説明

炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブル及びその製造方法

【課題】 化学的安定性が高く、かつ、発光材料、高温ガスセンサー、導電材料、触媒、電界放出材料などに使用できる、炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブル及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 酸化ガリウム粉末と活性炭粉末との混合物を、不活性ガス気流中で加熱することによって、酸化ガリウムナノワイヤーを炭素で被覆する。この酸化ガリウムナノワイヤーは長さが100nm以上の結晶性酸化ガリウムでなり、ナノサイズの炭素膜で被覆される。例えば、長さ数μm、直径約50nmの炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブルが得られる。炭素膜で被覆した酸化ガリウムナノケーブルは、化学的に安定で、発光材料、高温ガスセンサー、導電材料、触媒、電界放出材料などに利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光材料、高温ガスセンサー、導電材料、触媒、電界放出材料に利用可能な、炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化ガリウム(Ga2 3 )は、4.9eVのバンドギャップエネルギーを有する半導体で、青色発光材料としてオプトエレクトロニクス分野や透明導電性材料として電子デバイス分野において使用されている。
一次元の酸化ガリウムナノワイヤー、ナノロッド、ナノチューブ、二次元の酸化ガリウムナノシート、ナノリボン等の製造方法は、すでに報告されている(例えば、非特許文献1〜5参照)。
【0003】
一方、カーボンナノチューブの内部の中空部にカーボン以外の別の元素や化合物を充填する方法も知られており、この方法は、出来上がったカーボンナノチューブの開口先端から毛細管現象等を利用して所望の物質を挿入する方法であるが、チューブの内外の圧力が平衡に達すると、それ以上の長さに挿入することが困難であるので、チューブ内に100nm(ナノメートル)以上の長さにわたって挿入することはできない(例えば、非特許文献6,7参照)。したがって、カーボンナノチューブに酸化ガリウムを充填しても、100nm以上の長さとすることは困難である。
【0004】
酸化ガリウムをナノサイズの炭素膜で被覆すれば化学的に安定となり、発光材料、高温ガスセンサー、導電材料、触媒、電界放出材料などに利用可能となる。
しかしながら、100nm以上の長さを有し、炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノ構造物が得られていないという課題がある。
【0005】
【非特許文献1】Z.R.Dai,他、2002年、J.Phys.Chem.B, 106巻、902 頁
【非特許文献2】S.Sharma, 他、2002年、J.Am.Chem.Soc., 124 巻、12288 頁
【非特許文献3】H.J.Chun, 他、2003年、J.Phys.Chem.B, 107巻、9042頁
【非特許文献4】C.H.Liang,他、2001年、Appl.Phys.Lett., 78 巻、3202頁
【非特許文献5】H.Z.Zhang,他、1999年、Solid State Comm., 109巻、677 頁
【非特許文献6】M.Monthioux,Carbon、2002年、40巻、1809頁
【非特許文献7】C.Pham-Huu, 他、Chem.Comm., 2002年、1882頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題に鑑み、化学的に不活性で、すなわち、化学的安定性が高く、かつ、発光材料、高温ガスセンサー、導電材料、触媒、電界放出材料などに使用できる、炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブル及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブルは、長さが100nm以上の結晶性酸化ガリウムナノワイヤーが、ナノサイズの炭素膜で被覆されていることを特徴とする。
この構成によれば、ナノサイズの炭素膜で被覆された長さが100nm以上の結晶性酸化ガリウムナノケーブルが容易に得られる。また結晶性酸化ガリウムナノワイヤーは、ナノサイズの炭素膜で被覆されているために化学的安定性が極めて高い。この炭素膜で被覆
された酸化ガリウムナノケーブルに電子や光を照射すると、電子や光は薄い炭素膜を透過し、芯となる結晶性酸化ガリウムナノワイヤーに照射される。このため、炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブルにおいては、芯となる酸化ガリウムナノワイヤー自体を、発光材料、高温ガスセンサー、導電材料、触媒、電界放出材料として利用可能となる。
【0008】
本発明の炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブルの製造方法は、酸化ガリウム粉末と活性炭粉末との混合物を、不活性ガス気流中で加熱することによって、酸化ガリウムナノワイヤーを炭素で被覆することを特徴とする。
具体的には、加熱炉に、酸化ガリウム粉末と活性炭粉末との混合物を入れた坩堝を配置し、不活性ガスを流しながら、混合物を所定の温度において所定時間加熱することによって、酸化ガリウムナノワイヤーを炭素で被覆する。
上記方法において、混合物の酸化ガリウム粉末と活性炭粉末との重量比は、好ましくは、7.0:1〜8.2:1の範囲である。混合物の加熱温度は、好ましくは、1100℃〜1500℃の範囲である。混合物の加熱時間は、好ましくは、0.5時間〜2時間の範囲である。また、加熱中に流す不活性ガスは、好ましくは、窒素ガスである。加熱中に流す不活性ガスの流量は、好ましくは、5〜1000sccmの範囲である。
