説明

炭化珪素単結晶基板、及びその製造方法

【課題】実質的に基板使用面のほぼ全面で、体積電気抵抗率がほぼ均一な炭化珪素単結晶基板、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】{0001}ファセット領域が大きなインゴットを作製し、そのインゴットを切断・研磨することにより、少なくともエッジエクスクルージョン領域を除く基板の全領域がインゴットの{0001}ファセット領域に相当する部分で構成される炭化珪素単結晶基板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素単結晶基板、及びその製造方法に関するものである。本発明の炭化珪素単結晶基板は、主に各種電子デバイス等を製造するための基板として用いられる。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、優れた半導体特性等を有することから、例えば、大電力制御用パワーデバイス等のような、各種の半導体デバイスの基板用材料として大きな注目を集めている。デバイス製造に適した、2インチ(約50.8mm)以上の口径を有する単結晶のインゴットは、目下のところ、改良レーリー法と称される昇華再結晶法によって、製造されることが一般的になっている(非特許文献1)。近年、SiC単結晶製造技術が進捗し、SiC単結晶中の各種の転位欠陥密度の低減化が推し進められた。SiC単結晶基板の口径についても、3インチ(約76.2mm)や100mmに及ぶ高品質大口径SiC結晶が実現しつつある(非特許文献2)。これらの基板を応用した、窒化ガリウム(GaN)系青色発光ダイオードやSiCショットキーバリアダイオード等が既に商品化されており、また他方で、GaN系高周波デバイス、及びMOSFETに代表される低損失パワーデバイス等々も試作されるに至っている。
【0003】
耐圧特性及び動作信頼性に優れるパワーデバイス用を製造するための要件の一つとして、使用する基板の転位欠陥密度が小さく、結晶品質に優れる必要がある。SiC単結晶基板の場合、特徴的な欠陥であるマイクロパイプ欠陥が知られている。マイクロパイプ欠陥とは、大型の螺旋転位の中心部分に微細な穴が貫通したものであり、このような欠陥が存在すると、高電圧印加下で電流リークの発生原因となるため、デバイスの耐圧特性等に深刻な影響を与えてしまう。したがって、マイクロパイプ欠陥密度をできる限り低減化することが応用上重要である。マイクロパイプ欠陥が発生する原因の一つとして、異種ポリタイプの発生が挙げられる。したがって、マイクロパイプの増加を抑えて高い結晶性を有するSiC単結晶を製造するためには、異種ポリタイプ発生が皆無な安定成長製造法の確立が必須である。近年、安定製造技術の進歩があり、最近では単位面積(1cm2)当たりのマイクロパイプ欠陥の数が数個以下の良質単結晶が報告されるに及んでいる(非特許文献3)。
【0004】
一方、損失低減化等、デバイス特性の向上や、最適化の観点から、様々な半導体特性が基板自身に求められる。基板の体積電気抵抗率もその一例である。成長結晶の電気抵抗率の制御は、成長時の不活性ガスからなる雰囲気中に、不純物元素を含む気体状原料ガスを添加して行うことが一般的である。特に、代表的なn型不純物である窒素の場合、気体状原料ガスは窒素ガスであり、目的とする結晶中濃度が得られるように窒素ガスを導入して成長を行うことで、体積電気抵抗率を制御することが可能である(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-1532号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yu. M. Tairov and V. F. Tsvetkov, Journal of Crystal Growth, vol.52 (1981) pp.146
【非特許文献2】C. H. Carter, et al., FEDジャーナル, vol.11 (2000) pp.7
【非特許文献3】A. H. Powell, et al., Material Science Forum, vol.457-460 (2004) pp.41
【非特許文献4】N. Ohtani, et al., Electronics and Communications in Japan, Part2, vol.81 (1998) pp.8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
SiC単結晶において、例えばn型の結晶基板を製造するための添加不純物元素としては、窒素が知られており、予め原料粉末に添加されたものを原料として使用するか、あるいは成長時の不活性ガスからなる雰囲気中へ、窒素、あるいは窒素を含む化合物からなる不純物ガスを添加した状態で結晶成長を行うことにより、結晶中への窒素添加が可能である。SiCデバイスの特性向上のためには、この基板内における体積電気抵抗率のばらつきを極力少なくすることが重要である。
【0008】
ところで、SiC単結晶成長においては、{0001}面、あるいはその面から角度が数度程度オフした面を有する種結晶上に単結晶成長を実施すると、SiC単結晶の成長表面上に{0001}ファセット面が現れることが知られている。{0001}ファセット面とは、SiC単結晶を成長させる際に、結晶のc軸である<0001>軸方向に正確に垂直な角度を有する領域に発生する平滑面であり、良質な単結晶成長を実現するステップフロー成長様式のステップ供給源となるため、その存在は、良質な単結晶成長の必須条件となっている。特開2008-1532号公報(特許文献1)において示されているように、例えば4H型のSiC単結晶成長中の結晶表面に現れる(000-1)面ファセット部に相当する結晶部分においては、結晶面の極性に関係する特性等々を反映して、窒素原子の取り込みが大きくなる。この{0001}ファセット面は、種結晶直上の成長の極初期を除いて、SiC単結晶成長のほぼ全過程において、単結晶の成長表面上に現れるため、単結晶インゴット中に窒素原子の取り込みが他の部分と比較して多くなった、いわば{0001}ファセット領域が形成され、この部分の体積電気抵抗率は、窒素濃度が高いことを反映して他の結晶部分よりも小さくなる。