説明

炭含有未固結流動体の製造方法、炭成形体及び当該流動体の製造材料

【課題】固結が耐水性を有し、固化に必要な時間が短く、また、炭含有量を多くすることが可能な炭成形体を得る。
【解決手段】以下の工程により炭含有未固結流動体を製造し、これを固結する。
イ.一定量の粉炭と、セメント粉末と消石灰粉末のうちの1種または2種を、一定量混合して、炭・無機バインダー混合粉体を製造する工程。
ロ.前記炭・無機バインダー混合粉体に、
エマルジョン系酢酸ビニル樹脂接着剤(A1)、エマルジョン系ビニルウレタン樹脂接着剤(A2)とポリビニルアルコール水溶液接着剤(A3)
からなる群より選ばれる単一又は複数の接着剤と水を加えて混練し、炭含有未固結流動体を製造する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粉炭を含有し、耐水性を有する成形体などに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の炭を含有する吸着性混合材料は、微粉炭とセメントと水を混ぜ合わせてスラリとするとともに、この中にコア部材として砕石を入れて、砕石の周囲にスラリを付着させ、スラリの固化を待って吸着性混合材料としている。そして、セメントに対する粉炭の混合比は、重量比でセメント1に対して炭化物質(粉炭)を0.1〜1.2より好ましくは0.19〜0.78の範囲内で混合すると報告されている。(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−43692号公報 炭化物質の調合量については段落0010に記述
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来例の混合範囲は、粉炭とセメント粉末合計量の中で、粉炭をおよそ9〜55重量%、より好ましくはおよそ13重量%〜44重量%の配合で混合することを意味する。上記配合の範囲内にある固化物は、粉炭に比較してセメント量が多いため、炭が本来有する吸着、調湿、遠赤外線効果などを発現するための固化物の重量が増大する。同時に、固化物は、コンクリート類似の外観を呈する。
【0005】
一方、耐水性の炭成形物を作るために、合成樹脂製の耐水性バインダー(接着剤)を使用することも考えられる。しかし、耐水性を発現する固化物を得るには、粉炭に対する耐水性バインダーの使用量が増大する。耐水性バインダーの使用量が増大すると、製造コストが増加し、乾燥時間が長期化し、さらには、耐水性バインダーにより粉炭の有する気孔が塞がれて、炭素材が有する有用な効果が半減してしまう。また、特に、野外での使用を考えると、耐水性バインダーの耐久性にも疑問が残る。
【0006】
そこで本発明は、その固結が耐水性を有し、固化に必要な時間が短く、また、炭含有量を多くすることが可能な炭成形体を得ることを課題とする。また本発明は、耐久性が向上する炭成形体を得ることを課題とする。さらに本発明は、炭の有する多孔性を極力保持した炭成形体を得ることを課題とする。
【0007】
本発明の他の課題は、上記の炭成形体を得るための、炭含有未固結流動体の製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の課題は、上記の炭成形体と同様な炭成形塗膜を形成可能な塗料を得ることを課題とする。
【0009】
また、本発明のその他の課題は、前記炭含有未固結流動体を製造するために有用な、材料を提供することを課題とする。
【0010】
本発明のその他の課題は、本発明の説明により明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題を解決するため、本発明は、以下の工程よりなる炭含有未固結流動体の製造方法を要旨とする。
イ.一定量の粉炭と、セメント粉末と消石灰粉末のうちの1種または2種を、一定量混合して、炭・無機バインダー混合粉体を製造する工程。
ロ.前記炭・無機バインダー混合粉体に、
エマルジョン系酢酸ビニル樹脂接着剤(A1)、エマルジョン系ビニルウレタン樹脂接着剤(A2)とポリビニルアルコール水溶液接着剤(A3)
からなる群より選ばれる単一又は複数の接着剤と水を加えて混練し、炭含有未固結流動体を製造する工程。
