説明

炭素化物、炭素化物の製造方法、有害金属の除去方法、及び有害金属の回収方法。

【課題】木材系廃棄物の炭化物中に残留する可能性の高い有害物質を簡単な方法で除去し、回収できる炭素化物,その製造方法、有害金属の除去方法及び有害金属の回収方法方法を提供する。
【解決手段】 木質系材料が熱処理によって炭素化され、電有害金属を1000ppm以上含有し、電気抵抗率が50Ω・cm以下である炭素化物。この炭素化物を有害金属を含有する木質系材料を550℃〜1500℃の温度で熱処理する。有害金属の除去方法は、炭素化物からなる陽極12と、陰極14との間に電解質20が介在し、両電極間に直流電圧を印加して炭素化物から有害金属を除去し、陰極14に析出した有害金属を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素化物、炭素化物の製造方法、有害金属の除去方法、及び有害金属の回収方法に関し、詳しくは有害金属を含む木質系材料、特に有害金属を含む木質系廃木から製造される炭素化物、この炭素化物の製造方法、この炭素化物から有害金属を簡便に効率良く除去する方法、この除去された有害金属を簡便に効率良く回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
持続可能な社会を構築するためには、様々なタイプの廃棄物を再生し、その利用法を拡大するなどの廃棄物の資源化を図ることが重要である。また、再生(リサイクル製)品を安心して長期間利用するためには使用者の安全を確保することも重要である。特に、様々な建設廃材の中でも再利用や再生利用があまり進んでいない木材系廃棄物の利用法を拡大することが重要である。
【0003】
再生品の安全性確保に関しては、それらに含まれるか又はその可能性の高い有害物質を除去する技術が要望されている。Cr、Cu、As等の含む薬品による処理(以下、単にCCA処理)木材のように有害物質を含む木材系廃棄物の炭素化においては、炭素化時に生成する変異原生物質のような除去効果が期待できず、炭素化物中に残留する。
【0004】
従来、CCA処理木質系廃木材から、クロム(Cr)、銅(Cu)、ヒ素(As)などの有害金属を除去するために焼却処理や溶液溶出処理を行う方法が行われてきた。
この方法においては、焼却処理では、木質系廃棄物の焼却灰も溶融スラグ中に有害金属の多くが酸化物、炭酸塩などとして残留するため、有害金属は他のシリカ成分などとも混合物として回収する。また、溶液溶出処理では、木質系廃木材を直接、pHを調整した溶液に浸漬して、有害金属を溶出回収する。また、木質系廃木材を炭化後、pHを調整した溶液に浸漬して、有害金属を溶出回収する。
【0005】
しかし、上記した焼却処理では、飛灰として電気集塵機に捕捉されるが、一部は飛散したり、蒸気圧が高い化合物が生成した場合には電気集塵機に捕捉されることなく、大気中に放出される。溶液溶出処理においては木材や炭素化物に吸着している重金属の一部は溶出せずに残留する。
【0006】
したがって、この方法は、重金属を含有する木質系廃木材から製造した炭素化物から重金属の回収率が低い。
また、汚泥を炭化して得られる炭化物に酸を加えて処理溶液を調整し、次いで該処理液にアルカリ金属の水酸化物等を加えてpHを4〜5に調整し、その後、処理液にアルカリ金属の水酸化物等を加えてpHを9〜10に調整して炭化物からリン、アルミニウム、重金属を除去回収する方法が提案されている。(特許文献1参照)
しかし、この方法では、処理工程が多く煩雑な上、金属類の除去効率が十分ではない。
【特許文献1】特開2002−1259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、有害金属を含む木質系材料、特に有害金属を含む木質系廃木から有害金属を簡便に効率良く除去し、さらに有害金属を回収する方法と、この方法に適用されるのに好適な炭素化物とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために以下の構成からなる。
(1)有害金属を含有する木質系材料が熱処理して炭素化され、有害金属を10ppm以上含有し、電気抵抗率が50Ω・cm以下であることを特徴とする炭素化物である。
(2)前記有害金属が、Cr、Cu、As、Pb、Sn及びCdの少なくとも1種以上であることを特徴とする(1)に記載の炭素化物である。
(3)有害金属を含有する木質系材料を熱処理して炭素化し、有害金属を10ppm以上含有し、電気抵抗率が50Ω・cm以下である炭素化物を製造することを特徴とする炭素化物の製造方法である。