ファセット領域に相当する結晶部分の体積電気抵抗率の変動幅は、成長条件にもよるが、概ね±1mΩcm、大きくてもほぼ±5mΩcmの範囲に収まっており、極めて均一な体積電気抵抗率が実現されているが、ファセット部以外の領域と比較するとその絶対値が、概ね約20%程度小さい。例えば発明者らの調査の一例では、ファセット部の中心近傍において体積抵抗率が13.9mΩcmであるのに対して、ファセット部以外の結晶領域では18.1mΩcmであり、ファセット部以外の結晶領域に対して約22%低い抵抗率をファセット部が有している事実がその一例として判明している。なお、このときのファセット部における窒素原子数密度をSIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy)を用いて調べたところ1.5×1019/cm3であり、他方、ファセット部以外の結晶領域の窒素原子数密度は8.1×1018/cm3である。
【0009】
4H型のSiC単結晶の場合、(000-1)面ファセット領域がSiC単結晶基板内に部分的に存在すると、窒素濃度の差を反映した濃茶色のコントラストが(000-1)面ファセット領域に観察され、ファセットに相当する結晶領域が目視にても判別できる。このような場合、基板全領域における体積抵抗率のばらつきが増加し、結果としてデバイス特性を劣化させてしまうという事態を引き起こしてしまう。
【0010】
上述したファセット領域の存在に起因する、体積電気抵抗率のばらつきを低減化するために、前述の特開2008-1532号公報においては、{0001}面から2°以上15°以下のオフセットを有する種結晶上に結晶成長を行う方法が示されている。該発明の提示する方法によれば、{0001}面ファセットは、インゴット外周端から約10mm以内の端部領域に出現するため、例えば、このファセット出現領域を全て削除して基板を切り出せば、比較的小さい抵抗率部分を構成するファセット部が無い、基板の全面に亘って極めて体積電気抵抗率が均一なSiC単結晶基板が実現できる。
【0011】
前記発明は極めて有効な方法であり、該発明において体積抵抗率のばらつきが1.3%という極めて均一な基板が発明の実施例の中で実現されている。しかしながら、{0001}面ファセットをインゴット外周端部付近に誘導するような結晶成長を行うと、坩堝内壁との熱的な相互作用、あるいは側壁を構成する黒鉛が起因となって昇華ガス組成の変動等々が発生し易く、これらの影響を受けてステップ供給機構が不安定になるため、異種ポリタイプが不慮発生する等、結晶成長不安定性が増加してしまうことが発明者らの調査によって判明した。このような状況では、目的とする高品質なSiC単結晶を工業的に製造する場合に、製造コストや生産効率性の点で問題が生じてしまう。
【0012】
本発明では、上記の問題点を解決し、実質的に基板の使用面積領域で体積抵抗率のばらつきが少なく、かつ成長安定性に優れた高品質のSiC単結晶インゴット及びSiC単結晶基板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の従来技術での問題を解決し、実質的に基板の使用面積領域でほぼ均一な体積電気抵抗率を有し、かつ成長安定性に優れた高品質のSiC単結晶基板及びその製造方法であって、
(1) 炭化珪素単結晶インゴットから切断し、研磨して得られる炭化珪素単結晶基板であって、エッジエクスクルージョン領域を除いた平面領域が、実質的に炭化珪素単結晶インゴット由来の{0001}面ファセット領域からなることを特徴とする炭化珪素単結晶基板、
(2) 前記炭化珪素単結晶基板のエッジエクスクルージョン領域を除いた平面領域が、窒素を3×1018/cm3以上6×1020/cm3以下含有し、かつ、体積抵抗率の平均値が0.0005Ωcm以上0.05Ωcm以下である(1)に記載の炭化珪素単結晶基板、
(3) 前記炭化珪素単結晶基板が2インチ口径基板又は3インチ口径基板の場合、エッジエクスクルージョン領域は、基板の外周端から内側2mm未満までの領域である(1)又は(2)に記載の炭化珪素単結晶基板、
(4) 前記炭化珪素単結晶基板が100mm口径基板又は150mm口径基板の場合、エッジエクスクルージョンは、基板の外周端から内側3mm未満までの領域である(1)又は(2)に記載の炭化珪素単結晶基板、
(5) (1)〜(4)のいずれかに記載の炭化珪素単結晶基板上に、炭化珪素薄膜をエピタキシャル成長してなる炭化珪素単結晶エピタキシャル基板、
(6) 炭化珪素単結晶からなる種結晶上に炭化珪素単結晶インゴットを成長させる工程を包含する昇華再結晶法を用いた炭化珪素単結晶基板の製造方法であり、種結晶として、結晶成長面が{0001}面から1°未満のオフセット角を有する種結晶基板を用い、また、成長容器として、側壁の厚さが少なくとも25mmの黒鉛製坩堝を用いて、得られる炭化珪素単結晶の体積抵抗率を制御するための不純物を結晶成長雰囲気に添加した状態で結晶成長を行い、口径50mm以上の炭化珪素単結晶インゴットを得て、得られた炭化珪素単結晶インゴットを研削、切断、及び研磨し、結晶成長面が{0001}面から8°以下のオフセット角を有するようにすることで、口径が50mm以上であり、尚且つ、エッジエクスクルージョン領域を除いた平面領域が、実質的に炭化珪素単結晶インゴット由来の{0001}面ファセットからなる炭化珪素単結晶基板を得ることを特徴とする炭化珪素単結晶基板の製造方法、
(7) 前記体積抵抗率を制御するための不純物が窒素であり、成長結晶中の窒素濃度が3×1018/cm3以上、6×1020/cm3以下となるように窒素流量を制御する(6)に記載の炭化珪素単結晶基板の製造方法、
(8) 前記種結晶基板のオフセット角度が0.5°未満である(6)又は(7)に記載の炭化珪素単結晶基板の製造方法、
(9) 前記炭化珪素単結晶基板のオフセット角度が4°以下である(6)〜(8)のいずれかに記載の炭化珪素単結晶基板の製造方法、
