説明

無線機及びその調整方法

【課題】運用時に外部メモリに記憶した無線機調整データを読み出して構成ブロックの調整を行なう無線機において、外部メモリからデータが読み出し不可能な場合であっても、無線機として使用できるようにした無線機及び調整方法を提供する。
【解決手段】外部メモリに正確な調整用補正データを記憶するとともに、CPUに初期データ(固定データ)を記憶しておき、外部メモリからデータ読み出し不可能のときCPUの固定データを使用して調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線機及びその調整方法に関し、詳しくは無線機運用時の基準周波数や送信電力、変調度等を調整する機能をもった無線機及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、業務用やレジャー用陸上移動無線通信機(Land Mobile Radio:LMR)を含む無線通信システムでは、周波数利用効率の観点から一チャネルあたりの周波数帯域の狭帯域化が、また装置の性能向上、小型化、高機能化、汎用性等の諸観点からデジタル化が進められている。デジタル化に際しては、既存のアナログ方式の無線通信機との共存や既設備の流用、制御の容易さ等からFM変調方式の周波数シフトキーイング方式(Frequency Sift Keying:FSK)を使用した周波数分割多重方式(Frequency Division Multiple Access:FDMA)、あるいは位相を変化させる位相シフトキーイング方式(Phase Sift Keying:PSK)が採用される場合が多い。
【0003】
このようなデジタル化された無線機では各回路ブロックの制御は、内蔵するCPUを中心に、RAM、ROM等のメモリに記憶したプログラムやデータに基づいて行なわれるが、夫々の無線機に特有に設定される送信周波数、受信周波数、変調度、送信電力等についても、その制御データがRAMやROMに記憶されるのが一般的である。これらの制御データは無線機の製造過程において発生する、装置個々の製造誤差を吸収するために、実際に動作させながら規定値とのずれを補正した調整データを調整データ格納用EEPROM等に書き込む処理が行なわれるのが一般的である。なお調整データ格納用メモリとして使用されるEEPROM(Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory)は電気的に書き替え可能なROMであり、電源を切っても保存内容が消えないフラッシュメモリ等の改良品も含まれる。
【0004】
図5は従来の、無線機調整データ格納処理の様子を示す調整処理概要図であり、この例では、無線機の送信部のマイクアンプの増幅度、変調度、送信電力調整、バンドパスフィルタの特性調整を行なう場合を例示している。
図5に示す送信部は、マイクロホン50の音声出力をマイクアンプ51により所要レベルに増幅し、図示を省略した変調回路において高周波信号をマイク出力信号により変調する。変調された高周波信号は必要に応じて周波数逓倍回路や不要周波数成分除去のフィルタリング回路を経て、所要段数の送信電力アンプ52乃至54によって規定された送信電力まで増幅された後、バンドパスフィルタ55を介して送信アンテナ56に供給されるように構成されたものである。更に、バンドパスフィルタ55は、高調波等の不要信号を除去するためのもので、この例では、直列に挿入したインダクタンス素子(コイル)Lの両側に、コンデンサC1、C2と、電気的に容量を制御可能な可変容量素子(可変容量ダイオード)VC1、VC2との直列回路を接続した、通称πマッチ回路と呼ばれる形式のバンドパスフィルタを使用した例を示しており、可変容量素子VC1、VC2には抵抗素子R1、R2を介して、後述する第四のD/A60からの電圧信号を印加することによって、通過帯域フィルタを調整できるようになっている。
【0005】
また、これらの各回路ブロックの調整のために、マイクアンプ51には第一のデジタル・アナログ変換器(以下、D/A)57、送信電力アンプの初段アンプ52には第二のD/A58、終段アンプ54には第三のD/A59、バンドパスフィルタ55の可変容量素子VC1及びVC2には第四のD/A60が接続されており、更に、これらのD/A57乃至60には、制御用CPU61から制御信号が供給されるが、制御データはCPU61に付加されたEEPROM62に記憶されるようになっている。
【0006】
この構成において、無線機の調整は、無線機調整用設備63を使用して行なわれる。無線機調整用設備としては、例えば、周波数カウンタ、高周波電力計、スペクトルアナライザ、変調度測定器等、又は、それらの機能を備えた調整用装置が考えられ、更に、無線機のCPU61の制御や、各測定装置の制御用に、所要の測定処理プログラムやデータを備えたコンピュータを使用するのが一般的である。
