説明

無線通信システム、無線通信装置及び無線通信方法

【課題】復調前のデータを蓄積するためのメモリ容量を縮小し、かつ、データチャネルの処理遅延が抑制できるMIMO向け適応変調方式のための無線通信システムを提供する。
【解決手段】データチャネルの変調方法及び符号化率を、伝播環境に応じて変化させる適応変調を行い、MIMO多重伝送によって信号を送受信する無線通信システムであって、前記制御情報は、MIMOストリーム分離処理に使用される第1の制御情報と、MIMOストリーム分離処理に使用されない第2の制御情報とを含み、前記無線通信装置は、第1の制御情報テーブルを参照することによって、第1の制御情報の更新タイミングにおいて、前記第1の制御情報を決定し、前記決定された第1の制御情報に基づいて、第2の制御情報の選択肢を決定し、前記決定された第2の制御情報の選択肢の中から、第2の制御情報の更新タイミングにおいて、第2の制御情報を決定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システムに関し、特に、適応変調方式とMIMO多重方式とを組み合わせた無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯電話等のセルラ無線通信システムは、音声・文字メール等の比較的ビット数の少ない情報から写真が添付されたメール・TV電話の動画データ等のビット数の多い情報まで、多種多様の情報を伝送することが求められている。この要求に応えるため、セルラ無線通信システムには、送信されるデータの量(ビット数)に対応した複数のパケットサイズと複数の変調方式が用意されている。そして、システムは、データ送信時の電波伝播環境に応じて、パケットサイズと変調方式とを適切に組み合わせて、データを送信し、伝送効率を向上させている。変化する電波伝播環境の状態を判断しその時点での最適の変調方式を選択することによって伝送効率を高める方式を適応変調方式といい、適応変調の技術は、現在の第3世代携帯電話システムの規格等に採用されている。
【0003】
また、次世代携帯電話システムの規格には、割り当てられた周波数帯域の通信容量を増大させるため、送受信機の複数のアンテナによって信号を同一周波数で同時に空間的に多重送信するMIMO(Multiple Input Multiple Output)方式が導入されつつある。MIMO方式が適用された無線通信システムでは、送信機は異なるデータストリームを複数の送信アンテナから同時に送信する。受信機は複数の受信アンテナを用いて送信されたデータを受信した後に、MIMO多重された信号を各データストリームに分離して復調する。MIMO方式を適用することによって、無線通信システムのデータ送受信の通信容量を増やすことができ、理論上はアンテナを2本に増やすと帯域幅を2倍に広げた時と同等、アンテナを3本に増やすと帯域幅を3倍に広げた時と同等に通信容量増加の効果を得られる。
【0004】
一方、適応変調方式において、送信側は、電波伝播環境に応じた適当なパケットサイズ及び変調方式を選択し、送信するデータパケットを符号化した後に、選択された方式で変調をする。このときに使用された変調方式、符号化率及びパケットサイズ等のパラメータをデータとともに送る。このパラメータをMCS(Modulation and Coding Scheme)といい、受信側でデータを復調するときはこのMCS情報が必要となる。
【0005】
適応変調を適用するシステムにおいて、データはデータチャネルで送信され、MCS情報等の制御情報は制御チャネルで送信される。受信側では、送信されたデータがどのような変調方式によって変調されているかを判別することができないとデータチャネルを復調することができない。よって、受信側は、初めに制御情報を含む制御チャネルを復調し、MCS情報を抽出し、次にデータチャンネルを復調する順序で処理をする。
【0006】
これによって、受信側は、制御チャネルの復調が完了するまでの間、データチャネルの復調前のデータを一時退避させておくための大きなメモリ容量を確保しなければならない。また、制御チャネルの復調に時間を要するため、データチャネルの処理遅延が大きくなるという問題もある。
【0007】
この問題は特許文献1において指摘されており、適応変調方式に適したベースバンド復調アーキテクチャに関する技術が公開されている。しかし、MIMO多重伝送を行う適応変調方式のシステムでは、データチャネル復調の前の段階において、MIMOストリーム分離処理を行う必要があるため、上記の問題は更に大きなものとなる。
【特許文献1】特開2006−229635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
適応変調方式を行う無線通信システムに、MIMO方式を導入する場合は、受信機において通常のデータチャネル復調に加えMIMOストリームを分離しなくてはならない。よって、適応変調方式にMIMO方式を適用した場合、適応変調方式のみが適用される場合に比べて、データチャネルの処理はより一層増加し、遅延が更に大きくなるという問題が生じる。
