説明

無電解ニッケルめっき液の長寿命化装置

【課題】無電解Niめっき液の連続循環使用回数を増大して、廃液量を減少し、成分原料のロスを減少させる。
【解決手段】Niめっき液槽21に連結された第1電気透析ユニット1中に、次亜リン酸イオン、亜リン酸イオン、SO42-を透過するが、有機酸イオンを透過しない第1陰イオン交換膜4と、Na+を透過するがNi2+を透過しない第1陽イオン交換膜5とを交互に配置し、その第1濃縮室7に連結された第2電気透析ユニット11中に、次亜リン酸イオンと有機酸イオンを透過するが、亜リン酸イオンとSO42-を透過しない第2陰イオン交換膜14と、H+を透過するがNa2+を透過しない第2陽イオン交換膜とを交互に配置し、その第2濃縮室17をNiめっき液槽21に連結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解ニッケルめっき液の長寿命化装置に関するものである。更に詳しく述べるならば、本発明は、使用中の無電解ニッケルめっき液を精製し、その有効成分を再利用して、めっき液を長寿命化する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼、銅、アルミニウム、亜鉛めっき鋼板、及びプラスチック材料などの被めっき材料に、無電解ニッケルめっきを施すには、ニッケルイオンと、次亜リン酸イオンとを主成分として含むめっき液浴中に、前記被めっき材料を、例えば80℃以上の温度において、浸漬し、それによって被めっき材料の表面に金属ニッケルを均一に析出させる方法が行われている。この無電解ニッケルめっき方法において、下記の化学反応が行われる。
Ni2++H2PO2-+H2O→Ni0+H2PO3-+2H+ (1)
上記無電解ニッケルめっきにおいて、ニッケルイオンが還元されて、金属ニッケルが析出されると、次亜リン酸イオンは酸化されて亜リン酸イオンが生成する。また、次亜リン酸は、下記式に従って加水分解して、亜リン酸を生成する。
2PO2-+H2O→H2PO3-+H2
ニッケルメッキ液浴中の亜リン酸含有量が増加すると、めっき反応は緩慢になり、通常、めっき液浴は、最大6ターン(建浴時のめっき浴のNi濃度に換算して、6回分)の後、廃棄され、新らしいめっき液浴が建浴される。
【0003】
通常、ニッケルが、硫酸塩として供給される場合、使用中の無電解ニッケルめっき液には、ニッケルイオン、次亜リン酸イオン、亜リン酸イオン、硫酸イオン、pH調整用ナトリウムイオン及び錯化剤として有機酸イオンが含まれている。これらの含有イオンのうちニッケルめっきに有効な成分はニッケルイオン、次亜リン酸イオン、及び有機酸イオンであり、その他のイオン、すなわちナトリウムイオン、硫酸イオン、亜リン酸イオンについては、その含有量を、許容量の範囲内にコントロールされることが、無電解ニッケルめっき液の長寿命化をはかるために重要なことである。すなわち、ナトリウムイオンは、めっき液のpHを、所定の範囲内にコントロールするために不可欠であり、かつ硫酸イオンは、ニッケルイオンの対イオンであるので、ニッケルイオンの消費とともにめっき液中に、残存蓄積される。めっき液中のナトリウムイオン及び硫酸イオンの含有濃度が高くなると、ぼう硝を形成して、めっき液中に晶析し、めっき液を使用不能にする。亜リン酸は、めっき反応における次亜リン酸の酸化により形成され、それがめっき液中に蓄積されると、めっき反応の進行を阻害し、めっき性能も劣化し、かつ亜リン酸ニッケルの生成・沈澱を発生させる。このため、従来の無電解ニッケルめっきにおいては、めっき浴を、所定ターン数だけ使用した後、これを廃棄していた。この廃棄ニッケルめっき液中には、上記成分化合物が、高い濃度で含まれ、かつ、廃棄量も多いため、高価のニッケルが大量に廃棄されていた。また、廃液は、最終的にはスラッジとして、埋め立て処分に供されるが、埋立地の減少及び制限により、従来のニッケルめっき液の廃棄は困難になっている。
【0004】
無電解ニッケルめっき液の長期間の使用、すなわち、長寿命化を達成するためには、使用中、又は使用後の無電解ニッケルめっき液中の有効主成分すなわちニッケル及び次亜リン酸及び有機酸を所望水準濃度に保持しながら、過剰の硫酸イオン、ナトリウムイオン及び亜リン酸イオンを除去することが必要である。
【0005】
このような無電解ニッケルめっき液の処理システムとして、特開昭63−303078号公報(特許文献1)には、トータルセプターンシステムが開示されており、このシステムにおいては、アノードと、カソードとの間に、第1極液用隔膜/第1陽イオン交換膜/第1陰イオン交換膜/第2陽イオン交換膜/第2陽イオン交換膜/第2極液用角膜を配置し、処理すべきニッケルめっき液(希釈液)を、第1極液用隔膜と第1陽イオン交換膜との間、第1陰イオン交換膜と第2陽イオン交換膜との間、及び第2陰イオン交換膜と第2極液用隔膜との間に設けられた希釈室内に送入し、これに電気透析処理を施して、第1陽イオン交換膜と第1陰イオン交換膜との間、及び第2陽イオン交換膜と第2陰イオン交換膜との間に形成されて濃縮室に透析された、濃縮液(ナトリウムイオン、硫酸イオン及び亜リン酸イオンを含む)を捕集する。この濃縮液は廃棄されてもよく或は、必要によりその一部を第1陽イオン交換膜と第1陰イオン交換膜との間及び第2陽イオン交換膜と第2陰イオン交換膜との間の濃縮室に送り込んでもよい。また前記希釈室から送り出された希釈排出液には、ニッケルイオン、次亜リン酸イオン及び有機酸イオンが含まれており、これを、ニッケルめっき浴に還流して、再使用することができる。
しかし、上記特許文献1のシステムにおいて用いられている陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜は、それぞれ、ニッケルイオン、次亜リン酸イオン及び有機酸イオンに対する透過阻止性が不十分なものであるため、回収すべきニッケルイオン、次亜リン酸イオン及び有機酸イオンの一部分が濃縮液中に含まれて除去されてしまうという問題点があった。
【0006】
