説明

無線通信装置

【課題】 一定の区間を走行する移動体に搭載された移動局2はビット誤り数や受信電界強度の測定結果に基づいて送信部28の送信電力を送信電力制御部27が制御しており、ビット誤り数や受信電界強度が変化した後に送信電力が制御されるもので、変化に対する事前の制御ができなかった。
【解決手段】 一定の区間を走行したときのビット誤り数や受信電界強度の状況を位置情報とともに既知データ記憶装置200に記憶させておき、この既知データに基づいて送信電力制御部が送信部の送信電力を制御することで、列車が走行している現在位置の伝送品質環境に適合した送信電力で無線通信することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道上を走行する列車のように一定の区間を移動する移動体に搭載された移動局等の無線通信装置に関し、特に無線通信装置の送信電力を制御するものに関する。
【背景技術】
【0002】
列車無線システムでは、列車に搭載した移動局と基地局又は中継局との間の通信評価を行うために、列車が走行区間を走行している状態で受信電界強度情報、位置情報、ビット誤り情報、移動速度等のデータを取得している。一方で、取得した受信電界強度情報やビット誤り情報をリアルタイムで送信部に送信し、送信電力を制御するようにしている。
【0003】
図5は従来の列車無線システムの一例を示した構成図であり、1は基地局、10aは基地局1の送信用アンテナ、10bは受信用アンテナ、11はこの受信用アンテナ10bが受信する移動局2からの送信データを入力し、復号化処理を行う受信部、12はこの受信部11が受信したデータをビット誤り訂正した数を取得する誤り数取得部、13は上記受信部11が受信したデータに含まれる信号からデータ送信した移動局を特定する移動局特定部、14はこの移動局特定部13及び誤り数取得部12から得られるデータを記憶するデータ記憶装置、15は移動局2へ送信するデータを符号化処理する送信部である。
【0004】
また、20aは移動局2の送信用アンテナ、20bは受信用アンテナ、21はこの受信アンテナ20bが受信する基地局1からの送信データを入力し、復号化処理を行う受信部、22はこの受信部21が受信したデータをビット誤り訂正した数を取得する誤り数取得部、23は上記受信部21が受信している受信電界強度情報を取得する電界情報取得部、24は移動局2を搭載する列車の速度情報を取得する速度情報取得部、25はGPSなどにより列車の位置情報を取得する位置情報取得部、26はこの位置情報取得部25、速度情報取得部24、誤り数取得部22、電界情報取得部23から得られるデータを記憶するデータ記憶装置、27は上記電界情報取得部23の取得する受信電界強度データに応じて送信部28の送信電力を制御する送信電力制御部、28は基地局1へ送信するデータを符号化処理する送信部である。
【0005】
即ち、移動局2から基地局1へ送信する音声データあるいは制御データは送信部28で送信するための符号化処理が施され、送信用アンテナ20aを介して基地局1へ送信される。移動局2が送信したデータは基地局1の受信用アンテナ10bで受信され、受信部11へ入力される。受信部11は受信したデータを復号化処理し、各部へ受信データを供給する。
【0006】
誤り数取得部12は上記受信部11が受信したデータをビット誤り訂正した数を受信部11から取得してデータ記憶装置14へ供給し、移動局特定部13は受信部11が受信したデータに含まれる移動局を特定するデータをデータ記憶装置14へ供給する。したがって、データ記憶装置14にはデータを受信した移動局2ごとにビット誤り数が記憶されることになり、移動局2及び基地局1間の通信状況を評価するデータとして用いることができる。
【0007】
一方、基地局1から移動局2へ送信する音声データあるいは制御データは送信部15で送信するための符号化処理が施され、送信用アンテナ10aを介して基地局2へ送信される。基地局1が送信したデータは移動局2の受信用アンテナ20bで受信され、受信部21へ入力される。受信部21は受信したデータを復号化処理し、各部へ受信データを供給する。
