説明

無電解銅めっき液用添加剤及びそれを用いた無電解銅めっき液

【課題】めっき析出を阻害することなく、まためっき皮膜外観も良好で、かつ無電解銅めっき液に良好な経時安定性を付与することが可能な無電解銅めっき用添加剤を提供すること。
【解決手段】下記一般式で示される化合物を無電解銅めっき液の添加剤として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解銅めっき液用添加剤及びそれを用いた無電解銅めっき液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無電解銅めっき液は、プリント基板作製、プラスチックへの金属皮膜形成等において、不導体部に導電性を付与する目的で広く用いられているめっき液である。例えば広範な分野において用いられているホルムアルデヒドを還元剤とする無電解銅めっき液の液中では、下記(1)〜(4)に示す反応が生じていることが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
Cu2++2HCHO+4OH-→Cu+H2+2HCOO-+2H2O(1)
2HCHO+OH-→CH3OH+HCOO-(2)
2Cu2++HCHO+5OH-→Cu2O+HCOO-+3H2O(3)
Cu2O+H2O→Cu+Cu2++2OH-(4)
【0003】
上記反応の内で、(1)の反応は、還元剤であるホルムアルデヒドによる銅の還元析出反応であり、無電解銅めっき液中の反応の中核をなすものである。また(2)の反応は、カニツァロ反応(自動酸化還元反応)と呼ばれ、ホルムアルデヒドを用いる無電解銅めっき液中では必ず生じる副反応である。
【0004】
一方(3)と(4)の反応は、無電解銅めっき液の自然分解反応の原因となる副反応であり、非常に好ましくない反応である。これらの反応によって無電解銅めっき液中で金属銅が発生し、この発生した銅を核として(1)の反応が進行することによりめっき液の分解は加速度的に進行する。またこれにより生じた不要な金属銅の暴発的な析出により、めっき浴内の液循環系フィルター等に目詰まりを起こし、浴内の液の均一性を維持することが非常に困難になる。
【0005】
このように、無電解銅めっき液では、安定性を阻害する自然分解反応が生じ易い。そのため、液の経時安定性を維持することが重要な課題となっており、特に、上記(3)及び(4)の反応を抑制して、無電解銅めっき液の経時安定性を向上させるために、種々の添加剤が提案されてきている。例えば、非特許文献2には、シアン化合物、含窒素有機化合物、含硫黄有機化合物などを添加剤として加えためっき浴についての検討結果が報告されている。また、特許文献1には、ヒ素、アンチモン、ビスマス等とベリリウムとを併用することによって、無電解銅めっき液の経時安定性が向上することが記載されている。そして特許文献2には、ある特定の構造を有するホスフィン類を無電解銅めっき液の添加剤として用いることが記載されている。
【0006】
しかしながら、シアン化合物やヒ素、アンチモン、ビスマス、ベリリウム等の金属化合物は、非常に有害であり、人体や環境に対する影響を無視できない。また、上記従来技術で知られた含窒素有機化合物、含硫黄有機化合物、ホスフィン類などを添加した場合には、これらの化合物が有するめっき析出を阻害する効果によって、めっき皮膜外観を悪化させる場合もあり、無電解銅めっき液の経時安定性とめっき特性を両立させることは困難であった。よって上記諸事情を満足させる無電解銅めっき液用添加剤が切望されていた。
【0007】
また特許文献3には、透光性導電性膜の製造に用いる無電解銅めっき液の添加剤として、ある特定の複素環化合物やチオエーテル、チオ尿素類を用いることが記載されている。しかしながら、これらの添加剤も前述の諸事情を満足させるには不十分であり、改良が望まれていた。
【0008】
一方非特許文献3には、無電解銅めっき液を空気攪拌することによって、上記(3)の反応により発生した第一銅イオンを酸化して、安定性を向上させる方法が記載されている。しかしながら、空気攪拌を行うと、還元剤の酸化が促進され、さらに、空気中の炭酸ガスが無電解銅めっき液中に溶け込むことでpHが激しく変動して浴管理が難しくなるという欠点があった。
【非特許文献1】R.M.Lukes,Plating,51,1066,1964
【非特許文献2】広幡、金属表面技術,Vol.24,No.6,1973
【非特許文献3】松岡他、金属表面技術協会第68回学術講演大会要旨集
【特許文献1】特開2000−345358号公報
【特許文献2】特開2005−290415号公報
【特許文献3】特開2006−228480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、めっき析出を阻害することなく、まためっき皮膜外観も良好で、かつ無電解銅めっき液に良好な経時安定性を付与することが可能な無電解銅めっき用添加剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、下記一般式(1)または一般式(2)で示される化合物が、無電解銅めっき液の添加剤として優れた性能を有することを見いだした。
【0011】
【化1】