【0012】
ここで、「炭・無機バインダー混合粉体」とは、「炭・セメント混合粉体」、「炭・消石灰混合粉体」、及び「炭・セメント・消石灰混合粉体」の三者を総称するものであり、以下においても同一の意味に使用する。また、「ビニル系接着剤」とは、エマルジョン系酢酸ビニル樹脂接着剤(A1)、エマルジョン系ビニルウレタン樹脂接着剤(A2)とポリビニルアルコール水溶液接着剤(A3)の三者を総称するものである。
【0013】
炭・無機バインダー混合粉体を製造する工程において、粉炭と混合する無機バインダーは、セメント粉末単独であってもよく、消石灰粉末単独であってもよく、また、セメント粉末と消石灰粉末の両者であってもよい。
【0014】
炭・無機バインダー混合粉体に加えるビニル系接着剤は、A1、A2とA3からなる群より選ばれる単一の接着剤であってもよく、複数(2以上の任意の整数)の接着剤であってもよい。例えば、エマルジョン系酢酸ビニル樹脂接着剤(A1)に分類される接着剤から1を選択し、エマルジョン系ビニルウレタン樹脂接着剤(A2)に分類される接着剤から1を選択し、これら2つの接着剤を使用してもよい。また、例えば、エマルジョン系酢酸ビニル樹脂接着剤(A1)に分類される接着剤から1を選択し、エマルジョン系ビニルウレタン樹脂接着剤(A2)に分類される接着剤から1を選択し、ポリビニルアルコール水溶液接着剤(A3)に分類される接着剤から1を選択し、これら3つの接着剤を使用してもよい。さらに、例えば、エマルジョン系ビニルウレタン樹脂接着剤(A2)に分類される接着剤を2以上選択して、これらを使用してもよい。また、例えば、エマルジョン系酢酸ビニル樹脂接着剤(A1)に分類される接着剤から1を選択し、この1の接着剤を使用してもよい。
【0015】
また、本発明は、前記製造方法により得られた炭含有未固結流動体を、粒状、板状など任意の形状にし、また型枠に入れ、自然放置、湿潤養生、温度制御養生などを経て、固化した炭成形体を要旨とする。さらに、本発明は、前記製造方法により得られた炭含有未固結流動体を塗料(別の表現をすれば、被覆物)として用い、物体の表面に炭含有物を付着固化したものを要旨とする。
【0016】
本発明、本発明の好ましい実施態様、これらに含まれる構成要素は可能な限り組み合わせて実施することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる炭成形体は、炭・無機バインダー混合粉体を製造し、さらにビニル系接着剤と水を加えて混練し、炭含有未固結流動体を得て、これを固化する製造方法により得られる。このため、その固結が耐水性を有し、固化に必要な時間が短く、また、炭含有量を多くすることが可能な炭成形体である。また、本発明にかかる炭成形体は、炭の有する多孔性を極力保持した炭成形体となる。
【0018】
また、本発明にかかる炭成形体は、少なくとも、セメント及び/又は消石灰に由来する無機化学反応、ビニル系接着剤に由来する有機化学反応の両者により固着されており、ビニル系接着剤単独使用による固結に比較して、紫外線などの影響を受け難く、野外での使用など自然環境中での長期間使用における耐久性が期待される。
【0019】
さらに、本発明にかかる炭成形体は、特に消石灰の量を一定範囲で変更することにより、色を黒色、銀色にすることができ、また、油を塗ったような艶を有する外観にすることができる。
【0020】
本発明にかかる炭成形体は、炭含有未固結流動体から固結するときに、体積が極僅か膨張する。従って、炭含有未固結流動体を塗料用途に用いると、塗膜は、固結収縮によるひび割れがない。同様に、炭含有未固結流動体を成形すると、成形体は、固結収縮によるひび割れがない。
【0021】
本発明の他の態様によれば、上記の炭成形体を得るための、炭含有未固結流動体の製造方法が提供される。
【0022】
本発明のその他の態様によれば、上記の炭成形体と同様な炭成形塗膜を形成可能な塗料を得ることができる。
【0023】
また、その他の本発明の態様によれば、前記炭含有未固結流動体を製造するために有用な、材料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明にかかる炭含有未固結流動体の製造方法、炭成形体、炭含有塗料などをさらに説明する。
