説明

無線タグセット、無線タグおよび距離測定装置

【課題】無線タグ距離測定システムにおいて、より多くの無線タグを識別するための手段を確保すること、および複数の無線タグからそれぞれ送信される応答信号の干渉を回避することを目的とする。
【解決手段】無線タグ距離測定装置10は、距離測定対象の無線タグの固有割り当てPN符号に基づいて拡散パルス変調信号を生成し送信する。拡散パルス変調信号の生成に用いられたPN符号と自らの固有割り当てPN符号とが一致する無線タグは、受信した拡散パルス変調信号に対して時間圧縮処理を施した圧縮パルス変調信号を送信する。各無線タグには、拡散パルス変調信号を受信してから、圧縮パルス変調信号を送信するまでの内部遅延時間が設定される。無線タグ距離測定システムでは、同一の固有割り当てPN符号を有する無線タググループに所属する無線タグに、互いに異なる内部遅延時間が設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の無線タグを含み、各無線タグが距離測定装置の測定対象とされる無線タグセット、無線タグセットを構成する無線タグ、および無線タグまでの距離を測定する距離測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
量産工場等では、生産工程または品種ごとに保管位置が定められ製品管理を行うことが多い。このような製品管理を行うため、無線タグ距離測定システムが用いられる。無線タグ距離測定システムでは、管理対象製品に取り付けられた無線タグと距離測定装置との間の無線送受信によって、距離測定装置が無線タグまでの距離を測定する。
【0003】
無線タグまでの距離を測定する際には、距離測定装置はパルス信号を送信する。パルス信号には、距離測定対象の無線タグの固有割り当て符号を含ませる。無線タグは、自らに固有に割り当てられている符号が受信パルス信号に含まれている場合には応答パルス信号を送信する。応答パルス信号を受信した距離測定装置は、パルス信号を送信してから応答パルス信号が受信されるまでの時間に基づいて、無線タグまでの距離を測定する。
【0004】
このような処理によれば、複数の無線タグのうち特定の無線タグまでの距離を測定することができ、距離測定装置から特定の無線タグが付された製品までの距離を測定することができる。
【0005】
無線タグ距離測定システムは、工場における製品管理の他、日用品、小物等の販売を行う小売店、イベント参加者の居場所を管理する必要があるイベント会場等に用いることができる。
【0006】
【特許文献1】特表2006−505018号公報
【特許文献2】特表2005−513629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の無線タグ距離測定システムでは、無線タグのハードウエア設計上の制約等により、各無線タグの固有割り当て符号の桁数に制限がある場合には、固有割り当て符号の数を十分に確保できないという問題があった。
また、上記の無線タグ距離測定システムでは、同一の固有割り当て符号を有する無線タグが複数ある場合、これらの無線タグからそれぞれ送信された応答パルス信号が時間的に重なって距離測定装置で受信される。このとき、複数の応答パルス信号が互いに干渉し、各無線タグまでの距離を測定することが困難となるという問題があった。
【0008】
本発明はこのような課題に対してなされたものである。すなわち、無線タグ距離測定システムにおいて、より多くの無線タグを識別するための手段を確保すること、および複数の無線タグからそれぞれ送信される応答信号の干渉を回避することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、無線信号を受信し、受信した信号を無線送信する複数の無線タグを含み、各無線タグは、無線信号の送受信により対象物までの距離を測定する距離測定装置の測定対象とされる、無線タグセットにおいて、各無線タグは、信号を受信してから無線送信するまでの遅延時間を設定する遅延手段を備え、前記遅延手段は、無線タグごとに固有に定められ、無線タグ相互間で相違する遅延時間を以て、受信された信号を遅延させることを特徴とする。
