炭化水素油を流通する連続式が効率的であり好ましい。
連続式の場合、接触させる条件としては、圧力は、常圧〜1.0MPaGが好ましく、常圧〜0.1MPaGがより好ましく、特には0.001〜0.3MPaGが好ましい。流量は、液空間速度(LHSV)で0.001〜100hr−1が好ましく、0.01〜10hr−1がより好ましい。見掛けの線速度(炭化水素油の流量を脱硫剤層の断面積で割った値)は、0.001〜100cm/分、更には0.005〜10cm/分、特には0.01〜1cm/分が好ましい。見掛けの線速度が大きいと、吸着速度(液相から固相への移動速度)に比べて液相自体が吸着剤の充填層を通過する移動速度が速くなり、液相が吸着層出口に到達するまでに硫黄分が除去しきれず、除去されない硫黄分を含有したまま炭化水素油は出口から流出されてしまうといった問題が生じやすくなる。逆に見掛けの線速度が小さいと、吸着剤層の断面積が相対的に大きくなることから、液体の分散状態が不良となり、吸着剤層の流れ方向と直角な断面を通過する炭化水素油の流速(流量)にムラが生じ、吸着剤層の断面において吸着した硫黄分に分布(ムラ)が生じるため、脱硫剤への負荷が不均一になり、やはり十分効率的に脱硫することができない。
脱硫処理を行う温度は、10〜150℃が好ましく、特には30〜100℃が好ましい。
【0054】
燃料電池システムにおいて、本発明の吸着剤を使用する場合には、本発明の吸着剤と他の吸着剤とを組み合わせて使用しても良い。
本発明の吸着剤は、ジベンゾチオフェン類の除去性能に特に優れているので、ベンゾチオフェン類、メルカプタン類、或いは、スルフィド類など、他の種類の硫黄化合物の除去性能に優れた他の吸着剤、例えば、ベンゾチオフェン類の除去については本発明者が先に提案した固体酸触媒及び/又は遷移金属酸化物が担持された活性炭などの脱硫剤、メルカプタン類の除去については本発明が先に提案した酸化銅担持アルミナ、スルフィド類の除去についてはゼオライトなどとの組み合わせが好ましい。
【実施例】
【0055】
以下本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが,本発明はそれに限定されるものではない。
【0056】
[活性炭1〜5の製造]
静岡県豊岡村産コシヒカリ(2004年収穫)のイネの籾殻10gをステンレス金網からなる容器に入れ、管状炉(電気炉)の内径44mm、外径50mmのステンレス管内に配置し、雰囲気ガスとして窒素を約600ml/minで流しながら、ヒーターに通電して、250℃で1時間熱処理を施すことにより、予備炭化処理を行い、8.3gの予備炭化処理物を得た。
乾燥甜菜糖粉末1質量部(乾燥基準)を、蒸留水2.5質量部に加えて、ホットスターラー上で熱しながら撹拌し溶解した。水溶液が、60℃に達したら、その温度で10分間保持して甜菜糖水溶液(含浸用バインダー)を得た。
予備炭化処理して得られた、籾殻の原型を保持したままの予備炭化処理物1質量部に対して、前記のようにして調製した含浸用バインダー1質量部(乾燥基準の甜菜糖として)を均等に含浸されるように噴霧した。一晩大気中に放置してバインダーを予備炭化処理物に均等に含浸させ、乾燥した。
含浸用バインダーを含浸し乾燥した予備炭化処理物を、上記と同じステンレス容器に入れ、管状炉を用い、窒素気流中、600℃で1時間炭化処理を行い、含浸炭化処理物を得た。
【0057】
別途、乾燥甜菜糖粉末6質量部(乾燥基準)に、蒸留水10質量部を加え、ホットスターラー上で撹拌しながら熱し穏やかに沸騰させた。水分を蒸発してとろみが増したところで、加熱、撹拌を止め、放置し冷却してとろみを有する甜菜糖シロップ(成形用バインダー)を得た。
