説明

無機化合物及びこれを含む組成物と成形体、発光装置、固体レーザ装置

【課題】ガーネット型化合物において、Pr等の置換イオンを母体化合物中に固溶させやすくする。
【解決手段】本発明のガーネット型化合物は、下記一般式で表されるものである。一般式A1(III)3-2xA2(II)A3(III)B(III)C1(III)3-xC2(IV)12(ローマ数字:イオン価数、A1〜A3:Aサイトの元素、B:Bサイトの元素、C1及びC2:Cサイトの元素、A1、A2、B、C1、及びC2は各々、上記イオン価数の少なくとも1種の元素、A3:3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、A1とA3とは異なる元素、0<x<1.5(但し、x=1.0を除く。)、O:酸素原子)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガーネット型化合物等の無機化合物及びこれを含む組成物と成形体、発光装置、固体レーザ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
励起光の照射により励起されて発光する無機化合物としては、希土類を発光中心イオンとするものがある。希土類の中で、Prは可視光域に複数の発光ピークを有し、青色、緑色、黄色、及び赤色の発光が得られることが知られている。無機化合物のPrドープ量を変えることで、種々の発光色の発光材料が得られることが想到される。
【0003】
Prをドープする母体化合物としては、熱的安定性に優れる等の理由から、レーザ物質として知られるYAl12(YAG)が候補材料として挙げられる。しかしながら、以下に詳述するように、YAGにPrを固溶させることは非常に難しく、研究自体がほとんどなされていない。以下、YAGにPrをドープさせた化合物を、「Pr−YAG」と表記する。
【0004】
YAGにPrをドープする場合、AサイトのY3+イオンの一部をPr3+に固溶置換することになるが、Y3+(Aサイト)のイオン半径r1=0.1019nmに対して、Pr3+(Aサイト)のイオン半径r2=0.1126nmが大きい(r2>r1)。そのため、非特許文献1〜4に記載されているように、YAGにPrをドープする際の偏析係数はほとんどゼロである。このことは、YAGにPrを固溶させることが非常に困難であることを示している。
【0005】
本明細書で言う「イオン半径」は、いわゆるShannonのイオン半径を意味している(非特許文献18を参照)。
【0006】
Al12は、ガーネット型化合物である。ガーネット型化合物に含まれる希土類のイオン半径と格子定数との関係を、図11に示す。図11は、本発明者が、米国International Centre for Diffraction Data(ICDD)の公開データ及び非特許文献5に記載のデータを中心に整理したものである。
【0007】
図11には、希土類アルミニウムガーネット型化合物(REAl12)においては、希土類のイオン半径が0.106nm以下の化合物しか存在せず、それよりイオン半径の大きいEu,Sm,Nd,Pr,Ce,Laを含む化合物は報告されていないことが示されている。この図からも、イオン半径の大きいPrをYAG中に固溶させることが、非常に困難であることが示されている。
【0008】
実際、YAG中へのPrドープ量が2モル%を超えた報告をしているのは、非特許文献2、6〜9の5件のみである。しかも、非特許文献6〜9にはPrドープ量の分析に関する記載がない。一般に、結晶中のドープ量は、育成時の投入組成でもって記すことが多く、その場合には、育成後の結晶中に含まれる真のドープ量とは大きく異なることも多い。
【0009】
Prドープ量の分析が記載されている非特許文献2には、YAG中にPrを4.3モル%ドープした多結晶焼結体のPr−YAG(4.3%Pr−YAG)が報告され、粉末X線回折測定により単相ガーネット型結晶が得られたことが記載されている。非特許文献2では、4.3%Pr−YAGを調製するにあたって、原料粉にエチルシリケートを混ぜたことが記載されている。つまり、非特許文献2ではSiを添加しているのであるが、このSiが結晶中でどのように存在しているのかは不明であり、Siが単なる添加物的に混在しているだけなのか、格子サイトの一部を置換する形で固溶されているのか、不明である。同一研究者の非特許文献2〜4を見ると、自らPrはYAG中には固溶し難いと述べているにも関わらず、4.3モル%の高濃度Prドープを実現できた理由も明らかにはされておらず、それがSiの添加と関係しているのかどうかも不明である。
【0010】
常識的に考えれば、4価のSiが混在して格子間隙に侵入すれば、系が酸素過剰となり、格子サイトの一部がSiに置換されれば、他の元素が還元されることになるが、かかる点を考慮した材料設計について言及されていない。また、Si添加が発光強度等の発光特性に与える影響についても検討されていない。
【0011】
Prドープ量の分析が明記されている非特許文献10には、Prと共にMgを固溶させた系が開示されており、Prドープ量は、Mg/Pr(モル%/モル%)の表記で、0/0.89、0.05/0.69、0.13/0.63、0.55/1.2、及び2.47/0.96が報告されている。非特許文献10では、1.2モル%を超えるPrドープは報告されていない。また、非特許文献10では、イオン半径(0.089nm)の小さなMg2+を同時に固溶させており、MgとPrは等モルではないので、電荷中性の論理から考えると、Mg存在下でPrのイオン価数が3価から4価に変貌している可能性が大きいが、かかる点を考慮した材料設計について言及されていない。
【0012】
Pr−YAGではないが、特許文献1、2には、YAGの多結晶焼結体を調製する際に、焼結助剤としてLiO,Na,MgO,CaO,SiO等の酸化物を1種又は2種以上適量添加することによって、YAG単結晶並の透過率が得られることが報告されている。しかしながら、添加物が結晶中でどのように存在しているのか、及び添加物が発光強度等の発光特性にどのような影響を与えるかについては、検討がなされていない。
【0013】
同じくPr−YAGではないが、非特許文献11には、CaやMgをYAG中に固溶させた系が報告されている。しかしながら、電気伝導性の評価が記載されているに過ぎず、添加物が発光強度等の発光特性に与える影響については、検討がなされていない。
【0014】
非特許文献12〜17には、MgやCaを発光中心となるPr等の元素イオンと共に固溶させた系が報告されている。これらは発光中心となる元素イオンの電荷をシフトさせること(Cr3+→Cr4+、Pr3+→Pr4+)を目的とした研究であり、発光強度等については検討されていない。
【0015】
特許文献3には、下記式(I)で表される母体化合物、及びこの母体化合物に下記式(II)で表される無機酸化物を固溶させた下記式(III)で表される無機化合物が開示されている(請求項1〜3を参照)。
MLnQR12 (I)
Ln12 (II)
(1−x)MLnQR12・xLn12 (III)
(式中、Mは、Mg,Ca,Sr,及びBaから選ばれる少なくとも1つの元素、
Lnは、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,及びLuから選ばれる少なくとも1つの希土類元素、
Qは、Si,Ge,Sn,及びPbから選ばれる少なくとも1つの元素、
Rは、B,Al,Ga,In,及びTlから選ばれる少なくとも1つの元素、
0<x≦0.98)
【0016】
特許文献3には、上記式(I)で表される母体化合物が新規であると記載されている。上記式(III)で表される無機化合物は、この母体化合物に対して、母体化合物中に含まれる元素LnとRとをドープし、母体化合物中の元素Mをxモル、Lnで置換したものである。式(I)で表される母体化合物には、YAGに、Pr等の元素イオンLnと、Mg等の元素イオンMと、Si等の元素イオンQとをドープした無機化合物が含まれている。
【0017】
特許文献3には、実施例で調製した化合物の発光スペクトル(蛍光スペクトル)が記載され、発光体として使用できることが記載されている。しかしながら、特許文献3には、上記式(I)で表される母体化合物を見出すに到った材料設計の思想や、発光強度から見てどのような組成が好適かなどについては、言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平5-286761号公報
【特許文献2】特開平5-294723号公報
【特許文献3】特開2004-115304号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】R. R. Monchamp, J. Cryst. Growth 11 (1971) 310
【非特許文献2】A. Ikesue, et al., J. Ceram. Soc. J. 109 (2001) 640
【非特許文献3】池末明生ら、レーザー研究 第27巻 第9号 (1999) 593
【非特許文献4】池末明生、第4回光材料応用技術研究会資料 (2005)
【非特許文献5】C. D. Brandle, et al., J. Cryst. Growth 20 (1973) 1
【非特許文献6】E. Y. Wong, et al., J. Chem. Phys. 39 (1963) 786
【非特許文献7】F. N. Hooge, et al., J. Chem. Phys. 45 (1966) 4504
【非特許文献8】J. P. van der Ziel, et al., Phys. Rev. Lett. 27 (1971) 508
【非特許文献9】X. Wu, et al., Phys. Rev. B 50 (1994) 6589
【非特許文献10】T. Suemoto, et al., Opt. Commun. 145 (1998) 113
【非特許文献11】L. Schuh, et al., J. Appl. Phys. 66 (1989) 2627