上記問題点を解消するために、特開2004−52029号公報(特許文献2)には、1次電気透析槽、補助電気透析槽及び2次電気透析槽からなる3槽システムを用い、1次電気透析槽の1次脱塩室を、硫酸イオン及び亜リン酸イオンを透過する1次陰イオン交換膜とナトリウムイオン透過性1次陽イオン交換膜との間に形成し、この1次脱塩室に無電解ニッケルめっき浴から供給されためっき液を送入してこれに1次電気透析処理を施し、前記1次陰イオン交換膜及び1次陽イオン交換膜を透過した第1濃縮液を捕集する。前記補助電気透析槽において、硫酸イオン及び亜リン酸イオンを透過する補助陰イオン交換膜と、ナトリウムイオンを透過する補助陽イオン交換膜との間に、補助脱塩室を形成し、1次電気透析槽から送り出された前記第1濃縮液を、補助脱塩室に送り込んでこれに電気透析処理を施し、補助陰イオン交換膜及び補助陽イオン交換膜を、透過した第2濃縮液を捕集し、そのpHを、7〜8に調整する。前記2次電気透析槽において、亜リン酸イオン及び有機酸イオン透過性2次陰イオン交換膜と、次亜リン酸イオン及びナトリウムイオン透過性2次陽イオン交換膜との間に2次脱塩室を形成し、この2次脱塩室に、補助電気透析槽のpH調整された第3濃縮液を送入し、これに、2次電気透析処理を施し、2次陰イオン交換膜及び2次陽イオン交換膜を透過した。第3濃縮液を捕集して、ニッケルめっき浴に還流する。
上記特許文献2に開示された、3段電気透析装置は、従来の1次電気透析法にくらべれば、次亜リン酸イオン及び有機酸イオンの回収効果においてすぐれている。しかし、有効成分(ニッケルイオン、次亜リン酸イオン及び有機酸イオン)と除去すべき成分(亜リン酸イオン、硫酸イオン、ナトリウムイオンなど)との分離効果は、未だ不十分である。また、3段の電気透析方法は、コストが高くなり、実用上経済的問題を生ずる。
【0007】
特許第3420570号公報(特許文献3)には2段電気透析方法が開示されており、この方法において、第1段、電気透析ユニットにアノード側陰イオン交換膜Aとカソード側1価イオン選択性陽イオン交換膜KSとからなる複数の陰/陽イオン交換膜対を配置し、これらの陰イオン交換膜A及び陽イオン交換膜KSとの間に形成された希釈室中に、無電解ニッケルめっき浴から供給されためっき液を含む第1希釈液を送入して、これに第1段電気透析処理を施す。それによって陰イオン交換膜Aを透過した陰イオン(次亜リン酸イオン、亜リン酸イオン、有機酸イオン、硫酸イオンを含む)を含有する濃縮液と、1価選択性陽イオン交換膜KSを透過した1価の陽イオン(ナトリウムイオン、水素イオン)を含有する濃縮液とを捕集する。第2電気透析ユニットには、アノード側1価イオン選択性陰イオン交換膜ASとカソード側陰イオン交換膜Aとからなる複数のイン/アノード側1価イオン選択性陰イオン交換膜ASと、カソード側陰イオン交換膜Aとの間に形成された第2希釈室に前記第1電気透析ユニットから送り出された濃縮液の混合物を送入して、これに第2電気透析処理を施す。それによって、1価イオン選択性陰イオン交換膜ASを透過し、かつ次亜リン酸イオン及び有機酸イオン、ヒドロキシルイオン(OH-)を含有する濃縮液を捕集し、めっき浴に還流する。また第1電気透析ユニットの希釈室から送り出されたニッケルイオン含有希釈排出液もめっき浴に還流される。第2電気透析ユニットの希釈室から送り出される希釈排出液は、硫酸イオン、亜リン酸イオン及びナトリウムイオンを含み、これは廃棄されるか、或は、第1電気透析ユニットの濃縮室から送り出された濃縮液に混合される。第1電気透析ユニットによる濃縮液混合物(第2希釈液)は、第2電気透析ユニットの希釈室に送り込まれ、そのpHは、8.5に調整される。それによって、第2希釈液中の亜リン酸イオンは、−1価から−2価になる。
【0008】
上記特許文献3に記載の装置は、第1電気透析ユニットにおいて、希釈液中の有機酸イオンが次亜リン酸イオンとともに陰イオン交換膜Aを透過してしまうという問題点、また、ニッケルイオンの一部が透析されるという問題点、さらに、透析されたニッケルを回収するために、陽イオン交換樹脂の併用が必要であるという問題点などがある。さらに、第2電気透析ユニットにおいても、陰イオン交換膜と、1価選択性陰イオン交換膜の組み合わせが用いられ、かつそれに供給される希釈液がアルカリ性に調整されているため、次亜リン酸イオン、有機酸イオン、及びヒドロキシルイオン(OH-)が透析され、それによって、得られる濃縮液のpHの変動が大きく、しばしばpHの再調整を施す必要があるなどの問題点がある。さらに、第2電気透析ユニットにおいて、1価選択性陰イオン交換膜と、陰イオン交換膜とが2対以上配置されている場合、希釈室より、1価選択性陰イオン交換膜により、1価陰イオンのみを、透過して得られた濃縮液は、濃縮室に収容され、さらに陰イオン交換膜を通して、再度希釈室に導入されてしまうという問題点がある。本発明者らの実験によれば、上記引用文献3の第2段電気透析工程において、前記1価選択性陰イオン交換膜と、陰イオン交換膜とが、2対以上設けられた場合、かなりの透析時間経過後でも、次亜リン酸イオンの透析補修成績は、約50%程度であり、また、希釈室及び濃縮室内のpHが変動する。そのpH値の調整のためには、処理されるニッケルめっき液に、予じめ硫酸又は水酸化ナトリウムなどのpH調整剤を添加する必要を生じ、このため、ニッケルめっき液中に、無電解ニッケルめっきにとって、必ずしも必要でない成分が添加されることになる。
【0009】
【特許文献1】特開昭63−303078号公報
【特許文献2】特開2004−52029号公報
【特許文献3】特許第3420570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、電気透析法を利用して、無電解ニッケルめっき液中の有効成分すなわちニッケルイオン、次亜リン酸イオン、及び有機酸イオンの回収率を向上させ、濃度増加を防止すべき成分、すなわち、亜リン酸イオン、硫酸イオン及びナトリウムイオンなどを効率よく除去し、かつ電気透析に供される被処理液のpH変動を抑止し得る無電解ニッケルめっき液の長寿命化を達成する装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の無電解ニッケルめっき液の長寿命化装置は、アノードに対向して設けられたアノード極液用隔膜と、カソードに対向して設けられたカソード極液用隔膜との間に、それぞれm個(但し、mは1以上整数を表す)の第1陰イオン交換膜及び第1陽イオン交換膜が交互に配置され、互いに対をなして対向している第1陰イオン交換膜と第1陽イオン交換膜との間に、m個の第1希釈室が形成され、互に相隣る第1陽イオン交換膜と第1陰イオン交換膜との間、前記アノードに最も近い第1陰イオン交換膜と前記アノード極液用隔膜との間、及び前記カソードに最も近い第1陽イオン交換膜と前記カソード極液用隔膜との間に、(m+1)個の第1濃縮室が形成されている第1電気透析ユニット1と、
