説明

無段変速装置

【課題】 低面圧・高温になる運転条件において摩擦係数が低下しても滑りなく運転可能な無段変速装置を提供する。
【解決手段】 無段変速装置は、ハウジング10に回転自在に支持された第一の軸12と、ハウジング10に回転自在に支持された第二の軸36と、第一の軸12に支持された溝幅が可変のVプーリ16と、両側面にてVプーリ16と接触し外周を支えられたリング30と、リング30をVプーリ16に押し付ける向きに第二の軸36回りに移動させるためのガイドプレート40とから構成され、摩擦係数が低下する運転条件において、ガイドプレート40による押し付け力を増加させて接触部の接触荷重を増加させる機構を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はフリクションタイプやトラクションタイプの無段変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無段変速装置(CVT:Continuously Variable Transmission)は昔から多くの考案がなされている。特許文献1にはトラクションドライブ式無断変速装置の一例が記載されている。この無段変速装置は、軸方向に可動な一対のプーリ部材からなるVプーリでリングを軸方向両側から挟んだ構造である。リングはいわゆる心なしローラ状態で、外周から複数のガイドローラによって案内・拘束されている。ガイドローラを支持するガイドプレートは、リングとVプーリとの間にすきまが生じないように、リングに押し付け力を作用させるようになっている。
【特許文献1】特開2004−263857号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載された装置では、ガイドプレートの押し付け力の制御は、無負荷時にリングをVプーリに安定して接触させる目的でのみ、利用する。
【0004】
ところで、Vプーリの傾斜角は、リングとの接触部の想定摩擦係数により決定され、この想定摩擦係数が小さいと、接触荷重が増加し、接触楕円も大きくなるため伝達効率の低下を招く。したがって、接触部の実際の摩擦係数の下限値よりも僅かに小さく想定摩擦係数を選択する必要がある。
【0005】
トラクション伝動の場合、接触面圧の低下や温度の増加により、実際の摩擦係数は低下する。したがって、予想される運転条件内で最も高速(高発熱で高温になる)で軽負荷時のトラクション係数よりも僅かに小さな値を選択する必要がある。しかしながら、上記の設計では、高頻度に使用されるトルクの伝達領域での効率の低下が避けられない。
【0006】
この発明の主要な目的は、Vプーリとリングとの接触部の摩擦係数が低下しても滑りなく運転可能な無段変速装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の無段変速装置は、ハウジングに回転自在に支持された第一の軸と、ハウジングに回転自在に支持された第二の軸と、第一の軸に支持された溝幅が可変のVプーリと、両側面にてVプーリと接触し外周を支えられたリングと、リングをVプーリに押し付ける向きに第二の軸回りに移動させるためのガイドプレートとから構成され、摩擦係数が低下する運転条件において、ガイドプレートによる押し付け力を増加させて接触部の接触荷重を増加させる機構を有することを特徴とするものである。
【0008】
すなわち、この発明は、実際の摩擦係数が低下する運転条件において、ガイドプレートによる押し付け力を増加させて接触部の接触荷重を増加させることで、滑りなく運転可能にしたものである。なお、低面圧・高温になる運転条件において押し付け力を増加させるほか、高負荷すなわち高面圧でも温度上昇作用があるため、この場合に押し付け力を付加するように制御してもよい。また、接触点位置がVプーリの中心に近づくと接触部内の滑りが増加し、見かけのトラクション係数が減少するため、この場合に付加してもよい。
【0009】
押し付け力の駆動源としては、空気圧、油圧、電磁力、ばね力、モータ、その他の手段を単独または組み合わせて使用することができる。また、自動車用に適用した無段変速装置の場合、アクセルペダルの踏み込み量またはアクセルバルブの開度とエンジンの回転速度を、制御の入力条件として用いてもよい。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、ガイドプレートによる押し付け力を増加させ、接触部の接触荷重を増加させることで、実際の摩擦係数が低下しても滑りなく運転可能な、無段変速装置が実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面に従ってこの発明の実施の形態を説明する。
【0012】
