説明

炭窒化物系蛍光体、およびこれを用いた発光装置、並びに炭窒化物系蛍光体の製造方法

【課題】新規組成の炭窒化物系蛍光体を提供することを目的とする。
【解決手段】La、Si、N、C、およびCeを含有し、かつ、390nm以上、490nm以下の波長範囲に発光ピークを有することを特徴とする、蛍光体。以下の式[1]で表される組成を有することが好ましい。
Siz:Cev ・・・ [1]
(但し、前記式[1]において、Aは、Laを必須とする希土類金属元素を表す。また、w、x、y、z、およびvは、それぞれ以下の範囲の数を表す。
1.6≦w≦2.4
3.6≦x≦4.4
5.6≦y≦6.4
0.6≦z≦1.4
0<v≦0.2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭窒化物系蛍光体、およびこれを用いた発光装置、並びに炭窒化物系蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、冷極線管(CRT)、白色発光ダイオード(LED)などに用いられている。これらのいずれの用途においても、蛍光体を発光させるためには、蛍光体を励起するためのエネルギーを蛍光体に供給する必要がある。蛍光体は真空紫外線、紫外線、電子線、青色光などの高いエネルギーを有する励起源により励起されて、可視光を発する。
【0003】
近年、発光装置の演色性向上等が求められており、新規蛍光体の開発が望まれている。従来のケイ酸塩蛍光体、リン酸塩蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、硫化物蛍光体などの蛍光体に加えて、窒化物蛍光体や酸窒化物蛍光体、さらには、炭窒化物系蛍光体についても探索されている。
炭窒化物系蛍光体としては、特許文献1、および非特許文献1に、黄色に発光するCe付活YSiC蛍光体が記載されている。
【0004】
また、特許文献2に、黄色乃至緑色に発光するEu付活炭窒化物系蛍光体が記載されている。具体的には、SrYSi(C,N,O)7−δ:Euや、SrLuSi(C,N,O)7−δ:Euが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7611641号公報
【特許文献2】特開2009−79069号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H.Zhang et al., J. Electrochem.Soc.,153(7)H151−H154(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および2、並びに非特許文献1に記載の炭窒化物系蛍光体には実用化に際して種々の課題があり、新規蛍光体の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、炭窒化物系蛍光体の組成について詳細に検討した結果、以下の式[1]で表される新規組成の蛍光体を見出し、本発明を完成させた。また、本発明者らは、炭窒化物系蛍光体を製造する際に焼成工程における圧力調整が重要であることも見出した。
即ち、本発明の要旨は、次の(1)〜(5)に存する。
(1)La、Si、N、C、およびCeを含有し、かつ、390nm以上、490nm以下の波長範囲に発光ピークを有することを特徴とする、蛍光体。
(2)以下の式[1]で表される組成を有することを特徴とする、(1)に記載の蛍光体。
Siz:Cev ・・・ [1]
(但し、前記式[1]において、Aは、Laを必須とする希土類金属元素を表す。また、w、x、y、z、およびvは、それぞれ以下の範囲の数を表す。
1.6≦w≦2.4
3.6≦x≦4.4
5.6≦y≦6.4
0.6≦z≦1.4
0<v≦0.2)
(3)蛍光体原料を、以下の式[2]で表される組成となるように仕込むことで蛍光体原料混合物を調製し、該蛍光体原料混合物を焼成する工程(焼成工程)を有することを特徴とする、(1)、または(2)に記載の蛍光体の製造方法。
Siz:Cev ・・・ [2]
(但し、前記式[2]において、Aは、Laを必須とする希土類金属元素を表す。また、w、x、y、z及びvは、それぞれ以下の範囲の数を表す。
1.6≦w≦2.4
3.6≦x≦4.4
5.6≦y≦6.4
0.6≦z≦1.4
0<v≦0.2)
(4)前記焼成工程において、焼成雰囲気を窒素含有雰囲気とし、かつ、炉内の窒素分圧が0.1MPa以上、1MPa未満である条件下で蛍光体原料混合物を焼成することを特徴とする、(3)に記載の蛍光体の製造方法。
(5)炭窒化物系蛍光体の製造方法であって、蛍光体原料混合物を調製し、該蛍光体原料混合物を焼成する工程(焼成工程)を有し、該焼成工程において、焼成雰囲気を窒素含有雰囲気とし、かつ、炉内の窒素分圧が0.1MPa以上、1MPa未満である条件下で蛍光体原料混合物を焼成することを特徴とする、炭窒化物系蛍光体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新規組成の蛍光体を提供することができる。さらに、炭窒化物系蛍光体を効率よく製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の半導体発光装置の一実施例を示す模式的斜視図である。
【図2】図2(a)は、本発明の砲弾型発光装置の一実施例を示す模式的断面図であり、図2(b)は、本発明の表面実装型発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。
【図3】本発明の照明装置の一実施例を示す模式的断面図である。
【図4】実施例1〜3、および比較例1で製造した蛍光体について、粉末X線回折により得られたX線パターンである。
【図5】実施例2で製造した蛍光体のSEM観察結果を示す(図面代用写真)。
【図6】実施例2で製造した蛍光体の励起スペクトル、および発光スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書中の蛍光体の組成式において、各組成式の区切りは読点(、)で区切って表わす。また、カンマ(,)で区切って複数の元素を列記する場合には、列記された元素のうち一種又は二種以上を任意の組み合わせ及び組成で含有していてもよいことを示し
ている。例えば、「(Ca,Sr,Ba)Al:Eu」という組成式は、「CaAl:Eu」と、「SrAl:Eu」と、「BaAl:Eu」と、「Ca1−xSrAl:Eu」と、「Sr1−xBaAl:Eu」と、「Ca1−xBaAl:Eu」と、「Ca1−x−ySrBaAl:Eu」とを全て包括的に示しているものとする(但し、前記式中、0<x<1、0<y<1、0<x+y<1)。
【0012】
[1.蛍光体]
