説明

無線通信方法、無線通信システムおよび中継装置

【課題】ポイント・トゥ・ポイント(P−P)方式の、上り信号と下り信号とを時分割して全2重通信を行う、TDD通信システムにおいて、周波数利用効率を向上させる。
【解決手段】通信区間に特定の周波数チャネルを割り当て、上り信号と下り信号を時分割複信により分離して多段中継する際、隣接する第1の通信区間と第2の通信区間は同じ周波数チャネルを使用し、第1の通信区間が上り信号を送信する時には、第2の通信区間は下り信号を送信し、第1の通信区間が下り信号を送信する時には、第2の通信区間は上り信号を送信するように第1の通信区間と第2の通信区間の信号送信タイミングを同期させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポイント・トゥ・ポイント(P−P)方式の、上り信号と下り信号とを時分割して全2重通信を行う、TDD(Time Division Duplex、時分割複信)通信システムにおける無線通信方法、無線通信システムおよび中継装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固定無線アクセスシステムにおいては、エントランス回線に光ファイバーを用いる方法があるが、柔軟なサービスエリア展開を可能にするためには無線によるエントランス回線を用いる方法が有効である(例えば、非特許文献1および非特許文献2)。無線によるエントランス回線では無線局間で1対1の通信を行うポイント・トゥ・ポイント方式を用いる。ポイント・トゥ・ポイント方式の無線アクセスシステムでは、上りと下りの信号を分離する必要がある。分離する方法についてはFDD(Frequency Division Duplex、周波数分割複信)およびTDD(Time Division Duplex、時分割複信)があるが、周波数利用効率の観点ではTDDが有効である。
【0003】
図1に無線エントランスを用いた固定無線アクセスシステムの例を示す。上位網と接続される収容局と、お客様宅に設置された加入者局をポイント・トゥ・マルチポイント(P−MP)方式により収容するシステムの間をP−P通信による複数の無線エントランスにより接続する。
【0004】
図2の(a)に無線アクセスシステムにおける周波数チャネル使用例を示す。システムに割り当てられた周波数帯域を、互いに干渉しない複数の周波数チャネルに分割して使用する。図2の(b)にP−P通信方式における無線フレーム構成例を示す。無線フレーム周期(T)間を時分割し、ヘッダとデータから構成される上りタイムスロット(TS)、下りタイムスロット(TS)を用いて上りおよび下りの信号を送受信する。また送受信間の遅延差等を吸収するためタイムスロット間にガードタイムを設ける。
【0005】
図3に従来の無線エントランスを用いた無線アクセスシステムの概念例を示す。上位網とP−MP区間は無線エントランス区間により接続され、無線エントランス区間はn組のエントランスを有線接続することにより構成される。各エントランス内では、TDD方式により上りと下りの信号を分割し、親局1と子局1から構成されるエントランス1では上り信号はTSu1、下り信号はTSd1を用いて送受信され、親局2と子局2から構成されるエントランス2では上り信号はTSu2、下り信号はTSd2を用いて送受信され、以下同様に親局nと子局nから構成されるエントランスnでは上り信号はTSun、下り信号はTSdnを用いて送受信される。
【0006】
【非特許文献1】ワイヤレスIPアクセスシステムの試作機の設計と構成(NTT R&D Vol.51 No.11 2002)
【非特許文献2】ワイヤレスIPアクセスシステムにおけるサービスエリア拡張技術の開発(NTT技術ジャーナル 2005.6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、上り信号は、上りタイムスロットTSu1からTSun、下り信号は下りタイムスロットTSd1からTSdnを用いてそれぞれ送受信されるが、同じ周波数チャネルを用いた場合、各タイムスロットにおける信号は他のタイムスロットの信号へ干渉するため、各エントランスは互いに干渉しない別々の周波数チャネルを用いて通信を行う必要がある。そのため従来の方式により、複数のエントランスを用いたエントランス区間を構成する場合、多くの周波数チャネルを使用してしまうため、周波数利用効率が低下してしまう。無線通信においては、限られた周波数資源を有効に利用することが重要であるため、周波数利用効率向上は非常に大きな課題である。
【0008】
