説明

炭化珪素単結晶ウエハの製造方法

【課題】種結晶付近の炭化珪素単結晶から製造された炭化珪素単結晶ウエハにクラックが発生することを抑制し、歩留まりを向上させた炭化珪素単結晶ウエハの製造方法を提供する。
【解決手段】炭化珪素からなる種結晶100を坩堝50の一方側に配置し、炭化珪素単結晶300の原料20を坩堝50の他方側に配置する。次に、原料20を加熱し、種結晶100上に炭化珪素単結晶300を成長させる。その後、種結晶100を坩堝50から取り外し、坩堝50の蓋体40側に面していた種結晶100の表面層を除去した後に、炭化珪素単結晶300をスライスする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇華再結晶法を用いた炭化珪素単結晶をスライスする炭化珪素単結晶ウエハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、昇華再結晶法を用いて炭化珪素単結晶を製造している。昇華再結晶法では、原料の再結晶を誘起する種結晶上に、炭化珪素単結晶を再結晶させる。これにより、炭化珪素単結晶を製造している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このように製造された炭化珪素単結晶を、例えば、マルチワイヤーソーを用いてスライスすることにより、炭化珪素単結晶ウエハが製造されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−290685号公報
【特許文献2】特開2003―159642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
種結晶付近の炭化珪素単結晶がスライスされて製造された炭化珪素単結晶ウエハには、クラックが発生しやすかった。クラックが発生した炭化珪素単結晶ウエハは、品質が悪いため、歩留まりが低下する原因であった。
【0006】
そこで、本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、種結晶付近の炭化珪素単結晶から製造された炭化珪素単結晶ウエハにクラックが発生することを抑制し、歩留まりを向上させた炭化珪素単結晶ウエハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が鋭意研究を行った結果、種結晶の表面に存在する傷が誘因となって炭化珪素単結晶ウエハにクラックが発生していたことが分かった。そこで、上述した課題を解決するため、以下の特徴を有する本発明を完成させた。
【0008】
本発明の特徴は、炭化珪素からなる種結晶(種結晶100)を坩堝(坩堝50)の一方(蓋体40)側に配置し、炭化珪素単結晶の原料(原料20)を前記坩堝の他方(底部33)側に配置する工程(配置工程S1)と、前記原料を加熱し、前記種結晶上に炭化珪素単結晶(炭化珪素単結晶300)を成長させる工程(成長工程S2)と、前記成長した炭化珪素単結晶をスライスするスライス工程(スライス工程S3)と、を備えた炭化珪素単結晶ウエハの製造方法であって、前記スライス工程では、前記種結晶を前記坩堝から取り外し、前記坩堝の一方側に面していた前記種結晶の表面層(表面層100a)を除去した後に、前記炭化珪素単結晶をスライスすることを要旨とする。
【0009】
本発明の特徴によれば、スライス工程では、種結晶を坩堝から取り外し、坩堝の一方側に面していた種結晶の表面層を除去した後に、炭化珪素単結晶をスライスする。坩堝の一方側に面していた種結晶の表面層には、クラックを誘引する傷が含まれている。この表面層を除去することにより、炭化珪素単結晶ウエハにクラックが発生することを抑制できる。その結果、炭化珪素単結晶ウエハの製造における歩留まりを向上できる。
【0010】
また、前記スライス工程において、除去された前記種結晶の表面層の厚さは、0.1mm以上0.5mm以下であっても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、種結晶付近の炭化珪素単結晶から製造された炭化珪素単結晶ウエハにクラックが発生することを抑制し、歩留まりを向上させた炭化珪素単結晶ウエハの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本実施形態に係る炭化珪素単結晶製造装置1の概略断面図である。
