説明

無線通信システム及び無線通信方法

【課題】座席単位などのごく限られたスペースだけで通信ネットワークに接続できるようにすることで、セキュリティの確保を図ると共に、旅客ごとに異なる多様なサービスを提供すること。
【解決手段】無線通信サービスを提供するサービス空間において、特定のサービス提供位置に配置された可搬端末に対して選択的に双方向の無線通信サービスを提供可能な無線通信システムを提案する。該システムにおいて、サービス提供位置と対応付けた認証情報を発行する認証情報発行手段10、認証情報を記憶する認証情報記憶手段13と、サービス提供位置に配置された可搬端末4と双方向の無線通信を行う無線通信アンテナ23・・と、可搬端末の配置位置と、可搬端末から送信された認証情報とを該認証情報記憶手段13で照合して、可搬端末4を認証する可搬端末認証手段20、認証された該可搬端末との間で接続を確立し、無線通信サービスを提供する無線通信手段21を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システムと、その通信方法に係り、特に特定のサービス提供位置に配置された可搬端末に対して選択的に双方向の無線通信サービスを提供可能なシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から航空機内において各客席の前方に小型の表示装置を設置し、旅客の操作によって映画等のコンテンツを表示させるコンテンツの配信システムが用いられている。例えば、特許文献1に開示される技術は、航空機内の乗客に、ビデオ、オーディオ、インターネット、航空機システム・データを提供する航空機データ管理システムを開示している。
本技術によれば、各座席群に隣接して、ネットワーク・インターフェース・カードを含む統合座席ボックスを配置する。ネットワーク・インターフェース・カードは、要求元の乗客を識別して、要求されたデータや電力を方向付ける、としている。
【0003】
また、航空機内で飛行中に旅客がインターネット接続を行えるようにしたシステムも知られている。例えば、非特許文献1に開示されている「Gogo Inflight Internet」サービスでは、米国内で飛行する複数の航空会社の航空機内で旅客が航空機に設置されたアクセスポイントに無線LANで接続し、インターネットを利用できるようにしている。航空機は地上に設けた多数のアンテナとハンドオーバしながら接続を維持する。
【0004】
非特許文献2に開示される「Connexion by Boeing(SM)」は、2001年に開始され、現在は中止されているサービスであり、国際線の航空機内においてもインターネットの利用を可能にしていた。本サービスでは、通信衛星が航空機と地上局との通信を中継し、大陸間であってもインターネット接続を利用できるようにしていた。
【0005】
この他に関連する特許文献として、特許文献2及び特許文献3を挙げる。特許文献2に開示される技術は、航空機内において、少ないアクセスポイント数、チャネル数で乗客用座席に配置された複数の無線通信端末装置へ高画質、高音質あるいは高速の情報データ配信サービスを提供することを目的としたものである。本開示では、航空機が電磁的に遮蔽された空間であることに着目し、いくつかの無線基地局と無線端末装置との間でマルチキャストによるデータを配信することを提案している。また、室内空間をいくつかに区切ってそれら複数の空間でデータサービスを提供することについても記載している。
【0006】
特許文献3に開示される技術は、航空機内などで旅客が使用するのに適したモバイル通信プラットホームを提供するものであって、旅客の各モバイル端末装置が異なる周波数チャネルを用いることができるシステムである。本技術では、航空機システムと電磁的に適合し、旅客及び乗組員への電磁波の照射量も基準に沿うことが特徴として挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2003−534959号公報
【特許文献2】特開2006−33564号公報
【特許文献3】米国特許第7171197号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】インターネットURL http://www.gogoinflight.com/ 2010年7月16日検索
