説明

無人搬送車及びその制御方法

【課題】搬送効率を低下させることなく、モータの焼きつきを防止する。
【解決手段】4つの走行ユニット4〜7は、走行駆動輪を駆動する駆動モータ12、及び駆動モータ12を駆動するドライバ30をそれぞれ備えている。ドライバ30は、駆動モータ12の負荷状態を判別する判別回路を備えている。そして、ドライバ30は、判別回路によって駆動モータ12が過負荷状態であると判別された場合には、無人搬送車1全体を制御する車両制御部20に備えられたトルク制限部27への警告信号の送信を開始し、過負荷状態が解消されたと判別されると、警告信号の送信を停止する。トルク制限部27は、警告信号を受信している間は、該警告信号を送信したドライバ30に対して、駆動モータ12のトルクを所定の第2閾値以下に制限するトルクリミット信号を送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の走行駆動輪を有する無人搬送車及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ制御によって無人で自動走行する無人搬送車の一例として、特許文献1には、液晶表示パネルの製造工場において、製造装置間や製造装置とストッカとの間でガラス基板の搬送を行う無人搬送車が開示されている。近年の液晶用ガラス基板の大型化・重量化に対応すべく、特許文献1に開示されている無人搬送車は、複数の走行駆動輪を有している。
【0003】
ところで、上述のように複数の走行駆動輪を有する無人搬送車では、車輪径の誤差や各駆動輪の制御誤差等によって、各駆動輪間の負荷バランスが崩れてしまうことがある。このような場合には、1つの走行駆動輪に負荷が集中し、該走行駆動輪を駆動するモータが過負荷状態となる。過負荷状態のままモータを稼動させ続けると、モータが焼きついてしまう。とりわけ、非搬送物が高重量である場合には、各駆動輪間の負荷バランスが崩れた際に、1つの走行駆動輪に過大な負荷が集中することとなるので、上記問題が顕著である。
【0004】
そこで、複数の走行駆動輪を有する無人搬送車では、各駆動輪間の負荷バランスを保つべく、1つの駆動輪をマスタ輪、他の駆動輪をスレーブ輪とし、可能な限り高精度に測定した各車輪径の誤差を考慮しつつ、スレーブ輪がマスタ輪の動きに追従するような制御を行う。しなしながら、実際には車輪径の測定精度の誤差を完全に無くすことはできない。また、制御誤差や走行路面の凹凸等の要因もあり、各駆動輪間の負荷バランスを保つことができない場合がある。
【0005】
また、特許文献2には、モータの過負荷状態を認識する手段を備えており、一定時間過負荷状態が継続した場合に、モータの駆動を停止するモータ保護機構が開示されている。このようなモータ保護機構を採用することにより、上述のように1つの走行駆動輪に負荷が集中した場合であっても、モータが焼きついてしまうのを防ぐことができる。
【特許文献1】特開2006−1335号公報
【特許文献2】特開平9−284991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、複数の走行駆動輪間の負荷バランスが崩れ、モータが過負荷状態となる度にモータの稼動を停止させていたのでは、無人搬送車の搬送効率が著しく低下してしまう。
【0007】
そこで、本発明の目的は、搬送効率を低下させることなく、モータの焼きつきを防止することができる無人搬送車及びその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の無人搬送車は、走行経路に沿って走行し、被搬送物を搬送する無人搬送車であって、複数の走行駆動輪と、前記複数の走行駆動輪をそれぞれ駆動する複数のモータと、前記モータの負荷状態を判別する判別手段と、複数の前記モータのうちの少なくとも1つが、前記判別手段によって過負荷状態であると判別された場合に、当該モータのトルクを、過負荷状態を解消することができる解消閾値以下に制限し、前記判別手段によって過負荷状態が解消されたと判別された場合に、制限を解除するトルク制限手段とを備えている。
【0009】
また、本発明の無人搬送車の制御方法は、複数の走行駆動輪と、前記複数の走行駆動輪をそれぞれ駆動する複数のモータとを備えており、走行経路に沿って走行し、被搬送物を搬送する無人搬送車の制御方法であって、前記モータの負荷状態を判別する判別工程と、複数の前記モータのうちの少なくとも1つが、前記判別工程で過負荷状態であると判別された場合に、当該モータのトルクを、過負荷状態を解消することができる解消閾値以下に制限するトルク制限工程と、前記トルク制限工程による制限が行われている間において、前記判別工程で過負荷状態が解消されたと判別された場合に、前記トルク制限工程による制限を解除するトルク制限解除工程とを備えている。