【図2】図2は、本実施形態に係る炭化珪素単結晶ウエハの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図3】図3は、本実施形態に係る炭化珪素単結晶の概略図である。
【0013】
本発明に係る炭化珪素単結晶ウエハの製造方法の一例について、図面を参照しながら説明する。具体的には、(1)炭化珪素単結晶製造装置1の概略構成、(2)炭化珪素単結晶ウエハの製造方法、(3)作用効果、(4)比較評価、(5)その他実施形態、について説明する。
【0014】
以下の図面の記載において、同一または類似の部分には、同一または類似の符号を付している。図面は模式的なものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な寸法などは以下の説明を参酌して判断すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれ得る。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1)炭化珪素単結晶製造装置1の概略構成
本実施形態に係る炭化珪素単結晶製造装置1の概略構成について、図1を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る炭化珪素単結晶製造装置1の概略断面図である。図1に示されるように、炭化珪素単結晶製造装置1(以下、適宜、装置1と略す)は、坩堝本体30と蓋体40とを有する坩堝50、支持棒60、石英管70、加熱コイル80、干渉防止コイル85及び封止部材200を有する。
【0016】
坩堝50は、坩堝本体30と蓋体40とを備える。坩堝本体30は、開口部を有する。坩堝本体30は、筒型の容器である。坩堝本体30には、炭化珪素単結晶(以下、適宜、単結晶と略す)の原料20が配置される。具体的には、坩堝本体30の開口部から坩堝本体30の底部33に原料20が配置される。
【0017】
蓋体40は、坩堝本体30の開口部を塞ぐ。蓋体40は、凸部を有する。凸部が開口部に嵌合することにより、坩堝本体30の開口部を塞ぐ。本実施形態において、蓋体40の凸部及び坩堝本体30は、互いにかみ合うねじ山が形成されている。蓋体40は、坩堝本体30の底部33側に面する面41を有する。面41には、台座45が形成されている。台座45には、種結晶が配置される。従って、坩堝50の一端部(すなわち、蓋体40)には、種結晶100が配置され、坩堝50の一端部に対向する坩堝50の他端部(すわなち、坩堝本体30の底部)には、原料20が配置される。このため、種結晶100と原料20とは対向している。坩堝50は、支持棒60により石英管70の内部に固定される。
【0018】
加熱コイル80は、石英管70の外周に設けられる。加熱コイル80は、加熱コイル80a及び加熱コイル80bを有する。加熱コイル80aは、坩堝本体30の底部33側に位置する。加熱コイル80bは、蓋体40側に位置する。加熱コイル80に高周波電流を流すことにより、坩堝50を誘導加熱する。これにより、坩堝50の内部の温度が上昇し、原料20が昇華する。原料20が再結晶しやすいように、蓋体40側の温度は、坩堝本体30の底部33側の温度に比べて、低くすることが好ましい。なお、坩堝50は、断熱材(不図示)に覆われている。
【0019】
封止部材200は、坩堝本体30の側面35側における種結晶100の表面(すなわち、種結晶100の側面)から坩堝本体30の側面35までを覆う。封止部材200の形状は、両端部が開口した筒状であり、かつ、種結晶100側に向かうにつれ内周が小さくなる錐台形状である。封止部材200の一端部は、種結晶100の側面に接している。封止部材200の他端部は、坩堝本体30の側面35側に接している。これによって、坩堝の蓋体と坩堝本体との隙間から原料が漏れることを抑制できるため、原料の浪費を抑えることができる。
【0020】
(2)炭化珪素単結晶ウエハの製造方法
本実施形態に係る炭化珪素単結晶ウエハの製造方法について、図1から図3を参照しながら説明する。図2は、本実施形態に係る炭化珪素単結晶ウエハの製造方法を説明するためのフローチャートである。図3は、本実施形態に係る炭化珪素単結晶の概略図である。
