説明

炭化珪素質多孔体及びその製造方法、並びにハニカム構造体

本発明の炭化珪素質多孔体は、炭化珪素粒子と金属珪素とが、炭化珪素粒子相互間、及び/又は炭化珪素粒子と金属珪素との間に細孔を保持した状態で結合されてなる炭化珪素質多孔体であって、この細孔のうち、炭化珪素粒子相互の表面間、又は炭化珪素粒子表面と金属珪素表面との間の最短距離が10μm以下の微細孔部分の少なくとも一部に、珪素、アルミニウム及びアルカリ土類族金属のそれぞれの酸化物を含有する酸化物相が埋設されてなり、微細孔部分を含む細孔のうち酸化物相が埋設されていない部分の体積の総計(全気孔体積)に対する、微細孔部分のうち酸化物相が埋設されていない部分の体積の合計(微細孔部分の気孔体積)の割合が20%以下であり、例えば、自動車の排気ガス浄化用のフィルタや触媒担体等を構成する材料として好適に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、炭化珪素質多孔体及びその製造方法、並びにハニカム構造体に関する。さらに詳しくは、機械的強度が高く、例えば、自動車の排気ガス浄化用のフィルタや触媒担体等を構成する材料として好適に用いることができる炭化珪素質多孔体、及びその製造方法、並びにこのような炭化珪素質多孔体により構成されたハニカム構造体に関する。
【背景技術】
ディーゼルエンジン排気ガスのような含塵流体中に含まれる粒子状物質を捕集除去するためのフィルタ(ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF))、又は排気ガス中の有害物質を浄化する触媒成分を担持するための触媒担体として、複数のそれぞれ隣接したセルの複合体を形成するセル隔壁(リブ)と、このセル複合体の最外周に位置する最外周セルを囲繞して保持するハニカム外壁とから構成された多孔質のハニカム構造体が広く用いられ、また、その構成材料として、耐火性の炭化珪素粒子を骨材とする炭化珪素質多孔体が用いられている。
このようなハニカム構造体としては、例えば、所定の比表面積を有するとともに不純物を含有する炭化珪素を出発原料とし、これを所望の形状に成形、乾燥後、1600〜2200℃の温度範囲内で焼成して得られるハニカム構造の多孔質炭化珪素質触媒担体が開示されている(例えば、特開平6−182228号公報参照)。
特開平6−182228号公報に開示された触媒担体における炭化珪素粒子自体の再結晶反応による焼結形態(ネッキング)では、炭化珪素粒子表面から炭化珪素成分が蒸発し、これが粒子間の接触部(ネック部)に凝縮することで、ネック部が成長し結合状態が得られる。しかしながら、炭化珪素を蒸発させるには非常に高い焼成温度が必要であるため、これがコスト高を招き、かつ、熱膨張率の高い材料を高温焼成しなければならないために、焼成歩留が低下するという不都合があった。
また、上述の炭化珪素粒子自体の再結晶反応による焼結によって、高気孔率であるフィルタ、特に、50%以上の気孔率を有するフィルタを製造しようとすると、この焼結機構が十分に機能しなくなるためにネック部の成長が妨げられ、これに起因してフィルタの強度が低下してしまうという不都合もあった。
これらの問題を解消するための従来技術として、骨材である耐火性粒子、特に炭化珪素と金属珪素とを含む多孔質ハニカム構造体及びその製造方法が開示されている(例えば、特開2002−201082号公報参照)。このような製造方法によれば、比較的低い焼成温度で安価に多孔質ハニカム構造体を製造することができるとともに、得られた多孔質ハニカム構造体は、比較的に気孔率が高く、高熱伝導率かつ高強度等の特性を有するものである。
現在、上述したDPFについては、エンジン出力に多大な影響を及ぼす圧力損失をできるだけ低減することが重要課題の一つであり、この課題達成のために、DPFをより高気孔率とすること、即ち、これを構成する多孔質材料として、より高気孔率のものを用いることが要求されている。また、従来のDPFに酸化触媒を担持し、堆積したパティキュレートを酸化及び燃焼して連続的に再生する再生方式が採用されたDPF(触媒再生用DPF)の開発が進展している。
特に、触媒再生用DPFに関しては、フィルタの圧力損失をできる限り抑制することが要求され、より高気孔率、具体的には気孔率50%以上、特に、70%前後とすることが要求されている。
しかしながら、これら炭化珪素質多孔体を高気孔率化すると、それに伴い強度が低下し、ある程度以上の気孔率、例えば、60%以上の気孔率になると、例えば、自動車の排気ガス浄化用のフィルタや触媒担体等を構成する材料として好適に使用することが困難になることがあるという問題があった。
【発明の開示】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、機械的強度が高く、例えば、自動車の排気ガス浄化用のフィルタや触媒担体等を構成する材料として好適に用いることができる炭化珪素質多孔体、及びその製造方法、並びにこのような炭化珪素質多孔体により構成されたハニカム構造体を提供することを目的とする。
上述の目的を達成するため、本発明は、以下の炭化珪素質多孔体及びその製造方法、並びにハニカム構造体を提供するものである。
[1]骨材としての炭化珪素粒子と、結合材としての金属珪素とが、前記炭化珪素粒子相互間、及び/又は前記炭化珪素粒子と前記金属珪素との間に細孔を保持した状態で結合されてなる炭化珪素質多孔体であって、前記細孔のうち、前記炭化珪素粒子相互の表面間、又は前記炭化珪素粒子表面と前記金属珪素表面との間の最短距離が10μm以下の部分である微細孔部分の少なくとも一部に、珪素、アルミニウム及びアルカリ土類金属のそれぞれの酸化物を含有する酸化物相が埋設されてなり、前記微細孔部分を含む前記細孔のうち前記酸化物相が埋設されていない部分の体積の総計(全気孔体積)に対する、前記微細孔部分のうち前記酸化物相が埋設されていない部分の体積の合計(前記微細孔部分の気孔体積)の割合が20%以下であることを特徴とする炭化珪素質多孔体。