アノード12に対向して設けられたアノード極液用隔膜と、カソード13に対向して設けられたカソード極液用隔膜との間に、それぞれn個(但し、nは1以上の整数を表す)の第2陰イオン交換膜14及び第2陽イオン交換膜15が交互に配置され、互に対をなして対向している第2陰イオン交換膜と第2陽イオン交換膜との間にn個の第2希釈室16が形成され、互に相隣る第2陽イオン交換膜と第2陰イオン交換膜との間、前記アノードに最も近い第2陰イオン交換膜のアノード側及び前記カソードに最も近い第2陽イオン交換膜のカソード側に、n+1個の第2濃縮室17が形成されている第2電気透析ユニット11とを含み、
前記第1希釈室の入口8は、ニッケルイオン、ナトリウムイオン、水素イオン、次亜リン酸イオン、有機酸イオン、亜リン酸イオン及び硫酸イオンを含む無電解ニッケルめっき液を収容するニッケルめっき液槽21に、送液ライン22を介して連通しており、
前記第1濃縮室の出口9は、前記第2希釈室の入口18に、第1濃縮液送液ライン23を介して連通しており、かつ
前記第2濃縮室の出口19は、前記ニッケルめっき液槽に、第2濃縮液送液ライン24を介して連通している電気透析装置を含み、
前記第1陰イオン交換膜は、次亜リン酸イオン、亜リン酸イオン、及び硫酸イオンを透過し、しかし有機酸イオンを透過しない陰イオン選択透過性を有し、
前記第1陽イオン交換膜は、ナトリウムイオンを透過し、しかしニッケルイオンを透過しない1価陽イオン選択透過性を有し、
前記第2陰イオン交換膜は、次亜リン酸イオン及び有機酸イオンを透過し、しかし亜リン酸イオン及び硫酸イオンを透過しない1価陰イオン選択透過性を有し、
前記第2陽イオン交換膜は、水素イオンを透過するが、しかしナトリウムイオンの透過を抑制する水素イオン選択透過性を有する
ことを特徴とするものである。
本発明の無電解ニッケルめっき液長寿命化装置において、前記第1希釈室の出口8aが、前記第2濃縮室に、送液ライン26を介して、連通していることが好ましい。
本発明の無電解ニッケルめっき液長寿命化装置において、前記第2希釈室の出口18aが、廃液槽25に、送液ライン27及び循環槽28を介して、連通していることが好ましい。
本発明の無電解ニッケルめっき液長寿命化装置において、前記循環槽28が、前記第1濃縮室に、循環ライン29を介して、連通していることが好ましい。
本発明の無電解ニッケルめっき液長寿命化装置において、前記循環槽28にpH調整手段が取り付けられていることが好ましい。
本発明の無電解ニッケルめっき液長寿命化装置において、前記第1濃縮室7が、前記第1濃縮液送液ライン23を介して、第1濃縮液槽30に連通し、さらに送液ライン23aを介して前記第2希釈室の入口に連通し、第2希釈室の出口は、前記第1濃縮液槽30に送液ライン33を介して連通し、第2濃縮室の出口は送液ライン34を介して、第2濃縮液槽31に連通し、さらに送液ライン36を介して、前記ニッケルめっき液槽21に連通し、前記第1濃縮液槽30は、送液ライン35を介して、廃液槽25に連通していることが好ましい。
本発明の無電解ニッケルめっき液長寿命化装置において、第1濃縮液槽30に、pH調整手段が取り付けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
従来の無電解ニッケルめっき装置においては、そのニッケルめっき浴は、1〜6ターン使用された後に廃棄され、新液と交換されていたが、本発明の無電解ニッケルめっき液の長寿命化装置を用いることにより100回以上のめっき工程に連続して使用することが可能になる。上記のように、ニッケルめっき液の実用回数が著しく増大した結果、めっき液の廃棄量が著しく減少し、高価なニッケルの並びに有機酸、次亜リン酸の有効利用効率が増大し、また廃液中の有機酸イオンの含有量が少ないので、廃液のBOD及びCOD値が著しく低減する。一方、連続使用されるニッケルめっき浴中の亜リン酸、次亜リン酸及びニッケルのイオン濃度が一定に保持されるため、ニッケルのめっき析出速度が安定化され、かつめっき浴の安定度も一定となる。さらに、本発明装置により、連続使用中のニッケルめっき浴中におけるナトリウムイオン及び硫酸イオン濃度上昇によるぼう硝の発生が防止され、従って、めっき浴配管及びめっき槽内におけるぼう硝発生によるめっき作業の妨害事故も実質上完全に防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の無電解ニッケルめっき液の長寿命化装置は、図1に示されているように、第1電気透析ユニット1と、第2電気透析ユニット11とを含むものである。
前記第1電気透析ユニット1にはアノード2と、それに対向しているアノード極液用隔膜2aと、並びにカソード3と、それに対向しているカソード極液用隔膜3aとを有し、前記アノード極液用隔膜2aと、カソード極液用隔膜3aとの間には、それぞれm個(但し、mは1以上の整数を表す)の第1陰イオン交換膜4及び第1陽イオン交換膜5が交互に配置されて、m個の第1陰/陽イオン交換膜対(4/5)が形成されている。このようにして、互に対をなして対向している第1陰イオン交換膜4と、第1陽イオン交換膜5との間にm個の第1希釈室6が形成されており、また互に隣り合う交換膜対中の互に対向している第1陽イオン交換膜5と第1陰イオン交換膜との間、及び前記アノードに最も近い第1陰イオン交換膜4とアノード極液用隔膜2aとの間、及び前記カソードに最も近い第1陽イオン交換膜5と、カソード極液用隔膜3aとの間に(m+1)個の第1濃縮室が形成されている。
【0014】
また、第2電気透析ユニット11においては、アノード12とそれに対向しているアノード極液用隔膜12aと、並びにカソードとそれに対向しているカソード極液用隔膜13aとを有し、前記アノード極液用隔膜12aとカソード極液用隔膜13aとの間に、それぞれn個(但し、nは1以上の整数)の第2陰イオン交換膜14及び第2陽イオン交換膜15が交互に配置されていて、n個の第2陰/陽イオン交換膜対(14/15)が形成されている。このようにして、互に対をなして対向している第2陰イオン交換膜14と第2陽イオン交換膜15との間、n個の第2希釈室16が形成されており、また、相に隣り合う交換膜対中の、互に対向している第1陽イオン交換膜15と、第2陰イオン交換膜14との間、及び前記アノードに最も近い第2陰イオン交換膜と、前記アノード極液用隔膜との間、及び前記カソードに最も近い第2陽イオン交換膜と、前記カソード極液用隔膜との間に、(n+1)個の第2濃縮室17が形成されている。