【0025】
本発明の説明において使用する「耐水性」とは、炭成形体や炭含有塗膜を長期間(例えば1日間以上)水中に置いても固形物が崩れることない、「耐水性」のみならず、短期間(例えば数時間)水中の置いて固形物が崩れないこと、さらには、湿度の高い空気中で長期間使用して固形物の形がくずれないこともまた、「耐水性」を有すると表現している。もちろん、本発明において、もっとも好ましい耐水性は、炭成形体や炭含有塗膜を長期間(例えば1日間以上)水中に置いても固形物が崩れることない耐水性である。
【0026】
以下に述べる「墨の溶出」とは、炭成形体を指先などで触れた場合に、黒い色が付く現象を表している。墨の溶出は、粗製の白炭(例えば備長炭)、黒炭などでも観察されるが、粗製の備長炭、黒炭を数回水洗いすれば、これらの炭からの墨の溶出は収まる。墨の溶出は、炭の極微細な粒子が炭の表面から分離する現象と考えられる。墨の溶出は、粉炭自体の粒子が、成形体から分離する現象(炭粉末の剥離)とは区別して観察可能であり、以下の説明においても、これらを区別して記述する。
【0027】
本発明においては、まず、炭と、セメント及び/又は消石灰である無機バインダーが混合され、炭・無機バインダー混合粉体が製造される。
【0028】
粉炭の原料樹種は特に制限はなく、例えばコナラ、カシ類、竹、ブナ、ヒッコリー、マングローブ、椰子殼などを挙げることができる。また、林地廃材、工場廃材でもよい。炭化時の温度にも特に制限はない。従って、粉炭は、活性炭、白炭、黒炭、くん炭のいずれであってもよく、また、これらの混合物であってもよい。さらに、石炭、石炭コークスの粉末であってもよい。
【0029】
粉炭の粒子径は、通常500μm未満、好ましくは200μm未満、より好ましくは106μm未満である。ここで、500μm未満の粒径とは、JIS Z 8801に定める標準ふるいにて、篩い分けした場合に、「500μm標準ふるい」を通過したものと同等であり、200μm未満、106μm未満の粒径についても同様である。この範囲であると、成形や塗布が容易となり、粉炭粒子の固着が良好であり、炭成形体などにおける粉炭粒の剥離が少なくなる。
【0030】
セメントは、普通ポルトランドセメントが使用できる。また、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントであってもよい。セメントの粒子径は、通常25μm〜35μmである。
【0031】
消石灰は、例えば、農業用消石灰、試薬用消石灰などが使用できる。粒子径は、通常、35μm未満である。
【0032】
粉炭とセメントの配合割合は、粉炭とセメントの合計重量を100部としたとき、通常、粉炭70〜96重量部、セメント4〜30重量部である。好ましくは、粉炭70〜90重量部、セメント10〜30部である。粉炭とセメントの配合について、粉炭を77.5重量部以下(数値は中央値:実験によりばらつきがあり、実験値では76部〜79重量部以下)、セメントを22.5重量部以上(数値は中央値:実験によりばらつきがあり、実験値では21部〜24重量部以上)とすれば、最終生産物である炭成形体あるいは炭塗膜からの墨の溶出がなくなる。上記墨の溶出のない炭成形体は、例えば、置物など濡れ雑巾を使用しての清掃が考えられる用途に適する。上記墨の溶出のない塗膜は、たとえば、建造物の室内壁(一例として、コンクリート壁に炭含有塗料を塗布した壁)など濡れ雑巾を使用しての清掃が考えられる用途に適する。
【0033】
もっとも、炭成形体や炭含有塗料は、墨の溶出がなくてもあっても、本発明の技術的範囲に含まれる。たとえば、炭成形体を水に浸して指でその表面をこすって少し墨の溶出がある、また、墨の溶出がある程度であれば、例えば、空気環境での使用(一例として空気浄化フィルター用途を挙げることができる)には、問題なく使用できる。
【0034】
また、粉炭とセメントを含み消石灰を含まない場合には、粉炭を70重量部以上(すなわちセメントを30重量部以下)にすると、炭成形体は炭の有する黒色を呈する。
【0035】