【0010】
なお、「過負荷状態」とは、そのままの状態で稼動し続けると温度が上昇し続け、焼きついてしまう虞がある状態を意味する。また、「過負荷状態を解消することができる解消閾値」とは、少なくとも過負荷状態となったモータの温度を低下させることができるトルクの大きさを意味する。
【0011】
これらの構成によると、過負荷状態となったモータのトルクを低下させ、モータの焼きつきを防止することができる。また、複数のモータのうちの一部が過負荷状態となった場合には、他のモータに負荷が分散されることになるので、過負荷状態のモータに加わる負荷が低減される。ここで、過負荷状態となったモータは、解消閾値以下のトルクで稼動し続けているので、該モータに加わる負荷が低減されることにより、解消閾値以下のトルクであっても走行駆動輪に搬送力を付与できることがある。よって、モータが過負荷状態となった場合であっても無人搬送車の走行を続行し、搬送効率の低下を抑制することができる。
【0012】
本発明の無人搬送車では、前記モータのトルクを検出するトルク検出手段をさらに備えており、前記判別手段が、前記トルク検出手段による検出値に基づいて前記モータの負荷状態を判別する。この構成によると、容易に過負荷状態であるか否かを判別することができる。
【0013】
本発明の無人搬送車は、前記判別手段が、前記モータの負荷状態を判別するための判別値を記憶する判別値記憶手段と、前記トルク検出手段による検出値が前記過負荷閾値以上である際に、前記トルク検出手段による検出値から前記過負荷閾値閾値を引いた差の時間積分値を算出する第1積分手段と、前記第1積分手段によって算出された時間積分値を前記判別値に加算する加算手段と、前記トルク検出手段による検出値が前記解消閾値以下である際に、前記解消閾値から前記トルク検出手段による検出値を引いた差の時間積分値を算出する第2積分手段と、前記第2積分手段によって算出された時間積分値を前記判別値から減算する減算手段と、前記判別値がその初期値以下となった場合に、前記判別値を初期値とするリセット手段とを備えており、前記トルク制限手段が、前記判別値が所定のトルク制限値以上となった場合に、前記モータのトルクを前記解消閾値以下に制限する。
【0014】
この構成によると、トルクの変動が激しく、過負荷閾値以上になったり過負荷閾値より小さくなったりを繰り返す場合や、解消閾値以下となって、一旦上昇したモータの温度が低下した後、再度過負荷閾値以上となるような場合であっても、確実に過負荷状態か否かを判別することができる。
【0015】
本発明の無人搬送では、前記トルク制限手段が、前記判別値がその初期値以下となった場合に、前記モータのトルクを前記解消閾値以下にする制限を解除する。この構成によると、確実に過負荷状態が解消されたか否かを判別することができる。
【0016】
本発明の無人搬送車は、前記判別手段を有しており前記モータを駆動する駆動回路と、前記駆動回路から送信された信号を前記トルク制限手段に伝達する第1信号線と、前記トルク制限手段から送信された信号を前記駆動回路に伝達する第2信号線とをさらに備えている。そして、前記駆動回路が、前記判別手段によって前記モータが過負荷状態であると判別された場合に、前記第1信号線に警告信号を出力し、前記第1信号線を介して前記警告信号を受信した前記トルク制限手段が、該警告信号が送信された前記駆動回路に接続された前記第2信号線に前記モータのトルクを前記解消閾値以下に制限するトルク制限信号を出力する。
なお、第1信号線と第2信号線は、信号をデジタル化することで、双方向の1つの信号線とすることもできる。
【0017】
また、本発明の無人搬送車の制御方法は、前記無人搬送車の動きを制御する制御回路、及び複数の前記モータをそれぞれ駆動する複数の駆動回路とをさらに備えた前記無人搬送車の制御方法であって、前記判別工程で過負荷状態であると判別された場合に、前記駆動回路から前記制御回路への警告信号の送信を開始する警告信号送信開始工程と、前記トルク制限工程による制限が行われている間において、前記判別工程で過負荷状態が解消されたと判別された場合に、前記警告信号の送信を停止する警告信号送信停止工程と、前記駆動回路から前記制御回路への警告信号の送信が行われている間に、前記制御回路から該警告信号を送信している前記駆動回路へ、前記モータのトルクを前記解消閾値以下に制限するトルク制限信号を送信する制限信号送信工程とを備えている。
【0018】