【非特許文献2】インターネットURLhttp://www.boeing.com/companyoffices/financial/finreports/annual/02annualreport/bu_cbb.html 2010年7月16日検索
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記した従来の技術によれば、航空機等の移動体内で旅客に対してインターネット接続などのデータサービスを提供することができる。しかしながら、いずれの技術においても、航空機内全体や座席のクラス、ブロック単位で接続サービスを提供するものであって、多数の旅客が共通のアクセスポイントを用いることから、通信のセキュリティが十分に確保できない可能性があった。
【0010】
すなわち、無線LAN接続に必要なWEPなどの認証情報を旅客に個別に付与したとしても、同じアクセスポイントに接続可能な他の旅客がその認証情報を知ることができた場合、航空機側では識別できず、不正アクセスを防ぐことができない。
【0011】
本発明は、上記従来技術の有する問題点に鑑みて創出されたものであり、座席単位などのごく限られたスペースだけで通信ネットワークに接続できるようにすることで、セキュリティの確保を図ると共に、旅客ごとに異なる多様なサービスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、次のような無線通信システムを提供する。
すなわち本発明は、無線通信サービスを提供するサービス空間において、特定のサービス提供位置に配置された可搬端末に対して選択的に双方向の無線通信サービスを提供可能な無線通信システムであって、サービス提供位置と対応付けた認証情報を発行する認証情報発行手段と、認証情報を記憶する認証情報記憶手段と、サービス提供位置に配置された可搬端末と双方向の無線通信を行う無線通信アンテナと、可搬端末の配置位置と、該可搬端末から送信された認証情報とを該認証情報記憶手段で照合して、該可搬端末を認証する可搬端末認証手段と、認証された該可搬端末との間で接続を確立し、無線通信サービスを提供する無線通信手段とを備えたことを特徴とする。
【0013】
上記のサービス空間が、航空機、鉄道、車両、船舶等の旅客運輸手段の少なくとも客室内であって、上記の特定のサービス提供位置が、予め指定された単数又は複数の旅客占有領域である構成でもよい。旅客占有領域としては、座席の他、サービスを提供する特定のブースが含まれる。
【0014】
上記の無線通信システムにおいて、認証情報発行手段により発行された認証情報を、旅客占有領域の位置を記載したチケット上に表示又は記録する構成でもよい。チケット上に表示する態様としては、印刷により視認可能に表示する方法や、携帯電話等の端末上で画面表示する方法などが含まれる。チケット上に記録する構成には、チケットとして機能する磁気テープやICチップ、外部記憶メモリ等に、コンピュータ等で読み取り可能に記録する方法が含まれる。
【0015】
上記の無線通信アンテナを客室内の上方に備え、サービス提供位置の旅客占有領域に対してのみ電波が照射されるように、アンテナビーム幅を限定することもできる。
【0016】
上記の双方向の無線通信システムにおいて、60GHz帯、120GHz帯、190GHz帯、320GHz帯の少なくともいずれかの周波数帯域で通信を行う構成でもよい。
【0017】
上記の双方向の無線通信システムにおいて、上記無線通信手段が、サービス提供位置に応じて異なる通信方式を設定可能に構成することもできる。ここで、通信方式の一例としては、通信速度、通信品質、プロトコルなどを挙げることができる。
【0018】
本発明は、無線通信方法として提供することもできる。すなわち、無線通信サービスを提供するサービス空間において、特定のサービス提供位置に配置された可搬端末に対して選択的に双方向の無線通信サービスを提供可能な無線通信方法を提供する。
該無線通信方法において、次の各ステップを有する。
(S1) 認証情報発行手段が、サービス提供位置と対応付けた認証情報を発行する認証情報発行ステップ、
