説明

炭素繊維及び炭素繊維製造用触媒

【課題】触媒質量当たりの炭素繊維の生成効率(重量増加)が高く且つ不純物の少ない炭素繊維を効率的に製造できる触媒、及び電気伝導性や熱伝導性が高く、樹脂等への充てん分散性に優れた炭素繊維を提供する。
【解決手段】〔I〕Fe元素を含有する化合物、〔II〕Co元素を含有する化合物、〔III〕Ti、V、CrおよびMnからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物、および〔IV〕WおよびMoからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物を溶媒に溶解または分散し、該溶液または分散液を粉粒状担体に含浸させる工程を経ることによって炭素繊維製造用触媒を得る。該触媒に炭素源を気相中で接触させる工程を経ることによって、チューブ状で、黒鉛層が炭素繊維軸に対して略平行で、シェルが多層構造をなした炭素繊維を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維及び炭素繊維製造用触媒に関する。さらに詳細には、金属、樹脂、セラミックスなどの材料に添加して電気伝導性や熱伝導性等を改善するためのフィラーとして、あるいはFED(フィールドエミッションディスプレー)用の電子放出素材として、各種反応用の触媒担体として、更には水素やメタン、もしくは各種気体を吸蔵する媒体として、また、電池やキャパシタなどの電気化学素子の電極材として好適に用いられる、炭素繊維及び該炭素繊維を製造するための触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維の製造方法としては、触媒を核として炭素繊維を成長させる方法、いわゆる化学気相成長法(以下、CVD法という。)が知られている。該CVD法には、触媒金属を担体に担持して用いる方法と、担体を用いずに有機金属錯体などを気相中で熱分解させて触媒を生成させる方法(流動気相法)が知られている。
【0003】
触媒を気相中で生成させる方法(流動気相法)で得られる炭素繊維として、例えば、特許文献5に、フェロセンなど有機金属錯体をベンゼンなどの炭素源と伴に流動させ、金属錯体の熱分解で得られる金属微粒子を触媒として水素雰囲気下で炭素源を熱分解する方法(流動気相法)により得られる、金属元素総含有量が0.3〜0.7質量%、遷移金属元素の含有量が0.1〜0.2%の炭素繊維が示されている。この流動気相法で得られる炭素繊維は、グラファイト層の欠陥が多く、高温での熱処理を実施しないと、フィラーとして樹脂に添加しても導電性が発現しないという問題があった。そのため、流動気相法では、所望特性を有する炭素繊維を安価に製造することが困難である。
【0004】
一方、触媒担体を用いる方法は、(1)基板担体を用いる方法と、(2)粉粒状担体を用いる方法に大別できる。
(1)の基板担体を用いる方法は、さまざまな製膜技術を応用して、担持される触媒金属の大きさを任意にコントロールできるため、実験室レベルでの研究においては、多用されている。例えば、非特許文献2では、シリコン基板上に10nmのアルミニウム膜、1nmの鉄膜、0.2nmのモリブデン膜を生成させたものを用いて、10−20nm程度の繊維径をもったチューブ状の多層ナノチューブや2層ナノチューブが得られることが開示されている。また、特許文献4には、NiとCrとMoとFeとの組み合わせや、CoとCuとFeとAlとの組み合わせからなる金属を基板担体にスパッタリング法等によって担持されてなる触媒が開示され、それによる炭素繊維の製造が記載されている。この基板担体を用いる方法で得られたカーボンナノチューブを樹脂等に添加するためのフィラーとして使用するためには、基板から分離し、回収する必要がある。こうして回収されたカーボンナノチューブは実質的には触媒金属成分のみを不純物として含有するものであるが、触媒質量に対するカーボンナノチューブの生成効率が著しく低いので、炭素繊維中の触媒金属成分含有量が高くなることが多い。さらに、この方法を産業的に利用しようとすると、たくさんの基板を並べないと、基板表面積を稼げないため、装置効率が低いだけでなく、基板への触媒金属の担持、カーボンナノチューブの合成、基板からのカーボンナノチューブの回収など多くの工程が必要となるため、経済的でなく、産業的な利用には至っていない。
【0005】
一方、(2)粉粒状担体を用いる方法では、基板担体を用いる方法と比較して、触媒担体の比表面積が大きいため、装置効率が良いだけでなく、さまざまな化学合成に用いられている反応装置が適用可能で、基板法のようなバッチ処理を前提とした生産方式だけでなく、連続的反応が可能になるという利点を有する。しかしながら、この粉粒状担体を用いる方法では、炭素繊維製品に触媒担体が不可避的に混入してしまい、高純度の炭素繊維を得ることが難しい。
粉粒状担体を用いる方法で得られる炭素繊維中の不純物量を低減させる方法としては、(1)高温での熱処理をする方法、(2)酸やアルカリなどで洗浄除去する方法などが知られているが、いずれの方法も工程が複雑になるために経済的でない。特に、酸やアルカリによる不純物の洗浄除去においては、炭素繊維中の触媒担体や触媒金属は、炭素皮膜に覆われていることが多いため、硝酸などの酸化力のある酸を用いるか、部分酸化を行うかして、この炭素皮膜を除去しないと、完全な不純物の除去が困難である場合が多い。また、このような酸化力のある酸を用いた場合には、担体や、触媒表面の炭素皮膜だけでなく、炭素繊維自体にもダメージを与え、欠陥を生じさせる場合がある。酸に侵された炭素繊維は電気伝導性や熱伝導性が低下したり、また樹脂等への分散性および充てん性が低くなることがあった。
【0006】
炭素繊維製造のための触媒が種々提案されている。例えば、非特許文献1には、Fe元素とCo元素とを炭酸塩担体に含浸法によって担持してなる触媒が示されている。炭酸塩担体としては炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウムが示されている。この触媒のFeCo組成比を最適化することよって、Fe単独、若しくはCo単独よりも、炭素繊維の生成効率を高めることができると述べられている。
【0007】
特許文献1には、Feと、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc及びReからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含む触媒が開示されている。特許文献1は、具体的には、FeとMo、FeとCr、FeとCe、FeとMnなどの組み合わせで担体に含浸法で担持して触媒を得た旨を開示している。
【0008】
特許文献2には、Fe若しくはFeおよびMoからなる原繊維形成触媒的な性質を有する触媒金属成分と、AlやMgなどの担体金属成分とを共沈させることによって得られた触媒が開示されている。この触媒によって、触媒金属の不純物含有量が1.1質量%以下で且つ触媒担体の不純物含有量が5質量%以下である炭素繊維が得られたことが示されている。
【0009】
特許文献3には、MnとCoとMoとの組み合わせや、MnとCoとの組み合わせからなる触媒金属成分と、AlやMgなどの担体金属成分とを共沈させる方法によって得られた触媒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許5707916号公報
【特許文献2】特開2003−205239号公報
【特許文献3】国際公開公報WO2006/50903
【特許文献4】米国特許6518218号公報
【特許文献5】特開2001−80913号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J. phys. chem. B, Vol.109, No20, 2005
【非特許文献2】Chemical Physics Letters 374(2003)222-228
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
非特許文献1に記載のFeとCoとの組み合わせからなる触媒、または特許文献1に記載のFeとMo、FeとCr、FeとCe、またはFeとMnの組み合わせからなる触媒によって、Fe触媒単独の場合よりも触媒質量あたりの炭素繊維の生成量が高められているが、必ずしも十分ではなく、得られる炭素繊維の不純物含有量が未だ高い。このため、非特許文献1または特許文献1で得られた炭素繊維をフィラーとして樹脂に添加した場合には、不純物の影響で樹脂複合材の強度が低下することがある。特許文献2および3に示される共沈法による触媒製造は効率が低く、コスト高になることが知られている。また、得られた炭素繊維は、電気伝導性が比較的に低い。
特許文献4に記載のような基板担体を用いる方法では、基板に触媒成分を密着させるために、様々な成膜技術(スパッタリング法、CVD法など)が応用でき、膜厚制御や組成制御が精密に行えるので、炭素繊維の実験室レベルの検討に適しているが、生成効率が低く、工業的利用に適さない。また、樹脂へ添加するフィラーとして使用する場合には、基板から分離する必要があり、工程が増える。
特許文献5に記載の方法は、一般に1000℃以上の高温反応場を必要とし、また得られた炭素繊維にはタール分が含まれ、炭素繊維自体の結晶性も低いことから、後処理として熱処理を必要とし、製造コストが高くなる。
