説明

焼入れ状態判定装置および焼入れ状態判定方法

【課題】間欠的な焼入れを行なう場合でも正確に焼入れ状態の判定をする。
【解決手段】測定され得る電力値よりもはるかに大きな値を初期値とする電力最小値Pminを設定し、測定した電力値Pと電力最小値Pminとを比較して(ステップS2020)、測定電力値Pが電力最小値Pmin以下のときにだけ電力最小値Pminを測定電力値に置き換えて(ステップS204)、測定電力値Pと電力最小値Pminとの差を計算する(ステップS206)。差が値0より大きいときには、測定した電力値Pが焼き入れに関与する電力値Piであるとして電力値判定用バッファに格納する(ステップS212)。このように、測定した電力値Pから焼き入れに関与する電力値Piだけを自動的かつ簡易に取り出すから、電力値Pが許容範囲内に入るか否かの判定が、焼入れ停止時間のばらつきにより生ずる電力の測定波形の時間軸上のずれに左右されることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼入れ状態判定装置および焼入れ状態判定方法に関し、特に、コイルに電力を印加してワークを間欠的に焼入れする高周波焼入れ装置における焼入れ状態を判定する焼入れ状態判定装置および焼入れ状態判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の高周波焼入れ装置としては、ワークを本焼入れする前に、所定数のワークを調査焼入れとして焼入れを行ない、焼入れ深さを規格範囲内に収めるのに必要な電力変化パターンの許容範囲を求め、本焼入れにおける電力変化が調査焼入れで求めた許容範囲内に入っているか否かを検査するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
この装置では、ワーク側のインピーダンス変化および焼入れ設備側のインピーダンス変化の何れにも対応できるので規格範囲外のワークを高精度にピックアップできるものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−8130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ワークの複数箇所に焼入れを行なう場合にあっては、全ての箇所を一度に焼入れすることが困難な場合があり、コイルの架け替えを行なうことによって数回に分けて間欠的に焼入れを行なうことがある。上述した高周波焼入れ装置では、単発的な焼入れにおける焼入れ状態を判定することについては記載されているものの、間欠的な焼入れを行なう際の焼入れ状態の判定については、言及されていない。間欠的な焼入れの場合、ある箇所の焼入れから他の箇所の焼入れに移行する際に、コイルの架け替えを伴うが、この架け替えに要する時間はバラツキを含むため、測定電力波形が時間軸上でずれて、規格波形から外れてしまい、正確な判定が出来ない。
【0005】
本発明の焼入れ状態判定装置および焼入れ状態判定方法は、間欠的な焼入れを行なう場合でも正確に焼入れ状態の判定をすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の焼入れ状態判定装置および焼入れ状態判定方法は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の焼入れ状態判定装置は、
コイルに電力を印加してワークを間欠的に焼入れする高周波焼入れ装置における焼入れ状態を判定する焼入れ状態判定装置であって、
電力を測定する電力測定手段と、
該電力測定手段によって測定された測定電力が焼入れに関与する焼入れ電力であるか焼入れを停止しているときの焼入れ停止電力であるかを判定する焼入れ電力判定手段と、
該焼入れ電力判定手段によって前記測定電力が前記焼入れ電力であると判定されたときから、前記焼入れ電力判定手段によって前記測定電力が前記焼入れ停止電力であると判定されるまで、前記測定電力を前記焼入れ電力として記憶する焼入れ電力記憶手段と、
記憶した前記測定電力が許容電力範囲に入るか否かを判定する入否判定手段と、
該入否判定手段によって記憶した前記測定電力が前記許容電力範囲外と判定されたときに前記ワークの焼入れ状態が不良状態であると判定する状態判定手段と、
を備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
この本発明の焼入れ状態判定装置では、測定した測定電力が焼入れに関与する焼入れ電力か否かを判定し、焼き入れ電力のみを記憶し、記憶した焼き入れ電力について許容電力範囲に入るか否かを判定するから、焼き入れ電力が許容電力範囲に入るか否かの判定が、間欠的な焼き入れに伴うコイルの架け替えに要する時間に左右されることはない。従って、間欠的な焼入れを行なう場合でも正確に焼き入れ状態を判定することができる。
【0009】
こうした本発明の焼入れ状態判定装置において、少なくとも前記焼入れ停止電力以上の値を初期値とする最小電力値を有し、前記測定電力と前記最小電力値とを比較して前記測定電力が前記最小電力値以下のときに前記最小電力値を前記測定電力に置き換える最小電力値置き換え手段と、前記測定電力と前記最小電力値との差を算出する算出手段と、を備える請求項1記載の高周波焼入れ装置であって、前記焼入れ電力判定手段は、前記差が略ゼロであれば前記測定電力が前記焼入れ停止電力であると判定し、前記差がゼロより大きければ前記測定電力が前記焼入れ電力であると判定する手段であるものとすることもできる。
こうすれば、測定電力が焼き入れに関与する焼き入れ電力であるか否かを簡易に判定できる。即ち、間欠的な焼き入れに伴うコイルの架け替えの間の焼き入れ停止時における測定電力を自動的かつ簡易に除外することができる。
【0010】
また、本発明の焼入れ状態判定装置において、値ゼロを初期値とする最大電力値を有するとともに少なくとも前記電力測定手段で測定され得る前記電力の最大値よりも大きな値を初期値とする最小電力値を有し、前記測定電力と前記最大電力値とを比較して前記測定電力が前記最大電力値以上のときには前記最大電力値を前記測定電力に置き換え、前記測定電力が前記最大電力未満のときには前記測定電力と前記最小電力値とを比較して前記測定電力が前記最小電力値以下のときには前記最小電力値を前記測定電力に置き換える電力値置き換え手段と、前記測定電力と前記最大電力値または前記測定電力と前記最小電力値との差を算出する算出手段と、を備え、前記焼入れ電力判定手段は、前記差が略ゼロであれば前記測定電力が前記焼入れ停止電力であると判定し、前記差がゼロより大きければ前記測定電力が前記焼入れ電力であると判定する手段であるものとすることもできる。
こうすれば、測定電力が焼き入れに関与する焼き入れ電力であるか否かを簡易に判定できる。即ち、電源オン時に生ずる所謂髭電力や、間欠的な焼き入れに伴うコイルの架け替えの間の焼き入れを停止しているときの焼き入れ停止電力などを自動的かつ簡易に除外することができる。