前記の含浸炭化処理物1質量部を乳鉢で粉砕し、そこに成形用バインダー0.43質量部(乾燥基準)を加え、十分に混合した。得られた混合物を、加圧成形機(ENERPAC社製、型番CPF10−1)を用い、3ton(42MPa)の圧力で1分間プレスして直径30mm、厚さ2mmのディスク状に加圧成形した。
得られた加圧成形物を、ステンレスホルダーに立て掛け、105℃で1時間乾燥した後、上記と同じ管状炉を用い、加圧成型物の直径方向がステンレス容器の直径方向とほぼ一致するように設置し、加圧成型物の直径方向に垂直に窒素気流が当たるようにして、窒素気流中、875℃で5分間炭化処理し、成形炭化処理物を得た。
【0058】
こうして得られた成形炭化処理物を、上記の含浸用バインダーに一晩浸漬し、含浸用バインダーを成形炭化処理物に均等に含浸させた後、105℃で2時間乾燥した。この浸漬及び乾燥により、成形炭化処理物は1質量部当たり0.1質量部(乾燥基準)のバインダーを取り込んだ。含浸用バインダーを含浸し乾燥した成形炭化処理物を5ロット用意し、それぞれ上記と同じ管状炉を用い、窒素ガスを約600ml/minで流しながら昇温し、875℃に達したところで窒素ガスを二酸化炭素ガスに切り替え、二酸化炭素ガス気流中(約600ml/min)、同温度(875℃)で、0.5時間、1.0時間、1.5時間、2時間及び2.5時間保持し賦活処理をした。その後、室温まで自然放冷して、賦活時間の異なる5種類の成形賦活処理物である活性炭1〜5(実施例1〜3、比較例1〜2)を得た。活性炭1〜5の形状維持性や細孔特性などの性状を測定し、その結果を表1に示す。
【0059】
尚、形状維持性は、賦活処理の前後において形状が変化した否かを目視で観察し、変化が見られないもので、さらに手で壊そうとしたとき形がくずれないものを「良好」とし、変化が見られるものや形がくずれたものは「不良」とした。かさ密度[g/cm]は、成形賦活処理物の直径及び厚さから求めた体積V[cm]、及び質量W[g]の値から、次の式(1)により算出した。
かさ密度[g/cm]=W/V (1)
賦活質量収率[%]は、賦活処理前後の質量から、次の式(2)により算出した。
賦活質量収率[%]=100×W/W (2)
式中、W及びWは、それぞれ賦活後及び賦活前(乾燥後)の質量[g]を示す。
【0060】
【表1】

【0061】
[活性炭6の製造]
賦活時間1.0時間の成形賦活処理物(活性炭2)を、含浸用バインダーに一晩浸漬した。成形賦活処理物(活性炭2)を含浸用バインダーから引き上げてから、それを105℃で2時間乾燥した。この含浸及び乾燥により、成形賦活処理物(活性炭2)は1質量部当たり0.1質量部(乾燥基準)のバインダーを取り込んだ。その後、上記の賦活処理と同様にして、再度875℃で1.0時間賦活処理を行った。こうして、2段階賦活処理物である活性炭6(実施例4)を得た。活性炭6の性状を活性炭1〜5と同様に表1に示す。尚、賦活質量収率は、2段階目の値を示す。
【0062】
〔脱硫性能評価試験〕
活性炭1〜6をそのまま吸着剤として用い、表2に示す性状を有する灯油(ジャパンエナジー社製)に浸漬して吸着脱硫試験を実施し、吸着剤としての性能を評価した。具体的には、ディスク状の活性炭1〜6を、乳鉢を用いて軽度に粉砕した後、150℃で3時間乾燥してから吸着脱硫試験に供した。吸着剤に対する灯油の比率(質量)を30(吸着剤1質量部に対して灯油30質量部)として、吸着剤を灯油中に浸漬し、10℃にて4日間静置した。4日間静置後、灯油中の硫黄分を分析した。浸せき前後の灯油の硫黄分の値から、次の式(3)により活性炭に吸着した硫黄量を硫黄吸着量[mg−S/g−活性炭]として算出し、表1下部に示した。