(10) 側壁の厚さが少なくとも40mmの黒鉛製坩堝を用いて口径75.6mm以上の炭化珪素単結晶インゴットを結晶成長させて、3インチ口径基板以上のサイズを有する炭化珪素単結晶基板を得る(6)〜(9)のいずれかに記載の炭化珪素単結晶基板の製造方法、
(11) 側壁の厚さが少なくとも50mmの黒鉛製坩堝を用いて口径99.5mm以上の炭化珪素単結晶インゴットを結晶成長させて、100mm口径基板以上のサイズを有する炭化珪素単結晶基板を得る(6)〜(9)のいずれかに記載の炭化珪素単結晶基板の製造方法、
(12) 側壁の厚さが少なくとも65mmの黒鉛製坩堝を用いて口径149.5mm以上の炭化珪素単結晶インゴットを結晶成長させて、150mm口径基板以上のサイズを有する炭化珪素単結晶基板を得る(6)〜(9)のいずれかに記載の炭化珪素単結晶基板の製造方法、
(13) (6)〜(12)のいずれかに記載の炭化珪素単結晶基板上に、炭化珪素薄膜をエピタキシャル成長させることを特徴とする炭化珪素単結晶エピタキシャル基板の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、炭化珪素単結晶基板を構成する{0001}面ファセット領域の占有率を極力高めることにより、実質的に基板の使用面積領域で、低抵抗率でかつ体積電気抵抗率の均一性に優れた炭化珪素単結晶基板が、過大な加工負荷も無く実現可能になる。このような結晶から切り出されたSiC単結晶基板を用いれば、極めて高性能な電力制御用パワーデバイスを歩留り良く作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】昇華再結晶法(改良レーリー法)の原理を説明する図
【図2】本発明で使用した坩堝の断面構造を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
SiC単結晶基板は、現在、2インチ(口径約50.8mm)、3インチ(口径約76.2mm)、及び100mmの口径が使用されている。シリコン基板やガリウムヒ素基板等の他の半導体基板と同様に、SiC単結晶基板の場合にも、デバイス作製時の基板のハンドリングを目的として、デバイス等の製造には使用されない基板領域が基板の外周端付近に設定されており、特に、この面積領域はエッジエクスクルージョン(Edge Exclusion、以下EEと略記する)と呼ばれる。SiC単結晶基板の場合、例えば、2インチ口径基板(口径約50.8mm)では基板の外周端から内側2mm未満まで、3インチ口径基板(口径約76.2mm)では基板の外周端から内側2mm未満まで、また、100mm口径基板では基板の外周端から3mm未満までの面積領域がEE領域として決められることが一般的であり、SEMI規格としても、順次この方向で纏められつつある趨勢にある。そのため、本発明においてエッジエクスクルージョン領域(EE領域)と言う場合はこれらの考え方に従うものとし、また、150mm口径基板の場合のEE領域は、基板の外周端から3mm未満までとする。なお、これらの口径以外のSiC単結晶基板であって現在の流通市場で主に取り扱われていないものについて、EE領域の定義は、原則、SEMI規格を含めて当該分野で使用されるものを適用する。
【0017】
発明者らが開示する本発明によれば、少なくともこれらのEE領域を除く、基板の全領域を、前述の{0001}面ファセット領域で構成されたSiC単結晶基板を提供することが可能になる。ファセット領域に相当する基板部分の体積電気抵抗率は、成長条件にもよるが、概ね±0.001Ωcm(=1mΩcm)、大きくてもほぼ±0.005Ωcm(=±5mΩcm)に収まっており、このため、実質的にデバイス等々の製造に使用される基板の全面積領域において、体積抵抗率の変動幅が概ね±1mΩcm以内である、極めて均一なSiC単結晶基板が実現可能になる。なお、{0001}面ファセット領域は、例えば、実施例で説明するように、SiC単結晶基板の表面で呈する色付き(コントラスト)によって、それ以外の部分と区別することができ、このような目視による評価によって「EE領域を除いた平面領域が、炭化珪素単結晶インゴット由来の{0001}面ファセット領域からなる」かどうかを実質的に判断することができる。
【0018】
以下に、本発明の詳細について説明する。
まず初めに、昇華再結晶法、あるいは別称、改良型レーリー法について説明する。図1に、昇華再結晶法の単結晶成長装置の概略図を示す。主として黒鉛からなる坩堝を用い、この坩堝内にアチソン法等々により作製したSiC結晶原料粉末を充填し、その対向位置にSiC単結晶からなる種結晶を配置する。アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で、概ね133Pa〜13.3kPaの範囲の圧力に調整し、2000〜2400℃に加熱される。この際、原料粉末と種結晶間に、原料粉末の温度が高くなるように温度勾配を制御することにより、原料粉末の昇華及び種結晶上への再結晶化を誘起し、種結晶上への単結晶成長が実現される。成長する単結晶への不純物ドーピングは、n型SiC単結晶成長の場合、成長中の雰囲気ガスへの窒素ガス添加によって実施される。例えば、デバイス応用として必要な体積電気抵抗率である0.0005Ωcm(=0.5mΩcm)以上、0.05Ωcm(=50mΩcm)以下のn型SiC単結晶の実現には、他の残留不純物元素の濃度にもよるが、アルミニウムやホウ素等のp型不純物濃度を、概ね5×1017cm-3以下に抑えることを前提に、3×1018cm-3以上6×1020cm-3以下の窒素原子をSiC単結晶中に添加することにより実現でき、改良型レーリー法によるバルク状SiC単結晶成長においては、雰囲気ガス中の窒素ガス分圧を概ね300Pa〜5.3kPaの範囲になるように制御することにより、前述の体積電気抵抗率が実現可能である。ここで、0.5mΩcm未満では、過剰な窒素ドーピング等々により結晶自体が脆くなるため実用に供することが困難であり、また、50mΩcm超となると、デバイス動作時のジュール損失が大きくなり、良好なデバイスが実現困難になる。
【0019】