(蛍光体の組成)本発明の蛍光体は、La、Si、N、C、およびCeを含有するものである。中でも、以下の式[1]で表される組成を有することが好ましい。
Siz:Cev ・・・ [1]
(但し、前記式[1]において、Aは、Laを必須とする希土類金属元素を表す。また、w、x、y、z及びvは、それぞれ以下の範囲の数を表す。
1.6≦w≦2.4
3.6≦x≦4.4
5.6≦y≦6.4
0.6≦z≦1.4
0<v≦0.2)
前記式[1]において、wは、Laの組成比を意味する。wの数値範囲としては、通常1.6以上、好ましくは1.8以上、特に好ましくは1.9以上であり、また、通常2.4以下、好ましくは2.2以下、特に好ましくは2.1以下である。
【0013】
前記式[1]において、xは、Siの組成比を意味する。xの数値範囲としては、通常3.6以上、好ましくは3.8以上、特に好ましくは3.9以上であり、また、通常4.4以下、好ましくは4.2以下、特に好ましくは4.1以下である。
前記式[1]において、yは、Nの組成比を意味する。yの数値範囲としては、通常5.6以上、好ましくは5.8以上、特に好ましくは5.9以上であり、また、通常6.4以下、好ましくは6.2以下、特に好ましくは6.1以下である。
【0014】
前記式[1]において、zは、Cの組成比を意味する。zの数値範囲としては、通常0.6以上、好ましくは0.8以上、特に好ましくは0.9以上であり、また、通常1.4以下、好ましくは1.2以下、特に好ましくは1.1以下である。
前記式[1]において、vは、Ceの組成比を意味する。通常0より大きく、好ましくは0.0001以上、特に好ましくは0.01以上であり、また、通常0.2以下、好ましくは0.1以下、特に好ましくは0.05以下である。vの値が大きすぎると濃度消光が起こって輝度が低下する傾向にあり、小さすぎると吸収効率が低下する傾向にあり、それに伴い、輝度が低下する傾向にある。
【0015】
前記式[1]において、「A」は、Laを必須とする希土類金属元素を表す。A元素全体に対するLaの占める割合が、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。
A元素として、La以外に、Y、Gd、Lu等を含有していてもよい。また、A元素の一部を、Sr、Ca、Ba等のアルカリ土類金属元素で置換することもできる。
【0016】
前記式[1]において、「Si」は、ケイ素である。ケイ素を主成分としていればよく、得られる蛍光体の特性に影響を与えない範囲内で、Ge等を含有していてもよい。
前記式[1]において、「N」は、窒素である。窒素を主成分としていればよく、得られる蛍光体の特性に影響を与えない範囲内で、O(酸素)、Cl等を含有していてもよい。
【0017】
前記式[1]において、「C」は、炭素である。炭素を主成分としていればよく、得られる蛍光体の特性に影響を与えない範囲内で、N(窒素)等を含有していてもよい。
前記式[1]において、「Ce」は、セリウムである。
また、上述した元素以外にも、La、Si、N、C、およびCeの各構成元素の他に、本発明の効果に影響を与えない範囲内で不可避的に混入してしまう不純物元素を含んでいてもよい。
【0018】
(発光波長)
本発明の蛍光体は、通常390nm以上、好ましくは420nm以上、また、通常490nm以下、好ましくは450nm以下の波長範囲に発光ピークを有する。即ち、紫色系の発光色を有するものである。
発光ピーク波長は、実施例に記載の方法で測定することができ、例えば、ピーク波長357nmの励起光を用いて測定することができる。
(励起波長)
本発明の蛍光体は、通常300nm以上、好ましくは340nm以上、また、通常400nm以下、好ましくは370nm以下の波長範囲に励起ピークを有する。即ち、紫外領域の光で励起される。
[2.蛍光体の製造方法]
本発明の蛍光体は、各蛍光体原料を、所望の組成となるように、例えば、以下の式[2]で示される組成となるように秤量して蛍光体原料混合物を調整し、得られた蛍光体原料混合物を焼成することにより製造することができる。
Siz:Cev ・・・ [2]
(但し、前記式[2]において、Aは、Laを必須とする希土類金属元素を表す。また、w、x、y、z及びvは、それぞれ以下の範囲の数を表す。
【0019】
1.6≦w≦2.4
3.6≦x≦4.4
5.6≦y≦6.4
0.6≦z≦1.4
0<v≦0.2)
蛍光体原料としては、金属化合物、金属などを用いる。すなわち、金属化合物を所定の組成となるように秤量し、混合した後に焼成することにより製造することができる。例えば、上記式[2]で表わされる蛍光体を製造する場合、Aの原料(以下適宜「A源」という)、Siの原料(以下適宜「Si源」という)、Nの原料(以下適宜「N源」という)、Cの原料(以下適宜「C源」という)、Ceの原料(以下適宜「Ce源」という)から必要な組み合わせを混合し(混合工程)、得られた混合物を焼成し(焼成工程)、必要に応じて得られた焼成物を洗浄する(洗浄工程)ことにより製造することができる。
【0020】
(蛍光体原料)
本発明の蛍光体の製造方法において使用される蛍光体原料としては、公知のものを用いることができ、例えば、LaN、La金属、SiC、Siと、更にはCeの金属、酸化物、炭酸塩、塩化物、フッ化物、窒化物又は酸窒化物から選ばれるCe化合物を用いることができる。
【0021】
なお、前記式[2]におけるC(炭素)やN(窒素)は、A源(La源)、Si源、N源、C源、Ce源から供給されてもよいし、焼成雰囲気から供給されてもよい。また、特にC(炭素)は、実施例にも記載するように、炭素を含有する焼成容器から供給されることも好ましい。
また、各原料には、不可避的不純物が含まれていてもよい。
【0022】
(混合工程)
目的組成が得られるように蛍光体原料を秤量し、ボールミル等を用いて十分混合し、蛍光体原料混合物を得る(混合工程)。
上記混合手法としては、特に限定はされないが、具体的には、下記(A)及び(B)の手法が挙げられる。
【0023】
(A)例えばハンマーミル、ロールミル、ボールミル、ジェットミル等の乾式粉砕機、又は、乳鉢と乳棒等を用いる粉砕と、例えばリボンブレンダー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー等の混合機、又は、乳鉢と乳棒を用いる混合とを組み合わせ、前述の蛍光体原料を粉砕混合する乾式混合法。
(B)前述の蛍光体原料に水等の溶媒又は分散媒を加え、例えば粉砕機、乳鉢と乳棒、又は蒸発皿と撹拌棒等を用いて混合し、溶液又はスラリーの状態とした上で、噴霧乾燥、加熱乾燥、又は自然乾燥等により乾燥させる湿式混合法。
【0024】
蛍光体原料の混合は、上記湿式混合法又は乾式混合法のいずれでもよいが、水分による蛍光体原料の汚染を避けるために、乾式混合法や非水溶性溶媒を使った湿式混合法がより好ましい。