この方法によれば、100nm以上の結晶性酸化ガリウムナノワイヤーが、ナノサイズの炭素膜で被覆される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブル及びその製造方法によれば、100nm以上の結晶性酸化ガリウムナノワイヤーがナノサイズの炭素膜で被覆される。このため、炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブルの化学的安定性が極めて高い。したがって、炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノワイヤーは、発光材料、高温ガスセンサー、導電材料、触媒、電界放出材料として利用可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブルを製造する装置の一例を示す模式図である。この装置を例に製造方法を説明する。
図において、縦型高周波誘導加熱装置1は、反応管2の周囲に誘導加熱コイル3を備え、坩堝4が反応管2に配置されている。そして、酸化ガリウム粉末と活性炭粉末との混合物5が、坩堝4に入っている。坩堝4は誘導加熱コイル3で加熱される。ここで、矢印6は、反応管2に供給される窒素ガスのような不活性ガスによる気流を表している。
なお、加熱装置には、高周波誘導加熱法を利用した高周波誘導加熱炉を用いるのが好ましいが、この場合、縦型に限らず横型の高周波誘導加熱炉であってもよい。また、加熱装置は、高周波誘導加熱に限られず、坩堝4を所定の温度に加熱できるランプ加熱や抵抗加熱による加熱装置でもよい。
【0011】
図1の装置を用いて炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブルを製造する方法を説明する。
初めに、酸化ガリウム粉末と活性炭粉末との混合物5を図1に示したように配置する。次に、反応管2を真空排気し、減圧した後で窒素ガス6を流す。次に、窒素ガス6を流しながら、加熱コイル3で坩堝4中の混合物5を所定の温度で加熱し、所定の時間保持することで、炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブルを得る。
【0012】
上記において、酸化ガリウム粉末と活性炭粉末との重量比は7:1〜8.2:1の範囲が好ましく、酸化ガリウム粉末の重量がこの範囲よりも多いと炭素膜で覆われない単独の酸化ガリウムナノワイヤーになってしまうので好ましくない。逆に酸化ガリウムの重量がこの範囲よりも少ない場合は、酸化ガリウムが金属ガリウムに還元されてしまうので好ま
しくない。
【0013】
坩堝4内の混合物5の加熱温度は、1100〜1500℃の範囲が好ましい。1500℃以上の温度では反応が早すぎて酸化ガリウムナノワイヤー上に炭素膜が均一にコートされないので好ましくない。また、1100℃以下の温度では反応が進行しない。
混合物5の加熱時間は、0.5〜2時間の範囲が好ましい。2時間で十分に反応が進行するので、これ以上の時間をかける必要はない。一方、0.5時間未満では反応が完結しないので好ましくない。
【0014】
加熱中に流す不活性ガス6の流量は、5〜1000sccmの範囲が好ましい。ここで、sccm(standard cubic cm per minute)は、cm3 /分であり、0℃において、1013hPaに換算した場合の流量を表す単位である。
この不活性ガス6の流量が1000sccm以上の場合には、流量が多すぎて生成物が吹き飛ばされ反応管2内に堆積できない。また、不活性ガス6の流量が5sccm以下では、生成物が所望の場所に堆積しないので好ましくない。生成された炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブルは、反応管2内に堆積し、肉眼では灰色の粉末状の物質に見える。
【0015】
上記の製造方法によれば、芯が酸化ガリウムナノワイヤーであり、外層が炭素膜である二層からなるナノケーブル構造、即ち、炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブルが得られる。後述するが、この芯の部分は(−202)面の面間隔が0.28nm(2.8Å)で、(−10−1)面の面間隔が0.268nm(2.68Å)を有する結晶性の酸化ガリウムナノワイヤーである。また、外側の層は、面間隔が0.34nm(3.40Å)であるグラファイト状炭素である。また、この炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブルは、後述するように、長さ数μm(マイクロメートル)で、直径が約50nmであり、例えばカーボンナノチューブなどのナノチューブよりも長さ及び直径が大きくなるので、取り扱いが容易となる。このため、この材料を用いた冷陰極などの形成が容易にできる。
【実施例】
【0016】
次に、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
最初に、酸化ガリウム粉末(アルドリッチ社製、純度99.99%)0.40gと活性炭粉末(メルク社製、GRグレード)0.05gとの混合物5をグラファイト坩堝4に入れた。このグラファイト坩堝4を、反応管2となるグラファイト誘導加熱円筒管を有する縦型高周波誘導加熱装置1の中央部に設置した。
次に、縦型高周波誘導加熱装置1の反応管2を、13.3Pa(0.1Torr)の圧力まで減圧した後、窒素ガス6を10sccmの流量で流しながら、グラファイト坩堝4内の混合物5を、1300℃で1時間加熱した。
次に、加熱した縦型高周波誘導加熱装置1を室温まで冷却すると、反応管2である加熱円筒管の内壁に、0.1gの灰色の粉末が堆積しているのが確認された。
