説明

無電解めっき液及びそれを用いた無電解めっき方法、並びに配線基板の製造方法

【課題】数μm〜百数十μmの大きなトレンチ又はビアホールに対しても、ボイドやシーム等の欠陥を生じさせず、良好なめっき埋め込み性を有し、さらに長時間に亘って安定した性能を維持することができる無電解めっき液を提供する。
【解決手段】少なくとも、水溶性金属塩と、その水溶性金属塩に由来する金属イオンの還元剤と、錯化剤とを有する無電解めっき液であって、炭素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子、窒素原子をそれぞれ任意の数含む脂肪族環状基または芳香族環状基、または該環状基に任意の1種類以上の置換基が1つ以上結合した環状基、を少なくとも1つ有する硫黄系有機化合物をレベラーとして含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線基板等に形成されたトレンチ又はビアホールに、めっきした金属を欠陥なく埋め込むことが可能な無電解めっき液及びそれを用いた無電解めっき方法、並びに配線基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
線幅20μm、線間20μmのような微細な配線を有する多層基板を製造する方法として、従来より、種々のめっき方法が採用されてきた。例えば、その一例としてのセミアディティブ法は、銅回路を形成する場合、電気銅めっきの下地として無電解銅めっきをし、レジストにより回路パターンを形成して、電気銅めっきにより銅回路を形成するというめっき技術である。
【0003】
しかし、線幅、線間がさらに狭くなるに従い、このセミアディティブ法では以下のような問題点が生じる。すなわち、レジストの形成によって位置ズレや現像不良等が発生しやすくなり、断線や回路のショートが生じやすくなる。また、電気銅めっき処理後に、電気銅めっきの通電用の下地として形成した無電解銅めっきをエッチングにより取り除く必要があり、このエッチング工程によって、必要な回路部分の断線や、あるいはエッチング不足による回路のショート等が発生するという問題もある。
【0004】
また、他の方法の例として、フルアディティブ法が挙げられる。このフルアディティブ法は、ビアホールの形成された基材に触媒を付与した後、レジストにより回路パターンを形成し、無電解銅めっきのみにより銅回路を形成するというめっき技術である。
【0005】
しかし、線幅、線間がさらに狭くなるに従い、このフルアディティブ法においても以下のような問題点が生じる。すなわち、レジストの形成によって位置ズレや現像不良等が発生しやすくなるとともに、断線や回路のショートが生じやすくなる。さらに、工法上、レジストの下に触媒が残ることになるが、回路が微細化すると、この残った触媒によって回路間の絶縁性低下が起こり、ショートにいたる場合もある。
【0006】
このような問題を解決するために、レーザーを用いて基板表面にトレンチやビアホールを形成し、そのトレンチやビアホールに対して無電解銅めっきで埋め込む方法が試みられている。
【0007】
しかしながら、無電解めっきでトレンチ等を埋め込むこれまでの技術は、ウエハー上における、直径または幅が1μm(=1000nm)以下のトレンチやビアホールを有する回路の形成を目的とする技術であり、プリント配線板で使用される、直径または幅が数μm〜百数十μmの大きなトレンチやビアホールに対しては、十分にめっき金属を埋め込みができない。
【0008】
また、現在ビアホールに使用されている無電解めっき液では、めっき厚みを厚くすれば埋め込むことは可能であるものの、ビアホールの開口部に近い部分で側壁から成長しためっき同士がくっつき、その開口部より下部において隙間(ボイドやシーム)を発生させ、断線等を引き起こす。
【0009】
さらに、既存技術において、ボイドやシーム等の発生を抑制する目的で含有されている硫黄系化合物は、従来からフィルドビアホールめっきやデュアル銅ダマシン向けに使用されている酸性硫酸銅電気めっき液用として使用されているものであり、高アルカリの無電解めっき液で使用すると、不安定で自己分解を起こし、長時間安定した状態及び性能を維持することができず、実用的でない(特許文献1及び特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−80494号公報
【特許文献2】国際公開第05/028088号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、これらの従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、数μm〜百数十μmの大きなトレンチまたはビアホールに対しても、ボイドやシーム等の欠陥を生じさせることなく、良好なめっき埋め込み性を有し、さらに長時間に亘って安定した性能を維持することができる無電解めっき液及びそれを用いた無電解めっき方法、並びに配線基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、環状基を有する硫黄系有機化合物を含有させた無電解めっき液を用いることによって、高アルカリ性のめっき液中においても安定した状態を長時間維持しながら、欠陥を生じさせることなく、トレンチやビアホール内にめっき金属を埋め込むことができることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明に係る無電解めっき液は、少なくとも、水溶性金属塩と、還元剤と、錯化剤とを含有するとともに、下記一般式(I)乃至(V)の何れかで表される少なくとも1種の硫黄系有機化合物からなるレベラーを含有する。