一般的に、{0001}面、あるいは微小オフ角を付与した{0001}面上にSiC単結晶成長を行うと、前述した様に、成長したインゴットの成長端面上に、{0001}ファセット面が現れる。この場合、ファセット面は一般的に円形あるいはそれに類似した形状を呈することが多いが、成長条件によって形状は様々に変化する。本発明者らは、上述の昇華再結晶法において使用する黒鉛坩堝の側壁の厚さを、少なくとも25mm以上とすることで、{0001}ファセット面の大きさを大きくすることが可能になることを見出した。例えば、側壁の厚さが34mmである黒鉛坩堝を使用すると、得られたSiC単結晶インゴットより、研削、切断、研磨により、インゴット成長時の結晶表面に現れる{0001}面ファセットが、外周部から2mm未満のエッジエクスクルージョン領域を除いた全領域部分を構成し、かつ、{0001}面ファセット領域がSiC単結晶基板の全領域未満となる口径50.8mmのSiC単結晶基板を取り出すことが可能になる。
【0020】
{0001}ファセット面の大型化のメカニズムについては、詳細については未だ明らかになっておらず、その詳細については現時点では言及できない。特に、加熱方法として高周波誘導加熱方式を採用した場合、加熱コイル内部を流れる交流電流の周波数にもよるが、7〜10kHz程度の高周波電流では、概ね坩堝の表面約10mm程度の部分が実質的な発熱源となる。このような場合、坩堝内部に形成される温度分布曲線の曲率半径が大きくなるため、等温線が平坦化する傾向が強くなることが本発明者らの数値計算をベースとする詳細な解析により明らかになっている。坩堝側壁を増加させると、坩堝の発熱源領域が成長結晶を離れて外側へ移動し、かつ大きな側壁領域内を輻射伝播して側壁部分全体が大きな発熱源と類似の効果を呈するようになるためと、本発明者らは推測している。このような状況下では、ファセット近傍の等温線もより平坦化され、結果としてファセット面を大きくする作用を及ぼすものと考えられ、ファセットが大型化させているものと推測される。
【0021】
このようなSiC単結晶基板は、少なくともEE領域以外の基板の全領域を、前述の{0001}面ファセットで構成されており、実質的にデバイス等々の製造に使用される基板の全領域において、体積電気抵抗率の変動幅が概ね±1mΩcm以内である、極めて均一なSiC単結晶基板が実現可能になる。
【0022】
前記のようなSiC単結晶基板の製造にあたっては、まず、インゴット口径についてであるが、SiC単結晶基板及び種結晶のオフ角度にもよるが、少なくとも所望の基板が取り出せる口径以上であれば十分であるが、SiC単結晶基板の加工時における加工負荷を過大にさせないとの目的から、SiC単結晶インゴットの口径は、所望の口径のSiC単結晶基板が取り出せる口径よりも5mm以上、望ましくは5mm以上10mm以下であることが好ましい。得るべきSiC単結晶基板が2インチ口径基板(約50.8mm)、3インチ口径基板(約76.2mm)、100mm口径基板、及び150mm口径基板である場合、Si単結晶基板のSEMI規格の視点から半導体デバイス製造用の基板として十分な寸法精度を有するためには、その公差を含めて、それぞれ、50.8±0.38mm、76.2±0.63mm、100.0±0.5mm、及び150.0±0.5mmである必要があることを鑑みて、具体的なインゴット口径の下限については、それぞれ、少なくとも50.5mm以上(2インチ口径基板の場合)、75.6mm以上(3インチ口径基板の場合)、99.5mm以上(100mm口径基板の場合)、及び149.5mm以上(150mm口径基板の場合)とする必要がある。なお、基板口径が150mmの場合の公差は、Si単結晶基板では0.2mmであるが、SiC単結晶の場合、硬脆材料である事情を考慮し、0.5mmの公差を設定した。これらの下限値未満の口径では、所望の口径のSiC単結晶基板が製造できない。製造コストの不要な上昇あるいは加工時にクラック等々が発生する等、製造歩留りを劣化させる要因となる。勿論、上述の通り、製造しようとするSiC単結晶基板のオフ角度によって、必要なインゴット口径の最小値を適宜変化してもよい。
【0023】
また、上述のような大型のファセット面を有するSiC単結晶インゴットを製造する場合、種結晶としては、結晶成長面が{0001}面から1°未満のオフセット角を有する種結晶基板を用いる必要がある。1°以上のオフセット角を有する種結晶基板を使用すると、成長過程において、ファセット面が坩堝の内壁に過度に近接、あるいは接触し、結晶成長が不安定化する。望ましくは、{0001}面から0.5°未満のオフセット角を有する種結晶基板を用いることが好ましい。また、本発明のSiC単結晶基板が取り出せるような十分に大きいファセット面を有するSiC単結晶を成長する場合、{0001}平滑面上のステップフローの移動を、大きなファセット面上に亘って安定的に実現するためには、SiC単結晶の成長速度を、0.5mm/時間以下、好ましくは0.2mm/時間以下、さらに好ましくは0.1mm/時間以下とすることが好ましいことを言及しておく。成長速度が0.5mm/時間を超えると、大きなファセット面上でのステップフローの移動が不安定になり異なるポリタイプを有するSiC単結晶は発生したり、あるいは多結晶核が生成する等の現象が発生したりする等、高品質なSiC単結晶が得られなくなる。また、成長速度の下限については、成長途中で単結晶成長が停止して表面が炭化する等のような不安定化が起こらない限り特に規定する必要はないが、安定した高品質SiC単結晶を実現する目的との視点では、概ね0.01mm/時間以上であれば十分である。
【0024】
