説明

炭化珪素単結晶基板の製造方法、及び炭化珪素単結晶基板

【課題】本発明は、体積抵抗率が全面積部分に亘って均一な炭化珪素単結晶基板の製造方法を提供する。
【解決手段】炭化珪素単結晶インゴット成長表面に現れる{0001}ファセット面の面積が大きなインゴットを作製し、そのインゴットを切断・研磨することにより、基板の全面積領域が成長時の{0001}ファセット領域に相当するインゴット部分で構成されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体積抵抗率が小さく、かつ、結晶基板領域に亘って均一な体積抵抗率を有する炭化珪素単結晶基板を取り出せる炭化珪素単結晶基板の製造方法に関するものであり、主に各種電子デバイス等を製造するための基板として用いる。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)等の従来の半導体材料よりも優れた半導体特性等を有することから、例えば、大電力制御用インバーターを構成する、各種の半導体デバイスの基板用材料として大きな注目を集めている。2インチ(約50.8mm)以上の口径を有する単結晶のインゴットは、目下のところ、改良レーリー法と称される昇華再結晶法によって、製造されることが主流になっている(非特許文献1)。近年、SiC単結晶製造技術が進捗し、SiC単結晶中の各種の転位欠陥密度の低減化とともに、口径が3インチ(約76.2mm)を超え、100mmの高品質大口径SiC結晶が実現するに及んでいる(非特許文献2)。また、SiC基板を応用したデバイスとして、窒化ガリウム(GaN)系青色発光ダイオードやSiCショットキーバリアダイオード等が既に商品化されており、また他方で、GaN系高周波デバイス、及びMOSFETに代表される低損失パワーデバイス等々も試作されている。
【0003】
耐圧特性等々に優れるパワーデバイス用を製造するためには、使用する基板の転位欠陥が極力少なくなることが必要である。SiC単結晶基板の場合、特徴的な欠陥であるマイクロパイプ欠陥が知られている。マイクロパイプ欠陥とは、大型の螺旋転位の中心部分に微細な穴が貫通したものであり、このような欠陥が存在すると、高電圧印加下で電流リークの発生原因となるため、デバイスの耐圧特性等に深刻な影響を与えてしまう。マイクロパイプ欠陥が発生する原因の一つとして、異種ポリタイプの発生が挙げられており、マイクロパイプの増加を抑えて高い結晶性を有するSiC単結晶を製造するためには、異種ポリタイプ発生が皆無な安定成長製造法の確立が必須である。近年、安定製造技術の進歩があり、最近では単位面積(1cm2)あたりのマイクロパイプ欠陥の数が数個以下の良質単結晶が報告されるに及んでいる(非特許文献3)。
【0004】
一方、損失低減化等、デバイス特性の向上の観点から、上記の結晶欠陥密度以外にも様々な半導体特性が基板に求められている。基板の体積電気抵抗率もその一例である。SiC単結晶の体積電気抵抗率の制御は、成長時の不活性ガス雰囲気中に、不純物元素を含む気体状原料ガスを添加して行うことが一般的である。特に、代表的なn型不純物元素である窒素の場合、気体状原料ガスは窒素ガスであり、目的とする結晶中の窒素濃度が得られるように窒素ガス添加量を制御しながら成長を行うことで、所望の体積電気抵抗率を実現することが可能である(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-1532号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yu. M. Tairov and V. F. Tsvetkov, Journal of Crystal Growth, vol.52 (1981) pp.146
【非特許文献2】C. H. Carter, et al., FEDジャーナル, vol.11 (2000) pp.7
【非特許文献3】A. H. Powell, et al., Material Science Forum, vol.457-460 (2004) pp.41
【非特許文献4】N. Ohtani, et al., Electronics and Communications in Japan, Part2, vol.81 (1998) pp.8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、n型のSiC単結晶及びその結晶基板を製造するための添加不純物元素としては、窒素が知られており、前記した通り、成長時の不活性ガス雰囲気中に、窒素ガスを適当量添加した状態で結晶成長を行うことにより結晶中への窒素添加が可能である。SiCデバイスの特性向上、特にデバイス間の特性バラツキ低減化や歩留まり向上のためには、体積電気抵抗率のSiC基板面内のバラツキを極力少なくすることが極めて重要である。
【0008】