【0012】
式中、R1は含窒素複素環基を置換基として有している脂肪族基を表す。R2、R3は脂肪族基を表す。X-は、O-またはS-を表す。
【0013】
【化2】

【0014】
式中、R11、R12は脂肪族基を表す。またこれらは、互いに連結して5〜7員環を形成していてもよい。YはpKa6未満の酸性基を置換基として有する脂肪族基を表す。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一般式(1)または一般式(2)で示される無電解銅めっき用添加剤(以下、本発明の添加剤と記す)を用いることにより、めっき析出を阻害することなく、まためっき皮膜外観も良好で、かつ無電解銅めっき液に良好な経時安定性を付与することが可能な無電解銅めっき用添加剤を得ることができる。そして上記添加剤を含有する本発明の無電解銅めっき液は、めっき析出速度が低下することなく、無電解銅めっき液の分解や異常析出が有効に抑制されているため、長期間安定に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明で使用される化合物について詳細に述べる。前記一般式(1)で示される化合物は、一般にメソイオン化合物と呼ばれる化合物の中の一種である。前記一般式(1)において、R1は含窒素複素環基を置換基として有している脂肪族基(好ましくは炭素数4個以下)を表す。その具体例としては、ピロリジン環、ピロール環、イミダゾール環、ピペリジン環、ピペラジン環、ピリジン環、テトラヒドロキノリン環、キノリン環、チアゾリン環、チアゾール環、モルホリン環などの含窒素複素環基を置換基として有しているメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられる。その好ましい例は、下記化3で示される構造のものであり、中でもH−1、H−2、H−3が特に好ましい。
【0017】
【化3】

