説明

炭素質吸着材の製造方法、それを用いた環境汚染物質の除去方法及び除去装置

【課題】 環境汚染物質を賦活化することなく、より簡便に除去することのできる炭素質吸着材、その製造、及びそれを用いた浄化方法を提供すること。
【解決手段】 石炭等の炭素化合物をガス化炉内でガス化した後、生成ガスを脱塵工程に供して未燃焼炭素(チャー)を捕集することによる炭素質吸着材の製造方法であって、前記ガス化炉が、前記炭素化合物のための導入口をそれぞれ有する少なくとも2つの互いに温度の異なる温度領域を有し、そのうちの少なくとも1つの温度領域の温度が前記炭素化合物中に存在する灰分の溶融温度以上であり、残りの温度領域の温度が前記灰分の溶融温度未満であり、各温度領域内に、前記の各導入口から前記炭素化合物をガス化剤とともにそれぞれ導入することによってガス化を行なうとともに、前記生成ガスの温度が450℃未満になる前に、前記生成ガスを脱塵工程に供することを特徴とする炭素質吸着材製造方法等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着能に優れた炭素質吸着材の製造方法に関し、さらに該製造方法により製造することのできる該炭素質吸着材並びにそれを用いて環境汚染物質を除去する方法及び除去する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭や廃棄物の焼却等に伴い、SOやダイオキシン等の環境汚染物質が発生することが社会的な問題となっている。これらの環境汚染物質を活性炭や触媒等により除去することも考えられるが、あまり経済的なものではない。
【0003】
そこで、石炭等のガス化または燃焼に伴い発生する未燃焼炭素(チャー)を用いて、環境汚染物質を吸着除去する試みがなされている。該未燃焼炭素(チャー)は、副生物として生成してくるものであるため、たとえ収率が多少低くても、それを有効利用できれば経済的にも有利なためである。たとえば、可燃性廃棄物を流動層焼却炉で焼却する際に発生する燃焼排ガスについて、流動層中から分離した未燃焼炭素であるチャーを、活性炭の代わりに上記燃焼排ガス中に添加することで、ダイオキシンや水銀等の微量有害物質を吸着除去する方法が知られている(特許文献1および2参照)。また、石炭をガス化して得られた石炭ガスの燃焼排ガスを脱硫するために、石炭の流動層部分酸化炉から生成した石炭チャーを脱硫装置中に用いる方法も知られている(特許文献3参照)。
【0004】
しかし、上記のような流動層中で得られたチャーにつき、そのまま用いても活性炭等と比べると性能は著しく低かった。このため、たとえば、特許文献1では、チャーに加え、脱塩素剤を加えたり、特許文献2では、得られたチャーを洗浄後、さらに加熱することによって賦活化することが報告化されている。
【0005】
すなわち、ガス化や燃焼の副生物であるチャーを吸着材として利用することで、活性炭や活性コークスに比べ、製造コスト、消費エネルギーを低減することができるが、賦活工程が必要となることから、そのための設備が必要であり、依然、一定の設備コストと製造のエネルギーを要していた。
【0006】
【特許文献1】特開平9−53815号公報
【特許文献2】特開平11−325425号公報
【特許文献3】特開2000−111032号公報
【特許文献4】国際公開第95/013868号パンフレット
【非特許文献1】化学工学論文集 vol.28,No.3,2002,pp.273−279
【非特許文献2】化学工学論文集 vol.28,No.5,2002,pp.598−604
【非特許文献3】「廃棄物処理とダイオキシン対策」 環境公害新聞社、平成5年8月、p.237
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、石炭、バイオマス、石油コークス、有機廃棄物等を燃焼させる際に発生するようなダイオキシン等の環境汚染物質を、より簡便に除去することできる炭素質吸着材、その製造方法、並びにそれを用いた環境汚染物質の除去方法及び除去装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様は、石炭、バイオマス、石油コークス及び有機廃棄物からなる群から選択される1種以上の炭素化合物をガス化炉内でガス化した後、生成ガスを脱塵工程に供して未燃焼炭素(チャー)を捕集することによる炭素質吸着材の製造方法であって、