ところで、SiC単結晶成長においては、{0001}面、あるいはその面から角度が数度程度オフした面を有する種結晶上に単結晶成長を実施すると、SiC単結晶の成長表面上に{0001}ファセット面が現れる(特願2008-1532号公報)。{0001}ファセット面とは、SiC単結晶を成長させる際に、結晶のc軸である<0001>軸方向に正確に垂直な角度を有する領域に発生する平滑面であり、良質な単結晶成長を実現するステップフロー成長様式のステップ供給源となるため、その存在は、良質な単結晶成長の必須条件となっている。特願2008-1532号公報において示されているように、例えば、4H型のSiC単結晶成長中の結晶表面に現れる(000-1)面ファセット部に相当する結晶部分においては、窒素原子の取り込みが大きくなる。この{0001}ファセット面は、種結晶直上の成長の極初期を除いて、SiC単結晶成長のほぼ全過程において、単結晶の成長表面上に現れるため、単結晶中に窒素原子の取り込みが他の部分と比較して多くなった、いわば{0001}ファセット領域が形成され、この部分の体積電気抵抗率は他の結晶部分よりも小さくなる。ファセット領域に相当する結晶部分の体積電気抵抗率の変動幅は、成長条件にもよるが、概ね±1mΩcm、大きくてもほぼ±5mΩcmの範囲に収まっており、極めて均一な体積電気抵抗率が実現されているが、ファセット部以外の領域と比較すると、その絶対値が、概ね約20%程度小さい。例えば、発明者らの調査の一例では、ファセット部の中心近傍において体積抵抗率が13.9mΩcmであるのに対して、ファセット部以外の結晶領域では18.1mΩcmであり、ファセット部以外の結晶領域に対して約22%低い抵抗率をファセット部が有している事実がその一例として判明している。なお、このときのファセット部における窒素原子数密度をSIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy)を用いて調べたところ1.5×1019/cm3であり、他方、ファセット部以外の結晶領域の窒素原子数密度は8.1×1018/cm3である。
【0009】
上述のように、(000-1)面ファセット領域においては、窒素原子の取り込みが大きく、このため、例えば、4H型のSiC単結晶インゴットでは、インゴットから成長面にほぼ平行に基板を切り出して可視光を透過させると、窒素濃度の差を反映した濃茶色のコントラストが観察され、ファセット領域に相当する結晶領域は濃茶色のコントラストの比較的強い領域として目視にても判別できる。このような場合、基板の全領域の体積抵抗率のばらつきが増加し、結果としてデバイス特性を劣化させてしまう事態を引き起こしてしまう。
【0010】
上述したファセット領域の存在に起因する、体積抵抗率のばらつきを低減化するために、前述の特願2008-1532号公報においては、{0001}面から2°以上15°以下のオフセットを有する種結晶上に結晶成長を行う方法が開示されている。特願2008-1532号公報の方法によれば、{0001}面ファセット面は、インゴッ側部の外周端から約10mm以内の端部領域に出現するため、例えば、このファセット出現領域を削除して基板を切り出せば、小さな抵抗率部分を有するファセット領域が無いSiC単結晶基板が取り出せ、このため基板の全面積に亘って、極めて体積電気抵抗率が均一なSiC単結晶基板が実現できる。このような特願2008-1532号公報の発明は極めて有用な方法であり、該発明においては、体積電気抵抗率のばらつきが1.3%という極めて電気抵抗率の均一性に優れた基板が実現できるようになる。
【0011】
しかしながら、{0001}面ファセットをインゴットの外周端部付近に誘導するような結晶成長を行うと、坩堝内壁との熱的な相互作用、あるいは側壁を構成する黒鉛が起因となって昇華ガス組成の変動等々が発生し易く、これらの影響を受けてステップ供給機構が不安定になるため、異種ポリタイプが不慮発生する等、結晶成長不安定性が増加してしまう。このような状況では、目的とする高品質なSiC単結晶を工業的に製造する場合に、製造コストや生産効率性の点で問題が生じてしまう。
【0012】
本発明では、上記の問題点を解決し、基板の全面積領域で体積電気抵抗率のばらつきが少ないSiC単結晶基板の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の従来技術での問題を解決し、基板の全面積領域で均一な体積抵抗率を有するSiC単結晶基板の製造方法であって、
(1) 炭化珪素単結晶からなる種結晶上に炭化珪素単結晶インゴットを成長させる工程を包含する昇華再結晶法を用いた炭化珪素単結晶基板の製造方法であり、種結晶として、結晶成長面が{0001}面から1°未満のオフセット角を有する種結晶基板を用い、また、成長容器として、側壁の厚さが少なくとも35mmの黒鉛製坩堝を用いて、得られる炭化珪素単結晶の体積抵抗率を制御するための不純物を結晶成長雰囲気に添加した状態で結晶成長を行い、炭化珪素単結晶インゴットを得て、得られた炭化珪素単結晶インゴットを切断及び研磨することで、口径が50mm以上であり、尚且つ、主面が実質的に炭化珪素単結晶インゴット由来の{0001}面ファセットからなる炭化珪素単結晶基板を得ることを特徴とする炭化珪素単結晶基板の製造方法、
(2) 前記種結晶基板の結晶成長面が、{0001}面から0.5°未満のオフセット角を有する(1)に記載の炭化珪素単結晶基板の製造方法、
(3) 体積抵抗率を制御するための不純物が窒素であり、成長結晶中の窒素濃度が3×1018/cm3以上、6×1020/cm3以下であり、かつ、得られる炭化珪素単結晶基板の体積抵抗率の平均値が0.0005Ωcm以上0.05Ωcm以下である(1)又は(2)に記載の炭化珪素単結晶基板の製造方法、
(4) 側壁の厚さが少なくとも50mmの黒鉛製坩堝を用いて炭化珪素単結晶インゴットを結晶成長させて、3インチ口径基板以上のサイズを有する炭化珪素単結晶基板を得る(1)〜(3)のいずれかに記載の炭化珪素単結晶基板の製造方法、