【0015】
前述の無電解ニッケルめっき液長寿命化装置において、図1に示されているように、第1希釈室6の入口8は、ニッケルめっき液槽21に、送液ライン22を介して連通しており、このニッケルめっき液槽21には、ニッケルイオン、ナトリウムイオン、水素イオン、次亜リン酸イオン、有機酸イオン、亜リン酸イオン及び硫酸イオンを含む無電解ニッケルめっき液を収容している。また、第1濃縮室7の出口9は、第1濃縮液送液ライン23を介して、第2希釈室の入口18に連通している。
さらに、第2濃縮室の出口19は、第2濃縮液送液ライン24を介して、ニッケルめっき液槽21に連通している。
【0016】
本発明の長寿命化装置において、第1陰イオン交換膜は、図2に示されているように、次亜リン酸イオン(H2PO2-)、亜リン酸イオン(H2PO3-、及び硫酸イオン(SO42-)を透過し、しかし、有機酸イオン(RCOO-)を透過しない陰イオン選択透過性を有するものである。
また、本発明装置に用いられる第1陽イオン交換膜は、図2に示されているように、ナトリウムイオン(Na+)を透過し、しかしニッケルイオン(Ni2+)を透過しない1価陽イオン選択透過性を有するものである。
【0017】
さらに、本発明装置に用いられる第2陰イオン交換膜は、図3に示されているように、次亜リン酸イオン(H2PO2-)及び有機酸イオン(RCOO-)を透過し、しかし亜リン酸イオン(HPO32-)及び硫酸イオン(SO42-)を透過しない1価陰イオン選択透過性を有するものである。
さらに、本発明装置に用いられる第2陽イオン交換膜は、水素イオン(H+)を透過するが、しかしナトリウムイオン(Na+)を透過しない水素イオン選択性を有するものである。
【0018】
本発明装置に供給される無電解ニッケルめっき液は、使用中又は使用後の無電解ニッケルめっき浴から供給されるものであって、このニッケルめっき浴は、無電解ニッケルめっきに必要なニッケルイオン、次亜リン酸イオン及び有機酸イオン(錯化剤、例えば乳酸イオン、リンゴ酸イオン、プロピオン酸イオンなど)に加えて、ニッケルめっきには不必要な亜リン酸イオン(次亜リン酸の酸化により生成)、硫酸イオン(ニッケルイオンの対イオン)及びナトリウムイオン(pH調整剤として添加される水酸化ナトリウムに由来する)を含んでいる。このため、ニッケルめっき液から、次亜リン酸イオン、有機酸イオン、ニッケルイオンを回収し、亜リン酸イオン、硫酸イオン及びナトリウムイオンを分離する必要がある。
本発明装置に用いる前記第1陰イオン交換膜と第1陽イオン交換膜との組み合わせ、及び前記第2陰イオン交換膜と第2陽イオン交換膜との組み合わせを、用いることによって、前記必要なイオンの回収及び不要なイオンの分離除去が高い効率をもって達成される。
【0019】
上記第1及び第2陰イオン交換膜に用いられる陰イオン交換膜の構造、製法には、それが上記陰イオン選択透過性を有する限り格別の制限はないが、例えば、スチレン、クロロメチルエチレン、ジビニルベンゼンなどのエチレン性不飽和化合物を共重合して、三次元構造を有し、4級アミノ化が可能なスチレン共重合体を調製し、これに4級アミノ化処理を施して製造する。本発明に用いられる第1陰イオン交換膜としては、例えば旭硝子エンジニアリング(株)製、陰イオン交換膜、セレミオンAMV(商標)を用いることができ、第2陰イオン交換膜としては、例えば、旭硝子エンジニアリング(株)製、陰イオン交換膜セレミオンASV(商標)を用いることができる。
【0020】
また、第1及び第2陽イオン交換膜に用いられる陽イオン交換膜の構造、製法には、それが上記陽イオン選択透過性を有する限り格別の制限はないが、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基、フェノール性水酸基などの陽イオン交換基を有し、かつ三次元構造を有する重合体が用いられる。本発明に用いられる第1陽イオン交換膜用として、例えば、旭硝子エンジニアリング(株)製陽イオン交換膜セレミオンCSO(商標)を用いることができ、また第2陽イオン交換膜用として、例えば、旭硝子エンジニアリング(株)製陽イオン交換膜セレミオンHSF(商標)が用いることができる。
【0021】
本発明装置において、第1及び第2電気透析ユニットに用いられる、アノード及びカソードは、極液中に浸漬されており、極液は、一般に5%硫酸水溶液が用いられる。アノード及びカソード極液は、それぞれ、隔膜により隔別されている。極液用隔膜は通常陽イオン交換膜により構成される。
【0022】
本発明装置において、図1に示されているように、第1希釈室6の入口8はニッケルめっき液槽21に、送液ライン22を介して連通しており、ニッケルめっき液を、その液槽21から、送液ライン22を通って、第1希釈室6中に、その入口8を経て送入できる。
また第1濃縮室7の出口9は、送液ライン23を介して、第2希釈室16に連通しており、それによって、第1電気透析処理によって第1濃縮室に透析され、かつ亜リン酸イオン、次亜リン酸イオン、硫酸イオン、ナトリウムイオンを含む第1濃縮液は第2希釈液として、第2希釈室に送入することができる。
さらに、第2濃縮室17の出口19は、送液ライン24を通って、ニッケルめっき液槽21に連通しておりそれによって、第2電気透析により第2濃縮室17中に透析され、かつ次亜リン酸イオン、有機酸イオン、及び水素イオンを含む第2濃縮液を、送液ライン24を通して、ニッケルめっき液槽に還流することができる。
【0023】
本発明装置を用いて、無電解ニッケルめっき液の長寿命化を達成する方法の一例を図1を用いて説明する。
