説明

無電解めっきの前処理方法及び無電解めっき方法

【課題】 導体パターン以外の領域への無電解めっきの析出を十分に抑制するとともに、無電解めっき皮膜によって導体パターンを十分に被覆することができる無電解めっきの前処理方法を提供する。
【解決手段】 上記課題を解決する本発明の無電解めっきの前処理方法は、基板の表面上に形成された所定形状を有する導体パターンに、ノニオン系界面活性剤を含有する溶液を接触させる第1工程と、該第1工程の後の導体パターンに、カチオン系界面活性剤を含有する溶液を接触させる第2工程とを有するものである。
を有する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっきの前処理方法及び無電解めっき方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プリント配線板上に形成された例えば銀又は銅等からなる導体パターン上にのみ選択的にニッケル等のめっき皮膜を形成する方法として、電解めっき法と無電解めっき法が広く知られている。これらのうち、電解めっき法が、処理コスト及び浴安定性の観点で有利であることから、主として採用されている。
【0003】
一方、近年、半導体デバイス等の配線基板への電子回路の実装を、より高集積化及び/又は極微細化する必要性が生じてきている。しかしながら、上述の電解めっき法は、電源リードに対する設計上の制約があり、また、孤立パターン上へのめっき皮膜の形成が比較的困難であるため、そのような要求に対応できない場合が生じている。したがって、今後はかかる点で有利である無電解めっき法に対する必要性が高まるものと予想される。
【0004】
この無電解めっき法によるニッケルめっきは、従来、概して以下のような工程を経て行われている。まず、金属からなる導体パターンを形成したプリント配線板に対して脱脂処理を施し、続いて酸洗浄した後、無電解めっきの核となる例えばパラジウム系の触媒を吸着させる。その後、該配線板を無電解ニッケルめっき液に浸漬して、所望のニッケルめっき皮膜で導体パターンを被覆する。ニッケルめっき上に更に金めっきを形成する場合は、配線板を置換金めっき液に浸漬して、所望の金めっき皮膜で導体パターンを被覆したプリント配線板を得る。また、通常、各工程の合間には数分間の流水洗浄処理が行われるので、先の工程で用いた液が後の工程で用いる液に混入し難くなり、これにより、導体パターン間の短絡を十分に抑制した、選択的なめっき処理が可能となっている。
【0005】
しかしながら、導体パターン間の間隔が80〜100μm程度の狭さになると、導体パターン以外の領域へのめっきの析出が相対的に顕著になるため、導体パターン間の短絡の発生が増加する傾向にある。このような短絡を防止するために、例えば特許文献1では、パラジウム系の触媒液を改良して、導体パターン上へのパラジウム系触媒の吸着量を少なくする方法が開示されている。
【0006】
すなわち、特許文献1では、絶縁物上へのパラジウム吸着を抑制し、ニッケルのラインからのはみ出し析出を1μm以下に抑え、微細パターンの電気信頼性を大幅に向上させることを意図して、パラジウム化合物とアンモニア化合物を塩酸とクエン酸塩で構成されるpH3.0〜4.5の緩衝液に溶解反応させて得られる無電解ニッケルめっき用パラジウム触媒液で処理し、水洗し、無電解ニッケルめっき処理する無電解ニッケルめっき方法が提案されている。
【特許文献1】特開平5−156457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
最近では、更に微細な導体パターン、例えばパターン間の間隔が80μmを下回るような導体パターンが実用化されつつある。本発明者らは、上記特許文献1に記載の従来の無電解ニッケルめっき方法について詳細に検討を行ったところ、従来の無電解ニッケルめっき方法を用いて、このような超微細な導体パターン上に無電解ニッケルめっき皮膜を形成すると、導体パターン以外の領域へのニッケルめっきの析出に起因して、導体パターン間の短絡を十分に抑制できなくなることを見出した。さらに本発明者らは、導体パターン以外の領域へのニッケルめっきの析出を抑制すべく、パラジウム系触媒の吸着量を減少させると、導体パターンを無電解ニッケルめっきで十分に被覆できなくなることを見出した。