図1にこの発明の実施の形態である無段変速装置の断面を示し、図2にこの発明の無断変速装置の構想図を示す。これらの図から理解できるように、この無段変速装置は、軸方向に可動な一対のプーリ部材16a,16bでリング30を軸方向両側から挟んだ構造である。この実施の形態ではリング30は外周に歯車のような歯をもっているため、以下では歯付きリングと呼ぶこととする。
【0013】
図1において、符号10はハウジングを概括的に指している。すなわち、ここではハウジングは単一の部材ではなく、全体として装置の外殻を構成する複数の部材を包括的にハウジングと呼んでいる。図示するように、ハウジング10内に、互いに平行な二本の軸12,36がそれぞれ軸受を介して回転自在に支持されている。そして、これらの軸12,36は、一方の軸(12または36)を入力軸とすると、他方の軸(36または12)が出力軸となる関係にある。
【0014】
軸12はVプーリ16を構成する一対のプーリ部材16a,16bを支持している。各プーリ部材16a,16bはボス部とディスク部とからなり、ディスク部が向かい合ってV溝を形成している。ディスク部はボス部の端部から反径方向に立ち上がっている。ボス部は軸12に摺動自在に嵌め合わせてあり、ボールスプライン14によって軸12の軸方向に移動可能である。ボス部の外周には軸受18が配置してある。なお、ボールスプライン14の構造は、軸12とプーリ部材16a,16bに形成した溝間にボールを介在させた周知のとおりのものである。
【0015】
各プーリ部材16a,16bは溝幅調節機構20を備えている。溝幅調節機構20はここではボールねじタイプで、ねじ軸22と、ナット26と、複数のボール28を含んでいる。ねじ軸22は外周にボール28を転動させるためのらせん溝を有し、かつ、外周に歯を切ったフランジ24を有し、軸受18を介してプーリ部材16a,16bのボス部に回転自在に支持されている。ナット26は内周にボール28を転動させるためのらせん溝を有し、ハウジング10に固定されている。
【0016】
通常のボールねじと同様に、ねじ軸22のらせん溝とナット26のらせん溝との間にボール28が介在し、ボール28がらせん溝に沿って循環走行してねじ軸22とナット26の滑らかな相対回転および軸方向移動を許容する。この場合、ナット26は固定されているため、ねじ軸22が回転すると同時に軸方向に相対移動する。したがって、ねじ軸22のフランジ24を外部の駆動手段(図示省略)によって回転させると、その回転方向によって、ねじ軸22が軸方向に移動し、軸受18を介してプーリ部材16a,16bを相互に接近する向きに移動させ、または、プーリ部材16a,16bが相互に離反する向きに移動するのを許容する。
【0017】
歯付きリング30の側面の断面形状はVプーリ16のV溝の断面形状と実質的に一致している。より具体的には、歯付きリング30の側面の断面形状は、平面とするほか、副曲率を設けた曲面とすることもできる。歯付きリング30は歯車34とかみ合い、その歯車34は軸36に固定してある。歯付きリング30は、歯車34の歯とかみ合う歯の軸方向両側に平滑な円筒状ガイド面32を有し、そのガイド面32にてガイドローラ42,44と接する。歯付きリング30のガイドには、図示するように歯付きリング30の外周面と接して転動するガイドローラ42,44を採用するほか、歯付きリング30との接触荷重は小さいため、歯付きリング30と滑り接触する滑り軸受(シュー)を採用してもよい。
【0018】
図2に示すように、この実施の形態では四つのガイドローラ42,44が設けてあり、図1にはそのうちの二つ、つまり、歯車34の両側に配置した一対の円板42a,42bで構成されるガイドローラ42と、同図の上部に現れているガイドローラ44の断面が示してある。ガイドローラ42は軸36に対して回転自在に支持されている。それ以外のすべてのガイドローラ44はそれぞれピン46を介して回転自在にガイドプレート40に支持されている。したがって、ガイドローラ42,44相互の位置関係は固定的である。これらのガイドローラ42,44のうち、図2の左端に現れているガイドローラ44は歯付きリング30の振れ防止の役割をも果たす。ガイドプレート40は軸36と同軸に、カラー38に旋回自在に支持されている。
【0019】
歯付きリング30は三つ以上のガイドローラ42,44で外周から拘束されているため、中心軸がなくても回転が可能である(心なしローラ)。ガイドローラ42,44はガイドプレート40で連結してあり、ガイドプレート40を旋回させることによって中心O1回りに歯付きリング30の回転中心を移動させることができる。したがって、歯付きリング30の外周に切られた歯は歯車34と常にかみ合った状態にある。歯付きリング30とVプーリ16との間にすきまが生じないようにVプーリ16とガイドプレート40を制御すれば、歯付きリング30が中心O1回りに移動することにより、Vプーリ16との接触点が変化し、一定の歯車34の回転数に対し、Vプーリ16の速度を連続的に変えることができる。このようにして、いわゆるCVTが構成される。
