説明

無段変速機

【課題】ギヤスリーブの端面の面圧の低減を図ると同時に、ギヤスリーブの組み込み時における相手のギヤとの干渉を回避できる無段変速機を提供する。
【解決手段】従動軸20の一端側にデファレンシャル装置30のリングギヤ31と噛み合う出力ギヤ27aを持つギヤスリーブ27を固定する。ギヤスリーブ27の軸方向一端部に、出力ギヤの歯底径より大きな外径を持つボールベアリング26を嵌合固定する。従動軸20とデファレンシャル装置30とを変速機ケースに先に組み付けておき、従動軸20にギヤスリーブ27をスプライン嵌合し、出力ギヤをリングギヤと噛み合わせ、従動軸の軸端にロックナット28を締結することによりギヤスリーブ27を固定する。ギヤスリーブ27の端部にピストン22bを押圧するフランジ部27dを形成し、このフランジ部にリングギヤ31との干渉を回避するための欠如部27eを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無段変速機、特に従動軸上に設けられる油圧室の側壁を構成する支持部材および出力ギヤの取付構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ベルト式無段変速機では、エンジンから入力された動力がトルクコンバータを介して入力軸に伝達され、入力軸から駆動プーリ、Vベルト、従動プーリを介してデファレンシャル装置に伝達され、出力軸が駆動される。従動プーリ可動シーブの背面にはリターンスプリングを内蔵した油圧室が設けられ、この油圧室の片方の側壁を構成するピストンは、従動軸に出力ギヤやベアリングなどを嵌合した上で締付部材で締結することにより、ピストンの内周部背面を押圧している。
【0003】
図7は特許文献1に記載された従動軸の構造を示す。
従動軸100の一端部に円筒形状の出力ギヤ101をスプライン嵌合させ、出力ギヤ101に続いてローラベアリング102の内側レース102aを従動軸100に嵌合させ、さらに従動軸100の軸端にロックナット103を螺着することで、出力ギヤ101および内側レース102aを軸方向に押圧している。出力ギヤ101の端面は従動軸100に嵌合されたピストン104の内周部背面を押圧し、ピストン104を従動軸100の段差部100aに押し付けて固定している。ピストン104は、油圧を受けるだけでなく、リターンスプリング105の一端部を支えるばね受け部材としても機能している。ローラベアリング102の外側レース102bは変速機ケース106に嵌合保持されている。出力ギヤ101にはデファレンシャル装置のリングギヤ107が噛み合っている。
【0004】
ローラベアリング102の内側レース102aは従動軸100に対して圧入する必要がないので、ローラベアリング102を従動軸100に対して組み込む際、従動軸100の他端側を支持しているベアリング(図示せず)に大きな負荷がかからない。しかし、ローラベアリング102はボールベアリングに比べて回転ロスが大きく、高価であり、しかも軸方向スペースを必要とする。
そこで、ローラベアリング102に代えてボールベアリングを使用することが考えられる。しかし、ボールベアリングは、その内側レースを従動軸に圧入固定する必要があるため、従動軸の他端側を支持しているベアリング(ローラベアリングまたはボールベアリング)に大きな軸方向荷重がかかり、ベアリングを損傷する可能性がある。そのため、従動軸100を変速機ケースに組み込む前にボールベアリングを従動軸100に予め嵌合固定しておかなければならない。
【0005】
出力ギヤ101の歯底径がボールベアリングの外径より大きい場合には、従動軸100に予め出力ギヤ101およびボールベアリングを組み付けておき、この従動軸100を変速機ケースに組み込んだ後で、デファレンシャル装置を変速機ケースに組み込めば、デファレンシャル装置のリングギヤ107と出力ギヤ101とを円滑にかみ合わせることができる。
しかし、ボールベアリングの外径より小さな歯底径を持つ出力ギヤ101を用いた場合には、デファレンシャル装置を変速機ケース106に組み込む際、リングギヤ107がボールベアリングの外側レースに干渉し、デファレンシャル装置を組み込むことができない。
【0006】
そこで、本出願人は、上記のような問題を解消できる無段変速機を提案した。この無段変速機は、図8に示すように、出力ギヤ110aを円筒状のギヤスリーブ110の外周に形成し、ギヤスリーブ110の軸方向一端部にギヤ部のない円筒状の延長部110bを形成し、この延長部の外周に出力ギヤ110aの歯底径より大きな外径を持つボールベアリング111を嵌合固定してある。ギヤスリーブ110を従動軸112にスプライン嵌合するとともに、出力ギヤ110aをデファレンシャル装置のリングギヤ113と噛み合わせる。そして、従動軸112の軸端にロックナット114を締結することにより、ギヤスリーブ110を介して従動プーリのピストン115の内周部背面を押圧し、ピストン115を従動軸112の段差部112aに押し当てて固定してある。