【0008】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、導体パターン以外の領域への無電解めっきの析出を十分に抑制するとともに、無電解めっき皮膜によって導体パターンを十分に被覆することができる無電解めっきの前処理方法及び無電解めっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、導体パターンの脱脂処理が、無電解めっき皮膜の導体パターン上への選択的形成に影響を与えることを見出した。そして、更に研究を進めた結果、脱脂処理に用いる脱脂液の種類を調整するだけでは、上記めっき皮膜の導体パターン上への選択的形成に不十分であり、脱脂液を複数種用い、しかもそれらの脱脂液を用いる順番を調整する必要があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の無電解めっきの前処理方法は、基板の表面上に形成された所定形状を有する導体パターンに、ノニオン系界面活性剤を含有する溶液を接触させる第1工程と、該第1工程の後の導体パターンに、カチオン系界面活性剤を含有する溶液を接触させる第2工程とを有することを特徴とする。
【0011】
このような前処理方法を採用することにより、導体パターン以外の領域への無電解めっきの析出を十分に抑制するとともに、無電解めっき皮膜によって導体パターンを十分に被覆することができる要因は、現在のところ詳細には明らかにされていない。本発明者らは、その要因の一つとして、以下のように推定しているが、要因はこれに限定されない。すなわち、まず第1工程において、基板の表面が脱脂され、さらに第2工程を経ると、例えばカチオン系界面活性剤の残存等により基板表面が正の電荷を帯びると考えられる。これにより、パラジウム系触媒等の正の電荷を有する化学種の導体パターン以外の領域への吸着を防止可能となると推測される。一方、導体パターン上に上記化学種が吸着するのは、導体パターンの方が、それ以外の領域に比べて、カチオン系界面活性剤を取り除きやすいためと推定される。
【0012】
本発明の無電解めっきの前処理方法は、第2工程の後に導体パターンにソフトエッチング処理を施す第3工程と、第3工程の後に導体パターンを希酸で洗浄する第4工程と、第4工程の後に導体パターンにパラジウム化合物含有溶液を接触させる第5工程とを有してもよい。
【0013】
本発明の無電解めっきの前処理方法において、ノニオン系界面活性剤がポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルであると好ましく、カチオン系界面活性剤がアルキルメチルアンモニウムクロライドであると好ましい。これらの界面活性剤を用いることにより、無電解ニッケルめっき皮膜を導体パターン上により選択的に形成可能となる。
【0014】
同様の理由により、本発明の無電解めっきの前処理方法において、ノニオン系界面活性剤を含有する溶液中のノニオン系界面活性剤の濃度が、0.1〜20g/Lであると好ましく、カチオン系界面活性剤を含有する溶液中のカチオン系界面活性剤の濃度が、1〜100g/Lであると好ましい。
【0015】
本発明の無電解めっき方法は、上述の無電解めっきの前処理方法を施した導体パターン上に無電解ニッケル皮膜を形成するニッケルめっき工程を有することを特徴とする。更に、得られた無電解ニッケルめっき皮膜の表面上に無電解金めっき皮膜を形成する金めっき工程を有する場合もある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、導体パターン以外の領域への無電解めっきの析出を十分に抑制するとともに、無電解めっき皮膜によって導体パターンを十分に被覆することができる無電解めっきの前処理方法及び無電解ニッケルめっき方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図1を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。本発明の好適な無電解めっき方法は、基板の表面上に形成された所定形状を有する導体パターンに対して前処理を施す前処理工程S10と、該導体パターン上に無電解めっき皮膜を形成するめっき工程S20とを有するものである。前処理工程S10は、本発明の無電解ニッケルめっきの前処理方法に該当するものであり、導体パターンを基板上に形成して得られる配線板を、ノニオン系界面活性剤含有水溶液中に浸漬する第1工程S1と、カチオン系界面活性剤含有溶液中に浸漬する第2工程S2と、ソフトエッチング処理を施す第3工程S3と、希酸で洗浄する第4工程S4と、パラジウム化合物含有溶液中に浸漬する第5工程S5とを含むものである。また、めっき工程S20は、導体パターン上に無電解ニッケルめっき皮膜を形成する第6工程S6と、そのニッケルめっき皮膜上に無電解金めっき皮膜を形成する第7工程S7とを含むものである。更に各工程間には、前の工程で用いて配線板上に残存した余分な液を除去するために、配線板を流水等を用いて洗浄する第8工程S8を有する。以下、上述の各工程について詳述する。
【0018】
まず第1工程S1の前に、基板上に被めっき材である導体パターンを形成した配線板を準備する。該配線板は、例えば、セラミック製又は樹脂性等の基板上に、銀又は銅等の材料で構成された導体パターンを印刷法又はエッチング法等により形成して得られる。