【0021】
図2に示されるように、本実施形態に係る炭化珪素単結晶ウエハの製造方法は、配置工程S1、成長工程S2及びスライス工程S3を備える。
【0022】
(2.1)配置工程S1
配置工程S1は、種結晶100を坩堝50の一方側に配置し、原料20を坩堝50の他方側に配置する工程である。
【0023】
種結晶100を坩堝50の蓋体40に配置する。具体的には、接着剤を用いて、種結晶100を台座45に固定する。原料20は、坩堝本体30に配置する。具体的には、原料20坩堝本体30の開口部から坩堝本体30の底部33に配置する。これにより、種結晶100は、坩堝50の一方側に配置され、原料20は、坩堝50の他方側に配置される。
【0024】
種結晶100は、炭化珪素からなるものを準備する。具体的には、炭化珪素単結晶を平板状に加工したものを準備する。種結晶100には、裏面から炭化珪素が昇華することを抑える保護層を備えていても良い。
【0025】
原料20に含まれる炭化珪素は、どのような製造方法で製造されたものを準備しても構わない。例えば、化学気相成長法(CVD法)で製造された炭化珪素を用いてもよいし、珪素含有原料と炭素含有原料とから炭化珪素前駆体を生成し、生成された炭化珪素前駆体を焼成することで得られる炭化珪素を用いてもよい。原料20には、不純物が少ないものを用いることが好ましい。
【0026】
(2.2)成長工程S2
成長工程S2は、原料20を加熱し、種結晶100上に炭化珪素単結晶を成長させる工程である。
【0027】
加熱コイル80に電流を通電して、坩堝50を加熱する。加熱された坩堝本体30が原料20を加熱する。一般的に、加熱温度は、2000℃から2500℃である。蓋体40側の温度が、坩堝本体30の底部側の温度よりもやや低温となるように、加熱コイル80a及び加熱コイル80bを調整する。原料20の昇華温度を超えると、原料20は、昇華する。
【0028】
昇華した原料20は、種結晶100上で再結晶する。これにより炭化珪素単結晶300が成長を開始する。所望の大きさの炭化珪素単結晶300が得られるまで、炭化珪素単結晶300を成長させる。
【0029】
(2.3)スライス工程S3
スライス工程S3は、成長した炭化珪素単結晶300をスライスする工程である。スライス工程S3は、表面除去工程S31と単結晶スライス工程S32とを有する。
【0030】
表面除去工程S31では、種結晶100を坩堝50から取り外し、坩堝50の蓋体40側に面していた種結晶100の表面層100aを除去する。
【0031】
成長した炭化珪素単結晶300と一緒に種結晶100を蓋体40から取り外す。蓋体40から炭化珪素単結晶300を取り外すと、坩堝50の蓋体40側に面していた種結晶100の表面層100aが露出する。表面層100aには、クラックを誘引する傷が含まれている。このような傷は、例えば、種結晶100を研磨したときに生じる。例えば、平面研削機を用いて、この表面層100aを削ることによって、表面層100aを除去する。
【0032】
一般的に、種結晶100の表面層100aには、0.1mm以上の深さを有する傷が多い。このため、除去する表面層100aの厚さを0.1mm以上に設定することが好ましい。また、0.5mm以上の深さを有する傷は、ほとんどない。このため、除去する表面層100aの厚さを0.5mm以下に設定することが好ましい。
【0033】
単結晶スライス工程S32では、表面層100aが除去された種結晶100及び炭化珪素単結晶300をスライスする。単結晶スライス工程S32では、例えば、マルチワイヤーソーを用いる。これにより、炭化珪素単結晶300が複数のウエハ状に切断されて、一度に複数の炭化珪素単結晶ウエハが製造できる。
【0034】
(3)作用効果
本実施形態に係る炭化珪素単結晶ウエハの製造方法によれば、スライス工程S3では、種結晶100を坩堝50から取り外し、坩堝50の蓋体40側に面していた種結晶100の表面層100aを除去した後に、炭化珪素単結晶300をスライスする。クラックを誘引する傷を含む表面層100aは、種結晶100から除去されているため、種結晶付近の炭化珪素単結晶300をスライスしても、傷が誘因となるクラックの発生が抑制される。このため、炭化珪素単結晶ウエハの歩留まりを向上できる。
【0035】