【0018】
2、R3は脂肪族基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、オクチル基などのアルキル基、アリル基、ブテニル基などのアルケニル基、プロパルギル基などのアルキニル基、ベンジル基などのアラルキル基など)を表す。うち好ましい組合せのものは、R2、R3共に炭素数3以下のアルキル基であり、中でもR2、R3共にメチル基であるものが特に好ましい。X-は、O-またはS-を表す。うち好ましいものは、S-である。
【0019】
ついで前記一般式(2)で示される化合物について詳細に述べる。前記一般式(2)で示される化合物は、チオ尿素誘導体の一種である。前記一般式(2)において、R11、R12は脂肪族基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、オクチル基などのアルキル基、アリル基、ブテニル基などのアルケニル基、プロパルギル基などのアルキニル基、ベンジル基などのアラルキル基など)を表す。うち好ましい組合せのものは、R11、R12共に炭素数3以下のアルキル基である。またこれらは、互いに連結して5〜7員環を形成していてもよい。その5〜7員環の例としては(便宜上、チオ尿素1位の窒素原子を含めた含窒素複素環の名称を用いて記す)、ピロリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環、ヘキサメチレンイミン環などがある。うち好ましいものはピロリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環などの5または6員環を形成しているものである。そして以上述べたR11、R12の中で特に好ましい組合せのものは、R11、R12が共にメチル基もしくはエチル基であるもの、または互いに連結してピロリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環を形成しているものである。そして、中でもさらに好ましいものは、R11、R12が互いに連結してピロリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環を形成しており、かつその環の置換基として、親水性基を有しているものである。なおここでいう親水性基とは、例えば甲田善生著「有機概念図」−基礎と応用−(三共出版;1984)などに記載されている「無機性基表」の数値が50以上のいわゆる親水性部位(例えば、カルボニル基=65、エチレンオキシ基=75、ヒドロキシ基=100、カルボキシ基=150、カルバモイル基=200、スルホ基=250など)を部分構造として含有する置換基を意味する。またこれらの置換基は、一つであっても、複数の組合せであってもよい。
【0020】
YはpKa6未満の酸性基(例えばカルボキシ基、スルホ基、スルフィノ基、スルフェノ基、フォスフォノ基、フォスフィニコ基など、またこれらの酸性基は、遊離酸であっても、アンモニウム塩、トリメチルアンモニウム塩、トリエチルアンモニウム塩、テトラ−n−ブチルアンモニウム塩などのアンモニウム塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩などであってもよい)を置換基として有する脂肪族基(上記R11、R12に同義)を表す。うち好ましいものはカルボキシ基、スルホ基を置換基として有する炭素数6以下のアルキル基であり、中でもスルホ基を置換基として有する炭素数3以下のアルキル基が特に好ましい。
【0021】
以下に本発明に使用される化合物の具体例を挙げるが、これらはなんら本発明を限定するものではない。
【0022】
【化4】

【0023】
【化5】

【0024】
【化6】

【0025】
【化7】

【0026】
【化8】

【0027】
これらの化合物は、公知の合成法にて容易に合成できる。以下に代表的合成例を述べる。
【0028】
(例示化合物T−1の合成)
中間体Aの合成
N−(3−アミノプロピル)イミダゾール37.6g、トリエチルアミン30.4g、メタノール200mlを混合し、氷水浴冷却、攪拌下に、二硫化炭素22.8gを15分間で滴下した。そのまま同温にて1時間攪拌し、ついでクロロぎ酸エチル32.6gを30分間で滴下した。その後同温にてさらに1時間攪拌し、ついで、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH12g/水150ml)を加え、さらに10質量%NaCl水溶液250mlを加えた。このようにして得た反応液より、目的物を酢酸エチルにて抽出(200ml×2回)し、ついでこの抽出液を、10質量%NaCl水溶液(200ml×2回)、飽和NaCl水溶液(200ml×2回)の順に洗浄、乾燥(無水硫酸マグネシウム)後にエバポレートして、淡黄色オイル状の中間体A30.8gを得た。
【0029】
中間体Bの合成
メチルヒドラジン8.5g、エタノール40mlを混合し、氷水浴冷却、攪拌下に、無水酢酸18.8gを45分間で滴下した。同温にて1時間攪拌後、中間体A27.7gを加え、さらに室温にて1時間攪拌を行った。ついで酢酸エチル200mlを加え、さらに室温にて1時間攪拌後、析出した結晶を濾取し、酢酸エチル、酢酸エチル/エタノール混合液(酢酸エチル/エタノール=2/1)の順に洗浄後乾燥して21.6gの中間体Bを得た(融点139〜141℃)。
【0030】
T−1の合成
中間体B20.0g、アセトニトリル100ml、トリエチルアミン3mlを混合し、加熱還流下に2時間攪拌を行った。ついで温浴を去り、室温下にて1時間攪拌を続けた。ついで析出した結晶を濾取し、アセトニトリルにて洗浄後乾燥して15.2gのT−1を得た(融点161.5〜162.5℃)。
【0031】
(例示化合物U−9の合成)
中間体Cの合成
タウリン25.0g、水酸化ナトリウム16.0g、水50mlを混合し、氷水浴冷却、攪拌下に、二硫化炭素15.2gを15分間で滴下した。そのまま同温にて10時間攪拌し、ついでクロロぎ酸エチル21.7gを30分間で滴下した。その後同温にてさらに2時間攪拌し、次に25質量%NaCl水溶液250mlを加えて、同温にてさらに1時間攪拌を行った。ついで析出した結晶を濾取し、15質量%NaCl水溶液で洗浄後(100ml×4回)、乾燥した。以上のようにして得た粗製結晶をメタノール400mlに分散し、室温にて1時間攪拌後に不溶分を濾別した。ついでこのメタノール濾液をエバポレートし、残渣にアセトニトリル200mlを加え室温にて1時間攪拌後に結晶を濾取、乾燥して20.5gの中間体Cを得た(融点248℃〜分解)。
【0032】
U−9の合成
中間体C18.9g、アセトニトリル250ml、ピロリジン10.5gを混合し、加熱還流下に4時間攪拌を行った。ついで温浴を去り、室温下にて1時間攪拌を続けた。ついで析出した結晶を濾取し、アセトニトリルにて洗浄後乾燥して19.4gのU−9を得た(融点270℃〜分解)。
【0033】
U−19の合成
中間体C18.9g、アセトニトリル250ml、1−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン19.5gを混合し、加熱還流下に7時間攪拌を行った。ついで温浴を去り、室温下にて1時間攪拌を続けた。ついで析出した結晶を濾取し、アセトニトリルにて洗浄後乾燥して24.1gのU−19を得た(融点267℃〜分解)。
【0034】
【化9】