このような調整装置や測定設備を使用しながら、規定された送信電力、変調度、周波数、スプリアス等の不要波レベルの測定を行なうとともに、夫々の値が規定値を満たすように調整が行なわれる。これらの制御は、上述したコンピュータを操作しながら各制御ブロックに供給すべきアナログ信号に対応するデジタルデータを求めて、それらをCPU61に接続されたEEPROM62に書き込む処理が実行される。この結果、製造誤差等のばらつきを吸収し、正確に調整された無線機として、工場等から出荷される。
なお、無線機等においてデジタル的に調整する手段としては、例えば同一出願人に係る発明の特許文献1が知られている。これは、省電力化制御用の専用D/Aやメモリ資源を省略可能な無線送信機に関するものである。
【0007】
以上説明した例では、説明を簡単にするためにアナログ変調方式の送信部構成例を示したが、デジタル変調方式の無線機においても、同様の制御が行なわれるのが一般的である。
そして、実際の運用に際しては、電源投入時にCPU61を介して、EEPROM62の制御データが読み出され、それに基づいて各D/A57乃至60においてデジタル信号がアナログ信号に変換されて、各ブロックの制御端子に供給され、規定の変調度、周波数、送信電力等の性能をもった無線機として機能する。
【特許文献1】特開2003−188743公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述したような従来の方法では、万一、EEPROM62が故障して機能しなくなった場合や、故障に至らない状態であっても、全体的に若しくは部分的にCPUとのやりとりに支障が生じ、チェックサム等の誤り訂正が正常でなく、調整データが取得できない場合は、各D/Aへ供給すべき制御信号が生成できなくなるので、無線機としての機能を全く失ってしまうという欠点があった。
即ち、図6に示すように無線機を運用する際は、電源投入すると初期動作として、CPU61を介してEEPROM62の各回路ブロックの制御データが読み出される。この例では、変調度を制御する制御データがDA1=D1、送信電力アンプの初段アンプ52の増幅度(ゲイン)制御データDA2=D2、終段アンプ59の増幅度(ゲイン)制御データDA3=D3、バンドパスフィルタ55の可変容量素子VC1、VC2の制御データDA4=D4・・・・、として、夫々のデータ値がEEPROM62に、D1=25h、D2=80h、D3=33h、D4=Eh、・・・、Dn=23hとして書き込まれているので、それらのデータを読み出し、各D/Aに供給する。
【0009】
通常、CPUが他のデバイスや装置とデータの授受を行なう場合は、チェックサム(Check Sum)等の誤り訂正機能を付加して、間違ったデータの読み出しを防止する手段が用いられるのが通常であり、これらの誤り検出が正常である場合にのみ、読み出されたデータに基づいて各D/A57乃至60において直流電流等のアナログ信号に変換されることによって各ブロックが正常に機能し、規定の変調度、周波数、送信電力等の性能をもった無線機として機能する。
しかし、図7に示すように、EEPROM62からのデータ読み出しに失敗すると、無線機の各D/Aにデータが供給されないので、無線機として機能しなくなる。特に、人命や財産に関わる緊急時等において無線機が使用できないことは、大きな問題となる可能性があった。
本発明は、このような従来の無線機の調整制御に関わる欠点を除去するためになされたものであって、万一、制御データを記録したメモリからのデータ読み出しが不可能な場合であっても、無線機としての機能を維持できるようにした無線機及びその調方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はかかる課題を解決するために、請求項1記載の無線機は、送信部又は受信部の少なくとも一方と、その構成ブロック機能を調整する機能調整手段と、この機能調整手段を制御する調整手段制御部とを備えた無線機において、上記調整手段制御部は、機能調整手段を制御するための調整基礎データを記憶したCPUと、この調整基礎データに基づいて機能調整手段を制御したときの最適調整状態との誤差を補うための制御補正データを記憶した書き込み可能な外部メモリと、機能調整時に調整基礎データと制御補正データとに基づいて機能ブロックの調整を行い、外部メモリから制御補正データが正しく読み出されない場合には調整基礎データに基づいて機能ブロックの調整を行なう手段を備えたことを特徴とする。