【0007】
このような構造の場合、デファレンシャル装置を変速機ケースに組み込んだ後でギヤスリーブ110を従動軸112に挿入することになるが、ギヤスリーブ110の軸方向他端部110cはリングギヤ113との干渉を回避するため小径に形成され、ピストン115の内周部背面に接するギヤスリーブ110の端面も必然的に小径になる。ピストン115は油圧の他にリターンスプリング116のばね反力を支える部品であるから、ギヤスリーブ110の端面との接触面圧が過大になり、ギヤスリーブ110あるいはピストン115の変形などの問題が発生する。
この問題を解消するため、ギヤスリーブ110の端面とピストン115との間にワッシャを配置する方法もあるが、部品数が増えるとともに、ワッシャを組付忘れてしまった場合に、不具合が発生する懸念がある。
【特許文献1】特開2002−327828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的は、ギヤスリーブの端面の面圧の低減を図ると同時に、ギヤスリーブの組み込み時におけるギヤとの干渉を回避できる無段変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、従動プーリの可動シーブの背面に設けられ、リターンスプリングを内蔵した油圧室と、上記リターンスプリングの一端を支えかつ油圧室の片方の側壁を構成し、内周部が上記従動プーリの従動軸に嵌合された支持部材と、上記従動軸にスプライン嵌合され、一端部が上記支持部材の内周部背面を押圧して上記支持部材を上記従動軸の段差部に押圧支持するとともに、外周部に出力ギヤが形成された円筒状のギヤスリーブと、上記ギヤスリーブの他端部の外周に取り付けられ、上記出力ギヤの歯底径より大きな外径を持つボールベアリングと、上記従動軸の軸端に螺着され、上記ギヤスリーブを介して上記支持部材を押圧支持する締付部材と、上記出力ギヤにかみ合うギヤと、を備えた無段変速機であって、上記ギヤスリーブの一端部に、上記支持部材の内周部背面を支持し、上記出力ギヤの歯底径より大径な部分が形成され、上記大径な部分の一部に、上記ギヤスリーブを従動軸に組み込む際の上記ギヤとの干渉防止のための欠如部が設けられていることを特徴とする無段変速機を提供する。
【0010】
従動軸に設けられた出力ギヤをデファレンシャル装置のリングギヤにかみ合わせる場合、リングギヤのギヤ径を拡大せずにコンパクトな構造で減速比を大きくするには、出力ギヤのギヤ径を縮小する必要がある。このような小径な出力ギヤを形成したギヤスリーブを従動軸に装着し、支持部材の背面をギヤスリーブを介して締付部材により押圧して固定する場合、支持部材の背面を押圧するギヤスリーブの一端部は、組み込み時にデファレンシャル装置のリングギヤとの干渉を回避するため小径にする必要がある。しかし、小径な端部では支持部材を支える端面の面圧が過大になる。
そこで、本発明では、支持部材の背面を押圧するギヤスリーブの一端部に、出力ギヤの歯底径より大径な部分を形成している。このような大径な部分をギヤスリーブに形成すれば、支持部材の背面と接する端面の面圧を低減できるが、組み込み時にデファレンシャル装置のリングギヤと干渉してしまう。そこで、大径な部分の一部にギヤとの干渉防止のための欠如部を設けてある。このような欠如部は大径な部分の一部を欠如させるだけでよいので、面圧の低減効果を損なうことがない。
本発明では、大径な部分が従来より広い面積で支持部材の背面に接するので、ワッシャを廃止することが可能になり、ワッシャの組付忘れによる不具合の発生を防止できる。なお、ワッシャを追加的に用いてもよいことは勿論である。
【0011】
好ましい実施の形態によれば、大径な部分に設けられた欠如部は2面幅形状としてもよい。
この場合には、大径な部分の対称位置に欠如部が形成されるので、回転した時に遠心力のアンバランスが発生しない。また、対称な2面を平行にカットするだけであるから、加工が簡単である。
【0012】
3軸構成の無段変速機の場合、出力ギヤをデファレンシャル装置のリングギヤに噛み合わせればよいが、4軸構成の場合には、出力ギヤとデファレンシャル装置のリングギヤとの間にリダクションギヤが介在する。この場合も、変速機ケースの片側に組み込まれた従動軸、デファレンシャル装置およびリダクションギヤに対し、ギヤスリーブを従動軸にスプライン嵌合することで、出力ギヤをリダクションギヤに容易に噛み合わせることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、支持部材の背面を支持するギヤスリーブの一端部に、出力ギヤの歯底径より大径な部分を形成したので、広い面積で支持部材の背面を支持でき、支持部材と接する端面の面圧を低減できる。そのため、ギヤスリーブや支持部材の変形を防止できる。