このように、フィラーとして使用した際に高い熱伝導性および電気伝導性を付与でき、且つ不純物含有量が低い炭素繊維を低コストで得ることが困難であった。
本発明は、触媒質量当たりの炭素繊維の生成効率(重量増加)が高く、不純物の少ない炭素繊維を効率的に製造できる触媒、および樹脂等への充てん分散性に優れ、電気伝導性や熱伝導性の付与効果が高い炭素繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、〔I〕Fe元素を含有する化合物、〔II〕Co元素を含有する化合物、〔III〕Ti、V、CrおよびMnからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物、および〔IV〕WおよびMoからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物を溶媒に溶解または分散し、該溶液または分散液を粉粒状担体に含浸することによって得られる触媒を用いて炭素の気相成長反応を行うと、触媒質量当たりの炭素繊維の生成効率(重量増加)が高くなること、および酸洗浄等の不純物除去処理をせずとも、不純物としての金属元素の含有量が低い炭素繊維が得られることを見出した。そして、該炭素繊維は樹脂等への充てん性および分散性に優れ、高い電気伝導性や熱伝導性を付与できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて、さらに検討し完成したものである。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1)〔I〕Fe元素、〔II〕Co元素、〔III〕Ti、V、CrおよびMnからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素、および〔IV〕WおよびMoからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有し、黒鉛層が繊維軸に対して略平行である炭素繊維。
(2)金属元素総含有量が10質量%以下で、そのうち元素〔I〕、元素〔II〕、元素〔III〕および元素〔IV〕(担体由来の金属元素を除く)の合計含有量が1.8質量%以下である前記(1)に記載の炭素繊維。
(3)繊維径が5nm以上100nm以下である前記(1)または(2)に記載の炭素繊維。
(4)形状がチューブ状である前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の炭素繊維。
(5)黒鉛層の長さが繊維径の0.02倍以上15倍以下である前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の炭素繊維。
(6)繊維径の2倍未満の長さを有する黒鉛層の数の割合が30%以上90%以下である前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の炭素繊維。
(7)ラマン分光分析におけるR値が0.9以下である前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の炭素繊維。
【0015】
(8)〔I〕Fe元素、〔II〕Co元素、〔III〕Ti、V、CrおよびMnからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素、および〔IV〕WおよびMoからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有してなる炭素繊維製造用触媒。
(9)元素〔I〕、元素〔II〕、元素〔III〕および元素〔IV〕が粉粒状担体に担持されてなるものであり、且つ元素〔I〕、元素〔II〕、元素〔III〕および元素〔IV〕(担体由来の金属元素を除く)の合計量が粉粒状担体に対して1〜200質量%である前記(8)に記載の炭素繊維製造用触媒。
(10)担体が、アルミナ、マグネシア、チタニア、シリカ、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム又は酸化カルシウムである前記(9)に記載の炭素繊維製造用触媒。
【0016】
(11)〔I〕Fe元素を含有する化合物、〔II〕Co元素を含有する化合物、〔III〕Ti、V、CrおよびMnからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物、および〔IV〕WおよびMoからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物を溶媒に溶解または分散し、該溶液または分散液を粉粒状担体に含浸させる工程を含む、前記(9)または(10)に記載の炭素繊維製造用触媒の製造方法。
【0017】
(12)前記(8)〜(10)のいずれか1項に記載の炭素繊維製造用触媒に炭素源を気相中で接触させる工程を含む、炭素繊維の製造方法。
(13)触媒に炭素源を気相中で接触させる工程における温度が500℃超1000℃以下である、前記(12)に記載の炭素繊維の製造方法。
【0018】
(14)前記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の炭素繊維を含有してなる複合材料。
【発明の効果】
【0019】
本発明の炭素繊維製造用触媒の存在下に炭素源を分解させて気相成長させると、触媒質量当たりの炭素繊維の生成効率(重量増加)が高くなり、さらに、不純物としての金属元素の含有量が少ない炭素繊維が簡単な工程で安価に得ることができる。
本発明の炭素繊維は、金属、樹脂、セラミックス等に充てんしたときに均一に分散でき、高い熱伝導性や電気伝導性等を付与でき、一方で金属、樹脂、セラミックス等に添加して得られる複合材料の強度低下などを引き起こさせない。さらに、本発明の炭素繊維は、FED(フィールドエミッションディスプレー)用の電子放出素材として、各種反応用の触媒担体として、更には水素やメタン、もしくは各種気体を吸蔵する媒体として、また、電池、キャパシタ、ハイブリッドキャパシタなどの電気化学素子の電極材として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1で得られた炭素繊維の透過型電子顕微鏡で観察された像を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の炭素繊維は、元素〔I〕、元素〔II〕、元素〔III〕および元素〔IV〕を含有する。この4種の元素を組み合わせて含有する炭素繊維は、樹脂等に充てんしたときに均一に分散でき、高い熱伝導性や電気伝導性等を付与できる。また、該炭素繊維を添加して得られる複合材の強度低下を引き起こさない。
【0022】
元素〔I〕、元素〔II〕、元素〔III〕および元素〔IV〕は、炭素繊維の製造に用いられた触媒金属に由来する元素である。なお、触媒金属を粉粒状担体に担持させた場合には、担体に由来する金属元素が炭素繊維に含有されることがある。担体には元素〔I〕、元素〔II〕、元素〔III〕または元素〔IV〕を含むものがあるが、本発明では、担体由来の元素を除いた、触媒金属(具体的には担体に担持される物質)に由来する元素として、上記元素〔I〕、元素〔II〕、元素〔III〕および元素〔IV〕を含有することを意味する。
【0023】
元素〔I〕はFeであり、元素〔II〕はCoである。
元素〔III〕は、Ti、V、CrおよびMnからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。元素〔III〕のうち、Ti、VおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素が好ましく、TiおよびVからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素がより好ましく、Vが特に好ましい。
元素〔IV〕は、WおよびMoからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。
【0024】
炭素繊維に含有される元素〔I〕、元素〔II〕、元素〔III〕及び元素〔IV〕の具体的組み合わせとしては、Fe−Co−Ti−Mo、Fe−Co−V−Mo、Fe−Co−Cr−Mo、Fe−Co−Mn−Mo、Fe−Co−Ti−W、Fe−Co−V−W、Fe−Co−Cr−W、Fe−Co−Mn−Wが挙げられる。
【0025】
炭素繊維中における元素〔I〕と元素〔II〕の割合は特に制限されないが、元素〔II〕/元素〔I〕のモル比において、好ましくは0.05/0.95〜0.6/0.4、特に好ましくは0.15/0.85〜0.4/0.6である。
炭素繊維中の元素〔III〕は、元素種に応じて、元素〔I〕と元素〔II〕の合計含有量に対する好ましい含有量が異なる。炭素繊維に含有される元素〔III〕がMnである場合は、元素〔III〕は、元素〔I〕と元素〔II〕の合計含有量に対して、好ましくは1〜200モル%、より好ましくは10〜150モル%、特に好ましくは30〜100モル%である。炭素繊維に含有される元素〔III〕がTi、VまたはCr(担体由来の金属元素を除く)である場合は、元素〔III〕は、元素〔I〕と元素〔II〕の合計含有量に対して、好ましくは1〜100モル%、より好ましくは5〜50モル%、特に好ましくは5〜20モル%である。