前記ガス化炉が、前記炭素化合物のための導入口をそれぞれ有する少なくとも2つの互いに温度の異なる温度領域を有し、そのうちの少なくとも1つの温度領域の温度が前記炭素化合物中に存在する灰分の溶融温度以上であり、残りの温度領域の温度が前記灰分の溶融温度未満であり、各温度領域内に、前記の各導入口から前記炭素化合物をガス化剤とともにそれぞれ導入することによってガス化を行なうとともに、前記生成ガスの温度が450℃未満になる前に、前記生成ガスを脱塵工程に供することを特徴とする炭素質吸着材の製造方法を提供する。
【0009】
また本発明の第二の態様は、前記第一の態様の製造方法により製造することができることを特徴とする炭素質吸着材を提供する。
【0010】
また本発明の第三の態様は、前記第二の態様の炭素質吸着材を用いることを特徴とする環境汚染物質の除去方法を提供する。
【0011】
さらに本発明の第四の態様は、前記第三の態様の環境汚染物質の除去方法を行なうことができることを特徴とする除去装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の炭素質吸着材は、さらに賦活化することなく用いても充分な吸着能を有していることから、より簡便に環境汚染物質の吸着除去を行なうことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
1.本発明の第一の態様である炭素質吸着材の製造方法は、石炭、バイオマス、石油コークス及び有機廃棄物からなる群から選択される1種以上の炭素化合物をガス化炉内でガス化した後、生成ガスを脱塵工程に供して未燃焼炭素(チャー)を捕集することによる炭素質吸着材の製造方法であって、
前記ガス化炉が、前記炭素化合物のための導入口をそれぞれ有する少なくとも2つの互いに温度の異なる温度領域を有し、そのうちの少なくとも1つの温度領域の温度が前記炭素化合物中に存在する灰分の溶融温度以上であり、残りの温度領域の温度が前記灰分の溶融温度未満であり、各温度領域内に、前記の各導入口から前記炭素化合物をガス化剤とともにそれぞれ導入することによってガス化を行なうとともに、前記生成ガスの温度が450℃未満になる前に、前記生成ガスを脱塵工程に供することを特徴とする。
【0014】
(ア)本発明は、石炭等から合成ガス(H、CO)を製造する際に副生する未燃焼炭素(以下、「チャー」と呼ぶ)が、従来のように賦活化処理しなくても、そのままで燃焼排ガス中の環境汚染物質の吸着除去に有効であることを見出したことに起因する。
【0015】
本発明は、石炭、バイオマス、石油コークス及び有機廃棄物からなる群から選択される1種以上の炭素化合物のガス化に際して副生する未燃焼炭素を利用するものであり、ここにいうバイオマスとは、主に木質系のバイオマスのことをいい、有機廃棄物とは、下水汚泥、ごみ、ごみ固形燃料(RDF:Refuse Derived Fuel)、廃木材、古紙、廃プラスチック又はこれらの混合物等のことをいう。
【0016】
(イ)本発明にいうガス化炉は、いわゆる2段(または多段)ガス化法を行なうことのできるガス化炉である。すなわち、該ガス化炉は、石炭等の前記炭素化合物のための導入口をそれぞれ有する少なくとも2つの互いに温度の異なる温度領域を有し、そのうちの少なくとも1つの温度領域の温度が前記炭素化合物中に存在する灰分の溶融温度以上であり、残りの温度領域の温度が前記灰分の溶融温度未満であり、各温度領域内に、前記の各導入口から前記炭素化合物をガス化剤とともにそれぞれ導入することによってガス化を行なう。該ガス化炉は、いわゆる噴流床ガス化炉であることが好ましい。また、温度の高い温度領域はガス化炉の下部にもってくることが、灰分を溶融スラグ化して炉から排出させる観点から好ましい。
【0017】