なお、エントランス区間において、非常に指向性の強いアンテナを使用し、エントランス間で互いに他のエントランスからのビームが届かないように各無線局を配置することにより周波数利用効率を向上させる方法では、実際にそのような無線局配置が可能になるか否かは伝搬状況によるため、適用可能な環境が限定される可能性が高い。
【0009】
従って、本発明は、ポイント・トゥ・ポイント(P−P)方式の、上り信号と下り信号とを時分割して全2重通信を行う、TDD(Time Division Duplex、時分割複信)通信システムにおいて、周波数利用効率を向上させる無線通信方法、無線通信システムおよび中継装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、割り当てられた周波数帯域を複数の周波数チャネルに分割して使用し、ポイント・トゥ・ポイント方式による通信区間を複数直列に接続して多段中継し、各通信区間に特定の周波数チャネルを割り当て、各通信区間内で対向する無線局間では、上り信号と下り信号を時分割複信により分離する、固定無線アクセスシステムにおける無線通信方法であって、隣接する第1の通信区間と第2の通信区間は同じ周波数チャネルを使用し、前記第1の通信区間が上り信号を送信する時には、前記第2の通信区間は下り信号を送信し、前記第1の通信区間が下り信号を送信する時には、前記第2の通信区間は上り信号を送信するように前記第1の通信区間と前記第2の通信区間の信号送信タイミングを同期させる無線通信方法が提供される。
【0011】
また、前記信号送信タイミングの同期は、中継区間内の無線局間で互いのクロックを同期させることにより行うことも好ましい。
【0012】
また、前記中継区間内の無線局間に、主信号とは別の、または重畳した、有線通信経路を設け、該有線通信経路で同期信号を送信することにより前記クロックの同期を行うことも好ましい。
【0013】
また、上記の無線通信方法により多段中継した区間をポイント・トゥ・マルチポイント方式の固定無線アクセスシステムへのエントランス回線として用いることも好ましい。
【0014】
本発明によれば、割り当てられた周波数帯域を複数の周波数チャネルに分割して使用し、ポイント・トゥ・ポイント方式による通信区間を複数直列に接続して多段中継し、各通信区間に特定の周波数チャネルを割り当て、各通信区間内で対向する無線局間では、上り信号と下り信号を時分割複信により分離する、固定無線アクセスシステムにおける中継装置であって、前記中継装置は、隣接する第1の通信区間と第2の通信区間を無線通信で中継する子局と親局とを備え、該子局と該親局は、同じ周波数チャネルを使用して無線通信を行うRF部と、前記第1の通信区間が上り信号を送信する時には、前記第2の通信区間は下り信号を送信し、前記第1の通信区間が下り信号を送信する時には、前記第2の通信区間は上り信号を送信するように前記第1の通信区間と前記第2の通信区間の信号送信タイミングを同期させるためのタイミング制御情報を生成する同期制御部と、前記タイミング制御情報に基づいて信号送信を制御する信号処理部とを備えている中継装置が提供される。
【0015】
本発明によれば、割り当てられた周波数帯域を複数の周波数チャネルに分割して使用し、ポイント・トゥ・ポイント方式による通信区間を複数直列に接続して多段中継し、各通信区間に特定の周波数チャネルを割り当て、各通信区間内で対向する無線局間では、上り信号と下り信号を時分割複信により分離する、固定無線アクセスシステムであって、前記固定無線アクセスシステムは、隣接する第1の通信区間と第2の通信区間を無線通信で中継する子局と親局とを備える中継装置を有し、該子局と該親局は、同じ周波数チャネルを使用して無線通信を行うRF部と、前記第1の通信区間が上り信号を送信する時には、前記第2の通信区間は下り信号を送信し、前記第1の通信区間が下り信号を送信する時には、前記第2の通信区間は上り信号を送信するように前記第1の通信区間と前記第2の通信区間の信号送信タイミングを同期させるためのタイミング制御情報を生成する同期制御部と、前記タイミング制御情報に基づいて信号送信を制御する信号処理部とを備えている固定無線アクセスシステムが提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ポイント・トゥ・ポイント(P−P)方式の、上り信号と下り信号とを時分割して全2重通信を行う、TDD(Time Division Duplex、時分割複信)通信システムにおいて、周波数利用効率を向上させることが可能になるため、限られた周波数資源の中で、固定無線アクセスシステムのサービス提供可能なエリアを拡大できる、あるいはシステムの総スループットを向上できる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図4に本発明の実施形態における概念図を示す。