【非特許文献12】Sugimoto A, et al., J. Cryst. Growth 140 (1994) 349
【非特許文献13】Ishibashi S, et al., J. Cryst. Growth 183 (1998) 614
【非特許文献14】R. Haibo, et al., J. Cryst. Growth 236 (2002) 191
【非特許文献15】R. Feldman, et al., Optical Materials 24 (2003) 333
【非特許文献16】Ya. M. Zakharko, et al., Phys. Status. Solidi C (2005) 551
【非特許文献17】Larry D. Merkle, et al., J. Appl. Phys. 79 (1996) 1849
【非特許文献18】R. D. Shannon, Acta Crystallogr A32 (1976) 751
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上記のように、YAGにPrを固溶させること自体が非常に難しいため、Pr−YAGに関する基礎的な研究自体がほとんどなされておらず、PrをYAG中に固溶させやすくする材料設計に関する研究はなされていない。また、Pr−YAGやYAGに金属イオンをドープすることは報告されているが、発光強度から見た好適な金属イオンのドープについては研究がなされていない。かかる事情は、Pr−YAGに限らず、母体化合物のガーネット型化合物の被置換イオンの一部をPr等の発光性元素イオンで置換する系全般について言えることである。
【0021】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、母体化合物のガーネット型化合物の被置換イオンの一部を、被置換イオンよりも大きいイオン半径の置換イオンで置換する系において、置換イオンを母体化合物のガーネット型化合物中に固溶させやすくする新規な材料設計の思想、及びこの設計思想に基づいて設計された新規な組成のガーネット型化合物を提供することを目的とするものである。また、ドープする元素イオンの好適化により、ガーネット型化合物の発光強度の向上を図ることを目的とするものである。
【0022】
本発明は上記のように、特にガーネット型化合物に関するものであるが、本発明はそれ以外の無機化合物にも適用可能なものである。すなわち、本発明は、母体化合物の被置換イオンの一部を、被置換イオンよりもイオン半径の大きい置換イオンで置換する系において、置換イオンを母体化合物中に固溶させやすくする新規な材料設計の思想、及びこの設計思想に基づいて設計された新規な組成の無機化合物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者は上記課題を解決するべく鋭意検討を行い、イオン半径とイオン価数バランスに着目して、以下のようにしてPr−YAGの材料設計を行った。
【0024】
本発明者はまず、YAGのY3+イオン(イオン半径r1(Aサイト)=0.1019nm)の一部を、Y3+イオンよりもイオン半径の大きいPr3+(イオン半径r2(Aサイト)=0.1126nm)に良好に固溶置換するには、Y3+イオンよりもイオン半径の小さいMg2+(イオン半径r3(Aサイト)=0.089nm)を同時に固溶することで、Pr3+が入るAサイトに空間的な余裕が生まれ、PrがYAGに固溶しやすくなると考えた。Mg2+は非発光性元素イオンであるので、同時にドープしても発光性には影響を与えないと考えられる。
【0025】
しかしながら、本来3価の価数サイトであるAサイトに2価のMgを固溶させようとすると、電荷の価数バランスから、ドープしたPrの価数が4価になる可能性がある。Prの価数が4価になると、発光スペクトル等の発光特性が所望のものとは異なることとなり、好ましくない。
【0026】
本発明者は、PrとMgとを固溶させる際に、合わせて4価のSiを同時に固溶させることで、Mg2+とSi4+との間で電荷補償を行い、Prの価数を3価に維持できると考えた。Si4+は非発光性元素イオンであるので、同時にドープしても発光性には影響を与えないと考えられる。なお、Si4+ (イオン半径(Cサイト)=0.026nm)はAl3+(イオン半径(Cサイト)=0.039nm)よりもイオン半径が小さいため、YAGのCサイトをなすAlの一部を置換しているものと推測される。
【0027】
本発明者は上記設計思想に基づいて、実際に、YAG中にPrとMgとSiとを同時に固溶させることで、PrをYAG中に固溶させやすくなり、MgとSiとを同時に固溶させない場合に比して、同じPrドープ量で比較した場合の格子定数が著しく小さく、格子膨張の抑制効果が得られることを見出している(図8参照)。
【0028】
また、同じPrドープ量で比較した場合、YAG中にPrとMgとSiとを同時に固溶させたPr−Mg−Si−YAGでは、MgとSiのいずれも固溶させないPr−YAG、Mgを固溶させSiを固溶させないPr−Mg−YAGのいずれよりも、高い発光強度(蛍光強度)を示すことを見出している(図9参照)。
【0029】
本発明は上記の材料設計の思想自体が新規であり、この思想は、Pr−YAGに限らず、他のガーネット型化合物にも適用可能であり、母体化合物中の被置換イオン、これを置換する置換イオン、及び同時に固溶させる2種類の非発光性イオンは、上記の組合せに限られない。また、発光性を示さないガーネット型化合物にも適用可能である。具体的には、下記組成のガーネット型化合物が新規である。
【0030】
すなわち、本発明のガーネット型化合物は、下記一般式で表されることを特徴とするものである。
一般式A1(III)3-2xA2(II)A3(III)B(III)C1(III) 3-xC2(IV)12
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A1、A2、及びA3:Aサイトの元素、B:Bサイトの元素、C1及びC2:Cサイトの元素、
A1、A2、B、C1、及びC2は各々、上記イオン価数の少なくとも1種の元素、
A3:3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
A1とA3とは異なる元素、
0<x<1.5(但し、x=1.0を除く。)、
O:酸素原子)
【0031】
上記の本発明のガーネット型化合物は、A1(III)が母体化合物に含まれる被置換イオンであり、この一部をA3(III)で置換する系であり、A3(III)を固溶させる際に同時にA2(II)とC2(IV)とを固溶させた化合物である。
【0032】
上記の本発明のガーネット型化合物においては、A2(II)とA3(III)とC2(IV)とが等モルである。かかる構成を採用することで、イオン半径とイオン価数の関係が良好となる。このように、A2(II)とA3(III)とC2(IV)のモル数は、等モルとなるよう原料の配合を行うが、最終的に調製される化合物中のA2(II)とA3(III)とC2(IV)のモル数は、1:1:1より多少ずれる可能性もある。したがって、A2(II)のモル数あるいはC2(IV)のモル数は、A3(III)のモル数xの0.9倍〜1.1倍の範囲内であれば、A3(III)と等モルとみなすものとする。
【0033】
「背景技術」の項において、特許文献3に、下記式(I)で表される母体化合物、及びこの母体化合物に下記式(II)で表される無機酸化物を固溶させた下記式(III)で表される無機化合物が開示されていることを述べた。
MLnQR12 (I)
Ln12 (II)
(1−x)MLnQR12・xLn12 (III)
(式中、Mは、Mg,Ca,Sr,及びBaから選ばれる少なくとも1つの元素、
Lnは、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,及びLuから選ばれる少なくとも1つの希土類元素、
Qは、Si,Ge,Sn,及びPbから選ばれる少なくとも1つの元素、
Rは、B,Al,Ga,In,及びTlから選ばれる少なくとも1つの元素、
0<x≦0.98)
【0034】
特許文献3は、上記式(I)で表される母体化合物を新規な化合物とし、この母体化合物に対して、母体化合物中に含まれる元素LnとRとをドープし、母体化合物中の元素Mをxモル、Lnで置換して、上記式(III)で表される無機化合物を設計するという思想の発明であり、本発明とは設計思想が全く異なっており、基本的には組成も本発明とは異なっている。
【0035】
しかしながら、特許文献3に記載の上記式(I)で表される母体化合物において、例えば、M=Mg、Ln=Y0.5Pr0.5、Q=Si、R=Alのときの化合物(すなわちYMgPrAlSiO12)については、本発明における一般式A1(III)3-2xA2(II)A3(III)B(III)C1(III) 3-xC2(IV)12とたまたま組成が一致している。特許文献3に記載の上記式(I)で表される母体化合物と、本発明における一般式A1(III)3-2xA2(II)A3(III)B(III)C1(III) 3-xC2(IV)12とが一致するのは、上記で例示したような特定元素の組合わせからなり、かつx=1.0のときのみである。したがって、本発明のガーネット型化合物の組成式からx=1.0は除いてある。
【0036】
この条件を除けば、特許文献3に記載の上記式(I)で表される母体化合物の構成元素が本発明と同様であっても、A2(II)とA3(III)とC2(IV)のモル数が等モルの関係を充たすことはない。
【0037】
なお、特許文献3に記載の上記式(III)で表される無機化合物では、同文献の段落0062等に記載されているように、式中左右のLn((1−x)MLnQR12中のLnと、xLn12中のLn)が同一であるので、本発明における一般式A1(III)3-2xA2(II)A3(III)B(III)C1(III) 3-xC2(IV)12で表される化合物になることはない。
