説明

無線LANシステム

【課題】特定のエリア内に置かれた電子端末装置に暗号鍵データを送信し、電子端末装置と伝送制御装置の間で暗号化された通信データを電波によって送受信する無線LANシステムであって容易にシステムの構築できるものを提供する。
【解決手段】この無線LANシステム1は、特定のエリアARを照明する照明装置2と、エリアAR内に置かれた電子端末装置ETとの間で電波によって通信データCDの送受信を行う伝送制御装置3と、を備え、伝送制御装置3は、暗号鍵データKDを生成し、照明装置2の少なくとも1つに向けて暗号鍵データKDに対応する光信号を放射し、通信データCDを電波で受信したときは暗号鍵データKDにより復号し、通信データCDを電波で送信するときは暗号鍵データKDにより暗号化し、照明装置2は、光信号を入力する受光素子21と、照明光となる光信号を放射する発光素子22と、照明制御回路23と、を有してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のエリア内に置かれた電子端末装置と伝送制御装置との間で、暗号化された通信データを電波によって送受信する無線LANシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線LAN(ローカルエリアネットワーク)システムが普及している。無線LANシステムは、職場や不特定多数の人が利用する施設などにおいて、特定のエリア内に置かれた複数の電子端末装置がアクセスポイントと称される伝送制御装置との間で無線のネットワークを構成して通信データの伝送(送受信)を行うことができるものである。ここで、電子端末装置とは、ノートパソコンや携帯情報端末などである。この無線LANシステムの伝送制御装置は、他のネットワークを構成する有線又は無線の回線が接続されており、それを経由してインターネットと接続されている。なお、アクセスポイント(伝送制御装置)を不特定多数の人に提供することによりインターネットへの接続手段を提供するサービスは公衆無線LANと称されている。
【0003】
このような無線LANシステムは、ネットワークの利用を許可された人以外の者によるネットワークへの不正侵入を防止する必要がある。そのため、従来より、電子端末装置が有する固有の番号(MACアドレス)を伝送制御装置に登録の設定をしておいてフィルタリングする方式や、電子端末装置と伝送制御装置とに共通の暗号鍵を設定しておいて通信データを暗号化してフィルタリングする方式、などが提案されている。後者の方式は、前者の方式に比べ、電子端末装置と伝送制御装置における設定が容易である。
【0004】
この暗号化方式は、暗号化に必要な設定を自動化するために、種々の方法が提案されている。特許文献1には、アクセスポイント(伝送制御装置)と複数の端末(電子端末装置)との間で適切な暗号方式を選択し設定する技術が記載されており、また、暗号方式の選択設定情報の伝送のために、通常の通信データの伝送に用いる電波を利用するものの他、赤外線、光、音声信号、超音波、微弱電波などを用いるものも記載されている。また、特許文献2には、アクセスポイント(伝送制御装置)と、複数の通信端末(電子端末装置)が所定の施設内に存在するか否かを判定するユーザ位置認証サーバと、通信端末にアクセスポイントとの接続に必要な接続情報(暗号情報が含まれる)を提供する接続情報提供サーバと、を備えたものが記載されている。その接続情報提供サーバとしては、超広帯域無線装置、可視光通信装置(施設の天井等に設けられた蛍光灯等の照明装置又は照明装置とは別に設けられた発光ダイオードも含む)、短距離無線通信装置などのいずれかを使用することが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−175524号公報
【特許文献2】特開2009−182391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、職場や多数の人が利用する施設における無線LANシステムは、ネットワークの利用を許可された人が利用し易く、またシステムの構築が容易にでき、それにより利用する人の数に合わせてその規模を柔軟に増減できることが望ましい。そのような観点から、特許文献1に記載のものは、電子端末装置の追加により他の電子端末装置も影響されるので多数の人が利用する施設においては適用が難しい。また、特許文献2に記載のものは、ユーザ位置認証サーバや接続情報提供サーバの設置やそれらの配線工事が必要となる。
【0007】