炭素繊維中の元素〔IV〕の含有量は、元素〔I〕と元素〔II〕の合計含有量に対して、好ましくは1〜100モル%、より好ましくは5〜50モル%、特に好ましくは5〜20モル%である。
元素〔I〕、元素〔II〕、元素〔III〕および元素〔IV〕の含有量がそれぞれ上記範囲を満たすと、樹脂等への充てん性および分散性に優れ、高い電気伝導性や熱伝導性を付与できる。
【0026】
さらに、炭素繊維に含有される元素〔III〕がMnである場合は、元素〔I〕と元素〔II〕の合計含有量に対して、元素〔III〕と元素〔IV〕の合計含有量は、100モル%以下であることが好ましい。また、炭素繊維に含有される元素〔III〕がTi、VまたはCr(担体由来の金属元素を除く)である場合は、元素〔I〕と元素〔II〕の合計含有量に対して、元素〔III〕と元素〔IV〕の合計含有量は、30モル%以下であることが好ましい。
【0027】
また元素〔I〕と元素〔II〕の合計の含有量は、炭素繊維に対して、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.3質量%以下、さらに好ましくは0.8質量%以下、特に好ましくは0.4質量%以下である。
炭素繊維に含有される元素〔III〕がMnである場合は、元素〔III〕の含有量は、炭素繊維に対して、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.3質量%以下、さらに好ましくは0.8質量%以下、特に好ましくは0.4質量%以下である。炭素繊維に含有される元素〔III〕がTi、VまたはCr(担体由来の金属元素を除く)である場合は、元素〔III〕の含有量は、炭素繊維に対して、好ましくは0.4質量%以下、より好ましくは0.25質量%以下、さらに好ましくは0.15質量%以下、特に好ましくは0.08質量%以下である。
元素〔IV〕の含有量は、炭素繊維に対して、好ましくは0.4質量%以下、より好ましくは0.25質量%以下、さらに好ましくは0.15質量%以下、特に好ましくは0.08質量%以下である。
【0028】
本発明の炭素繊維は、上記元素〔I〕、元素〔II〕、元素〔III〕及び元素〔IV〕以外に、担体由来の金属元素を含んでいてもよい。例えば、アルミナなどに由来するAl、ジルコニアなどに由来するZr、チタニアなどに由来するTi、マグネシアなどに由来するMg、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウムなどに由来するCa、シリカ、珪藻土などに由来するSiなどが挙げられる。
これら担体に由来する金属元素は、上記元素〔I〕、元素〔II〕、元素〔III〕及び元素〔IV〕の合計質量に対して、好ましくは0.1〜20倍、より好ましくは0.1〜10倍、特に好ましくは0.1〜5倍含まれている。また、炭素繊維中の担体由来の金属元素含有量は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。
【0029】
本発明の炭素繊維は、金属元素総含有量が、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。ここで、金属元素総含有量は、触媒金属由来の前記元素〔I〕、元素〔II〕、元素〔III〕及び元素〔IV〕と、担体由来の金属元素との合計量である。
また炭素繊維中の触媒金属由来の元素〔I〕、元素〔II〕、元素〔III〕及び元素〔IV〕の合計含有量は、元素〔III〕がMnである場合は、好ましくは4.4質量%以下、より好ましくは2.9質量%以下、さらに好ましくは1.8質量%以下、特に好ましくは0.9質量%以下である。元素〔III〕がTi、VまたはCr(担体由来の金属元素を除く)である場合は、好ましくは2.8質量%以下、より好ましくは1.8質量%以下、さらに好ましくは1.1質量%以下、特に好ましくは0.6質量%以下である。
なお、炭素繊維中のこれら金属元素の含有量は、炭素繊維を硫硝酸分解させて得られる溶液をICP−AES(誘導結合プラズマ−元素発光分光分析装置Inductively Coupled Plasma- Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定することによって求めることができる。
【0030】
本発明の炭素繊維は、このような低い不純物量に抑えられ、樹脂等に充てんしたときの分散性に優れるので、熱伝導性や電気伝導性を大幅に高くすることができる。また本発明の炭素繊維を多量に添加しても樹脂等の機械的強度の劣化が抑えられる。
【0031】
本発明の炭素繊維は、ラマン分光分析におけるR値が、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.7以下である。
R値とは、ラマン分光スペクトルで測定される1360cm-1の付近にあるピーク強度(ID)と1580cm-1の付近にあるピーク強度(IG)との強度比ID/IGである。なお、R値は、Kaiser社製Series5000を用いて、励起波長532nmの条件で測定した。このR値が小さいほど炭素繊維中の黒鉛層の成長度合いが多くなっていることを示すものである。このR値が上記範囲を満たしていると、樹脂等に充てんしたときに樹脂等の熱伝導性や電気伝導性を高くすることができる。
【0032】
本発明の炭素繊維は、その繊維径が、好ましくは5nm以上100nm以下、より好ましくは5nm以上70nm以下、特に好ましくは5nm以上50nm以下である。また、アスペクト比は5〜1000であることが好ましい。
【0033】
本発明の好ましい態様の炭素繊維は、黒鉛層が繊維軸に対して略平行になっている。なお、本発明において、略平行とは、繊維軸に対する黒鉛層の傾きが約±15度以内のことをいう。
黒鉛層の長さは、繊維径の0.02倍以上15倍以下であることが好ましい。黒鉛層の長さが短いほど、樹脂等に充てんしたときに炭素繊維と樹脂との密着強度が高くなり、樹脂と炭素繊維のコンポジットの機械的強度が高くなる。黒鉛層の長さおよび黒鉛層の傾きは電子顕微鏡写真などによる観察によって測定することができる。
本発明の炭素繊維は、繊維径の2倍未満の長さを有する黒鉛層の数の割合が30%以上90%以下であることが好ましい。
【0034】
また、好ましい態様の炭素繊維は、繊維の中心部に空洞を有するチューブ状である。空洞部分は繊維長手方向に連続していてもよいし、不連続になっていてもよい。繊維径dと空洞部内径d0との比(d0/d)は特に限定されないが、好ましくは0.1〜0.8、より好ましくは0.1〜0.6である。
【0035】
本発明のチューブ状炭素繊維は、空洞を囲むシェルが多層構造になっているものが好ましい。例えば、シェルの内層が結晶性の炭素で構成され、外層が熱分解層を含む炭素で構成されているもの; 黒鉛層が平行に規則的に配列した部分と、乱れて不規則に配列した部分とからなるものが挙げられる。
前者のシェルの内層が結晶性の炭素で構成され、外層が熱分解層を含む炭素で構成されている炭素繊維は、樹脂等に充てんしたときに炭素繊維と樹脂との密着強度が高くなり、樹脂と炭素繊維のコンポジットの機械的強度が高くなる。
黒鉛層が平行に規則的に配列した部分と、乱れて不規則に配列した部分とからなる炭素繊維では、不規則な炭素原子配列からなる層が厚いと繊維強度が弱くなりやすく、不規則な炭素原子配列からなる層が薄いと樹脂との界面強度が弱くなりやすい。繊維強度が強く且つ樹脂との界面強度を強くするためには、不規則な炭素原子配列からなる層(不規則な黒鉛層)が適当な厚さで存在しているか、若しくは1本の繊維の中に厚い不規則な黒鉛層と薄い不規則な黒鉛層とが混在(分布)しているものが良い。
【0036】
本発明の炭素繊維は、その比表面積が好ましくは20〜400m2/g、より好ましくは30〜350m2/g、特に好ましくは40〜350m2/gである。なお、比表面積は窒素吸着によるBET法で求められる。
【0037】
本発明の炭素繊維は、次に述べる本発明の触媒に炭素源を気相中で接触させる工程を含む製造方法によって得られる。
【0038】
本発明の炭素繊維製造用触媒は、元素〔I〕、元素〔II〕、元素〔III〕及び元素〔IV〕を含有してなるものである。この4種の元素を組み合わせて含有することによって、触媒質量当たりの炭素繊維の生成効率(重量増加)が高くなり、低コストで、不純物含有量を大幅に低減した炭素繊維を得ることができる。なお、触媒担体に元素〔I〕、元素〔II〕、元素〔III〕または元素〔IV〕が含まれているものがあるが、本発明では、触媒担体由来の金属元素を除いた、触媒金属(具体的には担体に担持される物質)に由来する元素として、上記元素〔I〕、元素〔II〕、元素〔III〕および元素〔IV〕を含有することを意味する。
【0039】
元素〔I〕はFeであり、元素〔II〕はCoである。
元素〔III〕は、Ti、V、CrおよびMnからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。元素〔III〕のうち、触媒質量当たりの炭素繊維の生成効率という観点から、Ti、VおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素が好ましく、TiおよびVからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素がより好ましく、生成効率の観点からVが特に好ましい。Crは2価、3価および6価、Mnは2価、4価および7価と、複数の異なる酸化数のものがあるため、触媒調製時に酸化数を制御することが必要で、触媒調製工程が煩雑になることがあるが、Crは炭酸カルシウム担体を用いたときに生成効率がより高くなる。Tiは4価の酸化数で安定しており、上述のような特別な制御は必要なく、煩雑な触媒調製方法をとらなくても触媒性能が安定している。
