説明

無段変速機の変速制御装置

【課題】変速比を一定に保つことが容易な変速制御装置を提供する。
【解決手段】プライマリプーリ20には、作動油を供給するアップシフト弁44と、作動油を排出するダウンシフト弁48とが接続される。アップシフトを行う際にはアップシフト弁44を連通してダウンシフト弁48を遮断し、ダウンシフトを行う際にはアップシフト弁44を遮断してダウンシフト弁48を連通する。そして、変速比を一定に保つ際には、作動油を保持するように双方のシフト弁44,48を共に遮断する。このように、作動油を保持するためにシフト弁44,48のスプール弁軸を中間位置に保持する必要がなく、容易に変速比を一定に保つことが可能となっている。しかも、ソレノイド部44a,48aは直列に接続され、双方のシフト弁44,48は同じ駆動電流によって制御されるため、駆動電流に対するシフト弁44,48の作動特性を設定する調整作業が容易となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される無段変速機の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の動力伝達系に搭載される無段変速機(CVT)は、入力軸に設けられるプライマリプーリと、出力軸に設けられるセカンダリプーリと、これらのプーリに掛け渡される駆動ベルトとを備えており、プーリに対する駆動ベルトの巻き付け径を変化させて変速比を無段階に制御している。プライマリプーリやセカンダリプーリは、それぞれに固定シーブとこれに対面する可動シーブとを備えており、可動シーブを軸方向に移動させて駆動ベルトの巻き付け径や張力を制御することが可能となっている。たとえば、目標変速比と入力トルクとに基づき設定されたセカンダリ圧をセカンダリプーリに供給することによって、セカンダリプーリのプーリ溝幅を調整して駆動ベルトの張力を制御することが可能となり、目標変速比とセカンダリ圧とに基づき算出されたプライマリ圧をプライマリプーリに供給することによって、プライマリプーリのプーリ溝幅を調整して駆動ベルトの巻き付け径を制御することが可能となっている。
【0003】
ところで、プライマリプーリに供給されるプライマリ圧を調圧するため、オイルポンプとプライマリプーリとの間に変速制御弁を組み込むようにした変速制御装置が提案されている (たとえば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載される変速制御弁にあっては、弁収容孔が形成されるハウジングと、このハウジングに収容されるスプール弁軸とを備えており、ハウジングには、オイルポンプに連通する入力ポートと、プライマリプーリに連通する出力ポートと、オイルパンに連通する排出ポートとが形成されている。また、スプール弁軸を駆動して各ポートの連通状態を制御するため、スプール弁軸の一端側にはソレノイドが組み付けられる一方、スプール弁軸の他端側にはバネ部材が組み付けられるようになっている。そして、ソレノイドに対して通電制御を施すことにより、スプール弁軸をバネ力に抗して移動させることができ、各ポートの連通状態を制御することが可能となっている。
【特許文献1】特開平10−238616号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、特許文献1の変速制御弁にあっては、スプール弁軸を一端側のアップシフト位置に移動させて入力ポートと出力ポートを連通させることにより、プライマリプーリに作動油を供給してアップシフト変速を実行する一方、スプール弁軸を他端側のダウンシフト位置に移動させて出力ポートと排出ポートを連通させることにより、プライマリプーリから作動油を排出してダウンシフト変速を実行するようにしている。そして、アップシフト位置とダウンシフト位置との間に設定される中立位置に対してスプール弁軸を移動させることにより、全てのポートを遮断することができ、プライマリプーリ内の作動油を保持して変速比を維持することが可能となっている。しかしながら、スプール弁軸を中間位置に保持するためには、電磁力とバネ力とのバランス状態を保つように狭い範囲内で通電量を制御する必要があり、スプール弁軸を中間位置に保持して変速比を一定に保つことが困難となっていた。
【0005】
本発明の目的は、変速比を一定に保つことが容易となる変速制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の無段変速機の変速制御装置は、駆動ベルトが巻き付けられる変速プーリと締付プーリとを備え、前記変速プーリを用いて前記駆動ベルトの巻き付け径を制御し、前記締付プーリを用いて前記駆動ベルトの張力を制御する無段変速機の変速制御装置であって、油圧供給源と前記変速プーリとの間に設けられ、前記変速プーリに作動油を供給する第1シフト弁と、前記変速プーリとオイルパンとの間に設けられ、前記変速プーリから作動油を排出する第2シフト弁と、前記第1シフト弁と前記第2シフト弁とを同じ電気信号に基づいて制御する電子制御手段とを有することを特徴とする。
【0007】
本発明の無段変速機の変速制御装置は、前記第1シフト弁は、前記油圧供給源と前記変速プーリとを連通する油圧供給位置と、前記油圧供給源と前記変速プーリとを遮断する油圧遮断位置との間で移動自在となる第1スプール弁軸を備え、前記第2シフト弁は、前記変速プーリと前記オイルパンとを連通する油圧排出位置と、前記変速プーリと前記オイルパンとを遮断する油圧保持位置との間で移動自在となる第2スプール弁軸を備え、前記第1スプール弁軸が油圧供給位置に向けて移動するときには、前記第2スプール弁軸は油圧保持位置に向けて移動し、前記第1スプール弁軸が油圧遮断位置に向けて移動するときには、前記第2スプール弁軸は油圧排出位置に向けて移動することを特徴とする。
【0008】
