説明

無アルカリガラス基板

【課題】回路形成時にフォトマスクによる補正が可能な大型の無アルカリガラス基板とその製造方法を提供する。
【解決手段】短辺、長辺ともに1500mm以上の無アルカリガラス基板において、常温から10℃/分の速度で昇温し、保持温度450℃で10時間保持し、10℃/分の速度で降温(図1に示す温度スケジュールで熱処理)したときに、基板内の熱収縮率絶対値の最大値と最小値の差が5ppm以内となることを特徴とする。この基板は、成形時の冷却過程において、徐冷点から(徐冷点−100℃)の温度の範囲での平均冷却速度が、板幅方向の中央部分と端部とで100℃/分以内でとなるように調節することで作製可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ、ELディスプレイ等のフラットディスプレイ基板及び、電荷結合素子(CCD)、等倍近接型固体撮像素子(CIS)等の各種イメージセンサー、ハードディスク、フィルター等の基板として適した無アルカリガラス基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイ、ELディスプレイ等のフラットディスプレイの基板として、ガラス基板が広く用いられている。
【0003】
特に薄膜トランジスタ型アクティブマトリックス液晶ディスプレイ(TFT−LCD)等の電子デバイスは、薄型で消費電力も少ないことから、カーナビゲーション、デジタルカメラのファインダー、パソコンのモニターやTV用など、様々な用途に使用されている。
【0004】
液晶ディスプレイを駆動するためには、TFT素子を代表とする駆動素子をガラス基板上に形成する必要がある。TFT素子の製造工程では、ガラス基板上に透明導電膜や絶縁膜、半導体膜、金属膜等を成膜する。さらにフォトリソグラフィ−エッチング工程において、ガラス基板を種々の熱処理や薬品処理で処理する。例えばTFT型アクティブマトリックス液晶ディスプレイでは、ガラス基板上に絶縁膜や透明導電膜を成膜する。さらにアモルファスシリコンや多結晶シリコンのTFT(薄膜トランジスタ)がフォトリソグラフィ−エッチング工程でガラス基板上に多数形成される。このような製造工程において、ガラス基板は300〜600℃の熱処理を受けると共に、硫酸、塩酸、アルカリ溶液、フッ酸、バッファードフッ酸等の種々の薬品による処理を受ける。そのためTFT液晶ディスプレイ用ガラス基板には、以下のような特性が求められる。
【0005】
(1)ガラス中にアルカリ金属酸化物が含有されていると、熱処理中にアルカリイオンが成膜された半導体物質中に拡散し、膜の特性の劣化を招くため、実質的にアルカリ金属酸化物を含有しないこと。
【0006】
(2)フォトリソグラフィ−エッチング工程で使用される酸、アルカリ等の溶液に対する耐性、すなわち耐薬品性に優れていること。
【0007】
(3)成膜、アニール等の工程で、ガラス基板は高温に晒される。その際、ガラス基板の熱収縮率が小さいことが望まれる。つまり熱収縮率が大きいと、基板上に形成される回路のパターンずれが生じてしまうためである。熱収縮率を小さくするという観点から、ガラスの歪点は高い方が有利である。
【0008】
また上記以外にも、TFT液晶ディスプレイ用ガラス基板には以下の特性が要求される。
【0009】
(4)ガラスの溶融工程や成形工程でガラス中に異物が発生しないように、耐失透性に優れていること。特にオーバーフローダウンドロー法等のダウンドロー法によってガラスを成形する場合には、ガラスの耐失透性が重要であり、ガラス成形温度を考慮すると、その液相線温度が1200℃以下であることが要求される。
【0010】
(5)液晶ディスプレイを軽量化するため、密度が低いこと。特にノート型パソコンに搭載されるガラス基板は軽量化の要求が強く、具体的には、2.50g/cm以下であることが要求されている。
【0011】