−(S)−R (I)
−L−(S)−R (II)
−L−(S)−L−R (III)
−(S)−L (IV)
−L−(S)−L (V)
なお、上記一般式(I)乃至(V)中、nは、1以上の整数であり、R、Rは、それぞれ独立に炭素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子、窒素原子をそれぞれ任意の数含む脂肪族環状基または芳香族環状基、または該環状基に任意の1種類以上の置換基が1つ以上結合した環状基であり、L、Lは、それぞれ独立に直鎖または分岐したアルキル鎖、アルキルアミノ鎖、アルキレン鎖、アルコキシ鎖からなる群の何れか1つであり、Lは、アルキル基、アルキレン基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキレンアミノ基、ヒドロキシル基、アルキルヒドロキシル基、アルキレンヒドロキシル基、カルボキシル基、アルキルカルボキシル基、アルキレンカルボキシル基、アルキルアミノカルボキシル基、アルキレンアミノカルボキシル基、ニトロ基、アルキルニトロ基、ニトリル基、アルキルニトリル基、アミド基、アルキルアミド基、カルボニル基、アルキルカルボニル基、スルホン酸基、アルキルスルホン酸基、ホスホン酸基、アルキルホスホン酸基、スルファニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基からなる群の何れか1つである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る無電解めっき液によれば、環状基を有した硫黄系有機化合物を含有しているので、トレンチやビアホールに対して、ボイドやシーム等の欠陥を生じさせることなく、めっき金属を埋め込むことができ、高速信号を扱うプリント配線基板や配線密度の高いプリント配線基板の製造に好適に利用することができる。また、高アルカリ性のめっき液中においても、長時間安定して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】めっき処理を施した基板における「基板表面めっき厚み」、「くぼみ」、「トレンチ内めっき厚み」について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施の形態に係る無電解めっき液について、詳細に説明する。
【0017】
本実施の形態に係る無電解めっき液は、水溶性第二銅(合金)塩や水溶性ニッケル(合金)塩等の水溶性金属塩を主成分として、ホルムアルデヒドやパラホルムアルデヒド、グリオキシル酸またはその塩、次亜リン酸またはその塩、ジメチルアミノボラン等の1種以上の還元剤と、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウムや酒石酸ナトリウムカリウム等の錯化剤を含有するとともに、少なくとも1種の硫黄系有機化合物をレベラーとして含有している。
【0018】
本実施の形態に係る無電解めっき液は、主成分として、水溶性第二銅塩や水溶性ニッケル塩等の水溶性金属塩を含有している。水溶性金属塩として水溶性第二銅塩または水溶性ニッケル塩を含有させることによって、それぞれ無電解銅めっき液または無電解ニッケルめっき液を生成する。
【0019】
水溶性第二銅塩としては、例えば、硫酸銅、塩化銅、硝酸銅、酢酸銅、EDTA銅等を用いることができ、これらの水溶性第二銅塩を少なくとも1種含み、または任意の割合で2種以上を含有させてもよい。この水溶性第二銅塩の濃度としては、0.001mol/L〜0.2mol/Lが好ましい。なお、金属イオン源として銅を含有させる場合、水溶性第二銅塩を含有させることに限られず、他の金属塩を含有させて無電解銅合金めっき液を生成するようにしてもよい。
【0020】
水溶性ニッケル塩としては、例えば、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、次亜リン酸ニッケル等の有機ニッケル塩等を用いることができ、これらの水溶性ニッケル塩を少なくとも1種含み、または任意の割合で2種以上を含有させてもよい。この水溶性ニッケル塩の濃度としては、0.001mol/L〜0.2mol/Lが好ましい。なお、金属イオン源としてニッケルを含有させる場合、水溶性ニッケル塩を含有させることに限られず、他の金属塩を含有させて無電解ニッケル合金めっき液を生成するようにしてもよい。
【0021】
還元剤としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、グリオキシル酸またはその塩、次亜リン酸またはその塩、ジメチルアミノボラン等の公知の還元剤を用いることができ、これらの還元剤を少なくとも1種含み、または任意の割合で2種以上を含有させてもよい。この還元剤の濃度としては、0.01mol/L〜0.5mol/Lが好ましい。
【0022】
錯化剤としては、ポリアミン、ポリアルカノールアミン、ポリアミノポリカルボン酸またはその塩、カルボン酸またはその塩、オキシカルボン酸またはその塩、アミノ酸またはその塩等を用いることができ、これらの錯化剤を少なくとも1種含み、または任意の割合で2種以上を含有させてもよい。この錯化剤を無電解めっき液に含有させることにより、アルカリ性のめっき液中においても、上述した銅イオンやニッケルイオン等の金属イオンを安定して保持させる。