請求項2記載の発明では、請求項1記載の無線機において、上記外部メモリがフラッシュメモリ等を含む電気的に書き換え可能なメモリ(EEPROM)であり、上記機能調整手段にはデジタル信号をアナログ信号に変換するデジタル・アナログ変換器(D/A)を有し、機能調整項目として、チャネル周波数、変調度、送信出力レベル、フィルタ特性の少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は無線機の方法に関するもので、送信部又は受信部の少なくとも一方と、その構成ブロック機能を調整する機能調整手段と、機能調整手段を制御するための調整基礎データを記憶したCPUと、書き込み可能な外部メモリとを備えた無線機の調整方法において、上記CPUに記憶した調整基礎データに基づいて上記機能調整手段を制御する処理と、この調整基礎データに基づいて機能調整手段を制御したときの最適調整状態との誤差を検出する処理と、この誤差を補い最適調整状態にするための制御補正データを作成する処理と、この処理によって作成した制御補正データを外部メモリに書き込む処理と、機能調整時に上記調整基礎データと制御補正データとに基づいて機能ブロックの調整を行う処理と、外部メモリから制御補正データが正しく読み出されない場合にCPUに記憶している調整基礎データに基づいて機能ブロックの調整を行なう処理を含むことを特徴とする。
請求項4記載の発明では、請求項3記載の無線機の調整方法において、上記外部メモリがフラッシュメモリ等を含む電気的に書き換え可能なメモリ(EEPROM)であり、上記機能調整手段にはデジタル信号をアナログ信号に変換するデジタル・アナログ変換器(D/A)を有し、機能調整項目として、チャネル周波数調整処理、変調度調整処理、送信出力レベル調整処理、フィルタ特性調整処理の少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は上述したように構成し又は処理を行なうので、夫々以下のような効果が得られる。即ち、請求項1記載の無線機は、送受信機能のいずれか、又は両方を備えた無線機において、構成ブロック機能を調整する機能調整手段と、それを制御する調整手段制御部と、機能調整手段を制御する調整基礎データを記憶したCPUと、この調整基礎データに基づいて機能調整手段を制御したときの最適調整状態との誤差を補うための制御補正データを記憶した外部メモリとを備え、通常は、機能調整時に調整基礎データと制御補正データとに基づいて機能ブロックの調整を行うが、外部メモリから制御補正データが正しく読み出されない場合には、調整基礎データに基づいて機能ブロックの調整を行なうように構成したものである。従ってこの発明によれば、万一、外部メモリから制御補正データが読み出せない場合であっても、CPUに例えばファームウエアとして記憶している調整基礎データに基づいて、機能ブロックの調整が可能であり、無線機としての機能を維持することができる。また、制御補正データの読み出しが部分的に不可能である場合は、読み出しできない部分についてのみ、CPUに記憶している調整基礎データを使用すれば、可能な限り最適状態での運用が可能となる。
【0013】
請求項2記載の発明では、請求項1記載の無線機における外部メモリとしてフラッシュメモリ等を含む電気的に書き換え可能なメモリ(EEPROM)を採用することによって少ない電流で必要なデータの保持が可能であり、また機能調整手段にデジタル・アナログ変換器(D/A)を備えたので、CPUの制御によるデジタル処理が利用でき、複雑な処理をDSP等の使用により、デジタル的に容易に実行可能となる。また、機能調整項目として、この例に限るものではないが、チャネル周波数、変調度、送信出力レベル、フィルタ特性の少なくとも一つを含むので、無線機として機能を維持する上で有用である。
【0014】
請求項3、4記載の発明では、上述した請求項1、2記載の無線機を、処理手順として実現したので、デジタル処理が採用されるようになった既存の無線機に本発明を実施する場合にも、大幅な設計変更を必要とすることなく、処理プログラムやデータを追加するのみで、ソフトウエアの変更等により、実現可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を図示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
図1は、本発明を採用した無線機の概要構成図であり、この例では、アナログ変調方式の送信機を示している。図1において、1は音声を電気信号に変換するマイクロホンであって、その音声信号をマイクアンプ2により所要レベルに増幅し、図示を省略した変調回路に供給する。変調回路は、FM変調の場合は、例えば電圧制御水晶発振回路や、PLL発振回路のループ中の電圧制御発振器の制御電圧に音声信号を重畳させて行なうことが多い。音声信号で変調された高周波信号は必要に応じて周波数逓倍回路や不要周波数成分除去用のフィルタリング回路を経て、所要段数の送信電力アンプ、図1に示す例では3段の送信電力アンプ3乃至5によって規定された送信電力まで増幅された後、バンドパスフィルタ6を経て送信アンテナANTに供給されるように構成されたものである。