【0008】
誤り数取得部22は受信部21のビット誤り訂正数を取得してデータ記憶装置26へ供給し、電界情報取得部23は受信部21が受信するデータの受信電界強度情報を受信部21から取得してデータ記憶装置26へ供給する。データ記憶装置26は速度情報取得部24から列車の速度情報を、位置情報取得部25から現在位置情報を入力しており、それぞれの位置におけるビット誤り数、受信電界強度情報、速度情報を記憶する。したがって、データ記憶装置26に記憶したデータにより基地局1及び移動局2間の通信状況を評価するデータとして用いることができる。
【0009】
一方、送信部28の送信電力は送信電力制御部27の制御によって調整されており、図5の例では電界情報取得部23が取得している現在の受信電界強度情報に基づいて、受信電界強度が低ければ、送信電力を大きくするように送信部28を制御し、逆に受信電界強度が高くなれば、送信電力を小さくするように制御する。
【0010】
なお、移動局2の送信部28の送信電力を現在の受信データの受信電界強度情報等の伝送品質を用いてリアルタイムに制御している従来技術としては、例えば、特許文献1に記載されたものがある。
【0011】
【特許文献1】特開2004−90859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の無線通信装置における送信電力制御は、列車の走行中に取得した受信電界強度情報やビット誤り訂正数をリアルタイムに送信部へ反映し制御するものであるが、現実には受信電界強度情報やビット誤り訂正数が変動した後に送信電力が制御されるものであり、一定の区間を走行しているにも拘わらず、伝送品質の変動に事前に対処した送信電力制御ができない問題点があった。
【0013】
本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、伝送品質の変動に事前に対処した送信電力制御を行うことができる無線通信装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る無線通信装置は、一定の区間を走行する移動体に搭載され、基地局又は中継局と無線通信する移動局、上記一定の区間内を走行したときの伝送品質を位置情報とともに予め記憶したデータ記憶装置、上記データ記憶装置に記憶された伝送品質を上記移動体の走行する位置情報に基づいて読み出し、該伝送品質に基づいて上記移動局が無線通信する送信電力を制御する送信電力制御装置から構成したものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、一定の区間内を走行したときの伝送品質を位置情報とともに予め記憶しており、移動体の走行する位置情報に基づいて読み出した伝送品質に基づいて送信電力を制御するように構成したので、伝送品質の変動に事前に対処した送信電力制御を行うことができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。図1は本発明を概念的に示した概念図であり、1は移動局2と無線通信する基地局又は中継器であり、ここでは、基地局1とする。2は一定の区間を走行する列車に搭載された移動局、20は移動局2に設けられた送受信兼用のアンテナである。21は受信部、24は速度情報取得部、25は位置情報取得部、26はデータ記憶部、27は送信電力制御部、28は送信部である。本発明は、従来と同様に基地局1及び移動局2間で無線通信中に移動局2のデータ記憶装置26に位置情報、速度情報、ビット誤り数、受信電界強度情報を記憶させる。そして、予めデータ記憶装置26に記憶された一定の区間内の伝送品質、例えば受信電界強度情報に基づいて送信電力制御部27を制御し、送信部28の送信電力を制御するようにしたものである。
実施の形態1.