粉炭と消石灰の配合割合は、粉炭と消石灰の合計重量を100部としたとき、通常、粉炭80〜99重量部、消石灰1〜20重量部であり、好ましくは、粉炭80〜97重量部、消石灰3〜20重量部であり、より好ましくは、粉炭80〜95重量部、消石灰5〜20重量部である。粉炭と消石灰の配合について、粉炭を90重量部部以下、消石灰を10重量部以上とすれば、最終生産物である炭成形体あるいは炭塗膜からの墨の溶出がなくなる。
【0036】
セメントと消石灰を比較すると、炭成形体の結合の強度は、セメントのほうが強い。また、普通セメントは灰色で、消石灰は白色である。したがって、炭成形体に必要な強度や外観色などを考慮して、セメント及び/又は消石灰を選択すればよい。また、粉炭と消石灰の配合について、消石灰を5重量部以上にして、炭含有未固結流動体を製造し、コテなどを使用してその表面と擦ると、消石灰が表面に滲出し、油膜類似の艶が出る。
【0037】
炭・セメント混合粉体に、1種または2種以上の無機物粉体を加えてもよい。無機物粉体としては、酸化チタン、焼却灰、シリカ、無機顔料などを挙げることができる。さらに無機物粉体として消石灰を加えてもよい。消石灰を加える場合には、粉炭、セメントと消石灰の合計重量を100部として、セメントと消石灰の合計が40部以下であることが好ましい。炭成形体あるいは炭塗膜中の、粉炭量を多くするという観点からである。
【0038】
同様に、炭・消石灰混合粉体に、1種または2種以上の無機物粉体を加えてもよい。無機物粉体は、上記と同様な物を例示することができる。さらに無機物粉体としてセメントを加えてもよい。セメントを加える場合には、粉炭、セメントと消石灰の合計重量を100部として、セメントと消石灰の合計が40部以下であることが好ましい。炭成形体あるいは炭塗膜中の、粉炭量を多くするという観点からである。
【0039】
また、粉炭、セメント、消石灰を混合して、炭・無機バインダー混合粉末としてもよい。この場合の配合は、粉炭、セメントと消石灰の総重量を100部として、粉炭を70〜77重量部とし、残余の23〜30重量部をセメントと消石灰の合計重量部とする。前記セメントと消石灰の合計は、セメントを10〜29重量部と、消石灰を1〜20重量部加えればよい。当該混合範囲にある炭・セメント・消石灰混合粉体を用いると炭成形体あるいは炭塗膜からの墨の溶出はない。すなわち、炭成形体を水に入れ、一定時間(実験例においては24時間)経過後に水から出して濡れたままの状態で、その表面を指でこすっても墨の溶出はない。消石灰の量は、炭成形体の外観に艶を必要とするか否かなどに応じて、加減すればよい。
【0040】
本発明においては、炭・無機バインダー混合粉体にさらに接着剤を加える。無機バインダーとしてセメントを採用した場合、重量比で、セメント1に対して、粉炭17.5部〜3.2部を混合することができる。体積比では、セメント1に対して粉炭52.5部〜9.6部である。最終生産物である炭成形体からの墨の溶出が無い混合割合は、重量比で、セメント1に対して、粉炭3.4部程度である。体積比では、セメント1に対して粉炭10.2部程度である。もっとも、セメント1に対して重量部で粉炭が前記10.2を超える量含まれても、最終生産物である炭成形体を水中に置けば、堅さは減少するが、粉炭粒子の剥離はない。よって、水中での使用も可能である。また、空気環境での使用には、通常、何らの問題も生じない。
【0041】
セメントに対して粉炭量を多く出来る本発明にかかる炭成形体は、セメントのみをバインダーとする従来例の炭成形体と対照的である。すなわち、前記先行特許文献1は、粉炭とセメントのみを混合する成形体にあっては、セメントに対して、重量比で、0.1〜1.2部の範囲、より望ましくは0.19〜0.78と記述している。
【0042】
ここで、重量比から体積比の換算には、重量比に0.33を乗じて、体積比とした。
表1は、黒炭、白炭、セメント、消石灰の粉末の比重を測定した値の一例を示している。白炭は、スリランカ産の照葉樹を材料とし、高温で焼いた炭を500μm未満に粉砕した粉炭であった。黒炭は、インドネシア産のマングローブを材料とし、焼いて黒炭とした炭を200μm未満に粉砕した粉炭であった。セメントは太平洋セメント株式会社製ポルトランドセメントであり、消石灰は上田石灰製造株式会社65消石灰であった。
【0043】