(6)表面の平坦度が高いこと。例えば液晶ディスプレイは、2枚の薄いガラス基板の間に挟まれた液晶層が、光シャッターとして働き、この層が光を遮蔽したり、透過したりすることで表示が行われる。この液晶層は、数μm〜10数μmと非常に薄い厚みに保持されている。そのため、ガラス基板の表面の平坦度、特にうねりと呼ばれるμmレベルの凹凸は、液晶層の厚み(セルギャップと呼ばれる)に影響を与えやすく、表面のうねりが大きいと、表示ムラ等の表示不良の原因となる。
【0012】
また近年では、液晶ディスプレイでは、高速応答化や高精細化の目的で、セルギャップがより薄くなる傾向にあるため、これに用いられるガラス基板の表面のうねりを低減することがますます重要となってきている。ガラス基板の表面のうねりを低減するために最も有効な方法は、成形後のガラス基板の表面を精密に研磨することであるが、この方法ではガラス基板の製造コストが非常に高くなる。そのため現在では、オーバーフローダウンドロー法やフロート法等の成形法により、できるだけ表面のうねりの小さいガラス基板を成形し、無研磨の状態で、あるいは極く軽い研磨(タッチポリッシュ)を施して出荷されている。
【0013】
これらの特性を満足するために種々のガラス基板が提案されている。(例えば特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平8−811920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ガラス基板の熱収縮率は、上記した通り、小さいほど好ましいとされている。ところが、近年ではガラス基板の熱収縮率を考慮して、回路形成時にフォトマスクによる補正を行う技術が採用されるようになってきている。その結果、中小型のガラス基板であれば、熱収縮率が十分に小さくない場合であっても、パターンずれの問題を解決することができるようになった。しかし、例えば第6世代と呼ばれるような大型のガラス基板(例えば各辺が1500mm以上のガラス基板)では、未だこの技術を採用することが難しい。
【0016】
本発明の目的は、回路形成時にフォトマスクによる補正が可能な大型の無アルカリガラス基板とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は種々の検討を行った結果、基板サイズが大きくなるほど、基板内の熱収縮率のばらつきが大きくなることに着目し、本発明を提案するに至った。
【0018】
即ち、本発明の無アルカリガラス基板は、短辺、長辺ともに1500mm以上の無アルカリガラス基板において、常温から10℃/分の速度で昇温し、保持温度450℃で10時間保持し、10℃/分の速度で降温(図1に示す温度スケジュールで熱処理)したときに、基板内の熱収縮率絶対値の最大値と最小値の差が5ppm以内となることを特徴とする。
【0019】
また本発明の無アルカリガラス基板の製造方法は、ガラス原料を溶融、成形して無アルカリガラス基板を製造する方法であって、成形時の冷却過程において、徐冷点から(徐冷点−100℃)の温度の範囲での平均冷却速度が、板幅方向の中央部分と端部とで100℃/分以内でとなるように調節することを特徴とする。
【0020】
また本発明の無アルカリガラス基板は、上記方法によって製造されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明のガラス基板は、基板内の熱収縮率のばらつきが小さい。それゆえTFT回路を形成する際にフォトマスクによる補正を行うと、基板内の熱収縮が常に一定範囲にあるため、歩留まりよく安定してパターン形成を行うことができる。
【0022】
また本発明の製造方法によれば、上記したガラス基板を容易に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】熱収縮率絶対値を求めるための温度スケジュールを示す説明図である。
【図2】平均冷却速度と熱収縮率絶対値の関係を示すグラフである。
【図3】熱収縮率絶対値を測定する方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