【0038】
本発明の材料設計は思想自体が新規であり、ガーネット型化合物に限らず、母体化合物の被置換イオンの一部を、被置換イオンより大きいイオン半径の置換イオンで置換する系に適用可能であり、本発明の材料設計に基づいて設計された下記無機化合物が新規である。
【0039】
すなわち、本発明の無機化合物は、母体化合物に含まれるイオン半径r1の被置換イオン(a)の一部を、被置換イオン(a)よりも大きいイオン半径r2(r2>r1)を有する、イオン価数がn価の発光性元素イオン(b)で固溶置換した無機化合物において、
発光性元素イオン(b)を固溶するに際して、被置換イオン(a)よりも小さいイオン半径r3(r3<r1)を有し、イオン価数がa価である、少なくとも1種の第1の非発光性元素イオン(c)と、イオン価数がb価である(但し、bはa+b=2nを充足する)、少なくとも1種の第2の非発光性元素イオン(d)とを同時に固溶させてなり、
前記r1と前記r2とが、下記式を満足することを特徴とするものである。
【0040】
(r2−r1)/r1>0.04
本明細書において、「イオン半径」は、いわゆるShannonのイオン半径を意味している(非特許文献18を参照)。
【0041】
本発明の無機化合物において、前記母体化合物としては、下記一般式で表されるガーネット型化合物が挙げられる。
一般式:A(III)B(III)C(III)12
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Aサイトの元素であり、Y,Sc,In,及び3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、Al,Sc,Ga,Cr,In,及び3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
C:Cサイトの元素であり、Al及びGaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0042】
本発明の無機化合物においては、母体化合物として、C希土類型化合物、ペロブスカイト型化合物、GdFeO型化合物等を用いることもできる。
【0043】
上記の本発明のガーネット型化合物及び上記の本発明の無機化合物は、単結晶構造でも多結晶構造でもよく、不可避不純物を含むものであってもよい。また、全体が単相であることが好ましいが、特性上支障のない範囲内で異相を含むものであってもよい。
【0044】
従来、Pr−YAG以外のPrドープ無機化合物では、金属イオンのドープと発光強度との関係について、いくつか報告がなされている。
【0045】
W. Jia, et al., Solid State Commun. 126 (2003) 153-157では、Pr−Sr1−xCaTiOの系において、AサイトのCa固溶量xの増大に伴って、発光強度が増すことが報告されている。ただし、この研究は、単にPr−SrTiO(x=0)とPr−CaTiO(x=1)とを比較したものである。
この系は、2価のSrを同じ価数のCaで置換するものであり、Caを固溶させることに電荷補償の意図はない。また、Sr2+(イオン半径(12配位)=0.144nm)はイオン半径が非常に大きいことから、Caを固溶させることで、イオン半径を調整する効果も得られない。
【0046】
J. Li, et al., Jpn. J. Appl. Phys. 44 (2005) L708では、Pr−BaTiOにMgをドープすることで発光強度が増すことが報告されており、発光強度向上のメカニズムについて、以下のような仮説が立てられている。
(仮説1)Mgをドープすることで、Mg2+がTi4+サイトに置換固溶し、Ba2+サイトを置換固溶するPrイオンを電荷補償している。
(仮説2)Mgをドープすることで、Prの固溶サイトがTiサイトに移って6配位となり、発光強度が増大する。
しかしながら、発光中心であるPrイオン濃度を固定して、Mgドープ量を変化させた実験がなされているにすぎない。この実験だけでは、どのサイトをMgで固溶置換させようとしたのか不明であり、発光強度向上のメカニズムを上記仮説のみで説明するのは無理がある。また、仮説が正しいとしても、本発明のようにイオン半径と電荷補償の双方から材料設計を行ったものではない。
【0047】
すなわち、イオン半径と電荷補償の双方から材料設計を行うという本発明は、その思想自体が新規なものである。
【0048】
本発明の組成物は、上記の本発明のガーネット型化合物又は上記の本発明の無機化合物を含むことを特徴とするものである。
【0049】
本発明の成形体は、上記の本発明のガーネット型化合物又は上記の本発明の無機化合物を含むことを特徴とするものである。
本発明の成形体は、前記ガーネット型化合物又は前記無機化合物からなる多結晶焼結体、若しくは該多結晶焼結体の粉砕物がバインダを介して結合されて成形された成形体であることが好ましい。
【0050】
本発明の発光装置は、励起光により励起されて発光する本発明の化合物を含む成形体からなる発光体、及び、該発光体に前記励起光を照射する励起光源とを備えたことを特徴とするものである。
【0051】
本発明の固体レーザ装置は、励起光により励起されてレーザ光を発振するレーザ物質である本発明の化合物を含む成形体からなる固体レーザ媒質と、該固体レーザ媒質に前記励起光を照射する励起光源とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0052】
本発明のガーネット型化合物は、下記一般式で表されることを特徴とするものである。
一般式A1(III)3-2xA2(II)A3(III)B(III)C1(III) 3-xC2(IV)12
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A1、A2、及びA3:Aサイトの元素、B:Bサイトの元素、C1及びC2:Cサイトの元素、
A1、A2、B、C1、及びC2は各々、上記イオン価数の少なくとも1種の元素、
A3:3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
A1とA3とは異なる元素、
0<x<1.5(但し、x=1.0を除く。)、
O:酸素原子)
【0053】
上記構成の本発明によれば、母体化合物のガーネット型化合物の被置換イオンよりも大きいイオン半径の置換イオンを、母体化合物中に固溶させやすくすることができる。上記構成の本発明によれば、Pr等の発光性元素イオンをドープする系において、同じ発光性元素イオンのドープ量で比較した場合、従来の組成よりも発光強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る実施形態の発光装置の構造を示す図
【図2】発光装置の設計変更例を示す図
【図3】本発明に係る実施形態の固体レーザ装置の構造を示す図
【図4】固体レーザ装置の設計変更例を示す図
【図5】固体レーザ装置の設計変更例を示す図
【図6】固体レーザ装置の設計変更例を示す図
【図7】実施例及び比較例の粉末X線回折測定結果を示す図
【図8】実施例及び比較例におけるPrドープ量と格子定数の関係を示す図
【図9】実施例及び比較例における発光スペクトル(蛍光スペクトル)を示す図
【図10】実施例及び比較例におけるPrドープ量と発光強度の関係を示す図
【図11】ガーネット型化合物に含まれる希土類のイオン半径と格子定数との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、本発明について詳述する。
【0056】
「本発明のガーネット型化合物」
「課題を解決するための手段」の項で詳述したように、本発明のガーネット型化合物は、イオン半径とイオン価数バランスに着目して材料設計されたものであり、下記一般式で表されることを特徴とするものである。
一般式A1(III)3-2xA2(II)A3(III)B(III)C1(III) 3-xC2(IV)12
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A1、A2、及びA3:Aサイトの元素、B:Bサイトの元素、C1及びC2:Cサイトの元素、
A1、A2、B、C1、及びC2は各々、上記イオン価数の少なくとも1種の元素、
A3:3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
A1とA3とは異なる元素、
0<x<1.5(但し、x=1.0を除く。)、
O:酸素原子)
【0057】
上記の本発明のガーネット型化合物は、A1(III)が母体化合物の被置換イオンであり、この一部をA3(III)で置換する系であり、A3(III)を固溶させる際に同時にA2(II)とC2(IV)とを固溶させた化合物である。本発明のガーネット型化合物においては、A2(II)とA3(III)とC2(IV)とが等モルである。かかる構成を採用することで、イオン半径とイオン価数の関係が良好となる。
【0058】
本発明のガーネット型化合物には、Pr等の発光性元素イオンを含む発光性化合物と、発光性元素イオンを含まない非発光性化合物の双方が含まれる。
【0059】
本発明のガーネット型化合物において、A1(III)が、Y,Sc,及びInからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であることが好ましい。
【0060】
本発明のガーネット型化合物において、
A1(III)が、Y,Sc,及びInからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であり、
A2(II)が、Mg,Ca,Sr,及びMnからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であり、
B(III)が、Al,Sc,Ga,Cr,In,及び3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であり、