(焼成工程)
続いて、混合工程で得られた蛍光体原料混合物を焼成する(焼成工程)。上述の蛍光体原料混合物を、必要に応じて乾燥後、坩堝等の容器内に充填し、焼成炉、加圧炉等を用いて焼成を行なう。
【0025】
本発明者らの検討により、炭窒化系蛍光体を製造する場合、焼成工程において、焼成雰囲気を窒素含有雰囲気とし、かつ、炉内の窒素分圧Pが0.1MPa以上、1MPa未満である条件下で上述の蛍光体原料混合物を焼成することが好ましいことがわかった。焼成工程における好ましい諸条件を以下に述べる。
焼成工程で用いる焼成容器(坩堝など)の材質としては、窒化ホウ素製、カーボン製などが挙げられる。C源ともなりうることから、カーボン製の容器を用いることが好ましい。
【0026】
焼成温度については、圧力など、その他の条件によっても異なるが、通常1500℃以上、2100℃以下の温度範囲で焼成を行なうことができる。焼成工程における最高到達温度としては、通常1500℃以上、好ましくは1600℃以上であり、また、通常2100℃以下、好ましくは1900℃以下である。焼成温度が高すぎると窒素が飛んで母体結晶に欠陥を生成し着色する傾向にあり、低すぎると固相反応の進行が遅くなる傾向にある。
【0027】
焼成工程における昇温速度は、通常2℃/分以上、好ましくは3℃/分以上、また、通常30℃/分以下、好ましくは20℃/分以下、より好ましくは10℃/分以下、特に好ましくは5℃/分以下である。昇温速度がこの範囲を下回ると、焼成時間が長くなる可能性がある。また、昇温速度がこの範囲を上回ると、焼成装置、容器等が破損する場合がある。
【0028】
焼成工程における焼成雰囲気は、本発明の蛍光体が得られる限り任意であるが、窒素含有雰囲気とすることが好ましい。具体的には、窒素雰囲気、水素含有窒素雰囲気等が挙げられ、中でも窒素雰囲気が好ましい。
なお、焼成雰囲気の酸素含有量は、通常10ppm以下、好ましくは5ppm以下にするとよい。
【0029】
焼成時間は、焼成時の温度や圧力等によっても異なるが、通常10分間以上、好ましく
は1時間以上、また、通常24時間以下、好ましくは12時間以下である。
焼成工程における窒素分圧は、焼成温度等によっても異なるが、通常0.1MPa以上、好ましくは0.4MPa以上であり、また、通常1MPa未満、好ましくは0.6MPa以下である。窒素分圧が高すぎると、副生物が多くなる傾向にあり、窒素分圧が低すぎると得られた蛍光体が分解してしまったり、着色してしまったりする可能性があるので、炭窒化物系蛍光体の製造においては窒素分圧の調整が特に重要となる。
【0030】
なお、焼成工程は、必要に応じて、複数回繰り返し行なってもよい。その際は、一回目の焼成と、二回目の焼成とで、焼成条件を同一にしてもよいし、異なるものにしてもよい。
また、焼成工程において、焼成雰囲気を窒素含有雰囲気とし、かつ、炉内の窒素分圧が0.1MPa以上、1MPa未満である条件下で蛍光体原料混合物を焼成することを必須とする本発明の製造方法は、前記式[1]で表される蛍光体の製造方法に限らず、炭窒化物系蛍光体に広く用いることができる。例えば、以下の式[3]で表される蛍光体に適用すれば、490nm以上、590nm以下の波長範囲に発光ピークを有する高特性の緑色系蛍光体を得ることができる。
【0031】
Siz:Cev ・・・ [3]
(但し、前記式[1]において、Bは、Gdを必須とする希土類金属元素を表す。また、w、x、y、z、およびvは、それぞれ以下の範囲の数を表す。
1.6≦w≦2.4
3.6≦x≦4.4
5.6≦y≦6.4
0.6≦z≦1.4
0<v≦0.2)
(後処理工程)
得られる焼成物は、粒状又は塊状となる。これを解砕、粉砕及び/又は分級操作を組み合わせて所定のサイズの粉末にする。ここでは、D50が約30μm以下になるように処理するとよい。
【0032】
具体的な処理の例としては、合成物を目開き45μm程度の篩分級処理し、篩を通過した粉末を次工程に回す方法、或いは合成物をボールミルや振動ミル、ジェットミル等の一般的な粉砕機を使用して所定の粒度に粉砕する方法が挙げられる。後者の方法において、過度の粉砕は、光を散乱しやすい微粒子を生成するだけでなく、粒子表面に結晶欠陥を生成し、発光効率の低下を引き起こす可能性がある。
【0033】
また、必要に応じて、蛍光体(焼成物)を洗浄する工程を設けてもよい。洗浄工程後は、蛍光体を付着水分がなくなるまで乾燥させて、使用に供する。さらに、必要に応じて、凝集をほぐすために分散・分級処理を行ってもよい。
[3.蛍光体の用途]
本発明の蛍光体は、蛍光体を使用する任意の用途に用いることができる。また、本発明により得られる蛍光体は、本発明により得られる蛍光体を単独で使用することも可能であるが、本発明により得られる蛍光体を2種以上併用したり、本発明により得られる蛍光体とその他の蛍光体とを併用したりした、任意の組み合わせの蛍光体混合物として用いることも可能である。
【0034】
本発明の蛍光体は、公知の液体媒体(例えば、シリコーン系化合物等)と混合して、蛍光体含有組成物として用いることもできる。
また、本発明により得られる蛍光体は、特に、紫外光で励起可能であるという特性を生かして、紫外光を発する光源と組み合わせることで、各種の発光装置に好適に用いること
ができる。
【0035】
発光装置の発光色としては紫色や、白色に制限されず、蛍光体の組み合わせや含有量を適宜選択することにより、電球色(暖かみのある白色)やパステルカラー等、任意の色に発光する発光装置を製造することができる。こうして得られた発光装置を、画像表示装置の発光部(特に液晶用バックライトなど)や照明装置として使用することができる。
[4.蛍光体含有組成物]
本発明の蛍光体は、液体媒体と混合して用いることもできる。特に、本発明の蛍光体を発光装置等の用途に使用する場合には、これを液体媒体中に分散させた形態で用いることが好ましい。本発明の蛍光体を液体媒体中に分散させたものを、適宜「本発明の蛍光体含有組成物」と呼ぶものとする。
【0036】
[4−1.蛍光体]
上記蛍光体含有組成物に含有させる本発明の蛍光体の種類に制限は無く、任意に選択することができる。また、蛍光体含有組成物に含有させる本発明の蛍光体は、1種のみであってもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。更に、蛍光体含有組成物には、本発明の効果を著しく損なわない限り、本発明の蛍光体以外の蛍光体を含有させてもよい。
【0037】
[4−2.液体媒体]