【0023】
より具体的に、ポリアミンとしては、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン等が挙げられる。また、ポリアルカノールアミンとしては、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。また、ポリアミノポリカルボン酸としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸ジエチレントリアミン五酢酸等、またはこれらの塩が挙げられる。また、オキシカルボン酸としては、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、りんご酸等、またはこれらの塩が挙げられる。また、アミノ酸としては、グリシン、グルタミン酸等、またはこれらの塩が挙げられる。
【0024】
そして、本実施の形態に係る無電解めっき液に含有される錯化剤としては、特に、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム(EDTA−4Na)、酒石酸ナトリウムカリウム(ロッセル塩)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸三ナトリウム(HEDTA)等を好適に用いることができる。その錯化剤の濃度としては、0.01mol/L〜1mol/L含有させることが好ましく、錯化剤の合計濃度が水溶性金属塩の1〜5倍のモル量となるように含有させることが好ましい。
【0025】
本実施の形態に係る無電解めっき液では、レベラーとして、少なくとも1種の硫黄系有機化合物を含有することを特徴としている。本実施の形態の係る無電解めっき液に含有されている硫黄系有機化合物は、炭素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子、窒素原子をそれぞれ任意の数含む脂肪族環状基または芳香族環状基、またはこれらの環状基に任意の1種類以上の置換基が1つ以上結合した環状基を、少なくとも1つ含む化合物である。
【0026】
具体的に、本実施の形態に含有される硫黄系有機化合物は、下記一般式(I)乃至(V)の何れかで表される少なくとも1種の化合物である。
−(S)−R (I)
−L−(S)−R (II)
−L−(S)−L−R (III)
−(S)−L (IV)
−L−(S)−L (V)
[一般式(I)乃至(V)中において、nは、1以上の整数であり、R、Rは、それぞれ独立に炭素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子、窒素原子をそれぞれ任意の数含む脂肪族環状基または芳香族環状基、または該環状基に任意の1種類以上の置換基が1つ以上結合した環状基であり、L、Lは、それぞれ独立に直鎖または分岐したアルキル鎖、アルキルアミノ鎖、アルキレン鎖、アルコキシ鎖からなる群の何れか1つであり、Lは、アルキル基、アルキレン基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキレンアミノ基、ヒドロキシル基、アルキルヒドロキシル基、アルキレンヒドロキシル基、カルボキシル基、アルキルカルボキシル基、アルキレンカルボキシル基、アルキルアミノカルボキシル基、アルキレンアミノカルボキシル基、ニトロ基、アルキルニトロ基、ニトリル基、アルキルニトリル基、アミド基、アルキルアミド基、カルボニル基、アルキルカルボニル基、スルホン酸基、アルキルスルホン酸基、ホスホン酸基、アルキルホスホン酸基、スルファニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基からなる群の何れか1つである。]。
【0027】
上記一般式(I)乃至(V)中のR、Rにおける置換基としては、アルキル基、アルキレン基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキレンアミノ基、ヒドロキシル基、アルキルヒドロキシル基、アルキレンヒドロキシル基、カルボキシル基、アルキルカルボキシル基、アルキレンカルボキシル基、アルキルアミノカルボキシル基、アルキレンアミノカルボキシル基、ニトロ基、アルキルニトロ基、ニトリル基、アルキルニトリル基、アミド基、アルキルアミド基、カルボニル基、アルキルカルボニル基、スルホン酸基、アルキルスルホン酸基、ホスホン酸基、アルキルホスホン酸基、スルファニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基等が挙げられる。
【0028】
また、上記環状基としては、フェニル基、ナフチル基、フルフリル基、ピリジル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ピリミジル基、イミダゾリル基、チオフェニル基等が挙げられる。
【0029】