【0016】
バンドパスフィルタ6は、高調波等の不要信号を除去するためのもので、この例では、従来例において説明したように、直列に挿入したインダクタンス素子(コイル)Lの両側に、コンデンサC1、C2と、電気的に容量を制御可能な可変容量素子(可変容量ダイオード)VC1、VC2の直列回路を接続した、通称πマッチ回路型バンドパスフィルタを使用したものであり、可変容量素子VC1、VC2には抵抗素子R1、R2を介して、制御電圧が印加されることによって、通過帯域周波数や遮断特性等のフィルタ特性を調整できるようになっている。
【0017】
また、マイクアンプ2には第一のデジタル・アナログ変換器(以下、D/A)7が、送信電力アンプの初段アンプ3には第二のD/A8が、終段アンプ5には第三のD/A9が、更に、バンドパスフィルタ6の可変容量素子VC1及びVC2には第四のD/A10が夫々接続されており、更に、これらのD/A7乃至10には、制御用CPU11から制御信号が供給され、更に、CPU11にはEEPROM12が付加されている。上記CPU11には、夫々の使用目的に応じ、規定されたチャネル周波数、送信電力、変調度、不要高調波の許容レベル等に合致するように、上述した各D/A7乃至10に供給すべき調整制御用の初期データ(調整基礎データ)が記録されている。これらの調整基礎データは、各無線機が設計通りに製造されることを前提としたとき、正確な調整状態となる調整データであり、例えば、各種の制御用プログラムやデータと同じように、ファームウエアとしてCPU11の所要メモリ領域に記憶する方法が、大量生産には便利であろう。
【0018】
しかし、上述したように量産される無線機は、使用部品の特性のばらつきや、製造誤差等に起因して、送信電力、変調度、チャネル周波数、フィルタ特性等々が最適状態(理想値)と若干ずれて、誤差を含むのが一般的である。そこで、工場出荷の直前や仕込み完成時に、図1に示すように無線機調整作業設備13に接続し、規格に合致するように最終調整が行なわれる。
【0019】
無線機調整用設備としては、上述したように例えば、周波数カウンタ、高周波電力計、スペクトルアナライザ、変調度測定器等、又は、それらの機能を備えた調整用装置、更に、無線機のCPU11の制御や、各測定装置の制御用に、所要の測定処理プログラムやデータを備えたコンピュータを使用すれば、機能的な調整が可能であろう。このような調整及び測定設備を使用しながら、規定された送信電力、変調度、周波数、スプリアス等の不要波レベルの測定と規定値以下となるような調整を行なう。
このとき本発明では、CPU11に記録した調整基礎データ(初期データ)に基づいて無線機の各部を調整し、そのときの無線機の各測定結果と理想値との差を検出すると共に、この誤差が小さくなるように(理想的には零になるように)調整制御データを変更し、その理想制御データ値と、調整基礎データ値との差を、制御補正データとして求める。これらのデータは、図1に示すように、各D/Aに供給すべきデータ毎に作成する。
【0020】
図1を用いてこのことを詳細に説明すると、CPU11には、調整基礎データ(初期データ)として固定値が記憶されており、図1では夫々のデータは、変調度を制御するD/A7に供給する制御データがDA1=D1=23h、送信電力アンプの初段アンプ3の増幅度(ゲイン)を制御するD/A8にはデータDA2=D2=82h、終段アンプ5を制御するD/A9には制御データDA3=D3=32h、バンドパスフィルタ6の可変容量素子VC1、VC2を制御するD/A10には制御データDA4=D4=50h・・・・が記憶されている。そこで、先ず、それらの調整基礎データに基づいて各D/Aを制御し、その調整結果得られる無線機性能項目を最適状態(理想値あるいは設計値)と比較し、両者の差分を求める。図1の例では、最適調整状態となるときの各制御データ(調整値)は、DA1=D1=25h、DA2=D2=80h、DA3=D3=33h、DA4=D4=4Ehとなるので、調整値(正しい制御データ)−固定値(初期データ)=保存値(制御補正データ)とし、その制御補正データをEEPROM12に記憶しておく。
以上の処理が工場出荷時等の調整である。その結果、無線機のCPU11には、調整基礎データが固定値として残された状態であり、外部メモリ12には、製造誤差を吸収補正して正確な調整に必要な制御補正データが保存された状態となる。