(5) 側壁の厚さが少なくとも60mmの黒鉛製坩堝を用いて炭化珪素単結晶インゴットを結晶成長させて、100mm口径基板以上のサイズを有する炭化珪素単結晶基板を得る(1)〜(3)のいずれかに記載の炭化珪素単結晶基板の製造方法、
(6) 側壁の厚さが少なくとも75mmの黒鉛製坩堝を用いて炭化珪素単結晶インゴットを結晶成長させて、150mm口径基板以上のサイズを有する炭化珪素単結晶基板を得る(1)〜(3)のいずれかに記載の炭化珪素単結晶基板の製造方法、
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の炭化珪素単結晶基板上に、炭化珪素薄膜をエピタキシャル成長させることを特徴とする炭化珪素単結晶エピタキシャル基板の製造方法、
(8) 炭化珪素単結晶インゴットから切断し、研磨して得られる炭化珪素単結晶基板であって、主面が実質的に炭化珪素単結晶インゴット由来の{0001}面ファセットからなることを特徴とする炭化珪素単結晶基板、
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、例えば、種結晶を用いた改良型レーリー法等々のような、種結晶上に炭化珪素単結晶インゴットを成長させる工程を包含する製造方法により作製した炭化珪素単結晶より、SiC単結晶基板の全面積領域で、低抵抗率でかつ抵抗率の均一性に優れたSiC単結晶基板を製造できるようになる。このような結晶から切り出されたSiC単結晶基板を用いれば、極めて高性能な電力制御用パワーデバイスを歩留り良く作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】昇華再結晶法(改良レーリー法)の原理を説明する図
【図2】本発明で使用した坩堝の断面構造を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明者らが開示する本発明によれば、この基板の全面積領域を、すなわちSiC単結晶基板の主面を、前述の{0001}面ファセット領域で構成されたSiC単結晶基板を製造することが可能になる。ファセット領域に相当する単結晶部分で構成されたSiC単結晶基板の体積電気抵抗率は、成長条件にもよるが、概ね±0.001Ωcm(=1mΩcm)、大きくてもほぼ±0.005Ωcm(=±5mΩcm)に収まっており、このため、基板の全面積領域において、極めて体積抵抗率の変動幅が概ね±1mΩcm以内である、極めて均一なSiC単結晶基板が実現可能になる。なお、{0001}面ファセット領域は、例えば、実施例で説明するように、特有の濃茶色を呈することから目視によってその存在を確認することができる。そのため、主面が炭化珪素単結晶インゴット由来の{0001}面ファセットからなる炭化珪素単結晶基板であるかどうかについては、目視によって実質的に判断することができる。
【0017】
以下に、本発明の詳細について説明する。
まず初めに、昇華再結晶法、あるいは別称、改良型レーリー法について説明する。図1に、昇華再結晶法の単結晶成長装置の概略図を示す。主として黒鉛からなる坩堝を用い、この坩堝内にアチソン法等々により作製したSiC結晶原料粉末を充填し、その対向位置にSiC単結晶からなる種結晶を配置する。アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で、概ね133Pa〜13.3kPaの範囲の圧力に調整し、2000〜2400℃に加熱される。この際、原料粉末と種結晶間に、原料粉末の温度が高くなるように温度勾配を制御することにより、原料粉末の昇華及び種結晶上への再結晶化を誘起し、種結晶上への単結晶成長が実現される。
【0018】
この昇華再結晶法においては、成長する単結晶中への不純物ドーピングは、n型SiC単結晶成長の場合、成長中の雰囲気ガスへの窒素ガスの添加によって可能である。例えば、デバイス応用として必要な体積電気抵抗率である0.0005Ωcm(=0.5mΩcm)以上、0.05Ωcm(=50mΩcm)以下のn型SiC単結晶の実現には、他の残留不純物元素の濃度にもよるが、アルミニウムやホウ素等のP型不純物濃度が、概ね5×1017cm-3以下である場合、3×1018cm-3以上、6×1020cm-3以下の窒素原子をSiC単結晶中に添加することにより実現でき、改良型レーリー法によるバルク状SiC単結晶成長においては、雰囲気ガス中の窒素ガス分圧を、概ね300Pa〜5.3kPaの範囲になるように制御することにより、前述の体積電気抵抗率が実現可能である。
【0019】
本発明の、基板の全面積領域が{0001}ファセット領域で構成されたSiC単結晶基板を製造する方法の一例としては、成長結晶の表面に現れるファセット面は一般的に円形あるいはそれに類似した形状を呈することが昇華再結晶法においては一般的であり、その短径が50.8mm以上の大きなファセット面を有するSiC単結晶(インゴット)を、あるいは、ファセット面が円形あるいはそれに類似した形状でない場合には、少なくとも直径が50.8mmの円形領域を内部に含む大きさのファセット面を有するSiC単結晶(インゴット)を、それぞれ実現するために、上述の昇華再結晶法において使用する黒鉛坩堝の側壁の厚さを、少なくとも35mm、望ましくは40mm以上とすることで可能になる。これにより、少なくとも2インチ口径を有した本発明に係るSiC単結晶基板を得ることができる。