そして、このような硫黄系有機化合物としては、特に限定されるものではないが、その一例として、2,2’−ジピリジルジスルフィド、2,2’−ジベンゾチアゾリルジスルフィド、3,3’,5、5’−テトラクロロジフェニルジスルフィド、2,2’−ジチオビス(5−ニトロピリジン)、2,2’−ジチオジ安息香酸、2,2’−ジチオジアニリン、5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)、4,4’−ビス(2−アミノ−6−メチルピリミジル)ジスルフィド、4,4’−ジピリジルスルフィド、6,6’−ジチオジニコチン酸、2,2’−ジチオジサリチル酸、ジフルフリルスルフィド、ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)ジスルフィド、フルフリルメチルジスルフィド、ビス(2−ベンズアミドフェニル)ジスルフィド、ビス(3−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、ジエチルジチオカルバミン酸2−ベンゾチアゾリル、5,5’-チオジサリチル酸、5,5’−ジチオジサリチル酸、(4−ピリジルチオ)酢酸、3−(2−ベンゾチアゾリルチオ)プロピオン酸、4−(2−ベンゾチアゾリルチオ)ホルモリン等が挙げられる。特に、2,2’−ジピリジルジスルフィド、6,6’−ジチオジニコチン酸、2,2’−ジチオジ安息香酸、ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)ジスルフィド等は、トレンチやビアホール等に対してより良好にめっき金属を埋め込むことができ、また使用可能な濃度範囲も広く、経時変化が起こりにくく、分解物の影響が少ない等の観点から、好適に利用することができる。
【0030】
この硫黄系有機化合物は、0.001mg/L〜500mg/Lの濃度範囲で含有させることが好ましく、より好ましくは、0.05mg/〜50mg/Lの濃度範囲で含有させる。濃度が薄い場合にはレベラーとしての効果を十分に発揮させることができず、また一方で濃度が濃い場合にはレベラーとしての効果が強く現れ過ぎてしまい、めっきの析出を阻害したり、基板表面においても、トレンチやビアホール内においても、めっき皮膜の膜厚が非常に薄くなってしまい、トレンチやビアホール内に十分なめっき金属を埋め込むことができなくなる。その結果として、欠陥の多いプリント配線基板が形成されてしまう。したがって、本実施の形態に係る無電解めっき液中においては、硫黄系有機化合物を、0.05mg/L〜50mg/Lの濃度範囲で含有させることが好ましく、この範囲で含有させることにより、レベラーとしての効果を十分に発揮させるとともに、良好にトレンチやビアホール内にめっき金属を埋め込むことができる。
【0031】
このような硫黄系有機化合物の硫黄分子は、金属と強い相互作用を形成し、硫黄分子が金属表面に接すると強く吸着するという性質を有している。そして、この硫黄系有機化合物は、金属イオンと共にめっき液中を拡散し、触媒中に供給されるが、基板表面に比べめっき液の流れの弱いトレンチやビアホール等の内部への供給量は、基板表面への供給量に比べて少なくなる。したがって、トレンチ等の底部に近づくほど硫黄系有機化合物の供給量は少なくなり、無電解めっき反応の抑制作用は小さくなり、これによって結果としてボトムアップ堆積が進行し、トレンチ等の内部にボイド等の欠陥を生じさせることなくめっき金属を埋め込むことが可能となる。
【0032】
また、本実施の形態に係る、環状基を有する硫黄系有機化合物を含有した無電解めっき液によれば、長時間に亘って、ボイドやシーム等の欠陥の発生を抑え、トレンチ等に対して良好なめっき埋め込み性を発揮させることができる。
【0033】
具体的に説明すると、例えば、無電解銅めっき等においては、めっき液中に含有させた還元剤の還元力はpHが上昇するにつれて高くなることから、使用する無電解めっき液のpHをpH10〜14の高アルカリに設定することが好ましい。高アルカリのめっき液中においては、従来の無電解めっき液に用いられている硫黄系有機化合物では、スルホン基やカルボキシル基等の電子吸引基が導入されているのでチオールアニオンが安定化され、ジスルフィド結合が切断されやすくなり、不安定な状態となって自己分解を起こし、長時間安定した状態を維持することができない。その結果として、ボイドやシームといった欠陥の発生を長時間に亘って抑制させることができなかった。
【0034】
しかしながら、本実施の形態に係る無電解めっき液によれば、電子供与基である環状基を有した硫黄系有機化合物を含有させていることから、ジスルフィド結合が切断されにくく、高アルカリの条件下においても自己分解反応を抑制させることが可能となり、長時間に亘って安定した状態・性能を維持させることができ、長時間に亘って、ボイドやシーム等の欠陥を発生させずに、良好なめっき皮膜の形成させることができる。
【0035】
さらに、吸着性の高い環状基を有した硫黄系有機化合物を含有させることで、レベラーの析出速度への影響に対する流速依存性が大きくなり、レベラーとしての効果を高めることが可能となり、より良好に、大きなトレンチやビアホールに対しても欠陥を生じさせることなくめっき金属を埋めることができるとともに、凹凸のない滑らかな表面を有するめっき皮膜を形成させることができる。
【0036】
本実施の形態に係る無電解めっき液においては、上述した水溶性第二銅塩や水溶性ニッケル塩等の金属イオン源と、その金属イオンの還元剤と、金属イオン源を安定して保持する錯化剤と、レベラーとして用いる硫黄系有機化合物のほかに、さらに、界面活性剤、めっき析出促進剤等を含有させることができ、また安定剤・皮膜物性改善剤等の添加剤を含有させることもできる。以下、これらの化合物について詳述するが、本実施の形態に係る無電解めっき液に含有される化合物は、下記の列挙する化合物に限定されるものではない。