C1(III)が、Al及びGaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であり、
C2(IV)が、Si及びGeからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であることが好ましい。
【0061】
本発明のガーネット型化合物としては、A1(III)がYであり、A2(II)がMgであり、A3(III)がPrであり、B(III)がAlであり、C1(III)がAlであり、C2(IV)がSiであるガーネット型化合物(Pr−Mg−Si−YAG)が挙げられる。
【0062】
Pr−Mg−Si−YAGを例に挙げて、本発明の材料設計について説明する。
【0063】
「背景技術」の項で詳述したように、従来、YAG中へのPrドープは、Prのイオン半径が大きいことから、非常に難しいとされている。Aサイトの相対的に狭い空間に、大きなイオン半径を有するPrイオンが混入しようとすることで、大きな格子歪が生じ、結果的に母体化合物の結晶構造を維持できなくなると考えられる。
【0064】
本発明では、Pr3+(イオン半径r2(Aサイト)=0.1126nm)と同時にY3+イオンよりもイオン半径の小さいMg2+(イオン半径r3(Aサイト)=0.089nm)を同時に固溶することで、YAGのAサイトに空間的な余裕を作り、PrをYAG中に固溶させやすくしている。本発明ではさらに、PrとMgとを固溶させる際に、合わせて4価のSiを同時に固溶させることで、Mg2+とSi4+との間で電荷補償を行い、Prの価数を3価に維持している。Prの価数が4価になることを抑え、Prの価数を3価に維持できることで、設計通りのPrの発光特性が得られる。
【0065】
Si4+ (イオン半径(Cサイト)=0.026nm)はAl3+(イオン半径(Cサイト)=0.039nm)よりもイオン半径が小さいため、YAGのCサイトをなすAlの一部を置換しているものと推測される。また、Mg2+とSi4+はいずれも非発光性元素イオンであるので、同時にドープしても発光性には影響を与えないと考えられる。
【0066】
本発明者は上記設計思想に基づいて、実際に、YAG中にPrとMgとSiとを同時に固溶させることで、PrをYAG中に固溶させやすくなり、MgとSiとを同時に固溶させない場合に比して、同じPrドープ量で比較した場合の格子定数が著しく小さく、格子膨張の抑制効果が得られることを見出している(図8参照)。このことは、Pr近傍における空間的な歪がMgとSiの同時固溶によって緩和されていることを示していると考えられる。
【0067】
また、同じPrドープ量で比較した場合、YAG中にPrとMgとSiとを同時に固溶させたPr−Mg−Si−YAG(後記実施例1を参照)では、MgとSiのいずれも固溶させないPr−YAG(後記比較例2を参照)、Mgを固溶させSiを固溶させないPr−Mg−YAG(後記比較例7を参照)のいずれよりも、高い発光強度(蛍光強度)を示すことを見出している(図9参照)。本発明者は、上記発光強度の増大効果は、Pr近傍における空間的な歪がMgとSiの同時固溶によって緩和された結果もたらされたものであると、推察している。
【0068】
Pr−Mg−Si−YAGを例にして説明したが、上記式を満たす組成であれば、同様の効果が得られる。
【0069】
「課題を解決するための手段」の項において、本発明のようにイオン半径と電荷補償の双方から材料設計を行ったものではないが、J. Li, et al., Jpn. J. Appl. Phys. 44 (2005) L708では、Pr−BaTiOにMgをドープすることで発光強度が増すことが報告されていることを述べた。
【0070】
本発明者は、上記文献に記載の系では、母体化合物であるBaTiOの吸収端よりも短波長側で励起されたエネルギーがPrの励起準位に容易に移動して、そこから発光が増大したと考えている。
【0071】
これに対して、YAGのように吸収端の波長が非常に短い(つまりバンドギャップのより大きい)母体化合物では、母体化合物で励起光を吸収することがないため、Prへのエネルギー移動は起こらない。にもかかわらず、高ギャップ母体化合物であるYAGを母体化合物とした場合にも発光強度が増大する本発明の材料設計は、全く新規な発光強度向上の手法であり、発光強度の増大が難しい系にも適用可能なものであり、その技術的価値は大きい。
【0072】
本発明は上記のように、Pr−YAG等の発光性元素イオンの高濃度ドープが難しく、発光強度の増大が難しい系に有効である。
【0073】
「本発明の無機化合物」
本発明は材料設計の思想自体が新規であり、ガーネット型化合物に限らず、母体化合物の被置換イオンの一部を、被置換イオンより大きいイオン半径の置換イオンで置換する系に適用可能であり、本発明の材料設計に基づいて設計された下記無機化合物が新規である。
【0074】
すなわち、本発明の無機化合物は、
母体化合物に含まれるイオン半径r1の被置換イオン(a)の一部を、被置換イオン(a)よりも大きいイオン半径r2(r2>r1)を有する、イオン価数がn価の発光性元素イオン(b)で固溶置換した無機化合物において、
発光性元素イオン(b)を固溶するに際して、
被置換イオン(a)よりも小さいイオン半径r3(r3<r1)を有し、イオン価数がa価である、少なくとも1種の第1の非発光性元素イオン(c)と、
イオン価数がb価である(但し、bはa+b=2nを充足する)、少なくとも1種の第2の非発光性元素イオン(d)とを同時に固溶させてなることを特徴とするものである。
【0075】
本発明の無機化合物は、第1の非発光性元素イオン(c)と、第2の非発光性元素イオン(d)とを、等モル量固溶させたものであることが好ましい。かかる構成を採用することで、電荷バランスが特に良好となり、好ましい。a+b=2nを充足する条件で、第1の非発光性元素イオン(c)と第2の非発光性元素イオン(d)のモル量が大きくずれると、電荷バランスが崩れて、酸素欠陥や発光性元素イオン(b)の価数変動を引き起こす恐れがある。
【0076】
なお、第1の非発光性元素イオン(c)と第2の非発光性元素イオン(d)とを等モルとなるよう原料の配合を行っても、最終的に調製される化合物中の第1の非発光性元素イオン(c)と第2の非発光性元素イオン(d)とのモル数は、1:1より多少ずれる可能性もある。したがって、第1の非発光性元素イオン(c)と第2の非発光性元素イオン(d)とのモル数は、他方のモル数が一方のモル数の0.9倍〜1.1倍の範囲内であれば、等モルとみなすものとする。
【0077】
本発明の無機化合物は、発光性元素イオン(b)と、第1の非発光性元素イオン(c)と、第2の非発光性元素イオン(d)とを、等モル量固溶させたものであることが特に好ましい。本発明では、イオン半径の大きい発光性元素イオン(b)とイオン半径の小さい第1の非発光性元素イオン(c)とを合わせて固溶することでトータルの格子歪を抑制する材料設計を行っているので、いずれかの元素イオンが過剰であると、格子歪が大きくなる恐れがある。
【0078】
本発明の無機化合物において、第1の非発光性元素イオン(c)のイオン価数a価と、第2の非発光性元素イオン(d)のイオン価数b価とが、a=n−1及びb=n+1を充足することが好ましい。かかる構成、すなわち、発光性元素イオン(b)のイオン価数n価と、第1の非発光性元素イオン(c)のイオン価数a価と、第2の非発光性元素イオン(d)のイオン価数b価とを、大きく離さない構成とすることで、これら元素イオンが結晶格子中に安定に存在すると考えられ、好ましい。例えば、発光性元素イオン(b)のイオン価数n価が3価のとき、1価や7価の非発光性元素イオン(c)、(d)を合わせて固溶する場合には、1価や7価の元素イオンが不安定であり、結晶格子中に安定に存在できない恐れがある。
【0079】
本発明の無機化合物において、被置換イオン(a)のイオン価数が、発光性元素イオン(b)のイオン価数n価と等しいことが好ましい。かかる構成とすることで、電荷バランスの観点から、被置換イオン(a)が発光性元素イオン(b)に良好に置換されると考えられ、好ましい。
【0080】
本発明の無機化合物において、第2の非発光性元素イオン(d)の格子サイト位置が、被置換イオン(a)及び発光性元素イオン(b)の格子サイト位置と異なることが好ましい。かかる構成とすることで、発光性元素イオン(b)の入る格子スペースが大きく確保され、より高濃度ドープが可能になり、好ましい。
【0081】
本発明の無機化合物において、発光性元素イオン(b)のイオン濃度が0モル%超3モル%以下であることが好ましい。
後記実施例1〜3の評価結果である図8及び図10に示すように、Pr−Mg−Si−YAGでは、発光性元素イオン(b)であるPrのイオン濃度を上記範囲とすることで、格子歪が良好に抑えられ、高輝度発光が得られる。本発明者は、Pr−Mg−Si−YAGに限らず、本発明の無機化合物であれば、発光性元素イオン(b)のイオン濃度を上記範囲とすることで、同様の効果が得られることを見出している。
【0082】
本発明は、発光性元素イオン(b)が、Pr等のイオン価数n価が3価の元素イオンである場合に好ましく適用できる。
上記の如く、a=n−1及びb=n+1を充足することが好ましいので、発光性元素イオン(b)のイオン価数n価が3価である場合、第1の非発光性元素イオン(c)のイオン価数a価が2価であり、第2の非発光性元素イオン(d)のイオン価数b価が4価であることが好ましい。
【0083】
本発明の無機化合物において、母体化合物としては、下記M1〜M10が挙げられる。
【0084】
(母体化合物M1)下記一般式で表されるガーネット型化合物
一般式:A(III)B(III)C(III)12
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Aサイトの元素であり、Y,Sc,In,及び3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、Al,Sc,Ga,Cr,In,及び3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