(S2) 可搬端末認証手段が、可搬端末の配置位置と、可搬端末から送信された認証情報とを認証情報記憶手段に格納された認証情報と照合して、可搬端末を認証する可搬端末認証ステップ、
(S3) 無線通信手段が、可搬端末と双方向の無線通信を行う無線通信アンテナを用い、認証された可搬端末との間で接続を確立し、無線通信サービスを提供する無線通信ステップ。
【0019】
以上のような構成において、上記のサービス空間が、航空機、鉄道、車両、船舶等の旅客運輸手段の少なくとも客室内であって、上記特定のサービス提供位置が、予め指定された単数又は複数の旅客占有領域とする。
【0020】
さらに、(S1)認証情報発行ステップで発行された認証情報を、旅客占有領域の位置を記載したチケット上に表示又は記録して当該旅客に配付する(S1−2)チケット配付ステップを有する。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、以上の構成を備えることにより、次の効果を奏する。
まず、認証情報発行手段が、サービス提供位置と関連づけた認証情報を発行することにより、ユーザはそのサービス提供位置に可搬端末を配置したときだけ無線通信接続が可能となる。認証情報の合致と、サービス提供位置に位置していることが共に満たされた条件でのみ接続できるので、たとえ認証情報を取得できても、当該座席等に位置しない者は通信が行えず、セキュリティの向上にも寄与する。
【0022】
本発明を航空機、鉄道、車両、船舶等の旅客運輸手段に用いることで、旅客運輸手段において旅客毎に無線通信サービスを提供することができる。座席等の旅客占有領域が確保された旅客運輸手段においては、走行中に旅客の占有領域が固定されるので、本システムにおけるサービスとよく整合する。
【0023】
認証情報をチケット上に表示又は記録することにより、旅客運輸手段における輸送サービスと共に、無線通信サービスを一体的に提供することができ、ユーザも認証情報の確認を行いやすい。
【0024】
旅客室内の上方に無線通信アンテナを設置することにより、旅客が座っている間にも座席付近に電波を照射することができる。
【0025】
本発明の無線通信システムで60GHz帯、120GHz帯、190GHz帯、320GHz帯を用いることで、周波数の有効利用が図られると共に、本発明の実施に好適な電波の減衰を示す。
【0026】
本発明の無線通信システムにおいて、サービス提供位置に応じて異なる通信方式のサービスを提供することにより、旅客ごとに異なる多様な無線通信サービスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る無線通信システムの全体図である。
【図2】本発明に係る無線通信方法のフローチャートである。
【図3】本発明に係る認証処理のフローチャートである。
【図4】航空機の座席配置と、航空機に配設するアンテナの配置を示す説明図である。
【図5】各座席における無線基地局のアンテナと座席との位置関係を示す図である。
【図6】各座席における無線基地局のアンテナと座席との位置関係を示す図である。
【図7】各座席における無線基地局のアンテナと座席との位置関係を示す図である。
【図8】旅客の座席への電波照射範囲を説明する図である。
【図9】アンテナビーム幅の説明図である。
【図10】底面積と頂角の関係を示すグラフである。
【図11】周波数による電波の大気吸収損失のシミュレーション結果である。
【図12】60GHz帯の電波スペクトラムである。
【図13】各周波数に対するアンテナ径の計算結果である。
【図14】本発明に係る無線通信システムを用いた無線通信サービスのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を、図面に示す実施例を基に説明する。なお、実施形態は下記に限定されるものではない。
本発明は、無線通信サービスを提供するサービス空間において、無線基地局が無線通信を行う可搬端末の指向性アンテナ半値角内に位置すると共に、可搬端末が無線基地局の指向性アンテナ半値角内に位置して、それぞれ対向して通信を行うものである。それぞれ指向性アンテナ半値角以内の単位毎にサービス空間が空間分割配置されている無線通信セルがサービス提供位置となる。