(4)前記熱処理が、550℃〜1500℃の温度で熱処理することを特徴とする(3)に記載の炭素化物の製造方法である。
(5)前記熱処理が、600℃〜1000℃の温度で熱処理することを特徴とする(4)に記載の炭素化物の製造方法である。
(6)前記(1)または(2)に記載の炭素化物からなる陽極と、陰極との間に電解質が介在させ、両電極間に直流電圧を印加して前記炭素化物から有害金属を除去することを特徴とする有害金属の除去方法である。
(7)前記(6)の方法で炭素化物から除去された有害金属を回収することを特徴とする有害金属の回収方法である。
(8)前記(6)の方法で炭素化物から除去され、陰極上に析出した有害金属を掻き取り回収することを特徴とする(7)に記載の有害金属の回収方法である。
【発明の効果】
【0009】
有害金属を含む木質系材料、特に有害金属を含む木質系廃木から有害金属を簡便に効率的に除去することができ、さらに有害金属を簡便に効率的に回収することができる。また、有害金属を含む木質系材料、特に有害金属を含む木質系廃木から前記有害金属の除去方法、さらに前記有害金属の回収方法に適用するのに好適な炭素化物とその方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<炭素化物>
本発明の炭素化物は、有害金属を含有する木質系材料が熱処理して炭素化され、有害金属を10ppm以上含有し、電気抵抗率が50Ω・cm以下である。
本発明において、木質系材料としては、例えば、銅を含む防腐剤で処理された木材、
ヒ素、銅、クロムを含む保存剤で処理された木材、重金属類を含む塗装剤で処理された木材、重金属類を含む防蟻剤で処理された木材、汚染地で生育し重金属類を蓄積した木材及び竹類やこれらの廃棄物が挙げられる。
【0011】
これらの木質系材料は、有害金属が含有されており、熱処理して得られる炭素化物中にそのまま残留する。したがって、木質系材料中の有害金属の含有量が熱処理して得られる炭素化物中の有害金属の含有量と相関し、木質系材料中の有害金属の含有量が多いと、熱処理して得られる炭素化物中の有害金属量も多くなる。
【0012】
本発明において、有害金属を含有する木質系材料を熱処理して得られる炭素化物中の有害金属の含有量は、10ppm以上、好ましくは100ppm以上、さらに好ましくは1000ppm以上である。有害金属の含有量が多い程、木質系材料、特に木質系廃棄物の再利用や再生利用において、有害金属による弊害が大きい。
本発明はこれらの木質系材料を熱処理して得られる炭素化物であり、この炭素化物中における有害金属の含有量が100ppm以上のものに特に有効である。
【0013】
有害金属には、特に制約はないが、木材の防腐処理、保存剤処理、塗装処理、防蟻剤処理、及び重金属類の蓄積等の点からみて、好ましくは、クロム(Cr)、銅(Cu)、ヒ素(As)、鉛(Pb)、すず(Sn)及びカドミウム(Cd)、の少なくとも1種以上が挙げられる。
【0014】
また、本発明の炭素化物は、電気抵抗率が50Ω・cm以下であり、好ましくは、20Ω・cm以下、さらに好ましくは5Ω・cm以下である。炭素化物の電気抵抗率が50Ω・cmを超えると、後記する有害金属の除去方法、回収方法における有害金属の除去効果が十分達成されず、好ましくない。
なお、本発明における電気伝導度は、下記の方法で測定した値を意味する。
銅ペーストにより電流を流すための電極と電圧を測定するための電極を形成し、4端子法により電気抵抗率を求めた。
【0015】
<炭素化物の製造方法>
本発明の炭素化物の製造方法は、前記した木質系材料を550℃〜1500℃の温度で熱処理することを特徴とする。熱処理時間によって、熱処理温度の設定温度は異なるが、概ね1時間〜2時間程度を想定すると、550℃〜1500℃の温度が適切である。熱処理温度が550℃未満の場合、熱処理によって得られる炭素化物の電気抵抗率が50Ω・cm以下、好ましくは20Ω・cm以下とすることが難しく、したがって、後記する有害金属の除去方法、回収方法における有害金属の除去効果が十分達成されない。ただし、1500℃を超えても電気伝導度を然程上がることがなく経済性を考慮すると実用的ではない。
【0016】
<有害金属の除去方法>
本発明における有害金属の除去方法は、炭素化物からなる陽極と、陰極との間に電解質が介在させ、両電極間に直流電圧を印加して前記炭素化物から有害金属を除去することを特徴とする。