【0021】
図2は、この無線機を実際に運用する場合の無線機の状態を説明する図であり、無線機に電源が投入された際、自動的に調整処理を起動する場合を例示している。電源が投入されると、CPU11は、その旨を検出して調整処理を開始し、EEPROM12に保存されている制御補正データを読み込む。この際、チェックサム等の誤り訂正機能を付加して、間違ったデータの読み出しを防止し、チェックがOKの場合は、読み出された制御補正データをCPU11内部に記憶されている固定値(調整基礎データ、初期データ)に加算し、得た適正な調整データに基づいて各D/A7乃至10への制御信号を生成し、供給する。各D/A7乃至D/A10では、デジタル信号を直流電流等のアナログ信号に変換して被制御ブロックに供給する。この結果、各ブロックが正常に調整され、規定の変調度、周波数、送信電力、スプリアス抑圧機能等の性能をもった無線機として機能する。
【0022】
一方、図3に示すように、起動時の調整処理において例えば、チェックサム等の誤り訂正の結果、EEPROM12から制御補正データが読み出し不可能な場合は、CPU11はその旨を検出し、CPU内部に記憶している固定値(調整基礎データ、初期データ)に基づいて各ブロックの調整を実行する。この処理によれば、CPU11に記憶されたデータに基づいて、DA1=Db1=23h、DA2=Db2=82h、DA3=Db3=32h、DA4=Db4=50hとなり、若干の調整誤差は伴うものの、規定値に許容される範囲の性能を持った無線機として使用することが可能となる。従って、このときの調整結果が、規格に規定された許容範囲内になるようにすれば、無線機として十分に使用できる機能を維持することが可能である。従来、外部メモリから制御データが読み取り不可能な場合に、全く無線機として機能し得なかったのに比べれば、著しい効果がもたらされることが理解できよう。
【0023】
図4は本発明の調整処理の一例を示すフローチャートである。この例では外部メモリに記憶された制御補正データの読み出し処理をデータ毎に行ない、読み出し得るものはそれを使用した正確な調整を実行するが、部分的に読み出し不可能なものについては、CPU11内部の固定値(調整基礎データ)を用いるようにしているが、いずれか一つでも読み出し不可能な場合には、全てについてCPU11内部の固定値(調整基礎データ)を用いるようにしてもよい。
即ち、図4において、無線機に電源が投入されると自動的に、又は起動スイッチが操作され、調整処理が開始され(S1)、EEPROM12等の外部メモリに記憶されている制御補正データの読み出しを行なうとともに(S2)、読み出しの有無を判断する(S3)。この判断の結果、読み出しに成功した場合は(S3、Yes)、調整基礎データと制御補正データとで調整処理を実行し(S4)、全てのブロックの調整が完了したか否かを判断する(S5)。全ての項目について調整が完了していない場合は次のブロックの調整を行なうためにステップS2に戻って、S2乃至S5を繰返す。なお、上記ステップS3において外部メモリから制御補正データの読み出しが不可能な場合は(S3、No)、その調整についてはCPU11内部の固定値(調整基礎データ、初期データ)を使用して調整を行なう(S6)。
このような処理を行なえば、外部メモリから部分的に制御補正データが読み出し得ない場合は、そのデータについての項目についてのみCPU11の内部に記憶した調整基礎データを用いて調整することによって、極力正確な調整を行なうことが可能となる。
【0024】
本発明は上述した実施態様例に限らず、種々変形が可能である。例えば、調整対象項目は送信機に限らず、受信機対しても同様に採用可能である。また外部メモリに記憶する制御補正データは、調整値から固定値を減算した差分情報とする代わりに、調整値そのものであってもよい。その場合は、運用時に、CPUの固定値に制御補正データを加算、若しくは減算等の演算を行なうことなく、直接外部メモリから取得した制御調整データを使用して制御データを各ブロックに供給することができよう。なお、その際においても、上述した誤差に基づく制御補正データを外部メモリ若しくはCPUの所要メモリに記憶しておき、上述した演算を行なって、外部メモリから取得した制御データの正誤確認処理を行なうことも可能である。更に、上記手順に基づいて調整した結果が、規定された許容範囲内であるか否かを確認する手段を併用することも、無線機の機能向上の観点から好ましいであろう。更に、無線機の調整対象項目として外部メモリやCPUに記録しておくデータは、以上説明したような規格に定められた事項に留まらず、無線機の受信感度調整、その他の付加機能の動作の確認のための調整・検査データ等であってもよい。
【0025】