C:Cサイトの元素であり、Al及びGaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
母体化合物M1としては、YAl12(YAG)等が挙げられる。
【0085】
母体化合物が上記ガーネット型化合物(M1)であり、被置換イオン(a)と発光性元素イオン(b)のイオン価数がいずれも3価であり、第1の非発光性元素イオン(c)のイオン価数が2価であり、第2の非発光性元素イオン(d)のイオン価数が4価である場合、本発明の無機化合物は、下記一般式で表されるガーネット型化合物となる。
一般式A1(III)3-2xA2(II)A3(III)B(III)C1(III) 3-xC2(IV)12
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A1、A2、及びA3:Aサイトの元素、B:Bサイトの元素、C1及びC2:Cサイトの元素、
A1、A2、B、C1、及びC2は各々、上記イオン価数の少なくとも1種の元素、
A3:3価の希土類(Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
A1とA3とは異なる元素、
0<x<1.5(但し、x=1.0を除く。)、
O:酸素原子)
A3がLa及び/又はLuからなる組成では発光しないので、この組成は上記式から除いてある。
【0086】
上記式では、被置換イオン(a)がA1(III)、発光性元素イオン(b)がA3(III)、第1の非発光性元素イオン(c)がA2(II)、第2の非発光性元素イオン(d)がC2(IV)である。
例えば、被置換イオン(a)がY3+であり、発光性元素イオン(b)がPr3+であり、第1の非発光性元素イオン(c)がMg2+であり、第2の非発光性元素イオン(d)がSi4+の組合せ(この場合の化合物はPr−Mg−Si−YAG)が挙げられる。
【0087】
(母体化合物M2)下記一般式で表されるC希土類型化合物
一般式R(III)
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
Rは、Y、及び3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0088】
(母体化合物M3)下記一般式で表されるペロブスカイト型化合物
一般式A(II)B(IV)O
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Aサイトの元素であり、Ba,Sr,Ca,Mg,及びPbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,Hf,Th,Sn,及びSiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0089】
(母体化合物M4)下記一般式で表されるペロブスカイト型化合物
一般式A(I)B(V)O
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Aサイトの元素であり、Li,Na,及びKからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、V,Nb,及びTaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0090】
(母体化合物M5)下記一般式で表されるペロブスカイト型化合物
一般式A(II)B1(II) 1/2B2(VI) 1/2
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Aサイトの元素であり、トータルのイオン価数が2価である少なくとも1種の元素、
B1:Bサイトの元素であり、Fe,Cr,Co,及びMgからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B2:Bサイトの元素であり、W,Mo,Re,及びOsからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0091】
(母体化合物M6)下記一般式で表されるペロブスカイト型化合物
一般式A(II)B1(III) 2/3B2(VI) 1/3
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Aサイトの元素であり、トータルのイオン価数が2価である少なくとも1種の元素、
B1:Bサイトの元素であり、In,Sc,Y,Cr,Fe,及び3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B2:Bサイトの元素であり、W,Mo,及びReからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0092】
(母体化合物M7)下記一般式で表されるペロブスカイト型化合物
一般式A(II)B1(III) 1/2B2(V) 1/2
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Aサイトの元素であり、トータルのイオン価数が2価である少なくとも1種の元素、
B1:Bサイトの元素であり、Sc,Fe,Bi,Mn,Cr,In,Ga,Ca,及び3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B2:Bサイトの元素であり、Nb,Ta、Os,及びSbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0093】
(母体化合物M8)下記一般式で表されるペロブスカイト型化合物
一般式A(II)B1(II)1/3B2(V) 2/3
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Aサイトの元素であり、トータルのイオン価数が2価である少なくとも1種の元素、
B1:Bサイトの元素であり、Mg,Co,Ni、Zn,Fe,Pb,Sr,及びCaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B2:Bサイトの元素であり、Nb及びTaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0094】
(母体化合物M9)下記一般式で表される化合物(ペロブスカイト型化合物又はGdFeO型化合物と称される。)
一般式:A(III)B(III)O
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Aサイトの元素であり、Y,La,Gd,及びBiからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の元素、
B:Bサイトの元素であり、Al,Sc,V,Cr,Fe,Co,Ga,及びYからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の元素、
O:酸素原子)
【0095】
(母体化合物M10)下記一般式で表される化合物(ペロブスカイト型化合物又はGdFeO型化合物と称される。)
一般式:A(III)B(III)O
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Aサイトの元素であり、Ce,Pr,Nd,Sm,及びEuからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の元素、
B:Bサイトの元素であり、Al,Sc,V,Cr,Fe,Co,Ga,及びYからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の元素、
O:酸素原子)
母体化合物M10を用いる場合、発光性元素イオン(b)は、母体化合物を構成する元素と異なる元素とする。
【0096】
本発明の無機化合物は、母体化合物に含まれるイオン半径r1の被置換イオン(a)の一部を、被置換イオン(a)よりも大きいイオン半径r2(r2>r1)を有する、イオン価数がn価の発光性元素イオン(b)で固溶置換するに際して、被置換イオン(a)よりも小さいイオン半径r3(r3<r1)を有し、イオン価数がa価である、少なくとも1種の第1の非発光性元素イオン(c)と、イオン価数がb価である(但し、bはa+b=2nを充足する)、少なくとも1種の第2の非発光性元素イオン(d)とを同時に固溶させたものである。
【0097】
かかる材料設計を行うことで、イオン半径が大きく固溶させにくい発光性元素イオン(b)を固溶させやすくなり、格子歪を抑制しながら、発光性元素イオン(b)のイオン価数を変化させることなく、発光性元素イオン(b)の高濃度ドープを実現することができる。
【0098】
「結晶構造、製造方法」
上記の本発明のガーネット型化合物及び上記の本発明の無機化合物は、単結晶構造でも多結晶構造でもよく、不可避不純物を含むものであってもよい。また、全体が単相であることが好ましいが、特性上支障のない範囲内で異相を含むものであってもよい。
【0099】
単結晶育成方法としては、引き上げ法(チョクラルスキー法、CZ法)、融液封止引き上げ法(LEC法)、EFG法、ブリッジマン法(BS法)、ベルヌーイ法、浮遊帯域法(FZ法)、水熱合成法、フラックス法、マイクロ引き下げ法等が挙げられる。
【0100】
多結晶構造の無機化合物の形態としては、原料粉体が所定の形状に成型されて焼結された多結晶焼結体やその粉砕物等が挙げられる。
【0101】
「本発明の組成物」
本発明の組成物は、上記の本発明のガーネット型化合物又は上記の本発明の無機化合物を含むことを特徴とするものである。
本発明の組成物は、本発明の化合物以外の任意成分(例えば、樹脂等)を含むことができる。
【0102】