【0035】
本発明の前記一般式(1)または一般式(2)で示される添加剤は、単独で用いても2種以上を混合して用いてもかまわない。また本発明の無電解銅めっき液は、前記一般式(1)または一般式(2)で示される添加剤を含有すること以外は、公知の無電解銅めっき液と同様の組成とすればよい。
【0036】
具体的には、水溶性銅化合物、錯化剤、還元剤を含有する水溶液からなる無電解銅めっき液を基本浴として、これに本発明の添加剤を含有させればよい。一般に無電解銅めっき液は、貯蔵時は水溶性銅化合物、錯化剤、還元剤などの各成分毎の原液として保管されており、使用時にこれらの原液を混合して調製されるが、本発明の添加剤は、いずれの原液中に含有されていてもよい。また基本浴を調製した後に、本発明の添加剤を添加してもよい。
【0037】
無電解銅めっき液中の本発明の前記一般式(1)または一般式(2)で示される化合物の添加量については、1〜1000mg/l程度とすることが好ましい。添加量がこれより低すぎると、無電解銅めっき液に十分な安定性を付与できない場合や無電解銅めっき液の分解が生じ易くなる場合がある。一方、添加量がこれより高すぎると、めっき析出速度やめっき析出量が低下する場合がある。そして一般式(1)で示される化合物については5〜100mg/l程度とすることがより好ましく、また一般式(2)で示される化合物については2〜50mg/l程度とすることがより好ましい。
【0038】
水溶性銅化合物としては、特に限定されないが、例えば、硫酸銅、塩化銅等の水溶性無機銅塩、酢酸銅、酒石酸銅、エチレンジアミン四酢酸銅等の水溶性有機銅塩等を用いることができる。そしてこれらの銅化合物は、単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0039】
水溶性銅化合物の濃度は、0.001〜1mol/l程度とすることが好ましく、0.01〜0.3mol/l程度とすることがより好ましい。水溶性銅化合物の濃度が低すぎる場合には、皮膜の析出速度が非常に遅くなって成膜に長時間を要するので好ましくない。一方、水溶性銅化合物の濃度が高すぎる場合には、無電解銅めっき液の粘度が高くなって液の流動性が低下し、均一析出性に悪影響を与え、さらにはコスト増につながるので好ましくない。
【0040】
錯化剤は、銅化合物の沈殿を防止し、更に、銅の析出反応を適度な速度として分解を抑制するために有効な成分であり、公知の無電解銅めっき液において用いられている各種の錯化剤を用いることができる。
【0041】
このような錯化剤の具体例としては、酒石酸、リンゴ酸等のオキシカルボン酸、その可溶性塩;エチレンジアミン、トリエタノールアミン等のアミノ化合物;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、バーセノール(N−ヒドロキシエチルエチレンジアミン−N,N′,N′−三酢酸)、クォードロール(N,N,N′,N′−テトラヒドロキシエチルエチレンジアミン)等のエチレンジアミン誘導体、その可溶性塩;1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸等のホスホン酸、その可溶性塩等を挙げることができる。そしてこれらの錯化剤は、単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0042】
錯化剤の濃度については、その種類によっても異なり、特に限定的ではないが、通常、0.001〜2mol/l程度とすることが好ましく、0.002〜1mol/l程度とすることがより好ましい。錯化剤の濃度が低すぎると、水酸化銅の沈殿が生じ易くなり、更に、酸化還元反応が速すぎるために無電解銅めっき液の分解が生じ易くなるので好ましくない。一方、錯化剤の濃度が高すぎると、銅の析出速度が非常に遅くなり、更に、無電解銅めっき液の粘度が高くなるため、均一析出性が低下するので好ましくない。