これらの構成によると、複数のモータに対するトルク制限の指示及びその解除を統括的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好適な一実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施の形態にかかる無人搬送車の概略構成を示す上面図である。図2は、図1に示す無人搬送車の下面図である。
【0020】
本実施の形態の無人搬送車1は、液晶表示パネルの製造工場等で使用されるものであって、図1に示すように、工場の床面に張り巡らされており、一方向(図1、2中矢印Aで示す方向)に延びる誘導線80およびこれに直交する方向(図1、2中矢印Bで示す方向)に延びる誘導線82に沿って走行する。本実施の形態においては、誘導線80、82は磁気テープ等の磁性体によって構成されている。さらに、誘導線80の近傍には、製造装置やストッカが設置されている(図示せず)。無人搬送車1の荷台2には、ガラス基板が収納されたカセット70が載置されるようになっている。無人搬送車1は、工場内におけるカセット70の搬送を制御するシステムコントローラ90(図3参照)からの搬送指示を受信し、製造装置間や製造装置とストッカとの間でカセット70の搬送を行う。
【0021】
図2に示すように、無人搬送車1は4つの走行ユニット4〜7を備えている。走行ユニット4、5は、無人搬送車1の走行方向の一端側(図2中左側)における両側部近傍にそれぞれ設けられており、走行ユニット6、7は、走行方向の他端側(図2中右側)における両側部近傍にそれぞれ設けられている。各走行ユニット4〜7は、いずれも駆動モータ12によって駆動される走行駆動輪11を備えている。本実施の形態の駆動モータ12は、アウターロータ型であり、走行駆動輪11は駆動モータ12のアウターの外周に設けられている。また、駆動モータ12は図示しない支持部材に支持されており、支持部材は無人搬送車1のフレーム3の底面に固定された操舵モータ13(図3参照)により回転される操舵軸と一体化している。すなわち、本実施の形態においては、全ての走行ユニット4〜7が、駆動機構と操舵機構とを有している。
【0022】
また、無人搬送車1のフレーム3の底面には、いずれも磁気センサである前後進用ガイドセンサ8、及び横行用ガイドセンサ9が設けられている。前後進用ガイドセンサ8は、無人搬送車1の幅方向中央において走行方向を検出するように設けられる。すなわち、前後進用ガイドセンサ8によって誘導線80が検出された際に、走行方向がA方向であると検出される。加えて、前後進用ガイドセンサ8によって、磁性体で構成された誘導線80に対する無人搬送車1の左右方向のズレを検出することができる。したがって、該ズレがゼロとなるように操舵モータ13(図3参照)を制御することによって、無人搬送車1を所定の経路に沿って走行させることができる。さらに、無人搬送車1は分岐点83において、前後進用ガイドセンサ8を作動させるA方向走行から、横行用ガイドセンサ9を作動させるB方向走行に切り替えることができる。すなわち、B方向に走行している際には、横行用ガイドセンサ9によって誘導線82の検出が行われる。なお、誘導線82を走行する無人搬送車1の車体の走行姿勢は、車体の長手方向をA方向に向けた状態のままで横行となる。
【0023】
ここで、図3を参照しつつ、本実施の無人搬送車1のシステム構成について説明する。無人搬送車1全体の動きは車両制御部20によって制御される。図3に示すように、車両制御部20は、地図情報記憶部21、現状認識部22、経路生成部23、トラッキング制御部24、マスタ輪制御部25、スレーブ輪制御部26、及びトルク制限部27を備えている。
【0024】
地図情報記憶部21には、工場内における無人搬送車1の走行経路、すなわち床面に張り巡らされた誘導線80、82の態様、及び製造装置やストッカの配置が記憶されている。現状認識部22は、無人搬送車1の現在の状態を認識することができる。具体的には、現状認識部22は、走行ユニット4〜7にそれぞれ設けられた車軸エンコーダ14及び操舵エンコーダ15の検出結果から、無人搬送車1の速度、位置、及び姿勢を算出する。なお、車軸エンコーダ14は、走行駆動輪11を駆動する駆動モータ12の駆動軸の回転速度を検出するものであり、操舵エンコーダ15は、走行駆動輪11の操舵を行う操舵モータ13の操舵軸の回転角度、すなわち操舵角を検出するものである。また、現状認識部22は、上述の前後進用ガイドセンサ8、横行用ガイドセンサ9、及び無人搬送車1に取り付けられており無人搬送車1の姿勢角を検出するジャイロセンサ10の検出結果から、上述のように車軸エンコーダ14及び操舵エンコーダ15の検出結果から算出された位置及び姿勢を補正する。
【0025】