また、本発明は、無線信号を受信し、受信した無線信号に含まれる符号と自らに割り当てられた固有符号とが一致したときに、当該受信した信号を無線送信する複数の無線タグを含み、各無線タグは、無線信号の送受信により対象物までの距離を測定する距離測定装置の測定対象とされる、無線タグセットにおいて、各無線タグは、信号を受信してから無線送信するまでの遅延時間を設定する遅延手段を備え、前記遅延手段は、無線タグごとに固有に定められ、共通の固有符号が割り当てられた無線タグ相互間で相違する遅延時間を以て、受信された信号を遅延させることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る無線タグは、前記距離測定装置の測定対象とされ、前記無線タグセットを構成することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、無線タグまでの距離を測定する距離測定装置において、距離測定信号を無線送信する送信部と、前記距離測定信号を受信した無線タグから送信された応答無線信号を受信する受信部と、を備え、前記距離測定信号を送信してから前記応答無線信号が受信されるまでの応答時間に基づいて、前記応答無線信号を送信した無線タグを識別する無線タグ識別部と、識別された無線タグまでの距離を前記応答時間に基づいて求める距離測定部と、を備えることを特徴とする。
また、本発明に係る距離測定装置においては、前記送信部は、距離測定対象の無線タグに割り当てられた固有符号を含む距離測定信号を送信することが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、無線タグ距離測定システムにおいて、複数の無線タグからそれぞれ送信される応答信号の干渉を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1に本発明の実施形態に係る無線タグ距離測定システムの構成を示す。このシステムは、無線タグ距離測定装置10が、無線信号の送受信によって距離測定対象の無線タグまでの距離を測定するものである。
【0014】
無線タグは、同一の固有PN符号(PNはPseudo Noiseの略である。)が割り当てられた無線タググループに分類される。図1では、PN符号「01001・・・」、「10011・・・」、「01111・・・」、および「10001・・・」が固有PN符号として割り当てられた無線タグが、それぞれ、無線タググループ12−1、12−2、12−3、および12−4に分類されている。無線タググループ12−1〜12−4に所属する無線タグは、それぞれ、符号「12」の次に付された番号「−1−」〜「−4−」によって所属グループを区別する。
【0015】
また、同一の無線タググループに所属する各無線タグには、1以上の整数がグループ内番号として割り当てられる。例えば、無線タググループ12−2に所属する無線タグ12−2−1〜12−2−3には、それぞれ、グループ内番号として1〜3が割り当てられる。以下の説明では、無線タグに付された符号の末尾はグループ内番号を示すものとする。
【0016】
なお、図1においては、固有PN符号による無線タグの分類に係る説明のため、同一の無線タググループに所属する無線タグを近接配置して示しているが、無線タグは、所属する無線タググループに関わらず無作為に分散分布していてもよい。
【0017】
距離測定対象とする無線タグまでの距離を測定する際には、無線タグ距離測定装置10は、距離測定対象の無線タグをPN符号およびグループ内番号によって特定する。
【0018】
一般に、PN符号は1および0による擬似雑音パターンを示す。PN符号の値「1」および「0」に対し信号値「1」および「−1」をそれぞれ対応付けることで、PN符号のパターンで極性が変化するPN信号を生成することができる。
【0019】
2以上の符号長さを有する同一のPN符号に基づく2つのPN信号の間で畳み込み演算を行うと、1符号分の時間長を有し、1符号分の時間長に信号値が累積加算された時間圧縮信号が得られる。ここで、畳み込み演算は、相関演算、またはコンボリューションとも称され、2つの信号の波形の近似度を求める演算である。一方、異なるPN符号に基づく2つのPN信号の間で畳み込み演算を行ったとしても、得られる信号の時間長は元のままとなる。このような時間圧縮に関する性質は、PN信号に他の信号が乗ぜられ、PN信号と同様に符号が変化する信号についても維持することができる。本発明の実施形態に係る無線タグ距離測定システムでは、このようなPN符号の直交性を利用する。
【0020】
無線タグ距離測定装置10は、距離測定対象の無線タグの固有割り当てPN符号によってPN信号を生成する。そして、PN信号を無線信号に変換した拡散パルス変調信号を生成し送信する。
【0021】