【0009】
また、データチャネルの処理遅延が大きくなることによって、VoIP(音声)及びテレビ電話等のリアルタイム通信サービスの品質が低下する。さらに、H−ARQ(Hybrid Automatic Repeat Request:再送制御)等の閉ループフィードバック制御の周期が長くなることによって、通信容量が減少する問題が生じる。
【0010】
本発明は、復調前のデータを蓄積するためのメモリ容量を縮小し、かつ、データチャネルの処理遅延を抑制できるMIMO向け適応変調方式のための無線通信システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の代表的な一例を示せば以下のとおりである。すなわち、本発明は、データチャネルと、前記データチャネルに適用される制御情報を伝達する制御チャネルとを使用し、前記データチャネルの変調方法及び符号化率を、伝播環境に応じて変化させる適応変調を行い、MIMO多重伝送によって信号を送受信する無線通信装置を備える無線通信システムであって、前記制御情報は、MIMOストリーム分離処理に使用される第1の制御情報と、MIMOストリーム分離処理に使用されない第2の制御情報とを含み、前記無線通信装置は、前記第1の制御情報の選択肢が記載された第1の制御情報テーブルと、前記第2の制御情報の選択肢が記載された第2の制御情報テーブルとを備え、前記第2の制御情報テーブルは、前記第1の制御情報テーブルで選択される第1の制御情報に対応して、前記第2の制御情報テーブルで選択可能な選択肢が変わるものであって、前記無線通信装置は、第1の制御情報テーブルを参照することによって、第1の制御情報の更新タイミングにおいて、前記第1の制御情報を決定し、前記決定された第1の制御情報に基づいて、第2の制御情報の選択肢を決定し、前記決定された第2の制御情報の選択肢の中から、第2の制御情報の更新タイミングにおいて、第2の制御情報を決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態によれば、データの復調処理の遅延を低減させ、復調前のデータを蓄積するためのメモリ容量を縮小することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態について、図1から図8を用いて説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態の無線通信システムにおける基地局装置の構成を示すブロック図である。
【0015】
本実施の形態の基地局装置は、アンテナ100、無線処理部110、ベースバンド部120及びネットワークIF部130を備える。
【0016】
無線処理部110は、無線レベルの信号処理を行い、フロントエンド部111、無線部112及び無線IF部113を備える。ベースバンド部120は、物理層においてベースバンドの信号を処理し、受信した信号の復号及び誤り訂正等を行う復調ブロック121、送信する信号の符号化及び変調等を行う送信ブロック122及び同期ブロックを備える。ネットワークIF部130は、ネットワークを介して他の基地局装置等とデータを送受信する。
【0017】
端末装置の構成は、図1に示す基地局装置の構成と同様である。但し、端末装置はネットワークIF部130を含まない。
【0018】
次に、基地局装置のデータの送受信について説明する。
【0019】
アンテナ100によって受信された信号は、フロントエンド部111内のアンテナスイッチ(又は、デュプレクサ)において受信信号の経路に分離された後、フィルタリングされる。次に、分離された受信信号は、無線部112において、ベースバンド帯域の周波数に変換される。さらに、周波数に変換された受信信号は、無線IF部113において、デジタル信号に変換され、ベースバンド部120の同期ブロックにおいて同期信号が捕捉された後、復調ブロック121で復調され、ネットワークIF部130を介してネットワークへ送信される。
【0020】
また、端末装置へ送信される信号は、ネットワークIF部130からベースバンド部120の送信ブロック122に入力され、誤り訂正符号の付加及び符号化等の変調処理がされる。その後、送信信号は無線IF部113においてアナログ信号に変換され、無線部112で所定の周波数帯域の信号となり、フロントエンド部111でフィルタリングされた後、アンテナ100から送信される。
【0021】
本発明は、特に、ベースバンド部の復調ブロック121及び送信ブロック122の構成に係るものである。
【0022】
図2は、本発明の実施の形態の適応変調を行う場合のフィードバック制御を示すブロック図である。
【0023】