前記炭素化合物は、上記それぞれの導入口より、好ましくは粒子の形状でガス化剤とともにガス化炉にそれぞれ導入される。前記炭素化合物中に存在する灰分の溶融温度以上の領域では、前記炭素化合物中の灰分を溶融状態(溶融スラグ)として除去できる。これに対して、前記炭素化合物中に存在する灰分の溶融温度未満の領域では、前記炭素化合物のガス化が進行し、また、前記炭素化合物中の灰分は溶融しないため、細孔を塞いだり石炭同士を凝集させたりすることがなく、細孔の富んだ未燃焼炭素(チャー)が生成する。
【0018】
ここで、前記炭素化合物中に存在する灰分とは、Si、Al、Ca等からなる鉱物質である。
【0019】
前記炭素化合物中に存在する灰分の溶融温度以上の温度領域(以下、第一温度領域という)の温度は、灰分を溶融する観点から、好ましくは1400〜1800℃である。また、前記炭素化合物中に存在する灰分の溶融温度未満の温度領域(以下、第二温度領域という)の温度は、灰分を溶融させず、かつガス化反応を進行させる観点から、好ましくは1000〜1300℃である。
【0020】
ガス化剤とは、石炭をガス化するための剤であり、たとえば酸素、空気、若しくはそれらの混合物、または酸素、空気、若しくはそれらの混合物に水蒸気を添加したものを挙げることができる。
【0021】
第一温度領域及び第二温度領域への前記炭素化合物及びガス化剤の供給割合については、ガス化効率と灰分溶融の観点から、第一温度領域へは、第二温度領域よりガス化剤量/石炭量の比が大きくなるようにすることが好ましい。
【0022】
(ウ)上記のチャーは、生成ガスとともに飛散するが、生成ガスの温度が400℃未満、より好ましくは450℃になる前に、前記生成ガスを脱塵工程に供してチャーを捕集する。これにより、炭素化合物のガス化に伴い副生する微量の硫化水素、塩化水素、アンモニア、及びナトリウム、カリウム等のアルカリ金属蒸気等がチャーに吸着されることなく、チャーを分離できる。これにより、より一層優れた吸着能を有する炭素質吸着材として用いることができる。
【0023】
チャーの吸着性能や再生処理性能を最適にするには、できるだけ上記の副生微量ガスがチャーに吸着するのを避けるのが好ましい。この点、上記の副生微量ガスのチャーへの吸着に一番影響するのが、温度であり、チャーが脱塵装置に至るまでの間、雰囲気温度を450℃以上にしておくのが好ましい。ガス化炉の後流には通常、熱回収装置があり、かかる場合、熱回収装置の出口温度を450℃以上とするのが好ましい。
【0024】
なお、捕集したチャーのうち、ガス化効率維持に必要な量は、再びガス化炉に戻してガス化反応に供する。
【0025】
(エ) 以下に、好ましい一実施態様として、石炭のガス化プロセスを利用した炭素質吸着材の製造方法につき、図1Aで示されるシステムを用いて具体的に詳述する。
【0026】
石炭1およびガス化剤2(酸素)をガス化炉10の上段1aと下段1bとに分けて供給する。ここで、上段におけるガス化温度が灰分の溶融温度未満になり、下段におけるガス化温度が灰分の溶融温度以上になるように、石炭量に対する酸素量の比率(kg/kg)(以下、「酸素比」という)を、上段を小さく、下段を大きくする。たとえば、上段を0.4〜0.7、下段を0.8〜1.1に設定することができる。
【0027】
ガス化炉10で生成したガス(生成ガス11)を熱回収器20に通して冷却すると共に、水蒸気22を回収する。冷却ガス21の温度は、石炭チャーを脱塵装置30で分離するまでは、少なくとも450℃未満にならないようにする。
【0028】
続いて脱塵装置30に通してガス中の石炭チャーを分離し、チャー供給装置35を介して一部をガス化炉へ戻し、再度、ガス化する。ここで、脱塵装置30はサイクロンとフィルターを併用したものである。分離した石炭チャー32の一部を抜き出し(排出チャー37)、本発明の炭素質吸着材101とする。
【0029】
脱塵後のガス31は、ガス洗浄装置40で水洗し、冷却するとともに脱塵装置30で回収できなかった微量のチャーをほぼ完全に除去する。その後、脱硫装置50で硫化水素等を除去し、精製ガス51とする。該精製ガスは、発電、化学合成、合成燃料製造等に好適に用いることができる。
【0030】