拡散パルス変調信号を受信した複数の無線タグのうち、拡散パルス変調信号の生成に用いられたPN符号と自らの固有割り当てPN符号とが一致する無線タグは、受信した拡散パルス変調信号に対して時間圧縮処理を施した圧縮パルス変調信号を送信する。これによって、距離測定対象の無線タグと同一の無線タググループに所属する無線タグは、圧縮パルス変調信号を送信する。
【0022】
各無線タグには、拡散パルス変調信号を受信してから、圧縮パルス変調信号を送信するまでの内部遅延時間が設定される。本実施形態に係る無線タグ距離測定システムでは、同一の無線タググループに所属する無線タグに、互いに異なる内部遅延時間が設定される。これによって、距離測定対象の無線タグと同一の無線タググループに所属する各無線タグは、互いに異なるタイミングで圧縮パルス変調信号を送信する。無線タグ距離測定装置10の最大測定距離と各無線タグに設定される内部遅延時間との関係について、後述のような制限を与えておくことにより、無線タグ距離測定装置10においては、受信された複数の圧縮パルス変調信号の受信タイミングに応じて、距離測定対象の圧縮パルス変調信号を特定することができる。
【0023】
無線タグ距離測定装置10は、受信された複数の圧縮パルス変調信号のうち、距離測定対象の無線タグから送信されたものを受信タイミングに基づいて特定する。そして、特定した圧縮パルス変調信号の受信タイミングおよび無線信号の伝搬速度等に基づいて距離測定対象の無線タグまでの距離を算出する。
【0024】
このような処理を実行するための無線タグ距離測定装置10の構成を図2に示す。PN符号記憶部14には、無線タグ距離測定システムで用いられる無線タグの固有割り当てPN符号が記憶されている。無線タグ指定制御部16は、ユーザの操作または別に設けられた装置等によって距離測定対象の無線タグが指定されると、指定された無線タグの固有割り当てPN符号をPN符号記憶部14から読み込む。そして、読み込んだPN符号に基づいてPN信号を生成し乗算部20に出力する。
【0025】
正弦波信号生成部18は、基準正弦波信号を乗算部20に出力する。乗算部20は、PN信号に基準正弦波信号を乗じた正弦波PN信号を無線送信部22および距離算出部28に出力する。
【0026】
図3(a)、(b)および(c)に、それぞれ、PN信号、基準正弦波信号、および正弦波PN信号を示す。ただし、これらの図が示す時間波形は、説明のための一つの例である。図3の縦軸は信号値を示し横軸は時間を示す。PN信号は、PN符号の符号変化に従って極性が変化する矩形信号である。正弦波PN信号は、PN信号の値に応じて極性が変化する正弦波信号である。
【0027】
無線送信部22は、正弦波PN信号を無線信号に変換し、拡散パルス変調信号を生成する。無線送信部22は、拡散パルス変調信号を測定装置アンテナ24を介して送信する。
【0028】
このような処理によれば、無線タグ指定制御部16によって指定されたPN符号に基づく正弦波PN信号が生成され、正弦波PN信号を無線信号に変換した拡散パルス変調信号が、無線タグ距離測定装置10から送信される。なお、乗算部20から距離算出部28に出力された正弦波PN信号は、後述のように、無線タグまでの距離の測定に用いられる。
【0029】
拡散パルス変調信号は各無線タグで受信される。図4(a)に無線タグ12の構成を示す。無線タグアンテナ34で受信された拡散パルス変調信号は、分波器36に入力される。分波器36はパルス変調信号を相関処理デバイス38に出力する。分波器36は、サーキュレータ、方向性結合器等を用いて構成することができる。
【0030】
無線タグ12の相関処理デバイス38には、無線タグ12に固有に割り当てられたPN符号によって、入力信号に対して畳み込み演算を施し出力するものを用いる。このようなデバイスとしては、SAWデバイス、CCD(Charge Coupled Device)マッチドフィルタ、ディジタルマッチドフィルタ等を用いることができる。SAWデバイスには電源電力を供給する必要があるもの(SAWコンボルバ等)と、電源電力を供給する必要がないものとがある。電源電力を供給する必要がないSAWデバイスを用いた場合には、無線タグ12に電力供給源を搭載する必要がなくなる。
【0031】