図2を用いて、基地局装置から端末装置への下り回線に適応変調を適用する場合、すなわち、基地局装置側が適応変調を行い、データを端末装置に送信する場合のフィードバック制御動作を説明する。なお、上り回線についてもフィードバック制御の動作は同様であるので、上り回線と下り回線でそれぞれの送信信号を適応変調することも可能である。端末装置が上り回線において適応変調のフィードバック制御を行う場合は、図2における「基地局装置」を「端末装置」に、「端末装置」を「基地局装置」に読み替え、また、「上り回線」を「下り回線」に、「下り回線」を「上り回線」に読み替えてよい。
【0024】
基地局装置のベースバンド部120Aの送信ブロック122Aは、下りデータチャネルに適用するMCS情報を適応制御部201で決定し、F−DCH(下りデータチャネル)変調部202で、そのMCS情報に基づいて送信する下りデータチャネルのデータを符号化する。また、F−CCH(下り制御チャネル)変調部203は、MCS情報を符号化し、符号化したMCS情報を下り制御チャネルに含める。データ及びMCS情報は、それぞれ異なる周波数リソース(時間、周波数、コード(コード多重する場合)等)を割り当てられ、送信される。
【0025】
次に、端末装置側がデータを受信し復調する動作及び受信信号の品質を測定する動作を説明する。
【0026】
端末装置のベースバンド部120Bの復調ブロック121Bの内部では、受信信号を下り制御チャネルの信号と下りデータチャネルの信号とに分離し、下りデータチャネルの受信データを一時的に入力メモリ205に蓄積する。その間に、下り制御チャネルの信号は、F−CCH(下り制御チャネル)復調部204で復調され、MCS情報が抽出される。抽出されたMCS情報は、F−DCH(下りデータチャネル)復調部206に入力される。F−DCH復調部206は、入力メモリ205から受信データを読み出し、抽出されたMCS情報に基づいて、下りデータチャネルを復調する。
【0027】
一方、端末装置側ベースバンド部120Bの送信ブロック122Bの伝播環境測定部207は、SINR(Signal to Noise Ratio:信号電力対雑音電力比)等の伝播環境の指標となる数値を測定して、その結果をCQI作成部208に入力する。CQI作成部208は、伝えられた環境指標値を基にCQIを作成する。なお、CQI(Channel Quality Indicator)はチャネル品質情報である。R−CCH(上り制御チャネル)変調部209は、CQI情報を符号化し、符号化したCQI情報を上り制御チャネルに含めて、送信する。
【0028】
次に、基地局装置が信号を受信し、受信したCQI情報に基づいて、適切な変調方式を決定した後、MCS情報を端末装置に送信する動作を説明する。
【0029】
基地局装置側ベースバンド部120Aの復調ブロック121Aは、R−CCH復調部210によって上り制御チャネルを復調し、CQI情報を抽出し、抽出されたCQI情報を送信ブロック122Aの適応制御部201に入力する。適応制御部201は、CQI情報、下りデータチャネルの送信データ量及びQoSを評価して、現時点において最適な変調方式を選択し、次の送信データに含ませるMCS情報を決定する。なお、QoS(Quality Of Service)はアプリケーションから要求される通信品質である。以後、基地局装置が下りデータを送信する動作は、前述した動作と同様であり、フィードバック制御が繰り返して行われる。
【0030】
次に、適応変調を行うOFDMシステムにMIMO多重伝送を導入する場合の、ベースバンド部におけるデータ復調の動作の例を説明する。
【0031】
図3は、本発明の実施の形態のMIMO−OFDMシステムにおける端末装置のベースバンド部復調ブロック121Bの構成を示すブロック図である。なお、基地局装置のベースバンド部復調ブロック121Aも同じ構成を備える。また、図3においては、図2には示されていないMIMOストリーム分離を行う構成などを図示しているため、図2に示す復調ブロック121Bとは図示される構成が一部異なる。
【0032】
ここで、OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)は直交周波数分割多元接続であり、データ系列を複数のキャリアに分割して並列伝送する方法である。なお、本発明はMIMO−OFDMシステムに限るものではなく、MIMO多重を導入するOFDMA以外の多元接続方式を用いるシステムにも適用可能である。
【0033】
ベースバンド部復調ブロック121Bは、無線IF部113からデータを受け取る。OFDMAの場合、FFT(Finite Fourier Transform)部301は離散フーリエ変換を実行し、データを周波数領域の信号に変換する。チャネル推定部302は、パイロット信号を用いたチャネル推定を行い、推定されたチャンネルのタイミングと同期して、制御信号とデータ信号とを分離する。受信したデータチャネルのデータは、一旦、入力メモリ303に蓄積される。データチャネルの処理が待機させられている間に、CCH復調部304は、制御チャネルを復調し、変調方式及びMIMO多重方式等の情報を含む第1MCS情報と、パケットサイズ及び符号化率等の情報を含む第2MCS情報とを抽出する。