【0011】
さらに、本発明の焼入れ状態判定装置において、記憶した前記測定電力を計数する計数手段を備え、前記入否判定手段は、記憶した前記測定電力の数が第1の数に達したときから、第2の数だけ前に記憶された前記測定電力の値について前記許容電力範囲に入るか否かの判定を開始し、前記焼入れ電力の記憶開始以降に前記焼入れ電力判定手段によって前記測定電力が前記焼入れ停止電力であると判定されたときに前記第2の数だけ前に記憶された前記測定電力の値が前記許容電力範囲に入るか否かの判定を停止する手段であるものとすることもできる。
こうすれば、焼き入れ電力が許容電力範囲に入るか否かの判定をリアルタイムで行わないから、不要なデータ、例えば、焼き入れ開始時や焼き入れ終了時における電力の立上りや立下り部分といった比較的不安定な電力を除いた判定が可能となる。この場合、第1の数を電力の立上り時のデータ数と電力の立下り時のデータ数の和に設定しておき、第2の数を電力の立下り時のデータ数に設定しておけば良い。
【0012】
また、本発明の焼入れ状態判定装置は、前記測定電力の記憶を開始したときから前記測定電力の記憶を停止するまでの記憶時間を積算する記憶時間積算手段を備え、前記入否判定手段は、前記記憶時間が第1時間に達したときから、第2時間だけ前に記憶した前記測定電力の値について前記許容電力範囲に入るか否かの判定を開始し、前記測定電力の記憶を停止したときに前記第2時間だけ前に記憶した前記測定電力の値について前記許容電力範囲に入るか否かの判定を停止する手段であるものとすることもできる。
こうすれば、焼き入れ電力が許容電力範囲に入るか否かの判定をリアルタイムで行わないから、不要なデータ、例えば、焼き入れ開始時や焼き入れ終了時における電力の立上りや立下り部分といった比較的不安定な電力を除いた判定が可能となる。この場合、第1の数を電力の立上り時のデータ数と電力の立下り時のデータ数の和に設定しておき、第2の数を電力の立下り時のデータ数に設定しておけば良い。
【0013】
本発明の焼入れ状態判定装置は、前記ワークを焼入れしている時間を焼入れ時間として積算する焼入れ時間積算手段と、積算した該焼入れ時間が許容時間範囲に入るか否かを判定する焼入れ時間判定手段と、を備え、前記状態判定手段は、前記焼入れ時間判定手段によって前記焼入れ時間が前記許容時間範囲に入らないと判定されたときに前記ワークの焼入れ状態が不良状態であると判定する手段であるものとすることもできる。
こうすれば、間欠的な焼入れを行なう場合において、より正確に焼き入れ状態を判定することができる。例えば、間欠的に複数回の焼入れを行なう場合であって、何れかの焼き入れが全く実施されなかった場合、即ち、コイルに通電されず測定電力がゼロであった場合、焼き入れ電力のみの判定では焼き入れが正常であると判定されてしまうが、焼き入れ時間の判定を行うことで、こうした場合には、焼き入れ時間が許容時間範囲よりも短いと判定されるので、焼入れ状態が不良状態であると判定できる。
【0014】
本発明の焼入れ状態判定方法は、
コイルに電力を印加してワークを間欠的に焼入れする高周波焼入れ装置における焼入れ状態を判定する焼入れ状態判定方法であって、
(a)前記電力を測定し、
(b)測定した測定電力が焼入れに関与する焼入れ電力であるか焼入れを停止しているときの焼入れ停止電力であるかを判定し、
(c)前記測定電力が前記焼入れ電力であると判定されたときから、前記測定電力が前記焼入れ停止電力であると判定されるまで、前記測定電力を前記焼入れ電力として記憶し、
(d)記憶した前記測定電力が許容電力範囲に入るか否かを判定し、
(e)記憶した前記測定電力が前記許容電力範囲外と判定したときに前記ワークの焼入れ状態が不良状態であると判定する
ことを要旨とする。
【0015】
この本発明の焼入れ状態判定方法では、測定した測定電力が焼入れに関与する電力か否かを判定し、焼き入れ電力のみを記憶し、記憶した焼き入れ電力について許容電力範囲に入るか否かを判定するから、焼き入れ電力が許容電力範囲に入るか否かの判定が、間欠的な焼き入れに伴うコイルの架け替えに要する時間に左右されることはない。従って、間欠的な焼入れを行なう場合でも正確に焼き入れ状態を判定することができる。
【0016】
こうした本発明の焼入れ状態判定方法において、少なくとも前記焼入れ停止電力以上の値を初期値とする最小電力値を有し、前記測定電力と前記最小電力値とを比較して前記測定電力が前記最小電力値以下のときに前記最小電力値を前記測定電力に置き換えるとともに、前記測定電力と前記最小電力値との差を算出し、前記ステップ(c)は、前記差が略ゼロであれば前記測定電力が前記焼入れ停止電力であると判定し、前記差がゼロより大きければ前記測定電力が前記焼入れ電力であると判定するステップであるものとすることもできる。
こうすれば、測定電力が焼き入れに関与する焼き入れ電力であるか否かを簡易に判定できる。即ち、間欠的な焼き入れに伴うコイルの架け替えの間の焼き入れ停止時における測定電力を自動的かつ簡易に除外することができる。
【0017】
また、本発明の焼入れ状態判定方法において、記憶した前記測定電力の数を計数し、前記ステップ(d)は、記憶した前記測定電力の数が第1の数に達したときから、第2の数だけ前に記憶された前記測定電力の値について前記許容電力範囲に入るか否かの判定を開始し、前記焼入れ電力の記憶開始以降に前記焼入れ電力判定手段によって前記測定電力が前記焼入れ停止電力であると判定されたときに前記第2の数だけ前に記憶された前記測定電力の値が前記許容電力範囲に入るか否かの判定を停止するステップであるものとすることもできる。
こうすれば、焼き入れ電力が許容電力範囲に入るか否かの判定をリアルタイムで行わないから、不要なデータ、例えば、焼き入れ開始時や焼き入れ終了時における電力の立上りや立下り部分といった比較的不安定な電力を除いた判定が可能となる。この場合、第1の数を電力の立上り時のデータ数と電力の立下り時のデータ数の和に設定しておき、第2の数を電力の立下り時のデータ数に設定しておけば良い。
【0018】
さらに、本発明の焼入れ状態判定方法において、前記測定電力の記憶を開始したときから前記測定電力の記憶を停止するまでの記憶時間を積算し、前記ステップ(d)は、前記記憶時間が第1時間に達したときから、第2時間だけ前に記憶した前記測定電力の値について前記許容電力範囲に入るか否かの判定を開始し、前記測定電力の記憶を停止したときに前記第2時間だけ前に記憶した前記測定電力の値について前記許容電力範囲に入るか否かの判定を停止するステップであるものとすることもできる。
こうすれば、焼き入れ電力が許容電力範囲に入るか否かの判定をリアルタイムで行わないから、不要なデータ、例えば、焼き入れ開始時や焼き入れ終了時における電力の立上りや立下り部分といった比較的不安定な電力を除いた判定が可能となる。この場合、第1の数を電力の立上り時のデータ数と電力の立下り時のデータ数の和に設定しておき、第2の数を電力の立下り時のデータ数に設定しておけば良い。