図2は本発明の実施の形態1に係る無線通信装置を示した構成図であり、図5に示した符号と同一符号は、同一又は相当部分を示す。図2において、200は既知データ記憶装置であり、列車が同一の区間を走行中に受信電界強度情報、ビット誤り数等の伝送品質データを位置情報とともに予め記憶させたものである。既知データ記憶装置200に記憶したデータは列車が同一の区間を走行するごとに取得したデータを用いて適宜補正することで各地点での伝送品質データの精度を確保している。201はデータ比較制御部であり、既知データ記憶装置200及びデータ記憶装置26から現在位置の伝送品質データを取得し、比較制御することで制御すべき送信部28の送信電力を導出し、送信電力制御部27へ供給するものである。
【0017】
以下、送信部28の送信電力を制御する動作及び既知データ記憶装置200に記憶した伝送品質データの更新動作について説明する。
【0018】
データ記憶装置26には、誤り数取得部22及び電界情報取得部23から列車が走行している現在位置でのビット誤り数及び受信電界強度データが入力されており、速度情報取得部24、位置情報取得部25が取得した速度及び位置情報とともに記憶すると同時に、データ比較制御部201へビット誤り数、受信電界強度データの一方若しくは双方のデータを入力する。また、既知データ記憶装置200も列車が走行している現在位置でのビット誤り数、受信電界強度データの一方若しくは双方のデータをデータ比較制御部201へ入力する。ここでは、説明を簡単にするため、データ記憶装置26及び既知データ記憶装置200は伝送品質情報として受信電界強度データをデータ比較制御部201へ入力しているものとする。
【0019】
データ記憶装置26及び既知データ記憶装置200から受信電界強度データを入力したデータ比較制御部201は、両者の平均値又はそれぞれのデータに重み付けを付加して加算したデータを送信電力制御部27へ出力する。送信電力制御部27は入力した受信電界強度データに応じて送信部28の送信電力を制御することで、列車が走行している現在位置の伝送品質環境に適合した送信電力で無線通信することができる。
【0020】
また、データ記憶装置26は誤り数取得部22及び電界情報取得部23からビット誤り数及び受信電界強度データを入力すると既知データ記憶装置200へ供給する。既知データ記憶装置200はデータ記憶装置26から入力したデータに重み付けを付加し、既に記憶しているビット誤り数及び受信電界強度データを補正する。
実施の形態2.
図3は本発明の実施の形態2に係る無線通信装置を示した構成図であり、図2に示した符号と同一符号は、同一又は相当部分を示す。図3において、202はデータ記憶制御部であり、基地局1のデータ記憶装置14が記憶している現時点のビット誤り数を基地局1の送信部15、移動局2の受信部21を介して入力する。
【0021】
以下、送信部28の送信電力を制御する動作及び既知データ記憶装置200に記憶した伝送品質データの更新動作について説明する。
【0022】
データ記憶制御部202が入力する基地局1側のビット誤り数はデータ記憶装置26へ供給され、該データ記憶装置26は誤り数取得部22及び電界情報取得部23から入力したデータとともにデータ比較制御部201へ供給される。データ比較制御部201は既知データ記憶装置200から入力する伝送品質情報、データ記憶装置26から入力する基地局1側の伝送品質情報及び誤り数取得部22及び電界情報取得部23が取得した伝送品質情報の3種類の伝送品質情報を入力し、これらの平均値、最低の値、あるいは重み付けを付加して加算した値等を送信電力制御部27へ出力する。送信電力制御部27は入力した受信電界強度情報等の伝送品質情報に応じて送信部28の送信電力を制御することで、列車が走行している現在位置の伝送品質環境に適合した送信電力で無線通信する。
【0023】
次に、データ記憶制御部202は基地局1から受信したビット誤り数とともに、既知データ記憶装置から入力するビット誤り数及び受信電界強度データ、誤り数取得部22及び電界情報取得部23から入力するビット誤り数及び受信電界強度データを位置情報とともに記憶することができ、このデータ記憶制御部202の記憶内容を確認することで無線通信状況の評価をすることができる。また、データ記憶装置26は誤り数取得部22及び電界情報取得部23から入力するビット誤り数及び受信電界強度データとともに基地局1から受信したビット誤り数を既知データ記憶装置200へ供給することにより、該既知データ記憶装置200は基地局1側のビット誤り数を用いて既知データを補正することができ、一定の区間における通信環境に適合した既知データを記憶更新させることができる。なお、この実施の形態2では基地局1からビット誤り数のみを移動局2へ送信するものとしているが、受信電界強度情報等、他の伝送品質情報を送信し、送信電力制御及び既知データ記憶装置のデータ更新に使用するものとしても良い。