脱硫装置は湿式法で、脱硫剤は、たとえばメチルジエタノールアミン(MDEA)を用いる。硫化水素を吸収した脱硫済み剤52を再生装置60に送り硫化水素を脱着する。再生された脱硫剤62を再び脱硫装置50に送る。硫化水素を高濃度で含む脱着ガス61は石灰石膏法等、公知の硫黄回収装置(図示せず)に送る。
【0031】
ガス洗浄装置40からの洗浄排水42は、排水処理装置90に送り排水中のダストの沈降分離、溶解ガスの放出、pH調整等の浄化を行なう。浄化水91は、再びガス洗浄装置40に送る。排水処理装置90からは、ガス洗浄ダスト93と余剰清浄水92を排出させる。
【0032】
一方、ガス化炉10からは溶融スラグ12を排出させる。これをスラグ冷却・分離装置70に送り、スラグ71を回収する。冷却後の排水72は、ダスト分離装置80に送り、排水中のダスト81を分離後、スラグ冷却用水82として、再び、スラグ冷却装置70に送る。余剰の水83は、排水処理装置90に送る。
【0033】
排出チャー37は、目的に応じて分級装置100で粒子径を調整し、これを炭素質吸着材101とすることができる。
【0034】
2. 本発明の第二の態様である炭素質吸着材は、前記1.で記載される製造方法により製造することができることを特徴とする。
【0035】
上記製造方法を採ることで、細孔の富んだ、吸着性能に優れる炭素質吸着材を得ることができる。当該吸着材は、特に賦活化しなくても充分な吸着性能を有している。
【0036】
3. 本発明の第三の態様である環境汚染物質の除去方法は、前記1.の本発明の第一の態様で製造することのできる炭素質吸着材を用いることを特徴とする。
【0037】
(ア) 環境汚染物質とは、たとえば石炭、バイオマス、石油コークス、有機廃棄物[下水汚泥、ごみ、ごみ固形燃料(RDF:Refuse Derived Fuel)、廃木材、古紙、廃プラスチック又はこれらの混合物等]をガス化または燃焼させることにより発生する生成ガス中に存在するものであって、SO、ダイオキシン、硫化水素、有害重金属類等をいう。
【0038】
(イ)本態様では、前記炭素吸着材を用いて、環境汚染物質を吸着除去する。
【0039】
該炭素吸着材は、排ガスを流す配管(煙道)に直接、吸着材粉末を吹き込む方式である煙道吹き込み式として用いることができるし、また充填層式または移動層式の反応器として用いることもできる。
【0040】
煙道吹き込み式として用いる場合、該炭素吸着材の特別な分級は不要であるが、充填層式または移動層式の反応器として用いる場合には、ある程度、分級によって粒子径を揃えておくのが好ましい。反応器形式にもよるが、例えば反応器からの飛散による悪影響を避ける観点から、250〜500μmが好ましい。
【0041】
また、充填層式または移動層式の反応器として用いる場合、ガス濾過材で覆われていることが飛散防止の観点から好ましい。ガス濾過材としてはバグフィルター等を例示することができる。
【0042】
さらに、充填層式の反応器として用いる場合、充填層が吸着塔および脱着塔の複数からなり、両塔間に備えられたバルブにより、吸着と脱着を切り替えることができるようにすることが、連続運転を可能にすることから好ましい。
【0043】
前記1.の本発明の第一の態様により、石炭、バイオマス、石油コークス及び有機廃棄物からなる群から選択される1種以上の炭素化合物のガス化によって生成したガス中の環境汚染物質を、このガス化で製造された未燃焼炭素(チャー)で吸着除去することは、吸着材を別途、調達する必要もなく、そのまま賦活化せずに用いることができるので、好ましい態様である。
【0044】
(ウ)以下、廃棄物焼却プロセスにおける生成ガス中の環境汚染物質の除去、および乾式脱硫法を採用した石炭火力発電プロセスにおける生成ガスの脱硫の応用例について詳述する。
【0045】
(a)廃棄物焼却プロセスにおける生成ガス中の環境汚染物質の除去についての応用例を図1Bを用いて詳細に説明する。
【0046】
図1Bは、廃棄物焼却のブロックである。
【0047】