【0043】
還元剤としても、公知の無電解銅めっき液において用いられている各種の還元剤を用いることができる。その具体例としては、ホルムアルデヒド、グリオキシル酸等のアルデヒド化合物;水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ジメチルアミンボラン等の水素化ホウ素化合物;ヒドラジン類等が挙げられる。
【0044】
還元剤の濃度については、その種類によっても異なり、特に限定的ではないが、通常、0.001〜1mol/l程度とすることが好ましく、0.002〜0.5mol/l程度とすることがより好ましい。還元剤の濃度が低すぎる場合には、無電解銅めっき液中での銅イオンの還元速度が遅くなって成膜に時間がかかるので好ましくない。一方、還元剤の濃度が高すぎる場合には、無電解銅めっき液の分解が生じ易くなるので好ましくない。
【0045】
本発明の無電解銅めっき液には、更に、必要に応じて、例えば前述の非特許文献および特許文献などに記載されているような無電解銅めっき液に配合されている公知の各種添加剤を添加することができる。また、必要に応じて、エアレーションなどの操作により、無電解銅めっき液を撹拌してもよい。
【0046】
本発明の無電解銅めっき液は、pH10〜14程度とすることが好ましく、pH11〜13.5程度とすることがより好ましい。pHが低すぎると、還元反応の円滑な進行が妨げられ、また、還元剤の分解などが生じて、めっきの析出性が低下し、無電解銅めっき液が分解する場合もあるので好ましくない。一方、pHが高すぎる場合には、無電解銅めっき液の経時安定性が低下する傾向があるので好ましくない。
【0047】
無電解銅めっきを行う際の液温については、具体的な無電解銅めっき液の組成などによって異なるが、通常、0℃程度以上とすることが好ましく、20〜70℃程度とすることがより好ましい。無電解銅めっき液の液温が低すぎる場合には、めっき析出反応が緩慢になって銅めっき皮膜の未析出や外観不良が生じ易くなる。一方、無電解銅めっき液の液温が高すぎると、無電解銅めっき液中の揮発成分の蒸発が激しくなって無電解銅めっき液組成を所定の範囲に維持することが困難となり、更に、無電解銅めっき液の分解が生じ易くなるので好ましくない。
【0048】
被めっき物の種類については、特に限定はなく、通常の無電解銅めっきの対象物と同様の素材を被めっき物とすることができる。また、プラスチックなどの触媒活性のない被めっき物については、常法に従って、パラジウムなどの触媒を付与した後、無電解銅めっきを行えばよい。
【0049】
次に本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらになんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0050】
被めっき物として、以下の方法にて銀薄膜フィルムを調製した。
【0051】
<銀薄膜フィルムの調製>
透明支持体として、厚み100μmの塩化ビニリデンを含有する下引き層を有するポリエチレンテレフタレートフィルムを用いて、ゼラチンが50mg/m2となる様にベース層を塗布し乾燥した。次に、下記のようにして硫化パラジウムからなる物理現像核層塗液を作製した。
【0052】
<硫化パラジウムゾルの調製>
A液 塩化パラジウム 5g
塩酸 40ml
蒸留水 1000ml
B液 硫化ソーダ 8.6g
蒸留水 1000ml
A液とB液を撹拌しながら混合し、30分後にイオン交換樹脂の充填されたカラムに通し硫化パラジウムゾルを得た。
【0053】
<物理現像核層塗液の調製>
前記硫化パラジウムゾル 50ml
2質量%のグルタルアルデヒド溶液 20ml
界面活性剤(S−1) 1g
水を加えて全量を2000mlとする。
この物理現像核層塗液を硫化パラジウムが固形分で0.4mg/m2になるように、ベース層の上に塗布し、乾燥した。
【0054】
【化10】