また、ディジタルマッチドフィルタ、SAWコンボルバ等は、畳み込み演算を行う際のPN符号を任意に設定することができる。この場合の構成を図4(b)に示す。ここでは、ディジタルマッチドフィルタ38Aを用いた場合を示している。SAWコンボルバを用いる場合には、ディジタルマッチドフィルタ38AをSAWコンボルバに置き換えた構成とすればよい。無線タグ12には、PN符号を記憶するPN符号記憶部42およびPN符号設定回路40を設ける。PN符号記憶部42には、複数の異なるPN符号を予め記憶させておく。PN符号設定回路40は、PN符号記憶部42からPN符号を読み込み、そのPN符号に基づいてディジタルマッチドフィルタ38Aが処理を実行するよう、ディジタルマッチドフィルタ38Aの動作状態を設定する。また、PN符号記憶部42およびPN符号設定回路40を設ける代わりに、無線タグ12の外部の装置によって、ディジタルマッチドフィルタ38AにPN符号を設定する構成としてもよい。ディジタルマッチドフィルタ38Aを用いる無線タグ12の構成によれば、異なるPN符号が与えられた複数の無線タグ12に対し、ハードウエアを共通化することができる。
【0032】
相関処理デバイス38は、分波器36から出力された信号に対し、無線タグ12の固有割り当てPN符号によって畳み込み演算を施して分波器36に出力する。分波器36は、相関処理デバイス38から出力された信号を無線タグアンテナ34に出力する。無線タグアンテナ34からは分波器36から出力された信号が送信される。
【0033】
相関処理デバイス38に入力された信号が、固有割り当てPN符号に基づく信号である場合には、相関処理デバイス38からは、PN符号の全時間長からその1符号分の時間長に時間長が短縮され、1符号分の時間長に信号値が累積加算された信号、すなわち、時間圧縮処理が施された信号が出力される。一方、相関処理デバイス38に入力された信号が、固有割り当てPN符号とは異なる符号に基づく信号である場合には、相関処理デバイス38からは、入力信号に対し時間圧縮処理が施された信号は出力されない。
【0034】
したがって、無線タグアンテナ34で受信された拡散パルス変調信号が、固有割り当てPN符号に応じて極性が変化する信号である場合、相関処理デバイス38からは、拡散パルス変調信号に対し、時間圧縮処理を施した信号が出力される。これによって、複数の無線タグのうち、受信した拡散パルス変調信号を生成した元のPN符号と、自らの固有割り当てPN符号とが一致する無線タグからは、その拡散パルス変調信号に対して時間圧縮処理が施された信号が圧縮パルス変調信号として送信される。
【0035】
無線タグには、拡散パルス変調信号を受信してから、圧縮パルス変調信号を送信するまでの内部遅延時間を設定する。同一の無線タググループに所属する複数の無線タグには、互いに異なる内部遅延時間を設定する。
【0036】
無線タグの内部遅延時間の設定について説明する。同一の無線タググループに所属する無線タグの相互間には、設定する内部遅延時間に割り当て時間差Ts以上の差異を設ける。本実施形態では、同一の無線タググループに所属する無線タグの内部遅延時間Teを(数1)のように設定する。
【0037】
(数1) Te=Tm+(n−1)・Ts
【0038】
ここで、Tmは、相関処理デバイス38の構成上定まる、内部遅延時間の最小値である。nは無線タグのグループ内番号である。例えば、無線タググループ12−2に所属する無線タグ12−2−1、12−2−2、および12−2−3に設定すべき内部遅延時間は、それぞれ、Tm、Tm+Ts、Tm+2Tsとなる。
【0039】
割り当て時間差Tsは、最大往復伝搬時間Txよりも長い時間とする。ここで、最大往復伝搬時間Txは、無線タグ距離測定装置10において予め定められた最大測定距離を無線信号が伝搬するのに要する時間の2倍として定義される。
【0040】
相関処理デバイス38としてSAWデバイスを用いた場合の内部遅延時間の設定について説明する。図5にSAWデバイスの構成を示す。SAWデバイスは、弾性表面波が伝搬する基板44と、基板44上に設けられた入力電極46および出力電極48を備えて構成される。入力電極46は、一方の櫛歯の間に他方の櫛歯が入り込むよう配置された一対の入力櫛型電極50によって構成される。また、出力電極48は、一方の櫛歯の間に他方の櫛歯が入り込むよう配置された一対の出力櫛型電極52によって構成される。出力櫛型電極52は、その櫛歯と、入力櫛型電極50の櫛歯とが平行となるよう、入力櫛型電極50から所定の距離を隔てて配置される。
【0041】
出力櫛型電極52の櫛歯は、間隔に疎密の変化を持たせて配置される。櫛歯電極が密に配置された変調領域は、弾性表面波に対して1桁の符号の変調を行う。図5のSAWデバイスでは6つの変調領域が配置され、図5の左から順に「1」「−1」「1」「−1」「−1」「1」の符号を以て弾性表面波を変調する。符号の正負は、変調領域における、図5の上下各櫛歯の位置関係に応じて決定することができる。
【0042】
内部遅延時間は、入力櫛型電極50と、出力櫛型電極52との間の距離を変化させることで調整することができる。この距離が長い程内部遅延時間は長くなり、この距離が短い程内部遅延時間は短くなる。