使用する坩堝についてであるが、前述したファセット領域の大型化に関するメカニズムの視点から、側壁の厚さとしては、2インチ口径基板(口径約50.8mm)のSiC単結晶基板を製造する場合には、25mm以上であることが重要である。側壁の厚さが25mm未満の場合では、{0001}面ファセット部が小さく、外周部から2mm未満のエッジエクスクルージョン領域を除いた全面積部分を{0001}面ファセットで構成するSiC単結晶基板を取り出すことができない。同様に、3インチ口径基板(口径約76.2mm)のSiC単結晶基板である場合には、側壁の厚さが少なくとも40mm以上であり、100mm口径基板の場合には、側壁の厚さが少なくとも50mm以上であり、更に150mm口径基板の場合には、側壁の厚さが少なくとも65mm以上の坩堝を用いることが必要である。なお、ファセット領域を過大に大型化させ、成長時にファセット面が坩堝の内壁に過度に近接、あるいは接触し、結晶成長が不安定化する事態を避ける視点から、坩堝の側壁の厚さ上限として、製造するSiC単結晶基板が2インチ口径基板、3インチ口径基板、100mm口径基板、及び150mm口径基板を得る場合、それぞれ35mm未満、50mm未満、60mm未満、及び75mm未満であることが好ましい。
【0025】
ここで、所望のSiC単結晶基板を製造するにあたり、ファセット面の大きさについて言及しておきたい。単結晶インゴット成長用の種結晶として、1°のオフセット角を有する結晶面で構成された種結晶を使用し、得られた単結晶インゴットより、1°のオフセット角を有する2インチ口径基板のSiC単結晶基板を取り出す場合には、例えば、少なくとも直径が48.8mmの円形領域を内部に含む大きさのファセット面を有するSiC単結晶であれば、本発明の、EE領域を除いた平面領域が{0001}面ファセット領域に相当する結晶部分で全て構成された、2インチ口径のSiC単結晶基板が製造可能である。しかしながら、上記説明は、{0001}面ファセット領域として必要な、最小の大きさを規定するものであって、SiC単結晶基板のオフセット角が1°とは異なる場合、例えば4°あるいは8°等の場合、{0001}面ファセット領域に相当する結晶部分で全て構成されたSiC単結晶基板と取り出すために必要な{0001}面ファセット部の大きさは、SiC単結晶基板のオフセット角や、種結晶のオフセット角、及び両者の相対的な方向に応じて変化させることも可能である。
【0026】
他方、坩堝の高さについては、特に規定する事情はなく、所望のSiC単結晶の高さに応じて、結晶成長後の高さ、及び成長に必要な原料粉末を十分に充填できるように決めることが望ましい。また、坩堝上下面の厚さについても規定する事情は無いが、5mm未満のような過度に薄い坩堝であると、高周波誘導によって加熱する場合に十分な発熱が得られない。100mmを超える厚い上下面坩堝の場合、安定成長に必要な成長方向の温度勾配が得られなくなり、高品質なSiC単結晶が歩留り良く得られなくなる。成長するSiC単結晶の口径にもよるが、10mm以上100mm以下とすることが望ましい。
【0027】
このようにして得られたSiC単結晶インゴットを切断、研磨加工を施すことにより、本発明の2インチ口径基板、3インチ口径基板、100mm口径基板、更には150mm口径基板等が作製可能である。切断及び研磨方法としては、特段、規定する必要はないが、例えば、マルチワイヤーソーやダイヤモンドブレードによる外周刃切断等々、また、研磨方法としてはダイヤモンド粒子等々を含む研磨液を用いた片面あるいは両面研磨等が利用可能である。最終段の研磨プロセスとしてコロイダルシリカ等々の極微細懸濁粒子を含むスラリーを使用したCMP(Chemical-Mechanical polishingあるいはChemo-Mechanical polishing等)を行ってもよい。
【0028】
また、SiC単結晶基板のオフセット角であるが、規定する事情は無いが、8°以下、現実的には一般的な許容誤差である0.5°を含めて、8°+0.5°以下、あるいは4+0.5°以下であれば、デバイス製造に好適なSiC単結晶基板となり得る。8°+0.5°超になると、本発明にて使用する種結晶のオフセット角では、SiC単結晶基板作製時の加工負荷が過大になる。
【0029】
さらに、これらのSiC単結晶基板上に化学気相蒸着法(CVD法)等により、SiC単結晶薄膜をエピタキシャル成長させることにより、ホモエピタキシャル基板を作製することができる。
【0030】
これらのSiC単結晶基板あるいはエピタキシャル基板は、EE領域を除く基板の実質的に全領域において、極めて体積抵抗率の変動幅が小さい、極めて均一なSiC単結晶基板であり、このような本発明のSiC単結晶基板あるいはエピタキシャル基板を使用することで、特性に優れた各種の電子デバイスが作製可能にある。
【実施例】
【0031】
以下に、本発明の実施例について説明する。
【0032】
(実施例1)
図1に示す単結晶成長装置を用いて、以下に記すSiC単結晶成長を実施した。なお、図1は、種結晶を用いた改良型レーリー法によってSiC単結晶を成長させる装置の一例であり、本発明の構成要件を規定するものではない。
【0033】
まず、この単結晶成長装置について簡単に説明する。結晶成長は、種結晶として用いたSiC単結晶1の上に、原料であるSiC粉末2を昇華再結晶化させることにより行われる。種結晶のSiC単結晶1は、坩堝3(主として黒鉛製)の上部(主として黒鉛製)の内面に取り付けられる。原料のSiC粉末2は、黒鉛製坩堝3の内部に充填されている。このような坩堝3は、二重石英管4の内部に設置され、円周方向の温度ムラを解消するために、1rpm未満の回転速度で坩堝を回転可能な機構になっており、結晶成長中はほぼ一定速度で常に回転できるようになっている。坩堝3の周囲には、熱シールドのための断熱保温材5が設置されている。二重石英管4は、真空排気装置6により高真空排気(10-3Pa以下)することができ、かつ内部雰囲気をアルゴンガスにより圧力制御することができる。また、二重石英管4の外周には、ワークコイル7が設置されており、高周波電流を流すことにより坩堝3を加熱し、原料及び種結晶を所望の温度に加熱することができる。坩堝温度の計測は、坩堝の上部方向の中央部に直径2〜4mmの光路8を設け、坩堝上部からの輻射光を取り出し、二色温度計9を用いて行う。
【0034】
種結晶として、口径53mmの{0001}面を有した4H-SiC単結晶基板を、(000-1)面が成長面となるように坩堝内の対向面(上部内壁面)に取り付けた。使用した種結晶は、(000-1)面から<11-20>方向に0.5°の微小オフセット角を有しており、マイクロパイプ欠陥密度は1.4個/cm2である。