蛍光体含有組成物に用いられる液体媒体の種類は特に限定されず、通常、半導体発光素子を覆ってモールディングすることのできる硬化性材料を用いることができる。硬化性材料とは、流体状の材料であって、何らかの硬化処理を施すことにより硬化する材料のことをいう。ここで、流体状とは、例えば液状又はゲル状のことをいう。硬化性材料は、固体発光素子から発せられた光を蛍光体へ導く役割を担保するものであれば、具体的な種類に制限は無い。また、硬化性材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。したがって、硬化性材料としては、無機系材料及び有機系材料並びに両者の混合物のいずれを用いることも可能である。
【0038】
無機系材料としては、例えば、金属アルコキシド、セラミック前駆体ポリマー若しくは金属アルコキシドを含有する溶液をゾル−ゲル法により加水分解重合して成る溶液、またはこれらの組み合わせを固化した無機系材料(例えばシロキサン結合を有する無機系材料)等を挙げることができる。
一方、有機系材料としては、例えば、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等が挙げられる。具体例を挙げると、ポリ(メタ)アクリル酸メチル等の(メタ)アクリル樹脂;ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体等のスチレン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリエステル樹脂;フェノキシ樹脂;ブチラール樹脂;ポリビニルアルコール;エチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート等のセルロース系樹脂;エポキシ樹脂;フェノール樹脂;シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0039】
これら硬化性材料の中では、半導体発光素子からの発光に対して劣化が少なく、耐アルカリ性、耐酸性、耐熱性にも優れる珪素含有化合物を使用することが好ましい。珪素含有化合物とは分子中に珪素原子を有する化合物をいい、ポリオルガノシロキサン等の有機材料(シリコーン系化合物)、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素等の無機材料、及びホウケイ酸塩、ホスホケイ酸塩、アルカリケイ酸塩等のガラス材料を挙げることができる。中でも、透明性、接着性、ハンドリングの容易さ、機械的、熱的応力の緩和特性に優れる等の点から、シリコーン系材料が好ましい。
【0040】
シリコーン系材料とは、通常、シロキサン結合を主鎖とする有機重合体をいい、例えば、縮合型、付加型、改良ゾルゲル型、光硬化型等のシリコーン系材料を用いることができ
る。
縮合型シリコーン系材料としては、例えば、特開2007−112973〜112975号公報、特開2007−19459号公報、特開2008−34833号公報等に記載の半導体発光デバイス用部材を用いることができる。縮合型シリコーン系材料は半導体発光デバイスに用いられるパッケージや電極、発光素子などの部材との接着性に優れるため、密着向上成分の添加を最低限とすることが出来、架橋はシロキサン結合主体のため耐熱性・耐光性に優れる利点がある。
【0041】
付加型シリコーン系材料としては、例えば、特開2004−186168号公報、特開2004−221308号公報、特開2005−327777号公報等に記載のポッティング用シリコーン材料、特開2003−183881号公報、特開2006−206919号公報等に記載のポッティング用有機変性シリコーン材料、特開2006−324596号公報に記載の射出成型用シリコーン材料、特開2007−231173号公報に記載のトランスファー成型用シリコーン材料等を好適に用いることができる。付加型シリコーン材料は、硬化速度や硬化物の硬度などの選択の自由度が高い、硬化時に脱離する成分が無く硬化収縮しにくい、深部硬化性に優れるなどの利点がある。
【0042】
また、縮合型の一つである改良ゾルゲル型シリコーン系材料としては、例えば、特開2006−077234号公報、特開2006−291018号公報、特開2007−119569号公報等に記載のシリコーン材料を好適に用いることができる。改良ゾルゲル型のシリコーン材料は高架橋度で耐熱性・耐光性高く耐久性に優れ、ガス透過性低く耐湿性の低い蛍光体の保護機能にも優れる利点がある。
【0043】
光硬化型シリコーン系材料としては、例えば特開2007−131812号公報、特開2007−214543号公報等に記載のシリコーン材料を好適に用いることが出来る。紫外硬化方シリコーン材料は、短時間に硬化するため生産性に優れる、硬化に高い温度をかける必要が無く発光素子の劣化が起こりにくいなどの利点がある。
これらのシリコーン系材料は単独で使用してもよいし、混合することにより硬化阻害が起きなければ複数のシリコーン系材料を混合して用いてもよい。
【0044】
[4−3.液体媒体及び蛍光体の含有率]
液体媒体の含有率は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明の蛍光体含有組成物全体に対して、通常25重量%以上、好ましくは40重量%以上であり、また、通常99重量%以下、好ましくは95重量%以下、より好ましくは80重量%以下である。液体媒体の量が多い場合には特段の問題は起こらないが、半導体発光装置とした場合に所望の色度座標、演色指数、発光効率等を得るには、通常、上記のような配合比率で液体媒体を用いることが望ましい。一方、液体媒体が少な過ぎると流動性が低下し取り扱い難くなる可能性がある。
【0045】
液体媒体は、本発明の蛍光体含有組成物において、主にバインダーとしての役割を有する。液体媒体は、一種を単独で用いてもよいが、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。例えば、耐熱性や耐光性等を向上させることを目的として珪素含有化合物を使用する場合は、当該珪素含有化合物の耐久性を損なわない程度に、エポキシ樹脂など他の熱硬化性樹脂を含有してもよい。この場合、他の熱硬化性樹脂の含有量は、バインダーである液体媒体全量に対して通常25重量%以下、好ましくは10重量%以下とすることが望ましい。
【0046】
蛍光体含有組成物中の蛍光体の含有率は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明の蛍光体含有組成物全体に対して、通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上、より好ましくは20重量%以上であり、通常75重量%以下、好ましくは60重