本発明は係る事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、職場や多数の人が利用する施設などの特定のエリア内に置かれた電子端末装置にネットワーク不正侵入防止のための暗号鍵データを送信し、電子端末装置と伝送制御装置の間で暗号化された通信データを電波によって送受信する無線LANシステムであって容易にシステムの構築できるものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の無線LANシステムは、特定のエリアを照明する少なくとも1つの照明装置と、該エリア内に置かれた少なくとも1つの電子端末装置との間で電波によって通信データの送受信を行う伝送制御装置と、を備える無線LANシステムであって、前記伝送制御装置は、暗号鍵データを生成し、前記照明装置の少なくとも1つに向けて前記暗号鍵データに対応する光信号を放射する暗号鍵データ送信部と、通信データを受信したときはその通信データを前記暗号鍵データにより復号し、通信データを送信するときは前記暗号鍵データにより暗号化する通信データ送受信部と、を有し、前記照明装置は、前記伝送制御装置又は他の照明装置からの光信号が入力されると、その光信号に応じて電流が流れる受光素子と、照明光となる光信号を放射する発光素子と、前記受光素子の電流に応じて前記発光素子に流す電流を制御する照明制御回路と、を有してなることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の無線LANシステムは、請求項1に記載の無線LANシステムにおいて、前記照明制御回路は、前記受光素子に電流が流れるときにオンし、該受光素子の電流を増幅して前記発光素子に電流を流す増幅素子が設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の無線LANシステムは、請求項1又は2に記載の無線LANシステムにおいて、前記照明装置の少なくとも1つは、隣接する照明装置に向けて光信号の一部を放射する機構が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の無線LANシステムによれば、伝送制御装置から照明装置を介して電子端末装置に、光信号によってネットワーク不正侵入防止のための暗号鍵データを送信できるので、無線LANシステムが容易に構築できるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る無線LANシステム1を示す模式図である。
【図2】同上の無線LANシステム1の伝送制御装置3を示すブロック図である。
【図3】同上の無線LANシステム1の暗号鍵データ送信部31での信号の変化の例を示す波形図である。
【図4】同上の無線LANシステム1の照明装置2示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための好ましい形態について図面を参照しながら説明する。本発明の実施形態に係る無線LANシステム1は、図1に示すように、特定のエリアARを照明する複数の照明装置2、2、…と、そのエリアAR内に置かれた複数の電子端末装置ET、ET、…との間で電波(例えば、IEEE802.11シリーズ規格の電波)によって通信データCDの伝送を行う伝送制御装置3と、を備える。なお、図1においては、通信データCDを矢印付き破線、後述の暗号鍵データKDを矢印付き実線で示している。
【0014】
伝送制御装置3は、図2に示すように、暗号鍵データ送信部31と通信データ送受信部32を有している。暗号鍵データ送信部31は、ネットワーク不正侵入防止のための暗号鍵データKD(例えば、WEPやWPAなどにおける鍵データ)をランダムに生成するものであり、所定時間毎に変更することが可能である。また、暗号鍵データ送信部31は、暗号鍵データKDに対応した光信号(換言すれば、暗号鍵データKDが重畳した光信号)を複数の照明装置2、2、…の1つに向けて放射する。また、暗号鍵データ送信部31は、暗号鍵データKDを通信データ送受信部32に送る。
【0015】
この光信号が放射されるまでの信号処理過程は、より詳細には、以下の通りである。暗号鍵データKDは、パルス位置変調(PPM)、反転パルス位置変調(IPPM)、又はパルス幅変調(PWM)などの方式で変調され、パルス期間(パルス有の期間)Tの位置や幅の違いなどによって、暗号鍵データKDのビットの2値どちらかが表されることになる。図3は、例として、パルス位置変調の場合における暗号鍵データKDの一部のビットの変化を示すものであって、(a)は変調前、(b)は変調後の電気信号を示し、(c)は光信号を示している。パルス期間Tは、複数(例えば、10個程度)のパルスpから成っており、各パルスpにおいて所定レベルのとき発光素子31a、31a、…に電流が流され光パルスp’を放射し、パルス期間外(パルス無の期間)は、発光素子31a、31a、…に電流が流されない。光信号は、こうして生成された光パルス列である。パルス期間T(及びパルス期間外)の長さは、光信号が人間の目にちらつきとして認識されずに平均化され、かつ、電子端末装置ET及び伝送制御装置3において信号処理できるような長さにする。例えば、100μs〜1ms程度が可能である。