【0020】
Vプーリ16を支持する軸12を入力側とすると、歯付きリング30を押し込んだ状態が減速状態となる。伝達トルクが同じであれば、歯付きリング30を押し込んだときのVプーリ16による挟みつけ力は大きくすべきで、逆に歯付きリング30とVプーリ16との接触点が大径側にあるときは小さくてもよい。挟み込み力によるVプーリ16の曲げ応力を考えた場合、大径接触時の挟み込み力を軽減できる、Vプーリ16を入力とするこの方法が、出力とするよりもベターである。
【0021】
図2に矢印で示す方向にVプーリ16から回転力が入力されると、Vプーリ16から歯付きリング30に力Fが作用し、ほぼ同じ大きさの力が歯車34から作用する。歯車34からの反力が歯付きリング30をVプーリ16に押し込む方向に働くため、伝達トルクの増大に伴い自動的に接触力が大きくなる。
【0022】
既に述べたとおり、歯付きリング30とVプーリ16との間にすきまが生じないようにVプーリ16とガイドプレート40を制御すれば、一定の歯車34の回転数に対し、Vプーリ16の速度を連続的に変えることができる。そして、Vプーリ16の制御に関しては、溝幅調整機構20がこれを担うことも既に述べた。そこで、次にガイドプレート40の制御に関して述べる。
【0023】
Vプーリ16と歯付きリング30との間にすきまが生じないように、軸36を中心として旋回自在のガイドプレート40を押し付けるためのガイドプレート駆動機構を設ける。この押し付け力の駆動源としては、空気圧、油圧、電磁力、ばね力、モータ、その他の手段を単独または組み合わせて使用する。たとえば、空気圧とモータ駆動力を組み合わせてもよく、空気圧を利用した駆動機構としてたとえばエンジンの吸気負圧によって作動するダイヤフラムシリンダを用いることもできる。
【0024】
制御の態様の一例を示すならば、低面圧・高温になる運転条件において、ガイドプレート40の押し付け力を増加させ、接触部の接触荷重を増加させることで、実際の摩擦係数が低下しても滑りなく運転可能とする。なお、高負荷すなわち高面圧でも温度上昇作用があるため、この場合に押し付け力を付加するように制御してもよい。
【0025】
また、自動車用に適用した無段変速装置の場合、アクセルペダルの踏み込み量またはアクセルバルブの開度とエンジンの回転速度を、制御の入力条件として用いてもよい。
【0026】
フリクション伝動の場合でも、接触部に油を注いで冷却しているため、この冷却油が接触部に油膜を形成させてしまう場合がある。油膜が形成されると実際の摩擦係数が低下してしまうため、ガイドプレートの押し付け力を増加させることで、接触部の滑りを防止することができる。このようにフリクション伝動の場合には、冷却油の油膜形成による摩擦係数の低下が起きても、滑りを防ぎながら運転するために効果がある。この場合は、油膜の形成されやすい運転状態(高速条件)で押し付け力を負荷するように制御すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の実施の形態を示す無段変速装置の断面図
【図2】無段変速装置の構想図
【符号の説明】
【0028】
10 ハウジング
12 軸
14 ボールスプライン
16 Vプーリ
16a,14b プーリ部材
18 軸受
20 溝幅調節機構
22 ねじ軸
24 フランジ
26 ナット
28 ボール
30 歯付きリング
32 ガイド面
34 歯車
36 軸
38 カラー
40 ガイドプレート
42 ガイドローラ
42a,42b 側板
44 ガイドローラ
46 ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに回転自在に支持された第一の軸と、ハウジングに回転自在に支持された第二の軸と、第一の軸に支持された溝幅が可変のVプーリと、両側面にてVプーリと接触し外周を支えられたリングと、リングをVプーリに押し付ける向きに第二の軸回りに移動させるためのガイドプレートとから構成され、摩擦係数が低下する運転条件において、ガイドプレートによる押し付け力を増加させて接触部の接触荷重を増加させる機構を有する無段変速装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−71224(P2007−71224A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−255475(P2005−255475)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】