ガラス基板の熱収縮率は、板ガラス成形時の冷却速度に左右される。本発明者等の調査によれば、図2に示すように、高い冷却速度で冷却された板ガラスは熱収縮率が大きく、逆に低い速度で冷却された板ガラスは熱収縮率が小さくなる。またガラス基板は、ガラス成形装置によって連続的に板引きされているので、板引き方向では温度履歴(冷却速度)の変動が少ない。従って板引き方向では熱収縮率差が生じにくい。一方、板幅方向では温度差が生じやすく、特に中央部分と端部の温度履歴(冷却速度)が異なってしまう。それゆえ板幅方向での熱収縮率差が大きい。
【0025】
この傾向は、板幅が大きくなればなるほど顕著になる。つまりガラス基板が大型化するに従って、1枚の基板内での熱収縮率のばらつきが大きくなってしまう。
【0026】
本発明者等の調査によれば、(徐冷点+50℃)の温度から(徐冷点−100℃)の温度の範囲での冷却速度の違いが熱収縮率差を生じさせる原因となっていることが分かった。さらに徐冷点から(徐冷点−100℃)の温度範囲における冷却条件は、フラットパネルディスプレイ基板にとって重要な特性である板厚や歪みには大きな影響を与えないことが判明した。従って徐冷点以上の温度領域で板厚や歪みを制御し、徐冷点から(徐冷点−100℃)の温度範囲(=徐冷領域)での熱収縮率のばらつきを調整すればよい。
【0027】
熱収縮率のばらつきを調整する手段としては、徐冷点から(徐冷点−100℃)の温度範囲において、板幅方向における冷却速度の差を小さくすればよく、具体的にはこの温度範囲において、板幅方向中央部分と端部との冷却速度差を100℃/分以内となるように調節すればよい。冷却速度は、主として板引き速度と徐冷炉内のヒーター加熱によって調整されるが、板幅方向の冷却温度差の調整には、板幅方向のヒーターの電力を調整すればよい。
【0028】
また冷却速度を高くすることによっても、熱収縮率のばらつきを小さくすることができる。つまり図2より、冷却速度が高くなればなるほど熱収縮率は大きくなるが、冷却速度が多少変化しても熱収縮率は殆ど変化しないことが分かる。
【0029】
本発明の製造方法をさらに詳述する。
【0030】
まず所望の組成となるように調合したガラス原料を溶融する。ガラス原料の調合は、その用途に適した特性を有するガラス組成となるように、酸化物、硝酸塩、炭酸塩等のガラス原料、カレット等を秤量し混合すればよい。シリカガラス、ボロシリケートガラス、アルミノシリケートガラス等、ガラスの種類は特に問わないが、これらの中でもダウンドロー法、特にオーバーフローダウンドロー法で成形可能なガラスとなるように調合することが好ましい。ダウンドロー法で成形可能なガラスとは、例えばオーバーフローダウンドロー法の場合、液相粘度が104.5Pa・s以上、好ましくは105.0Pa・s以上のガラスである。なお、液相粘度は結晶が析出する時の粘度であり、液相粘度が高いほどガラス成形時に失透が発生しにくく、製造がしやすくなる。
【0031】
液晶ディスプレイ基板用途に好適なガラス組成としては、後述の通り、質量%でSiO 50〜70%、Al 1〜20%、B 0〜15%、MgO 0〜30%、CaO 0〜30%、SrO 0〜30%、BaO 0〜30%、特に質量%でSiO 50〜70%、Al 10〜20%、B 3〜15%、MgO 0〜15%、CaO 0〜15%、SrO 0〜15%、BaO 0〜15%含有するアルミノシリケート系無アルカリガラス組成が挙げられる。
【0032】
このようにして調合したガラス原料を、ガラス溶融装置に供給して溶融する。溶融温度は、ガラスの種類に応じて適宜調節すればよく、例えば上記組成を有するガラスの場合には、1500〜1650℃程度の温度で溶融すればよい。なお本発明でいう溶融には、清澄、攪拌等の各種工程を含む。
【0033】
次いで溶融ガラスを板ガラス状に成形し、冷却する。ガラス基板内の熱収縮率のばらつきを少なくするためには、上記した通り、成形した板ガラスを室温まで冷却する温度領域での温度履歴を管理する必要がある。特に徐冷点から(徐冷点−100℃)の温度範囲において、冷却速度差が生じないようにすることが重要となる。具体的には、徐冷点から(徐冷点−100℃)の温度範囲での平均冷却速度の差が、板幅方向の中央部分と端部とで100℃/分以内、好ましくは50℃/分以内、さらには20℃/分以内となるように調節すればよい。