また、大径な部分には欠如部が形成されているので、ギヤスリーブを従動軸へ組み込む際に、フランジ部が出力ギヤとかみ合う相手側のギヤと干渉するのを防止でき、円滑に組み込むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態を、実施例を参照して説明する。
【実施例1】
【0015】
図1,図2は本発明にかかる無段変速機の一例を示す。
この実施例の無段変速機はFF横置き式の自動車用変速機であり、大略、エンジン出力軸1によりトルクコンバータ2を介して駆動される入力軸3、入力軸3の回転を正逆切り替えて駆動軸10に伝達する前後進切替装置4、駆動プーリ11と従動プーリ21と両プーリ間に巻き掛けられたVベルト15とからなる無段変速装置A、従動軸20の動力を出力軸32に伝達するデファレンシャル装置30などで構成されている。入力軸3と駆動軸10とは同一軸線上に配置され、従動軸20とデファレンシャル装置30の出力軸32とが入力軸3に対して平行でかつ非同軸に配置されている。したがって、この無段変速機は全体として3軸構成とされている。
この実施例で用いられるVベルト15は、一対の無端状張力帯と、これら張力帯に支持された多数のブロックとで構成された公知の金属ベルトである。
【0016】
無段変速機を構成する各部品は変速機ケース5の中に収容されている。ここで、変速機ケース5は、後側(反エンジン側)のケース5aと、前側(エンジン側)のケース(コンバータハウジング)5bと、中間のケース5cとの3部品で構成されている。トルクコンバータ2と前後進切替装置4との間には、オイルポンプ6が配置されている。このオイルポンプ6はトルクコンバータ2のポンプインペラ2aにより駆動される。なお、トルクコンバータ2のタービンランナ2bは入力軸3に連結されている。
【0017】
前後進切替装置4は、図2に示すように遊星歯車機構40と前進用ブレーキ50と後進用クラッチ51とで構成され、遊星歯車機構40のサンギヤ41が入力部材である入力軸3に連結され、リングギヤ42が出力部材である駆動軸10に連結されている。遊星歯車機構40はシングルピニオン方式であり、前進用ブレーキ50はピニオンギヤ43を支えるキャリア44と変速機ケース5との間に設けられ、後進用クラッチ51はキャリア44とサンギヤ41との間に設けられている。後進用クラッチ51を解放して前進用ブレーキ50を締結すると、入力軸3の回転が逆転され、かつ減速されて駆動軸10へ伝えられる。逆に、前進用ブレーキ50を解放して後進用クラッチ51を締結すると、遊星歯車機構40のキャリア44とサンギヤ41とが一体に回転するので、入力軸3と駆動軸10とが直結される。
【0018】
図1に示すように、無段変速装置Aの駆動プーリ11は、駆動軸(プーリ軸)10上に一体に形成された固定シーブ11aと、駆動軸10上にローラスプライン部13を介して軸方向移動自在に、かつ一体回転可能に支持された可動シーブ11bと、可動シーブ11bの背後に設けられた油圧サーボ12とを備えている。可動シーブ11bの外周部には、背面側へ延びるピストン部12aが一体に形成され、このピストン部12aの外周部が駆動軸10に固定されたシリンダ12bの内周部に摺接している。可動シーブ11bとシリンダ12bとの間に油圧サーボ12の作動油室12cが形成され、この作動油室12cへの油圧を制御することにより、変速制御が実施される。
【0019】
同じく従動プーリ21は、従動軸(プーリ軸)20上に一体に形成された固定シーブ21aと、従動軸20上にローラスプライン部23を介して軸方向移動自在に、かつ一体回転可能に支持された可動シーブ21bと、可動シーブ21bの背後に設けられた油圧サーボ22とを備えている。可動シーブ21bの外周部には、背面側へ延びるシリンダ部22aが一体に形成され、このシリンダ部22aの内周部に従動軸20に固定されたピストン22bが摺接している。可動シーブ21bとピストン22bとの間に油圧サーボ22の作動油室22cが形成され、この作動油室22cの油圧を制御することにより、トルク伝達に必要なベルト推力が与えられる。なお、作動油室22cには初期推力を与えるリターンスプリング24が配置されている。
【0020】
従動軸20の一端部はエンジン側に向かって延び、この一端部に出力ギヤ27aが固定されている。出力ギヤ27aはデファレンシャル装置30のリングギヤ31に噛み合っており、デファレンシャル装置30から左右に延びる出力軸32に動力が伝達され、車輪が駆動される。