特に加熱方法として高周波誘導加熱方式を採用した場合、加熱コイル内部を流れる交流電流の周波数にもよるが、7〜10kHz程度の高周波電流では概ね坩堝の表面約10mm程度の部分が実質的な発熱源となる。このような場合、坩堝内部に形成される温度分布曲線の曲率半径が大きくなるため、等温線が平坦化する傾向が強くなることが本発明者らの数値計算をベースとする詳細な解析により明らかになっている。そのメカニズムについてであるが、坩堝側壁を増加させると、坩堝の発熱源領域が成長結晶を離れて外側へ移動し、かつ大きな側壁領域内を輻射伝播して側壁部分全体が発熱源と類似の効果を呈するようになるためと、本発明者らは推測しているが、詳細については未だ明らかにされておらず、これ以上のメカニズムについては現時点では言及できない。このような状況下では、ファセット近傍の等温線もより平坦化され、結果としてファセット面を大きくする作用を及ぼすものと考えられ、それが原因となってファセットが大型化させているものと推測される。
【0020】
また特に、短径が76.2mm以上の大型のファセット面を有するSiC単結晶(インゴット)を実現する場合には、少なくとも50mm、望ましくは55mm以上の側壁の厚さを有する坩堝を用いるのがよい。これにより、少なくとも本発明に係る3インチ口径基板を好適に得ることができる。短径が100mm以上の大型のファセット面を有するSiC単結晶(インゴット)の場合には、少なくとも60mm、望ましくは65mm以上の側壁の厚さを有する坩堝を用いるのがよい。これにより、少なくとも本発明に係る100mm口径基板を好適に得ることができる。更に短径が150mm以上の大型のファセット面を有するSiC単結晶(インゴット)の場合には、少なくとも75mm、望ましくは80mm以上の側壁の厚さを有する坩堝を用いるのがよい。これにより、少なくとも本発明に係る150mm口径基板を好適に得ることができる。これらのように坩堝の側壁の厚みを制御することは、所望の大型のファセットを安定的に実現する目的から望ましい。
【0021】
また、坩堝側壁の厚さの上限については、特に規定する事情は無いが、製造効率やコスト等々を考慮して、短径が50.8mm以上の大型のファセット面を有するSiC単結晶(インゴット)を実現する場合には50mm以下、短径が76.2mm以上の大型のファセット面を有するSiC単結晶(インゴット)を実現する場合には60mm以下、短径が100mm以上の大型のファセット面を有するSiC単結晶(インゴット)の場合には75mm以下、更に短径が150mm以上の大型のファセット面を有するSiC単結晶(インゴット)の場合には100mm以下であれば、それぞれ十分である。なお、坩堝の高さについては、特に規定する事情はなく、所望のSiC単結晶の高さに応じて、結晶成長後の高さ、及び成長に必要な原料粉末を十分に充填できるように決めることが望ましい。また、坩堝上下面の厚さについても規定する事情は無いが、5mm未満のような過度に薄い坩堝であると、高周波誘導によって加熱する場合に十分な誘導発熱が得られない。100mmを超える厚い上下面坩堝の場合、安定成長に必要な成長方向の温度勾配を得ることが困難になり、高品質なSiC単結晶が歩留りよく得られなくなる。坩堝上下面の厚さについては、成長するSiC単結晶の口径にもよるが、10mm以上100mm以下とすることが望ましい。また、得られるインゴットの口径であるが、例えば2インチ口径基板、3インチ口径基板、100mm口径基板、及び150mm口径基板のSiC単結晶基板を作製するためには、少なくともそれぞれ50.8mm、76.2mm、100mm、及び150mmの口径を有するインゴットであればよい。
【0022】
また、SiC単結晶基板が、その口径について、例えば、Si単結晶基板のSEMI規格の視点から半導体デバイス製造用の基板として十分な寸法精度を有するためには、その公差を含めて、それぞれ、50.8±0.38mm(2インチ口径基板の場合)、76.2±0.63mm(3インチ口径基板の場合)、100.0±0.5mm(100mm口径基板の場合)、及び150.0±0.5mm(100mm口径基板の場合)である必要があることを考慮する場合には、インゴット口径は、それぞれ、少なくとも50.5mm以上、75.6mm以上、99.5mm以上、及び149.5mm以上とする必要がある。なお、基板口径が150mmの場合の公差は、Si単結晶基板では0.2mmであるが、SiC単結晶の場合、硬脆材料である事情を考慮し、0.5mmの公差を設定した。これらの下限値未満の口径では、所望の口径のSiC単結晶基板が製造できない。勿論、製造しようとするSiC単結晶基板のオフ角度やインゴットの高さなどに応じて、必要なインゴット口径の最小値は適宜変化させる必要がある。また、インゴット口径の下限値は、所望の単結晶基板が製造できる必要最小限の値であるが、前項(「発明が解決しようとする課題」)において述べたような、坩堝内壁との熱的な相互作用、あるいは側壁を構成する黒鉛が起因となって昇華ガス組成の変動等々の影響を避ける目的から、2インチ口径基板、3インチ口径基板、100mm口径基板、及び150mm口径基板のSiC単結晶基板を作製する際には、それぞれ55mm以上、80mm以上、110mm以上、及び160mm以上であることが好ましい。また、SiC単結晶インゴットの口径の上限であるが、特に制限するものではなく、口径300mm程度であれば十分に安定化されたファセットを有するSiC単結晶インゴット成長が可能である。