陽極は、木質系材料が熱処理して炭素化され、有害金属を10ppm以上含有し、電気抵抗率が50Ω・cm以下、好ましくは、20Ω・cm以下、さらに好ましくは5Ω・cm以下である炭素化物である。陰極は、回収する金属(有害金属)よりもイオン化傾向が小さく、電解質溶液に溶出しにくい金属及び炭素が使用可能であるが、好ましくは白金、金、黒鉛(グラファイト)である。また、電解質は硫酸、硫酸塩、塩酸塩、アルカリ溶液等が使用可能であるが、特に希硫酸が好適である。
【0017】
図1は、本発明の有害金属の除去方法の好ましい一実施の形態を示す概念図であって、10は電解槽、12は炭素化物からなる陽極(アノード)、14は陰極、16は電圧計、18は電流計、20は電解質溶液をそれぞれ示している。図1において、電圧を印加すると、炭素化物中に含有される有害金属は、電解質溶液20中に溶出し、陰極14の表面に析出する。炭素化物中から効率的に有害金属を除去させるためには、印加される電圧は0.1V〜100Vが好ましく、より好ましく1V〜10Vである。
【0018】
<有害金属の回収方法>
陰極14の表面に析出した有害金属は、任意の手段で陰極14の表面から回収される。好ましい回収手段としては、例えば、陰極の14の表面を物理的に掻き取る方法、少量の酸(例えば、硝酸など)に溶解する方法等が挙げられる。
【0019】
なお、有害金属が除去された炭素化物は、種々の用途に用いられる。例えば、有害金属が除去された炭素化物は、有害金属が除去されて安全であると共にその比表面積が大きくなるため、吸着剤、土壌改良剤、融雪剤、安全な燃料等に用いることができる。特に電解質として希硫酸を用いた場合、比表面積が大きくなるた用途に極めて適している。
【実施例】
【0020】
(試料)
銅(銅−第4級アンモニウム化合物系)を含む防腐剤を高圧で含浸したと考えられる市販品のACQ材を購入して使用した。その木材(緑青がかった色調の製品)を、色調で木材深部への浸透状況を目視確認しながら1cm幅木材(焼100mm×10mm×60mm)、約3gを作製した炭素化に供した。なお、炭素化物の電気抵抗測定には、茨城県産ヒノキを乾燥し、1cm幅で板状にして炭化したものを用いた。
【0021】
(炭化試験)
木炭作製は、(環境化学 13(3)781−787P、2003)に準じた。すなわち、銅含有木材を磁性るつぼに入れ、マッフル炉(FO100、Yamato)を使用して窒素雰囲気中で温度800℃でその温度を1時間保持し、炭素化した。なお、ヒノキの場合も同様に前記公報と同様に200℃、300℃、400℃、600℃、800℃及び1000℃で1時間保つことによって炭素化し、これを電気抵抗測定に用いた。炭素化して得られたそれぞれの棒状の木炭を銅除去回収試験までデシケータ中に保存した。
【0022】
(銅除去回収試験)
銅除去回収試験には、図1に示す装置を用いた。アノード(陽極)には上記木炭(棒状)をセットし、カソード(陰極)には、白金板を用いた。直流電源には高砂製作所(株)のLX010−35Bを用い、それぞれ設定した電圧で作動させた。ビーカー内にの試験溶液には、0.5mol/Lの希硫酸を200mLを用いた。
【0023】
(白金板上の銅の定量)
銅除去回収試験終了後、電圧をかけたまま希硫酸から白金板を引き上げ、蒸留水で洗浄した。白金板を軽く水で拭き取った後、精密秤量し、試験前の秤量値との差から析出した銅の質量を見積った。また、その秤量終了後、赤褐色に析出した銅を2mlの1N硝酸で再び溶解した。得られた銅溶液を紫外可視分光光度計(UV−1600 島津製作所(株)製)を用い、814nmにおける吸光度を測定した。なお、原子吸光用1,000ppm銅標準溶液(1N硝酸溶液)を同濃度の硝酸で段階希釈し、それらの溶液を用いて検量線法で求めた。
【0024】
(木材中及びその炭化物中の銅の定量)
日立Z8100型フレーム原子吸光測定装置を用いて測定した。すなわち。秤量した木片また炭化物を白金るつぼに入れて電気炉内で800℃で3時間を灰化した。これを硝酸2〜3mL加えてホットプレート上で加温溶解し、メスフラスコで定容した後、原子吸光分析に供した。なお、検量線に作成には原子吸光用1000ppmの標準液(和光純薬(株)製)を0.1M硝酸で希釈調整した溶液を用いた。
【0025】
(銅回収試験での電圧変化及び時間変化)
ACQ材から800℃で1時間加熱して作製した木炭試料を用いて、それぞれの炭化物から白金板への銅回収試験を行った。この試験では電圧を変えて2時間ずつ行った。電圧1.0、3.0、3.4.0V及び8Vの6種類とし、白金板の質量変化とその吸光度変化(814nm)から析出銅質量を求めた。得られた結果を図2に示す。図2から、白金板に析出した銅の質量は、電圧が3.0〜4.0Vと高くなると、0Vや1.0Vに比べて析出量が多くなること、更に8Vとなると、大幅に増加することが認められた。実際に測定した質量変化は、あまり大きくなかったが、硝酸に溶解させた銅の吸光度変化量とほぼ同じ傾向を示すことが判った。なお、銅標準溶液の検量線を用いて求めた値は、実際の秤量よりも若干高い値となり、8Vの実験においても銅析出量(1.2m)が得られた。