経路生成部23は、システムコントローラ90からの搬送指示を受信し、地図情報記憶部21に記憶されている情報、及び現状認識部22によって認識された無人搬送車1の状態から、無人搬送車1が走行すべき目標経路を生成する。トラッキング制御部24は、経路生成部23で生成された目標経路の情報、及び現状認識部22によって認識された無人搬送車1の状態から、目標経路に沿って精度よく走行するための無人搬送車1における車体中心の設定速度及び設定姿勢を決定する。
【0026】
マスタ輪制御部25は、トラッキング制御部24によって決定された設定条件に基づいて、4つの走行ユニット4〜7のうちの1つ、本実施の形態においては走行ユニット4、の走行駆動輪11をマスタ輪とし、該マスタ輪の動きを制御するドライバ30に対して、指令値を送信する。スレーブ輪制御部26は、走行ユニット4に設けられた車軸エンコーダ14及び操舵エンコーダ15の検出結果であるマスタ輪の回転速度及び操舵角に基づいて、スレーブ輪である走行ユニット5〜7の走行駆動輪11の駆動を制御する各ドライバ30に対して指令値を送信する。より詳細には、スレーブ輪制御部26は、走行ユニット5〜7の走行駆動輪11が、マスタ輪である走行ユニット4の走行駆動輪11の動きに追従するように制御する。なお、スレーブ輪制御部26は、各走行駆動輪11の径の誤差を考慮して制御を行う。これにより、4つの走行駆動輪11間における干渉の軽減を図っている。
【0027】
トルク制限部27は、走行ユニット4〜7の各走行駆動輪11を駆動する駆動モータ12のいずれかが過負荷状態となった際に、該駆動モータ12のトルクを後述する第2閾値Tb以下に制限するトルクリミット信号を出力し、他の駆動モータ12に負荷を分散させるように制御する。
【0028】
なお、上述のように、本実施の形態の無人搬送車1においては、駆動モータ12に取り付けられた車軸エンコーダ14や操舵モータ13に取り付けられた操舵エンコーダ15の検出結果から認識された現在の状態に基づいて、駆動モータ12や操舵モータ13の制御を行う、いわゆるフィードバック制御が行われている。したがって、例えば、トルク制限部27の制御によって、ある駆動モータ12に対してトルクリミット信号が出力され、該駆動モータ12のトルクが第2閾値Tb以下に制限された場合であっても、制限によって減少する搬送力を他の駆動モータ12のトルクを増すことによって補い、無人搬送車1がトラッキング制御部24で決定された設定速度で走行できるようになっている。
【0029】
次に、図4を参照しつつ、駆動モータ12及び操舵モータ13の駆動を制御することによって、走行駆動輪11の動きを制御するドライバ30について、より詳細に説明する。なお、走行ユニット4〜7の各ドライバ30の構成は、いずれもほぼ同様であるので、本実施の形態においては走行ユニット4のドライバ30について説明する。図4に示すように、ドライバ30は、トルク検出器32、判別回路33、信号出力部34、及び駆動制御部35を備えている。なお、車両制御部20のトルク制限部27は、ドライバ30の信号出力部34及び駆動制御部35とそれぞれ信号線51、52を介して接続されている。また、車両制御部20のマスタ輪制御部25は、ドライバ30の駆動制御部35と信号線53を介して接続されている。
【0030】
トルク検出器32は、駆動モータ12に印加される電流値に基づいて、駆動モータ12から出力されるトルクを検出する。判別回路33は、トルク検出器32によって検出された駆動モータ12のトルクに基づいて、該駆動モータ12の負荷状態を判別する。すなわち、駆動モータ12が過負荷状態であるか否か、また一旦過負荷状態であると判別した場合には、過負荷状態が解消されたか否かを判別する。
【0031】
ここで、判別回路33について、より詳細に説明する。図4に示すように、判別回路33は、第1積分器41、第2積分器42、判別値記憶部43、加算器44、減算器45、リセット部46、及び比較器47を備えている。
【0032】
第1積分器41は、図5に示すように、トルク検出器32で検出された駆動モータ12のトルクが第1閾値Ta以上である際に、トルク検出器32の検出値から第1閾値Taを引いた差の時間積分値、すなわち図5中斜線部分の面積、を算出する。一方、第2積分器42は、駆動モータ12のトルクが第1閾値Taよりも小さな第2閾値Tb以下である際に、第2閾値Tbからトルク検出器32の検出値を引いた差の時間積分値、すなわち図5中網掛け部分の面積、を算出する。なお、第1閾値Taは、その値以上のトルクで駆動モータ12を駆動し続けた場合、駆動モータ12の温度が上昇し焼きついてしまう値に設定されている。一方、第2閾値Tbは、駆動モータ12のトルクがその値以下のトルクである場合、一旦過負荷状態となり温度が上昇した駆動モータ12の温度が低下するような値に設定されている。