図1において、無電解ニッケルめっき浴10中のニッケルめっき液の一部を取り出し、その温度をチラー10aにおいて、所望の温度(例えば40℃以下)に調整して、ニッケルめっき液槽21に送り、このニッケルめっき液槽21中のニッケルめっき液を、第1希釈液として、送液ライン22を通して、第1電気透析ユニット1の希釈室6中に、希釈室入口8を通して送入し、希釈室6中の希釈液に、電気透析を施す。前記無電解ニッケルめっき液中には、ニッケルイオン、ナトリウムイオン、水素イオン、次亜リン酸イオン、有機酸イオン、亜リン酸イオン、硫酸イオンを含んでいる。前記第1電気透析ユニットにおける電気透析により、第1陰イオン交換膜4を透過し、次亜リン酸イオン、亜リン酸イオン、硫酸イオンを含む濃縮液、及び第1陽イオン交換膜5を透過し、ナトリウムイオンを含む濃縮液が濃縮室7に収容され、濃縮室7の出口9を通して、送液ライン23中に捕集される。この濃縮室7から捕集された濃縮液を、第2希釈液として、送液ライン23を通して第2電気透析ユニット11の第2希釈室16中にその入口18を通って送入される。第2希釈室16中の第2希釈液に、電気透析を施す。これにより第2濃縮室17中に第2陰イオン交換膜14を透過し、次亜リン酸イオン及び有機酸イオンを含有する濃縮液と、第2陽イオン交換膜15を透過し、水素イオンを含有する濃縮液が収容され、濃縮室17の出口19を通り送液ライン24中に捕集され、例えば一旦無電解ニッケルめっき液槽21に還流された後、さらに無電解ニッケルめっき浴10に還流される。この還流される第2濃縮液は、次亜リン酸イオン、有機酸イオン及び水素イオンを含有するものである。
【0024】
本発明装置の一実施態様(以下実施態様Aと記す)において、図1に示されているように、第1希釈室6の出口8aが、第2濃縮室17に、送液ライン26を通って連通している。これによって、第1電気透析処理により、第1希釈室6から送り出されたニッケルイオン含有第1希釈排出液は、第2濃縮室内に送入されて、第2電気透析処理により形成され、かつ次亜リン酸イオン、有機酸イオン及び水素イオンを含有する第2濃縮排出液に混合され、第2濃縮室の出口19から送液ライン24を通って、ニッケルめっき液槽21に還流され、ニッケルめっき液に混合され、ニッケルめっき浴10に還流される。従って、図1に示された本発明装置の実施態様Aによって、第1及び第2電気透析ユニットを連続循環的に稼動させることが可能になる。
【0025】
図1に示された本発明装置の実施態様Aにおいて、第2希釈室16の出口18aが、送液ライン27及び循環槽28を介して、廃液槽25に連通している。それによって、第2希釈室16の出口18aから排出され、かつ亜リン酸イオン、硫酸イオン及びナトリウムイオンを含有する第2希釈排出液は、送液ライン27及び循環槽28を経て廃液槽25に排出することができる。
【0026】
図1に示された本発明装置の実施態様Aにおいて、前記循環槽28が循環ライン29を介して前記第1濃縮室7に連通している。これによって、循環槽28に収容され、亜リン酸イオン、硫酸イオン及びナトリウムイオンを含む第2希釈排出液の一部分は、必要により第1濃縮室7中の第1濃縮液とともに、送液ライン23を通って第2希釈室16に送入され、第2電気透析処理を受けることができる。
【0027】
図1に示された本発明装置の実施態様Aにおいて、循環槽28に、pH調整手段20aが取りつけられている。第2希釈室16より循環槽28に送入された第2希釈排出液は、亜リン酸イオンを含んでいるから、この第2希釈排出液のpHを、アルカリ側に適宜に調節すれば、それによって、第1濃縮室7から送り出される第1濃縮液(つまり第2希釈液)のpHを7〜9、好ましくは8.0〜8.5の範囲内に調整することが可能になりそれによって、第2希釈液中の亜リン酸イオンを次亜リン酸イオンに還元することが可能になる。前記pH調整手段は、pH調整液(例えば水酸化ナトリウム水溶液)の送入手段と、循環槽内の液体のpHを実測する手段と、必要により、実測値を所望値(例えば8.0〜8.5)に対比して、アルカリ水溶液の添加量をコントロールする手段を有しておればよい。
【0028】
本発明装置の他の実施態様(以下これを実施態様Bと記す)を、図4により説明する。
図4において、第1希釈室の出口8aは、送液ライン32を介して、ニッケルめっき液層21に連通しており、第1濃縮室7の出口9は、送液ライン23を介して、第1濃縮室(つまり第2希釈室)を収容する槽30に連通し、この第2希釈液は、その収容槽30から、送液ライン23aを介して、第2希釈室16に連通している。また第2濃縮室17の出口19は、送液ライン34を介して、第2濃縮液槽31に連通し、この第2濃縮液槽31は送液ライン36を介して、ニッケルめっき液槽21に連通している。さらに第2希釈室16の出口18aは送液ライン33を介して、第2希釈液収容槽30に連通している。第2希釈液収容槽30にはpH調整手段20bが取りつけられている。
【0029】
本発明装置の図4に示された実施態様Bにおいて、無電解ニッケルめっき浴10から抜き出されたニッケルめっき液は、ニッケルめっき液槽21に収容され、ここから送液ライン22を通って、第1希釈室4に送入され、こゝで第1電気透析処理に供される。その結果第1濃縮室7に透過し収容された第1濃縮液(亜リン酸イオン、次亜リン酸イオン、硫酸イオン、ナトリウムイオン含有)は、送液ライン23により捕集混合され、第1濃縮液槽30に送られて収容される。
第1濃縮液槽30中の第1濃縮液は、第2希釈液として、第2希釈室16に送入され、こゝで第2電気透析処理に供される。その結果、第2濃縮室17中に透過し収容された第2濃縮液(次亜リン酸イオン、有機酸イオン、水素イオン含有)は送液ライン34を通って、第2濃縮液槽31に送り込まれる。第2濃縮液槽31中の第2濃縮液の一部は、送液ライン36を通って、ニッケルめっき液槽21に送られ、ニッケルめっき液に混入される。
また、第1希釈室6の出口8aから送り出され、ニッケルイオン及び有機酸イオンを含む第1希釈排出液は送液ライン32を通って、ニッケルめっき液槽21に還流されてニッケルめっき液に混合される。また第2希釈室16の出口18aから送り出され、硫酸イオン、亜リン酸イオン及びナトリウムイオンを含む第2希釈排出液は送液ライン33を通って、第1濃縮液槽30に送り込まれ、第1濃縮液と混合され、第2希釈液の一部として第2電気透析処理に供される。
図4に示されている実施態様Bを用いれば、第1電気透析ユニット1及び第2電気透析ユニット11を、それぞれバッチ式(回分式)に稼働させることができ、かつ、これらを、連結稼動させることができる。
【0030】
図4の実施態様Bにおいて、第1濃縮液槽30には、pH調整手段20bが取りつけられていて、第1濃縮液にpH調整液を混入して、そのpHを7〜9、好ましくは8.0〜8.5に調整し、それによって、第2希釈室に送入される第2希釈液中に含まれる亜リン酸イオンを次亜リン酸イオンに還元することが好ましい。
図4において、第2濃縮液槽30は、送入ライン35を介して、廃液槽25に連通しており第2濃縮液槽30内の収容液の一部を、廃液槽25を通して、廃棄することができる。