【0035】
図2に、成長に使用した坩堝の断面構造の概略を示した。なお、図2は、本発明のSiC単結晶を成長させる坩堝の一例であり、本発明の構成要件を規定するものではない。図2に示す坩堝では、結晶成長部分の内径は53mm、外径は115mmであり、側壁の厚さ(図2中の符号10)は31mmである。坩堝石英管内を真空排気した後、ワークコイルに電流を流し、坩堝上部の表面温度を1700℃まで上げた。その後、雰囲気ガスとして高純度アルゴンガス(純度99.9995%)と高純度窒素ガス(純度99.9995%)の混合ガスを流入させ、石英管内圧力を約80kPaに保ちながら、温度を目標温度である2250℃まで上昇させた。雰囲気ガス中の窒素濃度は7%とした。その後、成長圧力である1.3kPaに約30分かけて減圧し、約40時間成長を続けた。この際の坩堝内の温度勾配は15℃/cmである。成長終了後、坩堝内よりインゴットと取り出したところ、単一の4H型ポリタイプを有する結晶であり、得られた単結晶(インゴット)は、口径については坩堝内壁を侵食するように、成長前の坩堝内径(53mm)よりもやや拡大しており、計測の結果、最大部分で54mmであった。また、成長方向の長さは18mm程度であり、成長結晶の高さから計算される成長速度は約0.45mm/時間であった。
【0036】
得られたインゴットの成長表面を観察したところ、ほぼ円形に近い形状の(000-1)ファセットが現れており、詳しく計測したところ、最も短い短径が約48.4mmであり、その方向は種結晶のオフセット方向とほぼ垂直方向であり、また、最長径は約51.2mmであることが判明した。このインゴットから、マルチワイヤーソーを用いた切断により、(000-1)面から<11-20>方向に8°のオフ角を有する、口径50.8mm、厚さ400μmの基板を取り出し、さらに研磨により厚さ350μmの鏡面基板を作製した。こうして得られた鏡面基板を観察したところ、目視判別により基板の<11-20>方向のエッジ近傍で約1.8mm程度の、濃茶色のコントラストが小さい結晶領域が部分的に残留していたが、基板エッジより2mmのEE領域を除外した基板全領域は、濃茶色のコントラストが強いファセット領域で構成されていることが分かった。
【0037】
基板中心近傍の結晶中の窒素原子数密度をSIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy)により調べたところ、ほぼ9.8×1018/cm3であり、渦電流方式の非接触式抵抗率測定装置(ナプソン社製NC80MAPシート抵抗非接触測定装置)によって測定したシート抵抗値より、体積電気抵抗率の分布状況を計算したところ、EE領域を除外した基板全面積領域では、19.3±0.8mΩcmであり、極めて均一な体積電気抵抗率が実現されていることが判明した。
【0038】
さらに、得られた口径50.8mmの(0001)基板上に、SiC単結晶薄膜を化学気相成長法(CVD法)によりエピタキシャル成長させた。成長条件は、成長温度1580℃、シラン(SiH4)、エチレン(C2H4)の流量を、それぞれ5.0×10-9m3/sec、3.9×10-9m3/secとした。また、このときの水素キャリアガス流量、及び窒素ガス(N2)流量は、それぞれ1.8×10-5m3/sec、3.1×10-9m3/secに制御した。約1時間の成長により、厚さ約10μmのSiC単結晶エピタキシャル薄膜が成長していることを確認した。このようにして得られたエピタキシャル薄膜を、ノルマルスキー光学顕微鏡により観察したところ、基板全面に渡って平坦性に優れ、良好なモフォロジ―を有する、品質の高いSiC単結晶エピタキシャル薄膜であることが確認できた。
【0039】
(実施例2)
4Hポリタイプの種結晶の口径が78mmであり、この種結晶を用いてSiC単結晶インゴットを成長させたこと以外は、実施例1とほぼ同様な成長条件にて、単結晶成長を実施した。なお、使用した坩堝は、結晶成長部分の内径は78mm、外径は162mmであり、側壁の厚さは42mmである。また、種結晶は、(000-1)面から<11-20>方向に0.5°の微小オフセット角を有している。更には、得られた単結晶(インゴット)の口径については坩堝内壁を侵食するように、成長前の坩堝内径(78mm)よりもやや拡大しており、計測の結果、概ね81mmであった。
【0040】
得られたインゴットの成長表面を観察したところ、ほぼ円形状の(000-1)ファセットが現れており、詳しく計測したところ、最も短い短径が約72.3mmであり、その方向は種結晶のオフセット方向とほぼ垂直方向、また、最長径は約73.0mmであることが判明した。このインゴットから、マルチワイヤーソーを用いた切断により、(000-1)面から<11-20>方向に4°のオフセット角を有する基板を研削及び切断により取り出し、さらに研磨により厚さ350μmの鏡面基板を作製した。こうして得られた鏡面基板を観察したところ、実施例1と同様に、基板の<11-20>方向のエッジ近傍で濃茶色のコントラストが小さい結晶領域が部分的に残留していたが、基板エッジより2mmのEE領域を除外した基板全面積領域は、茶色のコントラストが強い、インゴット表面に現れたファセット部に相当する結晶領域で構成されていた。
【0041】
実施例1と同様に、体積抵抗率を測定したところ、EE領域を除外した基板全面積領域では、18.6±0.9mΩcmであり、極めて均一な抵抗率が実現されていることが判明した。
【0042】
さらに、得られた基板の(0001)面上に、実施例1と同様な条件で、厚さ約10μmのSiC単結晶エピタキシャル薄膜を成長させた。得られたエピタキシャル薄膜を、ノルマルスキー光学顕微鏡により観察したところ、基板全面に渡って平坦性に優れ、良好なモフォロジ―を有する、品質の高いSiC単結晶エピタキシャル薄膜であることが確認できた。
【0043】
(実施例3)