【0033】
判別値記憶部43は、駆動モータ12の負荷状態を判別するための判別値を記憶する。ここで、本実施の形態では、判別値記憶部43に記憶される判別値の初期値はゼロである。加算器44は、第1積分器41で算出された時間積分値を判別値記憶部43に記憶されている判別値に加算する。減算器45は、第2積分器42で算出された時間積分値を判別値記憶部43に記憶されている判別値から減算する。リセット部46は、判別値記憶部43に記憶されている判別値が初期値以下となった場合、すなわち本実施の形態においてはゼロ以下となった場合に、判別値を初期値にリセットする。
【0034】
比較器47は、判別値記憶部43に記憶されている判別値を所定のトルク制限値と比較する。トルク制限値とは、駆動モータ12が過負荷状態であるか否かを判別するための基準値である。すなわち、判別値がトルク制限値以上である場合には、過負荷状態であると判別される。また、比較器47は、過負荷状態であると判別した後に、判別値記憶部43に記憶されている判別値を所定のトルク制限解除値と比較する。トルク制限解除値とは、一旦過負荷状態と判別された駆動モータ12が正常な状態に戻ったか否かを判別するための基準値であり、本実施の形態では判別値の初期値に等しい。よって、判別値がトルク制限値以下である場合には、過負荷状態が解消されたと判別される。
【0035】
また、信号出力部34は、判別回路33によって駆動モータ12が過負荷状態であると判別されている間、車両制御部20のトルク制限部27に対して信号線51を介して警告信号を出力する。駆動制御部35は、マスタ輪制御部25から信号線53を介して送信された指令値に基づいて、駆動モータ12及び操舵モータ13の駆動を制御する。さらに、駆動制御部35は、信号線52を介してトルク制限部27から送信されたトルクリミット信号を受信した場合には、駆動モータ12のトルクを第2閾値Tb以下に制限する。なお、駆動制御部35は、マスタ輪制御部25からの指令よりも、トルク制限部27からの指令を優先する。
【0036】
続いて、ドライバ30における処理手順を示す図6を参照しつつ、本実施の形態の無人搬送車1における駆動モータ12のトルクの制御方法について説明する。
【0037】
まず、トルク検出器32が駆動モータ12のトルクを検出する(S1)。次に、ステップS1で検出された検出値が第1閾値Ta以上であるか否かが判別され、検出値が第1閾値Ta以上である場合には(S2:YES)、第1積分器41によって、ステップS1で検出された検出値から第1閾値Taを引いた差の単位時間当たりの積分値の算出が行われる(S3)。さらに、加算器44によって、ステップS3で算出された時間積分値が判別値記憶部43に記憶されている判別値に加算される(S4)。
【0038】
続いて、比較器47によって、判別値記憶部43に記憶されている判別値とトルク制限値とが比較され、判別値がトルク制限値以上であるか否かが判断される(S5)。ここで、判別値がトルク制限値以上でない、すなわち駆動モータ12が過負荷状態ではないと判別された場合には(S5:NO)、後述するステップS17に進む。一方、判別値がトルク制限値以上である、すなわち駆動モータ12が過負荷状態であると判別された場合には(S5:YES)、信号出力部34によってトルク制限部27に対する警告信号の出力が開始される(S6:警告信号送信開始工程)。このとき、警告信号を受信したトルク制限部27は、該警告信号を送信したドライバ30の駆動制御部35に対して、トルクリミット信号を出力する(制限信号送信工程)。そして、トルクリミット信号を受信した駆動制御部35によって、駆動モータ12のトルクが第1閾値Taよりも小さな第2閾値Tb以下に制限される(S7:トルク制限工程)。その後、後述するステップS17に進む。
【0039】
また、ステップS2において、検出値が第1閾値Taよりも小さい場合には(S2:NO)、第2積分器42によって、ステップS1で検出された検出値が第2閾値Tb以下であるか否かが判断される(S8)。検出値が第2閾値Tb以下でない場合には(S8:NO)、後述するステップS17に進む。そして、検出値が第2閾値Tb以下である場合には(S8:YES)、第2積分器42によって、第2閾値TbからステップS1で検出された検出値を引いた差の単位時間当たりの積分値の算出が行われる(S9)。さらに、減算器45によって、ステップS9で算出された時間積分値が判別値記憶部43に記憶されている判別値から減算される(S10)。
【0040】