【0016】
通信データ送受信部32は、電波によって電子端末装置ETから受信した通信データCDを暗号鍵データKDを用いて復号する。また、通信データ送受信部32には、他のネットワークを構成する有線又は無線の回線LIが接続されており、それを経由してインターネットと接続されている。通信データ送受信部32で復号された通信データCDは、インターネットに向けて送信される。その一方で、通信データ送受信部32は、インターネットから送信された通信データCDを受信し、暗号鍵データKDにより暗号化して電子端末装置ETに向けて送信する。これらの受信回路、復号回路及び暗号化回路は、それぞれの周知技術を適用できる。
【0017】
照明装置2、2、・・・は、多くの場合、エリアARの造営材である天井面又はその近傍に設置される。スタンド型照明装置の形で設けられてもよい(図1参照)。照明装置2、2、・・・は、その少なくとも1つには、伝送制御装置3が放射した光信号が入力され、その他のものには、それに隣接する他の照明装置2(伝送制御装置3が放射した光信号を入力する上記のものも含まれる)が後述のように放射した光信号が入力される。照明装置2は、図4に示すように、次に述べる受光素子21と発光素子22と照明制御回路23を有している。
【0018】
受光素子21は、伝送制御装置3又は他の照明装置2からの光信号が入力されると、その光信号に応じて電流が流れる。すなわち、光信号のパルス期間Tでは電流が流れ、パルス期間外では電流が流れない。受光素子21は、1個であってもよいが、光信号の入射許容角度を適切に広くするように、複数設けられるのが好ましい。
【0019】
発光素子22は、エリアARを照明する照明光となる光信号を放射する。この発光素子22は、十分な輝度を確保するために、図4に示すように、通常、直列又は並列に複数設けられている。また、発光素子22は、現状では発光ダイオード(LED)が好適であるが、流れた電流(又は印加された電圧)に対応する光を発するものならば、その他の素子でも可能である。
【0020】
照明制御回路23は、受光素子21の電流に応じて発光素子22に流す電流を制御する。より詳細には、照明制御回路23は、受光素子21に電流が流れるときにオンし、受光素子21の電流を増幅して発光素子22に電流を流す増幅素子23aが設けられている。この増幅素子23aは、受光素子21に電流が流れないときにはオフして発光素子22に電流を流さない。本実施形態では、増幅素子23aをNPNバイポーラトランジスタとし、そのベースには受光素子21のカソード側が接続され、コレクタには電源電圧Vccが接続され、エミッタには電流制限用抵抗23bを介して発光素子22のアノード側が接続されている。受光素子21のアノード側は電源電圧Vccに接続されている。この電源電圧Vccは、通常、商用交流電源からレギュレータなどを用いて生成したものである。
【0021】
発光素子22から放射する光信号は、全体的に若干遅れるが、受光素子21に入力された光信号と同様のものである。そして、発光素子22から放射された光信号は、エリアARを照らす照明光になるとともに、エリアARに暗号鍵データKDを送信することとなるのである。
【0022】
上記の照明制御回路23は、簡単なアナログ回路であるので、受光素子21に光信号が入力された時点から、発光素子22より光信号を放射するまでの遅延時間が少ない。従って、複数の照明装置2、2、…から放射される光信号同士の位相のずれは少ないために、電子端末装置ETに複数の照明装置2、2、…から光信号が放射されても、電子端末装置ETでは適正に復調することができる。なお、照明制御回路23は、受光素子21に入力された光信号に、太陽光等による直流ノイズや蛍光灯等による低周波交流ノイズが含まれた場合にも、受光素子21に入力されたものと同様の波形の光を発光素子22から放射する。これについては、電子端末装置ETにおいてその受光素子(図示せず)に続く回路にハイパスフィルタを設けて、直流ノイズや低周波交流ノイズを取り除けばよい。
【0023】
照明制御回路23は、受光素子21の電流に応じて発光素子22に流す電流を上記と同様にして制御するものならば、他の回路構成も可能である。更には、上記遅延や回路規模は大きくなり易いが、場合によってはディジタル回路も可能である。
【0024】
このように、照明装置2、2、・・・は、特定のエリアARを照明する本来機能に加え、伝送制御装置3又は他の照明装置2からの光信号を中継し、エリアARに暗号鍵データKDを送信する機能を有する。照明装置2は、光信号を一定方向に向けて中継し易くするために、光信号の一部を隣接する照明装置2に向けて水平方向に放射するような機構(例えば、隣接する照明装置2に向けたミラーなど)を設けてもよい。また、照明装置2、2、・・・とともに、単に本来機能のみを有する照明装置が混じるようにしてもよいのは勿論である。