【0021】
ここで、従動軸20の構造について、図1〜図3、図4を参照しながら説明する。
図1に示すように、従動軸20の後側(反エンジン側)の端部は、ボールベアリング25を介して後側の変速機ケース5aによって回転自在に支持され、前側(エンジン側)の端部は、ボールベアリング26を介して前側の変速機ケース5bによって回転自在に支持されている。
【0022】
図3に示すように、出力ギヤ27aは円筒状のギヤスリーブ27の外周の中間部に形成されている。ギヤスリーブ27の軸方向一端部(エンジン側端部)にはギヤ部を有しない円筒状の延長部27bが形成され、延長部27bの外周にボールベアリング26の内側レース26aが圧入により嵌合固定されている。ボールベアリング26は出力ギヤ27aの歯底径D1より大きな外径D4を持つ。ここでは、延長部27bの外径D2は出力ギヤ27aの歯底径D1より小さいが、D1より大きくてもよい。また、ボールベアリング26の外径D4は出力ギヤ27aの歯先径D3より大きいが、D3より小さくてもよい。ギヤスリーブ27の軸方向他端部には、延長部27bと同様に出力ギヤ27aの歯底径D1より小径な円筒状の延長部27cが形成されており、この延長部27cの端部に歯底径D1より大径なフランジ部27dが形成されている。フランジ部27dの対称位置には、図4に示すように、2面幅形状の欠如部27eが形成されており、この欠如部27eにより、ギヤスリーブ27を従動軸20に挿入する際に、先に組み込まれているデファレンシャル装置30のリングギヤ31とフランジ部27dとの干渉が回避される。なお、欠如部27eは1箇所のみでもよいが、対称位置に形成したのは、遠心力によるアンバランスを解消するためである。従動軸20にインロー嵌合されたピストン22bは油圧サーボ22の作動油圧とリターンスプリング24のばね反力とを受ける部材であり、ピストン22bの背面を支えるギヤスリーブ27には大きな面圧が作用するが、上記のようにギヤスリーブ27が大径なフランジ部27dでピストン22b(支持部材)の背面と接するため、端面の面圧を下げることができる。
【0023】
ギヤスリーブ27の内周には従動軸20の一端側の外周に形成された外スプライン20aと嵌合する内スプライン27fが形成されている。従動軸20の軸端に形成されたねじ部20bにはロックナット(締付部材)28が締結され、このロックナット28によりギヤスリーブ27は軸方向に押圧される。ギヤスリーブ27のフランジ部27dの端面はピストン22bの背面を押圧し、ピストン22bを従動軸20の段差部20cに押し付けて固定している。そのため、ピストン22bのインロー嵌合が外れるのが防止される。なお、ロックナット28の内側面は、延長部27bの端面に当接してもよいし、ボールベアリング26の内側レース26aに当接してもよい。ボールベアリング26の外側レース26bは前側の変速機ケース5bに形成された凹部5b1 に嵌合されて保持されている。
【0024】
中間の変速機ケース5cの内側壁には、ピストン22bの背面に近接する支持壁部5c1 が一体に形成されている。この支持壁部5c1 は従動軸20の周囲を取り囲むように環状に形成されており、この支持壁部5c1 とピストン22bとの軸方向隙間は、ピストン22bと従動軸20とのインロー嵌合部の嵌合長さより小さく設定されている。そのため、ピストン22bを備えた従動軸20を変速機ケース5aに組み付けた後、変速機ケース5cを組み付ければ、変速機ケース5cの支持壁部5c1 がピストン22bのインロー嵌合外れを防止できる。
【0025】
ここで、従動軸20およびデファレンシャル装置30の組付方法を図5を参照しながら説明する。
まず、従動プーリ21を支持した従動軸20の後側端部をボールベアリング25を介して一方の変速機ケース5aに組み付けた後、中間の変速機ケース5cを変速機ケース5aに固定する。これにより、変速機ケース5cの支持壁部5c1 によってピストン22bのインロー嵌合外れが防止される。次に、中間の変速機ケース5cにデファレンシャル装置30を組み付ける。このデファレンシャル装置30には既にリングギヤ31が固定されている。この状態が図5の左側に示されている。
次に、変速機ケース5aに組み付けられた従動軸20に対し、ボールベアリング26を予め嵌合固定したギヤスリーブ27をスプライン嵌合させる。この際、ギヤスリーブ27のフランジ部27dに形成した欠如部27eをデファレンシャル装置30のリングギヤ31側に向けて挿入することで、円滑に挿入できる。挿入の途中で、出力ギヤ27aをリングギヤ31に噛み合わせる。大径なボールベアリング26は出力ギヤ27aより挿入方向後側に位置しているので、ボールベアリング26によって邪魔されることなく、ギヤスリーブ27を従動軸20に挿入できる。