ここで、判別値記憶部43に記憶されている判別値がその初期値以下であるか否かが判断され、判別値が初期値よりも大きいと判断された場合には(S11:NO)、後述するステップS13に進む。一方、初期値以下であると判断された場合には(S11:YES)、リセット部46によって、判別値が初期値にリセットされる(S12)。その後、駆動モータ12のトルクが第2閾値Tb以下に制限されている最中であるか否かが判断され、トルク制限中でない場合には(S13:NO)、後述するステップS17に進む。
【0041】
また、ステップS13においてトルク制限中である場合には(S13:YES)、比較器47によって、判別値記憶部43に記憶されている判別値とトルク制限解除値とが比較され、判別値がトルク制限解除値以下であるか否かが判断される(S14)。ここで、判別値がトルク制限解除値以下でない、すなわち駆動モータ12の過負荷状態が解消されていないと判断された場合には(S14:NO)、後述するステップS17に進む。
【0042】
一方、判別値がトルク制限解除値以下である、すなわち駆動モータ12の過負荷状態が解消されたと判断された場合には(S14:YES)、信号出力部34によってトルク制限部27に対する警告信号の出力が停止される(S15:警告信号送信停止工程)。このとき、警告信号を受信しなくなったトルク制限部27は、トルクリミット信号の出力を停止する。そして、トルクリミット信号を受信しなくなった駆動制御部35は、駆動モータ12のトルクを第2閾値Tb以下とする制限を解除する(S16:トルク制限解除工程)。
【0043】
最後に、駆動モータ12が稼動中であるか否かを判断し、稼動中である場合には(S17:YES)、ステップS1に戻って、再度駆動モータ12のトルクを検出する。一方、駆動モータ12が稼動中でない場合には(S17:NO)、ドライバ30における処理を終了する。
【0044】
以上のように、本実施の形態の無人搬送車1は、4つの走行ユニット4〜7を有しており、各走行ユニット4〜7には走行駆動輪11、走行駆動輪11を駆動する駆動モータ12、及び駆動モータ12を駆動するドライバ30が備えられている。ドライバ30は駆動モータ12の負荷状態を判別する判別回路33を備えている。また、無人搬送車1全体を制御する車両制御部20は、走行ユニット4〜7の各走行駆動輪11を駆動する駆動モータ12のいずれかが過負荷状態となっている場合に、該駆動モータ12のトルクを所定の第2閾値Tb以下に制限するトルク制限部27を有している。
したがって、過負荷状態の駆動モータ12のトルクを低下させて、焼きつきを防止することができる。また、ある駆動モータ12が過負荷状態となった場合には、他の駆動モータ12に負荷が分散されることになるので、過負荷状態の駆動モータ12に加わる負荷が低減される。よって、第2閾値Tb以下のトルクであっても走行駆動輪11に搬送力を付与できることがある。また、第2閾値Tb以下のトルクでは走行駆動輪11に搬送力を付与できない場合であっても、過負荷状態が解消されると、第2閾値Tbよりも大きなトルクで稼動することが可能となるので、当面は過負荷状態となった駆動モータ12以外の駆動モータ12で駆動される走行駆動輪11のみで走行し、過負荷状態が解消された後、全ての走行駆動輪11を用いて走行することができる。よって、駆動モータ12が過負荷状態となった場合であっても無人搬送車1の走行を続行できるので、搬送効率の低下を抑制することができる。
【0045】
また、本実施の形態の無人搬送車1では、各走行ユニット4〜7のドライバ30は、駆動モータ12のトルクを検出するトルク検出器32を備えている。そして、判別回路33は、トルク検出器32による検出値に基づいて駆動モータ12の負荷状態を判別する。したがって、容易に過負荷状態であるか否かを判別することができる。
【0046】
また、本実施の形態の無人搬送車1では、判別回路33が、トルクが第1閾値Ta以上である際に、該トルクの大きさから第1閾値Taを引いた差の時間積分値を算出する第1積分器41と、トルクが第2閾値Tb以下である際に、第2閾値Tbから該トルクの大きさを引いた差の時間積分値を算出する第2積分器42と、判別値を記憶する判別値記憶部43と、第1積分器41で算出された時間積分値を判別値に加算する加算器44と、第2積分器42で算出された時間積分値を判別値から減算する減算器45と、判別値がその初期値以下となった場合に、判別値を初期値とするリセット部46とを備えている。そして、判別値がトルク制限値以上となった場合に、トルク制限部27が、駆動モータ12のトルクを第2閾値Tb以下に制限する。
したがって、駆動モータ12のトルクの変動が激しく、第1閾値Ta以上になったり第2閾値Tbより小さくなったりを繰り返す場合や、第2閾値Tb以下となって、一旦上昇した駆動モータ12の温度が低下した後、再度第1閾値Ta以上となるような場合であっても、確実に過負荷状態か否かを判別することができる。