【0023】
また、上述のような大きな面積を有するファセット面を実現する場合、種結晶としては、その成長面が{0001}面から1°未満のオフセット角を有する結晶面で構成された種結晶基板を用いる必要がある。1°超のオフセット角を有する種結晶基板を使用すると、成長過程において、ファセット面が成長途中で坩堝の内壁に近接し、SiC単結晶成長が不安定化する。より好ましくは、{0001}面から0.5°未満のオフセット角を有する種結晶基板を用いることが望ましい。
【0024】
ここで、所望のSiC単結晶基板を製造するにあたり、ファセット面の大きさについて言及しておきたい。単結晶インゴット成長用の種結晶として、1°のオフセット角を有する結晶面で構成された種結晶基板を使用し、得られた単結晶インゴットより、1°のオフセット角を有する2インチ口径のSiC単結晶基板を取り出す場合には、前記したとおり、少なくとも直径が50.8mmの円形領域を内部に含む大きさのファセット面を一部に有するSiC単結晶であれば、本発明の、{0001}面ファセット領域に相当する結晶部分で全て構成された、2インチ口径のSiC単結晶基板が製造可能である。なお、図3は、本発明のSiC単結晶基板が取り出し可能なインゴットの一例を示すものであって、種結晶中の{0001}面ファセットの大きさや、その拡大過程等々、本発明を規定するものではない。しかしながら、上記説明は{0001}面ファセット領域として必要な、最小の大きさを規定するものであって、SiC単結晶基板のオフセット角が1°とは異なる場合、例えば、4°あるいは8°等の場合、{0001}面ファセット領域に相当する結晶部分で全て構成されたSiC単結晶基板を取り出すために必要な{0001}面ファセット部の大きさは、SiC単結晶基板のオフセット角や、種結晶のオフセット角、及び両者の相対的な方向に応じて決定すれば十分である。
【0025】
また更に、少なくとも直径が50.8mmの円形領域を内部に含むような、大きなファセット面を有するSiC単結晶を成長する場合、{0001}平滑面上のステップフローの移動を、大きなファセット面上に亘って安定的に実現するためには、SiC単結晶の成長速度を、0.5mm/時間以下、好ましくは0.2mm/時間以下、さらに好ましくは0.1mm/時間以下とすることが望ましいことを言及しておく。成長速度が0.5mm/時間を超えると、大きなファセット面上でのステップフローの移動が不安定になり、異なるポリタイプを有するSiC単結晶が発生したり、あるいは多結晶核が生成する等の現象が発生したりする等、高品質なSiC単結晶が得られなくなる。また、成長速度の下限についても、成長途中で単結晶成長が停止して表面が炭化する等のような不安定化が起こらない限り特に規定する必要はないが、安定した高品質SiC単結晶を実現する目的との視点では、概ね0.01mm/時間以上であれば十分である。
【0026】
このようにして得られたSiC単結晶インゴットを切断、研磨加工を施すことにより、例えば主面がファセット領域で全て構成された2インチ口径基板、3インチ口径基板、100mm口径基板、更には150mm口径基板等が作製可能である。切断及び研磨方法としては、特段、規定する必要はないが、例えばマルチワイヤーソーやダイヤモンドブレードによる外周刃切断等々、また研磨方法としてはダイヤモンド粒子等々を含む研磨液を用いた片面あるいは両面研磨等が利用可能である。最終段の研磨プロセスとしてコロイダルシリカ等々の極微細な懸濁粒子を含むスラリーを使用したCMP(Chemical-Mechanical polishingあるいはChemo-Mechanical polishing等)を行ってもよい。
【0027】
さらに、これらのSiC単結晶基板上に化学気相蒸着法(CVD法)等により、SiC単結晶薄膜をエピタキシャル成長させることにより、ホモエピタキシャル基板を作製することができる。
【0028】
これらのSiC単結晶基板あるいはエピタキシャル基板は、基板自体の全面積領域において、極めて体積抵抗率の変動幅が小さい、極めて均一なSiC単結晶基板であり、このような本発明のSiC単結晶基板あるいはエピタキシャル基板を使用することで、特性に優れた各種の電子デバイスが作製可能にある。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明の実施例について説明する。
【0030】
(実施例1)
図1に示す単結晶成長装置を用いて、以下に記すSiC単結晶成長を実施した。なお、図1はSiC単結晶成長装置の一例であり、本発明の構成要件を規定するものではない。まず、この単結晶成長装置について簡単に説明する。結晶成長は、種結晶として用いたSiC単結晶1の上に、原料であるSiC粉末2を昇華再結晶化させることにより行われる。種結晶のSiC単結晶1は、坩堝3(主として黒鉛製)の上部(主として黒鉛製)の内面に取り付けられる。原料のSiC粉末2は、黒鉛製坩堝3の内部に充填されている。このような坩堝3は、二重石英管4の内部に設置され、円周方向の温度ムラを解消するために、1rpm未満の回転速度で坩堝を回転可能な機構になっており、結晶成長中はほぼ一定速度で常に回転するようになっている。坩堝3の周囲には、熱シールドのための断熱保温材5が設置されている。二重石英管4は、真空排気装置6により高真空排気(10-3Pa以下)することができ、かつ内部雰囲気をアルゴンガスにより圧力制御することができる。また、二重石英管4の外周には、ワークコイル7が設置されており、高周波電流を流すことにより坩堝3を加熱し、原料及び種結晶を所望の温度に加熱することができる。坩堝温度の計測は、坩堝の上部方向の中央部に直径2〜4mmの光路8を設け坩堝上部からの輻射光を取りだし、二色温度計9を用いて行う。