【0019】
また、本発明の焼入れ状態判定方法において、前記ワークを焼入れしている時間を焼入れ時間として積算し、積算した該焼入れ時間が許容時間範囲に入るか否かを判定し、前記ステップ(e)は、前記焼入れ時間が前記許容時間範囲に入らないと判定されたときに前記ワークの焼入れ状態が不良状態であると判定するものとすることもできる。
こうすれば、間欠的な焼入れを行なう場合において、より正確に焼き入れ状態を判定することができる。例えば、間欠的に複数回の焼入れを行なう場合であって、何れかの焼き入れが全く実施されなかった場合、即ち、コイルに通電されず測定電力がゼロであった場合、焼き入れ電力のみの判定では焼き入れが正常であると判定されてしまうが、焼き入れ時間の判定を行うことで、こうした場合には、焼き入れ時間が許容時間範囲よりも短いと判定されるので、焼入れ状態が不良状態であると判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例である焼入れ状態判定装置10を搭載した高周波焼入れ装置1の構成の概略を示す構成図である。
【図2】熱処理ユニット6の構成の概略を示す構成図である。
【図3】ハウジング14が開いた状態を示す状態図である。
【図4】焼入れ状態判定装置10により実行される焼入れ状態判定処理の一例を示すフローチャートである。
【図5】焼入れ状態判定装置10により実行される電力値判定処理の一例を示すフローチャートである。
【図6】焼入れ状態判定装置10により実行される焼き入れトータル時間判定処理の一例を示すフローチャートである。
【図7】クランクシャフト8の高周波焼入れを実施する際の電力Pの時間変化を示す説明図である。
【図8】焼き入れに関与する電力の測定波形C1〜C6を用いた焼入れ状態の判定を説明する説明図である。
【図9】第2実施例の高周波焼入れ装置により実行される電力値判定処理の一例を示すフローチャートである。
【図10】第2実施例の高周波焼入れ装置により実行される不要電力カット処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は、本発明の一実施例である焼入れ状態判定装置10を搭載した高周波焼入れ装置1の構成の概略を示す構成図である。
高周波焼入れ装置1は、図示するように、電源(図示せず)からの所定の電圧に基づいて高周波電圧を発生する発振器2と、発振器2が発生する高周波電圧を低電圧に変換して大電流を出力する出力トランス4と、出力トランス4に接続されるとともにワークとしてのクランクシャフト8のジャーナル部Jやピン部Pの外周面を覆う熱処理ユニット6と、出力トランス4の出力側に接続された実施例の焼入れ状態判定装置10と、高周波焼入れ装置10全体をコントロールする制御装置60とを備える。
【0023】
図2は、熱処理ユニット6の構成の概略を示す構成図であり、図3は、ハウジング14が開いた状態を示す状態図である。
熱処理ユニット6は、図2および図3に示すように、高周波加熱コイル12と、高周波加熱コイル12を収容支持する半開放鞍型形状に形成されたハウジング14と、ハウジング14を図示しないピンを支点に開閉可能に吊り下げるとともに出力トランスと電気的に接続された銀や銅といった導体で形成された端子16aを有するターミナル16とから構成されている。熱処理ユニット6は、クランクシャフト8の軸方向に沿ってクランクシャフト8のジャーナル部Jおよびピン部Pの数だけ並設されており、図示しないアクチュエータによってクランクシャフト8のジャーナル部Jやピン部Pへの架け替えを行うことのより、それぞれ対応するクランクシャフト8のジャーナル部Jやピン部Pの焼き入れを行う。
実施例では、1番ジャーナル部J1および5番ジャーナル部J5の焼き入れから始まり、1番ピン部P1および4番ピン部P4、3番ジャーナル部J3、オイルシール部OS、2番ジャーナル部J2および4番ジャーナル部J4、2番ピン部P2および3番ピン部P3の順に焼き入れが行われるものとした。
【0024】
ハウジング14には、高周波加熱コイル12がクランクシャフト8のジャーナル部Jやピン部Pと接触することなく充分に近づけるよう案内する図示しないガイドチップと、高周波加熱コイル12と電気的に接続された銀や銅といった導体で形成された端子14aが設けられており、ハウジング14が閉状態となったときに、端子14aとターミナル16の端子16aとが電気的に接続されて高周波加熱コイル12に誘導加熱に必要な電力が供給される。
【0025】
実施例の焼入れ状態判定装置10は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサを備え、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM76と、データを一時的に記憶するRAM74と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。実施例の焼入れ状態判定装置10には、焼入れ状態を判定するために必要な信号、例えば、高周波加熱コイル12に供給される電力を検出する電力計82からの電力やタイマ84により計測される焼入れの経過時間などが入力されている。焼入れ状態判定装置10は、制御装置60と通信しており、必要に応じて高周波加熱コイル12に供給される電力に関するデータを制御装置60に出力する。
【0026】
制御装置60は、図示しないCPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、操作パネル(図示せず)で設定された指示を受けて、発振器2の制御や熱処理ユニット6の動作制御,高周波加熱コイル12への電力量,アクチュエータの駆動制御など装置全体の運転および停止の制御を行う。
【0027】
次に、こうして構成された実施例の焼き入れ不良判定装置10を備える高周波焼入れ装置1の動作、特に、焼き入れ状態判定装置10による焼き入れ状態を判定する際の動作について説明する。
図4は、焼入れ状態判定装置10により実行される焼入れ状態判定処理の一例を示すフローチャートであり、高周波焼入れを開始したときに実行される。
【0028】
焼き入れ状態判定処理が実行されると、焼き入れ状態判定装置10のCPU72は、先ず、焼き入れ開始から焼き入れが終了するまでの焼き入れ所要時間Tを計測するためのタイマ84をリセットし計測を開始する(ステップS100)。ここで、計測時間Tは、高周波焼入れを開始してから終了するまでに要する時間に基づいて設定され、高周波焼入れが正常に終了した場合にかかる時間よりも若干長い時間に設定される。
次に、図5に例示する電力値判定処理を実行し(ステップS102)、計測タイマを読み込むとともに(ステップ104)、計測時間Tが経過したか否かを判定する(ステップS106)。計測時間Tが経過していなければ、計測時間Tが経過するまで図5の電力値判定処理を繰り返し実行する。電力値判定処理は、所定時間毎(例えば、40msec毎)に繰り返し実行される。