本発明の無段変速機の変速制御装置は、前記第1シフト弁および前記第2シフト弁は前記電子制御手段に電気的に接続されるソレノイド部を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の無段変速機の変速制御装置は、前記電子制御手段に電気的に接続され、前記電気信号に基づくパイロット圧を前記第1シフト弁に供給する第1パイロット弁と、前記電子制御手段に電気的に接続され、前記電気信号に基づくパイロット圧を前記第2シフト弁に供給する第2パイロット弁とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、変速プーリに作動油を供給する第1シフト弁と、変速プーリから作動油を排出する第2シフト弁とを別個に設けるようにしたので、変速プーリに作動油を保持して変速比を一定に保つことが容易となる。しかも、第1シフト弁と第2シフト弁とを同じ電気信号に基づいて制御するようにしたので、電気信号に対する第1シフト弁および第2シフト弁の作動特性を設定する際の調整作業が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
図1は無段変速機10を示すスケルトン図であり、この無段変速機10は本発明の一実施の形態である変速制御装置によって制御される。図1に示すように、この無段変速機10はベルト式無段変速機であり、エンジン11に駆動されるプライマリ軸12と、これに平行となるセカンダリ軸13とを有している。プライマリ軸12とセカンダリ軸13との間には変速機構14が設けられており、プライマリ軸12の回転は変速機構14を介してセカンダリ軸13に伝達され、セカンダリ軸13の回転は減速機構15およびディファレンシャル機構16を介して左右の駆動輪17,18に伝達される。
【0013】
プライマリ軸12には変速プーリとしてのプライマリプーリ20が設けられており、このプライマリプーリ20はプライマリ軸12に一体となる固定シーブ20aと、これに対向してプライマリ軸12に軸方向に摺動自在となる可動シーブ20bとを有している。また、セカンダリ軸13には締付プーリとしてのセカンダリプーリ21が設けられており、このセカンダリプーリ21はセカンダリ軸13に一体となる固定シーブ21aと、これに対向してセカンダリ軸13に軸方向に摺動自在となる可動シーブ21bとを有している。プライマリプーリ20とセカンダリプーリ21には駆動ベルト22が巻き付けられており、プライマリプーリ20とセカンダリプーリ21とのプーリ溝幅を変化させることにより、駆動ベルト22の巻き付け径を無段階に変化させることが可能となっている。駆動ベルト22のプライマリプーリ20に対する巻き付け径をRpとし、セカンダリプーリ21に対する巻き付け径をRsとすると、無段変速機10の変速比はRs/Rpとなる。
【0014】
プライマリプーリ20のプーリ溝幅を変化させるため、プライマリ軸12にはプランジャ23が固定されるとともに、可動シーブ20bにはプランジャ23の外周面に摺動自在に接触するシリンダ24が固定されており、プランジャ23とシリンダ24とによって作動油室25が区画されている。同様に、セカンダリプーリ21のプーリ溝幅を変化させるため、セカンダリ軸13にはプランジャ26が固定されるとともに、可動シーブ21bにはプランジャ26の外周面に摺動自在に接触するシリンダ27が固定されており、プランジャ26とシリンダ27とによって作動油室28が区画されている。それぞれのプーリ溝幅は、プライマリ側の作動油室25に供給されるプライマリ圧Ppと、セカンダリ側の作動油室28に供給されるセカンダリ圧Psとを調圧することによって制御されている。
【0015】
また、プライマリプーリ20にエンジン動力を伝達するため、クランク軸11aとプライマリ軸12との間にはトルクコンバータ30および前後進切換機構31が設けられている。トルクコンバータ30はクランク軸11aに連結されるポンプシェル30aとこれに対面するタービンランナ30bとを備えており、タービンランナ30bにはタービン軸32が連結されている。さらに、トルクコンバータ30内には、走行状態に応じてクランク軸11aとタービン軸32とを締結するためのロックアップクラッチ33が組み込まれている。
【0016】
前後進切換機構31は、ダブルピニオン式の遊星歯車列34、前進用クラッチ35および後退用ブレーキ36を備えており、前進用クラッチ35や後退用ブレーキ36を作動させることによってエンジン動力の伝達経路が切り換えられるようになっている。前進用クラッチ35および後退用ブレーキ36を共に開放すると、タービン軸32とプライマリ軸12とは切り離され、前後進切換機構31はプライマリ軸12に動力を伝達しないニュートラル状態に切り換えられる。また、後退用ブレーキ36を開放して前進用クラッチ35を締結すると、タービン軸32の回転がそのままプライマリプーリ20に伝達される一方、前進用クラッチ35を開放して後退用ブレーキ36を締結すると、逆転されたタービン軸32の回転がプライマリプーリ20に伝達されることになる。
【0017】
図2は無段変速機10の油圧制御系および電子制御系を示す概略図である。図2に示すように、プライマリプーリ20やセカンダリプーリ21に対して作動油を供給するため、無段変速機10には油圧供給源であるオイルポンプ40が設けられている。このオイルポンプ40の吐出口に接続されるライン圧路41にはライン圧制御弁42が接続されており、ライン圧制御弁42によって油圧制御回路の基本油圧となるライン圧PLが調圧される。また、ライン圧路41は分岐するようになっており、セカンダリプーリ21に向けて延びる一方のライン圧路41aにはセカンダリ圧制御弁43が接続され、プライマリプーリ20に向けて延びる他方のライン圧路41bには、プライマリプーリ20に対して作動油を供給する第1シフト弁としてのアップシフト弁44が接続されている。さらに、アップシフト弁44から作動油室25に向けて延びるプライマリ圧路45には分岐油路46が設けられ、この分岐油路46にはプライマリプーリ20からオイルパン47に対して作動油を排出する第2シフト弁としてのダウンシフト弁48が接続されている。セカンダリプーリ21にセカンダリ圧路49を介して接続されるセカンダリ圧制御弁43は、後述する目標変速比や入力トルクに基づいて駆動制御されるようになっており、セカンダリ圧Psを調圧して駆動ベルト22の張力を制御することが可能となっている。また、プライマリプーリ20に接続されるアップシフト弁44とダウンシフト弁48とは、目標変速比に基づいて駆動制御されるようになっており、プライマリ圧Ppを調圧して駆動ベルト22の巻き付け径を制御することが可能となっている。