【0018】
親局1〜子局1間と親局2〜子局2間は無線により通信を行い、同じ周波数チャネルch1を使用する。子局1〜親局2間は有線接続する。親局1〜子局1間がタイムスロットTSu1を割り当て上り信号を送信している時間帯では、親局2〜子局2間はタイムスロットTSd2を割り当て下り信号を送信し、親局1〜子局1間がタイムスロットTSd1を割り当て下り信号を送信している時間帯では、親局2〜子局2間はタイムスロットTSu2を割り当て上り信号を送信する。それぞれの無線局が十分に指向性の強いアンテナを使用している場合、TSu1とTSd2、およびTSd1とTSu2はそれぞれ互いに干渉せずに通信可能である。
【0019】
図5に本発明の実施形態におけるタイムスロット割り当て例を示す。
【0020】
親局1〜子局1間と親局2〜子局2間の無線フレームは同期しているので、TSu1とTSd2、TSd1とTSu2もタイミングが同期している。タイミングを同期させるには、例えば、子局1〜親局2間に同期通信させるための、主信号とは別の、または重畳した、有線通信経路を設けて互いのクロックを同期させればよい。
【0021】
互いのタイミングが同期されていれば、親局1〜子局1間と親局2〜子局2間において上りの信号同士、あるいは下りの信号同士が同時に送信されることはないため、隣接する2つの無線通信区間で、互いに干渉せずに同一周波数チャネルを用いての通信が可能となる。また、エントランス無線通信区間が3区間以上ある場合においては、互いに重複しない任意の2つの無線通信区間毎に同じ周波数チャネルを使用可能であるので、無線通信区間の総数Nが偶数である場合は使用する周波数チャネルは、N/2チャネルにすることが可能であり、無線通信区間の総数Nが奇数である場合は使用する周波数チャネルは、(N−1)/2チャネルにすることが可能である。従って、従来の方法より最大で2倍の周波数利用効率向上が可能となる。上りと下りのタイムスロット長はそれぞれ無線フレーム周期の長さからガードタイムを除いた長さの半分を超えることはできないため、上りと下りのデータ量が等しい対称な通信の場合に周波数利用効率向上効果が最大となる。
【0022】
図6に本発明の実施形態における中継装置の装置構成図を示す。本実施形態の中継装置は、子局1と親局2で構成され、子局1と親局2間は有線接続されている。
【0023】
子局1および親局2は、通常の無線局と同様に無線フレームを送受信するためのRF部1、送信するフレームを変調する送信部2、および受信したフレームを復調する受信部3を有しており、さらに送受信する無線フレームを処理し送受信のタイミングを制御する信号処理部4も有している。また、親局1〜子局1間と親局2〜子局2間の無線フレームを同期するために、同期制御部5を有している。さらに本実施形態では、同期信号が主信号と重畳して送信されるため、主信号と同期信号を分離するための分離部6も有している。なお、主信号と同期信号を別の通信回路を設けて送信する場合、中継装置はこの分離部6を有する必要はない。
【0024】
子局1と親局2のRF部1は、それぞれ同じ無線チャネルを使用して対向する無線局である親局1と子局2と無線通信する。無線フレームの同期を行うため、子局1と親局2は、同期制御部5により、どちらかがマスター局、もう一方がスレーブ局となる。マスター局になった方の同期制御部5は同期信号を生成し、主信号に重畳してスレーブ局の同期制御部5に同期信号を送信する。その後、同期制御部5はこの同期信号から、隣接区間と同期した互いに干渉しないタイミングで送受信を行うようにタイミング制御情報を作成する。信号処理部4はこのタイミング制御情報基づいて、信号送信を制御する。なお、親局1〜子局1間と親局2〜子局2間の信号送信タイミングは、一般的なTDD制御方法を用いる。
【0025】
また、上位網と接続される収容局と、加入者局をP−MP方式により収容するシステムとの間をP−P通信による複数の無線エントランスにより接続する場合、図6のように、P−P通信による複数の無線エントランスに上記の無線通信方法を用いる無線通信方法も考えられる。
【0026】
また、以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】無線エントランスを用いた固定無線アクセスシステムの例を示す。
【図2】(a)無線アクセスシステムにおける周波数チャネル使用例、および(b)P−P通信方式における無線フレーム構成例を示す。