【0025】
エリアAR内に置かれた電子端末装置ETは、自己の受光素子(図示せず)に光信号が入力され、それを電気信号に変換した上で、暗号鍵データKDを復調する。この変換及び復調回路は、それぞれの周知技術を適用できる。電子端末装置ETの受光素子や変換及び復調回路は、外付けデバイスとして電子端末装置ETに合体させるものであってもよいし、電子端末装置ETに内蔵されるものであってもよい。電子端末装置ETは、復調された暗号鍵データKDを用いて通信データCDを暗号化し、電波を放射する。この電波は、上述のように、伝送制御装置3の通信データ送受信部32によって受信される。
【0026】
このように、無線LANシステム1では、暗号鍵データKDは、伝送制御装置3から照明装置2、2、…を介して電子端末装置ETに、光信号によって送信される。従って、配線(有線)工事をすることなく、職場や不特定多数の人が利用する施設、例えば、駅やホテル等のロビーや飲食店などにおいて、無線LANシステム1を構築することが容易になる。そして、エリアAR内にいる人、すなわち無線LANシステム1の利用を許可された人には、無線LANシステム1の利用を可能にし、そうでない者には、無線LANシステム1への不正侵入を防止することできる。また、無線LANシステム1が適用されるエリアARの境がシステム(サービス)提供者や利用者に明らかになる。なお、エリアARの境を壁などで区切ってもよいが、それは必須ではない。また、エリアARの照明の明るさを、光信号のパルス期間Tの幅や光パルスp’の幅などを変えることによって伝送制御装置3において制御することも可能である。光信号を放射しないようにして(無信号にして)、エリアARの照明光をオフにすることも可能である。
【0027】
以上、本発明の実施形態である無線LANシステムについて説明したが、本発明は、実施形態に記載したものに限られることなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でのさまざまな設計変更が可能である。例えば、無線LANシステム1は、家庭でも用いることが可能である。また、照明装置2や電子端末装置ETは、複数ではなく1個であっても適用可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 無線LANシステム
2 照明装置
21 照明装置2の受光素子
22 照明装置2の発光素子
23 照明装置2の照明制御回路
23a 照明制御回路23の増幅素子
3 伝送制御装置
31 暗号鍵データ送信部
32 通信データ送受信部
KD 暗号鍵データ
CD 通信データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定のエリアを照明する1又は複数の照明装置と、該エリア内に置かれた少なくとも1つの電子端末装置との間で電波によって通信データの送受信を行う伝送制御装置と、を備える無線LANシステムであって、
前記伝送制御装置は、
暗号鍵データを生成し、前記照明装置の少なくとも1つに向けて前記暗号鍵データに対応する光信号を放射する暗号鍵データ送信部と、
通信データを受信したときはその通信データを前記暗号鍵データにより復号し、通信データを送信するときは前記暗号鍵データにより暗号化する通信データ送受信部と、を有し、
前記照明装置は、
前記伝送制御装置又は他の照明装置からの光信号が入力されると、その光信号に応じて電流が流れる受光素子と、
照明光となる光信号を放射する発光素子と、
前記受光素子の電流に応じて前記発光素子に流す電流を制御する照明制御回路と、
を有してなることを特徴とする無線LANシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の無線LANシステムにおいて、
前記照明制御回路は、前記受光素子に電流が流れるときにオンし、該受光素子の電流を増幅して前記発光素子に電流を流す増幅素子が設けられていることを特徴とする無線LANシステム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の無線LANシステムにおいて、
前記照明装置の少なくとも1つは、隣接する照明装置に向けて光信号の一部を放射する機構が設けられていることを特徴とする無線LANシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−95146(P2012−95146A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241405(P2010−241405)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(597065329)学校法人 龍谷大学 (120)
【Fターム(参考)】