【0018】
このようなライン圧制御弁42、セカンダリ圧制御弁43、アップシフト弁44、ダウンシフト弁48は、それぞれにソレノイド部42a,43a,44a,48aを備えた電磁流量制御弁となっており、各ソレノイド部42a,43a,44a,48aには電子制御手段であるCVT制御ユニット50から駆動電流(電気信号)が供給されるようになっている。また、CVT制御ユニット50は、図示しないマイクロプロセッサ(CPU)を備えており、このCPUにはバスラインを介してROM、RAMおよびI/Oポートが接続される。ROMには制御プログラムや各種マップデータなどが格納され、RAMにはCPUで演算処理したデータが一時的に格納される。さらに、I/Oポートを介してCPUには各種センサから車両の走行状態を示す検出信号が入力されている。
【0019】
CVT制御ユニット50に検出信号を入力する各種センサとしては、プライマリプーリ20の回転数を検出するプライマリ回転数センサ51、セカンダリプーリ21の回転数を検出するセカンダリ回転数センサ52、ライン圧路41に設けられてライン圧PLを検出するライン圧センサ53、プライマリ圧路45に設けられてプライマリ圧Ppを検出するプライマリ圧センサ54、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサ55、車速を検出する車速センサ56などがある。また、CVT制御ユニット50にはエンジン制御ユニット57が接続されており、このエンジン制御ユニット57からスロットル開度やエンジン回転数などのエンジン制御情報が入力されるようになっている。
【0020】
続いて、CVT制御ユニット50による目標プライマリ圧Ppと目標セカンダリ圧Psとの算出手順について説明する。図3はCVT制御ユニット50の変速制御系を示すブロック図である。図3に示すように、目標プライマリ回転数算出部60は、車速Vとスロットル開度Toに基づき所定の変速特性マップを参照して目標プライマリ回転数Npを算出し、目標変速比算出部61は、目標プライマリ回転数Npと実セカンダリ回転数Ns’とに基づき目標変速比iを算出する。次いで、油圧比算出部62は、目標変速比iに対応する目標プライマリ圧Ppと目標セカンダリ圧Psとの油圧比(Pp/Ps)を算出し、目標プライマリ圧算出部63は、この油圧比に後述する目標セカンダリ圧Psを乗算して目標プライマリ圧Ppを算出する。また、実変速比算出部64は、実プライマリ回転数Np’と実セカンダリ回転数Ns’とに基づき実変速比i’を算出し、フィードバック値算出部65は、実変速比i’と目標変速比iとに基づきフィードバック値fを算出する。そして、バルブ駆動部66は、フィードバック制御された目標プライマリ圧Ppに基づいて駆動電流を設定した後に、この駆動電流をアップシフト弁44およびダウンシフト弁48に対して出力し、プライマリプーリ20のプーリ溝幅を目標変速比に向けて制御することになる。
【0021】
さらに、目標セカンダリ圧Psを算出するため、入力トルク算出部67は、エンジン回転数Neとスロットル開度Toとに基づきエンジン11からの入力トルクTiを算出し、必要セカンダリ圧算出部68は、目標変速比iに基づき必要セカンダリ圧Psnを算出する。入力トルクTiと必要セカンダリ圧Psnとは目標セカンダリ圧算出部69に入力され、目標セカンダリ圧算出部69は入力トルクTiと必要セカンダリ圧Psnとに基づいて目標セカンダリ圧Psを算出する。そして、バルブ駆動部66は、目標セカンダリ圧Psに基づき駆動電流を設定した後に、この駆動電流をセカンダリ圧制御弁43に対して出力し、セカンダリプーリ21の締め付け力を伝達トルクに応じて制御するようになっている。
【0022】
以下、アップシフト弁44およびダウンシフト弁48によるプライマリ圧Ppの調圧方法について説明する。図4はプライマリ圧Ppを調圧するための油圧制御系および電子制御系を示す概略図である。また、図5(A)、図5(B)、図6(A)および図6(B)は、アップシフト弁44およびダウンシフト弁48によるプライマリ圧Ppの調圧状態を示す説明図である。なお、図2に示す部材と同一の部材については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0023】
まず、図4に示すように、アップシフト弁44は、ライン圧路41bとプライマリ圧路45との連通状態を制御するバルブ部44bと、このバルブ部44bを駆動制御するソレノイド部44aとを備えている。同様に、ダウンシフト弁48は、分岐油路46と排出油路70との連通状態を制御するバルブ部48bと、このバルブ部48bを駆動制御するソレノイド部48aとを備えている。それぞれのソレノイド部44a,48aは、CVT制御ユニット50のバルブ駆動部66に接続される電磁コイル71,72と、この電磁コイル71,72の内側に収容される図示しない固定鉄心と、この固定鉄心にバネ部材を介して対向する図示しない可動鉄心とを備えている。また、双方の電磁コイル71,72は直列に接続されており、アップシフト弁44およびダウンシフト弁48にはバルブ駆動部66から同じ駆動電流が供給されるようになっている。さらに、ソレノイド部44a,48aに組み付けられる調整ネジ73,74の締め込み量を調整することにより、鉄心間に設けられるバネ部材のバネ力を調整することが可能となっている。
【0024】
図5(A)〜図6(B)に示すように、アップシフト弁44のバルブ部44bは、弁収容孔が形成されたハウジング75と、弁収容孔に移動自在に収容される第1スプール弁軸76とを備えている。ハウジング75には、ライン圧路41bに接続される入力ポート75aと、プライマリ圧路45に接続される出力ポート75bとが形成されており、このハウジング75に収容されるスプール弁軸76は、入力ポート75aと出力ポート75bとを連通する図5(A)の油圧供給位置と、入力ポート75aと出力ポート75bとを遮断する図6(B)の油圧遮断位置との間で移動自在となっている。このスプール弁軸76は可動鉄心に連動するようになっており、電磁コイル71に対する駆動電流を引き下げたときには、スプール弁軸76が油圧供給位置に向けて矢印a方向に移動する一方、電磁コイル71に対する駆動電流を引き上げたときには、スプール弁軸76が油圧遮断位置に向けて矢印b方向に移動するようになっている。