【0019】
(第1工程S1)
第1工程S1では、上述のようにして準備した配線板を、ノニオン系界面活性剤含有水溶液中に浸漬して、主に導体パターンの脱脂洗浄を行う。
【0020】
ノニオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、疎水基の原料として、高級アルコール、チオアルコール、アルキルフェノール、ポリプロピレングリコール、高級脂肪酸、高級アミン、高級脂肪酸アミド又は油脂を用い、親水基の原料として、ポリエチレングリコール、アルキレンオキシド、グリセリン、ソルビトールしょ糖又はジエタノールアミンを用いて得られるものが挙げられる。それらのなかでは、疎水基の原料として高級アルコール又はアルキルフェノールを用い、親水基の原料としてアルキレンオキシドを用いて得られるポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルが好ましく、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルがより好ましい。ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルとしては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルを使用することができ、この分子中にオキシプロピレン基(−OC−)を有していてもよい。
【0021】
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの分子中のアルキル基としては、炭素数7〜10程度のものが好ましく、そのようなアルキル基を有するポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとしては、例えば、ポリオキシエチレンイソオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等が挙げられる。
【0022】
ノニオン系界面活性剤含有水溶液中のノニオン系界面活性剤の濃度は、使用するノニオン系界面活性剤の種類によって異なるが、0.1〜20g/Lであると好ましく、1〜5g/Lであるとより好ましい。ノニオン系界面活性剤の濃度が0.1g/L未満では、被めっき材である導体パターンの脱脂洗浄効果が得られ難くなり、導体パターン上の残存する汚れに起因して、これより後の工程で無電解ニッケルめっきの析出むらや密着不良を起こしやすくなる傾向にある。また、ノニオン系界面活性剤の濃度が20g/Lを越えると、導体パターンの脱脂洗浄効果の更なる向上が見られなくなり、製造コストに見合った製品性状が得られ難くなる傾向となる。さらには、導体パターンの表面上にノニオン系界面活性剤が残存しやすくなるため、その後に行われる水洗浄(水洗)が不十分であると、さらに後の工程で無電解ニッケルめっきの析出むらや密着不良を起こしやすくなる傾向にある。
【0023】
また、ノニオン系界面活性剤含有水溶液は、ノニオン系界面活性剤に加えて、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ性の塩を含有することによって、pHが7を超えるアルカリ性にすると、導体パターンの脱脂洗浄効果を更に向上させることが可能となるので好ましい。
【0024】
ノニオン系界面活性剤含有水溶液のpHは、アルカリ性の塩の添加量を調整することによって、8〜11の範囲にするとより好ましい。このpHが8未満では、アルカリ性の塩を添加しない場合と比べて、導体パターンの脱脂洗浄効果が発揮されない傾向にある。また、このpHが11を越えると、導体パターンの表面上にアルカリ性の塩が残存しやすくなるため、その後の水洗が不十分な場合には、さらに後の工程で無電解ニッケルめっきの析出むらや密着不良を起こしやすくなる傾向にある。
【0025】
配線板のノニオン系界面活性剤含有液への浸漬時間は特に限定されず、配線板や導体パターンの形状、寸法、ノニオン系界面活性剤の濃度等により、十分に導体パターンの脱脂洗浄ができ、しかも第1工程の時間が過剰にならない程度に適宜調整すればよい。
【0026】
(第2工程S2)
第2工程S2では、脱脂洗浄後の配線板を、カチオン系界面活性剤含有水溶液中に浸漬して、主に、導体パターン以外の配線板の領域へのパラジウム触媒の析出を抑制できるようにする。
【0027】
カチオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、疎水基の原料として、高級脂肪酸、高級脂肪酸ハライド、高級脂肪酸アミド、高級アミン、高級ホスフィン、高級アルキルハライド、又は高級アルコールを用い、親水基の原料として、低級アルキルハライド、ジ低級アルキル硫酸、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどのアルキレンアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルコールアミン、アミノアルキルアルコールアミン、酸、ピリジン、ベンジルハライド、又はエチレンオキシドを用いて得られるものが挙げられる。
【0028】
それらのなかでは、疎水基の原料として高級アミンを用い、親水基の原料として低級アルキルハライドを用いて得られるアルキルアンモニウムハライドが好ましい。アルキルアンモニウムハライドとしては、例えば、アルキル基として少なくともメチル基を有し、ハロゲン原子として塩素原子又は臭素原子を有するアルキルメチルアンモニウムクロライドやアルキルメチルアンモニウムブロマイドを使用することができる。これらのなかで、メチル基以外のアルキル基の炭素数が9〜20程度であるものが好ましく、窒素原子に結合したメチル基を2つ又は3つ有するものが好ましい。より具体的には、例えば、デシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジドデシルジメチルアンモニウムクロライド等、あるいはこれらの分子中の塩素原子を臭素原子に置換したものを使用することができる。
【0029】
カチオン系界面活性剤含有水溶液中のカチオン系界面活性剤の濃度は、使用するカチオン系界面活性剤の種類によって異なるが、1〜100g/Lであると好ましく、5〜40g/Lであるとより好ましい。カチオン系界面活性剤の濃度が1g/L未満では、これより後の工程において、無電解ニッケルめっきが導体パターン上に形成される際の選択性向上効果が低くなり、導体パターン以外の領域にニッケルめっきが析出しやすくなる傾向にある。また、カチオン系界面活性剤の濃度が100g/Lを越えると、上述の選択性向上効果の更なる向上が見られなくなり、製造コストに見合った製品性状が得られ難くなる傾向にある。さらには、導体パターンの表面上にカチオン系界面活性剤が残存しやすくなるため、その後に行われる水洗浄(水洗)が不十分であると、さらに後の工程で無電解ニッケルめっきの析出むらや密着不良を起こしやすくなる傾向にある。
【0030】
また、カチオン系界面活性剤含有水溶液は、カチオン系界面活性剤に加えて、硫酸やクエン酸等の有機酸塩を含有することによって、pHが1以下の強酸性にすることにより、導体パターン上に形成されている酸化膜を除去する効果が得られる。
【0031】
(第3工程S3)
第3工程S3では、第2工程S2を経て得られる配線板上の導体パターン表面を平滑にするために、該配線板をエッチング液に浸漬してソフトエッチングを行う。
【0032】
エッチング液としては、通常のソフトエッチング処理に用いられるものであれば特に限定されず、例えば、過硫酸アンモニウム水溶液、過硫酸ナトリウム水溶液、硫酸−過酸化水素水溶液等、あるいは市販のソフトエッチング液を用いることができる。
【0033】
(第4工程S4)
第4工程S4では、第3工程S3を経て得られる配線板上の導体パターン表面に形成された酸化膜を除去するために、該配線板を希酸に比較的短時間浸漬して酸洗浄を行う。希酸としては、特に限定されず、希硫酸、希塩酸、希硝酸などを用いることができる。
【0034】
(第5工程S5)
第5工程S5では、第4工程S4を経て得られる配線板をパラジウム化合物含有水溶液に浸漬して、導体パターン表面上に、触媒となる金属パラジウム(Pd)を選択的に形成させる。
【0035】
パラジウム化合物含有水溶液としては、導体パターン表面の金属をPdと置換できるものであれば特に限定されず、従来のNiめっきの前処理に用いられるものであってもよい。パラジウム化合物としては、パラジウムイオン(Pd2+)を含むものであればよく、例えば、フッ化パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、酸化パラジウム、硫化パラジウム等が挙げられる。
【0036】
(第6工程S6)
第6工程S6では、第5工程S5を経て得られる配線板を無電解ニッケルめっき液に浸漬して、導体パターン上にのみ選択的に無電解ニッケルめっき皮膜を形成する。
【0037】
無電解ニッケルめっき液は、従来用いられていたものであれば特に限定されない。したがって、例えば、該無電解ニッケルめっき液は、塩化ニッケル若しくは硫酸ニッケル等のニッケルイオン源及び次亜りん酸塩若しくはアミンホウ素化合物等の還元剤に加えて、クエン酸、マロン酸若しくは酒石酸等の有機酸あるいはその塩等の錯化剤、又はその他のpH調整剤等の通常用いる各種添加剤を適量含んでもよい。
【0038】