このシステムでは、一般にごみ焼却炉200と熱回収ボイラ210を備えている。焼却炉200で廃棄物B1を、空気B2を用いて燃焼させ、灰分または溶融スラグ201を排出させる。冷却後の排ガス211中に、従来であれば活性炭または消石灰を吹き込むところ、本発明では炭素質吸着材101を添加して得られた吸着材添加ガス213を、脱塵装置220に通して、ダイオキシンを吸着した該吸着材222を回収する。さらに該吸着材222は、例えば、再び焼却炉に供給して有害物質を分解させることができる。
【0048】
(b)次に、乾式脱硫法を採用した石炭火力発電プロセスにより生成するガスの脱硫の応用例について説明する。
【0049】
図1Cは、乾式脱硫法を採用した石炭火力発電プロセスを示している。
【0050】
このシステムは、一般にボイラ300、脱硝装置310、集塵装置I 320、脱硫装置330および集塵装置II 340を備え、燃焼排ガス303は、脱硝・脱塵後、脱硫装置330に入る。
【0051】
この図では、移動層式脱硫法のプロセスを示している。すなわち、脱硫済みの吸着材331は、再生装置350に導入される。ここで、300〜400℃程度の熱風353により吸着材に吸着した硫酸を還元して二酸化硫黄にする。二酸化硫黄を高濃度で含む再生排ガス352は硫酸製造装置360に送られ、硫酸361として回収される。再生後の脱硫材351は脱硫装置330へ戻される。
【0052】
ここで、脱硫材として、従来は活性コークス等が供給されているが、本発明では、ここに本発明の炭素質吸着材101を導入し脱硫する。該炭素質吸着材は、たとえば図4に示すような粒子径分布を有するので、適宜、分級することが、充填層又は移動層へ適用しやすいため好ましい。
【0053】
4. 本発明の第四の態様である環境汚染物質の除去装置は、前記第三の態様における除去方法を行なうことができることを特徴とする。
【0054】
以下、移動層式および充填層式における脱硫装置への応用例について詳述する。
【0055】
(ア) 図2の概略構造を用いて、移動層方式脱硫装置の応用例につき詳述する。
【0056】
この装置では、脱硫室335内に脱硫前排ガス322の入口部と脱硫済み排ガス332の出口部を濾布336で構成した吸着材移動層337を形成している。濾布としては、例えば、一般に用いられているバグフィルターであり、前記チャーが抜け出ないような通気性を有するものである。
【0057】
この移動層上部のホッパ333から供給器334によって本発明の炭素質吸着材を供給する。該吸着材に一定の滞留時間を持たせてその間に脱硫し、二酸化硫黄等の硫黄分を吸着した該吸着材を移動層下部から排出器338によって回収ホッパ339に抜き出す。硫黄分を吸着した該吸着材331は、粉体コンベア359によって再生装置350に送る。再生装置も移動層であり、層内は300〜400℃程度の熱風353により間接的に加熱され、二酸化硫黄に富む再生排ガス352を脱離する。再生された該吸着材351は、粉体コンベア359により脱硫装置の供給ホッパ333へ送られる。このように脱硫材としての本発明の炭素質吸着材は循環して用いるので、使用により損耗する。そこで、損耗量に見合った新鮮な脱硫材としての炭素質吸着材101を適宜追加で供給する。
【0058】
(イ) 図1C’および図3を用いて、充填層式脱硫装置への応用例について詳述する。
【0059】
図1C’は、充填層式脱硫プロセスのブロックである。
【0060】
このプロセスでは、脱硫塔を少なくとも2つ備え(図1C’では330’及び350’)、交互に脱硫と再生を繰り返す。排ガス切り替えバルブVを排ガス322が脱硫塔330’に流れ、また脱硫済みガス切り替えバルブVを脱硫済みガス332が集塵装置II 340に流れるようにしておく。この時、熱風切り替えバルブVを、熱風353が再生すべき脱硫塔350’に流れ、再生排ガス切り替えバルブVを再生排ガス352が硫酸製造装置360に流れるようにしておく。以上の操作により、脱硫塔330’は再生すべきものとなり、脱硫塔350’は再生されたものとなる。次いで、同様な操作により、脱硫塔350’を用いて脱硫すると同時に、脱硫塔330’を再生させる操作を行ない、以下、同様な操作を繰り返して連続的に脱硫する。
【0061】