以下、図4の焼き入れ状態判定処理の説明を一旦中断して図5の電力値判定処理について説明する。
【0029】
図5の電力値判定処理では、焼き入れ状態判定装置10のCPU72は、先ず、電力計82からの電力値Pや立上り電力無視カウンタi、立下り電力無視カウンタS、焼き入れカウンタCを入力する処理を実行する(ステップS200)。ここで、立上り電力無視カウンタiは、焼き入れが開始された直後の立上り電力を後述する電力値Piが許容範囲に入っているか否かの判定(ステップS220)から除外するために設定されるカウンタであり、焼き入れ条件や焼入れするワークの形状、材質などに応じて設定される。
実施例では、電力値判定用バッファに焼き入れに関与する電力値P*が格納され始めてから15個目までのデータを立上りにおける電力であるとして判定から除外するものとした。また、立下り電力無視カウンタSは、焼き入れが終了する直前の立下り電力を後述する電力値Piが許容範囲に入っているか否かの判定(ステップS220)から除外するために設定されるカウンタであり、焼き入れ条件や焼入れするワークの形状、材質などに応じて設定される。実施例では、電力値判定用バッファに焼き入れに関与する電力値P*として最後に格納したデータから20個前までのデータを立下りにおける電力であるとして判定から除外するものとした。
なお、本実施形態では電力値判定処理を40msec毎に行うため、立上り電力無視カウンタiの値15は0.6sec(40msec×15個)に相当し、立下り無視カウンタSの値20は0.8sec(40msec×20個)に相当する。
さらに、焼き入れカウンタCは、間欠的に行なわれる高周波焼き入れのうち何回目の焼入れかを表わすカウンタであり、実施例では、1番ジャーナル部J1および5番ジャーナル部J5の焼き入れから1番ピン部P1および4番ピン部P4、3番ジャーナル部J3、オイルシール部OS、2番ジャーナル部J2および4番ジャーナル部J4、2番ピン部P2および3番ピン部P3と順に間欠的に6回の高周波焼入れを行なうため値6となるまで順に値1ずつインクリメントされる。
【0030】
電力値Pや立上り電力無視カウンタi、立下り電力無視カウンタS、焼き入れカウンタCを読み込む処理を実行すると(ステップS200)、続いて、入力した電力値Pが電力最小値Pmin以下であるか否かの判定を行う(ステップS202)。電力最小値Pminは、間欠的に行なわれる高周波焼入れにおいて焼入れを停止しているときの電力値を判定から除外するために設定されるものであり、実施例では、初回は値30000に設定されている。入力した電力値Pが電力最小値Pmin以下であれば電力最小値Pminを入力した電力値Pに置き換えるとともに(ステップS204)、焼き入れに関与する電力値P*を入力した電力値Pから最小電力値Pminを減じることにより求める(ステップS206)。
一方、入力した電力値Pが電力最小値Pminよりも大きいときには、電力最小値Pminを入力した電力値Pに置き換えることなく、焼き入れに関与する電力値P*を算出する(ステップS206)。
【0031】
次に、算出した電力値P*が値0より大きいか否かの判定を行う(ステップS208)。電力値P*が値0より大きいときには、焼入れが行なわれているときの電力値、即ち、焼き入れに関与する電力値と判定され、立上り電力無視カウンタiを値1だけインクリメントするとともに(ステップS210)、電力値P*をi番目の電力値PiとしてRAMの所定領域に設定された電力値判定用バッファに格納し(ステップS212)、立上り電力カウンタiが値15以上であるか否かの判定を行う(ステップS214)。
立上り電力カウンタiが値15以上である、即ち、焼き入れに関与する電力値P*が立上り電力でないと判定されると、立下り電力無視カウンタSを値1だけインクリメントするとともに(ステップS216)、立下り電力無視カウンタSが値20より大きいか否かの判定を行なう(ステップS218)。
【0032】
立下り電力無視カウンタSが値20であるか否かの判定において、立下り電力無視カウンタSが値20より大きいと判定されると、20個前に電力値判定用バッファに格納した焼き入れに関与する電力値Pi−20と閾値Pi−20ref1および閾値Pi−20ref2とを比較する(ステップS220)。即ち、電力値判定用バッファに35個目の電力値Pi=35が格納されたときから20個前に格納した電力値Pi=15と閾値P15ref1および閾値P15ref2との比較を開始する。このように、今、電力値判定用バッファに格納した電力値Piではなく20個前に電力値判定用バッファに格納した電力値Pi‐20が閾値内であるか否かを判定する。
なお、閾値Pi−20ref1および閾値Pi−20ref2は、焼き入れ時の電力値が正常な範囲であるか否かの判断を行なうために設定されるものであり、焼き入れ条件や焼き入れするワークの形状、材質などに応じて設定され、例えば、複数回測定した電力値Piの平均値をとり、その平均値の±5%などのように設定される。そして、電力値Pi―20が閾値Pi−20ref1から閾値Pi−20ref2の範囲内であるときには、焼き入れに関与する電力値Piは正常であると判定し、「正常」であることを電力値Piに対応させてRAM74の所定領域に設定された電力値判定用バッファに格納して(ステップS222)、本処理を終了する。
一方、電力値Pi−20が閾値Pi−20ref1から閾値Pi−20ref2の範囲を超えたときには、焼き入れに関与する電力値Piに異常があると判定し、「異常」であることを電力値Piに対応させて同じくRAM74の所定領域に設定された電力値判定用バッファに格納して(ステップS224)、本処理を終了する。
【0033】
また、ステップS208において算出した電力値P*が値0以下と判定されたとき、即ち、焼き入れが行われていないときには、立上り電力無視カウンタiが値15以上であるか否かを判定する(ステップS226)。焼入れが終了してコイルの架け替えなどを行っている焼入れと焼入れとの間においては、立上り電力無視カウンタiは値15以上となっているから、立上り電力無視カウンタiは値15以上であると判定され、焼入れカウンタを値1だけインクリメントするとともに(ステップS228)、焼き入れ時間tcを立上り電力無視カウンタiと本処理ルーチンの繰り返し時間である時間0.04sec(40msec)とを用いて計算(tc=i×0.04)により算出し(ステップS230)、算出した焼き入れ時間tcをRAM74の所定領域に設定された焼き入れ時間用バッファに格納する(ステップS232)。その後、立上り無視カウンタiおよび立下り無視カウンタSを値0にセットして(ステップS234)、本処理を終了する。
一方、ステップ226の立上り電力無視カウンタiが値15以上であるか否かの判定において、立上り電力無視カウンタiが値15未満であると判定されたときには、何もせずに本処理を終了する。