元素〔IV〕は、WおよびMoからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。
【0040】
触媒を構成する元素〔I〕と元素〔II〕のモル比は特に制限されないが、元素〔II〕/元素〔I〕のモル比において、好ましくは0.05/0.95〜0.6/0.4、特に好ましくは0.15/0.85〜0.4/0.6である。
触媒を構成する元素〔III〕の割合は、元素種に応じて、好ましい量が異なる。元素〔III〕がMnである場合は、元素〔III〕は、元素〔I〕と元素〔II〕の合計量に対して、好ましくは1〜200モル%、より好ましくは10〜150モル%、特に好ましくは30〜100モル%である。元素〔III〕がTi、VまたはCr(担体由来の金属元素を除く)である場合は、元素〔III〕は、元素〔I〕と元素〔II〕の合計量に対して、好ましくは1〜100モル%、より好ましくは5〜50モル%、特に好ましくは5〜20モル%である。
触媒を構成する元素〔IV〕の割合は、元素〔I〕と元素〔II〕の合計量に対して、好ましくは1〜100モル%、より好ましくは5〜50モル%、特に好ましくは5〜20モル%である。
元素〔I〕、元素〔II〕、元素〔III〕および元素〔IV〕の割合がそれぞれ上記範囲を満たすと、金属元素総含有量が少ない本発明の炭素繊維が得られる。
【0041】
さらに触媒を構成する元素〔III〕がMnである場合は、触媒を構成する元素〔I〕と元素〔II〕の合計量に対して、元素〔III〕と元素〔IV〕の合計量は、100モル%以下であることが好ましい。また、触媒を構成する元素〔III〕がTi、VまたはCr(担体由来の金属元素を除く)である場合は、触媒を構成する元素〔I〕と元素〔II〕の合計量に対して、元素〔III〕と元素〔IV〕の合計量は、30モル%以下であることが好ましい。
【0042】
本発明の炭素繊維製造用触媒は、前記の元素〔I〕、元素〔II〕、元素〔III〕及び元素〔IV〕が、担体に担持されてなるものであることが好ましい。
担体としては、加熱温度域で安定なものであればよく、通常、無機酸化物や無機炭酸塩が用いられる。担体としては、粉粒状のものが好ましい。例えば、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化亜鉛、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、シリカ、珪藻土、ゼオライトなどが挙げられる。これらのうち、不純物含有量を低下させると言う観点から、アルミナ、マグネシア、チタニア、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム又は酸化カルシウムが好ましい。アルミナとしては中間アルミナが好適に用いられる。また、熱伝導性を高めると言う観点から、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム又は酸化カルシウムなどのカルシウムを含む化合物が好ましい。
【0043】
元素〔I〕、元素〔II〕、元素〔III〕及び元素〔IV〕の合計担持量は、担体に対して好ましくは1〜200質量%、より好ましくは5〜100質量%、特に好ましくは5〜70質量%である。担持量が多すぎると、製造コストが高くなるとともに、炭素繊維中の金属元素の含有量が高くなる傾向になる。
【0044】
本発明の炭素繊維製造用担持触媒は、その調製法によって特に制限されないが、含浸法で製造することが特に好ましい。含浸法とは、触媒金属元素を含む液を担体に含浸させることによって触媒を得る方法である。
具体的には、〔I〕Fe元素を含有する化合物、〔II〕Co元素を含有する化合物、〔III〕Ti、V、CrおよびMnからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物、および〔IV〕WおよびMoからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物を溶媒に溶解または分散し、該溶液または分散液を粉粒状担体に含浸させ、次いで乾燥することによって、本発明の炭素繊維製造用担持触媒が得られる。
【0045】
触媒金属元素の担体への担持は、化合物〔I〕、化合物〔II〕、化合物〔III〕および化合物〔IV〕の全てを含む液を担体に含浸させ、担持を行ってもよいし;化合物〔I〕を含む液、化合物〔II〕を含む液、化合物〔III〕を含む液および化合物〔IV〕を含む液を順序不同に粉粒状担体に含浸させて、担持を行ってもよい。
【0046】
触媒金属元素を含む液は、液状の触媒金属元素を含む有機化合物であってもよいし、触媒金属元素を含む化合物を有機溶媒または水に溶解又は分散させたものであってもよい。触媒金属元素を含む液には触媒金属元素の分散性を改善するなどのために、分散剤や界面活性剤(好ましくはカチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤)が添加されていてもよい。触媒金属元素を含む液中の触媒金属元素濃度は、溶媒、触媒金属種によって適宜選択することができる。担体と混合される触媒金属元素を含む液の量は、用いる担体の吸液量相当であることが好ましい。
【0047】
該触媒金属元素を含む液と担体とが十分に混合した後の乾燥は、70〜150℃で行うのが好ましい。また乾燥において真空乾燥を用いてもよい。さらに、乾燥後、適当な大きさにするために粉砕および分級をすることが好ましい。
【0048】
本発明の製造方法に用いられる炭素源は、特に制限されず、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどのアルカン類;ブテン、イソブテン、ブタジエン、エチレン、プロピレンなどのアルケン類;アセチレンなどのアルキン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、ナフタレン、アントラセン、エチルベンゼン、フェナントレンなどの芳香族炭化水素;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類;シクロプロパン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンなどの脂環式炭化水素;クメン、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、などの有機化合物や、一酸化炭素、二酸化炭素などが挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。従って、揮発油、灯油などを炭素源として用いることもできる。これらのうち、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、一酸化炭素が好ましく、特にメタン、エタン、エチレンが好ましい。
【0049】
触媒と炭素源とを気相中で接触させる方法は、従来公知の気相法と同様の方法で行うことができる。
例えば、所定温度に加熱された縦型又は横型の反応器に前記触媒をセットし、該反応器に炭素源をキャリアガスで搬送する方法がある。
触媒は、反応器内のボート(例えば、石英製ボート)に載せておく固定床式で反応器にセットしてもよいし、反応器内でキャリアガスで流動させる流動層式で反応器にセットしてもよい。触媒金属は酸化状態になっていることがあるので、炭素源を供給する前に、還元性のガスを含むガスを流通させて触媒を還元することができる。還元時の温度は好ましくは300〜1000℃、より好ましくは500〜700℃であり、還元時間は好ましくは10分間〜5時間、より好ましくは10分間〜60分間である。
【0050】
キャリアガスとしては、水素ガスなどの還元性ガスを使用することが好ましい。キャリアガスの量は反応形式によって適宜選択できるが、炭素源1モル部に対して好ましくは0.1〜70モル部である。還元性ガス以外に、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどの不活性ガスを同時に使用してもよい。また、反応の進行途中でガスの組成を変えてもよい。還元性ガス濃度は、キャリアガス全体に対して、好ましくは1体積%以上、より好ましくは30体積%以上、特に好ましくは85体積%以上である。
気相成長時の反応器温度は、好ましくは500℃超1000℃以下、より好ましくは550℃以上750℃以下である。この温度範囲にあるときには、チューブ状炭素繊維が得られやすい。
【0051】
このような方法によって得られた炭素繊維は、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気において、例えば、2000〜3500℃で、熱処理してもよい。熱処理は、最初から2000〜3500℃の高温度で行ってもよいし、段階的な昇温で行ってもよい。段階的な昇温による熱処理では、第一段階で通常800〜1500℃、第二段階で通常2000〜3500℃にして行われる。
