説明

点眼剤

【課題】速効的かつ強力な鎮痒効果を示し、眼痛や不快な刺激が改善されたクロモグリク酸ナトリウム点眼剤の提供。
【解決手段】クロモグリク酸ナトリウム及びマレイン酸クロルフェニラミンなどの抗ヒスタミン剤にメントールを配合することにより、クロモグリク酸ナトリウムにより誘起される点眼時の刺激性の不快な眼痛を軽減し、抗ヒスタミン剤の有する速効的な鎮痒効果をさらに強化させて眼の痒みを点眼直後から強力に抑制する、新規な点眼剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロモグリク酸ナトリウム、抗ヒスタミン剤及びメントールを含有する、点眼時に不快な刺激感がなく、かつ点眼直後に速効かつ強力な鎮痒効果を持つ点眼剤に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的なアレルギー発症のメカニズムは、次のようなステップで起こることが知られている。すなわち、まず生体にとって、異物である抗原が生体内に侵入する。この抗原に暴露されると、生体はその抗原に対してIgE抗体を産生する。産生されたIgEは肥満細胞の表面に付着し、IgE結合肥満細胞となる。IgE結合肥満細胞ができた生体内に、再び抗原が侵入すると、IgE結合肥満細胞表面で抗原抗体反応が起こり、その結果IgE結合肥満細胞の脱顆粒により、ヒスタミン、ロイコトリエンといった種々の化学伝達物質が遊離する。そして、この化学伝達物質の作用によって、アレルギー反応が生じる。
【0003】
このようなアレルギー反応を抑制するためにこれまでいくつかの薬剤が開発されてきた。例えば、クロモグリク酸ナトリウムは肥満細胞の脱顆粒を抑制し、ヒスタミン等の化学伝達物質の遊離を抑制する抗アレルギー剤である。優れた予防的抗アレルギー剤として、吸入剤、点鼻剤、点眼剤及び内服剤として臨床的に用いられており、特に眼科領域において、我が国ではアレルギー性結膜炎、春期カタルといった疾患に点眼剤として用いられている。しかし、クロモグリク酸ナトリウムはその作用機序が肥満細胞の脱顆粒抑制であるため、既に遊離してしまった化学伝達物質をブロックする効果がなく、速効性の面で劣り、症状の発症の4週間ほど前から投与を開始する必要があった。さらにクロモグリク酸ナトリウム点眼剤には点眼時に眼痛(刺激性の痛み)が生じるという欠点があり(Allergy Immunological and Clinical Aspects, A Wiley Medical Publication及び特開昭61−246117号公報)、眼刺激性の面からも満足のいくものではなかった。
【0004】
このため、クロモグリク酸ナトリウムを含有する抗アレルギー点眼剤に、速効的効果を加味するために遊離されたヒスタミンをブロックする抗ヒスタミン剤との配合点眼剤も開発されている。例えば国内では、クロモグリク酸ナトリウム1.0%と抗ヒスタミン剤であるマレイン酸クロルフェニラミン0.015%の配合点眼剤が臨床試験されたことがある(医学と薬学34(3)507、1995)。また海外では、クロモグリク酸ナトリウムと抗ヒスタミン剤であるマレイン酸クロルフェニラミンの配合剤が用いられている(MARTINDALE The Extra Pharmacopoeia 30th Edition,The Pharmaceutical Press,1993 )。これらのクロモグリク酸ナトリウムと抗ヒスタミン剤の配合点眼剤においては、抗ヒスタミン剤を配合することにより、アレルギー症状の発症後に点眼しても速効性の鎮痒効果が得られる。しかしながら、鎮痒効果が弱いために患者が激しい目の痒みのために眼を掻き崩し眼粘膜の炎症が生じることを防ぐことができなかった。さらに、眼刺激性の軽減についてはなんら検討されていないために、患者は使用時の痛みに耐える必要があった。
【0005】
また、特開昭61−246117号公報は、抗アレルギー点眼剤の点眼時の眼痛を改善するために、重炭酸ソーダ及び硼酸を含む溶媒にクロモグリク酸ナトリウムを溶解し、pHを中性に調整することが好ましいことを開示している。
しかし、特開昭61−246117号公報開示の方法では、予防的かつ速効性にすぐれた抗アレルギー効果を有するクロモグリク酸ナトリウム点眼剤を得ることはできなかった。また、本発明者らが実際に処方し点眼して追試をしたところ、クロモグリク酸ナトリウム点眼剤の眼刺激性は十分に軽減されてはいなかった。
【0006】
一方、メントールを主とする芳香剤が、点眼剤においてしばしば清涼化剤として配合されている。例えば、文献(Research Disclosure 31997)にはクロモグリク酸ナトリウム溶液に芳香剤を加えることにより患者のコンプライアンスがあがることが開示されている。また、欧州特許出願公開第670161号明細書には0.1〜10%のクロモグリク酸ナトリウム、0.005〜0.2%の双環性芳香剤(カンフル、ユーカリ油、またはそれらの混合物)、および水性基剤よりなる医薬組成物が開示されている。