【0037】
界面活性剤としては、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、アルキルエーテル、ポリオキシアルキレングリコール共重合体、ポリオキシアルキレングリコールアルキルエーテル共重合体等を用いることができ、これらの界面活性剤を少なくとも1種含み、または任意の割合で2種以上を含有させてもよい。この界面活性剤の濃度としては、0.1mg/L〜10000mg/Lが好ましい。
【0038】
界面活性剤の効果としては、反応により発生する水素ガスをトレンチやビアホールから離れやすくする効果がある。さらに、以下のような効果も得られる。
【0039】
すなわち、本実施の形態に係る無電解めっき液に含有される硫黄系有機化合物は、めっき液中において分子同士が凝集する傾向があり、めっき処理によって形成されためっき皮膜の表面に凹凸等のムラが生じたり、トレンチやビアホール等の内部にボイド等の空隙を形成させてしまい、埋め込み不良が発生する。そこで、上記で列挙した界面活性剤等をめっき液中に含有させることによって、硫黄系有機化合物分子の分散を促進させることが可能となり、トレンチ等の内部にボイドやシーム等の欠陥の発生を抑制させることができる。
【0040】
めっき析出促進剤としては、ポリアミン、ポリアルカノールアミン、ポリアミノポリカルボン酸またはその塩、塩化物イオン、硝酸イオン、8−ヒドロキシ−7−ヨード−5−キノリンスルホン酸等を用いることができ、これらの促進剤を1種、または任意の割合で2種以上を含有させてもよい。
【0041】
より具体的に、ポリアミンとしては、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン等が挙げられる。また、ポリアルカノールアミンとしては、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。ポリアミノポリカルボン酸としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸ジエチレントリアミン五酢酸等が挙げられる。これらのめっき金属の析出促進剤を含有させることによって、トレンチやビアホール等の底部からのめっき成長効果(ボトムアップ効果)を促進させることができ、十分なめっき速度でボイドやシーム等の欠陥のないめっき皮膜を効率的に形成させることができる。
【0042】
また、本実施の形態に係る無電解めっきにおいては、安定剤・皮膜物性改善剤などの添加剤を含有させることができる。この安定剤・皮膜物性改善剤としては、2,2’−ビピリジル、1,10−フェナントロリン等の公知の化合物を少なくとも1種、または任意の割合で2種以上を含有させることができる。
【0043】
以上に説明した化合物を含有させることによって生成される本実施の形態に係る無電解めっき液の使用方法としては、公知の無電解めっき液の使用方法・条件を適用することができ、特に限定はされるものではないが、好ましい使用方法としては、以下のような条件の使用が挙げられる。
【0044】
例えば、硫酸銅等の水溶性金属塩を主成分として、還元剤、錯化剤、硫黄系有機化合物からなるレベラーを含有させるとともに、界面活性剤、めっき析出促進剤、安定剤・皮膜物性活性剤を含有させて、本実施の形態に係る無電解めっき液を建浴する。このめっき液中に、レーザー等によって回路パターン(トレンチ等)を形成して、脱脂、水洗、活性化等の前処理を施し、さらに触媒を付与した被めっき物である絶縁樹脂基板を浸漬させる。この無電解銅めっき液のpHは特に限定されないが、pH10〜14とすることが好ましい。無電解銅めっき液のpHを、このように高アルカリ条件の範囲とすることにより、効率的な銅イオン等の金属イオンの還元反応が進行し、金属めっき皮膜の析出速度が良好となるという効果が得られる。本実施の形態に係る無電解めっき液には、pHをpH10〜14の範囲に維持させるために、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム等のpH調整剤を含有させることができる。好ましくは、これらのpH調整剤としての化合物を水で希釈して適宜添加する。
【0045】
また、本実施の形態に係る無電解めっき液のめっき時の温度については、例えば硫酸銅等に由来する銅イオン等の金属イオンの還元反応が起こる温度であれば特に限定はされないが、効率の良い還元反応を起こさせるために、めっき温度は20〜90℃とすることが好ましく、特に50〜70℃とすることが好ましい。
【0046】
また、本実施の形態に係る無電解めっき液を用いて無電解めっき処理を行うにあたっては、めっきの進行により、金属イオンが還元剤によって金属に還元される結果、めっき液中の金属イオン濃度、還元剤濃度が低下し、またpHも低下することになる。したがって、連続的に、または適当な時間毎に、無電解めっき液中に、金属イオン源としての水溶性第二銅塩や水溶性ニッケル塩、還元剤、錯化剤、レベラー等を補給して、それらの濃度を一定の濃度範囲に維持させておくことが好ましい。連続的に、または適当な時間毎に、めっき液中の金属イオン濃度、還元剤濃度やpH等を測定し、その測定結果に応じて、それらを補給することが好ましい。
【0047】