【0034】
MIMO分離部305は、CCH復調部304から変調方式を含む第1MCS情報を受け取る。第1MCS情報を受け取るタイミング及び第1MCS情報の更新タイミングの周期については後述する。MIMO分離部305は、CCH復調部304における処理と並行して、MIMOストリームを分離する。DCH復調部306は、CCH復調部304から入力されるデータのパケット情報等を含む第2MCS情報に基づいて、MIMOストリーム分離後の各ストリーム(データ系列)を復号する。
【0035】
ここで、MIMO分離部305において行われるMIMOストリームの分離について説明する。
【0036】
MIMO多重伝送において、複数の送信アンテナから同時に送信された各信号は、複数の伝播経路を経て複数の受信アンテナに入力されるため、一の受信アンテナで受信する信号は伝播路の伝送特性によって変化した各信号が多重されたものとなる。よって、受信側では、MIMO多重された信号を分離して元の独立した信号を取り出す必要がある。MIMOストリーム分離の方法はいくつかあるが、最も高性能な信号分離法とされているのが最尤判定(MLD:Maximum Likelihood Detection)である。ここでは、信号分離方法の例としてMLD方式によるMIMOストリーム分離処理を説明する。
【0037】
図4は、本発明の実施の形態のMLD方式による変調方式推定のためのIQコンスタレーションを示す説明図である。
【0038】
MLD方式では、送信される可能性のある全てのIQ軸上の信号点のレプリカが生成され、生成されたレプリカ点と受信した信号点とが比較され、最も尤度が高い点が推定結果として出力される。例えば、信号が、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)変調方式で送信された場合には、送信される可能性のある信号点401は4点であり、実際の受信信号点403に最も近いレプリカ点が最も確からしい信号として出力される。また、64QAM(Quadrature Amplitude Modulation)変調方式で送信された場合には、送信される可能性のある信号点64点の信号点のレプリカ点402のうち、最も尤度が高い点いずれか一つが推定結果となる。このように、変調方式によって比較対象となるレプリカ点が変わることから、MIMOストリームの分離処理には、信号にどのような変調方式が使われているのかを知る必要がある。したがって、変調方式は、MIMOストリーム分離の前に必要な情報であり第1MCS情報に含む情報としている。
【0039】
なお、MIMOストリームの分離処理に必要な第1MCS情報の例としては、変調方式のほかに、MIMO多重の実施の有無、MIMO多重の方法(例えばPrecoding CodebookのID、Single Code Word/Multi Code Wordの区別等)及びSTTD(Space Time Transmit Diversity)の有無等に関する情報がある。また、第2MCS情報の例としては、パケットサイズ及び符号化率等がある。
【0040】
次に、第1MCS情報と第2MCS情報といよって、受信側復調ブロック121Bが、制御チャネルの復調と同時に並行してデータチャネルのMIMO処理を実施するための動作を説明する。
【0041】
図5は、本発明の実施の形態のMCS情報の更新タイミングの周期ついての説明図であり、第1MCS情報の更新タイミングの周期を第2MCS情報の更新タイミングの周期よりも長くする場合を示す。
【0042】
OFDMAシステムにおいては、ユーザにサブキャリアが割り当てられ、一定時間毎にそのサブキャリアに割り当てられるユーザ及びデータが変更される。例えば、図5は、1フレーム当たり36個(3サブキャリア(周波数)×12サブフレーム(時間))で区切られた無線リソースを、3人のユーザA、B、Cに対し、3サブフレーム毎に4回ずつ割り当てる場合を示している。ユーザAは、サブフレーム#0、#3、#6、#9のリソースを利用することができる。サブフレームは異なる三つのサブキャリア全てを利用することができるので、各サブフレームのそれぞれにパイロット信号、制御チャネル(CCH)及びデータチャネル(DCH)を割り当て、割り当てられたサブフレームにてデータを送信する。
【0043】
また、図5は、制御チャネル(CCH)で送信されるMCS情報の送信タイミングと内容とを示している。本実施の形態においては、第1MCS情報が変化する周期を、第2MCS情報が変化する周期に比べて、長くしている。図5では、第2MCS情報が毎回更新されているのに対し、第1MCS情報は4回毎(割り当てられた4個のサブフレーム毎)に更新されている。
【0044】
