説明

無線基地局装置

【課題】高スペックのデバイスを使用する必要がなく、製品コストを低減した無線基地局装置を提供する。
【解決手段】ミキサ117の出力は選択スイッチ103に与えられ、選択スイッチ103によって、信号配線SCを介してそのまま後段の選択スイッチ105に与えられるのか、フィルタ部104を介してフィルタリングされて選択スイッチ105に与えられるのかが選択される。選択スイッチ105のA端子は、選択スイッチ103のA端子に信号配線SCを介して接続され、選択スイッチ105のB端子は、フィルタ部104の出力に接続されている。選択スイッチ105は、選択スイッチ103の出力をそのまま増幅器106に与える場合には端子Aを選択するように切り替えられ、フィルタ部104を通してフィルタリングされた出力を増幅器106に与える場合には、端子Bを選択するように切り替えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無線基地局装置に関し、特に、TDD(Time Division Duplexing)方式での通信を行う無線基地局装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線基地局装置においては、例えば特許文献1に開示されるように、電力増幅部で増幅された送信信号の歪みを補正するために、DPD(Digital Pre-Distortion)と呼称されるデジタル処理での歪み補正処理が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−151119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1では無線送信機の構成を例示しているが、昨今では、無線基地局装置において、DPD用のフィードバック回路と受信回路とで共通の回路(共用回路)を使用する構成が提案されている。
【0005】
ここで、図8を用いてDPD用のフィードバック回路と受信回路とで、それぞれ必要な通過帯域について、説明する。
【0006】
図8はTDD方式での送信信号のスペクトラム波形を概念的に示す図であり、横軸に周波数を、縦軸に信号レベルを示している。図8において、スペクトラム波形WVは、中央部において突出し、その頂上部が平坦となった山状の形状を示し、山裾の部分は緩やかに傾斜している。このようなスペクトラム波形WVにおいて、中央部の突出部分の幅Aが受信信号の帯域に相当し、山裾の部分を含めたスペクトラム波形WVの全体の幅Bが歪み補正に必要な帯域に相当する。従って、山裾の部分に相当する幅Cおよび幅Dに相当する帯域は、受信信号には不要であるが、歪み補正には必要な帯域である。
【0007】
このように、DPD用のフィードバック回路と受信回路とでは要求される帯域幅が大きく異なるが、これまでは、DPDで使用する帯域に合わせて、信号レベルが高い妨害波でも歪まないように増幅器などに高スペックのデバイスを使用する必要があり、製品コストが高くなるという問題があった。
【0008】
本発明は上記のような問題点を解消するためになされたもので、DPD用のフィードバック回路と受信回路とで共用回路を有する無線基地局装置において、高スペックのデバイスを使用する必要がなく、製品コストを低減した無線基地局装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係る無線基地局装置は、通信端末に送信する送信信号を増幅する増幅部と、前記増幅部から出力される増幅後の送信信号を受け、歪み補正を行う歪み補正部と、前記通信端末からの受信信号を取得する受信データ取得部と、送信をする場合に、前記歪み補正を行う場合には前記増幅後の送信信号を前記歪み補正部に与え、受信をする場合には前記受信信号を前記受信データ取得部に与えるように信号経路を切り替える切り替え回路と、を備え、前記切り替え回路は、所定帯域のみを通すフィルタ部が介挿された第1の信号経路と、前記フィルタ部を有さない第2の信号経路と、送信をする場合に前記歪み補正を行う場合には、前記増幅後の送信信号が前記第2の信号経路を通り、受信をする場合には前記受信信号が前記第1の信号経路を通るように経路選択を行う経路選択手段と、を有している。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る無線基地局装置によれば、製品コストを低減した無線基地局装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る実施の形態の無線基地局装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の無線基地局装置における送信動作および受信動作を説明するフローチャートである。
