説明

無線タグ装置

【課題】電波を遮る構造物に囲まれてもアクティブ無線タグの電波を輻射できる無線タグ装置を提供する。
【解決手段】金属成分を含有するガラス板2と、ガラス板2の一方の面に配設されたアクティブ無線タグ1と、ガラス板2の他方の面にアクティブ無線タグ1に対向する位置に配設され、巻き数が少なくとも1つのコイル部4とそのコイル部4の両端に直線状導体部5とを有する線状アンテナ3を有する無線タグ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両の窓ガラスに装着される無線タグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の車両のみの入場を許可する駐車場では、その入口にゲート開閉装置が設置され、許可された車両のみが入場を行うことができるようになっている。このようなゲート開閉装置では、進入してくる車両が許可された車両なのかどうかを識別判断するために無線タグを使用したものが知られており、例えば、車両先端部に設けられたパッシブ無線タグからの識別コードを、ゲートに設けられたアンテナが受信し、ゲートを開閉するものが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、上記特許文献1は、パッシブ無線タグを使用しているため、識別コードの読取有効範囲が非常に狭く、1m以下が一般的である。従って、ゲート棒に取り付けられているアンテナに非常に近づき、正確な位置で車両を停止させる必要がある。そのため、運転に慣れないドライバーは、停止位置が遠すぎて、一度では正しく読取れないこともある。一方、誤って近づきすぎ、ポールへ衝突して、高価なアンテナ、ゲートポール、車両などを壊してしまう事故もある。
【0004】
このような問題を回避するため、車両の停車位置が厳密でなくとも、より広い範囲で無線タグの電波を検知できるように、パッシブ無線タグより検知距離が長いアクティブ無線タグを使用する方法が考えられるが、車外にアクティブ無線タグを装着した場合、アクティブ無線タグに内蔵している電池や電子回路の耐候性を考慮する必要があり、アクティブ無線タグ自身の物理的な耐環境特性を向上させるために、そのコストが非常に高くなってしまうという問題点がある。従って、アクティブ無線タグは、耐候性に対する考慮を軽減することができる車内で使用することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−258664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、車両に使用されるボディの材質は、電波を遮断する特性を有する鉄分を多く含み電波を遮るため、車内外への電波伝搬の妨げとなる。また、車両に用いられるガラスには、光(紫外線や太陽光など)を遮る目的で、熱線反射ガラスや、有鉛ガラスや、アルミ蒸着ガラスなどが用いられる場合がある。このようなガラスは、金属が含有されているため電波を遮る性質があり、アクティブ無線タグを車内で使用する場合に問題となる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、電波を遮る構造物に囲まれてもアクティブ無線タグの電波を輻射できる無線タグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の無線タグ装置は、板状構造物と、板状構造物の一方の面に配設されたアクティブ無線タグと、板状構造物の他方の面にアクティブ無線タグに対向する位置に配設され、巻き数が少なくとも1つのコイルとそのコイルの両端に線状エレメントとを有する線状アンテナを有することを特徴とする。
【0009】
このような構成を有する本発明では、板状構造物に遮られてもアクティブ無線タグの電波を輻射することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電波を遮る構造物に囲まれてもアクティブ無線タグの電波を輻射することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第一実施形態に係る無線タグ装置の構成を示した図((a)正面図、(b)平面図、(c)側面図)。
【図2】本発明の第一実施形態に係る無線タグ装置の一実施例を示す図。
【図3】微小ダイポールからの電磁界を解説する座標系の図。
【図4】微少磁界ループから電磁界を解説する座標系の図。
【図5】本発明の第二実施形態に係る無線タグ装置の構成を示した図((a)正面図、(b)平面図、(c)側面図)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本発明の第一の実施の形態の構成)
以下、本発明の第一の実施形態の構成について図1、図2を参照して説明する。
【0013】
図1は本発明の第一実施形態に係る無線タグ装置の構成を示した図((a)正面図、(b)平面図、(c)側面図)である。
【0014】
1は、アクティブ無線タグで、電池・アンテナ・電子回路(いずれも不図示)等を内蔵し自ら電波を発信することができる無線タグである。発信する情報としてはアクティブ無線タグ1自身が持つ識別IDコード等がある。
【0015】
板状構造物であるガラス板2は、例えば、自動車のフロント、リア、サイドに使用されるガラスのように、光(紫外線や太陽光など)を遮る目的で、熱線反射ガラスや、有鉛ガラスや、アルミ蒸着ガラスなど、いずれも金属成分を含有することから電波伝搬の妨げとなる性質を有するガラス板である。
【0016】
アクティブ無線タグ1はガラス板2の一方の面に配設され、ガラス板2の他方の面のアクティブ無線タグ1に対して対向する位置に線状アンテナ3が配設されている。線状アンテナ3は、その中央部に巻き数が少なくとも1ターン以上のコイル部4を有し、そのコイル部4の両端に線状エレメントである直線状導体部5を有する形状をしている。
【0017】
図2は本発明の第一実施形態に係る無線タグ装置の一実施例を示す図である。図2では、自動車のフロントガラスがガラス板2に相当し、フロントガラスの車内側の面にアクティブ無線タグ1を配設し、フロントガラスの車外側のアクティブ無線タグ2に対して対向する位置に線状アンテナ3が配設されている。
【0018】
(第一の実施の形態の作用)
次に作用について説明する。
図1の構造によると、アクティブ無線タグ1の内部のアンテナから輻射された電波は、通常は、金属成分を含有するガラス板2により電波が遮られ、図2でいうと、車外へはほとんど電波が輻射されなくなっている。
【0019】
ここで、アクティブ無線タグ1の直近の、いわゆる近傍界での電波は、電界成分と磁界成分が独立して存在していることに着目する。
【0020】
まず、以下にアクティブ無線タグ1の内部アンテナから発信される電磁波の発信源からの距離と電磁波の強度の関係について示す。
【0021】
ある空間の原点にある長さ1の電気ダイポールから距離rだけ離れた場所Pにおける電荷量をq(t)(tは時刻)とすると、電荷量の変化の割合が電流であるので、
【数1】