【0034】
中央部分と端部の冷却速度の差を小さくする方法として、板幅方向中央部のヒーターの電力を下げる、端部のヒーターの電力を上げる等の方法が採用できる。
【0035】
また基板内の熱収縮率のばらつきをより小さくするために、冷却速度を高くすることが好ましい。具体的には徐冷点から(徐冷点−100℃)の温度の範囲における平均冷却速度を調節すればよい。この温度領域において、板幅方向中央部分の平均冷却速度を200℃/分以上、特に300℃/分以上、さらには350℃/分以上、さらには400℃/分以上、さらには500℃/分以上にすれば、基板内のばらつきが非常に小さいガラス基板を容易に得ることができる。なお高い冷却速度で冷却された板ガラスは、基板中央部の熱収縮率絶対値が大きい板ガラス、具体的には40ppm以上、特に50ppm以上、さらには53ppm以上、さらには55ppm、さらには57ppm以上の熱収縮率絶対値を有する板ガラスとなる。なおガラスに不適切な歪みが発生したり、成形体に過剰な負荷がかったりすることを防止するために、板幅方向中央部分における平均冷却速度の上限は1000℃/分以下であることが好ましい。また本発明における「熱収縮率絶対値」とは、常温から10℃/分の速度で昇温し、保持温度450℃で10時間保持し、10℃/分の速度で降温(図1に示す温度スケジュールで熱処理)したときの基板各部分の熱収縮率を意味する。また「平均冷却速度」とは、ガラスが徐冷領域(徐冷点から(徐冷点−100℃)の温度の範囲)に相当する区域を通過する時間を算出し、徐冷領域内の温度差を、通過時間で除することにより求めた速度を指す。
【0036】
平均冷却速度を変更する最も有効な方法の一つとして、板ガラスの板引き速度を変更する方法がある。板引き速度を上げれば上げるほど、ガラスの熱収縮率絶対値が大きくなり、板引き速度の変動による熱収縮率のばらつきを小さくできる。なお板引き速度を上げるには、成形されたガラスを引き延ばす引っ張りローラーの回転速度を高くすればよい。また成形工程における冷却領域(徐冷炉)がフロート法に比べて極めて短いダウンドロー法の場合は、この温度領域での平均冷却速度を容易に変更することができる。さらにダウンドロー法の一種であるオーバーフローダウンドロー法で成形すれば、表面品位に優れたガラス基板を得ることができ、研磨工程を省略することができるというメリットもある。具体的には、徐冷点から(徐冷点−100℃)の温度の範囲における板引き速度が150cm/分以上であることが好ましく、270cm/分以上、さらには320cm/分以上、特に400cm/分以上とすることが望ましい。また板引き速度の上限は特にないが、成形装置の負荷を考慮すると800cm/分以下とすることが好ましい。なおここで説明する「板引き速度」とは、ガラス基板の板幅方向中央部分が徐冷領域(徐冷点から(徐冷点−100℃)の温度の範囲にある領域)を通過する速度の平均を意味する。
【0037】
なおダウンドロー法で成形する場合、徐冷炉内では板幅方向中央部分に比べて端部の温度が低下しやすい。つまり中央部分は保温性がよいが、端部は熱が逃げやすい。従って板幅方向の冷却速度が一定となりにくく、板幅方向の熱収縮率に大きなばらつきが生じる傾向がある。それゆえ、ダウンドロー法で成形する場合、本発明方法を採用するメリットが大きいと言える。
【0038】
またガラスの板幅方向の距離が長くなると、得られるガラス基板の熱収縮率のばらつき大きくなりやすい。つまりガラスの有効幅が1500mm以上、特に1800mm以上となるように成形する場合には、成形時の冷却工程において、板幅方向での温度差が大きくなり易く、熱収縮率のばらつきが大きくなる傾向にある。それゆえ、大型のガラス基板を成形しようとする場合、本発明方法を採用するメリットが大きいと言える。
【0039】
その後、板状に成形されたガラスは、所定のサイズに切断された後、端面処理、洗浄等必要な処理が施される。
【0040】
このようにして熱収縮率のばらつきが小さいガラス基板を得ることができる。
【0041】
次に、上記のようにして得られる本発明のガラス基板について説明する。