以下では、主に航空機に搭載される無線通信システムとして説明するが、本発明はいかなるサービス空間においても適用することができ、鉄道、車両、船舶等の旅客運輸手段の他、地上の部屋、施設内空間、宇宙ステーション内などにおいて用いることができる。
【0029】
図1は、本発明に係る無線通信システムの全体図である。本実施例では、大きく分けて空港等における地上システム(1)と、航空機内等に設置される機上システム(2)、インターネット接続等を提供する無線通信サービス(3)から構成される。
【0030】
地上システム(1)はコンピュータによって実現される認証情報発行処理部(10)を少なくとも含む。本発明は、既存の航空券の発券システム等に実装することが好適であり、その場合、公知のチケット発券処理部(11)を備える。チケット発券処理部(11)は、プリンタ(12)から搭乗便や座席の情報を記載した航空券を印刷して発券する。
【0031】
図2に示すように、本システムにおいて最初の処理としては、認証情報発行処理部(10)における認証情報発行ステップ(S10)であり、サービス提供位置と対応付けた認証情報を発行し、認証情報記憶部(13)に記憶する。
ここで、本発明の特徴として、可搬端末に対して無線通信サービスを提供する際に、無線通信サービスを享受できるサービス提供位置が限定され、その位置で無線通信サービスの利用を開始する際に上記認証情報を用いて接続を確立する。
【0032】
サービス提供位置とは、サービス空間内で無線通信サービスを提供する位置であり、特定の旅客によって占有される旅客占有領域、例えば座席や、機内の特定のブースなどが例に挙げられる。電波の照射される領域として説明すれば、無線基地局の指向性アンテナ半値角以内の範囲に該当する。
認証情報記憶部(13)に記憶される情報の一例を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
左欄から順に、搭乗便、旅客氏名、認証に必要なIDとパスワード、座席の位置の情報を含み、一番上の旅客の場合、搭乗便がJL001、氏名がTaro Yamada、IDが12345、パスワードがasdfg、座席が12Aとなる。氏名の情報は必ずしも必須ではなく、旅客を識別可能な識別符号でもよい。さらに、チケットの発券と関わらない場合には、単に認証情報と搭乗便及び座席番号とを対応付けた情報だけでもよい。
【0035】
次の可搬端末認証ステップ(S20)では、旅客(例えばYamada氏)が指定の座席に着座し、可搬端末(4)から機上システム(2)におけるコンピュータの可搬端末認証処理部(20)に認証処理を行う。後述するように、機上システム(2)には、サービス提供位置との間で双方向通信を行うための複数の通信アンテナ(23)(24)(25)・・を備えている。例えば、座席12Aに無線通信サービスを提供するアンテナとして通信アンテナ(24)が設けられている。
【0036】
図3に示すように、可搬端末認証処理部(20)では、可搬端末(4)からの認証要求(S21)を受信すると認証処理(S22)を開始する。本発明に係る認証処理としては、認証情報記憶部(13)を参照して可搬端末(4)の通信位置がサービス提供位置であるかどうかを確認する。
可搬端末認証処理部(20)では、表2に示すような座席と通信アンテナの対照表を参照して、通信に使用している通信アンテナから座席を照合する。
【0037】
【表2】

【0038】
通信中のアンテナant2(24)の場合、当該アンテナのサービス提供位置が座席12Aであることが分かるので、可搬端末認証処理部(20)では提供位置であることが判定(S23)される。
一方、例えば認証情報で無線通信サービスを提供しない座席23B、すなわち通信アンテナant3(25)からの認証要求の場合には、当該便では無線通信サービスの提供位置ではないので、拒否(No)し、認証を失敗(S26)とする。
【0039】
次に、可搬端末認証処理部(20)は、公知の認証方式に従ってIDとパスワードの照合を行う。この際にも認証情報記憶部(13)を参照して、可搬端末(4)で入力されたIDとパスワードが合致するか、さらにIDと座席が合致するか(S24)を確認する。