【0043】
なお、相関処理デバイス38として、SAWデバイス以外のデバイスを採用した場合には、例えば、相関処理デバイス38の内部に遅延伝送線路を設け、遅延伝送線路の長さを変化させることで内部遅延時間を調整することができる。
【0044】
無線タグの内部遅延時間を上記のように設定することにより、無線タグ距離測定装置10から送信される拡散パルス変調信号と、同一無線タググループに所属する無線タグから送信され無線タグ距離測定装置10で受信される圧縮パルス変調信号とのタイミングは図6のようになる。
【0045】
図6(a)〜(d)の縦軸は信号の大きさを示し横軸は時間を示す。図6(a)は、無線タグ距離測定装置10から送信される拡散パルス変調信号を示す。図6(a)〜(d)では、送信される拡散パルス変調信号の立ち上がり時刻を送信基準時刻t0とする。
【0046】
図6(b)〜(d)は、それぞれ、図6(a)に示す拡散パルス変調信号に対し、無線タグ12−2−1〜12−2−3から送信され、無線タグ距離測定装置10で受信される圧縮パルス変調信号を示す。これらの図は、無線タグ距離測定装置10から無線タグ12−2−1、12−2−2、および12−2−3までの往復距離を無線信号が伝搬する時間が、それぞれ、Td1、Td2、およびTd3である場合を示している。
【0047】
無線タグ12−2−1の内部遅延時間はTmである。したがって、無線タグ12−2−1から送信された圧縮パルス変調信号は、無線タグ距離測定装置10までの距離に対する往復伝搬時間Td1に内部遅延時間Tmを加算した時間だけ送信基準時刻t0から遅延して、無線タグ距離測定装置10で受信される。
【0048】
無線タグ12−2−2の内部遅延時間はTm+Tsである。したがって、無線タグ12−2−2から送信された圧縮パルス変調信号は、無線タグ距離測定装置10までの距離に対する往復伝搬時間Td2に内部遅延時間Tm+Tsを加算した時間だけ送信基準時刻t0から遅延して、無線タグ距離測定装置10で受信される。
【0049】
無線タグ12−2−3の内部遅延時間はTm+2Tsである。したがって、無線タグ12−2−3から送信された圧縮パルス変調信号は、無線タグ距離測定装置10までの距離に対する往復伝搬時間Td3に内部遅延時間Tm+2Tsを加算した時間だけ送信基準時刻t0から遅延して、無線タグ距離測定装置10で受信される。
【0050】
無線タグ距離測定装置10を中心とし最大測定距離を半径とする円内に無線タグ12−2−1〜12−2−3が存在する場合、時間Td1〜Td3はいずれも最大往復伝搬時間Txよりも短い。したがって、無線タグ12−2−1から送信された圧縮パルス変調信号は、送信基準時刻t0から時間Tx+Tmが経過するまでの間に無線タグ距離測定装置10で受信される。また、無線タグ12−2−2から送信された圧縮パルス変調信号は、送信基準時刻t0から時間Tx+Tm+Tsが経過するまでの間に無線タグ距離測定装置10で受信される。そして、無線タグ12−2−3から送信された圧縮パルス変調信号は、送信基準時刻t0から時間Tx+Tm+2Tsが経過するまでの間に無線タグ距離測定装置10で受信される。
【0051】
本実施形態においては、割り当て時間差Tsを最大往復伝搬時間Txよりも長い時間としている。そのため、無線タグ12−2−1から送信された圧縮パルス変調信号が受信される時間帯、無線タグ12−2−2から送信された圧縮パルス変調信号が受信される時間帯、無線タグ12−2−3から送信された圧縮パルス変調信号が受信される時間帯が重なり合うことはない。そして、無線タグ距離測定装置10では、無線タグ12−2−1から送信された圧縮パルス信号、無線タグ12−2−2から送信された圧縮パルス信号、無線タグ12−2−3から送信された圧縮パルス信号の順に無線タグ距離測定装置10で受信される。これによって、無線タグ距離測定装置10は、後述するように、圧縮パルス変調信号が受信された時間帯に基づいて距離測定対象の無線タグを特定することができる。
【0052】
なお、ここでは、3つの無線タグが所属する無線タググループ12−2を例にとりあげて説明したが、無線タググループには、(数1)の関係に基づいて内部遅延時間が設定された任意の数の無線タグが所属していてもよい。
【0053】
次に、無線タグ距離測定装置10が、無線タグから送信された圧縮パルス変調信号に対して実行する処理について説明する。無線受信部26は、無線タグから送信された圧縮パルス変調信号を測定装置アンテナ24を介して受信する。そして、受信した信号を所定の信号レベルとなるまで増幅し、信号の周波数を低域周波数側に変換して距離算出部28に出力する。