【0025】
同様に、ダウンシフト弁48のバルブ部48bは、弁収容孔が形成されたハウジング77と、弁収容孔に移動自在に収容されるスプール弁軸78とを備えている。ハウジング77には、分岐油路46に接続される入力ポート77aと、排出油路70に接続される排出ポート77bとが形成されており、このハウジング77に収容されるスプール弁軸78は、入力ポート77aと排出ポート77bとを遮断する図5(A)の油圧保持位置と、入力ポート77aと排出ポート77bとを連通する図6(B)の油圧排出位置との間で移動自在となっている。このスプール弁軸78は可動鉄心に連動するようになっており、電磁コイル72に対する駆動電流を引き下げたときには、スプール弁軸78が油圧保持位置に向けて矢印a方向に移動する一方、電磁コイル72に対する駆動電流を引き上げたときには、スプール弁軸78が油圧排出位置に向けて矢印b方向に移動するようになっている。
【0026】
ここで、図7(A)はアップシフト弁44におけるポート連通面積と駆動電流との関係を示す特性線図であり、図7(B)はダウンシフト弁48におけるポート連通面積と駆動電流との関係を示す特性線図である。なお、アップシフト弁44におけるポート連通面積とは入力ポート75aと出力ポート75bとの連通面積であり、ダウンシフト弁48におけるポート連通面積とは入力ポート77aと排出ポート77bとの連通面積である。
【0027】
まず、図7(A)に示すように、アップシフト弁44に対する駆動電流を最小値iminと所定値iとの間で制御した場合には、アップシフト弁44は入力ポート75aと出力ポート75bとを駆動電流に応じた開度で連通するように駆動され、そのポート連通面積は駆動電流の引き上げに伴って減少するようになっている。つまり、図5(A)に示すように、アップシフト弁44に対する駆動電流を最小値iminに制御した場合には、バネ力によってスプール弁軸76が油圧供給位置に移動するため、入力ポート75aと出力ポート75bとの連通面積が最大値に設定されるようになっている。また、駆動電流を所定値iに向けて引き上げることにより、増大する磁力によってスプール弁軸76はバネ力に抗して矢印b方向に移動するため、入力ポート75aと出力ポート75bとの連通面積が絞られることになる。そして、駆動電流が所定値iに達したときには、図5(B)に示すように、スプール弁軸76によって入力ポート75aと出力ポート75bとが遮断されるようになっている。
【0028】
このように、駆動電流を最小値iminと所定値iとの間で制御することにより、アップシフト弁44を介してプライマリプーリ20に作動油を供給することが可能となる。また、駆動電流を最小値iminに向けて引き下げることにより、ポート連通面積を広げて供給油量を増大させることが可能となる一方、駆動電流を所定値iに向けて引き上げることにより、ポート連通面積を狭めて供給油量を減少させることが可能となる。なお、アップシフト弁44に対する駆動電流が所定値iを上回って制御される場合には、図6(A)および(B)に示すように、スプール弁軸76によって入力ポート75aと出力ポート75bとは遮断され、プライマリプーリ20に対する作動油の供給が遮断されることになる。
【0029】
一方、図7(B)に示すように、ダウンシフト弁48に対する駆動電流を所定値iと最大値imaxとの間で制御した場合には、ダウンシフト弁48は入力ポート77aと排出ポート77bとを駆動電流に応じた開度で連通するように駆動され、そのポート連通面積は駆動電流の引き下げに伴って減少するようになっている。つまり、図6(B)に示すように、ダウンシフト弁48に対する駆動電流を最大値imaxに制御した場合には、増大する磁力によってスプール弁軸78がバネ力に抗して油圧排出位置に移動するため、入力ポート77aと排出ポート77bとの連通面積が最大値に設定されるようになっている。また、駆動電流を所定値iに向けて引き下げることにより、バネ力によってスプール弁軸78は磁力に抗して矢印a方向に移動するため、入力ポート77aと排出ポート77bとの連通面積が絞られることになる。そして、駆動電流が所定値iに達したときには、図6(A)に示すように、スプール弁軸78によって入力ポート77aと排出ポート77bとが遮断されるようになっている。
【0030】
このように、駆動電流を所定値iと最大値imaxとの間で制御することにより、ダウンシフト弁48を介してプライマリプーリ20から作動油を排出することが可能となる。また、駆動電流を最大値imaxに向けて引き上げることにより、ポート連通面積を広げて排出油量を増大させることが可能となる一方、駆動電流を所定値iに向けて引き上げることにより、ポート連通面積を狭めて排出油量を減少させることが可能となる。なお、ダウンシフト弁48に対する駆動電流が所定値iを下回って制御される場合には、図5(A)および(B)に示すように、スプール弁軸78によって入力ポート77aと排出ポート77bとは遮断され、プライマリプーリ20からオイルパン47に対する作動油の排出が遮断されることになる。
【0031】
ここで、図4に示すように、アップシフト弁44とダウンシフト弁48との電磁コイル71,72は直列に接続されており、アップシフト弁44およびダウンシフト弁48にはバルブ駆動部66から同じ駆動電流が供給されるようになっている。すなわち、バルブ駆動部66からの駆動電流を最小値iminと所定値iとの間で制御することにより、アップシフト弁44を連通させてダウンシフト弁48を遮断させることができ、プライマリ圧Ppを上昇させてオーバードライブ側にアップシフト変速を実行することが可能となる。そして、駆動電流を最小値iminに向けて引き下げることにより、アップシフト弁44のポート連通面積を広げて変速速度を引き上げることが可能となる一方、駆動電流を所定値iに向けて引き上げることにより、アップシフト弁44のポート連通面積を狭めて変速速度を引き下げることが可能となる。