硫黄吸着量=(S−S)×30÷10 (3)
式中、S及びSは、それぞれ浸せき前及び浸せき後の灯油の硫黄分[質量ppm]を示す。
【0063】
また、参考例として、市販の繊維状活性炭(クラレケミカル社製、FR−25)を用いて同様に浸漬式吸着脱硫試験を行い、繊維状活性炭の脱硫性能評価を実施した。活性炭6及び参考例の繊維状活性炭の性状とともに、脱硫性能評価試験の結果を表1に併せて示す。
【0064】
【表2】

【0065】
〔充てん密度の測定〕
活性炭6と市販の繊維状活性炭の充てん密度をそれぞれ次のように測定した。活性炭6は幅5mm以下の粒に粉砕し、内径10.6mm、容量10mlのメスシリンダに充てんし、ガラス棒で上から圧縮して充填した後、活性炭6の占める容積と充填質量とから充てん密度を算出した。一方、繊維状活性炭の場合、上記と同じメスシリンダに繊維状活性炭を、活性炭6の場合と同様にガラス棒を用いて上から十分に圧縮し充填して、充てん密度を算出した。それぞれの充てん密度を表1に示す。
【0066】
[活性炭7の製造]
活性炭1〜6の原料として用いた静岡県豊岡村産コシヒカリ(2004年収穫)のイネの籾殻を、600℃で1時間予備炭化した。得られた予備炭化処理物は含浸炭化処理をすることなく、予備炭化処理物1質量部に、成形用バインダーを0.5質量部(甜菜糖乾燥基準)加えて、活性炭2の場合と同様にして、ディスク状にプレス成形した後、成形用バインダーを練り込んでディスク状に成形した予備炭化処理物を、成形炭化処理をすることなく、上記の賦活処理と同様にして、二酸化炭素ガス気流中、875℃で1時間賦活処理を施し、成形賦活処理物である活性炭7(比較例3)を調製した。活性炭7の性状を表1に示す。
【0067】
形状維持性、比表面積、細孔容積などの物性測定、及び浸漬式吸着脱硫試験の結果を示す表1から、本発明の活性炭2〜4及び6(実施例1〜3及び4)は、形状維持性に優れ、比表面積、全細孔容積が大きく、良好な細孔特性を有している。なかでも、2段階賦活処理物である活性炭6は、合計の賦活処理時間が同じ2時間である活性炭4と比べて、比表面積及び全細孔容積がほぼ同程度であるが、かさ密度が相当大きくなっていることが分かる。その結果、体積当たりの比表面積及び全細孔容積が大きくなっている。そして、特に、比表面積、全細孔容積、及びスーパーマイクロ孔容積が比較的大きい活性炭2、3、4及び6の脱硫性能は、それぞれ0.118、0.124、0.111及び0.132mg−S/g−活性炭と高く、比表面積及び全細孔容積が極めて大きい繊維状活性炭の0.126mg−S/g−活性炭と比較して遜色の無い脱硫性能を示している。
【0068】
また、活性炭6と繊維状活性炭の充てん密度に着目すると、活性炭6の充てん密度は0.41g/cmであり、繊維状活性炭は0.16g/cmである。吸着剤は、通常充填カラムに充填されて、連続式で使用される。容器に充填して使用する場合、充填密度が高いほどより多くの脱硫剤を充填することができ、その分容量当たりの脱流量を増やすことができる。したがって、本実施例の活性炭からなる吸着剤は、単位容積あたりの脱硫性能は、高価な繊維状活性炭に勝るとも劣るものではなく、活性炭6は繊維状活性炭の3倍近い脱硫性能が期待される。
含浸用バインダーを使用しないで製造した比較例の活性炭7は、比表面積が小さく、含浸用バインダーを添加しないと比表面積が大きくならないことがわかる。
【0069】
表1及び表2の物性測定及び組成分析については、既に説明したものを除き、次の方法で行った。
(1)密度(15℃):JIS K2249に準拠して測定した。