と微分の形で書き表すことができる。
【0022】
原点にz軸方向を向いた微小ダイポールがあったとき、図3に示す点Pにおける微小ダイポールの電界E(t)および磁界H(t)を電荷量の変化q(t)で表現すると、
【数2】

【数3】

となる。ここで、図3は、長さl≪λの微小ダイポールの軸をZ軸と合致させ、その中心に原点をとり、電流iおよび電荷qが時間tに対して正弦波変化しているとして、li(t),q(t)と定義し、原点からの距離rの観測点Pで電界ベクトルをE、磁界ベクトルをHとし、PとZ軸との角度をθ、x軸との角度をφとしている。式(2)、(3)は極座標に基づいて表記されており、Er,Eθ,Eφは各々r方向,θ方向,φ方向の単位ベクトルである。またcは空間中の電磁波の伝搬速度である。
【0023】
これらの式でr3乗に比例する項は静電磁場を作り出す項で、電気ダイポールの場合電界のみに存在する。
【0024】
r2乗の項は誘導電磁場を発生させる項である。r1乗の項は放射界を作り出す項である。充分遠方であれば静電項、誘導項は放射項と比べてはるかに小さくなる。ゆえにダイポールから充分離れた場所における電界・磁界(遠方界という)は、
【数4】

【数5】

となる。方向単位ベクトルは直交しているので、遠方界では電界と磁界は直交し、波の進行方向に電界・磁界の成分がない。
【0025】
周波数領域表示では遠方界電界・磁界の成分は
【数6】

【数7】

となる。
【0026】
ここで、遠方電界と磁界の比ξを波動インピーダンスといい、以下の式で表される。
【数8】

【0027】
式(6)、(7)より、近傍界領域では波源との距離rが短くなるほど波動インピーダンスξが大きくなることから、近傍界領域(フレネル領域)では電磁界のうち電界成分が強く、遠方界領域(フラウンフォーファー領域)で磁界成分が強くなって行くと言える。
【0028】
以上は電波輻射の基本となる微少ダイポールアンテナでの解析であるが、アクティブ無線タグには磁界型アンテナが常用されている。そこで、この解析手法を延長して、微少磁界ループアンテナについての解析を同様に実施する。
【0029】
今、磁荷をQm、磁気ダイポールモーメントPmは次式であらわされる。
【数9】