【0047】
さらに、本実施の形態の無人搬送車1では、判別値がその初期値以下となった場合に、トルク制限部27が、駆動モータ12のトルクを第2閾値Tb以下にする制限を解除する。したがって、確実に過負荷状態が解消されたか否かを判別することができる。
【0048】
加えて、本実施の形態の無人搬送車1では、判別回路33を備えており駆動モータ12を駆動するドライバ30が、駆動モータ12が過負荷状態である間に警告信号を出力する信号出力部34と、駆動モータ12の駆動を制御する駆動制御部35とを備えている。また、無人搬送車1は、トルク制限部27と信号出力部34及び駆動制御部35とをそれぞれ接続する信号線51、52を有している。そして、駆動モータ12が過負荷状態である場合に、信号線51を介してトルク制限部27に警告信号が送信され、警告信号を受信したトルク制限部27は、該警告信号が送信されたドライバ30の駆動制御部35に接続された信号線52にトルク制限信号を出力する。したがって、複数の駆動モータ12に対するトルク制限の指示及びその解除を統括的に行うことができる。
【0049】
以上、本発明の好適な一実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて、様々な設計変更を行うことが可能なものである。例えば、上述の実施の形態では、各走行ユニット4〜7のドライバ30が、駆動モータ12のトルクを検出するトルク検出器32を備えており、判別回路33がトルク検出器32による検出値に基づいて駆動モータ12の負荷状態を判別する場合について説明したが、負荷状態を判別する方法はこれには限られない。駆動モータ12の温度を検知するセンサを備えており、該センサにより検知される温度に基づいて負荷状態を判別するようにしてもよい。
【0050】
また、上述の実施の形態では、トルクが第1閾値Ta以上である場合には、該トルクの大きさから第1閾値Taを引いた時間積分値を判別値に加算し、他方、トルクが第2閾値Tb以下である場合には、第2閾値Tbから該トルクの大きさを引いた時間積分値を判別値から減算し、判別値が所定のトルク制限値以上となった時に、駆動モータ12が過負荷状態であると判別する場合について説明したが、過負荷状態を判別する方法はこれには限定されない。例えば、トルクが第1閾値Taを越えた時に過負荷状態であると判別するようにしてもよい。
【0051】
さらに、上述の実施の形態では、判別値が初期値以下となった時に、過負荷状態が解消されたと判別する場合について説明したが、これには限られない。例えば、所定時間の間トルクが第2閾値Tb以下であれば過負荷状態が解消されたと判断するようにしてもよい。
【0052】
加えて、上述の実施の形態では、各走行ユニット4〜7のドライバ30から、駆動モータ12が過負荷状態である際に送信される警告信号が、信号線51を介して車両制御部20のトルク制限部27に伝達され、該警告信号を受信したトルク制限部27は、該警告信号を送信したドライバ30に接続された信号線52にトルクリミット信号を出力することにより、統括的にトルク制限の指示及びその解除を行うことができる場合について説明したが、これには限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施の形態にかかる無人搬送車の概略構成を示す上面図である。
【図2】図1に示す無人搬送車の下面図である。
【図3】図1に示す無人搬送車のシステム構成を示すブロック図である。
【図4】図3に示すドライバの概略構成を示すブロック図である。
【図5】図4に示すトルク検出器で検出されるトルクの時間変化の一例を示すグラフである。
【図6】ドライバにおける処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0054】
1 無人搬送車
11 走行駆動輪
12 駆動モータ
27 トルク制限部(トルク制限手段)
30 ドライバ(駆動回路)
32 トルク検出器(トルク検出手段)
33 判別回路(判別手段)
41 第1積分器(第1積分手段)
42 第2積分器(第2積分手段)
43 判別値記憶部(判別値記憶手段)
44 加算器(加算手段)
45 減算器(減算手段)
46 リセット部(リセット手段)
51、52 信号線(第1信号線、第2信号線)
70 カセット(被搬送物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行経路に沿って走行し、被搬送物を搬送する無人搬送車であって、
複数の走行駆動輪と、
前記複数の走行駆動輪をそれぞれ駆動する複数のモータと、
前記モータの負荷状態を判別する判別手段と、