量%以下である。また、蛍光体含有組成物中の蛍光体に占める本発明の蛍光体の割合についても任意であるが、通常30重量%以上、好ましくは50重量%以上であり、通常100重量%以下である。蛍光体含有組成物中の蛍光体含有量が多過ぎると蛍光体含有組成物の流動性が劣り、取り扱いにくくなることがあり、蛍光体含有量が少な過ぎると発光装置の発光の効率が低下する傾向にある。
【0047】
[4−4.その他の成分]
蛍光体含有組成物には、本発明の効果を著しく損なわない限り、蛍光体及び液体媒体以外に、その他の成分、例えば、屈折率調整のための金属酸化物や、拡散剤、フィラー、粘度調整剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含有させても良い。その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0048】
[5.発光装置]
本発明の発光装置(以下、適宜「発光装置」という)は、第1の発光体(励起光源)と、当該第1の発光体からの光を可視光に変換して、可視光を発し得る第2の発光体とを有する発光装置であって、該第2の発光体として前述の[1.蛍光体]の項で記載した本発明の蛍光体を1種以上含む第1の蛍光体を含有するものである。
【0049】
本発明の発光装置に用いられる本発明の蛍光体の好ましい具体例としては、前述の[1.蛍光体]の欄に記載した本発明の蛍光体や、後述の[実施例]の欄の各実施例に用いた蛍光体が挙げられる。また、本発明の蛍光体は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
本発明の発光装置は、第1の発光体(励起光源)を有し、且つ、第2の発光体として少なくとも本発明の蛍光体を使用している他は、その構成は制限されず、公知の装置構成を任意にとることが可能である。装置構成の具体例については後述する。
【0050】
本発明の発光装置のうち、特に白色発光装置として、具体的には、第1の発光体として後述するような励起光源を用い、本発明の蛍光体の他、後述するような青色の蛍光を発する蛍光体(以下、適宜「青色蛍光体」という)、緑色の蛍光を発する蛍光体(以下、適宜「緑色蛍光体」という)、赤色の蛍光を発する蛍光体(以下、適宜「赤色蛍光体」という)、黄色の蛍光を発する蛍光体(以下、適宜「黄色蛍光体」という)等の公知の蛍光体を任意に組み合わせて使用し、公知の装置構成をとることにより得られる。
ここで、該白色発光装置の白色とは、JIS Z 8701により規定された、(黄みの)白、(緑みの)白、(青みの)白、(紫みの)白及び白の全てを含む意であり、このうち好ましくは白である。
【0051】
[5−1.発光装置の構成]
<5−1−1.第1の発光体>
本発明の発光装置における第1の発光体は、後述する第2の発光体を励起する光を発光するものである。
第1の発光体の発光ピーク波長は、後述する第2の発光体の吸収波長と重複するものであれば、特に制限されず、幅広い発光波長領域の発光体を使用することができる。通常は、紫外領域から青色領域までの発光波長を有する発光体が使用される。
第1の発光体の発光ピーク波長の具体的数値としては、通常200nm以上が望ましい。このうち、青色光を励起光として用いる場合には、通常420nm以上、好ましくは430nm以上、より好ましくは440nm以上、また、通常480nm以下、好ましくは470nm以下、より好ましくは460nm以下の発光ピーク波長を有する発光体を使用することが望ましい。一方、紫外光を励起光として用いる場合には、通常300nm以上、好ましくは330nm以上、より好ましくは360nm以上、また、通常420nm以下、好ましくは410nm以下、より好ましくは400nm以下の発光ピーク波長を有す
る発光体を使用することが望ましい。
【0052】
第1の発光体としては、一般的には半導体発光素子が用いられ、具体的には発光ダイオード(LED)やレーザーダイオード(LD)等が使用できる。その他、第1の発光体として使用できる発光体としては、例えば、有機エレクトロルミネッセンス発光素子、無機エレクトロルミネッセンス発光素子等が挙げられる。但し、第1の発光体として使用できるものは本明細書に例示されるものに限られない。
【0053】
中でも、第1の発光体としては、GaN系化合物半導体を使用したGaN系LEDやLDが好ましい。なぜなら、GaN系LEDやLDは、この領域の光を発するSiC系LED等に比し、発光出力や外部量子効率が格段に大きく、前記蛍光体と組み合わせることによって、低電力で非常に明るい発光が得られるからである。例えば、20mAの電流負荷に対し、通常GaN系LEDやLDはSiC系の100倍以上の発光強度を有する。GaN系LEDやLDとしては、AlGaN発光層、GaN発光層又はInGaN発光層を有しているものが好ましい。中でも、発光強度が非常に高いことから、GaN系LEDとしては、InGaN発光層を有するものが特に好ましく、InGaN層とGaN層との多重量子井戸構造のものがさらに好ましい。
【0054】
なお、上記においてX+Yの値は通常0.8〜1.2の範囲の値である。GaN系LEDにおいて、これら発光層にZnやSiをドープしたものやドーパント無しのものが発光特性を調節する上で好ましいものである。
GaN系LEDはこれら発光層、p層、n層、電極、及び基板を基本構成要素としたものであり、発光層をn型とp型のAlGaN層、GaN層、又はInGaN層などでサンドイッチにしたヘテロ構造を有しているものが、発光効率が高くて好ましく、更にヘテロ構造を量子井戸構造にしたものが、発光効率が更に高いため、より好ましい。
なお、第1の発光体は、1個のみを用いてもよく、2個以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0055】
<5−1−2.第2の発光体>
本発明の発光装置における第2の発光体は、上述した第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する発光体であり、第1の蛍光体として本発明の蛍光体を1種以上含有するとともに、その用途等に応じて適宜、後述する第2の蛍光体(青色蛍光体、緑色蛍光体、黄色蛍光体、橙色蛍光体、赤色蛍光体等)を含有する。また、例えば、第2の発光体は、第1及び第2の蛍光体を封止材料中に分散させて構成される。
【0056】
上記第2の発光体中に用いられる、本発明の蛍光体以外の蛍光体(即ち、第2の蛍光体)の組成には特に制限はないが、母体結晶となる、Y、YVO、ZnSiO、Yl512、SrSiO等に代表される金属酸化物、SrSi等に代表される金属窒化物、Ca(POCl等に代表されるリン酸塩及びZnS、SrS、CaS等に代表される硫化物、YS、LaS等に代表される酸硫化物等にCe、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb等の希土類金属のイオンやAg、Cu、Au、Al、Mn、Sb等の金属のイオンを付活元素又は共付活元素として組み合わせたものが挙げられる。