【0052】
本発明の炭素繊維は、高い電気伝導性、樹脂、金属、セラミックスなどのマトリックスへの分散性に優れるので、該炭素繊維を樹脂等に含有させることによって高い電気伝導性または熱伝導性を有する複合材料とすることが出来る。特に樹脂に配合して複合材料とする場合には、従来の炭素繊維に比べて1/2から1/3(質量比)あるいはそれ以下の添加量で同等の導電性を示すという優れた効果を有する。具体的には、帯電防止の用途等に用いる樹脂/炭素繊維複合材においては、従来、5〜15質量%の炭素繊維を含ませなければ所望の導電性等が得られなかった。一方、本発明の炭素繊維を用いる場合には、0.1〜8質量%の配合で十分な導電性が得られる。また、金属に配合した場合には、破壊強度を向上させることができる。
【0053】
本発明の炭素繊維が添加されるセラミックスとしては、例えば、酸化アルミニウム、ムライト、酸化珪素、酸化ジルコニウム、炭化珪素、窒化珪素などが挙げられる。
本発明の炭素繊維が添加される金属としては、金、銀、アルミニウム、鉄、マグネシウム、鉛、銅、タングステン、チタン、ニオブ、ハフニウム、並びにこれらの合金及び混合物が挙げられる。
本発明の炭素繊維が添加される樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれも用いることができる。更に耐衝撃性向上のために、上記熱可塑性樹脂に熱可塑性エラストマーもしくはゴム成分が添加された樹脂を用いることができる。
本発明の炭素繊維が、マトリックスに対して優れた分散性を示す理由は定かでないが、炭素源の熱分解が気相中で適度に促進され、繊維表面に熱分解層が適度の厚さで形成されるからであろうと推定している。
【0054】
本発明の炭素繊維を分散させた樹脂組成物には、樹脂組成物の性能、機能を損なわない範囲で、他の各種樹脂添加剤を配合させることができる。樹脂添加剤としては、例えば、着色剤、可塑剤、滑剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、充填剤、発泡剤、難燃剤、防錆剤などが挙げられる。これらの各種樹脂添加剤は、樹脂組成物を調製する際の最終工程で配合するのが好ましい。
【0055】
本発明の炭素繊維を分散させた樹脂組成物を構成する各成分を混合・混練する際には、炭素繊維の破断を極力抑えるように行うことが好ましい。具体的には、炭素繊維の破断率を20%以下に抑えることが好ましく、15%以下に抑えることが更に好ましく、10%以下に抑えることが特に好ましい。破断率は、混合・混練の前後での炭素繊維のアスペクト比(例えば、電子顕微鏡SEM観察により測定)を比較することにより評価する。炭素繊維の破断を極力抑えて混合・混練するには、例えば、以下のような手法を用いることができる。
【0056】
一般に、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂に無機フィラーを溶融混練する場合、凝集した無機フィラーに高せん断を加え、無機フィラーを解砕し、微細化して、溶融樹脂中へ無機フィラーを均一に分散させる。混練時のせん断が弱いと、無機フィラーが十分に溶融樹脂中に分散せず、期待する性能や機能を持つ樹脂複合材料が得られない。高せん断力を発生させる混練機としては、石臼機構を利用したものや、同方向2軸押出機でスクリューエレメント中に高せん断のかかるニーディングディスクを導入したものが数多く使用されている。しかしながら炭素繊維を樹脂に混練する場合、余りに過剰な高せん断を樹脂や炭素繊維に印加すると、炭素繊維を破断してしまうので、期待する性能や機能を持つ樹脂複合材料が得られない。一方、せん断力の弱い単軸押出機の場合は、炭素繊維の破断は抑えられるが、炭素繊維の分散が均一にならない。
したがって、炭素繊維の破断を抑えながら、均一な分散をはかるためには、ニーディングディスクを使用しない同方向2軸押出機でせん断を低減して混練するか、加圧ニーダーのような高せん断がかからない装置で長時間を掛けて混練するか、または単軸押出機において特殊なミキシングエレメントを使用して混練することが望ましい。
【0057】
また、炭素繊維を樹脂中に分散させるためには、溶融樹脂と炭素繊維との濡れが大切である。濡れ性を向上させると溶融樹脂と炭素繊維の界面に相当する面積が増える。濡れ性を向上させる方法として、例えば、炭素繊維の表面を酸化処理する方法がある。
【0058】
本発明の炭素繊維は、樹脂への充填において空気を巻き込みやすい場合がある。この場合には、通常の単軸押出機や同方向2軸押出機では脱気が難しく、樹脂への充填には困難を伴う。そのため、充填性が良好で、炭素繊維の破断を極力抑える混練機として、バッチ式の加圧ニーダーが好ましい。バッチ式加圧ニーダーで混練したものは、固化するまえに単軸押出機に投入して、ペレット化することができる。その他、空気を多く含んだ炭素繊維を脱気でき、高充填可能な押出機として、例えば往復動単軸スクリュー押出機(コペリオン・ブス社製コ・ニーダー)が使用できる。
【0059】
本発明の複合材料は、耐衝撃性とともに導電性や帯電防止性が要求される製品や部品、例えばOA機器、電子機器に使用される部品、導電性包装用部品、帯電防止性包装用部品、自動車部品などを得るための成形材料として好適に使用できる。さらに具体的には、本発明の複合材料は、電子写真複写機、レーザープリンタ等の画像形成装置において、感光体、帯電ベルト、転写ベルト、定着ベルト等に使用される、耐久性、耐熱性および表面平滑性に優れ、安定した電気抵抗特性を有するシームレスベルトや、製造・輸送・保管工程において、ハードディスク、ハードディスクヘッド、各種半導体部品の加工、洗浄、移送、保管等を行うための、耐熱性および帯電防止性等に優れたトレイやカセット、静電塗装を行うための自動車部品や自動車用燃料チューブの材料として使用することが出来る。本発明の炭素繊維は触媒由来の金属不純物が非常に少ないので、この炭素繊維を含んでなる本発明の複合材料で製造したトレイやカセットで、ハードディスク、ハードディスクヘッド、各種半導体を搬送する場合、それらに対する金属イオンなどによる汚染が非常に少なくなる。
【0060】
これら製品を製造する際には、従来から知られている樹脂成形法によることが出来る。成形法としては、例えば、射出成形法、中空成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、トランスファー成形法などが挙げられる。
【0061】
本発明の炭素繊維は、航空宇宙分野、スポーツ分野、産業資材分野などにも用途展開できる。航空宇宙分野では、主翼、尾翼、胴体などの飛行機一次構造材;補助翼、方向舵、昇降舵などの飛行機の二次構造材;フロアーパネル、ビーム、ラバトリー、座席などの飛行機の内装材;ロケットのノズルコーンやモーターケース;人工衛星用のアンテナ、太陽電池パネル、チューブトラス構造材などが挙げられる。スポーツ分野では、釣具の釣竿、リール;ゴルフ用のシャフト、ヘッド、フェース板、シューズ;テニス、バドミントン、スカッシュなど用のラケット;自転車のフレーム、ホイール、ハンドル;ヨット、クルーザー、ボート、マスト;野球バット、スキー板、スキーストック、剣道竹刀、和弓、洋弓、ラジコンカー、卓球、ビリヤード、アイスホッケー用スティックなどが挙げられる。産業資材分野では、自動車のプロペラシャフト、レーシングカー、CNGタンク、スポイラー、ボンネット;自動二輪車のカウル、マフラーカバー;鉄道車体、リニアモーターカー車体、座席;繊維部品、板ばね、ロボットアーム、軸受け、ギア、カム、ベアリングリテーナーなどの機械部品;遠心分離器ローター、ウラン濃縮筒、フライホイール、工業用ローラー、シャフトなどの高速回転体;パラボラアンテナ、音響スピーカー、VTR部品、CD部品、ICキャリアー、電子機器筐体などの電子電機部品;電池(リチウムイオン電池など)、キャパシタ(電気二重層キャパシタやハイブリッドキャパシタなど)などの電気化学素子用電極;風力発電のブレードやナセル;油圧シリンダー、ボンベなどの圧力容器;ライザー、テザーなどの海底油田掘削機;攪拌翼、パイプ、タンクなどの化学装置;車椅子、手術用部品、X線グリッド、カセッテなどの医療機器;ケーブル、コンクリート補強材などの土木建築資材;プリンターの軸受け、カム、ハウジングなどの事務機器;カメラ部品、プラント部品などの精密機器;ポンプ部品などの耐蝕機器;導電材、断熱材、摺動材、耐熱材、帯電シート、樹脂型、洋傘、ヘルメット、面状発熱体、眼鏡フレーム、耐蝕フィルターなどのその他資材が挙げられる。
【実施例】
【0062】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、これらは説明のための単なる例示であって、本発明はこれらに何等制限されるものではない。
【0063】
物性等は以下の方法により測定した。
[不純物濃度]
不純物濃度は、CCD多元素同時型ICP発光分光分析装置(VARIAN製:VISTA−PRO)を用い、高周波出力1200W、測定時間5秒間で行った。
炭素繊維0.1gを石英ビーカーに精秤し、硫硝酸分解を行った。冷却後50mlに定容した。この溶液を適宜希釈し、ICP−AES(Atomic Emission Spectrometer)にて各元素の定量を行った。炭素繊維の質量に対する不純物の質量の割合を表に示した。不純物には、触媒担体と、触媒金属の元素〔I〕、元素〔II〕、元素〔III〕および元素〔IV〕とを含む。