次に、従動軸20の軸端のねじ部20bにロックナット28を締結する。ロックナット28の締付力によりギヤスリーブ27は軸方向に押され、フランジ部27dの端面が従動軸20のピストン22bの背面に圧接し、ピストン22bを従動軸20の段差部20cに押し付けることで固定される。このようにロックナット28の締付力は段差部20cで終端となり、他方のボールベアリング25に波及しないので、ボールベアリング25に余計な負荷を与えずにすむ。
ロックナット28を締結した後、他方の変速機ケース5bをボールベアリング26に嵌合させることにより、組み付けを完了する。
【実施例2】
【0026】
図6は本発明にかかるギヤスリーブの第2実施例を示す。第1実施例と同一ないし類似部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
この実施例では、ピストン22bを支えるギヤスリーブ27の端部27dまで出力ギヤ(平歯車形状)27aを延長したものである。この場合の大径部は出力ギヤ27aそのものであり、欠如部は出力ギヤ27aの歯溝である。そのため、リングギヤ31と干渉することなくギヤスリーブ27を挿入することができる。
この場合も、ピストン22bを支えるギヤスリーブ27の端部27dの外径寸法を大きくできるので、端面の面圧を低減でき、応力を緩和できる。
【0027】
本発明は上記実施例に限定されるものではない。
第1実施例では、ギヤスリーブ27のフランジ部27dに2面幅形状の欠如部27eを形成したが、欠如部はリングギヤ31との干渉を回避できる形状であれば、1箇所のみでもよいし、対称な複数箇所(例えば3箇所)に設けてもよい。欠如部27eの形状もフラット形状に限らず、円弧状でもよい。
上記実施例では、リターンスプリング24の一端を支えかつ油圧室22cの片方の側壁を構成する支持部材がピストン22bである例を示したが、シリンダであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明にかかる無段変速機の一例の展開断面図である。
【図2】図1に示す無段変速機のスケルトン図である。
【図3】従動軸の構造を示す拡大断面図である。
【図4】ギヤスリーブの側面図および断面図である。
【図5】従動軸にギヤスリーブを組み付ける方法を示す断面図である。
【図6】本発明にかかる従動軸の構造の第2実施例の断面図である。
【図7】従来の無段変速機における従動軸の構造を示す断面図である。
【図8】本発明の前提となる無段変速機の従動軸の構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0029】
20 従動軸
20c 段差部
21 従動プーリ
22 油圧サーボ
22b ピストン(支持部材)
24 リターンスプリング
26 ボールベアリング
27 ギヤスリーブ
27a 出力ギヤ
27b 延長部
27d フランジ部(大径部)
27e 欠如部
28 ロックナット(締付部材)
30 デファレンシャル装置
31 リングギヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
従動プーリの可動シーブの背面に設けられ、リターンスプリングを内蔵した油圧室と、
上記リターンスプリングの一端を支えかつ油圧室の片方の側壁を構成し、内周部が上記従動プーリの従動軸に嵌合された支持部材と、
上記従動軸にスプライン嵌合され、一端部が上記支持部材の内周部背面を押圧して上記支持部材を上記従動軸の段差部に押圧支持するとともに、外周部に出力ギヤが形成された円筒状のギヤスリーブと、
上記ギヤスリーブの他端部の外周に取り付けられ、上記出力ギヤの歯底径より大きな外径を持つボールベアリングと、
上記従動軸の軸端に螺着され、上記ギヤスリーブを介して上記支持部材を押圧支持する締付部材と、
上記出力ギヤにかみ合うギヤと、を備えた無段変速機であって、
上記ギヤスリーブの一端部に、上記支持部材の内周部背面を支持し、上記出力ギヤの歯底径より大径な部分が形成され、
上記大径な部分の一部に、上記ギヤスリーブを従動軸に組み込む際の上記ギヤとの干渉防止のための欠如部が設けられていることを特徴とする無段変速機。
【請求項2】
上記大径な部分に設けられた欠如部は、2面幅形状であることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−275147(P2006−275147A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94716(P2005−94716)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】