[2]前記アルカリ土類金属がストロンチウムである前記[1]に記載の炭化珪素質多孔体。
[3]所定の平面で切断された前記炭化珪素質多孔体の切断面を撮影した平面画像を、画像解析処理することにより、前記微細孔部分を含む前記細孔のうち前記酸化物相が埋設されていない部分に由来して特定される気孔部と、前記炭化珪素粒子に由来して特定される炭化珪素粒子部と、前記金属珪素に由来して特定される金属珪素部と、前記酸化物相に由来して特定される酸化物相部とに区別し、区別された前記平面画像上で、前記炭化珪素粒子部と、前記金属珪素部及び前記酸化物相部とが接触する部分の長さの単位面積(1mm)あたりの総計(接触長さ)L(mm/mm)と、前記炭化珪素質多孔体の気孔率ε(%)とが下記式(1)の関係を満たす前記[1]又は[2]に記載の炭化珪素質多孔体。
L≦−1.0ε+90 …(1)
[4]前記炭化珪素粒子と、前記金属珪素及び前記酸化物相とが接触する部分の面積の総計に対する、前記炭化珪素粒子と、前記酸化物相とが接触する部分の面積の合計の割合が10〜70%である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の炭化珪素質多孔体。
[5]前記炭化珪素粒子と、前記金属珪素及び前記酸化物相とが接触する部分の面積の総計に対する、前記炭化珪素粒子と、前記酸化物相とが接触する部分の面積の合計の割合が25〜50%である前記[4]に記載の炭化珪素質多孔体。
[6]前記酸化物相が非晶質であるとともに、前記酸化物相がストロンチウム、アルミニウム及び珪素の酸化物(SrO,Al,SiO)全てを含み、前記酸化物相における、ストロンチウム、アルミニウム及び珪素のそれぞれの前記酸化物の含有比(SrO:Al:SiO)が各物質量比(モル比)で(1.0:0.1:1.0)〜(1.0:1.0:3.0)である前記[2]〜[5]のいずれかに記載の炭化珪素質多孔体。
[7]前記酸化物(SrO,Al,SiO)の溶融温度が1000〜1400℃である前記[6]に記載の炭化珪素質多孔体。
[8]前記酸化物相の溶融粘度が、前記金属珪素の溶融粘度よりも低い前記[6]又は[7]に記載の炭化珪素質多孔体。
[9]前記炭化珪素粒子と前記金属珪素との合計質量に対する、前記酸化物相の質量の割合が1.0〜10.0質量%である前記[6]〜[8]のいずれかに記載の炭化珪素質多孔体。
[10]前記炭化珪素粒子と前記金属珪素との合計質量に対する、前記酸化物相の質量の割合が4.0〜8.0質量%である前記[9]に記載の炭化珪素質多孔体。
[11]前記[1]〜[10]のいずれかに記載の炭化珪素質多孔体により構成されることを特徴とするハニカム構造体。
[12]炭化珪素粒子と金属珪素とに、前記炭化珪素粒子と前記金属珪素との合計量100質量部に対して、ストロンチウム、アルミニウム及び珪素を含有する化合物をそれぞれの酸化物(SrO,Al,SiO)に換算して、1.0〜10.0質量部加えて原料を得、得られた前記原料を所定形状に成形して成形体を得、得られた成形体を脱脂した後に焼成して、前記炭化珪素粒子相互間に形成された細孔のうち、前記炭化珪素粒子相互の表面間、又は前記炭化珪素粒子表面と前記金属珪素表面との間の最短距離が10μm以下の部分である微細孔部分の少なくとも一部に、珪素、アルミニウム及びアルカリ土類金属のそれぞれの酸化物を含有する酸化物相を、前記微細孔部分を含む前記細孔のうち前記酸化物相が埋設されていない部分の体積の総計(全気孔体積)に対する、前記微細孔部分のうち前記酸化物相が埋設されていない部分の体積の合計(前記微細孔部分の気孔体積)の割合が20%以下となるように埋設させて、多孔質構造の多孔体を得ることを特徴とする炭化珪素質多孔体の製造方法。
[13]焼成することによって得られた前記多孔質構造の多孔体を構成する前記酸化物相に含まれる、ストロンチウム、アルミニウム及び珪素の酸化物の含有比(SrO:Al:SiO)が各物質量比(モル比)で(1.0:0.1:1.0)〜(1.0:1.0:3.0)となるように、ストロンチウム、アルミニウム及び珪素を含有する前記化合物の種類、及び/又は添加量を調整する請求項12に記載の炭化珪素質多孔体の製造方法。
[14]前記炭化珪素粒子と前記金属珪素とに加える、ストロンチウム、アルミニウム及び珪素を含む前記化合物のそれぞれの前記酸化物(SrO,Al,SiO)に換算した量を、前記炭化珪素粒子と前記金属珪素との合計量100質量部に対して、4.0〜8.0質量部とする前記[12]又は[13]に記載の炭化珪素質多孔体の製造方法。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の炭化珪素質多孔体の一の実施の形態を模式的に示す断面図である。
図2は、本発明の実施例の炭化珪素質多孔体における、気孔率ε(%)の値に対して接触長さL(mm/mm)をプロットしたグラフである。
図3は、本発明の実施例1の炭化珪素質多孔体の電子顕微鏡写真である。
図4は、本発明の実施例2の炭化珪素質多孔体の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の炭化珪素質多孔体及びその製造方法、並びにハニカム構造体の実施の形態を、図面を参照しつつ具体的に説明する。