【図3】本発明に係る実施の形態の無線基地局装置における、選択スイッチの切り替え制御を示す図である。
【図4】本発明に係る実施の形態の無線基地局装置における、送信動作および受信動作の一例を説明するタイムチャートである。
【図5】歪み補正を行う場合、歪み補正を行わない場合のスペクトラム波形を示す図である。
【図6】歪み補正を行う場合、歪み補正を行わない場合のスムージングされたスペクトラム波形を示す図である。
【図7】本発明に係る実施の形態の無線基地局装置の変形例の構成を示すブロック図である。
【図8】DPD用のフィードバック回路と受信回路とで、それぞれ必要な通過帯域を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施の形態>
<装置構成>
図1は、本発明に係る実施の形態の無線基地局装置100の構成を示すブロック図である。本実施の形態に係る通信装置100は、例えば、TDD方式で通信相手装置と双方向に無線通信を行い、無線通信部1、D/A変換器2、A/D変換器3およびデジタル処理部4を備えている。
【0013】
無線通信部1は、アンテナ10で受信された搬送帯域の受信信号を基底帯域の受信信号に変換し、当該基底帯域の受信信号を出力する。また、無線通信部1は、D/A変換器2から出力される基底帯域の送信信号を搬送帯域の送信信号に変換し、当該搬送帯域の送信信号をアンテナ10から無線送信する。
【0014】
D/A変換器2は、デジタル処理部4から出力される送信信号をデジタル方式からアナログ方式に変換して出力する。A/D変換器3は、無線通信部1から出力される受信信号をアナログ方式からデジタル方式に変換して出力する。
【0015】
デジタル処理部4は、送信用のビットデータを含む、デジタル形式の送信信号を生成し、当該送信信号をD/A変換器2に入力する。また、デジタル処理部4は、A/D変換器3から出力される受信信号に含まれるビットデータを取得する。
【0016】
無線基地局装置100の構成をより詳細に説明すると、無線通信部1は、アンテナ10、D/A変換器2の出力を受けるミキサ101、ミキサ101の出力を受ける増幅器102、増幅器102の出力を受けるミキサ111、ミキサ111の出力を受ける増幅器112、増幅器112の出力を受ける分岐カプラ113および分岐カプラ113の出力を受ける選択スイッチ114を備えている。さらに、無線通信部1は、選択スイッチ114の出力を受ける増幅器115、増幅器115の出力を受ける選択スイッチ116、選択スイッチ116の出力を受けるミキサ117、ミキサ117の出力を受ける選択スイッチ103、選択スイッチ103の一方の出力を受けるフィルタ部104、選択スイッチ103の他方の出力を一方の入力に受け、フィルタ部104の出力を他方の入力に受ける選択スイッチ105、選択スイッチ105の出力を受ける増幅器106および増幅器106の出力を受けるミキサ107を備えている。また、無線通信部1は、ミキサ101および107に乗算するための出力信号を供給する局部発振器108と、ミキサ111および117に乗算するための出力信号を供給する局部発振器118とを備えている。
【0017】
ミキサ101は、D/A変換器2から出力される送信信号と、局部発振器108の出力信号とを乗算する。増幅器102は、ミキサ101から出力される送信信号を増幅して出力する。なお、本例では送信周波数を徐々に高めるため、増幅器102の後段にミキサ111を設け、増幅器102から出力される増幅された送信信号と、局部発振器118の出力信号とを乗算する。これにより、送信信号はアップコンバートされて、搬送帯域の送信信号が得られる。
【0018】
ミキサ111から出力される搬送帯域の送信信号は、増幅器112によって増幅され、増幅部12で増幅された送信信号は分岐カプラ113によって2つに分岐して、一方の送信信号は選択スイッチ114に与えられ、他方の送信信号は選択スイッチ116に与えられる。
【0019】
選択スイッチ114は、分岐カプラ113から出力される送信信号をアンテナ10から送信するのか、アンテナ10で受信された受信信号を増幅器115に入力するのかを選択するスイッチであり、分岐カプラ113から出力される送信信号は端子Aに入力され、アンテナ10で受信された受信信号は端子Bを介して出力される。従って、選択スイッチ114は、分岐カプラ113から出力される送信信号をアンテナ10から送信する場合には端子Aを選択するように切り替えられ、アンテナ10で受信された受信信号を出力する場合には、端子Bを選択するように切り替えられる。なお、選択スイッチ114の切り替え動作は、デジタル処理部4によって制御される。