【0034】
図4の焼き入れ状態判定処理に戻って、このような電力値判定処理が計測時間Tが経過するまで実行され、計測時間Tが経過すると(ステップS106)、焼き入れトータル時間判定処理を実行する(ステップS108)。
焼き入れトータル時間判定処理は、図6に示す焼き入れトータル時間判定処理の実行により行なわれる。
【0035】
焼き入れトータル時間判定処理が実行されると、焼き入れトータル時間tを算出する処理を実行する(ステップS300)。焼き入れトータル時間tは、RAM76の所定領域に設定された焼き入れ時間用バッファに格納した焼き入れ時間tcを積分することにより計算することができる(t=Σtc,c=1〜6)。続いて、算出した焼き入れトータル時間tと閾値tref1および閾値tref2とを比較する(ステップS302)。ここで、閾値tref1および閾値tref2は、焼き入れ時間が正常な範囲であるか否かの判断を行なうために設定されるものであり、焼き入れ条件や焼き入れするワークの形状、材質などに応じて設定され、例えば、複数回測定した焼き入れトータル時間tの平均値をとり、その平均値の±5%などのように設定される。そして、焼き入れトータル時間tが閾値tref1から閾値tref2の範囲内であるときには、焼き入れトータル時間tは正常であると判定し、「正常」であることをRAM74の所定領域に設定された焼き入れトータル時間判定用バッファに格納して(ステップS304)、本処理を終了する。
一方、焼き入れトータル時間tが閾値tref1から閾値tref2の範囲を超えたときには、焼き入れトータル時間tは異常であると判定し、「異常」であることを同じくRAM74の所定領域に設定された焼き入れトータル時間判定用バッファに格納して(ステップS306)、本処理を終了する。
【0036】
再び図4の焼き入れ状態判定処理に戻って、上述した焼き入れトータル時間判定処理が実行された後(ステップS108)、焼き入れに関与する電力値Piの状態(ステップS110)および焼き入れトータル時間tの状態(ステップS112)についての判定を行う。焼き入れに関与する電力値Piの状態の判定は、RAM74の所定領域に設定された電力値判定用バッファに格納した各電力値Piの状態(「正常」あるいは「異常」)を読み込むことにより行ない、焼き入れトータル時間tの状態の判定は、RAM74の所定領域に設定された焼き入れトータル時間判定用バッファに格納した焼き入れトータル時間tの状態(「正常」あるいは「異常」)を読み込むことにより行なうことができる。
ここで、RAM74の所定領域に設定された電力値判定用バッファに格納した各電力値Piの全てが「正常」であれば電力値Piは正常であると判定され、格納した各電力値Piの1つでも「異常」があれば電力値Piは異常であると判定される。
【0037】
そして、焼き入れに関与する電力値Piおよび焼き入れトータル時間tともに「正常」であるときには、焼入れは正常に終了したと判定し(ステップS114)、立上り無視カウンタiや立下り無視カウンタS,焼き入れカウンタCを値0にセットするとともに電力最小値Pminを値30000にセットして(ステップS116)、本処理を終了する。
一方、焼き入れに関与する電力値Piおよび焼き入れトータル時間tの何れか一方が「異常」であるときには、焼入れ不良が発生したと判定し(ステップS118)、立上り無視カウンタiや立下り無視カウンタS,焼き入れカウンタCを値0にセットするとともに電力最小値Pminを値30000にセットして(ステップS116)、本処理を終了する。
ここで、焼入れ不良とは、焼幅不足や焼入れが入っていない焼無し、焼入れ深さ異常などが発生したことを意味する。
【0038】
次に、こうした焼き入れ状態判定処理を実行することにより焼入れ状態が判定される際の様子について説明する。
実施例の高周波焼入れ装置1で、クランクシャフト8の高周波焼入れを開始すると、先ず、1番ジャーナル部J1および5番ジャーナル部J5の焼き入れから始まり、1番ピン部P1および4番ピン部P4、3番ジャーナル部J3、オイルシール部OS、2番ジャーナル部J2および4番ジャーナル部J4、2番ピン部P2および3番ピン部P3の順に焼き入れが行われる。
図7は、クランクシャフト8の高周波焼入れを実施する際の電力Pの時間変化を示す説明図である。
高周波焼入れを行う際の電力Pの測定波形は、図7に示すように、1番ジャーナル部J1および5番ジャーナル部J5の焼き入れに関与する電力の測定波形C1から2番ピン部P2および3番ピン部P3の焼き入れに関与する電力の測定波形C6と、アクチュエータによって熱処理ユニット6の架け替えを行うために焼き入れを停止しているときの電力の測定波形ΔC1・2〜ΔC6とからなるが、実施例の焼き入れ状態判定装置10による焼き入れ状態判定処理を実行することにより、焼き入れに関与する電力の測定波形C1〜C6だけを用いて焼入れ状態の判定を行うことができる(ステップS202〜S212)。これにより、焼入れ状態を判定する際に、アクチュエータによる熱処理ユニット6の架け替え時間のばらつきにより生ずる電力Pの測定波形の時間軸上のずれに左右されることがない。
【0039】
図8は、焼き入れに関与する電力の測定波形C1〜C6を用いた焼入れ状態の判定を説明する説明図である。
図示するように、1番ジャーナル部J1および5番ジャーナル部J5の焼き入れが開始されて焼き入れに関与する電力値Piが記憶され始めてから時間0.6secの間(立上り電力無視カウンタiが値15までの間)は、電力の状態が比較的不安定な電力の立上り段階にあるため、電力値Piが許容範囲であるか否かの判定は行わない(ステップS214)。
【0040】
そして、電力の立上り段階が終了した時間0.6sec(i=15)からさらに時間0.8sec(i=35)が経過したとき(立下り電力カウンタSが値20より大となったとき、即ち、立上り電力無視カウンタiが値35より大となったとき)から時間0.8sec前に記憶した電力値Pi(電力の立上り段階が終了した直後の電力値Pi=35)について許容範囲内(Pi=15ref1≦Pi≦Pi=15ref2)であるか否かの判定を開始する(ステップS214〜S220)。即ち、今、記憶した電力値Pi=35ではなく、時間0.8sec前に記憶した電力値Pi=15(20個前に記憶した電力値Pi)について許容範囲内であるか否かの判定を行うという時間差判定を行う。従って、1番ジャーナル部J1および5番ジャーナル部J5の焼き入れが終了した時間tend1における電力値Piを記憶したときには、時間tend1から時間0.8sec前の電力値Pi、即ち、電力が立下り始める直前の電力値Piについて許容範囲内にあるか否かの判定を行うことになるから、電力の状態が比較的不安定な電力の立下り段階における電力値Piについて許容範囲であるか否かの判定は行わない。
【0041】