表中で、「炭素以外」は、金属元素総含有量を、「元素(I)(II)(III)(IV)」は、触媒金属に由来する元素〔I〕、元素〔II〕、元素〔III〕および元素〔IV〕の合計含有量を、「担体」は、触媒担体に由来する金属元素の含有量を、それぞれ示す。
【0064】
[重量増加]
使用した触媒の質量に対する生成した炭素繊維の質量の比(炭素繊維の質量/触媒の質量)で表す。
【0065】
実施例1(Fe(70)−Co(30)−Ti(10)−Mo(10)/アルミナ)
硝酸鉄(III)九水和物1.25質量部と硝酸コバルト(II)六水和物0.38質量部をメタノール0.95質量部に添加し溶解させ、次いでチタン(IV)テトラn−ブトキシド・テトラマー0.11質量部および七モリブデン酸六アンモニウム四水和物0.08質量部を添加し溶解させて、溶液Aを得た。
該溶液Aを中間アルミナ(住友化学製;AKP−G015)1質量部に滴下、混合した。混合後、100℃で4時間真空乾燥した。乾燥後、乳鉢で粉砕して触媒を得た。該触媒は、Co/Feのモル比が0.3/0.7で、FeとCoの合計量に対してMo10モル%、Ti10モル%を含み、中間アルミナに対してFeとCoの合計量で25質量%担持されていた。
【0066】
秤量した触媒を石英ボートに載せ、石英製管状反応器に該石英ボートを入れ、密閉した。反応器内を窒素ガス置換し、窒素ガスを流しながら、反応器を室温から690℃まで60分間かけて昇温させた。窒素ガスを流しながら690℃で30分間保持した。
温度690℃を維持したまま、窒素ガスを、窒素ガス(100容量部)と水素ガス(400容量部)との混合ガスAに切り替えて該混合ガスAを反応器に30分間流して還元反応させた。還元反応後、温度690℃を維持したまま、混合ガスAを、水素ガス(250容量部)とエチレンガス(250容量部)との混合ガスBに切り替えて該混合ガスBを反応器に60分間流して気相成長反応させた。混合ガスBを窒素ガスに切り替え、反応器内を窒素ガスで置換し、室温まで冷やした。反応器を開き石英ボートを取り出した。生成物のTEM写真を図1に示した。該炭素繊維は、チューブ状で、黒鉛層が炭素繊維軸に対して略平行で、シェルが多層構造をなしていた。炭素繊維の評価結果を表1に示した。炭素繊維に含有されていた金属元素の組成比は触媒組成比と同じであった。
【0067】
実施例2(Fe(90)−Co(10)−V(10)−Mo(10)/アルミナ)
硝酸鉄(III)九水和物1.62質量部と硝酸コバルト(II)六水和物0.13質量部をメタノール0.95質量部に添加し溶解させ、次いでメタバナジン酸アンモニウム0.05質量部および七モリブデン酸六アンモニウム四水和物0.08質量部を添加し溶解させて、溶液Bを得た。
該溶液Bを中間アルミナ(住友化学製;AKP−G015)1質量部に滴下、混合した。混合後、100℃で4時間真空乾燥した。乾燥後、乳鉢で粉砕して触媒を得た。該触媒は、Co/Feのモル比が0.1/0.9で、FeとCoの合計量に対してMo10モル%、V10モル%を含み、中間アルミナに対してFeとCoの合計量が25質量%担持されていた。
該触媒を用いて実施例1と同様にして炭素繊維を得た。実施例2で得られた炭素繊維の透過型電子顕微鏡で観察された像は図1と同様であった。該炭素繊維は、チューブ状で、黒鉛層が炭素繊維軸に対して略平行で、シェルが多層構造をなしていた。評価結果を表1に示した。炭素繊維に含有されていた金属元素の組成比は触媒組成比と同じであった。
【0068】
実施例3(Fe(70)−Co(30)−V(10)−Mo(10)/アルミナ)
硝酸鉄(III)九水和物1.25質量部と硝酸コバルト(II)六水和物0.38質量部をメタノール0.95質量部に添加し溶解させ、次いでメタバナジン酸アンモニウム0.05質量部および七モリブデン酸六アンモニウム四水和物0.08質量部を添加し溶解させて、溶液Cを得た。
該溶液Cを中間アルミナ(住友化学製;AKP−G015)1質量部に滴下、混合した。混合後、100℃で4時間真空乾燥した。乾燥後、乳鉢で粉砕して触媒を得た。該触媒は、Co/Feのモル比が0.3/0.7で、FeとCoの合計量に対してMo10モル%、V10モル%を含み、中間アルミナに対してFeとCoの合計量が25質量%担持されていた。
該触媒を用いて実施例1と同様にして炭素繊維を得た。実施例3で得られた炭素繊維の透過型電子顕微鏡で観察された像は図1と同様であった。該炭素繊維は、チューブ状で、黒鉛層が炭素繊維軸に対して略平行で、シェルが多層構造をなしていた。評価結果を表1に示した。炭素繊維に含有されていた金属元素の組成比は触媒組成比と同じであった。
【0069】
実施例4(Fe(50)−Co(50)−V(10)−Mo(10)/アルミナ)
硝酸鉄(III)九水和物0.88質量部と硝酸コバルト(II)六水和物0.63質量部をメタノール0.95質量部に添加し溶解させ、次いでメタバナジン酸アンモニウム0.05質量部および七モリブデン酸六アンモニウム四水和物0.08質量部を添加し溶解させて、溶液Dを得た。
該溶液Dを中間アルミナ(住友化学製;AKP−G015)1質量部に滴下、混合した。混合後、100℃で4時間真空乾燥した。乾燥後、乳鉢で粉砕して触媒を得た。該触媒は、Co/Feのモル比が0.5/0.5で、FeとCoの合計量に対してMo10モル%、V10モル%を含み、中間アルミナに対してFeとCoの合計量が25質量%担持されていた。
該触媒を用いて実施例1と同様にして炭素繊維を得た。実施例4で得られた炭素繊維の透過型電子顕微鏡で観察された像は図1と同様であった。該炭素繊維は、チューブ状で、黒鉛層が炭素繊維軸に対して略平行で、シェルが多層構造をなしていた。評価結果を表1に示した。炭素繊維に含有されていた金属元素の組成比は触媒組成比と同じであった。
【0070】
実施例5(Fe(70)−Co(30)−Cr(10)−Mo(10)/アルミナ)
硝酸鉄(III)九水和物1.25質量部と硝酸コバルト(II)六水和物0.38質量部をメタノール0.95質量部に添加し溶解させ、次いで硝酸クロム(III)九水和物0.18質量部および七モリブデン酸六アンモニウム四水和物0.08質量部を添加し溶解させて、溶液Eを得た。
該溶液Eを中間アルミナ(住友化学製;AKP−G015)1質量部に滴下、混合した。混合後、100℃で4時間真空乾燥した。乾燥後、乳鉢で粉砕して触媒を得た。該触媒は、Co/Feのモル比が0.3/0.7で、FeとCoの合計量に対してMo10モル%、Cr10モル%を含み、中間アルミナに対してFeとCoの合計量が25質量%担持されていた。
該触媒を用いて実施例2と同様にして炭素繊維を得た。実施例5で得られた炭素繊維の透過型電子顕微鏡で観察された像は図1と同様であった。該炭素繊維は、チューブ状で、黒鉛層が炭素繊維軸に対して略平行で、シェルが多層構造をなしていた。評価結果を表1に示した。炭素繊維に含有されていた金属元素の組成比は触媒組成比と同じであった。
【0071】
実施例6(Fe(70)−Co(30)−Mn(50)−Mo(10)/アルミナ)
硝酸鉄(III)九水和物1.25質量部と硝酸コバルト(II)六水和物0.38質量部をメタノール0.95質量部に添加し溶解させ、次いで硝酸マンガン(II)六水和物0.63質量部および七モリブデン酸六アンモニウム四水和物0.08質量部を添加し溶解させて、溶液Fを得た。
該溶液Fを中間アルミナ(住友化学製;AKP−G015)1質量部に滴下、混合した。混合後、100℃で4時間真空乾燥した。乾燥後、乳鉢で粉砕して触媒を得た。該触媒は、Co/Feのモル比が0.3/0.7で、FeとCoの合計量に対してMo10モル%、Mn50モル%を含み、中間アルミナに対してFeとCoの合計量が25質量%担持されていた。
該触媒を用いて実施例2と同様にして炭素繊維を得た。実施例6で得られた炭素繊維の透過型電子顕微鏡で観察された像は図1と同様であった。該炭素繊維は、チューブ状で、黒鉛層が炭素繊維軸に対して略平行で、シェルが多層構造をなしていた。評価結果を表1に示した。炭素繊維に含有されていた金属元素の組成比は触媒組成比と同じであった。
【0072】
比較例1(Fe(70)−Co(30)−Mo(10)/アルミナ)
チタン(IV)テトラn−ブトキシド・テトラマーを用いなかった他は実施例1と同様にして触媒を得た。該触媒は、Co/Feのモル比が0.3/0.7で、FeとCoの合計量に対してMo10モル%を含み、中間アルミナ(住友化学製;AKP−G015)に対してFeとCoの合計量が25質量%担持されていた。該触媒を用いて実施例1と同様にして炭素繊維を得た。評価結果を表1に示した。
【0073】
【表1】

【0074】
表1に示すように、FeとCoとMoの組み合わせからなる3成分触媒をアルミナ担体に担持したもの(比較例1)で得られた炭素繊維に比べ、元素〔I〕であるFeと、元素〔II〕であるCoと、元素〔III〕であるTi、V、CrまたはMnと、元素〔IV〕であるMoとの4成分触媒をアルミナ担体に担持したもの(実施例1〜6)で得られた炭素繊維は、不純物濃度が少なくなっている。実施例1〜6で得られた炭素繊維は、繊維径が10〜30nmの範囲に、黒鉛層の長さが繊維径の0.04〜12倍の範囲に、繊維径の2倍未満の長さを有する黒鉛層の数の割合が約70%であった。
【0075】
実施例7(Fe(70)−Co(30)−Ti(10)−W(10)/アルミナ)