【0020】
増幅器115は、入力される受信信号を増幅して出力する。選択スイッチ116は、分岐カプラ113から出力される送信信号を出力するのか、増幅器115から出力される受信信号を出力するのかを選択するスイッチであり、分岐カプラ113から出力される送信信号は端子Aに入力され、選択スイッチ114から出力される受信信号は端子Bに入力される。従って、選択スイッチ116は、分岐カプラ113から出力される送信信号を出力する場合には端子Aを選択するように切り替えられ、増幅器115から出力される受信信号を出力する場合には端子Bを選択するように切り替えられる。なお、選択スイッチ116での切り替え動作は、デジタル処理部4によって制御される。
【0021】
ミキサ117は、選択スイッチ116の出力信号と、局部発振器118の出力信号とを乗算する。なお、本例では受信周波数を徐々に下げるため、A/D変換器3の直前にミキサ107を設け、増幅器106から出力される増幅された送信信号と、局部発振器108の出力信号とを乗算する。これにより、受信信号がダウンコンバートされてミキサ107から出力される。
【0022】
ミキサ117の出力は選択スイッチ103に与えられ、選択スイッチ103によって、信号配線SCを介してそのまま後段の選択スイッチ105に与えられるのか、フィルタ部104を介してフィルタリングされて選択スイッチ105に与えられるのかが選択される。すなわち、選択スイッチ103のA端子は、選択スイッチ105のA端子に接続され、選択スイッチ103のB端子はフィルタ部104の入力に接続されている。従って、選択スイッチ103は、ミキサ117の出力を選択スイッチ105に与える場合には端子Aを選択するように切り替えられ、ミキサ117の出力をフィルタ部104に与える場合には端子Bを選択するように切り替えられる。なお、選択スイッチ103での切り替え動作は、デジタル処理部4によって制御される。
【0023】
フィルタ部104は、いわゆるバンドパスフィルタによって構成され、図1に示したスペクトラム波形WVのうち、中央部の幅Aの突出部分に相当する受信信号の帯域のみが通過するように構成されている。
【0024】
選択スイッチ105では、選択スイッチ103の出力をそのまま増幅器106に与えるのか、フィルタ部104を通してフィルタリングされた出力を増幅器106に与えるのかが選択される。すなわち、選択スイッチ105のA端子は、選択スイッチ103のA端子に信号配線SCを介して接続され、選択スイッチ105のB端子は、フィルタ部104の出力に接続されている。従って、選択スイッチ105は、選択スイッチ103の出力をそのまま増幅器106に与える場合には端子Aを選択するように切り替えられ、フィルタ部104を通してフィルタリングされた出力を増幅器106に与える場合には、端子Bを選択するように切り替えられる。なお、選択スイッチ105での切り替え動作は、デジタル処理部4によって制御される。
【0025】
ここで、ミキサ117の出力をフィルタ部104を介して選択スイッチ105に与える信号経路を第1の信号経路と呼称し、ミキサ117の出力を信号配線SCを介してそのまま選択スイッチ105に与える信号経路を第2の信号経路と呼称する。
【0026】
また、選択スイッチ103、信号配線SC、フィルタ部104および選択スイッチ105は、信号経路を切り替えることでDPD用のフィードバック回路および受信回路に与える信号を切り替える回路であるので、切り替え回路と呼称し、選択スイッチ103および105は、第1の信号経路と第2の信号経路との経路選択を行うので経路選択手段と呼称する。
【0027】
A/D変換器3は、ミキサ107の出力信号をアナログ形式からデジタル形式に変換する。選択スイッチ116がアンテナ10で受信された受信信号を出力する場合、すなわち受信回路として選択スイッチ116から選択スイッチ105までの回路を使用する場合には、A/D変換器3には、当該受信信号がダウンコンバートされて入力される。一方で、選択スイッチ116が、分岐カプラ13からの送信信号を出力する場合、すなわちDPD用のフィードバック回路として選択スイッチ116から選択スイッチ105までの回路を使用する場合には、A/D変換器3には、送信系回路から受信系回路にフィードバックされる増幅器112の出力信号がダウンコンバートされて入力される。