従来のシステムでは、IDとパスワードによる照合だけであったのに対して、本発明ではこのようにIDと座席についても照合するため、指定座席以外からの認証要求を認めることがない。これにより、IDとパスワードを利用したなりすまし等の不正アクセスを防止することができる。
【0040】
認証情報が合致(S24)すると、認証を完了(S25)し、無線通信ステップ(S30)に進む。
無線通信ステップ(S30)において、無線通信処理部(21)が通信を確立し、機上システム(2)と可搬端末(4)との間で無線通信サービスの提供が開始される。
本発明に係る無線通信サービスでは、従来の機内で提供されているマルチキャスト通信方式による音声や情報の配信サービスと同様の配信の他、双方向無線通信を活かしてインターネット接続等の外部ネットワークとの接続サービスを提供することもできる。
【0041】
一例として、機上システム(2)にインターネット中継処理部(22)と、衛星アンテナ(26)を備える構成を示す。衛星アンテナ(26)から人工衛星(27)を介し、地上の衛星通信アンテナ(30)、インターネット中継局(31)との間の接続を確立する。インターネット中継局(31)ではインターネット(32)との接続を中継するので機上においてインターネット接続が可能となる。
このような構成は公知であって、前記従来技術など任意の方法を用いることができる。
【0042】
次に、本発明における無線基地局のアンテナの設置方法について詳述する。
図4は、航空機の座席配置と、航空機に配設するアンテナの配置を示す説明図である。
図4(a)に示すように、航空機(5)はクラス別に多数の座席が配置されており、一般的に機首からファーストクラス(50)、ビジネスクラス(51)、エコノミークラス(52)の座席が配列する。
上位のクラスほど、座席が大きく、座席間の間隔が広いが、従来の技術ではクラス別に無線通信サービスを提供する技術はあっても、座席単位で無線通信サービスの提供を行うことはできなかった。
【0043】
本発明では、無線基地局のアンテナの電波の照射方向を絞ることで、エコノミークラス(52)の座席間隔であっても、相互に干渉することなく無線通信サービスを提供することができる。
図4(b)にはエコノミークラス(52)の後方座席の拡大図を示す。図示するように、座席46KにアンテナA1(53a)、座席48HにアンテナA2(53b)、座席49KにアンテナA3(53c)というように多数のアンテナを配置する。
【0044】
図示の例では、概ね24席に4〜5基のアンテナを設けており、搭乗客の20%程度が無線通信サービスを利用できる構成である。
なお、電波干渉や設備コストの観点からアンテナの配設率としては、座席数に対して5%ないし30%程度が好ましいが、例えば最前列の一部などごく限られた座席だけでもよいし、全座席に配設してもよい。
また、クラス別に配設率を変化して、ファーストクラスでは100%、ビジネスクラスでは50%、エコノミークラスでは20%、のようにしてもよい。この点、上位のクラスでは座席間隔が広くなることから配設率を高めても電波干渉が生じにくくなり、本構成は好適である。
【0045】
図5は、各座席における無線基地局のアンテナと座席との位置関係を示す図である。図に示すように、アンテナの配設位置として客室(60)の上方、例えば天井にアンテナ(61)を設けて電波の照射方向を下方の客席(62)に向ける方法と、客席(63)の直前の座席(64)の背面にアンテナ(65)を設置して、後方に電波を照射する方法のいずれかが好適である。
【0046】
本発明では、旅客占有領域に対してのみ電波が照射されるように、アンテナビーム幅を限定することを特徴とするので、アンテナと座席との距離が重要な意味をもつ。
このうち、アンテナを客室上方に配設する構成では、図6、表3に示すように航空機のサイズに応じてアンテナ(61)と可搬端末(4)との距離L(66)が大きく変動する。
【0047】
【表3】

【0048】
一方、アンテナを直前座席の背面に配設する構成では、図7、表4に示すように、直前座席との前後間隔J(67)、背もたれの高さE(68)によって、距離L(69)が変動する。
【0049】
【表4】

【0050】
さらに、座席に対して適切な電波の適切な照射面積を検討する。
図8に示すように、図7の各寸法から計算した、各座席の寸法は、座席の幅がB=46cm〜53cm、奥行きがD+J=78〜108cmとなる。この部分が旅客の占有領域である。