【0031】
図4に示されている本発明装置の実施態様Bを用いると、第2電気透析ユニットにおいて、次亜リン酸イオンを十分に透析回収することが可能となり、その廃液中に次亜リン酸イオンを含まないという利点がある。
図4の本発明装置において、第1及び第2電気透析ユニットをそれぞれ回分式に使用する場合、第1濃縮液槽30を送液ライン23に連通する第1濃縮液槽と、それに連通し、かつ送液ライン23aに連通する第2希釈液槽(図示されていない)とに分けてもよく、pH調節手段20bは、前記第1濃縮液槽、第2希釈液槽又はこれらを連通する送液ラインのいずれに連結して取りつけてもよい。このようにすると、第1、第2電気透析ユニットを別個に回分式に稼働させることができ、第1濃縮液槽に貯蔵された第1濃縮液を適宜に第2希釈室に送液してもよく、或は、第1濃縮液の一部を別途に設けられた送液ライン(図示されていない)を経て廃液槽25に送り出してもよい。
【0032】
また、図1に示されている本発明装置の実施態様Aを用いると、ニッケルめっき液の処理量に対する電気透析設備の容量が回分式よりも小さくすることができ、経済的に有利である。
【0033】
本発明の無電解ニッケルめっき液長寿化装置の第1及び第2電気透析ユニットにおいて、第1又は第2陽イオン交換膜5又は15と対をなしてそれと交互に配置されている第1又は第2陰イオン交換膜4又は14中のアノードに最も近い第1又は第2陰イオン交換膜4又は12と、それに対向しているアノード側極液用隔膜2a又は12a(陽イオン交換膜)との間(以下この部分をアノード側端部と記す)には、第1又は第2濃縮室7又は17が形成されるが、このアノード側端部は必要に応じて、種々に改変することができる。例えば、改変例1において、アノードに最も近い第1又は第2陰イオン交換膜4又は14と、アノード側極液用隔膜2a又は12aとの間に、第1又は第2陽イオン交換膜からなる、アノード側追加陽イオン交換膜を配置し、このアノード側追加陽イオン交換膜と、アノード側極液用隔膜との間に、前記第1又は第2濃縮室7又は17を形成し、アノード側追加陽イオン交換膜と、前記アノード側極液用隔膜2a又は12aとの間に追加第1又は第2希釈室を形成する。前記追加第1希釈室は、その入口においてめっき液槽に連通しその出口において、第2希釈室に連通し、また、前記追加第2希釈室は、その入口において、第1濃縮室に連通し、その出口において循環槽に連通している。
【0034】
また、アノード側端部改変例2において、アノード側極液用隔膜2a又は12aの代りに、第1又は第2陰イオン交換膜からなるアノード側追加陰イオン交換膜と、第1又は第2陽イオン交換膜からなるアノード側追加陽イオン交換膜とを配置し、アノード側追加陰イオン交換膜と、アノード側追加陽イオン交換膜との間に追加第1又は第2希釈室を設ける。 この追加第1及び第2希釈室は、それぞれ、改変例1と同様に、めっき液槽、第2希釈室、第1濃縮室又は循環槽に連通する。
【0035】
第1又は第2陰イオン交換膜4又は14と対をなして、それと交互に配置されている第1又は第2陽イオン交換膜5又は15中の、カソードに最も近い第1又は第2陽イオン交換膜5又は15と、それに対向しているカソード側極液用隔膜3a又は13aとの間(以下この部分をカソード側端部と記す)には、第1又は第2濃縮室7又は17が形成されるが、このカソード側端部については必要に応じて種々に改変することができる。例えばカソード側端部改変例3において、カソードに最も近い第1又は第2陽イオン交換膜5又は15と、カソード側極液用隔膜3a又は13aとの間に、第1又は第2陰イオン交換膜からなるカソード側追加陰イオン交換膜と、第1又は第2陽イオン交換膜からなるカソード側追加陽イオン交換膜を配置し、カソードに最も近い前記第1又は第2陽イオン交換膜と、前記カソード側追加陰イオン交換膜との間に第1又は第2濃縮室7又は17を形成し、前記カソード側追加陰イオン交換膜と、前記カソード側追加陽イオン交換膜との間に、追加第1又は第2希釈室(A)と形成し、前記カソード側追加陽イオン交換膜と、前記カソード側極液用隔膜との間にも追加第1又は第2希釈室(B)を形成する。前記追加第1希釈室(A)及び(B)は、それぞれ、その入口において、めっき液槽に連通し、その出口において、第2濃縮室に連通する。また前記追加第2希釈室(A)及び(B)は、それぞれ、その入口において、第1濃縮室に連通し、その出口において、循環槽に連通する。
【0036】
さらにカソード側端部改変例4は、カソード側端部改変例3と同様であるが、但し、カソード側極液用隔膜を、第1又は第2陽イオン交換膜により形成し、カソード側追加陽イオン交換膜と、第1又は第2陽イオン交換膜からなるカソード側極液用隔膜との間に追加第1又は第2希釈室(B)を形成する。
前記アノード側端部改変例1又は2に、前記カソード側端部改変例3又は4を組み合わせて、第1及び/又は第2電気透析ユニットに組み入れてもよい。
【0037】
本発明の第1又は第2電気透析ユニットにおいて、アノード側端部及びカソード側の端部は、そのいずれか一方のみを、例えば上記改変例1〜4のように改変してもよく、又は、その両方を改変してもよい。
アノード及び/又はカソード側端部の前記改変例1〜4は、本発明の無電解ニッケルめっき液長寿命化装置中に形成され、かつアノード又はカソードに近く配置された希釈室及び濃縮室に対するアノード又はカソード電極室の影響を防止し、或は緩和するためになされるものである。このため、改変されたアノード及びカソード側端部中に形成された追加希釈室又は追加濃縮室は、本発明装置中の正常な希釈室又は濃縮室と同一の作用効果を有することを要しない。従って、改変されたアノード又はカソード側端部に配置される追加陰イオン又は陽イオン交換膜の種類、性能は、上記改変目的に適合するように、適宜選択することができる。
【実施例】
【0038】
本発明を下記実施例によりさらに説明する。
【0039】
実施例1(2段回分方式長寿命化装置)
図4に示されている2段式電気透析装置を用い、無電解ニッケルめっき浴1m3当り、加工負荷3.5m2/時で、1日当り8時間稼働しているニッケルめっき液に、長寿命化処理を施した。
下記表1に処理条件を示す。
【0040】
【表1】

【0041】
使用された無電解ニッケルめっき液の建浴対、及びこれをニッケルめっきに使用し、2.2ターン後の成分イオンの含有量を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