通常詰めは、容器に粉体を入れてかるく押えて詰めて重量を測定したものであり、堅締めは、容器に粉体を入れて10回程度容器を叩いて粉体の隙間をなくして詰めて重量を測定した結果である。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に記載した一例の比重測定値及びその他の比重測定値から、同一重量で、堅締めの場合、単位重量あたりの体積は、
黒炭の粉炭(200μm未満):セメントは凡そ3:1
と計算された。
【0046】
粉炭とセメント及び/又は消石灰の混合には、いかなる混合機を用いてもよい。混合機の一例を挙げると、リボンブレンダーである。混合は、両者が十分混ざりあうように、任意の時間行えばよい。例えば、10分から20分間行えばよい。
【0047】
炭・セメント混合粉体を製造する場合に、混合粉体の量が多いと、発熱を感じる場合がある。発熱にともない、炭・無機バインダー混合粉体は急速に乾燥する。混合時初期には粉塵が発生するが、上記の発熱と同時に、粉塵の発生量が少なくなる。また、炭・無機バインダー混合粉体が手に付着しにくくなる現象が観察される。
【0048】
炭は空気中の水分や酸素を吸着する性質がある。そこで、混合前の粉炭が一定の水分や酸素を含有すると、混合時に、粉炭とセメント粒子の接触により、セメント粒子の表面で水和反応や酸化反応が生じると推定される。粉塵の減少、手に付着しにくくなる変化も、セメント粒子と粉炭粒子の各表面での化学変化を示唆している。
【0049】
なお、炭・セメント混合粉体を容器に入れて約1月間保存した後、水を加えて混合すると、通常のセメント固化(水和反応)が起こり、また、通常の発熱が生じた。ただし、十分な固結が得られるのは、従来技術で述べた、粉炭とセメントの混合比率(セメント量が多い)にした場合であると思料される。
【0050】
消石灰の場合も、粉炭との混合時に発熱する場合がある。ただし、発熱量はセメントとの混合に比較して少ない。また、炭・消石灰混合粉体を容器に入れて約1月間保存した後、水を加えて混合し、後に乾燥すると、固結体となった。
【0051】
無機バインダーとしての消石灰とセメントを比較すると、最終生産物である炭成形体の固結力は、セメントのほうが強く消石灰のほうが弱い。消石灰は一定の水和反応を行うが、セメントのような多段階の水和反応ではないため、セメントのような固結力を獲得するものではないと考えられる。
【0052】
次に、前記の炭・無機バインダー混合粉体に、ビニル系接着剤と水を加えて、混練する。
【0053】
ビニル系接着剤としては、エマルジョン系酢酸ビニル樹脂接着剤(A1)、エマルジョン系ビニルウレタン樹脂接着剤(A2)とポリビニルアルコール水溶液接着剤(A3)が使用できる。
【0054】
エマルジョン系酢酸ビニル樹脂接着剤(A1)としては、例えば、木工用として、一般に文房具店などで市販されているもの(例えば株式会社コニシ木工ボンド(登録商標))を使用することができる。エマルジョン系ビニルウレタン樹脂接着剤(A2)としては、例えば、スチレンーブタジエン共重合体(ビニルウレタン)と酢酸ビニルーエチレン共重合体の混合物(主材)使用することができる。また、ポリビニルアルコール水溶液接着剤(A3)としては、液状のりとして、文房具店などで市販されているものや洗濯用のりとして市販されているもの(これらは、およそ20%程度の水溶液)を使用することができる。
【0055】
A2は、上記主材にイソシアネート(例えば4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネート)である助剤を使用直前に混合し、これにより出来る接着剤を、ビニル系接着剤として使用してもよい。ただし助剤を使用すれば固化が加速されるので、例えば、塗料としての用途には、使用しづらくなる。
【0056】
炭・無機バインダー混合粉体に加えるビニル系接着剤は、A1、A2とA3からなる群より選ばれる単一の接着剤であってもよく、複数(2以上の任意の整数)の接着剤であってもよい。炭成形体の強度が強くなり、また、炭成形体の耐水性が大きくなる観点から、好ましくは、上記ビニル系接着剤は、A1とA2からなる群より選ばれる単一又は複数(2以上の任意の整数)の接着剤である。
【0057】