(2)蒸留性状:JIS K2254に準拠して測定した。
(3)芳香族分、飽和分、多環芳香族分:英国石油協会(The Institute of Petroleum)規格IP標準法391/95(屈折率検出器を用いた高速液体クロマトグラフによる中間留出物の芳香族炭化水素の分析)に準拠して測定した。
(4)硫黄分(全硫黄分):燃焼酸化−紫外蛍光法で分析した。
(5)硫黄化合物タイプ分析:GC−ICP−MSで分析した。
(6)窒素分:JIS K2609に記載の微量電量滴定法に準拠して測定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭を含む吸着剤の製造方法において、植物系バイオマスに糖類からなる成形用バインダーを加えて混練して成形した後、炭化処理して成形炭化処理物を得る成形炭化処理工程、及び得られた成形炭化処理物に糖類からなる含浸用バインダーを加えて含浸させた後、賦活処理して活性炭である比表面積600m/g以上の成形賦活処理物を得る賦活処理工程を含むことを特徴とする炭化水素油中の微量成分を除去する吸着剤の製造方法。
【請求項2】
さらに、成形賦活処理物に、再び糖類からなる含浸用バインダーを含浸させ第2の賦活処理を行い比表面積600m/g以上の第2の成形賦活処理物を得る第2の賦活処理工程を含む請求項1に記載の吸着剤の製造方法。
【請求項3】
さらに、成形炭化処理工程の前に、植物系バイオマスに糖類からなる含浸用バインダーを含浸させ炭化処理を行う含浸炭化処理工程を含む請求項1又は2に記載の吸着剤の製造方法。
【請求項4】
さらに、植物系バイオマスを予備炭化して予備炭化処理物を得る予備炭化処理工程を含む請求項1〜3の何れかに記載の吸着剤の製造方法。
【請求項5】
予備炭化処理が、不活性雰囲気下、200〜600℃で、0.01〜2時間実施され、含浸炭化処理及び成形炭化処理が、それぞれ不活性雰囲気下、200〜900℃で、0.01〜2時間実施され、かつ、賦活処理及び第2の賦活処理が、それぞれ二酸化炭素雰囲気下、800〜900℃で、0.1〜4時間実施される請求項1〜4の何れかに記載の吸着剤の製造方法。
【請求項6】
植物系バイオマスが、イネの籾殻である請求項1〜5の何れかに記載の吸着剤の製造方法。
【請求項7】
糖類が、甜菜糖、黒糖及び甘しゃ糖から選択される少なくとも1種である請求項1〜6の何れかに記載の吸着剤の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の吸着剤の製造方法で得られた、比表面積が600m/g以上、平均細孔幅が1.0nm以上である成形賦活処理物及び/又は第2の成形賦活処理物を含む炭化水素油中の微量成分を除去する吸着剤。
【請求項9】
請求項8に記載の吸着剤を用い、炭化水素油中に含まれる硫黄化合物及び/又は多環芳香族化合物を吸着除去することを特徴とする炭化水素油中の微量成分の除去方法。
【請求項10】
炭化水素油が灯油又は軽油である請求項9に記載の除去方法。
【請求項11】
150℃以下の温度において硫黄化合物を吸着除去する請求項9又は10に記載の除去方法。
【請求項12】
請求項8に記載の吸着剤を装備したことを特徴とする燃料電池システム。

【公開番号】特開2009−72712(P2009−72712A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244933(P2007−244933)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【出願人】(306024148)公立大学法人秋田県立大学 (74)
【Fターム(参考)】