【0055】
続いて、上記物理現像核層を塗布した側と反対側に下記組成の裏塗り層を塗布した。
<裏塗り層組成/1m2あたり>
ゼラチン 2g
不定形シリカマット剤(平均粒径5μm) 20mg
染料(D−1) 200mg
界面活性剤(S−1) 400mg
界面活性剤(S−2) 5mg
【0056】
【化11】

【0057】
続いて、支持体に近い方から、中間層、ハロゲン化銀乳剤層、及び最外層(それぞれ、下記の組成からなる)という順で、上記物理現像核層の上に塗布した。ハロゲン化銀乳剤は、写真用ハロゲン化銀乳剤の一般的なダブルジェット混合法で製造した。このハロゲン化銀乳剤は、塩化銀95mol%と臭化銀5mol%で、平均粒径が0.15μmになるように調製した。このようにして得られたハロゲン化銀乳剤を定法に従いチオ硫酸ナトリウムと塩化金酸を用い金イオウ増感を施した。こうして得られたハロゲン化銀乳剤は銀1gあたり0.5gのゼラチンを含む。
【0058】
<中間層組成/1m2あたり>
ゼラチン 0.3g
界面活性剤(S−1) 5mg
<ハロゲン化銀乳剤層組成/1m2あたり>
ゼラチン 0.5g
ハロゲン化銀乳剤 3.0g銀相当
1−フェニル−5−メルカプトテトラゾール 3.0mg
界面活性剤(S−1) 20mg
<最外層組成/1m2あたり>
ゼラチン 1g
不定形シリカマット剤(平均粒径3.5μm) 10mg
界面活性剤(S−1) 10mg
界面活性剤(S−2) 0.1mg
【0059】
このようにして得た銀薄膜フィルム前駆体を、未露光のまま、下記組成の現像液に15℃で90秒間浸漬した後、温水洗、そして乾燥して、銀薄膜フィルムを得た。なおこの銀薄膜フィルムは、ポリエチレンテレフタレートベース上に、1.2g/m2銀相当の銀薄膜層を有していた。
【0060】
<現像液>
水酸化カリウム 25g
ハイドロキノン 18g
1−フェニル−3−ピラゾリドン 2g
亜硫酸カリウム 80g
N−メチルエタノールアミン 15g
臭化カリウム 1.2g
全量を水で1000ml
KOHを用いて、pH=12.2に調整した。
【0061】
<無電解銅めっき液の調製>
下記組成の無電解銅めっき液を基本浴として、表1に示す本発明の添加剤を表1に示した量で加えて無電解銅めっき液を調製した。比較化合物としては、下記化12、化13に示される化合物を使用した。
【0062】
【化12】