前記2.2ターン後のニッケルめっき液を35℃に冷却して、表1に示される処理条件下に2段電気透析処理を供した。
第1電気透析ユニットにおいては、亜リン酸イオンが約120モル/日の除去速度で除去されるように第1電気透析が施された。第1電気透析ユニットの第1濃縮室から捕集された第1濃縮液は、第1濃縮液槽30において、そのpHが8.5に調整され、これを第2希釈液として、第2希釈室に送り、これに第2電気透析を施した。上記長寿命化処理(ED)後のめっき液の組成、めっき速度及び安定度を表2に示す。また廃液の組成を表2に示す。第1、第2電気透析は連続して行われた。表2から明らかなように、第2電気透析ユニットにおいて、次亜リン酸イオンがほぼ完全に回収された。第2濃縮室から捕集された第2濃縮液は、第2濃縮液槽31、送液ライン36を経て、ニッケルめっき液槽21に還流され、さらにニッケルめっき浴10中に混入された。
建浴後のニッケルめっき浴によるめっき速度は17.5μm/hrであり、2.2ターン後のめっき速度は9.7μm/hrに低下していたが、上記長寿命化処理後のニッケルめっき浴のめっき速度は12.0μm/hrに回復したことが確認された。上記ニッケルめっき速度12.0μm/hrは、1.8ターン後のめっき速度に該当する。
ニッケルめっき浴の安定度も、表2に示すように、長寿命化処理によって、回復することも確認された。但し、めっき浴の安定度は、Pd安定度により示し、建浴時のめっき液のPd安定度を100とした。
表2に示されているように、廃液中には、ニッケルイオンを殆んど含まず、次亜リン酸イオン及び有機酸(乳酸)イオンの含有量も低いものであった。
【0044】
実施例2(2段循環連続式長寿命化装置)
図1に示されている2段式電気透析装置を用いて実施例1に記載された無電解ニッケルめっき液と同じめっき液を、2.5ターンの使用の後、これに実施例1と同様の長寿命化処理を施した。表3に、建浴時のニッケルめっき液及び2.5ターン後のめっき液の組成、めっき速度、安定度を示す。また、めっきを5ターン実施した後(5ターン後と記す)、めっきを10ターン実施した後(10ターン後と記す)、及びめっきを20ターン実施した後(20ターン後と記す)のニッケルめっき液の組成、めっき速度及び安定度を表3に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
表3に示された長寿命化処理の効果において、20ターン後のニッケルめっき液組成は、5ターン後のニッケルめっき液の組成に近いものであり、本発明装置によるニッケルめっき液の長寿命化処理は少なくとも20ターン迄実用上有効であることが確認され、かつ、数十ターンにわたり有効であることが予想される。
【0047】
参考例1
実施例1に記載の無電解ニッケルめっき液をニッケルめっきに3ターン使用し、このめっき液を、実施例1における第1電気透析ユニットの電気透析処理に供し、第1希釈室6から捕集された第1希釈排出液を、ニッケルめっき液槽21に循環して、第1電気透析処理を施す処理を、さらに2回施し(合計3回の電気透析処理、以下3ターンと記す)、得られた第1希釈排出液、及びそれとニッケルめっき液槽中のめっき液に混入したときの、混合めっき液の組成、めっき速度及び安定度を表4に示す。さらに、第1濃縮室から送り出された第1濃縮液の組成を表4に示す。
【0048】
【表4】

【0049】
表4から明らかなように、参考例1の長寿命化処理において、ニッケルイオン及び次亜リン酸イオン及び有機酸イオンを、十分に高い効率をもって回収することができるが、次亜リン酸イオン及び有機酸イオンの一部が廃液中に残留し、廃棄されるという欠点がある。
【0050】
比較例1
実施例1と同様にして無電解ニッケルめっき液に長寿命化処理を施した。使用されたニッケルめっき液は、建浴時のめっき液の組成、pH値及びめっき速度を表5に示す。このニッケルめっき液のめっき操作2.2ターン後の組成、pH値及びめっき速度は表5に示されたとおりであった。但し、第2電気透析ユニットの第2陽イオン交換膜(セレミオンHSF(商標))の代りに陽イオン交換膜(セレミオンCMV(商標)、旭硝子エンジニアリング(株)製)を用い、膜面積を第1、第2電気透析ユニットとも0.21m2とし、膜数をともに10対とした。第1電気透析処理は、亜リン酸イオンが、120モル/日の交換速度で、除去するように行われ、第2電気透析処理は、第2希釈液のpHを8.5に調整して、第2希釈室に送液し、希釈排出液中に次亜リン酸イオンが含まなくなるように行われた。その結果、表5に示されているように第2濃縮液中のナトリウムイオンが増加してpHが上昇した。このため、第2濃縮液を、ニッケルめっき液に混入して使用することができないので、第2濃縮液混入ニッケルめっき液に硫酸を添加して、そのpH値を4.5に調整した。
このようにして、処理後のニッケルめっき液のナトリウムイオン及び硫酸イオンが上昇し、やがてぼう硝が析出し、送液ラインを閉塞するおそれが生じた。
【0051】
【表5】

【0052】
比較例2
比較例1と同様にして、無電解ニッケルめっき液に長寿命化処理を施した。
但し比較例1の第2電気透析ユニットの第2陽イオン交換膜CMVの代りに、陰イオン交換膜(セレミオンAMV(商標)、旭硝子エンジニアリング(株)製)を用いた。この陰イオン交換膜は、陽イオン(ナトリウムイオン)を透過しない。
その結果、第2電気透析ユニットの透析処理において、第2希釈液中のナトリウムイオンを除去することができたが、次亜リン酸イオンを回収できなかった。このため、第2電気透析ユニットの第2濃縮液を、ニッケルめっき液に混入し再使用するには、次亜リン酸イオンの補給が必要となった。
結果を表6に示す。
【0053】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0054】