電波のビームは通常、図のように円形で照射されるので、これらの範囲が収まるように半径を設定すると、例えば、半径0.33mの場合、照射面積は0.35m2、半径0.42mの場合、照射面積は0.56m2となる。
【0051】
以上のような距離Lとアンテナビーム幅は図9のような関係で決定される。図中において、半径(距離)l(70)、半頂角α(71)(アンテナ半値角の半分)の直円錐(72)において、円錐の頂点に無線基地局のアンテナ(73)を設ける。
この定義に従って、各座席付近における直円錐の底面積を0.5m2とするには、lとアンテナビームの頂角との関係は表5のようになる。
【0052】
【表5】

【0053】
底面積を0.5m2は本発明の実施において最適な値と考えられるが、航空機や鉄道、バス等の座席の場合には概ね0.3ないし1m2になるように頂角を定めることが望ましい。
底面積と距離、頂角の関係をグラフにした結果を図10に示す。
このグラフから読むことができるように、天井にアンテナを設置する場合に照射面積を0.3〜0.6m2とするには、Lが最長の6mの場合で5.9度、(6.5mの場合に5.4度)、最短の2mの場合で25.1度である。従って、天井にアンテナを配置する場合のアンテナの頂角は、5度ないし26度程度が好ましい。
一方、直前座席にアンテナを設置する場合には、Lが最長の0.8mの場合44.6度〜63.4度である。最短の0.3mの場合には照射面積を0.3m2にするときでも124度となるのでビームを絞らずに用いることが望ましい。
【0054】
次に、本発明で用いる周波数帯について述べる。
本発明で用いる無線通信の周波数は、大気吸収損失と自由空間損失の大きな周波数帯を用いることを特徴とする。例えば、従来の無線LANで用いられる2.4GHz帯や5.2GHz帯では、図11に見られるように、大気吸収損失が相対的に大きくない。伝搬性に優れる点で、地上の家庭やオフィスで用いる意味では好適であった。
しかし、航空機等の旅客運輸手段においてはむしろ大気吸収損失の大きな周波数帯が好ましい。それは、飛行機や鉄道等では様々な無線機器を用いており、旅客の無線通信利用によって、それらに障害が起こることから、わずかに離れるだけで減衰する大気吸収損失の大きな周波数を用いることで干渉を排除できるからである。
【0055】
そこで、本発明では、60GHz帯、120GHz帯、190GHz帯、320GHz帯のいずれかを使用することを提案する。
図11には、周波数による電波の大気吸収損失のシミュレーション結果を示す。このグラフから、大気吸収損失が特に大きくなる周波数帯として60GHz帯(80)、120GHz帯(81)、190GHz帯(82)、320GHz(83)が挙げられる。
これらの周波数帯は大気吸収損失が大きいため、従来利用が進んでいなかったが、本発明では逆にこの特性を利用し、これらの周波数帯を有効活用することで広帯域な無線通信サービスを提供する。
【0056】
例えば、60GHz帯の周波数チャネルについて、図12及び表6に示す。ここでは帯域幅2.16GHzで4つの中心周波数をもつチャネルである。
【0057】
【表6】

【0058】
図12のスペクトラムに示されるように、60GHzにおいて中心周波数から上下1.10GHz離れると損失が-20dB、すなわち隣接チャネルとの干渉量が-17dB程度となるので、相互に干渉することなく通信を行うことができる。
さらに本発明において、全ての座席に通信アンテナを向ける場合には、セルラー方式におけるチャネルの割り当て方法など、公知の技術を用いて隣接するセルに離れた中心周波数のチャネルを割り当てることにより、良好な無線通信環境が実現できる。
この点においても、大気吸収損失の大きな周波数帯を用いる利点がある。
【0059】
次に、無線基地局におけるアンテナ径について説明する。
図13は電力半値幅が10度から70度の場合の、各周波数に対するアンテナ径の計算結果を示している。一例を示すと、電力半値幅を10度とする場合、50GHzのアンテナ径は4.2cm、60GHzならば3.5cm、70GHzならば3cmである。電力半値幅を70度とする場合、50GHzで0.6cm、60GHzで0.5cm、70GHzで0.42cmである。