【0028】
デジタル処理部4は、CPUやメモリなどで構成されており、機能ブロックとして、送信信号生成部40、受信データ取得部41、遅延部42,45、歪み補正部43、振幅算出部44、誤差補正部46、直交変調部47、直交検波部48および選択スイッチ49を備えている。
【0029】
送信信号生成部40は、送信用のビットデータを含む、デジタル形式の送信信号SSを生成して出力する。送信信号生成部40で生成される送信信号SSは、複素信号であって、I(Inphase)成分及びQ(Quadrature)成分から成る。
【0030】
振幅算出部44は、送信信号生成部40から出力される送信信号SSの振幅を算出する。具体的には、振幅算出部44は、送信信号SSのI成分を2乗した値と、当該送信信号SSのQ成分を2乗した値とを足し合わせて、それによって得られた値の1/2乗を当該送信信号SSの振幅とする。そして、振幅算出部44は、求めた振幅を歪み補正部43に出力する。
【0031】
遅延部42は、送信信号生成部40が出力する送信信号SSを遅延して出力する。歪み補正部43は、増幅器112で増幅された送信信号の歪みを補正するための歪み補正値が登録された歪み補正値テーブル430を記憶している。歪み補正部43は、この歪み補正値テーブル430に基づいて、遅延部42から出力される送信信号SSの振幅および位相を調整することによって当該送信信号SSを補正する。直交変調部47は、歪み補正部43で補正された送信信号SSに対して直交変調を行って、当該送信信号SSを実信号に変換して出力する。
【0032】
歪み補正値テーブル430はルックアップテーブル(LUT)となっており、送信信号SSの振幅と歪み補正値とが一対一で対応付けられている。なお、歪み補正値は複素数で表さる。
【0033】
歪み補正部43は、振幅算出部44から送信信号SSの振幅を受け取ると、歪み補正値テーブル430を参照して、当該振幅に対応する歪み補正値を取得する。そして、歪み補正部43は、取得した歪み補正値と、遅延部42から入力される送信信号SSとを複素乗算することによって、当該送信信号SSの振幅および位相を補正する。
【0034】
遅延部42での送信信号SSに対する遅延量は、振幅算出部44に当該送信信号SSが入力されてから、歪み補正部43が当該送信信号SSの振幅に対応する歪み補正値を歪み補正値テーブル430から取得するまでの時間と一致するように設定されている。
【0035】
従って、歪み補正部43では、入力される送信信号SSの振幅および位相が、当該振幅に対応付けられた歪み補正値に基づいて調整される。これにより、増幅器112が出力する送信信号の歪が補正される。
【0036】
直交検波部48は、A/D変換器3からの出力信号に対して直交検波を行って、当該出力信号を実信号から複素信号に変換して出力する。選択スイッチ116が分岐カプラ113からの出力信号を出力する際には、直交検波部48では、デジタル処理部4にフィードバックされてきた送信信号SSが取得され、当該送信信号SSが直交検波部48から出力される。一方で、選択スイッチ116が増幅器15からの受信信号を出力する際には、直交検波部48では、当該受信信号が複素信号に変換され、複素信号の受信信号が直交検波部48から出力される。なお、直交検波部48の出力は選択スイッチ49に与えられ、選択スイッチ49によって、誤差補正部46に与えられるか、受信データ取得部41に与えられるかが制御される。すなわち、選択スイッチ49のA端子は、誤差補正部46に接続され、選択スイッチ49のB端子は、受信データ取得部41に接続されている。従って、選択スイッチ49は、直交検波部48の出力を誤差補正部46に与える場合には端子Aを選択するように切り替えられ、受信データ取得部41に与える場合には端子Bを選択するように切り替えられる。なお、選択スイッチ49での切り替え動作は、デジタル処理部4によって制御される。
【0037】
受信データ取得部41は、直交検波部48から出力される受信信号に対して復調処理等を行って、当該受信信号に含まれるビットデータを取得する。
【0038】
遅延部45は、送信信号生成部40から出力される送信信号SSを遅延して出力する。誤差補正部46は、遅延部45からの送信信号SSに対する、直交検波部48からのフィードバック送信信号の誤差を補正する。
【0039】
なお、本発明においては歪み補正部43の構成に限定はなく、図1に示す歪み補正部43の構成は一例に過ぎず、DPDを実現できるのであればどのような歪み補正回路を採用しても良い。