配線板浸漬時の無電解ニッケルめっき液の温度及び該めっき液への配線板の浸漬時間は、所望の膜厚のニッケルめっき皮膜を得ることができるように、適宜設定することができる。すなわち、ニッケルめっき皮膜を比較的厚くしたい場合は、該めっき液の温度を高めに設定し、及び/又は、配線板の浸漬時間を長くすればよい。逆に、ニッケルめっき皮膜を比較的薄くしたい場合は、該めっき液の温度を低めに設定し、及び/又は、配線板の浸漬時間を短くすればよい。但し、ニッケルめっき皮膜の膜厚はその下側にある導体パターンが露出しない程度の膜厚である必要がある。
【0039】
この工程S6において、配線板の導体パターン上にある触媒の作用により、該触媒上でニッケルイオンが還元されてニッケルめっき皮膜が形成される。
【0040】
(第7工程S7)
第7工程S7では、第6工程S6を経て得られる配線板を置換金めっき液に浸漬することにより、ニッケルめっき皮膜上に金めっき皮膜を形成する。
【0041】
置換金めっき液は、ニッケルと該液中の金イオンとの置換反応により、ニッケルめっき皮膜上に金めっき皮膜を形成するために従来用いられていたものであれば、特に限定されない。したがって、例えば、該置換金めっき液は、シアン化金ナトリウム若しくはシアン化金カリウム等のシアン系金イオン源(シアン化金塩)あるいは亜硫酸金塩、チオ硫酸金塩若しくは塩化金塩等の非シアン系金イオン源、亜硫酸塩若しくはカルボン酸塩等の錯化剤、又はその他の置換金めっき液に通常用いる各種添加剤を適量含んでもよい。
【0042】
配線板浸漬時の置換金めっき液の温度は、所望の膜厚の置換金めっき皮膜を得ることができるように適宜設定することができるが、80〜90℃程度であることが好ましい。置換金めっき液の温度が80℃より低いと、金の析出速度が遅くなりすぎる傾向にあり、90℃より高いと、置換金めっき液が速やかに揮発してしまう、又は該めっき液中の成分が熱分解してしまうため、該液中の金イオンの安定性が著しく低下する傾向にある。
【0043】
また、置換金めっき液のpHは、該めっき液の液安定性又は置換金めっき皮膜の膜厚確保の観点から、シアン系金イオン源を含有する場合は5〜7、非シアン系金イオン源を含有する場合は6〜9であることが好ましい。
【0044】
そして該めっき液への配線板の浸漬時間は、所望の膜厚の置換金めっき皮膜を得ることができるように、適宜設定することができる。すなわち、置換金めっき皮膜を比較的厚くしたい場合は、配線板の該めっき液への浸漬時間を長くすればよい。逆に、置換金めっき皮膜を比較的薄くしたい場合は、配線板の該めっき液への浸漬時間を短くすればよい。但し、置換金めっき工程を行う際は、ある程度の膜厚(30〜100nm程度)の金めっき皮膜が形成された後は、それ以上の時間浸漬しても該皮膜の膜厚はほとんど変化しない傾向にあるため、これを考慮して製造コスト削減の観点から浸漬時間を設定することが好ましい。
【0045】
上述した本実施形態の無電解めっき方法は、配線板をノニオン系界面活性剤含有水溶液中に浸漬する第1工程S1、及びカチオン系界面活性剤含有水溶液中に浸漬する第2工程S2をこの順番とすることにより、導体パターン上にのみ選択的に無電解めっき皮膜を形成することが可能となる。
【0046】
本発明者らは、ノニオン系界面活性剤及びカチオン系界面活性剤を混合した水溶液に配線板を浸漬させた後で、第3工程S3以降の各処理を行ったところ、配線板上の導体パターン以外の領域にも無電解めっき皮膜が形成されること実験的に確認した(比較例5参照)。
【0047】
さらに本発明者らは、上述の第1工程S1と第2工程S2とを逆の順番とした場合、すなわち、配線板をカチオン系界面活性剤含有水溶液に浸漬した後にノニオン系界面活性剤含有水溶液に浸漬した場合、配線板上の導体パターン以外の領域にも無電解めっき皮膜が形成されること実験的に確認した(比較例4参照。)。
【0048】
これらの要因としては以下のことが考えられるが、要因はこれに限定されない。つまり、カチオン系界面活性剤は絶縁体(誘電体)に対しては比較的強力に吸着するが、導電体に対しては、それほど強力に吸着しないと考えられる。これに起因して、配線板をカチオン系界面活性剤含有水溶液に浸漬すると、カチオン系界面活性剤が導体パターン以外の領域にのみ選択的に吸着すると推測される。また、カチオン系界面活性剤は金属イオンに対して反発する作用を有していると推定される。これに起因して、上記配線板をパラジウム化合物含有水溶液中に浸漬すると、結果として金属パラジウムが導体パターン上にのみ選択的に形成され、その結果、無電解めっき被膜も導体パターン上にのみ選択的に形成されると考えられる。
【0049】
一方、ノニオン系界面活性剤及びカチオン系界面活性剤の混合水溶液を用いたり、あるいは上述の第1工程S1と第2工程S2とを逆の順番としたりすると、カチオン系界面活性剤による導体パターン以外の領域へのめっき形成抑制効果が、ノニオン系界面活性剤との混合、あるいはノニオン系界面活性剤による後段の処理によって低減されると考えられる。これにより、導体パターン上への選択的な無電解めっき皮膜の形成が困難となると、本発明者らは推測している。