【0032】
また、バルブ駆動部66からの駆動電流を所定値iと最大値imaxとの間で制御することにより、アップシフト弁44を遮断させてダウンシフト弁48を連通させることができ、プライマリ圧Ppを下降させてロー側にダウンシフト変速を実行することが可能となる。そして、駆動電流を最大値imaxに向けて引き上げることにより、ダウンシフト弁48のポート連通面積を広げて変速速度を引き上げることが可能となる一方、駆動電流を所定値iに向けて引き上げることにより、ダウンシフト弁48のポート連通面積を狭めて変速速度を引き下げることが可能となる。
【0033】
さらに、バルブ駆動部66からの駆動電流を所定値iと所定値iとの間に保持することにより、アップシフト弁44とダウンシフト弁48との双方を遮断することができ、プライマリ圧Ppを一定に保って変速比を維持する状態、つまりプライマリプーリ20の中立状態を保つことが可能となっている。このように、供給油量を制御するアップシフト弁44と排出油量を制御するダウンシフト弁48とを別個に設け、駆動電流が所定値iを上回った場合にアップシフト弁44を遮断させ、駆動電流が所定値iを下回った場合にダウンシフト弁48を遮断させるようにしたので、スプール弁軸76,78を中間位置に保持する必要がなく、プライマリプーリ20を中立状態に制御することが容易となる。つまり、従来の変速制御装置のように、1つの変速制御弁によってプライマリ圧Ppを一定に保つようにすると、変速制御弁に対する駆動電流を非常に狭い範囲で制御する必要があるが、本発明の変速制御装置にあっては、所定の幅を有する所定値iと所定値iとの間に駆動電流を保持することにより、容易にプライマリプーリ20を中立状態に保持することが可能となっている。
【0034】
また、アップシフト弁44とダウンシフト弁48とは調整ネジ73,74を備えており、この調整ネジ73,74によって固定鉄心と可動鉄心との間に設けられるバネ部材のバネ力を調整することが可能となっている。つまり、調整ネジ73,74によってバネ力を調整することにより、駆動電流に対するスプール弁軸76,78の作動位置を調整することが可能となっている。ここで、図8(A)はバネ力の増減に伴うアップシフト弁44の特性変化を示す特性線図であり、図8(B)はバネ力の増減に伴うダウンシフト弁48の特性変化を示す特性線図である。
【0035】
図8(A)に示すように、アップシフト弁44の調整ネジ73を操作することによってバネ力を減少させることにより、スプール弁軸76を油圧供給位置に向けて付勢する推力を弱めることができ、入力ポート75aと出力ポート75bとを遮断する際の駆動電流iを引き下げることが可能となる。一方、アップシフト弁44の調整ネジ73を操作することによってバネ力を増大させることにより、スプール弁軸76を油圧供給位置に向けて付勢する推力を強めることができ、入力ポート75aと出力ポート75bとを遮断する際の駆動電流iを引き上げることが可能となる。
【0036】
また、図8(B)に示すように、ダウンシフト弁48の調整ネジ74を操作することによってバネ力を減少させることにより、スプール弁軸78を油圧保持位置に向けて付勢する推力を弱めることができ、入力ポート77aと排出ポート77bとを遮断する際の駆動電流iを引き下げることが可能となる。一方、ダウンシフト弁48の調整ネジ74を操作することによってバネ力を増大させることにより、スプール弁軸78を油圧保持位置に向けて付勢する推力を強めることができ、入力ポート77aと排出ポート77bとを遮断する際の駆動電流iを引き上げることが可能となる。
【0037】
つまり、調整ネジ73,74を操作することにより、プライマリプーリ20に対して作動油の供給を開始する駆動電流iと、プライマリプーリ20から作動油の排出が開始される駆動電流iとを自在に調整することが可能となるため、バルブ駆動部66からの駆動電流に対するプライマリプーリ20の作動特性を容易に変更することが可能となる。たとえば、アップシフト弁44のバネ力を弱めたり、ダウンシフト弁48のバネ力を強めたりすることによって、所定値iと所定値iとの間隔を広げるようにすると、プライマリプーリ20を中立位置に制御することが容易となる。また、アップシフト弁44のバネ力を強めたり、ダウンシフト弁48のバネ力を弱めたりすることによって、所定値iと所定値iとの間隔を狭めたり、所定値iよりも所定値iを低く設定するようにすると、プライマリプーリ20の変速応答性を向上させることも可能となる。しかも、アップシフト弁44とダウンシフト弁48との双方に調整ネジ73,74が設けられているが、いずれか一方の調整ネジ73,74を操作することによって所定値iと所定値iとの間隔を調整することができ、プライマリプーリ20の作動特性を調整することが可能となっている。
【0038】
また、アップシフト弁44とダウンシフト弁48とに対して同じ駆動電流を供給するようにしたので、アップシフト弁44とダウンシフト弁48とを1つの駆動回路を用いて制御することができ、パワートランジスタ等の電子部品を削減してバルブ駆動部66の簡素化を達成することが可能となる。さらに、調整ネジ73,74を操作してアップシフト弁44とダウンシフト弁48との駆動特性を調整する際にも、同じ駆動電流を供給しながらに調整作業を行うことができるため、それぞれのシフト弁44,48に対して別個の駆動電流を供給した場合に比べて調整作業の簡素化および高精度化を達成することが可能となる。
【0039】
さらに、1つの駆動回路からアップシフト弁44とダウンシフト弁48とに対して駆動電流を出力するようにしたので、変速特性に対する駆動電流の学習制御を容易に実行することが可能となる。つまり、変速制御を高精度に実行するためには、作動油の供給が開始される際にアップシフト弁44の電磁コイル71に対して供給される駆動電流iや、作動油の排出が開始される際にダウンシフト弁48の電磁コイル72に対して供給される駆動電流iを把握して学習させる必要がある。しかしながら、作動油の供給が開始される駆動電流iと、作動油の排出が開始される駆動電流iとの差は、アップシフト弁44およびダウンシフト弁48の機械的な構造によって定められるため、いずれか一方の駆動電流i,iを学習させるだけの作業で、他方の駆動電流i,iを正確に把握することができるため、学習制御の簡素化を達成することが可能となる。