また、被めっき物である絶縁樹脂基板に対して無電解めっき処理を行うにあたり、形成したトレンチやビアホールの底に銅のような金属がある場合には、トレンチやビアホールの内部に触媒を付与することなく、無電解めっき液を接触させるようにしてもよい。すなわち、トレンチ等の内部に触媒を付与せずに無電解めっき液を接触させ、トレンチ等の内部にめっき金属を埋め込んだ後に触媒を付与して、例えば銅配線等を形成させるようにする。このように、トレンチ等の内部へのめっき金属を埋め込むにあたって、触媒を付与せずに無電解めっき液を接触させることにより、トレンチ等の底部から開口部に向かって順にめっき金属が埋め込まれるようにすることが可能となる。そして、トレンチ等の開口部付近の側壁からのめっき成長に基づくめっきの重なりを抑制し、そのめっきの重なりに基づくボイド等の欠陥の発生を抑制することができる。上述した環状基を有する硫黄系有機化合物を含有した無電解めっき液を用いるとともに、このような無電解めっき処理を行うことにより、トレンチ等に対して、ボイドやシーム等の欠陥を発生させることなく、より一層良好に、めっき金属を埋め込むことができる。
【0048】
以上、詳細に説明したように、本実施の形態に係る無電解めっき液は、そのめっき液中に、硫黄系有機化合物を含有させていることから、ボイドやシーム等の欠陥を発生させることなく、トレンチやビアホール等に対してめっき金属を埋め込むことができる。また、その硫黄系有機化合物は、環状基を有していることから、高アルカリ性のめっき液条件下においても、自己分解を起こすことなく安定した状態及び性能を維持することが可能となり、長時間に亘って、欠陥のない良好なめっき皮膜を形成させることできる。さらに、環状基を有していることにより、レベラーとしての効果を高めることが可能となり、トレンチ等に対して欠陥のないより良好なめっき金属の埋め込みと、めっき皮膜形成を実現するとともに、凹凸のない、滑らかな表面を有するめっき皮膜を形成することができる。
【0049】
そして、このような優れた効果を有する本実施の形態に係る無電解めっき液によれば、高速信号を扱うプリント配線基板や、配線密度の高いプリント配線基板のめっき処理に好適に利用することができ、短絡や断線等の接続不良がなく、信頼性の高い、良好な配線基板を製造することができる。
【0050】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限られるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲での設計変更等があっても本発明に含まれる。また、上述した本実施の形態に係る無電解めっき液中に含有される種々の化合物は、適用することができる一例を示したものであり、上記列挙したものに限られるものでない。
【実施例】
【0051】
以下、本発明のより具体的な実施例について説明する。なお、本発明に係る無電解めっき液は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
一般的な絶縁樹脂(味の素ファインテクノ株式会社製ABF-GX13)を積層した基板にビアホール形成に用いるレーザー加工機(日立ビアメカニクス株式会社製)を使用して幅20μm、深さ13μmのトレンチ(回路)を形成した。
【0053】
引き続き、触媒付与プロセス(上村工業株式会社製スルカッププロセス:クリーナーコンディショナーACL-009,プレディップPED-104,キャタリストAT-105,アクセレレータAL-106)により触媒(シード層)を付与し、下記の組成に調製した無電解銅めっき液を用いて、70℃の温度条件で2時間無電解銅めっき処理を行い、トレンチに銅めっきを埋め込んで、銅めっき皮膜を形成させた。そして、めっき処理後、断面観察にてトレンチの埋まり性を測定した。
【0054】
<無電解銅めっき液組成(実施例1)>
硫酸銅:0.04mol/L
EDTA:0.1mol/L
水酸化ナトリウム:4g/L
ホルムアルデヒド:4g/L
2,2’−ビピリジル:2mg/L
ポリエチレングリコール(分子量1000):1000mg/L
2,2’−ジピリジルジスルフィド:5mg/L
(実施例2)
実施例1と同様に一般的な絶縁樹脂(味の素ファインテクノ株式会社製ABF-GX13)を積層した基板にマスキングテープ(住友スリーエム株式会社製851T)を貼った後、ビアホール形成に用いるレーザー加工機(日立ビアメカニクス株式会社製)を使用してマスキングテープごと加工し、絶縁樹脂に幅10μm、深さ16μmのトレンチ(回路)を形成した。
【0055】
引き続き、触媒付与プロセス(上村工業株式会社製スルカッププロセス:クリーナーコンディショナーACL-009,プレディップPED-104,キャタリストAT-105,アクセレレータAL-106)により触媒(シード層)を付与し、その後、マスキングテープをはがして、トレンチ内にのみ触媒を付与した。
【0056】
その後、下記の組成に調製した無電解銅めっき液を用いて、60℃の温度条件で2時間無電解銅めっき処理を行い、トレンチに銅めっきを埋め込んで、銅めっき皮膜を形成させた。そして、めっき処理後、断面観察にてトレンチの埋まり性を測定した。
【0057】
<無電解銅めっき液組成(実施例2)>
硫酸銅:0.04mol/L
HEDTA:0.1mol/L
水酸化ナトリウム:4g/L
ホルムアルデヒド:4g/L
2,2’−ビピリジル:2mg/L
ポリエチレングリコール(分子量1000):1000mg/L
6,6’−ジチオジニコチン酸:5mg/L
(比較例1)