下表に、好ましい結晶母体の具体例を示す。
【0057】
【表1】

【0058】
但し、上記の母体結晶及び付活元素又は共付活元素は、元素組成には特に制限はなく、同族の元素と一部置き換えることもでき、得られた蛍光体は近紫外から可視領域の光を吸収して可視光を発するものであれば用いることが可能である。
具体的には、蛍光体として以下に挙げるものを用いることが可能であるが、これらはあくまでも例示であり、本発明で使用できる蛍光体はこれらに限られるものではない。なお、以下の例示では、前述の通り、構造の一部のみが異なる蛍光体を、適宜省略して示している。
【0059】
<5−1−2−1.第1の蛍光体>
本発明の発光装置における第2の発光体は、少なくとも上述の本発明の蛍光体を含む第1の蛍光体を含有する。本発明の蛍光体は、何れか1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよく、所望の発光色となるよう、本発明の蛍光体の組成を適宜調整すればよい。
【0060】
<5−1−2−2.第2の蛍光体>
本発明の発光装置における第2の発光体は、その用途に応じて、上述の第1の蛍光体以外にも蛍光体(即ち、第2の蛍光体)を含有していてもよい。通常、これらの第2の蛍光体は、第2の発光体の発光の色調を調節するために使用されるため、第2の蛍光体としては第1の蛍光体とは異なる色の蛍光を発する蛍光体を使用することが多い。例えば、第1の蛍光体として緑色蛍光体を使用する場合、第2の蛍光体としては、青色蛍光体、赤色蛍光体、黄色蛍光体等の緑色蛍光体以外の蛍光体を用いるとよい。但し、第1の蛍光体と同色の蛍光体を第2の蛍光体として用いることも可能である。
【0061】
本発明の発光装置に使用される第2の蛍光体の重量メジアン径D50は、通常2μm以上、中でも5μm以上、また、通常30μm以下、中でも20μm以下の範囲であることが好ましい。重量メジアン径D50が小さ過ぎると、輝度が低下し、蛍光体粒子が凝集してしまう傾向がある。一方、重量メジアン径が大き過ぎると、塗布ムラやディスペンサー等の閉塞が生じる傾向がある。
【0062】
<青色蛍光体>
本発明の蛍光体に加えて青色蛍光体を使用する場合、当該青色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。この際、青色蛍光体の発光ピーク波長は、通常420nm以上、好ましくは430nm以上、より好ましくは440nm以上、また、通常490nm以下、好ましくは480nm以下、より好ましくは470nm以下、更に好ましくは460nm以下の波長範囲にあることが好適である。使用する
青色蛍光体の発光ピーク波長がこの範囲にあると、本発明の蛍光体の励起帯と重なり、当該青色蛍光体からの青色光により、本発明の蛍光体を効率良く励起することができるからである。このような青色蛍光体として使用できる蛍光体を下表に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
以上の中でも、青色蛍光体としては、(Ca,Sr,Ba)MgAl1017:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO(Cl,F):Eu、(Ba,Ca,Mg,Sr)SiO:Eu、(Ba,Ca,Sr)MgSiO8:Euが好ましく、(Ba,Sr)MgAl1017:Eu、(Ca,Sr,Ba)10(PO(Cl,F):Eu、BaMgSi:Euがより好ましく、Sr10(POCl:Eu、BaMgAl1017:Euが特に好ましい。
【0065】
<緑色蛍光体>
本発明の蛍光体に加えて緑色蛍光体を使用する場合、当該緑色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。この際、緑色蛍光体の発光ピーク波長は、通常500nmより大きく、中でも510nm以上、更には515nm以上、また、通常550nm以下、中でも542nm以下、更には535nm以下の範囲であることが好ましい。この発光ピーク波長が短過ぎると青味を帯びる傾向がある一方で、長過ぎると黄味を帯びる傾向があり、何れも緑色光としての特性が低下する場合がある。このような緑色蛍光体として利用できる蛍光体を下表に示す。
【0066】
【表3】

【0067】
以上の中でも、緑色蛍光体としては、Y(Al,Ga)12:Tb、CaSc:Ce、Ca(Sc,Mg)Si12:Ce、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Si,Al)(O,N):Eu(β−sialon)、(Ba,Sr)Si12:N:Eu、SrGa:Eu、BaMgAl1017:Eu,Mnが好ましい。
【0068】
得られる発光装置を照明装置に用いる場合には、Y(Al,Ga)12:Tb、CaSc:CeCa(Sc,Mg)Si12:Ce、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Si,Al)(O,N):Eu(β−sialon)、(Ba,Sr)Si12:Euが好ましい。
また、得られる発光装置を画像表示装置に用いる場合には、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Si,Al)(O,N):Eu(β−sialon)、(Ba,Sr)Si12:Eu、SrGa:Eu、BaMgAl1017:Eu,Mnが好ましい。
【0069】
<黄色蛍光体>
本発明の蛍光体に加えて黄色蛍光体を使用する場合、当該黄色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。この際、黄色蛍光体の発光ピーク波長は、通常530nm以上、好ましくは540nm以上、より好ましくは550nm以上、また、通常620nm以下、好ましくは600nm以下、より好ましくは580nm以下の波長範囲にあることが好適である。このような黄色蛍光体として利用できる蛍光体を下表に示す。
【0070】
【表4】

【0071】
以上の中でも、黄色蛍光体としては、YAl12:Ce、(Y,Gd)l512:Ce、(Sr,Ca,Ba,Mg)SiO:Eu、(Ca,Sr)Si:Euが好ましい。
<橙色ないし赤色蛍光体>
本発明の蛍光体に加えて橙色ないし赤色蛍光体を使用する場合、当該橙色ないし赤色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。この際、橙色ないし赤色蛍光体の発光ピーク波長は、通常570nm以上、好ましくは580nm以上、より好ましくは585nm以上、また、通常780nm以下、好ましくは700nm以下、より好ましくは680nm以下の波長範囲にあることが好適である。このような橙色ないし赤色蛍光体として使用できる蛍光体を下表に示す。