これによって、同一のフレーム内においては、サブフレーム#0から抽出された第1MCS情報を継続して利用することができるため、サブフレーム#3、#6及び#9のCCH復調は第2MCS情報のみを復調して、復調されたデータを抽出する簡易な処理となる。したがって、第1MCS情報が更新されない間は、第1MCS情報に基づくMIMOストリーム分離処理と第2MCS情報に基づくDCH復調の処理とを同時に行うことが可能であり、データチャネルの処理遅延を抑制しつつ、入力メモリの容量を縮小する効果が得られる。
【0045】
第1MCS情報と第2MCS情報との更新タイミングの周期の差が大きいほど、このデータチャネル処理遅延削減の効果は大きくなるが、一方で、更新タイミングの周期の差が大きくなるとリアルタイムな変調方式の変更ができなくなり、適応変調の応答性が低下する。つまり、伝播環境に最適な変調方式を選択することができなくなり、無線システムとしては伝送性能が低下する。
【0046】
ゆえに、データチャネル処理性能と伝送性能とはトレードオフの関係にあり、データチャネル処理遅延を抑制しつつ伝送性能を低下させない処置が必要となる。このトレードオフの関係を解消するための処置については後述する。
【0047】
なお、図5に示す例では、第1MCS情報が更新されるタイミングをサブフレーム番号#0の時に固定した。更新されるタイミングは、サブフレーム番号が所定値となったタイミング、サブフレームよりも上位のフレームの境界が現れたタイミング又はサブフレーム番号の剰余(Modulo N)が所定の条件を満たしたタイミング等にしてもよい。
【0048】
第1MCS情報が更新されるタイミングを固定することによって、端末装置側では現時点でCCHの復調処理を待って第1MCS情報を得るべきか、あるいは、待たずにMIMOストリーム分離処理を進めるべきかを判断することができる。
【0049】
図6は、本発明の実施の形態の変形例のMCS情報を送信するタイミングについての説明図であり、第1MCS情報を送信するタイミングを、その第1MCSに従って変調したDCHを送信するタイミングよりも早くする場合を示す。
【0050】
図5に示す例では、サブフレーム#0のDCH復調処理は、同じサブフレーム#0のCCHに含まれる第1MCS情報の復調を待つ必要があり、第1MCS情報に依存するMIMOストリーム分離処理に必要な時間に伴って、データチャネルの遅延が生じていた。
【0051】
図6に示すMCS情報の更新タイミングの例では、フレーム(n+1)の先頭のサブフレーム#0のデータチャネルで用いる第1MCS情報を、一つ前のフレームnの中で割り当てられた最後のサブフレーム#9で送信する。つまり、第1MCS情報をその情報に従って変調されたデータチャネルよりも一つ前のサブフレームで送信することによって、受信側においては第1MCSの抽出を待たずに、データチャネルを受信すると同時にMIMOストリーム分離処理を開始することができる。よって、次のフレーム(n+1)のすべてのサブフレームにおいてデータチャネルの処理遅延を低減する効果が得られる。
【0052】
しかしながら、一方で、送信側の適応変調制御部において、第1MCS情報を決定し、制御チャネルで送信するタイミングと、該第1MCS情報に従って変調されたデータチャネルが送信されるタイミングとの差が大きくなると、その間は伝搬環境に最適な変調方式を選択することができず、適応変調の応答性は低下する。つまり、DCHチャネルの処理性能とシステム伝送性能とはトレードオフの関係にあるといえる。
【0053】
また、送信側の適応変調制御部において、第2MCS情報を決定し、制御チャネルで送信するタイミングと、該第2MCS情報に従って変調されたデータチャネルが送信されるタイミングのとの差が大きくなる場合についても、同様のトレードオフの関係がある。図6に示す例では、第1MCS情報が決定され制御チャネルで送信されるタイミングと該第1MCS情報に従って変調されたデータチャネルが送信されるタイミングとの時間差Aを、第2MCS情報が決定され制御チャネルで送信されるタイミングと上記第2のMCS情報に従って変調されたデータチャネルが送信されるタイミングとの時間差Bよりも長くなるように設定している。つまり、第1MCS情報の送信タイミングは、MIMOストリーム分離処理に係る処理遅延の低減を優先させるように設定される。一方、第2MCS情報の送信タイミングは、適応変調の性能を優先させるように設定される。
【0054】
図5及び図6に例示したとおり、MIMOストリーム分離処理に必要な第1MCS情報の更新タイミングの周期を長くする設定及び第1MCS情報の送信タイミングとそのMCS情報に従うデータチャネルの送信タイミングとをずらす設定によって、データチャネルの処理遅延は低減される。一方、これらの設定によって、システムの適応変調の性能が低下する問題があることを説明した。ここでは、前述のトレードオフの関係を解消するために、変調方式の情報を含む第1MCS情報と符号化率を含む第2MCS情報とが補完されるように、両者を組み合わせることによって、システムとしての伝送性能を低下させない方法を説明する。
【0055】