まず、本発明の炭化珪素質多孔体の一の実施の形態について、図1を用いて説明する。図1は、本実施の形態の炭化珪素質多孔体を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、本実施の形態の炭化珪素質多孔体1は、骨材としての炭化珪素粒子2と、結合材としての金属珪素3とが、炭化珪素粒子2相互間、及び/又は炭化珪素粒子2と金属珪素3との間に細孔4を保持した状態で結合されてなる炭化珪素質多孔体1であって、この細孔4のうち、炭化珪素粒子2相互の表面間、又は炭化珪素粒子2表面と金属珪素3表面との間の最短距離が10μm以下の微細孔部分6の少なくとも一部に、珪素、アルミニウム及びアルカリ土類金属のそれぞれの酸化物を含有する酸化物相5が埋設されてなり、微細孔部分6を含む細孔4のうち酸化物相5が埋設されていない部分の体積の総計(全気孔体積)に対する、微細孔部分6のうち酸化物相5が埋設されていない部分の体積の合計(微細孔部分の気孔体積)の割合が20%以下であることを特徴とする。
一般的に、気孔率を高くした多孔体においては、機械的強度が低下する傾向があるが、上述したように、本実施の形態の炭化珪素質多孔体1は、金属珪素3による結合に加えて、酸化物相5が埋設されることによって炭化珪素粒子2相互間、及び/又は炭化珪素粒子2と金属珪素3との間の結合が太くなり、結合がより強固なものとなり、これにより炭化珪素質多孔体1の機械的強度を高めることができ、例えば、自動車の排気ガス浄化用のフィルタや触媒担体等を構成する材料として好適に使用することができる。また、製造時において比較的低い焼成温度で焼結することができ、製造コストが抑えられているとともに製造歩留の向上がなされている。
上述したように、この炭化珪素質多孔体1は、骨材としての炭化珪素粒子2と、結合材としての金属珪素3とが、炭化珪素粒子2相互間、及び/又は炭化珪素粒子2と金属珪素3との間に細孔4を保持した状態で結合されてなり、その細孔4のうち、炭化珪素粒子2相互の表面間、又は炭化珪素粒子2表面と金属珪素3表面との間の最短距離が10μm以下の部分を微細孔部分6としている。本実施の形態においては、この微細孔部分6の少なくとも一部に酸化物相5が埋設されている。なお、酸化物相5は、微細孔部分6全てを封止する状態で埋設されていてもよい。
上述した微細孔部分6を含む細孔4のうち酸化物相5が埋設されていない部分の体積、及び微細孔部分6のうち酸化物相5が埋設されていない部分の体積は、例えば、水銀ポロシメーター等を用いて測定した細孔径分布から算出することができる。また、炭化珪素質多孔体1の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)等により撮影し、複数の断面において撮影された画像を解析して積分値として算出することもできる。
また、本実施の形態においては、炭化珪素粒子2と、金属珪素3及び酸化物相5とが接触する部分の長さの単位面積(1mm)あたりの総計を「接触長さL(mm/mm)」とした場合に、炭化珪素質多孔体1の気孔率ε(%)と、前述した接触長さL(mm/mm)とが下記式(1)の関係を満たすことが好ましい。
L≦−1.0ε+90 …(1)
上記式(1)は、所定の気孔率における炭化珪素粒子2間の結合の強さを判定する評価方法であり、前記気孔率ε(%)と前記接触長さL(mm/mm)とが上記式(1)の関係を満たすときに、炭化珪素質多孔体1がDPFの構成材料として優れた強度を有すると判定することができる。具体的には、まず試料となる炭化珪素質多孔体1を切断して所定の切断面を出す。このとき、切断面を均一な平面とするために、適宜、切断面を研磨してもよい。この切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて撮影した平面画像を、例えば、スキャナー等の画像取込み手段を使用してPC(パーソナルコンピュータ)をはじめとする計算機に取り込む。取り込まれた平面画像を、所定の画像解析の手法により、炭化珪素粒子2に由来して特定される炭化珪素粒子部と、金属珪素3に由来して特定される金属珪素部と、酸化物相6に由来して特定される酸化物相部と、微細孔部分6を含む細孔4のうち酸化物相6が埋設されていない部分に由来して特定される部分(気孔部)とに区別して抽出する。抽出した炭化珪素粒子2(炭化珪素粒子部)と、金属珪素3(金属珪素部)及び酸化物相5(酸化物相部)との境界に所定の画像処理方法を適用することにより、一画素分の幅をもつ境界線を抽出し、その長さの単位面積(1mm)あたりの総計を接触長さL(mm/mm)とする。
また、本実施の形態においては、炭化珪素粒子2と、金属珪素3及び酸化物相5とが接触する部分の面積の総計に対する、炭化珪素粒子2と、酸化物相5とが接触する部分の面積の合計の割合が10〜70%であることが好ましい。炭化珪素粒子2と、酸化物相5とが接触する部分の面積の割合が10%未満であると、炭化珪素質多孔体1の機械的強度を十分に高めることができないことがある。また、炭化珪素粒子2と、酸化物相5とが接触する部分の面積の割合が70%を超えると、炭化珪素粒子2と金属珪素3の接触が不十分となり、熱伝導率が低下してしまうという恐れがある。なお、炭化珪素粒子2と、金属珪素3及び酸化物相5とが接触する部分の面積の総計、及び炭化珪素粒子2と、酸化物相5とが接触する部分の面積の合計は、例えば、炭化珪素質多孔体1の研磨面を、走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて撮影し、厚さ方向に複数の断面において撮影された画像をコンピュータ画像解析により積分値として算出することができる。また、前述した所定の気孔率における炭化珪素粒子2間の結合の強さを判定する評価方法と同様の画像解析手法を用いて抽出した境界線の長さ(界面長さ)を近似的に用いることもできる。なお、高熱伝導率であるとともに機械的強度の高い炭化珪素質多孔体1とするといった観点からは、炭化珪素粒子2と、金属珪素3及び酸化物相5とが接触する部分の面積の総計に対する、炭化珪素粒子2と、酸化物相5とが接触する部分の面積の合計の割合が25〜50%であることがさらに好ましい。