このように、電力の立上り段階および立下り段階における電力値Piについて許容範囲内(Pi−20ref1≦Pi≦Pi−20ref2)であるか否かの判定を行わないことにより、比較的安定した電力Pだけを用いた判定を行うことができる。この結果、焼き入れに関与する電力値Piが許容範囲内であるか否かの判定を行うために用いる規格波形を比較的容易に設定できる。
【0042】
こうした1番ジャーナル部J1および5番ジャーナル部J5の焼き入れの際に行う焼き入れに関与する電力値Piについての判定と同様の判定が、1番ピン部P1および4番ピン部P4、3番ジャーナル部J3、オイルシール部OS、2番ジャーナル部J2および4番ジャーナル部J4、2番ピン部P2および3番ピン部P3の順に行われる。
【0043】
また、各焼入れ毎に要した時間t1〜t6を測定し(ステップS230、S232)、これらを足し合わせた焼入れトータル時間tが閾値tref1から閾値tref2の範囲内であるか否かの判定も行う(ステップS300〜S306)。そして、焼き入れに関与する電力値Piおよび焼入れトータル時間tの何れもが「正常」であるときにだけ、焼入れ状態は「正常」であると判定され、何れか一方が「異常」であれば、焼入れ状態は「不良」であると判定される(ステップS110〜S118)。
【0044】
以上説明した実施例の焼入れ状態判定装置10によれば、焼き入れに関与する電力の測定波形だけを用いて電力値Piが許容範囲内に入るか否かを判定するから、電力値Piが許容範囲内に入るか否か判定が、アクチュエータによる熱処理ユニット6の架け替え時間のばらつきにより生ずる電力の測定波形の時間軸上のずれに左右されることがない。従って、間欠的な焼入れを行なう場合でも正確に焼き入れ状態を判定することができる。しかも、焼き入れに要する電力値よりもはるかに大きな値である値30000を初期値として電力最小値Pminを設定し、測定した電力値と電力最小値Pminとを比較して、測定電力値が電力最小値Pmin以下のときにだけ電力最小値Pminを測定電力値に置き換えるとともに、測定電力値と電力最小値Pminとの差を計算することによって、測定した電力値が焼き入れに関与する電力値Piであるか否かを判定するから、測定した電力値から焼き入れに関与する電力値Piだけを自動的かつ簡易に取り出すことができる。
【0045】
また、実施例の焼入れ状態判定装置10によれば、測定した電力値を焼き入れに関与する電力値Piとして記憶するのと、焼き入れに関与する電力値Piが許容範囲内に入るか否かの判定とを時間差をもって行うから、焼入れ開始時の立上り電力や焼入れ終了時の立下り電力といった比較的不安定な電力を判定から除外することができる。
【0046】
さらに、実施例の焼入れ状態判定装置10によれば、焼き入れに関与する電力値Piが許容範囲内に入るか否かの判定に加えて、間欠的に行われる高周波焼入れのうち焼き入れを停止している間の時間を除く、実際に焼き入れを行っている間の時間だけを焼入れトータル時間tとして測定して、測定した焼入れトータル時間tが許容範囲内に入るか否かにより焼入れ状態を判定するから、より正確に焼き入れ状態を判定することができる。
即ち、例えば、間欠的に行われる複数の高周波焼入れのうち、何れかの焼き入れが全く実施されなかった場合、即ち、高周波加熱コイル12に通電されず測定電力がゼロであった場合などの電力値を用いた判定だけでは焼入れ状態を正確に判定できない場合であっても、焼入れトータル時間tが許容範囲内に入るか否かを判定することによって焼き入れ状態の判定を行うことができる。また、電力値の波形を見ることにより、焼入れ不良発生前の予兆を検知することや、接点14a,16aを適正に調整することもできる。
【0047】
実施例の焼入れ状態判定装置10では、電力最小値Pminは、焼き入れに要する電力値よりもはるかに大きな値である値30000を初期値として設定するものとしたが、電力最小値Pminは、少なくとも焼き入れを停止しているときの電力値を初期値として設定するものとすれば良い。
【0048】
実施例の焼入れ状態判定装置10では、立上り無視カウンタiおよび立下り無視カウンタSをカウントして、即ち、データ(電力値)数をカウントして、立上り無視カウンタiおよび立下り無視カウンタS(データ数)が所定値を越えるまでは、電力値Piが許容範囲内に入っているか否かの判定を行わないものとしたが、カウンタ(データ数)ではなく、電力の立上りおよび立下りの際に要する時間を予め計測しておき、この時間内は、電力値Piが許容範囲内に入っているか否かの判定を行わないものとしても構わない。
【0049】
実施例の焼入れ状態判定装置10では、閾値Pi−20ref1および閾値Pi−20ref2は、複数回測定した電力値Piの平均値をとり、その平均値の±5%などのように設定するものとしたが、複数回測定した電力値Piの平均値および標準偏差(σ)を用いて、例えば、平均値の±3σのように設定するものとしても構わない。
【実施例2】
【0050】
次に、第2実施例の高周波焼入れ装置について説明する。
第2実施例の高周波焼入れ装置は、焼入れ状態判定装置における処理が異なる点を除いて実施例の高周波焼入れ装置と同一の構成をしている。従って、第2実施例の高周波焼入れ装置では、図1〜3に例示する実施例の高周波焼入れ装置1の構成を用いて実施例の高周波焼入れ装置1とは異なる処理の部分について説明する。
【0051】
図4の焼入れ状態判定処理が実行されると焼き入れ状態判定装置10のCPU72は、先ず、焼き入れ所要時間Tを計測するためのタイマ84をリセットし(ステップS100)、図9に例示する電力値判定処理を実行し(ステップS102)、計測タイマを読み込むとともに(ステップ104)、計測時間Tが経過したか否かを判定する(ステップS106)。計測時間Tが経過していなければ、計測時間Tが経過するまで図9の電力値判定処理を繰り返し実行する。図9の第2実施例の焼入れ状態判定装置10により実行される電力値判定処理は、所定時間毎(例えば、40msec毎)に繰り返し実行される。
以下、図4の焼き入れ状態判定処理の説明を一旦中断して図9の電力値判定処理について説明する。
【0052】
図9の電力値判定処理が実行されると、焼き入れ状態判定装置10のCPU72は、先ず、図5の電力値判定処理のステップS200と同様に、電力計82からの電力値Pや立上り電力無視カウンタi、立下り電力無視カウンタS、焼き入れカウンタCを入力する処理を実行する(ステップS400)。そして、図10の不要電力カット処理を実行する(ステップS402)。
図10の不要電力カット処理では、入力した電力値Pが電力最大値Pmax以上であるか否かの判定を行う(ステップS500)。電力最大値Pmaxは、装置起動時に生ずる急激な電力の立ち上がり、所謂髭電力を判定から除外するために設定されるものであり、実施例では、初回は値0に設定されている。入力した電力値Pが電力最大値Pmax以上であれば電力最大値Pmaxを入力した電力値Pに置き換えるとともに(ステップS502)、焼き入れに関与する電力値P*を入力した電力値Pから最大電力値Pmaxを減じることにより求めて(ステップS504)、本処理を終了する。