【0040】
続いて、本発明の他の実施の形態である無段変速機の変速制御装置について説明する。図9は無段変速機の油圧制御系および電子制御系を示す概略図であり、図10はプライマリ圧Ppを調圧するための油圧制御系および電子制御系を示す概略図である。なお、図2に示す部材と同一の部材については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0041】
まず、図9に示すように、ライン圧PLを調圧するライン圧制御弁80、セカンダリ圧Psを調圧するセカンダリ圧制御弁81、プライマリ圧Ppを引き上げる第1シフト弁としてのアップシフト弁82、プライマリ圧Ppを引き下げる第2シフト弁としてのダウンシフト弁83は、パイロット圧によって駆動制御されるパイロット圧制御弁となっている。つまり、ライン圧制御弁80はパイロット弁84からのパイロット圧P1に基づきライン圧PLを調圧するようになっており、セカンダリ圧制御弁81はパイロット弁85からのパイロット圧P2に基づきライン圧PLを調圧するようになっている。また、アップシフト弁82はパイロット弁86からのパイロット圧P3に基づきプライマリ圧Ppを引き上げるようになっており、ダウンシフト弁83はパイロット弁87からのパイロット圧P4に基づきプライマリ圧Ppを引き下げるようになっている。
【0042】
図10に示すように、アップシフト弁82は、弁収容孔が形成されるハウジング88と、弁収容孔に移動自在に収容される第1スプール弁軸89とを備えており、ハウジング88には、ライン圧路41bに接続される入力ポート88aと、プライマリ圧路45に接続される出力ポート88bとが形成されている。また、入力ポート88aと出力ポート88bとを連通する油圧供給位置と、入力ポート88aと出力ポート88bとを遮断する油圧遮断位置とにスプール弁軸89を移動させるため、ハウジング88には、パイロット圧路90に連通するパイロット圧室88cと、バネ部材91が組み込まれるバネ室88dとが形成されている。つまり、パイロット圧P3を引き上げることにより、スプール弁軸89はバネ力に抗して油圧供給位置に移動する一方、パイロット圧P3を引き下げることにより、スプール弁軸89はバネ力によって油圧遮断位置に移動するようになっている。なお、バネ部材91を支持するストッパ92は軸方向に調整自在となっており、このストッパ92によってバネ力の調整が可能となっている。そして、パイロット圧P3が所定値αを下回ることによって入力ポート88aと出力ポート88bとの連通が開始されるように、ストッパ92の取付位置が調整されるようになっている。
【0043】
同様に、ダウンシフト弁83は、弁収容孔が形成されるハウジング93と、弁収容孔に移動自在に収容される第2スプール弁軸94とを備えており、ハウジング93には、分岐油路46に接続される入力ポート93aと、オイルパン47に接続される排出ポート93bとが形成されている。また、入力ポート93aと排出ポート93bとを連通する油圧排出位置と、入力ポート93aと排出ポート93bとを遮断する油圧保持位置とにスプール弁軸94を移動させるため、ハウジング93には、パイロット圧路95に連通するパイロット圧室93cと、バネ部材96が組み込まれるバネ室93dとが形成されている。つまり、パイロット圧P4を引き上げることにより、スプール弁軸94はバネ力に抗して油圧排出位置に移動する一方、パイロット圧P4を引き下げることにより、スプール弁軸94はバネ力によって油圧保持位置に移動するようになっている。なお、バネ部材96を支持するストッパ97は軸方向に調整自在となっており、このストッパ97によってバネ力の調整が可能となっている。そして、パイロット圧P4が所定値αを上回ることによって入力ポート93aと排出ポート93bとの連通が開始されるように、ストッパ97の取付位置が調整されるようになっている。
【0044】
また、アップシフト弁82にパイロット圧P3を供給するパイロット弁86と、ダウンシフト弁83にパイロット圧P4を供給するパイロット弁87とは、それぞれにソレノイド部86a,87aを備えた電磁圧力制御弁となっており、各ソレノイド部86a,87aにはCVT制御ユニット50から駆動電流が供給されるようになっている。それぞれのソレノイド部86a,87aは、バルブ駆動部66に接続される電磁コイル98,99と、この電磁コイル98,99の内側に収容される図示しない固定鉄心と、この固定鉄心にバネ部材を介して対向する図示しない可動鉄心とを備えている。また、双方の電磁コイル98,99は直列に接続されており、アップシフト弁82およびダウンシフト弁83にはバルブ駆動部66から同じ駆動電流が供給されるようになっている。さらに、ソレノイド部86a,87aに組み付けられる調整ネジ100,101の締め込み量を調整することにより、鉄心間に設けられるバネ部材のバネ力を調整することが可能となっている。
【0045】
ここで、図11(A)はパイロット弁86の駆動電流とアップシフト弁82のポート連通面積との関係を示す特性線図であり、図11(B)はパイロット弁87の駆動電流とダウンシフト弁83のポート連通面積との関係を示す特性線図である。図11(A)および(B)に示すように、パイロット弁86に供給される駆動電流の増加に伴ってパイロット圧P3は引き下げられるようになっており、パイロット弁87に供給される駆動電流の増加に伴ってパイロット圧P4は引き上げられるようになっている。つまり、アップシフト弁82を駆動制御するパイロット弁86と、ダウンシフト弁83を駆動制御するパイロット弁87とは逆の出力特性を有している。そして。駆動電流が所定値iを上回ることによって、パイロット弁86から出力されるパイロット圧P3は所定値αを下回るようになっており、駆動電流が所定値iを上回ることによって、パイロット弁87から出力されるパイロット圧P4は所定値αを上回るようになっている。
【0046】