本実施の形態においては、上述したアルカリ土類金属がストロンチウムであることが好ましい。さらに、酸化物相5が非晶質であるとともに、酸化物相5がストロンチウム、アルミニウム及び珪素の酸化物(SrO,Al,SiO)全てを含み、酸化物相5における、ストロンチウム、アルミニウム及び珪素のそれぞれの酸化物の含有比(SrO:Al:SiO)が各物質量比(モル比)で(1.0:0.1:1.0)〜(1.0:1.0:3.0)であることが好ましい。
このように構成することによって、それぞれの酸化物を3元系として共融点を下げることで、焼成の際に、炭化珪素粒子2及び/又は金属珪素3の表面を覆っている酸化物皮膜を容易に溶融除去して金属珪素3の濡れ性を良好にし、炭化珪素粒子2相互間を結合する接合部分をより太くすることができる。なお、ここでいう炭化珪素粒子2及び/又は金属珪素3の表面を覆っている酸化物皮膜とはSiO等である。さらに、共融点を下げたことにより、酸化物相5の粘度を低下させることができることから、金属珪素3で埋設できなかった細孔4の微細孔部分6に酸化物相5を埋設でき、炭化珪素粒子2相互間の金属珪素3による結合を補助するために、炭化珪素質多孔体1の機械的強度を向上させることができる。
上述した各物質量比(モル比)において、アルミニウムの酸化物(Al)の物質量比(モル比)が0.1未満であると、金属珪素3(Si)の濡れ性が低下して炭化珪素粒子2相互の結合が弱くなることがあり、また、酸化物相5に含まれる酸化ストロンチウム(SrO)と二酸化珪素(SiO)とによって、珪酸ストロンチウム(SrSiO)が生成されことがある。この珪酸ストロンチウムは、炭化珪素質多孔体1を触媒担体等として使用する場合に、触媒を担持する際に用いられる酢酸等に容易に溶解するため、触媒担持の際に酸化物相5が溶出して強度が低下してしまうといった問題が生じることが想定される。また、アルミニウムの酸化物(Al)の物質量比(モル比)が1.0を超えると、金属珪素3の表面に難溶融性の皮膜を形成し、炭化珪素粒子2と金属珪素3との濡れ性を悪化させて強度を低下させることがある。また、珪素の酸化物(SiO)の物質量比(モル比)が1.0未満、又は3.0を超えると、上述した共融点が十分に低くならず、炭化珪素質多孔体1の機械的強度を向上させる効果を得られないことがある。
上述した、「酸化物相5における、ストロンチウム、アルミニウム及び珪素のそれぞれの酸化物の含有比」は、添加した化合物と金属珪素に不純物として含まれるAl、Ca等をそれぞれの酸化物として換算した値と、炭化珪素粒子2及び/又は金属珪素3の表面の酸化物皮膜に含まれる二酸化珪素(SiO)の量を、原料粉末を化学分析することで得られる酸素量から換算した値とから算出することができる。
本実施の形態においては、上述した酸化物(SrO,Al,SiO)の溶融温度が1000〜1400℃であることが好ましい。溶融温度が1000℃未満であると、酸化物相5の粘度が低下しすぎるために、炭化珪素質多孔体1内において酸化物相5の偏りができてしまうことがあり、また、溶融温度が1400℃を超えると、酸化物相5の粘度が十分に低下されず、細孔4の微細孔部分6に酸化物相5が入り込み難くなることがある。
また、本実施の形態においては、酸化物相5の溶融粘度が、金属珪素3の溶融粘度よりも低いことが好ましい。このように構成することによって、炭化珪素質多孔体1の細孔4の微細孔部分6に酸化物相5がより入り易くなる。
また、本実施の形態においては、炭化珪素粒子2と金属珪素3との合計質量に対する、酸化物相5の質量の割合が1.0〜10.0質量%であることが好ましい。酸化物相5の質量の割合が1.0質量%未満であると、炭化珪素質多孔体1の強度を十分に向上させる効果を得ることができないことがあり、また、酸化物相5の質量の割合が10.0質量%を超えると、酸化物相5の量が多すぎるために焼成収縮が大きくなり、炭化珪素質多孔体1の気孔率が低下して、例えば、DPF等のフィルタとして用いた場合に、圧力損失が大きくなりすぎることがある。なお、高気孔率であるとともに機械的強度の高い炭化珪素質多孔体1とするといった観点からは、炭化珪素粒子2と金属珪素3との合計質量に対する、酸化物相5の質量の割合が4.0〜8.0質量%であることがさらに好ましい。
次に、本発明のハニカム構造体の一の実施の形態について説明する。本実施の形態のハニカム構造体は、これまでに説明した炭化珪素質多孔体1(図1参照)により構成されることを特徴とする。本実施の形態のハニカム構造体は、その構成材料である炭化珪素質多孔体1(図1参照)の特性を反映し、優れた耐酸化性、耐酸性、耐パティキュレート反応性、耐熱衝撃性を有している。さらに、本実施の形態のハニカム構造体は、DPF、触媒再生用DPF、又は触媒担体等として高SV(空間速度)条件下で使用することができる。
次に、本発明の炭化珪素質多孔体の製造方法の一の実施の形態について具体的に説明する。