図3に具体的な充填層方式脱硫装置の概略構造を示す。ここでは、同じ構造の塔を2つ備えており、脱硫材の交換や補充のため、各塔の上部には供給装置、下部には排出装置を設けている。この図では充填層337’で吸着が行なわれているが、図1C’で説明したように、同じ構造の2つの塔の間で交互に脱硫と再生を繰り返すことで、連続的に脱硫することが予定されている。
【実施例1】
【0062】
本実施例においては、前記1.(エ)で説明した図1Aで示されるシステムを用いた石炭のガス化プロセスを利用して炭素質吸着材を製造し、得られた炭素質吸着材について評価した。
【0063】
なお、本実施例において、灰分の溶融温度は1320℃、ガス化炉10で生成したガス(生成ガス11)の温度は1100〜1200℃であった。
【0064】
排出した石炭チャー37の粒子径分布を図4に示す。50重量%平均粒径が百数十μm、最大径が500μmのいわゆる粉状であった。
【0065】
なお、回収チャーの粒子径は石炭種類や脱塵方式にも依存するので、図4よりも平均的に細かいものや、頻度曲線が異なるものもある。
【0066】
本実施例のプロセスによるガス化試験条件と、この試験で生成したチャーの物性値の一例を表1に示す。
【0067】
回収されたチャー1〜4のいずれの場合も、ガス化炉10の下段酸素比を上段酸素比よりも大きく設定した。また、これらチャー1〜4中の炭素割合は、運転条件、石炭の種類で異なってくるが、本ガス化方式ではおおよそ54〜66%であり、比表面積は120〜260m/gであった。
【0068】
従来の吸着材の比表面積としては、例えば特許文献4に記載の活性コークス(17.5mm×13.5mm×9mm)では比表面積は111〜185m/g、非特許文献1の石炭系活性コークスでは108〜498m/g、溶融飛灰は0.8〜4m/g、非特許文献2記載の廃木材は220m/g、廃木材/廃プラスチック混合物は175m/g、古紙/廃プラスチック混合物は145m/gであり、本発明で用いる石炭チャーは活性コークスや活性化処理した廃棄物由来の活性コークス並みの比表面積を有することがわかる。なお、上記従来の吸着材の比表面積データは、本発明品とは異なり、すべて賦活化工程又は2段炭化工程を経た吸着材のデータである。
【0069】
【表1】

【0070】
*1 脱塵装置30中のサイクロンから回収した本発明の炭素質吸着材(試料2と同時に回収)。
*2 脱塵装置30中のフィルターから回収した本発明の炭素質吸着材(試料1と同時に回収)。
*3 脱塵装置30中のサイクロンから回収した本発明の炭素質吸着材。
*4 脱塵装置30中の(サイクロン)から回収した本発明の炭素質吸着材。
*5 1日あたりのガス化炉10への石炭の供給量(トン)。
*6 ガス化炉上段1aに供給される石炭量(トン)に対する酸素量(トン)の比率。
*7 ガス化炉下段1bに供給される石炭量(トン)に対する酸素量(トン)の比率。
*8 回収された本発明吸着材の乾燥試料100g中の灰分の含量(g)、JIS法により測定。
*9 回収された本発明吸着材の乾燥試料100g中の固定炭素の含量(g)、JIS法により測定。
*10 回収された本発明吸着材の比表面積、N−BET法により測定。
*11 回収された本発明吸着材の細孔容積、N吸着法により測定。
【実施例2】
【0071】
上記のようにして得られた本発明の炭素質吸着材の環境汚染物質(ガス)に対する飽和吸着能力を表2に、また比表面積と飽和吸着量の関係を図5に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
*1 105℃のガラス管内にチャー約1gを充填し、SO 2%、HO 7%、N 91%の組成のガスを3L/minで3時間流通させた。その後、400℃でNガスを100ml/minで流通させて吸着していたSOを脱着させ、吸着前後の重量差(吸着後の重量と脱着後の重量との差)により算出。
*2 105℃のガラス管内に本発明吸着材約1gを充填し、クロロベンゼンの飽和空気を300ml/minで19時間流通させ、吸着前後の重量差(吸着後の重量と脱着後の重量との差)により算出。
【0074】