七モリブデン酸六アンモニウム四水和物に代えて、メタタングステン酸アンモニウム0.11質量部を用いた他は実施例1と同様にして触媒を得た。該触媒は、Co/Feのモル比が0.3/0.7で、FeとCoの合計量に対してW10モル%、Ti10モル%を含み、中間アルミナに対してFeとCoの合計量が25質量%担持されていた。
該触媒を用いて実施例1と同様にして炭素繊維を得た。実施例7で得られた炭素繊維の透過型電子顕微鏡で観察された像は図1と同様であった。該炭素繊維は、チューブ状で、黒鉛層が炭素繊維軸に対して略平行で、シェルが多層構造をなしていた。評価結果を表2に示した。炭素繊維に含有されていた金属元素の組成比は触媒組成比と同じであった。
【0076】
実施例8(Fe(70)−Co(30)−V(10)−W(10)/アルミナ)
七モリブデン酸六アンモニウム四水和物に代えて、メタタングステン酸アンモニウム0.11質量部を用いた他は実施例3と同様にして触媒を得た。該触媒は、Co/Feのモル比が0.3/0.7で、FeとCoの合計量に対してW10モル%、V10モル%を含み、中間アルミナに対してFeとCoの合計量が25質量%担持されていた。
該触媒を用いて実施例3と同様にして炭素繊維を得た。実施例8で得られた炭素繊維の透過型電子顕微鏡で観察された像は図1と同様であった。該炭素繊維は、チューブ状で、黒鉛層が炭素繊維軸に対して略平行で、シェルが多層構造をなしていた。評価結果を表2に示した。炭素繊維に含有されていた金属元素の組成比は触媒組成比と同じであった。
【0077】
実施例9(Fe(70)−Co(30)−Cr(10)−W(10)/アルミナ)
七モリブデン酸六アンモニウム四水和物に代えて、メタタングステン酸アンモニウム0.11質量部を用いた他は実施例5と同様にして触媒を得た。該触媒は、Co/Feのモル比が0.3/0.7で、FeとCoの合計量に対してW10モル%、Cr10モル%を含み、中間アルミナに対してFeとCoの合計量が25質量%担持されていた。
該触媒を用いて実施例5と同様にして炭素繊維を得た。実施例9で得られた炭素繊維の透過型電子顕微鏡で観察された像は図1と同様であった。該炭素繊維は、チューブ状で、黒鉛層が炭素繊維軸に対して略平行で、シェルが多層構造をなしていた。評価結果を表2に示した。炭素繊維に含有されていた金属元素の組成比は触媒組成比と同じであった。
【0078】
実施例10(Fe(70)−Co(30)−Mn(50)−W(10)/アルミナ)
七モリブデン酸六アンモニウム四水和物に代えて、メタタングステン酸アンモニウム0.11質量部を用いた他は実施例6と同様にして触媒を得た。該触媒は、Co/Feのモル比が0.3/0.7で、FeとCoの合計量に対してW10モル%、Mn50モル%を含み、中間アルミナに対してFeとCoの合計量が25質量%担持されていた。
該触媒を用いて実施例6と同様にして炭素繊維を得た。実施例10で得られた炭素繊維の透過型電子顕微鏡で観察された像は図1と同様であった。該炭素繊維は、チューブ状で、黒鉛層が炭素繊維軸に対して略平行で、シェルが多層構造をなしていた。評価結果を表2に示した。炭素繊維に含有されていた金属元素の組成比は触媒組成比と同じであった。
【0079】
比較例2(Fe(70)−Co(30)−W(10)/アルミナ)
チタン(IV)テトラn−ブトキシド・テトラマーを用いなかった他は実施例7と同様にして触媒を得た。該触媒は、Co/Feのモル比が0.3/0.7で、FeとCoの合計量に対してW10モル%を含み、中間アルミナ(住友化学製;AKP−G015)に対してFeとCoの合計量が25質量%担持されていた。
該触媒を用いて実施例1と同様にして炭素繊維を得た。評価結果を表2に示した。
【0080】
【表2】

【0081】
表2に示すように、FeとWとCoの組み合わせからなる3成分触媒をアルミナ担体に担持したもの(比較例2)で得られた炭素繊維に比べ、元素〔I〕であるFeと、元素〔II〕であるCoと、元素〔III〕であるTi、V、CrまたはMnと、元素〔IV〕であるMoとの4成分触媒をアルミナ担体に担持したもの(実施例7〜10)で得られた炭素繊維は、不純物濃度が少なくなっている。実施例7〜10で得られた炭素繊維は、繊維径が10〜30nmの範囲に、黒鉛層の長さが繊維径の0.04〜12倍の範囲に、繊維径の2倍未満の長さを有する黒鉛層の数の割合が約70%であった。
【0082】
比較例3(Fe(70)−Co(30)−Ti(10)/アルミナ)
七モリブデン酸六アンモニウム四水和物を用いなかった他は実施例1と同様にして触媒を得た。該触媒は、Co/Feのモル比が0.3/0.7で、FeとCoの合計量に対してTi10モル%を含み、中間アルミナ(住友化学製;AKP−G015)に対してFeとCoの合計量が25質量%担持されていた。
該触媒を用いて実施例1と同様にして炭素繊維を得た。評価結果を表3に示した。
【0083】
比較例4(Fe(70)−Co(30)−V(10)/アルミナ)
七モリブデン酸六アンモニウム四水和物を用いなかった他は実施例3と同様にして触媒を得た。該触媒は、Co/Feのモル比が0.3/0.7で、FeとCoの合計量に対してV10モル%を含み、中間アルミナ(住友化学製;AKP−G015)に対してFeとCoの合計量が25質量%担持されていた。
該触媒を用いて実施例3と同様にして炭素繊維を得た。評価結果を表3に示した。
【0084】
比較例5(Fe(70)−Co(30)−Cr(10)/アルミナ)
七モリブデン酸六アンモニウム四水和物を用いなかった他は実施例5と同様にして触媒を得た。該触媒は、Co/Feのモル比が0.3/0.7で、FeとCoの合計量に対してCr10モル%を含み、中間アルミナ(住友化学製;AKP−G015)に対してFeとCoの合計量が25質量%担持されていた。
該触媒を用いて実施例5と同様にして炭素繊維を得た。評価結果を表3に示した。
【0085】
比較例6(Fe(70)−Co(30)−Mn(50)/アルミナ)
七モリブデン酸六アンモニウム四水和物を用いなかった他は実施例6と同様にして触媒を得た。該触媒は、Co/Feのモル比が0.3/0.7で、FeとCoの合計量に対してMn50モル%を含み、中間アルミナ(住友化学製;AKP−G015)に対してFeとCoの合計量が25質量%担持されていた。
該触媒を用いて実施例6と同様にして炭素繊維を得た。評価結果を表3に示した。
【0086】
比較例7(Fe(70)−Co(30)/アルミナ)
チタン(IV)テトラn−ブトキシド・テトラマーおよび七モリブデン酸六アンモニウム四水和物を用いなかった他は実施例1と同様にして触媒を得た。該触媒は、Co/Feのモル比が0.3/0.7で、中間アルミナ(住友化学製;AKP−G015)に対してFeとCoの合計量が25質量%担持されていた。
該触媒を用いて実施例1と同様にして炭素繊維を得た。評価結果を表3に示した。
【0087】
【表3】

【0088】
表3に示した結果から、FeとCoを主成分とする2成分触媒や表3に示す3成分触媒をアルミナ担体に担持してなるものを用いて得られた炭素繊維に比して、本発明のFeとCoを主成分とする4成分触媒をアルミナ担体に担持してなるものを用いて得られた炭素繊維は不純物濃度が大幅に少なくなっている。たとえば、実施例3と、比較例1および比較例4とを、また実施例8と比較例2および比較例4とを対比することによってわかる。
【0089】
実施例11(Fe(70)−Co(30)−Ti(10)−Mo(10)/炭酸カルシウム)
中間アルミナに代えて、炭酸カルシウム(宇部マテイリアル;CS・3N−A30)を用いた他は実施例1と同様にして、触媒を得た。該触媒は、Co/Feのモル比が0.3/0.7で、FeとCoの合計量に対してMo10モル%、Ti10モル%を含み、炭酸カルシウムに対してFeとCoの合計量が25質量%担持されていた。
該触媒を用いて実施例1と同様にして炭素繊維を得た。実施例11で得られた炭素繊維の透過型電子顕微鏡で観察された像は図1と同様であった。該炭素繊維は、チューブ状で、黒鉛層が炭素繊維軸に対して略平行で、シェルが多層構造をなしていた。評価結果を表4に示した。炭素繊維に含有されていた金属元素の組成比は触媒組成比と同じであった。
【0090】
実施例12(Fe(70)−Co(30)−V(10)−Mo(10)/炭酸カルシウム)
中間アルミナに代えて、炭酸カルシウム(宇部マテイリアル;CS・3N−A30)を用いた他は実施例3と同様にして、触媒を得た。該触媒は、Co/Feのモル比が0.3/0.7で、FeとCoの合計量に対してMo10モル%、V10モル%を含み、炭酸カルシウムに対してFeとCoの合計量が25質量%担持されていた。
該触媒を用いて実施例3と同様にして炭素繊維を得た。実施例12で得られた炭素繊維の透過型電子顕微鏡で観察された像は図1と同様であった。該炭素繊維は、チューブ状で、黒鉛層が炭素繊維軸に対して略平行で、シェルが多層構造をなしていた。評価結果を表4に示した。炭素繊維に含有されていた金属元素の組成比は触媒組成比と同じであった。
【0091】
実施例13(Fe(70)−Co(30)−Cr(10)−Mo(10)/炭酸カルシウム)
中間アルミナに代えて、炭酸カルシウム(宇部マテイリアル;CS・3N−A30)を用いた他は実施例5と同様にして、触媒を得た。該触媒は、Co/Feのモル比が0.3/0.7で、FeとCoの合計量に対してMo10モル%、Cr10モル%を含み、炭酸カルシウムに対してFeとCoの合計量が25質量%担持されていた。