【0024】
さて、データ記憶制御部202、データ記憶装置26、既知データ記憶装置200は所定周期でサンプリングした伝送品質データを記憶するが、データ品質を向上するためにはサンプリング間隔を短くしなければならない。しかし、サンプリング間隔を短くするとデータ量が膨大になり記憶容量の大きな記憶装置を必要とする。
【0025】
図4はデータ記憶制御部202、データ記憶装置26、既知データ記憶装置200が伝送品質データを記憶するサンプリング間隔を示したものである。この例ではビット誤り数を一例としてあげているが、図示しているようにビット誤り数が少ない区間ではサンプリング間隔を大きくしてサンプル数を少なくすることで記憶容量を節約し、ビット誤り数が多い区間ではサンプリング間隔を小さくしてサンプル数を多くすることでデータの精度を向上させるようにしている。したがって、データ記憶装置の記憶容量を大きくしないでデータの精度を向上することができる。
【0026】
なお、図4の例ではビット誤り数を例に説明しているが、受信電界強度が高いときにはサンプリング間隔を大きくし、受信電界強度が低いときにはサンプリング間隔を小さくするようにしても良い。また、ビット誤り数や受信電界強度が安定しているときにはサンプリング間隔を大きくし、変動が大きいときにはサンプリング間隔を小さくするようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、一定の区間を走行する列車に搭載される列車無線の送信電力制御に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の無線通信装置を概念的に示した概念図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る無線通信装置を示した構成図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る無線通信装置を示した構成図である。
【図4】本発明における伝送品質データを記憶するサンプリング間隔の一例を示した図である。
【図5】従来の無線通信装置を示した構成図である。
【符号の説明】
【0029】
1 基地局 2 移動局 21 受信部 22 誤り数取得部 23 電界情報取得部 24 速度情報取得部 25 位置情報取得部 26 データ記憶部 27 送信電力制御部 28 送信部 200 既知データ記憶装置 201 データ比較制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の区間を走行する移動体に搭載され、基地局又は中継局と無線通信する移動局、上記一定の区間内を走行したときの伝送品質を位置情報とともに予め記憶したデータ記憶装置、上記データ記憶装置に記憶された伝送品質を上記移動体の走行する位置情報に基づいて読み出し、該伝送品質に基づいて上記移動局が無線通信する送信電力を制御する送信電力制御装置を備えたことを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
一定の区間を走行する移動体に搭載され、基地局又は中継局と無線通信する移動局、上記一定の区間内を走行したときの伝送品質を位置情報とともに予め記憶したデータ記憶装置、上記一定区間を走行中に上記移動局が受信するデータの伝送品質を計測する伝送品質計測部、上記データ記憶装置に記憶された伝送品質を上記移動体の走行する位置情報に基づいて読み出し、該読み出した伝送品質及び上記伝送品質計測部の計測した伝送品質に基づいて上記移動局が無線通信する送信電力を制御する送信電力制御装置を備えたことを特徴とする無線通信装置。
【請求項3】
伝送品質計測部の計測した伝送品質によって、データ記憶装置に記憶している伝送品質を補正することを特徴とする請求項2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
データ記憶装置に記憶する伝送品質及び位置情報は伝送品質が急変する区域ではサンプリング間隔を短くし、伝送品質が安定している区域ではサンプリング間隔を長くしていることを特徴とする請求項1又は2に記載の無線通信装置。
【請求項5】
データ記憶装置に記憶する伝送品質及び位置情報は伝送品質が悪い区域ではサンプリング間隔を短くし、伝送品質が良好な区域ではサンプリング間隔を長くしていることを特徴とする請求項1又は2に記載の無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−154234(P2010−154234A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330327(P2008−330327)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】