【0040】
<動作>
次に、図1を参照しつつ、図2に示すフローチャートを用いて、無線基地局装置100における送信動作および受信動作について説明する。
【0041】
<送信動作>
TDD方式においては、受信期間と送信期間とが交互に繰り返されるので、無線基地局装置100が動作を開始すると、まず、ステップS1において受信期間であるか送信期間であるかの判断がなされる。そして、ステップS1において受信期間ではない、すなわち送信期間であると判定された場合は、送信処理を開始する(ステップS2)。
【0042】
送信処理では、先に説明したように、まず、送信信号生成部40において送信用のビットデータを含む、デジタル形式の送信信号SSを生成することから始まるが、送信処理については発明との関係が薄いのでこれ以上の説明は省略する。
【0043】
送信処理を開始した後、ステップS5へのスキップ(このスキップ動作の意味について後に説明する)が設定されているかを確認し(ステップS3)、スキップが設定されている場合にはステップS5に進むが、そうでない場合には、LUTである歪み補正値テーブル430の歪み補正値に変化が起きると想定される所定の条件を満たすか否かの判定を行う(ステップS4)。なお、このような判定は、CPUなどで構成されるデジタル処理部4の図示されない制御部によってなされる。
【0044】
ここで、所定の条件とは、例えば、1日の時間帯で言えば、朝と夜など気温の違いにより、増幅器の動作特性が変わるような条件を指し、予め定めた時刻に達した場合には、ステップS4の所定の条件を満たすものと判定する。また、これ以外に、無線基地局装置100内において温度をモニタし、装置内の温度が予め定めた温度を超えるような場合には、ステップS4の所定の条件を満たすものと判定するようにしても良く、その他の条件で判定しても良い。要するに、DPDによる歪み補正を行うか否かの判定条件となり得る条件であれば特に限定はない。
【0045】
ステップS4において、所定の条件を満たすと判定された場合はステップS5に進み、そうでない場合は送信処理を続行する。
【0046】
ステップS5では、D/A変換器2から、ミキサ101、増幅器102、ミキサ111、増幅器112および分岐カプラ113を介して選択スイッチ116に与えられた送信信号を、ミキサ117を介して選択スイッチ103に与え、選択スイッチ103によって、そのまま後段の選択スイッチ105に与えるようにスイッチ操作がなされる。なお、ステップS5は、第2の信号経路を選択するステップと呼称できる。
【0047】
なお、この第2の信号経路を通るのは、図8に示すスペクトラム波形WVのうち、幅Bに相当する帯域の信号であり、歪み補正に必要な幅Cおよび幅Dに相当する帯域を含んでいる。
【0048】
選択スイッチ105に与えられたミキサ117の出力は、選択スイッチ105を介して増幅器106に与えられ、増幅器106から出力される増幅された送信信号は、ミキサ107において、局部発振器108の出力信号と乗算されてA/D変換器3に与えられる。
【0049】
A/D変換器3からの出力信号は直交検波部48に与えられ、直交検波が実行された後、選択スイッチ49を介して誤差補正部46に与えられ、送信信号の誤差が補正される。
【0050】
また、歪み補正部43は、誤差補正部46で補正された送信信号と、遅延部45からの送信信号SSとに基づいて、増幅器112で増幅された送信信号の歪みを推定する。つまり、歪み補正部43は、増幅器112で増幅される前の送信信号と、増幅器112で増幅された後の送信信号とに基づいて、増幅器112で増幅された後の送信信号の歪みを推定する。そして、歪み補正部43は、その推定結果に基づいて、上述の歪み補正値テーブル430(LUT)を更新する(ステップS6)。その後、歪み補正部43は、更新した歪み補正値テーブル430を用いて、遅延部42からの送信信号SSを補正する。
【0051】
歪み補正値テーブル430が更新され、更新した歪み補正値テーブル430を用いての送信信号SSの補正が行われ、当該、補正後の送信信号SSの送信が終了した後は(ステップS7)、ステップS8において、歪み補正値テーブル430を構成する歪み補正値の変化が収束したか否かを判定する。
【0052】