従来の無電解ニッケルめっき液によるニッケルめっき装置においては、ニッケルめっき液の連続循環使用回数は、ほぼ6ターン迄であったが、本発明に係る無電解ニッケルめっき液の長寿命化装置を用いることにより、ニッケルめっき液の連続循環使用回収を100ターン以上に増大することが可能になり、それによってめっき廃棄液の量が少なくなり、従って廃棄されるニッケル有機酸イオン及び次亜リン酸イオンの量を著しく減少させ、廃液中のBOD及びCODの値も著しく低下させることができる。さらに、本発明の長寿命化装置を用いることにより、循環使用されるニッケルめっき液中の、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオン及びニッケルイオンの含有量(濃度)が一定にコントロールされ、めっき速度も安定化され、かつ、送液ラインがぼう硝などの析出により閉塞されることも十分に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の無電解ニッケルめっき液の長寿命化装置の一実施態様を示す一部断面説明図。
【図2】本発明装置の第1電気透析ユニット中に配置される1対の陰イオン交換膜及び陽イオン交換膜の透過性能を示す説明図。
【図3】本発明装置の第2電気透析ユニット中に配置される1対の陰イオン交換膜及び陽イオン交換膜の透過性能を示す説明図。
【図4】本発明の無電解ニッケルめっき液の長寿命化装置の他の実施態様を示す一部断面説明図。
【符号の説明】
【0056】
1 第1電気透析ユニット
2 アノード
2a アノード極液用隔膜
3 カソード
3a カソード極液用隔膜
4 第1陰イオン交換膜
5 第1陽イオン交換膜
6 第1希釈室
7 第1濃縮室
8 第1希釈室の入口
8a 第1希釈室の出口
9 第1濃縮室の出口
10 無電解ニッケルめっき浴
10a チラー
11 第2電気透析ユニット
12 アノード
12a アノード極液用隔膜
13 カソード
13a カソード極液用隔膜
14 第2陰イオン交換膜
15 第2陽イオン交換膜
16 第2希釈室
17 第2濃縮室
18 第2希釈室の入口
18a 第2希釈室の出口
19 第2濃縮室の出口
20
21 ニッケルめっき液槽
22 ニッケルめっき液送液ライン
23 第1濃縮液送液ライン
23a 第2希釈液送液ライン
24 第2濃縮液送液ライン
25 廃液槽
26,27 送液ライン
28 循環層
29 循環ライン
30 第1濃縮液槽
31 第2濃縮液槽
32,33,34,35,36 送液ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード2と、カソード3との間に、それぞれm個(但し、mは1以上整数を表す)の、交互に配置された第1陰イオン交換膜4及び第1陽イオン交換膜5と、互いに対をなして対向している第1陰イオン交換膜と第1陽イオン交換膜との間に形成されたm個の第1希釈室6と、互に相隣る第1陽イオン交換膜と第1陰イオン交換膜との間、前記アノードに最も近い第1陰イオン交換膜のアノード側、及び前記カソードに最も近い第1陽イオン交換膜のカソード側に形成された(m+1)個の第1濃縮室7とを有する第1電気透析ユニット1と、
アノード12とカソード13との間に、それぞれn個(但し、nは1以上の整数を表す)の、交互に配置された第2陰イオン交換膜14及び第2陽イオン交換膜15と、互に対をなして対向している第2陰イオン交換膜と第2陽イオン交換膜との間に形成されたn個の第2希釈室16と、互に相隣る第2陽イオン交換膜と第2陰イオン交換膜との間、前記アノードに最も近い第2陰イオン交換膜のアノード側及び前記カソードに最も近い第2陽イオン交換膜のカソード側に形成されたn+1個の第2濃縮室17とを有する第2電気透析ユニット11とを含み、
前記第1希釈室の入口8は、ニッケルイオン、ナトリウムイオン、水素イオン、次亜リン酸イオン、有機酸イオン、亜リン酸イオン及び硫酸イオンを含む無電解ニッケルめっき液を収容するニッケルめっき液槽21に、送液ライン22を介して連通しており、
前記第1濃縮室の出口9は、前記第2希釈室の入口18に、第1濃縮液送液ライン23を介して連通しており、かつ
前記第2濃縮室の出口19は、前記ニッケルめっき液槽に、第2濃縮液送液ライン24を介して連通している電気透析装置を含み、
前記第1陰イオン交換膜は、次亜リン酸イオン、亜リン酸イオン、及び硫酸イオンを透過し、しかし有機酸イオンを透過しない陰イオン選択透過性を有し、
前記第1陽イオン交換膜は、ナトリウムイオンを透過し、しかしニッケルイオンを透過しない1価陽イオン選択透過性を有し、
前記第2陰イオン交換膜は、次亜リン酸イオン及び有機酸イオンを透過し、しかし亜リン酸イオン及び硫酸イオンを透過しない1価陰イオン選択透過性を有し、
前記第2陽イオン交換膜は、水素イオンを透過するが、しかしナトリウムイオンの透過を抑制する水素イオン選択透過性を有する
ことを特徴とする無電解ニッケルめっき液長寿命化装置。
【請求項2】
前記第1希釈室の出口8aが、前記第2濃縮室に、送液ライン26を介して、連通している、請求項1に記載の無電解ニッケルめっき液長寿命化装置。
【請求項3】
前記第2希釈室の出口18aが、廃液槽25に、送液ライン27及び循環槽28を介して、連通している、請求項1に記載の無電解ニッケルめっき液長寿命化装置。
【請求項4】
前記循環槽が、前記第1濃縮室に、循環ライン29を介して、連通している、請求項3に記載の無電解ニッケルめっき液長寿命化装置。
【請求項5】
前記循環槽28にpH調整手段が取り付けられている、請求項4に記載の無電解ニッケルめっき液長寿命化装置。
【請求項6】
第1濃縮室が、前記第1濃縮液送液ライン23を介して、第1濃縮液槽30に連通し、さらに送液ライン23aを介して前記第2希釈室の入口に連通し、第2希釈室の出口は、前記第1濃縮液槽30に送液ライン33を介して連通し、第2濃縮室の出口は送液ライン34を介して、第2濃縮液槽31に連通し、さらに送液ライン36を介して、前記ニッケルめっき液槽21に連通し、前記第1濃縮液槽30は、送液ライン35を介して、廃液槽25に連通している、請求項1に記載の無電解ニッケルめっき液長寿命化装置。
【請求項7】
第1濃縮液槽30に、pH調整手段が取り付けられている、請求項6に記載の無電解ニッケルめっき液長寿命化装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−291465(P2007−291465A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−122255(P2006−122255)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(391028339)日本カニゼン株式会社 (17)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】