【0050】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明の無電解めっき方法において、配線板を各溶液に接触させるために、溶液中への浸漬処理のほか、配線板に対して溶液を噴霧したり塗布したりしてもよい。また、配線板の用途によっては、第7工程S7(無電解金めっき)を省略してもよい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
本実施例のめっき試験用配線板として、10cm×10cm×1mmのセラミックス基板上に、テンティング法によって銅パターン(パターン間隔:50〜100μm)を形成したものを使用した。
【0053】
最初に、ノニオン系界面活性剤水溶液として、0.1g/Lのポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを含有した水溶液を調製した。得られた水溶液を50℃まで加熱し、その温度に保持した状態で、上述の配線板を該水溶液中に4分間浸漬した(第1工程)。次に、その配線板を50℃の純水で1分間洗浄し、更に室温の純水で4分間洗浄した。
【0054】
次いで、カチオン系界面活性剤水溶液として、20g/Lのオクタドデシルトリメチルアンモニウムクロライドを含有した水溶液を調製した。得られた水溶液を40℃まで加熱し、その温度に保持した状態で、上記水洗後の配線板を該水溶液中に3分間浸漬した(第2工程)。次に、その配線板を50℃の純水で1分間洗浄し、更に室温の純水で4分間洗浄した。
【0055】
続いて、得られた配線板を、室温の過硫酸アンモニウム水溶液(濃度:100g/L)中に30秒間浸漬して、ソフトエッチング処理を施し(第3工程)、更に室温の純水で1分間洗浄した。次に、銅パターン上の酸化膜を除去するために、得られた配線板を室温の10%希硫酸中に1分間浸漬し酸洗浄し(第4工程)、更に室温の純水で1分間洗浄した。
【0056】
次いで、室温のパラジウム化合物含有水溶液である置換パラジウム触媒液SA−100(日立化成工業社製、商品名)中に、該配線板を5分間浸漬し(第5工程)、更に室温の純水で1分間洗浄した。そして、85℃の無電解ニッケルめっき液NIPS−100(日立化成工業社製、商品名)中に、その配線板を25分間浸漬して、配線板上に5μmの厚さを有するニッケルめっき皮膜を形成し(第6工程)、実施例1に係るめっき形成配線板を得た。
【0057】
(実施例2)
0.1g/Lのポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを含有した水溶液に代えて、3.0g/Lのポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを含有した水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例2に係るめっき形成配線板を得た。
【0058】
(実施例3)
0.1g/Lのポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを含有した水溶液に代えて、20g/Lのポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを含有した水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例3に係るめっき形成配線板を得た。
【0059】
(実施例4)
0.1g/Lのポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを含有した水溶液に代えて、0.01g/Lのポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを含有した水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例4に係るめっき形成配線板を得た。
【0060】
(実施例5)
0.1g/Lのポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを含有した水溶液に代えて、50g/Lのポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを含有した水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例5に係るめっき形成配線板を得た。
【0061】
(実施例6)