【0072】
【表5】

【0073】
以上の中でも、赤色蛍光体としては、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O):Eu、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Ca,Sr)S:Eu、(La,Y)S:Eu、Eu(ジベンゾイルメタン)3・1,10−フェナントロリン錯体等のβ−ジケトン系Eu錯体、カルボン酸系Eu錯体、KSiF:Mnが好ましく、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Sr,Ca)AlSi(N,O):Eu、(La,Y)S:Eu、KSiF:Mnがより好ましい。
また、橙色蛍光体としては、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)
AlSi(N,O):Ceが好ましい。
【0074】
[6.発光装置の実施形態]
[6−1.発光装置の実施形態]
以下、本発明の発光装置について、具体的な実施の形態を挙げて、より詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
本発明の発光装置の一例における、励起光源となる第1の発光体と、蛍光体を有する蛍光体含有部として構成された第2の発光体との位置関係を示す模式的斜視図を図1に示す。図1中の符号1は蛍光体含有部(第2の発光体)、符号2は励起光源(第1の発光体)としての面発光型GaN系LD、符号3は基板を表す。相互に接触した状態をつくるために、LD2と蛍光体含有部1(第2の発光体)とそれぞれ別個に作製し、それらの面同士を接着剤やその他の手段によって接触させてもよいし、LD2の発光面上に蛍光体含有部1(第2の発光体)を製膜(成型)させてもよい。これらの結果、LD2と蛍光体含有部1(第2の発光体)とを接触した状態とすることができる。
【0075】
このような装置構成をとった場合には、励起光源(第1の発光体)からの光が蛍光体含有部(第2の発光体)の膜面で反射されて外にしみ出るという光量損失を避けることができるので、装置全体の発光効率を良くすることができる。
図2(a)は、一般的に砲弾型と言われる形態の発光装置の代表例であり、励起光源(第1の発光体)と蛍光体含有部(第2の発光体)とを有する発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。該発光装置4において、符号5はマウントリード、符号6はインナーリード、符号7は励起光源(第1の発光体)、符号8は蛍光体含有部、符号9は導電性ワイヤ、符号10はモールド部材をそれぞれ指す。
【0076】
また、図2(b)は、表面実装型と言われる形態の発光装置の代表例であり、励起光源(第1の発光体)と蛍光体含有部(第2の発光体)とを有する発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。図中、符号22は励起光源(第1の発光体)、符号23は蛍光体含有部(第2の発光体)、符号24はフレーム、符号25は導電性ワイヤ、符号26及び符号27は電極をそれぞれ指す。
【0077】
[6−2.発光装置の用途]
本発明の発光装置の用途は特に制限されず、通常の発光装置が用いられる各種の分野に使用することが可能であるが、演色性が高い、及び色再現範囲が広いことから、中でも照明装置や画像表示装置の光源として、とりわけ好適に用いられる。
<6−2−1.照明装置>
本発明の発光装置を照明装置に適用する場合には、前述のような発光装置を公知の照明装置に適宜組み込んで用いればよい。例えば、図3に示されるような、前述の発光装置4を組み込んだ面発光照明装置11を挙げることができる。
【0078】
図3は、本発明の照明装置の一実施形態を模式的に示す断面図である。この図3に示すように、該面発光照明装置は、内面を白色の平滑面等の光不透過性とした方形の保持ケース12の底面に、多数の発光装置13(前述の発光装置4に相当)を、その外側に発光装置13の駆動のための電源及び回路等(図示せず。)を設けて配置し、保持ケース12の蓋部に相当する箇所に、乳白色としたアクリル板等の拡散板14を発光の均一化のために固定してなる。
【0079】
そして、面発光照明装置11を駆動して、発光装置13の励起光源(第1の発光体)に電圧を印加することにより光を発光させ、その発光の一部を、蛍光体含有部(第2の発光体)としての蛍光体含有樹脂部における前記蛍光体が吸収し、可視光を発光し、一方、蛍
光体に吸収されなかった青色光等との混色により演色性の高い発光が得られ、この光が拡散板14を透過して、図面上方に出射され、保持ケース12の拡散板14面内において均一な明るさの照明光が得られることとなる。
【0080】
<6−2−2.画像表示装置>
本発明の発光装置を画像表示装置の光源として用いる場合には、その画像表示装置の具体的構成に制限は無いが、カラーフィルターとともに用いることが好ましい。例えば、画像表示装置として、カラー液晶表示素子を利用したカラー画像表示装置とする場合は、上記発光装置をバックライトとし、液晶を利用した光シャッターと赤、緑、青の画素を有するカラーフィルターとを組み合わせることにより画像表示装置を形成することができる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
[使用した蛍光体原料]蛍光体原料として、以下を使用し、後述する方法にて各実施例および比較例の蛍光体を製造した。
LaN(株式会社高純度化学研究所社製)
La金属(株式会社レアメタリック社製、粉末 250μm)
CeF(株式会社高純度化学研究所社製、99.9%、powder)
SiC(株式会社高純度化学研究所社製、99%up、whisker powder)Si(宇部興産株式会社社製 SE−10、Lot No. A96525)
【0082】
[比較例1]
窒素ガスで満たされたグローボックス内で、蛍光体原料として、LaNを1.17g、CeFを0.096g、Siを0.57g、およびSiCを0.16g、それぞれ秤量した。これらをアルミナ乳鉢にて粉砕、および混合し、蛍光体原料混合物を得た。得られた蛍光体原料混合物を、窒化ホウ素製(BN)坩堝(電気化学株式会社)に充填し、窒素分圧1MPaの条件下で、1600℃で2時間、さらに1800℃で2時間焼成し、その後、放冷した。
得られた焼成物を、アルミナ乳鉢を用いて粉砕し、蛍光体を製造した。
【0083】
[実施例1]
比較例1において、蛍光体原料混合物を焼成する際の窒素分圧を0.5MPaとしたこと以外は、比較例1と同一の条件で蛍光体を製造した。