【0031】
種結晶として、口径55mmの4H-SiC単結晶基板を使用した。種結晶は、(000-1)面から<11-20>方向に0.5°のオフセット角を有しており、<000-1>方向側の基板面が成長面となるように坩堝内の対向面(上部内壁面)に取り付けた。マイクロパイプ欠陥密度は0.9個/cm2、ド−ピング元素としての窒素の濃度は1×1019cm-3である。図2に、成長に使用した坩堝の断面構造の概略図を示した。なお、図2は、本発明のSiC単結晶を成長させる坩堝の一例であり、本発明の構成要件を規定するものではない。図2に示す坩堝では、結晶成長部分の内径は55mm、外径は127mmであり、側壁の厚さ(図2中の符号10)は36mmである。坩堝石英管内を真空排気した後、ワークコイルに電流を流し、坩堝上部の表面温度を1700℃まで上げた。その後、雰囲気ガスとして高純度アルゴンガス(純度99.9995%)と高純度窒素ガス(純度99.9995%)の混合ガスを流入させ、石英管内圧力を約80kPaに保ちながら、温度を目標温度である2250℃まで上昇させた。雰囲気ガス中の窒素濃度は体積比で7%とした。その後、成長圧力である1.3kPaに約30分かけて減圧し、約40時間成長を続けた。この際の坩堝内の温度勾配は15℃/cmである。成長終了後、坩堝内より単結晶インゴットを取り出し、得られた単結晶(インゴット)は、口径については坩堝内壁を侵食するように、成長前の坩堝内径(55mm)よりもやや拡大しており、計測の結果、概ね56mmであった。また、結晶の成長方向の長さは16mm程度であり、成長結晶の高さから計算される成長速度は約0.4mm/時間であった。
【0032】
得られたインゴットの成長表面を観察したところ、ほぼ円形状の(000-1)ファセットが現われており、詳しく計測したところ、最も短い短径が約51.1mmであり、その方向は種結晶のオフセット方向とほぼ垂直方向であり、また、最長径は約51.9mmであることが判明した。このインゴットから、研削加工及びマルチワイヤーソーを用いた切断により、インゴットの{0001}ファセット領域から、<11-20>方向に4°のオフセット角を有する、厚さ400μmのas-sliced基板を取り出した。なお、基板の口径は、実測の結果、50.8mmであった。こうして得られたas-sliced基板を可視光にて透過観察したところ、単一の4H型ポリタイプを有する結晶であり、濃茶色のコントラストに不均一な部分が確認されず、窒素ドープ量が概ね均一と思われる4H型SiC単結晶が実現されていた。さらに研磨により厚さ350μmの鏡面基板を作製したところ、基板のほぼ全領域がファセット領域に相当する結晶部分で構成されていることが確認され、基板のマイクロパイプ欠陥密度は0.7個/cm2であることが判った。
【0033】
基板中心近傍の結晶中窒素原子数密度をSIMSにより調べたところ、ほぼ9.7×1018/cm3であり、渦電流方式の非接触式抵抗率測定装置(ナプソン社製NC80MAPシート抵抗非接触測定装置)によるシート抵抗を測定したところ、基板の測定可能な全面積領域で極めて均一なシート抵抗が実現されていることが判明し、基板厚さを考慮した体積電気抵抗率は19.1±0.9mΩcmであった。
【0034】
さらに、得られた口径50.8mm基板の(0001)面上に、SiC単結晶薄膜を化学気相成長法(CVD法)によりエピタキシャル成長させた。成長条件は、成長温度1580℃、シラン(SiH4)、エチレン(C2H4)の流量を、それぞれ5.0×10-93/sec、3.9×10-93/secとした。また、このときの水素キャリアガス流量、及び窒素ガス(N2)流量は、それぞれ1.8×10-53/sec、3.1×10-93/secに制御した。約1時間の成長により、厚さ約10μmのSiC単結晶エピタキシャル薄膜が成長していることを確認した。このようにして得られたエピタキシャル薄膜を、ノルマルスキー光学顕微鏡により観察したところ、基板全面に渡って平坦性に優れ、良好なモフォロジ―を有する、品質の高いSiC単結晶エピタキシャル薄膜であることが確認できた。
【0035】
(実施例2)
4Hポリタイプの種結晶の口径が80mmであり、この種結晶を用いてSiC単結晶インゴットを成長させたこと以外は、実施例1とほぼ同様な成長条件にて、単結晶成長を実施した。なお、使用した坩堝は、結晶成長部分の内径は80mm、外径は182mmであり、側壁の厚さは51mmである。また、種結晶は、(000-1)面から<11-20>方向に0.5°のオフセット角を有していた。更には、成長速度は0.19mm/時間であった。得られた単結晶は、口径については坩堝内壁を侵食するように、成長前の坩堝内径(80mm)よりもやや拡大しており、計測の結果、概ね82mmであった。
【0036】