本実施の形態の炭化珪素質多孔体の製造方法は、まず、炭化珪素粒子と金属珪素とに、炭化珪素粒子と金属珪素との合計量100質量部に対して、ストロンチウム、アルミニウム及び珪素を含有する化合物をそれぞれの酸化物(SrO,Al,SiO)に換算して、1.0〜10.0質量部加えて原料を得る。なお、本発明においては、ストロンチウム、アルミニウム及び珪素を含む化合物は、ストロンチウムを含むアルカリ土類金属(Mg,Ca,Sr,Ba)、アルミニウム及び珪素のうち一種類のみ含有してもよく、複数種類含有してもよい。添加する際は、ストロンチウム、アルミニウム及び珪素を含む化合物を一種類のみ添加してもよく、複数種類添加してもよいが、最終的に形成される酸化物相がアルカリ土類金属のうち少なくとも一種類とアルミニウム、及び珪素を含むようにすればよい。また、複数種類添加する場合は、添加する量を互いに異ならせてもよく、等分してもよい。また、この際、必要に応じて有機バインダー等の成形助剤を添加してもよい。なお、炭化珪素粒子や金属珪素には、鉄、アルミニウム、及びカルシウム等の微量の不純物を含有する場合もあるが、そのまま使用してもよく、薬品洗浄等の化学的処理を施して精製したものを使用してもよい。加える化合物をそれぞれの酸化物(SrO,Al,SiO)に換算して1.0質量部未満とすると、得られる炭化珪素質多孔体の強度を十分に向上させる効果を得ることができない。また、10.0質量部を超えると、化合物により形成される酸化物相の量が多すぎるために焼成収縮が大きくなり、得られる炭化珪素質多孔体の気孔率が低下して、例えば、DPF等のフィルタとして用いた場合に、圧力損失が大きくなりすぎる。化合物に含有されるストロンチウムは、酸化物相を効率的に形成することができること、及び入手・取り扱い等が容易なことから酸化ストロンチウム(SrO)や炭酸ストロンチウム(SrCO)の状態で含有されることが好ましい。同様にアルミニウムは、三酸化二アルミニウム(Al)や金属アルミニウムの状態で含有されることが好ましい。なお、この際の金属アルミニウムは、金属珪素の不純物として含有されてもよい。同じく珪素は、二酸化珪素(SiO)やコロイダルシリカの状態で含有されることが好ましい。なお、この際の二酸化珪素は、炭化珪素粒子及び/又は金属珪素の表面を覆う酸化物皮膜(SiO)として含有されてもよい。
次に、このようにして得られた原料を混合及び混練して成形用の坏土とし、この坏土をハニカム形状等をはじめとする所定の形状に成形し、これを仮焼して有機バインダーを脱脂して成形体を得る。
次に、得られた成形体を焼成して、炭化珪素粒子相互間に形成された細孔の少なくとも一部に、珪素、アルミニウム及びアルカリ土類金属のそれぞれの酸化物を含有する酸化物相を、微細孔部分を含む細孔のうち酸化物相が埋設されていない部分の体積の総計(全気孔体積)に対する、微細孔部分のうち酸化物相が埋設されていない部分の体積の合計(微細孔部分の気孔体積)の割合が20%以下となるように埋設させて、多孔質構造の多孔体を得ることを特徴とする。
本実施の形態の製造方法においては、焼成することによって得られた多孔質構造の多孔体を構成する酸化物相に含まれる、ストロンチウム、アルミニウム及び珪素の酸化物の含有比(SrO:Al:SiO)が各物質量比(モル比)で(1.0:0.1:1.0)〜(1.0:1.0:3.0)となるように、ストロンチウム、アルミニウム及び珪素を含有する化合物の種類、及び/又は添加量を調整することが好ましい。
原料として加えられた、ストロンチウム、アルミニウム及び珪素を含有する化合物は焼成時に分解又は酸化され、溶融する。この際、溶融するストロンチウム、アルミニウム及び珪素の酸化物は3元系として、その共融点を下げ、さらに粘度を低下させる。これにより炭化珪素粒子及び/又は金属珪素の表面の酸化物皮膜が溶融除去され、炭化珪素粒子を結合する金属珪素の濡れ性を良好にし、炭化珪素粒子を結合する接合部分をより太くすることができる。また、余った酸化物相は、粘度が低下しているため、多孔体の細孔内、特に、孔径の小さい微細孔部分に入り込み易くなり、その状態で凝固して炭化珪素粒子相互間の結合を補助するため、その機械的強度が高くなる。
なお、高気孔率であるとともに機械的強度の高い炭化珪素質多孔体を製造するといった観点からは、本実施の形態においては、炭化珪素粒子と金属珪素とに加える、ストロンチウム、アルミニウム及び珪素を含む化合物のそれぞれの酸化物(SrO,Al,SiO)に換算した量を、炭化珪素粒子と金属珪素との合計量100質量部に対して、4.0〜8.0質量部とすることがさらに好ましい。
なお、本実施の形態においては、仮焼は金属珪素が溶融する温度より低い温度にて行うことが好ましい。具体的には、150〜700℃程度の所定の温度で一旦保持してもよく、また、所定温度域で昇温速度を50℃/hr以下に遅くして仮焼してもよい。また、所定の温度で一旦保持する手法については、使用した有機バインダーの種類と量により、一温度水準のみの保持でも複数温度水準での保持でもよく、さらに複数温度水準で保持する場合には、互いに保持時間を同じにしても異ならせてもよい。また、昇温速度を遅くする手法についても同様に、ある一温度区域間のみ遅くしても複数区間で遅くしてもよく、さらに複数区間の場合には、互いに速度を同じとしても異ならせてもよい。
炭化珪素粒子が金属珪素で結合された多孔質構造とするためには、焼成時に金属珪素を軟化させる必要がある。金属珪素の融点は1410℃であるので、本焼成の際の焼成温度は1410℃以上とすることが好ましい。さらに、最適な焼成温度は、微構造や特性値から決定される。ただし、1600℃を超える温度では金属珪素の蒸発が進行し、金属珪素を介した結合が困難になるため、焼成温度としては、1410〜1600℃が適当であり、1420〜1580℃が好ましい。
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1及び2、比較例1〜6)