すなわち、送信信号SSを歪み補正部43にフィードバックすることによってDPDによる歪み補正を行うことで、送信信号SSの歪みが補正されても、さらに増幅器112等の特性が変化するような場合には、再び歪み補正値テーブル430を構成する歪み補正値を変更する必要生じる。このような場合は、歪み補正値の変化が収束していないと判定され、次の送信スロットでもDPDのための送信信号SSのフィードバックを実行するものとし、次の送信スロットでは、ステップS3からステップS5へのスキップを行うように設定する(ステップS9)。
【0053】
このようなスキップ動作は、ステップS4における所定の条件を満たすか否かに関わらずDPDモニタを行うために設ける動作であり、ステップS4の判定動作を省略することで、処理時間を短縮するという効果もある。
【0054】
ステップS9の後、次の送信スロットを送るタイミングを待ち(ステップS10)、次の送信スロットを送るタイミングになった場合には、ステップS3以下の動作を繰り返す。
【0055】
一方、ステップS8において、歪み補正値の変化が収束したと判定された場合は、次の送信スロットおよび受信スロットに対してステップS1以下の動作を繰り返す。
【0056】
<受信動作>
ステップS1において受信期間であると判定された場合は、アンテナ10で受信された受信信号が増幅器115に入力され、増幅器115から出力される受信信号がミキサ117に与えられるように選択スイッチ114および116を切り替えるとともに、ミキサ117の出力が、選択スイッチ103、フィルタ部104および選択スイッチ105を介して増幅器106に与えられるように選択スイッチ103および105を切り替えるようにスイッチ操作がなされる(ステップS11)。ここで、ステップS11は、第1の信号経路を選択するステップと呼称できる。
【0057】
受信信号をフィルタ部104に通すことで、図8に示すスペクトラム波形WVのうち、受信信号の帯域に相当する幅Aの帯域のみがフィルタ部104を通過し、受信信号には不要な幅Cおよび幅Dに相当する帯域はカットされることとなる。
【0058】
ステップS11のスイッチ操作により受信信号が、フィルタ部104、選択スイッチ105、増幅器106およびミキサ107を介してA/D変換器3に与えられ、A/D変換器3においてデジタル信号に変換されて直交検波部48に与えられることで、受信信号が複素信号に変換され、複素信号の受信信号が直交検波部48から出力される。この場合、直交検波部48の出力は選択スイッチ49によって受信データ取得部41に与えられ、受信データ取得部41において、直交検波部48から出力される受信信号に対して復調処理等の受信処理が開始される(ステップS12)。
【0059】
そして、ステップS13において受信処理が終了したと判定された場合には、次の送信スロットおよび受信スロットに対してステップS1以下の動作を繰り返す。
【0060】
以上説明した無線基地局装置100の送信動作および受信動作において、選択スイッチの切り替え制御を図3にまとめて示す。
【0061】
図3においては、送信のうち、DPDのための送信信号のフィードバック(DPDモニタと呼称)を行う場合を送信1とし、DPDモニタを行わない場合を送信2とし、受信の場合と合わせて示している。また、便宜的に選択スイッチ114、116、49、103および105を、それぞれSW1、SW2、SW3、SW4およびSW5として示している。
【0062】
図3に示すように、DPDモニタを行う送信1においては、SW1〜SW5を全て端子Aに切り替えるように制御する。一方、DPDモニタを行わない送信2、すなわち通常時の送信においては、SW1のみ端子Aに切り替え、SW2〜SW5については、端子A、端子Bのどちらに切り替えても良いとする状態にある。これを、Don't Care(DC)と表す。すなわち、DPDモニタを行わない場合、分岐カプラ113から出力される送信信号は、選択スイッチ114(SW1)を介してアンテナ10に与えられれば良く、例え、分岐カプラ113から出力される送信信号が選択スイッチ116(SW2)を介してミキサ117以降の各構成に与えられたとしても、それらはDPDモニタを行わない場合には動作を停止しているので、何の問題も生じないからである。
【0063】
また、受信の場合には、DPDモニタは行わず、アンテナ10で受信された受信信号を増幅器115に入力するように選択スイッチ114を切り替え、増幅器115で増幅された受信信号をミキサ117に与えるように選択スイッチ116を切り替え、ミキサ117の出力が第1の信号経路を通るようにSW1、SW2、SW4およびSW5を端子Bに切り替えるように制御する。また、デジタル処理部4においては、直交検波部48の出力が受信データ取得部41に与えられるように、選択スイッチ49(SW3)を端子Bに切り替えるように制御する。