複数の前記モータのうちの少なくとも1つが、前記判別手段によって過負荷状態であると判別された場合に、当該モータのトルクを、過負荷状態を解消することができる解消閾値以下に制限し、前記判別手段によって過負荷状態が解消されたと判別された場合に、制限を解除するトルク制限手段とを備えていることを特徴とする無人搬送車。
【請求項2】
前記モータのトルクを検出するトルク検出手段をさらに備えており、
前記判別手段が、前記トルク検出手段による検出値に基づいて前記モータの負荷状態を判別することを特徴とする請求項1に記載の無人搬送車。
【請求項3】
前記判別手段が、
前記モータの負荷状態を判別するための判別値を記憶する判別値記憶手段と、
前記トルク検出手段による検出値が前記解消閾値よりも大きな過負荷閾値以上である際に、前記トルク検出手段による検出値から前記過負荷閾値を引いた差の時間積分値を算出する第1積分手段と、
前記第1積分手段によって算出された時間積分値を前記判別値に加算する加算手段と、
前記トルク検出手段による検出値が前記解消閾値以下である際に、前記解消閾値から前記トルク検出手段による検出値を引いた差の時間積分値を算出する第2積分手段と、
前記第2積分手段によって算出された時間積分値を前記判別値から減算する減算手段と、
前記判別値がその初期値以下となった場合に、前記判別値を初期値とするリセット手段とを備えており、
前記トルク制限手段が、前記判別値が所定のトルク制限値以上となった場合に、前記モータのトルクを前記解消閾値以下に制限することを特徴とする請求項2に記載の無人搬送車。
【請求項4】
前記トルク制限手段が、前記判別値がその初期値以下となった場合に、前記モータのトルクを前記解消閾値以下にする制限を解除することを特徴とする請求項3に記載の無人搬送車。
【請求項5】
前記判別手段を有しており前記モータを駆動する駆動回路と、
前記駆動回路から送信された信号を前記トルク制限手段に伝達する第1信号線と、
前記トルク制限手段から送信された信号を前記駆動回路に伝達する第2信号線とをさらに備えており、
前記駆動回路が、前記判別手段によって前記モータが過負荷状態であると判別された場合に、前記第1信号線に警告信号を出力し、前記第1信号線を介して前記警告信号を受信した前記トルク制限手段が、該警告信号が送信された前記駆動回路に接続された前記第2信号線に前記モータのトルクを前記解消閾値以下に制限するトルク制限信号を出力することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の無人搬送車。
【請求項6】
複数の走行駆動輪と、前記複数の走行駆動輪をそれぞれ駆動する複数のモータとを備えており、走行経路に沿って走行し、被搬送物を搬送する無人搬送車の制御方法であって、
前記モータの負荷状態を判別する判別工程と、
複数の前記モータのうちの少なくとも1つが、前記判別工程で過負荷状態であると判別された場合に、当該モータのトルクを、過負荷状態を解消することができる解消閾値以下に制限するトルク制限工程と、
前記トルク制限工程による制限が行われている間において、前記判別工程で過負荷状態が解消されたと判別された場合に、前記トルク制限工程による制限を解除するトルク制限解除工程とを備えていることを特徴とする無人搬送車の制御方法。
【請求項7】
前記無人搬送車の動きを制御する制御回路、及び複数の前記モータをそれぞれ駆動する複数の駆動回路とをさらに備えた前記無人搬送車の制御方法であって、
前記判別工程で過負荷状態であると判別された場合に、前記駆動回路から前記制御回路への警告信号の送信を開始する警告信号送信開始工程と、
前記トルク制限工程による制限が行われている間において、前記判別工程で過負荷状態が解消されたと判別された場合に、前記警告信号の送信を停止する警告信号送信停止工程と、
前記駆動回路から前記制御回路への警告信号の送信が行われている間に、前記制御回路から該警告信号を送信している前記駆動回路へ、前記モータのトルクを前記解消閾値以下に制限するトルク制限信号を送信する制限信号送信工程とを備えていることを特徴とする請求項6に記載の無人搬送車の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−56838(P2009−56838A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223716(P2007−223716)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(302059274)アシスト テクノロジーズ ジャパン株式会社 (146)
【Fターム(参考)】