【0063】
【化13】

【0064】
<基本浴めっき液組成>
硫酸銅 0.035mol/l
EDTA 0.10mol/l
ホルムアルデヒド 0.13mol/l
NaOHを用いて、pH=13.0に調整した。
<無電解銅めっき液組成>
前記基本浴めっき液 100ml
本発明の添加剤および比較化合物(表1に記載)
【0065】
上記の各無電解銅めっき液を用いて、前記の銀薄膜フィルムを被めっき物として、浴温50℃、無撹拌で10分間無電解銅めっきを行って銅めっき皮膜を形成した。なお無電解銅めっき液量はそれぞれ100ml、また被めっき物である銀薄膜フィルムの液浸部分は、6.5cm×2.5cmである。
【0066】
無電解銅めっき処理工程は以下の通りである。
(1)脱脂:60℃、2分(商標名:クリーナー160、メルテックス(株)製)
(2)水洗:20℃、2分
(3)無電解銅めっき:50℃、10分
(4)水洗:20℃、2分
(5)乾燥
【0067】
以上の方法で形成された各無電解銅めっき皮膜について、下記の方法で特性を評価した。その結果を表1に示す。
1.めっき析出量
蛍光X線分析装置:RIX1000(理学電機工業(株)製)を用いて測定し、添加剤を添加していない比較の無電解銅めっき液20における銅の析出量を100とした場合の相対値で評価した。
2.めっき皮膜外観
めっき試験片を目視で観察し、○(均一)、△(一部ムラあり)、×(全面ムラあり)の3段階で評価した。
3.経時安定性
無電解銅めっき処理終了後、無電解銅めっき液を無電解銅めっき処理温度と同一温度に12時間保持した後、無電解銅めっき液中の金属銅の析出状態を目視で観察し、○(金属銅の析出なし)、△(僅かに金属銅が析出)、×(明確に金属銅が析出)の3段階で評価した。
【0068】
【表1】

【0069】
以上の結果から明らかなように、本発明の添加剤を含有する無電解銅めっき液1〜19は、めっき析出量が低下することなく、また経時安定性も良好であった。そして、形成された銅めっき皮膜も、外観が良好であった。
【0070】
これに対して、経時安定性向上のための添加剤を含有しない比較の無電解銅めっき液20は、金属銅の析出が観察され、経時安定性に乏しいことがわかる。一方、比較化合物を添加剤として添加した比較の無電解銅めっき液21〜33は、経時安定性とめっき析出量、そしてめっき皮膜外観のすべてを満足するものはなく、本発明の化合物の優位性は明らかである。
【実施例2】
【0071】
還元剤として、ホルムアルデヒドの代わりにグリオキシル酸0.18mol/lを用いた以外は、実施例1と同様のめっき試験を行った結果、実施例1と同様の結果が得られた。すなわち本発明の化合物の優位性は明らかであった。
【実施例3】
【0072】
被めっき物として、ステンレス板を用いた以外は、実施例1と同様のめっき試験を行った結果、実施例1と同様の結果が得られた。すなわち本発明の化合物の優位性は明らかであった。
【0073】
以上の結果から明らかなように、本発明の化合物は、無電解銅めっき液の添加剤として、優れていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)または一般式(2)で示される無電解銅めっき液用添加剤。
【化1】

(式中、R1は含窒素複素環基を置換基として有している脂肪族基を表す。R2、R3は脂肪族基を表す。X-は、O-またはS-を表す。)
【化2】

(式中、R11、R12は脂肪族基を表す。またこれらは、互いに連結して5〜7員環を形成していてもよい。YはpKa6未満の酸性基を置換基として有する脂肪族基を表す。)
【請求項2】
前記一般式(2)において、R11、R12が互いに連結して5〜6員環を形成しており、かつその環の置換基として、親水性基を有していることを特徴とする無電解銅めっき液用添加剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の無電解銅めっき液用添加剤の少なくとも1種を含有することを特徴とする無電解銅めっき液。

【公開番号】特開2009−138258(P2009−138258A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194732(P2008−194732)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】