【0064】
次に、図4に示すタイムチャートを用いて、送信動作および受信動作の一例を説明する。なお、図4においては説明を簡単にするために、送信期間および受信期間のそれぞれが1つのスロットで構成されているものとし、各スロットに上述した送信1、送信2および受信の用語を割り振っている。
【0065】
図4において、受信期間(上り)においては受信のスロットを1スロット置きに受けるだけであるが、送信期間(下り)においては、通常時はDPDモニタを行わない送信2のスロットが出力されるが、図2を用いて説明したように、LUTである歪み補正値テーブル430(図1)の歪み補正値に変化が起きると想定される所定の条件を満たす場合には(ステップS5)、DPDモニタを行う送信1となる。
【0066】
この送信1は、先に説明したように1つのスロットだけでは歪み補正値の変化が収束しない場合には、次の送信スロットにおいてもDPDモニタを行うこととなり(ステップS9)、図4においては、その一例として送信1のスロットが3回続く場合を示している。
【0067】
そして、歪み補正値の変化が収束した場合には(ステップS8)、次の送信スロットは送信2となる。
【0068】
このように、DPDモニタを行う場合には、1つの送信スロットを送信1のスロットとし、歪み補正値の変化が収束するまで送信1のスロットを出力し続けることで、適切な歪み補正値を得ることができる。
【0069】
なお、図4においては送信期間および受信期間のそれぞれが1つのスロットで構成される例を示したが、送信期間および受信期間のそれぞれが複数のスロットで構成されていても良いし、各スロットの長さが異なっていても良い。
【0070】
以上説明した無線基地局装置100によれば、DPDモニタを行う場合には、フィルタ部104(図1)を通らない第2の信号経路を選択して送信信号をフィードバックすることで、図8に示したように、歪み補正に必要な幅Cおよび幅Dに相当する帯域がカットされることなく誤差補正部46を介して歪み補正部43に与えられるので、歪み補正値が劣化することが防止される。一方で、受信の場合には、フィルタ部104を通る第1の信号経路を選択して受信信号をデジタル処理部4に与えるので、図8に示したように、スペクトラム波形WVのうち、受信信号の帯域に相当する幅Aの帯域のみがフィルタ部104を通過し、受信信号には不要な幅Cおよび幅Dに相当する帯域はカットされるので、隣接チャネルからの妨害波を抑制することが可能となる。このため、受信回路を構成するデバイス、例えば、図1に示す増幅器106やミキサ107に対して、レベルの高い妨害波でも歪まないように、リニアリティが高いレベルまで要求される高価なデバイスを使用する必要がなくなるので、装置コストを低減することができる。
【0071】
ここで、歪み補正を行う場合、歪み補正を行わない場合およびフィルタ部104を通して幅Cおよび幅Dに相当する帯域をカットした送信信号に基づいて歪み補正を行う場合のそれぞれで得られるスペクトラム波形を図5に示す。
【0072】
図5においては横軸に周波数(MHz)を、縦軸に信号レベル(dBm)を採り、歪み補正を行った場合のスペクトラム波形をC1とし、歪み補正を行わなかった場合のスペクトラム波形をC3とし、フィルタ部104を通した送信信号に基づいて歪み補正を行った場合のスペクトラム波形をC2として示している。
【0073】
図5に示すように、歪み補正を行わなかった場合と、歪み補正を行った場合とを比較すると、歪み補正を行った場合にはスプリアス成分において10dBm程度小さくなることが判るが、歪み補正を行った場合でも、フィルタ部104を通した送信信号に基づいて歪み補正を行った場合には、スプリアス成分において数dBm程度増加していることが判る。これは、フィルタ部104を通すことで、送信信号から歪み補正に必要な帯域がカットされたためであり、歪み補正値が数dBm劣化したことを意味する。
【0074】
本発明に係る無線基地局装置100においては、歪み補正を行う場合には、フィルタ部104(図1)を通らない第2の信号経路を選択できるので、歪み補正値が劣化することが防止され、スプリアス成分の少ない送信信号を出力することができる。
【0075】
図6は、スペクトラム波形C1〜C3の差異を際だたせるため、図5に示した波形をスムージングして表した図であり、スペクトラム波形C1とC2とで最大数dBmの差があることが判る。DPDのアルゴリズムの改良やIC(集積回路)の性能を上げることで歪み補正値を数dBm下げるには多大な労力を要するが、本発明によれば、それを比較的容易に達成することができる。