なお、本発明の炭素質吸着材を煙道吹き込み式で用いた場合、排ガスとは短時間でのみの接触となるため、そのダイオキシン吸着量は、二酸化硫黄の吸着量の1%程度と予想され、焼却炉からのダイオキシン濃度を例えば1ng/Nm[標準状態のガス1mあたりのダイオキシンの量(ng)]とすると、本発明吸着材の必要吹き込み量は、1ng/Nm/0.8mg/g=0.00125g/Nmとなる。他方、非特許文献2によれば、泥炭を活性処理し、平均粒径30μmのものを温度200℃で吸着させた結果、0.03〜0.64g/Nmとなったことが記載されており、本発明の炭素質吸着材はこれよりも格段に少なく、吸着性能の高いことがわかる。
【0075】
なお、本発明の炭素質吸着材は賦活化処理されていないのに対し、上記非特許文献2のデータは賦活化処理された吸着材のデータであることも考慮すると、本発明の炭素質吸着材は、簡便に高い吸着性能を得ることができることがわかる。
【実施例3】
【0076】
表2の試料1の本発明吸着材を、前記4.(イ)で説明した図1C’および図3で示される充填層に適用した結果、石炭燃焼排ガス中のSOx濃度が700ppmの場合、ガス空間速度(SV)が200〜400h−1で脱硫率が90%以上であった。また、吸着材再生時間と吸着充填量(吸着塔の大きさ)は現行乾式法と大きな違いはなく、実用的な範囲であった。
【0077】
なお、炭素系脱硫材を用いる公知の乾式脱硫法は、脱硫装置の前段にアンモニアを添加し、脱硫と同時に脱硝も行なう。本発明による炭素質吸着材を用いた場合でも、公知例と同様な操作、作用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の炭素質吸着材は、石炭、バイオマス、石油コークス、有機廃棄物をガス化または燃焼させることにより発生する生成ガス等の中に存在する環境汚染物質を吸着除去するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】Aは石炭ガス化プロセスによる炭素質吸着材の製造方法を示すフローダイアグラムである。Bは廃棄物焼却プロセスを示すフローダイアグラムである。Cは石炭火力発電プロセスを示すフローダイアグラムである。C’は充填層式脱硫プロセスを示すフローダイアグラムである。
【図2】移動層式脱硫装置の概略構成図である。
【図3】充填層式脱硫装置の概略構成図である。
【図4】実施例1の本発明チャー(試料No.1)の粒子径分布である。
【図5】実施例1の本発明のチャー(試料No.1〜4)の比表面積と飽和吸着量の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0080】
1 石炭
1a 上段石炭
1b 下段石炭
2 石炭ガス化剤
10 ガス化炉
11 生成ガス
12 溶融スラグ
20 熱回収器
21 冷却ガス
22 水蒸気
30 脱塵装置
31 脱塵後のガス
32 チャー
35 チャー供給装置
36 ガス化炉供給チャー
37 排出チャー
40 ガス洗浄装置
41 洗浄後のガス
42 洗浄排水
50 脱硫装置
51 精製ガス
52 脱硫済み材
60 再生装置
61 脱着ガス
62 脱硫剤
70 スラグ冷却・分離装置
71 スラグ
72 スラグ冷却排水
80 ダスト分離装置
81 スラグ冷却排水ダスト
82 スラグ冷却用水
83 スラグ冷却余剰水
90 排水処理装置
91 浄化水
92 余剰浄化水
93 ガス洗浄ダスト
100 チャー分級装置
101 炭素質吸着材
200 ごみ焼却炉
201 灰又はスラグ
210 熱回収ボイラ
211 冷却排ガス
212 水蒸気
213 吸着材添加ガス
220 脱塵装置
221 浄化燃焼排ガス
222 吸着済みチャー
300 ボイラ
301 灰
302 水蒸気
303 燃焼排ガス
310 脱硝装置
320 集塵装置I
321 飛散灰
322 脱硫前排ガス
330 脱硫装置
330’ 脱硫装置
331 脱硫済みチャー
332 脱硫済み排ガス
333 供給ホッパ
334 脱硫材供給器
335 脱硫室
336 濾布
337 移動層
337’ 充填層
338 脱硫材排出器
339 回収ホッパ
340 集塵装置II
341 清浄ガス