[実施例2]
比較例1において、坩堝をBN坩堝からカーボン製坩堝(東海ファインカーボンマシニング株式会社製)に変更したこと、および蛍光体原料混合物を焼成する際の窒素分圧を0.5MPaとしたこと以外は、比較例1と同一の条件で蛍光体を製造した。
【0084】
[実施例3]
実施例2において、蛍光体原料として、La金属を1.18g、CeFを0.017g、およびSiを0.80g秤量し、用いたこと以外は、実施例2と同一の条件で蛍光体を製造した。
[得られた蛍光体の評価]
次いで、得られた蛍光体の評価を行った。
(粉末X線回折)
比較例1、および実施例1〜3で得られた蛍光体について、粉末X線回折を行った。得られた粉末X線回折パターンを図4に示す。
【0085】
図4から、1MPaの窒素分圧下で焼成した比較例1のパターンは、LaSi
:CeとLaSi:Ceの回折パターンで主に構成されていることがわかる。LaSiCは、ごく僅かにしか存在しない。
一方、0.5MPaの窒素分圧下で焼成した実施例1〜3では、LaSiC:Ceが主相として生成していることがわかる(図4)。
【0086】
以上の結果から、焼成工程において、窒素分圧を高くすると窒化物が生成し易く、窒素分圧を低くすると炭窒化物が生成し易い傾向にあると考えられる。従って、炭窒化物系蛍光体の製造方法においては、窒素分圧の制御が非常に重要である。
窒素分圧を低くし過ぎると、炭窒化物中の窒素が抜けて炭窒化物を着色してしまうものと推測されるので、より高特性の炭窒化物系蛍光体を得ることができる窒素分圧としては、1500℃以上、2000℃以下の温度範囲における焼成において、0.1MPa以上、1MPa未満であると考えられる。
【0087】
また、実施例1〜3の中でも、BN坩堝を使用した実施例1と比較して、カーボン製坩堝を使用した実施例2および3は、LaSi11:Ceの副生はごく僅かであった。炭窒化物が生成していく過程でSiC以外のC源としてカーボン製坩堝が使用されたものと考えられる。これらの結果から、使用する坩堝としては、カーボン製坩堝が好ましいことがわかる。
【0088】
(組成)
HORIBA製エネルギー分散型X線分析装置(EMAX X−act)を用いて元素分析を行ったところ、比較例1、および実施例1〜3で得られた蛍光体の組成は、仕込み組成とほぼ一致した。
(SEM写真)
実施例2で得られた蛍光体の単結晶の電子顕微鏡写真を図5に示す。
【0089】
なお、電子顕微鏡としては、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製S3400を用いて、印加電圧15.0kVで測定を行った。
(励起スペクトル、および発光スペクトル)
実施例2で得られた蛍光体の励起スペクトル、および発光スペクトルを図6に示す。なお、発光スペクトル、および励起スペクトルは、室温(25℃)において、日立製作所製蛍光分光光度計F−4500を用いて測定したものである。
【0090】
励起スペクトルのピークEXmaxは、357nmであり、発光スペクトルのピークEMmaxは、439nmであった。また、発光スペクトルの半値幅は77nmであった。励起スペクトル、および発光スペクトルは、ともにCe3+のf−d遷移として帰属した。よって、実施例1〜3で得られた蛍光体は、水銀放電、紫外LED等の紫外線照射下において紫色発光示すことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の製造方法により製造された蛍光体は、光を用いる任意の分野において用いることができ、例えば屋内及び屋外用の照明などのほか、携帯電話、家庭用電化製品、屋外設置用ディスプレイ等の各種電子機器の画像表示装置などに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0092】
1 蛍光体含有部(第2の発光体)
2 励起光源(第1の発光体)(LD)
3 基板
4 発光装置
5 マウントリード
6 インナーリード
7 励起光源(第1の発光体)
8 蛍光体含有部
9 導電性ワイヤ
10 モールド部材
11 面発光照明装置
12 保持ケース
13 発光装置
14 拡散板
22 励起光源(第1の発光体)
23 蛍光体含有部(第2の発光体)
24 フレーム
25 導電性ワイヤ
26 電極
27 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
La、Si、N、C、およびCeを含有し、かつ、390nm以上、490nm以下の波長範囲に発光ピークを有する
ことを特徴とする、蛍光体。
【請求項2】
以下の式[1]で表される組成を有する
ことを特徴とする、請求項1に記載の蛍光体。
Siz:Cev ・・・ [1]
(但し、前記式[1]において、Aは、Laを必須とする希土類金属元素を表す。また、w、x、y、z、およびvは、それぞれ以下の範囲の数を表す。
1.6≦w≦2.4
3.6≦x≦4.4
5.6≦y≦6.4
0.6≦z≦1.4
0<v≦0.2)
【請求項3】
蛍光体原料を、以下の式[2]で表される組成となるように仕込むことで蛍光体原料混合物を調製し、
該蛍光体原料混合物を焼成する工程(焼成工程)を有する
ことを特徴とする、請求項1、または請求項2に記載の蛍光体の製造方法。
Siz:Cev ・・・ [2]
(但し、前記式[2]において、Aは、Laを必須とする希土類金属元素を表す。また、w、x、y、z及びvは、それぞれ以下の範囲の数を表す。
1.6≦w≦2.4
3.6≦x≦4.4
5.6≦y≦6.4
0.6≦z≦1.4
0<v≦0.2)
【請求項4】
前記焼成工程において、
焼成雰囲気を窒素含有雰囲気とし、かつ、炉内の窒素分圧が0.1MPa以上、1MPa未満である条件下で蛍光体原料混合物を焼成する
ことを特徴とする、請求項3に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項5】
炭窒化物系蛍光体の製造方法であって、
蛍光体原料混合物を調製し、該蛍光体原料混合物を焼成する工程(焼成工程)を有し、該焼成工程において、焼成雰囲気を窒素含有雰囲気とし、かつ、
炉内の窒素分圧が0.1MPa以上、1MPa未満である条件下で蛍光体原料混合物を焼成する
ことを特徴とする、炭窒化物系蛍光体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−77208(P2012−77208A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224073(P2010−224073)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】