4Hポリタイプの種結晶の口径が102mmであり、この種結晶を用いてSiC単結晶インゴットを成長させたこと以外は、実施例1とほぼ同様な成長条件にて、単結晶成長を実施した。なお、種結晶は(000-1)ジャスト面でオフセット角はほぼゼロである。また、使用した坩堝は、結晶成長部分の内径は102mm、外径は209mmであり、側壁の厚さは53.5mmである。また、得られた単結晶(インゴット)の口径については坩堝内壁を侵食するように、成長前の坩堝内径(102mm)よりもやや拡大しており、計測の結果、概ね105mmであった。
【0044】
得られたインゴットの成長表面を観察したところ、ほぼ円形状の(000-1)ファセットがインゴットの中心と同心になるように現れており、詳しく計測したところ、最も短い短径が約94.2mmであり、また、最長径は約95.0mmであることが判明した。このインゴットから、マルチワイヤーソーを用いた切断により、(000-1)面から<11-20>方向に4°のオフセット角を有する、厚さ520μmの基板を取り出し、さらに研磨により厚さ400μmの鏡面基板を作製した。こうして得られた鏡面基板を観察したところ、基板エッジより3mmのEE領域を除外した基板全面積領域は、茶色のコントラストが強い、インゴット表面に現れたファセット部に相当する結晶領域で構成されており、EE領域を除外した基板全面積領域での体積抵抗率は、17.9±0.8mΩcmであり、極めて均一な抵抗率が実現されていることが判明した。
【0045】
さらに、得られた基板の(0001)面上に、実施例1と同様な条件で、厚さ約10μmのSiC単結晶エピタキシャル薄膜を成長させた。得られたエピタキシャル薄膜を、ノルマルスキー光学顕微鏡により観察したところ、ほぼ基板全面に渡って平坦性に優れ、良好なモフォロジ―を有するSiC単結晶エピタキシャル薄膜であることが確認できた。
【0046】
(実施例4)
4Hポリタイプの種結晶の口径が152mmであり、この種結晶を用いてSiC単結晶インゴットを成長させたこと以外は、実施例1とほぼ同様な成長条件にて、単結晶成長を実施した。なお、種結晶は(000-1)ジャスト面でオフセット角はほぼゼロである。また、使用した坩堝は、結晶成長部分の内径は152mm、外径は286mmであり、側壁の厚さは67mmである。また、得られた単結晶(インゴット)の口径については坩堝内壁を侵食するように、成長前の坩堝内径(152mm)よりもやや拡大しており、計測の結果、概ね156mmであった。
【0047】
得られたインゴットの成長表面を観察したところ、ほぼ円形状の(000-1)ファセットがインゴットの中心と同心になるように現れており、詳しく計測したところ、最も短い短径が約144.1mmであり、また、最長径は約146.8mmであることが判明した。このインゴットから、マルチワイヤーソーを用いた切断により、(000-1)面から<11-20>方向に4°のオフセット角を有する、厚さ550μmの基板を取り出し、さらに研磨により厚さ420μmの鏡面基板を作製した。こうして得られた鏡面基板を観察したところ、基板エッジより3mmのEE領域を除外した基板の全面積領域は、濃茶色のコントラストが強い、インゴット表面に現れたファセット部に相当する結晶領域で構成されており、EE領域を除外した基板全面積領域での体積抵抗率は、17.4±0.9mΩcmであり、極めて均一な抵抗率が実現されていることが判明した。
【0048】
さらに、得られた基板の(0001)面上に、実施例1と同様な条件で、厚さ約10μmのSiC単結晶エピタキシャル薄膜を成長させた。得られたエピタキシャル薄膜を、ノルマルスキー光学顕微鏡により観察したところ、ほぼ基板全面に渡って平坦性に優れ、良好なモフォロジ―を有するSiC単結晶エピタキシャル薄膜であることが確認できた。
【0049】
(実施例5)
4Hポリタイプの種結晶の口径が50mmであり、この種結晶を10枚準備し、それらを用いて実施例1とほぼ同様な成長条件にて、単結晶成長を10回実施した。なお、種結晶は、(000-1)面から<11-20>方向に0.5°の微小オフセット角を有している。また、使用した坩堝は、結晶成長部分の内径は53mm、外径は115mmであり、側壁の厚さは31mmである。
【0050】
得られた10個の単結晶インゴットは、全て4Hポリタイプ単一からなっており、成長表面を観察したところ、ほぼ円形状の(000-1)ファセットがインゴットの中心と同心になるように現れていた。詳しく計測したところ、10個のインゴットの中で、最も短いファセット短径は約47.9mmであった。10個の全インゴットについて、ファセット短径の平均値は48.4mm、長径の平均値は50.1mmである。このインゴットから、マルチワイヤーソーを用いた切断により、(000-1)面から<11-20>方向に4°のオフセット角を有する基板を取り出し、さらに研磨により厚さ350μmの鏡面基板を作製した。得られた鏡面基板のエッジ端より2mmのEE領域を除外した基板全面積領域は、全て濃茶色のコントラストが強い、インゴット表面に現れたファセット部に相当する結晶領域で構成されており、EE領域を除外した基板全面積領域での体積抵抗率の平均値は、18.6±0.5mΩcmであり、極めて均一な抵抗率が実現されていることが判明した。
【0051】
他方、比較実験として、4Hポリタイプの種結晶の口径が53mmであり、この種結晶を10枚準備し、それらを用いて実施例1とほぼ同様な成長条件にて、単結晶成長を実施した。但し、使用した種結晶は、(000-1)面から<11-20>方向に15.5°のオフセット角を有しており、マイクロパイプ欠陥密度等々の種結晶の品質はほぼ同等ある。なお、使用した坩堝は、結晶成長部分の内径は53mm、外径は83mmであり、側壁の厚さは15mmとした。得られたインゴットは、結晶表面のファセット面が坩堝内壁に接触しており、成長途中において該部分が起点と推測される6Hポリタイプ発生が起こっており、結果として6Hポリタイプが混入した結晶領域の直上においてマイクロパイプ欠陥が新規に大量に発生し、結晶品質が著しく劣化していた。このため、4Hポリタイプのみで構成される高品質な、口径50.8mmのSiC単結晶基板は取り出せなかった。
【0052】
(比較例)