図7Bは、本発明の実施の形態のMCSテーブルの構成を示す説明図である。
【0056】
従来は、図7Aに示すように、MCSテーブルは一つであり、変調方式と符号化率は所定の組み合わせによってあらかじめ対応付けられていた。したがって、あるCQI情報(伝播環境指標の値)に応じて、例えば、MCSテーブルのエントリ#2が選択された場合は、固定された1組の変調方式「QPSK」と符号化率「1/3」とが使用される。
【0057】
このようなテーブル構造に従うと、図5又は図6のように、第1MCS情報(変調方式)の更新タイミングの周期と第2MCS情報(符号化率)の更新タイミングの周期とを異なる周期にすることができない。また、第1MCS値(変調方式)を変更せずに第2MCS値(符号化率)のみを変更することもできない。そこで、本実施の形態においてはMCSテーブルの構造を変更し、図7Bに示すように第1MCS情報(変調方式)の選択肢を記載した第1MCSテーブルと、第2MCS情報(符号化率)の選択肢を記載した第2MCSテーブルとに分割した。第2MCSテーブルは、第1MCSテーブルで選択された値に対応する複数のテーブルから構成される。
【0058】
これによって、一の変調方式に対して、複数の符号化率を対応付けすることができ、第1MCS情報の更新タイミングの周期を第2MCSの更新タイミングの周期より長くすることが可能となる。
【0059】
図8は、本発明の実施の形態の第1MCS値(変調方式等)と第2MCS値(符号化率等)を決定する処理のフローチャートである。図8では、図7に示すMCSテーブル構成と併せて、第1MCS値と第2MCS値との組み合わせを決定する処理を説明する。
【0060】
基地局装置(又は端末装置)の適応制御部201は、第1MCS情報について、あらかじめ定められた更新タイミングであるか否かを判定する(手順801)。第1MCS情報の更新タイミングであるかは、前述したように、サブフレームの番号が所定の条件を満たすかによって判定することができる。
【0061】
その結果、第1MCS情報が更新されるタイミングであった場合は、適応制御部201は、第1MCSテーブルを参照し、そのタイミングで制御チャネルが受信しているCQI情報に基づいて、最適の第1MCS値(16QAM、QPSK等)を選択する(手順701)。次に、適応制御部201は、選択された第1MCS値に基づいて、複数用意されている第2MCSテーブルの中から参照すべき第2MCSテーブルを決定する(手順702)。例えば、図7Bの第1MCSテーブルにおいて、エントリ#1が選択された場合は、変調方式「16QAM」に対応する第2MCSテーブルが決定され、エントリ#2が選択された場合は、変調方式「QPSK」に対応する第2MCSテーブルが決定される。
【0062】
参照する第2MCSテーブルが決定された後に、適応制御部201は、第1MCSの更新タイミングにおいて得たCQI情報に基づき第2MCS値を選択する(手順703A)。
【0063】
一方、手順801において、第1MCS情報の更新タイミングでないと判定された場合は、第2MCS情報が更新されるタイミングであるか否かを判定する(手順802)。第2MCS情報の更新タイミングであるかは、割り当てられた各サブフレーム毎の送信タイミングが第2MCS情報の更新タイミングであるかによって判定してもよいし、また、サブフレームの番号が所定の条件を満たすかによって判定してもよい。
【0064】
その結果、第2MCS情報が更新されるタイミングであると判定された場合は、第2MCS情報の更新タイミングにおいて得たCQI情報を用いて、現在選択されている第2MCSテーブルのエントリから第2MCS値を選択する(手順703B)。
【0065】
本実施の形態では、あるCQI情報(伝播環境指標値)に対し、ある変調方式とある符号化率とを適切に組み合わせることができる。これによって、その時点で選択されている変調方式を補う符号化率を選択することできるため、変調方式の更新タイミングの周期を長くしても(更新頻度を減らしても)、適応変調の応答性の低下を最小限に抑えることができる。
【0066】
なお、電波伝播環境によっては、CQI値(伝播環境指標値)が著しく低下することも考えられる。よって、そのようなCQI値に対しては適応制御部が特定の変調方式しか選択できないように設定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施の形態の無線通信システムにおける基地局装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態の適応変調を行う場合のフィードバック制御を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態のMIMO−OFDMシステムにおける端末装置のベースバンド部復調ブロックの構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態のMLD方式による変調方式推定のためのIQコンスタレーションを示す説明図である。