【0017】
図2は上記実施例で合成した灰色堆積物の走査型電子顕微鏡像を示す図である。図2から、合成した灰色堆積物は、長さ数μmの繊維状物から形成されていることが分かる。
【0018】
図3は、上記実施例で合成した灰色堆積物の透過型電子顕微鏡像像を示す図である。図3から、灰色堆積物が、芯および外層の二層からなるナノケーブル構造であることが分かる。そして、全体の直径が、約50nmであり、芯の直径が約40nm、外側の層の厚さが約6nmであることが分かった。
【0019】
図4は、上記実施例で合成した堆積物のナノケーブル部のエネルギー分散型X線分析(
EDX:Energy-Dispersive X-ray Analysis)による測定結果を示す図である。図の縦軸はX線強度(任意目盛り)を示し、横軸はX線のエネルギー(keV)を示している。図のEDXスペクトルから、ナノケーブルの組成は、ガリウム(Ga)、酸素(O)、炭素(C)からなることが分かった。なお、銅の信号ピークは、透過型電子顕微鏡に試料を取り付けるために用いた銅グリッドに由来するものである。
【0020】
さらに、高分解能透過型電子顕微鏡像による観察結果では、堆積物の芯の部分は、(−202)面の面間隔が0.28nm(2.8Å)で、(−10−1)面の面間隔が0.268nm(2.68Å)を有する結晶性の酸化ガリウムであることが分かった。また、堆積物の外側の層は、面間隔が0.34nm(3.40Å)であるグラファイト状炭素からなる炭素膜であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明によれば、化学的安定性に優れ、かつ、ナノサイズの炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブルが得られるので、例えば、この材料を発光材料や冷陰極材料としたディスプレイや電子ビーム露光装置を製造することができる。また、高温ガスセンサー、導電材料、触媒としても使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブルを製造する装置の一例を示す模式図である。
【図2】実施例で合成した灰色堆積物の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【図3】実施例で合成した灰色堆積物の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【図4】実施例で合成した堆積物のナノケーブル部のエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy-Dispersive X-ray Analysis)による測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
1:縦型高周波誘導加熱装置
2:反応管
3:誘導加熱コイル
4:坩堝
5:酸化ガリウム粉末と活性炭粉末との混合物
6:不活性ガス(窒素ガス)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さが100nm以上の結晶性酸化ガリウムナノワイヤーが、ナノサイズの炭素膜で被覆されていることを特徴とする、炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブル。
【請求項2】
酸化ガリウム粉末と活性炭粉末との混合物を、不活性ガス気流中で加熱することによって、酸化ガリウムナノワイヤーを炭素で被覆することを特徴とする、炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブルの製造方法。
【請求項3】
加熱炉に、酸化ガリウム粉末と活性炭粉末との混合物を入れた坩堝を配置し、不活性ガスを流しながら、上記混合物を所定の温度において所定時間加熱することによって、酸化ガリウムナノワイヤーを炭素で被覆することを特徴とする、炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブルの製造方法。
【請求項4】
前記混合物の酸化ガリウム粉末と活性炭粉末との重量比は、7.0:1〜8.2:1の範囲であることを特徴とする、請求項2又は3に記載の炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブルの製造方法。
【請求項5】
前記混合物の加熱温度は、1100℃〜1500℃の範囲であることを特徴とする、請求項2〜4の何れかに記載の炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブルの製造方法。
【請求項6】
前記混合物の加熱時間は、0.5時間〜2時間の範囲であることを特徴とする、請求項2〜5の何れかに記載の炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブルの製造方法。
【請求項7】
前記加熱中に流す前記不活性ガスは、窒素ガスであることを特徴とする、請求項2〜6の何れかに記載の炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブルの製造方法。
【請求項8】
前記加熱中に流す前記不活性ガスの流量は、5〜1000sccmの範囲であることを特徴とする、請求項2〜7の何れかに記載の炭素膜で被覆された酸化ガリウムナノケーブルの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−1811(P2006−1811A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−181359(P2004−181359)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】