342 ダスト
350 再生装置
350’ 再生装置
351 再生脱硫材
352 再生排ガス
353 熱風
354 脱硫済み材供給器
355 再生脱硫材排出器
356 再生脱硫材ホッパ
359 粉体コンベア
360 硫酸製造装置
361 硫酸
B1 廃棄物
B2 空気
C1 石炭
C2 空気
V1 排ガス切り替えバルブ
V2 熱風切り替えバルブ
V3 脱硫済みガス切り替えバルブ
V4 再生排ガス切り替えバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭、バイオマス、石油コークス及び有機廃棄物からなる群から選択される1種以上の炭素化合物をガス化炉内でガス化した後、生成ガスを脱塵工程に供して未燃焼炭素(チャー)を捕集することによる炭素質吸着材の製造方法であって、
前記ガス化炉が、前記炭素化合物のための導入口をそれぞれ有する少なくとも2つの互いに温度の異なる温度領域を有し、そのうちの少なくとも1つの温度領域の温度が前記炭素化合物中に存在する灰分の溶融温度以上であり、残りの温度領域の温度が前記灰分の溶融温度未満であり、各温度領域内に、前記の各導入口から前記炭素化合物をガス化剤とともにそれぞれ導入することによってガス化を行なうとともに、前記生成ガスの温度が450℃未満になる前に、前記生成ガスを脱塵工程に供することを特徴とする炭素質吸着材の製造方法。
【請求項2】
前記ガス化剤として、酸素、空気、若しくはそれらの混合物、または酸素、空気、若しくはそれらの混合物に水蒸気を添加したものを用いることを特徴とする請求項1に記載の炭素質吸着材の製造方法。
【請求項3】
前記ガス化炉が、噴流床ガス化炉であることを特徴とする請求項1または2に記載の炭素質吸着材の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の製造方法により製造することができることを特徴とする炭素質吸着材。
【請求項5】
請求項4の炭素質吸着材を用いることを特徴とする環境汚染物質の除去方法。
【請求項6】
前記炭素質吸着材を、さらに賦活化することなく吸着材として用いることを特徴とする請求項5に記載の環境汚染物質の除去方法。
【請求項7】
前記環境汚染物質が、石炭、バイオマス、石油コークスまたは有機廃棄物をガス化または燃焼させることにより発生する生成ガス中に存在するものであることを特徴とする請求項5または6に記載の環境汚染物質の除去方法。
【請求項8】
前記炭素質吸着材を、分級によって粒径調整した後に吸着材として用いることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の環境汚染物質の除去方法。
【請求項9】
前記炭素質吸着材を、煙道吹き込み式吸着除去法の吸着材として用いることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の環境汚染物質の除去方法。
【請求項10】
前記炭素質吸着材を、移動層または充填層として用いることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の環境汚染物質の除去方法。
【請求項11】
前記移動層または充填層がガス濾過材で覆われていることを特徴とする請求項10に記載の環境汚染物質の除去方法。
【請求項12】
前記充填層が吸着塔および脱着塔に備えられ、両塔間に備えられたバルブにより、吸着と脱着を切り替えることができるようにしたことを特徴とする請求項10または11に記載の環境汚染物質の除去方法。
【請求項13】
請求項5〜12の除去方法を行なうことができることを特徴とする環境汚染物質の除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−346541(P2006−346541A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174069(P2005−174069)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【Fターム(参考)】