【0007】
しかし、クロモグリク酸ナトリウム、抗ヒスタミン剤及びメントールの3要素を含有した点眼剤はこれまでに開発されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、速効的な鎮痒効果を示し、眼痛や不快な刺激が改善されたクロモグリク酸ナトリウム点眼剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、従来のクロモグリク酸ナトリウム点眼剤が、点眼時において眼痛を生じさせることが問題となっていることから、点眼時の眼痛を軽減することができる成分を見いだすべく、鋭意研究を行った。この結果、本発明者らは、これまで清涼化剤として点眼剤にしばしば用いられてきたメントールが、クロモグリク酸ナトリウム点眼時に生ずる刺激性の不快な眼痛を軽減することができることを見いだした。
【0010】
また、本発明者らは、従来のクロモグリク酸ナトリウムおよび抗ヒスタミン剤からなる点眼剤が速効性は得られるものの、鎮痒効果が弱いために、痒みがすぐにはおさまらず、激しい眼の痒みのために患者が眼を掻き崩して眼粘膜を悪化させる問題点にも着目した。そして、点眼直後から強力な鎮痒効果をもたらす点眼剤配合成分について鋭意研究を行った。この結果、本発明者らは、本発明の点眼剤に配合したメントールが、眼痛の軽減のみならず、抗ヒスタミン剤の有する速効的な鎮痒効果をさらに強化することで、激しい眼の痒みを点眼直後に強力に抑制することができることを見いだした。
【0011】
さらに、メントールの清涼感および香りからもたらされる患者の爽快感及び点眼時の眼痛を軽減できる効果とあいまって、患者の点眼を習慣づける効果をもたらすことを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)クロモグリク酸ナトリウム、抗ヒスタミン剤、及びメントールを含有することを特徴とする点眼剤、
(2)抗ヒスタミン剤がマレイン酸クロルフェニラミンもしくは塩酸ジフェンヒドラミンである(1)に記載の点眼剤、
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、クロモグリク酸ナトリウム、抗ヒスタミン剤及びメントールを含有する点眼剤が提供された。本発明の点眼剤を用いれば、増強された鎮痒効果によって激しい眼の痒みを点眼直後に強力に抑制して、この結果、患者が掻き崩してしまうことによる眼粘膜の悪化を防止することが可能である。また、同時にクロモグリク酸ナトリウム点眼剤の不快な刺激である眼痛を軽減させることが可能である。さらには、メントールのもつ清涼感は患者の使用感を改善し、眼アレルギーの症状である種々の不快症状を速やかに患者から取り去ることができるため、点眼時の眼痛が軽減されることとあいまって、患者の点眼を習慣づけることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の点眼剤の、眼における痒みの抑制効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に用いられるメントールは、文献(第13改正日本薬局方、D1050〜1058)に記載されており、市販のものを使用することも可能である。本発明のメントールはl体、dl体のいずれでも良く、さらにペパーミント油などのメントールを含有する精油なども本発明のメントールに含まれる。
【0016】
本発明に用いられる抗ヒスタミン剤としては、例えば、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸ジフェンヒドラミン、フマル酸クレマスチン、メキタジンなどがあげられるが、安全性および効果の面でより優れたマレイン酸クロルフェニラミン及び塩酸ジフェンヒドラミンが好ましく、安定性の面で優れるマレイン酸クロルフェニラミンが最も好ましい。
【0017】
本発明に使用されるクロモグリク酸ナトリウムは、市販のものを利用することができる。点眼剤中のクロモグリク酸ナトリウムの含量は、通常、0.5〜5%(w/v)である。また、配合される抗ヒスタミン剤の含量は、その種類によっても異なるが、通常、0.005〜0.1%であり、好ましくは0.01〜0.05%である。また、配合されるメントールの含量は、通常、0.001〜0.1%であり、好ましくは0.002〜0.05%である。
【0018】
本発明の点眼剤のpHは、眼科的に許容される範囲であれば特に制限はなく、常法によって、通常、4.0〜7.0程度に調製するが、4.5〜6.0に調製するのがより好ましい。本発明の点眼剤の滲透圧は、常法により、通常、0.5〜5圧比に調製されるが、0.8〜2圧比に調製するのがより好ましい。
【0019】