つまり、バルブ駆動部66からの駆動電流を最小値iminと所定値iとの間で制御することにより、アップシフト弁82を連通させてダウンシフト弁83を遮断させることができ、プライマリ圧Ppを上昇させてオーバードライブ側にアップシフト変速を実行することが可能となる。そして、駆動電流を最小値iminに向けて引き下げることにより、アップシフト弁82のポート連通面積を広げて変速速度を引き上げることが可能となる一方、駆動電流を所定値iに向けて引き上げることにより、アップシフト弁82のポート連通面積を狭めて変速速度を引き下げることが可能となる。
【0047】
また、バルブ駆動部66からの駆動電流を所定値iと最大値imaxとの間で制御することにより、アップシフト弁82を遮断させてダウンシフト弁83を連通させることができ、プライマリ圧Ppを下降させてロー側にダウンシフト変速を実行することが可能となる。そして、駆動電流を最大値imaxに向けて引き上げることにより、ダウンシフト弁83のポート連通面積を広げて変速速度を引き上げることが可能となる一方、駆動電流を所定値iに向けて引き上げることにより、ダウンシフト弁83のポート連通面積を狭めて変速速度を引き下げることが可能となる。
【0048】
さらに、バルブ駆動部66からの駆動電流を所定値iと所定値iとの間に保持することにより、アップシフト弁82とダウンシフト弁83との双方を遮断することができ、プライマリ圧Ppを一定に保って変速比を維持する状態、つまりプライマリプーリ20の中立状態を保つことが可能となっている。このように、供給油量を制御するアップシフト弁82と排出油量を制御するダウンシフト弁83とを別個に設け、駆動電流が所定値iを上回った場合にアップシフト弁82を遮断させ、駆動電流が所定値iを下回った場合にダウンシフト弁83を遮断させるようにしたので、プライマリプーリ20を中立状態に制御することが容易となる。
【0049】
また、ストッパ92,97や調整ネジ100,101を操作することにより、プライマリプーリ20に対して作動油の供給を開始する駆動電流iと、プライマリプーリ20から作動油の排出が開始される駆動電流iとを自在に調整することが可能となるため、バルブ駆動部66からの駆動電流に対するプライマリプーリ20の作動特性を容易に変更することが可能となる。しかも、アップシフト弁82とダウンシフト弁83との双方にストッパ92,97が設けられており、パイロット弁86,87の双方に調整ネジ100,101が設けられているが、ストッパ92,97または調整ネジ100,101のいずれかを操作することによって所定値iと所定値iとの間隔を調整することができ、プライマリプーリ20の作動特性を調整することが可能となっている。
【0050】
また、パイロット弁86,87に対して同じ駆動電流を供給するようにしたので、パワートランジスタ等の電子部品を削減してバルブ駆動部66の簡素化を達成することが可能となる。さらに、ストッパ92,97や調整ネジ100,101を操作してアップシフト弁82とダウンシフト弁83との駆動特性を調整する際にも、同じ駆動電流を供給しながらに調整作業を行うことができるため、それぞれのパイロット弁86,87に対して別個の駆動電流を供給した場合に比べて調整作業の簡素化および高精度化を達成することが可能となる。さらに、作動油の供給が開始される駆動電流iと、作動油の排出が開始される駆動電流iとの差は、アップシフト弁82およびダウンシフト弁83の機械的な構造によって定められるため、いずれか一方の駆動電流i,iを学習させるだけの作業で、他方の駆動電流i,iを正確に把握することができるため、学習制御の簡素化を達成することが可能となる。
【0051】
なお、これまで説明したように、図2および図9に図示する無段変速機のプライマリプーリ20にあっては、1つの作動油室を備えるシングルシリンダタイプのプライマリプーリであるが、これに限られることはなく、2つの作動油室を備えるダブルシリンダタイプのプライマリプーリを備える無段変速機に対して本発明の変速制御装置を適用するようにしても良い。ここで、図12はダブルシリンダタイプのプライマリプーリ(変速プーリ)102を備える無段変速機の油圧制御系および電子制御系を示す概略図である。なお、図2に示す部材と同一の部材については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0052】
図12に示すように、プライマリ軸12にはプランジャ103が固定されており、可動シーブ104にはプランジャ103に摺動自在に接触するシリンダ105が固定されており、プランジャ103とシリンダ105とによって2つの作動油室106,107が区画されている。中心部の作動油室106にはセカンダリ圧路49からセカンダリ圧Psが供給され、外縁部の作動油室107にはプライマリ圧路45からプライマリ圧Ppが供給されており、このプライマリ圧Ppを調圧することによって駆動ベルトの巻き付け径を制御することが可能となっている。このようなプライマリプーリ102を備える無段変速機に対しても本発明の変速制御装置を適用することにより、プライマリプーリ102を中立状態に保つことが容易となり、プライマリプーリ102の作動特性を設定する際の調整作業も容易に行うことが可能となる。
【0053】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。たとえば、図示する場合には、プライマリ圧Ppを調圧して駆動ベルト22の巻き付け径を制御し、セカンダリ圧Psを調圧して駆動ベルト22の張力を制御しているが、これに限られることはなく、プライマリ圧Ppを調圧して駆動ベルト22の張力を制御し、セカンダリ圧Psを調圧して駆動ベルト22の巻き付け径を制御しても良い。つまり、プライマリプーリ20を締付プーリとして機能させ、セカンダリプーリ21を変速プーリとして機能させるようにしても良い。
【0054】
また、アップシフト弁44、ダウンシフト弁48、パイロット弁86,87などを駆動制御するため、バルブ駆動部66から出力される駆動電流の電流値を制御するようにしているが、これに限られることはなく、アップシフト弁44、ダウンシフト弁48、パイロット弁86,87などをデューティソレノイドバルブによって構成し、駆動電流のデューティ比を制御するようにしても良い。
【0055】