【0053】
一方、入力した電力値Pが電力最大値Pmaxよりも小さいときには、入力した電力値Pが電力最小値Pmin以下であるか否かの判定を行い(ステップS506)、入力した電力値Pが電力最小値Pmin以下であれば電力最小値Pminを入力した電力値Pに置き換えるとともに(ステップS508)、焼き入れに関与する電力値P*を入力した電力値Pから最小電力値Pminを減じることにより求める(ステップS510)。
一方、入力した電力値Pが電力最小値Pminよりも大きいときには、電力最小値Pminを入力した電力値Pに置き換えることなく、焼き入れに関与する電力値P*を算出して(ステップS5010)、本処理を終了する。
【0054】
図9の電力値判定処理に戻って、このようにして不要な電力がカットされると、あとは図5の電力値判定処理のステップS208〜S234と同様の処理が実行される、即ち、算出した電力値P*が値0より大きいか否かの判定を行い(ステップS404)、電力値P*が値0より大きいときには、立上り電力無視カウンタiを値1だけインクリメントするとともに(ステップS406)、電力値P*をi番目の電力値PiとしてRAMの所定領域に設定された電力値判定用バッファに格納し(ステップS408)、立上り電力カウンタiが値15以上であるか否かの判定を行い(ステップS410)、立上り電力カウンタiが値15以上であるときには、立下り電力無視カウンタSを値1だけインクリメントするとともに(ステップS412)、立下り電力無視カウンタSが値20より大きいか否かの判定を行なって(ステップS414)、立下り電力無視カウンタSが値20より大きいときには、20個前に電力値判定用バッファに格納した焼き入れに関与する電力値Pi−20と閾値Pi−20ref1および閾値Pi−20ref2とを比較し(ステップS416)、電力値Pi―20が閾値Pi−20ref1から閾値Pi−20ref2の範囲内であるときには、焼き入れに関与する電力値Piは正常であると判定し、「正常」であることを電力値Piに対応させてRAM74の所定領域に設定された電力値判定用バッファに格納して(ステップS518)、本処理を終了する。
一方、電力値Pi−20が閾値Pi−20ref1から閾値Pi−20ref2の範囲を超えたときには、焼き入れに関与する電力値Piに異常があると判定し、「異常」であることを電力値Piに対応させて同じくRAM74の所定領域に設定された電力値判定用バッファに格納して(ステップS420)、本処理を終了する。
【0055】
また、ステップS404において算出した電力値P*が値0以下と判定されたときには、立上り電力無視カウンタiが値15以上であるか否かを判定し(ステップS422)、立上り電力無視カウンタiが値15以上であるときには、焼入れカウンタを値1だけインクリメントするとともに(ステップS424)、焼き入れ時間tcを計算により算出し(ステップS426)、算出した焼き入れ時間tcをRAM74の所定領域に設定された焼き入れ時間用バッファに格納して(ステップS428)、立上り無視カウンタiおよび立下り無視カウンタSを値0にセットして(ステップS430)、本処理を終了する。
一方、ステップ422の立上り電力無視カウンタiが値15以上であるか否かの判定において、立上り電力無視カウンタiが値15未満であると判定されたときには、何もせずに本処理を終了する。
【0056】
図4の焼き入れ状態判定処理に戻って、このような電力値判定処理が計測時間Tが経過するまで実行され、計測時間Tが経過したあと(ステップS106)、実施例1の焼入れ状態判定装置10と同様、ステップS108〜S116までの処理を実行して、本処理を終了する。
なお、第2実施例の焼入れ状態判定処理におけるステップS116では、立上り無視カウンタiや立下り無視カウンタS,焼き入れカウンタCを値0にセットするとともに電力最小値Pminを値30000にセットするのに加えて、電力最大値Pmaxを値0にセットする。
【0057】
以上説明した第2実施例の焼入れ状態判定装置によれば、焼き入れに関与する電力の測定波形だけを用いて電力値Piが許容範囲内に入るか否かを判定するだけでなく、装置起動時に生ずる急激な電力の立ち上がり、所謂髭電力を電力値Piが許容範囲内に入るか否かの判定から除外するから、間欠的な焼入れを行なう場合でも正確に焼き入れ状態を判定することができる。しかも、値0を初期値とする電力最大値Pmaxや焼き入れに要する電力値よりもはるかに大きな値である値30000を初期値とする電力最小値Pminを設定し、測定した電力値Pと電力最大値Pmaxや電力最小値Pminとを比較するだけだから、電源オン時に生ずる所謂髭電力や、間欠的な焼き入れに伴うコイルの架け替えの間の焼き入れを停止しているときの焼き入れ停止電力などを自動的かつ簡易に除外することができる。
【0058】
実施例の焼入れ状態判定装置10および第2実施例の焼きいれ状態判定装置では、立上り無視カウンタiや立下り無視カウンタS,焼き入れカウンタC,電力最小値Pminのリセットを焼入れ状態判定処理の最後のステップで行うものとしたが、立上り無視カウンタiや立下り無視カウンタS,焼き入れカウンタC,電力最小値Pminのリセットは焼入れ状態判定処理の最初のステップで行うものとしても構わない。
【0059】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0060】
1 高周波焼入れ装置
2 発振器
4 出力トランス
6 熱処理ユニット
8 クランクシャフト
10 焼入れ状態判定装置
12 高周波加熱コイル
14 ハウジング
14a 端子
16 ターミナル
16a 端子
60 制御装置
72 CPU
74 ROM
76 RAM
82 電力計
84 タイマ
J1 1番ジャーナル部
J2 2番ジャーナル部
J3 3番ジャーナル部
J4 4番ジャーナル部
J5 5番ジャーナル部
P1 1番ピン部
P2 2番ピン部
P3 3番ピン部
P4 4番ピン部
P5 5番ピン部
OS オイルシール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルに電力を印加してワークを間欠的に焼入れする高周波焼入れ装置における焼入れ状態を判定する焼入れ状態判定装置であって、
電力を測定する電力測定手段と、
該電力測定手段によって測定された測定電力が焼入れに関与する焼入れ電力であるか焼入れを停止しているときの焼入れ停止電力であるかを判定する焼入れ電力判定手段と、
該焼入れ電力判定手段によって前記測定電力が前記焼入れ電力であると判定されたときから、前記焼入れ電力判定手段によって前記測定電力が前記焼入れ停止電力であると判定されるまで、前記測定電力を前記焼入れ電力として記憶する焼入れ電力記憶手段と、
記憶した前記測定電力が許容電力範囲に入るか否かを判定する入否判定手段と、