なお、無線機等においてD/Aを用いてデジタル的に調整する手段としては、例えば同一出願人に係る発明の特許文献1が知られているので、参照することができ、また本発明と併用することもできよう。上述した実施例では、説明を簡単にするためにアナログ変調方式の送信部構成例を示したが、デジタル変調方式の無線機においても、同様の制御が行なわれる場合は同様に本発明を適用可能である。また、外部メモリはEEPROMに限る必要はなく、同様に機能するメモリであれば使用可能である。
更に、本発明を実施する上で必要な処理部分を、プログラムとして実現しておけば、CPUやメモリを備えた無線機にインストールすることによって、ソフトウエア的に本発明を実現することも可能であり、そのためのプログラムを各種のメモリに記録して提供することや、通信手段を介して頒布提供することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る無線機の構成例と初期設定調整方法を示す概要図。
【図2】本発明に係る無線機の運用時の調整処理状況を示す概要図。
【図3】本発明に係る無線機の運用時の他の調整処理状況を示す概要図。
【図4】本発明に係る無線機の調整方法の一例を示すフローチャート。
【図5】従来の無線機の構成例と初期設定調整方法を示す概要図。
【図6】従来の無線機の運用時の調整処理状況を示す概要図。
【図7】従来の無線機の運用時の他の調整処理状況を示す概要図。
【符号の説明】
【0027】
1 マイクロホン、2 マイクアンプ、3、4、5 送信電力アンプ、6 フィルタ、7、8、9、10 デジタル・アナログ変換器(D/A)、11 CPU、12 外部メモリ(EEPROM)、13 無線機調整作業用設備。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信部又は受信部の少なくとも一方と、その構成ブロック機能を調整する機能調整手段と、該機能調整手段を制御する調整手段制御部とを備えた無線機において、前記調整手段制御部は、前記機能調整手段を制御するための調整基礎データを記憶したCPUと、該調整基礎データに基づいて前記機能調整手段を制御したときの最適調整状態との誤差を補うための制御補正データを記憶した書き込み可能な外部メモリと、機能調整時に前記調整基礎データと制御補正データとに基づいて機能ブロックの調整を行い、前記外部メモリから制御補正データが正しく読み出されない場合には前記調整基礎データに基づいて機能ブロックの調整を行なう手段を備えたことを特徴とする無線機。
【請求項2】
前記外部メモリがEEPROMであり、前記機能調整手段にはデジタル信号をアナログ信号に変換するデジタル・アナログ変換器を有し、機能調整項目として、チャネル周波数、変調度、送信出力レベル、フィルタ特性の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1記載の無線機。
【請求項3】
送信部又は受信部の少なくとも一方と、その構成ブロック機能を調整する機能調整手段と、前記機能調整手段を制御するための調整基礎データを記憶したCPUと、書き込み可能な外部メモリとを備えた無線機の調整方法において、前記CPUに記憶した調整基礎データに基づいて前記機能調整手段を制御する処理と、該調整基礎データに基づいて前記機能調整手段を制御したときの最適調整状態との誤差を検出する処理と、該誤差を補い最適調整状態にするための制御補正データを作成する処理と、該制御補正データを外部メモリに書き込む処理と、機能調整時に前記調整基礎データと制御補正データとに基づいて機能ブロックの調整を行う処理と、前記外部メモリから制御補正データが正しく読み出されない場合に前記調整基礎データに基づいて機能ブロックの調整を行なう処理を含むことを特徴とする無線機の調整方法。
【請求項4】
前記外部メモリがEEPROMであり、前記機能調整手段にはデジタル信号をアナログ信号に変換するデジタル・アナログ変換器を有し、機能調整項目として、チャネル周波数調整処理、変調度調整処理、送信出力レベル調整処理、フィルタ特性調整処理の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項3記載の無線機の調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−199529(P2008−199529A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35309(P2007−35309)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000003595)株式会社ケンウッド (1,981)
【Fターム(参考)】