【0076】
<変形例>
図1を用いて説明した無線基地局装置100は、送信信号を直交変調部47で変調した後にD/A変換器2でデジタル方式からアナログ方式に変換し、また、受信信号をA/D変換器3でアナログ方式からデジタル方式に変換した後に直交検波部48で検波する構成を採用していたが、図7に示す無線基地局装置100Aの構成を採用しても良い。
【0077】
図7に示す無線基地局装置100Aにおいては、デジタル処理部4から出力される送信信号をD/A変換器2においてデジタル方式からアナログ方式に変換した後、直交変調部5において変調を行い、変調後の送信信号を増幅器102に入力する構成となっている。また、増幅器106の出力は、直交検波部6で検波された後、A/D変換器3でアナログ方式からデジタル方式に変換してデジタル処理部4に与える構成となっている。その他、図1に示した無線基地局装置100と同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。なお、無線基地局装置100Aにおいては増幅器102の前段および増幅器106の後段にはミキサを設けていないが基本的な動作においては、無線基地局装置100と変わるところはない。
【0078】
このような構成の無線基地局装置100Aにおいては、受信回路を構成するデバイス、例えば、図7に示す増幅器106や直交検波部6に対して、レベルの高い妨害波でも歪まないように、リニアリティが高いレベルまで要求される高価なデバイスを使用する必要がなくなるので、装置コストを低減することができる。
【符号の説明】
【0079】
49,103,105,114,116 選択スイッチ
104 フィルタ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線により通信端末との通信を行う無線基地局装置であって、
前記通信端末に送信する送信信号を増幅する増幅部と、
前記増幅部から出力される増幅後の送信信号を受け、歪み補正を行う歪み補正部と、
前記通信端末からの受信信号を取得する受信データ取得部と、
送信をする場合に、前記歪み補正を行う場合には前記増幅後の送信信号を前記歪み補正部に与え、受信をする場合には前記受信信号を前記受信データ取得部に与えるように信号経路を切り替える切り替え回路と、を備え、
前記切り替え回路は、
所定帯域のみを通すフィルタ部が介挿された第1の信号経路と、
前記フィルタ部を有さない第2の信号経路と、
送信をする場合に前記歪み補正を行う場合には、前記増幅後の送信信号が前記第2の信号経路を通り、受信をする場合には前記受信信号が前記第1の信号経路を通るように経路選択を行う経路選択手段と、を有する、無線基地局装置。
【請求項2】
前記フィルタ部は、バンドパスフィルタであって、
前記所定帯域は、
前記受信信号の帯域に相当する帯域である、請求項1記載の無線基地局装置。
【請求項3】
前記経路選択手段は、
前記増幅後の送信信号および前記受信信号が入力信号として入力される入力部と、前記第1および第2の信号経路の入力側がそれぞれ接続される2つの出力部とを有し、前記入力信号を、前記2つの出力部に切り替えて出力する第1の選択スイッチと、
前記第1および第2の信号経路の出力側がそれぞれ接続される2つの入力部と、前記2つの入力部から入力された入力信号を1つの出力部に切り替えて出力する第2の選択スイッチとを有し、
送信をする場合に前記歪み補正を行う場合には、前記増幅後の送信信号が前記第2の信号経路を通るように前記第1および第2の選択スイッチを切り替え、
受信をする場合には前記受信信号が前記第1の信号経路を通るように前記第1および第2の選択スイッチを切り替える、請求項1記載の無線基地局装置。
【請求項4】
前記無線基地局装置は、前記通信端末との間でTDD(Time Division Duplexing)方式で通信を行い、
前記歪み補正の結果、歪み補正値の変化が収束しない場合には、次の送信スロットにおいても前記歪み補正を実行する、請求項1記載の無線基地局装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−39560(P2012−39560A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180367(P2010−180367)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】