【図5】本発明の実施の形態のMCS情報の更新タイミングについての説明図である。
【図6】本発明の実施の形態の変形例のMCS情報の更新タイミング及び送信タイミングについての説明図である。
【図7A】従来のMCSテーブルの構成を示す説明図である。
【図7B】本発明の実施の形態のMCSテーブルの構成を示す説明図である。
【図8】本発明の実施の形態の適応変調方式と符号化率を決定する処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0068】
100 アンテナ
110 無線処理部
111 フロントエンド部
112 無線部
113 無線IF部
120 ベースバンド部
121 復調ブロック
122 送信ブロック
130 ネットワークIF部
201 適応制御部
202 F−DCH変調部
203 F−CCH変調部
204 F−CCH復調部
205 入力メモリ
206 F−DCH復調部
207 伝播環境測定部
208 CQI作成部
209 R−CCH変調部
210 R−CCH復調部
301 FFT部
302 チャネル推定部
303 入力メモリ
304 CCH復調部
305 MIMO分離部
306 DCH復調部
401 QPSK変調時のレプリカ
402 64QAM変調時のレプリカ
403 受信点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データチャネルと、前記データチャネルに適用される制御情報を伝達する制御チャネルとを使用し、前記データチャネルの変調方法及び符号化率を、伝播環境に応じて変化させる適応変調を行い、MIMO多重伝送によって信号を送受信する無線通信装置を備える無線通信システムであって、
前記制御情報は、MIMOストリーム分離処理に使用される第1の制御情報と、MIMOストリーム分離処理に使用されない第2の制御情報とを含み、
前記無線通信装置は、前記第1の制御情報の選択肢が記載された第1の制御情報テーブルと、前記第2の制御情報の選択肢が記載された第2の制御情報テーブルとを備え、
前記第2の制御情報テーブルは、前記第1の制御情報テーブルで選択される第1の制御情報に対応して、前記第2の制御情報テーブルで選択可能な選択肢が変わるものであって、
前記無線通信装置は、
第1の制御情報テーブルを参照することによって、第1の制御情報の更新タイミングにおいて、前記第1の制御情報を決定し、
前記決定された第1の制御情報に基づいて、第2の制御情報の選択肢を決定し、
前記決定された第2の制御情報の選択肢の中から、第2の制御情報の更新タイミングにおいて、第2の制御情報を決定することを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記第1の制御情報は、前記データチャンネルに適用される変調方法の情報を含み、
前記第2の制御情報は、前記データチャンネルに適用される符号化率の情報を含むことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記第1の制御情報の更新タイミングの周期が、前記第2の制御情報の更新タイミングの周期より長いことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記無線通信装置は、
前記制御チャネルを復調する制御チャネル復調部と、
前記データチャネルのMIMOストリーム分離処理を行うMIMO分離部と、
前記MIMOストリーム分離後のデータチャネルを復調する複数のデータチャネル復調部と、を備え、
制御チャネル復調部は、前記第1の制御情報を前記MIMO分離部に送り、第2の制御情報を前記データチャネル復調部に送ることを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記無線通信装置は、
前記第1及び第2の制御情報を決定し、前記決定された第1及び第2の制御情報を通信相手方の無線通信装置に制御チャンネルで送信し、
前記決定された第1の制御情報の送信タイミングと、前記決定された第1の制御情報が適用されたデータチャネルが送信されるタイミングの差が、前記決定された第2の制御情報の送信タイミングと、前記決定された第2の制御情報が適用されたデータチャネルが送信されるタイミングの差より長いことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項6】
データチャネルと、前記データチャネルに適用される制御情報を伝達する制御チャネルとを使用し、前記データチャネルの変調方法及び符号化率を、伝播環境に応じて変化させる適応変調を行い、MIMO多重伝送によって信号を送受信する無線通信システムに備わる無線通信装置であって、
前記制御情報は、MIMOストリーム分離処理に使用される第1の制御情報と、MIMOストリーム分離処理に使用されない第2の制御情報とを含み、