炭・無機バインダー混合粉体と、上記のビニル系接着剤は、炭・無機バインダー混合粉体100重量部あたり、接着剤溶液の重量部で10部から30部、好ましくは13部から23部混合する。ビニル系接着剤の使用量を多くすると炭成形体の吸水性が低下する。
【0058】
最終生成物である炭成形体の強度は、A2の強度が強く、A1、A3の順に強度が弱くなる。墨の溶出は、A2が少なく、A1とA3では多くなる傾向がある。炭成形体の吸水性は、A1、A2、A3の種類による変化は観察されない。炭成形体を水中に置いた場合は、A1、A2、A3いずれも、炭成形体が柔らかくなる。A3は、柔らかくなるまでにかかる時間が短く、柔らかさの程度が大きい。
【0059】
一般に、ビニル系接着剤は、固化後に、長期間水中に浸漬すると、水に溶解する。本発明にかかる炭成形体にあっては、炭成形体の固化後に、長期間水中に浸漬すると、炭成形体は柔らかくなるが、粉炭が分離することはない。本発明にかかる炭成形体は、無機バインダーに由来する水和反応、酸化反応などが生じることにより、上記耐水性の獲得が説明される。加えて、ビニル系接着剤と無機バインダーの相互作用による未確認の反応が想像される。
【0060】
炭含有未固結流動体を塗料に用いる場合を例にすると、A2は、下地と接着性が良好であり、A3は一度下地に塗布、固結した後に、下地から剥離する必要が生じた場合に、剥離が容易などの特徴がある。よって、上述の成形体の強度、耐水性、吸水性、塗料としての付着性などを考慮して、A1、A2、A3の中から1又は複数の接着剤を選択すればよい。
【0061】
水は、炭・無機バインダー混合粉体100重量部に対して30〜70重量部、好ましくは40〜60重量部、より好ましくは、45〜55重量部加える。水は、例えば、上水道水を使用することができる。
【0062】
混練は、例えば、強制攪伴式2軸ミキサを使用することができる。混練時間は、5分から20分である。
【0063】
以上のように製造した炭含有未固結流動体は、そのまま成形し、型枠に入れ(締固めをしてもよく、しなくてもよい)、あるいは塗料ないしコーティング材として木材、砂利などの石、コンクリートの建造物、コンクリートブロックなどに塗布してもよい。
【0064】
その後、自然放置して固化させる。あるいは、湿潤養生、温度制御養生などを経て、固化してもよい。本発明にかかる炭含有未固結流動体が固化する時に、体積が増加(膨張)する。体積の増加量は、極少量である。
【0065】
玉砂利、砕石、軽石などの表面に前記の塗料を塗布して、表面に炭含有塗膜を付着した玉砂利、砕石、軽石などにしてもよい。炭には光を吸収する作用があり、例えば、長寸が5〜8mm程度の粒状の石の表面に、塗膜を付着した石を製造する。当該石を庭などに敷きつめて、地表層を作れば、雑草が少なくなる。例えば厚さ50mm以上の地表層とすると、植物の光合成が阻害されて、雑草がほぼ生えなくなる。本発明にかかる塗膜は、耐水性と強度を有するために、自然環境下に敷設するに好適な炭含有石となる。
【0066】
また、ヘルメットの裏面に炭含有塗膜を作れば、炭が本来有する悪臭吸収、調湿などの作用を有するヘルメットとなる。本発明にかかる塗膜は、耐水性を有するため、汗の悪影響を受けることがない。
【0067】
送水管、送風管などの内面に炭含有塗膜を作ってもよい。吸着、脱色などの作用が発揮される。本発明にかかる塗膜は、耐水性を有するため、特に送水管の内部に付設するに適当である。
【0068】
コンクリート建造物の壁に炭含有塗膜を作ってもよい。吸着、調湿、マイナスイオン発生などの好適な効果が発揮される。強度を有するために、触れても粉炭の粒子が外れることがなく、また、梅雨時などの湿気の多い季節であっても、強度が保持される。
【0069】
炭・無機バインダー混合流体、または炭含有未固結流動体に、他の無機物粉体を混合してもよい。焼却灰その他の粒子を混入して、耐火性を付与することができる。また、酸化チタンの粒子を混入して、光触媒作用を付与してもよい。無機顔料を混入して、炭成形品の色調を変化させてもよい。
【実施例1】
【0070】
実施例と比較例に使用した材料は以下のとおりである。
粉炭:材料樹種はインドネシア産のマングローブ;黒炭;粒子径200μm未満
セメント:普通ポルトランドセメント;太平洋セメント株式会社製