【0042】
本発明のガラス基板は、1枚の基板内での熱収縮率のばらつきが小さいという特徴がある。具体的には、常温から10℃/分の速度で昇温し、保持温度450℃で10時間保持し、10℃/分の速度で降温(図1に示す温度スケジュールで熱処理)したときに、基板内の熱収縮率絶対値の最大値と最小値の差が5ppm以内、好ましくは3ppm以内、さらに好ましくは1ppm以内となる。基板内の熱収縮率絶対値の最大値と最小値の差が5ppmを超える場合は、基板内でのパターンずれの差が大きくなり、フォトマスクによる補正が困難になって表示装置の生産性が著しく低下する。なお基板内の熱収縮率差を小さくするには、徐冷点から(徐冷点−100℃)の温度範囲における平均冷却速度が、ガラスの板幅方向中央部分と端部とで大きく相違しないように調節すればよい。
【0043】
本発明の対象とするガラス基板は、短辺、長辺ともに1500mm以上、特に1800mm以上、さらには2000mm以上の無アルカリガラス基板である。このような大型のガラス基板では、熱収縮率のばらつきに対する要求が一層厳しくなる。つまり熱収縮率絶対値のばらつきが同じである場合、大型のガラス基板は小型基板に比べて、熱収縮による寸法変化のばらつきが大きくなる。それにもかかわらず、大型の基板を製造する際には、成形時の冷却工程において、板幅方向での温度差が大きくなり易く、熱収縮率のばらつきが大きくなる傾向にある。それゆえ、1枚の基板内での熱収縮率のばらつきを小さくすることが重要となる。
【0044】
また本発明の対象となるガラス基板は、高い冷却速度で作製されるガラス基板(即ち、熱収縮率絶対値が高いガラス基板)であればあるほど、1枚の基板内での熱収縮率のばらつきを小さくすることができる。つまり冷却速度が高いガラス基板は、ガラスの熱収縮率絶対値が大きくなる一方で、冷却速度が多少変動しても熱収縮率が殆ど変化しなくなり、基板内の熱収縮率差が小さくなるためである。なお高い冷却速度で作製されたガラス基板とは、徐冷点から(徐冷点−100℃)の温度の範囲における平均冷却速度が、板幅方向中央部分で200℃/分以上、特に300℃/分以上、さらには350℃/分、さらには400℃/分以上、さらには500℃/分以上で作製されたガラス基板であり、或いは基板中央部(重心付近)の熱収縮率絶対値が40ppm以上、特に50ppm以上、さらには53ppm以上、さらには55ppm以上、57ppm以上となるガラス基板である。またガラスの熱収縮率絶対値を高くすれば、冷却速度が多少変化しても熱収縮率が殆ど変わらないため、基板同士の熱収縮率のばらつきも小さいというメリットがある。
【0045】
またガラス基板の熱収縮率絶対値が同じであれば、ガラス基板の歪点が高いほど熱収縮率変化量が小さくなる傾向にある。それゆえガラスの歪点は高い方が有利であると言える。具体的には、ガラスの歪点が630℃以上、特に650℃以上であることが好ましい。
【0046】
また本発明のガラス基板を構成する無アルカリガラスは、その用途に適したガラスであればシリカガラス、ボロシリケートガラス、アルミノシリケートガラス等、種々のガラスが使用可能である。中でもオーバーフローダウンドロー法で成形可能なガラスからなることが好ましい。つまり、オーバーフローダウンドロー法で成形されたガラス基板は、表面品位に優れており、研磨することなく使用に供することができるというメリットもある。なおダウンドロー法で成形されたガラス基板は、一般に板幅方向の冷却速度が一定になりにくいことから、基板内に熱収縮率のばらつきが生じやすいという傾向がある。そこで、基板内の熱収縮率のばらつきが一定範囲内となるように調節することが非常に重要となる。
【0047】
ダウンドロー法で成形可能なガラスとは、例えばオーバーフローダウンドロー法の場合、液相粘度が104.5Pa・s以上、好ましくは105.0Pa・s以上のガラスである。
【0048】