実施例1と同様に一般的な絶縁樹脂(味の素ファインテクノ株式会社製ABF-GX13)を積層した基板にビアホール形成に用いるレーザー加工機(日立ビアメカニクス株式会社製)を使用して幅20μm、深さ13μmのトレンチ(回路)を形成した。
【0058】
引き続き、触媒付与プロセス(上村工業株式会社製スルカッププロセス:クリーナーコンディショナーACL-009,プレディップPED-104,キャタリストAT-105,アクセレレータAL-106)により触媒(シード層)を付与し、その後、フルアディティブ無電解銅めっき液(上村工業株式会社製スルカップSP2)を用いて、70℃の温度条件で2時間無電解銅めっき処理を行い、トレンチに銅めっきを埋め込んで、銅めっき皮膜を形成させた。そして、めっき処理後、断面観察にてトレンチの埋まり性を測定した。
【0059】
(比較例2)
実施例1と同様に一般的な絶縁樹脂(味の素ファインテクノ株式会社製ABF-GX13)を積層した基板にビアホール形成に用いるレーザー加工機(日立ビアメカニクス株式会社製)を使用して幅20μm、深さ13μmのトレンチ(回路)を形成した。
【0060】
引き続き、触媒付与プロセス(上村工業株式会社製スルカッププロセス:クリーナーコンディショナーACL-009,プレディップPED-104,キャタリストAT-105,アクセレレータAL-106)により触媒(シード層)を付与し、その後、ウエハー上のトレンチ回路形成を目的として下記の組成に調製した無電解銅めっき液を用いて、70℃の温度条件で2時間無電解銅めっき処理を行い、トレンチに銅めっきを埋め込んで、銅めっき皮膜を形成させた。そして、めっき処理後、断面観察にてトレンチの埋まり性を測定した。
【0061】
<無電解銅めっき(比較例2)>
硫酸銅:0.04mol/L
EDTA:0.1mol/L
水酸化ナトリウム:4g/L
ホルムアルデヒド:4g/L
2,2’−ビピリジル:2mg/L
ポリエチレングリコール(分子量1000):1000mg/L
スルフォプロピルスルフォネート:0.5mg/L
(比較例3)
実施例2と同じく一般的な絶縁樹脂(味の素ファインテクノ株式会社製ABF-GX13)を積層した基板にマスキングテープ(住友スリーエム株式会社製851T)を貼った後、ビアホール形成に用いるレーザー加工機(日立ビアメカニクス株式会社製)を使用してマスキングテープごと加工し、絶縁樹脂に幅10μm、深さ16μmのトレンチ(回路)を形成した。
【0062】
引き続き、触媒付与プロセス(上村工業株式会社製スルカッププロセス:クリーナーコンディショナーACL-009,プレディップPED-104,キャタリストAT-105,アクセレレータAL-106)により触媒(シード層)を付与し、マスキングテープをはがして、トレンチ内にのみ触媒を付与した。
【0063】
その後、フルアディティブ無電解銅めっき液(上村工業株式会社製スルカップSP2)を用いて、70℃の温度条件で2時間無電解銅めっき処理を行い、トレンチに銅めっきを埋め込んで、銅めっき皮膜を形成させた。そして、めっき処理後、断面観察にてトレンチの埋まり性を測定した。
【0064】
(比較例4)
実施例1と同様に一般的な絶縁樹脂(味の素ファインテクノ株式会社製ABF-GX13)を積層した基板にビアホール形成に用いるレーザー加工機(日立ビアメカニクス株式会社製)を使用して幅20μm、深さ13μmのトレンチ(回路)を形成した。
【0065】
引き続き、触媒付与プロセス(上村工業株式会社製スルカッププロセス:クリーナーコンディショナーACL-009,プレディップPED-104,キャタリストAT-105,アクセレレータAL-106)により触媒(シード層)を付与し、下記の組成に調製した無電解銅めっき液を用いて、70℃の温度条件で2時間無電解銅めっき処理を行い、トレンチに銅めっきを埋め込んで、銅めっき皮膜を形成させた。そして、めっき処理後、断面観察にてトレンチの埋まり性を測定した。
【0066】
<無電解銅めっき液組成(比較例4)>
硫酸銅:0.04mol/L
EDTA:0.1mol/L
水酸化ナトリウム:4g/L
ホルムアルデヒド:4g/L
2,2’−ビピリジル:2mg/L
ポリエチレングリコール(分子量1000):1000mg/L
アセジアスルホン:1000mg/L
(比較例5)
実施例1と同様に一般的な絶縁樹脂(味の素ファインテクノ株式会社製ABF-GX13)を積層した基板にビアホール形成に用いるレーザー加工機(日立ビアメカニクス株式会社製)を使用して幅20μm、深さ13μmのトレンチ(回路)を形成した。
【0067】
引き続き、触媒付与プロセス(上村工業株式会社製スルカッププロセス:クリーナーコンディショナーACL-009,プレディップPED-104,キャタリストAT-105,アクセレレータAL-106)により触媒(シード層)を付与し、下記の組成に調製した無電解銅めっき液を用いて、70℃の温度条件で2時間無電解銅めっき処理を行い、トレンチに銅めっきを埋め込んで、銅めっき皮膜を形成させた。そして、めっき処理後、断面観察にてトレンチの埋まり性を測定した。
【0068】
<無電解銅めっき液組成(比較例5)>
硫酸銅:0.04mol/L
EDTA:0.1mol/L
水酸化ナトリウム:4g/L
ホルムアルデヒド:4g/L
2,2’−ビピリジル:2mg/L
ポリエチレングリコール(分子量1000):1000mg/L
ジフェニルスルホキシド:100mg/L
(実験結果)