得られたインゴットの成長表面を観察したところ、ほぼ円形状の(000-1)ファセットが現われており、詳しく計測したところ、最も短い短径が約76.3mmであり、その方向は種結晶のオフセット方向とほぼ垂直方向であり、また、最長径は約77.0mmであることが判明した。このインゴットから、研削加工及びマルチワイヤーソーを用いた切断により、インゴットの{0001}ファセット領域から、(000-1)面から<11-20>方向に4°のオフセット角を有する、厚さ450μmの基板を取り出し、さらに研磨により厚さ350μmの鏡面基板を作製した。なお、基板の口径は、実測の結果、76.2mmであった。こうして得られた鏡面基板を観察したところ、実施例1と同様に、基板の全面積領域は、濃茶色のコントラストがほぼ均一な結晶領域で構成されていることを確認した。
【0037】
実施例1と同様に、体積電気抵抗率を測定したところ18.9±0.8mΩcmであり、極めて均一な体積電気抵抗率が実現されていることが判明した。
【0038】
さらに、得られた基板の(0001)面上に、実施例1と同様な条件で、厚さ約10μmのSiC単結晶エピタキシャル薄膜を化学気相成長法(CVD法)により成長させた。得られたエピタキシャル薄膜を、ノルマルスキー光学顕微鏡により観察したところ、基板全面に渡って平坦性に優れ、良好なモフォロジ―を有する、品質の高いSiC単結晶エピタキシャル薄膜であることが確認できた。
【0039】
(実施例3)
4Hポリタイプの種結晶の口径が110mmであり、この種結晶を用いてSiC単結晶インゴットを成長させたこと以外は、実施例1とほぼ同様な成長条件にて、単結晶成長を実施した。なお、種結晶は(000-1)ジャスト面でオフセット角はほぼゼロである。また、使用した坩堝は、結晶成長部分の内径は110mm、外径は236mmであり、側壁の厚さは63mmである。更には、成長速度は0.12mm/時間であった。得られた単結晶は、口径については坩堝内壁を侵食するように、成長前の坩堝内径(110mm)よりもやや拡大しており、計測の結果、概ね113mmであった。
【0040】
得られたインゴットの成長表面を観察したところ、ほぼ円形状の(000-1)ファセットがインゴットの中心と同心になるように現われており、詳しく計測したところ、最も短い短径が約101.1mmであり、また、最長径は約101.9mmであることが判明した。このインゴットから、研削加工及びマルチワイヤーソーを用いた切断により、インゴットの{0001}ファセット領域から、(000-1)面から<11-20>方向に4°のオフセット角を有する、厚さ500μmの基板を取り出し、さらに研磨により厚さ400μmの鏡面基板を作製した。なお、基板の口径は、実測の結果、100.1mmであった。こうして得られた鏡面基板を観察したところ、基板の全面積領域は、濃茶色のコントラストがほぼ均一な結晶領域で構成されており、体積電気抵抗率は、18.1±1.0mΩcmであり、極めて均一な体積電気抵抗率が実現されていることが判明した。
【0041】
さらに、得られた基板の(0001)面上に、実施例1と同様な条件で、厚さ約10μmのSiC単結晶薄膜を化学気相成長法(CVD法)によりエピタキシャル成長させた。得られたエピタキシャル薄膜付き基板の表面状態を、ノルマルスキー光学顕微鏡により観察したところ、ほぼ基板全面に渡って平坦性に優れ、良好なモフォロジ―を有する、品質の高いSiC単結晶エピタキシャル薄膜であることが確認できた。
【0042】
(実施例4)
4Hポリタイプの種結晶の口径が160mmであり、この種結晶を用いてSiC単結晶インゴットを成長させたこと以外は、実施例1とほぼ同様な成長条件にて、単結晶成長を実施した。なお、種結晶は(000-1)ジャスト面でオフセット角はほぼゼロである。また、使用した坩堝は、結晶成長部分の内径は160mm、外径は324mmであり、側壁の厚さは82mmである。更には、成長速度は0.10mm/時間であった。得られた単結晶は、口径については坩堝内壁を侵食するように、成長前の坩堝内径(160mm)よりもやや拡大しており、計測の結果、概ね164mmであった。
【0043】
得られたインゴットの成長表面を観察したところ、ほぼ円形状の(000-1)ファセットがインゴットの中心と同心になるように現われており、詳しく計測したところ、最も短い短径が約150.1mmであり、また、最長径は約151.8mmであることが判明した。このインゴットから、研削加工及びマルチワイヤーソーを用いた切断により、インゴットの{0001}ファセット領域から、(000-1)面から<11-20>方向に4°のオフセット角を有する、厚さ550μmの基板を取り出し、さらに研磨により厚さ450μmの鏡面基板を作製した。なお、基板の口径は、実測の結果、149.9mmであった。こうして得られた鏡面基板を観察したところ、基板の全面積領域は、濃茶色のコントラストがほぼ均一な結晶領域で構成されており、体積電気抵抗率は、17.1±0.9mΩcmであり、極めて均一な抵抗率が実現されていることが判明した。
【0044】
(実施例5)
4Hポリタイプの種結晶の口径が60mmであり、この種結晶を10枚準備し、それらを用いて実施例1とほぼ同様な成長条件にて、単結晶成長を10回実施した。なお、種結晶は、(000-1)面から<11-20>方向に0.5°の微小オフセット角を有していた。また、使用した坩堝の結晶成長部分の内径は60mm、外径は134mmであり、側壁の厚さは37mmである。
【0045】