このように、60GHz帯等の高い周波数を用いることで、アンテナ径を非常に小さくすることができ、機内に多数配置する点でも好適である。
【0060】
さらに、本発明を実施した場合のシミュレーション結果として、天井にアンテナを設置した場合の利得及び損失を表7に、直前座席背面に設けた場合を表8にそれぞれ示す。いずれも、無線基地局からの下り周波数を64.8GHz、可搬端末からの上り周波数を58.3GHzとした場合の計算結果である。
【0061】
【表7】

【0062】
【表8】

【0063】
航空機等の旅客運輸手段においては、長時間にわたって同一の座席に着座することから、上記電波による被爆の程度にも考慮を要する。この点、本件発明者によるシミュレーションによると、健康に影響を及ぼさない被曝量に収まることが確認されている。
また、本発明のように特定の座席に対して無線通信サービスを提供し、大気吸収損失の大きな周波数帯を用いることで、サービスの利用者以外には電磁波の影響も抑制され、医療機器などを装着している他の旅客に対しても安全性が確保される。
【0064】
最後に、本発明による空港サービスと機上サービスの統合に係る構成を説明する。図14は本実施例に係るフローチャートである。
空港のカウンターや鉄道の切符売り場など旅客運輸手段のチケット窓口において、認証情報の発行(S10)を行う。この際、発行された認証情報をチケット発券処理部(11)に渡し、プリンタ(12)でチケット印刷(S40)を行う。
【0065】
チケット上には、公知のように搭乗便や座席の番号等が印刷されるが、本発明ではこれに認証情報、すなわちIDやパスワードを印刷する。従来、これらの認証情報は秘匿すべきものであり、容易に見えないような工夫が要求されたが、本発明においては、サービス提供位置に可搬端末が物理的に存在することを必要とするため、認証情報は主に接続の管理などに特化して用いられる。そこで、チケット上に表示して、利用者に使いやすいサービスを提供することができる。
【0066】
さらに、チケット上に認証情報を記載しておくことで、空港や駅構内などの公衆無線LANエリアにおいて、該無線LANへのアクセス権限を与えることもできる。例えば、チケットを配付(S41)された利用者は、空港内サービスとして、空港内LANに可搬端末(4)で認証(S50)し、無線通信(S51)を行うことができる。
従来は、空港や駅の無線LANの使用には、別のIDやパスワードが必要であったが、乗客は出発前の待合室等でインターネット等の利用が開始でき、また航空会社や鉄道会社がこれらネットワーク接続に対して課金する場合にも一元的に課金処理を行うことができる。
空港内サービスにおいては、位置を問わず接続を可能にしてもよいし、例えばビジネスクラスラウンジの特定座席のみで利用できるようにしてもよい。
【0067】
空港内で利用した後は航空機内のサービスとして、上記同様可搬端末認証(S20)、無線通信(S30)を引き続き利用することができる。
【0068】
本発明によれば、航空機等の座席毎に異なる無線通信サービスを提供することができるので、例えば通信方式を座席によって変化させることもできる。通信方式の例としては、通信速度や、通信品質、プロトコルなどである。
通信速度については、座席毎に利用できる最大のスループットを変化させておき、チケットの予約クラスが上位の場合やオプション料金を支払った旅客には高速な通信ができるようにすることもできる。通信品質についても、QoSの良好な通信方式とそれよりも劣後する通信方式を座席毎に割り当てることもできる。
また、座席によってメールの送受信だけができる座席、ウェブブラウジングが可能な座席、VoIPが使える座席などをそれぞれ分けて提供することもできる。
【0069】
以上、本発明は主に航空機での利用を前提として説明を行ったが、上述した通り、実施場所は問わない。旅客運輸手段においては、不特定多数の者が、一定の時間、隣接して通信を行うことから、不正アクセスの防止を図る必要性が高い点を考慮すると、航空機、鉄道、バス等の車両、船舶等において実施することが好適であるが、イベント会場や映画館、博物館、美術館、学校の教室、オフィスなどにおける利用も好適である。
【符号の説明】
【0070】
1 地上システム
10 認証情報発行処理部