該入否判定手段によって記憶した前記測定電力が前記許容電力範囲外と判定されたときに前記ワークの焼入れ状態が不良状態であると判定する状態判定手段と、
を備える
焼入れ状態判定装置。
【請求項2】
請求項1記載の焼入れ状態判定装置であって、
少なくとも前記焼入れ停止電力以上の値を初期値とする最小電力値を有し、前記測定電力と前記最小電力値とを比較して前記測定電力が前記最小電力値以下のときに前記最小電力値を前記測定電力に置き換える最小電力値置き換え手段と、
前記測定電力と前記最小電力値との差を算出する算出手段と、
を備え、
前記焼入れ電力判定手段は、前記差が略ゼロであれば前記測定電力が前記焼入れ停止電力であると判定し、前記差がゼロより大きければ前記測定電力が前記焼入れ電力であると判定する手段である
焼入れ状態判定装置。
【請求項3】
請求項1記載の焼入れ状態判定装置であって、
値ゼロを初期値とする最大電力値を有するとともに少なくとも前記電力測定手段で測定され得る前記電力の最大値よりも大きな値を初期値とする最小電力値を有し、前記測定電力と前記最大電力値とを比較して前記測定電力が前記最大電力値以上のときには前記最大電力値を前記測定電力に置き換え、前記測定電力が前記最大電力未満のときには前記測定電力と前記最小電力値とを比較して前記測定電力が前記最小電力値以下のときには前記最小電力値を前記測定電力に置き換える電力値置き換え手段と、
前記測定電力と前記最大電力値または前記測定電力と前記最小電力値との差を算出する算出手段と、
を備え、
前記焼入れ電力判定手段は、前記差が略ゼロであれば前記測定電力が前記焼入れ停止電力であると判定し、前記差がゼロより大きければ前記測定電力が前記焼入れ電力であると判定する手段である
焼入れ状態判定装置。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか記載の焼入れ状態判定装置であって、
記憶した前記測定電力を計数する計数手段を備え、
前記入否判定手段は、記憶した前記測定電力の数が第1の数に達したときから、第2の数だけ前に記憶された前記測定電力の値について前記許容電力範囲に入るか否かの判定を開始し、前記焼入れ電力の記憶開始以降に前記焼入れ電力判定手段によって前記測定電力が前記焼入れ停止電力であると判定されたときに前記第2の数だけ前に記憶された前記測定電力の値が前記許容電力範囲に入るか否かの判定を停止する手段である
焼入れ状態判定装置。
【請求項5】
請求項1ないし3いずれか記載の焼入れ状態判定装置であって、
前記測定電力の記憶を開始したときから前記測定電力の記憶を停止するまでの記憶時間を積算する記憶時間積算手段を備え、
前記入否判定手段は、前記記憶時間が第1時間に達したときから、第2時間だけ前に記憶した前記測定電力の値について前記許容電力範囲に入るか否かの判定を開始し、前記測定電力の記憶を停止したときに前記第2時間だけ前に記憶した前記測定電力の値について前記許容電力範囲に入るか否かの判定を停止する手段である
焼入れ状態判定装置。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか記載の焼入れ状態判定装置であって、
前記ワークを焼入れしている時間を焼入れ時間として積算する焼入れ時間積算手段と、
積算した該焼入れ時間が許容時間範囲に入るか否かを判定する焼入れ時間判定手段と、
を備え、
前記状態判定手段は、前記焼入れ時間判定手段によって前記焼入れ時間が前記許容時間範囲に入らないと判定されたときに前記ワークの焼入れ状態が不良状態であると判定する手段である
焼入れ状態判定装置。
【請求項7】
コイルに電力を印加してワークを間欠的に焼入れする高周波焼入れ装置における焼入れ状態を判定する焼入れ状態判定方法であって、
(a)前記電力を測定し、
(b)測定した測定電力が焼入れに関与する焼入れ電力であるか焼入れを停止しているときの焼入れ停止電力であるかを判定し、
(c)前記測定電力が前記焼入れ電力であると判定されたときから、前記測定電力が前記焼入れ停止電力であると判定されるまで、前記測定電力を前記焼入れ電力として記憶し、
(d)記憶した前記測定電力が許容電力範囲に入るか否かを判定し、
(e)記憶した前記測定電力が前記許容電力範囲外と判定したときに前記ワークの焼入れ状態が不良状態であると判定する
焼入れ状態判定方法。
【請求項8】
請求項7記載の焼入れ状態判定方法であって、
少なくとも前記焼入れ停止電力以上の値を初期値とする最小電力値を有し、前記測定電力と前記最小電力値とを比較して前記測定電力が前記最小電力値以下のときに前記最小電力値を前記測定電力に置き換えるとともに、前記測定電力と前記最小電力値との差を算出し、
前記ステップ(c)は、前記差が略ゼロであれば前記測定電力が前記焼入れ停止電力であると判定し、前記差がゼロより大きければ前記測定電力が前記焼入れ電力であると判定するステップである
焼入れ状態判定方法。
【請求項9】
請求項7または8記載の焼入れ状態判定方法であって、
記憶した前記測定電力の数を計数し、
前記ステップ(d)は、記憶した前記測定電力の数が第1の数に達したときから、第2の数だけ前に記憶された前記測定電力の値について前記許容電力範囲に入るか否かの判定を開始し、前記焼入れ電力の記憶開始以降に前記焼入れ電力判定手段によって前記測定電力が前記焼入れ停止電力であると判定されたときに前記第2の数だけ前に記憶された前記測定電力の値が前記許容電力範囲に入るか否かの判定を停止するステップである
焼入れ状態判定方法。
【請求項10】
請求項7または8記載の焼入れ状態判定方法であって、
前記測定電力の記憶を開始したときから前記測定電力の記憶を停止するまでの記憶時間を積算し、
前記ステップ(d)は、前記記憶時間が第1時間に達したときから、第2時間だけ前に記憶した前記測定電力の値について前記許容電力範囲に入るか否かの判定を開始し、前記測定電力の記憶を停止したときに前記第2時間だけ前に記憶した前記測定電力の値について前記許容電力範囲に入るか否かの判定を停止するステップである
焼入れ状態判定方法。
【請求項11】
請求項7ないし10いずれか記載の焼入れ状態判定方法であって、
前記ワークを焼入れしている時間を焼入れ時間として積算し、積算した該焼入れ時間が許容時間範囲に入るか否かを判定し、
前記ステップ(e)は、前記焼入れ時間が前記許容時間範囲に入らないと判定されたときに前記ワークの焼入れ状態が不良状態であると判定する
焼入れ状態判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−57184(P2012−57184A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198375(P2010−198375)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(390009896)愛知機械工業株式会社 (190)
【Fターム(参考)】