【図3】従来の無線エントランスを用いた無線アクセスシステムの概念例を示す。
【図4】本発明の実施形態における概念図を示す。
【図5】本発明の実施形態におけるタイムスロット割り当て例を示す。
【図6】本発明の実施形態における中継装置の装置構成図を示す。
【符号の説明】
【0028】
1 RF部
2 送信部
3 受信部
4 信号処理部
5 同期制御部
6 分離部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
割り当てられた周波数帯域を複数の周波数チャネルに分割して使用し、ポイント・トゥ・ポイント方式による通信区間を複数直列に接続して多段中継し、各通信区間に特定の周波数チャネルを割り当て、各通信区間内で対向する無線局間では、上り信号と下り信号を時分割複信により分離する、固定無線アクセスシステムにおける無線通信方法であって、
隣接する第1の通信区間と第2の通信区間は同じ周波数チャネルを使用し、
前記第1の通信区間が上り信号を送信する時には、前記第2の通信区間は下り信号を送信し、前記第1の通信区間が下り信号を送信する時には、前記第2の通信区間は上り信号を送信するように前記第1の通信区間と前記第2の通信区間の信号送信タイミングを同期させることを特徴とする無線通信方法。
【請求項2】
前記信号送信タイミングの同期は、中継区間内の無線局間で互いのクロックを同期させることにより行うを特徴とする請求項1に記載の無線通信方法。
【請求項3】
前記中継区間内の無線局間に、主信号とは別の、または重畳した、有線通信経路を設け、該有線通信経路で同期信号を送信することにより前記クロックの同期を行うことを特徴とする請求項2に記載の無線通信方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の無線通信方法により多段中継した区間をポイント・トゥ・マルチポイント方式の固定無線アクセスシステムへのエントランス回線として用いることを特徴とする無線通信方法。
【請求項5】
割り当てられた周波数帯域を複数の周波数チャネルに分割して使用し、ポイント・トゥ・ポイント方式による通信区間を複数直列に接続して多段中継し、各通信区間に特定の周波数チャネルを割り当て、各通信区間内で対向する無線局間では、上り信号と下り信号を時分割複信により分離する、固定無線アクセスシステムにおける中継装置であって、
前記中継装置は、隣接する第1の通信区間と第2の通信区間を無線通信で中継する子局と親局とを備え、該子局と該親局は、
同じ周波数チャネルを使用して無線通信を行うRF部と、
前記第1の通信区間が上り信号を送信する時には、前記第2の通信区間は下り信号を送信し、前記第1の通信区間が下り信号を送信する時には、前記第2の通信区間は上り信号を送信するように前記第1の通信区間と前記第2の通信区間の信号送信タイミングを同期させるためのタイミング制御情報を生成する同期制御部と、
前記タイミング制御情報に基づいて信号送信を制御する信号処理部と
を備えていることを特徴とする中継装置。
【請求項6】
割り当てられた周波数帯域を複数の周波数チャネルに分割して使用し、ポイント・トゥ・ポイント方式による通信区間を複数直列に接続して多段中継し、各通信区間に特定の周波数チャネルを割り当て、各通信区間内で対向する無線局間では、上り信号と下り信号を時分割複信により分離する、固定無線アクセスシステムであって、
前記固定無線アクセスシステムは、隣接する第1の通信区間と第2の通信区間を無線通信で中継する子局と親局とを備える中継装置を有し、該子局と該親局は、
同じ周波数チャネルを使用して無線通信を行うRF部と、
前記第1の通信区間が上り信号を送信する時には、前記第2の通信区間は下り信号を送信し、前記第1の通信区間が下り信号を送信する時には、前記第2の通信区間は上り信号を送信するように前記第1の通信区間と前記第2の通信区間の信号送信タイミングを同期させるためのタイミング制御情報を生成する同期制御部と、
前記タイミング制御情報に基づいて信号送信を制御する信号処理部と
を備えていることを特徴とする固定無線アクセスシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−135620(P2009−135620A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−308146(P2007−308146)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】