「成形体」
本発明の成形体は、上記の本発明のガーネット型化合物又は上記の本発明の無機化合物を含むことを特徴とするものである。
本発明の成形体としては、製造容易性、形状設計自由度、コスト等を考慮すれば、
(a)本発明の化合物の多結晶焼結体、又は、
(b)上記多結晶焼結体(a)の粉砕物がバインダを介して結合されて成形された成形体が好ましい。
バインダとしては制限なく、(メタ)アクリル酸及び/又はそのエステルの単独重合体又は共重合体を含むアクリル系樹脂(PMMA樹脂)等の透光性樹脂が好ましい。
本発明の化合物には発光性化合物と非発光性化合物が含まれるが、励起光により励起されて発光する本発明の発光性化合物を含む場合には、本発明の成形体が発光体となり、種々の用途に利用できる。
本発明の化合物が励起光により励起されてレーザ光を発振するレーザ物質の場合には、これを含む本発明の成形体はレーザ媒質となり、種々の用途に利用できる。
【0103】
例えば、本発明の化合物であるPr−Mg−Si−YAGは、発光性化合物でありレーザ物質である。Pr−Mg−Si−YAGの励起波長は420〜500nmの範囲内にあり、発光ピーク波長は450〜700nmの範囲内(可視光域)にある。
【0104】
「発光装置」
本発明の発光装置は、上記の本発明の発光性化合物を含む成形体からなる発光体と、該発光体に励起光を照射する励起光源とを備えたことを特徴とするものである。
【0105】
図1に基づいて、本発明に係る実施形態の発光装置の構造について説明する。図1は、回路基板2の厚み方向の断面図である。
【0106】
本実施形態の発光装置1は、円板状の回路基板2の表面中央に、励起光源である発光素子3が実装され、回路基板2上に発光素子3を囲むようにドーム状の発光体5が成形されたものである。
【0107】
発光体5を励起する励起光を出射する発光素子3は、半導体発光ダイオード等からなり、回路基板2にボンディングワイヤ4を介して導通されている。
【0108】
本実施形態では、発光体5は、本発明の発光性化合物の多結晶焼結体の粉砕物がバインダを介して結合されて成形された成形体である。
【0109】
本実施形態では、発光体5は、1.0%Pr−Mg−Si−YAG(後記実施例1、1.0%はPrドープ量(モル%)を示している。)の多結晶焼結体を乳鉢で粉砕して粉砕物を得、この粉砕物とバインダであるポリアクリル酸メチル(PMMA樹脂)とを樹脂溶融状態で混練して、Pr−Mg−Si−YAGの多結晶焼結体の粉砕物とPMMA樹脂との混合物(Pr−Mg−Si−YAG:PMMA樹脂=3:4(質量比))を得、発光素子3を実装した回路基板2を金型内に載置して射出成形を実施して、成形した。
【0110】
発光体5の励起波長は420〜500nmの範囲にあるので、励起光源である発光素子3としては、360〜500nmの範囲に発振ピーク波長を有する半導体発光ダイオード、具体的には、GaN,AlGaN,InGaN,InGaNAs,GaNAs等の含窒素半導体化合物を1種又は2種以上含む活性層を備えたナイトライド系半導体発光ダイオード等が好ましく用いられる。
【0111】
上記発光素子3からなる励起光源と、1.0%Pr−Mg−Si−YAGを用いた発光体5との組合せでは、発光素子3からの出射光とは異なる色調の光が発光体5から発光され、発光素子3からの出射光と発光体5からの発光とが混ざり合った色の光(具体的には青色〜赤色の混色光)が発光装置1から出射される。
【0112】
本発明者は、1.0%Pr−YAG(後記比較例2)を用いる場合よりも、高輝度光が得られることを確認している。
【0113】
本実施形態の発光装置1では、Pr−Mg−Si−YAG中のPrドープ量を変える、Pr−Mg−Si−YAGをPrとは吸収帯が異なる他の発光性元素イオンを用いた化合物に変える、励起光源を変えるなどによって、発光色の色調を調整・変更することも可能である。
【0114】
本実施形態の発光装置1は、本発明の発光性化合物を含む成形体からなる発光体5を備えたものであるので、発光強度の増大効果が得られる。発光装置1は、フォトルミネッセンス装置等として好ましく利用することができる。
【0115】
(設計変更例)
本発明の発光装置は上記実施形態に限らず、装置構成は適宜設計変更可能である。例えば、図2に示す如く、発光体5を円板状に成形して、この発光体5の表面に実装ブロック6を突設して、この上に励起光源である発光素子3を実装する構成とすることができる。図2は、発光素子3側から見た平面図である。
【0116】
かかる構成とすれば、回路基板2を用いずに発光装置を構成できるため、発光体5の両側(発光素子3側及びその反対側)から光を得ることができる。
【0117】
上記実施形態では、発光体5がPr−Mg−Si−YAGとPMMA樹脂との混合物からなり、透光性を有する場合について説明した。かかる構成では、発光体5の全体から発光が起こり、大きな発光強度が得られるため、好ましい。
【0118】
発光体5をPr−Mg−Si−YAGの多結晶焼結体により構成してもよい。多結晶焼結体の製造プロセス等を工夫することで、透明性に優れた多結晶焼結体を得ることができる(後記実施例4を参照)。発光体5をPr−Mg−Si−YAGの単結晶体により構成してもよい。
【0119】
発光体5は透光性を有しない構成(例えば、非透光性多結晶焼結体、多結晶焼結体の粉砕物が非透光性バインダを介して結合されて成形された成形体)としてもよい。発光体5が非透光性である場合には、その表面からのみ発光が得られる。
【0120】
「固体レーザ装置」
本発明の固体レーザ装置は、励起光により励起されてレーザ光を発振する本発明の化合物を含む成形体からなる固体レーザ媒質と、該固体レーザ媒質に励起光を照射する励起光源とを備えたことを特徴とするものである。
【0121】
図3に基づいて、本発明に係る実施形態の固体レーザ装置の構造について説明する。
【0122】
本実施形態の固体レーザ装置10は、励起光により励起されてレーザ光を発振する本発明の化合物を含む成形体からなる固体レーザ媒質13と、固体レーザ媒質13に励起光を照射する励起光源である半導体レーザダイオード11とを備えたレーザダイオード励起固体レーザ装置である。
【0123】
半導体レーザダイオード11と固体レーザ媒質13との間に集光レンズ12が配置され、固体レーザ媒質13の後段に出力ミラー14が配置されている。
【0124】
固体レーザ媒質13の励起光入射面13aには、励起波長の光を透過し出力波長の光を反射するコートがなされている。出力ミラー14の光入射面14aには、出力波長の光の一部を透過し、その他の光を反射するコートが施されている。そして、固体レーザ媒質13の励起光入射面13aと出力ミラー14の光入射面14aとの間で、共振器構造が構成されている。
【0125】
本実施形態において、固体レーザ媒質13は、透明性に優れた1.0%Pr−Mg−Si−YAGの多結晶焼結体(後記実施例4)から構成されている。Pr−Mg−Si−YAGの単結晶体により構成してもよい。
【0126】
固体レーザ媒質13の励起波長は420〜500nmの範囲にあるので、励起光源である半導体レーザダイオード11としては、360〜500nmの範囲に発振ピーク波長を有する半導体レーザダイオード、具体的には、GaN,AlGaN,InGaN,InGaNAs,GaNAs等の含窒素半導体化合物を1種又は2種以上含む活性層を備えたナイトライド系半導体レーザダイオードが好ましく用いられる。
【0127】
本実施形態の固体レーザ装置10では、Pr−Mg−Si−YAG中のPrドープ量を変える、Pr−Mg−Si−YAGをPrとは吸収帯が異なる他の発光性元素イオンを用いた化合物に変える、励起光源を変えるなどによって、固体レーザ媒質13から発振されるレーザ光の波長を変更することができる。
【0128】
本実施形態の固体レーザ装置10は、励起光により励起されてレーザ光を発振する本発明の化合物を含む成形体からなる固体レーザ媒質13を用いたものであるので、高輝度レーザ光を得ることができる。
【0129】
(設計変更例)
本発明の固体レーザ装置は上記実施形態に限らず、装置構成は適宜設計変更可能である。例えば、図4に示す如く、固体レーザ媒質13と出力ミラー14との間に、非線形光学結晶体15を配置し、固体レーザ媒質13から発振されたレーザ光を第2高調波等に波長変換(短波長化)して出射させる構成とすることができる。
【0130】
図5に示す如く、固体レーザ媒質13を、1.0%Pr−Mg−Si−YAGの多結晶焼結体(後記実施例4)を研磨等して得られる多面プリズムにより構成し、固体レーザ媒質13の一つの面に対向させて出射ミラー14を配置し、その他の面に対向させて複数の半導体レーザダイオード11を配置することで、レーザダイオード励起多面プリズム型固体レーザ装置を構成することができる。この例では、固体レーザ媒質13の励起光入射面13a〜13cに、励起波長の光を透過し出力波長の光を反射するコートがなされている。
【0131】
図6に示す如く、固体レーザ媒質13の一つの面に複数のレーザダイオード11を並べて配置し、該面の対向面に反射ミラー16を配置し、固体レーザ媒質13の両端部に対向させて反射ミラー17と出力ミラー14とを略対称な関係で配置する構成としてもよい。かかる構成では、固体レーザ媒質13の励起光入射面と反射ミラー16と反射ミラー17と出力ミラー14との間で共振器構造が構成されている。
【0132】
図5及び図6に示す固体レーザ装置では、1個の固体レーザ媒質13を複数のレーザダイオード11により励起することができるので、高出力化が可能である。
【0133】
本発明の化合物、組成物、及び成形体は、上記のような発光装置や固体レーザ装置に限らず、種々の用途に利用することができる。
【実施例】
【0134】
本発明に係る実施例について説明する。
【0135】
(実施例1)
以下のようにして、本発明の1.0%Pr−Mg−Si−YAGの多結晶焼結体を調製した(1.0%はPrドープ量(モル%)を示している(他の試料についても同様に表記する。)。モル比が、Y:Pr:Mg=2.94:0.03:0.03、Al:Si=4.97:0.03となるよう原料を配合した。