単結晶スライス工程S32では、除去された種結晶100の表面層100aの厚さが0.1mm以上0.5mm以下となるように、表面層100aを除去しても良い。これによって、傷が誘因となるクラックの発生をより抑制できる。また、単結晶スライス工程S32にかかる時間を減少させることができるため、効率よく炭化珪素単結晶を製造することができる。
【0036】
(4)比較評価
本発明の効果を確かめるために、以下の測定を行った。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0037】
上述した製造方法を用いて、炭化珪素単結晶を製造した。実施例に係る炭化珪素単結晶では、平面研削機を用いて、蓋体に固定されていた種結晶の表面を削った。具体的には、厚さ0.5mm分の表面層100aを削った。比較例に係る炭化珪素単結晶では、表面層を削らなかった。
【0038】
実施例及び比較例ともに、それぞれ50個の炭化珪素単結晶を準備し、マルチワイヤーソーを用いて各炭化珪素単結晶をスライスした。スライスして得られたウエハにクラックが発生した炭化珪素単結晶の数を測定した。
【0039】
実施例の炭化珪素単結晶では、ウエハにクラックが発生した炭化珪素単結晶の数は、0個であった。一方、比較例の炭化珪素単結晶では、ウエハにクラックが発生した炭化珪素単結晶の数は、8個であった。
【0040】
この結果から、本発明の炭化珪素単結晶の製造方法によれば、種結晶に存在する傷が誘因となるクラックの発生を抑制できることが分かった。すなわち、本発明の炭化珪素単結晶の製造方法によれば、炭化珪素単結晶ウエハの歩留まりを向上できることが分かった。
【0041】
(5)その他実施形態
本発明の実施形態を通じて本発明の内容を開示したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。本発明はここでは記載していない様々な実施形態を含む。従って、本発明はここでは記載していない様々な実施形態を含む。
【0042】
具体的には、上述した実施形態では、種結晶100は、蓋体40に固定されたが、これに限られない。例えば、坩堝本体の側面から種結晶の側面までを覆う封止部材に支持されることによって、坩堝50に固定されても良い。封止部材は、坩堝の蓋体と坩堝本体との隙間から原料が漏れることを抑制できるため、原料の浪費を抑えることができる。封止部材によって、種結晶100が固定されていた場合には、坩堝50から封止部材を取り外し、封止部材から種結晶100を取り外す。
【0043】
上述の通り、本発明はここでは記載していない様々な実施形態を含む。従って、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0044】
1…炭化珪素単結晶製造装置(装置)、 20…原料、 30…坩堝本体、 33…底部、 35…側面、 40…蓋体、 41…面、 45…台座、 50…坩堝、 60…支持棒、 70…石英管、 80,80a,80b…加熱コイル、 85…干渉防止コイル、 100…種結晶、 100a…表面層、 200…封止部材、 300…炭化珪素単結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素からなる種結晶を坩堝の一方側に配置し、炭化珪素単結晶の原料を前記坩堝の他方側に配置する工程と、
前記原料を加熱し、前記種結晶上に炭化珪素単結晶を成長させる工程と、
成長した前記炭化珪素単結晶をスライスするスライス工程と、を備えた炭化珪素単結晶ウエハの製造方法であって、
前記スライス工程では、前記種結晶を前記坩堝から取り外し、前記坩堝の一方側に面していた前記種結晶の表面層を除去した後に、前記炭化珪素単結晶をスライスする炭化珪素単結晶ウエハの製造方法。
【請求項2】
前記スライス工程において、除去された前記種結晶の表面層の厚さは、0.1mm以上0.5mm以下である請求項1に記載の炭化珪素単結晶ウエハの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−171801(P2012−171801A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31937(P2011−31937)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】