4Hポリタイプの種結晶の口径が53mmであり、(000-1)面から<11-20>方向に0.5°の微小オフセット角を有する種結晶を10枚準備し、それらを用いて実施例1とほぼ同様な成長条件にて、単結晶成長を10回実施した。使用した種結晶のマイクロパイプ欠陥密度は1.1個/cm2、ド−ピング元素としての窒素の濃度は9×1018cm-3である。また、使用した坩堝は、結晶成長部分の内径は53mm、外径は83mmであり、側壁の厚さは15mmである。
【0053】
得られた10個の単結晶インゴットは、全て単一の4Hポリタイプからなる良質なインゴットであった。インゴットの表面を観察したところ、やや変形した楕円形状に近い形状の(000-1)ファセット面がインゴット端部近傍に形成されていることが観察され、そのファセットの短径は4.2mm、長径は13.5mmであった。このようにファセットの大きさが著しく小さく、インゴットをどのように加工しても、基板のエッジ端より2mmのEE領域を除外した基板全領域を、ファセット領域に相当するインゴットの結晶部分で構成させることは不可能であった。なお、これらの得られたインゴットの中の一つから、(000-1)面から<11-20>方向に4°のオフセット角を有する基板を取り出し、さらに研磨により厚さ350μmの鏡面基板を作製して体積電気抵抗率を測定したところ、濃茶色のコントラストが強い、インゴット表面に現れたファセット部に相当する結晶領域では18.9±0.8mΩcm、それ以外のコントラストの弱い基板面積領域では、21.9±1.5mΩcmであり、抵抗率の均一性に劣るSiC単結晶基板であることも併せて判明した。
【符号の説明】
【0054】
1 種結晶(SiC単結晶)
2 SiC結晶粉末原料
3 坩堝
4 二重石英管(水冷)
5 断熱材
6 真空排気装置
7 ワークコイル
8 測温用窓
9 二色温度計(放射温度計)
10 坩堝側壁厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素単結晶インゴットから切断し、研磨して得られる炭化珪素単結晶基板であって、エッジエクスクルージョン領域を除いた平面領域が、実質的に炭化珪素単結晶インゴット由来の{0001}面ファセット領域からなることを特徴とする炭化珪素単結晶基板。
【請求項2】
前記炭化珪素単結晶基板のエッジエクスクルージョン領域を除いた平面領域が、窒素を3×1018/cm3以上6×1020/cm3以下含有し、かつ、体積抵抗率の平均値が0.0005Ωcm以上0.05Ωcm以下である請求項1に記載の炭化珪素単結晶基板。
【請求項3】
前記炭化珪素単結晶基板が2インチ口径基板又は3インチ口径基板の場合、エッジエクスクルージョン領域は、基板の外周端から内側2mm未満までの領域である請求項1又は2に記載の炭化珪素単結晶基板。
【請求項4】
前記炭化珪素単結晶基板が100mm口径基板又は150mm口径基板の場合、エッジエクスクルージョンは、基板の外周端から内側3mm未満までの領域である請求項1又は2に記載の炭化珪素単結晶基板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の炭化珪素単結晶基板上に、炭化珪素薄膜をエピタキシャル成長してなる炭化珪素単結晶エピタキシャル基板。
【請求項6】
炭化珪素単結晶からなる種結晶上に炭化珪素単結晶インゴットを成長させる工程を包含する昇華再結晶法を用いた炭化珪素単結晶基板の製造方法であり、
種結晶として、結晶成長面が{0001}面から1°未満のオフセット角を有する種結晶基板を用い、また、成長容器として、側壁の厚さが少なくとも25mmの黒鉛製坩堝を用いて、得られる炭化珪素単結晶の体積抵抗率を制御するための不純物を結晶成長雰囲気に添加した状態で結晶成長を行い、口径50mm以上の炭化珪素単結晶インゴットを得て、
得られた炭化珪素単結晶インゴットを研削、切断、及び研磨し、結晶成長面が{0001}面から8°以下のオフセット角を有するようにすることで、口径が50mm以上であり、尚且つ、エッジエクスクルージョン領域を除いた平面領域が、実質的に炭化珪素単結晶インゴット由来の{0001}面ファセットからなる炭化珪素単結晶基板を得ることを特徴とする炭化珪素単結晶基板の製造方法。
【請求項7】
前記体積抵抗率を制御するための不純物が窒素であり、成長結晶中の窒素濃度が3×1018/cm3以上、6×1020/cm3以下となるように窒素流量を制御する請求項6に記載の炭化珪素単結晶基板の製造方法。
【請求項8】
前記種結晶基板のオフセット角度が0.5°未満である請求項6又は7に記載の炭化珪素単結晶基板の製造方法。
【請求項9】
前記炭化珪素単結晶基板のオフセット角度が4°以下である請求項6〜8のいずれかに記載の炭化珪素単結晶基板の製造方法。
【請求項10】
側壁の厚さが少なくとも40mmの黒鉛製坩堝を用いて口径75.6mm以上の炭化珪素単結晶インゴットを結晶成長させて、3インチ口径基板以上のサイズを有する炭化珪素単結晶基板を得る請求項6〜9のいずれかに記載の炭化珪素単結晶基板の製造方法。
【請求項11】
側壁の厚さが少なくとも50mmの黒鉛製坩堝を用いて口径99.5mm以上の炭化珪素単結晶インゴットを結晶成長させて、100mm口径基板以上のサイズを有する炭化珪素単結晶基板を得る請求項6〜9のいずれかに記載の炭化珪素単結晶基板の製造方法。
【請求項12】
側壁の厚さが少なくとも65mmの黒鉛製坩堝を用いて口径149.5mm以上の炭化珪素単結晶インゴットを結晶成長させて、150mm口径基板以上のサイズを有する炭化珪素単結晶基板を得る請求項6〜9のいずれかに記載の炭化珪素単結晶基板の製造方法。
【請求項13】
請求項6〜12のいずれかに記載の製造方法で得られた炭化珪素単結晶基板上に、炭化珪素薄膜をエピタキシャル成長させることを特徴とする炭化珪素単結晶エピタキシャル基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−254520(P2010−254520A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106306(P2009−106306)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】