【0136】
はじめに、Y粉末(純度99.9%)33.194g、α−Al粉末(純度99.99%)25.337g、Pr11粉末(純度99.99%)0.511g、MgO粉末(純度99.99%)0.121g、及びSiO粉末(純度99.99%)0.180gをそれぞれ秤量した。これら粉末とエチルアルコール100mlと10mmφアルミナボール150個とをポットミルに入れ、12時間湿式混合を行った。
【0137】
アルミナボールを取り除き、得られた混合粉末スラリー中のエチルアルコールをロータリーエバポレーターを用いて除去した後、100℃で12時間乾燥し、得られた乾燥粉末を乳鉢で軽くほぐした。得られた乾燥粉末を、成型圧100MPaで、径10mmφ高さ5mmのペレット状(円柱状)に一軸圧縮成型した。
【0138】
得られた圧縮成型体に対して、電気炉にて、大気雰囲気下、500℃/hrで1450℃まで昇温し、同温度で2時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するという仮焼成プロセスを実施した。
【0139】
常温まで冷却した仮焼結体を乳鉢で粉砕し、再度、成型圧100MPaで、径10mmφ高さ5mmのペレット状(円柱状)に一軸圧縮成型した。
【0140】
得られた再圧縮成型体に対して、電気炉にて、大気雰囲気下、500℃/hrで1700℃まで昇温し、同温度で2時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するという本焼成プロセスを実施し、1.0%Pr−Mg−Si−YAGを得た。
【0141】
(実施例2、3)
原料粉末組成を変える以外は実施例1と同様にして、2.0%Pr−Mg−Si−YAG(実施例2)と3.0%Pr−Mg−Si−YAG(実施例3)とを調製した。
【0142】
(比較例1)
原料粉末組成を、Y粉末33.871g及びα−Al粉末25.490gとした以外は、実施例1と同様にして、Pr、Mg、及びSiをドープしないノンドープYAGの多結晶焼結体を調製した。
【0143】
(比較例2)
原料粉末組成を、Y粉末33.533g、α−Al粉末25.490g、及びPr11粉末0.511gとした以外は、実施例1と同様にして、PrをドープしMg及びSiをドープしない1.0%Pr−YAGの多結晶焼結体を調製した。
【0144】
(比較例3〜6)
原料粉末組成を変える以外は比較例2と同様にして、0.5%Pr−YAG(比較例3)、0.75%Pr−YAG(比較例4)、2.0%Pr−YAG(比較例5)、及び3.0%Pr−YAG(比較例6)の多結晶焼結体を調製した。
【0145】
(比較例7)
原料粉末組成を、Y粉末33.194g、α−Al粉末25.490g、Pr11粉末0.511g、及びMgO粉末0.121gとした以外は、実施例1と同様にして、Pr及びMgをドープしSiをドープしない1.0%Pr−Mg−YAGを調製した。
【0146】
(評価)
<粉末X線回折測定>
実施例1〜3(Pr−Mg−Si−YAG)、比較例1(ノンドープYAG)、比較例2〜6(Pr−YAG)について、各々、得られた多結晶焼結体を乳鉢で粉砕し、リガク社製X線回折装置にて粉末X線回折(XRD)測定を実施した。測定条件は、CuKα、40kV、40mA、スキャンスピード:0.5deg/min、受光スリット:0.15mmとした。XRD測定結果を図7に示す。実施例1〜3は同様のスペクトルであったので、実施例1のみを図示してある。比較例2〜6は同様のスペクトルであったので、比較例2のみを図示してある。
【0147】
いずれの試料も、回折ピークがJCPDS#33−0040(YAG立方晶) の回折ピークと完全に一致し、単相構造であることが確認された。このことは、実施例1〜3において、投入したすべてのPrが母体化合物のYAG中に入って、AサイトのYがPrに良好に固溶置換されたことを示している。
【0148】
<格子定数>
本発明者は、上記XRD測定の結果から格子定数を求めた。すなわち、2θ=100〜150°におけるYAG立方晶の回折ピーク値を、接線法を用いて得、Nelson−Riley関数を用いて、正確な格子定数を算出した。算出された格子定数を図8に示す。
【0149】
Nelson−Riley関数は、式1/2(cosθ)(1/sinθ+1/θ)で与えられ、得られた値をx軸とし、Braggの回折条件から得られた格子定数aをy軸にプロットし、最小二乗法の直線のy切片の値を真の格子定数とするものである。
【0150】
比較例1(ノンドープYAG)の格子定数は0.1200625nmであった。実施例1(1.0%Pr−Mg−Si−YAG)の格子定数は0.1200751nm、比較例2(1.0%Pr−YAG)の格子定数は0.1200911nmであった。Prのみをドープした比較例2に比して、PrとMgとSiとを同時にドープした実施例1では、格子の拡がりが半分程度以下に抑えられることが明らかになった。
【0151】
Prドープ量が2.0モル%と3.0モル%についても、同様の傾向が見られた。実施例2(2.0%Pr−Mg−Si−YAG)の格子定数は0.1200787nm、実施例3(3.0%Pr−Mg−Si−YAG)の格子定数は0.1200835nmであった。
【0152】
<発光特性>
実施例1(1.0%Pr−Mg−Si−YAG)、比較例2(1.0%Pr−YAG)、及び比較例7(1.0%Pr−Mg−YAG)について、各々、日立分光蛍光光度計F−4500にて、発光スペクトル(蛍光スペクトル)測定を行った。励起光の波長λexは、Prドープ化合物について励起スペクトルを取ったときに最大発光強度を示す452nmとした。
【0153】
結果を図9に示す。いずれも、可視光域である450〜700nmの波長域に多数の発光ピークが見られ(これはPrの特性である。)、487nm(青色光)に最も強い発光強度の発光ピークが見られた。
【0154】
比較例2(1.0%Pr−YAG)を基準とすれば、PrとMgをドープしSiをドープしなかった比較例7では、全波長域において発光強度が低下したのに対して、PrとMgとSiをドープした実施例1では、全波長域において発光強度が増大した。487nmにおける発光強度は、実施例1が比較例2の1.4倍程度、比較例7が比較例2の0.7倍程度であった。
【0155】
他の実施例と比較例についても、同様に測定を実施した。Prドープ量と487nmにおける発光強度との関係を図10に示す。Prドープ量に関係なく、Pr−Mg−Si−YAGの発光強度の増大効果が見られ、本発明の有効性が示された。
【0156】
図8及び図10に示すように、実施例1〜3(Pr−Mg−Si−YAG)では、特に、Prドープ量が0モル%超3モル%以下の範囲内で、格子歪が良好に抑えられ、高輝度発光が得られている。本発明者は、本発明の発光強度の増大効果は、Pr近傍における空間的な歪がMgとSiの同時固溶によって緩和された結果もたらされたものであると、推察している。
【0157】
(実施例4)
本焼成プロセスを、真空焼結炉にて、真空度1.3×10−3Pa下、500℃/hrで1750℃まで昇温し、同温度で20時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するというプロセスに変更した以外は、実施例1と同様にして、本発明の1.0%Pr−Mg−Si−YAGの多結晶焼結体を得た。
【0158】
得られた多結晶焼結体を両面研磨して透過スペクトル測定を行ったところ、入射光の約80%の光が透過した。本実施例のプロセスにより、光散乱の少ない透明性に優れた1.0%Pr−Mg−Si−YAGの多結晶焼結体が得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明の化合物は、Prドープガーネット型化合物等に好ましく適用できる。本発明の化合物は、フォトルミネッセンス装置等の発光装置や固体レーザ装置等の用途に利用することができる。
【符号の説明】
【0160】
1 発光装置
3 発光素子(励起光源)
5 発光体(成形体)
10 固体レーザ装置
11 半導体レーザダイオード(励起光源)
13 固体レーザ媒質(成形体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母体化合物に含まれるイオン半径r1の被置換イオン(a)の一部を、被置換イオン(a)よりも大きいイオン半径r2(r2>r1)を有する、イオン価数がn価の発光性元素イオン(b)で固溶置換した無機化合物において、
発光性元素イオン(b)を固溶するに際して、
被置換イオン(a)よりも小さいイオン半径r3(r3<r1)を有し、イオン価数がa価である、少なくとも1種の第1の非発光性元素イオン(c)と、
イオン価数がb価である(但し、bはa+b=2nを充足する)、少なくとも1種の第2の非発光性元素イオン(d)とを同時に固溶させてなり、
前記r1と前記r2とが、下記式を満足することを特徴とする無機化合物。
(r2−r1)/r1>0.04
【請求項2】
第1の非発光性元素イオン(c)と、第2の非発光性元素イオン(d)とを、等モル量固溶させてなることを特徴とする請求項1に記載の無機化合物。
【請求項3】
発光性元素イオン(b)と、第1の非発光性元素イオン(c)と、第2の非発光性元素イオン(d)とを、等モル量固溶させてなることを特徴とする請求項2に記載の無機化合物。
【請求項4】
第1の非発光性元素イオン(c)のイオン価数a価と、第2の非発光性元素イオン(d)のイオン価数b価とが、a=n−1及びb=n+1を充足することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の無機化合物。
【請求項5】
被置換イオン(a)のイオン価数が、発光性元素イオン(b)のイオン価数n価と等しいことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の無機化合物。
【請求項6】