前記無線通信装置は、前記第1の制御情報の選択肢が記載された第1の制御情報テーブルと、前記第2の制御情報の選択肢が記載された第2の制御情報テーブルとを備え、
前記第2の制御情報テーブルは、前記第1の制御情報テーブルで選択される第1の制御情報に対応して、前記第2の制御情報テーブルで選択可能な選択肢が変わるものであって、
前記無線通信装置は、
第1の制御情報テーブルを参照することによって、第1の制御情報の更新タイミングにおいて、前記第1の制御情報を決定し、
前記決定された第1の制御情報に基づいて、第2の制御情報の選択肢を決定し、
前記決定された第2の制御情報の選択肢の中から、第2の制御情報の更新タイミングにおいて、第2の制御情報を決定することを特徴とする無線通信装置。
【請求項7】
前記第1の制御情報は、前記データチャンネルに適用される変調方法の情報を含み、
前記第2の制御情報は、前記データチャンネルに適用される符号化率の情報を含むことを特徴とする請求項6に記載の無線通信装置。
【請求項8】
前記第1の制御情報の更新タイミングの周期が、前記第2の制御情報の更新タイミングの周期より長いことを特徴とする請求項6に記載の無線通信装置。
【請求項9】
前記制御チャネルを復調する制御チャネル復調部と、
前記データチャネルのMIMOストリーム分離処理を行うMIMO分離部と、
前記MIMOストリーム分離後のデータチャネルを復調する複数のデータチャネル復調部と、を備え、
制御チャネル復調部は、前記第1の制御情報を前記MIMO分離部に送り、第2の制御情報を前記データチャネル復調部に送ることを特徴とする請求項6に記載の無線通信装置。
【請求項10】
前記無線通信装置は、
前記第1及び第2の制御情報を決定し、前記決定された第1及び第2の制御情報を通信相手方の無線通信装置に制御チャンネルで送信し、
前記決定された第1の制御情報の送信タイミングと、前記決定された第1の制御情報が適用されたデータチャネルが送信されるタイミングの差が、前記決定された第2の制御情報の送信タイミングと、前記決定された第2の制御情報が適用されたデータチャネルが送信されるタイミングの差より長いことを特徴とする請求項6に記載の無線通信装置。
【請求項11】
データチャネルと、前記データチャネルに適用される制御情報を伝達する制御チャネルとを使用し、前記データチャネルの変調方法及び符号化率を、伝播環境に応じて変化させる適応変調を行い、MIMO多重伝送によって信号を送受信する無線通信装置を備える無線通信システムにおける通信方法であって、
前記制御情報は、MIMOストリーム分離処理に使用される第1の制御情報と、MIMOストリーム分離処理に使用されない第2の制御情報とを含み、
前記無線通信装置は、前記第1の制御情報の選択肢が記載された第1の制御情報テーブルと、前記第2の制御情報の選択肢が記載された第2の制御情報テーブルとを備え、
前記第2の制御情報テーブルは、前記第1の制御情報テーブルで選択される第1の制御情報に対応して、前記第2の制御情報テーブルで選択可能な選択肢が変わるものであって、
前記方法は、
第1の制御情報テーブルを参照することによって、第1の制御情報の更新タイミングにおいて、前記第1の制御情報を決定し、
前記決定された第1の制御情報に基づいて、第2の制御情報の選択肢を決定し、
前記決定された第2の制御情報の選択肢の中から、第2の制御情報の更新タイミングにおいて、第2の制御情報を決定することを特徴とする無線通信方法。
【請求項12】
前記第1の制御情報は、前記データチャンネルに適用される変調方法の情報を含み、
前記第2の制御情報は、前記データチャンネルに適用される符号化率の情報を含むことを特徴とする請求項11に記載の無線通信方法。
【請求項13】
前記第1の制御情報の更新タイミングの周期が、前記第2の制御情報の更新タイミングの周期より長いことを特徴とする請求項11に記載の無線通信方法。
【請求項14】
前記無線通信装置は、
前記第1及び第2の制御情報を決定し、前記決定された第1及び第2の制御情報を通信相手方の無線通信装置に制御チャンネルで送信し、
前記決定された第1の制御情報の送信タイミングと、前記決定された第1の制御情報が適用されたデータチャネルが送信されるタイミングの差が、前記決定された第2の制御情報の送信タイミングと、前記決定された第2の制御情報が適用されたデータチャネルが送信されるタイミングの差より長いことを特徴とする請求項11に記載の無線通信方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−35032(P2010−35032A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196873(P2008−196873)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000153465)株式会社日立コミュニケーションテクノロジー (770)
【Fターム(参考)】