平均粒径33μmの炭化珪素粒子と、平均粒径5μmの金属珪素の粉末とを、質量比で80:20の組成となるように配合し、酸化ストロンチウム(SrO)、三酸化二アルミニウム(Al)及び二酸化珪素(SiO)とを含有する化合物を添加して原料を得た。この原料に、炭化珪素粒子と金属珪素との合計量100質量部に対して、有機バインダーとしてメチルセルロース6質量部、界面活性剤2.5質量部、及び水24質量部を加え、均一に混合及び混練して成形用の坏土を得た。得られた坏土を、押出成形機にて外径45mm、長さ120mm、隔壁厚さ0.43mm、セル密度100セル/平方インチ(16セル/cm)のハニカム形状に成形し、次いで、500℃で5時間、脱脂のための仮焼を行った後、非酸化雰囲気において1450℃で2時間の焼成を行い、ハニカム構造の炭化珪素質多孔体を作製した。得られた炭化珪素質多孔体は、炭化珪素粒子と金属珪素とが、炭化珪素粒子相互間、及び/又は炭化珪素粒子と金属珪素との間に細孔を保持した状態で結合し、この細孔のうち、炭化珪素粒子相互の表面間、又は炭化珪素粒子表面と金属珪素表面との間の最短距離が10μm以下の部分である微細孔部分の少なくとも一部に、珪素、アルミニウム及びストロンチウムのそれぞれの酸化物を含有する酸化物相が埋設されてなるものであった。
(実施例3及び比較例7)
アルカリ土類金属のうち酸化ストロンチウム(SrO)、三酸化二アルミニウム(Al)及び二酸化珪素(SiO)とを含有する化合物に加えて、発泡樹脂(アクリロニトリル系プラスチックバルーン(平均粒径50μm))を10質量部、及び有機造孔剤(デンプン(平均粒径50μm))を15質量部添加すること以外は、前述の実施例1及び2、比較例1〜6と同様の操作によりハニカム構造の炭化珪素質多孔体(実施例3及び比較例7)を作製した。
作製した各炭化珪素質多孔体(実施例1〜3、比較例1及び7)の、前述した微細孔部分を含む細孔のうち酸化物相が埋設されていない部分の体積の総計(全気孔体積)に対する、炭化珪素粒子相互の表面間、又は炭化珪素粒子表面と金属珪素表面との間の最短距離が10μm以下の部分である微細孔部分のうち酸化物相が埋設されていない(気孔径が10μm以下の)部分の体積の合計(微細孔部分の気孔体積)の割合(%)(以下、微細孔率(%)ということがある)を、水銀ポロシメーターで測定した細孔径分布を用いて算出した。結果を表1に示す。

また、作製した各炭化珪素質多孔体を構成する酸化物相における、ストロンチウム、アルミニウム及び珪素のそれぞれの酸化物の各物質量比(モル比)(SrO:Al:SiO)と、骨材としての炭化珪素粒子と結合材としての金属珪素との合計質量に対する、酸化物相の質量の割合(質量%)(以下、単に酸化物相の質量の割合(質量%)ということがある)とを、添加した化合物と炭化珪素粒子や金属珪素原料に不純物として含まれる化合物とから算出した。結果を表1に示す。また、これらの値は、作製した炭化珪素質多孔体の研磨面に存在する酸化物相に、EDS点分析等によって各元素(Sr,Al,Si,O)に固有の特性X線を測定して定量する、又は、所定の化学分析等により定量することで算出することもできるが、測定方法は上記に限定されるものではない。
(画像解析)
画像解析用アプリケーション(Image−pro Plus(商品名)(MEDIA CYBERNETICS社製))を使用して、各炭化珪素質多孔体の画像解析を実施した。具体的には、まず試料となる炭化珪素質多孔体を切断して所定の切断面を出す。このとき、切断面を均一な平面とするために、適宜、切断面を研磨してもよい。この切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて撮影した平面画像を、例えば、スキャナー等の画像取込み手段を使用してPC(パーソナルコンピュータ)をはじめとする計算機に取り込む。取り込まれた平面画像を、所定の画像解析の手法により、図1に示すような炭化珪素粒子2、金属珪素3、酸化物相5および微細孔部分6を含む細孔4のうち酸化物相5が埋設されていない部分(気孔部)とに区別して抽出する。抽出した炭化珪素粒子2と、金属珪素3及び酸化物相5との境界に所定の画像処理方法を適用することにより、一画素分の幅をもつ境界線を抽出し、その長さの単位面積(1mm)あたりの総計を接触長さL(mm/mm)として算出した。得られた結果を表1に示す。また、気孔率ε(%)の値に対して接触長さL(mm/mm)をプロットしたグラフを図2に示す。なお、図2中の直線は、下式(1)の下限値に基いて描いた直線である。
L≦−1.0ε+90 …(1)
また、炭化珪素粒子と、金属珪素及び酸化物相とが接触する部分の面積の総計に対する、炭化珪素粒子と、酸化物相とが接触する部分の面積の合計の割合(%)(以下、酸化物結合比(%)ということがある)を、炭化珪素質多孔体の研磨面を走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて撮影し、コンピュータ画像解析により算出した。本実施例及び比較例においては、前述した画像解析方法と同様の画像解析手法を用いて炭化珪素粒子と金属珪素との境界線の長さ(界面長さ)及び炭化珪素粒子と酸化物相との境界線の長さ(界面長さ)を算出し、炭化珪素粒子と、金属珪素及び酸化物相との界面長さの総計に対する、炭化珪素粒子と、酸化物相との界面長さの合計の割合を算出し、酸化物相結合比とした。結果を表1に示す。また、実施例1の炭化珪素質多孔体の電子顕微鏡写真を図3に、実施例2の炭化珪素質多孔体の電子顕微鏡写真を図4に示す。なお、本実施の形態では、上述したコンピュータ画像解析を実施するためのアプリケーションソフトとしてImage−Pro Plus(商品名)(MEDIA CYBERNETICS社製)を使用したが、本発明においてはこのアプリケーションソフトを用いることに限定されるものではない。