第2の非発光性元素イオン(d)の格子サイト位置が、被置換イオン(a)及び発光性元素イオン(b)の格子サイト位置と異なることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の無機化合物。
【請求項7】
発光性元素イオン(b)のイオン濃度が0モル%超3モル%以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の無機化合物。
【請求項8】
発光性元素イオン(b)のイオン価数が3価(n=3)であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の無機化合物。
【請求項9】
第1の非発光性元素イオン(c)のイオン価数a価が2価であり、第2の非発光性元素イオン(d)のイオン価数b価が4価であることを特徴とする請求項8に記載の無機化合物。
【請求項10】
前記母体化合物が、下記一般式で表されるガーネット型化合物であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の無機化合物。
一般式:A(III)B(III)C(III)12
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Aサイトの元素であり、Y,Sc,In,及び3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、Al,Sc,Ga,Cr,In,及び3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
C:Cサイトの元素であり、Al及びGaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【請求項11】
被置換イオン(a)がY3+であり、
発光性元素イオン(b)がPr3+であり、
第1の非発光性元素イオン(c)がMg2+であり、
第2の非発光性元素イオン(d)がSi4+であることを特徴とする請求項10に記載の無機化合物。
【請求項12】
前記母体化合物が、YAl12であることを特徴とする請求項11に記載の無機化合物。
【請求項13】
前記母体化合物が、下記一般式で表されるC希土類型化合物であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の無機化合物。
一般式R(III)
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
Rは、Y、及び3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【請求項14】
前記母体化合物が、下記一般式で表されるペロブスカイト型化合物であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の無機化合物。
一般式A(II)B(IV)O
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Aサイトの元素であり、Ba,Sr,Ca,Mg,及びPbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,Hf,Th,Sn,及びSiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【請求項15】
前記母体化合物が、下記一般式で表されるペロブスカイト型化合物であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の無機化合物。
一般式A(I)B(V)O
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Aサイトの元素であり、Li,Na,及びKからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、V,Nb,及びTaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【請求項16】
前記母体化合物が、下記一般式で表されるペロブスカイト型化合物であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の無機化合物。
一般式A(II)B1(II) 1/2B2(VI) 1/2
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Aサイトの元素であり、トータルのイオン価数が2価である少なくとも1種の元素、
B1:Bサイトの元素であり、Fe,Cr,Co,及びMgからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B2:Bサイトの元素であり、W,Mo,Re,及びOsからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【請求項17】
前記母体化合物が、下記一般式で表されるペロブスカイト型化合物であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の無機化合物。
一般式A(II)B1(III) 2/3B2(VI) 1/3
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Aサイトの元素であり、トータルのイオン価数が2価である少なくとも1種の元素、
B1:Bサイトの元素であり、In,Sc,Y,Cr,Fe,及び3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B2:Bサイトの元素であり、W,Mo,及びReからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【請求項18】
前記母体化合物が、下記一般式で表されるペロブスカイト型化合物であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の無機化合物。
一般式A(II)B1(III) 1/2B2(V) 1/2
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Aサイトの元素であり、トータルのイオン価数が2価である少なくとも1種の元素、
B1:Bサイトの元素であり、Sc,Fe,Bi,Mn,Cr,In,Ga,Ca,及び3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B2:Bサイトの元素であり、Nb,Ta、Os,及びSbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【請求項19】
前記母体化合物が、下記一般式で表されるペロブスカイト型化合物であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の無機化合物。
一般式A(II)B1(II)1/3B2(V) 2/3
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Aサイトの元素であり、トータルのイオン価数が2価である少なくとも1種の元素、
B1:Bサイトの元素であり、Mg,Co,Ni、Zn,Fe,Pb,Sr,及びCaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B2:Bサイトの元素であり、Nb及びTaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【請求項20】
前記母体化合物が、下記一般式で表される化合物であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の無機化合物。
一般式:A(III)B(III)O
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Aサイトの元素であり、Y,La,Gd,及びBiからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の元素、
B:Bサイトの元素であり、Al,Sc,V,Cr,Fe,Co,Ga,及びYからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の元素、
O:酸素原子)
【請求項21】
前記母体化合物が下記一般式で表される化合物であり、かつ、発光性元素イオン(b)が該母体化合物を構成する元素と異なることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の無機化合物。
一般式:A(III)B(III)O
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Aサイトの元素であり、Ce,Pr,Nd,Sm,及びEuからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の元素、
B:Bサイトの元素であり、Al,Sc,V,Cr,Fe,Co,Ga,及びYからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の元素、
O:酸素原子)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−41538(P2012−41538A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204098(P2011−204098)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【分割の表示】特願2005−308001(P2005−308001)の分割
【原出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】