【0054】
無線タグ指定制御部16は、ユーザの操作または別に設けられた装置等によって距離測定対象の無線タグが指定されると、指定された無線タグのグループ内番号を距離算出部28に出力する。
【0055】
距離算出部28は、グループ内番号と、そのグループ内番号で指定される無線タグから送信される圧縮パルス変調信号が距離算出部28に入力される時間帯との対応関係を予め記憶している。
【0056】
距離算出部28は、記憶している対応関係と、無線タグ指定制御部16から出力されたグループ内番号とに基づいて、距離測定対象の圧縮パルス変調信号が距離算出部28に入力される時間帯を求める。そして、求められた時間帯に距離算出部28に入力された圧縮パルス変調信号を距離測定対象の信号とする。例えば、無線タグ12−2−3が距離測定対象として指定され、グループ内番号「3」が無線タグ指定制御部16から距離算出部28に出力されているときは、図6(d)で示される圧縮パルス変調信号を距離測定対象の信号とする。
【0057】
距離算出部28は、乗算部20から正弦波PN信号が出力されたタイミングと、距離測定対象の圧縮パルス変調信号が入力されたタイミングとの差TDを求める。タイミング差TDは、正弦波PN信号の包絡線の立ち上がり時刻と圧縮パルス変調信号の包絡線の立ち上がり時刻との差、および正弦波PN信号に乗ぜられている基準正弦波と、圧縮パルス変調信号に乗ぜられている基準正弦波との位相差によって求めることができる。
【0058】
距離算出部28は、求められたタイミング差TDに基づいて、測定装置アンテナ24と無線タグとの間の往復伝搬時間TAを求める。往復伝搬時間TAは、(数2)によって求めることができる。
【0059】
(数2)TA=[TD−D1−Tm−D2]・mod・Ts
【0060】
ここで、modは、[TD−D1−Tm−D2]をTsで除したときの余りを与える演算子である。また、D1は、信号が乗算部20から出力されてから、測定装置アンテナ24から送信されるまでの遅延時間、Tmは無線タグにおける最小遅延時間、D2は、信号が測定装置アンテナ24で受信されてから、無線受信部26から出力されるまでの遅延時間である。
【0061】
往復伝搬時間TAが、(数2)によって求められる理由は、タイミング差TDが(数3)で表されること、および、割り当て時間差Tsが往復伝搬時間TAよりも長い時間に設定されていることによるものである。
【0062】
(数3)TD=TA+D1+Tm+D2+(n−1)・Ts
【0063】
距離算出部28は、さらに、往復伝搬時間TAと無線信号の伝搬速度とに基づいて距離測定対象の無線タグまでの距離を算出する。往復伝搬時間TAを求める際には、遅延時間D1およびD2がタイミング差TDから減算されているため、求められる距離は測定装置アンテナ24の位置を基準としたものとなる。
【0064】
距離算出部28は、距離算出結果を表示部30および結果記憶部32に出力する。表示部30は距離算出結果を表示し、結果記憶部32は距離算出結果を記憶する。ユーザは、表示部30を参照することで無線タグ距離測定装置10から無線タグまでの距離を知ることができる。また、パーソナルコンピュータ等によって構成された読み込み装置によって、結果記憶部32の記憶内容を取得することができる。
【0065】
このようなシステム構成によれば、距離測定対象とする無線タグの固有PN符号およびグループ内番号を指定し、無線タグ距離測定装置10から無線タグまでの距離を測定することができる。例えば、図1に示される固有PN符号割り当ておよびグループ分類において、距離測定対象として無線タグ12−2−3を指定した場合、無線タグ指定制御部16から乗算部20には無線タグ12−2−3の固有割り当てPN符号「10011・・・」に基づくPN信号が出力される。これによって、無線タグ距離測定装置10からは、無線タグ12−2−3の固有割り当てPN符号に基づく拡散パルス変調信号が送信される。そして、拡散パルス変調信号を受信した無線タグのうち、無線タググループ12−2に所属する無線タグが、圧縮パルス変調信号を送信する。
【0066】
また、無線タグ距離測定装置10においては、無線タグ指定制御部16から距離算出部28にグループ内番号「3」が出力される。これによって、距離算出部28は、無線タググループ12−2に所属する無線タグから送信された複数の圧縮パルス変調信号のうち、無線タグ12−2−3から送信されたものを距離測定対象とし、無線タグ12−2−3までの距離を求める。
【0067】