得られた10個の単結晶インゴットは、全て4Hポリタイプ単一からなっており、成長表面を観察したところ、ほぼ円形状の(000-1)ファセットがインゴットの中心と同心になるように現われていた。詳しく計測したところ、10個のインゴットの中で、最も短いファセット短径は約51.3mmであった。10個の全インゴットについて、ファセット短径の平均値は51.8mm、長径の平均値は53.9mmである。このインゴットから、マルチワイヤーソーを用いた切断により、(000-1)面から<11-20>方向に4°のオフセット角を有する基板を取り出し、さらに研磨により厚さ350μmの鏡面基板を作製した。基板口径は、ほぼ全て、50.8mmであった。得られた鏡面基板の全面積領域は、濃茶色のコントラストがほぼ均一な結晶領域で構成されており、基板のほぼ全面積領域での体積抵抗率の平均値は、17.9±0.7mΩcmであり、極めて均一な抵抗率が実現されていることが判明した。
【0046】
(比較例1)
種結晶として、(000-1)面から<11-20>方向に16.0°のオフセット角を有した種結晶を使用したこと以外は全て実施例5とほぼ同様な成長条件にて、単結晶成長を10回実施した。
【0047】
得られた10個の単結晶インゴットは、4Hポリタイプ単一からなる良質なインゴットが4個得られたが、他の6個についてはファセットが坩堝内壁に接近しており、成長初期において該部分から6Hポリタイプが発生したため、結果として6Hポリタイプが混入した結晶領域の直上においてマイクロパイプ欠陥が新規に大量に発生し、結晶品質が著しく劣化していた。
【0048】
(比較例2)
坩堝として、結晶成長部分の内径は60mm、外径は90mmであり、側壁の厚さは15mmである坩堝を使用した以外は全て実施例5とほぼ同様な成長条件にて、単結晶成長を10回実施した。
【0049】
得られた10個の単結晶インゴットは、4Hポリタイプ単一からなる良質なインゴットが得られたが、インゴットの表面を観察したところ、やや楕円形状に近い形状の(000-1)ファセットがインゴット中心近傍に形成されており、そのファセットの短径は13.1mm、長径は13.9mmであることが判明した。このインゴットをどのように切断しても、口径50.8mmの基板の全面積領域をファセット部に相当する結晶領域で構成させることは不可能であった。
【符号の説明】
【0050】
1 種結晶(SiC単結晶)
2 SiC結晶粉末原料
3 坩堝
4 二重石英管(水冷)
5 断熱材
6 真空排気装置
7 ワークコイル
8 測温用窓
9 二色温度計(放射温度計)
10 坩堝側壁厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素単結晶からなる種結晶上に炭化珪素単結晶インゴットを成長させる工程を包含する昇華再結晶法を用いた炭化珪素単結晶基板の製造方法であり、
種結晶として、結晶成長面が{0001}面から1°未満のオフセット角を有する種結晶基板を用い、また、成長容器として、側壁の厚さが少なくとも35mmの黒鉛製坩堝を用いて、得られる炭化珪素単結晶の体積抵抗率を制御するための不純物を結晶成長雰囲気に添加した状態で結晶成長を行い、炭化珪素単結晶インゴットを得て、
得られた炭化珪素単結晶インゴットを切断及び研磨することで、口径が50mm以上であり、尚且つ、主面が実質的に炭化珪素単結晶インゴット由来の{0001}面ファセットからなる炭化珪素単結晶基板を得ることを特徴とする炭化珪素単結晶基板の製造方法。
【請求項2】
前記種結晶基板の結晶成長面が、{0001}面から0.5°未満のオフセット角を有する請求項1に記載の炭化珪素単結晶基板の製造方法。
【請求項3】
体積抵抗率を制御するための不純物が窒素であり、成長結晶中の窒素濃度が3×1018/cm3以上、6×1020/cm3以下であり、かつ、得られる炭化珪素単結晶基板の体積抵抗率の平均値が0.0005Ωcm以上0.05Ωcm以下である請求項1又は2に記載の炭化珪素単結晶基板の製造方法。
【請求項4】
側壁の厚さが少なくとも50mmの黒鉛製坩堝を用いて炭化珪素単結晶インゴットを結晶成長させて、3インチ口径基板以上のサイズを有する炭化珪素単結晶基板を得る請求項1〜3のいずれかに記載の炭化珪素単結晶基板の製造方法。
【請求項5】
側壁の厚さが少なくとも60mmの黒鉛製坩堝を用いて炭化珪素単結晶インゴットを結晶成長させて、100mm口径基板以上のサイズを有する炭化珪素単結晶基板を得る請求項1〜3のいずれかに記載の炭化珪素単結晶基板の製造方法。
【請求項6】
側壁の厚さが少なくとも75mmの黒鉛製坩堝を用いて炭化珪素単結晶インゴットを結晶成長させて、150mm口径基板以上のサイズを有する炭化珪素単結晶基板を得る請求項1〜3のいずれかに記載の炭化珪素単結晶基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の炭化珪素単結晶基板上に、炭化珪素薄膜をエピタキシャル成長させることを特徴とする炭化珪素単結晶エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項8】
炭化珪素単結晶インゴットから切断し、研磨して得られる炭化珪素単結晶基板であって、主面が実質的に炭化珪素単結晶インゴット由来の{0001}面ファセットからなることを特徴とする炭化珪素単結晶基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−254521(P2010−254521A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106425(P2009−106425)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】