11 チケット発券処理部
12 プリンタ
13 認証情報記憶部
2 機上システム
20 可搬端末認証処理部
21 無線通信処理部
22 インターネット中継処理部
23 通信アンテナ
24 通信アンテナ
25 通信アンテナ
26 衛星アンテナ
27 通信衛星
3 インターネット無線通信サービス
30 衛星通信アンテナ
31 インターネット中継局
32 インターネット
4 可搬端末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信サービスを提供するサービス空間において、特定のサービス提供位置に配置された可搬端末に対して選択的に双方向の無線通信サービスを提供可能な無線通信システムであって、
該サービス提供位置と対応付けた認証情報を発行する認証情報発行手段と、
該認証情報を記憶する認証情報記憶手段と、
該サービス提供位置に配置された可搬端末と双方向の無線通信を行う無線通信アンテナと、
該可搬端末の配置位置と、該可搬端末から送信された認証情報とを該認証情報記憶手段で照合して、該可搬端末を認証する可搬端末認証手段と、
認証された該可搬端末との間で接続を確立し、無線通信サービスを提供する無線通信手段と
を備えたことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記サービス空間が、航空機、鉄道、車両、船舶等の旅客運輸手段の少なくとも客室内であって、前記特定のサービス提供位置が、予め指定された単数又は複数の旅客占有領域である
請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記無線通信システムにおいて、前記認証情報発行手段により発行された認証情報を、前記旅客占有領域の位置を記載したチケット上に表示又は記録した
請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記無線通信アンテナを前記客室内の上方に備え、サービス提供位置の前記旅客占有領域に対してのみ電波が照射されるように、アンテナビーム幅を限定する
請求項2又は3に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記双方向の無線通信システムにおいて、
60GHz帯、120GHz帯、190GHz帯、320GHz帯
の少なくともいずれかの周波数帯域で通信を行う
請求項1ないし4のいずれかに記載の無線通信システム。
【請求項6】
前記双方向の無線通信システムにおいて、
前記無線通信手段が、前記サービス提供位置に応じて異なる通信方式を設定可能に構成した
請求項1ないし5のいずれかに記載の無線通信システム。
【請求項7】
無線通信サービスを提供するサービス空間において、特定のサービス提供位置に配置された可搬端末に対して選択的に双方向の無線通信サービスを提供可能な無線通信方法であって、
認証情報発行手段が、該サービス提供位置と対応付けた認証情報を発行する認証情報発行ステップ、
可搬端末認証手段が、該可搬端末の配置位置と、該可搬端末から送信された認証情報とを認証情報記憶手段に格納された認証情報と照合して、該可搬端末を認証する可搬端末認証ステップ、
無線通信手段が、可搬端末と双方向の無線通信を行う無線通信アンテナを用い、認証された該可搬端末との間で接続を確立し、無線通信サービスを提供する無線通信ステップ
を有する構成において、
該サービス空間が、航空機、鉄道、車両、船舶等の旅客運輸手段の少なくとも客室内であって、該特定のサービス提供位置が、予め指定された単数又は複数の旅客占有領域であって、
該認証情報発行ステップで発行された認証情報を、該旅客占有領域の位置を記載したチケット上に表示又は記録して当該旅客に配付するチケット配付ステップを有する
ことを特徴とする無線通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−44375(P2012−44375A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182637(P2010−182637)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】