また、各炭化珪素質多孔体の気孔率(%)をアルキメデス法にて測定した。結果を表1に示す。
また、得られた各炭化珪素質多孔体において、JIS R1601に記載の測定方法に準拠して、室温での強度(4点曲げ強度)(MPa)を測定した。結果を表1に示す。
また、各炭化珪素質多孔体を構成する酸化物相の結晶状態を、X線回折にて同定した。結果を表2に示す。

また、得られた各炭化珪素質多孔体を10質量%酢酸水溶液中に30分間浸漬し、浸漬前後における炭化珪素質多孔体の質量を測定し、下記式(2)に従い、酢酸に対する酸化物相の溶出による質量減少率(質量%)を算出した。結果を表2に示す。
酢酸による質量減少率(質量%)=
{(浸漬前質量)−(浸漬後質量)}/(浸漬前質量)×100…(2)
表1に示すように、比較例1は、酸化物相の質量の割合が0.8質量%と少ないために、微細孔率が24%と酸化物相が埋設されていない微細孔部分が多く、酸化物相による、炭化珪素粒子相互間及び/又は炭化珪素粒子と金属珪素との間の結合を強化する効果が十分ではなかった(酸化物結合比:5%)ために、炭化珪素質多孔体の強度が15MPaに止まった。一方、実施例1は、酸化物相の質量の割合が1.7%と多いために、微細孔率が17%と酸化物相が埋設される微細孔部分が多く、かつ、金属珪素の濡れ性が良好であるために、強度が25MPaと優れたものであった。また、実施例2は、酸化物相の割合が4.1%とさらに多く、微細孔率も8%であるために、酸化物相による炭化珪素粒子相互間及び/又は炭化珪素粒子と金属珪素との間の結合を強化する効果が十分(酸化物結合比:35%)であり、強度が40MPaと極めて優れたものであった。
しかし、比較例2は、酸化物相の質量の割合が15.0%と多すぎるために焼成収縮が大きくなってしまい、気孔率が低下してしまった。
また、表2に示すように、酸化物の各物質量比(モル比)における、三酸化二アルミニウム(Al)の比率が0.06である比較例3は、酸化物相に含まれる酸化ストロンチウム(SrO)と二酸化珪素(SiO)とによって、酢酸等に容易に溶解する珪酸ストロンチウム(SrSiO)が生成されたことにより、酢酸による質量減少率(質量%)が増加している。実施例1及び2は、三酸化二アルミニウム(Al)により酸化物相が非晶質化し、上述した珪酸ストロンチウムの生成を防止している。また、酸化物の各物質量比(モル比)における、三酸化二アルミニウム(Al)の比率が1.2である比較例4においては、その理由は不明であるが金属珪素の濡れ性が低下し、強度が18MPaに止まった。
また、酸化物の各物質量比(モル比)における、二酸化珪素(SiO)の比率が0.5である比較例5においては、酸化物相の共融点を十分に下げることができず、溶融した化合物や、炭化珪素粒子及び/又は金属珪素の表面を覆っている酸化物皮膜の粘度を十分に下げることができなかったために、金属珪素の濡れ性が悪く、かつ、溶融した酸化物相が炭化珪素粒子相互間及び/又は炭化珪素粒子と金属珪素との間に十分に入り込むことがでず、炭化珪素質多孔体の強度が16MPaに止まった。同様に、酸化物の各物質量比(モル比)における、二酸化珪素(SiO)の比率が5.0である比較例6においては、酸化物相の共融点を十分に下げることができず、溶融した化合物や、炭化珪素粒子及び/又は金属珪素の表面を覆っている酸化物皮膜の粘度を十分に下げることができなかったために、炭化珪素質多孔体の強度が18MPaに止まった。
また、表1に示すように、圧力損失を低減させるために造孔剤を用いた比較例7では、気孔率は向上したものの、大幅に強度が低下(9MPa)し、例えば、自動車の排気ガス浄化用のフィルタや触媒担体等を構成する材料として好適に使用することが困難であった。一方、同様に気孔率を向上させた実施例3では、比較例7と比して、酸化物相の割合が5.8%と非常に多く、微細孔率も9%であるために、酸化物相による炭化珪素粒子相互間及び/又は炭化珪素粒子と金属珪素との間の結合を強化する効果が十分(酸化物結合比:38%)であるために、気孔率が59%と非常に高気孔率であるにもかかわらず、強度が18MPaと極めて優れており、例えば、自動車の排気ガス浄化用のフィルタや触媒担体等を構成する材料として好適に用いることができるものであった。
また、図2に示すように、実施例1〜3は式(1)を十分に満たすために、DPFの構成材料として優れた強度を有するものである。
【産業上の利用可能性】
以上説明したように、本発明の炭化珪素質多孔体、及びこのような炭化珪素質多孔体により構成されたハニカム構造体は、機械的強度が高く、例えば、自動車の排気ガス浄化用のフィルタや触媒担体等を構成する材料として好適に用いることができる。また、本発明の炭化珪素質多孔体の製造方法は、このような炭化珪素質多孔体を簡便且つ安価に製造することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨材としての炭化珪素粒子と、結合材としての金属珪素とが、前記炭化珪素粒子相互間、及び/又は前記炭化珪素粒子と前記金属珪素との間に細孔を保持した状態で結合されてなる炭化珪素質多孔体であって、
前記細孔のうち、前記炭化珪素粒子相互の表面間、又は前記炭化珪素粒子表面と前記金属珪素表面との間の最短距離が10μm以下の部分である微細孔部分の少なくとも一部に、珪素、アルミニウム及びアルカリ土類金属のそれぞれの酸化物を含有する酸化物相が埋設されてなり、