下記の表1は、各実施例及び各比較例それぞれの実験結果、すなわちボイドまたはシームの発生の有無、銅めっきの埋まり性についての評価結果を示すものである。なお、断面観察においては、顕微鏡(LEICA社製 DMI3000M)を用いて測定した。
【0069】
なお、この実験結果の評価にあたり、実施例1、比較例1、比較例2、比較例4、及び比較例5と、実施例2及び比較例3とでは、トレンチ形成工程に違い(マスキングテープ使用の有無の違い)があることから、それぞれにおいて下記の表1にある「基板表面めっき厚み」、「くぼみ」、「トレンチ内めっき厚み」の定義が異なり、具体的には図1に示す通りである。実施例1、比較例1、比較例2、比較例4、及び比較例5が図1(A)の定義に属し、実施例2及び比較例3が図1(B)の定義に属する。
【0070】
【表1】

【0071】
この表1の結果に示されるように、比較例1及び3では、トレンチ内にボイドまたはシームが発生し、そのトレンチに対しても十分に銅めっきを埋め込むことができなかった。また、比較例2では、トレンチ内におけるボイドやシームの発生は確認できなかったものの、トレンチに十分な銅めっきを埋め込むことができなかった。
【0072】
また、比較例4及び5では、トレンチ内におけるボイドやシームの発生は確認できなかったものの、トレンチに十分な銅めっきを埋め込むことができなかった。
【0073】
これらの比較例1〜5に対して、本発明の一実施形態に係る無電解銅めっき液を用いて行った実施例1及び2では、トレンチ内にボイドやシーム等の欠陥を形成させることなく、トレンチに対して十分な銅めっきを埋め込むことができた。また、比較例1〜3と比較して、くぼみの深さが1/2以下となっていることからも判るように、11.6μm(実施例1)、15.0μm(実施例2)という厚みを有したトレンチに対しても、十分に銅めっきを埋め込むことができ、良好なプリント配線基板を形成させることが可能であることが判った。
【0074】
この結果から、本実施の形態に係る無電解めっき液を用いて無電解めっき処理を行うことにより、大きなトレンチやビアホールに対しても、ボイドやシーム等の欠陥を発生させることなく、十分にめっき金属を埋め込むことができることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、水溶性金属塩と、還元剤と、錯化剤とを含有するとともに、下記一般式(I)乃至(V)の何れかで表される少なくとも1種の硫黄系有機化合物からなるレベラーを含有する無電解めっき液。
−(S)−R (I)
−L−(S)−R (II)
−L−(S)−L−R (III)
−(S)−L (IV)
−L−(S)−L (V)
[一般式(I)乃至(V)中、nは、1以上の整数、
、Rは、それぞれ独立に炭素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子、窒素原子をそれぞれ任意の数含む脂肪族環状基または芳香族環状基、または該環状基に任意の1種類以上の置換基が1つ以上結合した環状基、
、Lは、それぞれ独立に直鎖または分岐したアルキル鎖、アルキルアミノ鎖、アルキレン鎖、アルコキシ鎖からなる群の何れか1つであり、
は、アルキル基、アルキレン基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキレンアミノ基、ヒドロキシル基、アルキルヒドロキシル基、アルキレンヒドロキシル基、カルボキシル基、アルキルカルボキシル基、アルキレンカルボキシル基、アルキルアミノカルボキシル基、アルキレンアミノカルボキシル基、ニトロ基、アルキルニトロ基、ニトリル基、アルキルニトリル基、アミド基、アルキルアミド基、カルボニル基、アルキルカルボニル基、スルホン酸基、アルキルスルホン酸基、ホスホン酸基、アルキルホスホン酸基、スルファニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基からなる群の何れか1つである。]
【請求項2】
上記硫黄系有機化合物の濃度は、0.05mg/L〜50mg/Lである請求項1記載の無電解めっき液。
【請求項3】
上記硫黄有機化合物は、2,2’−ジピリジルジスルフィド、6,6’−ジチオジニコチン酸、2,2’−ジチオジ安息香酸、ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)ジスルフィドからなる群から選択される請求項1又は2記載の無電解めっき液。
【請求項4】
請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の無電解めっき液を用いる無電解めっき方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の無電解めっき液を用いた無電解めっき処理により、基板に形成されたトレンチまたはビアホールにめっき金属を埋め込み、配線基板を形成する配線基板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−31361(P2010−31361A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137130(P2009−137130)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(000189327)上村工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】