また液晶ディスプレイ基板用途に好適なガラスとしては、質量%でSiO 50〜70%、Al 1〜20%、B 0〜15%、MgO 0〜30%、CaO 0〜30%、SrO 0〜30%、BaO 0〜30%、好ましくは質量%でSiO 50〜70%、Al 10〜20%、B 3〜15%、MgO 0〜15%、CaO 0〜15%、SrO 0〜15%、BaO 0〜15%含有するアルミノシリケート系無アルカリガラスが挙げられる。この範囲内であれば、上記要求特性を満たすガラス基板を得ることが可能である。
【0049】
SiOはガラスのネットワークフォーマーとなる成分である。SiOの含有量が70%より多いと高温粘度が高くなり溶融性が悪くなり、また失透性も悪くなるため好ましくない。50%より少ないと化学的耐久性が悪くなるため好ましくない。
【0050】
Alは歪点を上げる成分である。Alの含有量が20%より多いと失透性およびバッファードフッ酸に対する化学的耐久性が悪くなるため好ましくない。一方、1%より少ないと歪点が下がるため好ましくない。好ましくは10〜20%である。
【0051】
は融剤として作用しガラスの溶融性を改善する成分である。Bの含有量15%より多いと歪点が下がり塩酸に対する耐薬品性が悪くなるため好ましくない。一方、少なすぎると高温粘度が高くなり溶融性が悪くなる。好ましくは3〜15%である。
【0052】
またMgOは高温粘性を下げガラスの溶融性を改善する成分であり、0〜30%、特に0〜15%であることが好ましい。MgOの含有量が多すぎると失透性が悪くなりバッファードフッ酸に対する化学的耐久性も悪くなる。
【0053】
CaOも、MgOと同じく、高温粘度を下げガラスの溶融性を改善する成分であり、その含有量は0〜30%、特に0〜15%であることが好ましい。CaOの含有量が多すぎると失透性が悪くなりバッファードフッ酸に対する化学的耐久性も悪くなるため好ましくない。
【0054】
SrOは失透性および化学的耐久性を向上させる成分である。SrOの含有量が30%より多いと密度が大きくなり、高温粘度が高くなり溶融性が悪くなるため好ましくない。
好適な範囲は0〜15%である。
【0055】
BaOもSrOと同じく、失透性および化学的耐久性を向上させる成分であり、0〜30%、特に0〜15%であることが好ましい。BaOの含有量が多すぎると密度が大きくなり、高温粘度が高くなり溶融性が悪くなるため好ましくない。
【0056】
なお上記以外にも種々の成分、例えば清澄剤等を必要に応じて添加することができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。
【0058】
まず質量%でSiO 60%、Al 15%、B 10%、MgO 0%、CaO 5%、SrO 5%、BaO 2%の組成となるようにガラス原料を調合し、混合した後、連続溶融炉にて最高温度1650℃で溶融した。さらに溶融ガラスを、表1に示す種々の条件でオーバーフローダウンドロー法にて板状に成形し、徐冷した。その後、板状ガラスを切断することにより、1500×1800×0.65mmの大きさの無アルカリガラス基板を得た。このガラス基板は、歪点が650℃、徐冷点が705℃、液相粘度が105.0Pa・sの特性を有していた。なお歪点および徐冷点はファイバーエロンゲーション法で確認した。ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度、すなわち液相温度を測定し、その温度に相当する高温粘度から求めた。なお高温粘度は白金球引き上げ法で測定した。
【0059】
得られたガラス基板について、板幅方向中央部及び端部におけるガラスの熱収縮率を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1より、板幅方向中央部と端部の冷却速度の差が小さいほど、また冷却速度が速いほど、基板内の熱収縮率のばらつきが小さいことが分かる。
【0062】
なお板引き速度とは、連続的に成形されるガラス基板の板幅方向中央部が徐冷領域を通過する速度を指し、本実施例においては板幅方向中央部分の徐冷領域の中間点(徐冷点−50℃に相当する位置)に測定用ローラを当接させて測定したものである。徐冷領域とは、板幅方向各部分において、徐冷点から(徐冷点−100℃)の温度の範囲に相当する領域を意味し、本実施例では、705℃から605℃へ降温される領域を指す。また平均冷却速度とは、ガラスが徐冷領域に相当する区域を通過する時間を算出し、中央部又は端部の徐冷領域内の温度差を、通過時間で除することにより求めた速度を指す。