消石灰:65消石灰;上田石灰製造株式会社製
酢酸ビニル:商品名木工ボンド;コニシ株式会社製
ビニルウレタン:商品名AU−7400GL(スチレンーブタジエン共重合体(ビニルウレタン)と酢酸ビニルーエチレン共重合体の混合物);アイカ工業株式会社製
ポリビニルアルコール:商品名液状のりアラビックヤマト;ヤマト株式会社製
水:上水道水
【0071】
表中の材料の数値は重量部である。表中に、ポリビニルアルコールはPVAと表示した。また、表中には、炭・無機バインダー混合粉体中の粉炭の重量百分率を「粉炭重量%」として表示した。
【0072】
表に記載した量の粉炭と、表に記載した量のセメント及び/又は消石灰を、リボンブレンダーにて20分間混合して、炭・無機バインダー混合粉体を製造した。表に記載した量の炭・無機バインダー混合粉体に、表に記載した量の接着剤、水を加えて、強制撹拌式2軸ミキサーで5分間混練して、炭含有未固結流動体を製造した。
【0073】
炭含有未固結流動体をテストピース(直径約80mm、厚み6mmの円板状)に成形した。48時間、自然放置し、固化させた。その後、水中にテストピースを24時間放置した後、以下の評価試験を行った。
【0074】
墨の溶出試験は、水中にいれたテストピースを水から出し、テストピースが濡れた状態で、その表面を指でこすり、評価し、
墨の溶出なし 1
墨すこし溶出 2
墨溶出 3
の数値を表中に記入した。
【0075】
粒子の剥離は、上記と同様にテストピースが濡れた状態で、その表面を指でこすり、
粒子の剥離 有り
粒子の剥離 無し
の2段階の定性値を表中に記載した。
【0076】
また、テストピースの固結力試験を、上記48時間自然放置後と、上記24時間水中放置後に行った。固結力試験は、テストピースを
両手に掴んで曲げ力を加えて割れないもの
指で押して割れないもの
指で押して割れるもの
の3段階の定性評価にて行った。
【0077】
【表2】

表2に記載した4のテストピースは、48時間自然放置して固化した後に、指で押しても割れない以上の固結力を示し、また、24時間水中放置後は、指で押しても割れない以上の固結力を示した。
【0078】
以下の表3〜表8に記載した全てのテストピースの固結力試験結果も、表2に記載した4のテストピースと同様であった。
【0079】
【表3】

【0080】
【表4】

【0081】
【表5】

【0082】
【表6】

【0083】
【表7】

試料番号Aは、固化後(48時間自然放置後)の外観が、極弱い銀色であった。試料番号B、C、E及び表6に記載したDは、固化後の外観が弱い銀色でつやがあった。
【0084】
次に、炭成形体の一軸圧縮試験を行った結果を示す。表8に示す試験番号T−1とT−2の組成で作成した炭成形体を試験に供した。
【0085】
【表8】

【0086】
T−1とT−2は、粒子の剥離はなく、また、墨の溶出試験結果は、定性評価値が1であった。一軸圧縮試験は、表9に示す高さと直径の円柱状試験体を、T−1とT−2各々について、3個ずつ作成して試験を行った。ひずみ速度は1%/minとした。試験結果を表9に示した。
【0087】
【表9】

【0088】
次に、比較実験例の結果を示す。表10に示す組成物を混合して、テストピースを作成した。テストピースの大きさは、上記した実施例と同一である。また、48時間自然放置して固化させた。表11、表12に記載した比較実験例についても、テストピースの大きさ、固化の条件は、表10の比較実験例と同一である。
【0089】
【表10】

【0090】
TES1、TES2、TES3は、固化後、乾燥状態で触ると手に粉がついた。すなわち、乾燥状態で粒子の剥離が観察された。さらに、TES1、TES2、TES3は、乾燥状態で、指で軽く押すとテストピースが割れ、また、24時間水中に置いた後、指で軽く押すと、テストピースが割れた。
TES4は、24時間水中に置いた後、指で軽く押すと、テストピースが割れた。TES5とTES6は、24時間水中に置いた後、指で押すと、テストピースが割れた。
【0091】
【表11】

【0092】
9014、9015、9016は、自然状態で48時間放置すると固化する。しかし、乾燥状態で、指で軽く押えるだけで、テストピースが割れた。また、9014、9015、9016は、24時間水中に置いた後は上述した乾燥状態よりもさらに強度を失った。