また、アップシフト弁44やダウンシフト弁48は、一義的に作動油の流量を制御することによってプライマリ圧Ppを制御するようにした流量制御弁であるが、これに限られることはなく、一義的に作動油の圧力を制御するようにした圧力制御弁を採用しても良い。同様に、パイロット弁86,87は、一義的に作動油の圧力制御することによってパイロット圧P3,P4を制御するようにした圧力制御弁であるが、これに限られることはなく、一義的に作動油の圧力を制御するようにした流量制御弁を採用しても良い。
【0056】
さらに、アップシフト弁44,82とダウンシフト弁48,83との作動特性を相違させるようにしても良い。つまり、駆動電流の増減量に対するポート連通面積の増減量を異なるように設定し、アップシフト変速とダウンシフト変速との変速速度を相違させるようにしても良い。また、スプール弁軸76,78,89,94を付勢するバネ部材に不等ピッチバネなどを採用することにより、アップシフト弁44,82やダウンシフト弁48,83の作動特性を非線形特性に設定しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】無段変速機を示すスケルトン図である。
【図2】無段変速機の油圧制御系および電子制御系を示す概略図である。
【図3】CVT制御ユニットの変速制御系を示すブロック図である。
【図4】プライマリ圧を調圧するための油圧制御系および電子制御系を示す概略図である。
【図5】(A)および(B)はアップシフト弁およびダウンシフト弁によるプライマリ圧の調圧状態を示す説明図である。
【図6】(A)および(B)はアップシフト弁およびダウンシフト弁によるプライマリ圧の調圧状態を示す説明図である。
【図7】(A)はアップシフト弁におけるポート連通面積と駆動電流との関係を示す特性線図であり、(B)はダウンシフト弁におけるポート連通面積と駆動電流との関係を示す特性線図である。
【図8】(A)はバネ力の変化に伴うアップシフト弁の特性変化を示す特性線図であり、(B)はバネ力の変化に伴うダウンシフト弁の特性変化を示す特性線図である。
【図9】無段変速機の油圧制御系および電子制御系を示す概略図である。
【図10】プライマリ圧を調圧するための油圧制御系および電子制御系を示す概略図である。
【図11】(A)はパイロット弁の駆動電流とアップシフト弁のポート連通面積との関係を示す特性線図であり、(B)はパイロット弁の駆動電流とダウンシフト弁のポート連通面積との関係を示す特性線図である。
【図12】ダブルシリンダタイプのプライマリプーリを備える無段変速機の油圧制御系および電子制御系を示す概略図である。
【符号の説明】
【0058】
10 無段変速機
20 プライマリプーリ(変速プーリ)
21 セカンダリプーリ(締付プーリ)
22 駆動ベルト
40 オイルポンプ(油圧供給源)
44 アップシフト弁(第1シフト弁)
44a ソレノイド部
47 オイルパン
48 ダウンシフト弁(第2シフト弁)
48a ソレノイド部
50 CVT制御ユニット(電子制御手段)
76 スプール弁軸(第1スプール弁軸)
78 スプール弁軸(第2スプール弁軸)
82 アップシフト弁(第1シフト弁)
83 ダウンシフト弁(第2シフト弁)
86 パイロット弁(第1パイロット弁)
87 パイロット弁(第2パイロット弁)
89 スプール弁軸(第1スプール弁軸)
94 スプール弁軸(第2スプール弁軸)
102 プライマリプーリ(変速プーリ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動ベルトが巻き付けられる変速プーリと締付プーリとを備え、前記変速プーリを用いて前記駆動ベルトの巻き付け径を制御し、前記締付プーリを用いて前記駆動ベルトの張力を制御する無段変速機の変速制御装置であって、
油圧供給源と前記変速プーリとの間に設けられ、前記変速プーリに作動油を供給する第1シフト弁と、
前記変速プーリとオイルパンとの間に設けられ、前記変速プーリから作動油を排出する第2シフト弁と、
前記第1シフト弁と前記第2シフト弁とを同じ電気信号に基づいて制御する電子制御手段とを有することを特徴とする無段変速機の変速制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の無段変速機の変速制御装置において、
前記第1シフト弁は、前記油圧供給源と前記変速プーリとを連通する油圧供給位置と、前記油圧供給源と前記変速プーリとを遮断する油圧遮断位置との間で移動自在となる第1スプール弁軸を備え、
前記第2シフト弁は、前記変速プーリと前記オイルパンとを連通する油圧排出位置と、前記変速プーリと前記オイルパンとを遮断する油圧保持位置との間で移動自在となる第2スプール弁軸を備え、
前記第1スプール弁軸が油圧供給位置に向けて移動するときには、前記第2スプール弁軸は油圧保持位置に向けて移動し、前記第1スプール弁軸が油圧遮断位置に向けて移動するときには、前記第2スプール弁軸は油圧排出位置に向けて移動することを特徴とする無段変速機の変速制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の無段変速機の変速制御装置において、
前記第1シフト弁および前記第2シフト弁は前記電子制御手段に電気的に接続されるソレノイド部を備えることを特徴とする無段変速機の変速制御装置。
【請求項4】
請求項1または2記載の無段変速機の変速制御装置において、
前記電子制御手段に電気的に接続され、前記電気信号に基づくパイロット圧を前記第1シフト弁に供給する第1パイロット弁と、
前記電子制御手段に電気的に接続され、前記電気信号に基づくパイロット圧を前記第2シフト弁に供給する第2パイロット弁とを有することを特徴とする無段変速機の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−224974(P2007−224974A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−45116(P2006−45116)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】