【0026】
次に電圧を一定に(4V)とし、通電時間の影響を調べた。この試験では、1時間毎に両電極を溶液から引き上げて(約5分)白金での質量を測定し、その質量変化を求めた。結果を図3に示す。5時間の測定で得られた白金電極の質量の増加量から、白金電極の質量は通電時間と共に増加する傾向にあることが認められた。この結果から、銅を含む炭素化物から銅が溶液中に析出し続けることが判った。なお、この炭素化物(電極)を取りだし、これと新しい白金電極に変えた場合でも溶液からの白金電極への銅の析出は継続(約4時間程度)することも認められた。以上の結果から、炭化物中の銅の溶出除去回収には、直流電流を通じ、別の電極に回収する方法で有効であることが判った。
【0027】
本試験での銅の回収率を求めるために、炭素化前の木材及び炭素化物の含有量をフレーム原子吸光法で測定した。その結果を表1に示すようにACQ材の銅含有量は、4.1mg/gであった。これは、炭素化一本あたりの約12mgに相当し、炭素化によって銅は除去されず、炭素化物中に残留していることが認められた。
【0028】
【表1】

【0029】
一方、10Vの電圧でも8時間電流を通じた場合には、約4mgの銅が回収できることや、5Vの電圧でも12時間電流を通じた場合には、約6mgの銅が回収でき、ほぼ45%の程度の回収し得ることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の有害金属の除去方法を概念的に示す概略的構成図である。
【図2】銅回収試験での電圧変化と時間変化の関係を示す図である。
【図3】銅回収試験での通電時間と質量変化の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
10 電解槽
12 炭素化物からなる陽極(アノード)
14 陰極
16 電圧計
18 電流計
20 電解質溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有害金属を含有する木質系材料が熱処理して炭素化され、有害金属を10ppm以上含有し、電気抵抗率が50Ω・cm以下であることを特徴とする炭素化物。
【請求項2】
前記有害金属が、Cr、Cu、As、Pb、Sn及びCdの少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の炭素化物。
【請求項3】
有害金属を含有する木質系材料を熱処理して炭素化し、有害金属を10ppm以上含有し、電気抵抗率が50Ω・cm以下である炭素化物を製造することを特徴とする炭素化物の製造方法。
【請求項4】
前記熱処理が、550℃〜1500℃の温度で熱処理することを特徴とする請求項3に記載の炭素化物の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理が、600℃〜1000℃の温度で熱処理することを特徴とする請求項4に記載の炭素化物の製造方法。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の炭素化物からなる陽極と、陰極との間に電解質が介在し、両電極間に直流電圧を印加して前記炭素化物から有害金属を除去することを特徴とする有害金属の除去方法。
【請求項7】
請求項6の方法で炭素化物から除去された有害金属を回収することを特徴とする有害金属の回収方法。
【請求項8】
請求項6の方法で炭素化物から除去され、陰極上に析出した有害金属を掻き取り回収することを特徴とする請求項7に記載の有害金属の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−290642(P2006−290642A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−110372(P2005−110372)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(501273886)独立行政法人国立環境研究所 (30)
【出願人】(505127536)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】