【0030】
これよりヘルツベクトルを求めれば、
【数10】

【0031】
よって、この場合の電磁界は次式で表される。
【数11】

【数12】

【0032】
これより、前述の電気的微少ダイポールの際と全く同じ計算方法により、以下の式が得られる。
【数13】

【数14】

【数15】

【数16】

【数17】

となる。
【0033】
図4は、微小ループからの電磁界を示す図で、半径α≪λの微小ループに電流Iが流れている。微小ループはXY平面上にあり、円の中心を原点とする。この電流により生じた磁界をHθ、さらにそれにより生じた電界をEφとしている。
【0034】
式(14)〜(16)から分かるように、磁界アンテナの場合、その近傍界は、電界成分Eはアンテナからの距離Rの2乗で減衰し、磁界成分はRの3乗で減衰する。
【0035】
よって、極めてアンテナに近く、Rが非常に小さい場合には、E成分は無視でき、H成分のみが支配的であることが分かる。すなわち、磁界アンテナの近傍界には磁界のみで、エネルギー伝搬される。
【0036】
従って、無線タグ内部の内臓アンテナが磁界方式アンテナの場合、この近傍界の電磁界エネルギーは磁界として存在する。例えば、図2において、アクティブ無線タグ1が装着されているガラス板2が、磁性体でない金属(例えば、アルミやマグネシウムなど)を含有する場合は、近傍界の領域では、電磁波のエネルギーは磁界のみで存在しているため、アクティブ無線タグ1から輻射された電波の磁界成分は、容易にガラス板2を透過して外部へ伝搬可能である。そこで、ガラス板2を挟んで近傍界の領域にある場所、すなわち、ガラス板2を挟んで、アクティブ無線タグ1に対して対向する位置に線状アンテナ3を配設し、さらに、線状アンテナ3の中央部をコイル状に形成しておく。
【0037】
この場合の作用は、アクティブ無線タグ1から誘起され、ガラス板2を通過してきた磁界は、近傍界である線状アンテナ3の中央部のコイル部4へ誘導され、線状アンテナ3の中央部のコイル部4へ誘起された磁力線は、アンペアの周回積分法則によって、線状アンテナ3に誘導電流を生じさせる。
rotH=i (H:磁界、i:電流) ……(18)
【0038】
すなわち、線状アンテナ3がコイル部4を有していると、極めて効率よく、この近傍界の磁界の磁力線を取り込むことができる。この電流で、線状アンテナ3のコイル部4の両端に線状エレメントである直線状導体部5の部分に定在波が生じ、効率良く、電磁波が輻射される。
【0039】
(第一の実施の形態の効果)
第一の実施形態によれば、磁性体を除く、電波を遮蔽する性質をもったガラス板2(金属含有ガラス、金属蒸着ガラスなど)で遮られた場合でも、アクティブ無線タグ1から発信された情報を受信することができる。具体的には、自動車の内部にアクティブ無線タグ1を装着した場合、自動車の窓ガラスが、金属含有ガラスで形成されている場合でも、窓を開けることなく、締め切った状態で、アクティブ無線タグ1の識別IDコードを自動車外へ伝搬することができる。
【0040】
(第一の実施の形態の変形)
その他、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することが可能である。
【0041】
(変形例)
第一の実施形態では、板状構造物として金属を含有するガラス板2を用いていたが、磁性体でない性質のものであれば良く、例えば、アルミニウムやマグネシウムなどの金属のみの板状構造物、およびその金属を含有する板状構造物であっても良い。
【0042】
(本発明の第二の実施の形態の構成)
以下、本発明の第二の実施形態の構成について図5を参照して説明する。
【0043】
図5は本発明の第二実施形態に係る無線タグ装置の構成を示した図((a)正面図、(b)平面図、(c)側面図)である。
【0044】
第二の実施形態は、線状アンテナ3の直線状導体部5をガラス板2に対して離れた位置になるように変形させている点が第一の実施形態と異なる。つまり、線状アンテナ3の直線状導体部5は、ガラス板2から、浮き上がっている構成となっている。
【0045】
(第二の実施の形態の作用)
第二の実施形態によれば、線状アンテナ3の直線状導体部5は、電波を遮蔽するガラス板2からの距離が確保されているので、線状アンテナ3から輻射される電波がガラス板2に吸収されにくくなるため、より、効率良く、空間へ輻射される。
【0046】
線状アンテナ3が金属を含有するガラス板2に密着していると、アンテナとして独立した導体とならないためアンテナとしては動作しない。一方、ガラス板2に対して線状アンテナ3を直流的に接触しない程度のわずかな隙間をあけて設置しても高周波的には浮遊容量等により線状アンテナ3とガラス板2は結合してしまうためアンテナ線として正しく動作できない。線状アンテナ3がガラス板2から十分離れていれば、その影響は無くなる。この距離をいくらに取るかは実用的には現場ユーザーが実装上支障なく使用できる範囲でなるべく大きくするのが電波特性上は有利である。ある程度、電波特性上の効果が認められる目安の距離は、0.1波長以上となる。物理的にこの距離が確保できない場合は、高誘電率の誘導体などを線状アンテナ3とガラス板2の間に設置する構造としても良い。
【0047】
(第二の実施の形態の効果)
第二の実施形態によれば、第一の実施形態と同様の効果をあげることができるが、それに加えて、より広範な範囲にアクティブ無線タグ1から発信された情報を輻射することができる。
【0048】
(第二の実施の形態の変形)
その他、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することが可能で、例えば、第一の実施形態と同様の変形が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 アクティブ無線タグ
2 ガラス板
3 線状アンテナ
4 コイル部
5 直線状導体部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状構造物と、
前記板状構造物の一方の面に配設されたアクティブ無線タグと、
前記板状構造物の他方の面に前記アクティブ無線タグに対向する位置に配設され、巻き数が少なくとも1つのコイルとそのコイルの両端に線状エレメントとを有する線状アンテナを有することを特徴とする無線タグ装置。
【請求項2】
前記板状構造物は、金属を含有する、または金属であることを特徴とする請求項1に記載の無線タグ装置。
【請求項3】
前記板状構造物は、自動車の窓ガラスであり、
前記アクティブ無線タグが配設された前記板状構造物の一方の面が前記自動車の車内であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか一方に記載の無線タグ装置。
【請求項4】
前記線状アンテナは、前記コイルが前記線状エレメントよりもアクティブ無線タグに近くなるようにし、前記線状エレメントが前記板状構造物の面に対して浮き上がるように配設された請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の無線タグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−246072(P2010−246072A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103374(P2009−103374)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(391017540)東芝ITコントロールシステム株式会社 (107)
【Fターム(参考)】