本実施形態に係るシステムでは、同一無線タググループに所属する無線タグが、互いに異なる内部遅延時間を有し、異なるタイミングで圧縮パルス変調信号を送信する。これによって、複数の無線タグからそれぞれ送信される圧縮パルス変調信号の干渉を回避することができる。
【0068】
さらに、PN符号の直交性により、距離測定対象外の無線タググループに所属する無線タグからは、圧縮パルス変調信号は送信されない。これによって、距離測定対象外の無線タググループから圧縮パルス変調信号が送信されることが回避され、無線タグ距離測定装置10で受信される信号の干渉を回避することができる。
したがって、同一の無線タググループに所属する無線タグに同一の固有割り当てPN符号を割り当てると共に、異なる無線タググループに所属する無線タグに異なる固有割り当てPN符号を割り当てることにより、少ない桁数の固有割り当てPN符号で多くの無線タグを識別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】無線タグ距離測定システムの構成を示す図である。
【図2】距離測定装置の構成を示す図である。
【図3】PN信号、基準正弦波信号、および正弦波PN信号を示す図である。
【図4】無線タグの構成を示す図である。
【図5】SAWデバイスの構成を示す図である。
【図6】拡散パルス変調信号および圧縮パルス変調信号のタイミングを示す図である。
【符号の説明】
【0070】
10 無線タグ距離測定装置、12−1〜12−4 無線タググループ、12 無線タグ、14,42 PN符号記憶部、16 無線タグ指定制御部、18 正弦波信号生成部、20 乗算部、22 無線送信部、24 測定装置アンテナ、26 無線受信部、28 距離算出部、30 表示部、32 結果記憶部、34 無線タグアンテナ、36 分波器、38 相関処理デバイス、38A ディジタルマッチドフィルタ、40 PN符号設定回路、44 基板、46 入力電極、48 出力電極、50 入力櫛型電極、52 出力櫛型電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線信号を受信し、受信した信号を無線送信する複数の無線タグを含み、
各無線タグは、無線信号の送受信により対象物までの距離を測定する距離測定装置の測定対象とされる、無線タグセットにおいて、
各無線タグは、
信号を受信してから無線送信するまでの遅延時間を設定する遅延手段を備え、
前記遅延手段は、
無線タグごとに固有に定められ、無線タグ相互間で相違する遅延時間を以て、受信された信号を遅延させることを特徴とする無線タグセット。
【請求項2】
無線信号を受信し、受信した無線信号に含まれる符号と自らに割り当てられた固有符号とが一致したときに、当該受信した信号を無線送信する複数の無線タグを含み、
各無線タグは、無線信号の送受信により対象物までの距離を測定する距離測定装置の測定対象とされる、無線タグセットにおいて、
各無線タグは、
信号を受信してから無線送信するまでの遅延時間を設定する遅延手段を備え、
前記遅延手段は、
無線タグごとに固有に定められ、共通の固有符号が割り当てられた無線タグ相互間で相違する遅延時間を以て、受信された信号を遅延させることを特徴とする無線タグセット。
【請求項3】
前記距離測定装置の測定対象とされ、請求項1または請求項2に記載の無線タグセットを構成することを特徴とする無線タグ。
【請求項4】
無線タグまでの距離を測定する距離測定装置において、
距離測定信号を無線送信する送信部と、
前記距離測定信号を受信した無線タグから送信された応答無線信号を受信する受信部と、
を備え、
前記距離測定信号を送信してから前記応答無線信号が受信されるまでの応答時間に基づいて、前記応答無線信号を送信した無線タグを識別する無線タグ識別部と、
識別された無線タグまでの距離を前記応答時間に基づいて求める距離測定部と、
を備えることを特徴とする距離測定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の距離測定装置において、
前記送信部は、
距離測定対象の無線タグに割り当てられた固有符号を含む距離測定信号を送信することを特徴とする距離測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−101737(P2010−101737A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273052(P2008−273052)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】