該触媒を用いて実施例5と同様にして炭素繊維を得た。実施例13で得られた炭素繊維の透過型電子顕微鏡で観察された像は図1と同様であった。該炭素繊維は、チューブ状で、黒鉛層が炭素繊維軸に対して略平行で、シェルが多層構造をなしていた。評価結果を表4に示した。炭素繊維に含有されていた金属元素の組成比は触媒組成比と同じであった。
【0092】
実施例14(Fe(70)−Co(30)−Mn(50)−Mo(10)/炭酸カルシウム)
中間アルミナに代えて、炭酸カルシウム(宇部マテイリアル;CS・3N−A30)を用いた他は実施例6と同様にして、触媒を得た。該触媒は、Co/Feのモル比が0.3/0.7で、FeとCoの合計量に対してMo10モル%、Mn50モル%を含み、炭酸カルシウムに対してFeとCoの合計量が25質量%担持されていた。
該触媒を用いて実施例6と同様にして炭素繊維を得た。実施例14で得られた炭素繊維の透過型電子顕微鏡で観察された像は図1と同様であった。該炭素繊維は、チューブ状で、黒鉛層が炭素繊維軸に対して略平行で、シェルが多層構造をなしていた。評価結果を表4に示した。炭素繊維に含有されていた金属元素の組成比は触媒組成比と同じであった。
【0093】
比較例8(Fe(70)−Co(30)−Mo(10)/炭酸カルシウム)
チタン(IV)テトラn−ブトキシド・テトラマーを用いなかった他は実施例11と同様にして触媒を得た。該触媒は、Co/Feのモル比が0.3/0.7で、FeとCoの合計量に対してMo10モル%を含み、炭酸カルシウムに対してFeとCoの合計量が25質量%担持されていた。該触媒を用いて実施例11と同様にして炭素繊維を得た。評価結果を表4に示した。
【0094】
【表4】

【0095】
比較例9(Co(100)−Mo(10)/炭酸カルシウム)
硝酸コバルト(II)六水和物1.24質量部をメタノール0.95質量部に添加し溶解させ、次いで七モリブデン酸六アンモニウム四水和物0.08質量部を添加し溶解させて、溶液Gを得た。
該溶液Gを炭酸カルシウム(宇部マテイリアル;CS・3N−A30)1質量部に滴下、混合した。混合後、100℃で4時間真空乾燥した。乾燥後、乳鉢で粉砕して触媒を得た。該触媒は、Coに対してMo10モル%を含み、炭酸カルシウムに対してCoが25質量%担持されていた。該触媒を用いて実施例11と同様にして炭素繊維を得た。評価結果を表5に示した。
【0096】
比較例10(Co(100)−Ti(10)/炭酸カルシウム)
硝酸コバルト(II)六水和物1.24質量部をメタノール0.9質量部に添加し溶解させ、次いで硝酸70%溶液0.3質量部を添加した。次にチタン(IV)テトラn−ブトキシド・テトラマー0.11質量部を添加し溶解させて、溶液Hを得た。
該溶液Hを炭酸カルシウム(宇部マテイリアル;CS・3N−A30)1質量部に滴下、混合した。混合後、100℃で4時間真空乾燥した。乾燥後、乳鉢で粉砕して触媒を得た。該触媒は、Coに対してTi10モル%を含み、炭酸カルシウムに対してCoが25質量%担持されていた。該触媒を用いて実施例11と同様にして炭素繊維を得た。評価結果を表5に示した。
【0097】
比較例11(Co(100)−V(10)/炭酸カルシウム)
チタン(IV)テトラn−ブトキシド・テトラマーに代えて、メタバナジン酸アンモニウム0.05質量部を用いた他は比較例10と同様にして、触媒を得た。該触媒は、Coに対してV10モル%を含み、炭酸カルシウムに対してCoが25質量%担持されていた。該触媒を用いて実施例12と同様にして炭素繊維を得た。評価結果を表5に示した。
【0098】
比較例12(Co(100)−Cr(10)/炭酸カルシウム)
七モリブデン酸六アンモニウム四水和物に代えて、硝酸クロム(III)九水和物0.18質量部を用いた他は比較例9と同様にして、触媒を得た。該触媒は、Coに対してCr10モル%を含み、炭酸カルシウムに対してCoが25質量%担持されていた。該触媒を用いて実施例13と同様にして炭素繊維を得た。評価結果を表5に示した。
【0099】
比較例13(Co(100)−Mn(50)/炭酸カルシウム)
七モリブデン酸六アンモニウム四水和物に代えて、硝酸マンガン(II)六水和物0.61質量部を用いた他は比較例9と同様にして、触媒を得た。該触媒は、Coに対してMn50モル%を含み、炭酸カルシウムに対してCoが25質量%担持されていた。該触媒を用いて実施例14と同様にして炭素繊維を得た。評価結果を表5に示した。
【0100】
比較例14(Fe(70)−Co(30)/炭酸カルシウム)
チタン(IV)テトラn−ブトキシド・テトラマーおよび七モリブデン酸六アンモニウム四水和物を用いなかった他は実施例11と同様にして触媒を得た。該触媒は、Co/Feのモル比が0.3/0.7で、炭酸カルシウムに対してFeとCoの合計量が25質量%担持されていた。該触媒を用いて実施例11と同様にして炭素繊維を得た。評価結果を表5に示した。
【0101】
【表5】

【0102】
表4と表5を対比することによって、本発明のFeとCoを主成分とする4成分触媒を炭酸カルシウムに担持してなるものを用いて得られた炭素繊維は不純物濃度が大幅に少なくなっていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
〔I〕Fe元素、〔II〕Co元素、〔III〕Ti、V、CrおよびMnからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素、および〔IV〕WおよびMoからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有し、黒鉛層が繊維軸に対して略平行である炭素繊維。
【請求項2】
金属元素総含有量が10質量%以下で、そのうち元素〔I〕、元素〔II〕、元素〔III〕および元素〔IV〕(担体由来の金属元素を除く)の合計含有量が1.8質量%以下である請求項1に記載の炭素繊維。
【請求項3】
繊維径が5nm以上100nm以下である請求項1または2に記載の炭素繊維。
【請求項4】
形状がチューブ状である請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭素繊維。
【請求項5】
黒鉛層の長さが繊維径の0.02倍以上15倍以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭素繊維。
【請求項6】
繊維径の2倍未満の長さを有する黒鉛層の数の割合が30%以上90%以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の炭素繊維。
【請求項7】
ラマン分光分析におけるR値が0.9以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の炭素繊維。
【請求項8】
〔I〕Fe元素、〔II〕Co元素、〔III〕Ti、V、CrおよびMnからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素、および〔IV〕WおよびMoからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有してなる炭素繊維製造用触媒。
【請求項9】
元素〔I〕、元素〔II〕、元素〔III〕および元素〔IV〕が粉粒状担体に担持されてなるものであり、且つ元素〔I〕、元素〔II〕、元素〔III〕および元素〔IV〕(担体由来の金属元素を除く)の合計量が粉粒状担体に対して1〜200質量%である請求項8に記載の炭素繊維製造用触媒。
【請求項10】
担体が、アルミナ、マグネシア、チタニア、シリカ、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム又は酸化カルシウムである、請求項9に記載の炭素繊維製造用触媒。
【請求項11】
〔I〕Fe元素を含有する化合物、〔II〕Co元素を含有する化合物、〔III〕Ti、V、CrおよびMnからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物、および〔IV〕WおよびMoからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物を溶媒に溶解または分散し、該溶液または分散液を粉粒状担体に含浸させる工程を含む、請求項9または10に記載の炭素繊維製造用触媒の製造方法。
【請求項12】
請求項8〜10のいずれか1項に記載の炭素繊維製造用触媒に炭素源を気相中で接触させる工程を含む、炭素繊維の製造方法。
【請求項13】
触媒に炭素源を気相中で接触させる工程における温度が500℃超1000℃以下である、請求項12に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の炭素繊維を含有してなる複合材料。

【図1】
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【公開番号】特開2010−24609(P2010−24609A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142302(P2009−142302)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】