0.1g/Lのポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを含有した水溶液に代えて、0.1g/Lのポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルを含有した水溶液を用い、20g/Lのオクタドデシルトリメチルアンモニウムクロライドを含有した水溶液に代えて、20g/Lのドデシルトリメチルアンモニウムクロライドを含有した水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例6に係るめっき形成配線板を得た。
【0062】
(実施例7)
0.1g/Lのポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルを含有した水溶液に代えて、3.0g/Lのポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルを含有した水溶液を用いた以外は実施例6と同様にして、実施例7に係るめっき形成配線板を得た。
【0063】
(実施例8)
0.1g/Lのポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルを含有した水溶液に代えて、20g/Lのポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルを含有した水溶液を用いた以外は実施例6と同様にして、実施例8に係るめっき形成配線板を得た。
【0064】
(実施例9)
0.1g/Lのポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを含有した水溶液に代えて、3.0g/Lのポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを含有した水溶液を用い、20g/Lのオクタドデシルトリメチルアンモニウムクロライドを含有した水溶液に代えて、1.0g/Lのオクタドデシルトリメチルアンモニウムクロライドを含有した水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例9に係るめっき形成配線板を得た。
【0065】
(実施例10)
1.0g/Lのオクタドデシルトリメチルアンモニウムクロライドを含有した水溶液に代えて100g/Lのオクタドデシルトリメチルアンモニウムクロライドを含有した水溶液を用いた以外は実施例9と同様にして、実施例10に係るめっき形成配線板を得た。
【0066】
(実施例11)
0.1g/Lのポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルを含有した水溶液に代えて、3.0g/Lのポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルを含有した水溶液を用い、20g/Lのドデシルトリメチルアンモニウムクロライドを含有した水溶液に代えて、1.0g/Lのドデシルトリメチルアンモニウムクロライドを含有した水溶液を用いた以外は実施例6と同様にして、実施例11に係るめっき形成配線板を得た。
【0067】
(実施例12)
1.0g/Lのドデシルトリメチルアンモニウムクロライドを含有した水溶液に代えて、100g/Lのドデシルトリメチルアンモニウムクロライドを含有した水溶液を用いた以外は実施例11と同様にして、実施例12に係るめっき形成配線板を得た。
【0068】
(実施例13)
1.0g/Lのドデシルトリメチルアンモニウムクロライドを含有した水溶液に代えて、0.1g/Lのドデシルトリメチルアンモニウムクロライドを含有した水溶液を用いた以外は実施例11と同様にして、実施例13に係るめっき形成配線板を得た。
【0069】
(実施例14)
1.0g/Lのドデシルトリメチルアンモニウムクロライドを含有した水溶液に代えて、200g/Lのドデシルトリメチルアンモニウムクロライドを含有した水溶液を用いた以外は実施例11と同様にして、実施例14に係るめっき形成配線板を得た。
【0070】
上述した実施例1〜14に係るノニオン系界面活性剤含有水溶液及びカチオン系界面活性剤含有水溶液について、界面活性剤の種類及びその濃度を表1にまとめて示す。
【表1】

【0071】
(比較例1)
第1工程及び第2工程を省略した以外は実施例1と同様にして、比較例1に係るめっき形成配線板を得た。
【0072】
(比較例2)
第1工程を省略した以外は実施例1と同様にして、比較例2に係るめっき形成配線板を得た。
【0073】
(比較例3)
第2工程を省略した以外は実施例7と同様にして、比較例3に係るめっき形成配線板を得た。
【0074】
(比較例4)
第1工程と第2工程の順番を逆にした以外は実施例2と同様にして、比較例4に係るめっき形成配線板を得た。
【0075】
(比較例5)