前記微細孔部分を含む前記細孔のうち前記酸化物相が埋設されていない部分の体積の総計(全気孔体積)に対する、前記微細孔部分のうち前記酸化物相が埋設されていない部分の体積の合計(前記微細孔部分の気孔体積)の割合が20%以下であることを特徴とする炭化珪素質多孔体。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属がストロンチウムである請求項1に記載の炭化珪素質多孔体。
【請求項3】
所定の平面で切断された前記炭化珪素質多孔体の切断面を撮影した平面画像を、画像解析処理することにより、前記微細孔部分を含む前記細孔のうち前記酸化物相が埋設されていない部分に由来して特定される気孔部と、前記炭化珪素粒子に由来して特定される炭化珪素粒子部と、前記金属珪素に由来して特定される金属珪素部と、前記酸化物相に由来して特定される酸化物相部とに区別し、区別された前記平面画像上で、前記炭化珪素粒子部と、前記金属珪素部及び前記酸化物相部とが接触する部分の長さの単位面積(1mm)あたりの総計(接触長さ)L(mm/mm)と、前記炭化珪素質多孔体の気孔率ε(%)とが下記式(1)の関係を満たす請求項1又は2に記載の炭化珪素質多孔体。
L≦−1.0ε+90 …(1)
【請求項4】
前記炭化珪素粒子と、前記金属珪素及び前記酸化物相とが接触する部分の面積の総計に対する、前記炭化珪素粒子と、前記酸化物相とが接触する部分の面積の合計の割合が10〜70%である請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭化珪素質多孔体。
【請求項5】
前記炭化珪素粒子と、前記金属珪素及び前記酸化物相とが接触する部分の面積の総計に対する、前記炭化珪素粒子と、前記酸化物相とが接触する部分の面積の合計の割合が25〜50%である請求項4に記載の炭化珪素質多孔体。
【請求項6】
前記酸化物相が非晶質であるとともに、前記酸化物相がストロンチウム、アルミニウム及び珪素の酸化物(SrO,Al,SiO)全てを含み、前記酸化物相における、ストロンチウム、アルミニウム及び珪素のそれぞれの前記酸化物の含有比(SrO:Al:SiO)が各物質量比(モル比)で(1.0:0.1:1.0)〜(1.0:1.0:3.0)である請求項2〜5のいずれか一項に記載の炭化珪素質多孔体。
【請求項7】
前記酸化物(SrO,Al,SiO)の溶融温度が1000〜1400℃である請求項6に記載の炭化珪素質多孔体。
【請求項8】
前記酸化物相の溶融粘度が、前記金属珪素の溶融粘度よりも低い請求項6又は7に記載の炭化珪素質多孔体。
【請求項9】
前記炭化珪素粒子と前記金属珪素との合計質量に対する、前記酸化物相の質量の割合が1.0〜10.0質量%である請求項6〜8のいずれか一項に記載の炭化珪素質多孔体。
【請求項10】
前記炭化珪素粒子と前記金属珪素との合計質量に対する、前記酸化物相の質量の割合が4.0〜8.0質量%である請求項9に記載の炭化珪素質多孔体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の炭化珪素質多孔体により構成されることを特徴とするハニカム構造体。
【請求項12】
炭化珪素粒子と金属珪素とに、前記炭化珪素粒子と前記金属珪素との合計量100質量部に対して、ストロンチウム、アルミニウム及び珪素を含有する化合物をそれぞれの酸化物(SrO,Al,SiO)に換算して、1.0〜10.0質量部加えて原料を得、得られた前記原料を所定形状に成形して成形体を得、得られた成形体を脱脂した後に焼成して、前記炭化珪素粒子相互間に形成された細孔のうち、前記炭化珪素粒子相互の表面間、又は前記炭化珪素粒子表面と前記金属珪素表面との間の最短距離が10μm以下の部分である微細孔部分の少なくとも一部に、珪素、アルミニウム及びアルカリ土類金属のそれぞれの酸化物を含有する酸化物相を、前記微細孔部分を含む前記細孔のうち前記酸化物相が埋設されていない部分の体積の総計(全気孔体積)に対する、前記微細孔部分のうち前記酸化物相が埋設されていない部分の体積の合計(前記微細孔部分の気孔体積)の割合が20%以下となるように埋設させて、多孔質構造の多孔体を得ることを特徴とする炭化珪素質多孔体の製造方法。
【請求項13】
焼成することによって得られた前記多孔質構造の多孔体を構成する前記酸化物相に含まれる、ストロンチウム、アルミニウム及び珪素の酸化物の含有比(SrO:Al:SiO)が各物質量比(モル比)で(1.0:0.1:1.0)〜(1.0:1.0:3.0)となるように、ストロンチウム、アルミニウム及び珪素を含有する前記化合物の種類、及び/又は添加量を調整する請求項12に記載の炭化珪素質多孔体の製造方法。
【請求項14】
前記炭化珪素粒子と前記金属珪素とに加える、ストロンチウム、アルミニウム及び珪素を含む前記化合物のそれぞれの前記酸化物(SrO,Al,SiO)に換算した量を、前記炭化珪素粒子と前記金属珪素との合計量100質量部に対して、4.0〜8.0質量部とする請求項12及び13に記載の炭化珪素質多孔体の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/046063
【国際公開日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【発行日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−553202(P2004−553202)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014726
【国際出願日】平成15年11月19日(2003.11.19)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】