本発明の点眼剤には、本発明の課題が解決される限りにおいては、さらに緩衝剤、等張化剤、溶解補助剤、保存剤、増粘剤、キレート剤、pH調整剤のような各種添加剤を添加してもよい。
【0020】
添加される保存剤としては、例えば、クロロブタノール、デヒドロ酢酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、フェネチルアルコール、パラオキシ安息香酸エステル類、塩化ベンゼトニウム等が挙げられる。また緩衝剤としては、例えば、ホウ酸緩衝剤、リン酸塩緩衝剤、炭酸塩緩衝剤、酢酸塩緩衝剤などが挙げられる。増粘剤としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、コンドロイチン硫酸およびそれらの塩が挙げられる。溶解補助剤としては、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール、ポリソルベート80、ポリオキシエチレンモノステアレート等が挙げられる。キレート剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、クエン酸などが挙げられる。安定化剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等が挙げられる。さらにpH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸、リン酸、酢酸、塩酸などが挙げられる。
【0021】
本発明の点眼剤の用法・用量は、患者の症状、年齢等により変動するが、通常、1日1〜6回で、1回につき1〜2滴が点眼される。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
[実施例1] 点眼剤
100ml中
クロモグリク酸ナトリウム 1000mg
マレイン酸クロルフェニラミン 15mg
1−メントール 6mg
塩化ベンザルコニウム 2mg
ホウ砂 10mg
ホウ酸 1800mg
滅菌精製水 適 量
全 量 100ml
滅菌精製水を加えて、全量を100mlとし、常法により点眼剤を得る。
【0023】
[実施例2] 点眼剤
100ml中
クロモグリク酸ナトリウム 1000mg
塩酸ジフェンヒドラミン 20mg
1−メントール 6mg
塩化ベンザルコニウム 2mg
ホウ砂 10mg
ホウ酸 1800mg
滅菌精製水 適 量
全 量 100ml
滅菌精製水を加えて、全量を100mlとし、常法により点眼剤を得る。
【0024】
[試験例] 点眼剤におけるメントールの効果
実施例1の点眼剤と、実施例1からl−メントールを欠く点眼剤を調製した。アレルギーの既往症がある成人男女10名を被験者とし、目のアレルギー症状(痒み)が出たときに、左眼にl−メントールを欠く点眼剤、右眼にl−メントールを含む点眼剤を各々1〜2滴点眼し、点眼前(0秒後)及び、点眼後特定の時間に痒みの程度を自己判定し、点眼前の痒みスコアからの変化を経時的に測定した。図1に「各時間における痒みスコアから点眼前の痒みスコアから引いた値」の被験者10名の平均値を示す。痒みの判定基準を表1に示す。また同時に点眼時の眼刺激性に関しても両製剤を比較した。
【表1】

【0025】
この結果、l−メントールを含む本発明の製剤は、対照と比較して点眼直後に強力に目の痒みを抑えることが確認された(図1)。また、目に対する刺激感については、10人中8人が、対照を点眼した後に不快な眼痛があったとしたが、本発明の製剤は痛みを感じることなかったと判定した。
【0026】
なお、抗ヒスタミン剤として、マレイン酸クロルフェニラミン15mgの代わりに塩酸ジフェンヒドラミン20mgを用いて同様の実験を行ったところ、マレイン酸クロルフェニラミンを用いた場合と同様の結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロモグリク酸ナトリウム、抗ヒスタミン剤、及びメントールを含有することを特徴とする点眼剤(但し、メントールの含量が0.001〜0.05%である場合を除く)。

【図1】
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【公開番号】特開2011−157388(P2011−157388A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84979(P2011−84979)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【分割の表示】特願2007−294474(P2007−294474)の分割
【原出願日】平成9年9月26日(1997.9.26)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】