9017は、24時間水中に置いた後は、指で押すと、テストピースが割れた。
【0093】
【表12】

【0094】
9012、9011、9013は、48時間自然放置で固化した。当該テストピースは、乾燥状態で、指で強く押えても、割れない程度の一定の強度があった。しかし、9012、9011、9013は、水に漬けると墨が溶出し、また、水中に48時間浸漬すると、テストピースの周辺部が崩壊した。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明にかかる炭成形体は、例えば、空気清浄器用のフィルターとして、使用することができる。本発明にかかる炭含有塗料は、建造物の壁用塗料として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程よりなる炭含有未固結流動体の製造方法。
イ.粉炭とセメント粉末を混合して炭・セメント混合粉体を製造する工程であって、
粉炭とセメント粉末の合計を100重量部とした場合に、粉炭を70〜96重量部と、セメント粉末4〜30重量部を含む炭・セメント混合粉体を製造する工程。
ロ.前記炭・セメント混合粉体に、
エマルジョン系酢酸ビニル樹脂接着剤(A1)、エマルジョン系ビニルウレタン樹脂接着剤(A2)とポリビニルアルコール水溶液接着剤(A3)
からなる群より選ばれる単一又は複数の接着剤と水を加えて混練し、炭含有未固結流動体を製造する工程。
【請求項2】
以下の工程よりなる炭含有未固結流動体の製造方法。
イ.粉炭と消石灰粉末を混合して炭・消石灰混合粉体を製造する工程であって、
粉炭と消石灰粉末の合計を100重量部とした場合に、粉炭を80〜99重量部と、消石灰粉末1〜20重量部を含む、炭・消石灰混合粉体を製造する工程。
ロ.前記炭・消石灰混合粉体に、
エマルジョン系酢酸ビニル樹脂接着剤(A1)、エマルジョン系ビニルウレタン樹脂接着剤(A2)とポリビニルアルコール水溶液接着剤(A3)
からなる群より選ばれる単一又は複数の接着剤と水を加えて混練し、炭含有未固結流動体を製造する工程。
【請求項3】
以下の工程よりなる炭含有未固結流動体の製造方法。
イ.粉炭、セメント粉末と消石灰粉末を混合して炭・セメント・消石灰混合粉体を製造する工程であって、粉炭、セメント粉末と消石灰粉末の合計を100重量部とした場合に、
(a) 粉炭を70〜77重量部、セメント粉末と消石灰粉末の合量を23〜30重量部含むものであって、
(b) 前記セメント粉末と消石灰の合量は、セメント粉末10〜29重量部と消石灰粉末1〜20重量部からなる、
炭・セメント・消石灰混合粉体を製造する工程。
ロ.前記炭・セメント・消石灰混合粉体に、
エマルジョン系酢酸ビニル樹脂接着剤(A1)とエマルジョン系ビニルウレタン樹脂接着剤(A2)とポリビニルアルコール水溶液接着剤(A3)
からなる群より選ばれる単一又は複数の接着剤と水を加えて混練し、炭含有未固結流動体を製造する工程。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれかに記載した炭含有未固結流動体を固化して得た炭成形体。
【請求項5】
請求項1乃至3いずれかに記載した炭含有未固結流動体からなる塗料。
【請求項6】
(a) 前記炭・セメント混合粉体、前記炭・消石灰混合粉体または前記炭・セメント・消石灰混合粉体を一定量包装した包装物と、
(b) エマルジョン系酢酸ビニル樹脂接着剤(A1)、エマルジョン系ビニルウレタン樹脂接着剤(A2)とポリビニルアルコール水溶液接着剤(A3)
からなる群より選ばれる単一又は複数の接着剤
からなる前記炭含有未固結流動体の製造用材料。

【公開番号】特開2008−94669(P2008−94669A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−279390(P2006−279390)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【出願人】(598095042)株式会社森林研究所 (24)
【Fターム(参考)】