【0063】
熱収縮率絶対値は、以下の方法で測定した。まず得られたガラス基板の中央部分、及び中央部分から端部側に900mm離れた位置に対応する場所(端部)からガラス板試料をそれぞれ切り出し、図3(a)に示すようにガラス板1の所定箇所に直線状のマーキングを入れた後、ガラス板1をマーキングに対して垂直に折り、2つのガラス板片1a、1bに分割する。そして一方のガラス板片1aのみに、図1に示す温度スケジュールで熱処理(常温から10℃/分の速度で昇温し、保持温度450℃で10時間保持し、10℃/分の速度で降温)を施す。その後、図3(b)に示すように熱処理を施したガラス板片1aと、未処理のガラス板片1bを並べて接着テープ(図示せず)で両者を固定してから、マーキングのずれを、レーザー顕微鏡にて測定し、下記の式1を用いて求める。なお式1中のlはマーキング間の距離を、△L及び△Lはマーキングの位置ズレ量を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
短辺、長辺ともに1500mm以上の無アルカリガラス基板において、常温から10℃/分の速度で昇温し、保持温度450℃で10時間保持し、10℃/分の速度で降温(図1に示す温度スケジュールで熱処理)したときに、基板内の熱収縮率絶対値の最大値と最小値の差が5ppm以内となることを特徴とする無アルカリガラス基板。
【請求項2】
常温から10℃/分の速度で昇温し、保持温度450℃で10時間保持し、10℃/分の速度で降温したときに、基板中央部分における熱収縮率絶対値が40ppm以上となることを特徴とする請求項1の無アルカリガラス基板。
【請求項3】
オーバーフローダウンドロー法で成形されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の無アルカリガラス基板。
【請求項4】
質量%でSiO2 50〜70%、Al23 1〜20%、B23 0〜15%、MgO 0〜30%、CaO 0〜30%、SrO 0〜30%、BaO 0〜30%含有することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の無アルカリガラス基板。
【請求項5】
ガラス原料を溶融、成形して無アルカリガラス基板を製造する方法であって、成形時の冷却過程において、徐冷点から(徐冷点−100℃)の温度の範囲での平均冷却速度が、板幅方向の中央部分と端部で100℃/分以内の差となるように調節することを特徴とする無アルカリガラス基板の製造方法。
【請求項6】
有効幅が1500mm以上となるようにガラスを成形することを特徴とする請求項5に記載の無アルカリガラス基板の製造方法。
【請求項7】
オーバーフローダウンドロー法で成形することを特徴とする請求項5又は6に記載の無アルカリガラス基板の製造方法。
【請求項8】
質量%でSiO2 50〜70%、Al23 1〜20%、B23 0〜15%、MgO 0〜30%、CaO 0〜30%、SrO 0〜30%、BaO 0〜30%含有する無アルカリガラス基板を製造することを特徴とする請求項5〜7の何れかに記載の無アルカリガラス基板の製造方法。
【請求項9】
請求項5〜8の何れかの方法によって製造されてなることを特徴とする無アルカリガラス基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−136431(P2012−136431A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−83710(P2012−83710)
【出願日】平成24年4月2日(2012.4.2)
【分割の表示】特願2007−1922(P2007−1922)の分割
【原出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】