第1工程及び第2工程を以下に説明する工程に代えた以外は実施例1と同様にして、比較例5に係るめっき形成配線板を得た。ノニオン系界面活性剤として3.0g/Lのポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、及びカチオン系界面活性剤として20.0g/Lのオクタドデシルトリメチルアンモニウムクロライドを含有した水溶液を調製した。得られた水溶液を40℃まで加熱し、その温度に保持した状態で、上述の配線板を該水溶液中に3分間浸漬した。
【0076】
上述した比較例1〜5に係るノニオン系界面活性剤含有水溶液及びカチオン系界面活性剤含有水溶液について、界面活性剤の種類及びその濃度を表1にまとめて示す。
【0077】
[めっき状態の評価]
実施例1〜14、比較例1〜5に係るめっき形成配線板の表面を、実体顕微鏡(100倍)で観察し、銅パターン上でのめっき皮膜の形成状態をA〜Cの3段階で評価し、銅パターン以外の領域でのめっき皮膜の形成状態(析出状態)をA〜Dの4段階で評価した。銅パターン上でのめっき皮膜の形成状態については、パターンの表面全体がめっき皮膜に被覆されパターンの露出が認められない場合を「A」、パターンの表面のごく一部の露出が認められる場合を「B」、パターンの表面の一部が露出し、それによる変色が認められる場合を「C」とした。
【0078】
また、銅パターン以外の領域でのめっき皮膜の形成状態については、めっき皮膜が認められない場合を「A」、該領域全体に対して5%未満の領域でめっき皮膜が認められる場合を「B」、該領域全体に対して5%以上10%未満の領域でめっき皮膜が認められる場合を「C」、該領域全体に対して10%以上の領域でめっき皮膜が認められる場合を「D」とした。評価結果を表2に示す。
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の無電解めっき方法に係る好適な実施形態のフローチャートである。
【符号の説明】
【0080】
S1…第1工程、S2…第2工程、S3…第3工程、S4…第4工程、S5…第5工程、S6…第6工程、S7…第7工程、S8…第8工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面上に形成された所定形状を有する導体パターンに、ノニオン系界面活性剤を含有する溶液を接触させる第1工程と、
該第1工程の後の前記導体パターンに、カチオン系界面活性剤を含有する溶液を接触させる第2工程と、
を有する、無電解めっきの前処理方法。
【請求項2】
前記第2工程の後に前記導体パターンにソフトエッチング処理を施す第3工程と、
前記第3工程の後に前記導体パターンを希酸で洗浄する第4工程と、
前記第4工程の後に前記導体パターンにパラジウム化合物含有溶液を接触させる第5工程と、
を有する、請求項1記載の無電解めっきの前処理方法。
【請求項3】
前記ノニオン系界面活性剤がポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルである、請求項1又は2に記載の無電解めっきの前処理方法。
【請求項4】
前記カチオン系界面活性剤がアルキルメチルアンモニウムクロライドである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の無電解めっきの前処理方法。
【請求項5】
前記ノニオン系界面活性剤を含有する溶液中の前記ノニオン系界面活性剤の濃度が、0.1〜20g/Lである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の無電解めっきの前処理方法。
【請求項6】
前記カチオン系界面活性剤を含有する溶液中の前記カチオン系界面活性剤の濃度が、1〜100g/Lである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の無電解めっきの前処理方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の無電解めっきの前処理方法を施した前記導体パターンの表面上に無電解ニッケルめっき皮膜を形成するニッケルめっき工程を有する、無電解めっき方法。
【請求項8】
前記無電解ニッケルめっき皮膜の表面上に無電解金めっき皮膜を形成する金めっき工程を有する、請求項7記載の無電解めっき方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−2217(P2006−2217A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180015(P2004−180015)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】